(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態によるサイドエントリ方式試料ホルダは、グリップと、グリップから延びる試料ホルダ本体と、試料ホルダ本体と接続され、試料を固定するための試料台が設けられた先端部と、試料台に固定された試料のイオンビームの照射方向との相対的位置関係を変更し、試料加工中における先端部に対するイオンビームの照射を回避するための機構と、を備えている。試料加工中は試料ホルダの先端部をイオンビームの照射を回避できる位置に移動する(退避状態にする)ので、当該先端部がイオンビームに晒されることに損傷を防止することができる。
【0015】
具体的には、当該機構は、先端部が試料ホルダ本体と水平になっている状態から、イオンミリング装置のイオン源が設置された方向とは反対方向に先端部を回転させる機構である。
【0016】
さらに具体的には、当該機構は、試料ホルダ本体の内部に収納され、接続部分からグリップの方向に延び、第1のギアを有する、第1のシャフトと、先端部の回転軸と軸を一にし、第2のギアを有する、第2のシャフトと、を有している。そして、第1のシャフトの軸回りに第1のシャフトを回転させるための回転力を与えると、第1のギアを介して第2のギアに回転力が伝えられ、第2のシャフトを回転させるように動作する。これにより、試料ホルダ本体と水平となっている状態から、先端部は、イオン源から離れるように回転し、試料ホルダ本体と垂直となる状態にまで状態が遷移する。
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0018】
本実施形態では、当業者が本発明を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本発明の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
(1)第1の実施形態
<イオンミリング装置>
図1は、本実施形態によるイオンミリング装置1の概略構成を示す図である。イオンミリング装置1は、試料室10と、ステージ20と、サイドエントリ方式試料ホルダ30と、モータ40と、コントロールユニット50と、イオンガン60と、を備えている。
【0019】
イオンガン60は、例えば、集束していないイオンビームをターゲット(試料)に照射し、試料を加工する。
【0020】
試料室10は、図示しない真空排気装置を用いて内部を真空にすることができるようになっている。また、試料室10には、フレア防止用絞り11が設置されている。このフレア防止用絞り11は、試料の加工時に集束させないイオンビームが照射されるため、拡散したイオンビームがサイドエントリ方式試料ホルダ30に載置された試料と遮蔽板(
図2参照)以外の部品に照射させることを防止するためのものである。
【0021】
ステージ20は、試料室10の真空を開放することなく、サイドエントリ方式試料ホルダ30を試料室10に取り付けることができるように構成されている。また、ステージ20は、試料室10の真空を破ることなく、サイドエントリ方式試料ホルダ30を試料室10から抜き取ることができるように構成されている。
【0022】
ステージ20には、ステージ側ギア21が設けられており、当該ステージ側ギア21がモータ40のモータ側ギア41と噛合するようになっている。そして、モータ40が回転するとその回転力はモータ側ギア41を介してステージ側ギア21に伝えられ、ステージ20の回転ベース22が回転するようになっている。以下、モータ40、モータ側ギア41、及びステージ側ギア21を合わせて「スイング機構」と称することとする。
【0023】
回転ベース22はサイドエントリ方式試料ホルダ30と密着しているため、回転ベース22が回転すると、それに応じてサイドエントリ方式試料ホルダ30も回転軸31周りに回転(時計回り、及び反時計回りの方向にそれぞれ所定角度回転)する。モータ40の回転速度及び回転角度は、コントロールユニット(制御部:例えば、コンピュータ)50によって制御されている。この回転は、スイングとも称され、これによりイオンガン60から照射されるイオンビームの照射角度を変更することができ、試料の加工面に筋が形成されるのを防ぐ作用がある。この回転角度(スイング角度)θは、例えば、−約40度≦θ≦+約40度に設定される。なお、コントロールユニット50には図示しない入力装置や表示装置が接続されており、操作者は、入力装置を用いてサイドエントリ方式試料ホルダ30の回転量(スイング量)やその速度を指示することができる。なお、モータ40とモータ40を駆動させるためのコントロールユニット50はステージ20と一体でなくても良い。
