【文献】
UMIN-CTR 臨床試験登録情報の閲覧,2014年 9月 7日,UMIN試験ID:UMIN000015081,神経線維腫症1型の治療法のない巨大なびまん性神経線維腫に対するラパマイシン外用薬の安全性と有効性探索のためのパイロット試験,URL,https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000017188
【文献】
吉田雄一,母斑症・遺伝性疾患最前線;診断,治療と対応 神経線維腫症1型(NF1)の診断と治療,日本皮膚科学会雑誌,2012年,Vol.122, No.13,p.3189-3191
【文献】
伊藤寿啓,神経線維腫症1にみられるびまん性神経線維腫内のメラニン含有細胞の由来に関する形態学的・免疫組織化学的,東京慈恵会医科大学雑誌,2002年,Vol.117, No.4,p.277-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
神経線維腫症は、生体の多くの器官(例えば、皮膚および神経など)に様々な異常を生じる病気である。
【0003】
神経線維腫症には、様々なタイプが存在し、その例として、神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)および神経線維腫症2型(NF2)を挙げることができる。神経線維腫症1型と神経線維腫症2型とは、原因が異なる別々の病気であって、例えば、神経線維腫症1型は、17番染色体のNF1遺伝子の異常によって発症する常染色体優性遺伝性疾患であることが明らかになっている。
【0004】
神経線維腫症1型と神経線維腫症2型とでは、生体に現れる症状も大きく異なる。例えば、神経線維腫症1型の症状としては、神経線維腫、カフェオレ斑、骨異常および視神経膠腫などを挙げることができ、神経線維腫症1型では、皮膚に重篤な症状が現れる。一方、神経線維腫症2型の症状としては、聴神経の腫瘍などを挙げることができ、神経線維腫症2型では、神経線維腫症1型と比較して、中枢神経の腫瘍として症状が現れることが多く、皮膚に症状が現れることが少ない。更に、神経線維腫症1型は、褐色細胞腫、GIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)または血管奇形などの様々な合併症を伴うことが多く、治療を困難なものにしている。
【0005】
特許文献1には、シロリムスおよびシロリムスの誘導体の少なくとも1つを含有する、ゲル組成物および軟膏組成物が開示されている。非特許文献1には、シロリムスを神経線維腫症1型の神経線維腫の治療に内服で用いることが開示されているが、治療効果は得られていない。
【0006】
神経線維腫症の症状の1つである神経線維腫には様々なタイプが存在し、各タイプは、それぞれ独自の性質を有した、医学的に区別される別々の症状である。例えば、皮膚の神経線維腫(cutaneous neurofibroma)、びまん性神経線維腫(diffuse plexiform neurofibroma)、神経の神経線維腫(nodular plexiform neurofibroma)、悪性末梢神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor; NPNST)を挙げることができる。
【0007】
びまん性神経線維腫は、神経線維腫を発症した患者の約10%にみられる線維腫である。びまん性神経線維腫が巨大な場合には、神経線維腫の表面は皺壁に富んで弛緩し、舌状に下垂するものもある。びまん性神経線維腫が下肢全体に及ぶような場合には、皮下から皮下脂肪組織、筋肉内にまで神経線維腫の浸潤がみられ、骨の肥大および延長もみられ、巨肢症の状態を呈することもある。びまん性神経線維腫は、部位により片側顔面肥大、眼瞼下垂、巨肢症などを認め、上眼瞼の腫瘤による視野の妨げ、鼻の変形など、顔面に生じた場合には、小型であっても問題になる場合が多い(
図1(a)〜(c)参照)。
【0008】
また、びまん性神経線維腫は、血管が豊富であり、組織は脆弱で、打撲により巨大な血腫を形成することがある。短時間で急激に巨大な血腫を形成することもあるが、数日にわたって徐々に増大することもある。一度出血すると、多数の小血管から出血するために、止血が困難であり、時に大量に出血してショックを起こしたり、死亡した症例もある。
