(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536040
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ装置の分析条件の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/34 20060101AFI20190625BHJP
【FI】
G01N30/34 E
G01N30/34 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-10464(P2015-10464)
(22)【出願日】2015年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-133487(P2016-133487A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】真仁田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】廣渡 祐史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】土方 浩
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−017762(JP,A)
【文献】
国際公開第03/079000(WO,A1)
【文献】
特開2013−127420(JP,A)
【文献】
特開平05−157743(JP,A)
【文献】
特開2012−058264(JP,A)
【文献】
特開2011−242238(JP,A)
【文献】
米国特許第05450743(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ装置で複数の試料を連続的に分析する際に、前回の分析終了から次の分析のカラムの平衡化開始までの間に、プランジャーポンプのプランジャーの位置が、前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一になるようにプランジャーの動作を制御することを特徴とする、液体クロマトグラフ装置の制御方法。
【請求項2】
2つ以上のプランジャーポンプと各々のプランジャーポンプが送液する2つ以上の溶離液を含み、プランジャーポンプの吐出側に2つ以上の溶離液を混合する接続配管を有する液体クロマトグラフ装置である、請求項1に記載の液体クロマトグラフ装置の制御方法。
【請求項3】
1つのプランジャーポンプと2つ以上の溶離液を含み、プランジャーポンプの吸引側に溶離液の流路を切り替えるための電磁弁と接続配管を有する液体クロマトグラフ装置である、請求項1に記載の液体クロマトグラフ装置の制御方法。
【請求項4】
液体クロマトグラフ装置で複数の試料を連続的に分析し、分析を一時的に停止した後に分析を再開する際に、一時的な停止を解除した後、次の分析のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーポンプのプランジャーの位置が、前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一になるように、プランジャーの動作を制御した後、カラムの平衡化を行い、分析を再開することを特徴とする、液体クロマトグラフ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の試料を連続的に分析し、その間少なくとも1つ以上のプランジャーポンプが動作する連続的な分析を行う液体クロマトグラフ装置の分析条件を制御するための、プランジャーポンプの動作の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続的に複数の分析を行うプランジャーポンプを使用した液体クロマトグラフ装置において、複数の溶離液を用いた分析条件の場合には、プランジャーポンプのプランジャーの位置を同期させることが再現性を向上させる。プランジャーポンプはプランジャーを出す、そして、引っ込める、という連続的な動作と、一方向にのみ液体が流れる2つのチェック弁により構成されるが、プランジャーを出す際に一方のチェック弁から液体が吐出し、プランジャーを引っ込める際には液体の吐出は一旦停止し、もう一方のチェック弁から液体を吸引することから、アキュムレーター(ダンパー)などにより常に一定の流速が得られるように工夫しているものの、厳密には、一定周期の脈流が生じている。このことは、分析開始時のプランジャーポンプのプランジャーの位置が異なることは、厳密には同一の分析条件ではないことを示すことになる。また、複数の溶離液を用いた分析条件で、かつ、分析時間が短い場合には、この影響は大きく、測定結果の再現性の低下につながる。
【0003】