【0024】
サイドエントリ方式試料ホルダ30においては、つまみ36を回すことにより、その先端部分(ピボット)32が回転軸33を中心にして水平な状態から垂直な状態に変更できるように構成されている(回転機構については後述)。例えば、先端部32が水平状態の場合、つまみ36を時計回りに回転させると、先端部分32が垂直な状態となる(
図1の状態)。逆に、先端部32が垂直状態となっているときにつまみ36を反時計回りに回転させると、先端部32が水平状態に戻る。サイドエントリ方式試料ホルダ30をステージ20に挿入するこきには、当該先端部分32は水平状態に保たれており、挿入後、試料加工時には図示のような垂直状態に変更される。そして、イオンビームが照射され、フレア防止用絞り11を介してイオンビームがサイドエントリ方式試料ホルダの先端(具体的には回転軸33の近傍)に載置された試料が加工される。
【0025】
<サイドエントリ方式試料ホルダの先端部の外観構成>
図2は、本実施形態によるサイドエントリ方式試料ホルダ30の先端部32の周辺部の外観構成を示す図である。
図2(a)は、サイドエントリ方式試料ホルダ30をステージ20に挿入、或いは抜き取るときの状態(水平状態)を示している。また、
図2(b)は、サイドエントリ方式試料ホルダ30に載置した試料をイオンビームによって加工するときの状態(垂直状態)を示している。
【0026】
先端部32の回転軸33の近傍には試料台204が設置(固定)されており、試料台204の上に試料203が載置される。また、試料203の上面には遮蔽板202が取り付けられる。試料203の端面は、遮蔽板202及び試料台204からわずかに(例えば、加工(ミリング)量分だけ)突出している。
【0027】
図2(a)に示されるように、先端部32が水平状態の場合、試料台204の側面部2041及び試料の加工面(加工対象面)206は、イオンビーム照射方向200と対向している。
【0028】
一方、
図2(b)に示されるように、試料203を加工するときには、回転軸33を中心に先端部32を回転させて垂直状態に状態を変更する。試料台204は先端部32に固定されているので、先端部32の状態が変更されるに従って、試料台204も同様に状態が変更される。先端部32が水平状態のときに試料台204の側面部2041はイオンビーム照射方向200に対向していたが、先端部32が垂直状態に変更されると、当該側面部2041はイオンビーム照射方向200と平行な状態となる。試料203は試料台204と遮蔽板202に挟まれているので、試料203の状態も変更される。つまり、試料203の加工面206がイオンビーム照射方向200と対向する状態からそれと平行な状態となる。
【0029】
なお、サイドエントリ方式試料ホルダ30には、1方向(1軸)以上のマイクロメーター等の精密微動機工によって遮蔽板202の位置を調整する手段を設けるようにしても良い。
【0030】
<サイドエントリ方式試料ホルダの構成(側面)>
図3は、本実施形態によるサイドエントリ方式試料ホルダの構成(側面)を示す図である。
図3(a)は、先端部32が非回転時の状態(水平状態)の様子を示している。
図3(b)は、先端部32が回転時の状態(垂直状態)の様子を示している。
【0031】
サイドエントリ方式試料ホルダ30は、グリップ34と、グリップ34から延びる試料ホルダ本体35と、つまみ36と、試料ホルダ本体と接続され、試料を固定するための試料台204が設けられた先端部32と、を有している。
【0032】
つまみ36にはシャフト301が接続されており、当該シャフト301はサイドエントリ方式試料ホルダ30の内部を回転軸33近傍まで延びている。
【0033】
つまみ36を例えば時計回り302に回転させると、シャフト301も時計回り302に回転し、
