【実施例】
【0110】
以下に本発明の培地組成物の実施例を具体的に述べることで、本発明をさらに詳しく説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容及び処理手順は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に解釈されるべきものではない。
【0111】
参考例1 高温加熱処理した脱アシル化ジェランガムを含む培地の粘度測定及び細胞浮遊試験
脱アシル化ジェランガム含有培地の調製及び粘度測定
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.4%(w/v)となるように純水に懸濁させた後、90℃にて加熱攪拌し溶解させた。本水溶液を攪拌しながら室温まで放冷し、121℃で20分オートクレーブ滅菌した。300mLトールビーカーに2倍濃度のDMEM/F−12培地(Aldrich社製)50mLと滅菌水47.5mLを入れ、室温でホモミキサー(3000rpm)で攪拌しながら脱アシル化ジェランガム水溶液2.5mLを添加し、そのまま1分攪拌を続けることで脱アシル化ジェランガム終濃度0.01%培地組成物を調製した。同様に終濃度が0.02、0.03、0.05%(w/v)となるよう脱アシル化ジェランガム水溶液を添加した培地組成物を調製した。本培地組成物の粘度は37℃条件下でE型粘度計(東機産業株式会社製、Viscometer TVE−22L、標準ロータ1°34’×R24)を用いて、回転数100rpmで5分間測定した。
【0112】
脱アシル化ジェランガム含有培地の細胞浮遊試験
ヒト子宮頸癌細胞株HeLa(DSファーマバイオメディカル社製)を、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地(WAKO社製)に250000個/mLとなるように懸濁し、本懸濁液10mLをEZ SPHERE(旭硝子社製)に播種した後、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で3日間培養した。ここで得られたスフェア(直径100〜200μm)の懸濁液10mLを遠心処理(200G、5分間)してスフェアを沈降させ、上清を除くことによりスフェア懸濁液1.0mLを調製した。引き続き、上記で調製した脱アシル化ジェランガム含有培地を1.5mLエッペンドルフチューブに1.0mLずつ入れ、更にHeLa細胞スフェア懸濁液10μLを加えた。タッピングにより細胞塊を分散させ、37℃でインキュベートし、1時間後の細胞の分散状態を目視にて観察した。
【0113】
【表1】
【0114】
参考比較例 メチルセルロース、コラーゲン含有培地の調製
メチルセルロース含有培地の調製
200mLナスフラスコにDMEM/F−12培地(Aldrich社製)100mLを入れ、メチルセルロース(M0387、Aldrich社製)0.1gを加えた。氷浴にて冷却しながら攪拌し、メチルセルロースを溶解させた。本溶液を用いて終濃度が0.1、0.3、0.6、1.0%(w/v)となるようメチルセルロース水溶液を添加した培地組成物を調製した。
コラーゲン含有培地の調製
0.3%セルマトリックスタイプI−A(新田ゼラチン社製)6.5mLに10倍濃度のDMEM/F−12培地(Aldrich社製)1mL、再構成用緩衝液(新田ゼラチン社製)1mL及び純水1.5mLを入れ、氷中にて撹拌しながら0.2%のコラーゲン含有培地を調製した。同様に、終濃度が0.01、0.05、0.1、0.2%(w/v)となるようコラーゲンを添加した培地組成物を調製した。
上記で調製した培地組成物についても脱アシル化ジェランガム含有培地と同様にHeLa細胞スフェアの浮遊試験および粘度測定を実施した。ただし、1.0%(w/v)メチルセルロースの粘度は、装置の測定範囲より50rpmにて測定した。
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
参考試験例
以下の参考試験例では、CO
2インキュベーターにおけるCO
2の濃度(%)は、雰囲気中のCO
2の体積%で示した。また、PBSはリン酸緩衝生理食塩水(シグマアルドリッチジャパン社製)を意味し、FBSは牛胎児血清(Biological Industries社製)を意味する。また、(w/v)は、1体積あたりの重量を表わす。
【0118】
参考試験例1:単一の細胞を分散させた際の細胞増殖試験
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。本溶液を用いて10%(v/v)胎児ウシ血清及び10ng/mLのトロンボポエチン(WAKO社製)を含むIMDM培地(ギブコ社製)に終濃度0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物を調製した。引き続き、ヒト白血病細胞株UT7/TPOを、20000細胞/mLとなるように上記の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物に播種した後、6ウェル平底マイクロプレート(コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり5mLとなるように分注した。同様に、ヒト子宮頸癌細胞株HeLa(DSファーマバイオメディカル社製)を、20000細胞/mLとなるように10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地(WAKO社製)に0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を添加した培地組成物に播種した後、6ウェル平底マイクロプレート(コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり5mLとなるように分注した。これらの細胞懸濁液をCO
2インキュベーター(5%CO
2)内にて3日間静置状態で培養した。その後、培養液の一部を回収し、トリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。
【0119】
その結果、UT7/TPO細胞及びHeLa細胞は、上記培地組成物を用いることにより浮遊状態にて均一に培養することが可能であり、当該培地組成物で増殖することが確認された。浮遊静置培養3日間後のUT7/TPO細胞及びHeLa細胞の細胞数を表4に示す。
【0120】
【表4】
【0121】
参考試験例2:細胞株由来スフェアを培養した際の細胞増殖試験
ヒト肝癌細胞株HepG2(DSファーマバイオメディカル社製)を、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地(WAKO社製)に250000個/mLとなるように懸濁し、本懸濁液10mLをEZ SPHERE(旭硝子社製)に播種した後、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で7日間培養した。同様に、ヒト子宮頸癌細胞株HeLa(DSファーマバイオメディカル社製)を、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地(WAKO社製)に250000個/mLとなるように懸濁し、本懸濁液10mLをEZ SPHERE(旭硝子社製)に播種した後、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で7日間培養した。ここで得られたそれぞれの細胞株のスフェア(直径100〜200μm)の懸濁液2.5mLを遠心処理(200G、5分間)してスフェアを沈降させ上清を除いた。引き続き、本スフェア(約800個)に上記培地10mLを添加して懸濁した後、平底チューブ(BM機器社製)に移した。同様に、上記培地に0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を添加した培地組成物を用いてスフェアの懸濁液を作成し、平底チューブ(BM機器社製)に移した。なお、0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物は、まず脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した後、1/20希釈で10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地に添加することにより調製した。
【0122】
37℃で3日間、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で上記スフェア懸濁液を静置培養した後、2倍容量の培地を添加して遠心処理(200G、5分間)を行うことによりスフェアを沈降させ、上清を除いた。ここで、スフェアの一部を分取し、光学顕微鏡(OLYMPUS社製、CK30−F100)にてその形状を観察した。引き続き、回収したスフェアをPBS10mLにて1回洗浄した後、1mLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で5分間保温した。上記培地を9mL添加した後、遠心処理(200G、5分間)により細胞を回収した。ここで得られた細胞懸濁液2mLの一部に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞及び死細胞の数を測定した。
【0123】
その結果、HepG2細胞及びHeLa細胞のスフェアは上記培地組成物を用いることにより浮遊状態にて培養することが可能であり、当該培地組成物で効率良く細胞が増殖することが確認された。しかも、該培地組成物は、既存の培地と比べて細胞を増殖させた際に死細胞の割合が少なく、細胞増殖の促進効果が優れていることが確認された。この際、既存の培地で培養したスフェアは培養容器の底面に沈降していた。更に、培養したスフェアの形状を光学顕微鏡にて観察したところ、該培地組成物ではスフェア同士の会合が見られないのに対し、既存の培地ではスフェア同士の会合が観察された。
HepG2細胞及びHeLa細胞に関して、脱アシル化ジェランガムを含まない培地にて培養した際の細胞数を1としたときの相対的細胞数を表5に示す。また、脱アシル化ジェランガムを含まない培地で培養した際の死細胞率(死細胞数/生細胞数)を1としたときの相対的死細胞率を表6に示す。また、HepG2細胞及びHeLa細胞のスフェアを該培地組成物で培養した際の浮遊状態を
図1及び
図2にそれぞれ示す。さらに、培養したHeLa細胞のスフェアの形状を
図3に示す。
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
参考試験例3:マイクロキャリア上に付着した細胞株を培養した際の細胞増殖試験
マイクロキャリアCytodex(登録商標) 1(GE Healthcare Life Sciences社製)をPBSに0.02g/mLとなるように懸濁し1晩静置後、上清を捨てて新たなPBSで本マイクロキャリアを2回洗浄した。その後、再度PBSで0.02g/mLとなるように懸濁し、121℃、20分間オートクレーブ滅菌した。引き続き、本マイクロキャリアを70%エタノールにて2回、PBSにて3回洗浄した後、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地(WAKO社製)にて0.02g/mLとなるように懸濁した。本マイクロキャリア懸濁液を用いて、120mgのCytodex(登録商標)1及び4000000個のHepG2細胞を含むDMEM培地(10%(v/v)胎児ウシ血清含有)20mLを調製し、本細胞懸濁液を予めシリコンコーティング剤(旭テクノグラス社製)で処理したビーカー中にて37℃、6時間、スターラーで撹拌(100rpm)しながら培養した。ここで、HepG2細胞がマイクロキャリアに接着していることを顕微鏡にて確認した。引き続き、細胞が接着したマイクロキャリアを10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地にて2回洗浄し、同培地3mLにて懸濁した。
【0127】
