【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年、独立行政法人科学技術振興機構(現 国立研究開発法人科学技術振興機構)、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「幹細胞培養基材の開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
DESCAMPS, B. et al.,Vascular differentiation from embryonic stem cells: novel technologies and therapeutic promises,Vascul.Pharmacol.,2012,56(5-6),p.267-279,Fig.1,2、第274頁右欄等
【文献】
NIWA, A. et al.,A novel serum-free monolayer culture for orderly hematopoietic differentiation of human pluripotent,PLoS One,2011,6(7),e22261,Table1、Fig.3等参照
【文献】
SCHNAPER H.W. et al.,Role of laminin in endothelial cell recognition and differentiation,Kidney Int.,1993,43(1),p.20-25,要約等
【文献】
MIYAZAKI, T. et al.,Laminin E8 fragments support efficient adhesion and expansion of dissociated human pluripotent stem,Nat.Commun.,2012,3:1236,要約等
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、次の工程を含む多能性幹細胞から血管内皮細胞を製造する方法を提供する;(i)多能性幹細胞を、第一のマトリックスでコーティングされた培養器材上にて、BMPを含む培養液中で培養し、中胚葉前駆細胞を製造する工程、
(ii)(i)で得られた中胚葉前駆細胞を単細胞に解離させる工程、および
(iii)(ii)で得られた細胞を、ラミニン−411またはその断片、ラミニン−511またはその断片、Matrigel、IV型コラーゲン、およびフィブロネクチンから成る群より選択される第二のマトリックスでコーティングされた培養器上にて、VEGFを含む培養液中で培養する工程。
【0015】
上記工程(i)は、多能性幹細胞から中胚葉前駆細胞を製造する工程となることから、本発明は、多能性幹細胞から中胚葉前駆細胞を製造する方法をも提供する。同様に、上記工程(iii)は、中胚葉前駆細胞から血管内皮細胞を製造する工程となることから、本発明は、中胚葉前駆細胞から血管内皮細胞を製造する方法をも提供する。
【0016】
<多能性幹細胞>
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、特に限定されないが、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、ntES細胞、およびiPS細胞である。
【0017】
(A) 胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
【0018】
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された (J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。
【0019】
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848;Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147; H. Suemori et al. (2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。
【0020】
ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20% KSRおよび4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培養液を使用し、37℃、2% CO
2/98% 空気の湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる(O. Fumitaka et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:215-224)。また、ES細胞は、3〜4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl
2および20% KSRを含有するPBS中の0.25% トリプシンおよび0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。
【0021】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-Time PCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:443-452)。
【0022】
ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES-1、KhES-2およびKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0023】
(B) 精子幹細胞
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
【0024】
(C) 胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
【0025】
(D) 人工多能性幹細胞
