特許第6536066号(P6536066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536066
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】親水性重合体及びその製造法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/83 20060101AFI20190625BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20190625BHJP
   C08G 18/64 20060101ALI20190625BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   C08G18/83
   C08G18/10
   C08G18/64 038
   H01M4/62 Z
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-27963(P2015-27963)
(22)【出願日】2015年2月16日
(65)【公開番号】特開2016-121318(P2016-121318A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2018年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-70307(P2014-70307)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-263406(P2014-263406)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】粟野 裕
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−129770(JP,A)
【文献】 特開2013−256666(JP,A)
【文献】 特開2013−097906(JP,A)
【文献】 特開2011−137063(JP,A)
【文献】 米国特許第05567800(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
C08G 73/00 − 73/26
H01M 4/00 − 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される重合体の末端が下記式(4)で表されるジカルボン酸無水物で封止されていることを特徴とする親水性重合体。
【化1】
(式中、Rは炭素数4〜30の2価の有機基を表し、Rは数平均分子量が100〜10,000の直鎖若しくは分枝状の炭素数2〜5のポリオキシアルキレン構造又は数平均分子量が100〜10,000のポリオールエステル構造を有する2価の有機基を表し、Rは炭素数4〜30の芳香環を1〜2含有する有機基を表し、Rは炭素数4〜30の4価の有機基を表し、Xはカルボキシル基又はスルホン酸基を表し、xは1〜800の整数を表し、yは1〜800の整数を表し、zは1〜100の整数を表し、aは1〜4の整数を表す。さらに、式(1)中、下記式(2)で表される構造が10〜99重量%であり、式(3)で表されるウレタンユニット構造のモル数Aに対する式(2)で表されるイミドユニット構造のモル数Bの比率(B/A)が1〜30である。)
【化2】
(式中、R、R、X、y及びaは前記の定義と同じである。)
【化3】
(式中、R、R及びxは前記の定義と同じである。)
【化4】
(式中、Zは下記式(5)からなる群より選ばれた2価の有機基を示す。)
【化5】
【請求項2】
式(1)で表される重合体100重量部に対して式(4)で表されるジカルボン酸無水物0.02〜100重量部であることを特徴とする請求項1に記載の親水性重合体。
【請求項3】
式(3)で表されるウレタンユニット構造のモル数Aに対して式(2)で表されるイミドユニット構造のモル数BがB/A=1以上30以下である請求項1又は請求項2に記載の親水性重合体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の親水性重合体にアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを反応させて得られる、親水性重合体の塩。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の親水性重合体及び/又は請求項7に記載の親水性重合体の塩を、水、有機溶媒又は含水有機溶媒に溶かしてなる、バインダー用溶液。
【請求項6】
請求項に記載のバインダー用溶液を乾燥して得られる2次電池用バインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた親水性を持ちながら、柔軟であり、かつ、金属との優れた接着性を示し、その有機溶媒溶液の粘性が低く、作業性が改善された親水性重合体、その製造方法、それを使用するバインダー、及び該バインダーを使用する電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド系樹脂は、その優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性から、電子材料、自動車部品等に使用されている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、充電可能な高容量電池として、電子機器の高機能化、長時間動作を可能にした。さらに自動車などに搭載され、ハイブリッド車、電気自動車の電池として有力視されている。リチウムイオン電池のエネルギー密度をさらに高めるために、負極活物質として高い充放電の理論容量を有するシリコン、ゲルマニウムまたはスズ等を用いることが検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
一般にリチウムイオン二次電池として充放電特性を維持するためには活性物質と集電体とが安定に近接した状態を保つ必要があり、集電体との接着性の良いバインダーが求められる。それに対して、これまで汎用に用いられたバインダーとしては、非水系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)又は水系で分散性の良いスチレンブタジエン共重合体(SBR)などが主流であった。
