(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サファイアは高価な材料であるため、より安価な代替材料が求められている。例えば、化学強化ガラスは比較的安価でかつ高剛性な材料であるが、アルカリ成分を多く含有するため、化学的耐久性に劣るという問題がある。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、高剛性であり、かつ化学的耐久性に優れるガラス材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガラス材は、モル%で、Al
2O
3 40〜70%、及びTa
2O
5 30〜60%を含有することを特徴とする。上記組成範囲を有するガラス材であれば、剛性に優れるため、例えば可動性の高い医療用治療器具のカバー部材等として使用した場合に、カバー部材自身、あるいは内部機器に過剰な応力が負荷されても破損しにくくなる。
【0008】
本発明のガラス材は、ヤング率が70GPa以上であることが好ましい。
【0009】
本発明のガラス材は、ビッカース硬度が5GPa以上であることが好ましい。本発明のガラス材を例えば医療用治療器具のカバー部材等として使用した場合、使用時に誤って打突による破損が発生するおそれがある。しかしながら、本発明のガラス材のビッカース硬度が上記範囲であれば、機械的強度に優れ、破損が発生しにくいため好ましい。
【0010】
本発明のガラス材は、モル%で、R
2O(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)の含有量が10%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明のガラス材は、粒径が0.1mm以上であることが好ましい。
【0012】
本発明のガラス材は、医療用治療器具のカバー部材として使用することができる。
【0013】
本発明のガラス材は、光学レンズとして使用することができる。
【0014】
本発明のガラス材の製造方法は、上記のガラス材を製造するための方法であって、ガラス原料を浮遊させて保持した状態で、ガラス原料を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高強度かつ化学的耐久性に優れ、しかも比較的安価であるガラス材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のガラス材は、モル%で、Al
2O
3 40〜70%、及びTa
2O
5 30〜60%を含有することを特徴とする。以下に、各成分の含有量を上記の通り規定した理由を説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0018】
Al
2O
3は化学的耐久性を向上させる成分である。また、ビッカース硬度を向上させる効果もある。Al
2O
3の含有量は40〜70%以上であり、45〜65%であることが好ましく、50〜60%であることがより好ましく、52〜58%であることがさらに好ましい。Al
2O
3の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、Al
2O
3の含有量が多すぎると、失透しやすくガラス化が困難になる傾向がある。
【0019】
Ta
2O
5はヤング率を向上させる成分である。また、ビッカース硬度や屈折率を高める効果もある。Ta
2O
5の含有量は30〜60%であり、35〜55%であることが好ましく、40〜50%であることがより好ましく、42〜48%であることがさらに好ましい。Ta
2O
5の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、Ta
2O
5の含有量が多すぎると、ガラス化が困難になる傾向がある。
【0020】
本発明のガラス材において、Al
2O
3+Ta
2O
5の含有量は70%以上であり、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。Al
2O
3+Ta
2O
5の含有量が少なすぎると、ヤング率やビッカース硬度、あるいは化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0021】
本発明のガラス材には、上記成分以外にも以下の成分を含有させることができる。
【0022】
屈折率を向上させるために、La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、ZrO
2、TiO
2、WO
3等を合量で0〜40%、好ましくは0.1〜20%、より好ましくは1〜10%の範囲で含有させることができる。
【0023】
ガラス化範囲を広げるためにSiO
2を含有させることができる。ただし、ヤング率の低下を抑制するため、30%以下、20%以下、特に10%以下が好ましい。
【0024】
清澄剤としてSb
2O
3を含有させることができる。ただし、着色を避けるため、あるいは環境面を考慮して、Sb
2O
3の含有量は0.1%以下の範囲であることが好ましく、含有させないことがより好ましい。
【0025】
なお、R
2O(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)は、溶融温度を低下させる効果があるが、化学的耐久性を低下させるため、その合量は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0026】
