(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
形状測定装置として真円度測定装置が知られている。真円度測定装置は、回転機構を有し、円形形体の被測定物の半径変化を精密に測定する機能を有する。
【0003】
まず、真円度測定装置の構成を簡単に説明する。
図1は、真円度測定装置100の外観図である。図中に、マシン座標系のX軸、Y軸、Z軸を併記した。
紙面の左から右方向にX軸をとり、紙面の手前から奥方向にY軸をとり、下から上方向にZ軸をとる。
【0004】
真円度測定装置100は、測定機本体部200と、ホストコンピュータ110と、操作部120と、モーションコントローラ130と、を備える。
【0005】
測定機本体部200は、基台210と、回転テーブル220と、座標測定部300と、を備える。
【0006】
回転テーブル220は、回転駆動部221と、載物台223と、を備える。
回転駆動部221は基台210上に設置され、円板状の載物台223を回転させる。回転駆動部221の側面には調整用つまみ222が周方向に90度間隔で配置されている。調整用つまみ222を操作することにより載物台223をX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向にそれぞれ調整できるようになっており、これにより、載物台223の心出しおよび水平出しができるようになっている。被測定物をこの載物台223の上にセットすると、載物台223とともに被測定物が回転する。
【0007】
座標測定部300は、Z軸コラム310と、Zスライダ320と、Xアーム330と、ヘッドホルダ340と、プローブヘッド350と、を備える。
【0008】
Z軸コラム310は、Z軸に平行に基台210上に立設されている。Zスライダ320は、Z方向(上下方向)に移動可能にZ軸コラム310に設けられている。Xアーム330は、X方向に進退可能にZスライダ320に支持されている。ヘッドホルダ340はL字型の部材であって、ヘッドホルダ340の基端はXアーム330の先端に取り付けられ、ヘッドホルダ340の先端にはプローブヘッド350が取り付けられている。
【0009】
なお、ヘッドホルダ340は、X軸方向に延びる回転軸331を中心として回転可能に設けられている。回転可能範囲は、例えば0°からマイナス90°の範囲に規制されている。
図2のように、ヘッドホルダ340が鉛直のとき、これを「垂直姿勢」とする。
図3のように、ヘッドホルダ340が水平のとき、これを「水平姿勢」とする。
【0010】
プローブヘッド350は、てこ式電気マイクロメータであり、ヘッドホルダ340の先端に取り付けられている。プローブヘッド350は、スタイラス360を有し、スタイラス360の先端には被測定物に接触する測定子361が設けられている。スタイラス360は、先端をX軸方向に変位させることができるように傾動可能に設けられている。ここでは、てこ式電気マイクロメータを用いたが、プローブヘッド350としては平行移動式の電気マイクロメータでもよいし、その他既存のプローブヘッドを利用できる。
【0011】
ヘッドホルダ340が垂直姿勢(
図2)のとき、ヘッドホルダ340の側面に設けられた調整ネジ341を回すことでプローブヘッド350をY方向に微小変位させることができる。
また、ヘッドホルダ340が水平姿勢(
図3)のとき、ヘッドホルダ340の端面に設けられた調整ネジ342を回すことでプローブヘッド350をY方向に微小移動させることができる。
【0012】
なお、スタイラス360の角度、ヘッドホルダ340の倒れ角、Xアーム330の進退量、および、Zスライダ320の位置(昇降量)は、それぞれエンコーダ(不図示)で検出される。
【0013】
ホストコンピュータ110は、CPU(中央処理装置)や所定プログラムを格納したROM、RAMを有するいわゆるコンピュータ端末であって、モーションコントローラ130に所定の動作指令を与えるとともに、測定機本体部200で取得されたデータに基づいて被測定物Wの形状解析等の演算処理を実行する。また、ホストコンピュータ110は、モニタ112やキーボード、マウスを介して入出力インターフェースをユーザに提供する。操作部120は、操作レバーや操作ボタンを有し、手動操作によってモーションコントローラ130に動作指令を与える。モーションコントローラ130は、測定機本体部200の駆動制御を実行する。
【0014】
