(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
SMS(1,3飽和−2モノ不飽和トリグリセライド)を20〜60質量%含有するパーム系油脂を溶解後、冷却し、結晶量が23〜27%の結晶化スラリーを得て、これを結晶部1と液状部1とに分別し、得られた結晶部1を加圧下で加熱して発汗させることで、液状部2を分離除去し、SMS含量が63質量%以上75質量%未満であり、且つS2M(飽和脂肪酸が2個、モノ不飽和脂肪酸が1個結合したトリグリセライド)中のSMS含量が87〜98質量%である結晶部2を得るハードバターの製造方法であって、
上記パーム系油脂がパームオレインであり、
上記冷却時に種結晶を添加し、更に冷却して前記結晶化スラリーを得る、ハードバターの製造方法。
結晶化スラリーの結晶は、実質的に粒径120〜1000μmの結晶からなり、粒径120μm未満の結晶が体積基準で1%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のハードバターの製造方法。
【背景技術】
【0002】
SMS(1,3飽和−2モノ不飽和トリグリセライド)は、カカオバター、シアバター、イリッペ脂、パーム油等に多く含まれ、SMSを高濃度に含む油脂は、体温付近で急激に融解する性質を示すことから、テンパー型チョコレートやクリ−ム類等の良好な口どけが求められる食品、医薬品、化粧品等にハードバターとして広く利用されている。
【0003】
しかし、カカオバター、イリッペ脂などの、SMSを85〜95質量%も含有するような単独でハードバターとなり得るような植物油脂は大変高価であることや、生産量が少ない問題や、気候や地政学的影響によりその収量が左右されるなどの大きな問題がある。
【0004】
そのため、SMS含量が22〜60質量%とかなり低いものの、油糧資源植物として広く生産されているパーム油を使用してハードバターを製造することが広く行われている。
【0005】
このパーム油のSMSの主体は1,3−ジパルトイル−2−オレオイルグリセロール(POP)であり、パーム油を2段分別した際の中融点画分(PMF)は、POPが濃縮されたハードバターとしてチョコレート用油脂等に広く用いられている。しかし、パーム油はPOPの異性体である1(3),2−ジパルミトイル−3(1)−オレオイルグリセロール(PPO)をPOP/PPO=87:13〜82:18程度含んでいる。そしてパーム油を分別して得られるPMFもその比率はほとんど変わることがない。
【0006】
ここで、PPOが低減されたパーム中融点部を用いたテンパー型チョコレートは、テンパリング時の型はがれ性が向上し、得られたチョコレートのスナップ性が向上し、より好ましい物性になることが知られている(非特許文献1)。
【0007】
そのため、PPOが低減されたパーム中融点部を得る方法として、パーム中融点部に対し1,3位特異的リパーゼによるエステル交換を行なう方法(特許文献1、2)、パーム油に対しドライ分別と溶剤分別を多段に組み合わせる方法(特許文献3)が知られている。しかし、1,3特異的リパーゼを用いる方法は、エステル交換反応により新たにトリパルミチン(PPP)やジオレオイル−パルミトイルグリセロール(POO、OPO)が副生し、パーム中融点部の特性である口溶けのよさが大きく低下するため、エステル交換後に分別操作によりこれらのトリグリセリドを除去する必要があった。また、ドライ分別と溶剤分別を多段に組み合わせる方法は生産効率が低く、また目的とするパーム中融点部の収率が大きく低下してしまうという問題があった。
【0008】
なお、パーム分別軟部油(パームオレイン)をドライ分別する際に、得られた結晶部を加圧下で加熱して発汗させることにより、SSS含量が低くSUS含量の高いパーム分別油を得る方法が紹介されている(特許文献4参照)。しかし、特許文献4に記載の方法は、スラリーの結晶化条件が適当ではなく、そのため結晶粒度分布や結晶形が液状部の分離に難があり、収率が低い問題や加圧発汗時間が長くなりすぎる問題など、効率が悪いという問題があった。さらに、特許文献4で、SSS含量が低くSUS含量が高い画分として示されているのは発汗後の液状部であるため、ジオレオイル−パルミトイルグリセロール(POO、OPO)含量がやや高く、温度耐性やスナップ性がやや悪い問題があったり、発汗時に連続して温度を上昇させるか、あるいは多段的に温度を上昇させてその中融点部分を分取する必要があり、操作が煩雑であるという問題もあった。このため、ハードバターの製造方法は、さらなる改良が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のハードバターの製造方法について詳述する。
