特許第6536045号(P6536045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6536045樹脂組成物、樹脂シート及び樹脂シート硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536045
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シート及び樹脂シート硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20190625BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20190625BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20190625BHJP
   C08G 59/62 20060101ALN20190625BHJP
   C08L 63/00 20060101ALN20190625BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/38
   B32B27/18 Z
   !C08G59/62
   !C08L63/00
【請求項の数】5
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-14244(P2015-14244)
(22)【出願日】2015年1月28日
(65)【公開番号】特開2016-138194(P2016-138194A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 智雄
(72)【発明者】
【氏名】吉江 重充
(72)【発明者】
【氏名】湧口 恵太
(72)【発明者】
【氏名】原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 有司
【審査官】 山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/030998(WO,A1)
【文献】 特開2013−053180(JP,A)
【文献】 特開2008−266406(JP,A)
【文献】 特開2009−235146(JP,A)
【文献】 特開2013−035950(JP,A)
【文献】 特開2013−124289(JP,A)
【文献】 特開2015−212217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
C08K 3/00 − 13/08
C08G 59/00 − 59/72
C09J 1/00 − 5/10
9/00 − 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂の硬化剤と、重量平均分子量が10万以下の分散剤と、JIS Z8830−2013に準じて窒素吸着能から測定されるBET比表面積が2.4m/g以上3m/g以下であり、かつ水酸基を有する窒化ホウ素とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂が、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビスマレイミド樹脂及びポリイミド樹脂のいずれかであり、前記分散剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対し、1〜70質量部である樹脂組成物。
【請求項2】
窒化ホウ素の粒子径が、5〜100μmである請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層上に積層される第2の樹脂層と、を有する樹脂シートであって、前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層が、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物からなるものである樹脂シート。
【請求項4】
請求項に記載の樹脂シートを熱処理してなる樹脂シート硬化物。
【請求項5】
熱伝導率が2〜20W/m・Kであり、せん断強度が6MPa以上である請求項に記載の樹脂シート硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂シート及び樹脂シート硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を用いた電子機器の小型化、大容量化、高性能化等の進行に伴い、高密度に実装された半導体からの発熱量は益々大きくなっている。例えば、パソコンの中央演算装置及び電気自動車のモーターの制御に用いられる半導体装置の安定動作には、放熱のためにヒートシンク、放熱フィン等が不可欠になっており、半導体装置とヒートシンク等を結合する部材として絶縁性と熱伝導性を両立し、且つ、高温の動作環境でも信頼性が高い素材が求められている。
【0003】
また一般に、半導体装置等が実装されるプリント基板等の絶縁材料には有機材料が広く用いられている。これらの有機材料は、絶縁性は高いものの熱伝導性が低く、半導体装置等の放熱への寄与は大きくなかった。一方、半導体装置等の放熱のために、無機セラミックス等の無機材料が用いられる場合がある。これらの無機材料は、熱伝導性は高いものの、半導体装置等はグリースを介して無機セラミックス等の無機材料と結合されるため、有機材料と比較して接続信頼性が十分とは言い難かった。
【0004】
上記に関連して、樹脂にフィラーと呼ばれる熱伝導性の高い無機充填剤を複合した材料が種々検討されている。例えば、溶融粘度が低く高フィラー充填が可能であるエポキシ樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、一般的なビスフェノールA型エポキシ樹脂とアルミナフィラーとの複合系からなる硬化物が知られており、キセノンフラッシュ法では3.8W/m・K、温度波熱分析法では4.5W/m・Kの熱伝導率が達成可能とされている(例えば、特許文献2参照。)。同様に、特殊なエポキシ樹脂とアミン系の硬化剤とアルミナフィラーとの複合系からなる硬化物が知られており、最大9.8W/m・Kの熱伝導率が達成可能とされている(例えば、特許文献3参照。)。また、特許文献4では、熱伝導性、接着強度及び絶縁性の全てに優れる樹脂シート硬化物、並びに該樹脂シート硬化物を形成し得る樹脂シート及び樹脂組成物を得ることができるとされている。特に、高温高湿下での絶縁性に優れた樹脂シートを提供することができるとされている。
【0005】
特許文献1は、アルミナと窒化ホウ素、熱硬化性樹脂を含んだ構成であり、エラストマを樹脂に混合し硬化前後で樹脂を柔軟化している。また、熱伝導率は10W/m・K以上を示し、銅間のせん断強度も5MPaとなっている。特許文献2は面内方向に熱伝導率を高めた樹脂シートであり、りん片の粒子を面内に配向させることが重要であり、アスペクト比が大きい粒子を用いている。また、密着性が重要であるため、ゴムを主体としたマトリックス樹脂を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/035354号
【特許文献2】国際公開第2013/118849号
【特許文献3】特開2011−37919号公報
【特許文献4】特開2013−39834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の課題はせん断強度が5MPaと高くないことや絶縁性が4kV/100μmと高くないこと、特許文献2の課題は面内の熱伝導率は最低でも18W/m・K以上と高いものの、面厚方向の熱伝導性は2W/m・K程度であり低いことが問題点として挙げられる。
【0008】
このように、特許文献1〜4に記載の樹脂硬化物では、熱伝導性及び絶縁性、接着強度を高いレベルで両立することは困難であった。特に、熱伝導率を高めるため、粒子径の大きい窒化ホウ素を用いると、熱伝導性は向上するが絶縁破壊強度や接着強度(せん断強度)が低下することがあった。
【0009】
本発明の目的は、熱伝導率や接着強度(せん断強度)に優れる樹脂組成物、樹脂シート及び樹脂シート硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、樹脂と、前記樹脂の硬化剤と、重量平均分子量が10万以下の分散剤と、比表面積が3m/g以下の窒化ホウ素とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂が、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビスマレイミド樹脂及びポリイミド樹脂のいずれかであり、前記分散剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対し、1〜70質量部である樹脂組成物に関する。本発明の樹脂組成物は、熱伝導率や接着強度(せん断強度)に優れる。
また、本発明は、上記において、窒化ホウ素が、表面に水酸基を有するものである樹脂組成物に関する。
また、本発明は、上記において、窒化ホウ素の粒子径が、5〜100μmである樹脂組成物に関する。
また、本発明は、上記において、第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層上に積層される第2の樹脂層と、を有する樹脂シートであって、前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層が、樹脂組成物からなるものである樹脂シートに関する。
また、本発明は、上記において、樹脂シートを熱処理してなる樹脂シート硬化物に関する。
また、本発明は、上記において、熱伝導率が2〜20W/m・Kであり、せん断強度が6MPa以上である樹脂シート硬化物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱伝導率や接着強度(せん断強度)に優れる樹脂組成物、樹脂シート及び樹脂シート硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。更に組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構成に加え、一部に形成されている形状の構成も包含される。
