(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、CIELAB色空間における、上記色域変換の例を
図13に示す。
図13(a)は横軸を彩度C
*、縦軸を明度L
*とした場合、
図13(b)は縦軸をa
*
、横軸をb
*とした場合を示す。CIELAB色空間モデルは知覚的に均等な色空間モデルとし
て知られているが、Rec.709色域外の一部の色相において色空間モデルで予測される色相
と実際に知覚される色相が一致しないという記載がなされている(非特許文献2)。
【0007】
図14(a)、(b)、(c)に、シアンの領域色について、非特許文献2で記載されている人間の実際の知覚特性の評価結果を示す。(a)はL
*=25の場合、(b)はL
*=50の場合、(c)はL
*=75の場合である。
図14に表されている折れ線のマーカーは、各明度において同じ色相として知覚される色度点を示している。一方、原点から放射状に延びている直線はCIELAB色空間モデルで予測される等色相を示している。非特許文献2の結果では、色相196°における実際の知覚
特性が、CIELAB色空間モデルの等色相直線上から外れている。つまり、非特許文献1に示
された方法でRec.2020色域からRec.709色域への変換を行うと、変換後のシアンの領域色
の色相が変換前と異なって見えることになる。
【0008】
また、同様に、
図15(a)、(b)に、赤〜橙の領域の色相について、非特許文献2で記載されている人間の実際の知覚特性の評価結果を示す。(a)はL
*=50の場合、(
b)はL
*=75の場合である。
【0009】
図15に表されている折れ線のマーカーは、
図14と同様に、各明度において同じ色相として知覚される色度点を示している。原点から延びている直線はCIELAB色空間モデルで予測される等色相を示している。非特許文献2によれば、色相32°,67°における実際の
知覚特性が、CIELAB色空間モデルの等色相直線上から外れている。そのため、非特許文献1に示された方法でRec.2020色域からRec.709色域への変換を行うと、変換後の赤〜橙の
領域色の色相が変換前と異なって見えることになる。
【0010】
CIELAB色空間モデルで色相一定で彩度を下げて色域変換する場合、シアン領域、赤〜橙の領域、さらには黄色の領域において、変換後の色の色相が変換前の色の色相とは異なって知覚されてしまったり、彩度が大幅に低下してしまったりして、SHV表色系からHV表色系に色域変換した場合に、映像制作者の色味に関する制作意図を良好に表現することが困難という問題があった。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、CIELAB色空間モデルで色相一定で彩度を下げて色域変換する場合において、広色域の色度点を、狭色域の色度点に変換した場合にも、変換後の色の色相が変換前の色の色相とは異なって知覚されたり、大幅に彩度が低下するという事態を回避することができ、映像制作者の色味に関する制作意図を良好に表現し得る色域変換装置および色域変換方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の色域変換装置は、
広色域の色度点であって、狭色域の色度点ではない各色度点を、狭色域の対応する色度点に変換する色域変換装置において、
CIELAB色空間における色域変換前の狭色域外の任意の色度点をM
org、色域変換後の色度点をM
mapとした場合に、これらM
mapとM
orgを結ぶ線の傾きmを下式(A1)または下式(A1´)により求める、傾き算出手段と、
【数1】
上式(A1)または上式(A1´)のmを補正した傾きとし、変換した狭色域の色度点M
mapの座標(a
*map,b
*map)を、上式(A1)を用いた場合は下式(A2)により求め、上式(A1´)を用いた場合は下式(A2´)により求める変換座標算出手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【数2】
【0013】
また、色相が赤から橙である場合には、
前記変換前の色相角h
orgを下式(A3)で表される範囲とし、前記θの値を2h
orgとすることが好ましい。
【数3】
【0014】
また、色相が黄色である場合には、
前記変換前の色相角h
orgを下式(A4)で表される範囲とし、前記θの値をh
orgとすることが好ましい。
【数4】
【0015】
また、色相がシアンである場合には
前記変換前の色相角h
orgを下式(A5)で表される範囲とし、前記θの値を3h
orgとすることが好ましい。
【数5】
【0016】
また、明度に応じて、前記傾きmを適宜調整することも可能である。
また、前記広色域をスーパーハイビジョンの色域とし、前記狭色域をハイビジョンの色域とすることが一例として挙げられる。
【0017】
また、本発明の色域変換方法は、
広色域の色度点であって、狭色域の色度点ではない各色度点を、狭色域の対応する色度点に変換する場合に、
CIELAB色空間における色域変換前の狭色域外の任意の色度点をM
org、色域変換後の色度点をM
mapとした場合に、これらM
mapとM
orgを結ぶ線の傾きmを下式(A6)または下式(A6´)により求め、
【数6】
上式(A6)または上式(A6´)により求めたmを補正した傾きとし、変換した狭色
域の色度点M
mapの座標(a
*map,b
*map)を、上式(A6)を用いた場合は下式(A7)により求め、上式(A6´)を用いた場合は下式(A7´)により求めることを特徴とするものである。
【数7】
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態の色域変換方法および色域変換装置においては、広色域の色度点であって、狭色域の色度点ではない各色度点を、狭色域の対応する色度点に変換する色域変換を行う際に、CIELAB色空間における色域変換前の狭色域外の任意の色度点をM
org、色域変換後の色度点をM
mapとした場合に、これらM
mapとM
orgを結ぶ線の傾きmを、数式を用いて調整しながら行っている。
【0019】
これにより、CIELAB色空間モデルが予測する等色相線に沿ってマッピングするのではなく、知覚的に、より近い色相となるように、あるいは、彩度がより良好に保存されるように、マッピングの方向を補正することができ、人間の知覚特性に近い色味への色域変換が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、上記図面を参照しながら説明する。
【0022】
CIELAB色空間では円柱座標系を用いて、明度L
*、彩度C
*、色相hの属性で色を表すことができる。色域変換前のRec.709色域外の任意の色度点M
orgの色相角をh
org、
色域変換後の色度点M
mapの色相角をh
mapとする。
【0023】
本実施形態においては、上記色域変換をCIELAB色空間モデルが予測する等色相線(原点に向かう法線方向、h
map=h
org)に沿ってマッピングするのではなく、知覚的により近い色相となるように、あるいは、彩度がより良好に保存されるように、マッピングの方向を補正する。
まず、M
orgとM
mapを結ぶ線の傾きmを式(A8),(A8´)のいずれかで補正する。
【0026】
ここで黄色について式(A8)を使用していないのは、色相角が90°で正接値が∞になり計算が不安定になることを避けるためである。色相角が0°または180°を跨ぐ場合、式(A8´)は使用を避ける。
【0027】
ここで、Rec.2020であってRec.709色域外の任意の色度点M
orgの色相角をh
org
、Rec.709色域の該任意の色度点M
mapの色相角をh
mapとする。
Rec.709色域外の色度点M
org(座標(a
*org,b
*org))からRec.709色域内の該任意の色度点M
map(座標(a
*map,b
*map))への変換は、上式(A8)を用いた場合には、下式(A9)により、また、上式(A8´)を用いた場合には、下式(A9´)により行う。
【0028】
【数9】
ここで、rは、M
mapがちょうど狭色域の色域内になるように0から1の範囲で最適化する。
【0029】
CIELAB色空間モデルが予測する等色相線によるマッピングにおいて、知覚的に色相が大きくずれるという問題は、主に、赤〜橙の色相領域およびシアンの色相領域、さらに知覚
的に彩度が大きく低下するという問題は、主に黄色(特にハイライト部)の色相領域で顕著であるから、本実施形態では、これらの領域について各々上述した式(A8)、(A8
´)、(A9)および(A9´)を用いた補正処理を行いつつ色域変換を行い、他の領域に
ついては、CIELAB色空間モデルが予測する等色相線に沿って色域変換を行うようにしている。
【0030】
本実施形態において、上述したような色域変換は、
図1に示す色域変換装置によって行われる。
すなわち、この色域変換装置10は、SHV広色域の各色度点を、HV狭色域の色度点に変換するときに、この変換量を補正する機能を備えた装置であって、信号入力部11と、傾き算出手段12と、色域変換手段13と、信号出力部14とを備えている。
信号入力部11は、パソコン等から入力されたSHV用映像信号を傾き算出手段12に供給するものである。
【0031】
