(54)【発明の名称】バインダ樹脂組成物、バインダ樹脂組成物の製造方法、リチウムイオン二次電池電極形成用組成物、リチウムイオン二次電池電極形成用組成物の製造方法、リチウムイオン二次電池用電極、及びリチウムイオン二次電池
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本開示において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本開示の内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
本開示において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において組成物中の各成分の含有率は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本開示において組成物中の各成分の粒径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0016】
本発明の技術は、集電体に電極活物質層(正極活物質層及び負極活物質層)が形成された形態の電極を備える各種の非水二次電池に広く適用し得るが、用途は限定されるものではない。
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例として、バインダ樹脂組成物、バインダ樹脂組成物の製造方法、リチウムイオン二次電池電極形成用組成物、リチウムイオン二次電池電極形成用組成物の製造方法、リチウムイオン二次電池用電極、及びリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。
【0018】
[バインダ樹脂組成物]
本実施形態のバインダ樹脂組成物は、ポリオレフィン粒子と、有機溶媒と、上記有機溶媒に可溶なポリマと、酸性物質とを含有する。
【0019】
(ポリオレフィン粒子)
本実施形態のバインダ樹脂組成物は、ポリオレフィン粒子を含有する。ポリオレフィン粒子とは、分子中におけるオレフィン構造単位の割合が50質量%以上であるオレフィン重合体(ポリオレフィン樹脂)の粒子を意味する。ポリオレフィン粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリオレフィン粒子を2種以上用いる態様としては、例えば、同じ樹脂で平均粒径が異なるポリオレフィン粒子を2種以上用いる態様、平均粒径が同じで樹脂の異なるポリオレフィン粒子を2種以上用いる態様、並びに平均粒径及び樹脂の異なるポリオレフィン粒子を2種以上用いる態様が挙げられる。ポリオレフィン粒子の樹脂が異なる態様としては、例えば、構造単位の種類が異なる態様、及び構造単位の種類が同じで構造単位の含有比率が異なる態様が挙げられる。
【0020】
ポリオレフィン粒子としては、特に制限されず、従来公知のポリオレフィン粒子を用いることができる。ポリオレフィン粒子を構成するポリオレフィン樹脂は、未変性ポリオレフィン樹脂であってもよく、酸変性ポリオレフィン樹脂等の変性ポリオレフィン樹脂であってもよい。
【0021】
未変性ポリオレフィン樹脂としては、エチレン又はα−オレフィン(プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等)の単独重合体又は共重合体が挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。
また、未変性ポリオレフィン樹脂としては、エチレン及びα−オレフィンからなる群より選択される少なくとも1種と共役ジエン又は非共役ジエンとの共重合体が挙げられる。具体的には、エチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエン共重合体等が挙げられる。該共重合体は、ゴム状であってもよい。
【0022】
酸変性ポリオレフィン樹脂としては、カルボキシ基、酸無水物基等の酸基を有するポリオレフィン樹脂が挙げられる。具体的には、エチレン及びα−オレフィンからなる群より選択される少なくとも1種とα,β−不飽和カルボン酸との共重合体、未変性ポリオレフィン樹脂にα,β−不飽和カルボン酸又はα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフトさせたポリオレフィン変性物等が挙げられる。
α,β−不飽和カルボン酸としては、モノカルボン酸及びジカルボン酸が挙げられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、メザコン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の脂肪族カルボン酸;5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸の核メチル置換体、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸のエンドメチレン基のハロゲン置換体などが挙げられる。なお、ジカルボン酸は酸無水物となっていてもよい。
【0023】
耐酸化性及び耐還元性の観点から、ポリオレフィン粒子としては、ポリエチレン樹脂、酸変性ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及び酸変性ポリプロピレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で構成される粒子が好ましい。
【0024】
ポリオレフィン粒子の平均粒径は、0.1μm〜30μmであることが好ましく、0.6μm〜20μmであることがより好ましく、3μm〜20μmであることが更に好ましい。ポリオレフィン粒子の粒径が小さいほど、ポリオレフィン粒子を電極活物質層内に広く均一に分布させることができる傾向にあり、ポリオレフィン粒子の平均粒径が大きいほど、バインダ樹脂組成物の分散性を向上できる傾向にある。
ポリオレフィン粒子の平均粒径は、例えば、ポリオレフィン粒子を含む電極活物質層を、厚さが約70μmになるように形成した集電体について、その中央部の縦50μm×横50μmの範囲の透過型電子顕微鏡写真の画像内における全てのポリオレフィン粒子の長軸方向の長さを算術平均化した数値とすることができる。ポリオレフィン粒子の長軸方向の長さとは、透過型電子顕微鏡を用いて観察されるポリオレフィン粒子の2次元画像において、ポリオレフィン粒子の外周に外接する2本の平行な接線間の距離が最大となるときの接線間の距離を意味する。
【0025】
ポリオレフィン粒子の融点(Tm)は、特に制限されない。バインダ樹脂組成物を用いて作製されるリチウムイオン二次電池の取り扱い性及び安全性を向上する観点から、ポリオレフィン粒子の融点(Tm)は、70℃〜160℃であることが好ましく、80℃〜150℃であることがより好ましく、90℃〜140℃であることが更に好ましい。ポリオレフィン粒子の融点(Tm)が低い程、より低温でPTC機能が発現するため、安全性を向上できる傾向にある。一方、ポリオレフィン粒子の融点(Tm)が高い程、通常使用時の誤作動を抑制することができ、また、電極の乾燥温度を高く設定できるために生産性を向上できる傾向にある。
ポリオレフィン粒子の融点(Tm)は、例えば、示差走査熱量計を用いて、温度関数として不活性ガス中におけるポリオレフィン粒子の比熱容量を測定後、吸熱ピーク温度から算出できる。
【0026】
ポリオレフィン粒子の含有率は、バインダ樹脂組成物の全量を基準にして、1質量%〜60質量%であることが好ましく、5質量%〜50質量%であることがより好ましく、10質量%〜50質量%であることが更に好ましい。バインダ樹脂組成物を用いて作製されるリチウムイオン二次電池は、ポリオレフィン粒子の含有率が小さいほど、電池特性が向上する傾向にあり、ポリオレフィン粒子の含有率が大きいほど、PTC特性が向上する傾向にある。
【0027】
(有機溶媒に可溶なポリマ)
本実施形態のバインダ樹脂組成物は、後述する有機溶媒に可溶なポリマを含有する。ここで、「有機溶媒に可溶」とは、室温(25℃)で100mLの有機溶媒に1g以上溶解することを意味する。
有機溶媒に可溶なポリマとしては、特に制限されない。有機溶媒に可溶なポリマとしては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のカルボキシメチルセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ニトリル基を有する樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。有機溶媒に可溶なポリマは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機溶媒に可溶なポリマの中でも、接着性、可撓性、及びバインダ樹脂組成物を用いて作製されるリチウムイオン二次電池の電池特性の観点から、ニトリル基を有する樹脂及びポリフッ化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0028】
