特許第6534189号(P6534189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6534189
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/66 20060101AFI20190617BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20190617BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20190617BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20190617BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20190617BHJP
【FI】
   C08G59/66
   C08L63/00 Z
   C08K5/54
   C09J163/00
   C09J11/06
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-508598(P2016-508598)
(86)(22)【出願日】2015年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2015054164
(87)【国際公開番号】WO2015141347
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-53719(P2014-53719)
(32)【優先日】2014年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 一希
(72)【発明者】
【氏名】新井 史紀
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−127410(JP,A)
【文献】 特開2015−059099(JP,A)
【文献】 特開平08−127635(JP,A)
【文献】 特開2000−080153(JP,A)
【文献】 特開2011−064869(JP,A)
【文献】 特開2014−009233(JP,A)
【文献】 特開2001−187859(JP,A)
【文献】 特表2013−543012(JP,A)
【文献】 特開2014−129526(JP,A)
【文献】 特開2014−065808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C09J 11/06、163/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)下記式(1)で示される化合物、
【化1】

(C)硬化促進剤、
(D)シランカップリング剤
を含み、前記(B)成分の化合物の含有量が、前記(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基と前記(B)成分の化合物のチオール基の当量比で1:0.5から1:2.5であり、前記(D)成分のシランカップリング剤の含有量が、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、および、前記(D)成分の合計量100質量部に対して0.2質量部から50質量部であり、前記(B)成分の化合物のチオール基と前記(D)成分のシランカップリング剤のSiとの当量比が1:0.002から1:1である、ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
さらに(E)安定剤を含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(E)成分の安定剤が、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート、および、バルビツール酸からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)成分のシランカップリング剤が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、および、8−グリシドキシオクチルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)成分の硬化促進剤が、イミダゾール系硬化促進剤、第三級アミン系硬化促進剤またはリン化合物系硬化促進剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を含む一液型接着剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を加熱することで得られる樹脂硬化物。
【請求項8】
請求項6に記載の一液型接着剤を用いて製造されたイメージセンサーモジュール。
【請求項9】
請求項6に記載の一液型接着剤を用いて製造された電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的低温での熱硬化、具体的には80℃程度での熱硬化が求められる用途の一液型接着剤に好適な樹脂組成物に関する。本発明の樹脂組成物は、携帯電話やスマートフォンのカメラモジュールとして使用されるイメージセンサーモジュールや、半導体素子、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、コンデンサ等の電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適である。また、本発明の樹脂組成物は、半導体装置の製造時に使用する液状封止材としての用途も期待される。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やスマートフォンのカメラモジュールとして使用されるイメージセンサーモジュールの製造時には、比較的低温、具体的には80℃程度の温度で熱硬化する一液型接着剤が使用される。半導体素子、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、コンデンサ等の電子部品の製造時においても、80℃程度の温度で熱硬化する一液型接着剤の使用が好ましい。これらの要求を満たす、低温で硬化可能な一液型接着剤としては、エポキシ樹脂、ポリチオール化合物、および、硬化促進剤を必須成分とするチオール系接着剤が知られている(例えば特許文献1、2を参照)。