【0005】
しかしながら、上記負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池においては、充放電に伴い負極活物質の膨張収縮が起こり、バインダー樹脂が柔軟性と接着性の両立が不足しているため、破壊されたり、負極活物質及び負極集電体とバインダー樹脂との界面での剥離が発生して充放電サイクル特性が低下する場合があるという課題があった。
【0006】
そこで、シリコンを含む負極活物質を、特定ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂で結着して負極を得ることで、サイクル特性の向上を図る技術(特許文献2、3参照)などが知られている。
【0007】
特許文献2は、高い樹脂強度をもつ非水系ポリイミド樹脂を用いて負極集電体とバインダーとの界面で剥離が生じるのを抑制しサイクル特性を向上させている。
【0008】
しかしながら、バインダー前躯体からの脱水縮合には高温での熱処理が必要で、集電体への影響が懸念される。また、ポリイミド単体のため、硬い物性を有して弾性及び柔軟性が十分ではなく、接着性が疑問視される。
【0009】
特許文献3は、芳香族イミド基とガラス転移点が30℃以下の単独ポリマーを形成し得るソフトセグメントを含有するウレタン樹脂を非水系の結着剤として、比較的低温で銅箔と剥離しない接着性の良好な負極を作製している。
【0010】
しかしながら、有機溶媒溶液での作業性を考慮したものではない。親水性についても不十分であり、バインダー用途で使用する場合、含水有機溶媒溶液、及び水溶液のいずれの形態でも満足できるものではない。
【0011】
一般的に柔軟性なポリイミド樹脂やポリイミドエラストマーも知られているが(非特許文献1、特許文献4参照)、特別に親水性を意図したものではないため、使用した際に水分散性が得られず、親水性の点で満足できるものではない。バインダー用途で使用する場合、ポリマー末端の活性が高いため、有機溶媒溶液では、溶液粘度が高くなり、作業性が低下して好ましくない。特に、それらのうちでも環境負荷が小さく、溶液安定性に優れた微粒子を水中に均一分散できる水酸基、カルボキシル基、またはスルホン酸基を有するポリイミド系樹脂が注目されているが(特許文献5参照)、これらのポリマーは柔軟性、及び集電体との接着性の点で満足できるものではない。
【0012】
分子末端を封止したポリイミド樹脂についても検討されているが(特許文献6、7参照)、親水性、柔軟性の点で満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−199761号公報
【特許文献2】特開2008−34352号公報
【特許文献3】特開2000−200608号公報
【特許文献4】特開2013−129770号公報
【特許文献5】特開2011−137063号公報
【特許文献6】WO2008/4615公報
【特許文献7】特開2000−344888号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】手銭英之、椎葉哲郎、古川睦久、「ポリイミドウレタンエラストマーの合成と物性」、エラストマー討論会要旨集、1999年、p72−75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、極めて優れた親水性を持ちながら、柔軟であり、かつ、金属との優れた接着性を示し、さらに、その有機溶媒溶液の粘性が低く、作業性が改善された親水性重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明者等が検討を行った結果、特定の組成を持つ重合体について、極めて優れた親水性を持ちながら、柔軟であり、かつ、金属と優れた接着性を示し、バインダー用として適する親水性重合体が得られことを見出した。
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明の親水性重合体は、下記式(1)で表される重合体の末端が下記式(4)で表されるジカルボン酸無水物で封止されている構造を持つものである。末端構造は、カルボキシル基を含有する構造、又はイミド環を含む構造と予想される。
【0019】
【化1】
(式中、Rは炭素数4〜30の2価の有機基を表し、Rは平均分子量が100〜10,000の直鎖若しくは分枝状の炭素数2〜5のポリオキシアルキレン構造又は平均分子量が100〜10,000のポリオールエステル構造を有する2価の有機基を表し、Rは炭素数4〜30の芳香環を1又は2個含有する有機基を表し、Rは炭素数4〜30の4価の有機基を表し、Xはカルボキシル基又はスルホン酸基を表し、xは1〜800の整数を表し、yは1〜800の整数を表し、zは1〜100の整数を表し、aは1〜4の整数を表す。さらに、式(1)中、下記式(2)で表される構造が10〜99重量%であり、式(3)で表されるウレタンユニット構造のモル数Aに対する式(2)で表されるイミドユニット構造のモル数Bの比率(B/A)が1〜30である。)
【0020】
【化2】
(式中、R、R、X、y及びaは前記の定義と同じである。)
【0021】
【化3】
(式中、R、R及びxは前記の定義と同じである。)
【0022】
【化4】
(式中、Zは下記式(5)からなる群より選ばれた2価の有機基を示す。)
【0023】
【化5】
式(1)は、繰返し単位中に少なくとも一つのカルボキシル基又はスルホン酸基を持つイミドユニットとウレタンユニットがウレア結合を介して結ばれることを特徴としている。
【0024】
は好ましくは炭素数4〜15の芳香環または脂肪族環を含む2価の有機基である。Rは平均分子量が好ましくは100〜5,000であり、更に好ましくは100〜2,000である。Rは好ましくは炭素数6〜20の芳香環を1〜2含有する有機基を表す。xは好ましくは1〜600の整数を表す。yは好ましくは2〜600の整数を表す。
【0025】
本発明の親水性重合体は、芳香環とカルボキシル基又はスルホン酸基を組み合わせて、さらに、重合体の末端が式(4)で表されるジカルボン酸無水物で封止されている構造とすることで、極めて優れた接着性と親水性を示し、かつ有機溶媒溶液の粘性が低く、作業性が改善される。
【0026】
本発明の親水性重合体は、構造中に剛直なポリイミド構造単位と、柔軟なポリアルキレン構造を持ち、かつ、重合体の末端が式(4)で表されるジカルボン酸無水物で封止されている構造を持つものである。
【0027】
