特許第6536645号(P6536645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6536645カラーフィルタ用表面処理有機顔料、その製造方法及びカラーフィルタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6536645
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】カラーフィルタ用表面処理有機顔料、その製造方法及びカラーフィルタ
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/08 20060101AFI20190625BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20190625BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20190625BHJP
   C09B 67/04 20060101ALI20190625BHJP
   C09B 47/10 20060101ALI20190625BHJP
   C09B 47/04 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   C09B67/08 C
   G02B5/20 101
   C09B67/20 B
   C09B67/04
   C09B47/10
   C09B47/04
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-183664(P2017-183664)
(22)【出願日】2017年9月25日
(62)【分割の表示】特願2013-64134(P2013-64134)の分割
【原出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2017-226857(P2017-226857A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2017年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-73768(P2012-73768)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 正典
(72)【発明者】
【氏名】徳岡 真由美
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮
(72)【発明者】
【氏名】郡司 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】清都 育郎
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠治
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−217019(JP,A)
【文献】 特開2010−235782(JP,A)
【文献】 特開平09−104834(JP,A)
【文献】 特開平04−220465(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/096923(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量換算で有機顔料(A)100部当たり、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、および、グリシジルメタクリレートを含む単量体混合物を重合して得られた重合体(B)0.1〜15部を含有することを特徴とするカラーフィルタ用表面処理有機顔料。
【請求項2】
前記有機顔料(A)が、フタロシアニン顔料である請求項記載のカラーフィルタ用表面処理有機顔料。
【請求項3】
液媒体中、請求項に記載の重合体(B)不揮発分の存在下でフタロシアニン顔料(A)を加圧加熱するか、または、請求項に記載の重合体(B)不揮発分の存在下で有機顔料(A)をソルベントソルトミリングする請求項記載のカラーフィルタ用表面処理有機顔料の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のカラーフィルタ用表面処理有機顔料を、画素部に含有することを特徴とするカラーフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタ用表面処理有機顔料、その製造方法及びカラーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機顔料を着色が必要な媒体に分散させる際には、より簡便に分散できるように、或いは分散後の媒体中での安定性をより増すために、界面活性剤や有機顔料誘導体による有機顔料の表面処理がよく行われる。この表面処理により、何も表面処理をされていない有機顔料の分散性や分散安定性を向上させることが出来る。
【0003】
分散が必要な媒体が合成樹脂である場合には、この表面処理に当たり、合成樹脂もよく使われている。具体的には、アクリル樹脂不揮発分の存在下で有機顔料をソルベントソルトミリングする方法などが知られている。
【0004】
有機顔料の合成樹脂による表面処理については、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等といった、大括りのポリマーのカテゴリー別には検討がなされているが、具体的にどの様なカテゴリーのポリマーが分散性や分散安定性での改良効果が高いのか、及び同じカテゴリーのポリマー内でどの様な構造のポリマーが、選択的に、最も前記改良効果が高いのかについては、体系的な検討が行われているわけではなく、不明な点も多い。
【0005】
ところで、インクジェット用インクやカラーフィルタ用カラーレジスト等の高機能用途に用いられる有機顔料は、塗料や熱可塑性プラスチック成形品の着色に用いられる汎用有機顔料に比べて、高精彩な印刷が要求されることから、より微細な有機顔料が求められている。
【0006】
しかしながら、微細な有機顔料は、汎用有機顔料よりも凝集しやすいことから、必ずしも、汎用用途で用いられている有機顔料の表面処理の手法によって、どの様な合成樹脂を用いて表面処理しても、期待した通りの改良効果が得られるわけではなく、試行錯誤によって、最適なカテゴリーで最適な構造の合成樹脂を選択しているのが実態である。
【0007】