また、傾き算出手段12は、CIELAB色空間における色域変換前のRec.709色域外の任意
の色度点をM
org、色域変換後の色度点をM
mapとした場合に、これらM
mapとM
orgを結ぶ線の傾きmを、上式(A8)または上式(A8´)により求めるものである。
また、色域変換手段13は、傾き算出手段12で求めた前記m(または前記m
-1)を
傾き補正量とし、変換した狭色域の色度点M
mapの座標(a
*map,b
*map)を、上式(A8)を用いた場合は下式(A9)により求め、上式(A8´)を用いた場合は下式(A9´)により求めるものである。
【0032】
また、信号出力部14は、色域変換手段13で変換されたHV狭色域の映像信号を装置10の外部に出力するものである。なお、色域変換装置10を構成する各部は、実際には、CPUや各種メモリを含むハード的な手段と、これらのメモリに格納されたプログラムからなるソフト的な手段とを組み合わせて構成される。
ここで、色域を変換するとは、具体的には、SHV広色域の各色度点の色度を、所定の変換式や所定の変換テーブルを用いてHV狭色域の色度点の色度に変換することを意味する。
【0033】
次に、
図2に示すフローチャートを用いて、本発明の実施形態に係る色域変換方法を説明するとともに上記色域変換装置10の動作について説明する。
まず、外部からのSHVの映像信号は、まず信号入力部11に入力され(S1)、次に、CIELAB色空間における色域変換前のRec.709色域外の任意の色度点をM
org、色域変
換後の色度点をM
mapとした場合に、これらM
mapとM
orgを結ぶ線の傾きmを上式(A8)または上式(A8´)により求める(S2)。
【0034】
次に、ステップ2(S2)で求めた前記mまたは前記m
-1を傾き補正量とし、変換し
た狭色域の色度点M
mapの座標(a
*map,b
*map)を、上式(A8)を用いた場合は上式(A9)により求め、上式(A8´)を用いた場合は上式(A9´)により求める(S3)。
この後、色度点の変換が行われた映像信号は、次段に出力される(S4)。
【0035】
上述した、CIELAB色空間モデルが予測する等色相線に対して、知覚的に色相が大きくずれる、あるいは変換前の色の彩度が大きく変化するという問題は、赤〜橙の色相領域、黄色の色相領域、およびシアンの色相領域において顕著である。
【0036】
このため、以下の説明においては、シアンの色相領域についての色域変換を実施例1で、赤〜橙の色相領域についての色域変換を実施例2で、黄色の色相領域についての色域変
換を実施例3で、各々、具体的に説明する。
【実施例1】
【0037】
<色相がシアンである場合>
図14((a)はL
*=25の場合、(b)はL
*=50の場合、(c)はL
*=75の
場合)に示す非特許文献2の結果によると、色相角h=196°の色相において、実際に知
覚される色相がCIELAB色空間モデルの等色相直線から外れている。これにより、色相角h=196°のHDTV色域外の色をCIELAB色空間モデルの等色相直線に従って変換した場合、変
換後の色は、変換前の色の色相角よりも、色相角が小さい色として知覚されることになる。
【0038】
実際に同じ色相として知覚される等色相線(知覚的等色相線)は、CIELAB色空間モデルの等色相直線よりも傾きが小さい曲線で近似できる。この近似した知覚的等色相線に沿って色を変換することによって、変換前後の色の色相が同じように知覚される。
【0039】
CIELAB色空間モデルにおいて、変換前のRec.709色域外の任意の色度点をM
org(L
*org,C
*org,h
org)とする。ここで、L
*orgは明度、C
*orgは彩度、
h
orgは色相を表す。原点と色度点M
orgをL
*=L
*orgのa
*−b
*平面上で結んだCIELAB色空間モデルの等色相線の傾きm
orgは、下式(A10)で表される。
【0040】
【数10】
また、知覚的等色相変換後の色度点をM
map(L
*map,C
*map,h
map)とし、知覚的等色相線M
orgとM
mapを結ぶ直線の傾きをmとする。
【0041】
これを満たす関数の一例を下式(A11)または(A11´)に示す。
【0042】
【数11】
なお、kはスケーリングファクタで、その値はL
*の値によらず、例えば10.13とする。
【0043】
Rec.2020色域のシアンの色CY
org(G値、B値が等量とされる)をRec.709色域のシ
アンの色CY
mapに変換する場合、Rec.2020とRec.709のシアンの色相は、一部を除く
ほとんどの明度でそれぞれ190.3°、196.4°と一定の値となる。したがって、
図3に示すように、明度55におけるRec.2020のシアンの色域の色度点(CY