ニトリル基を有する樹脂としては、例えば、アクリロニトリルの単独重合体、及びアクリロニトリルとその他のエチレン性不飽和結合を有する化合物との共重合体が挙げられる。バインダ樹脂組成物を用いて電極を作製する際に、可撓性及び結着性をより向上できる観点からは、ニトリル基を有する樹脂は、ニトリル基を有する構造単位と、下記式(I)で表される単量体由来の構造単位及び下記式(II)で表される単量体由来の構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位とを有することが好ましい。また、結着性を更に向上できる観点から、ニトリル基を有する樹脂は、カルボキシ基を有する構造単位を有することが好ましい。ニトリル基を有する構造単位は、ニトリル基含有単量体由来の構造単位であってもよい。また、カルボキシ基を有する構造単位は、カルボキシ基含有単量体由来の構造単位であってもよい。
【0029】
【化1】
(式中、R
1はH又はCH
3であり、R
2はH又は1価の炭化水素基であり、nは1〜50の数である。)
【0030】
【化2】
(式中、R
3はH又はCH
3であり、R
4は炭素数4〜100のアルキル基である。)
【0031】
<ニトリル基含有単量体>
ニトリル基含有単量体としては、特に制限されない。ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリル系ニトリル基含有単量体、α−シアノアクリレート、ジシアノビニリデン等のシアン系ニトリル基含有単量体、フマロニトリル等のフマル系ニトリル基含有単量体などが挙げられる。これらの中では、重合のし易さ、コストパフォーマンス、バインダ樹脂組成物を用いて作製される電極の柔軟性、可撓性等の点で、アクリロニトリルが好ましい。これらのニトリル基含有単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリルとメタクリロニトリルとを使用する場合、ニトリル基含有単量体の全量に対して、アクリロニトリルを、例えば、5質量%〜95質量%の範囲で含むことが好ましく、50質量%〜95質量%の範囲で含むことがより好ましい。
【0032】
<式(I)で表される単量体>
式(I)で表される単量体としては、特に制限されない。
【0034】
ここで、R
1はH又はCH
3である。
nは1〜50の数、好ましくは2〜30の数、より好ましくは2〜10の数である。括弧内の構造単位数であるnは、単一の分子については整数値を示すが、複数種の分子の集合体としては平均値である有理数を示す。
R
2はH又は1価の炭化水素基であり、例えば、炭素数1〜50の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜25の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数1〜12の炭化水素基であることが更に好ましい。炭化水素基の炭素数が50以下であれば、バインダ樹脂組成物を用いてリチウムイオン二次電池の電極を作製したときに、電解液に対する十分な耐膨潤性を得ることができる傾向にある。ここで、炭化水素基としては、例えば、アルキル基及びフェニル基が好ましい。R
2は、特に、炭素数1〜12のアルキル基又はフェニル基であることが好ましい。このアルキル基は、直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよい。R
2がアルキル基又はフェニル基である場合、アルキル基又はフェニル基が有する水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、窒素原子含有基、リン原子含有基、酸素原子含有基、芳香族基、炭素数3〜10のシクロアルキル基などの置換基で置換されていてもよい。なお、R
2が置換基を有する場合、R
2の炭素数には置換基の炭素数を含めないものとする。
【0035】
式(I)で表される単量体として具体的には、例えば、市販の、エトキシジエチレングリコールアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートEC−A)、メトキシトリエチレングリコールアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートMTG−A及び新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルAM−30G)、メトキシポリ(n=9)エチレングリコールアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレート130−A及び新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルAM−90G)、メトキシポリ(n=13)エチレングリコールアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルAM−130G)、メトキシポリ(n=23)エチレングリコールアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルAM−230G)、オクトキシポリ(n=18)エチレングリコールアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルA−OC−18E)、フェノキシジエチレングリコールアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートP−200A及び新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルAMP−20GY)、フェノキシポリ(n=6)エチレングリコールアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルAMP−60G)、ノニルフェノールEO付加物(n=4)アクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートNP−4EA)、ノニルフェノールEO付加物(n=8)アクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートNP−8EA)、メトキシジエチレングリコールメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトエステルMC及び新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルM−20G)、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトエステルMTG)、メトキシポリ(n=9)エチレングリコールメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトエステル130MA及び新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルM−90G)、メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルM−230G)、及びメトキシポリ(n=30)エチレングリコールメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトエステル041MA)が挙げられる。なお、「EO」はエチレンオキシ基を意味し、「n」はエチレンオキシ基の構造単位数の平均値を意味する。これらの中では、ニトリル基含有単量体と共重合させる場合の反応性等の点から、メトキシトリエチレングリコールアクリレート(式(I)のR
1がH、R
2がCH
3、nが3)が好ましい。これらの式(I)で表される単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
<式(II)で表される単量体>
式(II)で表される単量体としては、特に制限されない。
【0038】
ここで、R
3はH又はCH
3である。R
4は、炭素数4〜100、好ましくは炭素数4〜50、より好ましくは炭素数6〜30、更に好ましくは炭素数8〜15のアルキル基である。アルキル基の炭素数が4以上であれば、バインダ樹脂組成物を用いて作製される電極が十分な可撓性を示す傾向にあり、アルキル基の炭素数が100以下であれば、電解液に対する十分な耐膨潤性を得ることができる傾向にある。R
4を構成するアルキル基は、直鎖、分岐鎖、及び環状のいずれであってもよい。また、R
4を構成するアルキル基が有する水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、窒素原子含有基、リン原子含基、酸素原子含有基、芳香族基、炭素数3〜10のシクロアルキル基などの置換基で置換されていてもよい。なお、R
4が置換基を有する場合、R
5の炭素数には置換基の炭素数を含めないものとする。R
4を構成するアルキル基としては、直鎖、分岐鎖、又は環状の飽和アルキル基の他、フルオロアルキル基、クロロアルキル基、ブロモアルキル基、ヨウ化アルキル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられる。
【0039】
式(II)で表される単量体として具体的には、R
4が直鎖、分岐鎖、又は環状の飽和アルキル基である場合、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。また、R