人工多能性幹(iPS)細胞は、ある特定の再プログラミング因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。再プログラム化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子またはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはその遺伝子産物であれば良く、特に限定されないが、例えばOCT3/4、SOX2及びKLF4; OCT3/4、KLF4及びC-MYC; OCT3/4、SOX2、KLF4及びC-MYC; OCT3/4及びSOX2; OCT3/4、SOX2及びNANOG; OCT3/4、SOX2及びLIN28; OCT3/4及びKLF4などの組み合わせである。
【0026】
これらの因子は、タンパク質の形態で、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよいし、あるいは、DNAの形態で、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、再プログラミング化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する再プログラミング化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
【0027】
再プログラム化に際して、誘導効率を高めるために、上記の因子の他に、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool (登録商標:Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA (Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、UTF1(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、2i/LIF (2iはmitogen-activated protein kinase signallingおよびglycogen synthase kinase-3の阻害剤、PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、miR-291-3p、miR-294、miR-295などのmiRNA(R.L. Judson et al., Nat. Biotech., 27:459-461) (2009)等を使用することができる。
【0028】
iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば(1) 10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培地(これらの培地にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、(2) bFGF又はSCF(Stem Cell Factor)を含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)又は霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒト&サル)ES細胞用培地、リプロセル、京都、日本)、などが含まれる。
【0029】
培養法の例としては、たとえば、37℃、5%CO
2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培地上で体細胞と再プログラム化因子(DNA又はタンパク質)を接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と再プログラム化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。
【0030】
あるいは、その代替培養法として、37℃、5% CO
2存在下にて、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)およびMatrigel(BD Biosciences))を用いる方法が例示される。
【0031】
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
【0032】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm
2あたり約5×10
3〜約5×10
6細胞の範囲である。
【0033】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
【0034】
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0035】
また、iPS細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一もしくは実質的に同一である体細胞を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座あるいはHLA-Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。
【0036】
(E) 核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
【0037】
<中胚葉前駆細胞>
本発明において、中胚葉とは、発生の過程で体腔及びそれを裏打ちする中皮、筋肉、骨格、皮膚真皮、結合組織、心臓・血管(血管内皮も含む)、血液(血液細胞も含む)、リンパ管や脾臓、腎臓及び尿管、性腺(精巣、子宮、性腺上皮)をつくる能力を有した細胞から構成される胚葉を包含する。本発明において、中胚葉前駆細胞は、中胚葉細胞と区別されず、例えば、T(Brachyuryと同義)、KDR、FOXF1、FLK1、BMP4、MOX1及びSDF1から成るマーカー遺伝子から選択される少なくとも一つのマーカー遺伝子が発現する細胞である。好ましくは、T及びKDRを発現する細胞である。本発明において製造される、中胚葉前駆細胞は他の細胞種が含まれる細胞集団として製造されてもよく、例えば、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上の中胚葉前駆細胞が含まれる細胞集団である。中胚葉前駆細胞は、例えば前記工程(i)の方法、特許文献4の方法、非特許文献3の方法及び非特許文献4の方法で作製することができるが、製造方法は特に限定されない。
【0038】
<血管内皮細胞>