【0009】
皮膚の神経線維腫は、特に好発部位はなく、全身に多発した症例では体幹を主として、無数に生じる。腫瘍は、表面が常色または淡紅色の軟らかな腫瘍であり、大きさや形状は、様々である。皮膚の神経線維腫には、半球状に隆起するものもある。皮膚の神経線維腫の数は症例によって著しく異なり、数十個認められる症例から、無数認められる症例もある。
【0010】
神経の神経線維腫は、末梢神経の神経周膜から発生する神経線維腫であって、全身のどこにでも出現する。例えば、脳の周囲、脊椎の周囲、骨盤腔内、または、皮下など、種々な場所に出現する。神経の神経線維腫は、皮膚の浅いところに出現する場合には、神経の走行に沿って、皮下に比較的境界明瞭で紡錘形に弾性硬に触れる腫瘍として出現する。これらの神経の神経線維腫が、連なって数珠状になったり、一塊となって大きな腫瘤を形成する場合もある。
【0011】
びまん性神経線維腫は、軽微な外傷にて大量の出血をおこしたり、悪性腫瘍(例えば、グリオブラストーマ、および、MPNST(Malignant Peripheral Nerve Sheath Tumor)など)の発生母地となる。それ故に、びまん性神経線維腫の有効な治療薬や治療方法の開発が急がれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
神経線維腫はタイプ毎に様々な性質を有しているので、治療を行う場合には、各神経線維腫に適した治療薬や治療方法を選択する必要がある。
【0015】
神経線維腫が小さい場合や、神経線維腫と正常組織との境界が比較的鮮明である場合には、神経線維腫を手術により切除することが可能である。しかしながら、びまん性神経線維腫は、血管が豊富であり、かつ、浸潤性が高いために、腫瘍と正常組織との境界が不明瞭であり、かつ、腫瘍と血管または神経とが複雑に絡み合っている。それ故に、びまん性神経線維腫は、手術にて治療することが困難であるという問題を有している。特に、びまん性神経線維腫が巨大化すると、腫瘍が重く体の移動さえ困難となる。下肢に巨大な腫瘍を有する場合においては、足の切断を余儀なくされる場合がある。巨大化したびまん性神経線維腫については、現時点で有効な治療薬や治療方法は確立されていない。
【0016】
また、びまん性神経線維腫は、放射線療法が有効に機能しないという問題を有している。
【0017】
びまん性神経線維腫を内服薬によって治療しようとする試みはなされているが、有意な治療効果が確認されている内服薬の報告はない。
【0018】
また、以下の(i)および(ii)の先入観により、外用薬によりびまん性神経線維腫を治療しようという試みはなされていない。
(i)外用薬では、特にシロリムスのような分子量の大きい物質の場合は、びまん性神経線維腫の患部(換言すれば、肥厚した皮膚組織)への有効成分の送達効率が低い;
(ii)巨大な線維腫を外用薬で治療する方法は有効ではなく、内服薬こそが有効な治療方法である。
【0019】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、びまん性神経線維腫を治療することができる外用薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、びまん性神経線維腫にシロリムスまたはシロリムス誘導体を含有する外用薬を塗布することにより、びまん性神経線維腫を治療できることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、シロリムスおよびシロリムス誘導体について、以下の(a)〜(d)を見出し、本発明を完成させるに至った。
(a)経口薬の場合、有効成分の血中濃度は上昇するが、皮膚組織(換言すれば、びまん性神経線維腫の患部)中の有効成分の濃度は、治療有効濃度までには達し難いこと;
(b)経口薬によって皮膚組織中の有効成分の濃度を治療有効濃度まで上げようとすれば、患者に対して多量の経口薬を投与する必要が生じ、この場合には、全身性の副作用が生じる危険性が高まること;
(c)外用薬の場合、皮膚組織中(局所)での有効成分の濃度は治療有効濃度までに上がる一方で、血液中への有効成分の移行は行われ難いこと;
