(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533464
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】レーザ増幅器、及びレーザ装置、並びに極端紫外光生成システム
(51)【国際特許分類】
H01S 3/10 20060101AFI20190610BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20190610BHJP
H01S 3/23 20060101ALI20190610BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
H01S3/10 D
H01S3/00 A
H01S3/23
G03F7/20 503
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-535437(P2015-535437)
(86)(22)【出願日】2014年8月27日
(86)【国際出願番号】JP2014072402
(87)【国際公開番号】WO2015033830
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2013/073987
(32)【優先日】2013年9月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105212
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 延寿
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】星野 秀往
【審査官】
高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−131724(JP,A)
【文献】
特開2009−099727(JP,A)
【文献】
特開2006−179600(JP,A)
【文献】
特開2010−186990(JP,A)
【文献】
特開平03−261191(JP,A)
【文献】
特開2013−065804(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0182737(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ媒質を収容するチャンバと、
前記チャンバに設けられ、外部から所望波長のレーザ光を前記チャンバの内部に入射させる第1のウインドウと、
前記チャンバの内部に入射された前記レーザ光を、前記レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置と、
前記チャンバに設けられ、前記励起装置によって増幅された前記レーザ光を前記チャンバの外部に出力させる第2のウインドウと、
前記第1のウインドウと前記第2のウインドウとの間のレーザ光路上に設けられた第1及び第2のミラーと、
前記第1のウインドウまたは前記第1のミラーに設けられ、前記所望波長とは異なる抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第1の波長選択膜と、
前記第2のウインドウまたは前記第2のミラーに設けられ、前記第1の波長選択膜とは波長の選択特性が異なり、前記抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第2の波長選択膜と
を備え、
前記第1のウインドウ及び前記第2のウインドウの組と前記第1のミラー及び前記第2のミラーの組とのいずれか1組に、前記第1の波長選択膜及び前記第2の波長選択膜が設けられている
レーザ増幅器。
【請求項2】
前記励起装置によって励起された前記レーザ媒質は、前記所望波長の光と前記抑制対象波長の光とを増幅可能である
請求項1に記載のレーザ増幅器。
【請求項3】
前記レーザ媒質は、CO2レーザガスである
請求項2に記載のレーザ増幅器。
【請求項4】
前記第1の波長選択膜が前記第1のミラーに設けられ、
前記第2の波長選択膜が前記第2のミラーに設けられ、
前記第1の波長選択膜及び前記第2の波長選択膜はそれぞれ、前記抑制対象波長の光に比べて前記所望波長の光に対して高い反射率を持つ
請求項1に記載のレーザ増幅器。
【請求項5】
前記第1の波長選択膜及び前記第2の波長選択膜はそれぞれ、高屈折率材料と低屈折率材料とが交互に積層されたコーティング膜によって構成され、
前記高屈折率材料はZnSe及びZnSのうちのいずれかであり、
前記低屈折率材料はThF4及びPbF2のうちのいずれかである
請求項4に記載のレーザ増幅器。
【請求項6】
前記第1のミラー及び前記第2のミラーの少なくとも一方は、前記第1の波長選択膜または前記第2の波長選択膜がコーティングされた基板を備え、
前記基板の材料は、Si、GaAs、ZnSeまたはダイヤモンドを含む
請求項4に記載のレーザ増幅器。
【請求項7】
前記第1のミラー及び前記第2のミラーの少なくとも一方は、前記第1の波長選択膜または前記第2の波長選択膜がコーティングされた基板を備え、
前記基板は温度調節機構を備え、
前記温度調節機構は、前記基板に形成された温度調節媒体通路と温度調節器と温度調節媒体循環装置とを含む
請求項4に記載のレーザ増幅器。
【請求項8】
前記第1の波長選択膜が、前記第1のウインドウに設けられ、
前記第2の波長選択膜が、前記第2のウインドウに設けられ、
前記第1の波長選択膜及び前記第2の波長選択膜はそれぞれ、前記抑制対象波長の光に比べて前記所望波長の光に対して高い透過率を持つ
請求項1に記載のレーザ増幅器。
【請求項9】
前記第1の波長選択膜および前記第2の波長選択膜はそれぞれ、薄膜ポラライザである
請求項8に記載のレーザ増幅器。
【請求項10】
前記第1の波長選択膜および前記第2の波長選択膜はそれぞれ、高屈折率材料と低屈折率材料とが交互に積層されたコーティング膜によって構成され、
前記高屈折率材料はZnSe及びZnSのうちのいずれかであり、
前記低屈折率材料はThF4及びPbF2のうちのいずれかである
請求項8に記載のレーザ増幅器。
【請求項11】
前記第1のウインドウ及び前記第2のウインドウの少なくとも一方は、前記第1の波長選択膜または前記第2の波長選択膜がコーティングされた基板を備え、
前記基板の材料は、ZnSeまたはダイヤモンドを含む
請求項8に記載のレーザ増幅器。
【請求項12】
所望波長のレーザ光を出力するマスタオシレータと、
前記マスタオシレータからの前記レーザ光を増幅する少なくとも1つのレーザ増幅器と
を含み、
前記少なくとも1つのレーザ増幅器のうち、少なくとも1つは、
レーザ媒質を収容するチャンバと、
前記チャンバに設けられ、外部からのレーザ光を前記チャンバの内部に入射させる第1のウインドウと、
前記チャンバの内部に入射された前記レーザ光を、前記レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置と、
前記チャンバに設けられ、前記励起装置によって増幅された前記レーザ光を前記チャンバの外部に出力させる第2のウインドウと、
前記第1のウインドウと前記第2のウインドウとの間のレーザ光路上に設けられた第1及び第2のミラーと、
前記第1のウインドウまたは前記第1のミラーに設けられ、前記所望波長とは異なる抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第1の波長選択膜と、
前記第2のウインドウまたは前記第2のミラーに設けられ、前記第1の波長選択膜とは波長の選択特性が異なり、前記抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第2の波長選択膜と
を備え、
前記第1のウインドウ及び前記第2のウインドウの組と前記第1のミラー及び前記第2のミラーの組とのいずれか1組に、前記第1の波長選択膜及び前記第2の波長選択膜が設けられている
レーザ装置。
【請求項13】
EUV光が生成されるプラズマチャンバと、パルスレーザ光を前記プラズマチャンバの内部に供給するレーザ装置とを備え、
前記レーザ装置は、
前記パルスレーザ光のシードとなる所望波長のレーザ光を出力するマスタオシレータと、
前記マスタオシレータからの前記レーザ光を増幅する少なくとも1つのレーザ増幅器と
を含み、
前記少なくとも1つのレーザ増幅器のうち、少なくとも1つは、
レーザ媒質を収容する増幅チャンバと、