org)は、Rec.709
のシアンの色域の色度点(CY
map)に変換される。
【0044】
一方、明度98におけるシアンにおいては、Rec.2020の色域とRec.709の色域が、とも
に
図4の左下部において角張った形状に形成されている。
したがって、Rec.2020のシアン色(例えば、CY
org41)がRec.709のシアンより
も色相角の小さい色(例えば、変換点42)に変換される(矢印(b)で示すように変換さ
れる)と、変換点42はRec.709色域の底辺上に位置することになるので、変換後の色の
彩度(原点35からの距離が大きいほど、彩度が高い)が変換前に比べて大きく減少する。そこで、Rec.2020のシアンCY
org41がRec.709の色域の左側辺上のCY
map4
3の位置に変換されるように変更する(矢印(a)で示すように変換される)ことにより、
変換後の色の彩度が変換前に比べて大きく減少するのを阻止することができる。これにより、変換前後の色の彩度差が、明度により大きく変化することを阻止することができる。
【0045】
次に、上式(A11)または(A11´)で求めた前記mまたは前記m
-1を傾き補正
量とし、変換した狭色域の色M
mapの座標(a
*map,b
*map)を、上式(A11)を用いた場合は下式(A12)により求め、上式(A11´)を用いた場合は下式(A12´)により求める。
【0046】
【数12】
【0047】
なお、
図3に示すように、変換前のRec.709色域外の色M
org(色相角h
org)は
、M
orgを通る傾きm
mapの知覚的等色相線とRec.709色域境界との交点の色M
ma
p(色相角h
map)に変換される。
【0048】
知覚的等色相線が明度には依存しないものとして扱ったが、
図15より、厳密には明度にも依存しており、知覚的等色相線を明度に応じて傾き補正を変えることによって、より知覚的に正確な色域変換が可能となる。
なお、
図7、8、9に、L
*が各々25,50,75のときのRec.709とRec.2020の色域境界と、シアンのマッピング軌跡を示す。
【実施例2】
【0049】
<色相が赤〜橙である場合>
図15((a)はL
*=50の場合、(b)はL
*=75の場合)に示すように非特許文献2の結果によると、色相角h=32°、67°の両者において、実際に知覚される色相がCIELAB色空間モデルの等色相直線から外れている。このため、色相角h=32°、67°のHV色域外の色をCIELAB色空間モデルの等色相線に従って変換した場合、変換後の色は、変換前の色の色相角よりも色相角が大きい色として知覚されることになる。実際に同じ色相として知覚される等色相線(知覚的等色相線)は、CIELAB色空間モデルの等色相直線よりも傾きが大きい曲線で近似できる。この近似した知覚的等色相線に沿って色を変換することによって、変換前後の色の色相が同じように知覚される。
【0050】
図15より、色相0°、103°においては、CIELAB色空間モデルのa
*−b
*平面における知覚的等色相線とCIELAB色空間モデルの等色相線は、色相角h=0°と色相角h=90°で
一致し、両直線の傾きの差は、色相角h=0°〜90°の間で最大となり、それらの間が滑
らかに変化するものであることが要求される。この条件を満足するように知覚的等色相線を関数で近似する。近似の一例を
図5を用いて以下に説明する。
【0051】
CIELAB色空間モデルにおいて、変換前のRec.709色域外の任意の色度点をM
org(L
*org,C
*org,h
org)とする。ここで、L
*orgは明度、C
*orgは彩度、
h
orgは色相を表す。原点と色度点M
orgをL
*=L
*orgのa
*−b
*平面上で結んだCIELAB色空間モデルの等色相線の傾きm
orgは、下式(A13)で表される。
【0052】
【数13】
【0053】
また、知覚的等色相変換後の色度点をM
map(L
*map,C
*map,h
map)とし、mを、式(A14)で表す。
【0054】
mが色相0°と90°で0、色相角h
orgが0°〜90°の範囲のいずれかの角度で最大となるような連続する関数を用いてmを近似する必要があり、これを満たす関数の一例を下式(A14)または下式(A14´)に示す。
【0055】
【数14】
kはスケーリングファクタで、その値はL
*の値によらず、通常は1に近い値である。
【0056】
次に、上式(A14)または(A14´)で求めた前記mまたは前記m
-1を傾き補正
量とし、変換した狭色域の色度点M
mapの座標(a
*map,b