(d)アルコールを含有する外用薬にすることによって、外用薬に含まれる有効成分を、更に効率よく皮膚組織に吸収させ得ること。
【0021】
本発明のびまん性神経線維腫用の外用薬は、上記課題を解決するために、有効成分として、シロリムスおよびシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つを含有していることを特徴としている。
【0022】
本発明のびまん性神経線維腫用の外用薬は、ゲル剤であることが好ましい。
【0023】
本発明のびまん性神経線維腫用の外用薬は、エタノールを含有していることが好ましい。
【0024】
本発明のびまん性神経線維腫用の外用薬は、上記エタノールを、20〜60重量%含有していることが好ましい。
【0025】
本発明のびまん性神経線維腫用の外用薬は、上記有効成分を、0.2〜0.8重量%含有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の外用薬は、有効な治療薬や治療方法が確立されていない、びまん性神経線維腫を治療することができる。特に、手術が不可能な巨大化したびまん性神経線維腫を縮小させ、患者のQOLを著しく改善する。また、打撲などによる血腫形成や大量出血を防ぐことができる。早期に治療を開始することにより、腫瘍の巨大化を抑制できる。
【0027】
本発明の外用薬は、吸収率が高く、有効成分を効率良く、患部である皮膚組織や筋肉組織に到達させることができる。
【0028】
本発明の外用薬は、皮膚組織や筋肉組織などの局所での有効成分の濃度を高く保持できるが、吸収された有効成分の血液移行量は少ない。よって、全身性の副作用が生じる危険性が低く安全な製剤である。
【0029】
本発明の外用薬は、全身投与と異なり、限られた病変部位にのみ外用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0032】
本実施の形態の外用薬は、びまん性神経線維腫を処置および/または治療するための外用薬であって、シロリムスおよびシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分を含有している。
【0033】
シロリムス(別名:ラパマイシン)やシロリムス誘導体は、既に、他の病気の治療にも用いられており、臨床における安全性が確認されている。それ故に、これらを用いれば、より安全性の高い、びまん性神経線維腫用の外用薬を実現することができる。
【0034】
上記シロリムス誘導体としては、特に限定されないが、例えば、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、およびゾタロリムスを挙げることができる。これらは、シロリムスの基本骨格と略同じ基本骨格を有しており、シロリムスと同等の生理活性を有していることが知られている。それ故に、これらのシロリムス誘導体も、シロリムスと同様に、本実施の形態の外用薬の有効成分として用いることができる。安価に外用薬を調製するという観点から言うと、上述した中では、シロリムスおよび/またはエベロリムスを用いることが好ましい。
【0035】
本実施の形態の外用薬に含有される有効成分の量は、特に限定されないが、本実施の形態の外用薬であれば有効成分を効率良く皮膚組織内に吸収させることができる。また、びまん性神経線維腫の肥厚した皮膚組織にも有効成分を到達させることができる。
【0036】
例えば、本実施の形態の外用薬に含有される有効成分の量は、外用薬の総重量を基準として、0.05〜1.0重量%、0.1〜0.9重量%、0.2〜0.8重量%(または、0.2重量%以上0.8重量%未満)、0.3〜0.7重量%、0.35〜0.6重量%、0.4〜0.6重量%、または、0.4〜0.5重量%であり得る。
【0037】
有効成分の血液中への移行をできるだけ抑え、かつ、皮膚組織中の有効成分の濃度を治療有効濃度にまで高めることによって、全身性の副作用を抑え、かつ、治療効果を得るという観点からは、本実施の形態の外用薬に含有される有効成分の量は、外用薬の総重量を基準として、好ましくは0.2〜0.8重量%(または、0.2重量%以上0.8重量%未満)、より好ましくは0.3〜0.7重量%、より好ましくは0.4〜0.6重量%である。
【0038】