まず、本発明で使用するパーム系油脂はSMS(1,3飽和−2モノ不飽和トリグリセライド)を20〜60質量%、好ましくは22〜60質量%、更に好ましくは23〜55質量%含有する。また、本発明で使用するパーム系油脂は、S2M(飽和脂肪酸が2個、モノ不飽和脂肪酸が1個結合したトリグリセライド)中のSMS含量が、好ましくは82〜88質量%、更に好ましくは83〜87質量%である。パーム系油脂におけるSMS含量が20質量%未満であると、結晶部2に含まれる液状部が多くなり、結晶部2のSMSが十分に濃縮されない。また、パーム系油脂のS2M中のSMS含量が82質量%未満であると結晶部2に含まれるSSM(1,2飽和−3モノ不飽和トリグリセライド)が多くなり、結晶部2のSMSが十分に濃縮されない。なお、パーム系油脂におけるSMS含量が60質量%超、及び/又はパーム系油脂のS2M中のSMS含量が88質量%超であると、本発明の方法では結晶化スラリーの調製や結晶部と液状部の分離が困難であることに加え、SMS含量及びS2M中のSMS含量が低いパーム系油脂を原料油脂として使用しながら、SMS含量及びS2M中のSMS含量が高いハードバターを効率的に得る、という本発明の目的に合致しないこととなる。なお、パーム系油脂としては、パーム油及びこれらの分別油、微水添油、或いはエステル交換油脂を挙げることができる。
【0015】
本発明では、まず上記の油脂を溶解する。上記油脂を溶解する温度は、用いる油脂によって異なるものであり、油脂が溶解する温度であれば、特に制限はないが、好ましくは原料油を、結晶化履歴(クリスタルメモリー)が残存しないように十分に加熱溶解する。具体的には、加熱溶解温度及び溶解時間は60℃、30分以上、好ましくは70℃、30分以上である。
【0016】
次いで、溶解した油脂を冷却し、結晶量(固体脂含量:SFC)が21%超、好ましくは23%以上、より好ましくは23〜27質量%の結晶化スラリーとする。結晶量が21%以下であると、最終的に得られる結晶部2に含まれるSSSが高くなり、口どけが悪化する。なお、結晶量が27%超であると、最終的に得られる結晶部2にSSMが多く残存しやすく、S2M中のSMS含量を十分に高めることができにくい。
【0017】
ここで上記結晶化スラリーの結晶はβプライム型の結晶を含んでいることが望ましい。上記結晶化スラリーの結晶がβプライム型の結晶を含まず、β型結晶のみ含む場合、結晶内部への液状部の抱き込みが多く、得られる結晶部2のSMS含量を高めることができない。
【0018】
油脂結晶がβプライム型を含むか否かは、X線回折装置により判別できる。具体的には、油脂結晶の短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7Åの面間隔に対応する回折ピークが検出され、かつ、4.1〜4.3Åおよび3.8〜3.9Åの面間隔に対応する強い回折ピークが検出されない場合、結晶形はβ型のみからなりβプライム型を含んでいないと判断される。4.1〜4.3Åおよび3.8〜3.9Åの面間隔に対応する強い回折ピークが検出され、かつ、4.5〜4.7Åの面間隔に対応する回折ピークが検出されなければ、βプライム型結晶のみからなりβ型結晶を含んでいないと判断される。β型とβプライム型が混在している場合、4.1〜4.3Åに対応するピーク強度1と4.5〜4.7Åに対応するピーク強度2の比(ピーク強度1/ピーク強度2)が0.5以上、好ましくは0.9以上であれば良い。
【0019】
