(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射性ストロンチウム汚染水のストロンチウム濃度に基づいて前記放射性ストロンチウムの目標除去率を決定し、前記目標除去率に応じた量の非放射性ストロンチウム及びカルシウムが前記汚染水に混合された、海水としての被処理溶液を準備する第1工程と、
前記被処理溶液にリン酸カルシウムを含むリン化合物を添加して前記放射性ストロンチウム及び非放射性ストロンチウムを含む沈殿を生じさせ、前記沈殿を固液分離する第2工程と、
を有することを特徴とする放射性ストロンチウムの分離方法。
低レベル放射性ストロンチウム汚染水に対して、放射性ストロンチウムの目標除去率に応じて、少なくとも非放射性ストロンチウム及びカルシウムが混合された、海水としての被処理溶液を貯留する貯留手段と、
前記被処理溶液にリン化合物を添加する添加手段と、
リン酸カルシウムを含むリン化合物の添加によって生じる前記放射性ストロンチウム及び非放射性ストロンチウムを含む沈殿を固液分離する固液分離手段と、
を具備することを特徴とする放射性ストロンチウムの分離システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の従来例は、リン酸塩のストロンチウム成分が放射性ストロンチウム(
90Sr)のみに由来するものであるため、低レベル放射能汚染水を対象とする場合には特に、リン酸塩(
90SrPO
4)の濃度を高めて溶解度に到達させることが難しく、所定の除去率を満足するようにストロンチウムを分離することができなかった。リン酸塩を沈殿させることができたとしても、かかる沈殿が微粒子化してしまい、そのようなコロイド状の微粒子の回収に、著しいコストの増加や工程の複雑化を要していた。
【0005】
本発明は、上記の従来技術に鑑み、低レベル放射性ストロンチウム被処理溶液であっても、放射性ストロンチウムを効率よく分離でき所定の除去率を満足できる放射性ストロンチウムの分離方法及び分離システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の態様は、放射性ストロンチウム汚染水のストロンチウム濃度に基づいて前記放射性ストロンチウムの目標除去率を決定し、前記目標除去率に応じた量の非放射性ストロンチウム
及びカルシウムが前記汚染水に混合された
、海水としての被処理溶液を準備する第1工程と、前記被処理溶液にリン酸カルシウムを含むリン化合物を添加して前記放射性ストロンチウム及び非放射性ストロンチウムを含む沈殿を生じさせ、前記沈殿を固液分離する第2工程と、を有することを特徴とする放射性ストロンチウムの分離方法にある。
【0007】
かかる態様によれば、リン化合物を添加する被処理溶液を、除去すべき放射性ストロンチウム(
90Sr)の同位体である非放射性ストロンチウム(例えば
84Sr)が少なくとも含まれたものとすることで、低レベル放射能汚染水であっても、リン酸塩(
90Sr
84SrPO
4)の濃度を高めて溶解度に到達させ好適に沈殿させることができ、被処理溶液中での沈殿の微粒子化を抑制して、簡易な工程で効率よく固液分離できる。しかも、被処理溶液に少なくとも含まれる非放射性ストロンチウム量が、目標除去率に応じて決定されたものであるため、放射性ストロンチウムに対して過不足を生じることもなくなる。よって、上記のように放射性ストロンチウムと非放射性ストロンチウムとを沈殿させ固液分離した上澄み液に、ストロンチウムが過度に残存する事態も回避できるので、上澄み液を更にカラム吸着処理する等の追加プロセスも適用しやすくなる。
【0008】
ここで、前記第1工程では、前記被処理溶液としてカルシウムが更に混合されたものを準備することが好ましい。これによれば、カルシウムがストロンチウムとの共沈効果が高いことを利用して、放射性ストロンチウムを簡易な工程で効率よく固液分離できる。また、入手や取り扱いが容易なカルシウムが更に混合される分、被処理溶液に少なくとも含まれる非放射性ストロンチウムの量を少なくできる。