具体的には、例えば、カラーフィルタ用カラーレジストの調製に用いる有機顔料の表面処理方法としては、(メタ)アクリル樹脂不揮発分の存在下で有機顔料をソルベントソルトミリングする方法(特許文献1)、液媒体中、ポリウレタン樹脂の存在下で有機顔料を加圧加熱する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−179111号公報
【特許文献2】WO10/061830公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来の技術の製造方法で表面処理された有機顔料から得られた着色物の彩度は未だ不充分であり、熱履歴を長時間に亘り受けると着色物の色相が大きく変化してしまい耐熱性にも劣っているのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは上記課題を解決すべく、各種の合成樹脂を用いて有機顔料の表面処理効果を鋭意検討したところ、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体で表面処理を行うと、上記した欠点が解消された着色物が得られること、特に、製造工程或いは使用条件で高温に長時間曝される様な液晶表示装置に用いられるカラーフィルタにおいて、輝度の耐熱性に優れた液晶表示が可能なカラーフィルタとなることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、質量換算で有機顔料(A)100部当たり、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分0.1〜15部を含有することを特徴とするカラーフィルタ用表面処理有機顔料を提供する。
また本発明は、液媒体中、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分の存在下で有機顔料(A)を加圧加熱するか、または側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分の存在下で有機顔料(A)をソルベントソルトミリングするカラーフィルタ用表面処理有機顔料の製造方法を提供する。
更に本発明は、上記したいずれかの表面処理有機顔料を、画素部に含有することを特徴とするカラーフィルタ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面処理有機顔料は、有機顔料(A)と特定共重合体(B)とを所定割合で含有していることから、熱履歴を長時間に亘り受けても着色物の色相変化が小さい、すなわち着色の耐熱性に優れた着色物が得られるという格別顕著な技術的効果を奏する。
また本発明の表面処理有機顔料の製造方法は、上記した表面処理有機顔料が簡便に得られるという格別顕著な技術的効果を奏する。
更に本発明のカラーフィルタは、上記した表面処理有機顔料又は上記した製造方法にて得られた表面処理有機顔料を画素部に含有することから、輝度の耐熱性により優れた液晶表示が可能であるという格別顕著な技術的効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の表面処理有機顔料は、質量換算で有機顔料(A)100部当たり、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分0.1〜15部を含有することを特徴とする。
【0014】
有機顔料(A)としては、公知慣用のものがいずれも挙げられ、例えば、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、アゾ顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、有機金属錯体顔料等が挙げられる。
【0015】
本発明における有機顔料(A)は、どの様な粒子径のものであっても良いが、着色剤は、乾燥粉体において、一次粒子の平均粒子径100nm以下であると、より鮮明な着色物を得られやすいので好ましい。一方で、粒子径が小さい有機顔料(A)ほど一般的に耐熱性が低い場合が多いので、鮮明性を損なわずに何等かの手段で耐熱性を改良することが必要となる。
【0016】
本発明において一次粒子の平均粒子径とは、次の様に測定される。まず、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡で視野内の粒子を撮影する。そして、二次元画像上の、凝集体を構成する一次粒子の50個につき、個々の粒子の内径の最長の長さ(最大長)を求める。個々の粒子の最大長の平均値を一次粒子の平均粒子径とする。
【0017】
また、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B
【0018】
)としても、公知慣用のものをいずれも用いることが出来る。(メタ)アクリル酸エステルとは、(メタ)アクリル酸とその他の各種アルコールとから形成される様なエステル結合を含有する化合物であり、上記アルコールに由来する、エステル結合COOの末端に炭素原子鎖を含有するものを言う。典型的には、前記炭素鎖がアルキル基であるものが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと称されている。(メタ)アクリル酸アルキルエステルで言えば、側鎖はアルキル基を意味する。当業界では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルばかりでなく、上記炭素鎖がアルキル基以外の化合物もよく知られていることから、本発明においては(メタ)アクリル酸アルキルエステルだけでなく、炭素鎖が、アルキル基以外の化合物を含めて、(メタ)アクリル酸エステルと称するものとする。
【0019】
この様な(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート〔ラウリル(メタ)アクリレート〕、オクタデシル(メタ)アクリレート〔ステアリル(メタ)アクリレート〕等のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;
【0020】
メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、p−ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、p−ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエーテル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステル;
