(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6535260
(24)【登録日】2019年6月7日
(45)【発行日】2019年6月26日
(54)【発明の名称】吹きだまり予測モデルの構築方法、吹きだまり予測方法及び吹きだまり予測装置
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20190617BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-182139(P2015-182139)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-58207(P2017-58207A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】598112349
【氏名又は名称】株式会社シー・イー・サービス
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501158804
【氏名又は名称】一般社団法人北海道開発技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】正岡 久明
(72)【発明者】
【氏名】星野 洋
(72)【発明者】
【氏名】間山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】荻原 亨
(72)【発明者】
【氏名】金田 安弘
(72)【発明者】
【氏名】越後 謙二
(72)【発明者】
【氏名】永田 泰浩
【審査官】
福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−242585(JP,A)
【文献】
特開2013−174093(JP,A)
【文献】
特開2015−090037(JP,A)
【文献】
特開2005−232957(JP,A)
【文献】
特開2008−082138(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0230821(US,A1)
【文献】
竹内 政夫,吹雪とその対策(4)−吹雪災害の要因と構造−,雪氷,2002年 1月,64巻,1号,97〜105頁
【文献】
松澤 勝 他,道路における吹雪対策の現状と課題,日本風工学会誌,2012年 1月,第37巻,第1号,10〜16頁
【文献】
竹内 政夫,吹雪量の推定方法について,北海道の雪氷,2013年,No.32,66〜67頁
【文献】
E-C.FLORESCU et al.,SNOWDRIFT MODELLING IN THE WIND TUNNEL FOR ROADS,SCIENTIFIC PROCEEDINGS XIX INTERNATIONAL SIENTIFIC-TECHNICAL CONFERENCE "trans & MOTAUTO '11",2011年,pp.123-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の雪の吹きだまりの発生に関する予測を行うための予測モデルの構築方法であって、道路の複数の地点における広域的風上側条件及び道路・沿道条件を含む環境条件と当該地点における吹きだまりの発生に関する情報とを関連付けたデータに基づいて統計解析により予測モデルを構築することを含み、広域的風上側条件には吹走距離に関する条件が含まれ、道路・沿道条件には道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件が含まれる方法。
【請求項2】
予測モデルが、決定木分析、ニューラルネットワーク又はサポートベクタマシンによる判別分析手法に基づいている請求項1に記載の予測モデルの構築方法。
【請求項3】
広域的風上側条件には風の収束要因に関する条件が更に含まれる請求項1又は2に記載の予測モデルの構築方法。
【請求項4】
道路・沿道条件には防雪対策施設に関する条件が更に含まれる請求項1〜3の何れか一項に記載の予測モデルの構築方法。
【請求項5】
道路・沿道条件には沿道の樹木に関する条件が更に含まれる請求項1〜4の何れか一項に記載の予測モデルの構築方法。
【請求項6】
道路・沿道条件には雪堤に関する条件が更に含まれる請求項1〜5の何れか一項に記載の予測モデルの構築方法。
【請求項7】
予測モデルが、広域的風上側条件に基づいて判別分析を実行した後、道路・沿道条件に基づいて更に判別分析を実行するモデルである請求項1〜6の何れか一項に記載の予測モデルの構築方法。
【請求項8】
道路上の所与の地点における広域的風上側条件及び道路・沿道条件を含む環境条件から、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法により構築された予測モデルを使用して、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う方法であって、広域的風上側条件には吹走距離に関する条件が少なくとも含まれ、道路・沿道条件には道路面と周辺地盤との高低差に関する条件、及び道路と風のなす角度に関する条件が少なくとも含まれる方法。
【請求項9】
前記環境条件の少なくとも一部が前記地点における風向を含む気象予報に基づいて決定される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記環境条件の少なくとも一部が前記地点における風向を含む実際の気象条件に基づいて決定される請求項8に記載の方法。
【請求項11】
道路の所与の地点における吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを有する環境条件の入力を受け付ける入力手段、
入力された環境条件から、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法により構築された予測モデルを使用することにより、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う演算手段、並びに、
演算手段による予測結果を出力する出力手段、
を有する吹きだまり予測装置。
【請求項12】
道路の所与の地点における風向を含む気象条件の入力を受け付ける入力手段、
