【実施例1】
【0026】
以下、図面に示す実施例により本発明を説明する。
図1および
図2はそれぞれ、本発明の一実施例に係る放射線計測装置を示す全体斜視図および一部破断断面図である。本実施例に係る放射線計測装置2は、ガンマ線計測センサ(放射線計測センサ)4と、このガンマ線計測センサ4と電気的に接続されガンマ線計測センサ4をオンオフ制御するとともに、ガンマ線計測センサ4で計測された放射線の計測データを記憶部(記憶手段、図示せず)に保存して記憶する携帯可能な計測データ収集用端末装置(制御手段)5Aと、作業者Mにより操作され通信(例えば、ブルートゥース(登録商標)、無線LAN等)を通じて計測データ収集用端末装置5Aとデータや指令信号を遣り取り可能に構成される制御用端末装置(制御手段)5Bと、位置情報を記録するGPSロガー(GPS装置)6と、これら機材4、5A、6を所定の配置位置に保持して収容し、外部からの衝撃を緩和するブロック状のスペーサ7と、これら機材4、5A、6が収容されたスペーサ7を内部に密封して収納する防水容器3とを備えて構成される。
【0027】
計測データ収集用端末装置5Aは、ガンマ線計測センサ4から出力され記憶部に一時保存された計測データを計測時刻毎に時刻でファイル名が付けられたファイルに保存するようになっている。制御用端末装置5Bは防水容器の外で作業者Mにより操作され、通信を通じて防水容器3に密封されて収容された計測データ収集用端末装置5Aを制御するようになっている。すなわち、制御用端末装置5Bは、通信を通じて防水容器3内の計測データ収集用端末装置5Aを制御してガンマ線計測センサ4をオンオフ動作させたり、計測データ収集用端末装置5Aに記憶された計測データのデータファイルを外部に転送させたりすることができるようになっている。端末装置5A、5Bはいずれも、中央演算処理装置(CPU、制御部)とメモリ(記憶手段、記憶部)と通信部とを備えた携帯型の端末装置で、モバイル端末や携帯用ノート型パソコンが用いられる。ガンマ線計測センサ4は、水中の底質の真上に一定時間静止させて配置し、底泥の放射線量を、すなわち、水底の放射性セシウム(Cs−134、Cs−137)を含む放射性物質から放射されるガンマ線の値を測定するようになっている。このガンマ線計測センサ4は計測データ収集用端末装置5Aからの指令信号により計測動作がオンオフされ、計測したデータを計測データ収集用端末装置5Aに出力するようになっている。
【0028】
つまり、より具体的には、(1)制御用端末装置5Bを使用して、防水容器3内の計測データ収集用端末装置5Aを制御し、計測ソフトをスタートし、(2)防水容器3を計測場所の水中に投下し(このときは計測中)、(3)計測時間(本実施例では4分間)が終了するまで待機し、その後、データの保存が完了する。(4)防水容器3を引き上げる。
【0029】
GPSロガー6は、一定時間ごとにGPS(全地球測位システム)で現在位置を計測、記録して、後から移動経路を知ることができるようになっている。GPSロガー6は、地上で現在位置を計測して記録できるものの、水中では計測不能となるので、防水容器3が水中に投入される直前のデータまたは水中から回収された回収直後のデータが、水上での計測位置のデータとなっている。すなわち、ガンマ線計測センサ4により計測された時間の前後の時間とGPSロガー6の記録時間とを対応させると、計測位置が判明するようになっている。このように、放射線の計測データを計測位置と関連付けして正確な計測地図を作成することができる。
【0030】
防水容器3は有底円筒状の透明なアクリル板から構成される容器本体8とこの容器本体8の上部開口に蓋着され、内部を密封する蓋体9とを備えて構成される。蓋体9は、外周縁が容器本体8の上端開口に外側に突出して形成された上端鍔部8Aに環状パッキン10を介して載置され、周方向に等間隔で螺装される締結具11(本実施例では4箇所)により密封されるようになっている。容器本体8の内部には、機材4、5A、6が収容されたブロック状スペーサ7の長手方向両端部が容器本体8の内面に接触して収容される。防水容器3は、各機材4、5A、6が配置されたスペーサ7が容器本体8内部に収容され、蓋体9が容器本体8に密着されて密封されると、水中に投入され、底面が水中の底質に着座するようになっている。スペーサ7は上部が開口したポケットが機材4、5A、6の配置に応じて形成され、これら各ポケットに機材4、5A、6が上方から出し入れ可能に収容される。スペーサ7は作業者Mにより容器本体8に出し入れされるようになっている。