などを挙げることが出来る。
【0021】
本発明において、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)とは、上記した様な各種(メタ)アクリル酸エステルの中から側鎖の炭素原子数が異なるものを2種以上選択して組み合わせて共重合させることにより得られた重合体を意味する。
【0022】
共重合体(B)としては、ガラス転移温度(Tg)が出来るだけ高い方が、それ自体の耐熱性に優れるものの、有機顔料(A)と併用した際に、相互作用により優れた耐熱性を発揮できる点で、Tg0〜150℃である共重合体がより好ましい。
【0023】
共重合体(B)としては、どの様な分子量のものでも用いることは出来るが、具体的には、重量平均分子量5,000〜100,000の共重合体が、有機顔料(A)に対する親和性が大きく、耐熱性の向上効果もより大きいことから好ましい。
【0024】
共重合体(B)は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来より公知の種々の反応方法によって合成することが出来る。この際には、公知慣用の重合開始剤、界面活性剤及び消泡剤を併用することも出来る。
【0025】
共重合体(B)は、上記した側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上を必須単量体として、それらに共重合可能なその他の共単量体を併用して共重合させたものであっても良い。
【0026】
この様な共単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、第3級カルボン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有単量体;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン等のビニルケトン類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、tert−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
【0027】
本発明者等によれば、共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル2種以上に由来する、異なる炭素原子数の側鎖のみならず、更にエポキシ基をも含有する共重合体の方が、異なる炭素原子数の側鎖のみを含有する共重合体よりも、熱履歴を受けてもより色相が変化し難く、耐熱性に優れていることを知見した。
【0028】
前記したエポキシ基の共重合体への導入方法としては、特に限定されず、エポキシ基を含有したラジカル重合性単量体を必須成分として重合しても、先に合成した共重合体に後からエポキシ基修飾をしても良いが、導入が容易であることから、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上とエポキシ基を含有した単量体を必須成分として重合する方が好ましい。
【0029】
エポキシ基を有する単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体が挙げられる。
【0030】
共重合体(B)としては、好適な、前記した側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上とエポキシ基を含有した単量体を必須成分として重合した共重合体であり、共重合体(B)を構成する全単量体を質量換算で100%としたときに、エポキシ基を有する単量体が全単量体の3〜35質量%である共重合体が、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上のみからの共重合体に比べても、より高い耐熱性が得られると共に、着色が必要な被着色媒体への分散性も良好となることから好ましい。
【0031】
エポキシ基を有する単量体が全単量体の3〜35質量%である共重合体においては、エポキシ基を有する単量体の占める量が多いほど、熱履歴を受けた際の彩度や色度の変化が小さくなる傾向にある。
共重合体(B)中のエポキシ基は、その一部または全部が求核試薬と反応して開環した官能基となっていても良い。例えば、共重合体中のエポキシ基の全部が塩酸と反応してα−クロロヒドリン基となったものを共重合体(B)として用いたときも、元のエポキシ基を含有する共重合体を用いたときと同様の耐熱性改善効果がある。
【0032】
本発明の表面処理有機顔料は、質量換算で有機顔料(A)100部当たり、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分が0.1〜15部となる様に含有されていれば良いが、中でも有機顔料(A)100部当たり0.5〜12部、特に1〜10部であると、共重合体(B)を含有させることより、本発明における技術的効果、被着色媒体への分散性や分散安定性等のその他の技術的効果、経済性等の最もバランスが取れた表面処理有機顔料と出来るので好ましい。
【0033】
この様な本発明の表面処理有機顔料は、有機顔料(A)と共重合体(B)とを任意の手段で混合することで調製することが出来る。簡便な調製方法としては、例えば、有機顔料(B)と共重合体(B)不揮発分とを混合する方法、共重合体(B)の液媒体溶液中に有機顔料(A)を混合し撹拌し、濾過乾燥する方法等がある。
【0034】
しかしながら、本発明者等は、前記した簡便な調製方法に比べて、より有機顔料(A)と共重合体(B)の強い相互作用が期待できる方法、具体的には、液媒体中、側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分の存在下で有機顔料(A)を加圧加熱するか、または側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体(B)不揮発分の存在下で有機顔料(A)をソルベントソルトミリングすることで調製された表面処理有機顔料の方が、前記した簡便な方法で調製された表面処理有機顔料に比べて、より大きな耐熱性改良効果が奏されることを、この度初めて知見した。以下、前者の調製方法を加圧加熱法、後者の調製方法をソルベントソルトミリング法と称する。
【0035】