10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地20mL或いは本培地に0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を添加した培地組成物に、上記のマイクロキャリア懸濁液300μLをそれぞれ添加し、3日間、37℃にて培養した。この際、脱アシル化ジェランガムを含まない培養液は、スターラーで撹拌(100rpm)しながら培養した。培養後は、顕微鏡にてマイクロキャリア上の細胞の付着状態を確認した後、遠心処理(200G、5分間)でマイクロキャリアを沈降させた。PBS10mLで本マイクロキャリアを洗浄した後、1mLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で5分間保温した。更に、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地を9mL添加した後、メッシュサイズ70μmのセルストレーナー(BDファルコン社製)を用いてマイクロキャリアを除去した。ここで得られたろ液から遠心処理(200G、5分)により細胞を回収した。本細胞を500μLの培地に懸濁し、その一部に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。その結果、脱アシル化ジェランガムを含まない培養液は123,000個の細胞を含んでいたが、脱アシル化ジェランガムを含む培養液は1,320,000個の細胞を含んでいた。上記のとおり、該特定化合物の構造体を含む培地組成物は、マイクロキャリアを用いて細胞培養を実施しても、既存の培地と比べて細胞増殖の促進効果が優れていることが確認された。該特定化合物の構造体を含む培地組成物を用いてマイクロキャリア培養を3日間実施した際の、HepG2細胞の付着状態を
図4に示す。
【0128】
参考試験例4:細胞株由来スフェアを用いた細胞浮遊試験
キサンタンガム(KELTROL CG、三晶株式会社製)を1%(w/v)の濃度となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解した。本水溶液を用いて、キサンタンガムについて終濃度が0.1、0.15、0.2%(w/v)であるDMEM/F−12培地組成物を調製した。また、0.2%(w/v)のκ−カラギーナン(GENUGEL WR−80−J、三晶株式会社製)及び0.2%(w/v)のローカストビーンガム(GENUGUM RL−200−J、三晶株式会社製)を含む水溶液を90℃にて加熱することにより調製し、本水溶液を用いて0.03、0.04、0.05%(w/v)のκ−カラギーナンとローカストビーンガムを含むDMEM/F−12培地(シグマ社製)組成物を調製した。
【0129】
参考試験例2と同様の方法を用いてHeLa細胞のスフェアを作成し、上記で調製した培地1mLにそれぞれ数10個のスフェアを添加した後、1時間37℃にて静置して、スフェア細胞の浮遊状態を目視にて観察した。その結果、HeLa細胞のスフェアは、上記の培地組成物全てにおいて浮遊状態にて維持されることを確認した。更に、本細胞懸濁液に等量の培地を添加した後、遠心処理(300乃至400G、5分)によりHeLa細胞のスフェアが沈降し、回収できることを確認した。HeLa細胞のスフェアを該培地組成物にて培養した際の浮遊状態を
図5にそれぞれ示す。また、分析例1と同様の方法で測定した粘度を表7、8に示す。
【0130】
【表7】
【0131】
【表8】
【0132】
参考試験例5:フィルターろ過した培地組成物を用いた細胞浮遊試験
参考試験例2と同様の方法を用いて0.015%の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を含有するDMEM/F−12培地組成物を調製した。引き続き、本培地組成物1mLを70μm、40μmのフィルター(BDファルコン社製)、30μm、20μmのフィルター(アズワン社製)、10μmのフィルター(Partec社製)、5μm、1.2μm、0.45μm、0.2μmのフィルター(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製)を用いてそれぞれろ過した。参考試験例2と同様の方法を用いて作成したHepG2細胞のスフェアを、上記のろ液に対して約数十個添加した後、1時間37℃にて静置して、スフェア細胞の浮遊状態を目視にて観察した。その結果、HepG2細胞のスフェアは、10μm以上のフィルターを透過した培地組成物においては浮遊状態にて維持されるが、5μm以下のフィルターを透過した培地組成物においては沈殿することを確認した。更に、ここで浮遊状態にあるHepG2細胞のスフェアは、室温にて300G、5分間の遠心処理、或いは等量の培地を加えた後室温にて200G、5分間の遠心処理を施すことにより沈降し、回収できることを確認した。
【0133】
参考試験例6:スフェア形成試験
参考試験例2と同様の方法を用いて0.01%の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)及び10%(v/v)胎児ウシ血清を含有するEMEM培地(WAKO社製)の組成物を調製した。引き続き、HeLa細胞を、1000個/mLの濃度になるように添加した後、24ウェルプレート(コーニング社製)に分注した。本プレートを9日間、37℃にて浮遊静置培養した後、スフェアの形成を顕微鏡にて確認した。更に、300G、5分間の遠心処理によりスフェア細胞を沈降させ、PBS5mLにて1回洗浄した後、100μLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で5分間保温した。ここで得られた細胞懸濁液100μLに対して10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地を100μL添加し、その一部の細胞懸濁液に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。その結果、170000個/mLまでHeLa細胞が増えていることが確認された。該培地組成物にて形成したHeLa細胞のスフェアを
図6に示す。
【0134】
参考試験例7:構造体の光学顕微鏡観察
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.4%(w/v)となるように純水に懸濁させた後、90℃にて加熱攪拌し溶解させた。300mLトールビーカーに2倍濃度のDMEM/F−12培地(Aldrich社製)95mLを入れ、室温でマグネチックスターラーにて攪拌しながら脱アシル化ジェランガム水溶液5mLを添加し、そのまま5分攪拌を続けることで脱アシル化ジェランガム終濃度0.02%培地組成物を調製した。さらに当培地組成物をホモミキサー(3000rpm)により5分間攪拌した。調製した培地組成物を光学顕微鏡(KEYENCE社、BIOREVO BZ−9000)により観察した。観察された構造体を
図7に示す。
【0135】
参考試験例8:粉培地とDAGの混合過熱による調製
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)20mgと、DMEM/F−12培地(Life Technologies社製)1.58gを200mL三角フラスコに入れ、純水100mLを注いだ。121℃で20分オートクレーブ滅菌し、脱アシル化ジェランガム濃度が0.02%であるDMEM/F−12培地組成物を調製した。調製した培地に、デキストランビーズCytodex1(Size 200μm、GE Healthcare Life Sciences社製)を添加し、ビーズの分散状態を目視にて確認した。浮遊分散状態を○、一部沈降/分散状態を△、沈降状態を×として評価した。結果を表9に示す。
【0136】
【表9】
【0137】
参考試験例9:多糖類を混合した培地組成物の調製
キサンタンガム(KELTROL CG、三晶株式会社製)を0.5%(w/v)の濃度となるように純水に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解した。同様にアルギン酸ナトリウム(ダックアルギン酸NSPM、フードケミファ社製)、ローカストビーンガム(GENUGUM RL−200−J、三晶株式会社製)、κ−カラギーナン(GENUGEL WR−80−J、三晶株式会社製)、ダイユータンガム(KELCO CRETE DG−F、三晶株式会社製)について、0.5%(w/v)の水溶液を作製した。
本水溶液と0.2もしくは0.1%(w/v)脱アシル化ジェランガム溶液と10倍濃度のDMEM/F−12培地を混合し、80℃で30分過熱した。室温まで放冷した後、7.5%炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、終濃度0.01、0.02%(w/v)の脱アシル化ジェランガムと終濃度0.1、0.2、0.3、0.4%(w/v)の他の多糖を含有するDMEM/F−12培地組成物を調製した。また、脱アシル化ジェランガムを含む培地を前記同様に調製した後、メチルセルロース(cP400、WAKO株式会社製)の粉末を添加した。氷浴にて攪拌し、メチルセルロースを溶解させ、終濃度0.01、0.02%(w/v)の脱アシル化ジェランガムと終濃度0.1、0.2、0.3、0.4%(w/v)の他のメチルセルロースを含有するDMEM/F−12培地組成物を調製した。
【0138】
上記にて調製した培地に、ポリスチレンビーズ(Size 500−600μm、Polysciences Inc.製)を添加し、ビーズの分散状態を目視にて確認した。浮遊分散状態を○、一部沈降/分散状態を△、沈降状態を×として評価した。結果を表10に示す。
【0139】
【表10】
【0140】
参考試験例10:多糖類を混合した培地組成物の粘度測定
参考試験例9の多糖混合系と同様の方法で、終濃度が0.005、0.01%(w/v)の脱アシル化ジェランガムと他の多糖を含むDMEM/F−12培地を調製した。多糖は最終濃度がキサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガムは0.1%(w/v)、メチルセルロースは0.2%(w/v)、κ−カラギーナンとダイユータンガムは0.05%(w/v)となるように調製した。それぞれの培地組成物の状態と分析例1と同様の方法で測定した粘度を表11〜16に示す。
【0141】
【表11】
【0142】
【表12】
【0143】
【表13】
【0144】
【表14】
【0145】
【表15】
【0146】
【表16】
【0147】
参考試験例11:2価金属カチオン濃度を変更した培地組成物の調製
塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムを含まないDMEM/F−12(D9785、Aldrich製)を使用し、参考試験例8の方法と同様に0.02%(w/v)の脱アシル化ジェランガムを含むDMEM/F−12培地組成物を調製した。また、終濃度がDMEM/F−12培地の規定量になるよう、塩化カルシウムまたは硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムを添加したDMEM/F−12培地組成物を調製した。DMEM/F−12培地の規定組成より、それぞれの終濃度は塩化カルシウム0.116g/L、硫酸マグネシウム0.049g/L、塩化マグネシウム0.061g/Lとした。
調製した培地組成物にデキストランビーズCytodex1(GE Healthcare Life Sciences社製)を加え、2日後にビーズの分散を目視にて確認した。浮遊分散状態を○、一部沈降/分散状態を△、沈降状態を×として評価した。結果を表17に示す。
【0148】
【表17】
【0149】
参考試験例12:2価金属カチオンを後添加した培地組成物の調製
0.1%(w/v)脱アシル化ジェランガム溶液と5倍濃度のDMEM/F−12培地(塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム不含、D9785、Aldrich製)、塩化カルシウム1167mg、硫酸マグネシウム489mg、塩化マグネシウム287mgを純水300mLに溶解させた塩溶液を調製した。200mLのトールビーカーに脱アシル化ジェランガム水溶液と純水を入れ、イカリ型攪拌羽を用いて200rpmで溶液を攪拌した。培地液と水を混合したA液を添加し、そのまま10分攪拌した。次いで塩溶液を添加、さらに7.5%炭酸水素ナトリウム水溶液を1.6mL添加し、終濃度0.02%の脱アシル化ジェランガムを含むDMEM/F−12培地組成物を調製した。それぞれの液の混合量を表に示す。調製4時間後に、6本の培地組成物について、ポリスチレンビーズとCytodex1の分散評価を行なった。結果を表18、19に示す。
【0150】
【表18】
【0151】
【表19】
【0152】
参考試験例13:各種培地組成物の調製
0.1%(w/v)脱アシル化ジェランガム溶液と高濃度の培地液を調製した。高濃度の培地液は10倍濃度のMEM(M0268、Aldrich製)、RPMI−1640(R6504、Aldrich製)と5倍濃度のDMEM(高圧滅菌対応培地、ニッスイ製)を調製した。0.1%(w/v)脱アシル化ジェランガム溶液と各高濃度培地、濃度調整用の純水を混合し、80℃で30分過熱した。室温まで放冷した後、7.5%炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、終濃度0.01、0.02、0.03%(w/v)の脱アシル化ジェランガム含有する培地組成物をそれぞれ調製した。
