特許第6533114号(P6533114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533114
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】泡立ち測定装置および泡立ち測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/04 20060101AFI20190610BHJP
【FI】
   G01N33/04
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-149940(P2015-149940)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-32316(P2017-32316A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】魚住知弘
(72)【発明者】
【氏名】岡崎正典
(72)【発明者】
【氏名】花澤智仁
(72)【発明者】
【氏名】村上元威
(72)【発明者】
【氏名】溝口裕
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−095408(JP,A)
【文献】 特開平05−261026(JP,A)
【文献】 米国特許第05539288(US,A)
【文献】 特開2008−224468(JP,A)
【文献】 特開平02−287235(JP,A)
【文献】 実開昭57−054284(JP,U)
【文献】 実開昭57−109784(JP,U)
【文献】 特開2000−321253(JP,A)
【文献】 吉川貴士,食品工業における泡立ちと泡の安定性の最新評価法,食品と開発,2014年 4月 1日,Vol.49,No.4,PP.33-34
【文献】 奥山正一郎ほか,コーンプレート式粘度計のホイップクリームの物性評価への応用,日本食品工学会誌,1995年12月,Vol.42,No.12,PP.969-976
【文献】 辻政雄、堀内久弥,生クリームのホイップ中におけるインピーダンス変化の測定,日本食品工業学会誌,1985年12月,Vol.32,No.12,PP.889-905
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/04
A23C 13/00
A23L 9/00
A47J 43/044
A47J 43/046
A47J 43/07
A23P 30/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状乳化物の泡立ち状態を測定する泡立ち測定装置であって、前記液状乳化物を泡立てる泡立て部と、前記液状乳化物の液面高さを測定する液面高さ測定部と、前記液面高さ測定部で測定する液面高さの時間経過に伴う変動割合を演算する演算部と、前記演算された変動割合の正負の符号が反転した時、前記液状乳化物の泡立てが終了した旨の終了信号を出力する制御部と、を具備することを特徴とする泡立ち測定装置。
【請求項2】
前記変動割合は、前記液面高さの単位時間当たりの変動量と、この変動量から一次回帰式を演算したものであり、前記終了信号を出力する制御部は、前記演算された一次回帰式の回帰係数の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の泡立ち測定装置。
【請求項3】
前記液面高さは、所定時間毎に測定された液面高さの連続する所定数の平均値を用いて測定毎に移動平均を計算したものであり、前記終了信号を出力する制御部は、得られた移動平均の一次回帰式の回帰係数の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする請求項2に記載の泡立ち測定装置。
【請求項4】
前記一次回帰式の回帰係数の連続する所定数の移動平均を求め、前記制御部は得られた回帰係数の移動平均の値の正負の符号が反転した時に、前記終了信号を出力することを特徴とする請求項2に記載の泡立ち測定装置。
【請求項5】
前記泡立てられている液状乳化物の硬さを測定する測定部を有し、前記終了信号を出力する制御部は、前記液状乳化物の硬さが所定の硬さ以上に硬くなった後に、泡立て終了信号を出力することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の泡立ち測定装置。
