(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明をするが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
<分離材>
本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面上に形成された交互積層膜と、を備える。
【0017】
(多孔質ポリマ粒子)
本実施形態の多孔質ポリマ粒子は、多孔質化剤を含むモノマを硬化させた粒子であり、従来の懸濁重合、乳化重合等によって合成される。モノマとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン系のビニルモノマを使用することができる。具体的なモノマとしては、以下のような多官能性モノマ、単官能性モノマ等が挙げられる。
【0018】
多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物が挙げられる。これらの多官能性モノマは、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でも耐久性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れることから、ジビニルベンゼンを使用することが好ましい。
【0019】
上記多孔質ポリマ粒子は、モノマとして、ジビニルベンゼンを含む場合、ジビニルベンゼンを、モノマ全質量基準で50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましい。ジビニルベンゼンをモノマ全質量基準で50質量%以上含むことにより、耐アルカリ性及び耐圧性により優れる傾向にある。
【0020】
単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン及びその誘導体が挙げられる。これらの単官能性モノマは、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、耐酸性及び耐アルカリ性に優れるという観点から、スチレンを使用することが好ましい。また、カルボキシ基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
【0021】
多孔質化剤としては、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒である脂肪族又は芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類等が挙げられる。具体的には、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これら多孔質化剤は、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記多孔質化剤は、モノマ全質量に対して0〜200質量%使用できる。多孔質化剤の量によって、多孔質ポリマ粒子の空隙率をコントロールできる。さらに、多孔質化剤の種類によって、多孔質ポリマ粒子の細孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
【0023】
また、溶媒として使用する水を多孔質化剤とすることもできる。水を多孔質化剤とする場合は、モノマに油溶性界面活性剤を溶解させ、水を吸収することによって、多孔質化することが可能となる。
【0024】
多孔質化に使用される油溶性界面活性剤としては、分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のソルビタンモノエステル、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート又はヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル;分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル、例えば、ジグリセロールモノオレエート(例えば、C18:1(炭素数18個、二重結合数1個)脂肪酸のジグリセロールモノエステル)、ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート又はヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール又は鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル;及びこれらの混合物が挙げられる。
【0025】
これらのうち、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(スパン、登録商標)20、好ましくは純度が約40%超、より好ましくは純度が約50%超、さらに好ましくは純度が約70%超のソルビタンモノラウレート);ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(スパン、登録商標)80、好ましくは純度が約40%超、より好ましくは純度が約50%超、さらに好ましくは純度が約70%超のソルビタンモノオレエート);ジグリセロールモノオレエート(好ましくは純度が約40%超、より好ましくは純度が約50%超、さらに好ましくは純度が約70%超のジグリセロールモノオレエート);ジグリセロールモノイソステアレート(好ましくは純度が約40%超、より好ましくは純度が約50%超、さらに好ましくは純度が約70%超のジグリセロールモノイソステアレート);ジグリセロールモノミリステート(好ましくは純度が約40%超、より好ましくは純度が約50%超、さらに好ましくは純度が約70%超のソルビタンモノミリステート);ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル基、ミリストイル基等)エーテル;及びこれらの混合物が好ましい。
【0026】
これらの油溶性界面活性剤は、モノマ全質量に対して、5〜80質量%の範囲で用いることが好ましい。油溶性界面活性剤の含有量が5質量%以上であると、水滴の安定性が充分となることから、大きな単一孔を形成しやすくなる。また、油溶性界面活性剤の含有量が80質量%以下であると、重合後に多孔質ポリマ粒子が形状をより保持しやすくなる。
【0027】
重合反応に用いられる水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体等が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