本発明において、血管内皮細胞とは、血管の内表面を構成する扁平で薄い細胞であるが、本発明では血管内皮前駆細胞と区別されない。本発明における血管内皮細胞は、培養を継続することで管構造を形成することができる細胞であってもよく、さらに好ましくは、アセチル化低密度リポタンパク質(Ac−LDL)を取り込む能力がある細胞をいう。血管内皮細胞は、例えば、特に限定されないが、KDR,CD34、およびVEカドヘリンのようなマーカーが発現していることによって特徴づけられる。本発明において製造される、血管内皮細胞は他の細胞種が含まれる細胞集団として製造されてもよく、例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上の
血管内皮細胞が含まれる細胞集団である。分化が誘導された血管内皮細胞は、有用な培養モデルを提供することができる。すなわち、本発明の方法により生成される血管内皮細胞は、遺伝子変異に起因する血管疾患のモデルとして有用である。さらに、本方法により生成された血管内皮細胞を移植のために用いることができる。
【0039】
<工程(i):多能性幹細胞を、第一のマトリックスでコーティングされた培養器材上にて、BMPを含む培養液中で培養し、中胚葉前駆細胞を製造する工程>
本工程(i)は、多能性幹細胞を接着培養する工程であり、本発明において、接着培養とは、細胞接着に適した表面加工をした培養容器または細胞外基質をコーティング処理された培養容器を用いて培養することによって行ってもよい。コーティング処理は、マトリックスを含有する溶液を培養容器に入れた後、当該溶液を適宜除くことによって行い得る。
【0040】
本発明において、マトリックスとは好ましくは細胞外基質(細胞外マトリックス)を意味し、これは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリンおよびラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、EHSマウス肉腫細胞由来の細胞外基質(Matrigel)などの細胞からの調製物であってもよい。
【0041】
本発明においてラミニンとは、基底膜の主要な細胞接着分子であり、α鎖、β鎖、及びγ鎖の3本のサブユニット鎖からなるヘテロ3量体で、分子量80万Daの巨大な糖タンパク質である。3本のサブユニット鎖がC末端側で会合してコイルドコイル構造を作りジスルフィド結合によって安定化したヘテロ3量体分子を形成している。特に限定されないが、例えば、α鎖は、α1、α2、α3、α4またはα5であり、β鎖は、β1、β2またはβ3であり、ならびにγ鎖は、γ1、γ2またはγ3である。さらに、ラミニンは断片または変異体であってもよく、インテグリン結合活性を有している断片または変異体であれば、特に限定されない。例えば、ラミニン断片は、エラスターゼにて消化して得られる断片であるE8フラグメントであってもよい。ラミニンはヒト由来のものが好ましい。
【0042】
本工程(i)で用いる第一のマトリックスは、Matrigel、タイプIVコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン−411(α4鎖、β1鎖、γ1鎖からなるラミニン)またその断片、ラミニン−511(α5鎖、β1鎖、γ1鎖からなるラミニン)またはその断片であり、より好ましくは、Matrigelもしくはラミニン−511またはその断片であり、さらに好ましくは、ラミニン−511のE8フラグメント(ラミニン−511E8 (LM511E8);Ido et al. J. Biol. Chem. 282, 11144-11154, 2007)である。
【0043】
本工程(i)で用いる、BMPとは、中胚葉前駆細胞への誘導に適したBMPであり、例えば、BMP2、BMP4およびBMP7が挙げられる。より好ましくは、BMP4である。BMPはヒト由来のものが好ましい。
【0044】
本工程(i)の培養液中におけるBMPの濃度は、中胚葉前駆細胞が誘導される濃度であれば、特に限定されないが、5 ng/mlから200 ng/ml、10 ng/mlから100 ng/ml、または20 ng/mlから80 ng/mlが例示される。好ましくは、80 ng/mlである。
【0045】
本工程(i)で用いる培養液は、BMPに加えて、さらにGSK3β阻害剤およびVEGFを含むことが好ましい。
【0046】
本発明において、GSK3β阻害剤とは、GSK-3βタンパク質のキナーゼ活性(例えば、βカテニンに対するリン酸化能)を阻害する物質として定義され、既に多数のものが知られているが、例えば、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK-3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK-3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチド阻害剤;Myr-N-GKEAPPAPPQpSP-NH
2(配列番号1))および高い選択性を有するCHIR99021(6-[2-[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(4-methyl-1H-imidazol-2-yl)pyrimidin-2-ylamino]ethylamino]pyridine-3-carbonitrile)が挙げられる。これらの化合物は、例えばCalbiochem社やBiomol社等から市販されており容易に利用することが可能であるが、他の入手先から入手してもよく、あるいはまた自ら作製してもよい。本発明で使用されるGSK-3β阻害剤は、好ましくは、CHIR99021であり得る。
【0047】
本工程(i)の培養液中におけるCHIR99021の濃度は、例えば、1nM、10nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMまたはこれらの間の濃度であるがこれらに限定されない。好ましくは、4μMである。
【0048】
本工程(i)の培養液中におけるVEGFの濃度は、中胚葉前駆細胞が誘導される濃度であれば、特に限定されないが、5 ng/mlから200 ng/ml、10 ng/mlから100 ng/ml、または20 ng/mlから80 ng/mlが例示される。好ましくは、80 ng/mlである。VEGFはヒト由来のものが好ましい。
【0049】