【0003】
また、イメージセンサーモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤は、耐湿性も要求されることから、PCT(プレッシャー・クッカー・テスト)耐性にも優れることが求められる。
従来のチオール系接着剤は、80℃程度の温度で熱硬化可能であるが、PCT耐性が不十分であることが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−211969号公報
【特許文献2】特開平6−211970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来技術の問題点を解決するため、80℃程度の温度で熱硬化可能であり、かつ、PCT耐性にも優れることから、イメージセンサーモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適な樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、
(A)エポキシ樹脂、
(B)下記式(1)で示される化合物、
【化1】

(C)硬化促進剤、
(D)シランカップリング剤
を含み、前記(B)成分の化合物の含有量が、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、該(B)成分の化合物のチオール当量比で0.5当量〜2.5当量であり、前記(D)成分のシランカップリング剤の含有量が、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、および、前記(D)成分の合計量100質量部に対して0.2質量部から50質量部であり、前記(B)成分の化合物のチオール基と前記(D)成分のシランカップリング剤のSiとの当量比が1:0.002から1:1である、ことを特徴とする樹脂組成物を提供する。
【0007】
本発明の樹脂組成物は、さらに(E)安定剤を含有してもよい。
前記(E)成分の安定剤は、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート、および、バルビツール酸からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0008】
本発明の樹脂組成物において、前記(D)成分のシランカップリング剤が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、および、8−グリシドキシオクチルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
本発明の樹脂組成物において、前記(C)成分の硬化促進剤が、イミダゾール系硬化促進剤、第三級アミン系硬化促進剤またはリン化合物系硬化促進剤であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、本発明の樹脂組成物を含む一液型接着剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、樹脂組成物を加熱することで得られる樹脂硬化物を提供する。
【0012】
また、本発明は、本発明の一液型接着剤を用いて製造されたイメージセンサーモジュールを提供する。
【0013】
また、本発明は、本発明の一液型接着剤を用いて製造された電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、80℃程度の温度で熱硬化可能であり、かつ、PCT耐性にも優れることから、イメージセンサーモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の樹脂組成物について詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、以下に示す(A)〜(D)成分を必須成分として含有する。
【0016】
(A)成分:エポキシ樹脂
(A)成分のエポキシ樹脂は、本発明の樹脂組成物の主剤をなす成分である。
上記(A)成分のエポキシ樹脂は、1分子当り2個以上のエポキシ基を有するものであればよい。上記(A)成分のエポキシ樹脂の例として、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール、グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、p−ヒドロキシ安息香酸、β−ヒドロキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、フタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル、1,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ナフタレンのようなナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、さらにはエポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、環式脂肪族エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
(B)成分:下記式(1)で示される化合物
【化2】

(B)成分の化合物は、化合物中に4つのチオール基を有し、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として作用する。特許文献1、2に記載されているもののような、従来のチオール系接着剤では、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製商品名「PEMP」)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製商品名「TMMP」)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(SC有機化学株式会社製商品名「TEMPIC」)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製商品名「DPMP」)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製商品名「EGMP−4」)等のポリチオール化合物が、エポキシ樹脂の硬化剤として使用されているが、これらのポリチオール化合物は、いずれもエステル結合を有している。PCTのような高温多湿環境下では、エステル結合が加水分解して接着強度が低下することが、従来のチオール系接着剤の場合、PCT耐性が不十分となる理由と考えられる。
