【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の電極は、第1の基板と、前記第1の基板上に設けられた第1の導電層と、前記第1の導電層上に設けられた第1の光触媒層と、前記第1の光触媒層の少なくとも一部に担持された第1の助触媒とを有し、
前記第2の電極は、第2の基板と、前記第2の基板上に設けられた第2の導電層と、前記第2の導電層上に設けられた第2の光触媒層と、前記第2の光触媒層の少なくとも一部に担持された第2の助触媒とを有する、請求項1又は2に記載の人工光合成モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の人工光合成モジュール及び人工光合成装置を詳細に説明する。
なお、以下において数値範囲を示す「〜」とは両側に記載された数値を含む。例えば、εが数値α1〜数値β1とは、εの範囲は数値α1と数値β1を含む範囲であり、数学記号で示せばα1≦ε≦β1である。
「平行」及び「垂直」を含め角度については、特に断りがなければ、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
【0013】
本発明の人工光合成モジュールは、分解対象となる原料流体を、光エネルギーを利用して分解して、原料流体とは別の物質を得るものであり、光により原料流体を分解して第1の流体と第2の流体を得るものである。
人工光合成モジュールは、光により原料流体を分解して第1の流体を得る第1の電極と、光により原料流体を分解して第2の流体を得る第2の電極とを有する。
なお、第1の流体と第2の流体は、それぞれ流体であれば、特に限定されるものではなく、気体又は液体である。なお、上述の別の物質とは、原料流体を酸化又は還元して得らえる物質のことである。
以下、人工光合成モジュール及び人工光合成装置について説明する。
【0014】
原料流体が水であり、第1の流体が酸素であり、第2の流体が水素である場合を例にして、人工光合成モジュールを説明する。
図1は本発明の実施形態の人工光合成モジュールの第1の例を示す模式的断面図であり、
図2は本発明の実施形態の人工光合成モジュールの第1の例を示す模式的平面図である。
図3は酸素発生電極の一例を示す模式的断面図であり、
図4は水素発生電極の一例を示す模式的断面図である。
図5は隔膜を示す模式的斜視図である。
図1に示す人工光合成モジュール10は、例えば、光Lにより、原料流体である水AQを分解して、第1の流体である酸素と、第2の流体である水素を発生させる等して得るものである。人工光合成モジュール10は、例えば、酸素発生電極12と、水素発生電極14と、酸素発生電極12と水素発生電極14の間に設けられた隔膜16とを有する。人工光合成モジュール10は、酸素発生電極12と水素発生電極14を有する2電極水分解モジュールであり、例えば、酸素発生電極12と水素発生電極14は水AQに浸漬された状態で水AQの分解に利用される。
【0015】
人工光合成モジュール10は、酸素発生電極12、水素発生電極14及び隔膜16を収納する容器20を有する。容器20は、例えば、水平面B上に配置されている。
酸素発生電極12は、水AQに浸漬された状態で水AQを分解して酸素ガスを発生させるものであり、例えば、
図2に示すように全体が平板状である。
水素発生電極14は、水AQに浸漬された状態で水AQを分解して水素ガスを発生させるものであり、例えば、
図2に示すように全体が平板状である。
【0016】
図1に示すように容器20は、一面が解放された筐体22と、筐体22の解放部分を覆う透明部材24を有する。隔膜16により、容器20内は、透明部材24側の第1の区画23aと、底面22b側の第2の区画23bに区画される。光Lは、例えば、太陽光であり、透明部材24側から入射される。透明部材24についても、後述の透明の規定を満たすことが好ましい。
酸素発生電極12と水素発生電極14とは、例えば、導線18により電気的に接続されている。且つ酸素発生電極12と水素発生電極14とは、光Lの進行方向Diに沿って直列に容器20内で隔膜16を挟んで、酸素発生電極12と水素発生電極14の順に配置されている。
図1では、酸素発生電極12と水素発生電極14とが、隙間をあけて互いに平行にして重ねて配置されている。
【0017】
酸素発生電極12と水素発生電極14の隙間Wdは、1mm〜20mmが好ましく、隙間は小さい方が、エネルギー変換効率が良くなる。なお、酸素発生電極12と水素発生電極14の隙間Wdは、酸素発生電極12の第1の光触媒層34の表面34aと、水素発生電極14の第2の光触媒層44の表面44aの距離である。
【0018】
第1の区画23aに酸素発生電極12が配置されており、第1の区画23a内で酸素ガスが発生される。第2の区画23bに第2の基板40が底面22bに接して、水素発生電極14が配置されており、第2の区画23b内に水素ガスが発生される。
なお、光Lは容器20に対して透明部材24側から、すなわち、光Lは酸素発生電極12側から入射される。上述の光Lの進行方向Diは透明部材24の表面24aに垂直な方向である。
【0019】
第1の区画23aでは、第1の壁面22cに供給管26aが設けられ、第1の壁面22cと対向する第2の壁面22dに排出管28aが設けられている。第2の区画23bでは、第1の壁面22cに供給管26bが設けられ、第1の壁面22cと対向する第2の壁面22dに排出管28bが設けられている。供給管26aと供給管26bから水AQが容器20内に供給されて容器20内が水AQで満たされ、水AQは方向Dに流れ、排出管28aから酸素を含む水AQが排出され、酸素が回収される。排出管28bから水素を含む水AQが排出され、水素が回収される。この場合、水AQの流れ方向F
Aは方向Dである。
方向Dは第1の壁面22cから第2の壁面22dに向かう方向である。なお、筐体22は、例えば、水素発生電極14及び酸素発生電極12を使用した際に、短絡等が発生しない程度の電気絶縁性材料で構成される。筐体22は、例えば、アクリル樹脂で構成される。容器20は、後述の第1の基板30における透明の規定を満たすことが好ましい。
【0020】
水AQには、蒸留水、及び冷却塔等で用いられる冷却水が含まれる。また、水AQには電解水溶液も含まれる。ここで、電解水溶液とは、H
2Oを主成分とする液体であり、水を溶媒とし溶質を含む水溶液であってもよく、例えば、強アルカリ(KOH(水酸化カリウム))、H
2SO
4を含む電解液、又は硫酸ナトリウム電解液、リン酸カリウム緩衝液等である。電解水溶液としては、pH(水素イオン指数)9.5に調整したH
3BO
3が好ましい。
【0021】
なお、人工光合成モジュール10では、水AQを供給するための供給部(図示せず)と、人工光合成モジュール10から排出される水AQを回収する回収部(図示せず)とを設けてもよい。
供給部には、ポンプ等の公知の水の供給装置が利用可能であり、回収部にはタンク等の公知の水の回収装置が利用可能である。
供給部は供給管26a、26bを介して人工光合成モジュール10に接続し、回収部は排出管28a、28bを介して人工光合成モジュール10に接続して、回収部で回収された水AQを供給部に循環させて、水AQを再利用することもできる。
また、水AQを隔膜16の表面16a(
図5参照)及び裏面16b(
図5参照)に対して平行に流し、水AQの流れを電極表面の上で層流にする。この場合、更にハニカム整流板を設けてもよい。水AQの流れは、乱流を含まず、水AQの流れ方向F
Aの流れにも乱流は含まれない。
【0022】
以下、人工光合成モジュール10の各部について説明する。
酸素発生電極12は、
図1及び
図3に示すように第1の基板30と、第1の基板30上、すなわち、表面30aに設けられた第1の導電層32と、第1の導電層32上、すなわち、表面32aに設けられた第1の光触媒層34と、第1の光触媒層34の少なくとも一部に担持された第1の助触媒36とを有する。酸素発生電極12が第1の電極である。
第1の助触媒36は、例えば、複数の助触媒粒子37で構成されている。これにより、第1の光触媒層34の表面34aへの光Lの入射光量の低下が抑制される。酸素発生電極12では、第1の助触媒36は第1の光触媒層34に接しているか、又は正孔が移動できる層を介在して存在し、水AQと接していることが必要である。
第1の光触媒層34の吸収端は、例えば、400nm〜800nm程度である。
ここで、吸収端とは、連続吸収スペクトルにおいて波長がこれ以上長くなると吸収率が急激に減少するようになる部分又はその端のことであり、吸収端の単位はnmである。酸素発生電極12は、全体の厚みが2mm程度であることが好ましい。
【0023】
酸素発生電極12は、水素発生電極14に光Lを入射させるために、光Lが透過可能なものである。光Lを水素発生電極14に照射させるためには、光Lが酸素発生電極12を透過する必要があり、第1の基板30は透明である。水素発生電極14は、後述する第2の基板40(
図4参照)が透明である必要がない。
第1の基板30において透明とは、第1の基板30の光透過率が、波長380nm〜780nmの領域において、最低で60%である。上述の光透過率は分光光度計により測定される。分光光度計としては、例えば、紫外可視分光光度計である日本分光株式会社製V-770(品名)が用いられる。
なお、光透過率をT%とするとき、T=(Σλ(測定物質+基板)/Σλ(基板))×100%で表される。上述の測定物質はガラス基板で、基板リファレンスは空気である。積分の範囲は波長380nm〜780nmの光のうち、光触媒層の受光波長までとする。なお、光透過率の測定にはJIS(日本工業規格) R 3106−1998を参考にすることができる。
【0024】
水素発生電極14は、
図1及び
図4に示すように、第2の基板40と、第2の基板40上、すなわち、表面40aに設けられた第2の導電層42と、第2の導電層42上、すなわち、表面42aに設けられた第2の光触媒層44と、第2の光触媒層44の少なくとも一部に担持された第2の助触媒46とを有する。水素発生電極14が第2の電極である。水素発生電極14の第2の光触媒層44の吸収端は、例えば、600nm〜1300nm程度である。
【0025】
第2の助触媒46は第2の光触媒層44の表面44aに設けられている。第2の助触媒46は、例えば、複数の助触媒粒子47で構成されている。これにより、第2の光触媒層44の表面44aへの光Lの入射光量の低下が抑制される。
水素発生電極14では、光Lを吸収した際に生成するキャリアが発生し、水AQを分解して水素ガスが発生する。水素発生電極14では、第2の光触媒層44の表面44aにn型伝導性を持つ材料を積層させpn接合を形成することも好ましい。水素発生電極14の各構成については後に詳細に説明する。
【0026】
図1に示すように人工光合成モジュール10では、光Lが酸素発生電極12側から入射され、酸素発生電極12は第1の光触媒層34が、光Lの入射側の反対側に設けられている。第1の光触媒層34を光Lの入射側の反対側に設けることで、光Lが第1の基板30を通して裏面から入射されるため、第1の光触媒層34による減衰効果を抑えることができる。水素発生電極14は、光Lの入射側に第2の光触媒層44が設けられている。
【0027】
隔膜16は、貫通孔17(
図5参照)を有する膜で構成され、且つ、温度25℃の純水に1分浸漬させ、純水に浸漬された状態において、波長380nm〜780nmの波長域の光透過率が60%以上である。すなわち、隔膜16は波長380nm〜780nmの波長域において、光透過率が最低で60%である。隔膜16において、上述のように波長380nm〜780nmの波長域におい