通常、連続的に複数の分析を行う液体クロマトグラフ装置において、1検体の分析が10分を超える場合で、かつ、使用するプランジャーポンプの1回のストロークによる溶離液の吐出量が5μL未満である場合には、複数の分析を行う際の分析条件の間の特定時間においてプランジャーポンプのプランジャーの位置が同一でなくとも、個々の分析結果の差異が確認されることは、ほとんどない。また、1検体の分析が10分以内と短い場合には、プランジャーポンプの1回のストロークによる溶離液の吐出量を減らすことにより、複数の分析を行う際の分析条件の間でプランジャーポンプのプランジャーの位置の差が分析結果に及ぼす影響を少なくしていた。
【0004】
これらの分析結果の再現性を低下させる要因を回避する公知の技術として、特許文献1,2が知られている。
【0005】
特許文献1は、プランジャーポンプの吐出側の圧力信号または作動信号から演算処理することにより、プランジャーポンプのプランジャーの位置が特定のタイミングでサンプルを注入するように制御する技術である。この発明により、ポンプの周期的動作の影響を抑制し、再現性の高い測定を行うことができると報告されている。一方で、この発明は、ポンプの動作周期を検出または演算することでサンプルを注入するようにコントロールされているため、分析時間がポンプの周期動作に大きく依存することになる。特にポンプの回転数が少ない場合または対象のポンプが複数でかつグラジエント制御などを実施している場合は、ポンプ周期の時間間隔が広がることによる待ち時間が発生し、かつこの時間はポンプの動作状況によって一定でない可能性がある。これらは、1試料あたりの分析時間を短くし、かつ一定の分析時間で連続的に分析を行うことを目的とした場合に適用が困難である。
【0006】
特許文献2は、複数のプランジャーポンプを用いる液体クロマトグラフ装置において、流速の最も遅いポンプのプランジャーの位置を検出する位置検出センサーの信号に基づき、プランジャーポンプのプランジャーの位置が特定のタイミングでサンプルを注入するように制御する技術である。この発明により、ポンプの周期的動作の影響を抑制し、再現性の高い測定を行うことができると報告されている。一方で、この発明は、流速の最も遅いポンプのプランジャーの位置を検出または演算することでサンプルを注入するようにコントロールされているため、分析時間が流速の最も遅いポンプの周期動作に大きく依存する。そのため流速の最も遅いポンプの流速が少ない場合、ポンプ周期の時間間隔が広がることによる待ち時間が発生する。このことは、1試料あたりの分析時間を短くすることを目的とする場合に適用は困難である。また、この発明では、流速の最も遅いポンプに関してのみ試料注入と同期させるため、複数のポンプにおける他のポンプはプランジャーの位置に関して制御を受けていない。液体クロマトグラフの分析でよく用いられる溶離液濃度を時間に対して段階的に切り替えるステップワイズグラジエント(ステップグラジエント)では、試料の注入時だけでなく各段階の開始時点でポンプのプランジャー位置が測定毎に同一でなければ、測定結果に影響を与える。さらにグラジエント中にポンプの流速は変化するため、注入時に流速の早かったポンプが、最も流速の遅いポンプになることは充分に考えられる。この背景において、複数のポンプを使用した分析では、1つのポンプと同期を取るだけでは大きな効果が得られない。以上のことから、複数のプランジャーポンプを用いたステップワイズグラジエント(ステップグラジエント)では、この発明を適用しても問題は完全に解決できない。
【0007】
さらにこの発明では、1つのポンプに複数のプランジャーを有することを前提としており、ポンプの大型化が避けられない。このことはシステム全体の小型化を目的とした場合、この発明は用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−157743号公報
【特許文献2】特許第5409763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の技術は、原理上、1回の分析時間をプランジャーポンプの1回のストロークにかかる時間以下にすることは不可能であるという問題点がある。また、複数の溶離液と各々の溶離液のためのプランジャーポンプとプランジャーポンプの吐出側に溶離液を混合する接続配管が配置された液体クロマトグラフ装置では、複数のポンプのプランジャーの位置が同一となるときにサンプルを注入することが必要であるため、分析時間を自由に選択することができない。これらの問題により、これまでに確立された技術では、再現性の高い測定を行うために分析時間の延長が避けられなかった。
【0010】
