(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施できる。
【0016】
[積層体]
本発明の積層体は、メソポーラスな多孔質層と隣接する接着層とからなる積層体である。もちろんこの積層体に隣接して他の層が存在していても良い。好ましくはメソポーラスな多孔質層が、屈折率1.40以上の層に隣接していることであり、より好ましくはかかる層が、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル系樹脂、ガラス等の実質的に無着色透明な層であることである。透明であることで、ディスプレイや照明用の導光板などの光学デバイス等への応用が期待できる。そしてもっとも好ましいメソポーラスな多孔質層に隣接し、接着層の反対側にある層は、ガラスから成る層である。
【0017】
[接着層]
本発明に用いられる接着層は、接着能力を有する層であり、通常接着剤である高分子化合物を含み、その180°剥離試験における、剥離速度30mm/minの際に測定される剥離強度が0.05N/25mm以上、14N/25mm以下の範囲であることを特徴としている。
【0018】
一般に接着剤は貼り合せる時点では高い流動性を有する液体であり、容易に被着体に濡れ、その後化学反応や熱により硬化し、すなわち液体→固体の状態変化を起こし、強固に界面で接着する。しかし、接着剤の一部には、感圧性接着剤(狭い意味での粘着剤)の様に、流動性と凝集力を持つ柔らかい固体で、そのままの状態で、すなわち状態変化を伴うことなく、固体のままで、被着体に濡れ、接着するものもある。しかしながら、そのような接着剤であっても、本発明のように多孔質層に隣接して存在する場合、接着力が高過ぎる接着剤は、濡れ性、流動性が高い傾向があり、固体であるものの、容易に多孔質層の細孔内部まで濡れ広がり、多孔質層の屈折率を上昇させてしまう。特に、高温環境ではその傾向が顕著になる。一方、接着力が低過ぎる接着剤は、流動性が低い傾向があり、その分柔軟性に乏しく、積層体を高温環境に曝した際に多孔質層との熱膨張率差によって剥離したり、多孔質層が破壊されたり、(それによって生じた隙間に高温下で流動性の増加した接着剤が浸入し、)屈折率を上昇させてしまうことがある。また、接着層の柔軟性が低いと、接着層‐多孔質層界面を境にしたどちらか一方の界面に水平方向に負荷あるいは衝撃力が加わった際に、接着層がその力あるいは衝撃を吸収できず、その分界面あるいは多孔質層にかかる力が大きくなり、界面、あるいは多孔質層の破壊を招く恐れがある。
【0019】
ところが上述のような特徴を有する接着層を使用すると、その理由は定かではないが、例えば多孔質層への侵入防止という観点において適正な濡れ性、流動性、柔軟性を有しているために、高温環境下においても、接着層の濡れ広がりが多孔質膜の外表面および/ま
たは細孔入り口近傍に止まる。また、高温環境下に曝された際の、膨張による膜の破壊(、それに伴う浸み込みや屈折率上昇)が起こらなくなる。
【0020】
剥離強度の下限は、貼り付けるべきものを貼り付けられる大きさであればよいが、接着層としての機能を果たすために0.05N/25mm以上とする。好ましくは、1N/25mm以上であり、より好ましくは2N/25mm以上である。一方上限は、14N/25mm以下であり、より好ましくは12N/25mm以下、最も好ましくは10N/25mm以下である。この剥離強度は、種々の下地に対し、前述の細孔拡張領域にのみ接着剤が侵入するための、必須条件である。
【0021】
このような接着層に用いられる、高分子を用いた接着剤の中でも、通常粘着剤と言われる、硬化することなく接着する接着剤の方が、メソポーラスな孔の中に深く入ることなく、メソポーラスな多孔質層の光学的特性を維持しやすいため好ましい。
またこの接着層は、本発明の積層体が光学的な作用を期待して用いられることを考えると、アクリル系樹脂であることが好ましい。また、アクリル系樹脂は本発明の多孔質層の好ましい材料であるシリカ材料との親和性が高く、層間の密着性の観点からも好ましい。アクリル系樹脂とはアクリル酸エステルおよび/又はメタクリル酸エステルの重合体またはそれらの共重合体を示す。
【0022】
(アクリル酸エステル)
アクリル系樹脂に用いられるアクリル酸エステルの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n‐プロピル、アクリル酸i‐プロピル、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸sec‐ブチル、アクリル酸i‐ブチル、アクリル酸t‐ブチル、アクリル酸n‐ペンチル、アクリル酸1‐メチルブチル、アクリル酸1‐エチルプロピル、アクリル酸1,1‐ジメチルプロピル、アクリル酸2−メチルブチル、アクリル酸2‐エチルプロピル、アクリル酸2,2‐ジメチルプロピル、アクリル酸‐3メチルブチル、アクリル酸n‐ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸n‐ヘプチル、アクリル酸n‐オクチル、アクリル酸2‐エチルヘキシル、アクリル酸n‐ノニル、アクリル酸n‐デシル、アクリル酸n‐ウンデシル、アクリル酸n‐ドデシル、アクリル酸n‐トリデシル、アクリル酸n‐テトラデシル、アクリル酸n‐ペンタデシル、アクリル酸n‐ヘキサデシル、アクリル酸n‐ヘプタデシル、アクリル酸n‐オクタデシル、アクリル酸β‐シアノエチル、アクリル酸β‐クロロエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジルなどが挙げられる。
【0023】
上記のアクリル酸エステル中でも、適切な流動性、濡れ性のバランスを取るため、また結晶化による接着層の異方的な膨張・収縮を防ぐためには、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。
(メタクリル酸エステル)
アクリル系樹脂に用いられるメタクリル酸エステルの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n‐プロピル、メタクリル酸i‐プロピル、メタクリル酸n‐ブチル、メタクリル酸sec‐ブチル、メタクリル酸i‐ブチル、メタクリル酸t‐ブチル、メタクリル酸n‐ペンチル、メタクリル酸1‐メチルブチル、メタクリル酸1‐エチルプロピル、メタクリル酸1,1‐ジメチルプロピル、メタクリル酸2−メチルブチル、メタクリル酸2‐エチルプロピル、メタクリル酸2,2‐ジメチルプロピル、メタクリル酸‐3メチルブチル、メタクリル酸n‐ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸n‐ヘプチル、メタクリル酸n‐オクチル、メタクリル酸2‐エチルヘキシル、メタクリル酸n‐ノニル、メタクリル酸n‐デシル、メタクリル酸n‐ウンデシル、メタクリル酸n‐ドデシル、メタクリル酸n‐トリデシル、メタクリル酸n‐テトラデシル、メタクリル酸n‐ペンタデシル、メタクリル酸n‐ヘキサデシル、メタクリル酸n‐ヘプタデシル、メタクリル酸n‐オクタデシル、
メタクリル酸β‐シアノエチル、メタクリル酸β‐クロロエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジルなどが挙げられる。
【0024】
上記のメタクリル酸エステル中でも、適切な流動性、濡れ性を取るため、また結晶化による接着層の異方的な膨張・収縮を防ぐためには、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。
(アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの好ましい組み合わせ)
アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを2種以上併用する場合、流動性と凝集力のバランスという観点では、その組み合わせとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のエステルのアルキル基が短いものとアクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2‐エチルヘキシルなどのエステルのアルキル基が比較的長いものとの組み合わせが好ましい。アルキル基の炭素鎖の長さが、1〜3のエステルは比較的流動性が低く、そのため濡れ性が低い。また、結晶化傾向が小さい。一方アルキル基の炭素鎖の長さが4〜8程度のエステルは比較的流動性が高く、そのため濡れ性が高い。すなわち、両者の配合比率の制御によって、流動性すなわち濡れ性のより精密な制御が可能となる。
【0025】
接着層がアクリル系であることは、赤外分光法、
13C‐NMRあるいは
1H‐NMRスペクトル測定などで確認できる。
接着層の膜厚は、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、1000μm以下が好ましく500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましく、最も好ましくは5μm以上、100μm以下である。上記範囲の膜厚であれば、貼付時に容易に破れることはなく、また、十分な透明性を確保できる。接着層の膜厚は厚さ計などで測定できる。
【0026】
一方、多孔質膜の屈折率維持の観点からは接着層の膜厚は3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましく、20μm以上が最も好ましい。
接着層の膜厚をこのように高めにすることにより、接着層に含まれる接着剤の流動性が十分に得られ、その分柔軟性に富み、より優れた粘着力を得ることができる。
同様に、多孔質膜の生産性向上の観点から、接着層の膜厚は通常600μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下であり、特に好ましくは80μm以下であり、最も好ましくは60μm以下である。一般に接着剤、あるいは粘着剤とよばれるものは、膜厚を厚くするほど、内部に溶剤が残留しやすくなる。これを防ぐためには長時間の乾燥が必要になる。したがって、上述の膜厚の上限値以下にすることにより、乾燥時間を短く、乾燥温度を下げられるという生産上の利点が得られる。
【0027】
〔環境試験前後の反射スペクトルの波長シフト〕
本発明においては、80℃、50%RHで10日間の耐久試験(環境試験)前後での反射スペクトルのシフトが、−30nm以上、200nm以下であることを要件としている。以下この反射スペクトルのピークの波長シフトについて説明する。
多孔質層の上に接着層を形成した直後と耐久試験(環境試験)後の反射スペクトルの400−1000nmの間での、接着層形成直後の反射スペクトルの最小反射率ピークのピーク波長が変化していた場合、その試験後のシフト幅を「ピークシフト」と呼び、試験後にピークが低波長シフトした場合を正にとり、高波長シフトした場合を負にとる(例:耐久試験(環境試験)前に最小反射率波長が650nmで、そのピークが環境試験後に615nmに変化した場合、ピークシフト=650nm − 615nm = +35nm)。