入力された当該地点における風向を含む気象条件と、データベースに保存されている当該地点における道路の進行方向、風向毎の吹走距離に関する条件、及び道路面と周辺地盤との高低差に関する条件とに基づいて、当該地点における吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを有する環境条件を導出する演算手段、
導出された環境条件から、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法により構築された予測モデルを使用することにより、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う演算手段、並びに、
演算手段による予測結果を出力する出力手段、
を有する吹きだまり予測装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の予測装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項15】
請求項8〜10の何れか一項に記載の方法を道路上の所与の複数の地点に対して実施し、道路上の所与の複数の地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行うステップと、
得られた予測結果を地図化するステップと、
を含む雪の吹きだまりの発生に関する予測結果を掲載した地図を作成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積雪寒冷地における道路上の雪の吹きだまりの発生に関する予測を行うための予測モデルの構築方法に関する。本発明は予測モデルを使用して雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う方法に関する。更に、本発明は予測モデルを使用して雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積雪寒冷地においては、吹雪や地吹雪の発生によって道路上に雪が堆積し、交通障害を引き起こす雪の吹きだまり(以下、単に「吹きだまり」という。)が社会問題となっている。暴風雪により大きな吹きだまりが発生すると、車両が長時間にわたって立ち往生を余儀なくされ、救助活動が難航するケースも報告されている。このため、予めその発生を予測することができれば、吹きだまりによる被害件数の軽減に大きく貢献できると思われる。
【0003】
しかしながら、吹きだまりは気象状況、道路構造、沿道状況、防雪対策の有無など多数の因子の影響を受けるため、同じ地点でも発生状況が異なる。このため、所与の気象条件における道路の吹きだまりの発生を的確に予測することが難しいという問題があった。そのため、吹きだまりの予測に関する研究は十分に進んでいないのが現状である。
【0004】
このような中、特開2006−242585号公報(特許文献1)は吹きだまりの予測技術を提案する数少ない文献の一つである。当該文献には、鉄道線路を除雪したときに発生する雪堤の高さのデータ、及び、気温、風向、風速、降雪量を含む気象予測データに基づいて吹きだまり量を予測する吹きだまり予測方法であって、雪堤の高さ、風向、風速及び降雪量を含む複数のデータの各種の値に基づいて、吹きだまり量の予測値を算出して蓄積したデータベースを作成しておき、気温、風速及び降雪量の気象予測データから吹雪発生の有無を予測し、吹雪発生が無いと予測された場合には降雪量の気象予測データを吹きだまり量として予測する処理、吹雪発生が有ると予測された場合には前記データベースの中から、その時の雪堤の高さ、風向、風速及び降雪量の予測データに該当する吹きだまり量の予測値を読み出し、この予測値を予測結果として出力する処理を行うことを特徴とする吹きだまり予測方法が提案されている。
【0005】
当該文献においては、設定された風向、風速、雪堤高さから、微分方程式を数値解析して風の流れを予測し、予測した風の流れと降雪量から、雪粒子が風によって運ばれる過程を微分方程式にてモデル化し、この微分方程式を解析することで吹きだまりの発生量を予測し、当該予測結果に基づいてデータベースを構築することが開示されている。吹きだまりの予測方法の具体的な手順は「Uematsu,T.,Nakata,T.,Takeuchi,K.,Arisawa,Y.,and Kaneda,Y.,1991,Three-dimensional numerical simulation of snowdrift,Cold Regions Science and Technology,20,65-73.」(非特許文献1)に従うとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−242585号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Uematsu,T.,Nakata,T.,Takeuchi,K.,Arisawa,Y.,and Kaneda,Y.,1991,Three-dimensional numerical simulation of snowdrift,Cold Regions Science and Technology,20,65-73.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の吹きだまり予測方法は、雪堤の高さのデータ及び気象予測データに基づいて鉄道線路における吹きだまりを予測する方法であり、道路における吹きだまりを予測する方法ではない。また、特許文献1においては道路における吹きだまりを的確に予測するのに必要な因子についての考察がない。このため、文献1を参考にしても道路における吹きだまりを的確に予測することは困難である。
【0009】
そこで、本発明は道路上の雪の吹きだまりの発生を予測するための信頼性の高い予測モデルの構築方法を提供することを課題とする。本発明は予測モデルを使用して雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う方法を提供することを別の課題とする。本発明は予測モデルを使用して雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う装置を提供することを更に別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は積雪寒冷地の500箇所以上の道路を対象として、吹きだまり発生状況と、対象道路周辺の種々の環境条件との因果関係を鋭意研究した。その結果、吹きだまり易さに影響を与える環境条件として、「吹走距離」、「風の収束要因」、「道路と風のなす角度」、「道路面と周辺地盤との高低差」、「樹木」、「家屋」、「防雪対策施設」及び「地形・地物」を抽出することができた。