調製した6本の培地組成物について、ポリスチレンビーズとデキストランビーズCytodex1の浮遊分散状態を○、一部沈降/分散状態を△、沈降状態を×として評価した。結果を表20、21に示す。
【0153】
【表20】
【0154】
【表21】
【0155】
参考試験例14:脱アシル化ジェランガムを含む培地組成物の粒度分布測定
参考例1に倣い、0.038%(w/v)の脱アシル化ジェランガムを含むDMEM/F−12培地組成物を調製した。培地はホモミキサーを用いて3000rpmと6000rpmにて1分攪拌し調製した。本培地組成物の粒度分布について、ベックマンコールター(株)製Multisizer4(コールター原理による精密粒度分布測定装置)を用いて測定し、体積基準粒度分布のメジアン径(d50)を求めた。結果を表22に示す。
【0156】
【表22】
【0157】
参考試験例15:脱アシル化ジェランガムのリン酸化
ガラス製の100mL試験管に、脱アシル化ジェランガム1gと、純水40mLを秤りとり、100℃で30分加熱し、懸濁液を調製した。この懸濁液に、リン酸水溶液(85%)1gを添加し、5時間加熱還流した。その後、12時間撹拌しながら、室温まで放冷することで得た白色懸濁液を、99%エタノール(500mL)に注いだ。生じた綿状の白色固体を、ろ取後、乾燥させることで、脱アシル化ジェランガムのリン酸化物として、淡褐色固体(0.4g)を得た。リン酸基が導入されたことは、フーリエ変換赤外分光分析(株式会社島津製作所製、IR−Prestage21)によって確認した(1700cm−1;P−OH、1296cm−1、1265cm−1;P=O)。淡褐色固体をマイクロ波加熱分解装置(ETHOS TC, マイルストーンゼネラル製)によって分解した後に、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES) (SPS 5520, SIIナノテクノロジー社製)によってリン原子の含有率を測定した結果、3.5wt%(n=2)であった。
【0158】
参考試験例16:リン酸化した脱アシル化ジェランガムを含む培地組成物の調製
任意量のリン酸化した脱アシル化ジェランガム(30mg)と、DMEM/F−12培地(ライフテクノロジーズ社製)1.56gを200mL三角フラスコに入れ、純水100mLを注いだ。121℃で20分オートクレーブ滅菌し、脱アシル化ジェランガム濃度が0.03%であるDMEM/F−12培地組成物を調製した。調製した培地に、デキストランビーズCytodex1(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を添加し、ビーズの分散状態を目視にて確認した。0.03%(w/v)のリン酸化した脱アシル化ジェランガム濃度において、ビーズの分散状態が認められた。
【0159】
参考試験例17:脱アシル化ジェランガムを含む培地組成物の調製
脱アシル化ジェランガム水溶液と培地溶液とを下表に示す割合で添加することで混合して、脱アシル化ジェランガム濃度が0.02%であるDMEM/F−12培地組成物を調製したときのポリスチレンビーズ(Size 500−600μm、Polysciences Inc.製)の分散状態を評価した。結果を表23、24に示す。1日以上静置することで、全ての条件で、スチレンビーズが分散した。
【0160】
【表23】
【0161】
【表24】
【0162】
参考試験例18:フィルターを用いた培地組成物の調製
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を最終濃度が0.02或いは0.04%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて30分間或いは121℃にて20分間加熱することにより溶解した。更に、本水溶液100mLを孔径が0.22μmのポリエーテルスルホン製メンブレンフィルター(コーニング社製)にてろ過した。引き続き、本ろ液を2乃至4倍濃度のDMEM/F−12培地(シグマ・アルドリッチ社製)と混合した後、マイルドミキサー(SI−24、タイテック社製)にて1時間振とうし、最終濃度0.01或いは0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガムを含む培地組成物をそれぞれ調製した(例えば、0.02%(w/v)脱アシル化ジェランガム水溶液と2倍濃度のDMEM/F−12培地を25mLずつ混合し、0.01%(w/v)の脱アシル化ジェランガム培地組成物を50mL調製した)。参考試験例2と同様の方法を用いてHepG2細胞のスフェアを作成し、上記で調製した培地1mLにそれぞれ数10個のスフェアを添加した後、37℃にて静置して、1時間及び1晩後のスフェア細胞の浮遊状態を目視にて観察した。その結果、HepG2細胞のスフェアは、上記の培地組成物全てにおいて浮遊状態にて維持されることを確認した。更に、2倍容量の培地を添加した後、本細胞懸濁液を遠心処理(500G、5分)することによりHepG2細胞のスフェアが沈降し、細胞が回収できることを全ての培地組成物において確認した。1晩後のスフェアの分散状態を目視にて確認した際、浮遊分散状態を○、一部沈降/分散状態を△、沈降状態を×として評価した結果を表25に示す。
【0163】
【表25】
【0164】
参考試験例19:細胞株由来スフェアを培養した際の細胞増殖試験
ヒト胎児腎細胞株HEK293(DSファーマバイオメディカル社製)を、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地(WAKO社製)に250000個/mLとなるように懸濁し、本懸濁液10mLをEZ SPHERE(旭硝子社製)に播種した後、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で2日間培養した。ここで得られたHEK293細胞のスフェア(直径100〜200μm)の懸濁液10mLを遠心処理(200G、5分間)してスフェアを沈降させ上清を除いた後、1mLに懸濁した。引き続き、本スフェア懸濁液200μL(細胞数は約200000個)に上記培地10mLを添加して懸濁した後、平底チューブ(BM機器社製)に移した。同様に、上記培地に0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を添加した培地組成物を用いてスフェアの懸濁液を作成し、平底チューブ(BM機器社製)に移した。なお、0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物は、まず脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した後、1/20希釈で10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地に添加することにより調製した。
【0165】
37℃で5日間、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で上記スフェア懸濁液を静置培養した後、2倍容量の培地を添加して遠心処理(500G、5分間)を行うことによりスフェアを沈降させ、上清を除いた。引き続き、回収したスフェアをPBS10mLにて1回洗浄した後、1mLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で5分間保温した。上記培地を9mL添加した後、遠心処理(500G、5分間)により細胞を回収した。ここで得られた細胞懸濁液2mLの一部に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞及び死細胞の数を測定した。なお、対照として脱アシル化ジェランガムを含まない培地組成物を作成し、同様の実験を行った。
【0166】
その結果、HEK293細胞のスフェアは該培地組成物を用いることにより浮遊状態にて培養することが可能であり、当該培地組成物で効率良く細胞が増殖することが確認された。しかも、該培地組成物は、脱アシル化ジェランガムを含まない培地組成物と比べて細胞を増殖させた際に死細胞の割合が少なく、細胞増殖の促進効果が優れていることが確認された。この際、既存の培地で培養したスフェアは培養容器の底面に沈降していた。
HEK293細胞に関して、脱アシル化ジェランガムを含まない培地にて培養した際の細胞数を1としたときの相対的細胞数を表26に示す。また、脱アシル化ジェランガムを含まない培地で培養した際の死細胞率(死細胞数/生細胞数)を1としたときの相対的死細胞率を表27に示す。
【0167】
【表26】
【0168】
【表27】
【0169】
参考試験例20:昆虫細胞を培養した際の細胞増殖試験
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。本溶液を用いてSf−900(登録商標)IIISFM培地(ギブコ社製)に終濃度0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物を調製した。引き続き、Spodoptera frugiperda由来のSf9細胞(ギブコ社製)を、100000細胞/mLとなるように上記の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物に播種した後、24ウェル平底マイクロプレート(コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLとなるように分注した。これらの細胞懸濁液をインキュベーター内にて25℃で5日間静置培養した。その後、培養液の一部を回収し、トリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。なお、対照として脱アシル化ジェランガムを含まない培地組成物を作成し、同様の実験を行った。
【0170】
その結果、Sf9細胞は、該培地組成物を用いることにより浮遊状態にて均一に培養することが可能であり、当該培地組成物で増殖することが確認された。更に、該培地組成物は、脱アシル化ジェランガムを含まない培地組成物と比べて細胞を増殖させた際に細胞増殖の促進効果が優れていることが確認された。浮遊静置培養5日間後のSf9細胞の細胞数を表28に示す。
【0171】
【表28】
【0172】
参考試験例21:CD34陽性細胞を培養した際の細胞増殖試験
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。本溶液を用いてStemSpan SFEM培地(StemCell Technologies社製)に終濃度0.015%(w/v)の脱アシル化ジェランガム、20ng/mLのトロンボポエチン(WAKO社製)及び100ng/mLの幹細胞因子(SCF、WAKO社製)を添加した培地組成物を調製した。引き続き、ヒト臍帯血由来のCD34陽性細胞(ロンザ社製)を、10000細胞/mLとなるように上記の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物に播種した後、24ウェル平底マイクロプレート(コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLとなるように分注した。これらの細胞懸濁液を37℃で7日間、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で静置培養した。その後、培養液の一部を回収し、トリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。また、残りの培養液に3倍容量の培地を添加して遠心処理(500G、5分間)を行うことにより全ての細胞を沈降させた。なお、対照として脱アシル化ジェランガムを含まない培地組成物を作成し、同様の実験を行った。
【0173】
その結果、CD34陽性細胞は、該培地組成物を用いることにより浮遊状態にて均一に培養することが可能であり、当該培地組成物で増殖することが確認された。更に、該培地組成物は、脱アシル化ジェランガムを含まない既存の培地と比べて同等以上の細胞増殖促進効果を有することが確認された。また、遠心処理により細胞が沈降し、細胞が回収できることを確認した。脱アシル化ジェランガムを含まない培地にて培養した際の細胞数を1としたときの、浮遊静置培養7日間後におけるCD34陽性細胞から増殖した細胞の相対的細胞数を表29に示す。
【0174】
【表29】
【0175】
参考試験例22:スフェア形成試験