【0028】
反射スペクトルのピーク波長は、多孔質層の膜厚に関係しており、ピークシフトが正の場合、膜厚が薄くなったことを意味しており、ピークのシフトの値が負の場合、膜厚が厚
くなったことを意味している。
ピークシフトは、−10nm以上、+10nm以下の範囲であれば、耐久試験(環境試験)の前後で多孔質層がほぼ変化していないことを意味しているため、最も好ましい。
【0029】
ピークシフトが正の場合、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下がより一層好ましい。多孔質層の基材の反対側の界面近傍は、焼成の際の収縮率が内部よりも高いため、多孔質層の表面近傍、特に多孔質層をガラス等を隣接する層(基材)として、設けた場合には、その反対側、すなわち接着層との界面近傍の細孔の入り口およびその近傍は内部に比べて多少細孔径が拡張されている細孔径拡張領域が生じていると考えられる。ピークシフトが200nm以下の場合は、接着剤が多孔質層の入り口近傍の細孔径拡張領域に浸み込みが起こったものの、細孔径拡張領域で浸み込みが止まったものと考えられる。しかしながら、200nmを超えるピークシフトが生じた場合、細孔径拡張領域を超える範囲での浸み込みが起こったことを意味しており、このような特性を有していると、浸み込みが止まらず、いずれ完全に浸み込んでしまうことが考えられる。さらに、200nmを超えるピークシフトが生じた場合、80℃の環境下で多孔質層に浸み込んだ接着剤が膨張することにより、多孔質層が大きく損傷したり、圧潰したりすることにより、クラックを生じ、ここに接着層から接着剤が浸み込んで、屈折率等の特性を悪化させる。
【0030】
ピークシフトが負の場合、−30nm以上が好ましく、−20nm以上がより好ましく、−10nm以上がさらに好ましい。ピークシフトがマイナス、特に−30nmより小さい場合、膜厚が厚くなったことになるが、シリカなどの無機系多孔質膜が80℃程度の加熱で膨張することは考えられないので、この場合、理由は不明であるが、例えば細孔径拡張領域に浸み込んでいた接着剤が膨張するなど、膜に何らかの変質が生じたことが予想され、そのため、−30nmよりマイナス方向に大きく変化すると、高温での連続使用の際に一定の品質を保つことができない恐れがある。
【0031】
他方、接着力の観点からは、接着剤が前述の細孔径拡張領域に浸み込むことが好ましいため、ピークシフトを5nm以上とすることが好ましく、より好ましくは15nm以上、最も好ましくは30nm以上である。上限の好ましい範囲は、200nm以下が好ましく、より好ましくは70nm以下、最も好ましくは60nm以下である。耐久試験(環境試験)によるピークシフトは、その接着剤が接着後も多孔質膜の細孔径拡張領域に浸み込むことを意味しているが、一方でその分多孔質膜表面との親和力が高いことを意味しており、結果として接着力を高める効果が期待できる。したがって上記範囲以内のピークシフトならば、本発明にとって好適な範囲で接着力が向上し、かつ屈折率の低さも保つことができるという効果が期待できる。そしてピークシフトを上記範囲とすることにより多孔質層の厚さ方向にも、多孔質層内の横方向にも接着剤が広がりにくく、高温下での使用時にも適している。
【0032】
[多孔質層]
本発明のより好ましい形態としては、多孔質層が可視光に対し、実質的に透明であることであり、具体的には透過率が90%以上であることが好ましい。本発明は多孔質層の低屈折率を維持したまま、他の物質を接着層を介して多孔質層と接着できる。
多孔質層を構成する元素として、陽イオンにケイ素以外を含んでいても良いが、好ましくは陽イオン中、ケイ素が90mol%以上となることが好ましく、より好ましくは95
mol%以上、最も好ましくは不可避不純物や微量添加物を除く残りがケイ素単独であることである。
【0033】
多孔質層の屈折率は1.10以上が好ましく、1.13以上がより好ましく、1.15以上がさらに好ましい。上限としては、1.30以下が好ましく、1.27以下がより好
ましく、1.23以下がさらに好ましい。屈折率が1.15以上であると、本発明で規定する特性を満たす接着層を、比較的容易に、その多孔質層上に設け、かつ十分な接着力が得られるため、好ましい。また屈折率が1.30以下であると、ガラスに対し、屈折率が低くなるため、光学的な効果(全反射のしやすさや、ガラス−多孔質層界面の屈折率差)を得ることができる。一方下限の屈折率1.10以上であると、層として接着層貼り付け時にかかる力や接着層の上に別の層を設けた際に、その荷重に耐える、あるいは温度変化による接着層−多孔質層界面での熱膨張率差による多孔質層破壊が容易に起こらない程度に十分な強度が得られやすいので好ましく、また、接着層の成分が容易に浸入できるほど多孔質層の穴が大きく、あるいは多くなりすぎたりすることも無いため好ましい。
【0034】
また多孔質層の厚さとしては、光学的な効果を発揮し、かつ細孔径拡張領域を有し、そして強度を得るため、50nm以上であることが好ましい。一方厚さの上限に関しては、特に限定されないが、経済性や均一な構造が均一化しやすい範囲として、1mm以下が好ましい。
さらに、接着層を設けた後の積層体の光学的性能・剥離強度の観点からは、250nm以上が好ましく、より好ましくは300nm以上、そして最も好ましくは500nm以上である。また上限値としては3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、最も好ましくは1.2μmである。250nm以上とすることにより接着層に極めて微量の低分子量成分や残留溶剤が入った場合の影響、特に屈折率の上昇を防ぐことができ、工業的に好ましい。また、多孔質層は、光学的特性を出すための層であるので、いたずらに厚くするのは無駄である点から上述の上限値以下であることが好ましい。
【0035】
このような細孔径拡張領域を有する多孔質層は公知の様々なメソポーラスな多孔質体の製造方法で作成することができ、特に制限はない。単にシリカ粒子を塗布乾燥するタイプでも、乾燥収縮により、細孔径拡張領域は形成されるため、問題ないが、より好ましくは、乾燥後に加熱工程を有し、その際に180℃以上の熱をかけた多孔質層が、細孔径拡張領域が顕著に表れるため好ましい。
【0036】
以下に、本発明に好適なメソポーラスな多孔質層の一例として、シリカ多孔質の製造方法の一例を説明するが、本発明に用いるメソポーラス多孔質層は、メソポーラスな多孔質層であれば特に限定されず、またその材質がシリカである場合でも、その製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
尚、メソポーラスとは、多孔質であって、その内部の孔が、2−50nm程度の細孔であるものを意味する。
【0037】
本発明に用いられるメソポーラス多孔質層として好適なシリカ多孔質から成る層(以下「シリカ多孔質層」ということがある)は、例えば、アルコキシシラン、水、及び有機溶媒を含む組成物を用いて製造される。
本発明に用いられるシリカ多孔質層(以下、単に「シリカ多孔質層」ということがある)を製造するには、まず、原料となる組成物を調合し、これを膜化した後、加熱してシリカ多孔質層を得る。
【0038】
通常、アルコキシシラン、水、有機溶媒、必要に応じて鋳型材としての有機ポリマーを含む組成物を基板上に塗布(製膜工程)してシリカ系前駆体膜の層を形成し、必要に応じて有機ポリマーの抽出工程を経てシリカ多孔質層を有する積層体を得る。
また、本発明に用いられるシリカ多孔質層の製造においては、必要に応じて、その他の操作を行なってもよい。即ち、本発明の効果を著しく損なわない限り、以下に説明する各工程の前、工程中及び工程後の任意の段階で、任意の工程を行なってもよい。例えば、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物の調合中又は調合後に熟成を行なってもよく、硬化後の本発明のシリカ多孔質膜の冷却及び後処理などを行なってもよい。
【0039】
{本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物}
まず、本発明に好適なシリカ多孔質層の製造に用いる組成物について、その配合成分、調合方法を説明する。
【0040】
<アルコキシシラン>
アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン、これらの加水分解物及び部分縮合物(オリゴマー等)などが挙げられる。
【0041】
アルコキシシランは、2種以上併用することが好ましく、また、これらのアルコキシシランの加水分解物及び部分縮合物を含むことが好ましい。アルコキシシランを2種以上併用することにより、その配合比率を制御することにより、形成されるシリカ骨格の強度と屈折率を制御することが可能であるという利点がある。
【0042】
(テトラアルコキシシラン)
テトラアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(t−ブトキシ)シラン、テトラ(n−ペントキシ)シラン、テトラ(イソペントキシ)シランなどが挙げられる。
【0043】
後述の粗乾燥工程におけるシリカ系前駆体膜の安定性の観点では、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシラン並びにそれらの部分縮合物が好ましく、テトラエトキシシランがさらに好ましい。ただし、テトラアルコキシシランは経時的に加水分解及び部分縮合を生じやすいため、テトラアルコキシシランのみを用意した場合でも、通常はそのテトラアルコキシシランの加水分解物及び部分縮合物がテトラアルコキシシランと共存することが多い。
【0044】
(モノアルキルトリアルコキシシラン)
モノアルキルトリアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリイソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシランなどが挙げられる。また、ケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有する3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリハイドロキシシリル−1−プロパン−スルフォン酸などを用いることもできる。
【0045】
(ジアルキルジアルコキシシラン)
ジアルキルジアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジ−n−プロポキシシラン、メチルジイソプロポキシシラン、エチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、エチルジ−n−プロポキシシラン、エチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルエトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジイソプロポキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルエトキシシラン、ジイソプロピルジ−n−プロポキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルエトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルエトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−sec−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシランなどが挙げられる。また、ケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有するN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることもできる。
【0046】
(トリアルキルアルコキシシラン)
トリアルキルアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリ−n−プロピルメトキシシラン、トリ−n−プロピルエトキシシランなどが挙げられる。
【0047】
(他のアルコキシシラン)
アルコキシシランとしては、上記のもの以外に、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(トリメトキシシリル)ベンゼン等の有機残基が2つ以上のトリアルコキシシリル基を結合したものなどを用いることもできる。
【0048】
上記のアルコキシシランの中でも、多孔質構造の骨格を強固にするためには、テトラアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましい。さらに、多孔質層の耐環境性の観点では、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランが好ましい。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエチルシランなどが好ましいものとして挙げられる。
【0049】
(アルコキシシランの好ましい組み合わせ)
アルコキシシランを2種以上併用する場合、ゾル−ゲル反応の制御という観点では、その組み合わせとしては、テトラアルコキシシランとモノアルキルトリアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン同士が好ましく、中でも、テトラアルコキシシランとモノアルキルトリアルコキシシランの組み合わせがより好ましい。テトラアルコシシランによってシリカ骨格が強固になり、モノアルキルトリアルコキシシランによって屈折率を低下させることができる。即ち、両者の配合比率の制御によってシリカ骨格強度と屈折率
の制御が可能となる。また、基材への濡れ性の観点では、テトラアルコキシシランとジアルキルジアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシランとジアルキルジアルコキシシランが好ましい。
【0050】
(アルコキシシランの比率)
2種以上のアルコキシシランを併用する場合、その配合比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はない。2種のアルコキシシランを併用する場合、例えば、形成されるシリカ体の耐水性の観点から、アルコキシシランのケイ素原子換算で、0.5:9.5〜5:5が好ましく、2:8〜5:5がより好ましく、2.5:7.5〜5:5が最も好ましい。
【0051】
さらに、多孔質構造の骨格を強固する観点では、テトラアルコキシシランを含むことが有効であり、テトラアルコキシシラン由来のケイ素原子の、全アルコキシシランのケイ素原子に対する割合が、通常0.15(mol/mol)以上、好ましくは0.3(mol/mol)以上、より好ましくは0.35(mol/mol)以上であり、また、通常0.95(mol/mol)以下、好ましくは0.90(mol/mol)以下、より好ましくは0.8(mol/mol)以下である。
【0052】
ここで、全アルコキシシランのケイ素原子とは、組成物に含有される全てのアルコキシシランが有するケイ素原子の数の合計をいう。従って、組成物がアルコキシシラン以外にケイ素原子を有する化合物を含有していたとしても、当該化合物が有するケイ素原子は前記の割合の算出には関与しない。なお、前記のアルコキシシランのケイ素原子の割合は、
29Si−NMRにより測定することができる。
【0053】
本発明に好適な多孔質層の製造に用いる組成物中には、前述のアルコキシシランを含めて、ケイ素を含有する化合物(ケイ素原子含有化合物)が、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上含有されていることが好ましく、また通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下含有されていることが好ましい。組成物中のケイ素原子含有化合物の含有量が0.01重量%を下回ると、加熱工程において多孔質膜の表面性が悪化し、外観不良になる恐れがある。一方、50重量%を超えると基材の平面性の影響を受けやすくなり、製膜工程におけるゾル−ゲル反応が面方向で不均一になる恐れがある。
【0054】
また、得られるシリカ多孔質層の膜厚制御の観点から、本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物中の前記ケイ素原子含有化合物や下記に説明する鋳型材としての有機ポリマーなどを含む固形分濃度は通常0.02重量%以上であり、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。また通常50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、35重量%以下がさらに好ましい。
【0055】
<水>
本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物は水を含有する。水はゾル−ゲル反応においては必須であるが、本製造法では組成物の表面張力を制御し、製膜工程において良質なシリカ系前駆体膜を形成する上で重要な役割をする。用いる水の純度には特に制限はないが、通常は、イオン交換及び蒸留のうち、いずれか一方又は両方の処理を施した水を用いればよい。ただし、例えば光学用途積層体のような微小不純物を特に嫌う用途分野に、本発明の積層体を用いる場合には、より純度の高いシリカ多孔質層が望ましいため、蒸留水をさらにイオン交換した超純水を用いることが好ましい。また、不純物の中でも100nm以上のコンタミはゾル−ゲル反応の進行に影響を与える恐れがある。従って、例えば0.01μm〜2.5μmの孔径を有するフィルターを通した水を用いることが好ましい
。
【0056】
水の使用量は、組成物中の全アルコキシシランのケイ素原子に対する水の割合が、通常1(mol/mol)以上、好ましくは3(mol/mol)以上、より好ましくは5(mol/mol)以上とする。また、通常300(mol/mol)以下、好ましくは200(mol/mol)以下とする。全アルコキシシランのケイ素原子に対する水の割合が前記の範囲内とすることにより、ゾル−ゲル反応のコントロールが容易で、ポットライフも長く、また、均質な多孔質層が形成され、表面が平滑になって耐摩耗性にも優れる。また、前記の範囲とすることにより、この範囲よりも大きいときより、ゾル−ゲル反応が進みやすくなり反応が短い時間で進み、耐水性が向上する。なお、水の量は、カールフィッシャー法(電量滴定法)により算出できる。
【0057】
<有機溶媒>
本発明に好適なシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物は有機溶媒を含有する。有機溶媒としてはアルコール類が最も適している。アルコール類は、前記アルコキシシラン、その加水分解物、さらには部分縮合物に対して親和性を有するため、シリカ多孔質膜形成中のゾル−ゲル反応を均質に進行させるために好ましい。さらに製膜工程に生じる気−液(組成物)界面、固(基材)−液(組成物)界面において安定した状態を保つことで、良質なシリカ系前駆体膜を形成するために有効である。
【0058】
アルコール類の種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの1価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの2価アルコール、グリセリンなどの3価アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコールなどが挙げられる。なお、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0059】
これらの中でも、含有するアルコキシシランの加水分解反応の進行の観点から1価アルコール、2価アルコールが好ましく、1価アルコールがより好ましい。また、得られるシリカ多孔質層の表面性の観点から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、エチルアセテート、酢酸メチル、イソブチルアセテートなどが好ましい。従って、これらの中から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0060】
また、多孔質層の製造工程におけるシリカ系前駆体層の構造形成を容易にし、基材との濡れ性向上の観点から、用いる有機溶媒の沸点は110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。このようなものとして、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノールなどが好ましい。一方、加熱工程において多孔質構造の変形を抑制する観点から、有機溶媒の沸点は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がより好ましい。このようなものとしては例えば、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノールが好ましい。
【0061】
さらに上記の沸点が異なるアルコール類を混合して用いてもよく、その際、各工程における共沸を抑制するために、組み合わせるアルコール類の沸点の差は5℃以上であること
が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。また、全アルコール類に対する高沸点側のアルコール類の割合は、通常5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは80重量%以上とする。なお、当該割合の上限は通常98重量%である。この範囲にすることにより、得られるシリカ多孔質層の表面の平滑性が向上する。
【0062】