上記結晶化スラリーに含まれる油脂結晶は微細な結晶が凝集し球状を成したものであることが好ましく、実質的に粒径120〜1000μmの結晶からなることが好ましい。すなわち、その粒度分布(体積基準)において、油脂結晶の99%以上が、直径120〜1000μm、より好ましくは300〜800μmの球状であることが好ましく、このとき直径120μm未満の結晶は体積基準で結晶の1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは含有しないことが望ましい。直径120μm未満の結晶が1%超存在すると得られる結晶部2のSMS含量を高めることが困難になる場合がある。
【0020】
溶解した上記パーム系油脂を冷却し、結晶化スラリーを得るための冷却方法としては、ドライ分別に用いられる結晶化方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、(1)攪拌しながら冷却結晶化する方法、(2)静置下で冷却結晶化する方法、(3)攪拌しながら冷却結晶化した後、さらに静置下で冷却結晶化する方法、(4)静置下で冷却結晶化した後、機械的攪拌により流動化する方法をあげることができる。
【0021】
冷却温度や時間については結晶化スラリーの結晶量が21質量%超になるような条件であればとくに限定されないが、14〜25℃、好ましくは14〜19℃まで冷却し、該温度で30分〜80時間、好ましくは10〜70時間保持することが好ましい。
【0022】
なお、本発明では上記冷却時に種結晶を添加することが、結晶化スラリー中の直径120μm未満の結晶の生成を抑えることができ、結果として結晶部2のSMS含量を高めることができる点で好ましい。なお、種結晶を添加する場合は、上記(1)又は(3)の方法で冷却し、原料として使用した上記油脂の融点以下になるまで冷却した時点で添加することが好ましい。
具体的には、溶解した上記パーム系油脂をゆっくりと撹拌しながら14〜25℃、好ましくは16〜25℃まで冷却して種結晶を添加し、さらに14〜19℃まで冷却し30分〜80時間、好ましくは10〜70時間保持することが好ましい。
【0023】
次いで、上記結晶化スラリーを結晶部1と液状部1とに分別する。
上記の結晶化スラリーを結晶部1と液状部1に分別する方法としては自然濾過、吸引濾過、圧搾濾過、遠心分離等を用いることができるが、本発明においては、使用する機械を最小限に抑え、分別操作を簡便に行なうためには加圧と分別を行なうことができる圧搾濾過機や、加圧できるフィルタープレス(メンブレンフィルター)、ベルトプレス等を用いた圧搾濾過が好ましい。
【0024】
圧搾濾過を行なう場合の好ましい圧力は、0.2MPa以上、より好ましくは0.5〜5MPa、さらに好ましくは2〜4MPaであることが好ましい。なお、圧搾時の圧力は圧搾初期から圧搾終期にかけて徐々に上昇させることが好ましく、その圧力の上昇速度は1MPa/分以下、好ましくは0.5MPa/分以下、さらに好ましくは0.1MPa/分以下である。加圧速度が1MPa/分より大きいと、最終的に得られる結晶部2のSMS含量が低下する場合がある。
【0025】
なお、結晶化スラリーの分別は、結晶部2の収率を高めるためには、得られる結晶部1と液状部1の割合が、質量比率で、結晶部1:液状部1=10:90〜60:40となるように行なうのが好ましく、より好ましくは15:85〜55:45、さらに好ましくは20:80〜45:55とする。
【0026】
なお、得られる結晶部1の油脂結晶の大きさは、上記結晶化スラリーに含まれる油脂結晶の大きさとほぼ同一である。
【0027】
次いで、上記の結晶化スラリーの分別により得られた結晶部1を、加圧しながら加熱して発汗させ、結晶部2と液状部2とに分別する。
発汗は、結晶部を加温することで結晶の一部を溶解させ、並行して液状部を分離することで結晶部を精製する方法であるが、本発明では加圧下で加熱して発汗させる点が異なる。加圧下で加熱して発汗させることにより、発汗により生じた液状部を暫時分離除去することで結晶部中の結晶量を高く保ち、結晶部の構造を強く、耐圧性のある状態に保つことができる。さらに結晶部中の液状部の量を少なく保つことによって、固液平衡が個体側に偏るため、結晶部の溶解量を最小限に留めことができるという利点がある。
そして、加圧下で加熱して発汗させることにより、従来の発汗操作にくらべて、分離効率が高く、より純度の高い結晶部2を得ることができるものである。
