【実施例】
【0039】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、CHA型ゼオライトを多孔質支持体上に直接水熱合成することで次のとおり作製した。
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液10.5gと1mol/L−KOH水溶液7.0gと水100.5gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al
2O
3 53.5重量%含有、アルドリッチ社製)0.88gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」という。)水溶液(TMADAOH25重量%含有、セイケム社製)2.36gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.5gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
【0041】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO
2/Al
2O
3/NaOH/KOH/H
2O/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.04、SiO
2
/Al
2O
3=15である。
無機多孔質支持体として、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0042】
種結晶として、SiO
2/Al
2O
3/NaOH/H
2O/TMADAOH=1/0.
033/0.1/40/0.1のゲル組成(モル比)で160℃、2日間水熱合成して結晶化させたものを、ろ過、水洗、乾燥して得られたCHA型ゼオライトを用いた。この種結晶の粒径は0.5μm程度であった。
この種結晶を0.3質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬した後、100℃で5時間以上乾燥させて、種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は0.66g/m
2であった。
【0043】
この種結晶を付着させた支持体を、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、180℃まで5時間で昇温したのち、18時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後100℃で4時間以上乾燥させた。
【0044】
テンプレート焼成前のゼオライトの膜複合体を電気炉で500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の重量と支持体の重量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの重量は128g/m
2であった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は32L/(m
2・h)であった。空気透過量[L/(m
2・h)]は多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインと多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定することで得た。マスフローメーターとしてはLintec社製MM−2100M、Airガス用、最大流量20ml/
min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0045】
生成した膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。多孔質支持体−ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO
2/Al
2O
3モル比は17であった。
【0046】
得られた多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により、70℃の水/2−プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
パーベーパレーション法に用いた装置の概略図を
図4に示す。
図4において多孔質支持体―ゼオライト膜複合体5aは真空ポンプ9aによって内側が減圧され、被分離液4aが接触している外側と圧力差が約1気圧(1.01×10
5Pa)になっている。この圧力差によって、被分離液4a中の透過物質(水)が多孔質支持体―ゼオライト膜複合体5aに浸透気化して透過する。透過した物質はトラップ7aで捕集される。一方、被分離液4a中の有機化合物は、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体5aの外側に滞留する。
【0047】
その結果、3時間後の、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の透過流束は5.27kg/(m
2・h)、分離係数は2700、透過液中の水の濃度は99.677質量%、透過液中の2−プロパノール濃度は0.323%であった。結果を表1に示す。
パーベーパレーション法による透過試験を実施後、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を脱塩水に浸漬し100℃で20時間加熱して洗浄したのちに100℃で1時間以上乾燥させ、その後、圧力処理を実施した。圧力処理は
図2に示す装置で実施した。溶媒としては水(水道水)を用い、圧力を2.2〜2.5MPaに保ち、常温で1時間処理した。
具体的には、
図2に示すように、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体を水封したオートクレーブ内(エンプティカラムXC255DR、ワイエムシィ社製)に設置し、オートクレーブに水圧ポンプ(TP50N,アサダ社製)で水を供給し加圧した。