【0028】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などが挙げられる。
【0029】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0030】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0031】
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0032】
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマ重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0033】
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用することができる。
【0034】
重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0035】
多孔質ポリマ粒子の合成において、粒子の分散安定性を向上させるために、高分子分散安定剤を用いてもよい。
【0036】
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、モノマ100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0037】
モノマが単独で重合することを抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
【0038】
多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、好ましくは300μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。また、多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、通液性の向上の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは50μm以上である。
【0039】
多孔質ポリマ粒子の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性の向上の観点から、3〜15%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましく、5〜10%であることがさらに好ましい。C.V.を低減する方法としては、マイクロプロセスサーバー(日立製作所)等の乳化装置により単分散化することが挙げられる。
【0040】
多孔質ポリマ粒子の平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、超音波分散装置を使用して水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の多孔質ポリマ粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス株式会社製)を用いて、上記分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)を測定する。
【0041】
多孔質ポリマ粒子の細孔容積は、多孔質ポリマ粒子の全体積基準で30体積%以上70体積%以下であることが好ましく、40体積%以上70体積%以下であることがより好ましい。多孔質ポリマ粒子は、平均細孔径が0.1μm以上0.6μm未満である細孔、すなわちマクロポアー(マクロ孔)を有することが好ましい。多孔質ポリマ粒子の平均細孔径は、0.2μm以上0.6μm未満であることがより好ましい。平均細孔径が0.1μm以上であると、細孔内に物質が入りやすくなる傾向にあり、平均細孔径が0.6μm未満であると、比表面積が充分なものになる。これらは上述の多孔質化剤により調整可能である。
【0042】
多孔質ポリマ粒子の比表面積は、30m
2/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は35m
2/g以上であることがより好ましく、40m
2/g以上であることがさらに好ましい。比表面積が30m
2/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向にある。
【0043】
(交互積層膜)
本実施形態の交互積層膜は、アミノ基を有する親水性ポリマ及びポリアニオンが交互に積層されてなる。アミノ基を有する親水性ポリマ及びポリアニオンを使用することによって、タンパク質の非特異吸着を抑制することが可能となり、タンパク質吸着量が天然高分子を分離材として用いた場合と同等又はそれ以上となる。また、交互積層膜を架橋することによって、カラム圧の上昇をより抑制することが可能となる。
【0044】
(アミノ基を有する親水性ポリマ)
アミノ基を有する親水性ポリマは、水に溶解又は膨潤することが可能な親水性を有し、水中でアミノ基がプロトン化されて正電荷を帯びるという特性を有するものが好適に使用される。アミノ基を有する親水性ポリマとしては、1分子中に2個以上のアミノ基を有する親水性ポリマが好ましい。また、アミノ基を有する親水性ポリマは水酸基を有することが好ましく、該水酸基の数は2個以上であることがより好ましい。
【0045】
アミノ基としては、(無置換の)アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;イミノ基;グアニジノ基等が挙げられる。なお、アミノ基はプロトンが配位結合した−NH
3+であってもよい。
【0046】
アミノ基を有する親水性ポリマとしては、例えば、コラーゲン、ポリヒスチジン、アイオネン、キトサン、アミノ化セルロース等の塩基性多糖類;ポリリジン、ポリアルギニン、リジンとアルギニンとの共重合体等の塩基性アミノ酸の単独重合体及び共重合体;ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジビニルピリジン等の塩基性ビニルポリマ;並びにそれらの塩類(塩酸塩、酢酸塩等)、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。アミノ基を有する親水性ポリマは、多糖類であることが好ましく、キトサンであることがより好ましい。キトサンはキチンの脱アセチル化物であり、その脱アセチル化度としては、生体吸収性、水溶性がより優れることから、40〜100%の範囲内であることが好ましく、45〜90%の範囲内であることがより好ましく、50〜80%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0047】