本発明の上記した二つの表面処理有機顔料の製造方法は、有機顔料(A)として、例えばC.I.ピグメントブルー15:6(ε型銅フタロシアニン顔料)、C.I.ピグメントグリーン36(ハロゲン化銅フタロシアニン顔料)及びC.I.ピグメントグリーン58(ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料)の様なフタロシアニン顔料を含む表面処理有機顔料を得るのに、特に優れた製造方法である。
【0036】
まず、加圧加熱法について説明する。加圧加熱法によれば、例えば、有機顔料(A)と、共重合体(B)を液媒体に溶解または分散させた溶液や分散液とを混合攪拌して、加熱を行なうことで、加熱を行なわない場合に比べて共重合体(B)を更に均一かつ確実に有機顔料(A)の表面を被覆することができる。また、加圧加熱を行なうことで、単なる加熱の場合の有機顔料(A)粒子の表面への共重合体(B)の被覆のみならず、有機顔料(A)粒子の細孔の様な空隙部分への共重合体(B)の浸透を促進することができ、より被覆の効果が高まる。
【0037】
このとき、液媒体として、水のみまたは水を主体として水溶性有機溶剤を含む液媒体(水性媒体という)を用いる様にすると、液媒体として、有機溶媒のみを用いて前記混合加熱を行う場合に比べて、有機顔料(A)自体の結晶形状等の変化が少なく、色相変化が小さくなるので好ましい。
【0038】
上記した水溶性有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等が挙げられる。
【0039】
加圧加熱に当たり用いる水性媒体は、有機顔料(A)に対して大過剰であることが好ましく、質量換算で有機顔料(A)1部当たり、15〜100部であることが加圧加熱によりもたらされる効果を最大限発揮させ、有機顔料(A)の被覆に関与する仕込んだ共重合体(B)の量をより高め、後記する濾過工程での共重合体(B)の流出を低減したり、同工程時間自体をより短縮する上でも、より好ましい。
【0040】
加圧加熱法にて、有機顔料(A)と共重合体(B)とから表面処理有機顔料を調製する場合、最終的に得られる表面処理有機顔料が、質量換算で有機顔料(A)100部当たり共重合体(B)0.5〜12部となる様に、両者が仕込まれるが、有機顔料(A)と共重合体(B)との間の吸着を含む相互作用が強いことから、仕込んだ共重合体(B)不揮発分は、流出することなく、質量換算でその不揮発分の少なくとも70%が、有機顔料(A)にとどまる。
【0041】
有機顔料(A)と共重合体(B)との加熱は、両者を混合した後、密閉系にて、温度100〜150℃での攪拌下、30分〜5時間の範囲にて行なうことができる。こうして密閉系で加熱を行なうことで、加圧状態が形成され、前記した様に、顔料粒子の空隙にまで、共重合体(B)が浸透することになり、単に粒子表面だけを被覆するのに比べて、より優れた効果が発現される。
【0042】
次に、ソルベントソルトミリング法について説明する。ソルベントソルトミリング法によれば、例えば、有機顔料(A)と共重合体(B)を、水溶性無機塩と親水性有機溶剤で機械的応力を加えて混練することで、有機顔料(A)の粒子径を微細にすると共に、粒子形状を略立方体状にした上で、共重合体(B)を均一かつ確実に有機顔料(A)の表面に被覆することができる。
【0043】
このソルベントソルトミリングは、具体的には、有機顔料と、水溶性無機塩と、それを溶解しない親水性有機溶剤とを混練機に仕込み、その中で混練摩砕が行われる。前記混練において、原料の結晶型の変換を意図しない場合には、有機顔料(A)として、市販のε型銅フタロシアン顔料を混練の原料として用いることが出来る。一方、結晶型の変換等を意図する場合には、上記有機顔料(A)として、混練後とは異なる結晶型の粗製有機顔料を混練の原料として用いることも出来る。具体的には、ε型銅フタロシアニン顔料は、粗製α型銅フタロシアン顔料を原料として上記した混練によっても得ることが出来る。
【0044】
ソルベントソルトミリング法にて、有機顔料(A)と共重合体(B)とから表面処理有機顔料を調製する場合、最終的に得られる表面処理有機顔料が、有機顔料(A)100部当たり共重合体(B)0.5〜12部となる様に、両者が仕込まれるが、有機顔料(A)と共重合体(B)との間の吸着を含む相互作用が強いことから、加圧加熱法と同様に、仕込んだ共重合体(B)不揮発分は、ほとんど流出することなく、質量換算でその不揮発分の少なくとも70%が、有機顔料(A)にとどまる。
【0045】
水溶性無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を用いることが好ましい。また、平均粒子径0.5〜50μmの無機塩を用いることがより好ましい。この様な無機塩は、通常の無機塩を微粉砕することにより容易に得られる。
【0046】
また、当該無機塩の使用量は、質量換算で有機顔料(A)1部に対して8〜20部とするのが好ましく、10〜15部とするのがより好ましい。
【0047】
水溶性有機溶剤としては、結晶成長を抑制し得るものが好適に使用でき、例えばジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール、液体ポリプロピレングリコール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2−プロパンジオール等を用いることができるが、エチレングリコール又はジエチレングリコールが好ましい。
【0048】
当該水溶性有機溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、質量換算で有機顔料(A)1部に対して0.01〜5部が好ましい。
【0049】
混練温度は、60〜150℃の間で行うことが好ましい。有機顔料(A)が銅フタロシアニン顔料の場合、上記温度が80〜120℃の間であると、ε型銅フタロシアニンのε化率(銅フタロシアニンに含まれるε型結晶化率)を高くすることが出来、後記する耐熱性、コントラスト等の低下も少なくすることが出来るので、こうして得られた表面処理有機顔料は、カラーフィルタ用として好ましい。
【0050】
この混練に用いる装置としては、ニーダー、ミックスマーラー、特開2007−100008公報に記載のプラネタリー型ミキサーである井上製作所株式会社製のトリミックス(商標名)や、特開平4−122778号公報に記載の連続式二軸押出機や、特開2006−306996号公報に記載の連続式一軸混練機である浅田鉄工株式会社製のミラクルKCK等を用いることができる。
【0051】