本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物には、上記アルコール類以外の有機溶媒を含有してもよい。例えば、後述の基材との濡れ性や製膜工程における造膜性をより向上させるために、アルコール類以外の有機溶媒を用いることができる。
好適な有機溶媒の例を挙げると、酢酸メチル、エチルアセテート、イソブチルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエーテル類又はエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジアセチルピペラジン等のアミド類;Y−ブチロラクトン等のラクトン類;テトラメチルウレア、N,N’−ジメチルイミダゾリジン等のウレア類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0063】
有機溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物中の含有量として、通常0.05重量%以上、中でも0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。また、通常50重量%以下、中でも40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。有機溶媒の使用量をこの範囲にすることで、多孔質層を安定して製造することができる。
【0064】
<触媒>
本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物には触媒を含有していてもよく、触媒としては、例えば上述したアルコキシシランの加水分解及び脱水縮合反応を促進させる物質を任意に用いることができる。
その例を挙げると、フッ酸、燐酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、ステアリン酸、リノレン酸、安息香酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、ピルビン酸、マロン酸、アジピン酸、グルタル酸、サリチル酸、アコニット酸などの酸類;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の塩基性アンモニウム塩類;ピリジンなどの塩基類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;その他、酸性及び塩基性のアミノ酸類などが挙げられる。
【0065】
また、触媒の例としては、金属キレート化合物も挙げられる。この金属キレート化合物の金属種としては、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。金属キレート化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
アルミニウム錯体としては、例えば、ジ−エトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−イソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−プロポキ
シ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0066】
チタン錯体としては、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等を挙げることができる。
【0067】
上述したものの中でも、アルコキシシラン化合物の加水分解及び脱水縮合反応をより容
易に制御するためには、酸類若しくは金属キレート化合物が好ましく、酸類がさらに好ましい。なお、触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
触媒の使用量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中のアルコキシシランに対して、通常0.001mol倍以上、中でも0.003mol倍以上、特には0.005mol倍以上が好ましく、また、通常0.8mol倍以下、中でも0.5mol倍以下、特には0.1mol倍以下が好ましい。触媒の使用量をこの範囲にすることで、加水分解反応が適度に進み、製造後にシリカ多孔質層中にシラノール基などの活性基が少なくなり、シリカ多孔質層の耐水性が向上し、反応制御が容易になり、製造中に触媒濃度が更に高くなることで、シリカ多孔質層の表面性が向上する。
【0068】
<pH>
本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物は、造膜性の観点で、pHが6以下であることが好ましい。組成物のpHはより好ましくは5.5以下、さらに好ましくは5.0以下、特に好ましくは4.5以下である。この範囲にすることで、本発明のシリカ多孔質膜の製造時に後述の基材の表面改質を同時に行うことができ、より造膜性が向上する傾向になる。
【0069】
<その他>
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物には、上述したアルコキシシラン、水、有機溶媒、触媒以外の成分を含有していても良い。また、当該成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(有機ポリマー)
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物は、鋳型材として有機ポリマーを含有していてもよく、有機ポリマーを含有する組成物を基材に塗布してシリカ系前駆体膜を形成した後、抽出工程で有機ポリマーの全部又は一部を除去することで、より高い空隙率を有するシリカ多孔質膜が得られる。
【0070】
多孔質構造形成の観点から、用いる有機ポリマーの数平均分子量は、通常500以上であり、1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、5,000以上が特に好ましい。数平均分子量をこの範囲にすることにより、得られるシリカ多孔質層の多孔度を高く維持することが容易になり、低屈折率なシリカ多孔質層を安定して製造することができる。一方、有機ポリマーの数平均分子量の上限に制限はないが、通常100,000以下、好ましくは70,000以下、より好ましくは40,000以下である。数平均分子量をこの範囲にすることで組成物の増粘を防ぎ、造膜性が向上する。
【0071】
有機ポリマーの種類は本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリレート系高分子、ポリアンハイドライド系高分子、ポリエーテル系高分子、ポリカーボネート系高分子、ポリエステル系高分子等の有機高分子が挙げられる。
(メタ)アクリレート系高分子は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、それらの誘導体より構成される。具体例として、ジエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリルアミド、ビニルピリジン、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジエチレングリコールメタクリレート、ジプロピレングリコールメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、アミルアクリレート、2−メトキシプロピルアクリレート、2−エトキシプロピルアクリレート
、2−エチルヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレート、2−メトキシプロピルメタクリレート、2−エトキシプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
ポリアンハイドライド系高分子は、炭素数2以上の脂肪族ジカルボン酸から得られる。具体例として、ポリマロニックアンハイドライド、ポリスクシニックアンハイドライド、ポリオキサリックアンハイドライド、ポリグルタリックアンハイドライド等、それらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
ポリエーテル系高分子は、炭素数2以上のポリアルキレングリコール化合物から構成される。具体例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリペンタメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロック共重合体等、それらのメチルエーテル、エチルエーテル;ポリエチレングリコールモノ−p−メチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ−p−エチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ−p−プロピルフェニルエーテル、それらのメチルエーテル、エチルエーテル;ポリエチレングリコールモノペンタン酸エステル、ポリエチレングリコールモノヘキサン酸エステル、ポリエチレングリコールモノヘプタン酸エステル、それらのメチルエーテル、エチルエーテル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
ポリカーボネート系高分子は、炭素数2以上の脂肪族ポリカーボネートであり、具体例として、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリペンタメチレンカーボネート、それらのメチルエーテル、エチルエーテルが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエステル系高分子は炭素数2以上の脂肪族鎖及びエステル結合からなる化合物で構成されている。具体例として、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンマロネート、ポリエチレンスクシネート、ポリエチレングリタレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリプロピレンマロネート、ポリプロピレンスクシネート、ポリプロピレングリタレート、これらのメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物のポットライフ、製膜工程におけるシリカ系前駆体膜の安定性の観点から、有機ポリマーとしては、(メタ)アクリル系高分子、ポリエーテル系高分子が好ましく、ポリエーテル系高分子がより好ましい。中でも加水分解基含有シランとの親和性の観点から、ポリエーテル系高分子を構成する繰り返し単位のアルキレングリコール化合物の炭素数が2〜4のものが好ましく、2若しくは3のものがより好ましい。
【0076】
