特許第6531441号(P6531441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6531441有機物含有水の膜処理方法及び膜処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6531441
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】有機物含有水の膜処理方法及び膜処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20190610BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20190610BHJP
   B01D 61/16 20060101ALI20190610BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20190610BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20190610BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20190610BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20190610BHJP
【FI】
   C02F1/44 C
   B01D61/04
   B01D61/16
   B01D65/08
   C02F1/44 F
   C02F3/10 Z
   C02F3/34 Z
   !C12N1/00 R
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-52246(P2015-52246)
(22)【出願日】2015年3月16日
(65)【公開番号】特開2016-172207(P2016-172207A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2018年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】鏡 つばさ
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 哲朗
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−111198(JP,A)
【文献】 特開昭63−031592(JP,A)
【文献】 特開2001−038390(JP,A)
【文献】 特開2000−288578(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/039832(WO,A1)
【文献】 Effects of AOC and Phosphorus on bacterial growth under oligotrophic condition (1),Applied Mechanics and Materials,2011年11月16日,Vol. 138-139,981-987
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/04
B01D 61/16
B01D 65/08
C02F 3/10
C02F 3/34
C12N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物含有水を膜処理する方法において、
リンを欠乏させることにより集積される貧栄養細菌によって、該有機物含有水を生物処理し、該生物処理水を膜分離処理する有機物含有水の膜処理方法であって、
該生物処理に供する有機物含有水のAOC濃度及びリン濃度が、AOC:P=100:0.5以上2未満(重量比)となるように、該有機物含有水にリン源を添加することにより前記貧栄養細菌を集積し、
該生物処理を、生物活性炭を充填した生物活性炭塔に該有機物含有水を上向流通水又は下向流通水することで行い、
該生物処理水にAOCを2〜10mg/L残留させることを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記有機物含有水のリン濃度がAOC濃度に対して0.5重量%未満であることを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記膜が逆浸透膜又は精密濾過膜であることを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記有機物含有水が半導体製造工程排水又は液晶製造工程排水であり、前記膜分離処理の処理水を再利用することを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【請求項5】
有機物含有水を膜処理する装置において、
リンを欠乏させることにより集積される貧栄養細菌によって、該有機物含有水を生物処理する生物処理手段と、該生物処理手段の処理水を膜分離処理する膜分離手段とを有する有機物含有水の膜処理装置であって、
