特許第6540422号(P6540422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6540422
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】複合酸化物触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20190628BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20190628BHJP
   C07C 27/00 20060101ALI20190628BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20190628BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20190628BHJP
   C07C 51/25 20060101ALI20190628BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20190628BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190628BHJP
【FI】
   B01J23/887 Z
   B01J35/10 301G
   C07C27/00 330
   C07C45/35
   C07C47/22 A
   C07C51/25
   C07C57/05
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-186828(P2015-186828)
(22)【出願日】2015年9月24日
(65)【公開番号】特開2017-60909(P2017-60909A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2018年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】崔 永樹
(72)【発明者】
【氏名】嘉糠 成康
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第1093021(CN,A)
【文献】 特開2003−220334(JP,A)
【文献】 特開2005−186064(JP,A)
【文献】 特開平03−109946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07C 1/00−409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンを酸素含有ガスにより気相接触酸化して対応する不飽和アルデヒド及び不飽
和カルボン酸を製造する際に用いる、モリブデン、ビスマス及びケイ素を含有する複合酸
化物触媒であり、
該複合酸化物触媒中、モリブデン原子12に対するビスマスの原子比が0.8〜2.2
であり、モリブデン原子12に対するケイ素の原子比が11〜20であり、該複合酸化物
触媒の比表面積(m/g)が5m/g〜25m/gであり、該複合酸化物触媒の全
細孔容積(ml/g)が0.15ml/g〜0.50mg/lであり、該複合酸化物触媒
の比表面積(m/g)を該複合酸化物触媒の全細孔容積(ml/g)で除した値が40
〜70の範囲であり、該複合酸化物触媒が下記組成式(1)であり、該複合酸化物触媒中
、鉄に対するビスマスの原子比(Bi/Fe)が0.8〜3.2であり、且つ複合酸化物
触媒中、コバルトとニッケルの合計に対する鉄の原子比(Fe/(Co+Ni))が0.
08〜0.13である複合酸化物触媒。
MoBiCoNiFeSi (1)
(式中、Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(C
s)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホ
ウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる
少なくとも1種の元素である。また、a〜jはそれぞれの元素の原子比を表わし、a=1
2、b=0.8〜2.2、c=0.1〜10、d=0.1〜10、e=0.05〜5、f
=0〜2、g=0〜3、h=11〜20の範囲にあり、またiは他の元素の酸化状態を満
足させる数値である。)
【請求項2】
プロピレンと酸素含有ガスを含む原料混合ガスを請求項1に記載の複合酸化物触媒を用
いて気相接触酸化するアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記プロピレンの空間速度が120h−1〜320h−1の範囲である請求項に記載
のアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記原料混合ガス中のプロピレン含有量が7体積%〜12体積%の範囲である請求項
又はに記載のアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物触媒に関する。詳しくは、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いる複合酸化物触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレン等を酸素含有ガスと気相接触酸化反応によりアクロレイン及びアクリル酸を製造するために用いる触媒、また、イソブチレン又はターシャリーブタノール等を酸素含有ガスと気相接触酸化反応することによりメタクロレイン及びメタクリル酸を製造するために用いる触媒については種々提案されている。