一方で、プランジャーポンプのプランジャーの位置を同一にせずに再現性を向上させるための改善策として、一つのポンプに複数のプランジャーを有するデュアルポンプなどにより、ポンプの流速をより厳密に一定にするようにポンプの改善がなされているが、この方法を採用すると、ポンプのサイズが大型化するという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題に関し鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は以下のとおりである。
(1)複数の試料を連続的に分析する液体クロマトグラフ装置において、前回の分析終了から次の分析のカラムの平衡化開始までの間に、プランジャーポンプのプランジャーの位置が、前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一になるようにプランジャーの動作を制御することを特徴とする、液体クロマトグラフ装置の制御方法。
(2)2つ以上のプランジャーポンプと各々のプランジャーポンプが送液する2つ以上の溶離液を含み、プランジャーポンプの吐出側に2つ以上の溶離液を混合する接続配管を有する液体クロマトグラフ装置である、(1)に記載の液体クロマトグラフ装置の制御方法。
(3)1つのプランジャーポンプと2つ以上の溶離液を含み、プランジャーポンプの吸引側に溶離液の流路を切り替えるための電磁弁と接続配管を有する液体クロマトグラフ装置である、(1)に記載の液体クロマトグラフ装置の制御方法。
(4)複数の試料を連続的に分析する液体クロマトグラフ装置において、分析を一時的に停止した後に分析を再開する際に、一時的な停止を解除した後、次の分析のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーポンプのプランジャーの位置が、前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一になるように、プランジャーの動作を制御した後、カラムの平衡化を行い、分析を再開することを特徴とする、液体クロマトグラフ装置の制御方法。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明では、前回の分析時間の終了時から次の分析開始前に実施されるカラム平衡化の開始時までの間に、プランジャーポンプのプランジャーの位置が前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一になるようにプランジャーの動作を制御する。この時複数のプランジャーが存在する場合は、少なくとも1つのプランジャーの動作を制御することが必要であるが、分析に関わるすべてのプランジャーの動作を制御することが好ましい。そのプランジャーの適切な位置は特に限定されるものではないが、吐出を開始する最もプランジャーの引っ込んだ位置であることが好ましい。プランジャーの引っ込んだ位置から分析を開始することにより、分析時間の中でプランジャーが最も出た位置から最も引っ込んだ位置に動く際の、溶離液が吐出されない時間を少なくすることが出来る。この時間帯はアキュムレーターなどにより一定の流速が得られるように工夫されていても、厳密には流速が低下している。
【0014】
また、分析時間だけでなく、カラム平衡化時間も併せて、それらの時間のすべてにおいて分析に関わるすべてのプランジャーポンプのプランジャーの位置を毎回同一にすることは最適な分析方法である。カラム平衡化の状態が分析毎に異なると、特にイオン交換カラムや逆相カラムのようにサンプル中の成分をカラムに吸着させる分析では、サンプルの注入において、カラムに吸着させる成分の吸着する状況が厳密には異なることになる。本発明のように前回の分析の終了時から次の分析開始前に実施されるカラム平衡化の開始時までの間に、プランジャーポンプのプランジャーの位置が前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一になるように制御することにより、分析時間だけでなく、カラム平衡化時間も併せて、すべての時間において、厳密に分析条件が同一となる。
【0015】
分析の終了時から分析開始前に実施されるカラム平衡化の開始時までの間において、プランジャーポンプのプランジャーの位置を前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一にするように、例えばカムを回転させ制御を行う。この制御により一時的に流量の総和が多くなる。
一般的に、液体クロマトグラフによる分析では、意図して流量を変更させる場合を除いて、流量は一定にすることが当然望ましい。流量の一時的な増減は、クロマトグラムのベースラインの変動、検出器へのノイズ・ドリフトの発生につながる。
【0016】