PbO、CdO及びAs
2O
3は環境面から含有させないことが好ましい。
【0027】
本発明のガラス材のヤング率は70GPa以上であることが好ましく、90GPa以上であることがより好ましく、110GPa以上であることがさらに好ましく、130GPa以上であることが特に好ましい。ヤング率が小さすぎると、例えば可動性の高い医療用治療器具のカバー部材等として使用した場合に、カバー部材自身、あるいは内部機器に過剰な応力が負荷されて破損の原因となる。
【0028】
なお、例えば医療用治療器具のカバー部材は、使用時に誤って打突による破損が発生するおそれがあることから、当該カバー部材に用いるガラス材の機械的強度も高いことが好ましい。それゆえ、本発明のガラス材のビッカース硬度は5GPa以上であることが好ましく、7.5GPa以上であることがより好ましい。
【0029】
本発明のガラス材は化学的耐久性に優れる。具体的には、プレッシャークッカーテスト(133℃、100%Rh、250時間)によりガラス材表面に変質は認められないことが好ましい。
【0030】
主成分としてAl
2O
3及びTa
2O
5を含有するガラス材は、一般に結晶化傾向が強く、ガラス化が困難である。つまり、この種のガラス材を作製する際、原料を坩堝等の溶融容器内で溶融し、冷却すると、溶融ガラスと溶融容器との接触界面を起点として結晶の析出が進行しやすくなる。
【0031】
本発明のガラス材は、上記のようなガラス化しにくい組成を含むが、このような場合であっても、溶融容器との界面での接触をなくすことによりガラス化が可能となる。このような方法として、原料を浮遊させた状態で溶融、冷却する無容器浮遊法が知られている。当該方法を用いると、溶融ガラスが溶融容器にほとんど接触することがないため、溶融容器との界面を起点とする結晶の析出を防止することができ、ガラス化が可能となる。これにより、粒径が大きいガラス材が容易に得られやすくなる。具体的には、粒径が0.1mm以上、好ましくは0.6mm以上、より好ましくは1mm以上、さらに好ましくは2mm以上のガラス材を作製することが可能となる。なお、ガラス材の粒径は、形状が球状以外の場合(楕球状等)は長径を指す。
【0032】
図1は、無容器浮遊法によりガラス材を作製するための製造装置の模式的断面図である。以下、
図1に基づき、ガラス材の製造装置について説明する。
【0033】
ガラス材の製造装置1は、成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aと、成形面10aに開口しているガス噴出孔10bとを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は特に限定されず、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであってもよい。
【0034】
製造装置1を用いてガラス材を製造するに際しては、まず、ガラス原料塊12を成形面10a上に配置する。ガラス原料塊12としては、例えば、原料粉末をプレス成形等により一体化したものや、原料粉末をプレス成形等により一体化した後に焼結させた焼結体や、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0035】
原料粉末の焼結時に構成成分の反応物からなる結晶を析出させることが好ましい。このようにすることで、ガラス原料塊12の溶融工程において、構成成分の蒸発を抑制することが可能となる。なお、原料粉末を溶融容器内で一旦溶融後、冷却することにより、構成成分の反応物からなる結晶を析出させてもよい。
【0036】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、ガラス原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、ガラス原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光をガラス原料塊12に照射する。これによりガラス原料塊12を加熱溶融してガラス化させ、溶融ガラスを得る。その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材を得ることができる。ガラス原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス、さらにはガラス材の温度が少なくとも軟化点以下、好ましくはガラス転移点以下となるまで冷却する工程とにおいては、少なくともガスの噴出を継続し、ガラス原料塊12、溶融ガラス、さらにはガラス材と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。なお、加熱溶融する方法としては、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱であってもよい。
【0037】
図2は、無容器浮遊法によりガラス材を作製するための製造装置の別の実施形態を示す模式的断面図である。
図2に示すガラス材の製造装置1aでは、成形面10aに複数のガス噴出孔10bが開口している点で、
図1に示すガラス材の製造装置1と異なっている。複数のガス噴出孔10bは、例えば