4がフルオロアルキル基である場合、1,1−ビス(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチルアクリレート、2,2,3,4,4,4−へキサフルオロブチルアクリレート、ノナフルオロイソブチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6−ウンデカフルオロヘキシルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチルアクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ノナデカフルオロデシルアクリレート等のアクリレート化合物、ノナフルオロ−t−ブチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、ヘプタデカフルオロオクチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート等のメタクリレート化合物などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」はアクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を意味する。これらの式(II)で表される単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
<カルボキシ基含有単量体>
カルボキシ基含有単量体としては、特に制限されない。カルボキシ基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル系カルボキシ基含有単量体、クロトン酸等のクロトン系カルボキシ基含有単量体、マレイン酸及びその無水物等のマレイン系カルボキシ基含有単量体、イタコン酸及びその無水物等のイタコン系カルボキシ基含有単量体、シトラコン酸及びその無水物等のシトラコン系カルボキシ基含有単量体などが挙げられる。これらの中でも、重合のし易さ、コストパフォーマンス、バインダ樹脂組成物を用いて作製される電極の柔軟性、可撓性等の点で、アクリル酸が好ましい。これらのカルボキシ基含有単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カルボキシ基含有単量体としては、アクリル酸とメタクリル酸とを併用してもよい。カルボキシ基含有単量体としてアクリル酸とメタクリル酸とを併用する場合、カルボキシ基含有単量体の全量を基準にして、アクリル酸を、例えば、5質量%〜95質量%の範囲で含むことが好ましく、50質量%〜95質量%の範囲で含むことがより好ましい。
【0041】
<その他の単量体>
ニトリル基を有する樹脂は、ニトリル基を有する構造単位と、カルボキシ基を有する構造単位と、式(I)で表される単量体由来の構造単位及び式(II)で表される単量体由来の構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位との他、これらの構造単位とは異なる他の単量体由来の構造単位を適宜有することもできる。他の単量体としては、特に制限されない。他の単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル化合物、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル化合物、スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等のスチレン化合物、マレイミド、N−フェニルマレイミド等のイミド化合物、(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物、酢酸ビニル、(メタ)アリルスルホン酸ナトリウム、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリルアミド」はアクリルアミド又はメタクリルアミドを意味し、「(メタ)アリル」はアリル又はメタリルを意味する。これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
<各構造単位の割合>
ニトリル基を有する樹脂が、ニトリル基を有する構造単位と、カルボキシ基を有する構造単位と、式(I)で表される単量体由来の構造単位及び式(II)で表される単量体由来の構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位とを有する場合、ニトリル基を有する構造単位と、カルボキシ基を有する構造単位と、式(I)で表される単量体由来の構造単位及び式(II)で表される単量体由来の構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位とのモル比は、例えば、ニトリル基を有する構造単位1モルに対して、カルボキシ基を有する構造単位が、好ましくは0.01モル〜0.2モル、より好ましくは0.02モル〜0.1モル、更に好ましくは0.03モル〜0.06モルであり、式(I)又は式(II)で表される単量体由来の構造単位の合計が、好ましくは0.001モル〜0.2モル、より好ましくは0.003モル〜0.05モル、更に好ましくは0.005モル〜0.03モルである。カルボキシ基を有する構造単位が0.01モル〜0.2モルであり、式(I)又は式(II)で表される単量体由来の構造単位の合計が0.001モル〜0.2モルであれば、バインダ樹脂組成物を用いて作製されるリチウムイオン二次電池において、集電体、特に銅箔を用いた集電体との接着性及び電解液に対する耐膨潤性に優れ、電極の柔軟性及び可撓性が良好となる傾向にある。
また、他の単量体を使用する場合、他の単量体由来の構造単位の含有量は、例えば、ニトリル基を有する構造単位1モルに対して、好ましくは0.005モル〜0.1モル、より好ましくは0.01モル〜0.06モル、更に好ましくは0.03モル〜0.05モルの割合である。
【0043】
有機溶媒に可溶なポリマの含有率は、バインダ樹脂組成物を用いて作製されるリチウムイオン二次電池における電極接着性及び電池容量の観点から、バインダ樹脂組成物の全量を基準にして、0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、1質量%〜20質量%であることがより好ましく、2質量%〜10質量%であることが更に好ましい。
【0044】
(有機溶媒)
本実施形態のバインダ樹脂組成物は、有機溶媒を含有する。有機溶媒としては、特に制限されない。有機溶媒としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶剤、テトラヒドロフラン等のエーテル溶剤、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の窒素原子含有溶剤、ジメチルスルホキシド等の硫黄原子含有溶剤などが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機溶媒は、ポリオレフィン粒子の溶解性が低い点から、N−メチル−2−ピロリドンを含むことが好ましい。
【0045】
有機溶媒の含有率は、バインダ樹脂組成物の全量を基準にして、60質量%〜95質量%であることが好ましく、70質量%〜90質量%であることがより好ましく、75質量%〜80質量%であることが更に好ましい。
【0046】
なお、本実施形態のバインダ樹脂組成物は、水を含有していてもよい。但し、水の含有率は、バインダ樹脂組成物の全量を基準にして、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。
【0047】
(酸性物質)
本実施形態のバインダ樹脂組成物は、酸性物質を含有する。酸性物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸性物質としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸等の無機酸;及び酢酸、乳酸、グルコール酸、クエン酸、コハク酸、マレイン酸等の有機酸が挙げられる。これらの中でも、酸性物質の含有量を低減できる点から、無機酸が好ましい。
【0048】
バインダ樹脂組成物中における酸性物質の含有率は、バインダ樹脂組成物が所望のpHとなるように調整される。
バインダ樹脂組成物のpHは、バインダ樹脂組成物に水を加えた後、pHメータで測定できる。水/有機溶媒の質量比が10/90〜30/70となるように水を加えた後のバインダ樹脂組成物のpHは、1.0〜7.0であることが好ましく、2.0〜6.0であることがより好ましく、3.0〜5.0であることが更に好ましい。バインダ樹脂組成物のpHが1.0以上であると、集電体の安定性が向上する傾向にあり、バインダ樹脂組成物のpHが7.0以下であると、ポリオレフィン粒子の分散性が向上する傾向にある。
【0049】
(バインダ樹脂組成物の製造方法)
本実施形態のバインダ樹脂組成物の製造方法は、特に制限されない。本実施形態のバインダ樹脂組成物は、例えば、水性ポリオレフィン粒子分散液に有機溶媒及び酸性物質を加えて混合液を調製する工程(以下、「混合工程」ともいう。)と、混合液に脱水処理を施す工程(以下、「脱水工程」ともいう。)と、有機溶媒に可溶なポリマを脱水処理後の混合液に添加する工程(以下、「添加工程」ともいう。)とを経て製造することができる。以下、この製造方法について説明する。