該貧栄養細菌を集積するために、該生物処理手段に導入される有機物含有水のAOC濃度及びリン濃度が、AOC:P=100:0.5以上2未満(重量比)となるように、該有機物含有水にリン源を添加するリン源添加手段を有し、
該生物処理手段は、生物活性炭を充填した生物活性炭塔であり、
該有機物含有水が該生物活性炭塔に上向流通水又は下向流通水されて、AOCが2〜10mg/L残留する生物処理水が得られることを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【請求項6】
請求項において、前記有機物含有水のリン濃度がAOC濃度に対して0.5重量%未満であることを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記膜分離手段が逆浸透膜分離手段又は精密濾過膜分離手段であることを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【請求項8】
請求項ないしのいずれか1項において、前記有機物含有水が半導体製造工程排水又は液晶製造工程排水であり、前記膜分離手段の処理水を回収して再利用する手段を有することを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物含有水の膜処理方法及び膜処理装置に係り、詳しくは、有機物含有水の膜処理において、殺菌剤を用いることなく、膜面のスライム発生、それによるバイオファウリングを効果的に防止して、長期に亘り安定かつ効率的な処理を行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶製造工程から排出される有機性排水を回収して再利用する際、有機性排水を生物処理して水中の有機物を分解除去し、その後、直接、又は凝集、固液分離した後、逆浸透(RO)膜、精密濾過(NF)膜、又は限外濾過(UF)膜により膜分離処理することが行われている。この生物処理の後段の膜分離処理では、生物処理水中に含まれる微生物に起因して膜面にスライムが発生し、膜フラックスが低下する問題がある。
【0003】
従来、膜面のスライム防止方法として、殺菌剤を用いる方法があるが、殺菌剤による膜の劣化が懸念される上、長期間の使用により耐性菌が増殖し、殺菌効果が落ちることも懸念される。よって、殺菌剤の使用をなるべく抑えた上でスライムを防止することが望まれる。
【0004】
なお、半導体洗浄排水の回収技術において、TOCを除去してTOC欠乏状態を維持することにより微生物の増殖を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1,2)。しかし、より高度にスライムを防止する必要がある場合においては、この従来技術では本発明の課題を解決し得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−111192号公報
【特許文献2】特開昭61−111198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RO膜やNF膜の膜フラックスの低下を引き起こすスライムの増殖は、膜供給水中の有機物を細菌などの微生物が資化、分解して増殖することによって引き起こされる。微生物の増殖には有機物のほか、窒素やリンが必須であり、これらが不足すると微生物は増殖できない。具体的には、生物が資化できる有機物(生物同化性有機炭素、AOC:Assimilable Organic Carbon)を完全に分解するためには、AOCに対して、少なくともAOC:N:P=100:10:2(重量比)の窒素とリンが必要である。したがって、AOC、窒素及びリンを、予めこの範囲よりも少なく、微生物が増殖できない程度の低濃度まで除去すればスライム発生の問題は起こらない。
【0007】
そこで、AOC、窒素及びリンの各因子について検討するに、まず、窒素については、たとえ検出限界以下にまで除去したとしても、大気中の窒素固定菌が窒素を固定し、固定された窒素を水中の微生物が利用するため、窒素の低減によるスライム防止は困難である。
【0008】
有機物、特に、AOCを極限まで除去すればスライムは増殖しないが、RO膜やNF膜等の膜処理では、膜供給水は膜面において通常5倍から10倍程度に濃縮されて濃縮水となるため、AOCも同様に濃縮されることから、膜供給水中に残存する極微量のAOCも膜面で濃縮されて有機物源となり、スライムが発生することになる。
例えば、AOC:N:P=100:15:3(重量比)となるよう、すべてのAOCを完全に除去するための必要量の窒素とリンを有機物含有水に添加して、一般栄養細菌を担持した生物活性炭処理を行っても、RO膜やNF膜のスライムは完全には防止できない。これは、生物活性炭処理水中に残存したわずかなAOCが、RO膜やNF膜の膜面において濃縮されたためと考えられる。
【0009】
半導体洗浄排水の回収技術において、TOCを除去してTOC欠乏状態を維持することにより微生物の増殖を抑制することが特許文献1,2に提案されているが、膜面でのAOCの濃縮は避けがたく、現状では、より高度にスライムを防止する技術が求められている。一方、リンの低減による膜面のスライム発生抑制についてはこれまで十分な検討がなされていない。
