(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6540264
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】水酸化マグネシウムスラリーの製造方法及び水酸化マグネシウムスラリー
(51)【国際特許分類】
C01F 5/16 20060101AFI20190628BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20190628BHJP
B01D 53/80 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
C01F5/16ZAB
B01D53/50 240
B01D53/80
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-123632(P2015-123632)
(22)【出願日】2015年6月19日
(65)【公開番号】特開2017-7886(P2017-7886A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴史
【審査官】
▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−206429(JP,A)
【文献】
特開平07−172822(JP,A)
【文献】
特開平06−191832(JP,A)
【文献】
特開平08−208224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 5/16
B01D 53/50
B01D 53/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10μm以下の軽焼酸化マグネシウムに水を加え、水和反応をさせて水酸化マグネシウムスラリーを製造する工程において、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を水に加え、次に全量の軽焼酸化マグネシウムを加えることを特徴とする水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
【請求項2】
軽焼酸化マグネシウムが、海水から得られた軽焼酸化マグネシウムを含む、請求項1に記載の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
【請求項3】
固形分換算で軽焼酸化マグネシウム100質量部に対して、固形分換算でナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を0.01〜0.4質量部添加する、請求項1又は2に記載の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
【請求項4】
軽焼酸化マグネシウムと水の合計量に対して、軽焼酸化マグネシウムの含有量が15〜45質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
【請求項5】
前記含有量となる軽焼酸化マグネシウムを、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩が添加された水に加える、請求項4に記載の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化マグネシウムスラリーの製造方法、及びその製造方法によって得られた排煙中の硫黄酸化物除去用の水酸化マグネシウムスラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
石油、紙パルプ産業、製鉄所等の化学プラントの排ガス処理や、中小型ボイラの排煙脱硫設備等においては、排ガス中の硫黄酸化物を除去する方法として、水酸化マグネシウムを含む吸収液(水酸化マグネシウムスラリー)により硫黄酸化物を吸収除去する水酸化マグネシウム法が知られている。水酸化マグネシウムスラリーは、市販のスラリーを使用する場合と、排煙脱硫設備が設置された工場内で軽焼酸化マグネシウムと水を混合し水和反応によって得られた水酸化マグネシウムスラリーを使用する場合がある。
【0003】
ここで用いられる軽焼酸化マグネシウムは、鉱山等から採取した天然のマグネサイトを焼成して製造された天然鉱物由来の軽焼酸化マグネシウムと、海水中の塩化マグネシウムを水酸化カルシウムと反応させて水酸化マグネシウムスラリーとし、これを焼成して製造された海水由来の軽焼酸化マグネシウムとが一般的に使用されている。天然鉱物由来の軽焼酸化マグネシウムと海水由来の軽焼酸化マグネシウムとを比較すると、粒子径や含有する不純物の濃度等が相違する。海水由来の軽焼酸化マグネシウムは、天然鉱物由来の軽焼酸化マグネシウムと比べて、粒子径が小さく、不純物濃度が少ない特徴がある。
【0004】
軽焼酸化マグネシウムと水との水和反応によって得られた水酸化マグネシウムスラリーは、水酸化マグネシウムが生成する際にゲル状となり硬化しやすいという特性がある。特に、軽焼酸化マグネシウムは、その平均粒子径が小さいと、ゲル状となり硬化しやすい。海水由来の軽焼酸化マグネシウムは、不純物が少なく、硫黄酸化物を吸収除去には適しているが、平均粒子径が小さいため、軽焼酸化マグネシウムと水との混合物において、軽焼酸化マグネシウムの配合割合が高くなると、ゲル化や硬化が生じやすく、排煙脱硫設備の移送ライン中の詰まりが生じ、清掃頻度が増加したり、撹拌装置が故障しやすくなる等の問題がある。
【0005】
軽焼酸化マグネシウムと水との水和反応によって得られる水酸化マグネシウムスラリーの硬化を抑制するために、例えば、スラリーを常時撹拌し、硬化を抑制する方法が挙げられる。その他に特許文献1には、水酸化マグネシウムを製造する工程において、アクリル酸系ポリマーを所定量、水に添加し、水酸化マグネシウムスラリーの粘度を低下し、凝集を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−172822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される水酸化マグネシウムの製造方法は、鉱山から採取された天然鉱物由来の軽焼酸化マグネシウムを使用しており、平均粒子径が45μm以下程度であり、アクリル酸系ポリマーの分散剤の添加によって、水酸化マグネシウムスラリーの粘度が低下する。