【請求項6】
泡立てられている液状乳化物の液面高さを測定する工程と、前記液面高さ測定工程により得られた液面高さの時間経過に伴う変動割合を演算する工程と、を有することを特徴とする泡立ち測定方法。
【請求項7】
前記変動割合を演算する工程により得られた変動割合の正負の符号が反転した時に、前記液状乳化物の泡立ての終了を示す信号を出力する工程を有することを特徴とする請求項6に記載の泡立ち測定方法。
【請求項8】
前記変動割合は、前記液面高さの単位時間当たりの変動量と、この変動量から一次回帰式を演算したものであり、前記終了信号を出力する工程は、前記演算された一次回帰式の回帰係数の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする請求項7に記載の泡立ち測定方法。
【請求項9】
前記液面高さは、所定時間毎に測定された液面高さの連続する所定数の平均値を用いて測定毎に移動平均を計算したものであり、前記終了信号を出力する工程は、得られた移動平均の一次回帰式の回帰係数の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする請求項8に記載の泡立ち測定方法。
【請求項10】
前記一次回帰式の回帰係数の連続する所定数の移動平均を求め、得られた回帰係数の移動平均の値の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする請求項8に記載の泡立ち測定方法。
【請求項11】
前記泡立てられている液状乳化物の硬さを測定する工程を有し、前記終了信号を出力する工程は、前記液状乳化物の硬さが所定の硬さ以上に硬くなった後に泡立て終了信号を出力することを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか一項に記載の泡立ち測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状乳化物の泡立ち状態を測定する泡立ち測定装置、および泡立ち測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液状乳化物であるホイッピングクリームをホイップドクリームに泡立てる際、泡立て初期ではホイッピングクリームに空気が大きな気泡として混入し、破泡する。泡立て時間が経過するにしたがって、ホイッピングクリーム中に含まれる脂肪球皮膜が壊れ、遊離脂肪が増加して粘度が上昇すると共に、取り込まれる空気量も増大し、体積が増大していく。さらに泡立て時間が経過すると、混入した気泡が細分化され、取り込まれる空気の増加量も減少し、体積が最大となって、ホイップドクリームとしては、最適な状態となる。その後、体積がやや減少し、硬さが最大となり、さらに泡立てすることで、体積および硬さは減少する。
【0003】
ホイップドクリームが最適状態となるように泡立て作業を終了する場合には、泡立て作業を中断して体積および硬さを測定して最適状態を導き出す必要がある。このため、測定毎に泡立て作業を中断する必要があり、泡立ての作業効率が低下する。さらに、測定の都度、泡立て作業を中断すると、連続的に泡立てしたホイップドクリームと比較して、ホイッピングクリームの温度変化などの影響により、物性が異なってしまう場合がある。
そこで、泡立て作業者の技量に左右されることなく、泡立て作業を最適状態で終了するために、泡立て状態を自動的に測定する方法が開示されている。
【0004】
特許文献1には、ホイッパーのモータ駆動電流について、ホイップ初期の電流値とホイップ終点の電流値の差を設定値とすることにより、ホイップ初期の電流値が変動しても正確なホイップ終点制御ができる終点制御方法が開示されている。
特許文献2には、モータ電流の一次微分および/または二次微分の値に基づいて、モータのトルクが最大値となるとき、または最大値をとる直前にホイップを停止するフードプロセッサが開示されている。
特許文献3には、ホイップドクリームに音波を発信し、それによって得られる音圧を周波数解析して、ホイップ状態を解析し、ホイップ状態に応じて泡立て作業を終了する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−13347号公報
【特許文献2】特開平5−261026号公報