被測定物の真円度測定に当たっては、測定子361を被測定物の表面に当接させた状態で回転テーブル220を回転駆動させる。すると、測定子361が被測定物の表面を走査(トレース)する。すなわち、回転テーブル220の回転駆動で被測定物が回転する際、被測定物の半径変化に応じて測定子361がX軸方向に変位する。具体的には、被測定物の半径変化に応じてXアーム330が進退し、これによって測定子361がX軸方向に変位し、測定子361が被測定物の表面に追従する。回転テーブル220が一周したところでZスライダ320を上方または下方に移動させ、被測定物の周方向の走査を繰り返す。スタイラス360の角度、Xアーム330の位置、および、Zスライダ320の位置をそれぞれエンコーダ(不図示)で検出し、測定子361の変位量を測定データとして得る。測定データに基づいて被測定物の形状解析、すなわち、真円度、円筒度の解析が行われる。
【0015】
さて、真円度測定装置100を使った測定にあたっては、まず、回転テーブル220の回転軸と測定子361の測定軸Lとが同一平面において直交するように軸合わせをする必要がある。なお、測定軸Lとは、測定子361の中心を通り、X軸に平行な仮想線である。測定子361はXアーム330の進退によって変位するのであるから、測定軸Lとはすなわち(Zスライダ320の位置を固定した状態における)測定子330の可動方向に相当する。そして、測定軸Lの位置合わせ作業を本明細書では「測定軸合わせ」と称することにする。
【0016】
仮に測定軸Lが回転テーブル220の回転軸線に直交しない状態で測定作業を行ってしまうと、測定子361の変位が被測定物の半径変化に正しく対応しないのは当然である。例えば、スタイラス360を交換した場合や、スタイラス360の傾斜角を変更した場合、ヘッドホルダ340の角度(姿勢)を変更した場合など、には「測定軸合わせ」を行う必要がある。
【0017】
従来、「測定軸合わせ」は次のように行われてきた(例えば特許文献1、2)。まず、先端に真球を有するマスターボール90を用意する。マスターボール90を回転テーブル220の中心にセットし(
図2、
図3参照)、さらに、センタリング(心出し)を行う。すなわち、真球の中心と回転テーブル220の回転軸線とを合わせる。次に、測定子361を真球に当接させ、この状態でY方向調整ネジ(341、342)を回し、測定子361のX方向変位が最大になるような位置を探す。測定子361のX方向変位が最大になるところが見つかったら、そこでY方向調整ネジ(341、342)を止める。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記の手順によって「測定軸合わせ」を正しく行うことはできる。ただし、マスターボール90を回転テーブル220の中心にセットしなければならないのであるから、被測定物を一旦外さなければならない。そして、「測定軸合わせ」を行った後で、もう一度、被測定物を回転テーブル220にセットして、被測定物の心出しを行わなければならない。ある被測定物を測定している最中にスタイラス360を交換したり、ヘッドホルダ340の姿勢を変更したりすることがある。スタイラス360交換や姿勢変更の度に上記のような手順を要するとすると、手間が掛かり、測定効率が上がらないという問題がある。
【0020】
本発明の目的は、測定軸合わせに要する手間の削減および時間短縮を図り、形状測定装置の測定効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の形状測定装置の軸ずれ判定方法は、
形状測定装置の軸ずれ判定方法あって、
前記形状測定装置は、
被測定物を載置するとともにZ軸を回転中心として回転可能な回転テーブルと、
被測定物を検出する測定子を有し、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸のうちのX軸に平行な方向に前記測定子を進退させて、前記測定子により前記被測定物表面に沿った倣い測定を実行する座標測定部と、を備えており、
前記測定子の中心を通り、前記X軸に平行な仮想線を測定軸とするとき、
当該形状測定装置の調整方法は、
面対称性を有する校正用ゲージを前記回転テーブルの回転中心以外の位置にセットし、
前記回転テーブルを回転駆動させながら前記校正用ゲージを測定し、
前記測定子が前記校正用ゲージを検出したときの前記回転テーブルの位相のパターンに基づいて、前記回転テーブルの回転軸に対して前記測定軸がズレているか否かを判定する
ことを特徴とする。
【0022】
本発明では、
前記校正用ゲージの測定結果に基づいて、
前記測定子が前記校正用ゲージの検出を開始した時の前記回転テーブルの位相である検出開始位相θiと、
前記測定子が前記校正用ゲージの検出を終了した時の前記回転テーブルの位相である検出終了位相θfと、