【0031】
ガンマ線計測センサ4は、円筒状容器本体8の軸心C上に所定の高さhで配置される。
図6に示す理論から導かれるグラフから、本実施例では、実験に使用した容器本体8の半径rを10cmとし、ガンマ線計測センサ4の高さh=5cmとしているが、ガンマ線計測センサの高さhは高い方が好ましい。つまり、装置が極端に巨大化しない範囲で、設置高さhを高くするのが好ましい。このように、本実施例では、容器本体8の壁面から均等な位置(軸心C上)でしかも底面から所定の高さhを確保し、ガンマ線計測センサ4の回りには周方向と下方にエア空間Sを確保し、正確な測定精度が短時間で出せるように構成している。エア空間Sを確保したことにより、底質の広い範囲からガンマ線が到達するため(
図4の(B)参照)ガンマ線の計測時間を短くすることができる。
図4の(A)は、従来のようにガンマ線計測センサ104のみを防水してガンマ線計測センサ104の周囲にエア空間を設けないで、底質とガンマ線計測センサ104との間が水で満たされている場合のガンマ線の到達イメージを示す説明図である。この
図4の(A)からわかるように、ガンマ線計測センサ104のみを防水して底質との間に水がある場合、ガンマ線計測センサ104周囲の水に底質の放射線は遮られるため、より正確な測定精度を得るには長時間計測する必要がある。これに対し、
図4の(B)に示すように、本実施例に係るガンマ線計測センサ4は、防水容器3内に収容され、しかも、ガンマ線計測センサ4の回りには周方向と下方にエア空間Sを確保しているので、放射線を遮蔽するものが排除されている。このため、計測時間を短くすることができるようになっている。ガンマ線計測センサ4には、上端部に図示しない紐が接続され、スペーサ7に収納された後、スペーサ7から取り出す際に用いられるようになっている。
【0032】
本実施例では、容器本体8へのガンマ線計測センサ4の配置は、理論的な解釈により求めた。
まず、地表面に均一に放射性物質が存在する場合、
図5に示すように、高さhの地点に到達する放射線は、次式(数1)で表され、放射線のエネルギーが0.5MeV付近の場合、減衰係数μは物質の密度に比例し、おおよそ空気で0.01、水で8.55となる。
【0033】
【数1】
【0034】
円柱状の防水容器3によって検出器(ガンマ線計測センサ4)の周囲にエア空間Sを設けた場合、検出器(ガンマ線計測センサ4)に到達する放射線量の比(空気/水)は、上式(数1)から
図6のグラフのように求められる。例えば、半径10cmの円筒状防水容器3によりエア空間Sを設け、下から高さ5cmでかつ軸心C上に検出器(ガンマ線計測センサ4)を設置すると、約1.9倍の放射線が到達し、計測効率が向上する。
【0035】
防水容器3の蓋体9には、締結具11間に取手13が設けられる。取手13には、先端に浮き14が接続された紐15が連結される。紐15は、水域の水深に応じて長さが調整可能になっている。紐15は、防水容器3が水中に着底し、浮き14が水面に浮いている状態で、浮き14側を持って引っ張ると、水中から防水容器3を引き上げることができるようになっている。
【0036】
防水容器3には、錘20が着脱自在に取り付けられる。錘20は、複数の錘片20Aとこの錘片20Aに形成された挿通孔に帯体21を通して構成される。錘20は、所望の数の錘片20Aに挿通孔を介して挿通された帯体21を容器本体8の外周に巻き付け、錘片20Aを容器本体8の下端外周に突出して形成された下端鍔部8Bに載置して容器本体3に取り付けられる。錘20は、錘片20Aの数に応じて、内部に機材が収納されて密封された防水容器3の比重に応じて錘片20Aの数を調整し、錘20としての重量を調整可能に取り付けられる。すなわち、錘20は、水域の底質に応じて防水容器3が着地する際に、着地時の衝撃を緩和するように防水容器3の比重を底質と同等か、あるいは底質の比重に近づけるようになっている。