【0011】
本発明者は更に検討を続けたところ、これらの環境条件は広域的風上側条件及び道路・沿道条件の二つのカテゴリーに分けることが適切であることを見出した。そして、広域的風上側条件の中では「吹走距離」が、道路・沿道条件の中では「道路と風のなす角度」及び「道路面と周辺地盤との高低差」が、それぞれ吹きだまりの発生可能性に大きな影響を与えており、少なくともこれら三つの因子を考慮することが吹きだまりの発生の的確な予測に重要であることを見出した。本発明は当該知見に基づいて完成したものである。
【0012】
本発明は一側面において、道路上の雪の吹きだまりの発生に関する予測を行うための予測モデルの構築方法であって、道路の複数の地点における広域的風上側条件及び道路・沿道条件を含む環境条件と当該地点における吹きだまりの発生に関する情報とを関連付けたデータに基づいて統計解析により予測モデルを構築することを含み、広域的風上側条件には吹走距離に関する条件が含まれ、道路・沿道条件には道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件が含まれる方法である。
【0013】
本発明に係る予測モデルの構築方法の一実施形態においては、予測モデルが、決定木分析、ニューラルネットワーク又はサポートベクタマシンによる判別分析手法に基づいている。
【0014】
本発明に係る予測モデルの構築方法の一実施形態においては、広域的風上側条件には風の収束要因に関する条件が更に含まれる。
【0015】
本発明に係る予測モデルの構築方法の別の一実施形態においては、道路・沿道条件には防雪対策施設に関する条件が更に含まれる。
【0016】
本発明に係る予測モデルの構築方法の更に別の一実施形態においては、道路・沿道条件には沿道の樹木に関する条件が更に含まれる。
【0017】
本発明に係る予測モデルの構築方法の一実施形態においては、道路・沿道条件には雪堤に関する条件が更に含まれる。
【0018】
本発明に係る予測モデルの構築方法の一実施形態においては、予測モデルが、広域的風上側条件に基づいて判別分析を実行した後、道路・沿道条件に基づいて更に判別分析を実行するモデルである。
【0019】
本発明は別の一側面において、道路上の所与の地点における広域的風上側条件及び道路・沿道条件を含む環境条件から、本発明に係る予測モデルの構築方法により構築された予測モデルを使用して、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う方法であって、広域的風上側条件には吹走距離に関する条件が少なくとも含まれ、道路・沿道条件には道路面と周辺地盤との高低差に関する条件、及び道路と風のなす角度に関する条件が少なくとも含まれる方法である。
【0020】
本発明に係る吹きだまりの発生に関する予測を行う方法の一実施形態においては、前記環境条件の少なくとも一部が前記地点における風向を含む気象予報に基づいて決定される。
【0021】
本発明に係る吹きだまりの発生に関する予測を行う方法の別の一実施形態においては、前記環境条件の少なくとも一部が前記地点における風向を含む実際の気象条件に基づいて決定される。
【0022】
本発明は更に別の一側面において、
道路の所与の地点における吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを有する環境条件の入力を受け付ける入力手段、
入力された環境条件から、本発明に係る予測モデルの構築方法により構築された予測モデルを使用することにより、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う演算手段、並びに、
演算手段による予測結果を出力する出力手段、
を有する吹きだまり予測装置である。
【0023】
本発明は更に別の一側面において、
道路の所与の地点における風向を含む気象条件の入力を受け付ける入力手段、
入力された当該地点における風向を含む気象条件と、データベースに保存されている当該地点における道路の進行方向、風向毎の吹走距離に関する条件、及び道路面と周辺地盤との高低差に関する条件とに基づいて、当該地点における吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを有する環境条件を導出する演算手段、
導出された環境条件から、本発明に係る予測モデルの構築方法により構築された予測モデルを使用することにより、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う演算手段、並びに、
演算手段による予測結果を出力する出力手段、
を有する吹きだまり予測装置である。
【0024】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る予測装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0025】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0026】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う方法により道路上の所与の複数の地点に対して実施し、道路上の所与の複数の地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行うステップと、
得られた予測結果を地図化するステップと、
を含む雪の吹きだまりの発生に関する予測結果を掲載した地図を作成する方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、道路上の雪の吹きだまりの発生を高精度に予測することが可能となる。このため、吹きだまりの発生予測情報を地域に提供することで、地域住民は吹きだまりが予測される道路の通過を予め回避することができるため、吹きだまりによる車両の立ち往生や交通事故などの被害件数の減少につながる。また道路管理者は吹きだまりが予測される道路を通行止めにする、除雪する、或いは防雪柵を設置する等の対応計画が立て易くなるため、本発明は冬期の道路管理の効率化及び容易化に対する貢献も大きい。更に、吹きだまりの発生予報は、学校の休校判断やスクールバスの運行判断を行う目安にすることも可能である。本発明によって得られた予測結果はハザードマップ等として地図化することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る一実施形態に係る吹きだまり予測装置を構成する機能ブロックの一例である。