測定値がピーク値を示すときの前記回転テーブルの位相であるピーク時位相θpと、を求め、
軸ずれ指標値MをM={(θp−θi)−(θf−θp)}とするとき、
前記軸ずれ指標値Mの正負によって前記測定軸のずれの方向を判定する
ことが好ましい。
【0023】
本発明では、
前記校正用ゲージは、前記回転テーブルの側面に予めセットされている
ことが好ましい。
【0024】
本発明では、
前記校正用ゲージは、真球の全体または真球の一部分である
ことが好ましい。
【0025】
本発明の形状測定装置の調整方法は、
Y軸に沿った方向で前記測定子と前記回転テーブルとの位置を相対的に微調整可能となっており、
前記形状測定装置の軸ずれ判定方法を実行した後、
前記測定軸のズレ方向の判定結果をモニタに表示し、
ユーザは、前記モニタの表示を参考にして前記測定子の位置を微調整する
ことを特徴とする。
【0026】
本発明の形状測定装置の軸ずれ判定プログラムは、
形状測定装置の軸ずれ判定プログラムであって、
前記形状測定装置は、
被測定物を載置するとともにZ軸を回転中心として回転可能な回転テーブルと、
被測定物を検出する測定子を有し、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸のうちのX軸に平行な方向に前記測定子を進退させて、前記測定子により前記被測定物表面に沿った倣い測定を実行する座標測定部と、
モーションコントローラを介して前記回転テーブルおよび前記座標測定部の動作制御を行うホストコンピュータと、を備えており、
面対称性を有する校正用ゲージが前記回転テーブルの回転中心以外の位置にセットされており、
前記測定子の中心を通り、前記X軸に平行な仮想線を測定軸とするとき、
当該形状測定装置の軸ずれ判定プログラムは、前記コンピュータに、
回転テーブルを回転駆動させながら前記校正用ゲージ測定するステップと、
前記測定子が前記校正用ゲージを検出したときの前記回転テーブルの位相のパターンに基づいて、前記回転テーブルの回転軸に対して前記測定軸がズレているか否かを判定するステップと、を実行させる
ことを特徴とする。
【0027】
本発明の形状測定装置は、
被測定物を載置するとともにZ軸を回転中心として回転可能な回転テーブルと、
前記回転テーブルの回転中心以外の位置にセットされた面対称性を有する校正用ゲージと、
被測定物を検出する測定子を有し、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸のうちのX軸に平行な方向に前記測定子を進退させて、前記測定子により前記被測定物表面に沿った倣い測定を実行する座標測定部と、を具備する
ことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
形状測定装置(真円度測定装置100)の調整方法に係る第1実施形態を説明する。
図4、
図5、
図6は、本実施形態の調整方法の手順を示すフローチャートである。
このフローチャートに沿って順に説明していく。
【0030】
真円度測定装置100の測定軸合わせを行うにあたって、まず、校正用ゲージ500を回転テーブル220にセットする(ST100)。
図7は、校正用ゲージ500を回転テーブル220にセットした状態を示す図である。校正用ゲージ500は、真球を先端に有するいわゆるマスターボールである。校正用ゲージ500をセットする位置は、回転テーブル220の中心以外であればよい。好ましくは、回転テーブル220の中心からの距離ができる限り大きい方がよく、例えば、回転テーブル220の端に近いところに校正用ゲージ500をセットするのがよい。
【0031】
なお、回転テーブル220の載物台223に校正用ゲージ500をセットするためのネジ孔などを予め設けておいてもよいであろう。
【0032】
校正用ゲージ500をセットする位置は回転テーブル220の中心以外であるから、
図7に示すように、回転テーブル220の中心に被測定物Wを置いたままでよい。つまり、測定軸合わせにあたって、被測定物Wを回転テーブル220から外す必要は無い。例えば、被測定物Wを測定している最中にスタイラス360を交換したり、スタイラス360の角度やヘッドホルダ340の角度を変更したりするような場合であっても、被測定物Wはそのままの状態にして、回転テーブル220の空いたスペースに校正用ゲージ500をセットすればよい。(したがって、測定軸合わせの後で回転テーブル220および被測定物Wの心出しを再度行う必要は無い。)
【0033】
校正用ゲージ500を回転テーブル220にセットしたら、この校正用ゲージ500を"測定"する(ST200)。
【0034】