【0009】
また、前記第2工程では、前記放射性ストロンチウム、非放射性ストロンチウム及びカルシウムを含む共沈殿CaSrPO
4を生じさせることが好ましい。これによれば、リン酸塩の共沈殿(Ca
90Sr
84SrPO
4)の濃度を高めて溶解度に到達させ好適に沈殿させることができ、簡易な工程で更に効率よく固液分離できる。
【0011】
上記目的を達成する本発明の他の態様は、低レベル放射性ストロンチウム汚染水に対して
、放射性ストロンチウムの目標除去率に応じて、少なくとも非放射性ストロンチウム
及びカルシウムが混合された
、海水としての被処理溶液を貯留する貯留手段と、前記被処理溶液にリン化合物を添加する添加手段と、リン化合物の添加によって生じる前記放射性ストロンチウム及び非放射性ストロンチウムを含む沈殿を固液分離する固液分離手段と、を具備することを特徴とする放射性ストロンチウムの分離システムにある。かかる態様によれば、リン酸カルシウムを含むリン化合物を添加する被処理溶液を、除去すべき放射性ストロンチウム(
90Sr)の同位体である非放射性ストロンチウム(例えば
84Sr)が少なくとも含まれたものとすることで、低レベル放射能汚染水であっても、リン酸塩(
90Sr
84SrPO
4)の濃度を高めて溶解度に到達させ好適に沈殿させることができ、被処理溶液中での沈殿の微粒子化を抑制して、簡易な工程で効率よく固液分離できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の放射性ストロンチウムの分離方法及び分離システムによれば、リン化合物を添加する被処理溶液を、除去すべき放射性ストロンチウム(
90Sr)の同位体である非放射性ストロンチウム(例えば
84Sr)が少なくとも含まれたものとすることで、低レベル放射能汚染水であっても、リン酸塩の濃度を高めて溶解度に到達させ好適に沈殿させることができ、被処理溶液中での沈殿の微粒子化を抑制して、簡易な工程で効率よく固液分離できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る放射性ストロンチウムの分離方法の一例を示す概要図である。本実施形態の分離方法は、放射性ストロンチウム汚染水のストロンチウム濃度に基づいて放射性ストロンチウムの目標除去率を決定し、目標除去率に応じた量の非放射性ストロンチウムが汚染水に混合された被処理溶液を準備する第1工程(ステップS1〜S4)と、被処理溶液にリン化合物を添加して放射性ストロンチウム及び非放射性ストロンチウムを含む沈殿を生じさせ、沈殿を固液分離する第2工程(ステップS5〜S6)と、を有する。以下、各ステップについて詳述するが、本発明の要旨を変更しない範囲であれば、これらのステップの適宜順番を入れ替え、また同時に実施するようにしてもよい。
【0016】
ステップS1では、放射性ストロンチウム汚染水中のストロンチウムの濃度に基づいて放射性ストロンチウムの目標除去率を決定する。ここでは、処理後の放射性ストロンチウム濃度に対する処理前の放射性ストロンチウム濃度の比(処理前の濃度/処理後の濃度)で表される除染係数を算出し、これを用いたが、目標除去率の形式は前記の例に限定されない。処理前の放射性ストロンチウム濃度が変動し得ない、また、過去に算出した目標除去率を適用できる等、ストロンチウム濃度や目標除去率として既知の値を用いることができる場合には、フロー実行の度にストロンチウム濃度の測定や目標除去率の算出を行う必要は必ずしも無く、これらの測定や算出を省略し、また、所定間隔で行うものとすることができる。
【0017】