このようなプロピレン等の気相接触酸化反応のための触媒に関して、アクロレイン及びアクリル酸の収率や寿命等の触媒性能の改善を目的としてモリブデン−ビスマス系酸化物触媒を中心に各社で検討がなされ様々な提案がされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分として含有し、特定の色相を有する酸化物触媒が開示されている。特許文献2には、少なくともモリブデン、ビスマスを含有し、特定の細孔径分布を有する複合酸化物触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−214217号公報
【特許文献2】特開2003−220334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従前知られた複合酸化物触媒によるオレフィンの気相接触酸化反応では、とりわけ高負荷条件においては反応効率が十分ではなく、所望の酸化生成物を高収率で得るために、高温で気相接触酸化反応を行うか、又は、反応時間を延長するために触媒層の体積を大きくする等の方策をとる必要がある。しかしながら、該方策では所望の酸化生成物を得る気相接触酸化反応以外の副反応が生じる場合があり、転化率の低下や、選択率の低下を引き起こし、結果として収率が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、オレフィンを原料として酸素含有ガスとの気相接触酸化反応により対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いる複合酸化物触媒として、原料が複合酸化物触媒と接触する時間が短い高負荷の条件下でも原料の転化率に優れ、且つ所望とする不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率を高く維持し、収率の向上が可能となる複合酸化物触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、オレフィンを酸素含有ガスにより気相接触酸化して対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いる、モリブデン、ビスマス及びケイ素を含有する複合酸化物触媒であり、該複合酸化物触媒中、モリブデンに対するビスマスの原子比が特定範囲であり、モリブデンに対するケイ素の原子比が特定範囲であり、該複合酸化物触媒の比表面積(m/g)を該複合酸化物触媒の全細孔容積(ml/g)で除した値が特定範囲である複合酸化物触媒をプロピレンの気相接触酸化反応に使用した場合、酸化反応時間が短い条件下でも原料の転化率に優れ、生成する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率を高く維持することがで
き、収率の向上が可能となることを見いだし、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下である。
[1] オレフィンを酸素含有ガスにより気相接触酸化して対応する不飽和アルデヒド及
び不飽和カルボン酸を製造する際に用いる、モリブデン、ビスマス及びケイ素を含有する
複合酸化物触媒であり、
該複合酸化物触媒中、モリブデン原子12に対するビスマスの原子比が0.8〜2.2
であり、モリブデン原子12に対するケイ素の原子比が11〜20であり、該複合酸化物
触媒の比表面積(m/g)が5m/g〜25m/gであり、該複合酸化物触媒の全
細孔容積(ml/g)が0.15ml/g〜0.50mg/lであり、該複合酸化物触媒
の比表面積(m/g)を該複合酸化物触媒の全細孔容積(ml/g)で除した値が40
〜70の範囲であり、該複合酸化物触媒が下記組成式(1)であり、該複合酸化物触媒中
、鉄に対するビスマスの原子比(Bi/Fe)が0.8〜3.2であり、且つ複合酸化物
触媒中、コバルトとニッケルの合計に対する鉄の原子比(Fe/(Co+Ni))が0.
08〜0.13である複合酸化物触媒。
MoBiCoNiFeSi (1)
(式中、Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(C
s)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホ
ウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる
少なくとも1種の元素である。また、a〜jはそれぞれの元素の原子比を表わし、a=1
2、b=0.8〜2.2、c=0.1〜10、d=0.1〜10、e=0.05〜5、f
=0〜2、g=0〜3、h=11〜20の範囲にあり、またiは他の元素の酸化状態を満
足させる数値である。)
【0010】
] プロピレンと酸素含有ガスを含む原料混合ガスを[記載の複合酸化物触媒
を用いて気相接触酸化するアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。
] 前記プロピレンの空間速度が120h−1〜320h−1の範囲である[]に
記載のアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。
] 前記原料混合ガス中のプロピレン含有量が7体積%〜12体積%の範囲である[