これに対し、式(1)の化合物は、エステル結合を有していないため、PCTのような高温多湿環境下では、加水分解することがなく、接着強度の低下が起こりにくい。これにより、PCT耐性が向上する。
【0018】
本発明の樹脂組成物において、(B)成分の化合物の含有量は、(A)成分(エポキシ樹脂)のエポキシ当量に対して、該(B)成分の化合物のチオール当量比で0.5当量〜2.5当量である。(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤である(B)成分の化合物の含有量が下限値(0.5当量)より低いと、樹脂組成物の接着強度が著しく低下する。
(B)成分の化合物の含有量が上限値(2.5当量)より高いと、硬化反応に寄与しない(B)成分の化合物(チオール当量比で)が増えるため、樹脂組成物のPCT耐性が低下する。
(B)成分の化合物の含有量は、(A)成分(エポキシ樹脂)のエポキシ当量に対して、該(B)成分の化合物のチオール当量比で0.6当量〜2.3当量であることがより好ましい。
【0019】
(C)成分:硬化促進剤
(C)成分の硬化促進剤は、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化促進剤であれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、イミダゾール化合物からなるイミダゾール系硬化促進剤(マイクロカプセル型、エポキシアダクト型、包接型を含む)、第三級アミン系硬化促進剤、リン化合物系硬化促進剤等が挙げられる。
これらの中でもイミダゾール系硬化促進剤、および、第三級アミン系硬化促進剤が、樹脂組成物の硬化速度が高く、80℃での熱硬化を実施するうえで好ましく、イミダゾール系硬化促進剤が特に好ましい。
【0020】
イミダゾール系硬化促進剤の具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物等が挙げられる。また、1,1,2,2−テトラキス−(4−ヒドロキシフェニル)エタンや5−ヒドロキシイソフタル酸などの包接化合物で包接されたイミダゾール化合物を使用してもよい。
また、マイクロカプセル型イミダゾールやエポキシアダクト型イミダゾールと呼ばれるカプセル化イミダゾールも用いることができる。すなわち、イミダゾール化合物を尿素やイソシアネート化合物でアダクトし、さらにその表面をイソシアネート化合物でブロックすることによりカプセル化したイミダゾール系潜在性硬化剤や、イミダゾール化合物をエポキシ化合物でアダクトし、さらにその表面をイソシアネート化合物でブロックすることによりカプセル化したイミダゾール系潜在性硬化剤も用いることができる。具体的には、例えば、ノバキュアHX3941HP、ノバキュアHXA3942HP、ノバキュアHXA3922HP、ノバキュアHXA3792、ノバキュアHX3748、ノバキュアHX3721、ノバキュアHX3722、ノバキュアHX3088、ノバキュアHX3741、ノバキュアHX3742、ノバキュアHX3613(いずれも旭化成ケミカルズ社製、商品名)等、アミキュアPN−23J、アミキュアPN−40J、アミキュアPN−50(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名)、フジキュアFXR−1121(富士化成工業株式会社製、商品名)を挙げることができる。
【0021】
第三級アミン系硬化促進剤の具体例としては、フジキュアFXR−1020、フジキュアFXR−1030(富士化成工業株式会社製、商品名)、アミキュアMY−24(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名)等を挙げることができる。
【0022】
(C)成分の硬化促進剤の含有量の好適範囲は硬化促進剤の種類によって異なる。イミダゾール系硬化促進剤の場合、(A)成分としてのエポキシ樹脂100質量部に対して、
0.3〜40質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましく、1.0〜15質量部であることがさらに好ましい。
第三級アミン系硬化促進剤の場合、(A)成分としてのエポキシ樹脂100質量部に対して、0.3〜40質量部であることがより好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましく、1.0〜15質量部であることがさらに好ましい。
【0023】
(D):シランカップリング剤
本発明の樹脂組成物において、(D)成分のシランカップリング剤は、該樹脂組成物のPCT耐性の向上に寄与する。後述する実施例に示すように、(D)成分として、シランカップリング剤の所定量含有することで、樹脂組成物のPCT耐性が向上する。一方、シランカップリング剤を含有しなかった場合や、シランカップリング剤の代わりにチタンカップリング剤を含有させた場合は、該樹脂組成物のPCT耐性は向上しない。シランカップリング剤の所定量含有させた場合に、樹脂組成物のPCT耐性が向上する理由は明らかではないが、被着体と、樹脂組成物の硬化物と、の結合力が向上することによるものと推測する。
【0024】
(D)成分のシランカップリング剤としては、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系等の各種シランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8−グリシドキシオクチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが接着強度向上に効果的である点で好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物において、(D)成分のシランカップリング剤の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、および、(D)成分の合計量100質量部に対して0.2質量部から50質量部である。(D)成分のシランカップリング剤の含有量が0.2質量部未満だと、樹脂組成物のPCT耐性が向上しない。一方、(D)成分のシランカップリング剤の含有量が50質量部超だと、接着強度が低下する。