【特許文献3】特開2000−321253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホイップドクリームは、微細な気泡を取り込みホイップドクリームとして最も良好な泡立て状態で体積は最大となるものの、粘度は泡立て作業の継続によりさらに増大する。そして、更なる泡立て作業の継続により、体積および粘度が低下する。
このことから、特許文献1、2に記載のような泡立て時のモータの駆動をモニタリングする方法では、ホイップドクリームの粘度が最大となる時点で既に泡立てし過ぎた状態であり、最も良好な泡立て状態で泡立て作業の終了ができない。また、特許文献2のようにモータ電流の二次微分を用いる場合には、粘度が最大になる前にホイップを終了できたとしても、上述したようにホイップの停止時期は粘度の情報のみに基づいては決定できないため、好適なときにホイップを停止することができない。
一方、所定の周波数の音圧を周波数解析する特許文献3では、測定誤差を考慮すると、実際のホイップドクリームの最も良好な泡立て状態を過ぎてから、その最適なホイップ状態があったことを解析する。このことにより、最適なホイップ状態を解析することで泡立て作業を終了しても、既に泡立てしすぎた状態となっており、最も良好な泡立て状態が得られないおそれがある。さらに、特許文献3では、外部との音の干渉を生じずに音圧を測定するための特殊な泡立て装置が必要となり、使い勝手の向上が望まれている。
本発明は、このような点に鑑み、液状乳化物の泡立ち状態を簡便かつ精度よく測定する泡立ち測定装置と、泡立ち測定方法と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の手段を含む。
(1)液状乳化物の泡立ち状態を測定する泡立ち測定装置であって、前記液状乳化物を泡立てる泡立て部と、前記液状乳化物の液面高さを測定する液面高さ測定部と、前記液面高さ測定部で測定する液面高さの時間経過に伴う変動割合を演算する演算部と、前記演算された変動割合の正負の符号が反転した時、前記液状乳化物の泡立てが終了した旨の終了信号を出力する制御部と、を具備することを特徴とする泡立ち測定装置。
(2)前記変動割合は、前記液面高さの単位時間当たりの変動量と、この変動量から一次回帰式を演算したものであり、前記終了信号を出力する制御部は、前記演算された一次回帰式の回帰係数の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする上記(1)に記載の泡立ち測定装置。
(3)前記液面高さは、所定時間毎に測定された液面高さの連続する所定数の平均値を用いて測定毎に移動平均を計算したものであり、前記終了信号を出力する制御部は、得られた移動平均の一次回帰式の回帰係数の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする上記(2)に記載の泡立ち測定装置。
(4)前記一次回帰式の回帰係数の連続する所定数の移動平均を求め、前記制御部は得られた回帰係数の移動平均の値の正負の符号が反転した時に、前記終了信号を出力することを特徴とする上記(2)に記載の泡立ち測定装置。
(5)前記泡立てられている液状乳化物の硬さを測定する測定部を有し、前記終了信号を出力する制御部は、前記液状乳化物の硬さが所定の硬さ以上に硬くなった後に、泡立て終了信号を出力することを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の泡立ち測定装置。
(6)泡立てられている液状乳化物の液面高さを測定する工程と、前記液面高さ測定工程により得られた液面高さの時間経過に伴う変動割合を演算する工程と、を有することを特徴とする泡立ち測定方法。
(7)前記変動割合を演算する工程により得られた変動割合の正負の符号が反転した時に、前記液状乳化物の泡立ての終了を示す信号を出力する工程を有することを特徴とする上記(6)に記載の泡立ち測定方法。
(8)前記変動割合は、前記液面高さの単位時間当たりの変動量と、この変動量から一次回帰式を演算したものであり、前記終了信号を出力する工程は、前記演算された一次回帰式の回帰係数の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする上記(7)に記載の泡立ち測定方法。