]又は[]に記載のアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複合酸化物触媒中のシリカ担体上にモリブデン、ビスマスの各成分元素の分散性向上による活性種形成が促進されると共に、Fe、Co、Niの最適原子比により、触媒活性が著しく向上し、とりわけ、プロピレンの負荷が高い反応条件、すなわち、プロピレンの空間速度が高い条件で気相接触酸化反応を行っても、プロピレンの転化率に優れ、高選択率でアクロレイン及びアクリル酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。
尚、モリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)、ケイ素(Si)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、タリウム(Tl)、ホウ素(B)、リン(P)、ヒ素(As)、タングステン(W)の各元素は、それぞれカッコ内の元素記号を用いて表記した。
【0013】
本発明の複合酸化物触媒(以下「触媒」と称する場合がある。)はモリブデン、ビスマス及びケイ素を含有し、該複合酸化物触媒中、モリブデン原子12に対するビスマスの原子比が0.8〜2.2である。
該モリブデン原子12に対するビスマスの原子比は0.8〜2.0が好ましく、0.8〜1.9がより好ましく、0.8〜1.8がさらに好ましい。該モリブデン原子12に対するビスマスの原子比が小さすぎると特にプロピレン負荷が高い条件で、プロピレンの転化率、アクリレイン及びアクリル酸の選択率が低下する場合がある。該モリブデン原子12に対するビスマスの原子比が大きすぎると、特にプロピレンの負荷が高い条件で、触媒活性が低下し、所定の転化率とならず、所定の転化率まで上げるためには、過度に反応温度を上昇させる必要が生じ、選択率が低下する場合がある。
【0014】
本発明の複合酸化物触媒は該複合酸化物触媒中、モリブデン原子12に対するケイ素の原子比が11〜20である。
該モリブデン原子12に対するケイ素の原子比は11〜19が好ましく、11〜18がより好ましい。該モリブデン原子12に対するケイ素の原子比が小さすぎると特にプロピレン負荷が高い条件で、気相接触酸化反応により発生する熱の除去が困難となり、時間の経過とともにアクロレイン及びアクリル酸の選択率が低下する場合がある。該モリブデン原子12に対するケイ素の原子比が大きすぎると、特にプロピレンの負荷が高い条件で、触媒活性が低下し、所定の転化率とならず、所定の転化率まで上げるためには、過度に反応温度を上昇させる必要が生じ、選択率が低下する場合がある。
【0015】
本発明の複合酸化物触媒は、更に、該複合酸化物触媒の比表面積(m/g)を該複合酸化物触媒の全細孔容積(ml/g)で除した値が40〜70の範囲である。
該複合酸化物触媒の比表面積(m/g)を該複合酸化物触媒の全細孔容積(ml/g)で除した値(以下「比表面積/全細孔容積」と称する場合がある。)は40〜65が好ましく、40〜60がより好ましく、40〜55がさらに好ましい。比表面積/全細孔容積が小さすぎると触媒活性が低下する場合がある。比表面積/全細孔容積が大きすぎると触媒活性は向上する傾向であるが、選択率が低下する場合がある。
尚、該複合酸化物触媒の比表面積は窒素吸着によるBET法により測定することでき、単
位はm/gで表示された値である。該複合酸化物触媒の全細孔容積は水銀圧入法により測定することができ、単位はml/gで表示された値である。
【0016】
前記複合酸化物触媒は下記組成式(1)で表されることが好ましい。
MoBiCoNiFeSi (1)
(式中、Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。また、a〜jはそれぞれの元素の原子比を表わし、a=12、b=0.8〜2.2、c=0.1〜10、d=0.1〜10、e=0.05〜5、f=0〜2、g=0〜3、h=11〜20の範囲にあり、またiは他の元素の酸化状態を満足させる数値である。)
上記組成式(1)の複合酸化物触媒とすることで、より高収率でアクロレイン及びアクリル酸を製造することができる。
【0017】
複合酸化物触媒は、該複合酸化物触媒を構成する各成分元素の供給源化合物を水系内で一体化して加熱する工程を経て製造する方法が好ましい。例えば、モリブデン化合物、シリカ、更に鉄化合物、ニッケル化合物及びコバルト化合物等を含む原料化合物水溶液、又は該原料化合物水溶液を更に乾燥して得た乾燥物を加熱処理して触媒前駆体を製造する前工程と、該触媒前駆体、モリブデン化合物及びビスマス化合物等を水性溶媒とともに一体
化し、乾燥、焼成する後工程とを有し、製造する方法で製造されたものが好ましい。
【0018】
本発明の複合酸化物触媒の製造にあたり、モリブデン(Mo)の供給源化合物としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸等が挙げられる。
ビスマス(Bi)の供給源化合物としては、塩化ビスマス、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス等が挙げられ、ビスマス添加量は、前記組成式(1)において、a=12、b=0.8〜2.2となるように添加することが好ましく、より好ましくはb=0.8〜2.0、さらに好ましくはb=0.8〜1.9、特に好ましくはb=0.8〜1.8となるように添加する。bが小さすぎると特にプロピレン負荷が高い条件で、プロピレンの転化率、アクリレイン及びアクリル酸の選択率が低下する場合がある。bが大きすぎると、特にプロピレンの負荷が高い条件で、触媒活性が低下し、所定の転化率とならず、所定の転化率まで上げるためには、過度に反応温度を上昇させる必要が生じ、選択率が低下する場合がある。
【0019】