本実施の形態の外用薬は、びまん性神経線維腫の処置(換言すれば、症状の進行の阻止)および/または治療に用いられる。本実施の形態の外用薬が用いられるびまん性神経線維腫は、例えば、神経線維腫症1型に伴って発症する、びまん性神経線維腫であり得る。
【0039】
本実施の形態の外用薬は、ヒトは勿論のこと、非ヒト動物に対しても用いることができる。非ヒト動物としては、例えば、ヒトを除く哺乳類を挙げることができる。ヒトを除く哺乳類としては、例えば、ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの偶蹄類、ウマなどの奇蹄類、マウス、ラット、ハムスター、リスなどのげっ歯類、ウサギなどのウサギ目、イヌ、ネコ、フェレットなどの食肉類などを挙げることができる。また、これらの非ヒト動物は、家畜またはコンパニオンアニマル(愛玩動物)であることに限定されるものではなく、野生動物であってもよい。
【0040】
生体の単位表面積あたりの本実施の形態の外用薬の塗布量は、特に限定されないが、0.001g/cm
2〜0.01g/cm
2、0.002g/cm
2〜0.009g/cm
2、0.003g/cm
2〜0.008g/cm
2、0.004g/cm
2〜0.007g/cm
2、0.005g/cm
2〜0.006g/cm
2であり得る。
【0041】
当該塗布量で本実施形態の外用薬を、毎日、または、2〜3日に1回塗布すればよい。毎日塗布することが好ましい。毎日塗布する場合は、1日に1〜3回の塗布が好ましく、さらに好ましくは1日に2〜3回の塗布、最も好ましくは1日に2回の塗布である。
【0042】
本実施の形態の外用薬であれば、効果的にびまん性神経線維腫を処置および/または治療することができるとともに、副作用が生じることを防ぐことができる。
【0043】
本実施の形態の外用薬は、ゲル剤、軟膏剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、および、クリーム剤などの剤形であってもよい。
【0044】
例えば、i)有効成分を含有している溶液をゲル化することにより、ゲル剤を調製することができる。また、ii)軟膏基材と有効成分とを混合することにより、軟膏剤を調製することができる。また、パップ剤、リニメント剤、ローション剤およびクリーム剤は、周知の方法にしたがって調製することができる。なお、アルコールを含有するゲル剤は、軟膏剤と比較して、皮膚組織に有効成分が吸収され易く、より好ましい剤形であるといえる。
【0045】
以下に、ゲル剤の具体的な構成の一例、および、軟膏剤の具体的な構成の一例について説明するが、本発明は、これらの構成に限定されない。
【0046】
(A)ゲル剤
上述したように、本実施の形態の外用薬は、有効成分を含有している溶液をゲル化して得られる、ゲル剤であってもよい。
【0047】
ゲル剤を調製する場合には、ゲル化剤を用いて、有効成分を含有している溶液をゲル化すればよい。ゲル化剤として、例えば、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、水酸化アルミニウム、ベントナイトなどを挙げることができる。
【0048】
カルボキシビニルポリマーの具体的な構成は、特に限定されず、カーボポール(登録商標)、ハイビスワコー(登録商標)、アクペック(登録商標)を用いることができるが、外用薬として塗布した場合の質感の良さの観点から、これらの中では、カーボポール(登録商標)934P NFまたはカーボポール(登録商標)980が好ましい。
【0049】
カーボポール(登録商標)を用いる場合、カーボポール(登録商標)を含有している溶液にpH調整剤(例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、または、トリエタノールアミンなど)を添加し、これによって溶液のpHを中性に調整することによって、溶液をゲル化させることができる。
【0050】
本実施の形態の外用薬は、上述した有効成分以外に、アルコールを含有し得る。当該構成であれば、外用薬に含まれる有効成分を、更に効率よく皮膚組織に吸収させることができる。アルコールの例としては、エタノールおよびイソプロパノールを挙げることができるが、有効成分をより効率よく皮膚組織に吸収させるという観点からは、エタノールがより好ましい。