参考試験例2と同様の方法を用いて0.015%の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)及び10%(v/v)胎児ウシ血清を含有するDMEM培地(WAKO社製)の組成物を調製した。引き続き、HepG2細胞を、15000個/mLの細胞濃度になるように添加した後、24ウェルプレート(コーニング社製)に1mL分注した。本プレートを7日間、37℃にて浮遊静置培養した後、スフェアの形成を顕微鏡にて確認した。更に、400G、5分間の遠心処理によりスフェア細胞を沈降させ、PBS5mLにて1回洗浄した後、100μLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で5分間保温した。ここで得られた細胞懸濁液100μLに対して10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地を100μL添加し、その一部の細胞懸濁液に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。その結果、HepG2細胞は、該培地組成物にてスフェアを形成し、また細胞数も80800個/mLまでが増えていることが確認された。該培地組成物にて形成したHepG2細胞のスフェアを
図8に示す。
【0176】
参考試験例23:細胞株由来スフェアを用いた細胞浮遊試験
ダイユータンガム(KELKO−CRETE DG、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)の濃度となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解した。本水溶液を用いて、ダイユータンガムについて終濃度が0.1%(w/v)であるDMEM/F−12培地組成物を調製した。また、0.5%(w/v)のネイティブ型ジェランガム(ケルコゲル HT、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を含む水溶液を90℃にて加熱することにより調製し、本水溶液を用いて0.05、0.1%(w/v)のネイティブ型ジェランガムを含むDMEM/F−12培地(シグマ社製)組成物を調製した。
【0177】
参考試験例2と同様の方法を用いてHeLa細胞のスフェアを作成し、上記で調製した培地1mLにそれぞれ数10個のスフェアを添加した後、1時間37℃にて静置して、スフェア細胞の浮遊状態を目視にて観察した。その結果、HeLa細胞のスフェアは、上記の培地組成物全てにおいて浮遊状態にて維持されることを確認した。更に、0.1%(w/v)のダイユータンガムを含む本細胞懸濁液を遠心処理(200G、5分)することによりHeLa細胞のスフェアが沈降し、細胞が回収できることを確認した。
【0178】
参考試験例24:細胞接着能を有する磁気ビーズを用いた細胞浮遊試験1
ラミニン或いはフィブロネクチンにてコーティングしたGEM(登録商標、Global Eukaryotic Microcarrier、ジーエルサイエンス株式会社製)懸濁溶液を500μLずつ1.5mL容量のマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に分注し、磁石スタンド(TA4899N12、多摩川精機株式会社製)を使用して上記GEM懸濁溶液からGEMを集積させて溶媒を除去した。更に、10%(v/v)胎児ウシ血清を含有するDMEM培地(WAKO社製)500μLによりGEMを2回洗浄した後、同上培地500μLに懸濁した。本懸濁液を細胞低接着プレートであるスミロンセルタイトプレート24F(住友ベークライト株式会社製)に1ウェルあたり50μL分注した。引き続き、別途調製したHepG2細胞を250000細胞/mLとなる様に添加し、同上培地にて最終容量を500μL/ウェルとした。本細胞懸濁液を手動にて撹拌した後、本プレートを一晩、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で静置した。GEM上での細胞の接着を顕微鏡にて確認した後、細胞懸濁液を1.5mL容量のマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に移し、上記磁石スタンドを用いて細胞付着GEMを集積させて上清を除去した。
【0179】
参考試験例2と同様の方法を用いて0.015%の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)及び10%(v/v)胎児ウシ血清を含有するDMEM培地(WAKO社製)の組成物を調製した。本培地組成物或いは脱アシル化ジェランガムを含まない同上培地それぞれ1mLを上記にて調製したHepG2細胞付着GEM(ラミニン或いはフィブロネクチンコーティング)に添加し、懸濁させた後、スミロンセルタイトプレート24Fに移した。引き続き、本プレートを6日間、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で静置した後、細胞培養液を1.5mL容量のマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に移し、上記磁石スタンド上にて緩やかにピペッティングしながら細胞付着GEMを集積させて上清を除去した。本GEMをPBS1mLにて1回洗浄し、200μLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で10分間保温した。ここで得られた細胞懸濁液200μLに対して10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地を800μL添加し、その一部の細胞懸濁液に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。
【0180】
その結果、HepG2細胞を接着させたGEMは該培地組成物を用いることにより浮遊状態にて培養することが可能であり、当該培地組成物で効率良く細胞が増殖することが確認された。しかも、該培地組成物は、脱アシル化ジェランガムを含まない既存の培地と比べて、細胞増殖の促進効果が優れていることが確認された。また、磁力を用いることにより該培地組成物からHepG2細胞付着GEMを集積させることが可能であり、更に本GEMからHepG2細胞が回収できることを確認した。
脱アシル化ジェランガム含有或いは非含有培地にてHepG2細胞をGEM上で6日間培養した際の細胞数を表30に示す。また、HepG2細胞を付着させたラミニンコートGEMを該培地組成物で培養した際の浮遊状態を
図9に示す。
【0181】
【表30】
【0182】
参考試験例25:細胞接着能を有する磁気ビーズを用いた細胞浮遊試験2
参考試験例24と同様に、フィブロネクチンにてコーティングしたGEM(登録商標、Global Eukaryotic Microcarrier、ジーエルサイエンス株式会社製)をMF−Medium(登録商標)間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡株式会社製)に懸濁した。本懸濁液を細胞低接着プレートであるスミロンセルタイトプレート24F(住友ベークライト株式会社製)に1ウェルあたり50μL分注した。引き続き、別途調製したヒト骨髄由来の間葉系幹細胞(Cell Applications社製)を250000細胞/mLとなる様に添加し、参考試験例24と同様に、本プレートを一晩、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で静置させて間葉系幹細胞が接着したGEMを調製した。
【0183】
参考試験例2と同様の方法を用いて0.015%の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を含有するMF−Medium(登録商標)間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡株式会社製)の組成物を調製した。本培地組成物或いは脱アシル化ジェランガムを含まない同上培地それぞれ1mLを上記にて調製した間葉系幹細胞付着GEM(フィブロネクチンコーティング)に添加し、懸濁させた後、スミロンセルタイトプレート24Fに移した。引き続き、本プレートを4日間、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で静置した後、細胞培養液を1.5mL容量のマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に移し、上記磁石スタンド上にて緩やかにピペッティングしながら細胞付着GEMを集積させて上清を除去した。本GEMをPBS1mLにて1回洗浄し、200μLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で10分間保温した。ここで得られた細胞懸濁液200μLに対して10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地を800μL添加し、その一部の細胞懸濁液に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。
【0184】
その結果、間葉系幹細胞を接着させたGEMは該培地組成物を用いることにより浮遊状態にて培養することが可能であり、当該培地組成物で効率良く細胞が増殖することが確認された。しかも、該培地組成物は、脱アシル化ジェランガムを含まない既存の培地と比べて、細胞増殖の促進効果が優れていることが確認された。また、磁力を用いることにより該培地組成物から間葉系幹細胞付着GEMを集積させることが可能であり、更に本GEMから間葉系幹細胞が回収できることを確認した。
脱アシル化ジェランガム含有或いは非含有培地にて間葉系幹細胞をGEM上で4日間培養した際の細胞数を表31に示す。
【0185】
【表31】
【0186】
参考試験例26:アルギン酸ビーズを用いた細胞浮遊試験
以下の試験は、株式会社PGリサーチ製アルギン酸三次元培養キットの方法に準じて実施した。別途調製したHepG2細胞を400000細胞/mLとなる様にアルギン酸ナトリウム溶液(株式会社PGリサーチ製)2.5mLに添加し、更にヒト組み換えラミニン511(株式会社ベリタス製)を5μg/mLとなる様に添加し、細胞懸濁液を調製した。本細胞懸濁液についてゾンデを装着した5mLシリンジ(テルモ株式会社製)で回収した後、本シリンジに22G注射針(テルモ株式会社製)を装着した。引き続き、塩化カルシウム水溶液(株式会社PGリサーチ製)が2mLずつ添加してある24ウェル平底マイクロプレート(株式会社PGリサーチ製)のウェルに対して、本細胞懸濁液を10滴ずつ添加した。10分間、室温にて静置してからアルギン酸ビーズの形成を確認した後、塩化カルシウム溶液を除去し、PBS2mLを添加して室温で15分静置した。更に、PBSを除去した後、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地(WAKO社製)2mLを添加し室温で15分静置した。培地を除去した後、参考試験例2と同様の方法を用いて調製した0.03%の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)及び10%(v/v)胎児ウシ血清を含有するDMEM培地(WAKO社製)の培地組成物或いは脱アシル化ジェランガムを含まない同上培地それぞれ1mLを各ウェルに添加し、8日間、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で静置培養した。なお、培地交換は、培養4日目に実施した。
【0187】
培養したアルギン酸ビーズを1mL容量のチップを用いて1.5mL容量のマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に移した後、クエン酸ナトリウム溶液(株式会社PGリサーチ製)1mLを各チューブに添加し、室温15分間攪拌してアルギン酸ビーズを溶解させた。引き続き、300G、3分間の遠心処理により細胞を沈降させ、上清を除去した。本細胞に対して200μLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で5分間保温した。ここで得られた細胞懸濁液200μLに対して10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地を800μL添加し、その一部の細胞懸濁液に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。
【0188】
その結果、HepG2細胞を包埋したアルギン酸ビーズは該培地組成物を用いることにより浮遊状態にて培養することが可能であり、当該培地組成物で効率良く細胞が増殖することが確認された。しかも、該培地組成物は、脱アシル化ジェランガムを含まない既存の培地と比べて、細胞増殖の促進効果が優れていることが確認された。
脱アシル化ジェランガム含有或いは非含有培地にてHepG2細胞をアルギン酸ビーズ内で8日間培養した際の細胞数を表32に示す。また、HepG2細胞を包埋したアルギン酸ビーズを該培地組成物で培養した際の浮遊状態を
図10に示す。
【0189】
【表32】
【0190】
参考試験例27:コラーゲンゲルカプセルを用いた細胞浮遊試験