しかしながら、海水由来の軽焼酸化マグネシウムは、一般的に平均粒子径が小さく、比表面積が大きいため、水と反応しやすく、アクリル酸系ポリマーの分散剤では、水酸化マグネシウムスラリーのゲル化や硬化の抑制が十分ではない。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、平均粒子径が10μm以下と比較的小さい軽焼酸化マグネシウムを原料とする場合であっても、軽焼酸化マグネシウムと水との水和反応によって得られる水酸化マグネシウムスラリーのゲル化や硬化を十分に抑制できる水酸化マグネシウムスラリーの製造方法、及びその製造方法によって得られる硫黄酸化物除去用の水酸化マグネシウムスラリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]を提供するものである。
[1]平均粒子径が10μm以下である軽焼酸化マグネシウムに水を加え、水和反応をさせて水酸化マグネシウムスラリーを製造する工程において、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を添加することを特徴とする水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
[2]軽焼酸化マグネシウムが、海水から得られた軽焼酸化マグネシウムを含む、[1]に記載の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
[3]固形分換算で軽焼酸化マグネシウム100質量部に対して、固形分換算でナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を0.01〜0.4質量部添加する、[1]又は[2]に記載の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
[4]ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を水に加え、次に軽焼酸化マグネシウムを加える、[1]〜[3]のいずれかに記載の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
[5]軽焼酸化マグネシウムと水の合計量に対して、軽焼酸化マグネシウムの含有量が15〜45質量%である、[1]〜[4]のいずれかに記載の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の水酸化マグネシウムの製造方法によって得られる、排煙中の硫黄酸化物除去用の水酸化マグネシウムスラリー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、得られる水酸化マグネシウムスラリーのゲル化や硬化が抑制されているため、排煙脱硫設備において移送ラインの詰まりを防止し、清掃頻度を低減することができる。また、本発明によって得られた水酸化マグネシウムスラリーは、ゲル化や硬化が抑制されているため、排煙脱硫設備において、水酸化マグネシウムスラリー反応槽に設けられた撹拌器の故障を防止することができる。本発明の製造方法によれば、平均粒子径が10μm以下の軽焼酸化マグネシウムを原料として用いた場合であっても、得られる水酸化マグネシウムスラリーのゲル化又は硬化が十分に抑制されるため、一般的に平均粒子径が小さく、不純物が少ない、海水由来の軽焼酸化マグネシウムを用いることができ、得られた水酸化マグネシウムスラリーは、排煙中の硫黄酸化物除去の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[水酸化マグネシウムの製造方法]
本発明は、軽焼酸化マグネシウムに水を加え、水和反応によって水酸化マグネシウムスラリーを製造する工程において、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を添加することを特徴とする水酸化マグネシウムスラリーの製造方法である。
【0012】
〔軽焼酸化マグネシウム〕
軽焼酸化マグネシウムは、海水中の塩化マグネシウムを水酸化カルシウムと反応させて水酸化マグネシウムスラリーとし、これを焼成して製造された海水由来の軽焼酸化マグネシウムを含むことが好ましい。海水由来の軽焼酸化マグネシウムは、不純物が少ないため、排煙中の硫黄酸化物の吸収力が高く、排煙硫黄酸化物除去の用途に適しているためである。また、近年、国内や海外資源の枯渇が問題となっているが、鉱物由来のマグネサイトが使用できなくなった場合であっても、海水から採取した軽焼酸化マグネシウムを排煙中の硫黄酸化物除去に使用することができ、有用である。
【0013】
軽焼酸化マグネシウムの平均粒子径は、10μm以下、好ましくは1〜10μm、より好ましくは3〜9μm、さらに好ましくは5〜8μmである。軽焼酸化マグネシウムの平均粒子径が10μmを超えると、得られるスラリー中の水酸化マグネシウムの比表面積が小さくなり、排煙中の硫黄酸化物の吸着性が劣る場合がある。また、軽焼酸化マグネシウムから水酸化マグネシウムへの水和率が劣る場合がある。
本明細書において、平均粒子径とは、レーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における粒子個数の積算値が50%となる粒子径(d50)を意味し、島津製作所株式会社製の商品名SALD-2100等の測定装置により測定できる。
【0014】