図4を用いて後述する先端部回転機構によって先端部32が回転軸33を中心にして下方向303に折れ曲がり、垂直状態(
図3(b))となる。
【0034】
先端部32が回転時の状態(垂直状態)でイオンビームが照射され、試料台204に載置された試料203が加工される。試料203を加工している間は、先端部32が下方向303に向いているので、先端部32がイオンビームに暴露されることがなく、先端部32の損傷を防ぐことができる。
【0035】
試料203の加工が終わった後、つまみ36を反時計回り305に回転させるとシャフト301も同様に反時計回り305に回転する。そして、後述する先端部回転機構によって、先端部32は、回転軸33を中心にして上方向306に起き上がり、水平状態(
図3(a))に戻る。
【0036】
なお、試料台204に試料203が載置(固定)され、先端部32が水平状態のとき、試料203の上端部(加工対象面206)の高さは、試料ホルダ本体305の最上部の高さよりも低くなっている。従って、サイドエントリ方式試料ホルダ30をステージ20に対して挿抜動作を行っても試料203、試料台204、及び遮蔽板202が挿抜動作の邪魔になることはない。
【0037】
<先端部回転機構>
図4は、本実施形態のサイドエントリ方式試料ホルダ30に設けられた先端部回転機構の構成を示す図である。
図4(a)は、サイドエントリ方式試料ホルダ30の上面図である。
図4(b)は、先端部回転機構の要部構成を示している。
【0038】
図4(a)に示されるように、シャフト301がつまみ36から回転軸33近傍まで延びている。また、回転軸33の部分には、サイドエントリ方式試料ホルダ30の側面を横断するようにシャフト402が設けられている。つまり、シャフト401の中心が回転軸33の中心と一致している。そして、シャフト401を回転させることにより、先端部32の状態が水平状態及び垂直状態間で遷移するようになっている。当該シャフト401の回転は、シャフト301を回転させることによって実現される。このような動作を実現するのが、
図4(b)に示される機構である。
【0039】
図4(b)に示されるように、シャフト301の先端には傘歯ギア402が取り付けられている。また、シャフト401にも傘歯ギア402と噛合する傘歯ギア403が取り付けられている。シャフト301をつまみ36によって時計回りに回転させると、シャフト301の先端部分に設けられた傘歯ギア402も時計回りに回転する。そして、傘歯ギア402に噛合する傘歯ギア403は、矢印404の方向に回転し、それに伴ってシャフト401も矢印404の方向に回転する。このような作用により、先端部32は水平状態から垂直状態に変位することになる。つまみ36を反時計回りに回転させれば、反対の作用により、先端部32は垂直状態から水平状態に戻ることになる。
【0040】
<試料加工時の様子>
図5は、本実施形態によるサイドエントリ方式試料ホルダ30を用いて試料203を加工しているときの様子を示す図である。なお、実際には遮蔽板202の上方にはイオンビーム501の照射サイズを規制するフレア防止用絞り11が設置されている。
【0041】
加工時は、サイドエントリ方式試料ホルダ30の先端部32は、垂直状態、つまり先端部32がイオンビーム照射の方向と平行となり、試料203の加工面(加工対象面)206もイオンビーム照射方向と平行となっている。この状態で、イオンビーム501を試料203の突出部に対して照射すると、試料203の突出部が削られ(遮蔽板202も一緒に削られる場合もある)、加工面が露出する。また、加工時、上述のスイング機構(
図1参照)によってサイドエントリ方式試料ホルダ30を回転軸31周りに所定角度回転(スイング)させることにより試料203も同時にスイングさせることができる。これにより、試料203の加工面にイオンビーム501によって筋が形成されることを防止することができる。また、加工時は先端部32を下方向に退避させることができるので、先端部32にイオンビーム501が照射されることを防ぐことができる。よって、先端部32がイオンビーム501により削られて損傷するという事態を回避することができるようになる。
【0042】