本発明の親水性重合体は、構造の中に、ポリイミドプレポリマーにより剛直なハードセグメントとしてポリイミド構造単位を有し、更にポリイミド構造単位にカルボキシル基又はスルホン酸基を有し、かつ、重合体の末端が式(4)で表されるジカルボン酸無水物で封止されている。このような置換基と重合体の末端構造を有することで、柔軟であり、かつ、有機溶媒溶液の粘性が低く、作業性の改善された親水性重合体を得ることができる。詳細な効果の原因は不明であるが、式(1)で表される重合体の末端ポリイミド単位のアミノ基をジカルボン酸無水物で封止すると、アミノ基と他のポリマー鎖との相互作用が低下する為、有機溶媒溶液の粘性が低下する為と推定される。これらのことはこれまで知られていなかった。
【0028】
さらに、本発明の親水性重合体は、詳しくは、親水性重合体の構造中に、ポリイミド構造単位と同時にウレタンプレポリマーよりソフトセグメントとして導入されるポリオキシアルキレン構造又はポリオールエステル構造を、イソシアネートとアミノ基の反応により生成するウレア結合を介して導入し、さらに特定のジカルボン酸無水物を反応させることで、柔軟性に欠け耐屈曲性に劣るポリイミド構造に、耐久性と柔軟性を付与でき、加えて有機溶媒溶液の粘性が低く作業性が改善することができる柔軟で金属との接着性の優れた親水性重合体を得ることができる。
【0029】
本発明の親水性重合体は、式(2)に記載の構造を親水性と接着力のバランスの点で10〜99重量%、好ましくは10〜98重量%含むものである。親水性を良くする点で、より好ましくは40〜98重量%、さらに好ましくは50〜95重量%であり、特に好ましくは、親水性と接着力とのバランスが優れることから、60〜95重量%である。10重量%未満の場合は、親水性が劣り、99重量%を超えると柔軟性が不足する。
【0030】
本発明の親水性重合体は、式(3)で表されるウレタンユニット構造のモル数Aに対する式(2)で表されるイミドユニット構造のモル数Bの比率(B/A)が、親水性と接着力のバランスの点で、1以上30以下であり、好ましくは1より大きく30以下であり、親水性を良くする点で、より好ましくは1より大きく10以下であり、親水性を改良する点で、さらに好ましくは1より大きく5以下であり、親水性と接着力とのバランスが優れることから、最も好ましくは1より大きく2以下である。1未満の場合は、原因は不明だが重合体の合成中に高粘度化してしまい親水性重合体が得られない。おそらく親水性重合体鎖の末端がポリイミド構造となる方が、水酸基やアミノ基と高い反応性を有するイソシアナート基を持つポリウレタン構造となるより安定な為と推定される。比率(B/A)が30を超えると重合体の親水性、及び接着力が低下してしまい、好ましくない。
【0031】
本発明の親水性重合体は、式(1)で表される重合体100重量部に対する式(4)で表されるジカルボン酸無水物で封止された構造の割合は、より十分に封止を行い、重合体の有機溶媒溶液の粘性をより低くして作業性により優れるという点で、0.02〜100重量部であることが好ましく、親水性と低粘性のバランスの点で0.02〜50重量部であることがさらに好ましく、親水性と接着力とのバランスが優れている点で1〜50重量部であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の親水性重合体は、二次電池、その中でも特にリチウムイオン二次電池の電極活物質と電極との結合力が強いほど好ましい。特に、金属である、銅に対して優れた接着性を表す。
【0033】
本発明の親水性重合体を二次電池用として使用する場合、銅の他に、アルミニウム、鉄、ステンレス等を用いることができる。
【0034】
本発明の親水性重合体は、ジイソシアネートとポリオールとの反応で得られる下記式(6)で表されるウレタンプレポリマーと、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で重縮合しポリアミド酸を経て、イミド環化させて得られた下記式(7)で表される両末端にアミノ基を有するポリイミドプレポリマーとを反応させて式(1)で表される重合体を得た後、さらに得られた式(1)で表される重合体に対し、下記式(8)で表されるジカルボン酸無水物を反応させることにより得ることができる。
【0035】
【化6】
(式中、R、R及びxは前記の定義と同じである。)
【0036】
【化7】
(式中、R、R、X、y及びaは前記の定義と同じである。)
【0037】
【化8】
本発明の親水性重合体の製造のために用いられる式(6)で表されるウレタンプレポリマーは、下記式(9)で表されるジイソシアネートと下記式(10)で表されるポリオールとを、イソシアネート基とポリオール中の水酸基のモル比(イソシアネート基/水酸基)を1〜2の範囲にして反応することにより得ることができる。
【0038】
【化9】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
【0039】
【化10】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
式(9)で表されるジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリメリックMDI、ジアニシジンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル、メタキシリレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート2量体等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
式(10)で表されるポリオールとしては、例えば、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アジペート系ポリオール等のポリオールエステル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてよい。また、必要に応じて、ポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール等を混合して使用することもできる。
【0041】
ウレタンプレポリマーは、例えば、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、ジイソシアネートとポリオールとを所定の割合で混合して行うことで得ることができる。ジイソシアネート中のイソシアネートとポリオール中の水酸基の割合はイソシアネート/水酸基の仕込み比率(モル比)が1に近いほどウレタンプレポリマーの重合度は大きくなり、分子量が増加する。