(9)前記液面高さは、所定時間毎に測定された液面高さの連続する所定数の平均値を用いて測定毎に移動平均を計算したものであり、前記終了信号を出力する工程は、得られた移動平均の一次回帰式の回帰係数の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする上記(8)に記載の泡立ち測定方法。
(10)前記一次回帰式の回帰係数の連続する所定数の移動平均を求め、得られた回帰係数の移動平均の値の正負の符号が反転した時に信号を出力することを特徴とする上記(8)に記載の泡立ち測定方法。
(11)前記泡立てられている液状乳化物の硬さを測定する工程を有し、前記終了信号を出力する工程は、前記液状乳化物の硬さが所定の硬さ以上に硬くなった後に泡立て終了信号を出力することを特徴とする上記(7)乃至(10)のいずれか一項に記載の泡立ち測定方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る泡立てシステムの概略構成を示す説明図。
図2】泡立てシステムを構成する泡立て測定装置の概略構成を示すブロック図。
図3】泡立てシステムによるホイッピングクリームの泡立ち状態を示すグラフで、横軸が泡立て時間、縦軸が硬さおよび液面高さ。
図4】ホイッピングクリームの泡立ち状態の外観状態を示す写真で、(A)は気泡が巻き込まれ始めた泡沫状態、(B)は気泡が細かくなって硬さが増し始めた状態。
図5】ホイッピングクリームの液面高さの移動平均値の一次回帰式の回帰係数を示すグラフで、横軸が泡立て時間、縦軸が回帰係数。
図6】前記ホイッピングクリームの移動平均値の一次回帰式の回帰係数の移動平均を示すグラフで、横軸が泡立て時間、縦軸が回帰係数の移動平均値。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明にかかる泡立てシステムの実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、液状乳化物としてホイッピングクリームを例示するが、これに限らず、例えば豆乳クリーム、卵白など、泡立て作業により気泡を取り込んで体積が増大する各種材料を対象とすることができる。
【0010】
図1は、本実施形態にかかる泡立てシステムを示したものである。泡立てシステム1は、泡立て部2と、増幅器26を介して接続される制御部3と記憶演算部4と、を備えている。
【0011】
泡立て部2は、筐体20と、ホイッピングクリームが投入される円筒状の容器21と、筐体20の上面に設けられ容器21を回転させるターンテーブル22と、容器21に投入されたホイッピングクリームを泡立てる攪拌子232を駆動する泡立て駆動部23と、容器21に投入されたホイッピングクリームの液面高さを測定する液面高さ測定部である高さセンサ24と、ホイッピングクリームの硬さを測定する硬さセンサ25と、を備えている。攪拌子232は容器21の回転中心から離れた位置に設けられており、高さセンサ24は容器21のほぼ中心の上部に設けられ、容器21の底部に対してほぼ垂直に測定用の光束が照射されるように調整されている。また、硬さセンサ25は、歪ゲージが細長い直方体の部材に貼り付けられたもので直方体の上端は筐体20に設けられた支持部材によって支えられ、下端は容器21の底面よりやや上に位置している。
ターンテーブル22は、容器21が載置される台座221が設けられており、台座221を回転させる駆動モータ222(図2参照)が接続されている。
泡立て駆動部23は、ホイッピングクリームを攪拌する攪拌子232を回転させるモータ231(図2参照)を備えている。
【0012】
制御部3は、アナログ/デジタル変換器31、中央演算処理装置、メモリを搭載したプログラマブルコントローラなどが用いられ、直接、または増幅器26を介して泡立て部2に接続されている。
記憶演算部4は、パーソナルコンピュータなどが用いられ、制御部3に接続されている。
【0013】
以上のような構成において、容器21に泡立てるべきホイッピングクリームを投入した状態で、制御部3から泡立ての開始信号が発せられると、泡立て部2に伝達される。泡立て部2は、泡立て開始信号に応じて図示しない駆動モータ222によってターンテーブル22が回転し、その上に設けられた台座221および容器21が回転する。同時に攪拌子232がモータ231によって回転させられ、容器21に投入されたホイッピングクリームは容器21の回転および攪拌子232の回転によって攪拌される。高さセンサ24は、容器21内のホイッピングクリームに対して強度変調された光を照射し、ホイッピングクリームからの反射光と照射光との位相差を検出することによって高さセンサ24とホイッピングクリームとの距離を測定し、高さセンサからの信号は制御部3に転送されたのち記憶演算部4に転送される。硬さセンサ25は歪ゲージからの信号を、増幅器26を介し制御部3に転送する。制御部3に転送された信号は記憶演算部4に転送される。