さらにシリカ系前駆体膜の構造を製膜工程から加熱工程まで安定に維持するためには、有機ポリマーとしては、炭素数の異なるアルキレングリコール化合物を組み合わせた共重合体が好ましい。この際、アルキレングリコール化合物の合計に占める炭素数の少ない、つまり加水分解基含有シランのシラノール基との親和性の高いアルキレングリコール化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常20重量%以上、好ましくは23重量%以上、より好ましくは25重量%以上であり、また、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下である。上記の
範囲に収めることで、加水分解基含有シランのゾル−ゲル反応中において形成される加水分解基含有シランの加水分解物や縮合物に対して、鋳型材としての有機ポリマーがさらに安定に存在することができる。
【0077】
有機ポリマーを用いる場合、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物の有機ポリマーの含有量は、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1.2重量%以上がさらに好ましく、1.4重量%以上が特に好ましい。組成物中の有機ポリマーの含有量がこの下限以上であれば製膜工程における加水分解基含有シランのゾル−ゲル反応を安定にすることができる。組成物中の有機ポリマーの含有量の上限に制限はないが、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下が特に好ましい。この上限値を超えないことで、組成物の増粘を防ぎ、造膜性が向上する。
【0078】
(界面活性剤)
本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、界面活性剤を含有してもよく、特に基材の大面積化においては、界面活性剤を添加することで造膜性が著しく向上する場合がある。界面活性剤としては公知の何れを用いることもでき、その種類、組み合わせ、比率には特に制限はなく、以下の2種以上の界面活性剤を用いてもよい。
【0079】
界面活性剤の具体的な例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソブチレングリコールなどのノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、親油基がフッ化炭素基のフッ素系界面活性剤、親油基がシロキサン鎖のシリコーン系界面活性剤、親油基がアルキル基の界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は組成物の造膜性の点で、これらのうちの2種以上が選択されることが好ましく、中でもノニオン系界面活性剤とフッ素系界面活性剤(特にパーフルオロアルキル基を含有するもの)との組合せ、及びノニオン系界面活性剤とシリコーン系界面活性剤(特にシロキサン結合を含有するもの)との組合せから選択されることが好ましい。これらの界面活性剤の親水基は、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等が好ましい。またポリエーテル、ポリグリセリン等も好ましい。
【0080】
フッ素系界面活性剤として、例えば、ヘキサエチレングリコール(1,1,2,2,3,3−ヘキサフロロペンチル)エーテル、1,1,2,2−テトラフロロオクチル(1,1,2,2、−テトラフロロプロピル)エーテル、パーフロロドデシルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、シリコーン系界面活性剤として、例えばSH21シリーズ、SH28シリーズ(東レ・ダウコーニング株式会社)などが挙げられる。
【0081】
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中の界面活性剤の含有量は、組成物中の全加水分解基含有シランのケイ素原子に対する界面活性剤の割合として、得られるシリカ多孔質膜の表面性の観点から、通常0.001(mol/mol)以上、好ましくは0.002(mol/mol)以上、より好ましくは0.003(mol/mol)以上であり、また、通常0.05(mol/mol)以下、好ましくは0.04(mol/mol)以下、より好ましくは0.03(mol/mol)以下である。
【0082】
<組成物の調合>
上述した組成物を構成する各成分を混合して、本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物を調合する。この際、各成分の混合の順番に制限は無い。また、各成分は、全量を一回で混合しても良く、2回以上に分けて連続又は断続的に混合しても良い。
ただし、従来、制御困難とされているゾル−ゲル反応を制御して、組成物をより工業的
に有利に調合するためには、以下の要領で混合することが好ましい。即ち、アルコキシシラン、水、溶媒、触媒を混合し、その混合物(以下、「アルコキシシラン混合物」と称す場合がある。)を一定のゾル−ゲル反応(熟成)させることでアルコキシシランをある程度加水分解及び脱水重縮合させる。そして、鋳型材として有機ポリマーを用いる場合は、アルコキシシラン混合物に有機ポリマーを混合して組成物を調合する。これにより、ゾル−ゲル反応条件下で、シランと鋳型材としての有機ポリマーとの親和性を維持することができる。なお、熟成は前記の混合物と有機ポリマーとを混合した後で行なってもよい。
【0083】
<熟成>
(アルコキシシラン混合物の熟成)
前記熟成の際、アルコキシシランの加水分解・脱水重縮合反応を進めるためには、加熱することが好ましい。加熱条件として、用いる溶媒の沸点を超えなければ、特に制限は無いが、通常5℃以上、中でも10℃以上が好ましく、20℃以上とすることがさらに好ましく、30℃以上とすることが最も好ましい。加熱温度を適当にすることにより、十分なゾル−ゲル反応が進行し、アルコキシシランの縮合体の成長が十分行われ、形成される膜の強度が高くなる。また、十分なゾル−ゲル反応が進行すれば、多孔質の孔を作る鋳型材として有機ポリマーを用いる場合、有機ポリマーとの親和性が得られやすい。一方、加熱温度の上限は、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。加熱温度をこの上限以下にすることで、アルコキシシランの縮合反応が進行しすぎて、縮合体が沈殿を形成して、アルコキシシラン混合物が不均一になることを防げる。また、シラン混合物中の鋳型材である有機ポリマーの分子運動が激しくなり、シランと有機ポリマーとの親和性が制御できなくなる可能性も抑えられる。
【0084】
また、加熱を伴う熟成時間に制限は無いが、通常0分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、また、通常20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは8時間以下、さらに好ましくは4時間以下である。熟成時間をこの範囲にすることで均一に反応を進めやすくなり十分なゾル−ゲル反応が進み、アルコキシシランと有機ポリマー(鋳型材)との親和性が得られやすい。
【0085】
さらに、アルコキシシラン混合物の熟成時の圧力条件に制限は無いが、通常は常圧で熟成を行なうことが好ましい。常圧にすると圧力の変化が少ないため、圧力の変化に起因する、溶媒の沸点の変化と、熟成中の溶媒が揮発(蒸発)することで、組成比が変化することが防げ、混合物の安定性が高くなる。
また、上記熟成後、製膜工程前に用いる組成物は有機溶媒を更に混合して希釈することが好ましい。これにより、組成物内でのゾル−ゲル反応速度を低下させることができ、組成物のポットライフを長く維持することが可能となる。また、シリカ多孔質膜の製造における歩留まりの観点では、加熱を伴わない熟成を行うことが好ましい。加熱を伴わない熟成は、組成物の調製後に行ってもよい。組成物のポットライフの観点では、中和工程を行ったり、触媒除去工程を行ってもよい。
【0086】
{製膜工程}
製膜工程では、上述の本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物を基材上に塗布、展開することで、シリカ系前駆体膜を製造する。
なお、製膜工程は一回で行なってもよいが、二回以上に分けて行なってもよい。例えば、後述する粗乾燥工程を介して、製膜工程を二回以上行なうようにすれば、積層構造を有するシリカ多孔質膜を形成することが可能である。これは、例えば屈折率が異なるシリカ多孔質膜を積層して形成したい場合などに有用である。
【0087】
尚、使用される基材としては、特に限定されず、接着層や後で除去できるシート等、あるいは接着層の反対側に設ける屈折率1.40以上の物質など、どれでも構わないが、好
ましくは光学用途に使用できる可視光を透過する材質であり、樹脂でもガラスでもよいが、好ましくはガラスであり、特に好ましくは光学ガラスである。この基材は、多孔質層に隣接することとなる。この時の基材の屈折率は、1.40以上であることが、多孔質層との屈折率の差による光学的効果が得られやすいため好ましい。
【0088】
また、基材のシリカ多孔質膜形成面の中心線平均粗さも任意である。ただし、形成するシリカ多孔質膜の製膜性の観点から、当該中心線平均粗さは10nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、5nm以下が更に好ましく、3nm以下が特に好ましい。また、基材の表面粗さの最大高さR
maxについては、形成するシリカ多孔質膜の製膜性の観点から、100μm以下、特に10μm以下であることが好ましい。
【0089】
この中心線平均粗さ及び表面粗さの最大高さR
maxは、JIS−B0601:1994に従った汎用の表面粗さ計(例えば、(株)東京精密社製サーフコム570A)により測定される。
<製膜方法>
本発明において、基材への本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物の製膜方法に特に制限はなく、例えば、スピンコーター、スプレーコーター、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーターなどを用いて塗布する方法や、ディップコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
【0090】
ディップコート法においては、任意の速度で、基材を本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物に浸漬して引き上げればよい。この際の引き上げ速度に制限は無いが、通常0.01mm/秒以上、好ましくは0.05mm/秒以上、より好ましくは0.1mm/秒以上、また、通常50mm/秒以下、好ましくは30mm/秒以下、より好ましくは20mm/秒以下である。引き上げ速度をこの範囲に保つことにより、膜厚にムラができることを防ぐことができ。一方、基材を組成物中に浸漬する速度に制限はないが、通常は、引き上げ速度と同程度の速度で基材を組成物中に浸漬することが好ましい。さらに、基材を組成物中に浸漬してから引き上げるまでの間、適当な時間浸漬を継続してもよい。この浸漬を継続する時間に制限は無いが、通常1秒以上、好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上、また、通常48時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。この範囲の時間で浸漬することにより、基材への密着性と平滑性を高めることができる。