【0042】
本発明においてはイソシアネート/水酸基の仕込み比率(モル比)は、1〜2、1より大きく2以下であり、ポリイミドプレポリマーとの反応性を考慮すると、1.01〜2がより好ましい。イソシアネート/水酸基の仕込み比率(モル比)が1未満の場合は、両末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとならないため、好ましくない。
【0043】
ウレタンプレポリマーの調製において、反応は通常用いられるジイソシアネートの反応性に応じて室温〜140℃で、触媒の非存在下又は存在下で行われる。触媒としては、例えば、有機スズ化合物、アミン化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、二酢酸ジブチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジオクチルスズジラウレート、ビスアセト酢酸ジブチルスズ、オクタン酸スズ等を挙げることができる。アミン化合物としては、例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等を挙げることができる。任意に溶媒の存在下又は非存在下で反応することも可能である。溶媒としては、例えば、アセトン、ブタノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、メトキシプロピルアセタート、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチル−2,5−ジアザペンタノン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。反応時間としては、1〜24時間が好ましい。
【0044】
本発明の親水性重合体の製造のために用いられる式(7)で表されるポリイミドプレポリマーは、下記式(11)で表されるジアミンと下記式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物との反応において、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物のモル比(ジアミン/テトラカルボン酸二無水物)が1より大きく2以下で反応後、脱水イミド化により得ることができる。
【0045】
【化11】
(式中、R、X及びaは前記の定義と同じである。)
【0046】
【化12】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
式(11)で表されるジアミンとしては、例えば、3,5−ジアミノ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノ安息香酸、3,5−ジアミノ−トリメチルベンゼンスルホン酸、2,2’−ジスルホン酸ベンジジン、1,4−ジアミノベンゼン−3−スルホン酸、1,3−ジアミノベンゼン−4−スルホン酸、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメチル−(1,1’−ビフェニル)−2,2’−ジスルホン酸ベンジジン等が挙げられる。必要に応じこれらを2種以上使用してもよい。さらに必要に応じて、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルサルファイド、3,3’−ジアミノジフェニルサルファイド、ビス(3−アミノ−4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3−アミノ−5−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3−アミノ−4−カルボキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノ−4−カルボキシフェニル)エーテル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)メチレン又はビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)メチレンを混合して使用することもできる。
【0047】
式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−パラターフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−メタターフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。必要に応じこれらを2種以上使用してもよい。本発明においては必要に応じて、これらの化合物の水素原子1〜4個を、カルボキシル基、スルホン酸基又は水酸基により置換したものを使用することもできる。
【0048】
ポリイミドプレポリマーは、例えば、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、有機溶媒中で、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを所定の割合で反応させ、ポリアミド酸とした後、更にイミド環化反応を経て得ることができる。ポリイミドプレポリマーを合成する際の重縮合は、通常の重縮合反応と同様に、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物の仕込み比率(モル比)が1に近いほど、生成するポリアミド酸の重合度は大きくなり、分子量が増加する。本発明においては、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物の仕込み比率(モル比)は、1より大きく2以下であり、1.01〜2が好ましい。ジアミン/テトラカルボン酸二無水物の仕込み比率(モル比)が1以下の場合は両末端にアミノ基のポリイミドプレポリマーとならないため、好ましくない。
【0049】
