(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は排水システムを示す模式図である。この排水システムはポンプ機場に設けられ、内水河川からの水が流れ込む吸込水槽1内の水を汲み上げ、外水河川に接続された吐出水槽に排水するものである。排水システムは、排水を行う複数のポンプPと、これらのポンプPをそれぞれ駆動する複数の電動機Mとを有している。
図1に示す例では、6基のポンプPおよび6基の電動機Mが設けられている。それぞれのポンプPは減速機4を介して電動機Mに連結されている。なお、
図1では1基目(No.1)のポンプPなどついてのみ詳細に描いており、他のポンプPなどは簡略化している。
【0021】
排水システムは、電力系統に接続される受配電装置6と、受配電装置6からの電力を降圧する主変圧器7と、主変圧器7に接続されて各電動機Mの運転を制御する複数の(この例では6基の)電動機制御部8と、主変圧器7の出力電力をさらに降圧する所内変圧器10と、所内変圧器10の出力電力を後述する各種付帯機器に配電する配電制御部11と、ポンプPを機側にて運転操作するポンプ制御装置12(機側ポンプ操作装置)をさらに備えている。
【0022】
電動機制御部8は電動機Mのそれぞれに接続されており、各電動機Mの始動、停止(通常停止、故障時の緊急停止など)などの運転を制御する制御盤を含んでいる。
【0023】
排水システムは、上述した電動機M以外にも、電力の供給を受けて動作する種々の付帯機器を備えている。この付帯機器は、例えば、ポンプPの吐出側に配置される吐出弁20を操作するモータ21、ポンプPの内部が水で満たされているか否かを検出する満水検知器22、ポンプPの内の空気を排出して呼び水を導入する真空ポンプ23を駆動するモータ24、減速機4内で潤滑油を循環させるギヤポンプ25を駆動するモータ26、ポンプP内の落水を検知する落水検知器28、吸込水槽1内の水位を計測する水位計29などである。これらの付帯機器は、上述した配電制御部11に接続されており、上述したポンプ制御装置12によって付帯機器の動作が制御されている。
【0024】
図2は、ポンプPの一例である横軸ポンプの一例を示す側面図である。横軸ポンプPは吸込水槽1の水を吐出水槽2に排水するものであり、ポンプ機場における吸込水槽1上部の機器設置床3に設置される。機器設置床3には、
図1にも示した減速機4、電動機M(ガスタービンやディーゼルエンジン等の内燃機関であってもよい)などが設置され、横軸ポンプPは減速機4を介して電動機Mによって駆動される。
【0025】
横軸ポンプPの吸込側には吸込配管31が接続され、該吸込配管31の下端には吸込ベルマウス32が接続される。そして、吸込配管31は吸込水槽1の水面(吸込水位)W1より下方に開口している。
【0026】
一方、横軸ポンプPの吐出側には吐出弁33を介して吐出配管34が接続され、該吐出配管34の吐出口は吐出水槽2内に開口している。また、吐出配管34の吐出口には逆止弁35が設けられている。
【0027】
また、横軸ポンプPは吐出ボウル36を備え、その両側面に吸込配管31および吐出配管34が接続されている。さらに、吐出ボウル36の上方に圧力調整配管37が接続され、吐出ボウル36内の圧力が調整される。すなわち、吐出ボウル36は、圧力調整配管37に設けられた吸気弁38を介して真空ポンプ39(電動機40によって駆動される)によって真空引きされるとともに、真空破壊弁41を介して大気解放される。また、圧力調整配管37には満水検知器42が設けられる。
【0028】
図3は、
図2の横軸ポンプの内部構成を示す断面図である。吐出ボウル36の吸込側に吸込ケーシング43が接続されている。吐出ボウル36内にはポンプインペラ44やガイドベーン45が配置され、ポンプインペラ44は吐出ボウル36内に配置された水中軸受(図示せず)に回転自在に支持された主軸46に取り付けられている。また、主軸46は軸封機構47を介して吸込ケーシング43の外側に延伸している。ポンプインペラ44は吸込水位(吸込水槽1の水面W1)より上方に位置しており、横軸ポンプの運転時には吸い上げ運転となる。
【0029】
以下では、ポンプPが横軸ポンプである例を説明するが、他の型のポンプであってもよい。
【0030】
図4は、ポンプを始動する際の手順を示すフローチャートである。まず吸気弁38を開く(ステップS51)とともに真空ポンプ39を起動する(ステップS52)。これにより、吐出ボウル36内の空気が排気され、吸込水槽1内の水が吸込ベルマウス32、吸込配管31および吸込ケーシング43を通して吐出ボウル36に吸い込まれる。
【0031】