本明細書において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂と、前記樹脂の硬化剤と、重量平均分子量が10万以下の分散剤と、比表面積が3m/g以下の窒化ホウ素とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂が、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビスマレイミド樹脂及びポリイミド樹脂のいずれかであり、前記分散剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対し、1〜70質量部である。特に、接着性の観点から、樹脂としてはエポキシ樹脂が好ましい。
【0014】
(樹脂:モノマー)
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂の少なくとも一種を含む。前記樹脂としては通常接着剤に用いられる一般的な樹脂を特に制限なく用いることができる。なかでも硬化前では低粘度であり、フィラー充填性及び成形性に優れ、熱硬化後には高い耐熱性及び接着性に加えて高い熱伝導性を有するものであることが好ましい。
本実施形態で使用される樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビスマレイミド樹脂が挙げられる。なお、本実施形態において使用するフェノキシ樹脂やエポキシ樹脂等が、重量平均分子量が1万以上10万以下の高分子量樹脂であってもよい。
【0015】
本実施形態の樹脂組成物においては、熱伝導の媒体であるフォノン散乱を抑制することができ、高次構造を形成して、高い熱伝導性を達成することができるエポキシ樹脂を用いてもよい。エポキシ樹脂を用いることにより、特定の構造単位を有するノボラック樹脂とともに樹脂硬化物を形成することで、樹脂硬化物中に共有結合又は分子間力に由来する規則性の高い高次構造を形成することができる。
【0016】
本実施形態の第一の態様である樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、その硬化剤、フィラーとして窒化ホウ素、分散剤を含有する。なお、前記分散剤は、アミノ基を含有することが好ましい。さらに、前記分散剤は、アクリル樹脂を主成分とし、エポキシ樹脂から相分離してもよい。かかる構成の樹脂組成物は、硬化前での金属板及び放熱板に対する接着性に優れる。また、熱硬化することで、熱伝導性及び接着性、絶縁性に優れる樹脂組成物を構成することができる。
【0017】
本実施形態において使用されるエポキシ樹脂は硬化して接着作用を呈するものであれば良く制限するものはないが、2官能以上で、エポキシ当量が400g/eq以下であることが望ましい。特に溶融時の粘度が低くなり易い結晶形のものやTgを高くすることができる多官能のものでもよい。
【0018】
本実施形態の樹脂組成物がエポキシ樹脂を含有する場合、エポキシ樹脂として、分子中にナフタレン環を2つ含み前記2つのナフタレン環がアルキレン鎖で連結されている構造を有する3官能以上の第1のエポキシ樹脂を含有してもよい。また、本実施形態の樹脂組成物が前記第1のエポキシ樹脂を含有する場合、エポキシ樹脂として分子中にメソゲン構造を有する2官能の第2のエポキシ樹脂を併用してもよい。本実施形態の樹脂組成物がエポキシ樹脂を含有する場合、必要に応じて、エポキシ樹脂として、第1のエポキシ樹脂及び第2のエポキシ樹脂以外のその他のエポキシ樹脂を含有してもよい。
【0019】
本実施形態に係る第1のエポキシ樹脂は、下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
前記一般式(I)において、Rは、炭素数が1〜7のアルキレン基を表す。Rは、炭素数が1〜5のアルキレン基であることが好ましく、1〜3のアルキレン基であることがより好ましく、メチレン基であることが更に好ましい。Rで表されるアルキレン基は、必要に応じて置換基を更に有していてもよい。該置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
ナフタレン環におけるRの結合する位置は特に限定されるものではなく、1位の位置であっても2位の位置であってもよく、1位の位置が好ましい。Rの結合する位置は、各ナフタレン環において同じ位置であってもよいし、異なる位置であってもよい。
【0022】
前記一般式(I)で表される化合物としては、下記一般式(IA)で表される化合物であることがより好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
本実施形態に係る第2のエポキシ樹脂は、分子中にメソゲン構造を有する2官能のものであれば、特に限定はない。
メソゲン構造を有するエポキシ樹脂が特定の温度で硬化した後に、良好な熱伝導性を得られることが知られている。なお、本実施形態においてメソゲン構造を有するエポキシ樹脂を用いることで、エポキシ樹脂が特定の温度で硬化剤と反応し樹脂硬化物を形成した場合に、樹脂硬化物中にメソゲン構造に由来する規則性のある高次構造を形成することができる。また、高次構造とは、樹脂組成物の硬化後にメソゲン構造により分子が配列している状態を意味する。
【0025】
本実施形態に係る第2のエポキシ樹脂は、下記一般式(II)で表される化合物及び下記一般式(III)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0026】
【化3】
【0027】
一般式(III)において、Rは、各々独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアラルキル基を表す。mは、各々独立して、0〜2の整数を表す。Rとしては、アルキル基又はアルコキシ基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
として表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられる。
として表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
として表されるアリール基としては、フェニル基等が挙げられる。
として表されるアラルキル基としては、ベンジル基等が挙げられる。
で表されるアルキル基、アルコキシ基、アリール基及びアラルキル基は、必要に応じて置換基を更に有していてもよい。該置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
としては、メチル基、及びエチル基が好ましい。
【0028】
本実施形態でいうメソゲン基とは、エポキシ樹脂が硬化剤と反応し樹脂硬化物を形成した場合に、樹脂硬化物中に高次構造を形成することができる。なお、本実施形態でいう高次構造とは、樹脂組成物の硬化後に分子が配向配列している状態を意味し、例えば、樹脂硬化物中に結晶構造体が存在することをいう。このような結晶構造体は、例えば、直交ニコル下での偏光顕微鏡による観察又はX線散乱スペクトルにより、その存在を直接確認することができる。また温度変化に対する貯蔵弾性率の変化が小さくなることでも、結晶構造体の存在を間接的に確認できる。
【0029】
前記メソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマーとして、具体的には、例えば、4,4´−ビフェノールグリシジルエーテル、3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ビフェノールグリシジルエーテル、1−{(3−メチル−4−オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン、4−(オキシラニルメトキシ)安息香酸−1,8−オクタンジイルビス(オキシ−1,4−フェニレン)エステル及び2、6−ビス[4−[4−[2−(オキシラニルメトキシ)エトキシ]フェニル]フェノキシ]ピリジンを挙げることができる。中でも、熱伝導性の向上の観点から、4,4´−ビフェノールグリシジルエーテル又は3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ビフェノールグリシジルエーテルであることが好ましい。
【0030】
その他のエポキシ樹脂としては、硬化前では低粘度であり、フィラー充填性及び成形性に優れ、熱硬化後には高い耐熱性及び接着性に加えて高い熱伝導性を有するものであることが好ましい。例えば、その他のエポキシ樹脂は25℃で液状であること(以下「液状エポキシ樹脂」と称する場合がある)が好ましい。これにより、本実施形態の樹脂組成物からなる樹脂シートの柔軟性又は積層時の流動性が発現し易くなる。また、液状エポキシ樹脂を使用することにより、樹脂組成物からなる樹脂シートのAステージ状態及びBステージ状態における樹脂軟化点を低下させることが可能となる。具体的には、液状エポキシ樹脂の使用により、樹脂組成物からなる樹脂シートの柔軟性が向上し取り扱い性に優れることがあり、更に接着時に溶融粘度を低下させることがある。液状エポキシ樹脂は硬化後のガラス転移温度及び熱伝導性が低い場合があるので、液状エポキシ樹脂の含有量は樹脂硬化物の物性との兼ね合いで適宜選択できる。
【0031】
このような25℃で液状のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水素添加したビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加したビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂及び反応性希釈剤とよばれるエポキシ基を1つだけ有しているエポキシ樹脂が挙げられる。25℃で液状のエポキシ樹脂は、硬化後の温度に対する弾性率変化及び熱物性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0032】
特に、分子量が500以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の液状エポキシ樹脂を含むと、本実施形態の樹脂組成物からなる樹脂シートの柔軟性又は積層時の流動性をより向上することができる。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物に含まれる樹脂の含有率には特に制限はない。熱伝導性と接着性の観点から、樹脂含有率は、樹脂組成物を構成する全固形分質量中に3〜30質量%であることが好ましく、熱伝導性の観点から、5〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることが更に好ましい。