本工程(i)で用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として、適宜BMPを添加することによって調製することができる。基礎培地としては、例えば、Glasgow's Minimal Essential Medium(GMEM)培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、mTesR1培地(ライフテクノロジーズ)、Essential 8(ライフテクノロジーズ)、Stempro34SFM培地(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基礎培地は、mTesR1培地またはEssential 8である。
【0050】
本工程(i)の培養条件について、培養温度は、特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。培養期間は、2日以上であり、2日〜3日間が好ましい。
【0051】
<工程(ii):細胞を単細胞に解離させる工程>
本工程(ii)は、工程(i)で得られた細胞集団を実質的に単細胞に解離させる工程であり、細胞を解離させる方法としては、例えば、力学的に解離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えば、Accutase(商標)およびAccumax(商標)など)またはプロテアーゼ活性もしくはコラゲナーゼ活性のみを有する解離溶液を用いた解離方法が挙げられる。好ましくは、トリプシン代替物であるTrypLE Express(Life Technologies)を使用して解離する方法が用いられる。
【0052】
<工程(iii) または中胚葉前駆細胞から血管内皮細胞を製造する工程(以下、工程(iii)等と言う):ラミニン−411またはその断片、ラミニン−511またはその断片、Matrigel、IV型コラーゲン、およびフィブロネクチンから成る群より選択される第二のマトリックスでコーティングされた培養器上にて、VEGFを含む培養液中で培養する工程>
本工程(iii) 等は、中胚葉前駆細胞を接着培養する工程である。本工程(iii) 等で用いる中胚葉前駆細胞の製造方法は特に限定されず、前記工程(i)の方法で製造された中胚葉前駆細胞であってもよく、当該中胚葉前駆細胞は、前記工程(ii)を経て、単細胞へ解離された細胞であってもよい。接着培養は、前記工程(i)に記載のマトリックスを用いて行うことができるが、本工程(iii) 等で用いる好ましいマトリックスは、Matrigel、タイプIVコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン−411またはその断片、ラミニン−511またはその断片であり、好ましくは、ラミニン−411の断片である。ラミニン−411の断片とは、インテグリンα6β1への結合活性を有する断片であり、より好ましくはラミニン−411のE8フラグメント(ラミニン−411 E8:LM411E8)である。なお、ラミニンにはその変異体が含まれ得るが、ラミニン−411 E8のγ鎖のC末端から3番目のグルタミン酸をグルタミンに置換することによりインテグリンα6β1への結合活性を消失した変異体(ラミニン−411 E8(EQ))は、含まない。
【0053】
本工程(iii)等で用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として、適宜VEGFを添加することによって調製することができる。基礎培地としては、例えば、Glasgow's Minimal Essential Medium(GMEM)培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、mTesR1培地(ライフテクノロジーズ)、Essential 8(ライフテクノロジーズ)、Stempro34SFM培地(ライフテクノロジーズ)、Endothelial Serum Free Medium (Life Technologies)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基礎培地は、Stempro34SFM培地又はEndothelial Serum Free Medium (Life Technologies)である。
【0054】
本工程(iii)等の培養液中におけるVEGFの濃度は、
血管内皮細胞が誘導される濃度であれば、特に限定されないが、5 ng/mlから200 ng/ml、10 ng/mlから100 ng/ml、または20 ng/mlから80 ng/mlが例示される。好ましくは、80 ng/mlである。
【0055】
本工程(iii)等の培養条件について、培養温度は、特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。培養期間は、2日以上であり、4日〜7日間が好ましく、4日間が特に好ましい。
【0056】
<血管再生剤>
本発明で得られた血管内皮細胞は、冠動脈疾患や下肢虚血疾患(バージャー病や閉塞性動脈硬化症など)を含む重症虚血性疾患患者の治療のために投与することができる。すなわち、得られた血管内皮細胞を、虚血部位に移植することにより、血管再生療法として使用することができる(Takayuki Asahara, YAKUGAKU ZASSHI 127(5)841-845, 2007)。したがって、本発明では、上記の方法で多能性幹細胞より得られた血管内皮細胞を含む血管再生剤を提供する。
【0057】
<スクリーニング方法>
本発明では、次の工程を含む冠動脈疾患や下肢虚血疾患(バージャー病や閉塞性動脈硬化症など)を含む重症虚血性疾患の治療薬をスクリーニングする方法を提供する;
(i)上述した方法で得られた血管内皮細胞へ候補薬剤を接触させる工程、
(ii)前記血管内皮細胞の機能障害を測定する工程、および、
(iii)候補薬剤を接触させなかった場合と比較して、前記血管内皮細胞の機能障害を減少させた候補薬剤を重症虚血性疾患の治療薬として選択する工程。
【0058】
本発明において、血管内皮細胞の機能障害とは、NO合成酵素の発現またはNOの産生などの酸化ストレスの増大、内皮細胞接着分子の発現亢進、アンジオテンシンII、エンドセリン-1とプラスミノーゲンアクチベータ・インヒビタ-1の産生増加、およびAc−LDLなどの脂質取り込み量の増加などが例示される。
【0059】