図3に示すように成形面10aの中心から放射状に配列されている。本実施形態のように、成形面10aにおいて複数のガス噴出孔10bを設けることにより、ガラス原料塊12の浮遊状態がより一層安定し、溶融中に成形面10aに接触しにくくなる。よって、溶融中または成形中におけるガラス材の結晶化がさらに抑制され、より粒径の大きいガラス材を得ることが可能となる。
【0038】
上記の方法により作製されたガラス材に対して、必要に応じて切削または研磨等を施すことにより、所望の形状(例えば、板状やレンズ状)に加工することが好ましい。
【0039】
本発明のガラス材は剛性に優れるため、例えば内視鏡等の医療用治療器具のカバー部材に好適である。
図4は、本発明のガラス材からなる内視鏡用カバー部材の一実施形態を示す模式的斜視図である。カバー部材21は円盤状の板状体からなる。なお、カバー部材21の形状は特に限定されず、矩形状等の板状体であってもよい。あるいは、カバー部材21はレンズ状であってもよく、その場合は内視鏡の先端部を保護するカバー部材としての機能と、光学レンズとしての機能の両方を兼ね備える。
【0040】
図5は、カバー部材21を内視鏡22の先端部22aに装着した例を示す模式的断面図である。
図5に示すように、カバー部材21は内視鏡22の先端部22aを保護するように装着されている。カバー部材21の装着方法は特に限定されず、例えばガラスフリットやはんだ等により内視鏡22の先端部22aに接着する方法が挙げられる。なお、内視鏡22の先端部22aには、処置具が挿入される開口部や、気体や液体を流すための開口部が形成されることがある。その場合、当該開口部の位置に対応するように、カバー部材21にも開口部(あるいは切り欠き部)が設けられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
モル%で、Al
2O
3 54%、Ta
2O
5 46%のガラス組成となるように原料粉末を秤量、混合して原料バッチを調製した。原料バッチを1050℃の温度で熱処理して焼結させることにより、ガラス原料塊を得た。
【0043】
次に、
図1に準ずる製造装置を用い、ガラス原料塊を成形面の上方に浮上させた状態で、出力100Wの二酸化炭素レーザーを照射し、ガラス原料塊を1800〜2000℃まで加熱し溶解させた。その後、レーザー照射を停止し、溶融ガラスを冷却させた。その結果、粒径が2.0mmの略球状のガラス材が得られた。得られたガラス材のヤング率は158.3GPa、ビッカース硬度は9.3GPaであった。また589nmにおける屈折率は1.94であった。
【0044】
ヤング率は、平行平面となるように加工し、かつ光学研磨されたガラス材を用い、超音波パルス法により測定した。
【0045】
ビッカース硬度は、温度25℃湿度60%の恒温恒湿槽内で、光学研磨されたガラス材表面に0.98Nの荷重でビッカース圧子を5秒間打ち込み、圧痕の面積から算出した。
【0046】
屈折率は、平行平面となるように加工し、かつ光学研磨されたガラス材を用い、エリプソメーターにより測定した。
【0047】
また、得られたガラス材に対し、プレッシャークッカーテスト(133℃、100%Rh、250時間)を行った。試験後、ガラス材表面を観察したところ変質は認められなかった。
【0048】
(実施例2)
図2に準ずる製造装置(ガス噴出孔の直径0.3mm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にてガラス材を作製した。その結果、粒径が3.5mmの略球状のガラス材が得られた。特性については、実施例1で得られたガラス材と同等であった。
【0049】
(実施例3)
モル%で、Al
2O
3 52%、Ta
2O
5 48%のガラス組成となるように原料バッチを調製した以外は、実施例1と同様の方法にてガラス材を作製した。その結果、粒径が1.9mmの略球状のガラス材が得られた。
【0050】
実施例1と同様にしてガラス材の特性を測定したところ、ヤング率は159.9GPa、ビッカース硬度は9.3GPa、589nmにおける屈折率は1.93であった。また、得られたガラス材に対し、プレッシャークッカーテストを行ったところ、ガラス材表面に変質は認められなかった。
【0051】
(実施例4)
モル%で、Al
2O
3 56%、Ta
2O
5 44%のガラス組成となるように原料バッチを調製した以外は、実施例1と同様の方法にてガラス材を作製した。その結果、粒径が1.9mmの略球状のガラス材が得られた。
【0052】
実施例1と同様にしてガラス材の特性を測定したところ、ヤング率は156.8GPa、ビッカース硬度は8.7GPa、589nmにおける屈折率は1.92であった。また、得られたガラス材に対し、プレッシャークッカーテストを行ったところ、ガラス材表面に変質は認められなかった。
【0053】
(実施例5)
モル%で、Al
2O
3 58%、Ta
2O
5 42%のガラス組成となるように原料バッチを調製した以外は、実施例1と同様の方法にてガラス材を作製した。その結果、粒径が1.9mmの略球状のガラス材が得られた。
【0054】
実施例1と同様にしてガラス材の特性を測定したところ、ヤング率は155.2GPa、ビッカース硬度は8.8GPa、589nmにおける屈折率は1.89であった。また、得られたガラス材に対し、プレッシャークッカーテストを行ったところ、ガラス材表面に変質は認められなかった。
【0055】
(比較例)
モル%で、Al
2O
3 75%、Ta
2O
5 25%のガラス組成となるように原料バッチを調製した以外は、実施例1と同様の方法にてガラス材を作製した。その結果、失透し、ガラス材は得られなかった。