本実施形態の樹脂組成物が樹脂として特にエポキシ樹脂を含有する場合における樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の含有率には特に制限はない。熱伝導性と接着性の観点から、エポキシ樹脂の含有率は、樹脂組成物を構成する全固形分質量中に3〜30質量%であることが好ましく、熱伝導性の観点から、5〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることが更に好ましい。
【0034】
本実施形態の樹脂組成物において、樹脂として第1のエポキシ樹脂と第2のエポキシ樹脂とが併用される場合、第1のエポキシ樹脂と第2のエポキシ樹脂との含有比(質量基準)は、25:75〜85:15であることが好ましく、30:70〜80:20であることがより好ましく、35:65〜75:25であることが更に好ましい。
【0035】
なお、第1のエポキシ樹脂として、一般式(I)で表される化合物を用い、第2のエポキシ樹脂として一般式(II)で表される化合物を用いた場合の第1のエポキシ樹脂と第2のエポキシ樹脂との含有比(質量基準)は、25:75〜85:15であることが好ましく、30:70〜80:20であることがより好ましく、35:65〜75:25であることが更に好ましい。
また、第1のエポキシ樹脂として一般式(I)で表される化合物を用い、第2のエポキシ樹脂として一般式(III)で表される化合物を用いた場合の第1のエポキシ樹脂と第2のエポキシ樹脂との含有比(質量基準)は、25:75〜85:15であることが好ましく、35:65〜75:25であることがより好ましく、40:60〜65:35であることが更に好ましい。
【0036】
(硬化剤)
本実施形態の樹脂組成物に含まれる樹脂がエポキシ樹脂を含む場合、本実施形態の樹脂組成物は硬化剤を含有する。
本実施形態において使用可能な硬化剤は、エポキシ樹脂と硬化反応が可能な化合物であれば特に制限されるものではない。本実施形態における硬化剤の具体例としては、ノボラック樹脂、芳香族アミン硬化剤、脂肪族アミン硬化剤、メルカプタン硬化剤、酸無水物硬化剤等の重付加型硬化剤などを挙げることができる。
これらの中でも、ノボラック樹脂が好ましく、下記一般式(IV)で表される構造単位を含むノボラック樹脂(以下、特定ノボラック樹脂と称することがある)がより好ましい。
特定ノボラック樹脂は、硬化剤として作用し、上述のエポキシ樹脂と反応して樹脂硬化物を形成し、絶縁性、接着性及び熱伝導性を発現する。上述の特定のエポキシ樹脂と特定ノボラック樹脂とを含むことで、硬化前にはより優れた柔軟性を示し、硬化後にはより優れた熱伝導性及び高温接着性を示すことができる。
また、フェノールノボラック系の硬化剤を用いることが好ましい。架橋点間分子量が小さくガラス転移温度を高くできること、高温での重量減少が小さいこと、可使時間を長くすることができるので好ましい。
【0037】
【化4】
【0038】
一般式(IV)において、Rは、各々独立して、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。R及びRは、各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。mは0〜2の整数を表す。mが2の場合、2つのRは同一であっても異なってもよい。mは、接着性と熱伝導性の観点から、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0039】
特定ノボラック樹脂は、上記一般式(IV)で表される構造単位を有する化合物の少なくとも一種を含むものであればよく、上記一般式(IV)で表される構造単位を有する化合物の二種以上を含むものであってもよい。
【0040】
特定ノボラック樹脂は、一般式(IV)で表される構造単位を有する化合物を含むことから、フェノール化合物としてレゾルシノールに由来する部分構造を少なくとも含む。特定ノボラック樹脂は、レゾルシノール以外のフェノール化合物に由来する部分構造の少なくとも一種を更に含んでいてもよい。レゾルシノール以外のフェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、カテコール、ヒドロキノン、1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン等を挙げることができる。特定ノボラック樹脂は、これらに由来する部分構造を一種単独でも、二種以上組み合わせて含んでいてもよい。ここでフェノール化合物に由来する部分構造とは、フェノール化合物のベンゼン環部分から水素原子を1個又は2個取り除いて構成される1価又は2価の基を意味する。水素原子が取り除かれる位置は特に限定されない。
【0041】
特定ノボラック樹脂におけるレゾルシノール以外のフェノール化合物に由来する部分構造としては、熱伝導性、接着性及び保存安定性の観点から、フェノール、クレゾール、カテコール、ヒドロキノン、1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、及び1,3,5−トリヒドロキシベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する部分構造であることが好ましく、ヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、及び1,3,5−トリヒドロキシベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する部分構造であることがより好ましい。
【0042】
特定ノボラック樹脂におけるレゾルシノールに由来する部分構造の含有率については特に制限はない。熱伝導性の観点から、特定ノボラック樹脂の全質量中において、レゾルシノールに由来する部分構造の含有率が20質量%以上であることが好ましく、更なる高い熱伝導性の観点から、50質量%以上であることがより好ましい。特定ノボラック樹脂の全質量中におけるレゾルシノールに由来する部分構造の含有率の上限値は特に制限されず、例えば95質量%以下であることが好ましい。
【0043】
一般式(IV)において、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。R及びRで表されるアルキル基、アリール基及びアラルキル基は、必要に応じて置換基を更に有していてもよい。該置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
【0044】
及びRとしては、保存安定性と熱伝導性の観点から、水素原子、アルキル基、又はアリール基であることが好ましく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であることがより好ましく、水素原子又はフェニル基であることが更に好ましく、水素原子であることが特に好ましい。更に耐熱性の観点からは、R及びRの少なくとも一方が炭素数6〜10のアリール基(より好ましくは、フェニル基)であることが好ましい。
【0045】
特定ノボラック樹脂は具体的には、以下に示す一般式(IVa)〜一般式(IVf)のいずれかで表される構造単位を有する化合物を含むノボラック樹脂であることが好ましい。
【0046】
【化5】
【0047】
一般式(IVa)〜一般式(IVf)において、i及びjは、それぞれのフェノール化合物に由来する構造単位の含有比率(質量%)を表す。iは2質量%以上30質量%以下、jは70質量%以上98質量%以下であり、iとjの合計は100質量%である。
【0048】
特定ノボラック樹脂は、熱伝導性の観点から、一般式(IVa)及び一般式(IVf)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を含み、iが2〜20質量%であって、jが80〜98質量%であることが好ましく、弾性率と線膨張率の観点から、一般式(IVa)で表される構造単位を含み、iが5〜10質量%であって、jが90〜95質量%であることがより好ましい。
【0049】
特定ノボラック樹脂は、上記一般式(IV)で表される構造単位を有する化合物を含み、好ましくは、下記一般式(V)で表される化合物の少なくとも一種を含むものである。
【0050】
【化6】
【0051】
一般式(V)中、Rは、水素原子又は下記一般式(Vp)で表されるフェノール化合物に由来する1価の基を表し、Rはフェノール化合物に由来する1価の基を表す。また、R、R、R及びmは、一般式(IV)におけるR、R、R及びmとそれぞれ同義である。Rで表されるフェノール化合物に由来する1価の基は、フェノール化合物のベンゼン環部分から水素原子を1個取り除いて構成される1価の基であり、水素原子が取り除かれる位置は特に限定されない。
nは1〜7の数であり、一般式(IV)で表される構造単位の繰り返し数である。特定ノボラック樹脂が単一の化合物である場合、nは整数である。特定ノボラック樹脂が複数の分子種から構成される場合、nは一般式(IV)で表される構造単位の含有数の平均値であり、有理数となる。特定ノボラック樹脂が一般式(IV)で表される構造単位を有する複数種の化合物を含む場合、nは、接着性と熱伝導性の観点から、その平均値が1.7〜6.5であることが好ましく、2.4〜6.1であることがより好ましい。
【0052】
【化7】
【0053】
一般式(Vp)中、pは1〜3の数を表す。また、R、R、R及びmは、一般式(IV)におけるR、R、R及びmとそれぞれ同義である。
【0054】
及びRにおけるフェノール化合物は、フェノール性水酸基を有する化合物であれば特に限定されない。フェノール化合物として具体的には、フェノール、クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等を挙げることができる。中でも熱伝導性と保存安定性の観点から、クレゾール、カテコール、及びレゾルシノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0055】
特定ノボラック樹脂の数平均分子量は、熱伝導性及び成形性の観点から、800以下であることが好ましく、また弾性率と線膨張率の観点から、300以上750以下であることがより好ましく、更に成形性と接着強度の観点から、350以上550以下であることが更に好ましい。特定ノボラック樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算し、求めることができる。