アミノ基を有する親水性ポリマは、重量平均分子量が1万〜20万であることが好ましい。また、界面吸着能を向上させるために疎水基を導入した変性体も用いることができる。また、アミノ基を有する親水性ポリマの代わりに、1分子中に2個以上のアミノ基を有する低分子化合物を用いてもよい。1分子中に2個以上のアミノ基を有する低分子の化合物としては、例えば、低分子のジアミン、ポリアミンが挙げられる。具体的には、例えば、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン等のジアミノアルカン類などの1分子中に2個のアミノ基を有する化合物、N−(リジル)−ジアミノエタン、N,N’−(ジリジル)−ジアミノエタン、N−(リジル)−ジアミノヘキサン、N,N’−(ジリジル)−ジアミノヘキサン等のモノ又はジリジルアミノアルカン類などの1分子中に3〜4個のアミノ基を有する化合物、1分子中に5個以上のアミノ基を有する化合物を挙げられる。
【0048】
(アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液)
アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液の溶媒としては、アミノ基を有する親水性ポリマを溶解できるものであれば、任意の溶媒を用いることができるが、電荷量をより多くすることができるという観点から、水又は無機塩類の水溶液を用いることが好ましい。
【0049】
アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液は、アミノ基を有する親水性ポリマを溶媒に溶解させたものをそのまま用いることができる。pHは、例えば、1.2〜6.6にすることができる。
【0050】
アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液には、2種類以上のポリマを併用してもよい。
【0051】
アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液の粘度は、0.1〜1000mPa・sの範囲内であることが好ましく、0.5〜500mPa・sの範囲内であることがより好ましく、1〜100mPa・sの範囲内であることがさらに好ましい。本明細書において、粘度とは、株式会社エー・アンド・デー製音叉型振動式粘度計SV−10を用い、サンプル量10mL、20℃で測定した値である。
【0052】
アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液中の濃度は、0.01〜5.0質量%が好ましく、0.02〜2.0質量%がより好ましく、0.05〜1.0質量%がさらに好ましい。
【0053】
(ポリアニオン)
本明細書において、ポリアニオンとは、1分子中に2個以上のアニオン性基を有する化合物をいい、アニオン性基とは、アニオン基又はアニオンに誘導され得る基をいう。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、カルボキシレート基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。
【0054】
ポリアニオンとしては、アニオン性ポリマが好ましい。なお、本明細書において、アニオン性ポリマとは、1分子中に2個以上のアニオン性基を有するポリマをいう。アニオン性ポリマとしては、アニオン性基を有するモノマを重合させたものであることが好ましい。また、ポリアニオンは水酸基を有することが好ましく、該水酸基の数は2個以上であることがより好ましい。
【0055】
アニオン性ポリマとしては、水の存在下で上記アミノ基を有する親水性ポリマとゲル状のポリイオンコンプレックスを形成することができるものが好ましい。
【0056】
アニオン性ポリマは、水に溶解又は膨潤することが可能な親水性を有し、水中でアニオン性基のプロトンが脱離することにより負電荷を帯びるという特性を有するものが好適に使用される。アニオン性ポリマは、1分子中に2個以上のカルボキシ基又はカルボキシレート基を有するポリマであることが好ましい。
【0057】
アニオン性ポリマの具体例としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸;ペクチン、サクラン等のカルボキシ基、カルボキシレート基又は硫酸基等のアニオン性基を有する天然の酸性多糖類及びその誘導体;セルロース、デキストラン、デンプン等の天然ではカルボキシ基、カルボキシレート基又は硫酸基等のアニオン性基を有しない多糖類にアニオン性基を結合させて人工的に合成された酸性多糖類及びその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルキトサン、硫酸化セルロース及び硫酸化デキストラン並びにそれらの誘導体);ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、グルタミン酸とアスパラギン酸との共重合体等の酸性アミノ酸の単独重合体及び共重合体;ポリアクリル酸等の酸性ビニルポリマ;並びにそれらの塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩)が挙げられる。
【0058】
酸性多糖類の誘導体としては、例えば、水酸基の一部又は全部を、酢酸、硝酸、硫酸、リン酸等と反応させたもの;カルボキシ基又はカルボキシレート基の一部をエチレングリコール、プロピレングリコール等の低分子アルコールでエステル化した化合物が挙げられる。
【0059】
酸性多糖類の誘導体としては、具体的には、アルギン酸エチレングリコールエステル、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ヒアルロン酸エチレングリコールエステル、ヒアルロン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。これらの誘導体におけるエステル化度は、特に制限されないが、40〜80%の範囲内であることが好ましく、45〜80%の範囲内であることがより好ましく、50〜70%の範囲内であることがさらに好ましい。上記誘導体におけるエステル化度が上記範囲内であると、カルボキシ基又はカルボキシレート基の割合がより適正なものとなり、上記のアミノ基を有する親水性ポリマとの間に形成されるポリイオンコンプレックスの機械的強度がより良好となる傾向にある。