やや冗長であるが、用語について付言しておく。
「この校正用ゲージ500を"測定"する(ST200)」といっても校正用ゲージ500の正確な形状データそのものを取得したいわけではない。校正用ゲージ500の正しい形状データそのものを得たければ、
図2や
図3のように、校正用ゲージ500を回転テーブル220の中心にセットしなければならない。ここでは、校正用ゲージ500を回転テーブル220の中心以外にセットしているわけであるから、校正用ゲージ500の形状データそのものが得られるわけではない。
【0035】
本実施形態は、回転テーブル220の中心から外れた位置にある校正用ゲージ500に対して測定子361を倣い走査させ、このときの測定子361と校正用ゲージ500との接触の仕方によって測定軸Lのズレを逆算するものである。「回転テーブル220の中心から外れた位置にある校正用ゲージ500に対して測定子361を倣い走査させる」という動作と、回転テーブル220の中心にセットした被測定物を測定する動作とは、「回転テーブル220を回転させながら回転テーブル220上の対象物に対して測定子361を倣い走査させる」という点で同じ動作である。実際のところ、校正用ゲージ500を"測定"する(ST200)ための動作制御は、被測定物を測定するためのパートプログラムと同じでよい。したがって、便宜上、「回転テーブル220の中心から外れた位置にある校正用ゲージ500に対して測定子361を倣い走査させる」動作も「測定」と称することにした。
【0036】
ここで、第1パターンとして、測定軸Lが既に合っている場合を考えてみる。(測定軸Lが合っている、とは、回転テーブル220の回転軸と測定子361の測定軸Lとが同一平面で直交するようになっていることをいう。以下同じ。)
図8から
図14は、測定軸Lが既に合っている場合の動作を例示する図である。
図8の状態では、測定軸Lが回転テーブル220の中心を通っており、すなわち、測定軸Lが既に合っている。(したがって、測定軸Lを調整する必要は無いのであるが、ユーザとしてみれば、測定軸Lがあっているかどうかはわからない。)
【0037】
まず、
図8のように、校正用ゲージ500を回転テーブル220の中心から外れた位置にセットしたとする。そして、校正用ゲージ500の測定を開始する。この測定動作自体は、真円度測定装置100(ホストコンピュータ110)にプリセットされた測定用パートプログラムで実行できる。
図8の状態から回転テーブル220が回転する。(ここでは図中時計回りに回転するとする。)
図9の状態では、測定子361が測定軸Lに沿って進退したとしても測定子361が校正用ゲージ500に接触することはない。
【0038】
図9の状態からさらに回転が進むと、
図10に示すように、校正用ゲージ500の外側面が測定子361に接触するようになる。測定子361と校正用ゲージ500とが接触を開始した時の回転テーブル220の位相をθiとする。ここでは、一例として、θi=32°とする。
【0039】
測定子361が校正用ゲージ500の外側面に接触したら、測定子361の座標値(具体的にはX座標値)と回転テーブル220の位相とを対にした測定データを取得していく。
【0040】
さらに回転テーブル220が回転すると、測定子361が校正用ゲージ500の外側面を倣い走査する。ここでは、校正用ゲージ500の外側面に押されて、測定子361は、X軸のプラス方向に変位するであろう。
図11は、測定子361がX軸のプラス方向に最も大きく変位した状態を示す図である。測定子361がX軸のプラス方向に最も大きく変位したときの測定値を「ピーク値」と称することにする。また、ピーク値を示すときの回転テーブル220の位相をθpとする。ここでは、一例として、θp=42°とする。
【0041】
ピーク値の後、回転テーブル220がさらに回転すると、測定子361は校正用ゲージ500の外側面を倣い走査しながらX軸のマイナス方向に変位するが、回転テーブル220の回転が進むと、最終的には校正用ゲージ500が測定子361から離れてしまう。(校正用ゲージ500が測定軸Lを通り過ぎ、校正用ゲージ500が測定軸Lに交差しなくなる。)
図12は、測定子361が校正用ゲージ500から離れる直前の状態を示す図である。測定子361と校正用ゲージ500との接触が終了する時の回転テーブル220の位相をθfとする。ここでは、一例として、θf=52°とする。
【0042】
このあと回転テーブル220が回転しても測定子361と校正用ゲージ500とが接触することはなく、測定子361と校正用ゲージ500とが離れたところで測定(ST200)を終了してもよい。