有機顔料(A)としてフタロシアニン顔料を用いる場合には、当該表面処理有機顔料を調製する方法としては、加圧加熱法もソルベントソルトミリング法も採用し得るが、有機顔料(A)として、金属フタロシアニン顔料を含有する表面処理有機顔料を得る場合には、ソルベントソルトミリング法を採用するのが好ましく、有機顔料(A)として、ハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含有する表面処理有機顔料を得る場合には、加圧加熱法を採用するのが好ましい。
【0052】
加圧加熱法でもソルベントソルトミリング法でも、液媒中での加熱や加熱混練が行なわれた混合物は、例えば冷却し、そこから液媒体を除去し、必要に応じて、固形物を洗浄、濾過、乾燥、粉砕等をすることにより、有機顔料(A)と共重合体(B)不揮発分とを含有する本発明の表面処理有機顔料の粉体を得ることが出来る。
【0053】
洗浄としては、水洗、湯洗のいずれも採用できる。洗浄回数は、1〜5回の範囲で繰り返すことも出来る。洗浄することで、有機顔料(A)に吸着していない共重合体(B)を容易に除去することが出来る。必要であれば、結晶状態を変化させない様に、酸洗浄、アルカリ洗浄、溶剤洗浄を行ってもよい。表面処理有機顔料に含有された、有効成分である、共重合体(B)不揮発分の量(いわゆる歩留まり)は、例えば表面処理有機顔料の溶媒抽出による共重合体抽出量から、或いは、仕込共重合体(B)に対する濾液中の流出量から求めることが出来る。
【0054】
上記した濾別、洗浄後の乾燥としては、例えば、乾燥機に設置した加熱源による80〜120℃の加熱等により、顔料の脱水及び/又は脱溶剤をする回分式あるいは連続式の乾燥等が挙げられ、乾燥機としては一般に箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライアー等がある。特にスプレードライ乾燥はペースト作成時に易分散であるため好ましい。また、乾燥後の粉砕は、比表面積を大きくしたり一次粒子の平均粒子径を小さくするための操作ではなく、例えば箱型乾燥機、バンド乾燥機を用いた乾燥の場合のように顔料がランプ状等の塊となった際に顔料を解して粉末化するために行うものであり、例えば、乳鉢、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等による粉砕等が挙げられる。こうして、有機顔料(A)と共重合体(B)とを含有する表面処理有機顔料を主成分として含む乾燥粉末が得られる。
【0055】
本発明の表面処理有機顔料は、遊離金属、遊離金属イオン源の様な不純物を含んでいても良いが、それをカラーフィルタの画素部の着色に用いる様な場合は、前記した不純物は出来るだけ少ない方が好ましい。例えば、有機顔料(A)がフタロシアニン顔料の場合の表面処理有機顔料は、銅、亜鉛や、銅イオン、亜鉛イオンといった金属イオン源の含有量が出来るだけ少ない方が、液晶表示特性に悪影響が出難くなるので好ましい。含まれる遊離金属は、金属フタロシアニンを合成する際の残存する遊離金属である場合や、合成後の金属フタロシアニンの分解によって生成したものである場合がある。
【0056】
この様な、遊離金属、遊離金属イオン源は、特開2008−308605公報に記載されているように酸類で洗浄を行うことができる。使用される酸類は、例えば、塩酸、硫酸を挙げることができ、塩酸や硫酸の濃度は、0.5%〜4%が好ましい。また、洗浄時の温度は、50〜90℃が好ましい。また、水を用いて洗浄してもよい。
【0057】
カラーフィルタの耐熱性低下が少ない点で、有機顔料(A)として金属フタロシアニン顔料を含む本発明の表面処理有機顔料の場合は、遊離金属の含有率は、質量換算で表面処理有機顔料中に900ppm以下であることが好ましい。
【0058】
本発明における表面処理有機顔料は、液媒体中への分散性、分散安定性が高く、後記する顔料分散液の粘度は低く、かつ微細な粒子に分散していることからニュートン流動性も高いまま安定し、例えばこれからカラーフィルタ画素部を製造した場合には、均質な塗膜を形成して輝度、コントラストおよび光透過率のいずれもが高いカラーフィルタを得ることができる。
【0059】
こうして得られた本発明の表面処理有機顔料は、被着色媒体を着色した際の着色物が鮮明で彩度に優れ、熱履歴を長時間に亘り受けても着色物の色相が大きく変化せずに耐熱性に優れている。従って、カラーフィルタの画素部の着色をはじめとして、塗料、プラスチック、印刷インク、ゴム、レザー、捺染、電子写真用トナー、インクジェットインキ、熱転写インキなどの着色にも適する。
【0060】
本発明の表面処理有機顔料をカラーフィルタの画素部を形成するために用いる場合には、有機顔料(A)として金属フタロシアニン顔料を含む本発明の表面処理有機顔料には、必要に応じて、ジオキサジン顔料を更に含有させることが出来る。有機顔料(A)としてジケトピロロピロール顔料を含む本発明の表面処理有機顔料には、必要に応じて、アントラキン顔料を含有させることが出来る。有機顔料(A)としてハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含む本発明の表面処理有機顔料には、必要に応じて、キノフタロン顔料や有機金属錯体顔料を含有させることが出来る。
【0061】
更には、本発明の表面処理有機顔料には、有機顔料(A)のスルホン酸誘導体、同N−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、同N−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体、同フタルイミドアルキル誘導体等の有機顔料誘導体等や、ビックケミー社のディスパービック130、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック170、ディスパービック171、ディスパービック174、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック185、ディスパービック2000、ディスパービック2001、ディスパービック2020、ディスパービック2050、ディスパービック2070、ディスパービック2096、ディスパービック2150、ディスパービックLPN21116、ディスパービックLPN6919、エフカ社のエフカ46、エフカ47、エフカ452、エフカLP4008、エフカ4009、エフカLP4010、エフカLP4050、エフカLP4055、エフカ400、エフカ401、エフカ402、エフカ403、エフカ450、エフカ451、エフカ453、エフカ4540、エフカ4550、エフカLP4560、エフカ120、エフカ150、エフカ1501、エフカ1502、エフカ1503、ルーブリゾール社のソルスパース3000、ソルスパース9000、ソルスパース13240、ソルスパース13650、ソルスパース13940、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース20000、ソルスパース21000、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32000、ソルスパース36000、ソルスパース37000、ソルスパース38000、ソルスパース41000、ソルスパース42000、ソルスパース43000、ソルスパース46000、ソルスパース54000、ソルスパース71000、味の素株式会社のアジスパーPB711、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPB814、アジスパーPN411、アジスパーPA111等の分散剤や、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキッド系樹脂、ウッドロジン、ガムロジン、トール油ロジン等の天然ロジン、重合ロジン、不均化ロジン、水添ロジン、酸化ロジン、マレイン化ロジン等の変性ロジン、ロジンアミン、ライムロジン、ロジンアルキレンオキシド付加物、ロジンアルキド付加物、ロジン変性フェノール等のロジン誘導体等の、室温で液状かつ水不溶性の合成樹脂を含有させることが出来る。これら分散剤や、樹脂の添加は、フロッキュレーションの低減、顔料の分散安定性の向上、分散体の粘度特性を向上にも寄与する。
【0062】
本発明の表面処理有機顔料は、公知慣用の用途にいずれも使用できるが、カラーフィルタの画素部に含有させる場合には、それは、特に一次粒子の平均粒子径が0.01〜0.10μmであると、顔料凝集も比較的弱く、着色すべき合成樹脂等への分散性がより良好となる。
【0063】
上記した本発明の表面処理有機顔料又は本発明の製造方法で得られた表面処理有機顔料を、カラーフィルタのR,G,Bの各色の画素部に含有させることで、カラーフィルタとすることが出来る。具体的には、例えばC.I.ピグメントレッド254の様なジケトピロロピロール顔料を含有する本発明の表面処理有機顔料からはR画素が、C.I.ピグメントグリーン36や同58の様なハロゲン化金属フタロシアニン顔料を含有する本発明の表面処理有機顔料からはG画素が、C.I.ピグメントブルー15:6の様な金属フタロシアニン顔料を含有する本発明の表面処理有機顔料からはB画素を得ることが出来る。
【0064】
上記した通り、本発明の表面処理有機顔料は、公知の方法でカラーフィルタのR,G,B各色画素部のパターンの形成に用いることが出来る。典型的には、本発明のカラーフィルタ用表面処理有機顔料と、感光性樹脂とを必須成分して含むカラーフィルタ画素部用感光性組成物を得ることが出来る。
【0065】
カラーフィルタの製造方法としては、例えば、本発明の表面処理有機顔料を感光性樹脂からなる分散媒に分散させた後、スリットコート法、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット法等でガラス等の透明基板上に塗布し、ついでこの塗布膜に対して、フォトマスクを介して紫外線によるパターン露光を行った後、未露光部分を溶剤等で洗浄して各色パターンを得る、フォトリソグラフィーと呼ばれる方法が挙げられる。
【0066】
その他、電着法、転写法、ミセル電解法、PVED(Photovoltaic Electrodeposition)法の方法で各色画素部のパターンを形成して、カラーフィルタを製造してもよい。本発明の表面処理有機顔料は、熱履歴を受けても色相変化が小さいため、例えば、ベーキングを工程に含む様なカラーフィルタの製造方法においては、極めて有用である。
【0067】
カラーフィルタ画素部用感光性組成物を調製するには、例えば、本発明の表面処理有機顔料と、感光性樹脂と、光重合開始剤と、前記樹脂を溶解する有機溶剤とを必須成分として混合する。その製造方法としては、本発明の表面処理有機顔料と有機溶剤と必要に応じて分散剤を用いて分散液を調製してから、そこに感光性樹脂等を加えて調製する方法が一般的である。
【0068】
必要に応じて用いる分散剤としては、例えばビックケミー社のディスパービック(DisperbyK登録商標)130、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック170、エフカ社のエフカ46、エフカ47等が挙げられる。また、レベリング剤、カップリング剤、カチオン系の界面活性剤なども併せて使用可能である。
【0069】
有機溶剤としては、例えばトルエンやキシレン、メトキシベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル系溶剤、エトキシエチルプロピオネート等のプロピオネート系溶剤、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクタム、N−メチル−2−ピロリドン、アニリン、ピリジン等の窒素化合物系溶剤、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤、カルバミン酸メチルとカルバミン酸エチルの48:52の混合物のようなカルバミン酸エステル、水等がある。有機溶剤としては、特にプロピオネート系、アルコール系、エーテル系、ケトン系、窒素化合物系、ラクトン系、水等の極性溶媒で水可溶のものが適している。
【0070】
本発明の表面処理有機顔料100質量部当たり、300〜1000質量部の有機溶剤と、必要に応じて0〜100質量部の分散剤及び/又は0〜20質量部のフタロシアニン誘導体とを、均一となる様に攪拌分散して分散液を得ることができる。次いでこの分散液に、本発明の表面処理有機顔料1質量部当たり、3〜20質量部の感光性樹脂、感光性樹脂1質量部当たり0.05〜3質量部の光重合開始剤と、必要に応じてさらに有機溶剤を添加し、均一となる様に攪拌分散してカラーフィルタ画素部用感光性組成物を得ることができる。
【0071】
この際に使用可能な感光性樹脂としては、例えばウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド酸系樹脂、ポリイミド系樹脂、スチレンマレイン酸系樹脂、スチレン無水マレイン酸系樹脂等の熱可塑性樹脂や、例えば1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ビス(アクリロキシエトキシ)ビスフェノールA、3−メチルペンタンジオールジアクリレート等のような2官能モノマー、トリメチルロールプロパトントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等のような多官能モノマー等の光重合性モノマーが挙げられる。