軽焼酸化マグネシウムの平均粒子径が比較的に小さく、軽焼酸化マグネシウムの配合割合が高い場合に、生成された水酸化マグネシウムスラリー中にゲル化や硬化が生じやすいのは、比表面積の増大によって水との水和反応が進行し、反応速度が大きくなるために、酸化マグネシウムから水酸化マグネシウムが生成された場合にゲル化による粒子同士の結合が大きくなり、自由水が粒子と粒子の間に閉じ込められてゲル化や硬化が生じると推測される。天然鉱物由来の軽焼酸化マグネシウムを原料として用いた場合は、一般的に平均粒子径が10μmを超える大きさであるため、アクリル酸系ポリマーによって、軽焼酸化マグネシウムと水との分散性が向上し、粘度が低下し、生成された水酸化マグネシウムの凝集を抑制していた。しかしながら、軽焼酸化マグネシウムの平均粒子径が10μm以下と小さい場合には、アクリル酸系ポリマーが添加されている場合であっても、軽焼酸化マグネシウムと水との水和反応の速度が大きく、水和反応によって生成された水酸化マグネシウム同士の結合が強くなるため、自由水が粒子と粒子の間に閉じ込められ、ゲル化や硬化を抑制することができないと考えられる。本発明は、平均粒子径が10μm以下と小さい軽焼酸化マグネシウムを原料として用いた場合であっても、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の作用により、軽焼酸化マグネシウムと水との水和反応によって生じる水酸化マグネシウム同士の結合を抑制し、水酸化マグネシウムスラリーのゲル化や硬化を抑制することができる。
【0015】
軽焼酸化マグネシウムは、軽焼酸化マグネシウム中、MgOが80〜99質量%、CaOが0〜5質量%、SiO
2が0〜5質量%、Fe
2O
3が0〜1質量%であることが好ましい。軽焼酸化マグネシウム中、MgOが85〜99質量%、CaOが0〜3質量%、SiO
2が0〜3質量%、Fe
2O
3が0〜0.5質量%であることがより好ましい。軽焼酸化マグネシウム中、MgOが90〜99質量%、CaOが0〜2.5質量%、SiO
2が0〜2質量%、Fe
2O
3が0〜0.4質量%であることがさらに好ましい。軽焼酸化マグネシウム中のMgO、CaO、SiO
2、Fe
2O
3の各含有量は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(株式会社PHILIPS、PW1404)を用い、FP法(Fundamental Parameter法)によって測定することができる。
軽焼酸化マグネシウム中、MgO、CaO、SiO
2、Fe
2O
3の各含有量が上記の範囲内であると、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の添加によって、軽焼酸化マグネシウムの平均粒子径が10μm以下と小さく、軽焼酸化マグネシウムと水との水和反応の速度が大きい場合であっても、スラリー中の水酸化マグネシウムの分散性が良好となり、ゲル化や硬化が抑制された水酸化マグネシウムスラリーを得ることができる。
【0016】
軽焼酸化マグネシウムと水との合計量に対して、軽焼酸化マグネシウムの含有量は、好ましくは15〜45質量%であり、より好ましくは20〜40質量%であり、さらに好ましくは22〜32質量%である。軽焼酸化マグネシウムの含有量が上記範囲となる場合、軽焼酸化マグネシウムは、海水から得られた軽焼酸化マグネシウムであることが好ましく、軽焼酸化マグネシウムのMgO含有量は80〜99質量%であることが好ましい。軽焼酸化マグネシウムの含有量が上記範囲であると、ゲル化又は硬化が抑制され、排煙中の硫黄酸化物を十分に吸着することが可能な量の水酸化マグネシウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを得ることができる。
【0017】
〔ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩〕
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、下記一般式(I)の構造を有するものが挙げられる。
【0019】
〔式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、nは縮合度であり1以上の数、Mは対イオンを示す。尚、一般式(I)の両末端は水素原子である。〕
【0020】
一般式(I)中の対イオンは、特に限定されないが、アルカリ金属(ナトリウムカチオン及びカリウムカチオン等)、アンモニウム及び第4級アンモニウム(テトラアルキルアンモニウム等)が挙げられる。また、上記式(I)中、nは、縮合度であり、具体的には、1以上重量平均分子量の上限値から算出される数値以下である。
【0021】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定で得られる重量平均分子量が、好ましくは700〜30,000、より好ましくは700〜27000、さらに好ましくは700〜25000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリアクリル酸ナトリウム換算する方法にて測定できる。
【0022】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の製造方法としては、例えば、ナフタレンスルホン酸もしくはその塩又は炭素数1〜4のアルキル基を有するナフタレンスルホン酸もしくはその塩1モルに対してホルムアルデヒド0.6〜0.79モルを85〜95℃で4〜5時間で滴下し、100〜110℃で4〜30時間反応させ、その後、中和して、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を製造することができる。
【0023】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の添加量は、固形分換算で軽焼酸化マグネシウム100質量部に対して、好ましくは固形分換算で0.01〜0.4質量部、より好ましくは固形分換算で0.03〜0.3質量部、さらに好ましくは固形分換算で0.05〜0.2質量部、特に好ましくは固形分換算で0.05〜0.15質量部である。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の添加量が0.01〜0.4質量部であると、水酸化マグネシウムスラリーのゲル化や硬化を十分に抑制することができる。
【0024】