【0056】
また、特定ノボラック樹脂は、柔軟性の観点から、ノボラック樹脂を構成するフェノール化合物であるモノマーを更に含むことが好ましい。一般にノボラック樹脂はフェノール化合物とアルデヒド化合物とを縮重合することで合成される。従ってノボラック樹脂を構成するフェノール化合物とは、ノボラック樹脂の合成に用いられるフェノール化合物を意味する。特定ノボラック樹脂に含まれるフェノール化合物は、ノボラック樹脂の合成の際に残存したフェノール化合物であってもよく、ノボラック樹脂の合成後に添加したフェノール化合物であってもよい。
特定ノボラック樹脂に含まれるフェノール化合物の含有率としては、5〜60質量%が好ましく、10〜55質量%がより好ましく、15〜50質量%が更に好ましい。
【0057】
特定ノボラック樹脂にモノマーとして含まれるフェノール化合物は、特定ノボラック樹脂の構造に応じて選択される。中でもフェノール化合物は、レゾルシノール、カテコール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン及び1,2,3−トリヒドロキシベンゼンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、レゾルシノール及びカテコールからなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0058】
本実施形態の樹脂組成物が硬化剤を含む場合、樹脂組成物中の硬化剤の総含有率としては特に制限されない。熱伝導性と接着性の観点から、硬化剤の総含有率は、樹脂組成物の全固形分質量中に、1〜10質量%であることが好ましく、1.2〜8質量%であることがより好ましく、1.4〜7質量%であることが更に好ましい。
【0059】
本実施形態の樹脂組成物が硬化剤として特定ノボラック樹脂を含有する場合、樹脂組成物中の特定ノボラック樹脂の含有率は特に制限されない。特定ノボラック樹脂の含有率は、熱伝導性と接着性の観点から、樹脂組成物の全固形分質量中に0.3〜10質量%であることが好ましく、熱伝導性の観点から、0.5〜8質量%であることがより好ましく、0.7〜7質量%であることが更に好ましい。
【0060】
本実施形態の樹脂組成物は、絶縁性と耐熱性の観点から、特定ノボラック樹脂に加えて、一般式(IV)で表される構造単位を含まないその他のノボラック樹脂の少なくとも一種を含むことが好ましい。前記その他のノボラック樹脂としては、一般式(IV)で表される構造単位を含まないノボラック樹脂であれば特に制限はなく、エポキシ樹脂の硬化剤として通常用いられるノボラック樹脂から適宜選択することができる。
【0061】
本実施形態の樹脂組成物が特定ノボラック樹脂以外のその他の硬化剤を更に含む場合、その他の硬化剤の含有率は特に制限されない。熱伝導性の観点から、特定ノボラック樹脂に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0062】
また本実施形態の樹脂組成物が硬化剤を含み、樹脂としてエポキシ樹脂を含む場合、樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂に対して当量基準で、0.8〜1.2であることが好ましく、0.9〜1.1であることがより好ましい。ここで、当量とは反応当量であり、例えば、ノボラック樹脂の当量は、エポキシ基1個に対しフェノール性水酸基1個が反応するものとして計算され、アミンの当量は、エポキシ基1個に対しアミノ基の活性水素1個が反応するものとして計算され、酸無水物の無水酸当量は、エポキシ基1個に対し酸無水物基1個が反応するものとして計算される。
【0063】
(分散剤)
本実施形態の樹脂組成物に使用される分散剤としては、接着性や熱伝導性の観点から、重量平均分子量は10万以下であり、2万〜9万であることがより好ましい。重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算し、求めることができる。
本実施形態の樹脂組成物で使用される分散剤の含有量は、接着性や熱伝導性の観点から、前記樹脂100質量部に対し、1〜20質量部であり、2〜20質量部であることがより好ましい。
分散剤としては、ポリマー系、シリコン系、これらの化合物を化学修飾したもの等が挙げられ、これに限定するものではない。本実施形態において使用されるフィラーの分散剤としては、アクリル系ゴムやシリコンゴムといった熱可塑樹脂が好ましい。また、分散剤は、アミノ基を含有することが好ましい。特に、分散剤が、少なくとも側鎖にカルボキシル基を含有し、構造単位20%以下でアミノ基を有することが、熱伝導性や接着性向上の点から好ましい。
さらに、分散剤は、アクリル樹脂を主成分とし、エポキシ樹脂等から相分離してもよい。なお、分散剤中のアクリル樹脂の含有量としては、20〜100質量%が好ましい。
【0064】
本実施形態においては、窒化ホウ素と、窒化ホウ素以外のフィラーを併用してもよく、使用されるフィラーの分散剤としては、アクリル系ゴムやシリコンゴムといった熱可塑樹脂が好ましい。特に、アクリル樹脂を主成分とし、樹脂から相分離する分散剤が好ましい。
フィラーの分散剤としては、溶剤を含むワニスの状態にあっては、窒化ホウ素を沈降や凝集といった不具合を防止し、Bステージ化する際の樹脂組成物のマクロなムラや特性のバラツキを小さくできる。Cステージとすると、エポキシ樹脂に対する可塑化効果のため、樹脂の破断歪みを大きくすることが可能である。一方、フェノキシ樹脂や高分子量のエポキシ樹脂は、弾性率を低下させ、歪みを大きくすることが可能になる。しかしながら、分散剤が、エポキシ樹脂と相溶化してしまうと、熱伝導性を損なう可能性がある、また、高粘度であるため成形性に影響が出てくる可能性がある。よって、分散剤は、フェノキシ樹脂やエポキシ樹脂等から相分離することが好ましい。
【0065】
(フィラー:窒化ホウ素)
本実施形態の樹脂組成物においては、フィラーとして窒化ホウ素を含有するが、窒化ホウ素以外のフィラーを含有してもよい。なお、本実施形態において、フィラーとは、無機フィラーを表す。
無機フィラーの材質としては、絶縁性を有する無機化合物粒子であれば特に制限はない。無機フィラーの材質としては、高い熱伝導性と体積抵抗率を有するものであることが好ましい。
無機フィラーとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウムの水和物、タルク、マイカ、硫酸バリウム等の無機化合物粒子を挙げることができる。無機フィラーは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。熱伝導性と絶縁性の観点から、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウムが好ましい。
本実施形態で使用される窒化ホウ素は、その比表面積が3m/g以下である。さらに、窒化ホウ素の比表面積は、0.1〜2.8m/gであることが好ましく、1〜2.5m/gであることがより好ましい。比表面積が3m/g以下であることによって、接着強度(せん断強度)向上等の効果がある。本実施形態において、窒化ホウ素等の無機フィラーの比表面積は、JIS Z8830−2013に準じて窒素吸着能から測定することが可能であり、一般的に、BET比表面積をいう。
【0066】
本実施形態において使用される窒化ホウ素は、表面に水酸基を有するものであることが好ましい。表面に水酸基を有することにより、樹脂硬化物では樹脂の流動性向上や接着強度向上などの効果が得られ、好ましい。また、赤外分光法を用いて、窒化ホウ素の表面にある水酸基量を定量することが可能である。装置はバイオラッド・ラボラトリィズ製FT−IR FTS6000型を用い、拡散反射法を用いて積算回数を256回として測定した。水酸基の量は、赤外分光を測定して820cm−1付近にあるBN変角振動のピーク強度で規格化し、0.01以上を水酸基が有り、0.01未満を無しとした。
【0067】
窒化ホウ素の含有量は、樹脂固形分100体積部に対して、20〜400体積部であることが、熱伝導性及び接着性の観点から好ましく、さらに、40〜300体積部であることがより好ましい。
本実施形態においては、窒化ホウ素等の無機フィラーの配合は、熱伝導性や絶縁性を付与することが一つの目的である。20体積部未満であると、熱伝導性や絶縁性が不十分となり、400体積部を超えると、成形が難しくなりボイドが入り易くなるため絶縁性が不十分となるおそれがある。このような背景から熱伝導性を担保しつつ、無機フィラーは成形性を損なわない程度の添加量とすることが求められる。
また、本実施形態において使用される窒化ホウ素の粒子径は、5〜100μmであることが、熱伝導性及び接着性の観点から好ましく、5〜80μmであることがより好ましく、10〜80μmであることがさらに好ましい。また、100μmを超えると、絶縁性を損なう可能性があり、5μm未満であると熱伝導性が不十分となるおそれがある。なお、前記粒子径とは、一次粒子径(平均粒子径)であり、例えば、レーザー回折法を用いて測定される粒度分布測定に存在するピークから求めることができる。
また、本実施形態においては、無機フィラーに占める20〜100μmの粒子径を有する粒子の割合が、溶剤を除く樹脂組成物中30体積%未満であると、熱伝導率が低くなる傾向にある。一方、無機フィラーに占める20〜100μmの粒子径を有する粒子の割合が80体積%を超えると、接着性が低下する傾向にある。従って、本実施形態で用いられる無機フィラーは、レーザー回折法で測定したときに、該無機フィラーに占める20〜100μmの粒子径を有する粒子の割合が、溶剤を除く樹脂組成物中30〜80体積%であることが好ましく、36〜80体積%であることがより好ましく、39〜75体積%であることが更に好ましい。
【0068】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物は、上記成分に加えて必要に応じてその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、硬化促進剤、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0069】
(硬化促進剤)
硬化促進剤としては、イミダゾール、トリフェニルホスフィン、これらの化合物に側鎖を導入した誘導体等が挙げられる。熱硬化樹脂を硬化する際に必要であれば,特に制限なく硬化促進成分を含むことができる。
【0070】
(シランカップリング剤)