【0072】
光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルパーオキサイド、2−クロロチオキサントン、1,3−ビス(4'−アジドベンザル)−2−プロパン、1,3−ビス(4'−アジドベンザル)−2−プロパン−2'−スルホン酸、4,4'−ジアジドスチルベン−2,2'−ジスルホン酸等がある。
【0073】
こうして調製されたカラーフィルタ画素部用感光性組成物は、フォトマスクを介して紫外線によるパターン露光を行った後、未露光部分を有機溶剤やアルカリ水等で洗浄することによりカラーフィルタとなすことができる。
【0074】
以下、合成例、比較合成例、実施例、比較例を用いて、本発明を具体的に示す。これらの例中、「%」は質量パーセントを意味するものとする。
【0075】
(合成例1)
攪拌機、温度計、冷却管および窒素導入管を装備した4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1540部を仕込み、窒素気流下で110℃に昇温した後、メチルメタクリレート623部、n−ブチルメタクリレート307部、グリシジルメタクリレート70部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(以下、TBPEHと略称する。)18部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃にて7時間反応させて、不揮発分40.5%、重量平均分子量16,000の共重合体(B−1)の溶液を得た。
【0076】
(合成例2)
合成例1と同様の4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1540部を仕込み、窒素気流下で110℃に昇温した後、メチルメタクリレート597部、n−ブチルメタクリレート261部、グリシジルメタクリレート142部及びTBPEH18部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃にて7時間反応させて、不揮発分39.8%、重量平均分子量15,000の共重合体(B−2)の溶液を得た。
【0077】
(合成例3)
合成例1と同様の4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1540部を仕込み、窒素気流下で110℃に昇温した後、メチルメタクリレート547部、n−ブチルメタクリレート173部、グリシジルメタクリレート280部及びTBPEH18部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃にて7時間反応させて、不揮発分40.0%、重量平均分子量16,000の共重合体(B−3)の溶液を得た。
【0078】
(合成例4)
合成例1と同様の4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1540部を仕込み、窒素気流下で110℃に昇温した後、ベンジルメタクリレート856部、グリシジルメタクリレート142部及びTBPEH18部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃にて7時間反応させて、不揮発分38.1%、重量平均分子量14,000の重合体(B−4)の溶液を得た。
【0079】
(合成例5)
合成例2の重合体(B−2)の溶液を、減圧乾燥(60℃、10時間)して得られた重合体(B−2)の固体と塩酸を反応させることで、重合体(B−2)中のエポキシ基が開環してα−クロロヒドリン体となった重合体(B−5)を得た。
【0080】
(合成例6)
合成例1と同様の4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1540部を仕込み、窒素気流下で110℃に昇温した後、メチルメタクリレート597部、n−ブチルメタクリレート261部及びTBPEH18部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃にて7時間反応させて、不揮発分39.8%、重量平均分子量15,000の共重合体(B−6)の溶液を得た。
【実施例1】
【0081】
FASTOGEN GREEN A110(DIC株式会社製ポリ臭素化亜鉛フタロシアニン顔料)10gと、上記合成例1の共重合体(B−1)溶液(固形分40.5%)1.25gとを、水589gと共に、1リットルのオートクレーブに仕込み、撹拌しながら1時間で130℃に昇温し、その温度で1時間保持撹拌することで顔料表面への樹脂処理を行った。室温まで放冷した後、吸引ろ過、温水2リットルで洗浄した。得られたウエットケーキを90℃、12時間乾燥し、ラボミルにて粉砕し、一次粒子の平均粒子径100nm以下の表面処理有機顔料(X−1)を得た。
【実施例2】
【0082】
合成例1の共重合体(B−1)溶液(固形分40.5%)1.25gを、不揮発分で同量となる様に、合成例2の共重合体(B−2)溶液(固形分39.8%)を用いた以外は実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒子径100nm以下の表面処理有機顔料(X−2)を得た。
【実施例3】
【0083】
合成例1の共重合体(B−1)溶液(固形分40.5%)1.25gを、不揮発分で同量となる様に、合成例3の共重合体(B−3)溶液(固形分39.8%)を用いた以外は実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒子径100nm以下の表面処理有機顔料(X−3)を得た。
【0084】
(比較例1)
合成例1の共重合体(B−1)溶液(固形分40.5%)1.25gを、不揮発分で同量となる様に、ハイドランAP−40F(DIC株式会社製のポリウレタン樹脂水性分散液)を用いた以外は実施例1と同様にして、表面処理有機顔料(X−4)を得た。
【実施例4】
【0085】
上記実施例1で得た表面処理有機顔料(X−1)2.48部を、ビックケミー社製 BYK−LPN6919(ビックケミー社製分散剤)1.24部、ユニディックZL295(DIC株式会社製アクリル樹脂)1.86部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.92部と共に、0.3〜0.4mmのジルコンビーズを用いて、東洋精機(株)製ペイントコンディショナーで2時間分散した。