【0091】
さらに、スピンコート法で、本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物を塗布する場合、回転速度は、通常10回転/分以上、好ましくは50回転/分以上、より好ましくは100回転/分以上、また、通常100000回転/分以下、好ましくは50000回転/分以下、より好ましくは10000回転/分以下である。この回転速度の範囲にすることによりムラの発生を防ぎ溶媒の過剰な気化を防ぐことができ、アルコキシシラン類の加水分解等の反応が十分進み、耐水性も向上する。
【0092】
特に、製膜時のゾル−ゲル反応を組成物の組成に依らず、安定した状態でシリカ系前駆体膜とするためには、組成物の吐出部と基材との距離を制御し、さらに該組成物を流延することが好ましい。吐出部と基材からできる限られた空間の中で膜化することで、一定の環境下でゾル−ゲル反応を進めることができ、均質なシリカ系前駆体膜を形成できる。具体的には組成物の吐出部と基材との距離は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下がさらに好ましく、50μm以下が最も好ましい。この距離が100μmを超えないことで、吐出部周辺と基材周辺でゾル−ゲル反応の進行が均等になり、ウェット状態での膜中の対流発生を防ぎ、安定してシリカ多孔質膜を得ることができる。一方、この距離の下限としては0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好
ましく、0.5μm以上がさらに好ましく、0.8μm以上が最も好ましい。0.1μm以上とすることで組成物への流延時のシェアが大きくなることなく、ゾル−ゲル反応が安定に進む。
【0093】
さらに、光学機能層として信頼性の高い膜厚制御を広範囲(大面積)で実現するためには、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーターなどを用いる方法が好ましく、ダイコーターを用いる方法がより好ましい。
ダイコート法は、溶液供給点より本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物を一定流量で供給し、それをスリットを経てダイリップより吐出することにより基材表面上にシリカ系前駆体膜を形成させるものであり、この際、基材を一定速度で搬送させることにより、目的とするシリカ多孔質層を形成することができる。
【0094】
上記スリットの幅には特に制限はないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常、100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下である。スリットの幅が上記下限値以上とすることでコンタミによる目詰まりを防ぎ、上記上限値以下とすることで膜を均一に製膜できる。
また、ダイリップ(スリット)と基板との間隔(距離)であるGapには特に制限はないが、通常、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上、また、通常、100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下の範囲にすることにより、良質なシリカ系前駆体膜を得ることができる。
【0095】
ダイリップからの吐出流量には特に制限はないが、通常1〜100cc/分、好ましくは1〜50cc/分、より好ましくは1〜20cc/分、さらに好ましくは2〜10cc/分、最も好ましくは3〜6cc/分である。吐出流量が上記下限値以上とすることで、流延時のスリット速度精度の許容幅が広がり、基材の大面積化が容易になる傾向がある。一方、上記上限値以下とすることで吐出した組成物に対流が生じることを防ぎ、安定なウェット膜を形成することが容易にできる。
【0096】
塗工速度には特に制限はないが、通常5〜300mm/秒、好ましくは10〜200mm/秒、より好ましくは20〜100mm/秒、さらに好ましくは30〜80mm/秒、最も好ましくは40〜60mm/秒である。塗工速度が上記下限値以上とすることで、製膜工程におけるシリカ系前駆体膜の流延条件の許容度が広がり、生産性が向上する、また上記上限値以下とすることで製膜工程においてシリカ系前駆体膜にかかるせん断応力が減少し、鋳型材である有機ポリマーとシリカ成分とで構成される構造を安定して維持できる。
【0097】
塗工停止時間には特に制限はないが、通常0.1〜3秒、好ましくは0.1〜2秒、より好ましくは0.2〜1秒、さらに好ましくは0.2〜0.8秒、最も好ましくは0.3〜0.6秒である。塗工停止時間が上記下限値以上とすることで基材とシリカ系前駆体膜の界面状態が安定し、基材との密着性が向上し、膜表面のレベリングが進み、膜の外観が美しく保たれる。上記上限値以下とすることで基材とシリカ系前駆体膜との界面でのゾル−ゲル反応が進行しすぎることなく、流延時に局所的な欠陥が生じることもない。
【0098】
塗工距離には特に制限はないが、通常0.05〜500m、好ましくは0.1〜300m、より好ましくは0.5〜100m、さらに好ましくは0.8〜50m、最も好ましくは1〜5mである。塗工距離が上記下限値以上とすることで製膜工程における流延初期の不安定な状態をシリカ系前駆体膜全体に及ぼす恐れがなくなり、上記上限値以下とすることで組成物中の局所的な不均一を抑えシリカ多孔質膜の表面性に影響を与える恐れがなくなる。
【0099】
ダイリップと基板支持台の水平出し精度は、通常±5μm以下、好ましくは±2μm以下、より好ましくは±1μm以下とすることで再現性よく塗布することができる。
使用し得るダイの形状としては、溶液等を横方向に均一に分配し得るものであれば特に制限はない。例としては、一般のフィルムキャスティング時に使用されるTダイ形状のもの、あるいはフィッシュテイルダイ形状のもの、あるいはコートハンガーダイ形状のもの等が挙げられる。さらには、ダイ横方向への分配をより均一にしやすくするために、ダイリップ間隔の調整機構を有するものであることが望ましい。
【0100】
製膜時のウェット膜厚には特に制限はないが、通常、0.1〜100μmであり、0.5〜80μmが好ましく、1〜55μmがより好ましく、5〜40μmがさらに好ましく、10〜25μmが最も好ましい。この範囲内とすることで製膜工程における組成物のゾル−ゲル反応の進行を制御しやすくなり、基材との濡れ性の影響を受けにくく、それに伴い膜のレベリング効果が向上し、膜の外観が良化する。
【0101】
例えば、ダイコートの場合、該ウェット膜厚は吐出液量と基板の移動速度で制御する機構が好ましく、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下の範囲にすることにより、塗布ムラの少ない均一なシリカ多孔質膜を得ることができる。
【0102】
<製膜環境>
製膜工程を行う際の相対湿度には特に制限はないが、相対湿度を制御することによりさらに安定した連続コーティングが可能となる。
【0103】
例えば、相対湿度が通常5%RH以上、好ましくは10%RH以上、より好ましくは15%RH以上、さらに好ましくは20%RH以上、また、通常85%RH以下、好ましくは80%RH以下、より好ましくは75%以下RHの環境下においてシリカ系前駆体膜の製膜を行なうようにすることが好ましい。
製膜工程を行なう際の温度に制限は無いが、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、最も好ましくは25℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さら好ましくは60℃以下、最も好ましくは50℃以下である。シリカ系前駆体膜を製造する際の温度をこの範囲とすることで適切な速度でゾル−ゲル反応が進み、均質なシリカ系前駆体膜を得られやすく、未加水分解のアルコキシシランが少なくなり、得られるシリカ多孔質膜の耐久性が向上する。
【0104】
さらに、製膜工程を行う際のクリーン度には特に制限はないが、基材上に存在するコンタミを核とした膜欠陥や核周辺でのゾル−ゲル反応の進行を抑制する観点から、通常、塵埃径0.5μm以上の塵埃数3,000,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましい。
また、製膜工程における雰囲気に制限は無い。例えば、空気雰囲気中でシリカ系前駆体膜の製膜を行なっても良く、例えばアルゴン等の不活性雰囲気中でシリカ系前駆体膜の製膜を行なってもよい。
【0105】
<前処理>
本発明に使用されるシリカ多孔質層の製造方法では、本発明のシリカ多孔質層の製造に用いる組成物を基材上に製膜するに先立って、組成物の濡れ性、製造されるシリカ系前駆体膜の密着性の観点から、基材に表面処理を施してもよい。そのような基材の表面処理の例を挙げると、シランカップリング処理、コロナ処理、UVオゾン処理、プラズマ処理などが挙げられる。このような表面処理は、1種のみを行なってもよく、2種以上を任意に
組み合わせて行なってもよい。
【0106】
<後処理>
(粗乾燥)
本発明のシリカ多孔質膜の製造方法では、上述の製膜工程の後に、シリカ系前駆体膜中のアルコール類又は触媒を除去することを目的として、シリカ系前駆体膜を粗乾燥させる粗乾燥工程を行なってもよい。粗乾燥工程を行なうことで、シリカ系前駆体膜中のアルコール類や水や触媒が除去されることで、前駆体膜中に存在する有機ポリマー(鋳型材)とシリカ成分が安定した状態で構造を形成し、シリカ系前駆体膜の構造を安定化することができる。
【0107】
粗乾燥工程における粗乾燥の手法は制限されない。例えば加熱乾燥、減圧乾燥、通風乾燥等が挙げられる。これらは1種を単独で実施してもよく、2種以上を組み合わせて実施してもよい。
粗乾燥の手段も任意である。例えば粗乾燥を加熱乾燥により行なう場合、加熱乾燥の手段の例として、ホットプレート、オーブン、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また通風加熱乾燥の手段としては、例えば送風乾燥オーブン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0108】
粗乾燥時の温度は制限されないが、通常は室温以上であることが好ましい。特に加熱乾燥を行なう場合、その温度は通常20℃以上、好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上、最も好ましくは60℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下、最も好ましくは100℃以下の範囲が望ましい。なお、加熱乾燥時の温度は一定でもよいが、変動してもよい。