コバルト(Co)の供給源化合物としては、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト等が挙げられ、コバルト添加量は、前記組成式(1)において、a=12、c=0.1〜10となるように添加することが好ましく、より好ましくはc=0.5〜8.0、更に好ましくはc=1.0〜5.0となるように添加する。
【0020】
ニッケル(Ni)の供給源化合物としては、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられ、ニッケル添加量は、前記組成式(1)において、a=12、d=0.1〜10なるように添加することが好ましく、より好ましくはd=0.5〜8、更に好ましくはd=1〜5となるように添加する。
鉄(Fe)の供給源化合物としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、酢酸第二鉄等が挙げられ、鉄添加量は、前記組成式(1)において、a=12、e=0.05〜5となるように添加することが好ましく、より好ましくはe=0.1〜4、更に好ましくはe=0.3〜2となるように添加する。
【0021】
ケイ素(Si)の供給源化合物としては、シリカ、粒状シリカ、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等が挙げられるが、容易に触媒の比表面積、細孔容積、細孔容積の分布を制御できることから、熱分解シリカであるヒュームドシリカが好ましい。
【0022】
ケイ素の添加量は、前記組成式(1)において、a=12、h=11〜20となるように添加することが好ましく、より好ましくはh=11〜19、更に好ましくはh=11〜18となるように添加する。hが小さすぎると特にプロピレン負荷が高い条件で、気相接触酸化反応により発生する熱の除去が困難となり、時間の経過とともにアクロレイン及びアクリル酸の選択率が低下する場合がある。hが大きすぎると、特にプロピレンの負荷が高い条件で、触媒活性が低下し、所定の転化率とならず、所定の転化率まで上げるためには、過度に反応温度を上昇させる必要が生じ、選択率が低下する場合がある。
【0023】
Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びセシウム(Cs)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、ナトリウム(Na)及び/又はカリウム(K)であることが更に好ましい。Xを含むことで、目的生成物の選択性が向上することが可能となる。
【0024】
Xの添加量は、前記組成式(1)において、a=12、f=0〜2となるように添加されることが好ましいが、より好ましくはf=0.1〜1.5、更に好ましくはf=0.2
〜1.2となるように添加する。fが小さすぎると、目的生成物の選択率が低下する傾向にあり、fが大きすぎると触媒の活性が低下する可能性がある。
Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、ホウ素(B)、リン(P)及び砒素(As)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、ホウ素(B)であることが更に好ましい。
【0025】
Yの添加量は、前記組成式(1)において、a=12、g=0〜3となるように添加されることが好ましいが、より好ましくはg=0.1〜2.0、更に好ましくはg=0.2〜1.0となるように添加する。
上記成分元素の供給源化合物としては、成分元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水素酸、アセチルアセテート、アルコキシド等が挙げられ、その具体例としては、下記のようなものが挙げられる。
【0026】
また、X成分(Na,K,Rb,Cs,Tlの1種又は2種以上)を固溶させた、ビスマス(Bi)とX成分との複合炭酸塩化合物として供給することもできる。X成分の供給量は、前記組成式(1)において、a=12、f=0〜2となるように供給される。
例えば、X成分としてナトリウム(Na)を用いた場合、ビスマス(Bi)とNaとを複合炭酸塩化合物は、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムの水溶液等に、硝酸ビスマス等の水溶性ビスマス化合物の水溶液を滴下混合し、得られた沈殿を水洗、乾燥することによって製造することができる。
【0027】
その他の成分元素の供給源化合物としては、下記のものが挙げられる。
カリウム(K)の供給源化合物としては、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。
ルビジウム(Rb)の供給源化合物としては、硝酸ルビジウム、硫酸ルビジウム、塩化ルビジウム、炭酸ルビジウム、酢酸ルビジウム等が挙げられる。
【0028】
タリウム(Tl)の供給源化合物としては、硝酸第一タリウム、塩化第一タリウム、炭酸タリウム、酢酸第一タリウム等が挙げられる。
ホウ素(B)の供給源化合物としては、ホウ砂、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸等が挙げられる。
リン(P)の供給源化合物としては、リンモリブデン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸、五酸化リン等が挙げられる。
【0029】
砒素(As)の供給源化合物としては、ジアルセノ十八モリブデン酸アンモニウム、ジアルセノ十八タングステン酸アンモニウム等が挙げられる。