この着色組成物(I)4.0部、ユニディックZL295 2.10部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート2.00部を加えて、ペイントコンディショナーで混合することでカラーフィルタ用緑色画素部を形成するための評価用組成物を得た。
この評価用組成物をソーダガラスに膜厚を変えてスピンコートし、90℃で3分乾燥して評価用ガラス基板を得た。このガラス基板を用いて、C光源における色度(x,y)を、大塚電子(株)製MCPD−3000で測定した。また、評価用ガラス基板を230℃で1時間加熱後の色度も合わせて測定した。
【実施例5】
【0086】
上記実施例1で得た表面処理有機顔料(X−1)2.48部の代わりに、実施例2で得た同量の表面処理有機顔料(X−2)を用いる以外は、実施例4と同様にして一連の操作を行い、評価用ガラス基板を得て、同様に測定を行った。
【実施例6】
【0087】
上記実施例1で得た表面処理有機顔料(X−1)2.48部の代わりに、実施例3で得た同量の表面処理有機顔料(X−3)を用いる以外は、実施例4と同様にして一連の操作を行い、評価用ガラス基板を得て、同様に測定を行った。
【0088】
(比較例2)
上記実施例1で得た表面処理有機顔料(X−1)2.48部の代わりに、比較例1で得た同量の表面処理有機顔料(X−4)を用いる以外は、実施例4と同様にして一連の操作を行い、評価用ガラス基板を得て、同様に測定を行った。
【0089】
上記実施例4〜6及び比較例2の評価結果を、表1に示した。尚、表中のPB後とは230℃で1時間加熱後を意味する。
【0090】
【表1】
【0091】
上記表1の実施例4と比較例1との対比からわかる通り、本発明で用いる特定の共重合体(B)の方が、従来用いられて来たポリウレタン樹脂に比べて、初期とPB後の輝度値及び色度値の差が小さく、熱履歴を受けても輝度及び色度の変動が小さく耐熱性に優れていることは明白である。
実施例4〜6では、いずれも初期に比べてPB後の方が、輝度も色度も絶対値として向上しており、しかも、仕込み時の特定共重合体(B)に占める側鎖エポキシ基の含有率が高まるほど、初期の輝度の絶対値は高くなる傾向が見られた。
【実施例7】
【0092】
FASTOGEN BLUE AE−8(DIC株式会社製ε型銅フタロシアニン顔料)85部、平均置換基数1.4の銅フタロシアニンフタルイミドメチル誘導体5部、合成例2の重合体(B−2)の溶液を、減圧乾燥(60℃、10時間)して得られた重合体(B−2)の固体10部、粉砕した塩化ナトリウム1000部、およびジエチレングリコール160部を双腕型ニーダーに仕込み、80〜90℃で10時間混練した。
得られた内容物を大過剰の水で洗浄、濾過し、ろ液の比電導度が(原水の比電導度+20μS/cm以下)となるまで水洗することによって、ε型銅フタロシアニン表面処理有機顔料のウエットケーキを得た。得られたウエットケーキをビーカーに移し、2%塩酸水溶液3000部を加え、攪拌分散してスラリーとし、70℃で1時間攪拌後、濾過、水洗し、ウエットケーキを得た。
得られたウエットケーキをビーカーに移し、室温の水3000部を加え、攪拌分散してスラリーとした。引き続き、平均置換基数0.8の銅フタロシアニンスルホン酸誘導体5部の水酸化ナトリウム水溶液を前記顔料スラリー中に添加し、1時間攪拌後、塩酸を添加してスラリーのpHを7まで戻して顔料の表面に析出させた。そのまま1時間保持後、濾過、温水洗浄、乾燥、粉砕し、一次粒子の平均粒子径100nm以下の青色表面処理有機顔料を得た。
【0093】
このようにして得られた青色表面処理有機顔料10部をポリビンに入れ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート55部、BYK(商標名)LPN21116(ビックケミー株式会社社製)7.0部、0.3−0.4mmφセプルビーズを加え、ペイントコンディショナー(東洋精機株式会社製)で4時間分散し、顔料分散液を得た。この顔料分散液75.00部とポリエステルアクリレート樹脂(アロニックス(商標名)M7100、東亜合成化学工業株式会社製)5.50部、ジぺンタエリスリトールヘキサアクリレート(KAYARAD(商標名)DPHA、日本化薬株式会社製)5.00部、ベンゾフェノン(KAYACURE(商標名)BP−100、日本化薬株式会社製)1.00部、ユーカーエステルEEP13.5部を分散撹拌機で撹拌し、孔径1.0μmのフィルターで濾過し、カラーレジストを得た。このカラーレジストは50mm×50mm、1mmの厚ガラスに乾燥膜厚が2μmとなるようにスピンコーターを用いて塗布し、その後90℃で20分間予備乾燥して塗膜を形成させた。次いで、フォトマスクを介して紫外線によるパターン露光を行った後、未露光部分を0.5%の炭酸ナトリウム水溶液中で洗浄し、230℃で60分間焼成することでカラーフィルタとした。
【0094】
こうして得られたカラーフィルタを用いて、C光源における輝度Yを、大塚電子(株)製MCPD−3000で測定したところ、13.49であった。また、カラーフィルタを230℃で1時間加熱後の輝度を測定したところ、13.42であった。
【実施例8】
【0095】
実施例7の重合体(B−2)に変えて、重合体(B−5)を用いた以外は実施例7と同様にして、青色表面処理有機顔料を得て、それを用いてカラーフィルタとしてC光源における輝度Yを測定したところ、230℃で1時間加熱前の輝度は13.50であり、230℃で1時間加熱後の輝度は13.43であった。
【0096】
(比較例3)
実施例7の重合体(B−2)に変えて、重合体(B−6)を用いた以外は実施例7と同様にして、青色表面処理有機顔料を得て、それを用いてカラーフィルタとしてC光源における輝度Yを測定したところ、230℃で1時間加熱前の輝度は13.45であり、230℃で1時間加熱後の輝度は13.26であった。
【0097】
上記実施例7〜8および比較例3の評価結果を、表2に示した。
【0098】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、有機顔料(A)と、特定共重合体(B)との相互作用による特異な耐熱性により、熱履歴を受けても色相変化の小さい着色物を提供でき、特に、カラーフィルタの画素部の調製に用いた際に、高輝度で、熱履歴を長時間に亘って受けても、輝度に優れた液晶表示が可能となる液晶表示装置を提供できる。