て光透過率が60%以上であることを透明であるという。
なお、隔膜16が純水に浸漬された状態とは、隔膜16の全体が純水の内部にあり、隔膜16の表面16a上と裏面16b上に純水が存在している状態のことである。
隔膜16の光透過率の測定は、透過率測定装置(日本電色工業株式会社製SH7000)が用いられる。隔膜16を純水に1分間浸漬した後、純水に浸漬させた状態で、隔膜16の光透過率の測定を行う。光透過率は、波長380nm〜780nmの波長域において透過する全ての光を積分球により積分して透過光量として
、計算する。
【0028】
図5に示すように隔膜16は、複数の貫通孔17がある。各貫通孔17は、例えば、表面16aから裏面16bに貫通するものである。貫通孔17は、表面16aから裏面16bを貫通していれば、表面16aに対して垂直に貫通するものに、特に限定されるものではない。隔膜16が2次元メッシュ構造の場合、メッシュの開口部が貫通孔17である。隔膜16が3次元網目構造の場合、網目が貫通孔17である。隔膜16が繊維で構成されている場合、繊維同士の隙間により形成される穴も貫通孔17に含まれる。
【0029】
上述のように酸素発生電極12では酸素ガスが発生し、水素発生電極14では水素ガスが発生する。発生した酸素ガス及び発生した水素ガスは、いずれも水AQ内に溶存するが、発生した酸素ガス及び発生した水素ガスが多く、水AQに溶存しきれない場合には、酸素ガス及び水素ガスが水AQ内で気体の状態で存在することがある。水AQ内に溶存しない酸素ガスが水AQ内で集合体となったものを酸素ガスの気泡という。水AQ内に溶存しない水素ガスが水AQ内で集合体となったものを水素ガスの気泡という。
【0030】
酸素ガスの気泡及び水素ガスの気泡は、いずれも径が10μm以上1mm以下程度である。酸素ガスの気泡及び水素ガスの気泡のことを、まとめて、単に気泡ともいう。気泡の径は、気泡が球であれば直径であり、球でなければ球の直径に相当する相当径である。
酸素ガスの気泡及び水素ガスの気泡は、いずれも一定の大きさになるまでは、酸素発生電極12の第1の光触媒層34の表面及び水素発生電極14の第2の光触媒層44の表面に留まるため、径が小さい気泡、すなわち、小さいサイズの気泡は水AQ内には存在しない。
また、径が大きい気泡、すなわち、大きいサイズの気泡は、酸素発生電極12の第1の光触媒層34の表面及び水素発生電極14の第2の光触媒層44の表面から脱離するが、隔膜16が親水性の場合、隔膜16には付着せず、水AQの流れにより容器20内から外部に運ばれる。
【0031】
酸素ガスの気泡の径及び水素ガスの気泡の径は、以下のようにして測定することができる。
容器20内を、酸素発生電極12の第1の光触媒層34の表面及び水素発生電極14の第2の光触媒層44の表面を含めて、デジタルマイクロスコープを用いて撮像し、拡大して撮像された、容器20内の撮像画像を得る。撮像画像内で気泡を確認する。
例えば、デジタルマイクロスコープには、株式会社キーエンス製VHX−5000を用い、気泡の確認には、VHX−5000ユーザー用 画像解析ソフト(株式会社キーエンス製)を用いることができる。
平均気泡径を求めるための気泡の数を予め設定しておくことにより、酸素ガスの気泡の気泡径及び水素ガスの気泡の気泡径を求めることで、平均気泡径を得ることができる。
【0032】
隔膜16は、水AQを通過させるが、酸素ガスの気泡と水素ガスの気泡を通過させるものではない。このため、隔膜16は、酸素ガスの気泡50の平均気泡径及び水素ガスの気泡52の平均気泡径よりも小さい孔径の貫通孔17を有することが好ましい。
具体的には、
図5に示すように、酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52の平均気泡径をDbとし、貫通孔17の孔径をDhとするとき、Dh<Dbである。この場合、隔膜16の貫通孔17を水AQは通過するので、水AQに溶存した酸素ガス及び水素ガスは貫通孔17を通過することになるが、酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52が貫通孔17を通過することは抑制される。
【0033】
隔膜16の貫通孔17の平均孔径は0.1μm超50μm未満であり、好ましくは1μm超50μm未満である。貫通孔17の平均孔径が0.1μm超50μm未満であれば、水AQは貫通孔17を通過し、結果として水AQに溶存した酸素ガス及び水素ガスが隔膜16を通過するが、酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52の通過は抑制される。なお、水AQに溶存した酸素ガスと水素ガスが移動しても、水AQ内の酸素ガス及び水素ガスの溶存量は少ないため、酸素ガスと水素ガスが混合する量は、発生する酸素ガスと水素ガスに比して少ない。これにより、第1の区画23aから酸素ガスが回収され、第2の区画23bから水素ガスが回収される。
【0034】
通過が必要なプロトン及びイオンのサイズは孔径に比較して遥かに小さいものであり、隔膜16では、ナフィオン(登録商標)とは異なり、プロトン及びイオンの通過により抵抗は生じない。このため、隔膜16については、孔径が大きい方が膜厚を厚くできるため、耐久性に優れ好ましい。
また、ナフィオン(登録商標)のような高分子電解質では、電解に必要なプロトン及びイオンのみを、その高分子間に含有する水分子によって伝導する。
一方、隔膜16では、一定サイズの気泡は通さないが、水AQ自体は自由に行き来できる大きな孔を有するので、ナフィオン(登録商標)に比較して膜内に多くの水分子を含有し、プロトン及びイオンの伝導度は高く、電解電圧を低く抑えることができる。
また、従来は発生する水素は、純度が高純度であることが求められていたため、水AQ自体が自由に行き来することで、水素の純度が下がる虞がある隔膜16自体、着想することができない。
【0035】
隔膜16の貫通孔17の平均孔径は、以下に示す顕微鏡観察法を用いて求める。
顕微鏡観察法は、隔膜16の表面16aについて、電子顕微鏡を用いて倍率100倍〜10000倍程度で観察する。観察の結果、大きい順に選定した、最低20個の貫通孔17について撮像し、撮像して得られた画像に現れる不定形の貫通孔17に対して、その貫通孔17に内接する様な円を描き、内接する円の直径をその貫通孔17の孔径とする。
最低20個の貫通孔17の孔径分布の標準偏差σを計算し、3σをカバーする大きさを求める。3σをカバーする大きさを、隔膜16の貫通孔17の平均孔径とする。
隔膜16の貫通孔17の平均孔径の測定には、解析ソフトとして、日鉄住金テクノロジー株式会社製の「粒子解析 Ver.3.5」を用いることができる。「粒子解析 Ver.3.5」の最小径が、上述の内接する円の直径に相当する。
また、隔膜16の貫通孔17の平均孔径としては、カタログ値でもよい。
【0036】
隔膜16の光透過率は、隔膜16の厚み依存性がある。このため、隔膜16は、波長380nm〜780nmの波長域の光透過率が最低で60%となる厚みdとすることが好ましい。厚みdは、0.01mm〜0.5mmであることが好ましく、厚みdの上限値は0.2mmであることがより好ましい。
隔膜16の厚みdは、隔膜16の表面16aと裏面16bとの距離のことである。
【0037】
隔膜16は親水性表面を有する多孔質膜で構成されることが好ましい。すなわち、隔膜16の表面16a及び裏面16bが親水性面の多孔質膜であることが好ましい。隔膜16の表面16aと裏面16bは、それぞれ酸素ガスの気泡50又は水素ガスの気泡52と接する面である。
親水性表面は、隔膜16自体の性質であってもよいし、隔膜16に親水性処理を施して親水性表面としてもよい。隔膜16には、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が用いられる。PTFEは、通常、撥水性を有するが、例えば、アルコールに浸す等の親水性処理を施すことにより、水に対する接触角が小さくなり、親水性を示すものとなる。
また、隔膜16への親水性処理としては、PVA(ポリビニルアルコール)樹脂を含浸させて架橋させる方法があり、この方法では、親水化処理の耐久性を向上させることができる。親水性処理としては、これ以外に、WO2014/21167号に示されている方法を用いることもできる。
親水性表面とは、水に対する接触角で規定されるものである。親水性と疎水性とは、後述の[親水性と疎水性の測定と判定]に基づいて決定される。
【0038】
親水性表面を有する隔膜16とすることで、隔膜16に水AQが浸み込みやすくなり、酸素ガスの気泡50又は水素ガスの気泡52により貫通孔17が塞がれなくなる。これにより、隔膜16の貫通孔17を水AQが通過しやすくなり、結果として水AQ中のプロトン及びイオンが通過しやすくなり、エネルギー変換効率が上がる。また、親水性表面を有する隔膜16とすることで、酸素ガスの気泡50又は水素ガスの気泡52が隔膜16の表面16a及び裏面16bで弾かれ、酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52が貫通孔17を通過しにくくなる。これにより、酸素ガスと水素ガスの混合が抑制され、酸素ガス及び水素ガスを回収することができる。
酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52が貫通孔17を通過しにくくなると同時に、隔膜16の表面16a及び裏面16bに酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52が付着しにくくなるので、酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52が速やかに水AQの流れと共に排出される。更には酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52が隔膜16に付着しないことにより、隔膜16の有効面積が確保されるため、エネルギー変換効率が上がる。また、隔膜16に酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52が付着した場合、光Lの利用効率を下げる虞があるが、このことも抑制され、エネルギー変換効率が上がる。
【0039】
隔膜16に利用可能なものを含め、透過率の例を
図6に示す。
図6において、符号80は厚みが0.1mmのナフィオン(登録商標)膜を示す。符号82は多孔質のセルロース膜を示す。符号84は孔径が0.1μmの親水性PTFE(ポリエチレンテレフタレート)膜、符号86は孔径が1.0μmの親水性PTFE(ポリエチレンテレフタレート)膜、符号88は孔径が10μmの親水性PTFE(ポリエチレンテレフタレート)膜を示す。符号89は孔径が10μmの親水性PTFE膜であるが、空気中で測定した透過率である。符号89以外の符号80、82、84、86,88は温度25℃の純水に1分浸漬させ、純水に浸漬された状態における光透過率である。
従来から隔膜に用いられるナフィオン(登録商標)は多孔質膜ではない。符号82に示す多孔質のセルロース膜は耐光性が低い。このため、隔膜16としては、例えば、
図6に示す符号84、86、88の親水性PTFE(ポリエチレンテレフタレート)膜を用いることが好ましい。なお、親水性PTFE膜は、空気中では白く見え、符号89に示すように透過率が低い。