本発明において、候補薬剤は、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、及び天然化合物が例示される。
【0060】
本発明において、候補薬剤はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及び(4)アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl.Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照のこと)又はビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
【0061】
<キット>
本発明での他の実施態様において、多能性幹細胞から血管内皮細胞を作製するキットが含まれる。当該キットには、上述した血管内皮細胞を作製する各工程に使用する培養液、添加剤または培養容器等が含まれる。例えば、マトリックス(好ましくは、ラミニン−411 E8)、BMP4、VEGF及びGSK3β阻害剤から成る群より選択される1種類以上の試薬を含むキットが挙げられる。本キットには、さらに製造工程の手順を記載した書面や説明書を含んでもよい。
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0063】
[実施例]
細胞および培養
ヒトES細胞(KhES1)は、京都大学再生医科学研究所より受領し、従来の方法で培養した(Suemori H, et al. Biochem Biophys Res Commun. 345:926-32, 2006)。ヒトiPS細胞(253G4、409B2及び223Q5)は、京都大学の山中教授より受領した。
ヒトES細胞およびヒトiPS細胞の維持培養はSNLフィーダー細胞上で、5mg/mLのbFGF(Wako)を添加したES培地(ReproCELL)を用いて行った。SNLフィーダー細胞は、DSファーマバイオメディカル社等から入手可能である。また、継代はCTK溶液(0.25%トリプシン(Life Technologies)、0.1%コラゲナーゼIV(Life Technologies)、20%KSR、及び1mMCaCl
2)によって約30秒間室温で処理して細胞を解離させ、既存の方法(Suemori, H. et al. Biochemical and Biophysical Research Communications 345, 926932 (2006))により、SNL細胞を除去した。
【0064】
LM411E8断片の作製
LM411E8は、Idoら(Ido H, et al., J. Biol. Chem., 282, 11144-11154, 2007)に記載の方法に従い、α4鎖E8フラグメント、β1E8フラグメント、γ1鎖E8フラグメントの発現ベクターをヒト腎臓由来293F細胞(Invitrogen)に導入して発現させた。
【0065】
ヒトラミニンα4鎖E8フラグメント発現ベクターの作製
5’側から、マウスIg−κ鎖V−J2−Cシグナルペプチドと6×Hisタグとα4鎖E8フラグメントを順にコードするcDNA断片を獲得するために、マウスIg−κ鎖V−J2−Cシグナルペプチドと6×HisタグをコードするcDNA断片、そしてα4鎖E8をコードするcDNA断片をそれぞれ取得し、エクステンションPCRによってそれら2種類の断片を連結・増幅した。
【0066】
まず、ヒトラミニンα5鎖E8発現ベクター(Ido et al., J. Biol. Chem., 282, 11144-11154, 2007)を鋳型として、以下のプライマーセット(i)を用いてPCRを行い、マウスIg−κ鎖V−J2−Cシグナルペプチド・6×Hisタグに相当する領域を増幅した。なお、リバース(reverse)プライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用する配列が付加されている。
【0067】
(i) シグナルペプチド配列・6×Hisタグ配列増幅用プライマー
5’-GAGGTCTATATAAGCAGAGCTCTCTGGCTAACTA-3’(forward、配列番号2)
5’-CATTGGCTTCATCATGATGATGATGATGATGAAGC-3’(reverse、配列番号3)
【0068】
次に、ヒトラミニンα4鎖の完全長cDNA配列を含むプラスミド(Hayashi et al., Biochem Biophys Res Commun., 299, 498-504, 2002)を鋳型としてPCRを行い、α4鎖(アクセッション番号:NP_002281のGlu629−His1449)に相当する領域を増幅した。なお、フォワード(forward)プライマーの5’側にはエクステンションPCRに使用する配列が、リバース(reverse)プライマーの5’側にはEcoRI認識配列がそれぞれ付加されている。
【0069】
(ii) ラミニンα4鎖E8配列増幅用プライマー
5’-CATCATGATGAAGCCAATGAAACAGCAGAATTTGC-3’(forward、配列番号4)
5’-GCAGAATTCTCAATGAGAGTTTCTTGGAGTATTCC-3’(reverse、配列番号5)
【0070】
得られた2種類のcDNA断片を、エクステンションPCRにより連結・増幅させ、マウスIg−κ鎖V−J2−Cシグナルペプチド・6×Hisタグ・α4鎖E8をコードするcDNA断片を得た。増幅したcDNAを制限酵素HindIIIとEcoRIで消化し、哺乳細胞用発現ベクターpSecTag2B(Invitrogen)の当該部位に挿入し、ヒトα4鎖E8フラグメント(N末端側に6×Hisタグを含む)の発現ベクターを作製した。
ヒトβ1鎖E8フラグメント(N末端側にHAタグを含む)、ヒトγ1鎖E8フラグメント(N末端側にFLAGタグを含む)の発現ベクターはIdoら(Ido H, et al., J. Biol. Chem., 282, 11144-11154, 2007)の方法により作製した。
【0071】
LM411E8は、作製した各鎖の発現ベクターをヒト腎臓由来293F細胞に導入して作製した。1000mlの293F細胞(1.0×10