タングステン(W)の供給源化合物としては、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、タングステン酸、リンタングステン酸等が挙げられる。
【0030】
本発明の複合酸化物触媒は該複合酸化物触媒中、鉄に対するビスマスの原子比(以下、「Bi/Fe」と称する場合がある。)が0.8〜3.2であることが好ましく、0.8〜3.0であることがより好ましく、0.8〜2.8であることがさらに好ましい。Bi/Feが前記範囲であることにより、触媒活性を高めることができ、比較的低い反応温度でも所定の転化率を得ることが可能となる。
【0031】
本発明の複合酸化物触媒は該複合酸化物触媒中、コバルトとニッケルの合計に対する鉄の原子比(以下、「Fe/(Co+Ni)」と称する場合がある。)が0.08〜0.1
5であることが好ましく、0.08〜0.14であることがより好ましく、0.08〜0.13であることがさらに好ましい。Fe/(Co+Ni)が前記範囲であることにより、触媒活性が向上し、プロピレンの負荷が高い反応条件、すなわち、プロピレンの空間速度が高い条件で気相接触酸化反応を行っても、転化率が高く、アクロレイン及びアクリル酸を高選択率で得ることが可能となる。
【0032】
本発明の複合酸化物触媒の比表面積は5m/g〜25m/gであることが好ましく、6m/g〜20m/gであることがより好ましく、7m/g〜18m/gであることがさらに好ましい。該比表面積が前記範囲であることにより触媒の活性を向上することが可能である。
【0033】
本発明の複合酸化物触媒の全細孔容積は0.15ml/g〜0.50ml/gであることが好ましく、0.15ml/g〜0.45ml/gであることがより好ましく、0.15ml/g〜0.35ml/gであることがさらに好ましい。該全細孔容積が前記範囲であることにより選択率を向上させることが可能である。
【0034】
以上のようにして、高い転化率条件で、かつ目的とする酸化生成物を高い収率で与える複合酸化物触媒が得られる。このようにして製造された複合酸化物触媒は、例えば、プロピレンからアクロレイン及びアクリル酸を製造する反応に使用される。プロピレンからアクロレイン及びアクリル酸を製造する気相接触酸化反応は、原料混合ガス組成として5容量%〜15容量%のプロピレン、5容量%〜18容量%の分子状酸素、0〜40容量%の水蒸気及び20容量%〜70容量%の不活性ガス、例えば窒素、炭酸ガスなどからなる混合ガスを前記のようにして製造した複合酸化物触媒上に300℃〜450℃の温度範囲及び常圧〜150kPaの圧力下、そして0.5秒〜4秒の接触時間で導入することによって遂行される。
【0035】
上記、原料混合ガス中のプロピレンの含有量は7体積%〜12体積%の範囲が好ましく、また、プロピレンの空間速度は120h−1〜320h−1の範囲が好ましく、140h−1〜300h−1の範囲がより好ましい。空間速度が低い条件、すなわち、プロピレンの負荷が低い条件では副生成物が多くなり、生成目的物の収率が低下する原因になる。又、空間速度が高い条件、すなわち、プロピレンの負荷が高い条件では転化率が98%より低くなって、原料であるプロピレンの未反応量が多くなり生産量が低下する可能性がある。工業的な観点からプロピレン転化率は98.5%以上になることが好ましい。
【0036】
尚、空間速度とは次式で示される値である。
・空間速度SV(h−1)=反応器に供給するオレフィンガスの体積流量(0℃、1気圧条件)/反応器に充填された複合金属酸化物触媒の体積(反応性の無い固形物は含まない)
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(1)触媒の細孔容積の測定
複合酸化物触媒の細孔容積は、ポロシメーター(水銀圧入法)により複合酸化物触媒単位重量あたりの細孔直径と細孔容積及びその分布を測定した。複合酸化物触媒をオートポアIV 9520 型(マイクロメトリックス社製)を用いて、減圧下(50μmHg以下)で10分間処理をした後、水銀圧入退出曲線を測定し、細孔分布を求めた。
【0039】
(2)触媒の比表面積の測定
複合酸化物触媒の比表面積は、窒素吸着によるBET1点法により触媒単位重量あたりの
表面積を測定した。複合酸化物触媒を250℃で15分間、窒素ガス送風状態で処理したサンプルを、測定装置:マックソーブHM Model-1201(株式会社マウンテック製)を用い
て、BET1 点法(吸着ガス:窒素)にて比表面積を測定した。
【0040】
(実施例1)
<複合酸化物触媒の調製>
容器に温水700mlを入れ、更にパラモリブデン酸アンモニウム111gを加えて溶解させ、溶液とした。次いで、該溶液にヒュームドシリカの水分散液262.8gを加えて、撹拌し、懸濁液とした(以下、「懸濁液A」と称する)。該ヒュームドシリカ水分散液は、ヒュームドシリカ5kgをイオン交換水22.5Lに加えてヒュームドシリカ懸濁液とした後に、該ヒュームドシリカ懸濁液を、ホモジナイザーであるULTRA-TURRAX T115KT
(IKA社製)により、30分間分散処理を行い、ヒュームドシリカ水分散液としたものであり、ケイ素の供給源化合物とした。
別の容器に純水190mlを入れ、更に硝酸第二鉄28.5g、硝酸コバルト86.8g及び硝酸ニッケル93.5gを加えて、加温して溶解させた(以下、「溶液B」と称する)。溶液Bを懸濁液Aに添加し、均一になるように攪拌し、加熱乾燥し、固形物を得た。次いで該固形物を空気雰囲気で300℃、1時間熱処理した。