なお、エポキシ樹脂を主剤とする従来チオール系接着剤の場合、シランカップリング剤の含有量が高すぎるとPCT耐性が低下するため、シランカップリング剤の含有量は、該接着剤の主要成分の合計量100質量部に対して1質量部以下としていた。これに対し、本発明の樹脂組成物では、後述する実施例に示すように、(A)成分〜(D)成分の合計量100質量部に対して、(D)成分のシランカップリング剤の含有量を1質量部以上としても、PCT耐性が低下せず、むしろPCT耐性が向上していた。ただし、(D)成分のシランカップリング剤の含有量を高くすると、熱硬化時の揮発量が増加する点に留意する必要がある。熱硬化時の揮発量が増加すると、気泡の発生により接着強度が低下するおそれがある。そのため、(D)成分のシランカップリング剤の含有量を高くする場合、揮発成分による影響を低減するため、強制排気設備を備えた環境で熱硬化を実施する、減圧環境下で熱硬化を実施する等の措置を講じる必要がある。
(D)成分のシランカップリング剤の含有量が、0.5〜30質量部であることがより好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物において、(D)成分のシランカップリング剤の含有量は、(B)成分の化合物のチオール基と(D)成分のシランカップリング剤のSiとの当量比で1:0.002から1:1である。(D)成分のシランカップリング剤の含有量が、1:0.002より低いと、樹脂組成物のPCT耐性が向上しない。一方、(D)成分のシランカップリング剤の含有量が、1:1より高いと、接着強度が低下する。
(D)成分のシランカップリング剤の含有量は、(B)成分の化合物のチオール基と(D)成分のシランカップリング剤のSiとの当量比で、1:0.002から1:0.4であることがより好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、上記(A)〜(D)成分以外に、以下に述べる成分を必要に応じて含有してもよい。
【0028】
(E)成分:安定剤
本発明の樹脂組成物は、常温(25℃)での貯蔵安定性を向上させ、ポットライフを長くするために、(E)成分として、安定剤を含有してもよい。
(E)成分の安定剤としては、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート、および、バルビツール酸からなる群から選択される少なくとも1つが、常温(25℃)での貯蔵安定性を向上させる効果が高いため好ましい。
【0029】
液状ホウ酸エステル化合物としては、例えば、2,2’−オキシビス(5,5’−ジメチル−1,3,2−オキサボリナン)、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ−n−プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ−n−ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2−エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10−テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13−ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7−トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ−o−トリルボレート、トリ−m−トリルボレート、トリエタノールアミンボレートを用いることができる。
なお、(E)成分として含有させる液状ホウ酸エステル化合物は、常温(25℃)で液状であるため、配合物粘度を低く抑えられるため好ましい。
(E)成分として液状ホウ酸エステル化合物を含有させる場合、(A)成分〜(E)成分の合計量100質量部に対して、0.1〜8.9質量部であることが好ましく、0.1〜4.4質量部であることがより好ましく、0.1〜3.5質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
アルミキレートとしては、例えば、アルミキレートAを用いることができる。
(E)成分としてアルミキレートを含有させる場合、(A)成分〜(E)成分の合計量100質量部に対して、0.1〜14.0質量部であることが好ましく、0.1〜13.0質量部であることがより好ましく、0.1〜12.0質量部であることがさらに好ましい。
【0031】
(E)成分としてバルビツール酸を含有させる場合、(A)成分〜(E)成分の合計量100質量部に対して、0.1〜8.9質量部であることが好ましく、0.1〜7.1質量部であることがより好ましく、0.1〜4.0質量部であることがさらに好ましい。
【0032】
(F)成分:フィラー
本発明の樹脂組成物を、一液型接着剤として使用する場合は、(F)成分として、フィラーを含有させることが好ましい。
(F)成分として、フィラーを含有させることで、本発明の樹脂組成物を一液型接着剤として使用した場合に、接着した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性が向上する。フィラーの使用により耐サーマルサイクル性が向上するのは、線膨張係数を下げることにより、サーマルサイクルによる樹脂硬化物の膨張・収縮を抑制できるからである。
【0033】
(F)成分としてのフィラーは、添加により線膨張係数を下げる効果を有するものである限り特に限定されず、各種フィラーを使用することができる。具体的にはシリカフィラー、アルミナフィラー等が挙げられる。これらの中でも、シリカフィラーが、充填量を高くできることから好ましい。
なお、(F)成分としてのフィラーは、シランカップリング剤等で表面処理が施されたものであってもよい。表面処理が施されたフィラーを使用した場合、フィラーの凝集を防止する効果が期待される。これにより、本発明の樹脂組成物の保存安定性の向上が期待される。
【0034】
(F)成分としてのフィラーは、平均粒径が0.007〜10μmであることが好ましく、0.1〜6μmであることがより好ましい。