このようにして、測定子361の座標値(具体的にはX座標値)と回転テーブル220の位相とを対にした測定データが取得される。
【0043】
このように校正用ゲージ500の測定データが得られたら、次に測定データの解析を行う(ST300)。データ解析の工程(ST300)は、ホストコンピュータ110によって実行される。
図5は、データ解析の手順を示すフローチャートである。データ解析としては、主要点算出工程ST300Aと、指標値算出工程ST300Bと、がある。
【0044】
まず、主要点算出工程ST300Aから説明する。
主要点とは、前述のθi、θpおよびθfのことである。
θiは、測定子361と校正用ゲージ500とが接触を開始した時の回転テーブル220の位相である。
θiを接触開始位相(検出開始位相)と称することにする。
θpは、ピーク値を示すときの回転テーブル220の位相である。
θpをピーク時位相と称することにする。
θfは、測定子361と校正用ゲージ500との接触が終了する時の回転テーブル220の位相である。
θfを接触終了位相(検出終了位相)と称することにする。
【0045】
ホストコンピュータ110は、測定データを解析して、接触開始位相θi、ピーク時位相θpおよび接触終了位相θfを特定する。本例では、測定データをXY面にマッピングすると、
図13のようになる。回転テーブル220の回転角が32°のときに測定データの取得が始まって(ST310)、回転角が52°で測定データの取得が終了している(ST330)。したがって、接触開始位相θi=32°であり(ST320)、接触終了位相θf=52°である(ST340)。
【0046】
また、ピーク値を探索すると、回転テーブル220の回転角が42°のときに測定子361がX軸のプラス方向に最も大きく変位しており(ST350)、したがって、ピーク時位相θp=42°である(ST360)。
【0047】
主要点(θi、θpおよびθf)の算出(ST300A)に続き、軸ずれ指標値Mを算出する(ST300B)。
軸ずれ指標値Mとは、接触開始位相θiからピーク時位相θpまでの回転角と、ピーク時位相θpから接触終了位相θfまでの回転角と、の差に相当する値である。
【0048】
接触開始位相θiからピーク時位相θpまでの回転角、すなわち、(θp−θi)を求める(ST370)。
ここでは、42°−32°=10°である。
続いて、ピーク時位相θpから接触終了位相θfまでの回転角、すなわち、(θf−θp)を求める(ST380)。
ここでは、52°−42°=10°である。
そして、{(θp−θi)−(θf−θp)}=Mとする(ST390)。
ここでは、M=10°−10°=0°である。
軸ずれ指標値Mが求まったところでデータ解析は終了である。
【0049】
次に、パターン判定を行う(ST400)。パターン判定工程(ST400)は、ホストコンピュータ110によって実行される。パターン判定(ST400)においては、軸ずれ指標値Mの値に基づいて、回転中心と測定軸Lとの相対位置関係を判定する。
図6は、パターン判定(ST400)の手順を示すフローチャートである。
【0050】
ホストコンピュータ110は、まず、軸ずれ指標値Mの絶対値|M|と所定閾値εとを比較する(ST410)。軸ずれ指標値Mの絶対値|M|が所定閾値ε以下であれば(ST410:YES)、測定軸Lは十分に回転テーブル220の回転中心近傍を通っているとし、測定軸合わせの調整は正しく完了していると判定する(ST420)。
【0051】
測定軸Lが回転テーブル220の回転中心近傍を通っている場合、回転テーブル220の回転中心から外れた位置にある校正用ゲージ500を測定したとしても、校正用ゲージ500自体の幾何学的対称性により、接触開始位相θiと接触終了位相θfとはピーク時位相θpを間にして対称に表れるはずである。したがって、軸ずれ指標値Mがある所定閾値ε以下であれば、測定軸Lが回転テーブル220の回転中心近傍を通っていると判定できる。軸ずれ指標値Mがある所定閾値ε以下であって、測定軸Lの調整が不要となるパターンを第1パターンとする。
【0052】
閾値εの値は特に限定されないが、例えば、1°以下の数値に設定するのが好ましいであろう。
【0053】
次に、ホストコンピュータ110は、第1パターンであること、つまり、測定軸合わせが正しく行われていることをユーザに知らせる(ST500)。
ユーザに伝える方法としては、音や音声で伝えても良いし、紙に印刷してもよいが、ここではモニタ112にガイダンス表示するとする(ST500)。
図14は、ガイダンス表示の一例である。
モニタ画面上に、回転テーブル220の画像に測定軸Lを重ねて表示し、本例では、測定軸合わせが正しく行われていることを"OK"のサインで示している。