更に、別の容器に純水80ml、アンモニア水10mlを入れ、パラモリブデン酸アンモニウム19.9gを加えて溶解し、「溶液C」とした。次いで、溶液Cにホウ砂0.6g及び硝酸カリウム0.5gを加えて溶解し、「溶液D」とした。前記熱処理した固形物117gを溶液Dに添加し、均一になるように混合した。次いでNaを0.53%固溶した次炭酸ビスマス10.2gを加えて30分間混合した後、水分を除去するため加熱乾燥し、乾燥品を得た。該乾燥品を粉砕し、得られた粉体を20kgf〜25kgfの圧力で円柱状に打錠成型し、成形品(外径:5mm、高さ3mm)とした。該成形品を空気雰囲気下、515℃で焼成を2時間行って複合酸化物触媒を得た。上記のように調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積等を表1に、複合酸化物触媒の原子比等を表2にまとめた。
【0041】
<プロピレンの気相接触酸化反応>
複合酸化物触媒を粉砕し、目開き2mmの篩により粗粒を除き、目開き1mmの篩により微粒を除いたものをプロピレンの気相接触酸化用の触媒として使用した。触媒12.4mlを内径7.05mmのU字型反応管内に充填し、触媒層を形成した。該反応管を内径90mmのステンレス鋼製ナイターバスに入れて加温を行った。プロピレン10%、スチーム10%、酸素17%、窒素63%の原料混合ガスを圧力70kPaで反応管内に導入し、触媒層との接触時間2.7秒にて通過させて、プロピレンの酸化反応を実施した。この時、プロピレンの空間速度は235h−1であった。結果を表3にまとめた。
【0042】
ここで、プロピレン転化率、アクロレイン選択率、アクリル酸選択率、アクロレイン収率、アクリル酸収率、合計収率の定義は、下記の通りである。
・プロピレン転化率(モル%)=(反応したプロピレンのモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
・アクロレイン選択率(モル%)=(生成したアクロレインのモル数/反応したプロピレンのモル数)×100
・アクリル酸選択率(モル%)=(生成したアクリル酸のモル数/反応したプロピレンのモル数)×100
・アクロレイン収率(モル%)=(生成したアクロレインのモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
・アクリル酸収率(モル%)=(生成したアクリル酸のモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
・合計収率(モル%)=アクロレイン収率(モル%)+アクリル酸収率(モル%)
【0043】
(実施例2)
各元素の組成以外は、実施例1と同様にして複合酸化物触媒を得た。調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積等を表1に、複合酸化物触媒の原子比等を表2にまとめた。該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でプロピレンの酸化反応を行い、その反応結果を表3にまとめた。
【0044】
(比較例1)
各元素の組成以外は、実施例1と同様にして複合酸化物触媒を得た。調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積等を表1に、複合酸化物触媒の原子比等を表2にまとめた。該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でプロピレンの酸化反応を行い、その反応結果を表3にまとめた。
【0045】
(比較例2)
各元素の組成以外は、実施例1と同様にして複合酸化物触媒を得た。調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積等を表1に、複合酸化物触媒の原子比等を表2にまとめた。該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でプロピレンの酸化反応を行い、その反応結果を表3にまとめた。
【0046】
(比較例3)
各元素の組成以外は、実施例1と同様にして複合酸化物触媒を得た。調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積等を表1に、複合酸化物触媒の原子比等を表2にまとめた。該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でプロピレンの酸化反応を行い、その反応結果を表3にまとめた。
【0047】
(比較例4)
各元素の組成以外は、実施例1と同様にして複合酸化物触媒を得た。調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積等を表1に、複合酸化物触媒の原子比等を表2にまとめた。該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でプロピレンの酸化反応を行い、その反応結果を表3にまとめた。
【0048】
(比較例5)
各元素の組成以外は、実施例1と同様にして複合酸化物触媒を得た。調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積等を表1に、複合酸化物触媒の原子比等を表2にまとめた。該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でプロピレンの酸化反応を行い、その反応結果を表3にまとめた。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
本発明の複合酸化物触媒は実施例において示されているように、高負荷条件でプロピレンの気相接触酸化反応に用いた場合、プロピレンの転化率に優れ、且つ所望とするアクロレイン及びアクリル酸の選択率を高く維持し、収率の向上が可能となっている。