【0050】
<混合工程>
混合工程では、水性ポリオレフィン粒子分散液に有機溶媒及び酸性物質を加えて混合液を調製する。
水性ポリオレフィン粒子分散液は、市販品を使用してもよく、常法に従って製造してもよい。水性ポリオレフィン粒子分散液の市販品としては、三井化学(株)製のケミパールW100、ケミパールW200、ケミパールW300、ケミパールW308、ケミパールW310、ケミパールW400、ケミパールW401、ケミパールW4005、ケミパールW410、ケミパールW500、ケミパールWF640、ケミパールW700、ケミパールW800、ケミパールW900、ケミパールWH201、ケミパールWP100等が挙げられる。
【0051】
水性ポリオレフィン粒子分散液に有機溶媒を加える際には、粒子相互の凝集を抑える観点から、水性ポリオレフィン粒子分散液を撹拌しながら、有機溶媒を少量ずつ添加することが好ましい。その際、水で希釈した有機溶媒を使用することがより好ましい。
また、水性ポリオレフィン粒子分散液に酸性物質を加える際には、粒子相互の凝集を抑える観点から、水性ポリオレフィン粒子分散液を撹拌しながら、酸性物質を少量ずつ添加することが好ましい。その際、水又は有機溶媒で希釈した酸性物質を使用することがより好ましい。
有機溶媒及び酸性物質は、いずれか一方を先に添加してもよく、両方を同時に添加してもよい。粒子相互の凝集を抑える観点から、有機溶媒を添加した後に酸性物質を添加することが好ましい。
【0052】
<脱水工程>
脱水工程では、混合液に脱水処理を施す。
混合液から水を除去する方法としては、例えば、混合液を減圧下で加熱して水を除去する方法、混合液に脱水剤を添加して水を除去する方法、及び混合液に遠心処理を施して水相と有機溶媒相とに分離した後に水相を除去する方法が挙げられる。
【0053】
混合液を減圧下で加熱して水を除去する方法を適用する場合、加熱温度は、ポリオレフィン粒子の融点未満であれば特に制限されない。加熱温度をポリオレフィン粒子の融点未満とすることで、粒子同士の結合による分散性の低下が抑えられる傾向にある。減圧度は、特定の範囲に制限されない。
なお、混合液を減圧下で加熱して水を除去する場合、水と共沸し易い有機溶媒を必要に応じて添加してもよい。有機溶媒を追加する時期及び回数は制限されない。
【0054】
混合液に脱水剤を添加して水を除去する方法を適用する場合、脱水剤の種類は特に制限されない。脱水剤としては、シリカゲル、活性アルミナ、モレキュラシーブ、イオン交換樹脂等が挙げられ、混合液中における有機溶媒、界面活性剤、塩基性物質、酸性物質等の種類を考慮し、適切な種類を選択することが好ましい。なお、脱水剤は、減圧乾燥してから使用することが好ましい。
【0055】
混合液に遠心処理を施して水相と有機溶媒相とに分離した後に水相を除去する方法を適用する場合、遠心条件は、例えば、1000G〜10000Gで5分間〜15分間が好ましく、1500G〜7000Gで7分間〜15分間がより好ましく、2500G〜4000Gで7分間〜10分間が更に好ましい。遠心条件を1000G以上とすることで、分離効率が向上する傾向にあり、遠心条件を10000G以下とすることで、ポリオレフィン粒子の凝集が抑えられる傾向にある。
なお、最適な遠心条件は、ポリオレフィン粒子の種類、ポリオレフィン粒子の平均粒径、ポリオレフィン粒子の含有率、水と有機溶剤との質量比等に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0056】
<添加工程>
添加工程では、有機溶媒に可溶なポリマを脱水処理後の混合液に添加し、本実施形態のバインダ樹脂組成物を得る。
有機溶媒に可溶なポリマは、有機溶媒に溶解した状態で添加することが好ましい。
【0057】
(リチウムイオン二次電池用電極への利用)
本実施形態のバインダ樹脂組成物は、ポリオレフィン粒子の分散安定性に優れ、リチウムイオン二次電池電極形成用組成物の調製及びリチウムイオン二次電池用電極の作製に応用できる。本実施形態のバインダ樹脂組成物を用いて作製されるリチウムイオン二次電池用電極は、電極活物質層の均一性及び密着強度に優れ、且つ、電極の可撓性が高い。更に、上記電極を備えるリチウムイオン二次電池は、温度が上昇した場合に電池の内部抵抗を上昇させる機能を備え、通常作動時には優れた電池特性を有し、且つ、製造工程も簡便である。
【0058】
[リチウムイオン二次電池電極形成用組成物及びリチウムイオン二次電池用電極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池電極形成用組成物(以下、単に「本実施形態の電極形成用組成物」ともいう。)は、電極活物質と、本実施形態のバインダ樹脂組成物とを含有する。
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極は、集電体と、本実施形態の電極形成用組成物を用いて集電体上に形成される電極活物質層とを有する。
【0059】
本実施形態の電極形成用組成物は、正極の形成に用いられる正極形成用組成物であってもよく、負極の形成に用いられる負極形成用組成物であってもよい。以下、正極形成用組成物及び該正極形成用組成物を用いて形成される正極と、負極形成用組成物及び該負極形成用組成物を用いて形成される負極とについて順に説明する。
【0060】
(正極形成用組成物、及び正極形成用組成物の製造方法)
正極形成用組成物は、正極活物質と、本実施形態のバインダ樹脂組成物とを含有する。正極形成用組成物は、例えば、正極活物質と前述した本実施形態のバインダ樹脂組成物とを混合し、必要に応じて導電材及び分散媒を更に混合することにより製造することができる。
【0061】
正極活物質としては、特に制限されない。正極活物質としては、リチウム含有複合金属酸化物、オリビン型リチウム塩、カルコゲン化合物、二酸化マンガン等が挙げられる。正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
リチウム含有複合金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物又は該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。ここで、異種元素としては、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V、B等が挙げられ、Mn、Al、Co、Ni、Mg等が好ましい。異種元素は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0063】
これらの中でも、正極活物質としては、リチウム含有複合金属酸化物が好ましい。リチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
yNi
1−yO
2、Li
xCo
yM
11−yO
z(式中、M
1はNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)、Li
xNi
1−yM
2yO
z(式中、M
2はNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)、Li
xMn
2O
4、及びLi
xMn
2−yM
3yO
4(式中、M
3はNa、Mg、Sc、Y、Fe、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)。ここで、各式中、xは0<x≦1.2であり、yは0≦y≦0.9であり、zは2.0≦z≦2.3である。リチウムのモル比を示すxの値は、充放電により増減する。
また、オリビン型リチウム塩としては、例えば、LiFePO
4が挙げられる。
カルコゲン化合物としては、例えば、二硫化チタン及び二硫化モリブデンが挙げられる。
【0064】
正極活物質としては、安全性の観点から、Li
xMn
2O
4又はLi
xMn
2−yM
3yO
4で表されるリチウムマンガン酸化物を含むことが好ましい。正極活物質としてリチウムマンガン酸化物を用いる場合におけるリチウムマンガン酸化物の含有率は、正極活物質の全量を基準にして、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。
【0065】
正極活物質の使用量は、電池特性とPTC機能とを両立する観点から、正極活物質層中における正極活物質の含有率が80質量%〜95質量%となる量が好ましく、82質量%〜93質量%となる量がより好ましい。正極活物質の割合が多い程、電池特性に優れた正極活物質層となり、正極活物質の割合が少ない程、PTC機能に優れた正極活物質層となる傾向にある。
【0066】
本実施形態のバインダ樹脂組成物の使用量は、電池特性とPTC機能とを両立する観点から、正極活物質層中におけるポリオレフィン粒子の含有率が0.1質量%〜10質量%となる量が好ましく、0.5質量%〜8質量%となる量がより好ましく、2.5質量%〜6質量%となる量が更に好ましい。ポリオレフィン粒子の割合が多い程、PTC機能に優れた正極活物質層となり、ポリオレフィン粒子の割合が少ない程、電池特性に優れた正極活物質層となる傾向にある。