【0028】
発汗操作における加圧の圧力は0.02〜2MPa、好ましくは0.1〜2MPa、より好ましくは0.1〜1.5MPa、さらに好ましくは0.1〜1MPaで行うことが好ましい。圧力が0.1MPa未満では発汗時の液状部の分離が不十分になり、SMS含量の高い結晶部2を得ることができない。また、圧力が2MPa超では結晶部を加圧下で加熱して発汗させる際、結晶部がろ布を透過しやすく、結晶部と液状部の分離効率が悪くなりやすい。
【0029】
発汗操作における加熱は、結晶化温度より高く、かつ、結晶が完全に溶解する温度より低い温度で行うが、好ましくは濾過圧搾して得られた結晶部1をDSCで融解した場合に観察される融解ピークのオンセット温度以上、かつ、オフセット温度未満の温度とする。融解ピークが複数観察される場合は、結晶部として分画したい成分の融解ピークを基準とすれば良い。
【0030】
この分別工程では、上記のように加圧しながら加熱して発汗させ、分別を行なうので、加圧と分別を同時に行なえる圧搾濾過機や、加圧できるフィルタープレス(メンブレンフィルター)、ベルトプレス等を用いた圧搾濾過が好ましい。
【0031】
なお、上記の結晶部1を加圧しながら加熱して発汗させる際に、発汗工程の初期より終期にかけて加熱温度を多段的又は連続的に上昇させてもよいが、本発明ではこのような温度制御を行わなくとも、SMS含量及びS2M中のSMS含量の高い結晶部2を得ることが可能である。
【0032】
上記の分別は、該分別により得られる液状部2と結晶部2の割合が、質量比率で、液状部2:結晶部2=70:30〜5:95となるように分別を行なうのが好ましく、さらに好ましくは液状部2:結晶部2=50:50〜10:90、最も好ましくは液状部2:結晶部2=40:60〜15:85となるように分別を行なう。結晶部2の割合が30より少ないと、発汗の工程で高融点成分が液状部2に溶解しやすいため、結晶部2と液状部2を分別することが難しくなりやすい。また、結晶部2の割合が95より多いと、結晶部2を圧搾しながら加熱して発汗させる際の加熱温度を高くする必要が起こりやすく、そのため結晶部2に中融点成分が溶解しやすいため、結晶部2と液状部2の分別が難しくなりやすい。
【0033】
このようにして得られた結晶部2は、原料として用いたパーム系油脂に比べて、SMS含量及びS2M中のSMS含量が高められており、ハードバターとして好ましく使用することができる。
この場合の結晶部2のSMS含量は、好ましくは63質量%以上75質量%未満、より好ましくは67質量%以上75質量%未満、さらに好ましくは70質量%以上75質量%未満であり、結晶部2のS2M中のSMS含量は好ましくは87〜98質量%、より好ましくは90〜98質量%、さらに好ましくは91〜98質量%である。結晶部2のSMS含量が63質量%未満であるとハードバターとしての基本的な性能が得られにくく、また、結晶部2のS2M中のSMS含量が87質量%未満であると、チョコレートにハードバターとして使用した際にテンパリング時の型はがれ性やスナップ性が不十分になってしまう。
【0034】
上記ハードバターの用途としては、チョコレート、ホワイトチョコレートなどのチョコレート類、バタークリーム、サンドクリーム、ホイップクリームなどのクリーム類、マーガリン・ショートニングなどの可塑性油脂などが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕
脱酸・漂白したパームオレイン(ヨウ素価56、酸価0.1)2kgをジャケット付ガラス製晶析槽に取り、結晶化履歴(クリスタルメモリー)が残存しないよう70℃で40分加熱溶解した。このパームオレインの、SSS含量は0.5質量%、SMS含量は24.1質量%、S2M中のSMS含量は84.4質量%であった。
このパームオレインを原料油脂とし、パドル型の撹拌羽根を用いて40rpmで攪拌しながら18℃まで2時間で冷却し種結晶(パームステアリンを液状油に10%溶解後、静置下、室温で結晶化させたもの)を0.1%添加後、40時間かけて17℃まで冷却しさらに20時間保持して結晶化スラリーを得た。結晶化スラリーの結晶量を調べたところ固体脂含量(SFC)は24.8%であった。また、該結晶化スラリーの粒度分布を調べたところ、350〜800μmの範囲内であり、直径120μm未満の結晶は含まれていなかった。結晶形はβプライム型とβ型の混在で、ピーク強度1/ピーク強度2の比は1.0であった。