前記増幅チャンバに設けられ、外部からのレーザ光を前記増幅チャンバの内部に入射させる第1のウインドウと、
前記増幅チャンバの内部に入射された前記レーザ光を、前記レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置と、
前記増幅チャンバに設けられ、前記励起装置によって増幅された前記レーザ光を前記増幅チャンバの外部に出力させる第2のウインドウと、
前記第1のウインドウと前記第2のウインドウとの間のレーザ光路上に設けられた第1及び第2のミラーと、
前記第1のウインドウまたは前記第1のミラーに設けられ、前記所望波長とは異なる抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第1の波長選択膜と、
前記第2のウインドウまたは前記第2のミラーに設けられ、前記第1の波長選択膜とは波長の選択特性が異なり、前記抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第2の波長選択膜と
を備え、
前記第1のウインドウ及び前記第2のウインドウの組と前記第1のミラー及び前記第2のミラーの組とのいずれか1組に、前記第1の波長選択膜及び前記第2の波長選択膜が設けられている
極端紫外光生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ増幅器、及びレーザ装置、並びにレーザ装置から出力されたパルスレーザ光に基づいて極端紫外(EUV)光を生成するための極端紫外光生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴って、半導体プロセスの光リソグラフィにおける転写パターンの微細化が急速に進展している。次世代においては、70nm〜45nmの微細加工、さらには32nm以下の微細加工が要求されるようになる。このため、例えば32nm以下の微細加工の要求に応えるべく、波長13nm程度の極端紫外(EUV)光を生成するための極端紫外光生成装置と縮小投影反射光学系(reduced projection reflective optics)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
EUV光生成装置としては、ターゲット物質にレーザ光を照射することによって生成されるプラズマを用いたLPP(Laser Produced Plasma:レーザ励起プラズマ)方式の装置と、放電によって生成されるプラズマを用いたDPP(Discharge Produced Plasma)方式の装置と、軌道放射光を用いたSR(Synchrotron Radiation)方式の装置との3種類の装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−103104号公報
【特許文献2】特許5086677号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/0327192号明細書
【0005】
本開示によるレーザ増幅器は、レーザ媒質を収容するチャンバと、チャンバに設けられ、外部から所望波長のレーザ光をチャンバの内部に入射させる第1のウインドウと、チャンバの内部に入射されたレーザ光を、レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置と、チャンバに設けられ、励起装置によって増幅されたレーザ光をチャンバの外部に出力させる第2のウインドウと、第1のウインドウと第2のウインドウとの間のレーザ光路上に設けられた
第1及び第2のミラーと、第1のウインドウ
または第1のミラーに設けられ、所望波長とは異なる抑制対象波長の光の伝搬を抑制する
第1の波長選択膜と
、第2のウインドウまたは第2のミラーに設けられ、第1の波長選択膜とは波長の選択特性が異なり、抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第2の波長選択膜とを備え、第1のウインドウ及び第2のウインドウの組と第1のミラー及び第2のミラーの組とのいずれか1組に、第1の波長選択膜及び第2の波長選択膜が設けられていてもよい。
【0006】
本開示によるレーザ装置は、所望波長のレーザ光を出力するマスタオシレータと、マスタオシレータからのレーザ光を増幅する少なくとも1つのレーザ増幅器とを含み、少なくとも1つのレーザ増幅器のうち、少なくとも1つは、レーザ媒質を収容するチャンバと、チャンバに設けられ、外部からのレーザ光をチャンバの内部に入射させる第1のウインドウと、チャンバの内部に入射されたレーザ光を、レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置と、チャンバに設けられ、励起装置によって増幅されたレーザ光をチャンバの外部に出力させる第2のウインドウと、第1のウインドウと第2のウインドウとの間のレーザ光路上に設けられた
第1及び第2のミラーと、第1のウインドウ
または第1のミラーに設けられ、所望波長とは異なる抑制対象波長の光の伝搬を抑制する
第1の波長選択膜と
、第2のウインドウまたは第2のミラーに設けられ、第1の波長選択膜とは波長の選択特性が異なり、抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第2の波長選択膜とを備え、第1のウインドウ及び第2のウインドウの組と第1のミラー及び第2のミラーの組とのいずれか1組に、第1の波長選択膜及び第2の波長選択膜が設けられていてもよい。
【0007】
本開示による極端紫外光生成システムは、EUV光が生成されるプラズマチャンバと、パルスレーザ光をプラズマチャンバの内部に供給するレーザ装置とを備え、レーザ装置は、パルスレーザ光のシードとなる所望波長のレーザ光を出力するマスタオシレータと、マスタオシレータからのレーザ光を増幅する少なくとも1つのレーザ増幅器とを含み、少なくとも1つのレーザ増幅器のうち、少なくとも1つは、レーザ媒質を収容する増幅チャンバと、増幅チャンバに設けられ、外部からのレーザ光を増幅チャンバの内部に入射させる第1のウインドウと、増幅チャンバの内部に入射されたレーザ光を、レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置と、増幅チャンバに設けられ、励起装置によって増幅されたレーザ光を増幅チャンバの外部に出力させる第2のウインドウと、第1のウインドウと第2のウインドウとの間のレーザ光路上に設けられた第1及び第2のミラーと、第1のウインドウまたは第1のミラーに設けられ、所望波長とは異なる抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第1の波長選択膜と、第2のウインドウまたは第2のミラーに設けられ、第1の波長選択膜とは波長の選択特性が異なり、抑制対象波長の光の伝搬を抑制する第2の波長選択膜とを備え、第1のウインドウ及び第2のウインドウの組と第1のミラー及び第2のミラーの組とのいずれか1組に、第1の波長選択膜及び第2の波長選択膜が設けられていてもよい
。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【
図1】
図1は、例示的なLPP式のEUV光生成システムの一構成例を概略的に示す。
【
図2】
図2は、マスタオシレータとレーザ増幅器とを含むレーザ装置の一構成例を概略的に示す。
【
図3】
図3は、CO
2レーザガスをレーザ媒質とする場合における増幅ラインとゲインとの関係を示す。
【
図4】
図4は、自励発振による増幅ゲイン及びパルスレーザ光の出力の低下の一例を示す。
【
図5】
図5は、ミラーに波長選択膜が設けられたレーザ増幅器の一構成例を概略的に示す。
【
図6】
図6は、第2のミラーに設けられる波長選択膜の分光反射率特性の一例を示す。
【
図7】
図7は、第1のミラーに設けられる波長選択膜の分光反射率特性の一例を示す。
【
図8】
図8は、波長選択膜が設けられミラーの一構成例を概略的に示す。
【
図9】
図9は、第1及び第2のミラーの波長選択膜として適用可能な分光反射率特性の組み合わせの第1の例を示す。
【
図10】
図10は、第1及び第2のミラーの波長選択膜として適用可能な分光反射率特性の組み合わせの第2の例を示す。
【
図11】
図11は、第1及び第2のミラーの波長選択膜として適用可能な分光反射率特性の組み合わせの第3の例を示す。
【
図12】