【0109】
粗乾燥時の圧力も制限されないが、特に減圧乾燥を行なう場合、通常は常圧以下、好ましくは10kPa以下、より好ましくは1kPa以下がより好ましい。
粗乾燥時の湿度も制限されないが、シリカ系前駆体膜の吸湿を防ぐため、通常は60%RH程度以下とすることが望ましく、好ましくは常圧で30%RH以下、或いは真空状態(湿度0%RH)とすることが望ましい。
【0110】
粗乾燥時の雰囲気も制限されず、大気雰囲気でも、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気でも、真空雰囲気でもよい。これらはシリカ系前駆体膜の特性等を考慮して選択すればよい。但し、通常はクリーンな雰囲気であることが好ましい。
粗乾燥時間も制限されず、シリカ系前駆体膜中のアルコール類や水や触媒が除去できれば任意であるが、粗乾燥時の温度・圧力・湿度等の条件や、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中に含まれるアルコール類や溶媒の沸点、プロセス速度、シリカ系前駆体膜の特性等を考慮して決定することが好ましい。粗乾燥時間は、通常1秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは1時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲が望ましい。
【0111】
(酸・塩基処理)
上述した製膜工程の後に、シリカ系前駆体膜を酸又は塩基と接触させることもできる。この工程により、シリカ系前駆体膜のアルコキシシラン類の加水分解縮合反応を促進させ、シリカ系前駆体膜の構造体を維持して安定したシリカ多孔質膜を形成することができ、好ましい。
【0112】
接触させる好ましい酸としては、塩化水素、ぎ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸などの気化しやすい酸類が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、好ましい塩基としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン
,トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。これらの塩基についても1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
シリカ系前駆体膜を酸又は塩基と接触させる方法としては、酸又は塩基の液体又は溶液もしくは蒸気を用いる方法が挙げられる。また、後述する抽出工程で使用する有機溶媒に酸又は塩基を溶解して抽出工程と同時に接触させることもできる。
また、酸・塩基処理の際に加熱を行なってもよい。加熱温度は、通常室温以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは100℃以上で、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは120℃以下である。
【0114】
酸・塩基処理を行なう時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30秒以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。
酸・塩基処理を行なう際の圧力は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、減圧環境としてもよく、加熱を行う場合は、圧力を、通常0.2MPa以下、好ましくは0.15MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下とする。一方、圧力の下限に制限は無いが、通常10
−4MPa以上、好ましくは10
−3MPa以上、より好ましくは10
−2MPa以上である。この範囲にすることでアルコキシシランのゾル−ゲル反応よりもアルコール類の揮発が進行し、吸湿性の高いシリカ多孔質膜となることを容易に防ぐことができ、光学特性の環境依存性を減らすことができる。
【0115】
<抽出工程>
上述した製膜工程の後に、必要に応じて、シリカ系前駆体膜を溶媒と接触させることで、鋳型材である有機ポリマーの抽出工程を行なう。溶媒との接触により、鋳型材の有機ポリマーをアルコキシシランからなるシリカ成分により形成された構造から除去することで、より空隙率の高い多孔質構造を得ることができる。さらに得られたシリカ多孔質膜は低い屈折率を有するため、高い光学特性が実現される。
【0116】
抽出に使用する溶媒としては、特に制限されないが、鋳型材である有機ポリマーと親和性の高い物質がよい。親和性の高い溶媒であれば、有機ポリマーを溶解しやすく、シリカ成分により形成された構造から有機ポリマーを除去しやすいためである。溶媒としては、極性溶媒が好ましく、中でも一価アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類の1種、又は2種以上の親水性溶媒が好ましい。2種類以上の親水性溶媒を組み合わせる際は、混合して用いても、それぞれの溶媒で単独に処理して組み合わせることもできる。さらには、同種の処理液を繰り返し作用させることもできる。
【0117】
抽出方法は特に制限されない。例えばシリカ系前駆体膜を溶媒中に浸漬する、シリカ系前駆体膜表面を溶媒で洗浄する、シリカ系前駆体膜に溶媒を噴霧する、シリカ系前駆体膜に溶媒の蒸気を吹きつける、などの方法が挙げられる。また、シリカ系前駆体膜を溶媒に浸漬して、超音波を利用したり、溶媒を攪拌したりして、積極的に有機ポリマーを抽出することも可能である。
【0118】
また、抽出の際に加熱を行ってもよい。この場合の加熱温度は通常200℃以下であればよい。好ましくは180℃以下、より好ましくは120℃以下である。また、通常室温以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。
以上のように、抽出処理を行なうことにより、基材上に空隙率の高いシリカ多孔質膜が形成された積層体を得ることができる。
【0119】
<乾燥工程>
乾燥工程とは、抽出工程で抽出に使用した溶媒をシリカ系前駆体膜より除去する工程である。
この際、乾燥温度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下で、また通常室温以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。また、乾燥工程における雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、例えば、真空環境、不活性ガス環境であってもよい。
【0120】
<加熱工程>
前述の製膜工程の後、本発明の積層体の製造に用いる組成物で形成されたシリカ系前駆体膜を加熱する加熱工程を行なう。加熱工程により、シリカ系前駆体膜中の本発明の積層体の製造に用いる組成物中の有機溶媒及び水が乾燥、除去されて、膜が硬化することにより、本発明の積層体に用いられる多孔質層の一例であるシリカ多孔質膜が形成される。
【0121】
加熱処理の方式は特に制限されないが、例としては、加熱炉(ベーク炉)内に基材を配置して本発明の積層体の製造に用いる組成物よりなるシリカ系前駆体膜を加熱する炉内ベーク方式、プレート(ホットプレート)上に基材を搭載しそのプレートを介して本発明の組成物よりなるシリカ系前駆体膜を加熱するホットプレート方式、前記基材の上面側及び/又は下面側にヒーターを配置し、ヒーターから電磁波(例えば赤外線)を照射して、本発明の積層体の製造に用いる組成物よりなるシリカ系前駆体膜を加熱する方式、などが挙げられる。
【0122】
加熱温度に制限は無く、本発明の積層体の製造に用いる組成物よりなるシリカ系前駆体膜を硬化できれば任意であるが、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上、最も好ましくは180℃以上、また、通常600℃以下、好ましくは550℃以下、より好ましくは500℃以下、最も好ましくは450℃以下である。加熱温度を下限値以上とすることにより、得られる膜の屈折率が安定して低いものとなり、着色したりすることを防げる。一方、加熱温度を上限値以下とすることにより基材と本発明のシリカ多孔質膜との密着性を向上させることができる。
【0123】
また、空気中180℃以上で加熱工程を行うことで、前述の抽出工程を行うことなく、有機ポリマーを除去することができる。
さらに、接着層を設けた後の積層体の光学的性能・剥離強度の観点から、加熱温度は70℃〜570℃が好ましく、150℃〜480℃がより好ましく、180℃〜300℃が最も好ましい。シリカは一般的にその表面にシラノール基を有し、シラノール基量は、加熱温度が高くなるほどシラノール基間の縮合反応が進行するために少なくなる。したがって、加熱温度を下限値以上とすることにより、シラノール基量が適切になり、表面が必要以上に親水性が高くなることを防ぎ、結果として多孔質膜の吸湿が抑えられ、多孔質膜の屈折率が低く保たれ、本発明の積層体の光学性能を高く保つ。一方で、加熱温度を上限値以下にすることで、シラノールの縮合反応が適度に進行するため、シリカ骨格に歪が生じにくく、マイクロクラックなどの欠陥が生じにくく、接着層を設けた際に、そのクラック内に接着剤が浸入し、多孔質膜の屈折率が上昇することを防ぎ、結果として積層体の光学的性能を高く保つことができる。
【0124】
なお、加熱工程において、前記の加熱温度で連続的に加熱を行なってもよいが、断続的に加熱を行なうようにしてもよい。
加熱を行なう際、昇温速度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1℃/分以上、好ましくは10℃/分以上、また、通常500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下で昇温する。昇温速度を下限値以上にすることで膜が緻密になりすぎ、膜
歪みが大きくなって耐水性が低くなる可能性を防ぐことができる。また昇温速度を上限値以下とすることで膜歪みが大きくなって耐水性が低くなったり、シリカ多孔質層及び基材のひび割れ、破損等を引き起こす可能性を低くすることができる。
【0125】
加熱を行なう時間は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。加熱時間を下限値以上とすることにより十分にシリカ多孔質膜の硬化が進行し、上限値以下とすることでシリカ多孔質膜及び基材のひび割れや破損などを防ぐことができる。
【0126】
加熱を行なう際の雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、中でも、乾燥ムラの生じにくい環境が好ましい。その中でも、大気雰囲気下で加熱を行なうことが好ましい。また、不活性ガス処理を行ない、不活性雰囲気下で加熱を行なうことも可能である。