【0060】
酸性多糖類の塩又は酸性多糖類の誘導体の塩としては、これらと1価の陽イオンとの塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アンモニウム塩が挙げられる。
【0061】
アニオン性ポリマとして、アニオン性ポリマを架橋することによって得られる架橋ポリマを用いることもできる。架橋ポリマは、公知の方法によって得ることができる。架橋ポリマは、アニオン性ポリマがカルボキシ基又はカルボキシレート基を有する場合、アニオン性ポリマのカルボキシ基又はカルボキシレート基をジアミンと縮合反応させる方法によって得ることができる。
【0062】
アニオン性ポリマは、酸性多糖類若しくはその誘導体又はそれらの塩であることが好ましい。特に天然の多糖類であり、生体適合性に優れ、かつ入手が容易であることから、アルギン酸若しくはその誘導体(例えば、アルギン酸プロピレングリコールエステル等)又はそれらの塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩)が好ましく、アルギン酸ナトリウムであることがより好ましい。
【0063】
アニオン性ポリマの重量平均分子量は、特に制限されないが、重量平均分子量が大きくなるに従って、溶液の粘度が高くなり流延又は積層が困難となる傾向があること、及び生体吸収性が低下する傾向があることから、アニオン性ポリマの重量平均分子量は1,000〜20万の範囲内であることが好ましく、10,000〜15万の範囲内であることがより好ましく、10,000〜10万の範囲内であることがさらに好ましい。
【0064】
ポリアニオンとして、1分子中に2個以上のアニオン性基を有する低分子化合物を用いてもよい。1分子中に2個以上のアニオン性基を有する低分子の化合物としては、例えば、コハク酸、マロン酸等の1分子中に2個のカルボキシ基又はカルボキシレート基を有する化合物を挙げられる。
【0065】
(ポリアニオンを含む溶液)
ポリアニオンを含む溶液の溶媒としては、ポリアニオンを溶解できるものであれば、任意の溶媒を用いることができるが、ポリアニオンの電荷量をより多くすることができるため、水又は無機塩類の水溶液が適当である。
【0066】
ポリアニオンを含む溶液には、2種類以上のポリアニオンを併用してもよい。
【0067】
ポリアニオンを含む溶液の濃度は、0.01〜5.0質量%が好ましく、0.02〜2.0質量%がより好ましく、0.05〜1.0質量%がさらに好ましい。
【0068】
ポリアニオンを含む溶液の粘度(20℃)は、0.1〜1000mPa・sの範囲内であることが好ましく、1〜500mPa・sの範囲内であることがより好ましく、10〜100mPa・sの範囲内であることがさらに好ましい。
【0069】
ポリアニオンを含む溶液のpHは、例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、マロン酸、シュウ酸、リンゴ酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸を添加することで調整できる。
【0070】
アミノ基を有する親水性ポリマとポリアニオンの組合せは、水の共存下で混合した場合に、ポリイオンコンプレックスを形成し、ゲル化するものであれば、いずれの組合せでもよい。特にタンパク質の吸着量の観点から、アミノ基を有する親水性ポリマ及びポリアニオンは、少なくとも1種が多糖類であることが好ましい。
【0071】
多孔質ポリマ粒子の表面上に形成された、アミノ基を有する親水性ポリマ及びポリアニオンが交互に積層されてなる交互積層膜の積層数は、特に限定されないが、多孔質ポリマ粒子の細孔を閉塞させないために、例えば、アミノ基を有する親水性ポリマ及びポリアニオンのそれぞれが1〜10層であることが好ましい。
【0072】
本実施形態の交互積層膜は、例えば、IR、NMR、TOF−SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析、Time−of−Flight SIMS)等で観察することにより、確認することができる。交互積層膜は、多孔質ポリマ粒子表面に形成されるアミノ基を有する親水性ポリマからなる層と、ポリアニオンからなる層とが接触することで、交互に吸着して形成される。また、接触によって吸着が進行して表面電荷の反転が起こると、さらなる静電吸着は生じないため、形成される層の厚さを制御することができる。
【0073】
交互積層膜の製造方法としては、例えば、交互浸漬法が挙げられる。交互浸漬法では、アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液に多孔質ポリマ粒子を接触させて、多孔質ポリマ粒子の表面にアミノ基を有する親水性ポリマからなる層を最初に形成してもよく、ポリアニオンを含む溶液に多孔質ポリマ粒子を接触させて、多孔質ポリマ粒子の表面にポリアニオンからなる層を最初に形成してもよい。多孔質ポリマ粒子の表面が負に帯電している場合は前者のアミノ基を有する親水性ポリマからなる層を形成することが好ましく、多孔質ポリマ粒子の表面が正に帯電している場合は後者のポリアニオンからなる層を形成することが好ましい。アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液又はポリアニオンを含む溶液との接触は、2回以上に分けて行ってもよい。
【0074】
交互浸漬法においては、アミノ基を有する親水性ポリマを含む溶液又はポリアニオンを含む溶液との接触後、多孔質ポリマ粒子を洗浄することが好ましい。これにより、吸着面から余剰のポリマを除去することができる。
【0075】
洗浄に用いるリンス液としては、水、有機溶媒、又は水と水溶性の有機溶媒との混合溶媒が好ましい。水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
【0076】
交互浸漬法によれば、表面電荷が反転する限り、膜の形成を継続することができる。そのため、通常のディップコート法よりも、交互浸漬法で形成した薄膜の膜厚均一性は高く、かつ膜厚制御性も高い傾向にある。
【0077】
交互浸漬法を用いて交互積層膜を形成する場合において、ポリアニオンを含む溶液は、効率よく交互積層できる観点から、pHが1.6〜5.4であることが好ましい。ポリアニオンの溶解性により優れることから、1.8〜5.0の範囲内であることがより好ましく、2.0〜4.5の範囲内であることがさらに好ましく、2.5〜4.0の範囲内であることが特に好ましい。
【0078】