A:組織培養用コラーゲンCellmatrix(登録商標)TypeI‐A(セルマトリックス、新田ゼラチン株式会社製)、B:10倍濃度のDMEM/F−12培地(Aldrich社製)、C:再構成用緩衝液(0.05N水酸化ナトリウム溶液100mLに炭酸水素ナトリウム2.2g、HEPES(4‐(2‐hydroxyethyl)‐1‐piperazineethanesulfonic acid))4.77gを加えてろ過滅菌したもの)のそれぞれを氷中にて冷却しながらA:B:C=8:1:1となるように混合した。更に、ヒト組み換えラミニン511(株式会社ベリタス製)を5μg/mLとなる様に添加し、コラーゲン混合溶液500μLを調製した。本混合溶液に対して別途調製したHepG2細胞を200000細胞/mLとなる様に添加し、25G注射針(テルモ株式会社製)を装着した1.5mLシリンジ(テルモ株式会社製)を用いて全量を回収した。引き続き、37℃にて予め保温した10%(v/v)胎児ウシ血清を含有するDMEM培地(WAKO社製)10mLを添加した平底チューブ(BM機器社製)に対して、上記シリンジを用いて1滴ずつ細胞懸濁液を滴下した。37℃水浴中にて10分間保温して、直径2mm程度の不定形なコラーゲンゲルカプセルの形成を確認した後、参考試験例2と同様の方法にて最終濃度0.04%となるように脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を添加し、軽く撹拌して上記カプセルを浮遊させた。引き続き、5日間、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で本チューブを静置培養した。
【0191】
コラーゲンゲルカプセルを含む培養液に対してPBS25mLを添加し、400G、5分間の遠心処理によりコラーゲンゲルカプセルを沈降させ、上清を除去した。再度、PBS25mLを加えて遠心処理を行い、残量が5mLとなるように上清を除去した。本液に対して1%(W/V)のコラゲナーゼL(新田ゼラチン株式会社製)20μLを添加した後、37℃にて2時間振とうした。コラーゲンゲルの溶解を確認した後、PBS10mLを加え、400G、5分間の遠心処理により細胞を沈降させ、上清を除去した。本細胞に対して1mLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で5分間保温した。ここで得られた細胞懸濁液に対して10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地を4mL添加し、400G、5分間の遠心処理により細胞を沈降させ、上清を除去した。得られた細胞を2mLの同上培地にて懸濁し、その一部に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。
【0192】
その結果、HepG2細胞を包埋したコラーゲンゲルカプセルは該培地組成物を用いることにより浮遊状態にて培養することが可能であり、当該培地組成物で効率良く細胞が増殖することが確認された。しかも、該培地組成物は、脱アシル化ジェランガムを含まない既存の培地と比べて、細胞増殖の促進効果が優れていることが確認された。
脱アシル化ジェランガム含有或いは非含有培地にてHepG2細胞をコラーゲンゲルカプセル内で5日間培養した際の細胞数を表33に示す。また、HepG2細胞を包埋したコラーゲンゲルカプセルを該培地組成物で培養した際の浮遊状態を
図11に示す。
【0193】
【表33】
【0194】
参考試験例28:フィルターを用いたスフェアの回収試験
参考試験例2と同様の方法を用いて0.015%の脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)及び10%(v/v)胎児ウシ血清を含有するDMEM培地(WAKO社製)の組成物を調製した。また、対照として脱アシル化ジェランガムを含まない同上培地を調製した。参考試験例2と同様の方法を用いてHepG2細胞のスフェアを作成し、上記で調製した培地1mLにそれぞれ86000個の細胞数となるようにスフェアを添加した後、1時間37℃にて静置して、スフェア細胞の浮遊状態を目視にて観察した。更に、メッシュサイズが40μmのセルストレーナー(ベクトン・ディッキンソン社製)上に本細胞懸濁液を添加し、スフェアをフィルター上に捕捉した。引き続き、フィルターの裏面からPBS10mLを流し込むことによりスフェアを15mLチューブに回収し、300G、5分間の遠心処理によりスフェアを沈降させた。上清を除去した後、スフェアに対して500μLのトリプシン−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液(WAKO社製)を添加し、37℃で5分間保温した。ここで得られた細胞懸濁液に対して10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地を1mL添加し、その一部に対してトリパンブルー染色液(インヴィトロジェン社製)を同量添加した後、血球計算盤(エルマ販売株式会社製)にて生細胞の数を測定した。その結果、HepG2細胞のスフェアは、上記の培地組成物において浮遊状態にて維持されることを確認した。更に、0.015%の脱アシル化ジェランガムを含む本スフェア懸濁液をフィルター処理することにより、HepG2細胞のスフェアを、脱アシル化ジェランガムを含まない培地と同等の回収率にて細胞が回収できることを確認した。脱アシル化ジェランガムを含まない培地を用いてフィルターにて回収されたHepG2細胞数を1としたときの、脱アシル化ジェランガムを含む培地から回収された相対的細胞数を表34に示す。
【0195】
【表34】
【0196】
参考試験例29:各種多糖類の混合剤を用いたスフェアの細胞浮遊試験
参考試験例9と同様の方法を用いて、キサンタンガム(KELTROL CG、三晶株式会社製)、アルギン酸ナトリウム(ダックアルギン酸NSPM、フードケミファ社製)、ローカストビーンガム(GENUGUM RL−200−J、三晶株式会社製)、メチルセルロース(cP400、WAKO株式会社製)、κ−カラギーナン(GENUGEL WR−80−J、三晶株式会社製)、ペクチン(GENU pectin LM−102AS、三晶株式会社製)或いはダイユータンガム(KELCO CRETE DG−F、三晶株式会社製)と脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を組み合わせて混合したDMEM/F−12培地組成物を調製した。参考試験例2と同様の方法を用いてHepG2細胞のスフェアを作成し、上記で調製した培地1mLにそれぞれ数10個のスフェアを添加した後、37℃にて静置して、1時間及び1晩後のスフェア細胞の浮遊状態を目視にて観察した。その結果、HepG2細胞のスフェアは、上記の培地組成物全てにおいて浮遊状態にて維持されることを確認した。更に、2倍容量の培地を添加した後、本細胞懸濁液を遠心処理(500G、5分)することによりHepG2細胞のスフェアが沈降し、細胞が回収できることを全ての培地組成物において確認した。1晩後のスフェアの分散状態を目視にて確認した際、浮遊分散状態を○、一部沈降/分散状態を△、沈降状態を×として評価した結果を表35及び表36に示す。なお、表中の−は未実施を示す。
【0197】
【表35】
【0198】
【表36】
【0199】
ビーズと細胞の分散性比較1
上記(比較例)にて調製した脱アシル化ジェランガム含有培地とメチルセルロース含有培地について、デキストランビーズCytodex(登録商標) 1(GE Healthcare Life Sciences社製)とHeLa細胞スフェアの分散状態を比較した。結果を表(表37及び38)に示す。Cytodex1とHeLa細胞スフェアの分散状態はよく相関していることから、Cytodex1を細胞スフェアモデルとして使用することができる。
【0200】
【表37】
【0201】
【表38】
【0202】
ビーズと細胞の分散性比較2
参考試験例9にて調製した多糖および脱アシル化ジェランガム含有培地について、ポリスチレンビーズ(Size 500−600μm、Polysciences Inc.製)とHepG2細胞スフェアの分散状態を比較した。浮遊分散状態を○、一部沈降/分散状態を△、沈降状態を×として評価した。結果を表(表39)に示す。ポリスチレンビーズとHepG2細胞スフェアの分散状態はよく相関していることから、ポリスチレンビーズを細胞スフェアモデルとして使用することができる。
【0203】
【表39】
【0204】
参考試験例30:イネ由来植物カルスの浮遊培養試験
塩水選にて精選されたイネ日本晴の完熟種子(湖東農業協同組合より購入)50粒を50mLポリスチレンチューブ(BDファルコン社製)に移し、滅菌水50mLにて洗浄した後、70%エタノール水30mL中にて1分間撹拌した。エタノール水を除去した後、キッチンハイター(花王株式会社製)30mLを添加し、1時間撹拌した。キッチンハイターを除去した後、滅菌水50mLにて4回洗浄した。ここで滅菌した種子を、2μg/mLの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(シグマ・アルドリッチ社製)及び寒天を含むムラシゲ・スクーグ基礎培地(M9274、シグマ・アルドリッチ社製)1.5mL/ウェル(24ウェル平底マイクロプレート(コーニング社製))上に置床した。30℃、16時間暗所/8時間暗所の条件にて3週間培養し、種子の胚盤上で増殖したクリーム色のカルス(1〜2mm)を採取した。
【0205】
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。本溶液を用いて、2μg/mLの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(シグマ・アルドリッチ社製)を含むムラシゲ・スクーグ基礎培地(M9274、シグマ・アルドリッチ社製)に終濃度0.03%(w/v)の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物を調製した。上記にて調製したカルス15個を本培地組成物10mL/平底チューブ(BM機器社製)に添加し、7日間、25℃にて振とう培養を行った。その結果、イネ由来カルスは当該培地組成物を用いることにより浮遊状態にて培養することが可能であり、当該培地組成物にてカルスが維持されることが確認された。イネ由来カルスを該培地組成物で培養した際の浮遊状態を
図12に示す。
【0206】
[製造例1:結晶セルロース由来セルロースナノファイバーの製造]
市販の結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製 PH−101)4質量部に純水396質量部を加え分散させた後、(株)スギノマシン製高圧粉砕装置(スターバーストシステム)を用いて、220MPaにて100回粉砕処理を行い、結晶セルロース由来のセルロースナノファイバーの水分散液(MNC)を得た。得られた分散液をシャーレに測りとり、110℃にて1時間乾燥を行い、水分を除去して残渣の量を測定し、濃度を測定した。その結果、水中のセルロース濃度(固形分濃度)は、1.0質量%であった。この水分散液を121℃、20分間オートクレーブ処理し、滅菌した。
【0207】
[製造例2:パルプ由来セルロースナノファイバーの製造]
市販のクラフトパルプ(王子エフテックス株式会社製LBKP、固形分89質量%)5質量部に純水145質量部を加えて分散させた後、増幸産業株式会社製石臼式粉砕装置(マスコロイダー)を用いて、1500rpmにて9回粉砕処理を行い、パルプスラリーを作製した。前記パルプスラリーを株式会社スギノマシン社製高圧粉砕装置(スターバーストシステム)用いて、220MPaにて300回処理することにより、ナノセルロースの水分散液(PNC)を得た。得られた分散液をシャーレに測りとり、110℃にて1時間乾燥を行い、水分を除去して残渣の量を測定し、濃度を測定した。その結果、水中のセルロース濃度(固形分濃度)は、1.6質量%であった。この水分散液を121℃、20分間オートクレーブ処理し、滅菌した。
【0208】
[製造例3:キチンナノファイバーの製造]
市販のキチン粉末(甲陽ケミカル株式会社製)20質量部に純水980質量部を加えて分散させた後、(株)スギノマシン製高圧粉砕装置(スターバーストシステム)を用いて、245MPaにて200回粉砕処理を行い、キチンナノファイバーの水分散液(CT)を得た。得られた分散液をシャーレに測りとり、110℃にて1時間乾燥を行い、水分を除去して残渣の量を測定し、濃度を測定した。その結果、水中のキチン濃度(固形分濃度)は、2.0質量%であった。この水分散液を121℃、20分間オートクレーブ処理し、滅菌した。
【0209】
[試験例1:平均繊維径D及び平均繊維長Lの測定]