以上のように、加熱処理を行なうことにより、本発明の積層体に用いられるシリカ多孔質層の製造に用いる組成物よりなるシリカ前駆体膜を硬化させて、本発明に使用できるメソポーラス多孔質層の一例である、シリカ多孔質層を得ることができる。
【0127】
[積層体の製造方法]
本発明においては、この多孔質層の上の全体あるいは特定の領域に、接着層を設ける。この接着層としては、離型紙など上に、本発明の高分子化合物を含む接着層の成分を乗せ、これを既に形成された多孔質層の上に貼り付けて、接着層から離型紙などを剥がすことにより、本発明の積層体を得ることができる。この時接着層は自身の接着性で多孔質層と接着され、本発明の積層体が得られる。この積層体は、接着層の高分子が本発明の規定の範囲になる場合、温度を上げて加速試験を行っても、多孔質層のごく表面のみに分布し、内部への侵入はごくわずかにとどまる。このため、多孔質層が低屈折膜としての特性を十分に発揮することができる。
【0128】
[実施例]
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
〔実施例1〕
〔多孔質膜形成用組成物の調合〕
テトラエトキシシラン 6.8g、メチルトリエトキシシラン 6.9g、エタノール
2.3g、H
2O 5.6g、及び0.3重量%の塩酸水溶液 13gを混合し、60℃、さらに室温で30分間攪拌することで、混合物(A)を調整した。
【0129】
次に、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド
トリブロックコポリマー(BASF社製 PLURONIC P123(数平均分子量:Mn〜5800)) 6.2g、エタノール 3.1gとを混合した混合物(B)に、前記混合物(A)を添加し、室温で30分間攪拌し混合物(C)を調整した。
この混合物(C)50mlと、希釈溶媒として1−ブタノール50mlとを混合し、室温で30分間攪拌することで多孔質膜形成用組成物を得た。
【0130】
〔多孔質コート基材の製造〕
得られた組成物を、孔径0.45μmのPTFE製メンブレンフィルターでろ過し、760×520mmのガラス基材(松浪硝子工業社製、MICRO SLIDE GLASS:S9112)に対して、1.5ml滴下した。そして、ミカサ社製スピンコーターにて1200rpmで60秒回転させることで薄膜を作成した。
【0131】
次に得られた薄膜塗工ガラス基材をオーブン(ESPEC社製:パーフェクトオーブン
STPH−201)を用いて240℃で20分間加熱することで、シリカ多孔質コート基材を得た。
〔多孔質層の屈折率・膜厚算出〕
分光膜厚計(大塚電子社製FE−3000)により、ガラス基材(屈折率1.52)上に形成されたシリカ多孔質コート面の反射スペクトルを測定し、Cauthyモデルでフィッティングすることで、屈折率および膜厚を算出したところ、屈折率1.19、膜厚530nmであった。
【0132】
〔多孔質層の空隙率算出〕
上記で得られた屈折率および非多孔体(シリカ)の屈折率:1.46を用いて上記多孔質層の空隙率を算出したところ、63%であった。
〔多孔質コート基材の反射率差〕
上記で得られた反射スペクトルの400〜1000nmの範囲内にある、半値幅が10nm以上の極大、極小ピークの反射率の極大値、極小値についてそれぞれ平均を算出し、極大値の平均から極小値の平均の差をとることで得られた値を反射率差:ΔRとした。測定結果を表1に示す。なお、400〜1000nmの範囲内に半値幅が10nm以上の極大、極小ピークがそれぞれ一つ以上存在しない場合は、「×」と表記する。上記で得られたシリカ多孔質膜のΔRは3.9%であった。
【0133】
〔接着層のIRスペクトル〕
本発明に使用する接着剤のタイプの確認をするため、使用する接着剤が塗布された感圧接着シートの離形フィルムを剥がし、接着剤をGe製ATRプリズムの片面に貼り合わせたサンプルを用い、接着剤のIRスペクトルを下記条件で測定した。
測定条件
装置:FT−IR6100(日本分光社製)
測定手法:ATR法
入射角度:45°
検出器:TGS
積算回数:64回
〔接着シート〕
上記で得られたIRスペクトルは、日本接着学会誌、2000、vol.36、No.1、P19のFig.4のポリアクリル酸ブチルのスペクトルとほぼ一致している。このような手法により、この接着剤が、アクリル系で、ポリアクリル酸ブチルを主成分としていることを判別できる。
【0134】
〔積層体作製〕
上記のアクリル系感圧接着シート(接着層膜厚:25μm、20mm角)の片方の離形フィルムを剥がし、接着面を20mm角にカットした前記シリカ多孔質コート基材に、感圧接着シートの接着剤面の片面全体が多孔質コート面に接するように貼り合わせることで、積層体(反射率測定用)を得た。また、幅25mm×長さ55mmにカットした感圧接着シートの離型フィルムの一方の面を剥がし、それを幅25mm×長さ76mmにカットした前記シリカ多孔質コート基材に、感圧接着シートの短辺の一方と多孔質コート基材の短辺の一方が重なり、かつ感圧接着シートの接着剤面の片面全体が多孔質コート面に接するように貼り合わせることで、積層体Aを得た。その後、感圧接着シートの他方の面の剥離フィルムを剥がし、その接着剤面に、25mm幅×長さ200mmにカットした厚さ50μmのPETフィルム(両面易接着層)を、PETフィルムの短辺の一方が、積層体Aの感圧接着シートと接している側の短辺と重なり、かつ接着剤面全面がPETフィルム面と接するように貼り合わせることで、積層体(接着強度測定用)を得た。
【0135】
〔剥離強度測定〕
上記積層体(接着強度測定用)を引張試験機(ORIENTEC社製STA−1225)に取り付け、180°剥離試験を行った。180°剥離試験は、試験片のサイズを上記の通りにしたことおよび剥離速度を30mm/minとしたこと以外はJISK6854‐2に従って行い、伸びが、25〜50mmの間の引張強度の平均値を感圧接着シートの接着強度とした。粘着強度は、4.53N/25mmであった。
【0136】
〔環境試験〕
上記積層体をESPEC社製、小型環境試験器:SH−241に入れ、80℃、50%RHで10日間保管した。
【0137】
〔ピークシフト〕
分光膜厚計(大塚電子社製、FE−3000)を用いて、上記環境試験前後の積層体の基材の非多孔質コート面側から、基材−多孔質膜界面に焦点を合わせて、反射スペクトルを測定した。反射スペクトルからピークシフトを算出した。
図2に環境試験前後の反射スペクトルを示し、また表1に結果を示す。
図2中には、反射率が下がったピークが、400nmから500nmの間に1つ、600nmから700nmの間に1つのピークがあるが、このうち600nmから700nmの間のピークの方が反射率が低いので、600nmから700nmのピークが最小反射率ピークとなる。尚、環境試験前後で最小反射率ピークが異なる場合には、環境試験前の最小反射率ピークのシフト量を反射スペクトルのシフトの大きさと考える。このようにして得られた実施例1の反射スペクトルのシフトの値は+6nmであった。
【0138】
〔積層体の反射率差〕
分光膜厚計(大塚電子社製、FE−3000)を用いて、上記環境試験後の積層体の基材の非多孔質コート面側から、基材−多孔質膜界面に焦点を合わせて、反射スペクトルを測定した。測定結果を
図1に示す。
図1の反射スペクトルには、極大ピークが2ヵ所、極小ピークが2ヵ所存在する。極大ピークの反射率値すなわち極大反射率を波長値が小さい順にR
max,1、R
max,2、とし、それらの平均値を平均極大反射率:R
max,avとした(
図1の場合、R
max,av = (R
max,1 + R
max,2)/2)。同様に極小ピーク反射率値すなわち極小反射率を波長値が小さい順にR
min,1、R
min,2とし、それらの平均値を平均極大反射率:R
min,avとした(
図1の場合、R
min,av = (R
min,1 + R
min,2)/2)。R
max,avとR
min,avの差を反射率差:ΔRとした。
【0139】
得られたスペクトルの極大値および極小値からΔRを算出した。結果を表1に示す。なお、400〜1000nmの範囲内に半値幅が10nm以上の極大、極小ピークがそれぞれ一つ以上存在しない場合は、0%とすることとした。得られたスペクトルのΔRを算出したところ、3.6%であった。
【0140】
〔反射率差比〕
上記で得られた、環境試験後の積層体のΔRを多孔質コート基材のΔRで割ることで得られた値を積層体の反射率差比とする。結果を表1に示す。多孔質コート基材の最小・最大反射率差が、「×」であった場合は「×」と表記することとした。上記環境試験後の積層体の反射率差比を算出したところ、0.88であった。
【0141】
〔浸み込み判定〕
上記で得られた環境試験後の積層体の反射率比の値から、下記基準で浸み込み判定を行った。結果を表1に示す。上記環境試験後の積層体の浸み込み判定は「◎」であった。
◎:反射率比0.75以上
○:反射率比0.40以上0.75未満
△:反射率比0.20以上0.40未満
×:反射率比0.20未満または×
〔実施例2〕
剥離強度:4.77N/25mm、接着層膜厚:20μmの接着剤を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って積層体を製造し、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0142】
〔実施例3〕
剥離強度:11.46N/25mm、接着層膜厚:25μmを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って積層体を製造し、各評価を行った。結果を表1に示す。
〔実施例4〕
剥離強度が11.84N/25mm、接着層膜厚:20μmの接着剤を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って積層体を製造し、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0143】
〔実施例5〕
スピンコーターの回転速度を500rpmにしたこと、剥離強度が6.84N/25mm、接着層膜厚:52μmの接着剤を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って積層体を製造し、各評価を行った。結果を表1に示す。
実施例1−5に使用された接着剤は、いずれも粘着剤と呼ばれるものである
【0144】
〔比較例1〕
スピンコーターの回転速度を1500rpmとしたこと、剥離強度が15.31N/25mm、接着層膜厚:20μmの接着シートを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って積層体を製造し、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0146】
これらの結果から、本発明の積層体は、多孔質層内に、接着層からの接着剤の浸み込みが少なく、低い屈折率を維持したまま、接着層上に、他の部材を接着することができることがわかる。