【0054】
ユーザは、ガイダンス表示を見て、調整OKであることを確認したら(ST600:YES)、校正用ゲージ500を回転テーブル220から外し(ST700)、被測定物Wの測定に取り掛かる。
【0055】
上記の例は、測定軸Lが既に合っている(測定軸Lが回転テーブル220の回転中心近傍を通っている)場合であった。
次に、測定軸Lがずれている場合を説明する。
図15から
図19は、測定軸Lが回転テーブル220の回転軸線に対してプラスY方向にずれている場合である。これを第2パターンとする。上記例と同じく、
図15に示すように、校正用ゲージ500を回転テーブル220にセットして校正用ゲージ500を測定する(ST100、ST200)。回転テーブル220が回転すると、測定子361が校正用ゲージ500に接触を開始し(
図15)、さらに、回転テーブル220の回転に伴って測定子361が校正用ゲージ500の外側面に押されてX軸のプラス方向に変位する(
図16)。そして、回転テーブル220の回転が進むと最終的には測定子361が校正用ゲージ500から離れる(
図17)。このようにして取得した測定データをXY面にマッピングすると例えば
図18のようになる。
【0056】
本例では測定軸Lが回転テーブル220の回転軸線に対してプラスY方向にずれているわけであるから、先の例(
図8から
図14)に比べて、接触開始位相θi、ピーク時位相θpおよび接触終了位相θfがすべて小さくなるのは直観的に理解できるであろう。
データ解析(ST300)によって、接触開始位相θi、ピーク時位相θpおよび接触終了位相θfを特定する(ST310−ST360)。
いま、一例として、接触開始位相θiを18°とし、接触終了位相θfを40°とし、ピーク時位相θp=27°とする。
【0057】
そして、軸ずれ指標値Mを算出する。
接触開始位相θiからピーク時位相θpまでの回転角、すなわち、(θp−θi)を求める(ST370)。
ここでは、27°−18°=9°である。
ピーク時位相θpから接触終了位相θfまでの回転角、すなわち、(θf−θp)を求める(ST380)。
ここでは、40°−27°=13°である。
そして、{(θp−θi)−(θf−θp)}=Mを求める(ST390)。
ここでは、M=9°−13°=−4°である。
【0058】
校正用ゲージ500自体は幾何学的対称性をもつが、測定軸Lがズレていることに起因し、測定結果は対称性を持たない歪(いびつ)な形となる。
つまり、ピーク時位相θpを間にして接触開始位相θiと接触終了位相θfとは対称にはならない。
測定軸LがマイナスY方向にズレている場合、接触開始位相θiからピーク時位相θpまでの回転角(θp−θi)の方がピーク時位相θpから接触終了位相θfまでの回転角(θf−θp)よりも小さくなるわけである。
したがって、軸ずれ指標値Mは負の数となる。
【0059】
軸ずれ指標値Mに基づいてパターン判定を行う(ST400)。軸ずれ指標値Mの絶対値|M|と所定閾値εとを比較する(ST410)。ここでは、軸ずれ指標値Mの絶対値|M|が所定閾値εを超えている(ST410:NO)。軸ずれ指標値Mの絶対値|M|が所定閾値εを超えている場合、軸ずれ指標値Mの符号を確認する(ST430)。軸ずれ指標値Mの値が負であれば(ST430:YES)、測定軸LがプラスY方向にずれていると判定する。したがって、測定軸LをマイナスY方向に移動させる調整が必要である(ST440)。測定軸LをマイナスY方向に移動させる調整が必要なパターンを第2パターンとする。
【0060】
図19は、ガイダンス表示の一例である。
モニタ画面上に、回転テーブル220の画像に測定軸Lを重ねて表示し、本例では、測定軸LがプラスY方向にずれていることを示し、合わせて、調整で移動させるべき向きを矢印(602)で示している。
【0061】
ユーザは、ガイダンス表示を見て、軸合わせの調整が必要であることを確認したら(ST600:NO)、ガイダンスに従って調整ねじ(341、342)で測定軸Lを移動させる(ST800)。調整後、再度、ST200からST600を実行し、測定軸Lの調整がOKであることを確認する(ST600:YES)。その後、校正用ゲージ500を回転テーブル220から外し(ST700)、被測定物Wの測定に取り掛かる。
【0062】
三番目の例として、測定軸Lが回転テーブル220の回転軸線に対してマイナスY方向にずれている場合を説明する。
図20から
図24は、測定軸Lが回転テーブル220の回転軸線に対してマイナスY方向にずれている場合を説明するための図である。これを第3パターンとする。上記例と同じく、