<試料加工面観察時の様子>
図6は、本実施形態によるサイドエントリ方式試料ホルダ30を用いて試料の加工面(加工済の面)を観察しているときの様子を示す図である。
【0043】
試料を加工した後、サイドエントリ方式試料ホルダ30の先端部32を水平状態にしてイオンミリング装置1のステージ20から抜き取り、電子顕微鏡装置(装置全体は図示せず)に取り付ける。この状態では、試料203の加工面(加工済の面)603は、電子銃601と対向している。このため、そのまま電子線602を照射することにより加工面603を観察することができる。
【0044】
よって、サイドエントリ方式試料ホルダ30から試料203を取り外し、向きを変えて再度取り付ける必要がなくなり、同一のホルダを用いてイオンミリング加工とSEM観察が可能となる。
【0045】
なお、ここでは観察装置の例として電子顕微鏡を挙げたが、他の観察装置を用いて加工面603を観察しても良い。
【0046】
<試料加工及び観察手順>
(i)本実施形態の場合
図7は、本実施形態における、試料を加工及び観察する手順を説明するためのフローチャートである。
(i-1)ステップ701
操作者は、試料について前処理をする。具体的には、試料を適切なサイズ(例えば、5mm×5mm程度のサイズ)にカットし、カット面に凹凸があるようであれば面がなるべく均一になるように処理する。
(i-2)ステップ702
操作者は、前処理した試料203を、サイドエントリ方式試料ホルダ30の試料台204(断面観察用サイドエントリ用試料台)に載置する。そして、操作者は、試料203の上を遮蔽板202で覆い、試料203及び遮蔽板202を試料台204に固定する。このとき、試料の端部を試料台204及び遮蔽板202からわずかに突出させる。なお、この突出量はイオンミリングによって削る量にほぼ等しい。本実施形態によるサイドエントリ方式試料ホルダ30を用いれば試料の位置は一意に決定されるため、試料加工位置を調整する必要がない。
【0047】
操作者は、試料203を試料台204に載置したら、このサイドエントリ方式試料ホルダ30をステージ20に挿入する。
(i-3)ステップ703
操作者は、サイドエントリ方式試料ホルダ30の先端部32の状態を水平状態から垂直状態に変更する(
図2参照)。そして、イオンミリング装置1の試料室10の内部で断面イオンミリング加工を実行する。加工中は、上述のスイング機構によってサイドエントリ方式試料ホルダ30は軸31を中心に時計回り及び反時計回りに所定角度ずつ回転制御され、加工面(加工対象面)206に筋が形成されないようにする。
【0048】
加工が終了すると、先端部32の状態を垂直状態から水平状態に変更し、サイドエントリ方式試料ホルダ30をステージ20から抜き取る。
(i-4)ステップ704
操作者は、加工された試料を載置したサイドエントリ方式試料ホルダ30を観察装置(電子顕微鏡装置)に挿入する。この場合、先端部32は水平状態のままにし、加工面(加工済の面)603を電子銃601に対向させ(電子線602と加工面603がほぼ垂直になるように)、電子線602を加工面603に照射し、加工面603の状態を観察する。(i-5)ステップ705
操作者は、加工面603の観察により所望の結果が得られたと判断したら、処理を終了させる。
【0049】
所望の観察結果が得られなかった場合には、操作者は、観察装置からサイドエントリ方式試料ホルダ30を抜き取り、再度イオンミリング装置1のステージ20に挿入してミリング加工を実行し、観察する。操作者は、以上の加工及び観察を所望の観察結果が得られるまで繰り返すことになる。
(ii)比較例(従来)の場合
図8は、比較例(従来例)における、試料を加工及び観察する手順を説明するためのフローチャートである。
(ii-1)ステップ801
操作者は、試料について前処理をする。具体的には、試料を適切なサイズ(例えば、5mm×5mm程度のサイズ)にカットし、カット面に凹凸があるようであれば面がなるべく均一になるように処理する。
(ii-2)ステップ802
操作者は、前処理した試料を、断面ミリング用試料台に固定する。
(ii-3)ステップ803