この問題を解決するために、本発明では、プランジャーポンプのプランジャーの位置を同一にするタイミングを、前回の分析終了から次の分析のカラムの平衡化開始までの間の中でも特にカラム洗浄時に行うことが好ましい。これにより、この一時的な流量の増加による分析結果への影響を最小限に抑制することが可能となった。その適切な時間として、例えばイオン交換カラムや逆相カラムであれば、分析終了後のカラムを洗浄するための溶離液を流す時間の直前および直後が好ましい。カラムを洗浄するための溶離液を流す時間の間でも良いが、分析に用いる溶離液が一時的に流れるためカラムの洗浄効果が低下することになるからである。
【0017】
また複数のプランジャーポンプを分析に用いる場合、分析の終了時から分析開始前に実施されるカラム平衡化の開始時までの間に、同じタイミングで複数のプランジャー位置を前回のカラムの平衡化開始時におけるそれぞれのプランジャーの位置と同一にしてもよく、また別々のタイミングで各プランジャー位置を前回のカラムの平衡化開始時におけるそれぞれのプランジャーの位置と同一にしてもよく、いずれも効果が得られる。
【0018】
図1に、液体クロマトグラフ装置の1例を示す。3つの溶離液(溶離液1(100)、溶離液2(101)、溶離液3(102))それぞれの溶離液を送液するプランジャーポンプ(ポンプ1(103)、ポンプ2(104)、ポンプ3(105))があり、ポンプの吐出側で流路が接続される配管があり、続いて溶離液を混合するミキサー(106)がある。ミキサーとカラム(108)の間には、一定時間ごとにサンプルを注入するためのオートサンプラー(107)がある。カラムの後には分離したサンプル中の物質を検出するための検出器(109)がある。サンプル中の物質の分離には溶離液1と溶離液2を用い、溶離液3はカラムを洗浄する溶離液である。
【0019】
本発明は、複数の溶離液を用いたグラジエントを用い、分析時間の10分以内であり、1回のストロークによる溶離液の吐出量が5μL以上のプランジャーポンプを使用する場合の分析に適用することで大きな効果が見られる。溶離液濃度を時間に対して直線的に増加させるリニアグラジエントでも効果が見られるが、溶離液濃度を時間に対して段階的に切り替えるステップワイズグラジエント(ステップグラジエント)でより大きな効果が見いだせる。
【0020】
ステップグラジエントでは、分析毎に試料の注入時または分析開始時にポンプのプランジャー位置を前回の試料の注入時または分析開始時におけるプランジャーの位置と同一にするだけでなく、分析毎の各ステップの開始時にもポンプのプランジャー位置を前回の分析時の各ステップの開始時におけるプランジャーの位置と同一にすることで効果が得られる。本発明では一つのポンプだけでなく、分析に関わるすべてのポンプのプランジャー位置を前述のように同一にすることで、各ステップの開始時にもポンプのプランジャー位置を前回と同一にすることができる。
【0021】
本発明では、特別な断りが無い限りステップグラジエントについて説明するが、本発明はリニアグラジエントにも適用可能である。
【0022】
図2に、分析条件の1例を示す。表1は分析条件の時間とポンプ1と2の混合比を示した。分析条件の1サイクルは3.83分である。表1の分析条件を実施した後、0.44分の間、カラムの洗浄のための溶離液3をポンプ3により送液する。カラム洗浄後、カラムを平衡化するためにポンプ1と2の混合比をそれぞれ80%と20%により0.93分送液してからサンプルを注入する。なお、このような液体クロマトグラフ装置のポンプ1、ポンプ2、ポンプ3を総計した流速は0.5mL/minから2.0mL/minに設定されることが一般的である。本発明による制御を行わない場合には、分析が開始される時のプランジャーポンプ(ポンプ1(103)、ポンプ2(104))のプランジャーの位置は毎回異なるため、厳密には各々の分析条件のパターンは異なることになる。分析時間が10分以内で使用するプランジャーポンプの1回のストロークによる溶離液の吐出量が5μL以上である場合には、分析結果の再現性の低下の原因となる。
【0023】
分析時間が3.83分の
図2および表1の分析条件で、流速を0.625mL/minに設定し、プランジャーポンプの1回のストロークによる溶離液の吐出量が6μLとした場合には、1回の分析により、ポンプ1は190.3回、ポンプ2は208.7回のストロークを行うことになり、ストロークは整数とならないため、厳密には各々の分析条件のパターンが異なる。
【0024】
本発明による制御を行い、例えばカラムの洗浄開始直前、洗浄中、洗浄終了直後のいずれかに、ポンプ1とポンプ2のプランジャーの位置を最も引っ込んだ位置になるように回転させる。ポンプ1およびポンプ2から溶離液1および溶離液2が一定量送液されるが、カラムの洗浄を行っている時間帯であるので、分析結果には影響を及ぼすことはない。そして、本発明による制御を行うことにより、平衡化の開始時点、また、分析開始時点のポンプ1とポンプ2のプランジャーの位置はすべての(毎回の)分析において同一になり、各々の分析条件は厳密に同一になり、分析結果の再現性の向上につながる。
【0025】
【表1】