【0051】
本実施の形態の外用薬に含まれるアルコールの量は、特に限定されないが、外用薬の総重量を基準として、10〜70重量%、20〜70重量%、30〜70重量%、40〜70重量%、45〜70重量%、50〜70重量%、55〜70重量%、60〜70重量%、10〜60重量%、20〜60重量%、30〜60重量%、40〜60重量%、45〜60重量%、10〜55重量%、20〜55重量%、30〜55重量%、40〜55重量%、45〜55重量%、10〜50重量%、20〜50重量%、30〜50重量%、40〜50重量%、または、45〜50重量%であってもよい。好ましくは、20〜60重量%である。
【0052】
アルコール量はシロリムスを十分に溶解することができる量である事が、必須であり、20重量%以上が好ましい。効果の期待できる濃度のゲルを調製するためにはゲル重量の30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上アルコール量が好ましい。60重量%を超えると、製剤からアルコールが蒸発しやすくなるため、安定した有効成分濃度の製剤を保存(保管)する事が難しくなる。よって、より好ましくは、50重量%前後である。有効成分が十分に溶解するアルコール量を含有することにより、有効成分をより効率よく皮膚組織に吸収させることができる。50重量%以下であるならばアルコールの量が多いほど、有効成分が十分に溶解しており、より効率よく皮膚組織に吸収させることができる。
【0053】
ゲル剤に含まれるゲル化剤の量は、特に限定されず、有効成分を含有している溶液がゲル化するために十分な量であればよい。ゲル剤に含まれるゲル化剤の量は、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、1.5重量%以上(より具体的には、1.5〜20重量%、1.5〜15重量%、1.5〜10重量%、1.5〜5重量%、または、1.5〜2.5重量%)であり得る。
【0054】
ゲル剤に含まれるpH調整剤(中和剤)の量は、特に限定されず、溶媒およびゲル化剤の量に応じて適宜設定し得る。ゲル剤に含まれるpH調整剤の量は、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、0.5〜5.0重量%、0.5〜2.5重量%、または、0.5〜1.0重量%であり得る。
【0055】
より具体的に、カーボポール(登録商標)934P NFなどのゲル化剤と、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどのpH調整剤と、を用いる場合、ゲル化剤の量が、ゲル剤の総重量を基準として、1.6重量%であり、pH調整剤の量が、ゲル剤の総重量を基準として、例えば0.4重量%、0.6重量%または0.8重量%であってもよい。勿論、本発明は、当該比率に限定されない。
【0056】
ゲル剤に含まれる有効成分の量は特に限定されず、「外用薬に含有される有効成分の量」として既に説明した量であり得る。当該量については既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0057】
ゲル剤には、上述した有効成分、溶媒、ゲル化剤およびpH調整剤(中和剤)以外の他の成分が含まれていてもよい。当該他の成分としては、例えば、水溶性高分子、および、上述した有効成分以外の所望の有効成分が挙げられる。
【0058】
上記水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、および、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。ゲル剤にヒドロキシプロピルセルロースが含まれていれば、当該ゲル剤の粘着性を向上させることができる。つまり、ゲル剤が皮膚から剥がれ難くすることができる。
【0059】
ゲル剤に含まれる上記他の成分の量は、特に限定されないが、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、または、1重量%以下であり得る。
【0060】
(B)軟膏剤
上述したように、本実施の形態の外用薬は、基剤と有効成分とを含有する軟膏剤であってもよい。
【0061】