吸い込まれた水が吐出ボウル36の上面に達し、さらに満水検知器42まで達すると、満水検知器42は吐出ボウル36内が満水になったことを検知する(ステップS53)。その後、吸気弁38を閉じ(ステップS54)、電動機Mを起動し(ステップS55)、吐出弁35を開く(ステップS56)。これにより、ポンプインペラ44が回転し、吸込水槽1内の水は連続的に吸込ベルマウス32に吸い込まれ、吸込配管31、吸込ケーシング43、吐出ボウル36および吐出配管34を通って吐出水槽2内に吐出される。以上の制御は、ポンプ制御装置12におけるポンプ始動制御部(後述)によって行われる。
【0032】
図5は、ポンプを停止する際の手順を示すフローチャートである。まず、吐出弁33を閉じる(ステップS61)。次いで、遮断機(不図示)を切ることで電動機Mを停止する(ステップS62)。その後、真空破壊弁41を開いて(ステップS63)、吐出ボウル36内に空気を満たす。これにより、横軸ポンプは停止状態となる。その後、真空破壊弁41を閉じておく(ステップS64)。以上の制御は、ポンプ制御装置12におけるポンプ停止制御部(後述)によって行われる。
【0033】
図6は、ポンプ制御装置12の概略構成を示すブロック図である。このポンプ制御装置12は、
図1に示した複数のポンプPを制御するものである。
【0034】
ポンプ制御装置12は、記憶部51と、水位判定部52と、始動水位管理部53と、停止水位管理部54と、ポンプ始動制御部55と、ポンプ停止制御部56と、タイマ57とを有する。これら各部は、その少なくとも一部がハードウェアで実装されてもよいし、不図示のプロセッサによって所定のプログラムが実行されることによってソフトウェアで実現されてもよい。
【0035】
記憶部51はポンプの始動水位や停止水位を記憶する。始動水位はポンプごとに定められ、当該ポンプが始動するための条件の1つとなる。停止水位はポンプごとに定められ、当該ポンプが停止するための条件の1つとなる。始動水位や停止水位には初期値が設定されており、記憶部51は初期値を記憶する。また、始動水位や停止水位は更新可能であり、記憶部51は更新後の始動水位や停止水位も記憶する。さらに、記憶部51はポンプの始動・停止履歴、すなわち、各ポンプがいつ始動・停止したかを記憶する。
【0036】
水位判定部52は、水位計29の計測結果に基づいて、吸込水槽1内の水位が始動水位や停止水位に達したか否かの判定を行う。
【0037】
始動水位管理部53は始動水位を管理する。より具体的には、始動水位管理部53は、吸込水槽1内の水位や、過去のポンプの停止履歴に基づいて始動水位を更新する。また、本実施形態の特徴の1つとして、始動水位管理部53は、全ポンプの停止後、一定期間ポンプの始動がない場合、始動水位を初期値にリセットする。
【0038】
同様に、停止水位管理部54は停止水位を管理する。より具体的には、停止水位管理部54は、吸込水槽1内の水位や、過去のポンプの停止履歴に基づいて停止水位を更新する。また、本実施形態の特徴の1つとして、停止水位管理部54は、全ポンプの停止後、一定期間ポンプの始動がない場合、停止水位を初期値にリセットする。
【0039】
ポンプ始動制御部55は、
図4を用いて上述した手順により、ポンプを始動する。
ポンプ停止制御部56は、
図5を用いて上述した手順により、ポンプを停止する。
【0040】
タイマ57は、全ポンプの停止後に計時を開始し、全ポンプの停止からの経過時間を把握する。計時時間は、始動水位管理部53および停止水位管理部54がそれぞれ始動水位および停止水位をリセットするタイミングを制御するために用いられる。
【0041】
図7は、第1の実施形態におけるポンプ制御装置12の処理動作の一例を示すフローチャートである。便宜上、排水システムは2台のポンプP1,P2を備えるものとする。また、初めはポンプP1,P2の各始動水位SWL1,SWL2はともに初期値SWL10,SWL20(SWL10<SWL20とする)であり、ポンプP1,P2の各停止水位STWL1,STWL2はともに初期値STWL10,STWL20(STWL10<STWL20とする)であり、両ポンプP1,P2は停止状態であるとする。
【0042】
まず、水位判定部52は、水位計29の計測データに基づいて、吸込水槽1内の水位がポンプP1の始動水位SWL1まで上昇したか否かを判定する(ステップS1)。
【0043】
上昇したと判定されると(ステップS1のYES)、始動水位管理部53は、記憶部51を参照し、過去の一定期間内にポンプP1が停止した履歴の有無を確認する(ステップS2)。停止した履歴がある場合(ステップS2のYES)、始動水位管理部53は始動水位SWL1が高くなるよう更新する(ステップS3)。より具体的には、始動水位管理部53は下記(1)式に基づいて始動水位SWL1を更新し、更新後の始動水位SWL1を記憶部51に記録する。