樹脂組成物は、シランカップリング剤の少なくとも1種を更に含有してもよい。シランカップリング剤を含むことで、エポキシ樹脂モノマー及びノボラック樹脂を含む樹脂成分とフィラーとの結合性がより向上し、より高い熱伝導性とより強い接着性を達成することができる。
【0071】
前記シランカップリング剤としては、樹脂成分と結合する官能基、及びフィラーと結合する官能基を有する化合物であれば特に制限はなく、通常用いられるシランカップリング剤から適宜選択して用いることができる。前記フィラーと結合する官能基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基を挙げることができる。また前記樹脂成分と結合する官能基としては、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ウレイド基、アミノフェニル基等を挙げることができる。
【0072】
シランカップリング剤として具体的には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。またSC−6000KS2に代表されるシランカップリング剤オリゴマ(日立化成テクノサービス株式会社製)を使用することもできる。これらのシランカップリング剤は1種単独で用いても、又は2種類以上を併用することもできる。
【0073】
樹脂組成物がシランカップリング剤を含む場合、樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有率としては、特に制限はない。シランカップリング剤の含有率は、熱伝導性の観点から、樹脂組成物の全固形分質量中に、0.02質量%以上0.83質量%以下であることが好ましく、0.04質量%以上0.42質量%以下であることがより好ましい。
【0074】
また、樹脂組成物がシランカップリング剤を含む場合、フィラーの含有量に対するシランカップリング剤の含有率は、熱伝導性、絶縁性及び成形性の観点から、0.02質量%以上1質量%以下であることが好ましく、より高い熱伝導性の観点から0.05質量%以上0.8質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
(樹脂組成物の製造方法)
樹脂組成物の製造方法としては、通常行なわれる樹脂組成物の製造方法を特に制限なく用いることができる。樹脂(モノマー)、硬化剤、分散剤、窒化ホウ素などのフィラー等を混合する方法としては、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜組み合わせて行うことができる。また、適当な有機溶剤を添加して、分散又は溶解を行うことができる。
【0076】
具体的には、例えば、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂、フィラー(窒化ホウ素、アルミナ)、アクリル樹脂を含む分散剤及び必要に応じて添加されるシランカップリング剤を適当な有機溶剤に溶解又は分散したものに、必要に応じて硬化促進剤等のその他の成分を混合することで、樹脂組成物を得ることができる。
【0077】
前記有機溶剤は後述する樹脂シートの製造方法における乾燥工程にて、少なくともその一部が乾燥処理により除去されるものであることから、沸点が低い又は蒸気圧が高いものが望ましい。有機溶剤が樹脂シート中に大量に残留していると、熱伝導性又は絶縁性能に影響を及ぼす場合がある。一方、有機溶剤が完全に除去されると、シートが硬くなりすぎて接着性能が失われてしまう場合がある。したがって有機溶剤の選択は、乾燥方法及び乾燥条件との適合が必要である。また有機溶剤は、用いる樹脂の種類、フィラーの種類、シート作製時の乾燥のし易さ等により適宜選択することができる。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−プロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール溶剤、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の含窒素溶剤などを挙げることができる。また有機溶剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
<樹脂シート>
樹脂シートは、少なくとも一方の面上に支持体を更に有することが好ましく、両方の面上に支持体を有することがより好ましい。これにより外的環境からの樹脂シートの接着面への異物の付着及び衝撃から樹脂シートを保護することができる。すなわち、支持体は、保護フィルムとして機能する。また前記支持体は、使用時には適宜剥離して用いることが好ましい。
【0079】
前記支持体としては、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムなどが挙げられる。これらのプラスチックフィルムに対しては、必要に応じてプライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理、離型処理等の表面処理を行ってもよい。また前記支持体として、銅箔、アルミニウム箔等の金属箔;アルミニウム板等の金属板などを用いることもできる。
【0080】
前記支持体がプラスチックフィルムである場合、その平均厚みは特に制限されない。平均厚みは、形成する樹脂シートの平均厚み及び樹脂シートの用途に応じて、当業者の知識に基づいて適宜定められる。プラスチックフィルムの平均厚みは、経済性がよく、取り扱い性が良好な点で、10μm以上150μm以下であることが好ましく、25μm以上110μm以下であることがより好ましい。
【0081】
また前記支持体が金属箔である場合、その平均厚みは特に制限されず、樹脂シートの用途等に応じて適宜選択することができる。例えば、金属箔の平均厚みは、10μm以上400μm以下とすることができ、ロール箔としての取り扱い性の観点から、好ましくは18μm以上300μm以下である。
【0082】
かかる構成の樹脂シートを硬化すると、せん断接着性、絶縁性及び熱伝導性に優れる樹脂シート硬化物を得ることができる。これは下記の様に考えることができる。
本実施形態の樹脂シートを、金属板、放熱板、被着体等の部材間に介在させてこれら部材を接着する際に、接着界面にボイドを生ずることなくこれら部材を接着できる可能性が高くなる。熱伝導性が高いと、無機フィラーを樹脂シート中で高充填にする必要性も無くなるため、樹脂シートの弾性率の高まりの抑制及び伸び率の向上も達成できるため、その結果、せん断接着性も向上することができる。このため、硬化後のせん断接着性、絶縁性及び熱伝導性に優れる硬化物を得ることができる。
【0083】
本実施形態の樹脂シートは、樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含有する第1の樹脂層と、第1の樹脂層上に積層される樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含有する第2の樹脂層を有する。
例えば、本実施形態の樹脂シートは、第1の樹脂層と、第2の樹脂層との積層体であることが好ましい。これにより絶縁耐圧をより向上させることができる。第1の樹脂層を構成する成分及び第2の樹脂層を構成する成分は、同一の組成であっても互いに異なる組成を有していてもよい。第1の樹脂層を構成する成分及び第2の樹脂層を構成する成分は、熱伝導性の観点から、同一の組成であることが好ましい。
【0084】
本実施形態の樹脂シートは、一方の面上に金属箔を有し、前記金属箔を有する面とは反対の面上にプラスチックフィルムを有する構成であってもよい。
また、本実施形態の樹脂シートは、樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含有する第1の樹脂層と、第1の樹脂層上に積層される樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含有する第2の樹脂層とを有する積層体であり、前記積層体の一方の面上に金属箔を更に有し、他方の面上にプラスチックフィルム等の保護フィルムを更に有することが好ましい。すなわち樹脂シートは更に金属箔及びプラスチックフィルム等の保護フィルムを有していてもよく、金属箔、第1の樹脂層、第2の樹脂層及びプラスチックフィルム等の保護フィルムの順に設けられてなることが好ましい。これによりボイドの穴埋め効果が得られ、絶縁耐圧がより向上する傾向がある。
【0085】
(樹脂シートの製造方法)
樹脂シートの製造方法は、本実施形態の樹脂シートを構成する成分を含む樹脂組成物を用いて、平均厚みが40〜250μmのシート状の樹脂層を形成可能な方法であれば特に制限されず、通常用いられるシートの製造方法から適宜選択することができる。樹脂シートの製造方法として具体的には、本実施形態の樹脂シートを構成する成分と共に有機溶剤を含む樹脂組成物を、支持体上に、所望の平均厚みとなるように付与して樹脂組成物層を形成し、形成された樹脂組成物層を乾燥処理して有機溶剤の少なくとも一部を除去して樹脂層を形成する方法等を挙げることができる。
【0086】
樹脂組成物の付与方法、及び乾燥方法については特に制限なく、通常用いられる方法から適宜選択することができる。付与方法としては、コンマコータ法、ダイコータ法、ディップ塗工法等が挙げられる。また乾燥方法としては、常圧下又は減圧下での加熱乾燥、自然乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
【0087】
さらに、樹脂シートの樹脂層を加熱加圧処理する方法は、樹脂層を半硬化状態にできれば特に制限はない。例えば、熱プレス及びラミネータを用いて樹脂層を加熱加圧処理することができる。また樹脂層を半硬化状態とする加熱加圧条件は、樹脂組成物の構成に応じて適宜選択でき、例えば、加熱温度40℃〜200℃、圧力0.1MPa〜100MPa及び0.3分間〜30分間の条件を挙げることができる。
【0088】
樹脂シートの樹脂組成物層の厚さは、乾燥処理後の樹脂層が所望の平均厚みとなるように適宜選択することができる。乾燥後の樹脂層の平均厚みは40μm〜250μmであることが好ましく、50μm〜250μmとなるように樹脂組成物層の厚さを調整することが好ましい。乾燥後の樹脂層の平均厚みが40μm以上であると樹脂層内に空洞が形成されにくくなり、作製尤度が大きくなる傾向がある。また、乾燥後の樹脂層の平均厚みが250μm以下であると樹脂ロールを形成する場合でも、樹脂の粉末が飛散することを抑制できる傾向がある。
【0089】