その後、17℃に調温した恒温槽内で、メンブレンフィルター(圧搾できるフィルタープレス)を用いて上記結晶化スラリーを濾過分別後、3MPaで圧搾し、液状部1(1475g、収率74質量%)と結晶部1(517g、収率26質量%)を得た。
なお、結晶部1のDSC(示差走査熱量計)によるオンセット温度は25℃、オフセット温度は48℃であった。
得られた結晶部1はメンブレンフィルター内で0.7MPaに加圧しながら1時間で28℃まで昇温し3時間保持して溶出してきた液状部2(91g、収率18%)とメンブレンフィルタープレス内の結晶として残存した結晶部2(418g、収率82%)を得た。結晶部2は、SSS含量が2.3質量%、S2Mが78.6質量%、SMS含量が72.2質量%、S2M中のSMS含量が91.8質量%であった。
【0037】
〔実施例2〕
実施例1と同じ原料油脂を使用し、パドル型の撹拌羽根を用いて40rpmで攪拌しながら15℃まで2時間で冷却し48時間保持して結晶化スラリーを得た。結晶化スラリーの結晶量を調べたところ固体脂含量(SFC)は25.1%であった。また、該結晶化スラリーの粒度分布を調べたところ、粒度分布は200〜1000μmの範囲内であり、直径120μm未満の結晶は含まれていなかった。結晶形はβ型でβプライムのピークは観察されなかった。
その後、15℃に調温した恒温槽内で、メンブレンフィルター(圧搾できるフィルタープレス)を用いて上記結晶化スラリーを濾過分別後、3MPaで圧搾し、液状部1(895g、収率45質量%)と結晶部1(1094g、収率55質量%)とを得た。
なお、結晶部1のDSC(示差走査熱量計)によるオンセット温度は19℃、オフセット温度は40℃であった。
得られた結晶部1はメンブレンフィルター内で0.7MPaに加圧しながら1時間で28℃まで昇温し3時間保持して溶出してきた液状部2(507g、収率57%)とメンブレンフィルタープレス内の結晶として残存した結晶部2(382g、収率43%)を得た。結晶部2は、SSS含量が2.1%、S2Mが71.1質量%、SMS含量が63.1質量%、S2M中のSMS含量は88.8質量%であった。
【0038】
〔実施例3〕
実施例1と同じ原料油脂を使用し、パドル型の撹拌羽根を用いて40rpmで攪拌しながら19℃まで2時間で冷却し種結晶(実施例1と同じもの)を0.1%添加、さらに64時間保持して結晶化スラリーを得た。結晶化スラリーの結晶量を調べたところ固体脂含量(SFC)は21.6%であった。また、該結晶化スラリーの粒度分布を調べたところ、粒度分布は120〜750μmの範囲内であり、直径120μm未満の結晶は含まれていなかった。結晶形はβプライム型とβ型の混在でピーク強度1/ピーク強度2の比は0.8であった。
その後、19℃に調温した恒温槽内で、メンブレンフィルター(圧搾できるフィルタープレス)を用いて上記結晶化スラリーを濾過分別後、3MPaで圧搾し、液状部1(477g、収率24質量%)と結晶部1(1510g、収率76質量%)とを得た。なお、結晶部1のDSC(示差走査熱量計)によるオンセット温度は25℃、オフセット温度は49℃であった。
得られた結晶部1はメンブレンフィルター内で0.7MPaに加圧しながら1時間で29℃まで昇温し3時間保持して溶出してきた液状部2(56g、収率12%)とメンブレンフィルタープレス内の結晶として残存した結晶部2(415g、収率88%)とを得た。結晶部2は、SSS含量が4.2%、S2Mが73.8質量%、SMS含量が65.7質量%、S2M中のSMS含量が89質量%であった。
【0039】
〔実施例4〕
実施例1と同じ原料油脂を使用し、パドル型の撹拌羽根を用いて40rpmで攪拌しながら17℃まで2時間で冷却し、72時間保持して結晶化スラリーを得た。結晶化スラリーの結晶量を調べたところ固体脂含量(SFC)は24.6%であった。また、該結晶化スラリーの粒度分布を調べたところ、粒度分布は50〜900μmの範囲内であり、直径120μm未満の結晶の含有量は体積基準で3%であった。結晶形はβプライム型とβ型の混在でピーク強度1/ピーク強度2の比は0.7であった。