ここで、フィラーの形状は特に限定されず、球状、不定形、りん片状等のいずれの形態であってもよい。なお、フィラーの形状が球状以外の場合、フィラーの平均粒径とは該フィラーの平均最大径を意味する。
【0035】
(F)成分として、フィラーを含有させる場合、本発明の樹脂組成物におけるフィラーの含有量は、(A)成分から(D)成分の合計量100質量部(本発明の樹脂組成物が、(E)成分の安定剤を含有する場合は、(A)成分から(E)成分の合計量100質量部)に対して、5〜400質量部であることが好ましく、5〜200質量部であることがより好ましく、5〜120質量部であることがさらに好ましい。
【0036】
(その他の配合剤)
本発明の樹脂組成物は、上記(A)〜(F)成分以外の成分を必要に応じてさらに含有してもよい。このような成分の具体例としては、イオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、難燃剤、着色剤などを配合できる。各配合剤の種類、配合量は常法通りである。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、上記(A)〜(D)成分、および、含有させる場合はさらに(E)成分、(F)成分、ならびに、さらに必要に応じて配合するその他の配合剤を混合し、例えばヘンシェルミキサー等で攪拌して調製される。
【0038】
本発明の樹脂組成物を一液型接着剤として使用する場合、該一液型接着剤を接着する部位に塗布し、80℃程度の温度で熱硬化させる。熱硬化時間は、10〜180分であることが好ましく、30〜60分であることがより好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物を一液型接着剤として使用する場合、樹脂組成物の各成分(すなわち、上記(A)〜(D)成分、および、含有させる場合はさらに上記(E)成分、(F)成分、ならびに、さらに必要に応じて配合する上記その他の配合剤)に加えて以下の成分を配合してもよい。
【0040】
本発明の樹脂組成物を含有する一液型接着剤は、80℃程度の温度で熱硬化するため、イメージセンサーモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適である。
また、本発明の樹脂組成物の用途としては、半導体装置の製造時に使用する液状封止材の可能性もある。
【0041】
本発明の樹脂組成物を用いた一液型接着剤は十分な接着強度を有している。具体的には、後述する手順で測定される接着強度(シェア強度、80℃60min熱硬化)が9Kgf/chip以上であることが好ましく、10Kgf/chipであることがより好ましく、15Kgf/chipであることがさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物を用いた一液型接着剤は、PCTのような高温多湿環境下では、加水分解することがなく、接着強度の低下が起こりにくい。これにより、PCT耐性が向上する。具体的には、下記式で表わされるPCT(プレッシャー・クッカー・テスト)前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化)の残存率が30%以上であることが好ましい。
(PCT後のシェア強度)/(PCT前のシェア強度)×100
【実施例】
【0042】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(樹脂組成物の調製)
以下の表1〜12に示す配合で各成分を混合して樹脂組成物を調製した。なお、表1〜12において、(A)成分〜(F)成分の配合割合を示す数字は、すべて質量部を示している。
表1〜10中の各成分は、以下の通りである。
(A)成分
EXA835LV:ビスフェノールF型エポキシ樹脂・ビスフェノールA型エポキシ樹脂混合物(DIC株式会社製、エポキシ当量165)
YDF8170:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量160)
ZX1658GS:シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量135)
(B)成分
TS−G:下記式(1)で示される化合物(四国化成工業株式会社製、チオール基当量94)
【化3】

(B´)成分
PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製、チオール基当量122)
(C)成分
HX3088:ノバキュアHX3088(イミダゾール系潜在性硬化促進剤、旭化成ケミカルズ社製、(1/3イミダゾールアダクト品、2/3エポキシ樹脂)、エポキシ当量180)
HXA3922HP:ノバキュアHXA3922HP(イミダゾール系潜在性硬化促進剤、旭化成ケミカルズ社製、(1/3イミダゾールアダクト品、2/3エポキシ樹脂)、エポキシ当量180)
FXR1030:フジキュアFXR−1030(イミダゾール系潜在性硬化促進剤、富士化成工業株式会社製)
2P4MZ:2−フェニル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製)
(D)成分
KBM403:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、信越化学株式会社製、Si当量236.3)
KBM303:2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、信越化学株式会社製、Si当量246.4)
KBM503:3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、信越化学株式会社製、Si当量248.4)
KBM4803:8−グリシドキシオクチルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、信越化学株式会社製、Si当量306.3)
(D´)成分
KR41B:チタンカップリング剤、味の素ファインテクノ株式会社製
KR46B:チタンカップリング剤、味の素ファインテクノ株式会社製
KR55:チタンカップリング剤、味の素ファインテクノ株式会社製
(E)成分
TIPB:トリイソプロピルボレート(東京化成工業株式会社製)
ALA:アルミキレートA(川研ファインケミカル株式会社製)
バルビトール酸(東京化成工業株式会社製)
(F)成分
SOE5:シリカフィラー(株式会社アドマテックス製)
