(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6531318
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】光学部材の評価装置
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20190610BHJP
G01B 9/02 20060101ALI20190610BHJP
G01J 9/02 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
G01M11/00 Q
G01B9/02
G01J9/02
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-7214(P2016-7214)
(22)【出願日】2016年1月18日
(65)【公開番号】特開2017-129382(P2017-129382A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】若山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】釣谷 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優太
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/050141(WO,A1)
【文献】
特表2014−530375(JP,A)
【文献】
特開昭62−211522(JP,A)
【文献】
特開平08−054658(JP,A)
【文献】
特開2006−078446(JP,A)
【文献】
特開2004−265572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 − 11/08
G01B 9/02 − 9/029
G01J 9/00 − 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の光学部材を通過した物体光により当該光学部材の評価を行う評価装置であって、
前記物体光を分岐する分岐手段と、
前記分岐手段が分岐した一方の物体光が通過し、前記一方の物体光に対して通過する空間位置に応じた位相遅延を与える位相調整手段と、
前記位相調整手段を通過した物体光に対して空間周波数に基づくローパスフィルタ処理を行い参照光として出力する生成手段と、
前記参照光と、前記分岐手段が分岐した他方の物体光を干渉させて干渉縞を生じさせる干渉手段と、
前記干渉縞を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した干渉縞に基づき前記物体光の位相の空間分布を求め、前記求めた位相の空間分布に基づき前記位相調整手段を制御する制御手段と、
を備えていることを特徴とする評価装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記求めた位相の空間分布から、前記位相調整手段を通過した物体光の空間位置における位相差を小さくする様に、前記位相調整手段が与える位相遅延を設定することを特徴とする請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記位相調整手段は、空間光位相変調器であることを特徴とする請求項1又は2に記載の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ等の光学部材の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モード多重光通信とは、それぞれが異なる情報を搬送する複数の伝搬モードの光を1つの光ファイバで伝送する通信技術である。各伝搬モードは、互いに直交しており、その直交性は空間的な強度及び位相により定義される。最低次の伝搬モードは、基本モードと呼ばれ、平坦な空間位相を有する。一方、高次の伝搬モードは空間的に一様でない位相を持ち、強度もそれに従って特定の分布を示す。モード多重光通信システムにおいては、各伝搬モードを個別のチャネルとして扱うが、伝搬モード間においてクロストークが生じると伝送品質が劣化する。
【0003】
したがって、モード多重光通信システムで使用される光ファイバやモード変換器等の光学部材において、どの程度のクロストークが生じるかを測定・評価することが求められる。上述した様に、伝搬モードは、光の空間的な強度及び位相、つまり、複素振幅の分布によって決まる。クロストークを測定するためには、測定対象の光学部材を伝搬した光(以下、物体光と呼ぶ)の空間的な強度及び位相を測定する必要がある。通常、光検出器は、光の空間的な強度分布しか観測できない。したがって、空間的な強度及び位相分布が既知であり、物体光とコヒーレントな参照光と物体光とを干渉させることで、物体光の強度及び位相の空間分布を求めることが行われる。
【0004】
このため、通常、光源が生成した光を2分岐し、一方を測定対象の光学部材を通過させて物体光とし、他方を参照光として使用することが行われる。このとき、参照光は、物体光が通過する測定対象の光学部材とは異なる専用光路を伝搬させた後に物体光と干渉させるが、この参照光の専用光路の光路長は、測定対象の光学部材と同じ光路長とする必要がある。したがって、光ファイバの様な長尺な光学部材の評価を行う場合、参照光の専用光路として、測定対象の光ファイバと同じ長さの光ファイバを用意する必要がある。
【0005】
特許文献1は、物体光から参照光を生成することで、参照光の専用光路を不要とする構成を開示している。
図3は、特許文献1に記載の評価装置を示している。