図12は、第1のミラーの波長選択膜として実施可能な分光反射率特性の一具体例を示す。
【
図13】
図13は、第2のミラーの波長選択膜として実施可能な分光反射率特性の一具体例を示す。
【
図14】
図14は、ウインドウに波長選択膜が設けられたレーザ増幅器の一構成例を概略的に示す。
【
図15】
図15は、第1及び第2のウインドウの波長選択膜として適用可能な分光反射率特性の組み合わせの一例を示す。
【
図16】
図16は、レーザ光路が交差しないスラブ型増幅器の一構成例を概略的に示す。
【
図17】
図17は、
図16に示したスラブ型増幅器をY1−Y1’線方向から見た一構成例を概略的に示す。
【
図18】
図18は、同軸型スラブ増幅器の全体構成の一例を概略的に示す。
【
図19】
図19は、
図18に示した同軸型スラブ増幅器をZ方向から見た一構成例を概略的に示す。
【
図20】
図20は、高速軸流型増幅器の一構成例を概略的に示す。
【
図21】
図21は、
図20に示した高速軸流型増幅器をX1−X1’線方向から見た一構成例を概略的に示す。
【
図23】
図23は、3枚以上のミラーを含むレーザ増幅器に適用可能な波長選択膜の分光反射率特性の組み合わせの一例を示す。
【
図24】
図24は、
図23に示した波長選択膜の分光反射率特性の組み合わせを高速軸流型増幅器に適用した第1の例を示す。
【
図25】
図25は、
図23に示した波長選択膜の分光反射率特性の組み合わせを高速軸流型増幅器に適用した第2の例を示す。
【
図26】
図26は、3軸直交型増幅器の一構成例を概略的に示す。
【
図27】
図27は、
図26に示した3軸直交型増幅器をZ1−Z1’線方向から見た一構成例を概略的に示す。
【0009】
<内容>
[1.概要]
[2.EUV光生成装置の全体説明]
2.1 構成
2.2 動作
[3.マスタオシレータとレーザ増幅器とを含むレーザ装置]
3.1 構成
3.2 動作
3.3 課題
[4.ミラーに波長選択膜が設けられたレーザ増幅器](第1の実施形態)
4.1 構成
4.1.1 レーザ増幅器(スラブ型増幅器)の構成
4.1.2 ミラーの構成
4.1.3 波長選択膜の材料、及びミラーの基板材料
4.2 動作
4.3 作用
4.4 分光反射率特性の組み合わせの例
[5.ウインドウに波長選択膜が設けられたレーザ増幅器](第2の実施形態)
[6.レーザ増幅器の変形例](第3の実施形態)
6.1 レーザ光路が交差しないタイプのスラブ型増幅器
6.2 同軸型スラブ増幅器
6.3 高速軸流型増幅器
6.4 3枚以上のミラーを含むレーザ増幅器に適用可能な波長選択膜の分光反射率特性の組み合わせの例
6.5 3軸直交型増幅器
6.6 再生増幅器
6.6.1 構成
6.6.2 動作
6.6.3 効果
[7.その他]
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
[1.概要]
本開示は、ターゲットにレーザ光を照射することによってEUV光を生成するEUV光生成装置に用いられるレーザ装置を構成するレーザ増幅器に関する。また、少なくとも1つの波長の光の伝搬を抑制する波長選択膜が設けられた光学素子を含むレーザ増幅器に関する。
【0012】
[2.EUV光生成システムの全体説明]
(2.1 構成)
図1に、例示的なLPP式のEUV光生成システムの構成を概略的に示す。EUV光生成装置1は、少なくとも1つのレーザ装置3と共に用いられてもよい。本願においては、EUV光生成装置1及びレーザ装置3を含むシステムを、EUV光生成システム11と称する。
図1に示し、かつ、以下に詳細に説明するように、EUV光生成装置1は、チャンバ2、及びターゲット供給装置として例えばターゲット供給部26を含んでもよい。チャンバ2は、密閉可能であってもよい。ターゲット供給部26は、例えば、チャンバ2の壁を貫通するように取り付けられてもよい。ターゲット供給部26から供給されるターゲット物質の材料は、スズ、テルビウム、ガドリニウム、リチウム、キセノン、又は、それらの内のいずれか2つ以上の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0013】
チャンバ2の壁には、少なくとも1つの貫通孔が設けられていてもよい。その貫通孔には、ウインドウ21が設けられてもよい。ウインドウ21をレーザ装置3から出力されるパルスレーザ光32が透過してもよい。チャンバ2の内部には、例えば、回転楕円面形状の反射面を有するEUV集光ミラー23が配置されてもよい。EUV集光ミラー23は、第1及び第2の焦点を有し得る。EUV集光ミラー23の表面には、例えば、モリブデンとシリコンとが交互に積層された多層反射膜が形成されていてもよい。EUV集光ミラー23は、例えば、その第1の焦点がプラズマ生成領域25又はその近傍に位置し、その第2の焦点が露光装置6の仕様によって規定される所望の集光位置である中間集光点(IF)292に位置するように配置されるのが好ましい。EUV集光ミラー23の中央部には貫通孔24が設けられていてもよく、貫通孔24をパルスレーザ光33が通過してもよい。
【0014】
EUV光生成装置1は、EUV光生成制御部5を含むことができる。またEUV光生成制御部5は、ターゲットセンサ4等を含むことができる。ターゲットセンサ4は、ターゲット27の存在、軌跡、位置、及び速度の内の少なくとも1つを検出しても良い。ターゲットセンサ4は、撮像機能を有していても良い。
【0015】
さらに、EUV光生成装置1は、チャンバ2の内部と露光装置6の内部とを連通する接続部29を含んでもよい。接続部29内部には、アパーチャ293が形成された壁291が設けられてもよい。壁291は、そのアパーチャ293がEUV集光ミラー23の第2の焦点位置に位置するように配置されてもよい。
【0016】
さらに、EUV光生成装置1は、レーザ光進行方向制御部34、レーザ光集光ミラー22、ターゲット27を回収するためのターゲット回収部28等を含んでもよい。レーザ光進行方向制御部34は、レーザ光の進行方向を制御するために、レーザ光の進行方向を規定するための光学素子と、この光学素子の位置、姿勢等を調整するためのアクチュエータとを備えてもよい。
【0017】
(2.2 動作)
図1を参照に、レーザ装置3から出力されたパルスレーザ光31は、レーザ光進行方向制御部34を経て、パルスレーザ光32としてウインドウ21を透過してチャンバ2内に入射してもよい。パルスレーザ光32は、少なくとも1つのレーザ光の経路に沿ってチャンバ2内に進み、レーザ光集光ミラー22で反射されて、パルスレーザ光33として少なくとも1つのターゲット27に照射されてもよい。
【0018】
ターゲット供給部26は、ターゲット27をチャンバ2内部のプラズマ生成領域25に向けて出力するよう構成されてもよい。ターゲット27には、パルスレーザ光33に含まれる少なくとも1つのパルスが照射されてもよい。パルスレーザ光が照射されたターゲット27はプラズマ化し、そのプラズマから放射光と共にEUV光251が放射され得る。EUV光251は、EUV集光ミラー23によって反射されると共に集光されてもよい。EUV集光ミラー23によって反射されたEUV光252は、中間集光点292を通って、露光装置6に出力されてもよい。なお、1つのターゲット27に、パルスレーザ光33に含まれる複数のパルスが照射されてもよい。
【0019】
EUV光生成制御部5は、EUV光生成システム11全体の制御を統括するよう構成されてもよい。EUV光生成制御部5は、ターゲットセンサ4によって撮像されたターゲット27のイメージデータ等を処理するよう構成されてもよい。また、EUV光生成制御部5は、例えば、ターゲット27が出力されるタイミングの制御、及びターゲット27の出力方向の制御の内の少なくとも1つを制御するよう構成されてもよい。
【0020】
さらに、EUV光生成制御部5は、例えば、レーザ装置3の発振タイミングの制御、パルスレーザ光32の進行方向の制御、及びパルスレーザ光33の集光位置の制御の内の少なくとも1つを制御するよう構成されてもよい。上述の様々な制御は単なる例示に過ぎず、必要に応じて他の制御が追加されてもよい。
【0021】
[3.マスタオシレータとレーザ増幅器とを含むレーザ装置]
(3.1 構成)
図2を参照して、LPP式のEUV光生成装置に用いられるレーザ装置3の一構成例について説明する。LPP式のEUV光生成装置では、レーザ装置3として、CO
2レーザ装置を含むものが用いられてもよい。レーザ装置3として用いられるCO