多孔質ポリマ粒子内へアミノ基を有する親水性ポリマ及びポリアニオンを含浸させるためには、上記溶液に多孔質ポリマ粒子を加えて一定時間放置することが好ましい。含浸時間は多孔質ポリマ粒子の表面状態によっても変わるが、通常数時間含浸すればポリマ濃度が多孔質ポリマ粒子の内部で外部濃度と平衡状態となる。
【0079】
(架橋処理)
交互積層膜は、架橋剤等を用いて、架橋されていることが好ましい。分離材は、架橋処理することによって、3次元架橋網目構造を形成することができる。
【0080】
架橋剤としては、例えば、エピクロルヒドリン等のエピハロヒドリン、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、メチレンジイソシアネート、ジイソシアネート化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物などの水酸基に活性な官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。また、アミノ基を有する親水性ポリマとしてキトサンを使用する場合には、ジクロロオクタン等のジハライドも架橋剤として使用できる。
【0081】
架橋処理においては、通常触媒が用いられる。このような触媒としては、架橋剤の種類により異なるが、例えば、架橋剤がエピハロヒドリン等の場合には水酸化ナトリウム等のアルカリ金属塩が有効であり、ジアルデヒド化合物の場合には塩酸等の無機酸が有効である。
【0082】
また、触媒の使用量としては、架橋剤の種類により異なるが、通常、アミノ基を有する親水性ポリマ又はポリアニオンとして多糖類を使用する場合に、多糖類を形成する単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して0.01〜10モル倍の範囲であることが好ましく、0.1〜5モル倍であることがより好ましい。
【0083】
架橋剤による架橋反応は、通常、分離材を適当な媒体中に分散、懸濁させた系に架橋剤を添加することによって行われる。架橋剤の添加量は、アミノ基を有する親水性ポリマ又はポリアニオンとして多糖類を使用した場合、単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して0.1〜100モル倍の範囲内で、分離材の性能に応じて選定することができる。一般に、架橋剤の添加量を少なくすると、交互積層膜の多孔質ポリマ粒子からの剥離が進行しやすくなる傾向にある。また、架橋剤添加量が過剰で、交互積層膜との反応率が高い場合、アミノ基を有する親水性ポリマ又はポリアニオンの特性が損なわれる傾向にある。
【0084】
架橋反応は、通常、5〜90℃の範囲の温度で、1〜10時間かけて行う。架橋反応の温度条件は、30〜90℃であることが好ましい。架橋反応終了後、粒子をろ別し、次いで、水、メタノール、エタノール等の親水性有機溶媒で洗浄し、未反応のポリマ、架橋剤等を除去することによって、交互積層膜が架橋されている分離材を得ることができる。
【0085】
交互積層膜量は、熱分解の重量減少等で測定することができる。本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜300mgの交互積層膜を備えることが好ましい。
【0086】
(イオン交換基の導入)
架橋された交互積層膜を備える分離材は、イオン交換基、リガンド(プロテインA)等を表面上の水酸基等を介して導入することによりイオン交換精製、アフィニティ精製等に使用することができる。イオン交換基の導入方法として、例えば、ハロゲン化アルキル化合物を用いる方法が挙げられる。
【0087】
ハロゲン化アルキル化合物としては、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸及びそのナトリウム塩、ジエチルアミノエチルクロライド等のハロゲン化アルキル基を有する1級、2級又は3級アミン、ハロゲン化アルキル基を有する4級アンモニウムの塩酸塩などが挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物は、臭化物又は塩化物であることが好ましい。ハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、イオン交換基を付与する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
【0088】
イオン交換基の導入には、反応を促進させるために、有機溶媒を用いることが有効である。有機溶媒としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコール類が挙げられる。
【0089】
通常、イオン交換基の導入は、分離材表面の水酸基に行われるので、湿潤状態の粒子を、ろ過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置した後、水−有機溶媒混合系で、上記ハロゲン化アルキル化合物を添加して反応させる。この反応は温度40〜90℃で、0.5〜12時間行うことが好ましい。上記の反応で使用されるハロゲン化アルキル化合物の種類により、付与されるイオン交換基が決定される。
【0090】
イオン交換基として、弱塩基性基であるアミノ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物のうち、水素原子の一部が塩素原子に置換されたアルキル基を有する、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミン、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−ジ−アルカノールアミン等を反応させる方法が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。反応条件は、40〜90℃で、0.5〜12時間であることが好ましい。
【0091】
イオン交換基として、強塩基性基の四級アンモニウム基を導入する方法としては、まず、3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロルヒドリン等のハロゲン化アルキル化合物を反応させ、4級アンモニウム基に変換させる方法が挙げられる。また、4級アンモニウムの塩酸塩等を分離材に反応させてもよい。
【0092】
イオン交換基として、弱酸性基であるカルボキシ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物として、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応させる方法が挙げられる。これらハロゲン化アルキル化合物の使用量は、イオン交換基を導入する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