【0067】
導電材としては、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックが挙げられる。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛及び人造黒鉛が挙げられる。導電材は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
分散媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0068】
(正極)
正極は、正極集電体と、正極形成用組成物を用いて正極集電体上に形成される正極活物質層とを有する。
【0069】
正極集電体としては、ステンレス鋼、アルミニウム、又はチタンを含有するシート、箔等が挙げられる。これらの中でも、アルミニウムのシート又は箔が好ましい。シート及び箔の平均厚さは、例えば、1μm〜500μmであることが好ましく、2μm〜100μmであることがより好ましく、5μm〜50μmであることが更に好ましい。
【0070】
正極活物質層は、例えば、正極形成用組成物を正極集電体上に塗布し、乾燥し、更に必要に応じて圧延することにより形成できる。正極活物質層は、正極集電体の厚み方向の一方にのみ形成されていてもよく、両方に形成されていてもよい。
【0071】
正極形成用組成物の乾燥後(正極活物質層)の塗布量は、100g/m
2〜300g/m
2の範囲にすることが好ましく、150g/m
2〜250g/m
2の範囲にすることがより好ましく、180g/m
2〜220g/m
2の範囲にすることが更に好ましい。上記塗布量が100g/m
2以上であれば、正極活物質層が薄くなりすぎることがないため、十分な電池容量が得られる傾向にある。上記塗布量が300g/m
2以下であれば、正極活物質層が厚くなりすぎることがないため、大電流で充放電させた場合に厚み方向での反応の不均一化が抑えられ、充放電サイクル特性が向上する傾向にある。
また、放電容量及び放電レート特性の観点から、正極活物質層の厚さは、50μm〜150μmであることが好ましく、60μm〜120μmであることがより好ましく、70μm〜110μmであることが更に好ましい。
【0072】
また、正極活物質層の充填密度は、2.2g/cm
3〜2.8g/cm
3の範囲にすることが好ましく、2.3g/cm
3〜2.7g/cm
3の範囲にすることがより好ましく、2.4g/cm
3〜2.6g/cm
3の範囲にすることが更に好ましい。正極活物質層の充填密度が2.8g/cm
3以下であれば、正極活物質層内に非水電解質が浸透しやすくなり、大電流での充放電時におけるリチウムイオンの拡散が速くなって充放電サイクル特性が向上する傾向にある。一方、正極活物質層の充填密度が2.2g/cm
3以上であれば、正極活物質と導電材との接触が十分に確保されることで電気抵抗が低くなり、放電レート特性が向上する傾向にある。
【0073】
本実施形態の電極形成用組成物を正極活物質層に使用する場合、正極の電流遮断温度は、70℃〜160℃に設定することが好ましく、90℃〜120℃に設定することがより好ましい。電流遮断温度を70℃〜160℃に設定すれば、電池自体又は電池が装着された各種機器に異常が発生したときに電流を遮断し、発熱を抑制し、更に電池から各種機器への電力の供給等を停止できるので、非常に高い安全性が得られる。また、電流遮断温度を90℃〜120℃に設定すれば、通常使用時の誤作動がなく、過充電等の異常時に電流を確実に遮断できるという利点が得られる。上記のような電流遮断温度は、主に、本実施形態の電極形成用組成物に含まれるポリオレフィン粒子の融点(Tm)に依存する。電流遮断温度を90℃〜120℃に設定する場合は、ポリオレフィン粒子としてポリエチレン粒子を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
なお、上記の電流遮断温度は、電池の25℃における直流抵抗に対して、直流抵抗上昇率が110%以上となる温度とする。
【0074】
(負極形成用組成物、及び負極形成用組成物の製造方法)
負極形成用組成物は、負極活物質と、本実施形態のバインダ樹脂組成物とを含有する。負極形成用組成物は、例えば、負極活物質と前述した本実施形態のバインダ樹脂組成物とを混合し、必要に応じて導電材及び分散媒を更に混合することにより製造することができる。
【0075】
負極活物質としては、特に制限されない。負極活物質としては、金属リチウム、リチウム合金、金属間化合物、炭素材料、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
これらの中でも、負極活物質としては、炭素材料が好ましい。炭素材料としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、非晶質炭素、炭素繊維などが挙げられる。炭素材料の体積平均粒径は、0.1μm〜60μmであることが好ましく、0.5μm〜30μmであることがより好ましい。また、炭素材料のBET比表面積は、1m
2/g〜10m
2/gであることが好ましい。炭素材料の中でも特に、電池の放電容量をより向上できる観点からは、X線広角回折法における炭素六角平面の間隔(d
002)が3.35Å〜3.40Åであり、c軸方向の結晶子(Lc)が100Å以上である黒鉛が好ましい。
また、炭素材料の中でも特に、充放電サイクル特性及び安全性をより向上できる観点からは、X線広角回折法における炭素六角平面の間隔(d
002)が3.5Å〜3.95Åである非晶質炭素が好ましい。
【0077】
負極活物質の使用量は、電池特性とPTC機能とを両立する観点から、負極活物質層中における負極活物質の含有率が80質量%〜99質量%となる量が好ましく、90質量%〜98質量%となる量が好ましい。負極活物質の割合が多い程、電池特性に優れた負極活物質層となり、負極活物質の割合が少ない程、PTC機能に優れた負極活物質層となる傾向にある。
【0078】
本実施形態のバインダ樹脂組成物の使用量は、電池特性とPTC機能とを両立する観点から、負極活物質層中におけるポリオレフィン粒子の含有率が0.1質量%〜8質量%となる量が好ましく、0.5質量%〜5質量%となる量がより好ましく、1質量%〜3質量%となる量が更に好ましい。ポリオレフィン粒子の割合が多い程、PTC機能に優れた負極活物質層となり、ポリオレフィン粒子の割合が少ない程、電池特性に優れた負極活物質層となる傾向にある。
【0079】
導電材及び分散媒としては、正極形成用組成物で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0080】
(負極)
負極は、負極集電体と、負極形成用組成物を用いて負極集電体上に形成される負極活物質層とを有する。
【0081】
負極集電体としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅等を含むシート、箔などが挙げられる。シート及び箔の平均厚さは、例えば、1μm〜500μmであることが好ましく、2μm〜100μmであることがより好ましく、5μm〜50μmであることが更に好ましい。
【0082】
負極活物質層は、例えば、負極形成用組成物を負極集電体上に塗布し、乾燥し、更に必要に応じて圧延することにより形成できる。負極活物質層は、負極集電体の厚み方向の一方にのみ形成されていてもよく、両方に形成されていてもよい。
【0083】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、前述した本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を備える。より具体的に、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、絶縁層、及び非水電解質を備える。
【0084】
(正極及び負極)
正極及び負極は、例えば、絶縁層を介して互いに対向するように設けられる。正極及び負極の少なくとも一方の電極は、前述した本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極である。正極及び負極のいずれか一方の電極が本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極ではない場合、当該電極としては、従来公知の電極を使用することができる。
【0085】
(絶縁層)
絶縁層(以下、「セパレータ」ともいう。)は、正極と負極との間に介在するように設けられ、正極と負極とを絶縁する。絶縁層としては、樹脂製多孔質シート、無機多孔質膜等のイオン透過性を有するものを使用できる。
【0086】
樹脂製多孔質シートを構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。樹脂製多孔質シートには、不織布、織布等も含まれる。これらの中でも、内部に形成される空孔の平均径が0.05μm〜0.15μm程度である樹脂製多孔質シートが好ましい。このような樹脂製多孔質シートは、イオン透過性、機械的強度、及び絶縁性を高い水準で兼ね備える傾向がある。樹脂製多孔質シートの平均厚さは、例えば、0.5μm〜30μmであることが好ましく、1μm〜20μmであることがより好ましい。