尚、ゼオライト膜複合体の片端のボトムインサートは
図3に示すように、栓で封止され、もう一方の端部は穴の開いたトップインサートで封止した。ゼオライト膜複合体の内部はトップインサートの穴を介してオートクレーブの外部と通じる構造(リーク)にし、加圧時は支持体内部を大気圧に保った。処理後、ゼオライト膜複合体(支持体)内部には水の侵入は認められなかった。
【0048】
圧力処理後の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により、70℃の水/2−プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。3時間後の透過流束は4.79kg/(m
2・h)、分離係数は14300、透過液中の水の濃度は99.923質量%、透過液中の2−プロパノール濃度は0.077%であった。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
水熱合成用の水性反応混合物、多孔質支持体、種結晶として以下ものを用い、水熱合成時の180℃まで5時間で昇温したのちの保持時間を24時間とした以外は実施例1と同様に多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を作成した。
水性反応混合物として組成(モル比)が、SiO
2/Al
2O
3/KOH/H
2O=1/0.125/0.7/80/、SiO
2/Al
2O
3=8のものを調整して用いた。水性反応混合物は、前記組成で、水酸化アルミニウム(Al
2O
353.5質量%含有、アルドリッチ社製)に1mol/L−KOH水溶液と水を加えて混合撹拌し溶解させ溶液としたのちに、これにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)を加えて2
時間撹拌することで得た。
【0050】
多孔質支持体としては、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を所定の長さに切断後、エアーブローしたものを用いた。
種結晶としては、プロトン型のY型ゼオライト(HY(SAR=5)、触媒化成工業社製)10.0gにNaOH5.00gと水100gを混合したものを100℃で7日間加熱した後、ろ過、水洗、乾燥することにより得た、FAU型ゼオライトを用いた。このFAU型ゼオライトの粒度分布を測定したところD
50は9.50μm、極大値は1.00μm、17.34μmであった。
【0051】
この種結晶を水に0.5質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は0.48g/m
2であった。
水熱合成後に洗浄し、乾燥させて得た多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の空気透過量は3.6L/(m
2・h)であった。
【0052】
得られた多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を80mmに切断したものを用いてパーベーパレーション法により、70℃の水/2−プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
3時間後の、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の透過流束は4.95kg/(m
2・
h)、分離係数は2900、透過液中の水の濃度は99.710質量%、透過液中の2−
プロパノール濃度は0.290%であった。結果を表1に示す。
【0053】
パーベーパレーション法による透過試験を実施後、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を脱塩水に浸漬し、100℃で20時間加熱して洗浄したのちに100℃で1時間以上乾燥させ、その後、実施例1と同様にして圧力処理を実施した。
【0054】
圧力処理後の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により、70℃の水/2−プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。3時間後の透過流束は4.73kg/(m
2・h)、分離係数は14100、透過液中の水の濃度は99.934質量%、透過液中の2−プロパノール濃度は0.066%であった。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1,2の結果から、圧力処理を行うことで、分離係数の向上がみられるとともに、2−プロパノールの透過濃度が下がり、漏れ量が少なくなることが分かった。
【0057】
(実施例3)
多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、CHA型ゼオライトを多孔質支持体上に直接水熱合成することで次のとおり作製した。
水熱合成用の反応混合物は次のとおり調製した。
1mol/L−NaOH水溶液2.2g、1mol/L−KOH水溶液5.0gに水酸化アルミニウム(Al
2O
3 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.195gを加えて撹拌し溶解させ、さらに脱塩水を114g加えて撹拌し透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」と称する。)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.4gを加え、さらにコロイダルシリカ(スノーテック−40、日産化学社製)10.8gを加えて30分間撹拌し、水性反応混合物とした。