【0010】
このようなことから、窒素や有機物を低減しても膜面のスライムは防止し得ない。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑みて、有機物含有水の膜処理において、殺菌剤を用いることなくスライムの発生を抑制して、膜面のバイオファウリングを防止する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、十分量の窒素源の存在下、AOCの完全分解には僅かに不足する極微量のリンを存在させることによって、膜面のスライム発生をほぼ完全に防止できることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] 有機物含有水を膜処理する方法において、リンを欠乏させることにより集積される貧栄養細菌によって、該有機物含有水を生物処理し、該生物処理水を膜分離処理することを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【0014】
[2] [1]において、前記生物処理に供する有機物含有水のAOC濃度及びリン濃度が、AOC:P=100:0.5以上2未満(重量比)となるように、該有機物含有水にリン源を添加することにより前記貧栄養細菌を集積することを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【0015】
[3] [1]又は[2]において、前記有機物含有水のリン濃度がAOC濃度に対して0.5重量%未満であることを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【0016】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記膜が逆浸透膜]又は[精密濾過膜であることを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【0017】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記貧栄養細菌による生物処理が、生物活性炭処理であることを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【0018】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記有機物含有水が半導体製造工程排水]又は[液晶製造工程排水であり、前記膜分離処理の処理水を再利用することを特徴とする有機物含有水の膜処理方法。
【0019】
[7] 有機物含有水を膜処理する装置において、リンを欠乏させることにより集積される貧栄養細菌によって、該有機物含有水を生物処理する生物処理手段と、該生物処理手段の処理水を膜分離処理する膜分離手段とを有することを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【0020】
[8] [7]において、前記貧栄養細菌を集積するために、前記生物処理手段に導入される有機物含有水のAOC濃度及びリン濃度が、AOC:P=100:0.5以上2未満(重量比)となるように、該有機物含有水にリン源を添加するリン源添加手段を有することを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【0021】
[9] [7]又は[8]において、前記有機物含有水のリン濃度がAOC濃度に対して0.5重量%未満であることを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【0022】
[10] [7]ないし[9]のいずれかにおいて、前記膜分離手段が逆浸透膜分離手段]又は[精密濾過膜分離手段であることを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【0023】
[11] [7]ないし[10]のいずれかにおいて、前記貧栄養細菌による生物処理手段が、生物活性炭塔であることを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【0024】
[12] [7]ないし[11]のいずれかにおいて、前記有機物含有水が半導体製造工程排水]又は[液晶製造工程排水であり、前記膜分離手段の処理水を回収して再利用する手段を有することを特徴とする有機物含有水の膜処理装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、有機物含有水の膜処理において、殺菌剤を用いることなく、膜面のスライム、それによるバイオファウリングを効果的に防止して、長期に亘り安定かつ効率的な処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
<メカニズム>