ここで、本実施形態は、特に低レベル放射性ストロンチウム汚染水(例えば数百Bq/L)を対象としている。すなわち、従来法においては放射性ストロンチウムの分離が特に困難であった低レベル放射性ストロンチウム汚染水であっても、本実施形態によれば、簡易な工程で効率よく固液分離できる。なお、本実施形態は、低レベル放射性ストロンチウム汚染水に限られず、もちろん高レベル放射性ストロンチウム汚染水を対象とすることも可能である。
【0018】
ステップS2では、低レベル放射性ストロンチウム汚染水を準備し、ステップS3では、ステップS1において決定した目標除去率に応じた量の非放射性ストロンチウムをステップS2において準備した低レベル放射性ストロンチウム汚染水に対して新たに混合する。そして、ステップS4では、この混合液を適宜撹拌することで被処理溶液とする。本発明の要旨を変更しない限りにおいて、非放射性ストロンチウムを低レベル放射性ストロンチウム汚染水に配合できればよく、非放射性ストロンチウムのイオンが含まれる溶液をそのまま配合してもよいし、非放射性ストロンチウムのイオンが含まれる溶液を所定の溶媒で希釈して、かかる希釈溶液を配合するようにしてもよい。
【0019】
このように本実施形態は、ストロンチウムを除去すべき汚染水にあえてストロンチウムを添加する、具体的には、リン化合物を添加する被処理溶液を、除去すべき放射性ストロンチウム(
90Sr)の同位体である非放射性ストロンチウム(例えば
84Sr)が少なくとも含まれたものとするという知見に基づいて成されており、これによれば、低レベル放射能汚染水であっても、リン酸塩(
90Sr
84SrPO
4)の濃度を高めて溶解度に到達させ好適に沈殿させることができる。かかる理由について具体的に詳述する。
【0020】
溶液中のリン酸塩(SrPO
4)の溶解度をSとし、放射性ストロンチウム(
90Sr)濃度をW
0とする。なお、初期状態である放射性ストロンチウム汚染水による放射能は、Rを定数とするとW
0・Rとなる。ここで、本実施形態では、例えば溶解度Sを与えるストロンチウム濃度のX倍の非放射性ストロンチウム(例えば
84Sr)が新たに混合される。非放射性ストロンチウムの添加の前後で放射性ストロンチウム濃度は変化せず、放射能W
0・Rに変化はない一方、放射性ストロンチウムと非放射性ストロンチウムとのリン酸塩(
90Sr
84SrPO
4)の濃度は溶解度Sを大きく超えて、溶解度Sを与えるストロンチウム濃度のX倍に相当する分の沈殿が得られることとなる。このリン酸塩(
90Sr
84SrPO
4)を除去することにより、被処理溶液における放射性ストロンチウム濃度をW
0/Xとすることができ、すなわち、除染係数Xを達成できる。一例として、溶液中のリン酸塩(Sr
3(PO
4)
2)の溶解度が0.11ppmであれば、かかる溶解度を与えるストロンチウム濃度0.02ppmの10倍の非放射性ストロンチウム0.2ppmを新たに混合することで、除染係数10を達成できる。
【0021】
そして、本実施形態によれば、溶解度Sを与えるストロンチウム濃度のX倍に相当する分のリン酸塩(Sr
3(PO
4)
2)を沈殿させることができるため、被処理溶液中での沈殿の微粒子化を抑制して、簡易な工程で効率よく固液分離できる。しかも、ステップS3において被処理溶液に新たに添加した非放射性ストロンチウム量が、ステップS1において決定した目標除去率に応じたものであるため、放射性ストロンチウムに対して過不足を生じることもなくなる。よって、上記のように放射性ストロンチウムと非放射性ストロンチウムとを沈殿させ固液分離した上澄み液にストロンチウムが過度に残存する事態も回避できるので、後のステップで、上澄み液を更にカラム吸着処理する等の追加プロセスも適用しやすくなる。
【0022】