【0087】
無機多孔質膜は、無機化合物を主に含有し、高い耐熱性を有している。無機化合物としては、アルミナ、シリカ等の無機酸化物、BN、Si
3N
4等の無機窒化物、ゼオライト等の多孔性無機化合物などが挙げられる。これらの無機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機多孔質膜は、ポリアミド、ポリイミド等の耐熱性樹脂を更に含んでいてもよい。無機多孔質膜の平均厚さは、例えば、0.5μm〜30μmであることが好ましく、1μm〜20μmであることがより好ましい。
【0088】
(非水電解質)
非水電解質としては、液状非水電解質、ゲル状非水電解質、固体状電解質(例えば、高分子固体電解質)等が挙げられる。液状非水電解質は、溶質(支持塩)と非水溶媒とを含み、更に必要に応じて各種添加剤を含む。溶質は通常非水溶媒中に溶解する。液状非水電解質は、例えば、絶縁層に含浸される。
【0089】
溶質としては、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAlCl
4、LiSbF
6、LiSCN、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiB
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム(LiBCl
4)、ホウ酸塩化合物、イミド塩化合物等が挙げられる。ホウ酸塩化合物としては、ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ホウ酸リチウム等が挙げられる。イミド塩化合物としては、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム((CF
3SO
2)
2NLi)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム((CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)NLi)、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム((C
2F
5SO
2)
2NLi)等が挙げられる。溶質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。非水溶媒中の溶質の溶解量は、0.5モル/L〜2モル/Lとすることが好ましい。
【0090】
非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等が挙げられる。環状炭酸エステルとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)及びエチレンカーボネート(EC)が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、例えば、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジメチルカーボネート(DMC)が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、例えば、γ−ブチロラクトン(GBL)及びγ−バレロラクトン(GVL)が挙げられる。非水溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、電池特性をより向上できる観点から、非水溶媒にビニレンカーボネート(VC)を含有することが好ましい。ビニレンカーボネート(VC)を含有する場合の含有率は、非水溶媒全量に対して、0.1質量%〜2質量%であることが好ましく、0.2質量%〜1.5質量%であることがより好ましい。
【0091】
(リチウムイオン二次電池の構成)
本実施形態のリチウムイオン二次電池がコイン型電池である場合の構成について説明する。
コイン型電池は、例えば、次のようにして作製できる。まず、正極と負極とをコイン外装缶よりも小さい円形に切断する。正極、絶縁層、及び負極を、この順番に積層した積層体を作製し、その状態でコイン外装缶内に収容し、非水電解質をコイン外装缶内に注液後、コイン外装缶を密封する。これにより、リチウムイオン二次電池が得られる。
【0092】
次いで、本実施形態のリチウムイオン二次電池がラミネート型電池である場合の構成について説明する。
ラミネート型のリチウムイオン二次電池は、例えば、次のようにして作製できる。まず、正極と負極とを角形に切断し、それぞれの電極にタブを溶接し、正負極端子を作製する。正極、絶縁層、及び負極をこの順番に積層した積層体を作製し、その状態でアルミニウム製のラミネートパック内に収容し、正負極端子をラミネートパックの外に出し密封する。次いで、非水電解質をラミネートパック内に注液し、ラミネートパックの開口部を密封する。これにより、リチウムイオン二次電池が得られる。
【0093】
次に、図面を参照して、本実施形態のリチウムイオン二次電池が18650型の円柱状リチウムイオン二次電池である場合の構成について説明する。図面における部材の大きさは概念的なものであり、長さ、幅、厚さ等の寸法は、実際の寸法を反映するものではない。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器6を有している。電池容器6には、帯状の正極板2及び負極板3がセパレータ4を介して断面渦巻状に捲回された電極群5が収容されている。電極群5は、正極板2及び負極板3がポリエチレン製多孔質シートのセパレータ4を介して断面渦巻状に捲回されている。セパレータ4は、例えば、幅が58mm、厚さが30μmに設定される。電極群5の上端面には、一端部を正極板2に固定されたアルミニウム製でリボン状の正極タブ端子が導出されている。正極タブ端子の他端部は、電極群5の上側に配置され正極外部端子となる円盤状の電池蓋の下面に超音波溶接で接合されている。一方、電極群5の下端面には、一端部を負極板3に固定された銅製でリボン状の負極タブ端子が導出されている。負極タブ端子の他端部は、電池容器6の内底部に抵抗溶接で接合されている。したがって、正極タブ端子及び負極タブ端子は、それぞれ電極群5の両端面の互いに反対側に導出されている。なお、電極群5の外周面全周には、図示を省略した絶縁被覆が施されている。電池蓋は、絶縁性の樹脂製ガスケットを介して電池容器6の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池1の内部は密封されている。また、電池容器6内には、図示しない非水電解液が注液されている。
【0094】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、使用環境に鑑みて、電池の25℃における直流抵抗に対して、160℃での直流抵抗の抵抗上昇率が110%以上であることが好ましく、130%以上であることがより好ましく、140%以上であることが更に好ましい。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、高い安全性を有し、しかも高出力であり、従来の非水電解質二次電池と同様の用途に好適に使用できる。特に、携帯電話、ノート型パソコン、携帯用情報端末、電子辞書、ゲーム機器等の各種携帯用電子機器類の電源として好適に使用できる。このような用途に利用する場合、充電時に万が一過充電状態になっても、発熱が抑制されるので、電池の高温化、膨れ等が防止される。また、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、電力貯蔵用、電気自動車、ハイブリット自動車等の輸送機器用などの用途にも応用可能である。
【0095】
2016年2月8日に出願された日本国特許出願2016−021833号の開示は、その全体が参照により本開示に取り込まれる。
本開示における全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本開示中に参照により取り込まれる。
【実施例】
【0096】
以下、本実施形態を実施例により具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
(合成例1)
撹拌機、温度計、冷却管、及び窒素ガス導入管を装備した3リットルのセパラブルフラスコに、精製水1804gを仕込み、窒素ガス通気量200mL/分の条件下で、撹拌しながら74℃まで昇温した後、窒素ガスの通気を止めた。次いで、重合開始剤の過硫酸アンモニウム0.968gを精製水76gに溶かした水溶液を添加し、直ちに、ニトリル基含有単量体のアクリロニトリル183.8g、カルボキシ基含有単量体のアクリル酸9.7g(アクリロニトリル1モルに対して0.039モルの割合)、及び式(I)で表される単量体のメトキシトリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルAM−30G)6.5g(アクリロニトリル1モルに対して0.0085モルの割合)の混合液を、反応系の温度を74℃±2℃に保ちながら、2時間かけて滴下した。続いて、懸濁した反応系に、過硫酸アンモニウム0.25gを精製水21.3gに溶かした水溶液を追加添加し、84℃まで昇温した後、反応系の温度を84℃±2℃に保ちながら、2.5時間反応を進めた。その後、1時間かけて40℃まで冷却した後、撹拌を止めて一晩室温(25℃)で放冷し、ニトリル基を有する樹脂が沈殿した反応液を得た。この反応液を吸引濾過し、回収した湿潤状態の沈殿を精製水1800gで3回洗浄した後、80℃で10時間真空乾燥して、ニトリル基を有する樹脂Aを得た。