軟膏剤に含まれる有効成分の量は特に限定されず、「外用薬に含有される有効成分の量」として既に説明した量であり得る。当該量については既に説明したので、ここでは、具体的な説明を省略する。
【0062】
基剤としては、例えば、ロウ類(例えば、サラシミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、鯨ロウなどの天然ロウ、モンタンロウなどの鉱物ロウ、合成ロウなど)、パラフィン類(例えば、流動パラフィン、固形パラフィンなど)、ワセリン(例えば、白色ワセリン、黄色ワセリンなど)などを挙げることができる。
【0063】
軟膏剤に含まれる基剤の量は特に限定されないが、例えば、軟膏剤の総重量を基準として、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、または、90重量%以上であり得る。
【0064】
軟膏剤は、炭酸プロピレン、固形パラフィンおよび白色ワセリンを含むことが可能である。また、軟膏剤は、炭酸プロピレン、固形パラフィンおよび白色ワセリンに加えて、更に流動パラフィンを含むことも可能である。また、軟膏剤は、炭酸プロピレン、固形パラフィン、白色ワセリンおよび流動パラフィンに加えて、更にサラシミツロウを含むことが可能である。
【0065】
軟膏剤は、周知の方法にしたがって製造することができる。以下に、製造方法の一例を説明する。
【0066】
例えば、ホモミキサー(例えば、プライミクス株式会社製)や万能ミキサー(例えば株式会社ダルトン製)を用いて調製することができる。基剤が室温において固体である場合、基剤を液体になるまで加熱し、液体状の基剤と、有効成分が溶解した溶液とを混合すればよい。例えば、室温において固体である各種成分(例えば、ロウ類、パラフィン類、ワセリンなど)を融点以上(例えば70℃)に加熱して溶解し、当該溶解物へ、有効成分が溶解した溶液を添加し、撹拌する。そして、撹拌しながらこの混合物を室温付近にまで(例えば40℃)冷却し、軟膏剤を製造することができる。
【0067】
別の方法として、基剤を全て70℃〜80℃で溶解し、自転公転ミキサー(株式会社シンキー製)を用い、攪拌モードで、800rpmにて30分間、次いで1000rpmにて5分間、次いで2000rpmにて1分間(15℃)攪拌し、当該基剤に有効成分を溶解した溶液を加え、更に1000rpmにて1分間、次いで2000rpmにて1分間(冷却なし)で攪拌することで、有効成分を含む非常に微細な粒子がより分散した良質な軟膏を調製することができる。
【0068】
上述した他の成分を軟膏剤に含有させる場合、有効成分と他の成分とを所望の溶媒に溶解させた溶液を調製し、当該溶液に基剤を添加し、添加以後の工程は上述した方法にしたがって軟膏剤を調製すればよい。
【実施例】
【0069】
<1.外用薬の調製>
シロリムス(ラパマイシン)を、エタノールまたはイソプロパノールに添加して溶解した後、更に水(具体的には、注射用水)を添加および混合して、混合溶液を調製した。当該混合溶液にカーボポール(登録商標)(具体的には、カーボポール(登録商標)934P NF)を添加および混合して、均一な懸濁液を調製した。当該懸濁液に中和剤(具体的には、トリスヒドロキシメチルアミノメタン)を添加および混合して、ゲル剤(外用薬1〜9)を調製した。ゲル剤の組成を下記表1および表2に示す。
【0070】
一方、サラシミツロウ、流動パラフィン、固形パラフィン、白色ワセリンを全て同一容器に量り取り、これらを70℃〜80℃で溶解し、自転公転ミキサー(株式会社シンキー製)を用い、攪拌モードで、800rpmにて30分間、次いで1000rpmにて5分間、次いで2000rpmにて1分間(15℃)攪拌し、当該溶解物に対して、シロリムスを炭酸プロピレンで60〜70℃の湯浴上で溶解した溶液を加え、更に1000rpmにて1分間、次いで2000rpmにて1分間(冷却なし)で攪拌して、軟膏剤(外用薬10)を調製した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
<2.びまん性神経線維腫に対する外用薬の効果>
神経線維腫症1型を患う患者(3名)のびまん性神経線維腫に、外用薬4を12週間塗布した。具体的に、外用薬4を、1日あたり1回、びまん性神経線維腫に塗布した。また、1回の塗布で、びまん性神経線維腫300cm