本実施形態の樹脂シートが積層体である場合、第1の樹脂層と第2の樹脂層とを重ね合わせて製造されることが好ましい。かかる構成であることにより、絶縁耐圧がより向上する。
【0090】
これは例えば以下のように考えることができる。すなわち、2つの樹脂層を重ねることで、一方の樹脂層中に存在しうる厚さの薄くなる箇所(ピンホール又はボイド)がもう一方の樹脂層により補填されることになる。これにより、最小絶縁厚みを大きくすることができ、絶縁耐圧がより向上すると考えることができる。樹脂シートの製造方法におけるピンホール又はボイドの発生確率は高くはないが、2つの樹脂層を重ねることで薄い部分の重なり合う確率はその2乗になり、ピンホール又はボイドの個数はゼロに近づくことになる。絶縁破壊は最も絶縁的に弱い箇所で起こることから、2つの樹脂層を重ねることにより絶縁耐圧がより向上する効果が得られると考えることができる。更に、2つの樹脂層を重ねることにより、無機フィラー同士の接触確率も向上し、熱伝導性の向上効果も生じると考えることができる。
【0091】
樹脂シートの製造方法は、樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含有する第1の樹脂層上に、樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含有する第二の樹脂層を重ねて積層体を得る工程と、得られた積層体を加熱加圧処理する工程とを含むことが好ましい。かかる製造方法であることにより、絶縁耐圧がより向上する。
【0092】
また、本実施形態の樹脂シートは、前記積層体の一方の面上に金属箔を更に有し、他方の面上にプラスチックフィルム等の保護フィルムを更に有することが好ましい。このような構成の樹脂シートの製造方法は、金属箔上に設けられ、樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含有する第一の樹脂層と、プラスチックフィルム等の保護フィルム上に設けられ、樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含有する第二の樹脂層とを互いに接するように重ねる工程を有することが好ましい。これにより穴埋め効果がより効果的に得られる。
【0093】
前記第1の樹脂層は例えば、金属箔上に、本実施形態の樹脂シートを構成する成分と共に有機溶剤を含む樹脂組成物を付与して樹脂組成物層を形成し、形成された樹脂組成物層を乾燥処理して有機溶剤の少なくとも一部を除去することで形成することができる。また前記第2の樹脂層は、例えば、プラスチックフィルム上に、本実施形態の樹脂シートを構成する成分と共に有機溶剤を含む樹脂組成物を付与して樹脂組成物層を形成し、形成された樹脂組成物層を乾燥処理して有機溶剤の少なくとも一部を除去することで形成することができる。
【0094】
前記第1の樹脂層及び第2の樹脂層の平均厚みは、積層体を構成した場合に積層体の平均厚みが40μm〜250μmとなるように適宜選択することが好ましい。前記第1の樹脂層及び第2の樹脂層の平均厚みは、例えば、それぞれ10μm〜240μmとすることができ、20μm〜230μmであることが好ましい。前記平均厚みが10μm以上であると樹脂層内に空洞(ボイド)が形成されにくくなり、作製尤度が大きくなる傾向がある。前記平均厚みが240μm以下であるとシートに割れ目が入りにくい傾向がある。前記第1の樹脂層及び第2の樹脂層の平均厚みは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0095】
更に前記第1の樹脂層と第2の樹脂層とを重ねた積層体は、加熱加圧処理されることが好ましい。これにより熱伝導性がより向上した樹脂シートを製造することができる。加熱加圧処理する方法としては、所定の圧力及び熱を加えることができる方法であれば特に制限されず、通常用いられる加熱加圧処理方法から適宜選択することができる。具体的には、ラミネート処理、プレス処理、金属ロール処理等が挙げられる。また加熱加圧処理には、常圧で処理を行う手法と、減圧下で処理を行う真空処理とがある。真空処理の方が好ましいが、その限りではない。
【0096】
本実施形態の樹脂シートを構成する成分を含む樹脂組成物により樹脂層を形成する場合、加熱加圧処理前の積層体の表面は無機フィラー等により凸凹が生じており、平滑ではない場合がある。このような積層体を加熱加圧処理して得られる本実施形態の樹脂シートの厚さは、樹脂層の厚みの和には一致せずに小さくなる場合がある。これは、例えば、加熱加圧処理の前後で、フィラー充填性が変化すること、表面の凸と凹が重ね合わされること、シートの均一性が向上すること及びボイドが埋まることに拠るものと考えることができる。
【0097】
<樹脂シート硬化物>
本実施形態の樹脂シート硬化物は、本実施形態の樹脂シートの熱処理物である。すなわち、本実施形態の樹脂シート硬化物は、本実施形態の樹脂シートを熱処理することで樹脂シートを構成する樹脂組成物を硬化させて形成される。従って、樹脂シート硬化物は、樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分を含む樹脂組成物の硬化物を含有する。
また、本実施形態の樹脂シート硬化物は、熱伝導率が2〜20W/m・Kであることが好ましく、5〜20W/m・Kであることがより好ましく、9〜15W/m・Kであることがさらに好ましい。また、せん断強度は、6MPa以上であることが好ましく、9MPa以上であることがより好ましい。せん断強度は、6MPa以上であることにより、線膨張率の異なる被着体を貼り付けたときの接着強度を向上できる利点がある。
また、熱伝導率は、例えば、熱拡散率をNETZSCH社Nanoflash LFA447型を用いて測定し、測定された熱拡散率と、アルキメデス法で測定した密度、DSC(示差熱量計)により測定した比熱の積から算出した。
また、せん断強度は、例えば、株式会社島津製作所製AGC−100型を使用し、求めることができる。
【0098】
また、本実施形態の樹脂シート硬化物は、さらに、貯蔵弾性率が30GPa以下であることが好ましく、線膨張率が8〜25ppm/℃であることが好ましい。本実施形態の樹脂シート硬化物の貯蔵弾性率及び線膨張率を所定の範囲とすることで、線膨張率の異なる被着体を貼り付けたときの接着強度を向上できる利点がある。
なお、貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(DMA)等を使用し、測定することができる。また、線膨張率は、線膨張係数測定装置(TMA)等を使用し、測定することができる。
【0099】
本実施形態の樹脂シート硬化物は、引張弾性率が0.1GPa〜30GPaであり、引張破壊ひずみが0.10%〜0.70%であることが好ましく、引張弾性率が1GPa〜28GPaであり、引張破壊ひずみが0.14%〜0.65%であることがより好ましく、引張弾性率が2GPa〜26GPaであり、引張破壊ひずみが0.18%〜0.60%であることが更に好ましい。
本実施形態の樹脂シート硬化物の引張弾性率及び引張破壊ひずみを所定の範囲とすることで、線膨張率の異なる被着体を貼り付けたときの接着強度を向上できる利点がある。
なお、本実施形態の樹脂シート硬化物(Cステージ状態の樹脂シート)の引張弾性率及び引張破壊ひずみを所定の範囲とするには、樹脂と無機フィラーと必要に応じて用いられる硬化剤等のその他の成分の種類及び含有率を適宜選択することで達成される。本実施形態では、無機フィラーの組成がこれらの物性パラメータに影響することが多く、例えば、無機フィラーの含有率を上げると引張破壊ひずみは小さくなるが、破断強度は大きくなる。一方で、無機フィラーの含有率を下げると、引張破壊ひずみが大きくなり、破断強度は小さくなる。また、無機フィラーの種類を変えても調整可能であり、例えば、アルミナと窒化ホウ素の比率を変えても調整可能である。アルミナを多くすると、引張破壊ひずみは小さくなるが、破断強度は大きくなる。一方で、窒化ホウ素を多くすると、この逆が起きる。これらの技術は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
なお、引張弾性率及び引張破壊ひずみは、JIS K7161−1994に準じて測定された値をいう。
【0100】
本実施形態の樹脂シート硬化物においては、無機フィラー同士が互いに接触すると高い熱伝導性を発揮する。樹脂と無機フィラーとでは熱伝導性が大きく異なるため、樹脂と無機フィラーとの混合物では、高熱伝導性である無機フィラー同士をなるべく接近させ、無機フィラー間の距離を短くすることが好ましい。例えば、樹脂と比較して熱伝導率が高い無機フィラーが樹脂を間に介さずに接触すると、熱伝導パスが形成し、熱伝導しやすい経路が形成できるため、高熱伝導性になりやすい。
【0101】
樹脂シート硬化物を製造する際の熱処理条件は、本実施形態の樹脂シートの構成に応じて適宜選択することができる。例えば、本実施形態の樹脂シートを、120℃〜250℃、1分間〜300分間の条件で加熱処理することができる。また、樹脂がエポキシ樹脂を含む場合、当該エポキシ樹脂のガラス転移温度、熱伝導性、及び接着性の観点から、加熱処理条件は、三次元架橋構造を形成しやすくするため、徐々に温度を上昇させる工程を含むことが好ましい。例えば、本実施形態の樹脂シートに対して、100℃〜160℃及び160℃〜250℃の少なくとも2段階の加熱を行うことがより好ましく、上記の温度範囲にて、3段階以上の多段階の加熱処理を行うことが更に好ましい。これはエポキシ樹脂と硬化剤との未反応箇所を少なくすることで、架橋密度の上昇による特性の向上の他に、未反応箇所の熱分解を防ぎ、反応熱による樹脂中央部の過熱を防ぐ効果もある。
【0102】
(樹脂シート積層体)
本実施形態の樹脂シート積層体は、本実施形態の樹脂シートと、前記樹脂シートの少なくとも一方の面上に配置される金属板又は放熱板とを有する。本実施形態の樹脂シート積層体を構成する本実施形態の樹脂シートの詳細については既述の通りである。また金属板又は放熱板としては、銅板、アルミ板、セラミック板等が挙げられる。なお、金属板又は放熱板の厚みは特に限定されず、目的等に応じて適宜選択することができる。また、金属板又は放熱板として、銅箔、アルミニウム箔等の金属箔を使用してもよい。
【0103】
本実施形態の樹脂シート積層体においては、本実施形態の樹脂シートの少なくとも一方の面上に金属板又は放熱板が配置され、好ましくは両方の面上に配置される。
【0104】
本実施形態の樹脂シート積層体は、本実施形態の樹脂シートの少なくとも一方の面上に、金属板又は放熱板を配置して積層体を得る工程を含む製造方法で製造することができる。