【0098】
(合成例2)
撹拌機、温度計、及び冷却管を装着した1.0リットルのセパラブルフラスコ内に、窒素雰囲気下、ニトリル基含有単量体のアクリロニトリル(和光純薬工業(株)製)45.0g、式(II)で表される単量体のラウリルアクリレート(Aldrich社製)5.0g(アクリロニトリル1モルに対して0.0232モルの割合)、重合開始剤の過硫酸カリウム(和光純薬工業(株)製)1.175mg、連鎖移動剤のα−メチルスチレンダイマー(和光純薬工業(株)製)135mg、精製水(和光純薬工業(株)製)450mLを加えて反応液を調製した。反応液を激しく撹拌しながら、60℃で3時間反応を進めた後、80℃で3時間反応を進めた。室温(25℃)に冷却後、反応液を吸引濾過し、析出した樹脂を濾別した。濾別した樹脂を精製水(和光純薬工業(株)製)300mL及びアセトン(和光純薬工業(株)製)300mLで順に洗浄した。洗浄した樹脂を60℃、1torr(133Pa)の真空管乾燥機で24時間乾燥して、ニトリル基を有する樹脂Bを得た。
【0099】
(実施例1)
(1)バインダ樹脂組成物の調製
十分に乾燥させた1リットルのナス型フラスコに、ケミパールW310(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:9.5μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:132℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)45gを仕込み、撹拌しながらN−メチル−2−ピロリドン(NMP)(有機溶媒、和光純薬工業(株)製、特級)108gを加え、更に5分間撹拌した。次いで、撹拌しながら、塩酸(酸性物質、0.5M HCl、和光純薬工業(株)製、容量分析用)9.0gを加え、更に5分間撹拌した後、エバポレータを用いて、分散液のポリエチレン粒子の濃度が17質量%になるまで減圧濃縮した。得られた分散液に、合成例1で得られた樹脂A(有機溶媒に可溶なポリマ)をN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液(樹脂Aの含有率:6質量%)67gを加えて5分間撹拌し、バインダ樹脂組成物(1)を得た。
【0100】
(2)正極の作製
LiMn
2O
4(正極活物質、三井金属鉱業(株)製)、アセチレンブラック(導電材、商品名:HS−100、平均粒径:48nm(電気化学工業(株)カタログ値)、電気化学工業(株)製)、及びバインダ樹脂組成物(1)を、固形分の質量比(正極活物質:導電材:樹脂A:ポリエチレン粒子)が90:4.5:1.0:4.5となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドン(分散媒、和光純薬工業(株)製、特級)中に十分に分散させ、正極形成用組成物を調製した。この正極形成用組成物を厚さ17μmのアルミニウム箔(正極集電体、三菱アルミニウム(株))の片面に塗布し、60℃で5時間乾燥後、圧延して、厚さ75μm、塗布量200g/m
2、密度2.55g/cm
3の正極活物質層を形成し、正極Aを作製した。正極Aを160℃に設定した恒温槽で15分間加熱し、正極Bを得た。
【0101】
(3)負極の作製
非晶質炭素(負極活物質)、アセチレンブラック(導電材、商品名:HS−100、平均粒径:48nm(デンカ(株)カタログ値)、デンカ(株)製)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)溶液(結着材、固形分濃度:12質量%)を、固形分の質量比(負極活物質:導電材:結着材)が87.6:4.8:7.6となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドン(分散媒、和光純薬工業(株)製、特級)中に十分に分散させ、負極形成用組成物を調製した。この負極形成用組成物を厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の片面に塗布し、100℃で30分間乾燥後、圧延して、厚さ62μm、塗布量60g/m
2、密度0.97g/cm
3の負極活物質層を形成し、負極を作製した。
【0102】
(4)コイン型電池の作製
作製した正極A及び正極Bを、それぞれ直径14mmの円形に切断し、2種類の評価用正極を得た。作製した負極を直径16mmの円形に切断し、評価用負極を得た。ポリエチレン微多孔膜からなるセパレータ(商品名:ハイポア、旭化成イーマテリアルズ(株)製、直径19mmの円形に切断したもの)を介し、2種類の評価用正極のそれぞれと評価用負極とを活物質層が対向するよう重ね合わせた2種類の積層体を作製した。この2種類の積層体のそれぞれをコイン外装缶(東洋システム(株)製)に入れ、電解液(1MのLiPF
6を含むエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=3/7(体積比)の混合溶液)に対してビニレンカーボネートを0.5モル%添加したもの)を1mL添加後、コイン外装缶を密閉し、2種類の電極評価用電池を作製した。
【0103】
(実施例2)
ケミパールW310の代わりに、ケミパールW308(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:6.0μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:132℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)を使用し、塩酸の添加量を10.8gとした以外は、実施例1と同様にしてバインダ樹脂組成物(2)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(2)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0104】
(実施例3)
ケミパールW310の代わりに、ケミパールW300(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:3.0μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:132℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)を使用し、塩酸の添加量を13.5gとした以外は、実施例1と同様にしてバインダ樹脂組成物(3)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(3)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0105】
(実施例4)
ケミパールW310の代わりに、ケミパールW900(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:0.6μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:132℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)を使用し、塩酸の添加量を21.6gとした以外は、実施例1と同様にしてバインダ樹脂組成物(4)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(4)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0106】
(実施例5)
ケミパールW310の代わりに、ケミパールW4005(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:0.6μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:110℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)を使用し、塩酸の添加量を21.6gとした以外は、実施例1と同様にしてバインダ樹脂組成物(5)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(5)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0107】
(実施例6)
ケミパールW310の代わりに、ケミパールW410(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:9.5μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:110℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてバインダ樹脂組成物(6)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(6)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0108】