【
図2】本発明に係る別の一実施形態に係る吹きだまり予測装置を構成する機能ブロックの一例である。
【
図3】実施例において構築したNo.7の予測モデルの決定木である。
【
図4】実施例において構築したNo.8の予測モデルの決定木である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<1.予測モデルの構築>
本発明に係る道路上の雪の吹きだまりの発生に関する予測を行うための予測モデルの構築方法の一実施形態においては、道路の複数の地点における広域的風上側条件及び道路・沿道条件を含む環境条件と当該地点における吹きだまりの発生に関する情報とを関連付けたデータに基づいて統計解析により予測モデルを構築することを含む。予測モデルの精度を高める上では、上記データを収集する地点の数は多い方が望ましい。具体的にはデータを収集する地点の数は100カ所以上であることが好ましく、200カ所以上であることがより好ましく、300カ所以上であることが更により好ましく、400カ所以上であることが更により好ましく、500カ所以上であることが更により好ましい。また、データは、データを収集する地点間の距離によらず、環境条件が有意に変化する地点毎に収集することが、種々の環境条件におけるデータを収集して信頼性の高い予測モデルを構築する上で好ましい。
【0030】
広域的風上側条件というのは、データ収集を行う道路上の地点の風上側の比較的広域的な環境条件であって当該地点における吹雪量に影響を与える因子を指す。一方、道路・沿道条件は風上側及び風下側の両方の道路・沿道近辺の環境条件であって当該地点における吹きだまりやすさに影響を与える因子を指す。どの方角が風上側になるかは風向きによって変動する。
【0031】
広域的風上側条件と道路・沿道条件は考慮する環境条件の相違が明確であって上記趣旨に沿う限り特に制限はないが、例えば、広域的風上側条件は路側から道路の進行方向に対して直角横断方向に30〜500m離れた領域の環境条件を指し、道路・沿道条件は路側から道路の進行方向に対して直角横断方向に30m未満離れた地点までの領域の環境条件を指すと定義することができる。広域的風上側条件と道路・沿道条件を区別する路側から境界地点までの距離はその他の値としてもよいが、広域的風上側条件が道路から比較的離れた領域の環境条件を設定し、道路・沿道条件は道路・沿道近辺の環境条件を設定することを趣旨としていることに鑑みて、境界地点は路側から垂直方向に10〜50m離れた場所に設定することが好ましく、20〜40m離れた場所に設定することがより好ましく、25〜35m離れた場所に設定することが更により好ましい。
【0032】
また、データ収集を行う地点から過度に離れた領域の環境条件は吹きだまりに与える影響が小さいことから、広域的風上側条件はデータを収集する地点から風上側に500m以内の環境条件を指すことが好ましく、400m以内の環境条件を指すことがより好ましく、300m以内の環境条件を指すことがより好ましい。
【0033】
広域的風上側条件としては、限定的ではないが、以下のような条件が挙げられる。
・吹走距離に関する条件
吹走距離は、ほぼ一定の風速・風向を持った風の吹く風域の長さであり、平坦な土地を風が吹く場合に長くなる。吹雪量は吹走距離が長くなるほど発達しやすいため、吹走距離は吹きだまりの発生ポテンシャルに大きく影響する。そのため、精度の高い吹きだまりの予測モデルを構築する上では吹走距離を考慮することは不可欠となる。吹走距離に関する条件としては、データ収集を行う地点からの風上側の平地の長さを数値化した情報、又は、当該平地の長さを「長距離」、「中距離」、「短距離」などのカテゴリーで表した情報が挙げられる。
・風の収束要因に関する条件
風の収束要因というのは、データ収集を行う地点からの風上側における吹雪を強める働きをする自然物又は人工物を指し、道路に交差する沢・川・道路、及び、林縁部が挙げられる。風の収束要因に関する条件としては、「収束要因有り」、「収束要因無し」、「沢」、「川」、「交差道路」など、風の収束要因の有無や種類をカテゴリーで表した情報が挙げられる。風の収束要因も吹きだまりの発生ポテンシャルに影響することから、精度の高い吹きだまりの予測モデルを構築する上では風の収束要因も考慮することが好ましい。
【0034】
道路・沿道条件としては、限定的ではないが、以下のような条件が挙げられる。
・道路面と周辺地盤との高低差に関する条件
吹きだまりの発生状況は道路面と周辺地盤との高低差に大きく影響を受け、切土構造のように周辺地盤よりも道路が低い場合には吹きだまりの発生ポテンシャルが高くなる。一方、盛土構造のように周辺地盤よりも道路が高い場合には吹きだまりの発生ポテンシャルが低くなる。従って、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件を考慮することは、精度の高い予測モデルを構築するために不可欠である。道路面と周辺地盤との高低差に関する条件としては、データ収集を行う地点における道路の横断形状(切土、盛土、平坦など)の種類をカテゴリー分けした情報、周辺地盤と道路の高低差を数値化した情報、周辺地盤と道路の高低差をカテゴリー分け(高低差大、高低差小、高低差無し等)した情報が挙げられる。正確な予測モデルを構築する上では、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件は、風向きによって変化させることが好ましい。例えば、道路の片側が切土(又は盛土)になっている場合は、風向きによって吹きだまり発生ポテンシャルが有意に変化するからである。例えば、道路中心線の真北とのなす角度と、風向角の関係から、道路の進行方向左側と右側が風向によって風上となるか風下となるかを判定することができるので、風上側及び風下側のどちらが切土(又は盛土)なのかという情報を道路・沿道条件に含めることができる。
・道路と風のなす角度に関する条件
道路と風のなす角度も吹きだまりの発生ポテンシャルに大いに影響を与える。一般に、道路の進行方向と風向が一致しているときには吹きだまりは発生しにくく、道路の進行方向と風のなす角度が直角に近づくにつれて吹きだまりが発生し易くなる。従って、道路と風のなす角度に関する条件を考慮することは、精度の高い予測モデルを構築するために不可欠である。道路と風のなす角度に関する情報としては、データ収集を行う地点の道路と風のなす角度を数値化した情報や当該角度を「角度大」、「角度中」、「角度小」などのカテゴリーで表した情報が挙げられる。道路と風のなす角度に関する条件は風向きによって変動する。道路と風のなす角度は、例えば、道路中心線の真北とのなす角度(0〜90°)と、風向の真北とのなす角度(0〜90°)から、道路中心線と風向のなす角度を計算することができる。道路と風のなす角度は0〜90°の範囲で把握すればよいので、計算結果が90°を超える場合は当該計算結果を180°から引くことで90°以内の値となる。例えば、計算結果が105°であったときは、(180°−105°=)75°とすることができる。