2レーザ装置は、高いパルスエネルギのパルスレーザ光を高い繰り返し周波数で出力することが求められてもよい。このため、レーザ装置3は、高い繰り返し周波数でパルスレーザ光31mを出力するマスタオシレータ(MO:master oscillator)110と、パルスレーザ光31mを増幅する少なくとも1つのレーザ増幅器とを備えてもよい。例えば
図2に示したように、レーザ増幅器として、複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnを含んでもよい。
【0022】
マスタオシレータ110は、Qスイッチを含むCO
2レーザ、または、CO
2レーザの増幅波長域で発振する量子カスケードレーザ(QCL)であってもよい。複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnはそれぞれ、CO
2レーザガスをレーザ媒質とするレーザ増幅器であってもよい。複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnはそれぞれ、CO
2レーザガスを含むチャンバ内に配置された1対の電極62a,62bを含んでもよい。複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnにはそれぞれ、外部からのパルスレーザ光をチャンバの内部に入射させる入力ウインドウ61aと、増幅されたパルスレーザ光をチャンバの外部に出力させる出力ウインドウ61bとが配置されていてもよい。複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnはそれぞれ、マスタオシレータ110から出力されるパルスレーザ光31mの光路上に、直列に配置されてもよい。
【0023】
(3.2 動作)
複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnはそれぞれ、図示しない各々の電源によって一対の電極62a,62b間に電圧を印加し、放電させてもよい。マスタオシレータ110のQスイッチを所定の繰り返し周波数で動作させてもよい。その結果、マスタオシレータ110から所定の繰り返し周波数で、パルスレーザ光31mが出力され得る。
【0024】
複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnではそれぞれ、マスタオシレータ110から出力されたパルスレーザ光31mが入射されていない場合においても、図示しない電源によって、放電を発生させて、レーザ媒質を励起し得る。マスタオシレータ110から出力されたパルスレーザ光31mは、シード光として1番目の増幅器PA1に入射し、1番目の増幅器PA1内を通過することによって増幅され、出力され得る。1番目の増幅器PA1から増幅され、出力されたパルスレーザ光は、シード光として2番目の増幅器PA2に入射し、2番目の増幅器PA2内を通過することによってさらに増幅され、出力され得る。同様に、k−1番目の増幅器PAk−1から出力されたパルスレーザ光は、シード光としてk番目の増幅器PAkに入射し、k番目の増幅器PAk内を通過することによってさらに増幅され、出力され得る。そして、n−1番目の増幅器PAn−1から出力されたパルスレーザ光は、シード光としてn番目の増幅器PAnに入射し、n番目の増幅器PAn内を通過することによってさらに増幅され、出力され得る。
【0025】
n番目の増幅器PAnより出力されたパルスレーザ光31は、
図1に示したEUV光生成装置1におけるプラズマチャンバとしてのチャンバ2内に入射し、レーザ光集光光学系22aによりプラズマ生成領域25に集光され得る。プラズマ生成領域25に集光されたパルスレーザ光33は、プラズマ生成領域25におけるターゲット27に照射され得る。パルスレーザ光33が集光されたターゲット27はプラズマ化し、プラズマからEUV光が放射され得る。なお、レーザ光集光光学系22aは、
図1に示されるレーザ光集光ミラー22に対応する1または複数の反射型の光学素子で構成してもよいし、レンズを含む屈折系の光学系であってもよい。
【0026】
(3.3 課題)
マスタオシレータ110と、少なくとも1つのレーザ増幅器とを組み合わせたCO
2レーザ装置は、マスタオシレータ110から出力されたパルスレーザ光31mと関係なく、少なくとも1つのレーザ増幅器から出力される自然放出(ASE:Amplified Spontaneous Emission)光36によって自励発振する可能性がある。本願発明者は、そのような自励発振する光として、シード光となる波長10.59μmの光だけでなく、波長9.27μm、波長9.59μm、及び波長10.24μmのASE光36が出力され得ることを発見した。シード光以外のASE光36が他のレーザ増幅器に入射すると、ASE光36が入射したレーザ増幅器はシード光以外のASE光36を増幅してしまうことがある。この結果、シード光を増幅する際の増幅率が低下し得る。よって、波長9.27μm、波長9.59μm、及び波長10.24μmのASE光36による自励発振を抑制することが求められる。なお、シード光とは、レーザ増幅器による増幅対象のレーザ光のことであってもよい。例えば
図2において、1番目の増幅器PA1では、マスタオシレータ110から出力されたパルスレーザ光31mがシード光になり得る。2番目の増幅器PA2では、1番目の増幅器PA1によって増幅され、出力されたパルスレーザ光がシード光になり得る。
【0027】
ここで、
図2に示したように、例えばn番目の増幅器PAnにおいて発生したASE光36が、マスタオシレータ110の設けられている方向に進行し、複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAn−1によって増幅され、自励発振光となり得る。また、1番目の増幅器PA1において発生したASE光36は、チャンバ2の設けられている方向に進行し、複数の増幅器PA2,…PAk,…PAnによって増幅され、自励発振光となり得る。このように、あるレーザ増幅器において発生したASE光36は、他のレーザ増幅器によって増幅され自励発振光となり得る。本願発明者は、CO
2レーザガスをゲイン媒質とする場合、表1及び
図3に示されるように、4つの波長域で自励発振し得ることを発見した。
図3は、CO
2レーザガスをゲイン媒質とする場合における増幅ラインとゲインの関係を示す。
【0029】
具体的には、CO
2レーザガスをゲイン媒質とする場合、波長9.27μm帯(9R)、波長9.59μm帯(9P)、波長10.24μm帯(10R)、及び波長10.59μm帯(10P)において自励発振し得ることを発見した。これらの波長帯においては、ゲインが大きく複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnによって自励発振が起こり易い。このうち、シード光となる波長10.59μm帯を除く、波長9.27μm帯、波長9.59μm帯、波長10.24μm帯におけるASE光36は、レーザ装置3より出力されるパルスレーザ光31の出力の低下やパルス波形に悪影響を及ぼし得る。その結果、EUV光の出力が低下し得る。
【0030】
図4の上段は、レーザ増幅器の増幅ゲインの時間変化の一例を示している。
図4の下段は、レーザ増幅器のパルスレーザ光の出力の時間変化の一例を示している。
図4では、自励発振がある場合と自励発振がない場合との増幅ゲイン及びパルスレーザ光の出力の時間変化を比較している。
図4に示すように、自励発振は、レーザ増幅器の増幅ゲインを消費して増幅率の低下を招き、パルスレーザ光の出力を低下させ得る。また、自励発振光がマスタオシレータ110に入射した場合、自励発振光によってマスタオシレータ110の光学部品が損傷を受ける場合があり得る。
【0031】
[4.ミラーに波長選択膜が設けられたレーザ増幅器](第1の実施形態)
(4.1 構成)
4.1.1 レーザ増幅器(スラブ型増幅器)の構成
図5を参照して、本開示の第1の実施形態に係るレーザ増幅器の構成を説明する。
図5は、レーザ増幅器の一例としてスラブ型増幅器の構成例を示している。
図5において上段はレーザ増幅器を側面方向から見た断面構成、下段はレーザ増幅器を上面方向から見た断面構成を示す。
図2における複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnの少なくとも1つに、
図5に示したスラブ型増幅器を適用してもよい。
【0032】
スラブ型増幅器は、増幅チャンバ60と、入力ウインドウ61aと、出力ウインドウ61bと、一対の電極62a,62bと、第1のミラー63aと、第2のミラー63bと、RF(高周波)電源65とを含んでもよい。