図3に、
図1とは異なる液体クロマトグラフ装置の1例を示す。3つの溶離液(溶離液1(100)、溶離液2(101)、溶離液3(102))それぞれの溶離液を切り替える電磁弁(電磁弁1(110)、電磁弁2(111)、電磁弁3(112))があり、電磁弁とポンプ(ポンプ1(103))の間に流路が接続される配管があり、ポンプの吐出側に溶離液を混合するミキサー(106)がある。ミキサーとカラム(108)の間には、一定時間ごとにサンプルを注入するためのオートサンプラー(107)がある。カラムの後には分離したサンプル中の物質を検出するための検出器(109)がある。サンプル中の物質の分離には溶離液1と溶離液2を用い、溶離液3はカラムを洗浄する溶離液である。分析条件は
図4および表1と同じとする。溶離液の混合比は電磁弁の制御により行う。なお、このような液体クロマトグラフ装置のポンプ(ポンプ1(103))の流速は0.5mL/minから2.0mL/minに設定されることが一般的である。
【0026】
本発明による制御を行わない場合には、分析が開始される時のプランジャーポンプ(ポンプ1(103))のプランジャーの位置は毎回異なるため、厳密には各々の分析のパターンは異なることになる。分析時間が10分以内で使用するプランジャーポンプの1回のストロークによる溶離液の吐出量が5μL以上である場合には、分析結果の再現性の低下の原因となる。
【0027】
分析時間が3.83分の
図4および表1の分析条件で、流速を0.625mL/minに設定し、プランジャーポンプの1回のストロークによる溶離液の吐出量が10μLとした場合には、1回の分析により、ポンプ1は239.4回のストロークを行うことになり、ストロークは整数とならないため、厳密には各々の分析条件のパターンが異なる。
【0028】
本発明による制御を行う場合には、例えばカラムの洗浄開始直前、洗浄中、洗浄終了直後のいずれかに、ポンプ1のプランジャーの位置を最も引っ込んだ位置になるように回転させる。洗浄開始直前であれば、溶離液1と溶離液2の混合比率が30%:70%の状態で一定量送液され、洗浄中であれば溶離液3が一定量送液され、洗浄終了直後であれば溶離液1と溶離液2の混合比率が80%:20%の状態で一定量送液される。ポンプ1から溶離液1および溶離液2および溶離液3が一定量送液されるが、カラムの洗浄を行っている時間帯であるので、分析結果には影響を及ぼすことはない。そして、本発明による制御を行う場合には、平衡化の開始時点、また、分析開始時点のポンプ1のプランジャーの位置はすべての(毎回の)分析において同一になり、各々の分析条件は厳密に同一になり、分析結果の再現性の向上につながる。
【0029】
次に、連続的に複数の分析を行う液体クロマトグラフ装置において、分析を一時的に停止し、分析を再開する際に、本発明による制御方法を行う場合を例示する。
図1の液体クロマトグラフ装置の場合について述べる。
【0030】
例えば測定するサンプルを追加する場合に、分析中に一時停止の制御が行われる。分析を一時停止し、次に分析する測定サンプルとして、例えば緊急性のある測定サンプルをオートサンプラーにセットし、次に測定するように制御プログラム上に指示した後、分析を再開する。
【0031】
分析中の一時停止の制御を行う場合には、
図5に示すように、分析中のサンプルの分析が終了後、カラムの洗浄工程Cが行われ、カラムの平衡化の状態(平衡化工程c)で再開の指示を待つ形となる。再開する場合には、一時的な停止を解除した後、溶離液3によるカラムの洗浄工程Dを行い、カラムの洗浄開始直前、洗浄中、洗浄終了直後のいずれかに、ポンプ1とポンプ2のプランジャーの位置を毎回同一となるように、例えば最も引っ込んだ位置になるようにカムを回転させる。その後、カラムの平衡化、分析開始へと工程を進める。平衡化の開始時点、また、分析開始時点のポンプ1とポンプ2のプランジャーの位置はすべての(毎回の)分析において同一になり、各々の分析条件は厳密に同一になり、分析結果の再現性の向上につながる。
図6は、本発明を適用しない場合の、分析を一時的に停止し再開する場合の制御の一例である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の制御方法によれば、複数の試料を連続的に分析する液体クロマトグラフ装置において、分析時間を自由に選択できることが可能であり、かつ連続的に分析する際にそれぞれの分析条件を厳密に同一にすることができ、測定再現性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】3つの溶離液それぞれを送液するプランジャーポンプを有する液体クロマトグラフ装置を示す図である。
【
図2】3つの溶離液それぞれを送液するプランジャーポンプを有する液体クロマトグラフ装置の分析条件を示す図である。
【
図3】3つの溶離液それぞれを切り替える電磁弁とポンプを有する液体クロマトグラフ装置を示す図である。