ポリイミドプレポリマーを合成する際に用いられる有機溶媒としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンに対して不活性であり、生成したポリアミド酸が溶解するものであれば特に限定するものではなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルスルホキシド、N−メチルカプロラクタム、γ−ブチロラクトン、ジメチルイミダゾリン、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、フェノール、m−クレゾール、クロロフェノール、4−メチルフェノール、ニトロフェノール等の有機溶媒を挙げることができ、1種又は2種以上を用いることができる。有機溶媒の使用量としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応が効率よく進行できる量であれば特に限定するものではないが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを合わせた濃度が1〜50重量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは、5〜40重量%である。また、反応に支障のない任意の割合で、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン、キシレン等を添加することができる。
【0050】
一般には、これらの有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンを100℃以下、好ましくは10〜90℃の温度で反応させることにより、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得る。その後、好ましくは100〜300℃の反応温度でイミド化を行い、ポリイミドプレポリマーを得ることができる。イミド化の際に、トリエチルアミン、イソキノリン、ピリジン、メチルモルホリンなどの塩基を触媒として添加することができる。更に副生する水をトルエンなどの非極性溶媒と共沸させて系外に除去し、反応を進行させることもできる。必要であれば、水、メタノール、エタノール等のポリイミドプレポリマーが不溶な溶媒に反応液を添加し、ポリマーを析出させ、乾燥してポリイミドプレポリマーを取り出すことができる。また、ポリイミドプレポリマーを単離することなく、ポリイミドプレポリマーの反応液をウレタンプレポリマーとの反応に用いることができる。
【0051】
ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーの反応は、任意で有機溶媒の存在下、無溶媒化のいずれの条件で行うことができる。有機溶媒の存在下で行う場合には、ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーを所定の割合で有機溶媒に加えて混合して、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で反応を行い、親水性重合体を含有する反応液を得るのが好ましい。反応液を、電極活物質と混練してバインダーとして塗布するためには、不溶なゲル分の無い均一な反応液となることが好ましい。
【0052】
ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーを反応して得られた重合体を含有する反応液は、ウレタン部位に起因する柔軟な相が存在するため、低温(25℃以下)のガラス転移温度を示す。
【0053】
重合体を得る反応時の組成(ポリイミド分率=(ポリイミドプレポリマーの仕込み量)/(ポリイミドプレポリマーの仕込み量+ウレタンプレポリマーの仕込み量))×100)は10〜99重量%であり、好ましくは10〜98重量%であり、更に好ましくは40〜98重量%であり、特に好ましくは60〜98重量%であり、最も好ましい範囲は80〜98重量%である。10重量%未満の場合は、親水性が劣り、99重量%を超えると柔軟性が不足する。10重量%未満の場合は、親水性が劣り、99重量%を超えると柔軟性が不足する。さらに重合体は、式(6)で表されるウレタンプレポリマー1モルに対して式(7)で表されるポリイミドプレポリマーが1以上30以下、好ましくは1以上2以下で、更に好ましくは1より大きく2以下で反応する。1未満の場合は親水性が著しく低下したり、反応中に全体が固化(ゲル化)したりする。2を超える場合も親水性が低下する。式(6)で表されるウレタンプレポリマーの分子量はゲル浸透クロマトグラフ(GPC)で得られたポリスチレン換算分子量、又はジイソシアネート化合物とポリオールの仕込みにより求められる重合度より、計算し求めることができる。式(7)で表されるポリイミドプレポリマーの分子量はゲル浸透クロマトグラフで得られたポリスチレン換算分子量、又はジアミンと酸無水物の仕込みにより求められる重合度より、計算し求めることができる。以下にポリイミド分率の詳細を示す。
【0054】
<ポリイミド分率>
ポリイミド分率(重量%)=[WPI/(WPU+WPI)]
PU:ウレタンプレポリマー仕込み量
PI:ポリイミドプレポリマー仕込み量
ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーの反応で用いることができる有機溶媒としては、ポリイミドプレポリマーの合成で使用可能で、イソシアネート基に対し不活性なものであれば特に限定するものではない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。通常、反応は0〜150℃、好ましくは10〜100℃の温度で行われる。反応時間としては1〜72時間、好ましくは1〜42時間である。無溶媒下で反応を行う場合には、通常の攪拌槽型反応器の他、排気系を有する加熱手段を備えた押し出し機の中でも行うことができる。
【0055】
式(1)で表される重合体と式(8)で表されるジカルボン酸無水物の反応は、任意で有機溶媒の存在下又は無溶媒化のいずれの条件で行うことができる。有機溶媒の存在下で行う場合には、式(1)で表される重合体と式(8)で表されるジカルボン酸無水物を所定の割合で有機溶媒に加えて混合して、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で反応を行い、親水性重合体を含有する反応液を得ることができる。またウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーを反応して得られた反応液もしくは混合物に必要に応じて有機溶媒を添加し、式(8)で表されるジカルボン酸無水物を加えて、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で反応を行い、親水性重合体を含有する反応液を得ることができる。