【0033】
増幅チャンバ60は、内部にレーザ媒質としてCO
2レーザガスを収容してもよい。一対の電極62a,62bとRF電源65は、増幅チャンバ60の内部に入射されたシード光35aを、レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置であってもよい。一対の電極62a,62bは増幅チャンバ60の内部に設けられ、放電によって放電領域64においてレーザ媒質を励起するものであってもよい。RF電源65は、一対の電極62a,62bにRF電圧を供給するものであってもよい。励起装置によって励起されたレーザ媒質は、所望の波長の光と少なくとも1つの抑制対象波長の光とを増幅可能であってもよい。所望の波長の光は、シード光35aであってもよい。抑制対象波長の光は、シード光の波長以外の波長のASE光36であってもよい。抑制対象波長の光はまた、ASE光36による自励発振光であってもよい。
【0034】
入力ウインドウ61aは、増幅チャンバ60の壁に設けられ、入力レーザ光としてのシード光35aを増幅チャンバ60の内部に入射させる第1のウインドウであってもよい。出力ウインドウ61bは、増幅チャンバ60の壁に設けられ、励起装置によって増幅されたレーザ光を増幅レーザ光35bとして増幅チャンバ60の外部に出力させる第2のウインドウであってもよい。
【0035】
第1のミラー63aと第2のミラー63bは、入力ウインドウ61aと出力ウインドウ61bとの間のレーザ光路上に設けられ、増幅チャンバ60の内部でレーザ光を反射してもよい。第1のミラー63a及び第2のミラー63bはそれぞれ、平面ミラーであっても凹面ミラーであってもよく、好ましくはシリンドリカル凹面ミラーであってもよい。第1のミラー63a及び第2のミラー63bのうち、少なくとも1つには、所望の波長とは異なる少なくとも1つの抑制対象波長の光の伝搬を抑制する波長選択膜が設けられてもよい。
【0036】
4.1.2 ミラーの構成
第1のミラー63aと第2のミラー63bとにそれぞれ波長選択膜を設ける場合、それぞれの波長選択膜は互いに波長の選択特性が異なっていてもよい。それぞれの波長選択膜は抑制対象波長の光に比べて所望の波長の光に対して高い反射率を持っていてもよい。また、所望の波長以外の波長に対して反射率を低く設定してもよい。
【0037】
例えば、λ1を所望の波長とした場合、第2のミラー63bに設けられる波長選択膜の分光反射率特性M2を
図6のように設定してもよい。
図6の分光反射率特性における縦軸は反射率Rを示し、横軸λは波長を示す。以降の説明における他の分光反射率特性においても縦軸及び横軸は同様であってよい。また、第1のミラー63aに設けられる波長選択膜の分光反射率特性M1を
図7のように設定してもよい。λ1は10.59μmであってもよい。λ2は10.24μmであってもよい。λ3は9.59μmであってもよい。λ4は9.27μmであってもよい。レーザ増幅器の内部において、ミラーに波長選択膜を設けることで、所望の波長以外の波長のレーザ光の反射による損失を大きくし、所望の波長以外のレーザ光による自励発振を抑制し得る。
【0038】
4.1.3 波長選択膜の材料、及びミラーの基板材料
図8は、波長選択膜が設けられた第1のミラー63aまたは第2のミラー63bの一構成例を示している。
図8に示したように、基板71上に波長選択膜70をコーティングし、波長選択膜70の表面を反射面75としてもよい。
【0039】
波長選択膜70は、屈折率の異なる2種類の材料を交互に積層したコーティング膜によって構成されてもよい。さらに、波長選択膜70は、高屈折率材料と低屈折率材料とが交互に積層された膜でもよい。高屈折率材料は例えばZnSe、ZnS、低屈折率材料は例えばThF
4、PbF
2であってもよい。高屈折率材料、及び低屈折率材料のそれぞれの膜厚を制御することによって所望の分光反射率特性を実現してもよい。
【0040】
基板71の材料としては、Si、GaAs、ZnSe、ダイヤモンド等でもよい。また、基板71は温度調節機構を備えてもよい。温度調節機構は基板71に形成された温度調節媒体通路72と温度調節器73と温度調節媒体循環装置74とを組み合わせたものでもよい。波長選択膜70を透過して基板71に到達した一部の波長のレーザ光は基板71を加熱することがある。温度調節機構によってこの熱を排出し、基板71が過熱しないようにしてもよい。
【0041】
(4.2 動作)
RF電源65から一対の電極62a,62bにRF電圧を供給している状態で、入力ウインドウ61aからシード光35aとなるレーザ光を増幅チャンバ60の内部に入射させてもよい。入射されたレーザ光は増幅チャンバ60の内部で第1のミラー63aと第2のミラー63bとによって反射されながら、一対の電極62a,62b間で励起されたレーザ媒質中を通過することで増幅され、出力ウインドウ61bから増幅レーザ光35bとして出力され得る。レーザ光は第1のミラー63aと第2のミラー63bとの間で複数回反射されてもよい。このとき、
図6及び
図7に示したような分光反射率特性M1,M2を持つ波長選択膜が設けられていることにより、第1のミラー63aと第2のミラー63bとで反射される所望の波長以外の波長のレーザ光は、反射損失が大きいため、増幅が抑制され得る。この結果、所望の波長のレーザ光は増幅される一方、所望の波長以外の光による自励発振が抑制され得る。
【0042】
(4.3 作用)
この第1の実施形態によれば、増幅したいレーザ光の波長以外の波長による自励発振が抑制され得る。このため、レーザ増幅器の増幅率が低下せず、高い増幅効率でレーザ光を増幅し得る。
図2に示したレーザ装置に適用した場合に、マスタオシレータ110の光学部品が自励発振光による損傷を受けにくい。結果として、レーザ出力の変動が抑制され安定した増幅動作が得られ得る。
【0043】
(4.4 分光反射率特性の組み合わせの例)
図9は、第1及び第2のミラー63a,63bの波長選択膜として適用可能な分光反射率特性M1,M2の組み合わせの第1の例を示している。
図10は、第1及び第2のミラー63a,63bの波長選択膜として適用可能な分光反射率特性M1,M2の組み合わせの第2の例を示している。第1のミラー63aの波長選択膜の分光反射率特性M1、及び第2のミラー63bの波長選択膜の分光反射率特性M2のいずれかが、所望の波長における反射率が、他の波長における反射率よりも高い反射率特性を有していてもよい。例えば
図9に示したように、第1のミラー63aの波長選択膜の分光反射率特性M1を、所望の波長λ1における反射率が他の波長における反射率よりも高い反射率特性となるように設定してもよい。また例えば
図10に示したように、第2のミラー63bの波長選択膜の分光反射率特性M2を、所望の波長λ1における反射率が他の波長における反射率よりも高い反射率特性となるように設定してもよい。
【0044】
図11は、第1及び第2のミラー63a,63bの波長選択膜として適用可能な分光反射率特性M1,M2の組み合わせの第3の例を示している。例えば
図11に示したように、第1及び第2のミラー63a,63bの波長選択膜の分光反射率特性M1,M2を組み合わせて使用して、所望の波長λ1のみ反射率が高くなる反射率特性となるように設定してもよい。このようにすることで、他の波長の損失を高め、自励発振を抑制してもよい。
【0045】
図12は、第1のミラー63aの波長選択膜として実施可能な分光反射率特性M1の一具体例を示している。
図13は、第2のミラー63bの波長選択膜として実施可能な分光反射率特性M2の一具体例を示している。
図12及び
図13に示したような、それぞれ互いに異なる分光反射率特性M1,M2を持つ2種類の波長選択膜を組み合わせて使用してもよい。2種類の波長選択膜を用いて、他の波長として波長9.27μm、波長9.59μm、及び波長10.24μmの反射率を抑え、所望の波長10.59μmの反射率を高く維持するようにしてもよい。
【0046】
[5.ウインドウに波長選択膜が設けられたレーザ増幅器](第2の実施形態)
図14を参照して、本開示の第2の実施形態に係るレーザ増幅器の構成を説明する。
図14に示したレーザ増幅器は、
図5に示したレーザ増幅器と略同様のスラブ型増幅器の構成を有しているが、波長選択膜が設けられた部位が異なっている。
図2における複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnの少なくとも1つに、