【
図4】3つの溶離液それぞれを切り替える電磁弁とポンプを有する液体クロマトグラフ装置の分析条件を示す図である。
【
図5】3つの溶離液それぞれを送液するプランジャーポンプを有する液体クロマトグラフ装置による分析を一時的に停止し再開する場合に本発明を実施した際の分析条件を示す図である。
【
図6】3つの溶離液それぞれを送液するプランジャーポンプを有する液体クロマトグラフ装置の分析を一時的に停止し再開する場合に、従来技術を実施した際の分析条件を示す図である。
【
図7】実施例および比較例で用いた液体クロマトグラフ装置を示す図である。
【
図8】比較例1で得られたクロマトグラムを示す図である。
【
図9】比較例2のポーズ実施前後で得られた2つの測定結果の重ね描き図である。
【
図10】実施例2のポーズ実施前後で得られた2つの測定結果の重ね描き図である。
【実施例】
【0034】
図7は、比較例と実施例で用いた装置の概略構成図である。特別な断りが無い限り、本実施例、比較例では、吸引側に吸引用チェックバルブ、吐出側に吐出用チェックバルブを有し、さらに吐出側には各ポンプにアキュムレーター(ダンパー)を有する、1つのポンプに1つのプランジャーを有するシングルポンプを使用した。
【0035】
カラムにより試料中のHDL、LDL、IDL、VLDL、Other(OtherにはカイロミクロンおよびLipoprotein(a)が含まれる)を分離後、コレステロールを検出するための反応液(113)をポンプ(114)で送液し混合し、反応コイル(115)で反応し検出器(検出波長590nm)(109)で検出する。
【0036】
[比較例1]
図7における溶離液1(100)、溶離液2(101)、そして溶離液3(102)はそれぞれ異なる溶媒であり、溶離液1<溶離液2<溶離液3の順番で溶離液構成中の塩濃度が高くなるように設定している。溶離液1、溶離液2、そして溶離液3はそれぞれポンプ1(103)、ポンプ2(104)、そしてポンプ3(105)を用いて送液される。なお、溶離液1および2は分析用であり、溶離液3はカラム洗浄用である。
【0037】
グラジエント溶出法を行う場合は、ポンプ1、ポンプ2、ポンプ3の回転速度を変更させることなどによって溶離液の混合比率を調整し、混合溶液はミキサー(106)で混和され、注入バルブを含むオートサンプラー(107)へと送られる。オートサンプラーでは試料を注入し、カラム(108)によって溶離液の比率により多成分に分離され、検出器(109)でそれら成分を検出する。比較例1では、試料としてヒト血清を、カラムに陰イオン交換カラム(TSKgel Lipopropak−AEXII、東ソー株式会社製)を、検出器に可視検出器(検出波長 590nm)を用いた。
【0038】
グラジエント条件は、ステップグラジエントで表2、
図2のとおり設定した。ポンプの流速は、ポンプ1、ポンプ2、ポンプ3の総流量が0.625mL/minになるように設定した。
【0039】
【表2】
1サンプルの測定時間は、5.20分であり、試料注入と同時にグラジエントが開始される。試料注入から検出器に検出されるまで2.90分かかる為、検出は2.90分から8.10分で行った。
【0040】
このような装置を用いて、ヒト血清中のリポ蛋白であるHDL、LDL、IDL、VLDL、Other(OtherにはカイロミクロンおよびLipoprotein(a)が含まれる)中のコレステロールを検出した。得られたクロマトグラムを
図8に示す。
図8においては、保持時間3.75分(サンプル注入からの時間は0.85分)のピークがHDLコレステロール、保持時間4.85分(サンプル注入からの時間は1.95分)のピークがLDLコレステロール、保持時間6.04分(サンプル注入からの時間は3.14分)のピークがIDLコレステロール、保持時間6.71分(サンプル注入からの時間は3.81分)のピークがVLDLコレステロール、そして保持時間7.33分(サンプル注入からの時間は4.43分)のピークがOtherコレステロールのものである。
【0041】
比較例1では、すべてのグラジエントの制御を時間のみで実施し、グラジエント切り替え時のプランジャー位置はその時間にあった場所にとどまるので、分析毎の分析開始の際のプランジャーポンプのプランジャーの位置は異なる。
【0042】
比較例1の条件で、同一試料を10回ずつ測定した各コレステロール濃度の結果を表3に示す。また、各ピークの保持時間の結果を表4に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
[実施例1]
装置構成や測定条件は特別な断りが無い限り、比較例1と同様である。
【0045】
実施例1では、分析開始から3.83分のポンプ3のみが動き出す洗浄工程開始の際に、ポンプ1およびポンプ2は低速回転に切り替わり、位置検出センサーがカムの原点を検出するまで回転を続け、原点を検出したときにそれぞれ回転を停止させる(