SWL1=SWL1+UD1 ・・・(1)
【0044】
ただし、更新後の始動水位SWL1について、SWL1<SWL2の関係を満たすものとする。そして、ポンプP1は始動されることなくステップS1に戻る。これにより、ポンプP1が頻繁に始動するのを抑えることができる。
【0045】
一方、停止した履歴がない場合(ステップS2のNO)、始動水位管理部53が始動水位SWL1を更新することなく、ポンプ始動制御部55はポンプP1を始動する(ステップS4)。このとき、ポンプ始動制御部55はポンプP1を始動した時点を記憶部51に記録する。これにより、ポンプP1のみ運転状態となる。
【0046】
続いて、水位判定部52は、吸込水槽1内の水位がポンプP2の始動水位SWL2まで上昇したか否か、および、ポンプP1の停止水位STWL1まで低下したか否かを判定する(ステップS5)。まずは、始動水位SWL2まで上昇した場合について説明する。
【0047】
上昇したと判定されると(ステップS5の「SWL2に上昇」)、始動水位管理部53は、記憶部51を参照し、過去の一定期間内にポンプP2が停止した履歴の有無を確認する(ステップS6)。停止した履歴がある場合(ステップS6のYES)、始動水位管理部53は始動水位SWL2が高くなるよう更新する(ステップS7)。より具体的には、始動水位管理部53は下記(2)式に基づいて始動水位SWL2を更新し、更新後の始動水位SWL2を記憶部51に記録する。
SWL2=SWL2+UD2 ・・・(2)
【0048】
なお、(1)式における増加量UD1と(2)式における増加量UD2は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。その後、ポンプP2は始動されることなくステップS5に戻る。これにより、ポンプP2が頻繁に始動するのを抑えることができる。
【0049】
一方、停止した履歴がない場合(ステップS6のNO)、始動水位管理部53が始動水位SWL2を更新することなく、ポンプ始動制御部55はポンプP2を始動する(ステップS8)。このとき、ポンプ始動制御部55はポンプP2を始動した時点を記憶部51に記録する。これにより、ポンプP1,P2の両方が運転状態となる。
【0050】
その後、水位判定部52は吸込水槽1内の水位がポンプP2の停止水位STWL2まで低下したか否かを判定する(ステップS9)。なお、停止水位STWL1<STWL2である。
【0051】
低下したと判定されると(ステップS9のYES)、停止水位管理部54は、記憶部51を参照し、過去の一定期間内にポンプP2が始動した履歴の有無を確認する(ステップS10)。始動した履歴がある場合(ステップS10のYES)、停止水位管理部54は停止水位STWL2が低くなるよう更新する(ステップS11)。より具体的には、停止水位管理部54は下記(3)式に基づいて停止水位STWL2を更新し、記憶部51に記録する。
STWL2=STWL2−WD2 ・・・(3)
【0052】
ただし、更新後の停止水位STWL2についても、STWL1<STWL2の関係を満たすものとする。その後、ポンプP2は停止されることなくステップS9に戻る。
【0053】
一方、始動した履歴がない場合(ステップS10のNO)、停止水位管理部54が停止水位STWL2を更新することなく、ポンプ停止制御部56はポンプP2を停止する(ステップS12)。このとき、ポンプ停止制御部56はポンプP2を停止した時点を記憶部51に記録する。これにより、ポンプP1のみ運転状態となり、ステップS5に戻る。
【0054】
ポンプP1のみが運転状態である場合に、吸込水槽1内の水位がポンプP1の停止水位STWL1まで低下したと判定されると(ステップS5の「STWL1に低下」)、停止水位管理部54は、記憶部51を参照し、過去の一定期間内にポンプP1が始動した履歴の有無を確認する(ステップS13)。始動した履歴がある場合(ステップS13のYES)、停止水位管理部54は停止水位STWL1が低くなるよう更新する(ステップS14)。より具体的には、停止水位管理部54は下記(4)式に基づいて停止水位STWL1を更新し、記憶部51に記録する。
STWL1=STWL1−WD1 ・・・(3)
【0055】
なお、(3)式における減少量WD2と(4)式における減少量WD2は、同じであってもおいし、異なっていてもよい。その後、ポンプP1は停止されることなくステップS5に戻る。
【0056】
一方、停止した履歴がない場合(ステップS13のNO)、停止水位管理部54が停止水位STWL1を更新することなく、ポンプ停止制御部56はポンプP1を停止する(ステップS15)。このとき、ポンプ停止制御部56はポンプP1を停止した時点を記憶部51に記録する。これにより、ポンプP1,P2の両方が停止状態となる。