(実施例7)
ケミパールW310の代わりに、ケミパールW408(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:6.0μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:110℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)を使用し、塩酸の添加量を10.8gとした以外は、実施例1と同様にしてバインダ樹脂組成物(7)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(7)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0109】
(実施例8)
ケミパールW310の代わりに、ケミパールWP100(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:1.0μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:148℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)を使用し、塩酸の添加量を20.7gとした以外は、実施例1と同様にしてバインダ樹脂組成物(8)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(8)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0110】
(実施例9)
樹脂A(有機溶媒に可溶なポリマ)の代わりに樹脂B(有機溶媒に可溶なポリマ)を使用した以外は、実施例6と同様にしてバインダ樹脂組成物(9)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(9)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0111】
(実施例10)
樹脂A(有機溶媒に可溶なポリマ)を含有する溶液の代わりにポリフッ化ビニリデン溶液(固形分:12質量%)を使用した以外は、実施例6と同様にしてバインダ樹脂組成物(10)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(10)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0112】
(比較例1)
LiMn
2O
4(正極活物質、三井金属鉱業(株)製)、アセチレンブラック(導電材、商品名:HS−100、平均粒径:48nm(デンカ(株)カタログ値)、デンカ(株)製)、上記合成例1に記載の樹脂A、及び粉末状のポリエチレン粒子(ケミパールW410を乾燥して粉末状にしたもの)を、固形分の質量比(正極活物質:導電材:樹脂A:ポリエチレン粒子)が90.0:4.5:1.0:4.5となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドン(分散媒、和光純薬工業(株)製、特級)中に十分に分散させた。次いで、撹拌しながら、固形分20gあたり、塩酸(酸性物質、0.5M HCl、和光純薬工業(株)製、容量分析用)を9g加え、正極形成用組成物を調製した。そして、この正極形成用組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0113】
(比較例2)
十分に乾燥させた1リットルのナス型フラスコに、ケミパールW900(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:0.6μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:132℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)45gを仕込み、撹拌しながらN−メチル−2−ピロリドン(有機溶媒、和光純薬工業(株)製、特級)108gを加え、更に5分間撹拌した後、エバポレータを用いて、分散液のポリエチレン粒子の濃度が17質量%になるまで減圧濃縮した。得られた分散液に、合成例1で得られた樹脂A(有機溶媒に可溶なポリマ)をN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液(樹脂Aの含有率:6質量%)67gを加えて5分間撹拌し、バインダ樹脂組成物(11)を得た。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(11)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0114】
(比較例3)
ケミパールW310の代わりに、ケミパールW4005(水性ポリエチレン分散液、固形分濃度:40質量%、ポリエチレン粒子の平均粒径:0.6μm(三井化学(株)カタログ値)、ポリエチレン粒子の融点:110℃(三井化学(株)カタログ値)、三井化学(株)製)を使用した以外は、比較例2と同様にしてバインダ樹脂組成物(12)を調製した。そして、バインダ樹脂組成物(1)の代わりにバインダ樹脂組成物(12)を使用した以外は、実施例1と同様にして2種類の電極評価用電池を作製した。
【0115】
(評価方法)
(1)分散性の評価
実施例1〜10及び比較例2〜3で得られたバインダ樹脂組成物を静置し、静置直後、24時間経過後、7日間経過後、14日間経過後、及び28日間経過後の分散状態を観察した。ポリエチレン粒子がバインダ樹脂組成物の全体に分散している状態をA、ポリエチレン粒子がバインダ樹脂組成物の上層に分離している状態をBとして評価した。なお、比較例1ではバインダ樹脂組成物を調製していないため、分散性の評価を行っていない。
【0116】
(2)放電レート特性の評価
実施例1〜10及び比較例1〜3で正極Aを使用した電極評価用電池を25℃に設定した恒温槽内に入れ、充放電装置(東洋システム(株)製、商品名:TOSCAT−3200)を用いて25℃で、以下の条件で充放電した。4.2V且つ0.5Cで定電流定電圧(CCCV)充電を行った後、0.5Cで2.7Vまで定電流(CC)放電を行い、放電容量を測定した。次いで、4.2V且つ0.5Cで定電流定電圧(CCCV)充電を行った後、3.0Cで2.7Vまで定電流(CC)放電を行い、下記の式から算出される値を放電レート特性とした。なお、放電電流値を示すCとは“電流値(A)/電池容量(Ah)”を意味する。
放電レート特性(%)=(3Cでの放電容量/0.5Cでの放電容量)×100
【0117】
(3)160℃でのPTC特性(抵抗上昇率)
実施例1〜10及び比較例1〜3で正極Aを使用した電極評価用電池を25℃に設定した恒温槽内に入れ、25℃での直流抵抗(DCR)を測定し、これを初期抵抗とした。次に、実施例1〜10及び比較例1〜3で正極Bを使用した電極評価用電池を25℃に設定した恒温槽内に入れ、25℃での直流抵抗(DCR)を測定し、これを加熱後抵抗とした。初期抵抗及び加熱後抵抗から下記式に従って抵抗上昇率(%)を算出し、160℃でのPTC機能の指標とした。
抵抗上昇率(%)=(加熱後抵抗/初期抵抗)×100
なお、直流抵抗(DCR)は、下記の式より算出した。
【0118】
【数1】
【0119】
ここで、I=(I
1C+I
3C+I
5C)/3、V=(ΔV
1C+ΔV
3C+ΔV
5C)/3であり、I
1C、I
3C、及びI
5Cは、それぞれ対応する1C、3C、及び5Cでの放電電流値を示し、ΔV
1C、ΔV
3C、及びΔV
5Cは、それぞれ対応する放電電流値における放電開始10秒後の電圧変化を示す。
【0120】
実施例1〜10及び比較例1〜3の評価結果を表1に示す。表1中、バインダ樹脂組成物の成分における「−」は、当該成分を配合していないことを意味する。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例1〜10のバインダ樹脂組成物は、ポリエチレン粒子の分散性に優れており、静置後28日経過後においても、ポリエチレン粒子がバインダ樹脂組成物の全体に分散していた。また、実施例1〜10の電極評価用電池は、優れた放電レート特性を示していた。更に、実施例1〜10の電極評価用電池は、160℃におけるPTC特性に優れていた。このことから、実施例1〜10の電極評価用電池は、温度が上昇した場合に電池の内部抵抗を上昇させる機能を備え、通常作動時には優れた電池特性を有することが確認された。
【0123】
一方、正極の作製にバインダ樹脂組成物を用いず、粉末状のポリオレフィン粒子を用いた比較例1の電極評価用電池は、PTC特性に優れていたものの、放電レート特性に劣っていた。
また、酸性物質を含有しない比較例2〜3のバインダ樹脂組成物は、ポリエチレン粒子の分散性に劣り、静置後24時間又は7日間経過した時点で、ポリエチレン粒子がバインダ樹脂組成物の上層に分離した。このことから、比較例2〜3のバインダ樹脂組成物を用いた場合には、均一な電極活物質層を作製することが困難になると予想される。