【0056】
式(8)で表されるジカルボン酸無水物とは、ジカルボン酸が分子内脱水縮合したものをいい、例えば、フタル酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、マロン酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0057】
製造の際に使用される式(8)で表されるジカルボン酸無水物の使用量は、特に限定するものではないが、式(1)で表される重合体100重量部に対して0.02〜100重量部が好ましく、親水性と低粘性のバランスの点で0.02〜50重量部がさらに好ましく、更に粘性を改良する点では1〜50重量部が最も好ましい。
【0058】
反応液を、活物質と混練してバインダーとして塗布するためには、不溶なゲル分の無い均一な反応液となることが好ましい。
【0059】
式(8)で表されるジカルボン酸無水物以外のジカルボン酸無水物も必要に応じて使用することができる。例えば、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−メチルフタル酸無水物、4−tert−ブチルフタル酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、4−フルオロフタル酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、こはく酸無水物、ブチルこはく酸無水物、n−オクチルこはく酸無水物、ドデシルこはく酸無水物、テトラプロペニルこはく酸無水物、テトラデセニルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、アリルこはく酸無水物、2−ブテン−1−イルこはく酸無水物、2−ドデセン−1−イルこはく酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、グルタル酸無水物、シトラコン酸無水物、アリルナジック酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、p−(トリメトキシシリル)フェニルサクシニックアンヒドリド、m−(トリメトキシシリル)フェニルサクシニックアンヒドリド、トリメトキシシリルプロピルサクシニックアンヒドリド、トリエトキシシリルプロピルサクシニックアンヒドリドナジック酸無水物、シトラコン酸無水物、1,2−ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3−ビフェニルジカルボン酸無水物、3,4−ビフェニルジカルボン酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、等が挙げられる。
【0060】
ジカルボン酸無水物は1種のみを用いてもよく、また、2種以上を組合せてもよい。
【0061】
式(1)で示される重合体とテトラカルボン酸二無水物の反応は、特に限定するものではないが、有機溶媒中又は無溶媒中100℃以下の温度で反応させ、その後、さらに好ましくは100〜300℃の温度で反応させて、式(1)で表される重合体の末端が下記式(4)で表されるジカルボン酸無水物で封止された親水性重合体を得ることができる。100〜300℃の温度で反応させる際に、トリエチルアミン、イソキノリン、ピリジン、メチルモルホリンなどの塩基を触媒として必要に応じて添加することができる。更に副生する水をトルエンなどの非極性溶媒と共沸させて系外に除去し、反応を進行させることもできる。必要であれば、水、メタノール、エタノール等のポリイミドプレポリマーが不溶な溶媒に反応液を添加し、ポリマーを析出させ、親水性重合体を取り出すことができる。
【0062】
式(1)で表される重合体の末端が式(4)で表されるジカルボン酸無水物で封止された親水性重合体を合成する際に用いられる有機溶媒としては、ジカルボン酸二無水物と式(1)で表される重合体に対して不活性であり、生成した親水性重合体が溶解するものであれば特に限定するものではなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルカプロラクタム、γ−ブチロラクトン、ジメチルイミダゾリン、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、フェノール、m−クレゾール、クロロフェノール、4−メチルフェノール、ニトロフェノール等の有機溶媒を挙げることができ、1種又は2種以上を用いることができる。有機溶媒の使用量としては、ジカルボン酸二無水物と式(1)で表される重合体との反応が効率よく進行できる量であれば特に限定するものではないが、テトラカルボン酸二無水物と式(1)で表される重合体を合わせた濃度が1〜50重量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは、5〜40重量%である。また、反応に支障のない任意の割合で、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン、キシレン等を添加することができる。
【0063】
本発明のバインダー用溶液は、本発明の親水性重合体を含む有機溶媒溶液である反応液をそのまま使用することができる。また、その他の使用形態は以下の通りである。
【0064】
一般的に重合体の水溶液又は含水有機溶媒溶液は乳化重合又は懸濁重合等の水を媒体とした特殊な重合法により合成されるが、本発明の親水性重合体は、本発明の親水性重合体にアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを反応させると親水性重合体の塩が得られ、その塩と水、有機溶媒又は含水有機溶媒とを混合することによりバインダー用溶液(水溶液又は含水有機溶媒溶液)が得られる。その方法としては、特に限定するものではないが、親水性重合体100重量部に対し、5〜1000重量部、好ましくは5〜300重量部のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを加え、親水性重合体と塩を形成させた後、水を加え、水溶液化又は含水有機溶媒溶液とし、バインダー用溶液とすることができる。
【0065】