【0057】
両ポンプP1,P2が停止状態となると、タイマ57が計時を開始する(ステップS16)。そして、タイマ57による計時時間が予め任意に定めた時間T1に達する前(ステップS17のNO)に上述したステップS1の「YES」およびS2の「NO」の条件を満たしてポンプP1が始動した場合(ステップS18のYES)、タイマ57は計時時間をリセットする(ステップS19)。そして、ステップS5に戻る。
【0058】
一方、ポンプP1が始動することなく(ステップS18のNO)、計時時間が時間T1に達すると(ステップS17のYES)、始動水位管理部53が始動水位SWL1,SWL2をそれぞれ初期値SWL10,SWL20にリセットするとともに、停止水位管理部54が停止水位STWL1,STWL2をそれぞれ初期値STWL10,STWL20にリセットする(ステップS20)。そして、タイマ57は計時時間をリセットし(ステップS21)、ステップS1に戻る。
【0059】
以上、2台のポンプP1,P2が設けられる例を説明したが、ポンプが3台以上あってもよい。ポンプがK台設けられる場合、始動水位の初期値SWLn0(n=1〜K)および停止水位の初期値STWLn0は、nが大きいほど高く設定される。また、始動水位の増加量UDは、n台目および(n+1)台目のポンプにおける始動水位の初期値の差の1/2〜1/5程度が好ましく、例えば50〜150mm程度に設定される。停止水位の減少量WDも同様であり、n台目および(n+1)台目のポンプにおける停止水位の初期値の差の1/2〜1/5程度が好ましい。
【0060】
また、始動水位には上限値を設け、始動水位を更新することで上限値に達した場合、その時点で該当するポンプを直ちに始動してもよい。例えば、n台目のポンプにおける始動水位の上限値は、(n+1)台目のポンプにおける始動水位の初期値未満とする。また、K台目のポンプにおける始動水位の上限値は、内水位の許容高水位HWL以下とすることができる。
なお、始動水位および停止水位のうち一方のみを更新したり、リセットしたりしてもよい。
【0061】
このように、第1の実施形態では、ポンプの停止履歴や始動履歴に応じて始動水位および停止水位を更新する。これにより、増水状況の変化に応じて始動水位および停止水位が最適化され、ポンプの始動および停止の頻度を低減できる。さらに、全ポンプが停止してから所定期間ポンプが始動しない場合、始動水位および停止水位を初期値にリセットする。そのため、所定時間増水がなかった場合には、過去の始動水位および停止水位の設定には依存せず、初期値から新たに始動水位および停止水位を更新することで、速やかに始動水位および停止水位を最適化し直すことができる。
【0062】
1台目のポンプからK台目のポンプが順次始動し、その後に順次停止するまでを1サイクルとした場合、1サイクルが終了して次のサイクルが始まるまでには、周囲の降雨状況などによって水の流入量や流入水位の変動状況は変化することがある。また、長期間の運用を考慮した場合、例えば長雨の季節における連日の降雨期間における増水対策として最適設定された後に、地域的集中豪雨に左右される季節になる場合も同様に、流入量や流入水位の変動状況は変化することがある。
【0063】
このような場合に、本実施形態を適用することで、ポンプの最適な始動水位および停止水位を構築できる。
【0064】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態は、過去の一定期間内にポンプの停止履歴があるか否かに応じて始動水位および停止水位を更新するものであった。これに対し、次に説明する第2の実施形態では、停止履歴に加えて水位上昇率も記憶部51に記憶しておき、水位上昇率も考慮して更新を行うものである。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0065】
図8は、第2の実施形態におけるポンプ制御装置12の処理動作の一例を示すフローチャートである。まず、水位判定部52は、水位計29の計測データに基づいて、吸込水槽1内の水位がポンプP1の始動水位SWL1まで上昇したか否かを判定する(ステップS31)。
【0066】
上昇したと判定されると(ステップS31のYES)、始動水位管理部53は、記憶部51を参照し、過去の一定期間内にポンプP1が停止した履歴の有無を確認する(ステップS32)。
【0067】
停止した履歴がある場合、始動水位管理部53は、さらに記憶部51を参照し、今回の水位上昇率が過去の水位上昇率より大きいか否かを比較する(ステップS33)。今回の水位上昇率とは、例えば水位が現在の始動水位SWL1に達した時点より前の所定期間における水位上昇率である。過去の水位上昇率とは、例えば水位が前回の始動水位SWL1に達した時点より前の所定期間における水位上昇率である。