ナノファイバーの平均繊維径(D)は以下のようにして求めた。まず応研商事(株)製コロジオン支持膜を日本電子(株)製イオンクリーナ(JIC−410)で3分間親水化処理を施し、製造例1〜3において作製したナノファイバー分散液(超純水にて希釈)を数滴滴下し、室温乾燥した。これを(株)日立製作所製透過型電子顕微鏡(TEM、H−8000)(10,000倍)にて加速電圧200kVで観察し、得られた画像を用いて、標本数:200〜250本のナノファイバーについて一本一本の繊維径を計測し、その数平均値を平均繊維径(D)とした。
また、平均繊維長(L)は、製造例において作製したナノファイバー分散液を純水により100ppmとなるように希釈し、超音波洗浄機を用いてナノファイバーを均一に分散させた。このナノファイバー分散液を予め濃硫酸を用いて表面を親水化処理したシリコンウェハー上へキャストし、110℃にて1時間乾燥させて試料とした。得られた試料の日本電子(株)製走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−7400F)(2,000倍)で観察した画像を用いて、標本数:150〜250本のナノファイバーについて一本一本の繊維長を計測し、その数平均値を平均繊維長(L)とした。
製造例1乃至製造例3で得られたナノファイバーの平均繊維径D及び平均繊維長Lを求め、これらの値よりアスペクト比L/Dを求めた。得られた結果を表40に示す。
【0210】
【表40】
【0211】
[実施例1乃至実施例4]
前述の製造例1乃至製造例3で調製したナノファイバー分散液および脱アシル化ジェランガム水溶液を用いて、下記表41に記載の培地組成物を調製した。
まず、製造例1乃至製造例3で調製したセルロースナノファイバーMNC、PNC及びキチンナノファイバーへ滅菌水を加えることで、それぞれ1%(w/v)水分散液へと希釈した。一方で、脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製:DAG)1質量部へ99体積部の滅菌水を加え、121℃、20分間オートクレーブ処理することによって溶解および滅菌させ、脱アシル化ジェランガム1%(w/v)水溶液を調製した。
前述の1%(w/v)分散液または水溶液1体積部を50mLコニカルチューブにとり、49体積部の滅菌水を加えて、均一となるまでピペッティングした。ここへ0.22μmフィルターにより滅菌ろ過した2倍濃度のDMEM(high glucose、Aldrich社製、所定量の炭酸水素ナトリウムを含む)を50体積部添加し、ピペッティングにより混合し、ナノファイバー濃度が0.01%(w/v)の培地組成物を調整した。
同様に最終濃度が0.01〜0.1%(w/v)の所望の濃度となるようナノファイバー分散液または脱アシル化ジェランガム水溶液を添加した培地組成物を調製した。
【0212】
[実施例5及び比較例2乃至比較例5]
κ‐カラギーナン(GENUGEL WR−80−J、三晶株式会社製:Car)(実施例5)、ローカストビーンガム(GENUGUM RL−200−J、三晶株式会社製:LBG)(比較例2)、キサンタンガム(KELTROL CG、三晶株式会社製:Xan)(比較例3)、ダイユータンガム(KELCO CRETE DG−F、三晶株式会社製:DU)(比較例4)、アルギン酸Na(ダックアルギン酸NSPM、フードケミファ社製:Alg)(比較例5)1質量部へ99質量部の滅菌水を加え、121℃、20分間オートクレーブ処理することによって、溶解および滅菌させた。
前述により調製した多糖溶液について、実施例1乃至4と同様な操作により、最終濃度が0.03、0.05、0.07、0.1%(w/v)となるよう多糖溶液を添加した培地組成物を調製した。
【0213】
[試験例2:浮遊作用の評価1]
実施例1〜5及び比較例2〜5の培地組成物に、ポリスチレンビーズ(Polysciences Inc.社製、200−300μm)を添加し、ボルテックス撹拌により培地組成物中にビーズが均一に分散したのを確認した後、室温(25℃)において一日間静置し、ビーズの分散状態を目視にて確認した。培地組成物中で均一にビーズが浮遊した状態を◎、一部上清を生じた状態を○、沈降状態を×として評価した。結果を表41に示す。
【0214】
その結果、実施例1乃至実施例4の培地組成物では、ビーズを浮遊させる作用を示した。また、実施例5では室温ではビーズの浮遊作用が見られたものの、37℃に加温することによってビーズが沈降し、細胞培養条件では浮遊作用は得られなかった。比較例2乃至比較例5ではビーズは完全に底面へ沈降した。
【0215】
【表41】
【0216】
*実施例5のκ−カラギーナン(Car)は、25℃において浮遊作用が見られたものの、細胞培養条件と同等の37℃では、即座に浮遊作用を失い、沈降した。その他の培地については、37℃及び25℃において、同一の結果が得られた。
【0217】
[試験例3:浮遊作用の評価2]
試験例2と同様に、実施例2、4及び5並びに比較例2の培地組成物について、低濃度領域(0.01〜0.04%(w/v))における浮遊作用を詳細に評価した。ポリスチレンビーズを添加し、2日間静置後、ビーズの分散状態を目視にて確認した。浮遊分散状態を○、沈降状態を×として評価した。一部沈降/分散状態については、10mLコニカルチューブ内における浮遊領域の高さに基づきビーズ浮遊率を算出した。結果を表42に示す。
【0218】
【表42】
【0219】
※はビーズ浮遊率を示す。PNCは0.015%(w/v)以上の濃度で、実施例4の培地組成物は0.015%(w/v)以上の濃度で、浮遊作用を示した。実施例2の培地組成物は、濃度増加に伴って、段階的に浮遊作用が向上した。実施例5の培地組成物は、0.02%以上で、25℃において浮遊作用を示したものの、37℃では、即座に浮遊作用を失い、沈降した(*)。その他の培地については、37℃及び25℃において、同一の結果が得られた。
【0220】
[試験例4:培地組成物の粘度]
実施例1〜5及び比較例2〜5の培地組成物の粘度を、25℃条件下で音叉振動式粘度測定(SV−1A、A&D Company Ltd.)を用いて評価した。結果を
図13に示す。この結果、本発明の培地組成物は、ナノファイバーまたは増粘性多糖の含有量が極めて少ないため、一般的な培地の粘度と比較して、顕著な粘度増加は見られないとする結果が得られた。試験例2の結果との比較から、粘度と浮遊作用との間に相関は認められなかった。
【0221】
[試験例5:培地組成物の走査型電子顕微鏡観察]
実施例1乃至5、比較例3乃至4において調製した培地組成物を予め濃硫酸を用いて表面を親水化処理したシリコンウェハー上へキャストし、110℃(比較例1のみ室温)にて1時間乾燥させた後、純水によりかけ洗いし余分な塩分等を除去した後、再度110℃1時間乾燥させた状態で試料とした。前述の試料を日本電子(株)製走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−7400F、10,000倍)を用いて観察した。実施例1乃至4および比較例3乃至4の培地組成物の観察結果を
図14乃至21へと示した。
【0222】
観察の結果、実施例1乃至4および室温で乾燥させた実施例5では、ファイバーが多数観察されたのに対し、110℃で乾燥させた実施例5および比較例3乃至4では、ファイバーは全く観察されなかった。なお、観察画像中に多数観察される球状物体は、培地中の塩成分が析出したものである。この結果から、培地組成物中に含まれるファイバー構造が浮遊作用に寄与している可能性が示唆された。
【0223】
[試験例7:スフェアの浮遊作用]
ヒト肝癌細胞株HepG2(DSファーマバイオメディカル社製)を、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地(WAKO社製)に50000個/mLとなるように懸濁し、前記懸濁液10mLをEZ SPHERE(旭硝子社製)に播種した後、CO
2インキュベーター(5%CO
2)内で2日間培養した。ここで得られたスフェアの懸濁液80mLを遠心処理(800rpm、5分間)してスフェアを沈降させ、上清を除くことによりスフェア懸濁液4.5mLを調製した。引き続き、実施例1乃至4および比較例1、比較例3乃至5の培地組成物を15mLコニカルチューブに10mLずつ入れ、更にHepG2細胞のスフェア懸濁液100μLを加えた。ピペッティングによりスフェアを分散させ、37℃で5日間インキュベートし、培地組成物中におけるスフェアの分散状態を目視にて観察した。培地組成物中で均一にスフェアが浮遊した状態を◎、上清を生じた状態を○、沈降状態を×として評価した。実施例1乃至5、比較例3乃至5の培地組成物の観察結果を表43および
図22乃至29へ示した。
【0224】
この結果、実施例1乃至実施例4では培地組成物中にては6日間培養の後も浮遊状態であった。一方で実施例5および比較例3乃至比較例5の培地組成物では、全てのスフェアは沈降しており、更にスフェア同士が凝集していた。
【0225】
【表43】
【0226】
[実施例1’乃至実施例4’]
製造例1乃至製造例3で調製したセルロースナノファイバーMNC、PNC及びキチンナノファイバーへ滅菌水を加えることで、それぞれ1%(w/v)水分散液を調製した。一方で、脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製:DAG)1質量部へ99体積部の滅菌水を加え、121℃、20分間オートクレーブ処理することによって溶解および滅菌させ、1%(w/v)水溶液を調製した。前述にて調製した1%(w/v)ファイバー分散液または脱アシル化ジェランガム水溶液を用いて、終濃度が0.01%、0.03%、0.06%及び0.1%(w/v)となるように10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地(日水製薬社製、high−glucose)に添加し、培地組成物を調製した。
【0227】
[実施例5’、及び比較例3’乃至比較例5’]
κ‐カラギーナン(GENUGEL WR−80−J、三晶株式会社製:Car)、キサンタンガム(KELTROL CG、三晶株式会社製:Xan)、ダイユータンガム(KELCO CRETE DG−F、三晶株式会社製:DU)、アルギン酸Na(ダックアルギン酸NSPM、フードケミファ社製:Alg)1質量部へ99体積部の滅菌水を加え、121℃、20分間オートクレーブ処理することによって溶解および滅菌させ、それぞれ1%(w/v)多糖水溶液を調製した。前述により調製した各多糖水溶液について、実施例5乃至8と同様な操作により、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地(日水製薬社製)へ終濃度0.01%、0.03%、0.06%及び0.1%(w/v)となるように多糖水溶液を添加し、培地組成物を調製した。
【0228】
[試験例8:細胞増殖試験]
ヒト乳癌細胞株MCF−7(DSファーマバイオメディカル社製)及びヒトメラノーマ細胞株A375(ATCC製)を、33333細胞/mLとなるように実施例1’乃至実施例5’および比較例3’乃至比較例5’にて調製した培地組成物に播種した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)のウェルに1ウェル当たり150μLになるように分注した。なお、陰性対照としてナノファイバーまたは多糖を含まない同上培地にMCF7細胞或いはA375細胞を懸濁したものを分注した。引き続き、本プレートをCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて最大6日間静置状態で培養した。2日間及び6日間培養後の培養液に対して、ATP試薬150μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。
【0229】
その結果、PNC、MNC、ナノキチンを含む当該培地組成物で細胞凝集塊の大きさが過剰になることなく、均一に分散された状態にて培養することが可能であり、効率的に増殖することが確認された。一方、アルギン酸ナトリウムを含む当該培地組成物では、増殖促進を認めなかった。MCF7細胞の静置培養2日間および6日間後のRLU値(ATP測定、発光強度)を表44乃至表47、および6日間後のRLU値を
図30乃至
図33に、A375細胞の結果を表48乃至表51、および6日間後のRLU値を
図34乃至
図37に示す。2日間培養の凝集塊の顕微鏡観察において、MCF7細胞の結果を
図38に、A375細胞の結果を
図39に示す。
【0230】
【表44】
【0231】
【表45】
【0232】
【表46】
【0233】
【表47】
【0234】
【表48】
【0235】
【表49】
【0236】
【表50】
【0237】
【表51】
【0238】
[試験例9:3T3−L1細胞を用いた保存試験]
マウス前駆脂肪細胞株3T3−L1(ATCC社製)を、10%FBS含有DMEM培地を用いて10cmポリスチレンシャーレ上に播種し、5%CO