・沿道の防雪対策施設に関する条件
防雪対策施設というのは防雪柵、スノーシェルターなどの吹きだまりの発生ポテンシャルを低下させる働きをする人工の施設を指す。精度の高い吹きだまりの予測モデルを構築する上では、沿道の防雪対策施設に関する条件を考慮することが好ましい。防雪対策施設に関する条件としては、データ収集を行う地点の沿道における防雪対策施設の有無や種類をカテゴリーで表した情報が挙げられる。防雪対策施設に関する条件は、風向きによって変えることも可能であり、正確な予測モデルを構築する上では、防雪対策施設に関する条件は、防雪対策施設が風上側及び風下側の何れに設置されているかによって区分することができるように風向きと関連付けられていることが好ましい。例えば、風上側に防雪対策施設が設置されている場合は吹きだまり発生ポテンシャルは低いが、逆の場合は高くなる傾向にあるので、風下側に防雪対策施設が存在するのか、風上側に防雪対策施設が存在するのかを沿道の防雪対策施設に関する条件に含めることができる。
・沿道の樹木に関する条件
沿道には樹木が存在している場合があるが、樹木の状況が吹きだまりの発生に影響を与えることから、精度の高い吹きだまり予測モデルを構築する上では沿道の樹木に関する条件を考慮することが好ましい。沿道の樹木に関する条件としては、データ収集を行う地点の沿道における樹種(針葉樹、広葉樹、混合樹など)、植栽密度(樹木の間隔や単位面積当たりの本数など)、幅(樹木が何列にわたって配列されているかなど)などの情報が挙げられる。これらの情報は樹木の有無や種類、植栽密度の大きさ、幅の程度などカテゴリー分けした情報としてもよいし、数値化した情報としてもよい。また、沿道の樹木について、樹種、植栽密度、列数から風の透過率を算出してその大きさをカテゴリーで表した情報又は数値化した情報とすることもできる。沿道の樹木に関する条件は、風向きによって変えることも可能であり、正確な予測モデルを構築する上では、沿道の樹木に関する条件は、沿道の樹木が風上側及び風下側の何れに設置されているかによって区分することができるように風向きと関連付けられていることが好ましい。例えば、風上側に沿道の樹木が設置されている場合は吹きだまり発生ポテンシャルは低いが、逆の場合は高くなる傾向にあるので、風下側に沿道の樹木が存在するのか、風上側に沿道の樹木が存在するのかを沿道の樹木に関する条件に含めることができる。
・沿道の家屋に関する条件
沿道には家屋が存在している場合があり、沿道の家屋の配列状態が吹きだまりの発生に影響を与え得る。例えば、家屋が道路横断方向に連続的に存在しているのか点在しているのかによって、吹きだまりを抑制する可能性が変化し得る。そのため、沿道の家屋に関する条件として、データ収集を行う地点の沿道の家屋が道路の横断方向にどの程度の長さにわたって続いているのかといった情報や、道路の横断方向における沿道の家屋の密集度合(連続、点在、単位長さ当たりの家屋数など)に関する情報などの沿道の家屋に関する条件を数値やカテゴリーで表した情報として使用して予測モデルの構築に考慮してもよい。沿道の家屋に関する条件は、風向きによって変えることも可能であり、正確な予測モデルを構築する上では、沿道の家屋に関する条件は、沿道の家屋が風上側及び風下側の何れに設置されているかによって区分することができるように風向きと関連付けられていることが好ましい。例えば、風上側に沿道の家屋が設置されている場合は吹きだまり発生ポテンシャルは低いが、逆の場合は高くなる傾向にあるので、風下側に沿道の家屋が存在するのか、風上側に沿道の家屋が存在するのかを沿道の家屋に関する条件に含めることができる。
・沿道の地形・地物に関する条件
沿道には風の流れを変化させる切盛境界、小山、岩など局所的な地形・地物が存在し得る。そのため、地形・地物が吹きだまりの発生に影響を与え得る。従って、データ収集を行う地点の沿道におけるこれらの局所的な地形・地物の種類や有無といった沿道の地形・地物に関する条件をカテゴリー又は数値で表した情報を使用して予測モデルの構築に考慮してもよい。沿道の地形・地物に関する条件は、風向きによって変えることも可能であり、正確な予測モデルを構築する上では、沿道の地形・地物に関する条件は、沿道の地形・地物が風上側及び風下側の何れに設置されているかによって区分することができるように風向きと関連付けられていることが好ましい。沿道の地形・地物の形態に応じて、それらが風上側に存在する場合と風下側に存在する場合とで吹きだまり発生ポテンシャルは変化し得るからである。例えば、風下側に沿道の地形・地物が存在するのか、風上側に沿道の地形・地物が存在するのかを沿道の地形・地物に関する条件に含めることができる。
【0035】
吹きだまりの発生に関する情報は、データ収集を行う道路上の地点の吹きだまりの発生有無、発生量をカテゴリーや数値で表した情報とすることができる。
【0036】
データ収集を行う道路上の地点における広域的風上側条件及び道路・沿道条件を含む環境条件と当該地点における吹きだまりの発生に関する情報とを関連付けたデータを収集し、統計解析することで、各環境条件と吹きだまりの発生に関する情報の相関関係が考慮された予測モデルを構築することができる。収集データにより予測モデルを構築するにあたっては、市販の統計解析ソフトを使用すればよい。予測モデルとしては、任意の判別分析手法に基づくモデルとすることができる。判別分析手法としては、特に制限はないが、決定木分析、ニューラルネットワーク、サポートベクタマシン(SVM)、線形判別、二次判別、MT法(マハラノビス・タグチ)、ベイズ判別、ロジスティック判別、多項ロジスティック判別、ナイーブベイズ、カーネル法を用いたSVMが例示される。これらの予測モデルの中では、視覚的に理解しやすいという観点では決定木分析が好ましく、高い予測精度という観点ではニューラルネットワーク及びサポートベクタマシンが好ましい。
【0037】
予測モデルは、広域的風上側条件及び道路・沿道条件を一度にまとめて判別分析する予測モデルよりも、広域的風上側条件に基づいて判別分析を実行した後、道路・沿道条件に基づいて更に判別分析を実行する二段階のモデルとすることが予測精度を高める上で好ましい。