また、ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーとの反応物の有機溶媒溶液を減圧乾燥するか、水やメタノール若しくはヘキサン等の親水性溶媒でない溶媒中に、親水性重合体を析出し、乾燥させた後、親水性重合体100重量部に対し、5〜1000重量部のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを加えた水溶液中に分散又は溶解させ、水溶液化又は含水有機溶媒溶液化し、バインダー用溶液とすることもできる。塩を形成させる方法としては、有機溶媒の存在下又は非存在下いずれを用いてもよい。有機溶媒としては親水性重合体が可溶であれば特に限定するものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。また親水性重合体を所定量のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを溶解した水溶液に加え、攪拌することにより、親水性重合体の水溶液又は含水有機溶媒溶液を得ることができる。水溶液又は含水有機溶媒溶液の溶解性を上げるためには、30〜150℃の温度で加温してもよいし、超音波処理を行ってもよい。溶解した後にさらに水を加えたり、濃縮したりしても良い。
【0066】
本発明の親水性重合体は、該親水性重合体と有機溶媒を含有する反応液(バインダー用溶液)として使用できる他、水溶液又は含水有機溶媒溶液の所望の形態(バインダー用溶液)としても使用できる。本発明の親水性重合体は、金属に対する接着性が優れているので、二次電池の電極活物質と電極を結合させるバインダーに好適である。
【0067】
電極活物質としては、炭素、ケイ素、スズ、アルミ二ウム、チタン、ゲルマニウム又は鉄を含むものが挙げられる。例えば、グラファイト、ハードカーボン、ケイ素、酸化ケイ素、炭化ケイ素、スズ化合物、ケイ素とアルミの合金、ケイ素とスズの合金、ケイ素とチタンの合金、アルミとスズの合金、スズとチタンの合金などが挙げられる。
【0068】
本発明の親水性重合体及び/又は親水性重合体の塩は、単離後に、水、有機溶媒又は含水有機溶媒に溶かして、さらにバインダーに必要な所望の形態(水溶液、有機溶媒溶液、含水有機溶媒溶液等)であるバインダー用溶液にして使用することができる。さらに、そのバインダー用溶液を、好ましくは60〜300℃の範囲で乾燥して、溶液を留去して親水性重合体又は親水性重合体の塩の形態の二次電池用バインダーを得ることも可能である。
【0069】
本発明のバインダー用溶液は、それを製造する際に、含水有機溶媒溶液、及び有機溶媒溶液の安定化やスケール発生量の低減を目的として、緩衝剤、増粘剤、縮合リン酸塩、分散剤、粘着付与剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、造膜助剤、界面活性剤、凍結防止剤等を添加することもできる。
【0070】
本発明の親水性重合体は、柔軟で、かつ、金属と優れた接着性を示し、さらに、有機溶媒溶液の粘性が低く、作業性が改善されているため、リチウムイオン二次電池用の電極活物質と電極を結合させるバインダーなどに好適である。さらには、回路基板、半導体装置の絶縁膜、複合材料などのサイジング剤に適用できる。
【発明の効果】
【0071】
本発明の親水性重合体は、優れた親水性を持ちながら、柔軟であり、かつ、金属との接着性に優れており、環境負荷が小さく、さらに、有機溶媒溶液の粘性が低く、作業性が改善されているため、二次電池の活物質と電極を結合させるバインダー、回路基板などに適用することができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
なお、以下の実施例等で用いた値は以下の測定法で行ったものである。
【0074】
<分子量>
ウレタンプレポリマーの分子量はジイソシアネート化合物とポリオールの仕込みより求められる重合度より計算した。ウレタンプレポリマーの分子量はジイソシアネート化合物とポリオールの仕込みより求められる重合度より計算した。
=ジイソシアネート化合物の仕込みモル数÷ポリオールの仕込みモル数
ウレタンプレポリマーの重合度(N)=(r+1)÷(r−1)
ウレタンプレポリマーの分子量
=(N÷0.5×ジイソシアネート化合物の分子量)
+(N÷0.5×ポリオールの分子量)
ポリイミドプレポリマーの分子量はジアミン化合物と酸無水物の仕込みより求められる重合度より計算した。
=ジアミン化合物の仕込みモル数÷
テトラカルボン酸二無水物の仕込みモル数
ポリイミドプレポリマーの重合度(N)=(r+1)÷(r−1)
ポリイミドプレポリマーの分子量
=(N÷0.5×ジアミン化合物の分子量)
+(N÷0.5×テトラカルボン酸二無水物の分子量)−重合度×18。
【0075】
<赤外吸収スペクトル測定>
赤外吸収スペクトルはPERKIN ELMER社製System2000 FT−IRを用いて測定した。
【0076】
<親水性評価>
1重量%のN−メチルピロリドン溶液を80g調製し、重合体100重量部に対して50重量部相当のカルボキシル基またはスルホン酸基に対し3倍等量の水酸化ナトリウムを加え、更に320gの水を1時間かけて添加して、重合体の親水性を評価した。
(1)含水有機溶媒溶液の生成:◎
(2)僅かに凝集物の生成:○
(3)多量に凝集物の生成:×。
【0077】
<接着性の評価>
親水性重合体を10重量%含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を調製し、2×10cmの短冊状の銅箔にドクターブレードにて塗布した後、乾燥(120℃×1時間120℃×2時間熱風乾燥、更に120℃×2時間減圧乾燥)して得られた塗膜を用いて接着試験を行った。
【0078】
銅箔;日本テストパネル社製C122OR(縦100mm×横100mm×厚さ0.05mm)
<折り曲げ試験1>
前記銅箔に親水性重合体を塗布した銅箔を180°に折り曲げ、折り曲げた部分の親水性重合体の欠落を目視評価した。目視での判定基準は以下のとおりとした。
【0079】
(1)欠落なし(接着性がきわめて優れる):◎
(2)欠落して金属箔が完全に露出する:×。
【0080】
<折り曲げ試験2>
前記銅箔に親水性重合体を塗布した銅箔を水平状態から、直径1cmのパイプに塗布面が外になるように重ねて繰返し折り曲げ、塗膜が剥離するまでの回数を測定した。
【0081】
<ポリイミド分率(重合体中の式(2)の構造の割合)>
ポリイミド分率(重量%)=[WPI/(WPU+WPI)]
PU:ウレタンプレポリマー仕込み量