従って、以降のステップS5では、ステップS4で準備した被処理溶液にリン化合物を添加して放射性ストロンチウム及び非放射性ストロンチウムを含むリン酸塩を沈殿させ、ステップS6で、ステップS5で得られた沈殿を固液分離する。使用可能なリン化合物としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、メタリン酸及びポリリン酸等が挙げられるが、前記の例に限定されない。リン化合物は前記のものを単独で使用してもよく併用してもよい。ただし、使用するリン化合物の種類によっては、水酸化ナトリウム等の強塩基を併用し、被処理溶液のpHを調節しながら、又は被処理溶液のpHを調節した後で、リン化合物を添加するのが好ましい。
【0023】
図2は、リン化合物の種類を異ならせた場合におけるリン化合物の添加量に対するストロンチウム濃度の変化を示す図である。縦軸には、被処理溶液中のストロンチウム濃度(ストロンチウム濃度C/ストロンチウム初期濃度C
0)が表され、横軸には、リン化合物添加量が表されている。
【0024】
図示するように、リン酸二水素ナトリウム(弱酸性)を用いた場合には、リン化合物の添加量に応じたストロンチウム濃度C/C
0の低下は見られず、初期濃度の近傍を推移するが、リン酸三ナトリウム(弱塩基性)を用いた場合には、リン化合物の添加量に応じてストロンチウム濃度C/C
0が低下する。一方、リン酸二水素ナトリウム(弱酸性)を用いた場合でも、水酸化ナトリウム(強塩基性)を併用することにより、リン酸三ナトリウム(弱塩基性)を用いた場合のようにストロンチウム濃度C/C
0が低下する。つまりリン化合物の種類によっては、いわゆるpH調整剤の使用によりストロンチウムを好適に沈殿させることができるようになり、リン酸三ナトリウムに代表される、被処理溶液を中性からアルカリ性領域にできるリン化合物であれば、pH調整剤を使用せずともストロンチウムを好適に沈殿させることができる。
【0025】
ステップS6における固液分離としては、例えば液体サイクロンをはじめとする遠心分離法を用いることができる。本実施形態によれば、低レベル放射性ストロンチウム被処理溶液であっても多量の沈殿を得ることができ、被処理溶液におけるリン酸塩の微粒子化が抑制されるため、遠心分離のような簡易な工程で効率よく固液分離できる。
【0026】
ステップS6以降は、必要に応じて沈殿物を乾燥し減容させた上で、低レベル放射性物質として廃棄することができる。また、固液分離した被処理溶液の上澄み液を一時保管し、リン化合物の排出基準を満足するように凝集処理を施すこともできる。更に、上澄み液をストロンチウム吸着用のカラムに通過させるようにしてもよい。上記のように、被処理溶液に少なくとも含まれる非放射性ストロンチウム量が、目標除去率に応じて決定されたものであるため、放射性ストロンチウムに対して過不足を生じることもなくなり、固液分離後の上澄み液に非放射性ストロンチウムが過度に残存する事態が回避されている。よって、上澄み液を更にカラム吸着処理するプロセスも追加する場合においてカラム廃棄物が著しく増大することを防止できる。
【0027】
以上、本実施形態によれば、ストロンチウムを除去すべき汚染水にあえてストロンチウムを配合し、放射性ストロンチウム(
90Sr)の同位体である非放射性ストロンチウム(例えば
84Sr)が少なくとも含まれた被処理溶液とすることで、低レベル放射能汚染水であっても、リン酸塩(
90Sr
84SrPO
4)の濃度を高めて溶解度に到達させ好適に沈殿させることができ、被処理溶液中での沈殿の微粒子化を抑制して、簡易な工程で効率よく固液分離できる。
【0028】
(実施形態2)
図3は本発明の実施形態2に係る放射性ストロンチウムの分離方法の一例を示すフロー図である。本実施形態は、上記の実施形態1と比べて、第1工程では、被処理溶液としてカルシウムが更に混合されたものを準備し、第2工程では、放射性ストロンチウム、非放射性ストロンチウム及びカルシウムを含む共沈殿CaSrPO
4を生じさせる点が異なる。以下、異なる部分を中心に説明する。
【0029】