【0040】
図1に示す人工光合成モジュール10では、上述のように隔膜16を、多孔質膜で構成し、且つ、純水に浸漬された状態において透明なものとしている。供給管26aを介して容器20の第1の区画23a内に水AQを供給し、供給管26bを介して容器20の第2の区画23b内に水AQを供給し、光Lを透明部材24側から入射させることで、酸素発生電極12から第1の光触媒層34で酸素ガスが発生し、酸素発生電極12を透過した光が隔膜16を透過し、この透過光により、水素発生電極14では第2の光触媒層44で水素ガスが発生する。そして、酸素ガスを含む水AQが排出管28aから排出され、排出された酸素ガスを含む水AQから酸素が回収される。水素ガスを含む水AQが排出管28bから排出され、排出された水素ガスを含む水AQから水素が回収される。この場合、上述のように隔膜16を多孔質膜で構成することにより、イオン交換膜と異なり水AQが通過する。これにより、水AQに溶存した酸素ガス及び水素ガスは貫通孔17を通過するが、酸素ガスの気泡50及び水素ガスの気泡52は貫通孔17を通過しにくくなり、上述のように、電解効率、すなわち、エネルギー変換効率が上がる。
【0041】
なお、隔膜16を、酸素ガスが溶存した水AQと水素ガスが溶存した水AQが通過するため、酸素発生電極12側に水素ガスが移動し、水素発生電極側に酸素ガスが移動するが、上述のように水AQに溶存する酸素ガスの量及び水素ガスの量は少ないため、第1の区画23a内では酸素ガスと水素ガスとの混合が抑制され、第2の区画23b内では水素ガスと酸素ガスとの混合が抑制される。
【0042】
人工光合成モジュール10では、酸素発生電極12と水素発生電極14が、光Lの進行方向Diに沿って直列に配置されており、光Lを酸素発生電極12と水素発生電極14で利用することで、光Lの利用効率が高くでき、エネルギー変換効率が高い。すなわち、水分解を示す電流密度を高くすることができる。
また、人工光合成モジュール10では、酸素発生電極12及び水素発生電極14の設置面積を増大させることなく、エネルギー変換効率を高くすることができる。
【0043】
人工光合成モジュール10では、上述のように酸素発生電極12の第1の光触媒層34の吸収端は、例えば、500nm〜800nm程度であり、水素発生電極14の第2の光触媒層44の吸収端は、例えば、600nm〜1300nm程度である。
ここで、酸素発生電極12の第1の光触媒層34の吸収端をλ
1とし、水素発生電極14の第2の光触媒層44の吸収端をλ
2とするとき、λ
1<λ
2、且つλ
2−λ
1≧100nmであることが好ましい。これにより、光Lが太陽光である場合、先に酸素発生電極12の第1の光触媒層34に特定波長の光が吸収されての酸素の発生に利用されても、光Lが水素発生電極14の第2の光触媒層44に吸収されて水素の発生に利用することができ、水素発生電極14では必要なキャリア生成量が得られる。これにより、光Lの利用効率をより高めることができる。
【0044】
なお、水素発生電極14と酸素発生電極12とは、電気的に接続されていれば、接続形態は、特に限定されるものではなく、導線18に限定されるものではない。また、水素発生電極14と酸素発生電極12とは、電気的に接続されていればよく、接続の仕方は特に限定されるものではない。
【0045】
また、人工光合成モジュール10は、
図1では水平面B上に容器20を配置したが、
図7に示すように水平面Bに対して予め定められた角度φ傾けて配置してもよい。この場合、供給管26a及び供給管26bに比して、排出管28a及び排出管28bが高くなり、発生した酸素ガス及び水素ガスを回収しやすくなる。また、発生した酸素ガスを酸素発生電極12から速やかに移動させ、発生した水素ガスを水素発生電極14から速やかに移動させることができる。これにより、発生した酸素ガスの気泡及び水素ガスの気泡の滞留を抑でき、発生した酸素ガスの気泡及び水素ガスの気泡により光Lが遮られることが抑制される。このため、発生した酸素ガス及び水素ガスの反応効率に与える影響を小さくすることができる。人工光合成モジュール10では、傾斜角度は特に限定されるものではなく、緯度に合わせた太陽光入射方向に傾斜させることにより太陽光を効率よく利用することができる。
【0046】
図7に示すように水平面Bに対して角度φ傾けた場合、光Lは透明部材24の表面24aに対して垂直に入射されないが、酸素発生電極12では第1の光触媒層34は光Lの入射側と第1の基板30に対し、反対側に設けられている。
図7に示す角度φ傾けた人工光合成モジュール10でも、光Lの進行方向Diは
図1と同じとする。
【0047】
以下、第1の電極の一例である酸素発生電極12及び第2の電極の一例である水素発生電極14について説明する。
まず、酸素発生電極12に適した光触媒層及び助触媒について説明する。
【0048】
<酸素発生電極の光触媒層>
光触媒層を構成する光半導体としては、公知の光触媒を使用でき、少なくとも1種の金属元素を含む光半導体である。
なかでも、オンセットポテンシャルがより良好、光電流密度がより高い、又は連続照射による耐久性がより優れる点で、金属元素としては、Ti、V、Nb、Ta、W、Mo、Zr、Ga、In、Zn,Cu、Ag、Cd,Cr、又はSnが好ましく、Ti、V、Nb、Ta、又はWがより好ましい。
また、光半導体としては、上述の金属元素を含む酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、及びセレン化物等が挙げられる。
また、光触媒層中には、通常、光半導体が主成分として含まれる。主成分とは、第2の光触媒層全質量に対して、光半導体が80質量%以上であることを意図し、90質量%以上が好ましい。上限は特に限定されるものではないが、100質量%である。
【0049】
光半導体の具体例としては、例えば、Bi
2WO
6,BiVO
4,BiYWO
6,In
2O
3(ZnO)
3,InTaO
4,InTaO
4:Ni(「光半導体:M」は、光半導体にMをドープしていることを示す。以下同様。),TiO
2:Ni,TiO
2:Ru,TiO
2Rh,TiO
2:Ni/Ta(「光半導体:M1/M2」は、光半導体にM1とM2を共ドープしていることを示す。以下同様。),TiO
2:Ni/Nb,TiO
2:Cr/Sb,TiO
2:Ni/Sb,TiO
2:Sb/Cu,TiO
2:Rh/Sb,TiO
2:Rh/Ta,TiO
2:Rh/Nb,SrTiO
3:Ni/Ta,SrTiO
3:Ni/Nb,SrTiO
3:Cr,SrTiO
3:Cr/Sb,SrTiO
3:Cr/Ta,SrTiO
3:Cr/Nb,SrTiO
3:Cr/W,SrTiO
3:Mn,SrTiO
3:Ru,SrTiO
3:Rh,SrTiO
3:Rh/Sb,SrTiO
3:Ir,CaTiO
3:Rh,La
2Ti
2O
7:Cr,La
2Ti
2O
7:Cr/Sb,La
2Ti
2O
7:Fe,PbMoO
4:Cr,RbPb
2Nb
3O
10,HPb
2Nb
3O
10,PbBi
2Nb
2O
9,BiVO
4,BiCu
2VO
6,BiSn
2VO
6,SnNb
2O
6,AgNbO
3,AgVO
3,AgLi
1/3Ti
2/3O
2,AgLi
1/3Sn
2/3O
2,WO
3、BaBi
1−xInxO
3、BaZr
1−xSn
xO
3、BaZr
1−xGe
xO
3、及びBaZr
1−xSi
xO
3等の酸化物、LaTiO
2N,Ca
0.25La
0.75TiO
2.25N
0.75,TaON,CaNbO
2N,BaNbO
2N,CaTaO
2N,SrTaO
2N,BaTaO
2N,LaTaO
2N,Y
2Ta
2O
5N
2,(Ga
1−xZn
x)(N
1−xO
x),(Zn
1+xGe)(N
2O
x)(xは、0−1の数値を表す),及びTiN
xO
yF
z等の酸窒化物、NbN,及びTa
3N
5等の窒化物、CdS等の硫化物、CdSe等のセレン化物、Ln
2Ti
2S
2O
5(Ln:Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,及びEr)、ならびにLa,Inを含むオキシサルファイド化合物(Chemistry Letters、2007,36,854−855)を含むことができるが、ここに例示した材料に限定されるものではない。
【0050】
なかでも、光半導体としては、BaBi
1−xIn
xO
3、BaZr
1−xSn
xO
3、BaZr
1−xGe
xO
3、BaZr
1−xSi
xO
3、NbN、TiO
2、WO
3、TaON、BiVO
4、Ta
3N
5、ペロブスカイト構造を持つAB(O,N)
3{A=Li,Na,K,Rb,Cs,Mg,Ca,Sr,Ba,La,Y、B=Ta,Nb,Sc,Y,La,Ti}、又は、上述のペロブスカイト構造を持つAB(O,N)
3を主成分として含む固溶体、又はTaON、BiVO
4、Ta
3N
5、又はペロブスカイト構造を持つAB(O,N)
3を主成分として含むドープ体を用いることができる。
【0051】
光触媒層に含まれる光半導体の形状は特に限定されるものではなく、膜状、柱状、及び粒子状等が挙げられる。
光半導体が粒子状の場合、その一次粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、通常、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上であり、通常、10μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下である。
上述の粒径は平均粒径であり、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡にて観察された任意の100個の光半導体の粒径(直径)を測定し、それらを算術平均したものである。なお、粒子形状が真円状でない場合は、長径を測定する。
光半導体が柱状である場合、導電層表面の法線方向に沿って延びる柱状の光半導体であることが好ましい。柱状の光半導体の直径は、特に限定されるものではないが、通常、0.025μm以上が好ましく、より好ましくは0.05μm以上であり、通常、10μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下である。
上述の直径は平均直径であり、透過型電子顕微鏡(装置名:株式会社 日立ハイテクノロジーズ H−8100)又は走査型電子顕微鏡(装置名:株式会社 日立ハイテクノロジーズ SU−8020型SEM)にて観察された任意の100個の柱状光半導体の直径を測定し、それらを算術平均したものである。
【0052】
光触媒層の厚みは特に限定されるものではないが、酸化物又は窒化物の場合には、300nm以上2μm以下であることが好ましい。なお、光触媒層の最適な厚みについては光Lの浸入長又は励起されたキャリアの拡散長によって決まる。
ここで、光触媒層の材料として良く用いられるBiVO
4をはじめとして、多くの光触媒層の材料は吸収できる波長の光を全て活用できるほどの厚みでは反応効率が最大ではない。厚みが厚い場合にはキャリア寿命及び移動度の問題により膜面から遠い場所で発生したキャリアを膜面まで失活させることなく輸送することが難しい。そのため膜厚を厚くしても、期待されるほどの電流を取り出すことができない。