【0068】
図9は、水位の変化を模式的に示す図であり、縦軸が水位、横軸が時間である。同図の一点鎖線で示すように、今回の水位上昇率の方が大きくない場合(
図8におけるステップS33のNO)、始動水位管理部53は上記(1)式に基づいて始動水位SWL1を更新する(ステップS34)。そして、始動水位管理部53はこのときの水位上昇率および更新後の始動水位SWL1を記憶部51に記録する。
【0069】
この場合、ポンプ始動制御部55はポンプP1を始動しない。水位上昇率が低い場合、排水の緊急性は高くないし、ポンプP1を始動するとすぐに水位が低下してポンプP1を短時間のうちに停止せざるを得なくなるためである。
【0070】
一方、
図9の二点鎖線で示すように、今回の水位上昇率の方が大きい場合(
図8におけるステップS33のYES)、始動水位管理部53が始動水位SWL1を更新することなく、ポンプ始動制御部55がポンプP1を始動する(ステップS35)。これにより、ポンプP1のみ運転状態となる。始動水位管理部53はこのときの水位上昇率を記憶部51に記録する。なお、水位上昇率がある閾値より大きい場合、始動水位管理部53は始動水位SWL1が低くなるよう更新してもよい。
【0071】
続いて、水位判定部52は、吸込水槽1内の水位がポンプP2の始動水位SWL2まで上昇したか否か、および、ポンプP1の停止水位STWL1まで低下したか否かを判定する(ステップS36)。まずは、始動水位SWL2まで上昇した場合について説明する。
【0072】
上昇したと判定されると(ステップS36の「SWL2に上昇」)、始動水位管理部53は、記憶部51を参照し、過去の一定期間内にポンプP2が停止した履歴の有無を確認する(ステップS37)。
【0073】
停止した履歴がある場合、始動水位管理部53は、さらに記憶部51を参照し、今回の水位上昇率が過去の水位上昇率より大きいか否かを比較する(ステップS38)。今回の水位上昇率とは、例えば水位が現在の始動水位SWL2に達した時点より前の所定期間における水位上昇率である。過去の水位上昇率とは、例えば水位が前回の始動水位SWL2に達した時点より前の所定期間における水位上昇率である。
【0074】
今回の水位上昇率の方が大きくない場合(ステップS38のNO)、始動水位管理部53は上記(2)式に基づいて始動水位SWL2を更新する(ステップS39)。そして、始動水位管理部53はこのときの水位上昇率および更新後の始動水位SWL2を記憶部51に記録する。
【0075】
一方、今回の水位上昇率の方が大きい場合(ステップS38のYES)、始動水位管理部53が始動水位SWL2を更新することなく、ポンプ始動制御部55がポンプP2を始動する(ステップS40)。始動水位管理部53はこのときの水位上昇率を記憶部51に記録する。これにより、ポンプP1,P2の両方が運転状態となる。なお、水位上昇率がある閾値より大きい場合、始動水位管理部53は始動水位SWL2が低くなるよう更新してもよい。
【0076】
その後、水位判定部52は吸込水槽1内の水位がポンプP2の停止水位STWL2まで低下したか否かを判定する(ステップS41)。低下したと判定されると(ステップS41のYES)、ポンプ停止制御部56はポンプP2を停止する(ステップS42)。また、ポンプ停止制御部56はポンプP2を停止した時点を記憶部51に記録する。これにより、ポンプP1のみ運転状態となり、ステップS36に戻る。なお、第1の実施形態と同様に、過去の運転履歴を考慮して停止水位STWL2を更新してもよい。
【0077】
ポンプP1のみが運転状態である場合に、吸込水槽1内の水位がポンプP1の停止水位STWL1まで低下したと判定されると(ステップS36の「STWL1に低下」),ポンプ停止制御部56はポンプP1を停止する(ステップS43)。また、ポンプ停止制御部56はポンプP1を停止した時点を記憶部51に記録する。これにより、ポンプP1,P2の両方が停止状態となる。なお、第1の実施形態と同様に、過去の運転履歴を考慮して停止水位STWL1を更新してもよい。
【0078】
両ポンプP1,P2が停止状態となると、タイマ57が計時を開始する(ステップS44)。そして、タイマ57による計時時間が予め定めた時間T1に達する前(ステップS45のNO)に上述したステップS31の「YES」と、S32の「NO」またはS33の「YES」の条件を満たしてポンプP1が始動した場合(ステップS46のYES)、タイマ57は計時時間をリセットする(ステップS47)。そして、ステップS36に戻る。
【0079】