*map)を、上式(A14)を用いた場合は下式(A15)により求め、上式(A14´)を用いた場合は下式(A15´)により求める。
【0057】
【数15】
【0058】
なお、
図5に示すように、変換前のRec.709色域外の色度点M
orgは、M
org(色
相角h
org)を通る傾きm
mapの知覚的等色相線とRec.709の外形線(色域境界)と
の交点の色度点M
map(色相角h
map)に変換される。
【0059】
式(A11)、(A11´)や式(A14)、(A14´)では、知覚的等色相線が明度には依存しないものとして扱っているが、
図15からも明らかなように、知覚的等色相線は厳密には明度にも依存しており、知覚的等色相線を明度に応じて変形することによって、より知覚的に正確な色域変換が可能となる。
【実施例3】
【0060】
<色相が黄色である場合>
CIELAB色空間のa
*-b
* 平面において、一部を除くほとんどの明度でSHVの規格で
あるRec.2020の黄色(R信号値とG信号値を等しくしたときの色)の色相は98.9度となり、一方、HVの規格であるRec.709の黄色の色相は102.9度となる。
これらの色相の角度は、各々が一定した値となり、各々、この一定した値の色相の色で彩度が最も高くなる。
【0061】
ところで、色相98.9度の黄色を、この色度点とa
*-b
* 平面における原点とを結ぶ直
線上で移動させ、この直線とRec.709色域の外形線との交点を、Rec.709色域の対応する黄色の色度点に設定するとき、
図6からも明らかなように、この直線とRec.709色域の外形
線との交点(変換点B(24))は、大略台形状または三角形状をなすRec.709色域の外
形線において右側辺の下方に位置し、彩度が大幅に低下することになる。
【0062】
そこで、本実施例の方法および装置によれば、上記実施例1、2と同様に、色域変換をCIELAB色空間モデルが予測する等色相線(原点に向かう法線方向、h
map=h
org)に沿ってマッピングするのではなく、知覚的に彩度がより良好に保存されるように、マッピングの方向を補正する。なお、色域変換前のRec.709色域外の任意の色度点M
orgの
色相角をh
org、色域変換後の色度点M
mapの色相角をh
mapとする。
【0063】
傾きmを下式(A16)で補正する。
【数16】
【0064】
ここで、kはスケーリングファクタであり、kの値を-9.137とすると黄ハイライト部の著しい彩度低下を防ぐことができる。すなわち、ハイライト部だけ補正する必要があるため、L
*に応じてkを変化させる。例えばL
*が92.74以下の場合はkを0とし、L
*が92.74
から100に至るまでの間は、kの値を0から-9.137に直線的に変化させて、L
*が100からピークの106.9に至るまでの間は、kの値を-9.137から0に直線的に変化させる。
【0065】
次に、Rec.709色域外の色度点M
org(座標(a
*org,b
*org))からRec.709色域内の色度点M
map(座標(a
*map,b
*map))への変換は、上式(A16)を用いて求めた、下式(A17)により行う。
【0066】
【数17】
ここで、rは、M
mapがちょうど狭色域の色域内になるように0から1の範囲で最適化する。
【0067】
このように、CIELAB色空間モデルが予測する等色相線によるマッピングにおいて、知覚的に彩度が大きく低下するという問題は、黄色(特にハイライト部)の色相領域で顕著であるが、本実施例では、この領域について上述した式(A17)を用いて、補正処理を行いつつ色域変換を行い、他の領域については、CIELAB色空間モデルが予測する等色相線に沿って色域変換を行うようにしている。
【0068】
なお、
図10、11、12には、L
*が93、100、104のときのRec.709とRec.2020の色域境界と、黄色のマッピング軌跡を示す。
これにより、
図11に示すように、Rec.2020の色域の黄色の色度点21´(
図6の変換点21に対応する)を、Rec.709の色域の黄色の色度点23´(
図6の変換点23に対応
する)に変換した場合にも、彩度が著しく低下する状況を回避することができ、映像制作者の制作意図を良好に表現することが可能となる。
なお、ハイライト部の黄色のR値、G値は元々飽和気味で、そもそも正しく色相を再現することにあまり意味を持たず、実際の自然画で4度程度の色相の変化は問題にならない。
【0069】
なお、上述したsinθ等の三角関数やその他の関数、およびそれらのべき乗の関数や、
それらと係数を組み合わせたもの、さらにはこれらの項を互いに組み合わせた多項式も、上述した実施形態と同様の作用効果を奏するものは、これを本発明の変換式に含めるものとする。