図2において、プランジャー制御を洗浄工程A,Bで行う。)。
【0046】
また、実施例1の条件で同一試料を10回ずつ測定した各コレステロール濃度の結果を表5に示す。また、各ピークの保持時間の結果を表6に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
再現性を示す変動係数C.V.(%)で比較すると、実施例における表5のLDLコレステロールの変動係数は0.69%でIDLコレステロールの変動係数が2.06%となっており、比較例における表3のLDLコレステロールの変動係数は0.97%でIDLコレステロールの変動係数が7.04%となっており、今までの制御と比較して本発明の分析方法では、測定のばらつきが明らかに小さくなっていることがわかる。これは、HDLコレステロール、VLDLコレステロールに関しても同様の再現性向上効果が見られている。
【0049】
測定結果の溶出時間については、実施例における表6のLDLの変動係数は0.07%でIDLの変動係数が0.11%となっており、比較例における表4のLDLの変動係数は0.23%でIDLコレステロールの変動係数が0.38%となっており、今までの制御と比較して本発明の分析方法では、測定のばらつきが明らかに小さくなっていることがわかる。これは、Otherに関しても同様の再現性向上効果が見られている。
【0050】
[比較例2]
装置構成や測定条件は特別な断りが無い限り、比較例1と同様である。
連続的に複数の測定を行う液体クロマトグラフ装置を用いた分析では、試料の追加等の目的で、連続運転を一時停止(ポーズ)させ、再度測定可能な状況になった時点で測定を再開させる場合がある。この場合、ポーズ時点で測定中の分析はそのまま継続し、次の試料をサンプリングするまでに再測定が行われない場合は、分析待ち時間として平衡化状態を継続することが一般的である。
【0051】
比較例2では、連続分析において、試料の測定中に2分間のポーズ動作を実施し、次の測定を分析させる状況を示す。比較例2の分析条件を
図6に示す。この場合、分析の終了時から分析開始前に実施されるカラム平衡化の開始時までの間に、分析に関わるすべてのプランジャーポンプのプランジャーの位置を前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一にしても、平衡化工程fが当初想定された平衡化時間より2分間延長されるため、測定開始時点でのプランジャー位置を前回の分析の測定開始時点でのプランジャー位置と同一にすることができない。この比較例2としての条件におけるポーズ実施前後の測定で得られたクロマトグラムの重ね画き図を
図9に示す。また比較例2における2回の測定の各ピークの保持時間を表7に示す。
【0052】
【表7】
[実施例2]
装置構成や測定条件は特別な断りが無い限り、比較例1と同様である。
【0053】
本発明の制御を行った実施例2の分析条件を
図5に示す。ポーズ解除後、次の試料を測定する前に分析開始から試料の吸引および注入にかかる時間を逆算して洗浄工程Dを追加し、分析開始前に実施されるカラム平衡化工程dの開始時までに、分析に関わるすべてのプランジャーポンプのプランジャーの位置を前回のカラムの平衡化開始時におけるプランジャーの位置と同一にする制御を行った。これにより平衡化工程dは、ポーズを実施しなかった場合の平衡化時間と同一の時間に設定することができるため、測定開始時点でプランジャー位置を前回の分析の測定開始時点と同一にすることができる。この実施例2としての条件におけるポーズ実施前後の測定で得られたクロマトグラムの重ね画き図を
図10に示す。また実施例2における2回の測定の各ピークの保持時間を表8に示す。
【0054】
【表8】
図10は
図9と比べ、クロマトグラムがより一致していることが確認でき、また、表7と表8の比較により、各ピークで保持時間の差が小さくなっていることがわかる。以上から、今までの制御と比較して、本発明の制御方法は、分析を一時的に停止し再開する場合に、測定の再現性が向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0055】
(100)溶離液1
(101)溶離液2
(102)溶離液3
(103)ポンプ1
(104)ポンプ2
(105)ポンプ3
(106)ミキサー
(107)オートサンプラー
(108)カラム
(109)検出器
(110)電磁弁1
(111)電磁弁2
(112)電磁弁3
(113)コレステロール反応液
(114)コレステロール反応液を送液するためのポンプ
(115)反応コイル
(201)HDLコレステロールのピーク
(202)LDLコレステロールのピーク
(203)IDLコレステロールのピーク
(204)VLDLコレステロールのピーク
(205)Otherコレステロールのピーク