【0038】
<2.吹きだまりの予測方法>
このようにして構築された吹きだまりの予測モデルを使用することで、道路上の所与の地点における広域的風上側条件及び道路・沿道条件を含む環境条件を入力条件として与えたときの、吹きだまりの発生に関する予測情報を出力可能となる。入力条件及び予測情報の関係は、予測モデルによって変化させることができる。すなわち、所与の予測モデルの入力条件及び出力情報は、当該予測モデルの構築に使用した環境条件及び吹きだまりの発生に関する情報の内容に依存するため、如何なる環境条件を入力することによって吹きだまりの予測に関する如何なる情報を得たいかによって構築する予測モデルを変化させればよい。
【0039】
但し、本発明においては予測モデルの構築のために、吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件、及び道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを含む環境条件を考慮しているので、精度の高い予測のためには当該環境条件を入力することが不可欠である。
【0040】
予測モデルに入力する環境条件の少なくとも一部は、気象条件の一種である風向を含む気象予報に基づいて決定することができる。吹走距離に関する条件、風の収束要因に関する条件、及び道路と風のなす角度に関する条件などの環境条件は風向に基づいて決定されるところ、これらは気象予報に基づいて決定することが好ましい。気象予報としては、気象庁から提供されるものの他、民間会社から提供されるものを使用することができる。
【0041】
また、予測モデルに入力する環境条件の少なくとも一部は、雪の吹きだまりの発生を予測すべき道路の所与の地点における風向を含む実際の気象条件に基づいて決定することも好ましい。例えば、吹きだまりの発生を予測すべき地点にカメラを設置する、風向計を設置する、風量計を設置するなどにより、当該地点の風向や吹雪の状況などを確認した上で、当該確認結果に基づいて環境条件を入力してもよい。
【0042】
得られた予測結果は新聞、テレビ及びラジオ等の報道機関の他、インターネット、印刷物を含む種々の媒体を通じて提供可能である。また、得られた予測結果を集計してハザードマップ等として紙媒体又は電子媒体上で地図化することも可能である。
【0043】
<3.吹きだまりの予測装置>
本発明は一側面において、予測モデルを使用して雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う装置を提供する。
図1は、本発明に係る一実施形態に係る吹きだまり予測装置100を構成する機能ブロックの一例を示したものである。予測装置100は、入力部101、演算部102及び出力部103を備える。
【0044】
入力部101は、ユーザ等から、道路の所与の地点における吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件並びに道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを有する環境条件を受け付ける。入力部101は、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル、リーダー(OCR)、入力画面、マイク等の音声入力インターフェイス等で構成することができる。入力部101はインターネットやイントラネット等のネットワークを介して環境条件を受け付けてもよい。
【0045】
演算部102は、入力された環境条件から当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測結果を導出する。演算は本発明に係る予測モデルの構築方法により構築された予測モデルを使用して行われる。演算部102はプロセッサ、予測モデルのプログラムを格納したメモリ等の記憶装置により構成することができる。
【0046】
出力部103は、演算部102による吹きだまりの予測結果、吹きだまりを予測する際に使用する環境条件等を表示出力したり、音声出力したりする。出力部103は表示装置やスピーカ等により構成することができる。
【0047】
図2は、本発明の別の一実施形態に係る吹きだまり予測装置200を構成する機能ブロックを示したものである。予測装置200は、入力部201、第一の演算部202、第二の演算部203、出力部204及びデータベース205を備える。
【0048】
入力部201は、ユーザ等から、道路の所与の地点における風向を含む気象条件の入力を受け付ける。入力部201は、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル、リーダー(OCR)、入力画面、マイク等の音声入力インターフェイス等で構成することができる。入力部201はインターネットやイントラネット等のネットワークを介して気象条件を受け付けてもよい。
【0049】
データベース205には、当該地点を含む道路の様々な地点における道路の進行方向、風向毎の吹走距離に関する条件、並びに道路面と周辺地盤との高低差に関する条件が保存されている。これらの条件に関するデータはカテゴリー又は数値として、道路の所与の地点と関連付けて検索可能に保存されている。
【0050】
第一の演算部202は、データベース205にアクセスし、当該地点における道路の進行方向、風向毎の吹走距離に関する条件、並びに道路面と周辺地盤との高低差に関する条件を検索して抽出する。そして、入力された当該地点における風向を含む気象条件と、データベース205に保存されている当該地点における道路の進行方向、風向毎の吹走距離に関する条件、並びに道路面と周辺地盤との高低差に関する条件とに基づいて、当該地点における吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを有する環境条件を導出する。第一の演算部202はプロセッサ、気象条件から環境条件を導出するプログラムを格納したメモリ等の記憶装置により構成することができる。
【0051】
第二の演算部203は、第一の演算部202によって導出された環境条件から、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測結果を導出する。演算は本発明に係る予測モデルの構築方法により構築された予測モデルを使用して行われる。第二の演算部203はプロセッサ、予測モデルのプログラムを格納したメモリ等の記憶装置により構成することができる。