PU:ポリイミドプレポリマー仕込み量。
【0082】
<ガラス転移温度の測定>
ガラス転移温度の測定はネッチ社製示差走査熱量計(DSC200F3)を用い、−100℃から250℃の範囲にて窒素雰囲気下10℃/分の昇温条件にて測定した。
【0083】
<粘度の測定>
BROOKFIELD社製粘度計 DV−IPrime型で固形分として15%のNMP溶液として測定した。
【0084】
合成例1a
窒素雰囲気下500mlの四つ口セパラブルフラスコに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)20.0gとポリオキシテトラメチレングリコール(三菱化学社製PTMG1000)76.1gを加え(ジイソシアネート/ポリオール(モル比=1.05))、80℃で2時間反応し、ウレタンプレポリマー1aを得た。得られたポリマーの数平均分子量は2.56万であった。赤外吸収スペクトルにおいて、2270cm−1にイソシアネート基由来の吸収、1730cm−1にカルボニル基由来の吸収、1120cm−1エーテル結合由来の吸収を観測した。
【0085】
合成例2a〜13aについては合成例1aと同様な操作にて合成を行った。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
合成例1b
窒素雰囲気下水分定量管と還流冷却器を付けた200mlの四つ口フラスコに3,5−ジアミノ安息香酸(DAB)6.25gとN−メチルピロリドン(NMP)122.9g量り取り、溶解した。その後、4,4’−オキシジフタル酸二無水物12.5gを加え、50℃に加熱し、1時間反応した(ジアミン/テトラカルボン酸二無水物(モル比=1.02))。その後、イソキノリン0.04gをトルエン10.5gに溶解した溶液を加え、180℃で3時間攪拌し、トルエンと共沸した水を取り除いてポリイミドプレポリマー1bの有機溶媒溶液を得た。得られたポリマーの数平均分子量は2.15万であった。赤外吸収スペクトルにおいて、1740cm−1、1360cm−1にイミド構造に由来する吸収、1260cm−1にエーテル構造に由来する吸収を観測した。
【0087】
合成例2b〜11bについては合成例1bと同様な操作にて合成を行った。結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
製造例1
窒素雰囲気下500mlの四つ口セパラブルフラスコにウレタンプレポリマー1aを4.4g及びNMP3.1gを量り取り、攪拌し溶解した。その後、ポリイミドプレポリマー1bの有機溶媒溶液77.4g(ポリマーとして8.9g相当)を添加し、室温で24時間反応させて、不溶成分の無い均一な重合体の有機溶媒溶液を得た。ポリイミド分率は66.9重量%であった。赤外吸収スペクトルによりイソシアネート基に由来する2270cm−1吸収が消失し、1780cm−1及び1360cm−1にイミド構造に由来する吸収が存在し、3290cm−1、1540cm−1にウレタン構造に由来する吸収が存在することから反応の進行を確認した。得られたポリマーのガラス転移温度は−58℃を示した。イミドユニット/ウレタンユニット(モル比)は2.4であった。溶液粘度は600mPa・sであった。
【0089】
得られた重合体の有機溶媒溶液にN−メチルピロリドンを加え、500mlの四つ口セパラブルフラスコに重合体1重量%の有機溶媒溶液を80g調製した。0.11gの水酸化ナトリウムを加え、更に320gの水を1時間かけて添加し、200メッシュのナイロンフィルターでろ過して、重合体の塩の含水有機溶媒溶液を得ることができ、親水性を示すことを確認した(親水性◎)。
【0090】
反応で得られた重合体の有機溶媒溶液を用いて、0.15μmのドクターブレードで銅箔に塗布し、接着性の評価を行った。折り曲げ試験1ではきわめて優れる結果であった(評価◎)。折り曲げ試験2では100回以上繰返し折り曲げても塗膜が剥離することはなかった。
【0091】
製造例2〜31については実施例1と同様な操作にて合成を行った。結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
実施例1
製造例1で得られた反応液中の固形分から換算し、重合体100重量部に対し、フェニルエチニルフタル酸無水物を22重量部添加し、NMP溶液で固形分5%とした溶液40gに対しトルエン10gを添加し、50℃で1時間反応させた後、更に160℃で2時間トルエンと共沸した水を取り除いて反応を行った。反応液を濃縮し、固形分15%の親水性重合体溶液が得られた。赤外吸収スペクトルにより末端アミノ基であるNHに由来する3466cm−1の吸収が消失したことにより、重合体の末端がフェニルエチニルフタル酸無水物(ジカルボン酸無水物)で封止されていることを確認した。溶液粘度は130mPa・sであった。
【0093】
上記の結果より、末端が封止されて低粘度であり、作業性に優れており、バインダー用や接着剤用などに適していることがわかった。
【0094】
実施例2〜35については実施例1と同様な操作にて合成を行った。結果を表4に示す。
【0095】
【表4】
比較例1
500mlの四つ口セパラブルフラスコにウレタンプレポリマー1aにN−メチルピロリドンを加え1重量%の有機溶媒溶液として80gを調製した。0.06gの水酸化ナトリウムを加え、更に320gの水を1時間かけて添加したところ、凝集物が多量に生成し、重合体の塩の含水有機溶媒溶液を得ることができなかった(親水性×)。
【0096】
また、ウレタンプレポリマーの有機溶媒溶液を、0.15μmのドクターブレードを用いて、銅箔に塗布し、接着性の評価を行った。折り曲げ試験1ではきわめて優れる結果であった(評価◎)。折り曲げ試験2では100回以上繰返し折り曲げても塗膜が剥離することはなかった。結果を表5に示す。
【0097】
比較例2
500mlの四つ口セパラブルフラスコにポリイミドプレポリマー1bにN−メチルピロリドンを加え1重量%の有機溶媒溶液として80gを調製した。0.06gの水酸化ナトリウムを加え、更に320gの水を1時間かけて添加したところ、重合体の塩の均一水溶液を得ることができた(親水性○)。
【0098】
また、得られたポリイミドプレポリマーの有機溶媒溶液を用いて、0.15μmのドクターブレードで銅箔に塗布し、接着性の評価を行った。折り曲げ試験1ではポリマーが金属箔から剥離した(評価×)。折り曲げ試験2では53回でポリマーが銅箔から完全に剥離した。物性の悪い重合体しか得られなかった。結果を表5に示す。
【0099】
【表5】