つまり、軟弱な底質の場合、防水容器3をより低速で沈降させるように構成される。本実施例の場合、軟質な底質を考慮し、錘20を装着した防水容器3の比重が1.1〜1.2程度になるよう設定している。なお、錘20がない場合、密封された防水容器3には気室が形成されるので水中に沈むことはない。このため、水域の計測対象場所の底質が軟弱であったりヘドロ状であっても、防水容器3は鉛直下向きに降下し、防水容器3の着底時、泥を巻き上げにくくすることができ、防水容器3への泥の付着を抑制し、より正確な測定を行うことができるようになっている。
【0037】
上記実施例に係る放射線計測装置2は、例えば、
図7に示す池のような水域Wで底質の放射線量を計測する際、図示しない船(運搬手段)によりこの水域Wの所望の計測位置に機材4、5A、6、スペーサ7、容器本体8、蓋体9を運び込み、GPSロガー6を動作させて位置と時間を確認する。そして、作業者Mがガンマ線計測センサ4と計測データ収集用端末装置5Aとのスイッチを入れて通信用ソフトを起動し、これら機材4、5A、6をスペーサ7に収め、このスペーサ7を容器本体8に収容し、蓋体9で防水容器3を密封するようになっている。次に、作業者Mは制御用端末装置5Bを動作させ、無線LANやブルートゥース(登録商標)の通信手段により計測データ収集用端末装置5Aを制御する。制御用端末装置5Bは計測データ収集用端末装置5Aを通じて、計測ソフトのオンオフ、計測データファイルの保存を行うようになっている。計測ソフトはタイマー計測可能になっており、「スタート後t秒間計測」するよう設定される。つまり、ガンマ線計測センサ4を動作開始後、所望の時間t秒計測動作させるよう設定される。ガンマ線計測センサ4は計測されたデータの自動保存機能は有していないので、計測された計測データは計測データ収集用端末装置5Aに出力され、計測データ収集用端末装置5Aのメモリに計測時刻毎のファイル名が付けられたファイルとして保存されるようになっている。つまり、密閉された防水容器3が計測場所の水中に投入され、ガンマ線計測センサ4が指定された計測時間計測し(本実施例では4分間)、計測データを計測データ収集用端末装置5Aに送信すると、計測データ収集用端末装置5Aはガンマ線計測センサ4から受け取った計測データをメモリ(図示せず)のファイルに保存するようになっている。このファイルは計測時刻毎に作成される。水中の防水容器3を回収する際には、図示しない船で浮き14を探し、紐15を引っ張って、船上に回収するようになっている。
【0038】
次に、上記実施例に係る放射線計測装置2を用いた放射線計測方法について、放射線計測装置2の動作に基づいて説明する。本実施例に係る放射線計測装置2を用いた放射線計測方法は、まず、第1のステップS1で、作業者Mは、船(運搬手段、図示せず)により水域Wの所望の計測位置(最初の計測位置)に放射線計測装置2を運び込む。
【0039】
次に、第2のステップS2で、作業者Mは、ガンマ線計測センサ4と計測データ収集用端末装置5Aと無線LANルーター(図示せず)とGPSロガー6のスイッチを入れて動作状態とし、通信用ソフトを起動させる。ガンマ線計測センサ4と計測データ収集用端末装置5AとGPSロガー6とをスペーサ7を通じて容器本体8に収め、蓋体9で防水容器3を密封する。そして、作業者Mは制御用端末装置5Bにより計測データ収集用端末装置5Aを動作させ計測ソフトを通じてガンマ線計測センサ4の計測を開始する。このとき、着底時間を考慮して所定の時間経過後、計測を開始するようにしてもよい。その後、防水容器3を図示しない船から水中に投入する。水中に投入された防水容器3は、下側に錘20が取り付けられ、しかも、錘20の重量を調整し、水域の底質が軟弱な場合、水域Wに投入される防水容器3の比重を底質の比重と同等または底質の比重に近づける(本実施例では、防水容器3の比重を1.1〜1.2に設定)ようにしているので、防水容器3は低速で沈降する。このため、防水容器3の着底時、防水容器3が底質に沈み込むのが阻止される。このため、防水容器3は底面を下方に向けた状態でゆっくりと沈降し、たとえ、底質が軟弱であっても、泥を巻き上げることなく緩やかに着底する。