操作者は、試料台に設けられた加工位置調整機構(XY軸位置調整)を用いて、試料の所望の位置にイオンビームが照射されるように試料の位置を調整する。
(ii-4)ステップ804
操作者は、イオンミリング装置の試料室の内部で断面イオンミリング加工を実行する。(ii-5)ステップ805
操作者は、断面ミリング用試料台から加工した試料を取り外す。
(ii-6)ステップ806
操作者は、ステップ805で取り外した試料を、断面観察用のサイドエントリ方式試料ホルダの試料台に固定し、観察装置(電子顕微鏡)に当該ホルダを挿入する。
(ii-7)ステップ807
操作者は、観察装置で試料の加工面を観察する。
(ii-8)ステップ808
操作者は、加工面の観察により所望の結果が得られたと判断したら、処理を終了させる。
(ii-9)ステップ809
ステップ808で所望の観察結果が得られなかった場合、操作者は、観察装置から断面観察用のサイドエントリ方式試料ホルダを抜き取り、当該ホルダの試料台から試料を取り外す。
【0050】
そして、操作者は、ステップ802からステップ808の加工及び観察の動作を所望の観察結果が得られるまで繰り返すことになる。
(iii)本実施形態の利点
以上のように、本実施形態による加工及び観察の手順は、比較例のそれらに比べて工数が少ない。とりわけ、本実施形態の場合には、加工用の試料ホルダ及び観察用の試料ホルダ間の試料の取り外し及び取り付けを繰り返す必要がなく、スループットを向上させることができるようになる。試料の取り付け及び取り外しは、試料を破損してしまう危険性があるため丁寧に行わなければならない作業であって、時間が掛かる作業だからである。また、本実施形態では、断面ミリングを行う際の位置調整を不要としている(比較例のステップ803が不要)ため、加工の際の手順に煩雑さがなく、操作者にとって使い勝手の良い試料ホルダとなっている。
(2)第2の実施形態
第2の実施形態は、先端部32に設置され、試料台204に取り付けられた試料203(加工前後を含む)を密閉(保護)するためのキャップカバーを有するサイドエントリ方式試料ホルダに関する。第1の実施形態との構成の違いは、先端部32に取り付けられた試料203を密閉(保護)するキャップカバーが追加されている点にある。
【0051】
図9は、第2の実施形態によるサイドエントリ方式試料ホルダ900の外観構成例を示す図である。
図10は、
図9のサイドエントリ方式試料ホルダ900の平面903における断面図である。
図10Aは、キャップカバーが先端部32を完全に覆っている状態を示している。
図10Bは、キャップカバーを動かし、試料203を露出するまでの途中の状態を示す図である。
【0052】
図9に示されるように、サイドエントリ方式試料ホルダ900は、先端部32の試料203の載置箇所近傍に、例えば円板(楕円板でも良い)で構成されるキャップベース901と例えば円筒(円筒形以外の筒形状を採用しても良い)で構成されるキャップ可動部902と、を備えている。
図10に示されるように、各キャップベース901は、先端部32及びホルダ本体35に固定されている。キャップ可動部902は、円筒で構成されるため、キャップベース901内部の空間を密閉するよう動作することが可能になっている。キャップ可動部902の動作機構は、例えば、電子線602の照射方向と垂直な平面内でスライドするものとしてもよいし、回転軸を設け、回転軸に沿って回転するものとしてもよい。キャップ可動部902の動作方法としては、例えばモータ等を設けて自動で動かすものとしてもよいし、サイドエントリ方式試料ホルダ30に回転導入装置等を設け、試料室10の外部から操作するものとしてもよい。また、ホルダの先端まで装置にマニピュレータ等を設け、マニピュレータによって動作するものとしてもよい。その他、種々の動作機構および動作方法を採用することが可能である。
【0053】