【0093】
イオン交換基として、強酸性基であるスルホン酸基の導入方法としては、分離材に対してエピクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に分離材を添加する方法が挙げられる。反応条件は、30〜90℃で1〜10時間であることが好ましい。
【0094】
一方、イオン交換基の導入方法として、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法も挙げられる。1,3−プロパンスルトンは、分離材の全質量に対して0.4質量%以上使用することが好ましい。反応条件は、0〜90℃で0.5〜12時間であることが好ましい。
【0095】
本実施形態の分離材の吸湿度は、次の方法で吸湿度を測定する。乾燥分離材1gを恒温恒湿度試験槽(温度60℃、湿度90%)に18時間放置した後、再度分離材の質量を測定することにより吸湿度を以下の式より算出する。
(吸湿後分離材質量−1)g/1g×100=吸湿度(質量%)
【0096】
本実施形態の分離材の吸湿度は1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。分離材の吸湿度が20質量%以下であると、交互積層膜の厚みによる分離材の通液性が低下を抑制することができる。
【0097】
本実施形態の分離材の平均細孔径、比表面積及び空隙率は、水銀圧入測定装置(オートポア:株式会社島津製作所製)にて測定した値であり、以下のようにして測定する。試料は、分離材約0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に加え、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130 degrees、水銀表面張力485dynes/cmに設定する。また、細孔径0.1〜3μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出する。
【0098】
分離材は、平均細孔径が0.1〜0.5μmである細孔を有することが好ましく、0.2〜0.5μmである細孔を有することが好ましい。平均細孔径が0.1μm以上であると、細孔内に物質が入りやすくなる傾向にあり、平均細孔径が0.5μm以下であると、比表面積が充分なものになる。
【0099】
分離材の比表面積は、30m
2/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は35m
2/g以上であることがより好ましく、40m
2/g以上であることがさらに好ましい。比表面積が30m
2/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向にある。
【0100】
分離材の空隙率(ポロシティ)は、30〜80%であることが好ましく、40〜70%であることが好ましい。
【0101】
本実施形態の分離材は、タンパク質を静電的相互作用による分離、アフィニティ精製に用いるのに好適である。例えば、タンパク質を含む混合溶液の中に本実施形態の分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、該分離材を溶液からろ別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離、回収できる。また、本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーにおいて、使用することも可能である。
【0102】
本実施形態の分離材を用いて分離できる生体高分子としては、水溶性物質が好ましい。具体的には、血清アルブミン、免疫グロブリン等の血液タンパク質などのタンパク質、生体中に存在する酵素、バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質、DNA、生理活性をするペプチド等の生体高分子などであり、好ましくは分子量が200万以下、より好ましくは50万以下である。また、公知の方法に従い、タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、分離材の性質、条件等を選ぶ必要がある。公知の方法としては、例えば、特開昭60−169427号公報等に記載の方法が挙げられる。
【0103】
本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子上の交互積層膜を架橋処理後、分離材の表面にイオン交換基、プロテインAを導入することにより、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子からなる粒子又は合成ポリマからなる粒子のそれぞれの利点を有する。特に本実施形態の分離材における多孔質ポリマ粒子は、上述の方法で得られるものであるため、耐久性及び耐アルカリ性を有する。また、本実施形態の分離材は、タンパク質の非特異吸着を低減し、タンパク質の吸脱着が起こりやすい傾向にある。さらに、本実施形態の分離材は、同一流速下でのタンパク質等の吸着量(動的吸着量)が大きい傾向にある。
【0104】
本明細書における通液速度とは、φ7.8×300mmのステンレスカラムに本実施形態の分離材を充填し、液を通した際の通液速度を表す。本実施形態の分離材は、カラムに充填した場合、カラム圧0.3MPaのときに通液速度が800cm/h以上であることが好ましい。カラムクロマトグラフィーでタンパク質の分離を行う場合、タンパク質溶液等の通液速度としては、一般に400cm/h以下の範囲であるが、本実施形態の分離材を使用した場合は、通常のタンパク質分離用の分離材よりも速い通液速度800cm/h以上で使用することができる。
【0105】
本実施形態の分離材の平均粒径は、10〜300μmであることが好ましい。分取用又は工業用のクロマトグラフィーでの使用には、カラム内圧の極端な増加を避けるために、10〜100μmであることが好ましい。
【0106】
本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーで使用した場合、使用する溶出液の性質に依らず、カラム内での体積変化がほとんどないため、操作性に優れる。
【0107】