また、粒子系でよく用いられる粒子転写電極では粒子径が大きいほど電極膜は
粗になり、厚み、すなわち、粒径が増すほど膜密度は下がることになり、期待されるほどの電流を取り出すことができない。光触媒層の厚みが300nm以上2μm以下であれば、電流を取り出すことができる。
光触媒層の厚みは、光触媒電極の断面状態の走査型電子顕微鏡像を取得して、取得した画像から求めることができる。
【0053】
上述の光触媒層の形成方法は特に限定されるものではないが、公知の方法(例えば、粒子状の光半導体を基板上に堆積させる方法)を採用できる。形成方法として、具体的には、電子ビーム蒸着法、スパッタ法及びCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相成膜法、Chem. Sci., 2013, 4, 1120−1124に記載の転写法、Adv.Mater.,2013,25,125−131に記載の方法が挙げられる。
なお、基板と光触媒層との間には、必要に応じて他の層、例えば、接着剤層が含まれていてもよい。
【0054】
<酸素発生電極の助触媒>
助触媒としては、貴金属及び遷移金属酸化物が用いられる。助触媒は、真空蒸着法、スパッタ法、及び電着法等を用いて担持される。助触媒が、例えば、1nm〜5nm程度の設定膜厚で形成されると、膜として形成されず島状になる。
第1の助触媒36としては、例えば、Pt、Pd、Ni、Au、Ag、Ru、Cu、Co、Rh、Ir、Mn、又はFe等により構成される単体、及びそれらを組み合わせた合金、ならびにその酸化物、例えば、FeOx、CoO等のCoOx、NiOx及びRuO
2を用いることができる。
【0055】
次に、水素発生電極14の第2の導電層42、第2の光触媒層44及び第2の助触媒46について説明する。
【0056】
図4に示す水素発生電極14の第2の基板40は、第2の光触媒層44を支持するものであり、電気絶縁性を有するもので構成される。第2の基板40は、特に限定されるものではないが、例えば、ソーダライムガラス基板又はセラミックス基板を用いることができる。また、第2の基板40には、金属基板上に絶縁層が形成されたものを用いることができる。ここで、金属基板としては、Al基板又はSUS(Steel Use Stainless)基板等の金属基板、又はAlと、例えば、SUS等の他の金属との複合材料からなる複合Al基板等の複合金属基板が利用可能である。なお、複合金属基板も金属基板の一種であり、金属基板及び複合金属基板をまとめて、単に金属基板ともいう。更には、第2の基板40としては、Al基板等の表面を陽極酸化して形成された絶縁層を有する絶縁膜付金属基板を用いることもできる。第2の基板40は、フレキシブルなものであっても、そうでなくてもよい。なお、上述のもの以外に、第2の基板40として、例えば、高歪点ガラス及び無アルカリガラス等のガラス板、又はポリイミド材を用いることもできる。
【0057】
第2の基板40の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、20μm〜2000μm程度あればよく、100μm〜1000μmが好ましく、100μm〜500μmがより好ましい。なお、第2の光触媒層44に、CIGS(Copper indium gallium (di)selenide)化合物半導体を含むものを用いる場合には、第2の基板40側に、アルカリイオン(例えば、ナトリウム(Na)イオン:Na
+)を供給するものがあると、光電変換効率が向上するので、第2の基板40の表面40aにアルカリイオンを供給するアルカリ供給層を設けておくことが好ましい。なお、第2の基板40の構成元素にアルカリ金属を含む場合には、アルカリ供給層は不要である。
【0058】
<水素発生電極の導電層>
第2の導電層42は、第2の光触媒層44で発生したキャリアを捕集し輸送するものである。第2の導電層42は、導電性を有していれば、特に限定されるものではないが、例えば、Mo、Cr及びW等の金属、又はこれらを組み合わせたものにより構成される。この第2の導電層42は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。この中で、第2の導電層42は、Moで構成することが好ましい。第2の導電層42は厚みが200nm〜1000nmであることが好ましい。
【0059】
<水素発生電極の光触媒層>
第2の光触媒層44は、光吸収によりキャリアを生成するものであり、その導電帯下端が水を分解し水素を生成する電位(H
2/H
+)よりも碑側にあるものである。第2の光触媒層44は正孔を生成し、第2の導電層42に輸送するp型伝導性を持つものであるが、第2の光触媒層44の表面44aにn型伝導性を持つ材料を積層させpn接合を形成することも好ましい。第2の光触媒層44の厚みは、好ましくは500nm〜3000nmである。
【0060】
p型伝導性を持つものを構成する光半導体は少なくとも1種の金属元素を含む光半導体である。なかでも、オンセットポテンシャルがより良好、光電流密度がより高い、又は連続照射による耐久性がより優れる点で、金属元素としては、Ti、V、Nb、Ta、W、Mo、Zr、Ga、In、Zn,Cu、Ag、Cd,Cr又はSnが好ましく、Ga、In、Zn,Cu、Zr、又はSnがより好ましい。
また、光半導体としては、上述の金属元素を含む酸化物、窒化物、酸窒化物、(オキシ)カルコゲナイド等が挙げられ、GaAs、GaInP、AlGaInP、CdTe、CuInGaSe、カルコパイライト結晶構造を有するCIGS化合物半導体、又はCu
2ZnSnS
4等のCZTS化合物半導体で構成されるのが好ましい。
カルコパイライト結晶構造を有するCIGS化合物半導体、又はCu
2ZnSnS
4等のCZTS化合物半導体で構成されるのが特に好ましい。
CIGS化合物半導体層は、Cu(In,Ga)Se
2(CIGS)のみならず、CuInSe
2(CIS)、又はCuGaSe
2(CGS)等で構成してもよい。更にCIGS化合物半導体層は、Seの全部又は一部をSで置換したもので構成してもよい。
【0061】
なお、CIGS化合物半導体層の形成方法としては、1)多源蒸着法、2)セレン化法、3)スパッタ法、4)ハイブリッドスパッタ法、及び5)メカノケミカルプロセス法等が知られている。
その他のCIGS化合物半導体層の形成方法としては、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、及びスプレー法(ウェット成膜法)等が挙げられる。例えば、スクリーン印刷法(ウェット成膜法)又はスプレー法(ウェット成膜法)等で、11族元素、13族元素、及び16族元素を含む微粒子膜を基板上に形成し、熱分解処理(この際、16族元素雰囲気での熱分解処理でもよい)を実施する等により、所望の組成の結晶を得ることができる(特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報等)。以下、CIGS化合物半導体層のことを単にCIGS層ともいう。
【0062】
上述のようにn型伝導性を持つ材料を第2の光触媒層44の表面44aに積層した場合、pn接合が形成される。
n型伝導性を持つ材料は、例えば、CdS、ZnS,Zn(S,O)、及び/又はZn(S,O,OH)、SnS,Sn(S,O)、及び/又はSn(S,O,OH)、InS,In(S,O)、及び/又はIn(S,O,OH)等の、Cd,Zn,Sn,及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属硫化物を含むもので形成される。n型伝導性を持つ材料の層の膜厚は、20nm〜100nmが好ましい。n型伝導性を持つ材料の層は、例えば、CBD(Chemical Bath Deposition)法により形成される。
【0063】
第2の光触媒層44については、無機半導体からなり、水の光分解反応を生じさせ、水素ガスを発生させる等して、水素ガスを得ることができれば、その構成は特に限定されるものではない。
例えば、太陽電池を構成する太陽電池セルに用いられる光電変換素子が好ましく用いられる。このような光電変換素子としては、上述のCIGS化合物半導体、又はCu
2ZnSnS
4等のCZTS化合物半導体を用いたもの以外に、薄膜シリコン系薄膜型光電変換素子、CdTe系薄膜型光電変換素子、色素増感系薄膜型光電変換素子、又は有機系薄膜型光電変換素子を用いることができる。
<水素発生電極の助触媒>
第2の助触媒46としては、例えば、Pt、Pd、Ni、Ag、Ru、Cu、Co、Rh、Ir、Mn及びRuO
2を用いることが好ましい。
【0064】
第2の光触媒層44と第2の助触媒46との間に透明導電層(図示せず)を設けてもよい。透明導電層は、第2の光触媒層44と第2の助触媒46とを電気的に接続する機能が必要であり、透明導電層には、透明性、耐水性、及び遮水性も要求され、透明導電層により水素発生電極14の耐久性が向上する。
【0065】
透明導電層は、例えば、金属又は導電性酸化物(過電圧が0.5V以下)もしくはその複合物であることが好ましい。透明導電層は、第2の光触媒層44の吸収波長に合わせて適宜選択されるものである。透明導電層には、ITO(Indium Tin Oxide)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、Al、B、Ga、又はIn等がドープされたZnO、又はIMO(MoがドープされたIn
2O
3)等の透明導電膜を用いることができる。透明導電層は単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。また、透明導電層の厚さは、特に限定されるものではなく、好ましくは、30nm〜500nmである。
なお、透明導電層の形成方法は、特に限定されるものではないが、真空成膜法が好ましく、電子ビーム蒸着法、スパッタ法及びCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相成膜法により形成することができる。
【0066】
また、透明導電層にかえて第2の助触媒46の表面に、第2の助触媒46を保護する保護膜を設けるようにしてもよい。
保護膜は、第2の助触媒46の吸収波長に合わせたもので構成される。保護膜には、例えば、TiO
2、ZrO
2及びGa
2O
3等の酸化物が用いられる。保護膜は絶縁体の場合、例えば、厚みが5nm〜50nmであり、ALD(Atomic Layer Deposition)法等の成膜法が選択される。保護膜が導電性の場合には、例えば、厚みが5nm〜500nmであり、ALD(Atomic Layer Deposition)法及びCVD(Chemical Vapor Deposition)に加えスパッタ法等で形成することもできる。保護膜は、導電体の場合の方が、絶縁性の場合に比して厚くすることができる。
【0067】
酸素発生電極12及び水素発生電極14は、いずれも全体が平板状であるが、これに限定されるものではなく、電極の厚さ方向に貫通する貫通孔を有する構成でもよい。貫通孔を有する場合、酸素発生電極12及び水素発生電極14は、いずれも電極の厚さ方向に貫通する貫通孔に限定されるものではなく、電極構成がメッシュ状の電極でもよい。この場合、酸素発生電極12では、電極全体がメッシュ状の電極でもよく、例えば、第1の基板30が、メッシュ又は複数の貫通孔を有するシート体で構成されてもよい。水素発生電極14でも、電極全体がメッシュ状の電極でもよく、第2の基板40が、メッシュ又は複数の貫通孔を有するシート体で構成されてもよい。