【0058】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO
2/Al
2O
3/NaOH/KOH/H
2O/TMADAOH=1/0.014/0.03/0.07/100/0.04、SiO
2/Al
2O
3=70である。
無機多孔質支持体としては、多孔質ムライトチューブ(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断した後に脱塩水で洗浄したのち乾燥し、さらにフュームドシリカ(アエロジル200、日本アエロジル社製)をコートしたものを用いた。
【0059】
フュームドシリカは1質量%を水中に分散させ分散液として、ディップ法で多孔質ムライトチューブにコートし、その後120℃で1時間乾燥した。乾燥後の重量変化は3.2g/m
2であった。
【0060】
種結晶として、SiO
2/Al
2O
3/NaOH/KOH/H
2O/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/40/0.07のゲル組成(モル比)で160℃、2日間水熱合成して結晶化させたCHA型ゼオライトを用いた。 この種結晶を1質量%
水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬してディップ法で種結晶を付着させ、140℃で1時間乾燥させて種結晶を付着させた。乾燥後の質量増加は7.0g/m
2であった。
【0061】
種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で18時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、120℃で1時間以上乾燥させた。その後500℃にて焼成を行い、有機テンプレートを除去した。
【0062】
焼成後のゼオライト膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は104g/m
2であった。
上記で作製したCHA型ゼオライト膜複合体を4cmにカットして合成時に下部に位置した部分を用いて単成分ガス透過試験を行った。
単成分ガス透過試験は、
図5に模式的に示す装置を用いて、以下のとおり行った。用いた試料ガスは、二酸化炭素(東邦酸素工業社製)、メタン(ジャパンファインプロダクツ製)、水素(HORIBA STEC製水素発生器OPGU−2200より発生)、窒素
(東邦酸素工業製)である。
【0063】
図5において、円筒形のゼオライト膜複合体1bは、ステンレス製の耐圧容器2bに格納された状態で恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料ガスの温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
【0064】
円筒形のゼオライト膜複合体1bの一端は、円柱状のエンドピン3bで密封されている。他端は接続部4bで接続され、接続部4bの他端は、耐圧容器2bと接続されている。円筒形のゼオライト膜複合体の内側と、透過ガス9bを排出する配管11bが、接続部4bを介して接続されている。配管10bには、試料ガスの供給圧力を調整する調圧弁6bと試料ガスの供給圧力を測る圧力計5bが接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0065】
図5の装置において、試料ガス(供給ガス8b)を耐圧容器2bとゼオライト膜複合体1bの間に調圧弁6bを用いて一定の圧力で試料ガスを供給する。この時バルブ7bは閉とする。ゼオライト膜複合体を透過した透過ガス9bを、配管11bに接続されている流量計(図示せず)にて測定する。
【0066】
さらに具体的には、水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥、及び、排気若しくは使用する供給ガスによるパージ処理をした後、試料温度及びゼオライト膜複合体1bの供給ガス8b側と透過ガス9b側の差圧を一定として、透過ガス流量が安定したのちに、ゼオライト膜複合体1bを透過した試料ガス(透過ガス9b)の流量を測定し、ガスのパーミエンス[mol・(m
2・s・Pa)
−1]を算出する。パーミエンスを計算する際の圧力は、供給ガスの供給側と透過側の圧力差(差圧)を用いる。
【0067】
上記測定結果に基づき、各ガスのパーミエンス比を下記式(1)により算出する。
α=(Q
1/Q
2)/(P
1/P
2) (1)
〔式(1)中、Q
1およびQ
2は、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの透過量[mol・(m
2・s)
−1]を示し、P
1およびP
2は、それぞれ、供給ガスである透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの圧力[Pa]を示す。〕
【0068】
前処理として、ゼオライト膜複合体を、50℃で、供給ガス8bとして二酸化炭素、を、耐圧容器2bとゼオライト膜複合体1bとの円筒の間に導入して、圧力を約0.2MP
aに保ち、ゼオライト膜複合体1bの円筒の内側を0.1MPa(大気圧)として、二酸化炭素の透過量が安定するまで乾燥した。評価したガスは二酸化炭素、メタン、水素、窒素である。
その後、供給側の圧力を0.2MPaとし、供給ガスを各評価ガスに変更した。このとき、供給ガス8b側と透過ガス9b側の差圧は、0.1MPaであった。
【0069】
単成分ガス透過試験を実施後、圧力を4.8〜5.0MPa、処理時間を10分間とした以外は、実施例1と同様にして圧力処理を実施した。
【0070】
圧力処理後、再び同様の方法で単ガス透過試験を実施した。得られた各ガスのパーミエンスおよびパーミエンス比を表2に示す。圧力処理前はCO
2/CH
4、H
2/CH
4パーミエンス比はそれぞれ121、54であったが、圧力処理後はそれぞれ143、61に上昇した。圧力処理を実施することで分離性能が向上したことがわかった。
【0071】
【表2】