なお、本実施形態では、イオン交換基を導入する形態の分離材について説明したが、イオン交換基を導入しなくても分離材として用いることができる。このような分離材は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーに利用することができる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
<多孔質ポリマ粒子1の合成>
500mLの三口フラスコに、純度96%のジビニルベンゼン(新日鉄住金化学株式会社製、商品名DVB960)を16g、スパン80を6g、過酸化ベンゾイルを0.64g加え、ポリビニルアルコール(0.5wt%)水溶液を調製した。この水溶液をマイクロプロセスサーバーを使用して乳化後、得られた乳化液をフラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら、撹拌機を用いて約8時間撹拌した。得られた粒子をろ過後、アセトン洗浄を行い、多孔質ポリマ粒子1を得た。得られた粒径をフロー型粒径測定装置で測定し、上述の方法で平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)を算出した。結果を表1に示す。
【0110】
<交互積層膜の作製>
アミノ基を有する親水性ポリマとしてキトサン水溶液(株式会社キミカ製:重量平均分子量90,000、粘度12.5mPa・s(20℃)、濃度0.1質量%)を用いた。また、ポリアニオンとしてアルギン酸ナトリウム水溶液(株式会社キミカ製:重量平均分子量100,000、粘度6.7mPa・s(20℃)、濃度0.1質量%)、pH調整用の有機酸としてリンゴ酸(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
キトサン水溶液としては、上記0.1質量%のキトサン水溶液をそのまま用いた。アルギン酸ナトリウム水溶液としては、0.1質量%アルギン酸ナトリウム水溶液100質量部に対して、1質量%リンゴ酸水溶液1質量部を滴下したものを用いた。
(ア)キトサン水溶液中で多孔質ポリマ粒子1を3時間撹拌した後(多孔質ポリマ粒子1g当たり100mL)、リンス用の超純水(比抵抗18MΩ・cm)中で10分間撹拌した。(イ)アルギン酸ナトリウム水溶液に3時間浸漬した後(多孔質ポリマ粒子1g当たり100mL)、リンス用の超純水中で10分間撹拌した。(ア)及び(イ)を順番に行うことを1サイクルとして、このサイクルを3回繰り返すことによって、交互積層膜を作製した。得られた粒子について、乾燥後、XPS(X線光電子分光)を測定したところ、窒素原子、酸素原子及びナトリウム原子が確認された。このことから、交互積層膜が形成されていることを確認した。また、熱重量分析により、多孔質ポリマ粒子1gに対する交互積層膜の質量を測定した。結果を表2に示す。
【0111】
<交互積層膜の架橋及びイオン交換基の導入>
次いで、交互積層膜を架橋するとともに、イオン交換基を導入した。交互積層膜が形成された粒子10gを分散させた0.4M水酸化ナトリウム水溶液350gにエピクロロヒドリンを5g添加し、12時間室温で撹拌した。その後、2質量%のドデシル硫酸ナトリウム熱水溶液で洗浄後、純水で洗浄し、水中で保管した。得られた分散液を遠心分離することにより、水を除去した。得られた粒子20gを、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩を所定量溶解させた水溶液100mLに分散させ、70℃で10分撹拌した。その水溶液に、70℃に加温したNaOH水溶液(5M)100mLを添加し、1時間反応させた。反応終了後、生成物をろ取し、水/エタノール(体積比8/2)で2回洗浄し、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有する(DEAE変性)分離材を得た。分離材の平均細孔径、比表面積及び空隙率(ポロシティ)を水銀圧入法にて測定した。結果を表2に示す。
また、分離材のイオン交換容量を以下のように測定した。5mL容量の分離材を、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液20mLに1時間浸漬し、室温で攪拌した。その後、洗浄液として用いた水のpHが7以下となるまで洗浄を行った。洗浄した分離材を0.1Nの塩酸20mLに浸漬し、1時間攪拌させた。分離材をろ過で取り除いた後、ろ液の塩酸水溶液を中和滴定することによって、分離材のイオン交換容量を測定した。結果を表2に示す。
【0112】
(タンパク質の非特異吸着能評価)
得られた分離材0.5gを、BSA(Bovine Serum Albumin)濃度20mg/mLのリン酸緩衝液(pH7.4)50mLに投入し、24時間室温で撹拌を行った。その後、遠心分離で上澄みをとり、分光光度計でろ液のBSA濃度より、分離材に吸着したBSA量を算出した。BSAの濃度は分光光度計により280nmの吸光度から確認した。その後、分離材をろ別して洗浄し、100mLのリン酸緩衝液(pH7.4)50mLに浸漬し、吸着させたBSAを回収することによって、回収率を算出した。回収率が95%以上であるものを「〇」、90%以上95%未満であるものを「△」、90%未満であるものを「×」とした。結果を表3に示す。
【0113】
(カラム特性評価)
得られた分離材を濃度30質量%のスラリー(溶媒:メタノール)としてφ7.8×300mmのステンレスカラムに15分かけて充填した。その後、カラムに流速を変えながら水を通し、流速とカラム圧との関係を測定し、0.3MPa時の通液速度を測定した。結果を表2に示す。
また、動的吸着量は以下のようにして測定した。20mmol/L Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)をカラムに10カラム容量通した。その後、BSA濃度2mg/mLの20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を通し、UV測定によってカラム出口でのBSA濃度を測定した。カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまで緩衝液を通し、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で希釈した。10%breakthroughにおける動的吸着量を以下の式を用いて算出した。結果を表3に示す。
q
10=c
fF(t
10−t
0)/V
B
q
10:10%breakthroughにおける動的吸着量(mg/mL wet resin)
cf:注入しているBSA濃度(mg/mL)
F:流速(mL/min)
V
B:ベッド体積(mL)
t
10:10%breakthroughにおける時間(min)
t
0:BSA注入開始時間(min)