2、37℃に設定したインキュベーター内で培養した。3T3−L1細胞がコンフルエントになった状態で、培地を吸引除去し、D−PBS(和光純薬社製)でFBSを取り除き、0.25%Trypsin及び1mMEDTA含有液1ml(和光純薬社製)を上記ポリスチレンシャーレに添加した。細胞の剥離を確認した後、10体積%FBS含有DMEM培地を添加してシャーレから細胞を回収し、遠心分離管に移した。300×gで遠心分離をした後、上清を取り除いた。約100×10
4細胞/mLの細胞懸濁液として、1.5mLマイクロチューブに100μLの細胞懸濁液を添加し、10%(v/v)FBSを含むように予め調製しておいた実施例1乃至実施例2、実施例4乃至実施例5、比較例3および比較例5の培地組成物を100μLずつ添加し、ピペッティングすることにより細胞懸濁液を作製した。
密閉状態で室温下にて10日間静置状態で保存し、3日、10日間経過後の細胞懸濁液の一部を10%FBS含有DMEM培地で1/10希釈し、希釈した細胞懸濁液100μLにATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、15分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。陰性対照は多糖を含まない培地のみのサンプルとした。
【0239】
その結果、陰性対照または比較例3および比較例5の培地組成物の各細胞生存率は、3乃至10日間の室温保存でATP値が顕著に低下したのに対し、実施例1乃至実施例2および実施例4の培地組成物では、ATP値の低下が抑えられており細胞保護効果を示した。生細胞数の結果を表52に示す。
【0240】
【表52】
【0241】
[試験例10:CHO−K1細胞を用いた保存試験]
チャイニーズハムスター卵巣株CHO−K1−hIFNβ細胞(北九州高等専門学校、川原教授より譲渡)を、10%FBS含有F12培地を用いて10cmポリスチレンシャーレ上に播種し、5%CO
2、37℃に設定したインキュベーター内で培養した。CHO−K1−hIFNβ細胞がコンフルエントになった状態で、培地を吸引除去し、D−PBS(和光純薬社製)でFBSを取り除き、0.25%Trypsin及び1mMEDTA含有液1ml(和光純薬社製)を上記ポリスチレンシャーレに添加した。細胞の剥離を確認した後、10%FBS含有F12培地を添加してシャーレから細胞を回収し、遠心分離管に移した。300Xgで遠心分離をした後、上清を取り除いた。約5x10
6細胞/mLの細胞懸濁液として、1.5mLマイクロチューブに25μLの細胞懸濁液を添加し、10%(v/v)FBSを含むように予め調製しておいた実施例2、実施例4の培地組成物を25μLずつ添加し、ピペッティングすることにより細胞懸濁液を作製した。密閉状態で室温下にて1日間保存後の細胞懸濁液の一部を10%FBS含有F12培地で1/10希釈し、希釈した細胞懸濁液100μLにATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。陰性対照は多糖を含まない培地のみのサンプルとした。
【0242】
その結果、陰性対照での各細胞生存率は、1日間室温で保存するとATP値が低下したのに対し実施例2および実施例4の培地組成物では、播種時レベルのATP値を示し、細胞保護効果を示した。生細胞数の結果を表53に示す。
【0243】
【表53】
【0244】
[試験例11:3T3−L1細胞を用いた保存試験、多糖類の濃度変更]
マウス前駆脂肪細胞株3T3−L1(ATCC社製)を、10%FBS含有DMEM培地を用いて10cmポリスチレンシャーレ上に播種し、5%CO
2、37℃に設定したインキュベーター内で培養した。3T3−L1細胞が40%コンフルエントになった状態で、培地を吸引除去し、D−PBS(和光純薬社製)でFBSを取り除き、0.25%Trypsin及び1mMEDTA含有液1ml(和光純薬社製)を上記ポリスチレンシャーレに添加した。細胞の剥離を確認した後、10体積%FBS含有DMEM培地を添加してシャーレから細胞を回収し、遠心分離管に移した。300×gで遠心分離をした後、上清を取り除いた。約100×10
4細胞/mLの細胞懸濁液として、1.5mLマイクロチューブに100μLの細胞懸濁液を添加し、10%(v/v)FBSを含むように予め調製しておいた実施例2及び実施例4、比較例5の多糖類の濃度の異なる培地組成物を100μLずつ添加し、ピペッティングすることにより細胞懸濁液を作製した。
密閉状態で室温下にて8日間静置状態で保存し、0日、5日、8日間経過後の細胞懸濁液の一部を10%FBS含有DMEM培地で1/5希釈し、希釈した細胞懸濁液100μLにATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、15分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。陰性対照は多糖を含まない培地のみのサンプルとした。
【0245】
その結果、陰性対照または比較例5の培地組成物の各細胞生存率は、5乃至8日間の室温保存でATP値が顕著に低下したのに対し、実施例2および実施例4の培地組成物では、ATP値の低下が抑えられており細胞保護効果を示した。生細胞数の結果を表54に示す。
【0246】
【表54】
【0247】
[試験例12:MDCK細胞の細胞生存作用に対する効果]
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。本溶液を用いて10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地(和光純薬社製)に終濃度0.005%(w/v)および0.015%の脱アシル化ジェランガム添加した培地組成物あるいは脱アシル化ジェランガムを含まない未添加培地組成物を調製した。引き続き、血清を除去した培地で1昼夜培養した(スタベーション処理)イヌ腎臓尿細管上皮細胞株MDCK(DSファーマバイオメディカル社製)を、100000細胞/mLとなるように上記の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物に播種した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)のウェルに1ウェル当たり100μLになるように分注した。各プレートはCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて静置状態で培養し、15日間継続した。2、6、9、12、15日目の培養液に対してATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。
【0248】
その結果、本発明の培地組成物を用いてMDCK細胞を低接着プレート上で培養すると、生細胞数の減少を抑えることが明らかとなった。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表55に示す。
【0249】
【表55】
【0250】
[試験例13:Vero細胞の細胞生存作用に対する効果]
脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を0.3%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。本溶液を用いて5%(v/v)胎児ウシ血清を含むEmedium199培地(シグマ社製)に終濃度0.005%(w/v)および0.015%の脱アシル化ジェランガム添加した培地組成物あるいは脱アシル化ジェランガムを含まない未添加培地組成物を調製した。引き続き、血清を除去した培地で1昼夜培養した(スタベーション処理)サル腎臓上皮細胞株Vero(DSファーマバイオメディカル社製)を、100000細胞/mLとなるように上記の脱アシル化ジェランガムを添加した培地組成物に播種した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)のウェルに1ウェル当たり100μLになるように分注した。各プレートはCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて静置状態で培養し、15日間継続した。2、6、9、12、15日目の培養液に対してATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。
【0251】
その結果、本発明の培地組成物を用いてVero細胞を低接着プレート上で培養すると、生細胞数の減少を抑えることが明らかとなった。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表56に示す。
【0252】
【表56】
【0253】
[試験例14:MDCK細胞増殖作用に対する各基材の効果]
製造例2で調製したセルロースナノファイバー(PNC)、キチンナノファイバー(バイオマスナノファイバー BiNFi−S(ビンフィス) 2質量%、株式会社スギノマシン)および脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を1%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。無血清培地KBM220培地(コージンバイオ社製)に終濃度0.01%(w/v), 0.03%, 0.1%のセルロースナノファイバーを添加した培地組成物、無血清培地KBM220培地に終濃度0.01%(w/v), 0.03%, 0.1%のキチンナノファイバーを添加した培地組成物、無血清培地KBM220培地(コージンバイオ社製)に終濃度0.005%(w/v), 0.015%, 0.03%, 0.06%, 0.1%の脱アシル化ジェランガム添加した培地組成物、そして上記基材を含まない未添加培地組成物を調製した。引き続き、血清を除去した培地で1昼夜培養した(スタベーション処理)イヌ腎臓尿細管上皮細胞株MDCK(DSファーマバイオメディカル社製)を、100000細胞/mLとなるように上記のそれぞれの基材を添加した培地組成物に播種した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)のウェルに1ウェル当たり100μLになるように分注した。各プレートはCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて静置状態で培養し、14日間継続した。3、7、10、14日目の培養液に対してATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。
【0254】
その結果、本発明の培地組成物である脱アシル化ジェランガム、ナノセルロースファイバーPNC、そしてキチンナノファイバーを用いてMDCK細胞を低接着プレート上で培養すると、すべての基材添加でMDCK細胞の増殖促進作用が認められた。その中でキチンナノファイバーが最も強い効果を示した。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表57に示す。
【0255】
【表57】
【0256】
[試験例15:MDCK増殖作用に対するキチンナノファイバーの効果]
製造例1で調製したセルロースナノファイバー(PNC)、キチンナノファイバー(バイオマスナノファイバー BiNFi−S(ビンフィス) 2質量%、株式会社スギノマシン)および脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を1%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。無血清培地KBM220培地に終濃度0.0001%(w/v), 0.0003%, 0.001%, 0.003%, 0.01%, 0.02%, 0.03%のキチンナノファイバーを添加した培地組成物、無血清培地KBM220培地(コージンバイオ社製)に終濃度0.005%(w/v), 0.015%, 0.03%の脱アシル化ジェランガム添加した培地組成物、そして上記基材を含まない未添加培地組成物を調製した。引き続き、血清を除去した培地で1昼夜培養した(スタベーション処理)イヌ腎臓尿細管上皮細胞株MDCK(DSファーマバイオメディカル社製)を、100000細胞/mLとなるように上記の脱アシル化ジェランガムあるいはキチンナノファイバーを添加した培地組成物に播種した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)のウェルに1ウェル当たり100μLになるように分注した。各プレートはCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて静置状態で培養し、14日間継続した。5、9、12、15日目の培養液に対してATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き3点の平均値として生細胞の数を測定した。
【0257】