ガンマ線計測センサ4は、指定された計測時間(本実施例では4分間)の間、計測した計測データを計測データ収集用端末装置5Aに送信する。計測データ収集用端末装置5Aはガンマ線計測センサ4から受け取った計測データをメモリ(図示せず)に一時的に記憶し、ファイルに保存する。このとき、GPSロガー6は、地上で現在位置を計測して記録できるものの、水中では計測不能となるので、防水容器3が水中に投入される直前のデータまたは水中から回収された回収直後の水上のデータが、計測位置のデータとなる。計測時間(本実施例では4分間)の間、作業者Mは船上で待機する。この所定の計測時間が経過すると、計測ソフトが計測を終了する。終了すると計測データが保存されたファイルが計測場所(計測時刻)のファイルとして保存される。
【0040】
次に、第3のステップS3で、ガンマ線計測センサ4の計測時間に相当する時間、図示しない船で待機した後、浮き14を探し、紐15を引っ張って、防止容器3を船上に回収する。そして、作業者Mは、船で次の計測場所に移動し、再び、制御用端末装置5Bにより密封された防水容器3の計測データ収集用端末装置5Aを制御して、計測作業をセットし、当該計測場所で防水容器3を水中に投入する。このように、防水容器3を船に引き上げた際、蓋体9を開くことなく、密封状態の防水容器3の計測データ収集用端末装置5Aを制御して計測を行うことができる。このため、次の測定地点に速やかに移動することができる。一地点で計測を完了する場合、この第3のステップS3で工程を完了する。複数の計測箇所で計測を行う場合、第2のステップS2と第3のステップS3とを繰り返し、船で次の計測地点に向かい、引き上げられた放射線計測装置を水域の他の計測場所に運搬しては、放射線計測センサを動作させて防水容器を水中に投入する投入工程と、計測時間経過後、防水容器の引き上げを行う引き上げ工程とを繰り返して、計測場所毎の計測データを収集するようになっている。このように、水域Wにおける計測地点毎に密封された防水容器3の投入と回収を繰り返して計測を行ので、計測範囲を線状にも面状にも自在に設定できる。ガンマ線計測センサ4により計測された各測定位置ごとの放射線の計測データをGPSロガー6の位置情報とこの位置情報の記録時間とを対応させると、放射線の計測データを計測位置と関連付けして正確な計測地図を作成することができるようになっている。このように、本実施例に係る放射線計測装置2を用いた放射線計測方法では、所望の計測場所での防水容器3の投入と所定の計測時間経過後の引き上げだけで計測作業を効率的に行うことができる。また、ガンマ線計測センサ4は、防水容器3内で水底とエア空間Sにより隔てられて配置されているので、計測時、水底の放射線は水による遮蔽をうけにくく、放射線が正確にセンサに到達しやすい。このため、計測のための投入と計測データの回収とを時間をずらして行うことができ、水中の底質の放射線量の測定を効率良くかつ正確に行うことができる。
【0041】
なお、上記実施例では、GPSロガー6を防水容器3に収容するようにしているがこれに限られるものではなく、防水容器3ではなく作業者MがGPSロガー6を携帯し、防水容器3投入時の位置データを作業者Mが記録し、後で放射線計測データと付き合わせて集計するようにしてもよい。また、上記実施例では、計測データ収集用端末装置と制御用端末装置とを用いて計測データを集計するようにしているがこれに限られるものではなく、計測データ収集用端末装置に表示部を設け、透明なアクリル容器を通じて表示部に表示された計測データを作業者が書き取るようにしてもよいし、計測データ収集用端末装置を外部のセンターサーバと通信を通じて遣り取り可能にし、計測データをセンターサーバに送信するようにしてもよい。また、防水容器に開閉自在な窓を形成し、水中から防水容器を引き上げた際、この窓を開いて計測データ収集用端末装置の通信部を通じて計測データを外部のセンターサーバに送信するようにしてもよい。さらに、引き上げ時、窓を開いては計測データ収集用端末装置を操作して、計測するようにしてもよい。この場合、端末装置一台のみで計測を行うことができる。また、制御用端末装置をブルートゥース(登録商標)キーボードとしてもよい。