【0068】
図8は本発明の実施形態の人工光合成モジュールの第3の例を示す模式的断面図である。
図9は本発明の実施形態の人工光合成モジュールの第4の例を示す模式的断面図である。
図8及び
図9において、
図1に示す人工光合成モジュールと同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。人工光合成モジュールの第3の例及び第4の例は、上述の人工光合成モジュールの第1の例と同様に、原料流体が水であり、第1の流体が酸素であり、第2の流体が水素である。
【0069】
図8に示す人工光合成モジュール60は、
図1に示す人工光合成モジュール10に比して、酸素発生電極12と水素発生電極14の構成が異なる以外は、同じ構成である。
図8に示す人工光合成モジュール60では、酸素発生電極12と水素発生電極14については断面形状を示しているが、酸素発生電極12の構成と水素発生電極14の構成は、
図1に示す人工光合成モジュール10と同じである。
人工光合成モジュール60では、酸素発生電極12及び水素発生電極14は、隔膜16に対して突出する突出部が少なくとも1つ設けられるものである。
突出部は、水AQの流れ方向F
Aに対して複数設けられている構成でもよい。突出部は、水AQの流れ方向F
Aに対して周期的に表面からの高さが変わる周期構造を有するものでもよい。
【0070】
酸素発生電極12では、例えば、突出部62である凸部62aと、凹部62bが方向Dに対して交互に配置されている。また、水素発生電極14では、例えば、突出部64である凸部64aと、凹部64bが方向Dに対して交互に配置されている。
酸素発生電極12の凸部62aと凹部62bは、例えば、第1の基板30の表面に凹凸溝を切削等の機械加工で形成することができる。水素発生電極14の凸部64aと凹部64bも、酸素発生電極12と同様に、第2の基板40の表面に、上述のように切削等の機械加工で形成することができる。
【0071】
酸素発生電極12では、
図8に示すように、凸部62aと凹部62bが水AQの流れ方向F
Aに対して繰り返し設けられており、矩形状の凹凸構造を有する。凸部62aは表面62cが水AQの流れ方向F
Aに対して平行な面である。凹部62bは表面62dが水AQの流れ方向F
Aに対して平行な面である。
水素発生電極14では、
図8に示すように、凸部64aと凹部64bが水AQの流れ方向F
Aに対して繰り返し設けられており、矩形状の凹凸構造を有する。凸部64aは表面64cが水AQの流れ方向F
Aに対して平行な面である。凹部64bは表面64dが水AQの流れ方向F
Aに対して平行な面である。
流れ方向F
Aの上流側に凸部62aを配置したが、これに限定されるものではなく、凸部62aと凹部62bを入れ換えて凹部62bを流れ方向F
Aの上流側に配置してもよい。
【0072】
突出部
62における凸部62aと凹部62bの数は、少なくとも1つずつあればよく、凸部62aの数と凹部62bの数は同じであっても違っていてもよい。また、凸部62aの水AQの流れ方向F
Aの長さ及び凹部62bの水AQの流れ方向F
Aの長さは、同じであっても違っていてもよい。凸部62aの水AQの流れ方向F
Aの長さは水AQの流れ方向F
Aに対する突出部
62のピッチのことであり、1.0mm以上20mm以下であることが好ましい。
凸部62aの水AQの流れ方向F
Aの長さが1.0mm以上20mm以下であれば、高い電解電流を得ることができる。
凹部62bの水AQの流れ方向F
Aの長さは、特に限定されるものではないが、凸部62aの水AQの流れ方向F
Aの長さと同じであってもよく、例えば、1.0mm以上20mm以下でもよい。
【0073】
また、突出部62の凹部62bの表面62dからの高さは0.1mm以上5.0mm以下であることが好ましい。凹凸の高さ、すなわち、高さhが0.1mm以上のものが突出部62である。上述の高さとは、凹部62bの表面62dから凸部62aの表面62c迄の距離である。高さが0.1mm以上5.0mm以下であれば、高い電解電流を得ることができる。
酸素発生電極12と水素発生電極14の間の間隔Wdは、狭い方が効率が高くなるため好ましく、間隔Wdは1mm〜20mmであることが好ましい。間隔Wdは、酸素発生電極12の凸部62aの表面62cと、水素発生電極14の凸部64aの表面64c迄の距離のことである。
【0074】
凸部62a、64aの水AQの流れ方向F
Aの長さ及び凹部62b、64bの水AQの流れ方向F
Aの長さ、ならびに上述の高さの測定方法について説明する。まず、突出部64の側面方向から、デジタル画像を取得し、デジタル画像をパーソナルコンピュータに取り見込む、モニタに表示し、モニタ上で上述の長さ、ならびに上述の高さに該当する箇所の線をひき、それぞれの線の長さを求める。これにより、上述の長さ、及び上述の高さを得ることができる。
なお、酸素発生電極12と水素発生電極14では、上述の長さ及び上述の高さは同じでも、違っていてもよい。
【0075】
突出部62の凸部62a及び突出部64の凸部64aは、突出部62、64が設けられた表面の面積に対して50%以上の範囲に設けられていることが好ましい。例えば、酸素発生電極12及び水素発生電極14の全体の長さの半分以上であることが好ましい。
この場合、凸部62a、64aの長さの合計が、長さWcの半分以上であることが好ましい。このため、凸部62a、64aの合計数を、凹部62b、64bの合計数よりも多くすることによって、突出部62、64が設けられた表面の面積に対して50%以上の範囲にすることができる。
【0076】
人工光合成モジュール60では、水AQを、方向Dと平行な方向に流す場合、水AQの流れ方向F
Aは、方向Dと平行な方向であり、凸部62a、64aと凹部62b、64bを横切る方向である。
人工光合成モジュール60では、酸素発生電極12と水素発生電極14を、上述のように矩形状の凹凸構造とすることで、水AQの流れに乱流が発生し、隔膜16に付着する酸素ガスの気泡及び水素ガスの気泡が剥がされる効果が得られ、光Lの利用効率の低下が抑制される。これにより、電解電圧が下がり、エネルギー変換効率が上がる。
【0077】
また、
図9に示す人工光合成モジュール60のように、酸素発生電極12の突出部62と、水素発生電極14の突出部64は、いずれも表面62c、64cが斜面である凸部62a、64aが、水AQの流れ方向F
Aに対して連続して配置されて、水AQの流れ方向F
Aに対して周期的に表面からの高さが変わる周期構造を有するものとしてもよい。この場合でも、上述の矩形状の凹凸構造と同じく、水AQの流れに乱流が発生し、隔膜16に付着する酸素ガスの気泡及び水素ガスの気泡が剥がされる効果が得られ、光Lの利用効率の低下が抑制される。これにより、電解電圧が下がり、エネルギー変換効率が上がる。
斜面の傾斜角度は、水AQの流れ方向F
Aに対して90°以下であるが、これに限定されるのではない。傾斜角度は90°よりも大きくてもよく、この場合、斜面は水AQの流れ方向F
Aに対して逆らって傾斜する。
【0078】
斜面の傾斜角度が大きいと、水AQの流れ抵抗が大きくなって、流速が小さくなる。水AQの流速を上げると水AQを供給するための消費エネルギーが大きくなり、水AQの流速を上げるとエネルギー損失が大きくなる。このため、人工光合成モジュール60の総合的なエネルギー変換効率が落ちる。
そこで、傾斜角度は5°以上45°以下であることが好ましく、より好ましくは、上限値は30°以下である。傾斜角度の下限値は、例えば、5°である。傾斜角度が45°以下であれば、高い電解電流を得ることができる。
酸素発生電極12と水素発生電極14の間の間隔Wdは、狭い方が効率が高くなるため好ましく、間隔Wdは1mm〜20mmであることが好ましい。間隔Wdは、酸素発生電極12の凸部62aの表面62cの最突端62eと、水素発生電極14の凸部64aの表面64cの最突端64eとの距離のことである。
【0079】
酸素発生電極12と水素発生電極14の傾斜角度は、酸素発生電極12と水素発生電極14の側面方向から、デジタル画像を取得し、デジタル画像をパーソナルコンピュータに取り見込み、モニタに表示し、モニタ上で水平線をひき、この水平線と酸素発生電極12と水素発生電極14の斜面の表面とのなす角度を求める。
【0080】
なお、酸素発生電極12と水素発生電極14では、突出部62、64の大きさは同じでも違っていてもよい。酸素発生電極12と水素発生電極14のいずれか一方を、突出部がない、いわゆるベタ電極の構成としてもよい。
【0081】
酸素発生電極12と水素発生電極14のうち、少なくとも一方において、表面の全面が水AQの流れ方向F
Aに対して、厚みが厚くなるように傾斜している構成でもよい。この場合、酸素発生電極12と水素発生電極14の傾斜角度は、同じでも違っていてもよい。
逆に、酸素発生電極12と水素発生電極14のうち、少なくとも一方において、表面の全面が水AQの流れ方向F
Aに対して、厚みが薄くなるように傾斜している構成でもよい。この場合でも、酸素発生電極12と水素発生電極14の傾斜角度は、同じでも違っていてもよい。上述のいずれの場合も、傾斜角度は、5°以上45°以下であることが好ましい。
【0082】
なお、
図1及び
図7に示す人工光合成モジュール10、
図8及び
図9に示す人工光合成モジュール60では、いずれも光Lの入射側から酸素発生電極12と水素発生電極14の順に配置したが、この構成に限定されるものではなく、水素発生電極14、酸素発生電極12の順でもよい。
なお、酸素発生電極12と水素発生電極14は、
図10及び
図11に示す櫛歯構造でもよい。
ここで、
図10は本発明の実施形態の人工光合成モジュールの第5の例を示す模式的断面図であり、
図11は本発明の実施形態の人工光合成モジュールの第5の例の電極構成を示す模式的平面図である。
図10及び
図11において、
図1に示す人工光合成モジュールと同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。なお、
図11では隔膜16の図示は省略している。
【0083】
図10に示す人工光合成モジュール70は、
図1に示す人工光合成モジュール10に比して、酸素発生電極12と水素発生電極14の構成が異なる以外は、同じ構成である。
図10に示す人工光合成モジュール70の酸素発生電極12及び水素発生電極14は櫛歯電極である点以外、層構成を含め、人工光合成モジュール10の酸素発生電極12及び水素発生電極14と同じ構成である。この場合、酸素発生電極12の第1の光触媒層34(
図3参照)は光Lの入射側に設けられている。水素発生電極14の第2の光触媒層44(
図4参照)も光Lの入射側に設けられている。
【0084】
図11に示すように、酸素発生電極12は、例えば、平板で構成されており、長方形状の第1の電極部72aと長方形状の第1の隙間72bと、複数の第1の電極部72aが接続される基部72cとを有し、第1の電極部72aと第1の隙間72bとが方向Dに交互に配置されている。複数の第1の電極部72aは基部72cと一体であり、複数の第1の電極部72aはそれぞれ電気的に接続されている。
水素発生電極14は、例えば、平板で構成されており、長方形状の第2の電極部74aと長方形状の第2の隙間74bと、複数の第2の電極部74aが接続される基部74cを有し、第2の電極部74aと第2の隙間74bとが方向Dに交互に配置されている。複数の第2の電極部74aは基部74cと一体であり、複数の第2の電極部74aはそれぞれ電気的に接続されている。