その結果、本発明の培地組成物である脱アシル化ジェランガムおよびキチンナノファイバーを用いてMDCK細胞を低接着プレート上で培養すると、両方の基材添加でMDCK細胞の増殖促進作用が認められた。その中でキチンナノファイバーは0.0001%以上の濃度で増殖促進効果を示し、特に0.001%以上で高い効果を示した。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表58に示す。
【0258】
【表58】
【0259】
[試験例16:MDCK細胞増殖作用に対するキチンナノファイバーの効果]
初回培養;
製造例2で調製したセルロースナノファイバー(PNC)、キチンナノファイバー(バイオマスナノファイバー BiNFi−S(ビンフィス) 2質量%、株式会社スギノマシン)を1%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。無血清培地KBM220培地に終濃度0.01%(w/v)のキチンナノファイバーを添加した培地組成物、無血清培地KBM220培地(コージンバイオ社製)およびキチンナノファイバーを含まない未添加培地組成物を調製した。引き続き、血清を除去した培地で1昼夜培養した(スタベーション処理)イヌ腎臓尿細管上皮細胞株MDCK(DSファーマバイオメディカル社製)を、75000細胞/mLとなるように上記のキチンナノファイバーを添加した培地組成物に播種した後、三角フラスコ125ml(コーニング社製、#431405)に1フラスコ当たり30mLになるように分注した。フラスコはCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて静置状態で培養し、6日間継続した。0、6日目の培養液をピペットで懸濁した後に100μLを3点分注し、それぞれにATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光置を差し引くことで生細胞の数を測定した。
【0260】
継代培養;
継代培養に対する効果を確認するために、0.01%キチンナノファイバーを含む培地でMDCK細胞を6日間培養した細胞懸濁液を用いて検討した。細胞懸濁液3mlと未添加培地組成物27mlを混合しキチンナノファイバー濃度を0.001%にした細胞懸濁液と、細胞懸濁液3mlと終濃度0.01%(w/v)のキチンナノファイバーを添加した培地組成物27mlを混合しキチンナノファイバー濃度を0.01%にした細胞懸濁液を、それぞれ三角フラスコ125mlに分注した。フラスコはCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて静置状態で培養し、14日間継続した。0、7、14日目の培養液をピペットで懸濁した後に100μLを3点ずつ分注し、それぞれにATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き3点の平均値として生細胞の数を測定した。
【0261】
その結果、本発明の培地組成物であるキチンナノファイバーを用いてMDCK細胞を三角フラスコ上で培養すると、MDCK細胞の増殖促進作用が認められた。さらにキチンナノファイバーを含有する培地を継ぎ足すと、MDCK細胞の増殖が認められ、トリプシンなどの処理無しに簡便に継代培養が出来ることが明らかとなった。初回培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表59に、継代培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表60に示す。
【0262】
【表59】
【0263】
【表60】
【0264】
[試験例17:各培地におけるキチンナノファイバーのMDCK細胞の増殖促進作用の比較]
製造例1で調製したセルロースナノファイバー(PNC)、キチンナノファイバー(バイオマスナノファイバー BiNFi−S(ビンフィス) 2質量%、株式会社スギノマシン)および脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を1%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後、90℃にて加熱しながらの撹拌により溶解し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。無血清培地KBM220培地(コージンバイオ社製)あるいはCosmedium 012培地(コスモバイオ社製)に終濃度0.001%(w/v)、0.01%のキチンナノファイバーを添加した培地組成物、無血清培地KBM220培地あるいはCosmedium 012培地に終濃度0.015%(w/v)、 0.03%の脱アシル化ジェランガム添加した培地組成物、そして上記基材を含まない未添加培地組成物を調製した。引き続き、血清を除去した培地で1昼夜培養した(スタベーション処理)イヌ腎臓尿細管上皮細胞株MDCK(DSファーマバイオメディカル社製)を、100000細胞/mLとなるように上記の脱アシル化ジェランガムあるいはキチンナノファイバーを添加した培地組成物に播種した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)のウェルに1ウェル当たり100μLになるように分注した。各プレートはCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて静置状態で培養し、12日間継続した。4、8、12日目の培養液に対してATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き3点の平均値として生細胞の数を測定した。
【0265】
その結果、本発明の培地組成物である脱アシル化ジェランガムおよびキチンナノファイバーを用いてMDCK細胞を低接着プレート上で培養すると、両方の基材添加でMDCK細胞の増殖促進作用が認められた。その中でキチンナノファイバーは0.001%の濃度以上でCosmedium012培地を用いた条件でも高い増殖能を示した。4日目の細胞状態について顕微鏡観察したところ、脱アシル化ジェランガムを用いた培地条件では細胞凝集塊(スフェア)が分散しているだけであるが、キチンナノファイバーを用いた培地条件ではスフェアおよび細胞がぶどうの房状に増殖している様子が観察された。KBM220培地を用いた培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表61に、Cosmedium012培地を用いた培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表62に示す。4日間培養の顕微鏡観察の結果を
図40に示す。
【0266】
【表61】
【0267】
【表62】
【0268】
[試験例18:キトサンナノファイバーとキチンナノファイバーのMDCK細胞増殖作用の比較]
キトサンナノファイバー(バイオマスナノファイバー BiNFi−S、1質量%、株式会社スギノマシン)とキチンナノファイバー(バイオマスナノファイバー BiNFi−S(ビンフィス) 2質量%、株式会社スギノマシン)及び、参考例1と同様にして脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)を1%(w/v)となるように超純水(Milli−Q水)に懸濁した後に90℃にて撹拌しながら調製した水溶液をそれぞれ121℃で20分オートクレーブ滅菌した。無血清培地KBM220培地(コージンバイオ社製)に終濃度0.001%(w/v)、0.003%、0.01%、0.03%のキトサンナノファーバーあるいはキチンナノファイバーを添加した培地組成物、無血清培地KBM220培地に終濃度0.015%(w/v)、0.03%の脱アシル化ジェランガム添加した培地組成物、そして上記基材を含まない未添加培地組成物を調製した。引き続き、血清を除去した培地で1昼夜培養した(スタベーション処理)イヌ腎臓尿細管上皮細胞株MDCK(DSファーマバイオメディカル社製)を、100000細胞/mLとなるように上記の脱アシル化ジェランガム、キトサンナノファイバーあるいはキチンナノファイバーを添加した培地組成物に播種した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)のウェルに1ウェル当たり100μLになるように分注した。各プレートはCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2)内にて静置状態で培養し、12日間継続した。7、11日目の培養液に対してATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き3点の平均値として生細胞の数を測定した。
【0269】
その結果、本発明の培地組成物であるキトサンナノファイバーおよびキチンナノファイバーを用いてMDCK細胞を低接着プレート上で培養すると、脱アシル化ジェランガムよりも高い増殖促進作用が認められた。またキチンナノファイバーは0.001%の濃度の条件でも高い増殖能を示したが、キトサンナノファイバーは0.01%の濃度から高い増殖能を示していた。RLU値(ATP測定、発光強度)を表63に示す。
【0270】
【表63】
【0271】
[試験例19:新鮮カニクイザル初代肝細胞保存試験]
製造例2で調製したセルロースナノファイバー(PNC)及び、実施例5と同様にしてκ‐カラギーナン(GENUGEL WR−80−J、三晶株式会社製:Car)1質量%(w/v)水溶液を作製して使用した。10%FBS含有Williams’E培地(ライフテクノロジー社製)に終濃度0.03%(w/v)、0.1%のPNCあるいはカラギーナンを添加した培地組成物、そして上記基材を含まない未添加培地組成物を調製した。引き続き、新鮮カニクイザル初代肝細胞(株式会社イナリサーチ社製)を、2,500,000細胞/mLとなるように上記のPNCあるいはカラギーナンを添加した培地組成物に混合した後、細胞凍結用Cryogenic vial(サーモサイエンティフィック社製)に分注した。なお、基材を含まない同上培地にカニクイザル初代肝細胞を懸濁したものを分注した。上記の操作は2ロット実施した。引き続き、本チューブを冷蔵(約4℃)にて2日間静置状態で輸送した。2日間冷蔵条件下で輸送した後の、細胞懸濁液に対してトリパンブルー試薬(ライフテクノロジー社製)を用いて、懸濁液中の細胞生存率を測定した。
【0272】
その結果、本発明の培地組成物であるPNCを用いて新鮮サル初代肝細胞を冷蔵下で輸送すると、未添加条件よりも高い生存率を示した。一方、カラギーナンにはそのような作用を認めなかった。生存率を表10に示す。
【0273】
【表64】
【0274】
[試験例20:再播種後の増殖性評価]
マウス前駆脂肪細胞株3T3−L1(ATCC社製)を、10%FBS含有DMEM培地を用いて10cmポリスチレンシャーレ上に播種し、5%CO
2、37℃に設定したインキュベーター内で培養した。3T3−L1細胞がコンフルエントになった状態で、培地を吸引除去し、D−PBS(和光純薬社製)でFBSを取り除き、0.25%Trypsin及び1mMEDTA含有液1ml(和光純薬社製)を上記ポリスチレンシャーレに添加した。細胞の剥離を確認した後、10体積%FBS含有DMEM培地を添加してシャーレから細胞を回収し、遠心分離管に移した。300×gで遠心分離をした後、上清を取り除いた。約200×10
4細胞/mLの細胞懸濁液として、1.5mLマイクロチューブに150μLの細胞懸濁液を添加し、10%(v/v)FBSを含むように予め調製しておいた実施例2(PNC濃度0.06%)乃至実施例4(DAG濃度0.03%)、比較例5(Alg濃度0.03%)の培地組成物および陰性対照として10体積%FBS含有DMEM培地を150μLずつ添加し、ピペッティングすることにより細胞懸濁液(約100×10
4細胞/mL)を作製した。
【0275】
密閉状態で室温下にて7日間静置状態で保存した後、細胞懸濁液の一部を10%FBS含有DMEM培地で希釈し、7日間保存前の播種濃度を基準として約10×10
4細胞/mLの細胞懸濁液を調製した。96穴マルチプレート(コーニング社製)へ100μLずつ細胞懸濁液を播種し、播種当日、1日後および2日後にATP試薬100μL(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を添加して15分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定(n=5)し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。
【0276】
その結果、7日間保存後の再播種当日の陰性対照または比較例5の培地組成物の生細胞数(RLU値)は、実施例2乃至実施例4の培地組成物と比較して著しく低い結果となった。再播種一日後の生細胞数(RLU値)は実施例2及び実施例4それぞれ再播種当日と比較して増加しており、保存後の細胞も増殖性を保持していた。生細胞数の結果を表65に示す。
【0277】
【表65】