2に対して1gの外用薬4を塗布した。塗布を開始してから84日後に、シロリムスの組織中の濃度および血液中の濃度を測定し、組織染色によって組織の状態を確認し、かつ、患者の自覚症状の有無を確認した。
【0075】
試験結果を、表4および
図1(d)に示す。下記表4において、「血中のシロリムス濃度」および「組織中のシロリムス濃度」の欄の「−」は、測定限界(1ng/mL、または、1ng/mg)以下の濃度であることを示す。また、「患者の自覚症状」の欄の「−」は、治療前後において、自覚症状に変化が無かったことを示す。なお、「血中のシロリムス濃度」は、ARCHITECT(登録商標)Sirorimus、ARCHITECT(登録商標)Sirorimus キャリブレータ、ARCHITECT(登録商標)Sirorimus Whole Blood Precipitation Reagentを用いて、病院検査室で測定し、「組織中のシロリムス濃度」は、LC−ESI/MS法で測定した。
【0076】
表4に示すように、本実施例の外用薬は、組織中のシロリムスの濃度を高く(治療有効濃度に)維持することができる一方で、血液中のシロリムスの濃度を低く抑えることができることが明らかになった(経口投与薬であれば、血液中のシロリムス濃度は、略5〜10ng/mL、または、それ以上になる)。このことは、本実施例の外用薬は、びまん性神経線維腫を効果的に治療できるのみならず、副作用を防ぐことができることを示している。
【0077】
表4の「組織の所見」の欄の試験結果を、別途、
図1(d)に示す。なお、
図1(d)は、治療前後のびまん性神経線維腫をヘマトキシリン・エオジン染色した染色像を示している。なお、ヘマトキシリン・エオジン染色は、パラフィンブロックから切片をつくり、当該切片からパラフィンを除去した後で、当該切片を和光純薬のマイヤーヘマトキシリンと、エオジンとを用いて、染色した。治療の前後において、びまん性神経線維腫に組織学的な変化(具体的には、細胞数の減少、および、抗原繊維の膨化)が認められた。このことは、本実施例の外用薬は、びまん性神経線維腫を縮小させる効果を有していることを示している。
【0078】
更に、表4の「患者の自覚症状」の欄に示すように、衣類の着用が容易になったとの自覚症状が現れた患者も存在した。このことも、本実施例の外用薬は、びまん性神経線維腫を縮小させる効果を有していることを示している。
【0079】
【表4】
【0080】
<3.シロリムスの組織中の濃度および血液中の濃度>
BALB/c miceに、外用薬6〜8の各々を12日間塗布した。具体的に、外用薬6〜8の各々を、1日あたり1回、BALB/c miceに塗布した。なお、1回の塗布で、BALB/c miceの皮膚10cm
2に対し100mgの外用薬6〜8を塗布した。塗布を開始してから12日後に、シロリムスの組織中の濃度および血液中の濃度を測定した。
【0081】
また、hairless miceに、外用薬6〜9の各々を3週間塗布した。具体的に、外用薬6〜9の各々を、1日あたり1回、hairless miceに塗布した。なお、1回の塗布で、hairless miceの皮膚10cm
2に対して100mgの外用薬6〜9を塗布した。塗布を開始してから21日後に、シロリムスの組織中の濃度および血液中の濃度を測定した。
【0082】
BALB/c miceの試験結果を
図2に示し、hairless miceの試験結果を
図3に示す。
図2および
図3に示すように、本実施例の外用薬は、組織中のシロリムスの濃度を高く(治療有効濃度に)維持することでできる一方で、血液中のシロリムスの濃度を低く抑えることができることが明らかになった。
【0083】
更に、
図2および
図3に示すように、外用薬中のシロリムスの濃度を0.2%から0.4%へ変化させた場合、組織中のシロリムスの濃度は大きく増加するのに比べ、血液中のシロリムスの濃度は略同じであった。このことは、外用薬中のシロリムスの濃度が略0.4%(例えば、0.2〜0.8重量%(または、0.2重量%以上0.8重量%未満)、好ましくは0.3〜0.8重量%(または、0.3重量%以上0.8重量%未満)、より好ましくは0.4〜0.8重量%(または、0.4重量%以上0.8重量%未満))であれば、血液中のシロリムスの濃度を極力低下させた状態で、組織中のシロリムスの濃度を極力上昇させることができること、つまり、当該構成であれば、副作用を極力抑えた状態で、びまん性神経線維腫を効果的に治療することができる。