【0052】
出力部204は、第一の演算部202により導出された環境条件、第二の演算部203による吹きだまりの予測結果、吹きだまりを予測する際に使用する気象条件等を表示出力したり、音声出力したりする。出力部204は表示装置やスピーカ等により構成することができる。
【0053】
上述した予測装置100、200としての機能は、コンピュータ(CPU、情報処理装置、各種端末を含む)が所定のアプリケーションプログラム(信号処理プログラム)を実行することによって実現することが可能である。
【0054】
従って、本発明の一側面によれば、
道路の所与の地点における吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを有する環境条件の入力を受け付ける入力手段、
入力された環境条件から、本発明に係る方法により構築された予測モデルを使用することにより、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う演算手段、並びに、
演算手段による予測結果を出力する出力手段、
を有する吹きだまり予測装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムが提供される。
【0055】
また、本発明の別の一側面によれば、
道路の所与の地点における風向を含む気象条件の入力を受け付ける入力手段、
入力された当該地点における風向を含む気象条件と、データベースに保存されている当該地点における道路の進行方向、風向毎の吹走距離に関する条件、及び道路面と周辺地盤との高低差に関する条件とに基づいて、当該地点における吹走距離に関する条件を含む広域的風上側条件と、道路面と周辺地盤との高低差に関する条件及び道路と風のなす角度に関する条件を含む道路・沿道条件とを有する環境条件を導出する演算手段、
導出された環境条件から、本発明に係る方法により構築された予測モデルを使用することにより、当該地点における雪の吹きだまりの発生に関する予測を行う演算手段、並びに、
演算手段による予測結果を出力する出力手段、
を有する吹きだまり予測装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムが提供される。
【0056】
前記プログラムは、例えば、フレキシブルディスク、CD(CD−ROM、CD−R、CD−RWなど)、DVD(DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−R、DVD−RW、DVD+R、DVD+RWなど)等のコンピュータ読取可能な記録媒体に記録された形態で提供することができる。この場合、コンピュータはその記録媒体から信号処理プログラムを読み取って内部記憶装置または外部記憶装置に転送し格納して用いることができる。また、そのプログラムを、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、不揮発性のメモリカード、磁気テープ、ROM等の記憶装置(記録媒体)に記録しておき、その記憶装置から通信回線を介してコンピュータに提供するようにしてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について説明するが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するための例示であって、本発明を限定する趣旨ではない。
【0058】
<1.予測精度の検証に使用した実データ>
北海道中標津地区における道路上の約1km間隔の548箇所の地点について、吹きだまりの発生有無を気象条件及び環境条件と関連づけて記録した。各地点の気象条件は気象庁より提供される1kmメッシュの風向に関するデータを採用した。各地点の環境条件は、表1に記載される広域的風上側条件と道路・沿道条件を衛星写真等により決定し、各予測モデルに応じて適宜選択して使用した。
【0059】
【表1】
【0060】
<例1.予測モデルに採用する環境条件が予測モデルの精度に与える影響の検証>
予測に使用する環境条件の数及び種類を変化させたときの吹きだまりの予測精度に与える影響を検証した。各予測モデルはR Foundationの統計解析ソフトウェア「R version 3.1.2」mvpartモジュールを使用し、設定条件下で最良の予測精度が得られる決定木分析による予測モデルを構築した。ここでの予測モデルは、使用する広域的風上側条件及び道路・沿道条件を区分せずにまとめて計算させることで得た。表2中、「○」は予測モデルが該当する環境条件を使用したことを示し、「−」は予測モデルにおいて該当する環境条件を使用しなかったことを示す。また、「−(不採用)」は予測モデル構築のための環境条件として考慮させたが、ソフトウェアの判断により予測モデルに採用されなかったことを示す。例えば、予測モデルNo.2においては、六つの道路・沿道条件をソフトウェアに考慮させたが、最良の予測精度が得られた予測モデルにおいては、「家屋」及び「地形・地物」の因子は採用されなかったため、これらの環境条件が「−(不採用)」と表示されている。これは、これらの因子を採用しない方が予測モデルの適中率が高かったためである。
【0061】
各予測モデルにより吹きだまりの発生有無を予測したときの適中率を実データとの比較により算出した。吹きだまり発生の適中率は、吹きだまりが発生した実例数の内、予測モデルが吹きだまり発生と判定した事例数の割合(%)である。吹きだまり非発生の適中率は、吹きだまりが発生しなかった実例数の内、予測モデルが吹きだまり非発生と判定した事例数の割合(%)である。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2の結果より、何れの予測モデルを採用しても、吹きだまり非発生の適中率は85%以上を超えることが分かる。このため、吹きだまり非発生の予測にフォーカスした場合には、何れの予測モデルも実用性が高いと判断できる。しかしながら、吹きだまり発生の適中率については予測モデルによって大きな差が生じた。広域的風上側条件のみを予測に利用したNo.1の予測モデル及び道路・沿道条件のみを予測に利用したNo.2の予測モデルでは、吹きだまり発生の適中率が50%未満となってしまったことが理解できる。また、No.3の予測モデルの結果から、広域的風上側条件である「吹走距離」及び道路・沿道条件である「道路面と周辺地盤との高低差」の両者を予測に利用しても、これらのみではやはり吹きだまり発生の適中率が50%未満となってしまったことが理解できる。
【0064】