6個/ml)にトランスフェクション試薬293fectin(商標:Life Technologies)およびOpti−MEM I(登録商標:Invitrogen)を用いて各鎖発現ベクターを400μgずつ同時にトランスフェクトし、72時間培養を行ったのち、培養液を回収した。培養液は1000×gで10分間遠心し、その上清をさらに15,000×gで30分間遠心し、細胞や不溶物を除去した。培養上精にPMSF(最終濃度:1 mM)とアジ化ナトリウム(最終濃度:0.02%)を加え、よく混合させた。その後、培養上清に15mlのNi−NTA agarose(Qiagen)を添加し一晩インキュベートして目的タンパク質を吸着させた。Ni−NTA agaroseを回収し、TBS(−)(Ca、Mgを含まないトリス緩衝生理的食塩水)で洗浄したのち200mMイミダゾール/TBS(−)で溶出した。溶出画分のA280値を分光光度計により確認し、A280値の高い画分に5mlのANTI−FLAG M2 affinity Gel(Sigma)を添加し、4℃で一晩旋回させた。ゲルをエコノカラムに移しTBS(−)で洗浄後、100μg/ml FLAG peptide(登録商標:Sigma)を含むTBS(−)で溶出した。溶出フラクションをCBB染色で確認し、LM411E8の溶出された画分を合わせてPBS(−)(Ca、Mgを含まないリン酸緩衝生理的食塩水)に対して透析を行った。
【0072】
コーティング
Laminin-411(LM411)(Biolamina)およびLaminin-511(LM511) (Biolamina)は、PBS(-)で希釈し、20μg/mLの濃度で調製した後、2μg/cm
2の濃度になるように培養皿に分注した。GFR-Matirgel(BD Biosciences)は、PBS(-)で希釈し、200μg/mLの濃度で氷上で調製した後、20μg/cm
2の濃度になるように培養皿に分注した。Type IV collagen (BD Biosciences)は、0.05 M 塩酸で希釈し、100μg/mLの濃度で調製した後、10μg/cm
2の濃度になるように培養皿に分注した。Fibronectin(Millipore) は、PBS(-)で希釈し、20μL/mLの濃度で調製した後、2μg/cm
2の濃度になるように培養皿に分注した。LM511E8 fragment(Nippi)および LM411E8は、PBS(-)で希釈し、4μL/mLの濃度で調製し後、0.4μg/cm
2の濃度になるように培養皿に分注した。
いずれのコーティング剤も分注後37℃で2時間インキュベートすることでコーティングを行った。
【実施例1】
【0073】
多能性幹細胞から中胚葉前駆細胞への分化誘導
多能性幹細胞から中胚葉前駆細胞への分化誘導は、Niwaらの記載に従って行った(Niwa A, et al, PLoS One.6:e22261 2011, Yanagimachi MD, et al, PLoS One. 8:e59243, 2013)。詳細には、多能性幹細胞のコロニーをGFR-Matrigelでコーティングしたプレートに2 colonies/cm
2の密度で播種し、mTeSR1培地(STEMCELL TECHNOLOGIES)で培養した。コロニーの直径が約750μm になるまで増殖させた後、20ng/mLのBMP4(R&D systems)を含むmTeSR1培地に交換し、3日間培養した(
図1中Day3)。
【0074】
中胚葉前駆細胞から内皮細胞への分化誘導
上記のとおり得られた中胚葉前駆細胞を含む培養物の培地を、40ng/mL VEGF(R&D systems)を含むStempro34SFM(Life Technologies)に交換し、さらに4日間培養した(
図1中Day7)。
【0075】
血管内皮細胞の抽出・機能確認
分化誘導7日目におけるマーカーの発現をフローサイトメトリーで解析した。詳細には、得られた細胞をTrypLE Expressで37℃で20分間処理し、Stempro34培地で抗体反応を行った。抗ヒトKDR抗体(Biolegend)、抗ヒトCD34抗体(Beckman coulter)、及び抗ヒトVE-cadherin抗体(eBioscience)は、いずれも1:100で希釈して用いた。その結果、約10%の細胞にKDR/CD34/VE-cadherinの発現が認められた(
図2)。
【0076】
次に、培養を継続した分化誘導10日目においてCD34
+/VE-cadherin
+分画を抽出し、Ac−LDL取り込みアッセイ及び免疫染色を行った。詳細には、DiI-Ac-LDL(Life Technologies)を1:100の希釈率でEndothelial Serum Free Medium (Life Technologies)に加え、37℃、5%CO
2の条件下で得られた細胞と5時間反応させた後、PBS(-)で2度洗浄し、Cytofix (BD Biosciences)を用いて細胞を固定した。固定は室温で5分間行った。その後、Perm/Wash (BD Biosciences) を用いて室温で30分間ブロッキングを行い、抗ヒトCD31抗体(R&D systems) (1:10)を4℃にて一晩反応させた。Perm/Washで2回洗浄後、2次抗体反応(FITC標識抗ヒツジIgG抗体, Jackson immunoresearch, 1:100)を室温で1時間行った。続いてPerm/Washで2回洗浄し、蛍光顕微鏡(Keyence)で撮影した。その結果、血管内皮細胞マーカーであるCD31の発現、及び血管内皮細胞の機能の一つであるAc−LDLの取り込みが認められた(
図3)。以上より、誘導されたCD34
+/VE-cadherin
+細胞が血管内皮細胞であることが示唆された。
【0077】
VEGF刺激前の継代培養の効果
分化誘導3日目においてKDR陽性中胚葉前駆細胞は80%以上出現するものの(
図4)、その後VEGFで刺激しても血管内皮細胞となるのはわずかである。そこで、3日目までに形成されていた細胞間相互作用を消去する目的で、BMP/Matrigelで培養後、VEGFで刺激する直前に、TrypLE Express(Life Technologies)によって37℃で20分間処理することで細胞を解離させ、single cellを再度平面培養(VEGF/Matrigel)によって分化させた。その結果、single cellにまで解離した群(passage群)において、CD34
+/VE-cadherin
+細胞の純度の上昇が認められた(
図5)。
【0078】
単一のマトリックスプレートを用いた分化誘導
前述のとおり3日目で細胞を解離することによって、CD34
+/VE-cadherin
+細胞の純度の上昇が認められたものの、その効果は細胞株によって異なっていた(