図20に示すように、校正用ゲージ500を回転テーブル220にセットして校正用ゲージ500を測定する(ST100、ST200)。回転テーブル220が回転すると、測定子361が校正用ゲージ500に接触を開始し(
図20)、さらに、回転テーブル220の回転に伴って測定子361が校正用ゲージ500の外側面に押されてX軸のプラス方向に変位する(
図21)。そして、回転テーブル220の回転が進むと最終的には測定子361が校正用ゲージ500から離れる(
図22)。
【0063】
このようにして取得した測定データをXY面にマッピングすると例えば
図23のようになる。本例では測定軸Lが回転テーブル220の回転軸線に対してマイナスY方向にずれているわけであるから、先の例(
図8から
図14)に比べて、接触開始位相θi、ピーク時位相θpおよび接触終了位相θfがすべて大きくなるのは直観的に理解できるであろう。データ解析(ST300)によって、接触開始位相θi、ピーク時位相θpおよび接触終了位相θfを特定する(ST310−ST360)。いま、一例として、接触開始位相θiを46°とし、接触終了位相θfを68°とし、ピーク時位相θp=58°とする。
【0064】
そして、軸ずれ指標値Mを算出する。
接触開始位相θiからピーク時位相θpまでの回転角、すなわち、(θp−θi)を求める(ST370)。
ここでは、58°−46°=12°である。
ピーク時位相θpから接触終了位相θfまでの回転角、すなわち、(θf−θp)を求める(ST380)。
ここでは、68°−58°=10°である。
そして、{(θp−θi)−(θf−θp)}=Mを求める(ST390)。
ここでは、M=12°−10°=2°である。
【0065】
上記例(
図15−
図19)と同じく、測定軸Lがズレていることに起因して測定結果は対称性を持たない歪(いびつ)な形となり、ピーク時位相θpを間にして接触開始位相θiと接触終了位相θfとは対称にならない。
ここでは、測定軸LがマイナスY方向にズレている場合、接触開始位相θiからピーク時位相θpまでの回転角(θp−θi)の方がピーク時位相θpから接触終了位相θfまでの回転角(θf−θp)よりも大きくなるわけである。
したがって、軸ずれ指標値Mは正の数となる。
【0066】
軸ずれ指標値Mの絶対値|M|と所定閾値εとを比較し(ST410:NO)、さらに、軸ずれ指標値Mの符号を確認する(ST430:NO)。
軸ずれ指標値Mの値が正であれば(ST430:NO)、測定軸LがマイナスY方向にずれていると判定する(ST450)。
したがって、測定軸LをプラスY方向に移動させる調整が必要である(ST450)。
測定軸LをプラスY方向に移動させる調整が必要なパターンを第3パターンとする。
【0067】
図24は、ガイダンス表示の一例である。
モニタ画面上に、回転テーブル220の画像に測定軸Lを重ねて表示し、本例では、測定軸LがマイナスY方向にずれていることを示し、合わせて、調整で移動させるべき向きを矢印(603)で示している。
【0068】
ユーザは、ガイダンス表示を見て、軸合わせの調整が必要であることを確認したら(ST600:NO)、ガイダンスに従って調整ねじ(341、342)で測定軸Lを移動させる(ST800)。
調整後、再度、ST200からST600を実行し、測定軸Lの調整がOKであることを確認する(ST600:YES)。
その後、校正用ゲージ500を回転テーブル220から外し(ST700)、被測定物の測定に取り掛かる。
【0069】
このような本実施形態によれば次の効果を奏する。
(1)本実施形態では、校正用ゲージ500を回転テーブル220の中心から外れた位置にセットする。被測定物を測定している最中であれば、被測定物Wはそのままの状態にして回転テーブル220の空いたスペースに校正用ゲージ500をセットすればよい。したがって、被測定物Wの測定中にスタイラス360を交換したり、ヘッドホルダ340の姿勢を変更したりするようなことがあったとしても、測定軸合わせの後で回転テーブル220および被測定物Wの心出しを再度行う必要は無い。これにより測定効率の向上を図れることはもちろんである。さらに、スタイラス360交換やヘッドホルダ340の姿勢変更を簡便に行えるようになるわけであるから、被測定物Wの測定箇所に応じて積極的にスタイラス360交換やヘッドホルダ340の姿勢変更を行っても良い。
したがって、測定作業の便宜向上はもちろん測定精度の向上にも繋がる。
【0070】
(2)本実施形態では、回転テーブル220の中心から外れた位置に校正用ゲージ500をセットしておけばよく、例えば、校正用ゲージ500自体の位置を細かく調整する必要はない。従来は、マスターボール90を回転テーブル220の中心にセットしなければならなかったので、マスターボール90の心出し作業が必要となっていた。この点、本実施形態は格段に簡便である。