一方、「吹走距離」、「道路面と周辺地盤との高低差」及び「道路と風のなす角度」を予測に利用したNo.4〜7の予測モデルは吹きだまり発生の適中率が50%以上を確保することができた。更に、予測に利用する環境条件の数を増すに従って、吹きだまり発生の適中率及び全体の適中率は増加する傾向にあった。但し、ソフトウェアの計算により、「家屋」及び「地形・地物」を予測に利用すると逆に適中率が低下することも示唆された。これは、今回のデータ収集を行った地点において「家屋」及び「地形・地物」が存在する場合のデータが少なかったことも一因と考えられ、住宅密集地などにおいては採用されることも考えられる。全体適中率が最も高かったNo.7の予測モデルの決定木を
図3に示す。
【0065】
<例2.広域的風上側条件と道路・沿道条件の区分が予測モデルの精度に与える影響の検証>
例1は、使用する広域的風上側条件及び道路・沿道条件を区分することなくこれらをまとめて計算したときに得られた予測モデルであった。ここでは、広域的風上側条件で一度決定木分析を実行した後、道路・沿道条件で更に決定木分析を実行することを条件として予測モデルを構築した。予測モデルの構築は例1と同様にR Foundationの統計解析ソフトウェア「R version 3.1.2」mvpartモジュールを使用し、No.7の予測モデルと同様に二つの広域的風上側条件と六つの道路・沿道条件の合計八つを環境条件として考慮させ、設定条件下で最良の予測精度が得られる予測モデルを構築した。更に、雪堤の有無を道路・沿道条件として考慮させた場合の予測モデル(No.9)も構築した。No.8及びNo.9の予測モデルにより吹きだまりの発生有無を予測したときの適中率を実データとの比較により算出した結果を、No.7の予測モデルと対比させて表3に示す。
図4に、ソフトウェアによって導出された予測モデル(No.8)の決定木を参考用に示す。
【0066】
また、No.8と同様に二つの広域的風上側条件と六つの道路・沿道条件の合計八つを環境条件として考慮させながらも、No.8とは逆に、道路・沿道条件で一度決定木分析を実行した後、広域的風上側条件で更に決定木分析を実行することを条件として、設定条件下で最良の予測精度が得られる予測モデル(No.10)も構築した。当該予測モデルにより吹きだまりの発生有無を予測したときの適中率を実データとの比較により算出した結果を表3に合わせて掲載した。
【0067】
【表3】
【0068】
表3より、No.7〜9の予測モデルによる吹きだまり発生の適中率を比較すると、広域的風上側条件で一度決定木分析を実行した後、道路・沿道条件で更に決定木分析を実行するNo.8及びNo.9の予測モデルの方が吹きだまり発生の適中率が顕著に高いことが分かる。これにより、全体適中率もNo.7の予測モデルに比べて向上した。吹きだまり非発生の適中率はNo.7の予測モデルよりもNo.8及びNo.9の予測モデルの方が若干低いが、観測地点によって変動し得る誤差範囲であると考えられる。No.8とNo.9の対比により、雪堤を考慮することで更に適中率が高くなることも分かる。また、No.7、8及び10の対比より、広域的風上側条件と道路・沿道条件を区分して予測モデルを構築する場合であっても、道路・沿道条件で一度決定木分析を実行した後、広域的風上側条件で更に決定木分析を実行すると、環境条件をまとめて予測モデルを構築する場合に比べて予測精度が向上しないどころか逆に低下することが分かる。
【0069】
<例3.他の予測モデルを用いた場合の予測精度の検証>
例1及び例2においては、決定木分析により予測モデルを構築した。ここでは、他の判別分析手法を採用しても同様に吹きだまりの予測を高精度に実施可能な予測モデルが構築できることを検証した。他の判別分析手法としては、ニューラルネットワークモデル(No.11の予測モデルとする)及びサポートベクタマシン(SVM)モデル(No.12の予測モデルとする)を採用した。予測モデルの構築は例1と同様にR Foundationの統計解析ソフトウェア「R version 3.1.2」を使用しニューラルネットワークモデルにはnnetモジュールを、サポートベクタマシンモデルにはkernlabモジュールをそれぞれ使用し、No.7の予測モデルと同様に二つの広域的風上側条件と六つの道路・沿道条件の合計八つを環境条件として考慮させ、設定条件下で最良の予測精度が得られる予測モデルを構築した。ここでの予測モデルは、使用する広域的風上側条件及び道路・沿道条件を区分することなくまとめて計算させることで得た。
【0070】
No.11及びNo.12の予測モデルにより吹きだまりの発生有無を予測したときの適中率を実データとの比較により算出した結果を、No.7の予測モデルと対比させて表4に示す。表4から分かるように、他の判別分析手法を用いた場合でも吹きだまりの予測を高精度に行うことができた。特に、ニューラルネットワークに基づく予測モデルは吹きだまりの予測精度が高いことが分かる。
【0071】
【表4】
【0072】
また、ニューラルネットワークモデル及びサポートベクタマシン(SVM)モデルにおいても、広域的風上側条件で一度判別分析を実行した後、道路・沿道条件で更に判別分析を実行することを条件として予測モデルを構築した場合の予測精度の向上効果を検証した。予測モデルの構築は例1と同様にR Foundationの統計解析ソフトウェア「R version 3.1.2」を使用しニューラルネットワークモデルにはnnetモジュールを、サポートベクタマシンモデルにはkernlabモジュールをそれぞれ使用し、No.7の予測モデルと同様に二つの広域的風上側条件と六つの道路・沿道条件の合計八つを環境条件として考慮させ、設定条件下で最良の予測精度が得られる予測モデルを構築した(No.13及びNo.14)。
【0073】
No.13及びNo.14の予測モデルにより吹きだまりの発生有無を予測したときの適中率を実データとの比較により算出した結果を、No.7の予測モデルと対比させて表5に示す。表5から分かるように、ニューラルネットワークモデル及びサポートベクタマシン(SVM)モデルにおいても、広域的風上側条件で一度判別分析を実行した後、道路・沿道条件で更に判別分析を実行する予測モデルの方が、予測精度が向上した。特筆すべきことに、ニューラルネットワークに基づくNo.13の予測モデルは吹きだまりの予測精度は100%であった。
【0074】
【表5】
【符号の説明】
【0075】
100 予測装置
101 入力部
102 演算部
103 出力部
200 予測装置
201 入力部
202 第一の演算部
203 第二の演算部
204 出力部
205 データベース