AO809:アルミナフィラー(株式会社アドマテックス製)
【0044】
調製した樹脂組成物の接着強度(シェア強度)を以下の手順で測定した。結果を下記表に示す。
(1)試料をガラスエポキシ基板上に2mmφの大きさで孔版印刷する。
(2)印刷した試料上に2mm×2mmのSiチップを乗せる。これを送風乾燥機を用いて80℃で60分間熱硬化させる。
(3)卓上万能試験機(アイコーエンジニアリング株式会社製1605HTP)にてシェア強度を測定する。
また、上記と同様の手順で作製した試料について、120℃60分間熱硬化させた後のシェア強度を、卓上型強度測定機を用いて測定し、さらに、PCT(121℃/湿度100%/2atmの槽)で10時間または20時間放置した後のシェア強度を、卓上型強度測定機を用いて測定した。さらに、PCT前後でのシェア強度の残存率を下記式により算出した。結果を下記表に示す。
(PCT後のシェア強度)/(PCT前のシェア強度)×100
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
【表8】
【0053】
【表9】
【0054】
【表10】
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
実施例1−1〜1−5は、(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基と(B)成分の化合物のチオール基の当量比(チオール/エポキシ当量比)を、1:0.5から1:2.5の範囲内で変えた実施例であり、実施例1−6〜1−8は、(C)成分の硬化促進剤の配合量を変えた実施例である。実施例1−9〜1−10は、(A)成分のエポキシ樹脂を変えた実施例である。これらの実施例はいずれも、接着強度(シェア強度、80℃60min熱硬化、または、120℃60min熱硬化)が9Kgf/chip以上であった。また、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%以上であった。
(D)成分のシランカップリング剤の配合しなかった比較例1−1は、また、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%未満であった。(B)成分の化合物を配合しなかった比較例1−2は、接着しなかった。(B)成分の化合物の含有量が、(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基と(B)成分の化合物のチオール基の当量比で1:2.5よりも多い比較例1−3は、また、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%未満であった。(B)成分の化合物の含有量が、(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基と(B)成分の化合物のチオール基の当量比で1:0.5よりも少ない比較例1−4は、接着強度(シェア強度、80℃60min熱硬化、または、120℃60min熱硬化)が低く、9Kgf/chip未満であった。
(B)成分の化合物の代わりに、(B)´成分として、エステル結合を有するチオール化合物を配合した比較例1−5〜1−8は、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%未満であった。
(D)成分のシランカップリング剤の代わりに、(D)´成分として、チタンカップリング剤を配合した比較例1−9〜1−14は、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%未満であった。
実施例2−1〜2−12は、(D)成分のシランカップリング剤の配合量を変えた実施例であり、いずれも、接着強度(シェア強度、80℃60min熱硬化、または、120℃60min熱硬化)が9Kgf/chip以上であった。また、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%以上であった。これらの実施例では、(D)成分のシランカップリング剤の配合量に応じて、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が向上することが確認された。実施例2−13〜2−17、実施例2−18〜2−22、実施例2−23〜2−25は、それぞれ、(D)成分のシランカップリング剤の種類を変えた実施例であり、これらの実施例においても、(D)成分のシランカップリング剤の配合量に応じて、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が向上することが確認された。但し、(D)成分のシランカップリング剤の含有量を、(A)成分〜(D)成分の合計量100質量部に対して、50質量部よりも多くした比較例2−1〜2−2は、接着強度(シェア強度、80℃60min熱硬化、または、120℃60min熱硬化)が低く、9Kgf/chip未満であった。PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が低下した。
実施例3−1〜3−6は、(C)成分の硬化促進剤を変えた実施例であり、いずれも、接着強度(シェア強度、80℃60min熱硬化、または、120℃60min熱硬化)が9Kgf/chip以上であった。また、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%以上であった。
(D)成分のシランカップリング剤を配合しなかった比較例3−1〜3−3は、いずれも、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%未満であった。
実施例4−1〜4−6は、(F)成分として、さらにフィラーを配合した実施例であり、いずれも、接着強度(シェア強度、80℃60min熱硬化、または、120℃60min熱硬化)が9Kgf/chip以上であった。また、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%以上であった。
実施例5−1〜5−3は、(E)成分として、さらに安定剤を配合した実施例であり、いずれも、接着強度(シェア強度、80℃60min熱硬化、または、120℃60min熱硬化)が9Kgf/chip以上であった。また、PCT前後での接着強度(シェア強度、80℃60min硬化、120℃60min)の残存率が30%以上であった。