【0014】
本実施形態において、高さセンサ24は、光学式のセンサとしたが、フロートを用いるもの、電位差を測定するもの、超音波式など、ホイッピングクリームの液面の高さを測定可能な各種センサを利用できる。特に、測定精度の点で、レーザー式が好ましい。高さセンサ24の設置位置は本実施形態では容器21のほぼ中心の上部としたが、容器21の上部でホイッピングクリームの液面の高さが測定可能な位置であればどこに設置してもよい。
硬さセンサ25は、歪みゲージを用いたが、歪みゲージに限らず、ホイッピングクリームの硬さに応じた負荷を測定するなど、硬さに関する測定が可能ないずれのセンサを利用できる。硬さセンサ25の設置位置はホイッピングクリームの硬さが測定可能な位置であればどこに設置してもよい。
【0015】
制御部3はプログラマブルコントローラに、記憶演算部4はパーソナルコンピュータに、限られるものではない。制御部3と記憶演算部4はそれぞれ独立していなくてもよく、例えば泡立て部2の筐体20内に設置された中央演算装置などを用いた回路構成としてもよい。
【0016】
次に図2に基づいて、泡立てシステム1を詳細に説明する。
泡立て部2は、駆動モータ222と、モータ231と、高さセンサ24と、および硬さセンサ25と、を備えている。駆動モータ222と、モータ231と、高さセンサ24とは、制御部3のアナログ/デジタル変換器31に接続されている。硬さセンサ25は増幅器26を介して制御部3のアナログ/デジタル変換器31に接続されている。
制御部3は、アナログ/デジタル変換器31と、データ取得手段32と、駆動制御手段33と、を備えている。アナログ/デジタル変換器31は、制御部3のデータ取得手段32に接続されている。データ取得手段32は駆動制御手段33と記憶演算部4の記憶手段41に接続されている。駆動制御手段33はデータ取得手段32と、記憶演算部4の回帰演算手段42と、泡立て部2の駆動モータ222と、モータ231と、に接続されている。また、出力手段51は制御部3に接続されている。
記憶演算部4は記憶手段41と、回帰演算手段42と、計時手段43と、を備えている。記憶手段41は回帰演算手段42と計時手段43と、に接続されている。出力手段52は記憶演算部4に接続されている。
【0017】
以上のような構成において、泡立てシステム1に電力が供給されると、制御部3と記憶演算部4は初期設定を実施する。その後、制御部3と記憶演算部4は泡立て部2によるホイッピングクリームの泡立ての開始の入力待機状態となる。制御部3のデータ取得手段32は、ターンテーブル22の駆動モータ222、および泡立て駆動部23のモータ231の駆動が開始されたか否かを、駆動モータ222およびモータ231の電流値により判定する。
【0018】
データ取得手段32は、駆動モータ222およびモータ231が駆動されたことを判定すると、アナログ/デジタル変換器31を介してデジタルデータに変換された高さセンサ24で検出する液面高さのデータと、増幅器26およびアナログ/デジタル変換器31を介してデジタルデータに変換された硬さセンサ25で検出する硬さのデータを、測定データとして記憶演算部4の記憶手段41に送信する。
【0019】
具体的には、記憶演算部4の計時手段43による計時に基づいて、予め設定入力された0.1秒毎に液面高さおよび硬さの信号を取得し、順次カウントされるID番号データおよび時間データと関連付けられ、1つの測定データとして記憶手段41に順次記憶される。
この後、記憶演算部4の回帰演算手段42は、記憶手段41に記憶された測定データから、液面高さの時間経過に伴う変動割合を演算する。
【0020】
具体的には、記憶手段41に記憶された演算プログラムに基づいて、測定データの液面高さの移動平均、例えば連続する10データ分の液面高さの平均値Xiを順次演算し、得られた移動平均値の一次回帰式の回帰係数を演算する。すなわち、ホイッピングクリームの高さの平均値の算出の基礎となる高さデータを取得した時刻の中央値をXi、時刻Xiのときのホイッピングクリームの高さをYiとして、XiとYiの間に(1)式で表される関係があるとする。