【0105】
樹脂シート上に、金属板又は放熱板を配置する方法としては、通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。例えば、樹脂シートの少なくとも一方の面上に、金属板又は放熱板を貼り合わせる方法を挙げることができる。貼り合わせ方法としては、樹脂シートに含まれる樹脂成分による接着による方法であっても、樹脂シート表面に塗布したグリースの粘着による方法であってもよい。これらの方法は、必要な物性、樹脂シート積層体を用いて構成される半導体装置の形態等に応じて適宜使い分けることができる。具体的な貼り合わせ方法としては、プレス法、ラミネート法等が挙げられる。プレス法及びラミネート法の条件は樹脂シートの構成に応じて適宜選択することができる。プレス工程における加熱加圧方法は、特に制限されない。例えば、プレス装置、ラミネート装置、金属ロールプレス装置及び真空プレス装置を用いて加熱加圧する方法を挙げることができる。
【0106】
加熱加圧する条件は、例えば、温度を60℃〜250℃とし、圧力を0.5MPa〜100MPaとして、時間を0.1分間〜360分間とすることができ、温度を70℃〜240℃とし、圧力を1MPa〜80MPaとして、時間を0.5分間〜300分間とすることが好ましい。また加熱加圧処理は、大気圧(常圧下)でも行うことが可能であるが、減圧下にて行うことが好ましい。減圧条件としては30000Pa以下であることが好ましく、10000Pa以下であることがより好ましい。
【0107】
また本実施形態の樹脂シート積層体は、前記樹脂シートの一方の面上に金属板又は放熱板を有し、前記金属板又は放熱板の配置される面とは反対の面に被着体を有していてもよい。樹脂シート積層体を熱処理して、樹脂シート積層体に含まれる樹脂シートを硬化することで、被着体と金属板又は放熱板との間の熱伝導性に優れる樹脂シート積層体硬化物を形成することができる。
【0108】
前記被着体としては特に制限されない。被着体の材質としては、金属、樹脂、セラミックス、それらの混合物である樹脂/セラミックス、樹脂/金属といった複合材料等を挙げることができる。被着体の形状としては、薄膜状、板状、箱状等、様々な形態が挙げられる。
本実施形態の樹脂シート積層体は、前記樹脂シートの一方の面上に金属板又は放熱板を有し、前記金属板又は放熱板の配置される面とは反対の面に金属箔を有していてもよい。
【0109】
(樹脂シート積層体硬化物の製造方法)
本実施形態の樹脂シート積層体硬化物は、前記樹脂シート積層体の熱処理物である。本実施形態の樹脂シート積層体硬化物の製造方法は、前記樹脂シートの少なくとも一方の面上に、金属板又は放熱板を配置する工程と、前記樹脂シートに熱を与えて前記樹脂シートを硬化させる工程とを有し、必要に応じてその他の工程を含んでもよい。
【0110】
樹脂シート上に、金属板又は放熱板を配置する方法としては、樹脂シート積層体の項で開示した方法及び条件を適用できる。
【0111】
本実施形態の樹脂シート積層体硬化物の製造方法においては、前記金属板又は放熱板を配置する工程後に加熱処理して、本実施形態の樹脂シートを硬化させる。樹脂シート積層体の加熱処理を行うことで熱伝導性がより向上する。樹脂シート積層体の加熱処理は、例えば、120℃〜250℃、10分間〜300分間で行うことができる。また、樹脂シート積層体の加熱処理条件は、熱伝導性の観点から、硬化物が高次構造を形成しやすい温度を含むことが好ましい。例えば、樹脂シート積層体の加熱処理では、100℃〜160℃と160℃〜250℃の少なくとも2段階の加熱を行うことがより好ましく、更に、上記の温度範囲にて、3段階以上の多段階の加熱を行うことが更に好ましい。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0113】
以下に樹脂シートの作製に用いた材料とその略号を示す。
(フィラー)
窒化ホウ素フィラーの比表面積、一次粒子径をまとめて表1に示す。
HP:水島合金鉄株式会社製、製品名 HP40
MP:3Mジャパン株式会社製、製品名 Agglomerates
RP:電気化学工業株式会社製、製品名 SGPS
なお、窒化ホウ素フィラーの比表面積(BET比表面積)は、JIS Z8830−2013に準じて窒素吸着能から測定し、一次粒子径は、レーザー回折式粒度分布計Master Sizer Microplus(Malvern社製商品名)にて、屈折率2.2として粒度分布を測定し、求めた。
【0114】
(窒化ホウ素の水酸基量)
赤外分光法を用いて、窒化ホウ素の表面にある水酸基を定量した。装置はバイオラッド・ラボラトリィズ製FT−IR FTS6000型を用い、拡散反射法を用いて積算回数を256回として測定した。水酸基の量は、赤外分光を測定して820cm−1にあるBN変角振動のピーク強度(水酸基ピーク高さ)で規格化し、式(1)に示すように、これをそれぞれの比表面積で割ることで水酸基量とした。結果を表1に示した。
水酸基量=(水酸基ピーク高さ)/((BN変角振動の高さ)×(比表面積)) …(1)
【0115】
【表1】
【0116】
(アルミナフィラー)
・AA−18:酸化アルミニウム粒子、製品名:AA−18、住友化学株式会社製、体積平均粒子径18μm
・AA−3:酸化アルミニウム粒子、製品名:AA−3、住友化学株式会社製、体積平均粒子径3μm
・AA−04:酸化アルミニウム粒子、製品名:AA−04、住友化学株式会社製、体積平均粒子径0.4μm
【0117】
(硬化剤(ノボラック樹脂を含む))
・CRN:カテコールレゾルシノールノボラック樹脂、数平均分子量425、フェノール化合物の含有率35%
【0118】
(エポキシ樹脂)
・PNAP:トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、型番EPPN−502H、日本化薬株式会社製
・BIS−A/F:ビスフェノールA/F混合型エポキシ樹脂、型番ZX−1059、新日鉄住金化学株式会社製
【0119】
(添加剤)
・TPP:トリフェニルホスフィン(硬化促進剤、和光純薬工業株式会社製)
・カップリング剤:KBM−573(N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製)
【0120】
(有機溶剤)
・CHN:シクロヘキサノン(和光純薬工業株式会社製、1級)
【0121】
(分散剤)
R1:重量平均分子量25000、日立化成株式会社製、アクリル樹脂含量43質量%
R2:重量平均分子量81000、日立化成株式会社製、アクリル樹脂含量36質量%
R3:重量平均分子量130000、日立化成株式会社製、アクリル樹脂含量25質量%
なお、分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した。検量線は、標準ポリスチレンの5サンプルセット(PStQuick MP−H、PStQuick B[東ソー株式会社製、商品名])を用いて3次式で近似した。GPCの条件は、以下に示す。
装置:(ポンプ:L−2130型[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])、
(検出器:L−2490型RI[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])、
(カラムオーブン:L−2350[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])
カラム:Gelpack GL−R440 + Gelpack GL−R450 + Gelpack GL−R400M(計3本)(日立化成株式会社製、商品名)
カラムサイズ:10.7mmI.D×300mm
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:10mg/2mL
注入量:200μL
流量:2.05mL/分
測定温度:25℃
【0122】
<合成例>
(硬化剤;ノボラック樹脂の合成)
窒素雰囲気下でセパラブルフラスコに、フェノール化合物のモノマーとしてレゾルシノール105g及びカテコール5g、触媒としてシュウ酸0.11g(対モノマー比 0.1%)、並びに溶剤としてメタノール15gをそれぞれ量り取った後、内容物を撹拌し、40℃以下になるように油浴で冷却しながらホルマリン30gを加えた。2時間撹拌した後、油浴の温度を100℃にして、加温しながら水及びメタノールを減圧留去した。水及びメタノールが留出しなくなったことを確認した後、CHNをノボラック樹脂の含有率が50%となるように加えて、カテコールレゾルシノールノボラック樹脂(CRN)溶液を得た。
【0123】
得られたカテコールレゾルシノールノボラック樹脂(CRN)のGPCによる分子量測定で数平均分子量、モノマー含有比率を定量した。また得られた生成物(CRN)のNMRスペクトルを測定し、一般式(IV)で表される構造単位が含まれていることを確認した。なお、GPC測定及びNMR測定の条件については、以下のとおりである。
【0124】
(GPC測定)
上記合成例で得られたCRNをテトラヒドロフラン(液体クロマトグラフ用)に溶解し、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製フィルタ(クラボウ株式会社製、HPLC前処理用、クロマトディスク、型番:13N、孔径:0.45μm)を通して不溶分を除去した。GPC〔ポンプ:L6200 Pump(株式会社日立製作所製)、検出器:示差屈折率検出器L3300 RI Monitor(株式会社日立製作所製)、カラム:TSKgel−G5000HXLとTSKgel−G2000HXL(計2本)(共に東ソー株式会社製)を直列に繋いだ、カラム温度:30℃、溶離液:テトラヒドロフラン、流速:1.0ml/分、標準物質:ポリスチレン、検出器:RI〕を用い、数平均分子量を測定した。
【0125】
(NMR測定)
上記の合成例で得られたCRNを重ジメチルスルホキシド(DMSO−d)に溶解し、プロトン核磁気共鳴法(H−NMR)(BRUKER社、AV−300(300MHz)を用いて、H−NMRスペクトルを測定した。化学シフトの基準は、内部基準物質であるテトラメチルシランを0ppmとした。
【0126】
<実施例1>
(AA−04、AA−3、AA−18)をそれぞれ9.55部と、(HP)37.0部と、(R1)を2.26部、エポキシ樹脂の硬化剤として(CRN)を9.85部と、カップリング剤を0.066部と、(CHN)38部とを混合した。均一になったことを確認した後に、エポキシ樹脂として(PNAP)6.62部及び(BIS−A/F)6.70部と、(TPP)0.15部とを更に加えて混合した後、3時間〜40時間ボールミル粉砕を行って、樹脂組成物として樹脂層形成用塗工液1(ワニスともいう)を得た。