その後、17℃に調温した恒温槽内で、メンブレンフィルター(圧搾できるフィルタープレス)を用いて上記結晶化スラリーを濾過分別後、3MPaで圧搾し、液状部1(1118g、収率56質量%)と結晶部1(879g、収率44質量%)とを得た。
なお、結晶部1のDSC(示差走査熱量計)によるオンセット温度は24℃、オフセット温度は48℃であった。
得られた結晶部1はメンブレンフィルター内で0.7MPaに加圧しながら1時間で29℃まで昇温し3時間保持して溶出してきた液状部2(332g、収率38%)とメンブレンフィルタープレス内の結晶として残存した結晶部2(543g、収率62%)とを得た。結晶部2は、SSS含量が1.8%、S2Mが74質量%、SMS含量が65.6質量%、S2M中のSMS含量が88.6質量%であった。
【0040】
〔比較例1〕
実施例1と同じ原料油脂を使用し、パドル型の撹拌羽根を用いて40rpmで攪拌しながら18℃まで2時間で冷却し、65時間保持して結晶化スラリーを得た。結晶化スラリーの結晶量を調べたところ固体脂含量(SFC)は20%であった。また、該結晶化スラリーの粒度分布を調べたところ、粒度分布は80〜400μmの範囲内であり、直径120μm未満の結晶は体積基準で1質量%であった。結晶形はβプライム型とβ型の混在でピーク強度1/ピーク強度2の比は0.8であった。
その後、18℃に調温した恒温槽内で、メンブレンフィルター(圧搾できるフィルタープレス)を用いて上記結晶化スラリーを濾過分別後、3MPaで圧搾し、液状部1(収率78質量%)と結晶部1(収率22質量%)を得た。
なお、結晶部1のDSC(示差走査熱量計)によるオンセット温度は24℃、オフセット温度は48℃であった。
得られた結晶部1はメンブレンフィルター内で0.7MPaに加圧しながら1時間で26℃まで昇温し4時間保持して溶出してきた液状部2(収率10%)とメンブレンフィルタープレス内の結晶として残存した結晶部2(収率90%)を得た。結晶部2のSSS含量は3.0%、S2Mは70質量%、SMS含量は60.3質量%、S2M中のSMS含量は86.1質量%であった。
【0041】
<チョコレート類の製造>
〔実施例5〜8並びに比較例2〕
上記実施例1〜4及び比較例1で得られた結晶部2をハードバターとして用いて、表1に記載の配合で、下記の製法によりチョコレートを製造した。得られたチョコレートは、下記評価基準に従って官能評価(口溶け)とスナップ性評価を行ない、その結果について、表2に記載した。
<チョコレートの配合>
【表1】
【0042】
<チョコレートの製法>
上記ハードバター組成物、カカオバター及びカカオマスを55℃に加温して溶解し、全粉乳、砂糖、及びレシチンを、練り合わせてペースト状とし、ロール掛けした後、コンチングして、チョコレート生地を得た。このチョコレート生地を常法によりテンパリングした後、型に注入し、5℃で12時間冷却・固化させチョコレートを製造した。
<評価基準>
官能評価基準(口溶け)
◎ きわめて良好な口溶けである。
○ 良好である。
△ やや不良である。
× 不良である。
スナップ性評価基準
◎ 爽快なスナップ性を有し、きわめて良好である
○ 良好である。
△ やや不良である。
× べたつきあり、不良である。
【0043】
【表2】
【0044】
上記の結果より、実施例1〜4により得られた結晶部2は、SMS含量が63.1〜72.2質量%、S2M中のSMS含量も88.6〜91.8質量%と高く、またSSS含量が1.8〜4.2質量%と低く、ハードバターとして適していることがわかる。
特に、種結晶を添加し、さらに結晶化スラリーの結晶量を23質量%以上とした実施例1の結晶部2をハードバターとして使用して得られたチョコレートは、口溶け、スナップ性が共に優れていることがわかる。
それに対して、結晶化スラリーの結晶量が21質量%未満として得られた比較例1の結晶部2は、SMS含量が低く、またS2M中のSMS含量も低いためハードバターとしては好ましくないことがわかる。