図11は、先端部32を完全に露出させ、回転軸33を中心に先端部32を回転させて垂直状態にした様子を示す図である。第1の実施形態で示した先端部回転機構を用いて回転軸33を中心に先端部32を下方向303に折れ曲げ、垂直状態にすることができる。このように先端部を垂直状態にすることによって、載置した試料203をイオンビーム501によって加工することができるようになる。キャップ可動部902は、完全に退避した状態(試料203を試料室の空間に露出させた状態)となっているので、先端部32とキャップ可動部902は互いに干渉することはない。試料203を加工した後、先端部32は、元の位置に(垂直状態から水平状態に)戻される。次に、操作者(ユーザ)は、上述の動作機構を操作することによってキャップ可動部902が先端部32の試料台204に載置された試料203(加工済)を完全に覆うまで矢印X1方向に移動させる。その後、操作者は、サイドエントリ方式試料ホルダ30を試料室10(
図1参照)から抜き取り、図示しない観察装置に取り付ける。これにより、試料203の加工面603を観察することが可能となる。なお、キャップベース901は、イオンビーム501によって削られにくい材料で構成されるのが望ましい。
【0054】
図12は、サイドエントリ方式試料ホルダ30を図示しない観察装置に取り付けて加工面603を観察する様子を示す図である。まず、操作者は、イオンミリング装置1の試料室10から取り出したサイドエントリ方式試料ホルダ30を観察装置(図示せず)に取り付ける(挿入する)。次に、操作者は、キャップ可動部902の動作機構を操作してキャップ可動部902を矢印X2方向に試料203の加工面603が観察可能な位置まで(或いはキャップ可動部902の完全退避位置まで)移動させる。そして、操作者は、試料203の加工面603に電子線602を照射することにより、当該加工面603を観察する。当該加工面603を観察する際には、上述のように先端部32を垂直状態にする必要はない。
【0055】
以上説明したキャップカバーをサイドエントリ方式試料ホルダ30の先端に設けることにより、装置間(例えば、イオンミリング装置と観察装置との間)の移動における、搬送中の試料破損、汚れや大気暴露を回避することが可能になる。
(3)まとめ
(i)本実施形態による試料ホルダ(サイドエントリ方式試料ホルダ)は、グリップと、グリップから延びる試料ホルダ本体と、試料ホルダ本体と接続され、試料を固定するための試料台が設けられた先端部と、試料台に固定された試料の加工面とイオンビームの照射方向との相対的位置関係を変更し、試料加工中における先端部に対するイオンビームの照射を回避するための機構と、を備えている。このようにすることにより、ホルダの先端部(ピボット)が加工中にイオンビームに晒されて損傷を受けることを回避することができるようになる。また、試料の加工面の方向を変更できるようになっているので、イオンミリング装置で加工した後に試料をホルダから取り外して再度観察装置のホルダに取り付けるという手間を省くことができ、スループットを向上させることができるようになる。
【0056】
具体的には、当該機構は、先端部が試料ホルダ本体と水平になっている状態から、イオンビームを照射するイオン源の設置された方向とは反対方向に先端部を回転させる機構である。先端部と試料ホルダ本体との接続部分に設けられた回転軸の周りに先端部が回転する。このように簡単な構成で先端部のイオンビームによる暴露を防止することができる。
【0057】
さらに具体的には、当該機構は、試料ホルダ本体の内部に収納され、先端部と試料ホルダとの接続部分からグリップの方向に延びる第1のシャフトと、先端部の回転軸と軸を一にする第2のシャフトと、を有している。なお、第1のシャフトは第1のギアを、第2のシャフトは第2のギアをそれぞれ有している。そして、第1のシャフトの軸回りに第1のシャフトを回転させるための回転力を与えると、第1のギアを介して第2のギアに回転力が伝えられ、第2のシャフトが回転するようになっている。第2のシャフトは先端部に取り付けられているため、第2のシャフトが回転することにより先端部も同様に回転する。このような単純な構成を採ることができるので、先端部を回転させる機構の耐久性を担保することができるようになる。
【0058】
先端部が試料ホルダ本体と水平になっている状態では、試料台は、試料の加工面がイオンビームを照射するイオン源に対向するように試料を固定する。一方、先端部がイオン源の設置された方向とは反対側に回転した状態では、試料台は、加工面がイオンビームの照射方向と平行となるように試料を固定する。つまり、上記機構によって、先端部はほぼ90度姿勢が変更され、それにともなって先端部に固定されている試料もほぼ90度姿勢が変更される。このように加工面のイオン源(観察装置における荷電粒子線源(電子源)に対しても同様)に対する位置を変更することができるので、試料ホルダから試料を取り外さずに加工と観察の両方を実行することができる。