図5)。そこで、種々の単一のマトリックスタンパク質でコーティングした、第二のマトリックスプレートを使用した分化誘導を行い(Day3からDay7)、高純度かつ株間で安定に血管内皮細胞を誘導できるマトリックスを探索した。分化誘導方法を
図6に示す。その結果、non-coatingとLM411についてどの細胞株でも高純度に血管内皮細胞を誘導できることが示された(
図7)。一方、多能性幹細胞の維持に有用と考えられているLM511では純度が低下した細胞株があった。また、血管内皮細胞の収量を比較したところ、LM411の方が高収量であった。
さらに、LM411を用いて得られた血管内皮細胞の機能を評価するため、Ac−LDL取り込みアッセイ及びチューブ形成アッセイを行った。チューブ形成アッセイは、次の方法で行った。Matrigel (BD Biosciences) を96 well plateに50μL/well で分注し、37℃で30分間放置することで固形化させた。次に細胞をEndothelial Serum Free Mediumに懸濁し、VEGFを80ng/mLとなるように加えた。この細胞懸濁液を先ほどの固形化したMatrigel上に細胞密度4×10
4/wellとなるように分注し、37℃, 5%CO
2の条件で一晩培養した(Kurian L, et al., Nat. Methods. 10:77-83, 2013)。その結果、LM411を用いて誘導した血管内皮細胞はチューブ形成能及びAc−LDL取り込み能を有することが確認された(
図8)。以上より、中胚葉前駆細胞を解離させ、LM411でコーティングされたプレート上で培養することによって、血管内皮細胞を効率よく誘導できることが確認された。
【0079】
Laminin-411 E8 fragmentによる収量の改善
続いて、LM411のintegrinと結合する部分を有する断片であるLM411E8を用いた場合の中胚葉前駆細胞に対する接着活性及び分化に対する影響について検討を行った。詳細には、多能性幹細胞のコロニーをGFR-Matrigelでコーティングしたプレートに2 colonies/cm
2の密度で播種し、mTeSR1培地(STEMCELL TECHNOLOGIES)で培養した。コロニーの直径が約750μm になるまで増殖させた後、80ng/mLのBMP4(R&D systems)を含むmTeSR1培地に交換した。3日間培養した後、TrypLE Express(Life Technologies)によって37℃で20分間処理することで細胞を解離させ、80ng/mL VEGF(R&D systems)を含むStempro34SFM(Life Technologies)培地に懸濁し、LM411E8でコーティングしたプレートに4×10
4/cm
2の密度で播種し、さらに4日間培養した。
その結果、LM411E8を用いた場合に、LM411とほぼ同等の純度で血管内皮細胞が得られ、収量はLM411を用いた場合より多かった (
図9左)。また、LM411E8の濃度依存的に血管内皮細胞の数は増加した(
図9右)。
また、LM411E8を用いて分化した血管内皮細胞は、チューブ形成能及びAc−LDL取り込み能を有することが認められた(
図10)。
【0080】
さらに、non-coating、LM411E8またはLM411を用いて分化誘導した血管内皮細胞を比較したところ、non-coating条件ではチューブが形成されず、LM411E8の方がLM411に比べてチューブの長さ、分岐点の数共に高かった(
図11および
図12)。以上より、LM411E8を用いて誘導することで、より機能的な血管内皮細胞が得られることが示された。
【0081】
前述の3つの条件で分化させた内皮細胞の遺伝子発現プロファイルをRNA-seqによるシングルセルマイクロアレイ解析したところ、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)の遺伝子発現に近いことが示された。さらにクラスタリング解析を行ったところ、LM411E8は、non-coatingやLM411とは異なる遺伝子発現プロファイルを示した。特にVEGF刺激に対する応答や血管形成に関わる遺伝子発現がLM411E8で亢進していることが認められた。
【0082】
多能性幹細胞由来中胚葉前駆細胞とLM411E8の相互作用
LM411E8を用いることによって内皮細胞の収量が上がった理由として、細胞との接着活性が考えられる。そこで、分化誘導3日目の中胚葉前駆細胞のnon-coating、LM411またはLM411E8に対する接着活性を比較したところ、LM411E8は他の2つに比べて著しく高かった。
【0083】
LM411はintegrin α6β1, α7x1β1と結合することが知られている。そこで、分化誘導3日目の中胚葉前駆細胞に対してintegrin α6β1の中和抗体を用いてcell adhesion assayを行ったところ、non-coatingと同程度まで接着細胞数が低下した。LM411E8(EQ)は、LM411E8のγ鎖のC末端から3番目のグルタミン酸をグルタミンに置換することで、integrin α6β1への結合活性が消失した変異体である。このLM411E8(EQ)に対する分化誘導3日目の中胚葉前駆細胞の結合活性を評価したところ、non-coatingとほぼ同等の値を示した。以上より、分化誘導3日目の中胚葉前駆細胞のLM411E8に対する初期接着(initial adhesion)はintegrinα6β1に依存していると考えられる。
【0084】
LM411-E8の機能
LM411が血管内皮細胞へ分化する細胞を選別しているのか、あるいは接着した細胞の血管内皮分化を促進しているのかを検討するために、BMP4/Matrigelでの分化誘導3日目に得られた中胚葉前駆細胞を解離させたのちにLM411に播種し、接着した細胞を再びMatrigel(MG)あるいはLM411に再継代するダブルスイッチングアッセイ(double-switching assay)を行った。その結果、LM411-MGはLM411-LM411に比べて純度が著しく低下した(
図13)。以上より、LM411は受容体特異的に細胞を選別しているだけでなく、接着した細胞のその後の血管内皮分化にも影響を及ぼしていると考えられる。また、LM411E8に単独で血管内皮分化を誘導する機能があるか否かを調べるため、分化誘導3日目の中胚葉前駆細胞をLM411E8の上でVEGFの無い条件で培養したところ、血管内皮細胞は誘導されず、すなわち、LM411E8そのものに血管内皮分化を誘導する機能は無いことが示された。