Yi=aXi+b …(1)
このとき、一次回帰式の回帰係数aは、以下の式(2)により演算される。
a=(nΣXiYi−(ΣXi)(ΣYi))/((nΣXi)−(ΣXi)) …(2)
【0021】
なお、n数は5以上100以下、好ましくは15以上20以下、特に20が好適である。n数が5より少なくなると、測定値のバラツキを移動平均値で吸収できにくくなり、最大オーバーランを判定しにくくなるおそれがある。一方、n数が100より多くなると、最大オーバーランを経過した後に判定されることとなり、精度良く最大オーバーランを判定できなくなるおそれがあるためである。
これら得られた値は、記憶手段41に順次読み出し可能に記憶され、必要に応じて出力手段52などに表示可能となっている。
【0022】
さらに、回帰演算手段42は、順次演算される一次回帰式の回帰係数aの値が10データに達したか否かを判定する。そして、回帰演算手段42は、前記回帰係数aの値が10データに達したことを判定すると、その連続する10データ分の回帰係数aの平均値を算出することで回帰係数aの移動平均を演算し、記憶手段41に記憶させる。この後、回帰演算手段42は、回帰係数aの平均値が1データ増える毎に、そのデータを含む連続する10データ分の回帰係数aの平均値を順次演算し、記憶手段41に記憶させる。すなわち、測定値のバラツキによる影響を少なくするために、一次回帰式の回帰係数aの移動平均値をさらに演算する。
【0023】
一方、制御部3の駆動制御手段33は、硬さセンサ25からの硬さの信号に基づいて、硬さが所定の硬さ、ホイッピングクリームでは液面高さの測定のバラツキが小さくなる49mN(5gf)以上になったか否かを判定する。そして、硬さが所定の硬さになったと判定すると、回帰演算手段42による一次回帰式の回帰係数aの移動平均値の正負の符号が反転したか否かを判定する。
駆動制御手段33は、前記一次回帰式の回帰係数aの移動平均値の正負の符号が反転したことを判定すると、泡立て状態は、オーバーランが最大値、すなわち体積が最大となった最良のホイップドクリームの状態であると判定し、泡立てを停止する制御をする。例えば、駆動のための電力供給を遮断、駆動モータ222およびモータ231の駆動を停止し、処理が終了する。
なお、電力供給の遮断のように自動的に停止させる制御の他、例えば利用者に対して、モータ231および駆動モータ222の駆動を停止する旨を出力手段51で報知させてもよい。
出力手段51は、制御部3からの制御信号に基づいて、各種報知情報を出力する。具体的には、表示装置による表示や、印刷装置による印字、ブザーや回転灯などの報知装置によるブザー音や回転灯の点灯による報知が例示できる。
【0024】
次に図3、4、5、6に基づいて、泡立てシステム1により得られる実施形態の例を詳細に説明する。
図3に泡立てシステム1でホイッピングクリームを泡立てたときの泡立て中における高さセンサ値および硬さの経時変化を示す。このグラフの右縦軸の高さセンサ値は高さセンサ24とホイッピングクリーム表面の距離を表しており、測定値が小さくなるにしたがって液面高さは高くなることを示す。図3のグラフのとおり、ホイッピングクリームの液面高さは、泡立て時間の経過とともに高くなる。そして、ホイッピングクリームの液面高さと合わせて、硬さセンサ、すなわち歪みゲージにかかる荷重に相応するホイッピングクリームの硬さも増大することが認められる。
【0025】
泡立て当初(図3中の第一領域I)は、液撥ね防止のために攪拌子232による攪拌速度を弱くしているため、気泡が入りにくい状態となっている。その後、図4(A)に示すように、気泡が巻き込まれ始めて泡沫状態となって液面高さの測定値にばらつきが生じる状態となる(図3中の第二領域II)。さらに泡立てが進むと、図4(B)に示すように、抱き込まれた気泡が細かくなって硬さが増し始め、液面高さの測定値が安定し始める(図3中の第三領域III)。そして、さらなる泡立てにより急激に硬さが増すとともに、いわゆるオーバーランと称される液面高さが最大値となった後、オーバーランが下がり始め、ホイッピングクリームの組織(外観)が荒れ始める状態となる(図3中の第四領域IV)。
【0026】