【0127】
片面が離型処理されたPETフィルム(厚み50μm、帝人デュポンフィルム株式会社 A31)を支持体とし、その離型処理面上に厚みが約100μmになるように、樹脂層形成用塗工液を、テーブルコータ(テスター産業株式会社製)を用いて塗布して塗布層を形成した。100℃のボックス型オーブンで5分乾燥し、PETフィルム上にAステージ状態の樹脂層が形成された樹脂シート1(Aステージシートともいう)を形成した。
【0128】
上記で得られたAステージシートを2枚用い、樹脂層同士が対向するように重ねた。熱プレス装置(熱板100℃、圧力10MPa、処理時間1分)を用いて、加熱加圧処理して貼り合わせ、Bステージ状態の樹脂シート1(Bステージシートともいう)を得た。
【0129】
[樹脂シート積層体硬化物の作製]
上記で得られたBステージシートの両面からPETフィルムを剥離し、その両面に35μm厚の銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、製品名:CF−T9D−SV)をそれぞれ重ねた後、プレス処理を行った。プレス処理条件は熱板温度150℃、真空度10kPa以下、圧力10MPa、処理時間3分とした。更にボックス型オーブン中、160℃で0.5時間、190℃で2時間、順次加熱処理することにより、両面に銅箔が設けられたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物1を得た。
【0130】
<実施例2>
(AA−18、AA−3、AA−04)をそれぞれ9.55部と、(HP)37.0部と、(R1)を4.52部、エポキシ樹脂の硬化剤として(CRN)を9.33部と、カップリング剤を0.066部と、(CHN)38部とを混合した。均一になったことを確認した後に、エポキシ樹脂として(PNAP)6.27部及び(BIS−A/F)6.35部と、(TPP)0.15部とを更に加えて混合したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂層形成用塗工液2、Aステージ状態の樹脂シート2、Bステージ状態の樹脂シート2、両面に銅箔が設けられたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物2をそれぞれ得た。
【0131】
<実施例3>
(HP)の代わりに(MP)を37.0部用いたこと以外は実施例2と同様にして、樹脂層形成用塗工液3、Aステージ状態の樹脂シート3、Bステージ状態の樹脂シート3、両面に銅箔が設けられたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物3をそれぞれ得た。
【0132】
<実施例4>
(R1)の代わりに(R2)を5.33部用いたこと以外は実施例2と同様にして、樹脂層形成用塗工液4、Aステージ状態の樹脂シート3、Bステージ状態の樹脂シート3、両面に銅箔が設けられたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物3をそれぞれ得た。
【0133】
<比較例1>
(AA−04、AA−3、AA−18)をそれぞれ9.55部と、(HP)37.0部と、エポキシ樹脂の硬化剤として(CRN)を10.37部と、カップリング剤を0.066部と、(CHN)38部とを混合した。均一になったことを確認した後に、エポキシ樹脂として(PNAP)6.97部及び(BIS−A/F)7.05部と、(TPP)0.15部とを更に加えて混合した後、3時間〜40時間ボールミル粉砕を行って、樹脂組成物として樹脂層形成用塗工液C1を得た。
【0134】
片面が離型処理されたPETフィルム(厚み50μm、帝人デュポンフィルム株式会社製、製品名:A31)を支持体とし、その離型処理面上に厚みが約100μmになるように、樹脂層形成用塗工液を、テーブルコータ(テスター産業株式会社製)を用いて塗布して塗布層を形成した。100℃のボックス型オーブンで5分乾燥し、PETフィルム上にAステージ状態の樹脂層が形成された樹脂シートC1(Aステージシートともいう)を形成した。
【0135】
上記で得られたAステージシートを2枚用い、樹脂層同士が対向するように重ねた。熱プレス装置(熱板100℃、圧力10MPa、処理時間1分)を用いて、加熱加圧処理して貼り合わせ、Bステージ状態の樹脂シートC1(Bステージシートともいう)を得た。
【0136】
[樹脂シート積層体硬化物の作製]
上記で得られたBステージシートの両面からPETフィルムを剥離し、その両面に35μm厚の銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、製品名:CF−T9D−SV)をそれぞれ重ねた後、プレス処理を行った。プレス処理条件は熱板温度150℃、真空度10kPa以下、圧力10MPa、処理時間3分とした。更にボックス型オーブン中、160℃で0.5時間、190℃で2時間、順次加熱処理することにより、両面に銅箔が設けられたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物C1を得た。
【0137】
<比較例2>
(AA−04、AA−3、AA−18)をそれぞれ9.55部と、(HP)37.0部と、(R1)を9.03部と、エポキシ樹脂の硬化剤として(CRN)を8.29部と、カップリング剤を0.066部と、(CHN)38部とを混合した。均一になったことを確認した後に、エポキシ樹脂として(PNAP)5.57部及び(BIS−A/F)5.64部と、(TPP)0.15部とを更に加えて混合したこと以外は比較例1と同様にして、樹脂層形成用塗工液C2、Aステージ状態の樹脂シートC2、Bステージ状態の樹脂シートC2、両面に銅箔が設けられたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物C2をそれぞれ得た。
【0138】
<比較例3>
(AA−04、AA−3、AA−18)をそれぞれ9.55部と、(RP)37.0部と、(R1)を4.52部と、エポキシ樹脂の硬化剤として(CRN)を9.33部と、カップリング剤を0.066部と、(CHN)38部とを混合した。均一になったことを確認した後に、エポキシ樹脂として(PNAP)6.27部及び(BIS−A/F)6.35部と、(TPP)0.15部とを更に加えて混合したこと以外は比較例1と同様にして、樹脂層形成用塗工液C3、Aステージ状態の樹脂シートC3、Bステージ状態の樹脂シートC3、両面に銅箔が設けられたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物C3をそれぞれ得た。
【0139】
<比較例4>
(AA−04、AA−3、AA−18)をそれぞれ9.55部と、(HP)37.0部と、(R3)を7.88部と、エポキシ樹脂の硬化剤として(CRN)を9.33部と、カップリング剤を0.066部と、(CHN)38部とを混合した。均一になったことを確認した後に、エポキシ樹脂として(PNAP)6.27部及び(BIS−A/F)6.35部と、(TPP)0.15部とを更に加えて混合したこと以外は比較例1と同様にして、樹脂層形成用塗工液C4、Aステージ状態の樹脂シートC4、Bステージ状態の樹脂シートC4、両面に銅箔が設けられたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物C4をそれぞれ得た。
【0140】
<評価>
上記で得られたBステージ状態の樹脂シート及びCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物について、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。なお、表2の樹脂組成物における数値の単位は質量部である。
【0141】
(樹脂層形成用塗工液のチキソ性)
上記の実験で得られた樹脂組成物原料の粘度挙動をAnton Paar社製MCR−301(粘弾性測定装置)を用いて測定した。測定条件を温度25℃とし、コーンプレートは平板状のものを用いた。チキソ性はせん断速度100(S-1)と0.03(S-1)時の粘度差をせん断速度で割った数値を自然対数に取り、実施例1の樹脂組成物で得た数値を1として計算した。測定手順としては、樹脂組成物1mlを25℃の循環水が流れた金属プレート上に垂らし、コーンプレートを降ろす。コーンプレートのせん断速度を0.03(S-1)から100(S-1)に加速後、再び0.03(S-1)に減速し、速度を変化した際の20秒後の粘度を測定した。
【0142】
(樹脂シート積層体硬化物の熱伝導率)
上記の実験で得られたCステージ状態の樹脂シート積層体硬化物から、過硫酸ナトリウム溶液を用いて銅箔をエッチング除去した。これを10mm角に切断し、グラファイトスプレーにより黒化処理し、熱拡散率をNETZSCH社Nanoflash LFA447型を用いて測定した。
測定条件は、測定温度25±1℃、測定電圧270V、Amplitude5000及びパルス幅0.06msとした。
上記で測定された熱拡散率と、アルキメデス法で測定した密度、DSC(示差熱量計)により測定した比熱の積から熱伝導率を算出した。
【0143】
(せん断強度の評価)
Bステージシートの両面からPETフィルムを剥がし、両面に金属板を貼り合わせ、引っ張りせん断接着強度(せん断強度)の測定を行った。具体的には100mm×25mm×3mmの銅板とアルミ板を12.5mm×25mm×0.2mmのBステージシートに互い違いに重ねて接着し、硬化処理した。これを試験速度2mm/分、測定温度は23℃にて、株式会社島津製作所製AGC−100型で引っ張ることで測定を行った。なお、接着、硬化処理は以下のようにして行った。真空熱プレス(熱板温度180℃、真空度1kPa以下、圧力1MPa、処理時間30分)を行って接着した。
【0144】
【表2】
【0145】
表2に示したように、実施例1〜4は、熱伝導率及びせん断強度ともに優れていることがわかる。それに対し、実施例1〜4と比べ、分散剤を含まない比較例1は、せん断強度が低く、また、分散剤の含有量が、エポキシ樹脂100質量部に対し70質量部を超える比較例2(80質量部)は、熱伝導率及びせん断強度ともに低く、また、比表面積が3m/gを超える窒化ホウ素を使用した比較例3(3.1m/g)は、せん断強度が低く、また、重量平均分子量が10万を超える分散剤を使用した比較例4(13万)は、熱伝導率及びせん断強度ともに低いことがわかる。