第1の電極部72aの配置方向と、第2の電極部74aの配置方向は、方向Dに平行にされている。
【0085】
図11に示すように酸素発生電極12と水素発生電極14とは、いずれも櫛歯状の電極であり、第1の電極部72aと第2の電極部74aが櫛歯電極の櫛歯に相当する。酸素発生電極12と水素発生電極14は、いずれも櫛形電極と呼ばれるものである。
酸素発生電極12と水素発生電極14とは、光Lの入射側から見た場合に、第1の電極部72aが第2の隙間74bに配置され、第2の電極部74aが第1の隙間72bに配置されている。この場合、第2の隙間74bと第1の電極部72aとの間には方向Dにおいて隙間があってもよい。
【0086】
人工光合成モジュール70では、水AQの流れ方向F
Aは、方向Dと平行な方向であり、第1の電極部72a及び第2の電極部74aを横切るように水AQが流れる。
また、人工光合成モジュール70でも、光Lの入射側から酸素発生電極12と水素発生電極14の順に配置しているが、この構成に限定されるものではなく、光Lの入射側から水素発生電極14、酸素発生電極12の順でもよい。このため、酸素発生電極12が隔膜16の光Lの入射の反対側に配置される場合もある。ここで、酸素発生電極12は吸収端が、例えば、400nm〜800nm程度である。そこで、隔膜16は波長が400nm付近の紫外域においても透過率が高いことが好ましい。
【0087】
櫛歯電極構成とした人工光合成モジュール70では、酸素発生電極12の第1の電極部72aと、水素発生電極14の第2の電極部74aは、それぞれ、水AQの流れ方向F
Aに対して傾斜させてもよい。この場合、傾斜角度は5°以上45°以下であることが好ましく、より好ましくは、上限値は30°以下である。傾斜角度が5°以上45°以下であれば、高い電解電流を得ることができる。
なお、酸素発生電極12の第1の電極部72aと、水素発生電極14の第2の電極部74aは、傾斜角度が大きいと、水AQの流れ抵抗が大きくなって、流速が小さくなる。水AQの流速を上げると水AQを供給するための消費エネルギーが大きくなり、水AQの流速を上げるとエネルギー損失が大きくなる。このため、人工光合成モジュール70の総合的なエネルギー変換効率が落ちる。
【0088】
なお、第1の電極部72aの傾斜角度と第2の電極部74aの傾斜角度は同じ角度でも、違う角度でもよい。酸素発生電極12の第1の電極部72a及び水素発生電極14の第2の電極部74aの傾斜の向きは、流れ方向F
Aに対して、傾斜していても、反対側に傾斜してもよい。
また、酸素発生電極12の第1の電極部72a及び水素発生電極14の第2の電極部74aのうち、いずれか一方が、傾斜角度が0°、すなわち、傾いていない状態でもよい。少なくとも一方の電極部が傾くことで、両方の電極部が傾いていない平坦な構成に比して、電解電流が高くなり、優れたエネルギー変換効率を得ることができる。
傾斜角度については、上述の
図9に示す人工光合成モジュール60の傾斜角度と同じ方法で測定することができるため、詳細な説明は省略する。
【0089】
櫛歯電極が、平板で構成されるのではなく、多角形面、曲面、又は平面と曲
面の組合せで構成してもよい。この場合でも、酸素発生電極と水素発生電極のうち、少なくとも一方が、平面で構成されるのではなく、上述の多角形面、曲面、又は平面と曲
面の組合せで構成してもよい。
また、酸素発生電極12と水素発生電極14は、櫛歯電極構造以外に、平置きの形態でもよい。平置きの形態とは、例えば、平板状の酸素発生電極12と平板状の水素発生電極14が、同一面上に隔膜16を隔てて並列に配置された形態である。
【0090】
上述の人工光合成モジュールでは、水AQを分解して酸素及び水素を発生させることを例にして説明したが、これに限定されるものではなく、メタン等を発生させることができる。
分解する対象である原料流体は、水AQ以外の液体、及び気体とすることができ、分解する対象である原料流体は、水AQに限定されない。また、人工光合成モジュール用電極及び人工光合成モジュールでは、発生させる第1の流体及び第2の流体についても、酸素及び水素に限定されるものではなく、電極の構成を調整することにより、原料流体から液体又は気体を得ることができる。例えば、硫酸から過硫酸を得ることができる。水から過酸化水素を得ることができ、食塩から次亜塩素酸塩を得ることができ、ヨウ素酸塩から過ヨウ素酸塩を得ることができ、三価セリウムから四価セリウムを得ることができる。
【0091】
上述の人工光合成モジュール10は、人工光合成装置に利用することができる。人工光合成装置においても、原料流体が水であり、第1の流体が酸素であり、第2の流体が水素である場合を例にして説明する。
図12は本発明の実施形態の人工光合成装置の第1の例を示す模式図である。
図12に示す人工光合成装置100は、例えば、原料流体である水を分解してガス等の流体を得る人工光合成モジュール10と、水を貯蔵するタンク102と、タンク102と人工光合成モジュール10に接続され、人工光合成モジュール10に水を供給する供給管26a、26bと、タンク102と人工光合成モジュールに接続され、人工光合成モジュールから水を回収する排出管28a、28bと、水を供給管26a、26bと排出管28a、28bを介してタンク102と人工光合成モジュール10との間で循環させるポンプ104と、人工光合成モジュール10で発生した発生ガス等の得られた流体を回収するガス回収部105を有する。
人工光合成装置100では、人工光合成モジュール10が、方向Dと方向Wを平行にして配置され、且つ方向Wと直交する方向Mに並べて複数配置されている。人工光合成モジュール10の構成は、
図1に示す構成と同じであるため、その詳細な説明は省略する。人工光合成モジュール10の数は複数であれば、特に限定されるものではなく、少なくとも2つあればよい。
【0092】
タンク102は、上述のように原料流体である水を貯蔵するものであり、例えば、人工光合成モジュール10に供給する水が貯蔵され、人工光合成モジュール10から排出管28a、28bを経て排出された水等の原料流体も貯蔵される。タンク102は、水等の原料流体を貯蔵することができれば、特に限定されるものではない。
ポンプ104は、タンク102と配管103介して接続されており、タンク102に貯蔵された水等の原料流体を人工光合成モジュール10に供給するものである。ポンプ104は、人工光合成モジュール10からタンク102に排出されて貯蔵された水等の原料流体も人工光合成モジュール10に供給する。このように、ポンプ104は、供給管26a、26bと排出管28a、28bを介してタンク102と人工光合成モジュール10との間で、水等の原料流体を循環させる。ポンプ104は、水等の原料流体をタンク102と人工光合成モジュール10との間で循環させることができれば、特に限定されるものではなく、循環させる水等の原料流体の量、及び配管長さ等に基づいて適宜選択されるものである。
【0093】
ガス回収部105は、例えば、人工光合成モジュール10で生成される等、得られた酸素ガスを回収する酸素ガス回収部106と、人工光合成モジュール10で生成される等、得られた水素ガスを回収する水素ガス回収部108とを有する。
酸素ガス回収部106は酸素用管107を介して人工光合成モジュール10に接続されている。酸素ガス回収部106は、酸素ガス等の得られた気体又は液体の流体を回収することができれば、その構成は、特に限定されるものではなく、例えば、吸着法を用いた装置を利用することができる。
水素ガス回収部108は水素用管109を介して人工光合成モジュール10に接続されている。水素ガス回収部108は、水素ガス等の得られた気体又は液体の流体を回収することができれば、その構成は、特に限定されるものではなく、例えば、吸着法及び隔膜法等を用いた装置を利用することができる。
【0094】
人工光合成装置100では、人工光合成モジュール10を方向Wに対して傾けてもよい。この場合、
図7に示す人工光合成モジュール10の形態となる。人工光合成モジュール10を傾けることにより、水がタンク102側に移動しやすくなり、酸素ガス及び水素ガスの生成の効率を高くすることができ、しかも発生した酸素ガスが酸素用管107側に、水素ガスが水素用管109側に移動しやすくなり、酸素ガス及び水素ガスを効率良く回収することができる。人工光合成モジュール10は、
図1に示すものに限定されるものではなく、
図8に示す人工光合成モジュール60、
図9に示す人工光合成モジュール60、及び
図10に示す人工光合成モジュール70を用いることができる。
なお、水素ガス回収部108及び酸素ガス回収部106をポンプ104側に設けたが、これに限定されるものではなくタンク102側に設けてもよい。
【0095】
人工光合成装置100では、ポテンショスタットを用いて、人工光合成モジュール10の酸素発生電極12と水素発生電極14に一定の電流を供給すると、酸素発生電極12から酸素が、水素発生電極
から水素が発生する。人工光合成モジュール10の上部に酸素と水素が気体として溜まり、酸素が酸素ガス回収部106に回収され、水素が水素ガス回収部108に回収される。
【0096】
図13は本発明の実施形態の人工光合成装置の第2の例を示す模式図であり、
図14は本発明の実施形態の人工光合成装置の第3の例を示す模式図であり、
図15は本発明の実施形態の人工光合成装置の第4の例を示す模式図である。
図13〜
図15において、
図1に示す人工光合成モジュール10及び
図12に示す人工光合成装置100と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0097】
図13に示す人工光合成装置100aは、
図12に示す人工光合成装置100に比して、第1の区画23aに酸素用管107が設けられ、酸素用管107に酸素ガス回収部106が接続されている。第2の区画23bに水素用管109が設けられ、水素用管109に水素ガス回収部108が接続されている。排出管28aが第1のタンク102aに接続され、排出管28bが第2のタンク102bに接続されている。
【0098】
第1のタンク102aと第1の区画23aとが供給管26aにより接続されている。供給管26aには、ポンプ104が設けられている。ポンプ104により、第1のタンク102aに貯蔵された水AQが第1の区画23aに供給される。
第2のタンク102bと第2の区画23bとが供給管26bにより接続されている。供給管26bには、ポンプ104が設けられている。ポンプ104により、第2のタンク102bに貯蔵された水AQが第2の区画23bに供給される。人工光合成モジュール10では水AQは、方向Dに供給される。また、人工光合成モジュール10は、容器20内は酸素用管107及び水素用管109側では、隔膜16ではなく隔壁19が設けられている。隔壁19は気体を透過させない構成であり、容器20内で発生した水素と酸素との混合が抑制される。なお、人工光合成装置100aでは人工光合成モジュール10は、水平面Bに対して45°傾けて配置されている。
【0099】
人工光合成装置100aでは、ポテンショスタットを用いて、人工光合成モジュール10の酸素発生電極12と水素発生電極14に一定の電流を供給すると、酸素発生電極12から酸素が、水素発生電極
から水素が発生する。人工光合成モジュール10の上部に酸素と水素が気体として溜まり、隔壁19で水素と酸素との混合が抑制され、酸素が酸素ガス回収部106に回収され、水素が水素ガス回収部108に回収される。