(ii)本実施形態によるイオンミリング装置は、上述の試料ホルダを備える以外に、試料ホルダの先端部を、試料ホルダ本体の軸に関して時計回り及び反時計回りに所定角度ずつ回転させるスイング機構を備える。スイング機構は、具体的には。モータと、モータの回転を制御する制御部と、モータのギアと噛合する、ステージの外側に設けられたステージ側ギアと、を備える。モータの回転によりステージが試料ホルダの軸に関して時計回り及び反時計回りに所定角度ずつ回転することにより、ステージに取り付けられた試料ホルダが所定角度ずつ回転するようになる。このようにすることにより、試料をイオンビームで加工しているときに加工面に筋がついてしまうことを防ぐことができるようになる。
(iii)本実施形態による試料加工方法は、試料について所定の準備(試料を切ったり、加工面を磨いたりして所望の試料サイズにする)を行う工程と、サイドエントリ方式試料ホルダをイオンミリング装置の試料室に挿入した際に試料の加工面がイオン源と対向するように、試料ホルダの先端部に設けられた試料台に試料を固定する工程(このとき試料上面に遮蔽板を載置することが望ましい)と、試料ホルダをイオンミリング装置の試料室に挿入する工程と、試料ホルダの先端部をイオン源が設置された方向とは反対側に回転させることにより、試料台に固定された試料の加工面をイオンビームの照射方向と平行にする工程と、試料にイオンビームを照射し、試料を加工する工程と、試料の加工が完了後、試料ホルダの先端部をイオン源が設置された方向に回転させることにより、加工面がイオンビームの照射方向と平行する状態からイオン源と対向する状態に変更する工程と、加工後の前記試料を搭載する前記試料ホルダを試料室から抜き取る工程と、を含んでいる。このような工程を実行することにより、試料加工中に試料ホルダの先端部をイオンビームの照射を起因とする損傷から保護することができるようになる。
【0059】
なお、試料を加工する工程において、イオンミリング装置が有するスイング機構によって、試料ホルダの先端部を、試料ホルダ本体の軸に関して時計回り及び反時計回りに所定角度ずつ回転させるようにしても良い。このようにすることにより、試料の加工面にイオンビーム照射によって筋が形成されることを防止することができるようになる。
(iv)本実施形態による試料観察方法は、イオンミリング装置の試料室から抜き取られた試料ホルダ(先端部と試料ホルダ本体とは水平状態となっている)を、試料を当該試料ホルダに取り付けたまま観察装置に挿入する工程と、観察装置で試料の加工面を観察する工程と、を含んでいる。ここで使用される試料ホルダは、グリップと、グリップから延びる試料ホルダ本体と、試料ホルダ本体と接続され、試料台が設けられた先端部と、先端部が試料ホルダ本体と水平になっている状態から、観察装置の荷電粒子線源が設置された方向とは反対方向に先端部を回転させる機構であって、試料台に固定された試料の加工面と荷電粒子線の照射方向との相対的位置関係を変更する機構と、を備えている。観察装置に挿入する工程及び観察する工程では、先端部は試料ホルダ本体と水平になっており、試料の加工面は観察装置の荷電粒子線源と対向した状態となっている。よって、観察装置で試料を観察する場合には、試料ホルダの上記機構によって先端部を回転させることはない。このように、イオンミリング装置の試料室から抜き取った試料ホルダをそのままの状態(試料を試料台から取り外す必要がない)で観察装置に挿入することができるので、観察の工程を単純化し、スループットを向上させることができる。また、ミリング加工が不十分であると判断した場合であっても、観察装置から試料ホルダを抜き取り、そのままイオンミリング装置に挿入することができるので、加工及び観察間の手順が単純であり、使い勝手が非常に良くなる。さらに、試料ホルダから試料を取り外す必要がないため、試料を破損してしまうという危険性も低減することができるようになる。