図5に泡立て時間と液面高さの移動平均値の一次回帰式の回帰係数aとの関係を表すグラフを示す。回帰演算手段42は、記憶手段41に記憶された前述の式(2)に基づいて、一次回帰式の回帰係数aを演算する(n=10)。すなわち、順次演算する移動平均値における一次回帰式が求められ、この一次回帰式の回帰係数aを読み取る。
高さセンサ24から得られるデータは高さセンサ24とホイッピングクリーム表面との距離を表すため、ホイッピングクリームの体積が増加すれば高さセンサ24からの値は小さくなり一次回帰式の回帰係数aは負となる。図5に示すように、回帰演算手段42により演算した一次回帰式の回帰係数aが負の値から正の値となる時点が、オーバーランが最大値となる位置である。
上記実施形態では、一次回帰式の回帰係数aの移動平均をさらに演算し(n=10)、一次回帰式の回帰係数aの移動平均の値が負から正の値となった時点を、オーバーランの極大値として判定している。このため、泡立てによる液面高さのバラツキの影響を少なくして、オーバーランの極大値を簡単な演算で精度良く判定でき、最適な泡立て状態のホイップドクリームを提供できる。特に、硬さセンサ25で測定する硬さが所定の硬さになってから一次回帰式の回帰係数aの移動平均の値が正の値となったか否かを判断するので、液面が安定し始めてからの液面高さの測定値にて判定することとなり、より精度良くオーバーランの極大値を判定できる。
【0027】
そして、上記実施形態では、ホイッピングクリームを用いている。ホイッピングクリームは、オーバーランの極大値を過ぎて泡立てを継続すると粘度が上昇し荒れが生じてしまう。本発明は、最適な泡立て状態を得るには熟練を要するホイッピングクリームを対象としているので、泡立て時の気温、ホイッピングクリームの成分公差などを問わず、安定して最適な泡立て状態を提供できる。
【0028】
[変形例]
なお、本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した材質、層構成などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの材質などの限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0029】
前記実施形態における泡立ち測定装置である泡立てシステム1は、泡立て部2と、制御部3と、記憶演算部4と、を具備しているが、必ずしもこれら全てを具する必要はない。例えば、高さセンサ24と、硬さセンサ25と、制御部3と、記憶演算部4と、を具備した測定装置の構成とし、前記構成の測定装置を汎用的な液状乳化物の泡立て装置と組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、液面高さの移動平均を算出する場合に限らず、攪拌前の液面の高さからの変動した高さ差分を算出し、高さ差分の単位時間当たりの変動量を算出し、その変動量が正の値から負の値に反転した時点を泡立て終了時点として判定してもよい。
なお、移動平均の一次回帰式の回帰係数に基づいて泡立て終了時点を判定する上記実施形態が、誤差が小さく、オーバーランが最大となる時点を良好に判定できるので好ましい。
【0031】
そして、上記実施形態では、オーバーランが最大となったことを判定した時点で泡立てを自動的に停止する制御をしたが、例えば泡立てを停止させる機構を設けず、最適な泡立て状態になった旨を表示させたり、音声出力したりするなど、単に利用者に報知するようにしてもよい。このことにより、ホイップクリームの泡立ち状態が最良となり、
また、上記実施形態では、制御部3と記憶演算部4を有する構成としたが、泡立て部2内に制御部3や記憶演算部4を組み込んだ構成としたりするなど、各種装置構成として利用できる。
【0032】
さらに、上記実施形態では、硬さセンサ25を用い、硬さが所定の硬さ以上において、一次回帰式の回帰係数aの移動平均の値が負から正になったか否かを判断したが、硬さをトリガーとする場合に限らず、例えば、攪拌開始からの時間が所定時間を経過したか否か、攪拌子232を回転駆動するモータ231の消費電力などが所定量を超えたか否かなど、攪拌開始からの時間や、攪拌開始からの総仕事量などをトリガーとしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 泡立てシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6