一方、ポンプP1が始動することなく(ステップS46のNO)、計時時間が時間T1に達すると(ステップS45のYES)、始動水位管理部53が始動水位SWL1,SWL2をそれぞれ初期値SWL10,SWL20にリセットする(ステップS48)。停止水位STWL1,STWL2も更新されている場合、停止水位管理部54が停止水位STWL1,STWL2をそれぞれ初期値STWL10,STWL20にリセットする。そして、タイマ57は計時時間をリセットし(ステップS49)、ステップS31に戻る。
以上、2台のポンプP1,P2が設けられる例を説明したが、ポンプが3台以上あってもよいのは第1の実施形態と同様である。
【0080】
このように、第2の実施形態では、ポンプの始動水位に達した際、過去の一定期間内に停止履歴があったとしても、水位の上昇率が大きい場合には、直ちにポンプを始動する。そのため、降雨状況などが変動しやすい場合でも、ポンプの始動遅れを防ぐことができ、信頼性を高めることができる。
【0081】
(第3の実施形態)
以下に説明する実施形態は、ポンプPの始動手順に特徴を有する。ポンプが横軸ポンプであり、第1の実施形態の
図4で説明した通常のポンプ始動の場合、吐出ボウル36内が満水になる(
図4のステップS53)までに10分程度の時間を要することが多い。すなわち、ポンプの始動制御を開始してから完了するまでにある程度の時間がかかる。
【0082】
このため、ポンプを始動すべきと判定された時点ではポンプ始動の緊急性があったとしても、短時間のうちに降雨量が減るなどして、ポンプを始動する必要がなくなることもある。例えば、水位が始動水位に達した後に小降りとなり、吐出ボウル36内が満水になる過程で水位が下がることもある。
【0083】
このような状況でポンプを始動すると必要以上の排水が行われ、短時間の運転で水位が急激に低下し、ポンプを停止しなければならなくなる。このような運用はポンプの始動・停止の頻度が徒に増えるので、好ましくない。
一方で、吐出ボウル36内が満水になった時点でも降水量の低下がなく、直ちにポンプを始動しなければならないことも当然にある。
【0084】
そこで、本実施形態では、吐出ボウル36内が満水になった時点での吸込水槽1内の水位に応じて、ポンプの始動を続行するか中止するかを判定するものである。
【0085】
図10は、第3の実施形態におけるポンプを起動する際の手順を示す図である。以下、
図4との相違点を中心に説明する。
図2の満水検知器42によって吐出ボウル36内が満水になったことが検知されると(ステップS51〜S53)、水位判定部52は吸込水槽1内の水位が依然として始動水位以上であるか否かを判定する(ステップS61)。具体的には、
図7のステップS4(または
図8のステップS35)にてポンプP1を始動する際には、水位判定部52は吸込水槽1内の水位と始動水位SWL1とを比較する。また、
図7のステップS8(または
図8のステップS40)にてポンプP2を始動する際には、水位判定部52は吸込水槽1内の水位と始動水位SWL2とを比較する。始動水位以上であれば、ポンプ始動制御部55はポンプの始動を続行する(ステップS54〜S56)。
【0086】
吐出ボウル36内が満水になった時点で水位が低下して始動水位未満である場合(ステップS61のNO)、ポンプ始動制御部55は、内部に持つタイマ(不図示)を用いて、計時を開始する(ステップS62)。
【0087】
そして、タイマによる計時時間が予め任意に定めた時間T2に達する前(ステップS64のNO)に再度水位が始動水位以上となると(ステップS63のYES)、ポンプ始動制御部55はポンプの始動を続行する(ステップS54〜S56)。
【0088】
一方、水位が始動水位に達することなく(ステップS63のNO)、計時時間が時間T2に達すると(ステップS64のYES)、ポンプ始動制御部55はポンプの始動を中止する(ステップS65)。すなわち、真空破壊弁41を開いて吐出ボウル36内に空気を満たし、ポンプを停止状態とする。その後、
図7のステップS4の途中であればステップS1に戻り、同S8の途中であればステップS5に戻る。
図8のステップS35の途中であればステップS31に戻り、同S40の途中であればステップS36に戻る。
【0089】
このように、第3の実施形態では、ポンプの始動制御の途中、すなわち、横軸ポンプの吐出ボウル36が満水になった際に、再度水位を確認する。そのため、降雨状況の変化などにより短時間で水位が変動した場合にも好適である。例えば、短時間で水位が低下した場合にはポンプを始動しないようにすることで、ポンプの始動・停止の頻度を抑えることができる。また、短時間での水位変動がない場合や水位が上昇し続けている場合には、始動遅れなくポンプを運転状態とすることができ、信頼性を高めることができる。
【0090】