図3において、光源1が生成した光は、モード変換器2において所定の伝搬モードに変換され、測定対象の光学部材である被測定ファイバ3に入力される。分波器4は、被測定ファイバ3を伝搬した物体光を分岐し、一方の物体光を干渉部6に出力し、他方の物体光を、当該物体光から参照光を生成するために空間フィルタ5に出力する。空間フィルタ5は、物体光の高周波成分を抑圧し、直流及び低周波成分を通過させる。つまり、空間フィルタ5は、物体光から振幅及び位相分布が一様な平面波成分を取り出して参照光とする。これは、参照光の強度及び位相の空間分布は既知でなければならないからである。干渉部6は、分波器4からの物体光と、空間フィルタ5が出力する略平面波と見做せる参照光を干渉させ、撮像部7は、干渉縞を撮影して、撮影したデータを処理部8に出力する。処理部8は、干渉縞に基づき例えば、物体光の強度及び位相の空間分布を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/050141号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、空間フィルタ5に入力される物体光に平面波成分が殆ど含まれていない場合、特許文献1に記載の構成では測定精度が劣化する。つまり、特許文献1に記載の構成では、物体光に平面波成分が十分に含まれていないと、光学部材の評価を精度良く行うことができない。
【0008】
本発明は、物体光の位相分布に拘らず、物体光から参照光を生成して精度良く光学部材の評価を行うことができる評価装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によると、評価対象の光学部材を通過した物体光により当該光学部材の評価を行う評価装置は、前記物体光を分岐する分岐手段と、前記分岐手段が分岐した一方の物体光が通過し、前記一方の物体光に対して通過する空間位置に応じた位相遅延を与える位相調整手段と、前記位相調整手段を通過した物体光に対して空間周波数に基づくローパスフィルタ処理を行い参照光として出力する生成手段と、前記参照光と、前記分岐手段が分岐した他方の物体光を干渉させて干渉縞を生じさせる干渉手段と、前記干渉縞を撮像する撮像手段と、前記撮像手段が撮像した干渉縞に基づき前記物体光の位相の空間分布を求め、前記求めた位相の空間分布に基づき前記位相調整手段を制御する制御手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、物体光の位相分布に拘らず、物体光から参照光を生成して精度良く光学部材の評価を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明を実施形態の内容に限定するものではない。また、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する。
【0013】
図1は、本実施形態による評価装置100の構成図である。なお、
図1の構成においては、評価対象の光学部材が光ファイバであるものとしているが、本実施形態は、位相及び強度の空間分布を測定するする必要がある任意の光学部材を評価対象とすることができる。
図1において、光源1が生成した光は、モード変換器2において所定の伝搬モードに変換され、測定対象である被測定ファイバ3に入力される。そして、被測定ファイバ3を伝搬した光が物体光として評価装置100に入力される。なお、光源1及びモード変換器2を含めて評価装置とすることもできる。
【0014】
評価装置100の分波器4は、入力される物体光を分岐し、その一方を物体光として干渉部6に出力する。また、他方の物体光を空間光位相変調器9に出力し、空間光位相変調器9は物体光を中間光に変換して出力する。空間光位相変調器9は、例えば、通過する光の進行方向と直交する平面を有する液晶装置であり、通過する光に対して、通過する平面上の位置毎に独立した遅延量を与える様に構成されている。つまり、空間光位相変調器9は、通過する光に空間位置に応じた位相遅延を与える位相調整部として機能する。ここで、空間位置とは、通過する光の進行方向とは直交する平面上の位置を意味する。なお、初期状態においては、総ての空間位置における位相遅延を同じとしておく。したがって、初期状態においては、空間光位相変調器9が出力する中間光は物体光と同じである。空間光位相変調器9を通過した中間光は空間フィルタ5に入力される。
図2は、空間フィルタ5の構成例を示している。空間フィルタは、例えば、集光レンズ51と、ピンホールを設けた部材52と、コリメートレンズ53と、で構成される。この構成により、空間フィルタ5は、中間光の空間周波数の高周波成分を抑圧し、直流及び低周波成分を参照光として取り出す。つまり、空間フィルタ5は、中間光に対してその高周波成分を取り除くローパスフィルタ処理を行い、中間光から振幅及び位相分布が一様な平面波成分を取り出す。これは、参照光の強度及び位相の空間分布は既知でなければならないからである。なお、ここでの周波数とは空間周波数を意味する。干渉部6は、分波器4からの物体光と、空間フィルタ5からの参照光を干渉させ、撮像部7は、干渉縞を撮影して、撮影したデータを処理部10に出力する。
【0015】
処理部10は、干渉縞から物体光の位相分布(複素振幅分布)を判定し、判定した位相分布の共役を空間光位相変調器9にフィードバックする。つまり、空間光位相変調器9の各空間位置において当該位置を通過する光に与える遅延量を、物体光の位相分布の位相共役となる様に処理部10は、空間光位相変調器9の各位置における位相遅延量を制御する。これは、物体光の各位置における位相差を小さくする様に位相を調整して中間光とすることに相当し、この操作により空間光位相変調器9が出力する中間光は、物体光より平面波に近づくことになる。つまり、中間光に含まれる平面波成分が1回目の測定における中間光より増加する。さらに、処理部10は、2回目の測定により、干渉縞から物体光の位相分布(複素振幅分布)を判定し、判定した位相分布の共役を空間光位相変調器9にフィードバックする。この処理を繰り返すことで、空間光位相変調器9は、入力される物体光の位相及び強度分布を平滑化し、空間光位相変調器9が出力する中間光は平面波に近づくことになる。これにより、被測定ファイバ3を通過した物体光の位相分布に拘らず、十分な強度の参照光を物体光から取り出すことができ、よって、測定精度を上げることができる。なお、繰り返しの回数については予め設定しておく形態とすることができる。或いは、空間光位相変調器9の設定状態が収束することにより繰返しを終了する形態であっても良い。
【0016】
繰り返しが終了すると、処理部10は、物体光の位相及び強度の空間分布に基づき被測定光ファイバ3の評価を行う。なお、評価できる内容は、物体光の位相及び強度の空間分布に基づき計算できる任意の内容であり、例えば、伝搬モード間のクロストークや、位相及び強度の空間分布の波長依存性や、理想的な伝搬モードの位相及び強度の空間分布からのズレや、モード間遅延等である。
【符号の説明】
【0017】
4:分岐部、9:空間光位相変調器、5:空間フィルタ、6:干渉部、7:撮像部、10:処理部