有機物含有水、特に半導体や液晶製造工程から排出される有機性排水は、ほとんどの場合、有機物の生物処理には、窒素およびリンが不足しており、AOC除去のためには窒素源とリン源を添加する必要がある。通常、AOCを完全に分解するには、AOC:N:P=100:10:2(重量比)の窒素、リンが必要である。
本発明では敢えて、AOC:P=100:<2(BOD:P=100:0.2以上〜0.8未満)(重量比)という、有機物分解には僅かにリンが不足するような条件となるように有機物含有水にリン源を添加する。
このように、AOCを完全に分解するには僅かに不足する量のリンを存在させて原水を通水することによって、生物処理槽内に貧栄養細菌を集積させ、生物処理水中には少量のAOCは残留することになるが、リンはほぼ完全に除去されるようになるため、たとえ、その後の膜分離処理で濃度分極により膜面にAOCが10〜20倍程度に濃縮されたとしても、リンが不足するため微生物は増殖せず、この結果スライムの発生は防止される。
即ち、有機物分解には僅かにリンが不足するような条件での生物処理では、AOCが有意量残存する状況でリンが不足すると、微生物は必須の栄養素であるリンをすべて摂取するようになる。このため、生物処理水中のリン濃度は極端に低下し、通常の方法では検出できないほどの低濃度となる。
なお、このようなリン欠乏状態で集積される貧栄養細菌としては、Pseudomons mosseliiやSandaracinobacter sibiricusなどが好ましい。
【0028】
<有機物含有水>
本発明で処理する有機物含有水(以下「原水」と称す場合がある。)としては、AOC:P=100:<2となるようにリン源を添加するために、リン濃度がAOC濃度に対して0.5重量%以下、特に0.4重量%以下のものが好ましい。
このような有機物含有水としては、半導体製造工程排水や液晶製造工程排水が挙げられる。通常、これらの有機性排水は、AOC濃度:5〜30mg/L、窒素濃度:0〜200mg/L、リン濃度:0〜0.6mg/Lであり、必要に応じて窒素源とリン源を添加して生物処理に供する。
【0029】
なお、原水は、生物処理に先立ち、原水中のSSを除去するための凝集、固液分離処理或いは濾過処理を行ってもよい。
【0030】
<リン源・窒素源>
原水に添加するリン源としては、正リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等、リン酸イオンを含むものであれば何れでもよい。また、窒素源を兼ねるリン源としてリン酸アンモニウムを用いることもできる。リン源として正リン酸を使用する場合、超純水系排水ではpHが低下するため、必要に応じて生物処理に適当なpH値にpH調整する。
【0031】
リン源は、リン源添加後の原水のリン濃度がAOC:P=100:<2(重量比)となるように添加する。この範囲よりもリン濃度が高いと、リンを欠乏させて生物処理水のリン濃度を検出限界以下とすることによる本発明のスライム防止効果を確実に得ることができない。リン源添加後のリン濃度は、AOC:P=100:<2(重量比)であればよく、過度に低くするとAOC残留量が多くなるため、通常AOC:P=100:0.5〜1.9(重量比)の範囲となるようにすることが好ましい。
【0032】
また、原水の窒素濃度がAOC:N=100:10(重量比)よりも少ない場合は、原水に適宜窒素源を添加する。窒素源としては、尿素、硫酸アンモニウム等を用いることができる。窒素源は、窒素源添加後の原水の窒素濃度がAOC:N=100:2.5〜10(重量比)となるように添加することが好ましい。
【0033】
なお、水中のAOC、P、Nの各濃度は、常法に従って測定することができ、例えば、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0034】
<生物処理>
リン源と必要に応じて窒素源を添加してAOC:N:P(重量比)を、上記の好適な範囲に調整した原水を生物処理する生物処理手段としては、特に制限はないが、このようなリン欠乏状態において選択的に増殖する貧栄養細菌を保持してその活性を有効に発揮させるのに有利であることから、生物活性炭塔が好ましい。
【0035】
生物活性炭塔に充填する活性炭種としては石炭系、椰子殻系等のいずれでも良く、粒状、球状、破砕状の活性炭や、造粒炭、成形炭、クロス状、繊維状等、その形状、種類等にも特に制限はない。
【0036】
生物活性炭塔への活性炭の充填方式は、流動床、膨張層、固定床などのいずれでも良いが、菌体のリークが少ないところから、固定床が好ましい。生物活性炭塔の通水方式は上向流通水であっても下向流通水であっても良い。
【0037】
生物活性炭塔への通水速度は、生物活性炭塔の滞留時間(HRT)として2〜30分、特に5〜15分程度を確保できる程度とするのが好ましい。生物活性炭塔の滞留時間が短いと、有機物の除去が不安定となり、長過ぎると溶存酸素(DO)が不足して腐敗するおそれがある。
また、生物活性炭塔の給水の水温は10〜35℃、pHは5〜9、特に4〜8であることが好ましく、従って、必要に応じて、生物活性炭塔の前段に熱交換器やpH調整剤添加手段を設けることが望ましい。
【0038】