なお、以上説明した各実施形態において、始動水位管理部53および停止水位管理部54は、始動水位や停止水位の更新を行う更新モードと、始動水位や停止水位の更新を更新せず固定値で運用する固定モードとを任意のタイミングでオペレータが切り替えて設定できるようにするのが望ましい。切替は簡易なスイッチで行えるのがさらに望ましい。
【0091】
例えば、天候が落ち着いている季節においては固定モードとし、天候の変動が激しい季節においては更新モードにするようにしてもよい。また、常時は固定モードとし、台風や豪雨などの非常時には更新モードにしてもよい。このようにすることで、オペレータは必要なときに更新モードに設定することで運用を任せることができ、ポンプ以外の設備の監視などに注力することが可能となり、信頼性の高い危機管理を行える。
【0092】
また、ポンプ制御装置12は、更新モードにおけるポンプの運転情報(始動や停止の時刻など)、各ポンプの始動水位および停止水位の更新履歴や更新回数などの運用データを記録して保存する支援部(不図示)を備えるのが望ましい。支援部は、記録された運用データを出力(例えばディスプレイ上に表示)したり、始動水位や停止水位の平均値をその初期値として提案したりする機能を持っているのがよい。このように、過去の運用実績に基づいて始動水位や停止水位を提示することで、より信頼性および安定性が高い設備を実現できる。
【0093】
さらに、各ポンプの始動水位および停止水位の更新量の決定機能を持つようにしてもよい。例えば、始動水位管理部53は、始動水位の初期値と、更新された始動水位との偏差に基づくPI制御またはPID制御の出力値に応じて、始動水位の更新を行う際の更新量を決定してもよい。具体的には、各ポンプの運転開始設定値を、始動水位の初期値と現状水位(測定水位)との偏差をもとに積分演算した予測値として、PIもしくはPIDの出力値を用い、そのPIもしくはPID出力における係数(ゲイン値)を、各ポンプの始動水位の更新量に適用することが考えられる。停止水位についても同様である。
【0094】
このようにPIもしくはPIDを用いた制御とすれば、従来、困難であったゲイン値の設定が、実際の状況に合わせた調整・記録により、その設備にあった制御値とすることが可能となり、より精度・信頼性の高い制御となる。
【0095】
また、ポンプの運転点(吐出量)は、給水槽水位(内水位)と吐出水位(外水位)との水位差(実揚程)に応じて変化するため、水位変動に影響することがある。そこで、ポンプの運転点により水位の調整値は調節幅を決定してもよい。
【0096】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【0097】
以上から、本発明の一態様によれば、吸込水槽の水を排水する複数のポンプを制御するポンプ制御装置であって、各ポンプには、始動水位および停止水位の初期値が設定されており、前記吸込水槽の水位が、いずれかのポンプの始動水位まで上昇したか否か、および、いずれかのポンプの停止水位まで低下したか否かを判定する水位判定部と、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの始動水位まで上昇し、かつ、過去の第1期間内にそのポンプが停止した履歴がある場合、そのポンプの始動水位が高くなるよう該始動水位を更新する始動水位管理部と、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの始動水位まで上昇し、かつ、過去の前記第1期間内にそのポンプが停止した履歴がない場合、そのポンプを始動させるポンプ始動制御部と、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの停止水位まで低下した場合、そのポンプを停止させるポンプ停止制御部と、を備え、すべてのポンプが停止した後、所定の第2期間、いずれのポンプも始動しない場合、前記始動水位管理部が各ポンプの始動水位を初期値にリセットする、ポンプ制御装置が提供される。
ポンプの停止履歴に応じて始動水位を更新することで、水位の上昇に追従して最適な始動水位を得ることができ、ポンプの起動頻度を抑えることができる。しかも、全ポンプが停止した後に一定期間ポンプの始動がなければ始動水位を初期値にリセットすることで、速やかに最適な始動水位を得ることができる。
【0098】
前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの停止水位まで低下し、かつ、過去の第3期間内にそのポンプが始動した履歴がある場合、そのポンプの停止水位が低くなるよう該停止水位を更新する停止水位管理部を備え、前記ポンプ停止制御部は、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの停止水位まで低下し、かつ、過去の前記第3期間内にそのポンプが停止した履歴がない場合に、そのポンプを停止させ、すべてのポンプが停止した後、前記第2期間、いずれのポンプも始動しない場合、前記停止水位管理部が各ポンプの停止水位を初期値にリセットするのが望ましい。