ステップS1〜S2は実施形態1と同様である。ここで、ステップS3として、非放射性ストロンチウムを混合するステップS3aと、カルシウムを混合するステップS3bと、を実施する。なお、ステップS3aとステップS3bとの順番は逆でもよく、同時に実施してもよい。本発明の要旨を変更しない限りにおいて、非放射性ストロンチウム及びカルシウムを低レベル放射性ストロンチウム汚染水に配合できればよく、非放射性ストロンチウムやカルシウムのイオンが含まれる溶液をそのまま配合してもよいし、非放射性ストロンチウムやカルシウムのイオンが含まれる溶液を所定の溶媒で希釈して、かかる希釈溶液を配合するようにしてもよい。リン化合物としてリン酸カルシウム等のカルシウムを含有するものを用いる場合には、リン化合物に含まれるカルシウムイオンを考慮して、ステップS1において決定された目標除去率に応じた量の非放射性ストロンチウムやカルシウムを混合することができる。
【0030】
ステップS4aでは、この混合液を適宜撹拌することで、目標除去率に応じた量の非放射性ストロンチウム及びカルシウムが汚染水に混合された被処理溶液とする。
図4は、カルシウムとストロンチウムとの共沈効果を説明する図である。図示するように、カルシウムはストロンチウムとの共沈効果が高く、カルシウムの有無以外を同条件とした場合において、数倍程度まで除染係数の向上を図ることができる。
【0031】
そして、実施形態1と同様のステップS5におけるリン化合物の添加により、ステップS6aでは、放射性ストロンチウム、非放射性ストロンチウム及びカルシウムを含む共沈殿CaSrPO
4を生じさせることができる。リン酸塩の共沈殿(Ca
90Sr
84SrPO
4)の濃度を高めて溶解度に到達させ好適に沈殿させることができ、ストロンチウムのリン酸塩が極めて微粒子化しにくくなって、簡易な工程でより効率よく固液分離できる。
【0032】
以上、本実施形態2によれば、カルシウムがストロンチウムとの共沈効果が高いことを利用して、放射性ストロンチウムを簡易な工程で効率よく固液分離できる。また、入手や取り扱いが容易なカルシウムが更に混合される分、被処理溶液に少なくとも含まれる非放射性ストロンチウムの量を少なくできる。
【0033】
(実施形態3)
図5は本発明の実施形態3に係る放射性ストロンチウムの分離方法の一例を示す概要図である。本実施形態は、上記の実施形態1と比べて、第1工程で、被処理溶液として放射性ストロンチウムが含まれた海水を準備する点が異なる。以下、異なる部分を中心に説明する。
【0034】
まず海水には、ナトリウム、マグネシウム及びカリウム等をはじめとして、数ppmの天然ストロンチウムイオンや、数百ppmのカルシウムイオンが含まれている。本実施形態は、この天然ストロンチウムイオンやカルシウムイオンを、上記の非放射性ストロンチウムやカルシウムとして機能させる点に着目したものである。
【0035】
これによれば、放射性ストロンチウム汚染水への非放射性ストロンチウムやカルシウムの添加量を少なくでき、本実施形態のように目標除去率によっては、上記のステップ2に相当する低レベル放射性汚染水を準備するステップや、ステップS3等に相当する非放射性ストロンチウムやカルシウムを添加するステップを省略できる。それでいて、低レベル放射性ストロンチウム被処理溶液であっても、放射性ストロンチウム、非放射性ストロンチウム及びカルシウムを含む共沈殿CaSrPO
4を生じさせることができ、ステップS6aで、この共沈殿を簡易な工程でより効率よく固液分離できる。
【0036】
図6は、海水中へのリン化合物(例えばNa
3PO
4)の添加に応じたストロンチウム、カルシウム及びマグネシウムの濃度(濃度C/初期濃度C
0)を示す図である。マグネシウムはストロンチウムとの共沈効果が弱い一方、リン化合物の添加に応じてストロンチウム濃度及びカルシウム濃度が同じような傾向で減少することから分かるように、ストロンチウムとの共沈効果の高いカルシウムを利用して、リン化合物の添加により共沈殿(Ca