【0071】
(3)本実施形態では、軸ずれ指標値Mの符号によって測定軸Lがどちらにズレているかを判定する。そして、ガイダンス表示でユーザに測定軸Lをどちらに動かせばよいか指示する。従来は、マスターボール90に測定子361を当てながらY軸に沿って行ったり来たりを繰り返してピーク点を探っていたわけである。この点、本実施形態によれば、測定軸合わせに要する時間をかなり短縮できると期待できる。
【0072】
(4)本実施形態は上記のように画期的な効果を奏するのであるが、校正用ゲージ500自体は従来よく知られたマスターボール90等であって特殊なゲージを必要とするようなものではない。
従って、本実施形態を実施するにあたって追加のコストはそれほど必要ではなく、既存の真円度測定装置100に対して本実施形態を低価格で追加することができる。
【0073】
(変形例1)
本実施形態の変形例をいくつか例示しておく。校正用ゲージ500は回転テーブル220の中心以外にセットすればよいのであるから、例えば、
図25に示すように、回転テーブル220の側面に校正用ゲージ500をセットしてもよい。この場合、校正用ゲージ500が回転テーブル220に付いたままでも被測定物Wの測定には何ら影響しない。したがって、校正用ゲージ500を常時回転テーブル220の側面に付けたままにしておいてもよい。
【0074】
(変形例2)
校正用ゲージ500は、真球に限定されない。ピーク値に関して対称性をもつ、いわゆる面対称な図形であればよい。例えば、
図26に示すような三角柱や三角錐(底面が正三角形あるいは二等辺三角形)などの面対称性を有する角柱あるいは角錐といった多角形であってもよい。凸形の図形に限らず、例えば、
図27に示すような凹形状であっても面対称性があれば校正用ゲージ500として利用できる。この場合、凹部の一番凹んだところがピーク値に対応する。ちなみに、真球であれば、中心を通る総ての面に関して面対称性を有することは明らかであろう。これに対し、真球ではない校正用ゲージ500を回転テーブル220にセットするに当たっては、回転テーブルの回転軸と回転テーブル220の直径とがこの校正用ゲージ500の対称面に乗るように校正用ゲージ500を回転テーブル220にセットする必要がある。
【0075】
(変形例3)
上記実施形態において、ホストコンピュータ110は、校正用ゲージ500の測定結果に基づいて測定軸Lがどちらにズレているかを求め、その結果をモニタ表示でユーザに示した。従って、測定軸合わせの作業はユーザのマニュアル操作によって行われていた。これに対し、校正用ゲージ500の測定結果に基づいて測定軸Lがどちらにどれだけズレているかを定量的に算出し、調整量を具体的に算出するようにしてもよい。
調整方向に加えて、調整量をモニタ表示でユーザに示してもよい。ユーザは、指示された調整量の分だけ測定軸Lをずらすように操作すればよい。
あるいは、算出された調整量に従ってホストコンピュータ110による自動制御で自動的に測定軸合わせが行われるようにしてもよい。
校正用ゲージ500の径や校正用ゲージ500の設置位置(回転中心からの距離)、さらには、スタイラス360の傾斜角度やヘッドホルダ340の傾斜角度が分かっていれば、調整量を具体的に算出することは(幾何学的な計算であるので)理論的には可能である。
【0076】
あるいは、上記実施形態の説明では、「測定軸合わせ」という調整操作を行うこととしたが、真円度測定装置が軸ずれ方向および軸ずれ量を把握しておいて、測定値を前記軸ずれ方向および軸ずれ量に応じて補正演算するようにしてもよい。
【0077】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
上記実施形態においては、ヘッドホルダ340に設けられた調整ねじ341、342で測定軸Lを動かす構成を例示したが、測定軸合わせというのは回転テーブル220の回転軸と測定子361の測定軸Lとの軸合わせであるから、回転テーブルがY軸に沿って移動するようになっていてもよい。
【0078】
ホストコンピュータに与えるプログラム(軸ずれ判定プログラム)の供給方法は限定されない。プログラムを記録した(不揮発性)記録媒体をコンピュータに直接差し込んでプログラムをインストールしてもよく、記録媒体の情報を読み取る読取装置をコンピュータに外付けし、この読取装置からコンピュータにプログラムをインストールしてもよく、インターネット、LANケーブル、電話回線等の通信回線や無線によってコンピュータに供給されてもよい。