【0114】
(耐アルカリ性評価)
得られた分離材を0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で24時間撹拌し、リン酸緩衝液で洗浄後、カラム特性評価と同様の条件にて充填した。BSAの10%breakthrough動的吸着量を測定し、アルカリ処理前の動的吸着量と比較した。動的吸着量の減少率が3%以下であるものを「○」、3%超20%以下であるものを「△」、20%超であるものを「×」とした。結果を表3に示す。
【0115】
(吸湿度)
吸湿度は、上述の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0116】
(実施例2)
スパン80の使用量を8gに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子2を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子2を、多孔質ポリマ粒子1と同様の方法で処理することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0117】
(実施例3)
スパン80の使用量を9gに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子3を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子3を、多孔質ポリマ粒子1と同様の方法で処理することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0118】
(実施例4)
ジビニルベンゼン(16g)を、ジビニルベンゼン(14g)及びオクタノール(2g)に変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子4を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子4を、多孔質ポリマ粒子1と同様の方法で処理することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0119】
(実施例5)
ジビニルベンゼン(16g)及びスパン80(6g)を、ジビニルベンゼン(14g)、オクタノール(5g)及びスパン80(3g)に変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子5を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子5を、多孔質ポリマ粒子1と同様の方法で処理することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0120】
(比較例1)
ジビニルベンゼン(16g)及びスパン80(6g)を、ジビニルベンゼン(4g)、ジヒドロキシプロピルメタクリレート(8g)及びスパン80(4g)に変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子6を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子6を、交互積層膜を形成せずにDEAE変性することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0121】
(比較例2)
実施例1で得られた多孔質ポリマ粒子1をそのまま分離材として用いた。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0122】
(比較例3)
実施例1で得られた多孔質ポリマ粒子1をキトサン水溶液中で24時間撹拌した後(多孔質ポリマ粒子1g当たり100mL)、リンス用の超純水(比抵抗18MΩ・cm)中で10分間撹拌し、キトサンの単層膜を作製した。また、熱重量分析により、多孔質ポリマ粒子1gに対するキトサンの単層膜の質量を測定した。結果を表2に示す。その後、実施例1と同様にして、キトサンの単層膜を架橋し、DEAE変性することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0123】
(比較例4)
実施例1で得られた多孔質ポリマ粒子1をアルギン酸ナトリウム水溶液中で24時間撹拌した後(多孔質ポリマ粒子1g当たり100mL)、リンス用の超純水(比抵抗18MΩ・cm)中で10分間撹拌し、アルギン酸ナトリウムの単層膜を作製した。また、熱重量分析により、多孔質ポリマ粒子1gに対するアルギン酸ナトリウムの単層膜の質量を測定した。結果を表2に示す。その後、実施例1と同様にして、アルギン酸ナトリウムの単層膜を架橋し、DEAE変性することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0124】
(比較例5)
市販のアガロース粒子(Capto DEAE:GEヘルスケア)を、多孔質ポリマ粒子7として使用した。また、多孔質ポリマ粒子7をそのまま分離材として用いた。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0125】
(比較例6)
ジビニルベンゼン(16g)及びスパン80(6g)を、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート(11.2g)、エチレングリコールジメタクリレート(4.8g)、スパン80(5g)に変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子8を合成した。洗浄後の多孔質ポリマ粒子8(4g)を、デキストラン(分子量15万)1g、水酸化ナトリウム0.6g及び水素化ホウ素ナトリウム0.15gを蒸留水に溶解させた溶液6gに加えて、多孔質ポリマ粒子8の細孔内に含浸させた。得られたデキストラン溶液含浸重合体を、1質量%エチルセルローストルエン溶液1Lに加えて攪拌し、分散、懸濁せしめた。得られた懸濁液中に、エピクロルヒドリン5mLを加えて50℃に昇温し、この温度で6時間攪拌して、多孔質ポリマ粒子8の細孔内に含浸されているデキストランを架橋反応させた。反応終了後、懸濁液をろ過して生成ゲル状物を分離し、トルエン、エタノール、蒸留水で順次洗浄することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
本願実施例1〜5は、比較例1〜6に比べて、タンパク質の非特異吸着を低減し、耐アルカリ性及び耐久性に優れ、かつカラムとして用いたときの通液性等のカラム特性に優れることが判明した。