図14に示したスラブ型増幅器を適用してもよい。
【0047】
図14の構成例のように、入力ウインドウ61a及び出力ウインドウ61bのうち、少なくとも1つに、所望の波長とは異なる少なくとも1つの抑制対象波長の光の伝搬を抑制する波長選択膜が設けられていてもよい。また、上記第1の実施形態の構成と組み合わせて、さらに第1のミラー63a及び第2のミラー63bのうち、少なくとも1つに波長選択膜が設けられていてもよい。
【0048】
入力ウインドウ61aと出力ウインドウ61bとにそれぞれ波長選択膜を設ける場合、それぞれの波長選択膜は互いに波長の選択特性が異なっていてもよい。それぞれの波長選択膜は抑制対象波長の光に比べて所望の波長の光に対して反射率を低く、すなわち高い透過率を持っていてもよい。また、所望の波長以外の波長における反射率を高く、すなわち透過率を低く設定してもよい。
【0049】
図15は、第1及び第2のウインドウ61a,61bの波長選択膜として適用可能な分光反射率特性W1,W2の組み合わせの一例を示している。
図15に示したように、第1のウインドウ61aの波長選択膜の分光反射率特性W1と、第2のウインドウ61bの波長選択膜の分光反射率特性W2とを略同じにしてもよい。
【0050】
第1及び第2のウインドウ61a,61bに波長選択膜を設けると、波長選択膜によってASE光36または自励発振光が高反射され、不要な反射光になり得る。その不要な反射光が一対の電極62a,62b間に進行しないよう、
図14に示したように、第1及び第2のウインドウ61a,61bを傾けて配置してもよい。さらに、第1及び第2のウインドウ61a,61bの波長選択膜を薄膜ポラライザ(TFP)にすることで、所望の波長、及び所望の偏光の光以外を反射してもよい。これにより、自励発振光を抑制してもよい。波長選択膜を構成するコーティング材料は、第1及び第2のミラー63a,63bに設ける波長選択膜のコーティング材料と略同様でよい。基板材料は、所望の波長に対して高い透過率を示すZnSe、ダイヤモンド等でもよい。
【0051】
[6.レーザ増幅器の変形例](第3の実施形態)
上記第1及び第2の実施形態では、レーザ増幅器としてスラブ型増幅器の構成例を示したが、それとは異なるタイプのスラブ型増幅器におけるミラーまたはウインドウに波長選択膜を設けた構成であってもよい。または、スラブ型以外のタイプのレーザ増幅器におけるミラーまたはウインドウに波長選択膜を設けた構成であってもよい。また、いずれのタイプであっても、ミラー及びウインドウの双方に波長選択膜を設けてもよい。
【0052】
(6.1 レーザ光路が交差しないタイプのスラブ型増幅器)
図16及び
図17は、上記第1及び第2の実施形態におけるスラブ型増幅器とは異なるタイプのスラブ型増幅器の一構成例を示している。
図16はスラブ型増幅器を側面方向から見た断面構成、
図17は
図16に示したスラブ型増幅器をY1−Y1’線方向から見た断面構成を示している。
図2における複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnの少なくとも1つに、
図16及び
図17に示したスラブ型増幅器を適用してもよいが、
図17ではk番目の増幅器PAkに適用した例を示している。
【0053】
図16及び
図17に示したスラブ型増幅器は、例えば
図5における第1のミラー63aに代えて第1の凹面ミラー66aを備えていてもよい。また、
図5における第2のミラー63bに代えて第2の凹面ミラー66bを備えていてもよい。
図17に示したように、入力ウインドウ61aと出力ウインドウ61bとの間におけるレーザ光路上において、レーザ光が交差しないように、第1の凹面ミラー66aと第2の凹面ミラー66bとが配置され、第1の凹面ミラー66aと第2の凹面ミラー66bとによってレーザ光が複数回、反射され得る。第1の凹面ミラー66aと第2の凹面ミラー66bとは、平面ミラーであってもよいが、好ましくはシリンドリカル凹面ミラーであってもよい。
【0054】
このようなレーザ光路が交差しないスラブ型増幅器において、第1の凹面ミラー66a及び第2の凹面ミラー66bの少なくとも1つに、上記第1の実施形態と同様の波長選択膜が設けられてもよい。または、入力ウインドウ61a及び出力ウインドウ61bの少なくとも1つに、上記第2の実施形態と同様の波長選択膜が設けられてもよい。
【0055】
(6.2 同軸型スラブ増幅器)
図18及び
図19は、上記第1及び第2の実施形態におけるスラブ型増幅器とは異なるタイプのスラブ型増幅器である同軸型スラブ増幅器の構成例を示している。
図19は、
図18に示した同軸型スラブ増幅器を
図18におけるZ方向から見た一構成例を示している。
図2における複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnの少なくとも1つに、
図18及び
図19に示した同軸型スラブ増幅器を適用してもよい。
【0056】
同軸型スラブ増幅器は、円筒状の増幅チャンバ160と、入力ウインドウ161aと、出力ウインドウ161bと、同軸状に配置された2つの円筒電極162a,162bと、第1ないし第8のミラー171〜178と、RF電源65とを含んでもよい。
【0057】
増幅チャンバ160は、内部にレーザ媒質としてCO
2レーザガスを収容してもよい。円筒電極162a,162bとRF電源65は、増幅チャンバ160の内部に入射されたシード光35aを、レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置であってもよい。円筒電極162a,162bは増幅チャンバ160の内部に設けられ、放電によって放電領域164においてレーザ媒質を励起するものであってもよい。RF電源65は、円筒電極162a,162bにRF電圧を供給するものであってもよい。励起装置によって励起されたレーザ媒質は、所望の波長の光と少なくとも1つの抑制対象波長の光とを増幅可能であってもよい。
【0058】
増幅チャンバ160は互いに対向する第1の面と第2の面とを含んでいてもよい。第1の面側に、入力ウインドウ161aと、第2のミラー172と、第4のミラー174と、第6のミラー176と、第8のミラー178とが配置されてもよい。第2の面側に、出力ウインドウ161bと、第1のミラー171と、第3のミラー173と、第5のミラー175と、第7のミラー178とが配置されてもよい。
【0059】
図19に示したように、シード光35aとしてのレーザ光が入射されるZ方向側から見て、第1ないし第8のミラー171〜178が互いに重ならないように配置されてもよい。そして、入射されたレーザ光が、第1ないし第8のミラー171〜178によって順番に反射されるような配置となっていてもよい。第1ないし第8のミラー171〜178は、入射されたレーザ光が、同軸状に配置された2つの円筒電極162a,162bによって囲まれた空間を往復するように配置されてもよい。入射されたレーザ光は、2つの円筒電極162a,162bによって囲まれた空間で励起されたレーザ媒質中を通過することで増幅され、出力ウインドウ161bから増幅レーザ光35bとして出力され得る。
【0060】
このような同軸型スラブ増幅器において、第1ないし第8のミラー171〜178の少なくとも1つに、上記第1の実施形態と同様の波長選択膜が設けられてもよい。また、入力ウインドウ161a及び出力ウインドウ161bの少なくとも1つに、上記第2の実施形態と同様の波長選択膜が設けられてもよい。また、後述する
図23に示すような分光反射率特性を持つ波長選択膜が設けられてもよい。
【0061】
(6.3 高速軸流型増幅器)
図20ないし
図22は、スラブ型以外のタイプのレーザ増幅器である高速軸流型増幅器の構成例を示している。
図21は、
図20に示した高速軸流型増幅器を
図20におけるX1−X1’線方向から見た断面構成例を示している。
図22は、
図20に示した高速軸流型増幅器の全体構成の一例を概略的に示している。
【0062】
高速軸流型増幅器は、増幅チャンバ130と、入力ウインドウ131aと、出力ウインドウ131bと、ブロア136と、第1ないし第8の放電管141〜148と、第1ないし第8のミラー151〜158と、RF電源65とを含んでもよい。第1ないし第8の放電管141〜148にはそれぞれ、一対の電極132a,132bが配置されていてもよい。
【0063】
第1ないし第8の放電管141〜148のそれぞれの内部には、レーザ媒質G1としてCO