なお、生物活性炭塔への通水にあたっては、予め、曝気等により原水に電子受容体として十分量のDOを与えておく必要がある。電子受容体は、安価に入手できるものであれば、過酸化水素や空気や純酸素でもよい。または、散水濾床等の方法で供給してもよい。DOは、生物処理における水中濃度として1〜4mg/L程度とすることが好ましい。
【0039】
生物活性炭塔等の生物処理手段には、原水の通水に先立ち、予め貧栄養細菌を植種してもよいが、活性汚泥等を植種しても、リン濃度の低い原水を通水することにより経時的に貧栄養細菌を選択的に増殖させることができる。
【0040】
本発明においては、このように、リンが不足する条件下での貧栄養細菌による生物処理で、AOC10mg/L以下、例えば2〜4mg/Lで、若干量のAOCが残留するものの、リンは検出限界値(0.2μg/L)以下の極低濃度の生物処理水を得ることが好ましい。生物処理水は、次いで膜処理に供されるが、膜処理に先立ち、固液分離、或いは凝集、固液分離処理を行ってもよい。
【0041】
<膜処理>
本発明における膜処理に用いる分離膜には特に制限はなく、RO膜、NF膜、UF膜等、各種の分離膜を用いることができる。
【0042】
特に、本発明は、RO膜やNF膜による膜分離に好適である。RO膜やNF膜による膜分離では、濃度分極により膜面にAOCが10〜20倍程度に濃縮され、本発明を採用しない場合にはスライムが発生し易い条件となるためである。
本発明では、殺菌剤の使用が不要であるから膜の劣化を防止できる。
【0043】
各分離膜による膜処理条件には特に制限はないが、例えばRO膜であればNaCl除去率98%以上、特に99%以上の高脱塩率のRO膜を用いるのが、生物処理水中に残留するAOCを高度に除去する上で好ましい。
また、膜分離装置の安定運転を継続するために水回収率は50〜85%程度とするのが好ましい。
【0044】
生物処理水の膜分離処理で得られた処理水(膜透過水)は、通常、必要に応じて更に紫外線酸化、イオン交換等の処理を行った後、回収され、原水の発生場所である半導体製造工程や液晶製造工程、或いはその他の場所に送給されて再利用される。
【0045】
本発明によれば、有機物含有水の膜処理において、殺菌剤を用いることなく膜面のバイオファウリングを防止することができるが、殺菌剤を用いる膜処理を何ら排除するものではない。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、水中のAOC濃度、窒素濃度、リン濃度は、全て上水試験法に従って測定した。
【0047】
[実施例1]
AOC濃度約20mg/L、窒素濃度5.6mg/L、およびリン濃度10μg/Lの半導体製造工程の排水を原水として、流量250m/hrで生物活性炭処理した後、RO膜分離処理した。原水には、リン源としてリン酸ナトリウムを、添加後のリン濃度が0.1mg/Lとなり、AOC:P=100:0.5(重量比)となるように添加した。
用いた生物活性炭塔及びRO膜分離装置の仕様及び処理条件は以下の通りである。
【0048】
<生物活性炭塔>
生物担体:球状活性炭
型式:固定床
通水:上向流通水
水温:29℃
HRT:10min
電子受容体:純O
貧栄養細菌:通水開始時に植種なし
【0049】
<RO膜分離装置>
RO膜:日東電工社製「ES15−D8」
(NaCl除去率99.9%、0.25MPaの低圧RO膜)
水回収率:85%
【0050】
その結果、生物活性炭塔の処理水のAOC濃度は5.0mg/L、リン濃度は0.005μg/Lで、RO膜分離装置の処理水のTOC濃度は1μg/Lであり、この処理水は半導体洗浄水として再利用することができた。
また、RO膜分離装置において、運転開始直後の運転圧力は0.75MPaであったが、1ヶ月の通水後、運転圧力は0.77MPaとなり、0.02MPaの圧力上昇が認められた。
これらの結果を表1にまとめる。
【0051】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
原水へのリン源の添加量を表1に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様に処理を行い、結果を表1に示した。
なお、いずれもRO膜分離装置の処理水のTOC濃度は1μg/Lであり、半導体洗浄水用に再利用することができた。
【0052】
[比較例5]
実施例1において、生物活性炭塔を用いず、原水を直接RO膜分離装置に通水して処理したこと以外は同様に処理を行い、結果を表1に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より、原水にリン源をAOCに対して微量添加した場合(実施例1〜4)は、リン源をAOCに対して十分量添加した場合(比較例3,4)と比較して、生物活性炭処理水のAOC濃度は増加するものの、リンの除去率は増加し、結果として、後段のRO膜分離装置の圧力上昇を抑えることができることが分かる。
なお、実施例1〜4及び比較例1〜5では、RO膜分離装置を用いて膜分離処理を行ったが、RO膜分離装置の代りにNF膜分離装置(日東電工社製「NTR−719HF」)を用いた場合も同様な結果が得られた。