90Sr
84SrPO
4)を好適に生成できる。
【0037】
なお、従来例においては、リン酸塩の沈殿を促進させるため、それ自体は公知であるポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸バンド(FeSO
4)等の沈殿剤を併用することがあるが、
図7に示すように、本実施形態においてアルミニウムや鉄等からなる沈殿剤を併用すると、ストロンチウムのリン酸塩を形成する前にリン成分が単独で沈殿してしまい、ストロンチウム濃度の除去率が低下する。このように、本実施形態は、アルミニウムや鉄等からなる沈殿剤を併用し得る従来例とは、根本的に異なるものである。
【0038】
海水中の天然ストロンチウムの量はほぼ一定である。また、放射性ストロンチウムが港湾内海水等に広く流出している場合には、被処理溶液としての海水に対する放射性ストロンチウム濃度をほぼ一定であると仮定でき、これにより、換算により、海水中のストロンチウム合計濃度を測定することで放射性ストロンチウム濃度を容易に求めることも可能になって、放射性ストロンチウム濃度の管理が極めて容易になる。
【0039】
ここで、本実施形態の分離方法を実現する分離システムの一例について説明する。
図8は、本実施形態の分離システムの概略構成を示す図である。
【0040】
本実施形態の分離システム1は、水路11からの海水が導入される油水分離器12と、油水分離器12を経た海水を送液するポンプ13と、ポンプ13によって海水が導入される貯留手段(沈殿槽14)と、沈殿槽14にリン化合物を添加するための添加手段(リン化合物タンク15及びポンプ16)と、目標除去率を決定するとともに目標除去率に応じて上記のポンプ13,16の動作を制御する制御手段17と、沈殿槽14を経た海水が導入される遠心分離器18と、遠心分離によって分離させた共沈殿(Ca
90Sr
84SrPO
4)を乾燥させ、低レベル放射性物質として排出する乾燥・固化装置19と、遠心分離による上澄み液が導入される吸着カラム20と、吸着カラム20を経た海水が保管される管理タンク21と、を具備している。なお、これらの各装置の間にはポンプが適宜配置されているが、かかるポンプの図示は省略されている。
【0041】
このように、分離システム1は、いわゆる沈殿法によるストロンチウム分離と吸着カラム20とのストロンチウム分離とを組み合わせて構成されている。上記のように、目標除去率に応じてポンプ13,16等の動作が制御されるため、遠心分離後の上澄み液に非放射性ストロンチウム等が過度に残存する事態を回避でき、後段に吸着カラムを配置してストロンチウム分離の万全を図ることができるとともにカラム廃棄物が著しく増大することも防止できる。なお、本実施形態では吸着カラム20が複数(
図8では2つ)用いられているが、前記の例に限定されない。吸着剤としては、シリカやゼオライト等、それ自体は公知のものが用いられる。
【0042】
沈殿槽14へのリン化合物(例えばNa
3PO
4)の添加が多くなるほど海水中のリン濃度が高くなりやすいが、リン濃度の所定の排出基準(例えば8ppm以下)を目標として、管理タンク21において一時保管され公知の凝集剤が添加される。また、管理タンク21を経た海水は、水路11に戻される。
【0043】
遠心分離器18における遠心分離は、例えば6000ppmで10分間行うことができる。これにより、
図9(a)に示すように、各種のリン化合物を用いた何れの場合でも、上澄み液に対して数質量%〜十数質量%の共沈殿(Ca
90Sr
84SrPO
4)が分離される。乾燥・固化装置19での乾燥温度は、例えば60℃とすることができ、これにより、
図9(b)に示すように、沈殿物を約1/10に減容でき低レベル放射性物質として廃棄できる。