【0085】
以上より、LM411E8は中胚葉前駆細胞のVEGF依存性の血管内皮分化において、前駆細胞の選別とその後の分化の方向性決定に重要な働きをしていることが示唆された。
【0086】
Single-cell RNA-sequencing
中胚葉から血管内皮細胞への分化過程において、マトリックス選別が個々の細胞にどのような影響を及ぼすかを詳細に検討するためにsingle-cell RNA-sequencingを行った。ここで、多能性幹細胞をBMP4/Matrigelで分化させて得られた中胚葉前駆細胞(Day3)を解離した後、MatrigelまたはLM411E8上で分化させ、分化誘導5日目(Day5)及び7日目(Day7)における遺伝子発現をシングルセルレベルで比較した(
図14)。主成分分析を行ったところ、分化誘導0日目及び3日目で比較的ばらついていた遺伝子発現が、LM411E8上にまき直した結果、均一な集団になった。一方、Matrigel上では、細胞の発現の不均一性(heterogeneity)が改善しなかった。以上より、遺伝子発現プロファイルの観点からも、LM411E8は細胞の運命の方向性決定において、遺伝子発現プロファイルを限定するガイドの働きをすることが示された。さらに、分化誘導5日目のLM411E8及びMatrigelを用いて得られた血管内皮細胞についてマイクロアレイを行い、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)を行ったところ、Rho family GTPase pathwayがLM411E8において活性化していることが示唆された。
【実施例2】
【0087】
Wnt シグナルの増強による中胚葉前駆細胞の分化効率の改善
Wnt/β-cateninシグナルを活性化することで中胚葉分化誘導効率が上昇することが知られており(Sumi, T., et al., Development. 135:2969-2979, 2008)、強力なGSK3β阻害剤であるCHIR99021が血球や内皮の分化誘導に用いられている(Sturgeon, C, et al., Nat Biotechnol. 32:554-561, 2014)。Single cell RNA-seq の結果より、分化誘導3日目における、Wnt シグナリングの既知のレポーター遺伝子であるAXIN2の増加が、シングルセルレベルで不均一であることが示されており、これによって、Wnt/β-catenin経路の内因性活性化(endogenous activation)が初期分化において十分ではないことが明らかとなっている。Single cell RNA seq解析により、従来法では初期分化における内在性wntシグナルの活性化が不均一であることが考えられたため、CHIR99021によってWnt/β-cateninシグナルを一様に活性化することで、LM411E8に接着して血管内皮細胞に分化する前駆細胞の数を増やすことができる可能性が考えられた。また、分化の初期からVEGFを添加することで、KDRを発現した中胚葉前駆細胞から血管内皮細胞への分化を逐次促すことができる可能性も考えられた。
そこで、多能性幹細胞をLM511E8 fragmentでコーティングしたプレートに5 colonies/cm
2の密度で播種し、mTeSR1で培養した。コロニーの直径が750μmになるまで増殖させた後、4 μM CHIR99021 (Wako), 80 ng/mL BMP4, 80 ng/mL VEGFを含むEssential 8 (Life Technologies)培地に交換することで、分化誘導を開始した(
図15)。分化開始後2日にTrypLE Expressで37℃で20分間処理することで細胞を解離させ、80 ng/mL VEGFを含むStempro34培地に懸濁し、LM411E8でコーティングしたプレートに4×10
4/cm
2の密度で播種し、4日間培養した。
【0088】
以上のように、改良した初期分化の条件で誘導した中胚葉前駆細胞も、第二のマトリックスとしてLM411E8を使用した培養系に適合し、高純度に血管内皮細胞を誘導でき (
図16左図)、1つの多能性幹細胞から10個以上の血管内皮細胞を誘導できることが示された(
図16右図)。また、これらの内皮細胞にも、索状構造形成(チューブ形成)及びAc−LDLの取り込みの機能が確認された(
図17)。
【0089】
in vivoでの血管形成能
bFGF (Wako)を300ng/mLになるように加えたMatrigelに、上記で得られた誘導血管内皮細胞を1×10
7/mLの密度で懸濁した。この懸濁液100μLをNOGマウス(6週齢前後)の背中に皮下注射した(Nakahara M, et al, cloning and stem cells, 11:509-522, 2009)。Matrigelは移植後21日目に回収し、免疫蛍光染色により解析した。詳細には、Matrigelを4% paraformaldehyde (Wako) で4℃で一晩固定した。その後、20% スクロース溶液で4℃で一晩置換し、O.C.T. compoundを用いて凍結包埋した。これを厚さ6μmの切片にし、スライドガラスに吸着させた。切片を乾燥させた後、Cytofixを用いて室温で5分間処理することで固定した。続いてPerm/Washを用いて室温で30分間インキュベートすることで透過性を亢進し、抗体反応を行った。1次抗体にはヒツジ抗CD31抗体 (BD Biosciences, 1:10), マウス抗ヒト核抗体 (Millipore, 1:100), ラットAlexa fluor647標識抗マウスTER-119抗体 (BD Biosciences, 1:10)をPerm/Washに溶解して室温で2時間反応させた。2次抗体反応は、抗ヒツジIgG抗体(Jackson immunoresearch, 1:100), 抗マウスIgG抗体(Jackson immunoresearch, 1:100)をPerm/Washに溶解し、室温で1時間反応させた。撮影には蛍光顕微鏡(OLYMPUS, fluoview)を用いた。
【0090】
その結果、本法によって誘導した血管内皮細胞が生体内で管腔構造を成し、内腔にマウス赤血球が存在していることが認められた(
図18)。すなわち、LM411E8を用いたマトリックススイッチング法により、in vivoにおいても機能的な血管内皮細胞を誘導できることが示された。