2レーザガスが充填されてもよい。第1ないし第8の放電管141〜148のそれぞれにおいて、一対の電極132a,132bとRF電源65とを含む励起装置によって、レーザ媒質G1が励起されてもよい。RF電源65は、第1ないし第8の放電管141〜148のそれぞれにおいて、一対の電極132a,132bにRF電圧を供給するものであってもよい。励起装置によって励起されたレーザ媒質G1は、所望の波長の光と少なくとも1つの抑制対象波長の光とを増幅可能であってもよい。
【0064】
高速軸流型増幅器は、上下方向に2段構成となっていてもよい。上段側には、入力ウインドウ131aと、第1ないし第4の放電管141〜144と、第1ないし第4のミラー151〜154とが配置されていてもよい。下段側には、出力ウインドウ131bと、第5ないし第8の放電管145〜148と、第5ないし第8のミラー155〜158とが配置されていてもよい。
【0065】
ブロア136は、上下方向に連通され、上段側と下段側とにおいて、第1ないし第8の放電管141〜148のそれぞれに対して同軸にレーザ媒質G1を循環させるものであってもよい。
【0066】
この同軸型スラブ増幅器では、Z軸方向から入射されたシード光35aとしてのレーザ光が、入力ウインドウ131aを透過し、第1の放電管141に入射して増幅され得る。第1の放電管141内において増幅されたレーザ光は、第1のミラー151によって反射され、第2の放電管142に入射して増幅され得る。第2の放電管142内において増幅されたレーザ光は、第2のミラー152によって反射され、第3の放電管143に入射して増幅され得る。第3の放電管143内において増幅されたレーザ光は、第3のミラー153によって反射され、第4の放電管144に入射して増幅され得る。
【0067】
第4の放電管144内において増幅されたレーザ光は、第4のミラー154によって反射され、さらに、第5のミラー155によって反射されて、第5の放電管145に入射して増幅され得る。第5の放電管145内において増幅されたレーザ光は、第6のミラー156によって反射され、第6の放電管146に入射して増幅され得る。第6の放電管146内において増幅されたレーザ光は、第7のミラー157によって反射され、第7の放電管147に入射して増幅され得る。第7の放電管147内において増幅されたレーザ光は、第8のミラー158によって反射され、第8の放電管148に入射して増幅され得る。
【0068】
このような高速軸流型増幅器において、第1ないし第8のミラー151〜158の少なくとも1つに、上記第1の実施形態と同様の波長選択膜が設けられてもよい。または、入力ウインドウ131a及び出力ウインドウ131bの少なくとも1つに、上記第2の実施形態と同様の波長選択膜が設けられてもよい。また、後述する
図23に示すような分光反射率特性を持つ波長選択膜が設けられてもよい。
【0069】
(6.4 3枚以上のミラーを含むレーザ増幅器に適用可能な波長選択膜の分光反射率特性の組み合わせの例)
上記した同軸型スラブ増幅器及び高速軸流型増幅器のように、3枚以上のミラーを含むレーザ増幅器には、例えば
図23に示したような分光反射率特性M1,M2,M3を持つ3種類の波長選択膜を適用してもよい。さらに分光反射率特性M4を加えた4種類の波長選択膜を適用してもよい。
【0070】
図24は、
図23に示した4種類の波長選択膜の組み合わせを高速軸流型増幅器に適用した例を示す。
図24に示したように、第1のミラー151に分光反射率特性M1の波長選択膜を適用してもよい。第2のミラー152に分光反射率特性M2の波長選択膜を適用してもよい。第3のミラー153に分光反射率特性M3の波長選択膜を適用してもよい。第4のミラー154に分光反射率特性M4の波長選択膜を適用してもよい。第5のミラー155に分光反射率特性M4の波長選択膜を適用してもよい。第6のミラー156に分光反射率特性M3の波長選択膜を適用してもよい。第7のミラー157に分光反射率特性M2の波長選択膜を適用してもよい。第8のミラー158に分光反射率特性M1の波長選択膜を適用してもよい。これにより、レーザ光は、M1→M2→M3→M4→M4→M3→M2→M1の分光反射率特性で順に反射され得る。このように、4種類の波長選択膜によって2回ずつレーザ光が反射されるようにしてもよい。
【0071】
図25は、
図23に示した3種類の波長選択膜の組み合わせを高速軸流型増幅器に適用した例を示す。
図25に示したように、第1のミラー151に分光反射率特性M1の波長選択膜を適用してもよい。第2のミラー152に分光反射率特性M2の波長選択膜を適用してもよい。第3のミラー153に分光反射率特性M3の波長選択膜を適用してもよい。第4のミラー154に分光反射率特性M1の波長選択膜を適用してもよい。第5のミラー155に分光反射率特性M1の波長選択膜を適用してもよい。第6のミラー156に分光反射率特性M3の波長選択膜を適用してもよい。第7のミラー157に分光反射率特性M2の波長選択膜を適用してもよい。第8のミラー158に分光反射率特性M1の波長選択膜を適用してもよい。これにより、レーザ光は、M1→M2→M3→M1→M1→M3→M2→M1の分光反射率特性で順に反射され得る。このように、第4及び第8のミラー154,158に分光反射率特性M4に代えてM1の波長選択膜を適用することにより、
図3によって説明した比較的ゲインの強い波長、例えばλ2=10.24μmの波長を効果的に減衰させるようにしてもよい。
【0072】
(6.5 3軸直交型増幅器)
図26は、レーザ増幅器のさらに他の例として、3軸直交型増幅器の構成例を示している。
図27は、
図26に示した3軸直交型増幅器をZ1−Z1’線方向から見た断面構成例を示している。
【0073】
3軸直交型増幅器は、増幅チャンバ180と、入力ウインドウ181aと、出力ウインドウ181bと、一対の電極182a,182bと、第1のミラー183aと、第2のミラー183bと、クロスフローファン186と、RF電源65とを含んでもよい。3軸直交型増幅器はさらに、熱交換器189を含んでもよい。クロスフローファン186の両端にはモータ187と軸受け188とが接続されてもよい。
【0074】
増幅チャンバ180は、内部にレーザ媒質としてCO
2レーザガスを収容してもよい。一対の電極182a,182bとRF電源65は、増幅チャンバ180の内部に入射されたシード光35aを、レーザ媒質を励起することによって増幅する励起装置であってもよい。一対の電極182a,182bは増幅チャンバ180の内部に設けられ、放電によって放電領域184においてレーザ媒質を励起するものであってもよい。RF電源65は、一対の電極182a,182bにRF電圧を供給するものであってもよい。励起装置によって励起されたレーザ媒質は、所望の波長の光と少なくとも1つの抑制対象波長の光とを増幅可能であってもよい。
【0075】
3軸直交型増幅器では、クロスフローファン186によって、一対の電極182a,182b間にレーザ媒質G1が循環供給され得る。RF電源65から一対の電極182a,182bにRF電圧を供給している状態で、入力ウインドウ181aからシード光35aとなるレーザ光を増幅チャンバ180の内部に入射させてもよい。入射されたレーザ光は増幅チャンバ180の内部で第1のミラー183aと第2のミラー183bとによって反射されながら、一対の電極182a,182b間で励起されたレーザ媒質中を通過することで増幅され、出力ウインドウ181bから増幅レーザ光35bとして出力され得る。
【0076】
このような3軸直交型増幅器において、第1のミラー183a及び第2のミラー183bの少なくとも1つに、上記第1の実施形態と同様の波長選択膜が設けられてもよい。また、入力ウインドウ181a及び出力ウインドウ181bの少なくとも1つに、上記第2の実施形態と同様の波長選択膜が設けられてもよい。
【0077】
(6.6 再生増幅器)
6.6.1 構成
図28は、レーザ増幅器の他の例として、再生増幅器200を示している。再生増幅器200におけるミラー及びウインドウの少なくとも1つに波長選択膜を設けてもよい。
図2における複数の増幅器PA1,PA2,…PAk,…PAnの少なくとも1つに、
図28に示した再生増幅器200を適用してもよい。
【0078】
再生増幅器200は、増幅器190と、第1及び第2の共振器ミラー201a,201bと、第1及び第2のEO(Electro Optic)ポッケルスセル202a,202bと、第1及び第2の偏光子203a,203bとを含んでいてもよい。再生増幅器200はまた、第1及び第2のEOポッケルスセル202a,202bに電位を印加する図示しない電源を含んでいてもよい。