【0100】
図14に示す人工光合成装置100bは、
図12に示す人工光合成装置100に比して、第1の区画23aに酸素用管107が設けられ、酸素用管107に酸素ガス回収部106が接続されている。第2の区画23bに水素用管109が設けられ、水素用管109に水素ガス回収部108が接続される。排出管28aと排出管28bとはタンク102に接続されている。
図14に示す人工光合成装置100bはタンク102が1つである。
【0101】
タンク102と第1の区画23aとが供給管26aにより接続されている。供給管26aには、ポンプ104が設けられている。ポンプ104により、タンク102に貯蔵された水AQが第1の区画23aに供給される。
タンク102と第2の区画23bとが供給管26bにより接続されている。供給管26bには、ポンプ104が設けられている。ポンプ104により、タンク102に貯蔵された水AQが第2の区画23bに供給される。タンク102が1つであり、タンク102には第1の区画23aからの水AQと、第2の区画23bからの水AQとが混合されて貯蔵される。これにより、ポンプ104で供給する水AQのpHが、最初に供給される水AQのpHに近くなる。第1の区画23aと第2の区画23bでの水AQのpHの差が時間が経るにあたり偏りが発生し、水AQのpHの偏りが電解電圧の上昇、すなわち、変換効率低下が必然的に発生するが、タンク102を1つすることにより、水AQのpHの偏りが抑制され、更に電解電圧の経時上昇を抑制する効果を得ることができる。
【0102】
人工光合成モジュール10では水AQは、方向Dに供給される。また、人工光合成モジュール10は、容器20内は酸素用管107及び水素用管109側では、隔膜16ではなく隔壁19が設けられている。隔壁19は気体を透過させない構成であり、容器20内で発生した水素と酸素との混合が抑制される。なお、人工光合成装置100bでは人工光合成モジュール10は、水平面Bに対して45°傾けて配置されている。
人工光合成装置100bでは、ポテンショスタットを用いて、人工光合成モジュール10の酸素発生電極12と水素発生電極14に一定の電流を供給すると、酸素発生電極12から酸素が、水素発生電極
から水素が発生する。人工光合成モジュール10の上部に酸素と水素が気体として溜まり、隔壁19で水素と酸素との混合が抑制され、酸素が酸素ガス回収部106に回収され、水素が水素ガス回収部108に回収される。
【0103】
図15に示す人工光合成装置100cは、
図12に示す人工光合成装置100に比して、第1の区画23aに酸素用管107が設けられ、酸素用管107に酸素ガス回収部106が接続されている。第2の区画23bに水素用管109が設けられ、水素用管109に水素ガス回収部108が接続される。排出管28aが第1のタンク102aに接続され、排出管28bが第2のタンク102bに接続されている。
【0104】
第1のタンク102aと第1の区画23aとが供給管26aにより接続されている。供給管26aには、ポンプ104が設けられている。ポンプ104により、第1のタンク102aに貯蔵された水AQが第1の区画23aに供給される。
第2のタンク102bと第2の区画23bとが供給管26bにより接続されている。供給管26bには、ポンプ104が設けられている。ポンプ104により、第2のタンク102bに貯蔵された水AQが第2の区画23bに供給される。人工光合成モジュール10では水AQは、方向Dに供給される。また、人工光合成モジュール10は、容器20内は酸素用管107及び水素用管109側では、隔膜16ではなく隔壁19が設けられている。隔壁19は気体を透過させない構成であり、容器20内で発生した水素と酸素との混合が抑制される。なお、人工光合成装置100cでは人工光合成モジュール10は、水平面Bに対して45°傾けて配置されている。
【0105】
人工光合成装置100cでは、ポテンショスタットを用いて、人工光合成モジュール10の酸素発生電極12と水素発生電極14に一定の電流を供給すると、酸素発生電極12から酸素が、水素発生電極
から水素が発生する。人工光合成モジュール10の上部に酸素と水素が気体として溜まり、隔壁19で水素と酸素との混合が抑制され、酸素が酸素ガス回収部106に回収され、水素が水素ガス回収部108に回収される。
人工光合成装置100cでも、上述の人工光合成装置100bのように、タンク102が1つだけの構成でもよい。上述のように、タンク102を1つすることにより、回収した水AQのpHの偏りが抑制され、更に電解電圧の経時上昇を抑制する効果を得ることができる。
【0106】
酸素発生電極12に貫通孔12aが設けられ、水素発生電極14に貫通孔14aが設けられている。水素発生電極
14と酸素発生電極
12と間に隔膜16が配置されて挟まれている。
貫通孔12a、14aにより、発生した気泡が電極の反対側に逃げて、各電極の裏を通って流れていく。これにより、隔膜16と電極間に気泡が挟まれ、水AQの流れ、隔膜16を通したイオンの流れを妨げ電解電圧が上昇することを抑制することができる。また、気泡が挟まれることが抑制されることにより、更に電極間隔を狭くすることができるため、電解電圧を下げること、すなわち、変換効率を上げることができる。また、酸素発生電極の貫通孔から太陽光が、水素発生電極に透過するため、酸素発生電極が透明である必要がなく、電気抵抗が高いITO(Indium Tin Oxide)膜等の抵抗の高い透明電極膜を使用が不要になり、更に電解電圧を下げることができる。
【0107】
上述の人工光合成装置100a、100b、100cでは、傾斜角度を45°としたが、これに限定されるものではなく、緯度に合わせた太陽光入射方向に傾斜させることにより太陽光を効率よく利用することができる。
また、上述の人工光合成装置100、100a、100b、100cでは、隔膜16を透過して、第2の区画23bから第1の区画23aに移動した水素の濃度を水素透過濃度とする。第2の区画23bから第1の区画23aに移動した水素は酸素に対する不純物としてみなされるため、水素透過濃度は、理想的には0%であるが、上限として4%以下である。後工程で酸素純度をあげるため、酸素の生成効率を考慮すると、水素透過濃度は実用的には2%以下に抑えることが望ましく、2%以下であれば酸素の生成効率の低下が抑制される。
【0108】
また、隔膜16を透過して、第1の区画23aから第2の区画23bに移動した酸素の濃度を酸素透過濃度とする。第1の区画23aから第2の区画23bに移動した酸素は水素に対する不純物としてみなされるため、酸素透過濃度は、理想的には0%であるが、上限として4%以下である。後工程で水素純度をあげるため、水素の生成効率を考慮すると、酸素透過濃度は実用的には2%以下に抑えることが望ましく、2%以下であれば水素の生成効率の低下が抑制される。このようなことから、酸素と水素の混合は少ない方が、純度の高い酸素及び水素を得るためのエネルギーを少なくでき、酸素及び水素の生成効率を高めることができる。
【0109】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の人工光合成モジュール及び人工光合成装置について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例1】
【0110】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0111】
第1実施例では、本発明の効果を確認するために、以下に示す実施例1、比較例1及び参考例1の人工光合成モジュールを作製した。
第1実施例では、実施例1、比較例1及び参考例1の人工光合成モジュールに、電解水溶液を供給しながら、変換効率10%相当の電流値が一定となるようにポテン
ショスタットで制御し、制御開始から10分間電解電圧の変化を測定し、10分後の電解電圧を求めた。その結果を表1に示す。ポテン
ショスタットには、北斗電工社株式会社製 HZ−7000を用いた。
なお、10分後の電解電圧は、エネルギー変換効率を評価するパラメータである。上述の変換効率10%相当の、ある一定量の電解電流を流すための電解電圧が小さいほど、エネルギー変換効率が良いことを示す。
また、実施例1、比較例1及び参考例1の人工光合成モジュールについて水素透過濃度及び酸素透過濃度を測定した。なお、水素透過濃度及び酸素透過濃度は以下のようにして測定した。
【0112】
[水素透過濃度の測定方法]
最初に、人工光合成モジュールの酸素発生側の区画の気体回収口とガスクロマトグラフィ装置(Agilent製マイクロGC490(品名))とを接続し、人工光合成モジュール内の空気を窒素で置換した。ガスクロマトグラフィ装置で窒素以外の酸素及び水素が測定限度以下であることを確認した後、人工光合成モジュールに変換効率10%相当の電流値が一定となるように電流を流して、水素及び酸素を発生させた。酸素発生側の第1の区画からは酸素発生電極から発生する酸素と、水素発生側の第2の区画から隔膜を通過して酸素発生側の第1の区画に透過した水素が、ガスクロマトグラフィ装置で検出される。上述のように通過した水素と元々発生した酸素の量を足した濃度を100%とした時の、透過した水素の濃度を水素透過濃度とした。
【0113】
[酸素透過濃度の測定方法]
最初に、人工光合成モジュールの水素発生側の区画の気体回収口とガスクロマトグラフィ装置(Agilent製マイクロGC490(品名))とを接続し、人工光合成モジュール内の空気を窒素で置換した。ガスクロマトグラフィ装置で窒素以外の酸素及び水素が測定限度以下であることを確認した後、人工光合成モジュールに変換効率10%相当の電流値が一定となるように電流を流して、水素及び酸素を発生させた。水素発生側の第2の区画からは水素発生電極から発生する水素と、酸素発生側の第1の区画から隔膜を通過して水素発生側の第2の区画に透過した酸素が、ガスクロマトグラフィ装置で検出される。上述のように通過した酸素と元々発生した水素の量を足した濃度を100%とした時の、透過した酸素の濃度を酸素透過濃度とした。
【0114】
また、実施例1及び比較例1に用いた隔膜の光透過率を測定した。参考例1は隔膜を用いていない。光透過率は、以下のように測定した。
[光透過率の測定]
隔膜の光透過率の測定には、透過率測定装置として、一般的に用いられる日本電色工業株式会社製SH7000を用いた。隔膜の光透過率の測定においては、隔膜を純水に1分間浸漬した後、隔膜を純水に浸漬させた状態で、透過率測定装置にセットして光透過率を測定した。透過率測定装置では、波長380nm〜780nmの波長域において透過する全ての光を積分球により積分して透過光量として、光透過率を計算した。
【0115】
[親水性と疎水性の測定と判定]
親水性と疎水性の測定は、接触角の測定に用いる2θ法を用いた。まず、隔膜表面に超純水、5マイクロリットルの液滴を滴下して、側面からマイクロスコープ(キーエンス製VHS−5000)で
、液滴と隔膜の画像を撮った後、液滴と隔膜の接点から液滴頂点まで線を引き、その線と隔膜表面との角度を2倍したものを接触角とした。
液滴が親水性により隔膜に浸透し、接触角測定不可能の場合を親水性と判定した。液滴が隔膜に浸透せずに、液滴状態で隔膜上に残った場合を疎水性と判定した。なお、液滴が残った場合の接触角は、全て90°以上であった。
なお、隔膜の厚さ及び平均孔径は、使用する隔膜のカタログ値を用いた。
【0116】