始動水位に加えて停止水位も更新およびリセットすることで、最適な停止水位が速やかに得られる。
【0099】
前記始動水位管理部は、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの始動水位まで上昇し、かつ、過去の前記第1期間内にそのポンプが停止した履歴があり、かつ、現在の水位上昇率が過去の水位上昇率より低い場合に、そのポンプの始動水位が高くなるよう該始動水位を更新し、前記ポンプ始動制御部は、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの始動水位まで上昇し、かつ、過去の前記第1期間内にそのポンプが停止した履歴があり、かつ、現在の水位上昇率が過去の水位上昇率より高い場合に、そのポンプを始動させてもよい。
水位の上昇率が低い場合にはポンプの始動水位を高くすることで、ポンプの起動頻度を抑えることができる。加えて、水位の上昇率が高い場合にはポンプを始動することで、ポンプの始動遅れを防止できる。
【0100】
前記始動水位管理部は、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの始動水位まで上昇し、かつ、現在の水位上昇率が所定値より高い場合に、そのポンプの始動水位が低くなるよう該始動水位を更新してもよい。
これにより、水位上昇率に応じて適切に始動水位を更新できる。
【0101】
前記水位判定部は、ポンプの始動制御中に前記吸込水槽の水位を確認し、前記ポンプ始動制御部は、確認された水位が前記始動水位以上であれば、ポンプの始動制御を続行し、確認された水位が前記始動水位未満であれば、所定の第4期間内に水位が前記始動水位に達した場合は前記ポンプの始動を続行し、前記第4期間内に水位が前記始動水位に達しない場合はポンプの始動制御を中止してもよい。
例えば、前記ポンプは、吐出ボウルを有する横軸ポンプであり、前記水位判定部は、前記吐出ボウル内が満水になった時に水位を確認してもよい。
これにより、短時間で水位が低下した場合にはポンプを始動を中止するため、ポンプの起動頻度を抑えることができる。また、短時間での水位変動がない場合や水位が上昇し続けている場合にはポンプの始動を続行するため、始動遅れなくポンプを運転状態とすることができ、信頼性を高めることができる。
【0102】
前記始動水位管理部は、更新モードまたは固定モードに設定可能であり、更新モードに設定された場合には、始動水位の更新を行い、固定モードに設定された場合には、始動水位を更新しないのが望ましい。
これにより、必要な場合に更新モードに設定することで、信頼性の高い危機管理を実現できる。
【0103】
水位の変化と、前記ポンプの始動および停止の情報と、始動水位の更新履歴と、を記録し、記録されたデータを出力するとともに、記録された始動水位の平均値に基づいて始動水位の初期値の提案を行う支援部を備えるのが望ましい。
これにより、ポンプの起動履歴や始動水位の適切な初期値を把握できる。
【0104】
前記始動水位管理部は、始動水位の初期値と、更新された始動水位との偏差に基づくPI制御またはPID制御の出力値に応じて、始動水位の更新を行う際の更新量を決定してもよい。
これにより、始動水位の更新量を自動的かつ適切に決定できる。
【0105】
また、本発明の別の態様によれば、吸込水槽の水を排水する複数のポンプと、前記吸込水槽の水位を計測する水位計と、上記ポンプ制御装置と、を備える排水システムが提供される。
【0106】
また、本発明の別の態様によれば、吸込水槽の水を排水する複数のポンプを制御するポンプ制御方法であって、各ポンプには、始動水位および停止水位の初期値が設定されており、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの始動水位まで上昇し、かつ、過去の第1期間内にそのポンプが停止した履歴がある場合、そのポンプの始動水位が高くなるよう該始動水位を更新し、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの始動水位まで上昇し、かつ、過去の前記第1期間内にそのポンプが停止した履歴がない場合、そのポンプを始動させ、前記吸込水槽の水位がいずれかのポンプの停止水位まで低下した場合、そのポンプを停止させ、すべてのポンプが停止した後、所定の第2期間、いずれのポンプも始動しない場合、各ポンプの始動水位を初期値にリセットする、ポンプ制御方法が提供される。