【0079】
増幅器190は、スラブ型増幅器の他、3軸直交型増幅器や他の増幅器であってもよい。
図28では増幅器190として、スラブ型増幅器を例示する。増幅器190は、増幅チャンバ191と、第1及び第2の凹面ミラー67a,67bと、第1及び第2のウインドウ68a,68bと、一対の電極69a,69bとを含んでいてもよい。増幅器190はまた、一対の電極69a,69bにRF電圧を供給する図示しないRF電源を含んでいてもよい。
【0080】
第1及び第2の凹面ミラー67a,67bは、第1のウインドウ68aと第2のウインドウ68bとの間のレーザ光路上に設けられ、増幅チャンバ191の内部でレーザ光を反射してもよい。第1及び第2の凹面ミラー67a,67bは、平面ミラーであってもよい。第1及び第2のウインドウ68a,68bは増幅チャンバ191の壁に設けられていてもよい。
【0081】
増幅チャンバ191は、内部にレーザ媒質としてCO
2レーザガスを収容してもよい。一対の電極69a,69bは、増幅チャンバ191の内部において、
図28の紙面に直交する方向に対向配置されていてもよい。一対の電極69a,69bと図示しないRF電源は、RF電圧により発生させる放電によってレーザ媒質を励起する励起装置であってもよい。増幅チャンバ191の内部に入射されたレーザ光は、励起されたレーザ媒質を通過する際に増幅されてよい。励起装置によって励起されたレーザ媒質は、所望の波長の光と少なくとも1つの抑制対象波長の光とを増幅可能であってもよい。
【0082】
増幅器190において、上記第1の実施形態と同様に、第1の凹面ミラー67a、及び第2の凹面ミラー67bのうち少なくとも1つに、波長選択膜が設けられていてもよい。または、上記第2の実施形態と同様に、第1のウインドウ68a、及び第2のウインドウ68bのうち少なくとも1つに、波長選択膜が設けられていてもよい。または、第1の凹面ミラー67a、第2の凹面ミラー67b、第1のウインドウ68a、及び第2のウインドウ68bのいずれにも波長選択膜が設けられていなくてもよい。
【0083】
再生増幅器200において、第1の共振器ミラー201aと第2の共振器ミラー201bとが、共振器を形成していてもよい。第1の共振器ミラー201aと第2の共振器ミラー201bとの間の光路中に、第1及び第2のEOポッケルスセル202a,202bと、第1及び第2の偏光子203a,203bと、増幅器190とが配置されていてもよい。第1の共振器ミラー201a、及び第2の共振器ミラー201bのうち少なくとも1つに、上記第1の実施形態と同様の波長選択膜が設けられていてもよい。
【0084】
第1及び第2の偏光子203a,203bはミラーの機能を備えていてもよい。第1の偏光子203a、及び第2の偏光子203bのうち少なくとも1つに、上記第1の実施形態と同様の波長選択膜が設けられていてもよい。第1及び第2の偏光子203a,203bは例えば、9.27μm、9.59μm、及び10.24μmの波長の光に対しては、P偏光とS偏光とを高透過する特性を有していてもよい。第1及び第2の偏光子203a,203bはまた、10.59μmの波長の光に対しては、S偏光を高反射し、P偏光を高透過する特性を有していてもよい。ここで、S偏光は
図28において紙面に対して垂直な方向の偏光、P偏光は
図28において紙面に平行な方向の偏光であってもよい。なお、
図28において、光路中に付した黒塗りの丸印は紙面に対して垂直な偏光方向を示し、光路中に光路に直交して付した実線は紙面に平行な偏光方向を示してもよい。
【0085】
再生増幅器200は、マスタオシレータ110から出力されたパルスレーザ光がシード光35aとして入力されるような構成であってもよい。マスタオシレータ110は、CO
2レーザの増幅波長域で発振する量子カスケードレーザ(QCL)であってもよい。再生増幅器200は、マスタオシレータ110から出力されたパルスレーザ光がシード光35aとして入力される場合に限らず、他の増幅器から出力されたレーザ光がシード光35aとして入力されるような構成であってもよい。
【0086】
6.6.2 動作
再生増幅器200では、図示しない電源によって電位を印加することにより第1のEOポッケルスセル202aを動作させてもよい。マスタオシレータ110は、例えば
図28の紙面に対して垂直な偏光方向のレーザ光を出力してもよい。マスタオシレータ110からのレーザ光は、第1の偏光子203aによって反射され、電位の印加された第1のEOポッケルスセル202aを透過してもよい。レーザ光は、第1の偏光子203aによって反射され、第1のEOポッケルスセル202aに入射し、第1のEOポッケルスセル202aを透過することによって円偏光に変換され得る。その後、レーザ光は、第1の共振器ミラー201aによって反射され、再び第1のEOポッケルスセル202aを透過することで、
図28の紙面に対して平行な方向の偏光に変換され得る。
【0087】
レーザ光が第1のEOポッケルスセル202aを再び透過したら、第1のEOポッケルスセル202aに対する図示しない電源をOFFしてもよい。第1のEOポッケルスセル202aを再び透過したレーザ光は、第1の偏光子203aを透過し、第1のウインドウ68aを介して増幅器190に入射してもよい。増幅器190に入射したレーザ光は、第1の凹面ミラー67aと第2の凹面ミラー67bとの間で複数回反射することによって増幅チャンバ191内で増幅された後、第2のウインドウ68bから出力され得る。
【0088】
第2のウインドウ68bから出力されたレーザ光は、第2の偏光子203bを高透過し、図示しない電源によって電位を印加していない第2のEOポッケルスセル202bを透過し得る。第2のEOポッケルスセル202bを透過したレーザ光は、第2の共振器ミラー201bで反射され、紙面に対して平行な方向の偏光で、再び第2のEOポッケルスセル202b及び第2の偏光子203bを高通過し得る。その後、レーザ光は、第2のウインドウ68bを介して再び増幅器190に入射してもよい。増幅器190に入射したレーザ光は、第1の凹面ミラー67aと第2の凹面ミラー67bとの間で複数回反射することによって増幅チャンバ191内で増幅された後、第1のウインドウ68aから出力され得る。第1のウインドウ68aから出力されたレーザ光は、第1の偏光子203a及び第1のEOポッケルスセル202aを高透過した後、第1の共振器ミラー201aで反射され、再び第1のEOポッケルスセル202a及び第1の偏光子203aを高透過し得る。
【0089】
以上の工程を繰り返すことによって、レーザ光は、第1の共振器ミラー201aと第2の共振器ミラー201bとによる共振器間を往復して、増幅され得る。この共振器による再生増幅光を外部に出力するときは、第2のEOポッケルスセル202bの図示しない電源をONしてもよい。これにより、紙面に対して平行な方向の偏光を垂直な方向の偏光のレーザ光に変換し、再生増幅光を第2の偏光子203bで高反射させて増幅レーザ光35bとして外部に出力してもよい。
【0090】
6.6.3 効果
再生増幅器200では、第1及び第2の共振器ミラー201a,201bで反射される所望の波長以外の波長の光の増幅が抑制され得る。この結果、所望の波長のレーザ光は増幅される一方、所望の波長以外の光による自励発振が抑制され得る。再生増幅器200では、増幅器190が上述の第1または第2の実施形態と同様の波長選択膜を備えることが可能である他、第1及び第2の共振器ミラー201a,201bにも同様の波長選択膜を適用し得る。さらに、第1及び第2の偏光子203a,203bにも、同様の波長選択膜が設けられたミラーの機能を付加し得る。このため、所望の波長以外の光による自励発振がさらに抑制され得る。
【0091】
以上で説明した構成以外にも、例えば第1及び第2のEOポッケルスセル202a,202bにおける光の入出力端面に、上記第2の実施形態と同様の波長選択膜を設けてもよい。
【0092】
[7.その他]
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図したものである。従って、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
【0093】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、本明細書、及び添付の特許請求の範囲に記載される不定冠詞「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。