以下、実施例1、比較例1及び参考例1の人工光合成モジュールについて説明する。実施例1、比較例1及び参考例1の人工光合成モジュールは、いずれも電解水溶液入口部と電解水溶液出口部が設けられた容器内に水素発生電極と酸素発生電極が配置されている。水素発生電極と酸素発生電極の間には隔膜を配置した。水素発生電極表面と酸素発生電極表面の距離、すなわち、間隔を4mmとした。容器は45°傾斜させて配置した。
電解水溶液の供給方法については、電解水溶液を水素発生電極表面と酸素発生電極表面に対して平行に流し、更にハニカム整流板を設けて電解水溶液の流れが水素発生電極表面の上と酸素発生電極表面の上で層流になるようにした。電解水溶液には0.5M Na
2SO
4+Pi(リン酸バッファー) pH6.5の電解液を用いた。
【0117】
(実施例1)
実施例1の人工光合成モジュールでは、水素発生電極と酸素発生電極は平板で、ベタ電極と呼ばれるものである。水素発生電極と酸素発生電極には、電極寸法が100mm×100mmの平坦なチタン製基材の表面に、厚さ1μmの白金めっき処理が施された電極(エクセロードEA:日本カーリット株式会社))を用いた。
実施例1では、隔膜にPTFE膜(ADVANTEC H100A(品名)(膜厚35μm(0.035mm)、平均孔径1.0μm))を用いた。実施例1の隔膜は親水性であり、膜質はメンブレンである。
なお、実施例1では、電解水溶液を
図1に示す方向Dに、流速1.0リットル/分で流した。
【0118】
(比較例1)
比較例1の人工光合成モジュールは、隔膜に、テフロン(登録商標)繊維強化ナフィオン(登録商標)膜(sigma-aldrich Nafion(登録商標)324(製品名)(膜厚152μm(0.152mm)、平均孔径0.001μm未満、繊維強化メッシュ))を用いた以外は、実施例1と同じ構成とした。比較例1の隔膜は親水性であり、膜質はメンブレンである。このため、その詳細な説明は省略する。比較例1の水素発生電極と酸素発生電極はベタ電極と呼ばれる構成である。
(参考例1)
参考例1の人工光合成モジュールは、隔膜を用いない点以外は、実施例1と同じ構成とした。このため、その詳細な説明は省略する。参考例1の水素発生電極と酸素発生電極はベタ電極と呼ばれる構成である。参考例1は、隔膜がなく発生した酸素と水素とが混合してしまうため、水素透過濃度及び酸素透過濃度を測定しなかった。下記表1の「水素透過濃度」及び「酸素透過濃度」の欄には「混合」と記した。
【0119】
【表1】
【0120】
表1に示すように、実施例1は、比較例1に比して電解電圧が小さく、エネルギー変換効率が良かった。なお、参考例は発生した水素と酸素が混合してしまい、酸素と水素とを分離する必要があり、変換効率が悪い。実施例1は電解電圧が参考例1と同程度であった。
【実施例2】
【0121】
第2実施例では、以下に示す実施例2〜実施例5及び比較例2〜比較例4の人工光合成モジュールを作製した。各人工光合成モジュールを用いて
図13に示す構成の人工光合成装置を構成した。
第2実施例では、実施例2〜実施例5及び比較例2〜比較例4の人工光合成モジュールについて、10分後の電解電圧、並びに水素透過濃度及び酸素透過濃度を測定した。その結果を下記表2に示す。なお、10分後の電解電圧、並びに水素透過濃度及び酸素透過濃度の測定は、電解水溶液に1M Na
2SO
4の電解液を用いた点、電解水溶液を
図13に示す方向Dに流し、かつ電解水溶液の流量が4.2cm/秒である点以外は、上述の第1実施例と同じであるため、詳細な説明は省略する。
実施例2〜実施例5及び比較例2〜比較例4の光透過率、親疎水性、並びに隔膜の厚さ及び平均孔径を下記表2に示す。なお、光透過率の測定、親水性と疎水性の測定と判定、及び隔膜の厚さ及び平均孔径は、上述の第1実施例と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0122】
以下、実施例2〜実施例5及び比較例2〜比較例4について説明する。
(実施例2)
実施例2は、上述の実施例1に比して、隔膜にPTFE膜(ミリポア オムニポア1.0(品名)(膜厚85μm(0.085mm)、平均孔径1.0μm))を用いた点以外は、実施例1と同じ構成とした。実施例2の隔膜は親水性であり、膜質はメンブレンである。
(実施例3)
実施例3は、上述の実施例1に比して、隔膜にPTFE膜(ミリポア オムニポア10(品名)(膜厚85μm(0.085mm)、平均孔径10.0μm))を用いた点以外は、実施例1と同じ構成とした。実施例3の隔膜は親水性であり、膜質はメンブレンである。
(実施例4)
実施例4は、上述の実施例1に比して、隔膜にPTFE膜(ミリポア オムニポア0.1(品名)(膜厚30μm(0.030mm)、平均孔径0.1μm))を用いた点以外は、実施例1と同じ構成とした。実施例4の隔膜は親水性であり、膜質はメンブレンである。
(実施例5)
実施例5は、上述の実施例1に比して、隔膜にPTFE膜(トーブツテクノ株式会社 FP−100−100(品名)(膜厚100μm(0.100mm)、平均孔径3.2μm))を用いた点以外は、実施例1と同じ構成とした。実施例5の隔膜は疎水性を親水化処理したものであり、膜質は多孔質である。親水化処理は、WO2014/21167号に示されている方法を用いた。
【0123】
(比較例2)
比較例2は、上述の実施例1に比して、隔膜にPET膜(株式会社ユアサ MF−250BN(品名)(膜厚170μm(0.170mm)、平均孔径2.5μm))を用いた点以外は、実施例1と同じ構成とした。比較例2の隔膜は疎水性を親水化処理したものであり、膜質は不織紙である。親水化処理は、WO2014/21167号に示されている方法を用いた。
(比較例3)
比較例3は、上述の実施例1に比して、隔膜にPET膜(株式会社スイス(SEFER)社 PET51−HD(品名)(膜厚60μm(0.060mm)、平均孔径50.0μm未満))を用いた点以外は、実施例1と同じ構成とした。比較例3の隔膜は疎水性を親水化処理したものであり、膜質はメッシュである。親水化処理は、WO2014/21167号に示されている方法を用いた。下記表2に示す酸素透過濃度の欄の「>4.0」は、酸素透過濃度が4.0%を超えていることを示す。
(比較例4)
比較例4は、上述の実施例1に比して、隔膜にPTFE膜(フタムラ化学
(膜厚22μm(0.022mm)、平均孔径0.1μm未満))を用いた点以外は、実施例1と同じ構成とした。比較例4の隔膜
は親水性であり、膜質はメンブレンである。
【0124】
【表2】
【0125】
表2に示すように、実施例2〜実施例4は、厚さと平均孔径が異なり以外は同じ構成である。実施例2〜実施例4から、少なくとも平均孔径が0.1μm〜10.0μm、膜厚が35μm〜85μm以下において実用的な電解電圧であることを確認した。また、実施例2〜実施例4については、隔膜を通過して反対側に通り抜けた酸素の、酸素透過濃度及び水素の水素透過濃度は、後工程で純度をあげるのに実用的な2%以下であることを確認した。
実施例5は、親水化処理を行っているが、光透過率を90%以上にでき、しかも電解電圧を3.0V以下、水素透過率を2%以下にすることができた。
比較例2は、光透過率が低く10分後の電解電圧が高く、変換効率が悪い。
比較例3は、平均孔径が大きく水素透過濃度が3.29%と高く、かつ酸素透過濃度も4.0%超と高く、実用性能としては不適であった。比較例4は、10分後の電解電圧が高く、変換効率が悪い。
【実施例3】
【0126】
第3実施例は、電解液を別々に循環させた分離循環方式と、電解液を1つのタンクにまとめて回収して循環させた混合循環方式の効果について調べた。
実施例6が
図13に示す構成の人工光合成装置を用いたものであり、実施例7が
図14に示す構成の人工光合成装置を用いたものである。
実施例6及び実施例7について、電解電圧を10分後、20分後、60分後、120分後について測定した。その結果を下記表3に示す。
電解電圧の測定方法は、電解水溶液に1M Na
2SO
4の電解液を用いた点、電解水溶液を
図13及び
図14に示す方向Dに流し、かつ電解水溶液の流量が4.2cm/秒である点以外、上述の第1実施例と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
【0127】
以下、実施例6及び実施例7について説明する。
(実施例6)
実施例6は、実施例1に比して、酸素発生電極と、水素発生電極とで電解液を別々に循環させた点以外は、実施例1と同じ構成とした。
(実施例7)
実施例7は、実施例1に比して、酸素発生電極と、水素発生電極とで電解液を1つのタンクにまとめて回収して循環させた点以外は、実施例1と同じ構成とした。
【0128】
【表3】
【0129】
表3に示すように、実施例6の分離循環方式と、実施例7の混合循環方式とでは、60分以上経過すると、実施例7の混合循環方式の方が電解電圧が低く維持されている、すなわち、実施例7の方が変換効率が高く維持されている。隔膜を用いた場合、隔膜により酸素発生電極と水素発生電極が仕切られているため、時間が経るにつれて、各区画の電解水溶液のpHの偏りが生じる。これにより電解電圧の上昇、すなわち、変換効率低下が必然的に発生する。しかしながら、実施例7の混合循環方式では、1つのタンクに回収された電解水溶液が循環して利用されるため、タンク内での電解水溶液のpHの偏りが解消され電解電圧の経時上昇を抑制する効果が優れる。
【実施例4】
【0130】
第4実施例は、酸素発生電極と水素発生電極の構成の違いによる効果について調べた。
ベタ電極と呼ばれる平板の電極構成の実施例8と、メッシュ電極構成の実施例9について、10分後の電解電圧を測定した。その結果を下記表4に示す。
電解電圧の測定方法は、電解水溶液に1M Na
2SO
4の電解液を用いた点、電解水溶液を
図15に示す方向Dに流し、かつ電解水溶液の流量が4.2cm/秒である点以外は、上述の第1実施例と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
【0131】
以下、実施例8及び実施例9について説明する。
(実施例8)
実施例8は、実施例1と同じ構成である。実施例8は、
図13に示す構成の人工光合成装置を用いた。
(実施例9)
実施例9は、実施例1に比して、酸素発生電極及び水素発生電極を、直径0.08mmのプラチナ線が、80本/インチの密度で編まれたメッシュ電極構成とした点以外は、実施例1と同じ構成とした。実施例9は、
図15に示す構成の人工光合成装置を用いた。
【0132】
【表4】
【0133】
表4に示すように、メッシュ電極構成の実施例9は、実施例8と同等の電解電圧を維持でき、高い変換効率を維持できた。
実施例9は、酸素発生電極及び水素発生電極の貫通孔により、発生した気泡が反対側の電極に逃げて、電極の裏を通って流れる。これにより、隔膜と電極間に気泡が挟まれ、電解液の流れ、及び隔膜を通したイオンの流れを妨げ電解電圧が上昇することが抑制される。また、気泡が挟まれることが抑制されることにより、更に電極間隔を狭くすることができるため、電解電圧を下げること、すなわち、変換効率を上げることができる。また、酸素発生電極の貫通孔から太陽光が、水素発生電極に透過するため、酸素発生電極が透明である必要がなく、電気抵抗が高いITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極膜を使用が不要になり、更に電解電圧を下げることができる。