【0084】
<4.外用薬に含まれるアルコールに関する検討>
hairless miceに、エタノールを含有している外用薬4、または、イソプロパノールを含有している外用薬7の各々を3週間塗布した。具体的に、外用薬4または外用薬7を、1日あたり1回、hairless miceに塗布した。また、1回の塗布で、hairless miceの皮膚10cm
2に対して100mgの外用薬4または外用薬7を塗布した。塗布を開始してから21日後に、シロリムスの組織中の濃度および血液中の濃度を測定した。
【0085】
試験結果を
図4に示す。
図4に示すように、イソプロパノールを含む外用薬と比較して、エタノールを含む外用薬の方が、シロリムスの組織中への吸収効果が高いことが明らかになった。また、
図4に示すように、エタノールを含む外用薬も、組織中のシロリムスの濃度を高く(治療有効濃度に)維持することでできる一方で、血液中のシロリムスの濃度を低く抑えることができることが明らかになった。
【0086】
<5.外用薬と内服薬との比較(単回投与)>
外用薬:15mgの外用薬5(合計120μgのシロリムス)を、hairless miceの背に、1回塗布した。塗布してから、1時間、3時間、6時間、12時間、24時間、36時間、48時間、および、72時間後に、マウスの背をテープストリッピングし、背から角質を除いた後で、組織中のシロリムスの濃度を測定した。
【0087】
内服薬:250μg/200μLの濃度にてシロリムスを含有する溶液200μLを、マウスに1回内服させた。内服させてから、1時間、3時間、6時間、12時間、24時間、36時間、48時間、および、72時間後に、マウスの背をテープストリッピングし、背から角質を除いた後で、組織中のシロリムスの濃度を測定した。
【0088】
試験結果を
図5に示す。
図5に示すように、内服薬よりも外用薬の方が、組織中のシロリムスの濃度を、はるかに上昇させ得ることが明らかになった。
【0089】
<6.外用薬と内服薬との比較(連続投与)>
外用薬:15mgの外用薬5(合計120μgのシロリムス)を、hairless miceの背に、1日あたり1回塗布した。当該塗布を、5日間連続して行った。連続投与を開始してから、1日、2日、3日、4日、および、5日後に、組織中のシロリムスの濃度、および、血液中のシロリムスの濃度を測定した。
【0090】
内服薬:250μg/200μLの濃度にてシロリムスを含有する溶液200μLを、マウスに1日あたり1回内服させた。当該内服を、5日間連続して行った。連続投与を開始してから、1日、2日、3日、4日、および、5日後に、組織中のシロリムスの濃度、および、血液中のシロリムスの濃度を測定した。
【0091】
試験結果を
図6に示す。
図6に示すように、血液中のシロリムスの濃度が略同一であるときを比較すると、外用薬の方が、内服薬よりも、組織中のシロリムスの濃度が略100倍高いことが明らかになった。
【0092】
<7.シロリムスの細胞増殖抑制作用および細胞死誘導作用に関する検討>
周知の方法にしたがって神経線維腫症1型を患う患者のびまん性神経線維腫に由来する線維芽細胞を培養した。当該線維芽細胞を培養している培地に、最終濃度が0.1nM、1nM、10nMまたは100nMとなるようにシロリムスを加えて培養した後で、線維芽細胞の細胞増殖と細胞死とを解析した。なお、シロリムスに対するネガティブコントロールとしては、DMSOを用いた。
【0093】
細胞増殖は、MTT アッセイ法にしたがって解析し、より具体的には、ナカライ株式会社製のCell Count Reagent SFを用いて解析した。一方、細胞死は、Trypan blue セルカウント法にしたがって解析し、より具体的には、Bio−rad株式会社製のTrypan Blue ♯145−0021を用いて解析した。具体的な方法は、各キットに添付のプロトコールにしたがった。
【0094】
試験結果を
図7に示す。
図7に示すように、シロリムスの濃度依存的に、細胞増殖が抑制され、かつ、細胞死が誘導されることが明らかになった。