本発明の水酸化マグネシウムスラリーの製造方法は、水に、予めナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を所定量加え、次に軽焼酸化マグネシウムを加えることが好ましい。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を予め水に添加し、次いで軽焼酸化マグネシウムを加えることによって、水中で軽焼酸化マグネシウムを均一に分散させることができ、軽焼酸化マグネシウムと水との水和反応が一部で加速して、生成された水酸化マグネシウムの粒子と粒子の間に自由水を閉じこめてゲル化が生じたり、一部が硬化したりすることを抑制することができる。
【0025】
〔水酸化マグネシウムスラリー〕
本発明の製造方法によって得られる水酸化マグネシウムスラリーは、平均粒子径が比較的小さい軽焼酸化マグネシウムを原料とする場合であっても、ゲル化や硬化が抑制されているため、一般的に平均粒子径が小さく、不純物が少ない、海水由来の軽焼酸化マグネシウムを用いることができる。
また、本発明の製造方法によって得られる水酸化マグネシウムスラリーは、ゲル化や硬化が抑制されているため、排煙脱硫設備が設置された工場内で、水酸化マグネシウムスラリーを生成する場合に適している。本発明の製造方法によって得られた水酸化マグネシウムスラリーは、ゲル化や硬化が抑制されているため、排煙脱硫設備において移送ラインの詰まりを防止し、清掃頻度を低減することができる。排煙脱硫設備における移送ラインとしては、軽焼酸化マグネシウムの反応槽と水酸化マグネシウムスラリーを貯留する貯留槽との移送ライン、貯留槽から酸化反応槽や脱硫等に移送する移送ライン等が挙げられる。また、本発明の製造方法によって得られた水酸化マグネシウムスラリーによれば、ゲル化や硬化が抑制されているため、排煙脱硫設備において、水酸化マグネシウムスラリー反応槽に設けられた撹拌器の故障を防止することができる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0027】
〔軽焼酸化マグネシウム〕
軽焼酸化マグネシウム1:海水由来の軽焼酸化マグネシウム20質量%と、天然鉱物由来の軽焼酸化マグネシウム80質量%との混合品。
【0028】
試験に用いた軽焼酸化マグネシウムの化学成分の含有量は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(株式会社PHILIPS、PW1404)を用い、FP法(Fundamental Parameter法)によって測定した。 また、島津製作所株式会社製の商品名SALD-7000により、レーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における粒子個数の積算値が50%となる粒子径(d50)を平均粒子径として求めた。
【0029】
【表1】
【0030】
〔添加剤〕
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、重量平均分子量1000
ポリアクリル酸ナトリウム、重量平均分子量5000
ポリアクリル酸ナトリウム、重量平均分子量6000
各添加剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸ナトリウム換算する方法にて測定した。
【0031】
(実施例1)
工業用水350gに、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物を添加して撹拌した。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は、次に添加する軽焼酸化マグネシウムの固形分換算100質量部に対して、固形分換算で0.1質量部となるように添加した。次に、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物を含有する工業用水に、撹拌しながら、軽焼酸化マグネシウム1(平均粒子径7μm)を150g添加した。軽焼酸化マグネシウムと工業用水の合計量に対して、軽焼酸化マグネシウムの含有量は30質量%であった。工業用水、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、軽焼酸化マグネシウムの混合物を、90℃で、マグネチックスターラー(回転速度350rpm)で撹拌しつつ、2時間反応させた。軽焼酸化マグネシウムと水との発熱反応により、反応温度は90℃を超えた。2時間経過後に、マグネチックスターラーが回転し続けている場合を回転有りとし、回転が止まっている場合は回転無しとして「有」、「無」を評価した。また、反応2時間経過後の状態を目視で外観観察した。結果を表2に示す。表2中、軽焼酸化マグネシウムの数値及び添加剤の数値は、「質量部」である。
【0032】
(比較例1)
添加剤を含有しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、試験を行った。結果を表2に示す。
【0033】
(比較例2〜3)
添加剤として、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の代わりに、ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量5000)又はポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量6000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験を行った。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
結果の考察
実施例1及び比較例1〜3の結果から、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を添加して得られた水酸化マグネシウムスラリーは、ゲル化や硬化が十分に抑制されることが確認できた。本発明によって得られた水酸化マグネシウムスラリーは、ゲル化や硬化が抑制されているため、排煙脱硫設備において移送ラインの詰まりを防止し、清掃頻度を低減することができる。また、本発明によって得られた水酸化マグネシウムスラリーによれば、ゲル化や硬化が抑制されているため、排煙脱硫設備において、水酸化マグネシウムスラリー反応槽に設けられた撹拌器の故障を防止することができる。このように本発明によって得られた水酸化マグネシウムスラリーは、排煙中の硫黄酸化物除去の用途に好適に用いることができる。