(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来,半導体製造のエッチング工程に,処理室を含む真空容器や高周波電源を含むプラズマ発生装置を備えたプラズマ処理装置が用いられてきた。このプラズマ処理装置は真空である処理室内に反応性ガスを導入し,さらにこの処理室に高周波電力(以下,ソース電力)を印加することでプラズマを生成し,前記処理室内に配置された下部電極の上に置かれた被処理材(例えばシリコンウェハ)をエッチングする。
【0003】
前記下部電極は,バイアス電力を印加することでエッチング速度,エッチング形状を制御可能である。このエッチング性能を決めるパラメータは,マスフローコントローラによって制御される反応性ガスの種類とその組み合わせ及びそれらの流量と,前述のソース電力によって決定されるプラズマ密度,バイアス電力によって決定されるイオンエネルギーや,真空処理室内の圧力,ウェハ温度などである。
【0004】
被処理ウェハは,所望のデバイス性能を満たす加工形状を得る目的から多層膜となっており,これを処理するレシピと呼ばれる処理条件は各層毎に最適化された複数のステップからなる。また近年,半導体デバイスの微細化や構造の3次元化に伴い,薄膜化および多層膜化はさらに進む傾向にある。異なるガス条件を用いるステップ間の切り替えでは,ガスの混合を防ぐためにステップ間で真空処理室を排気する場合がある。この排気動作には数秒を要するため,ステップ毎に繰り返されることによりスループットを低下させる虞がある。
【0005】
一方,ステップ間でプラズマを維持する場合もあり,ステップ間で真空処理室を排気することを省略し,マスフローコントローラの動作により供給するガスを切り替えることによってスループットの向上が可能である。この場合,後続ステップ初期の一定期間,先行ステップで用いたガスが混合したプラズマにウェハが曝されることなり,この過渡状態のプラズマが処理形状に影響を与え,所望のエッチング性能が得られない可能性があった。また,後続ステップの開始時刻からそのステップで用いるガスの供給動作を行うため,ガスが真空処理室に到達するまで有限の時間を有し,ガス条件の切り替えとプラズマ生成条件やバイアス電力の切り替えとに時間差が生じ,その影響によって所望のエッチング性能が得られない虞があった。なお,ステップ間でガス供給の切り替えを高速化する技術として特許文献1,2がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体製造のエッチング工程では,様々な材料からなる積層膜が表面に成膜されたシリコンウェハを,真空処理室内に導入された反応性ガスに高周波を印加することで生成されたプラズマに曝し,積層膜最上部のマスク層に露光・現像された回路パターンを下層に転写させる。前記積層膜の各層の加工に最適なプラズマ処理条件は異なるため,エッチング処理はそれぞれ異なる組み合わせの反応ガスを用いた複数のステップから成る。
【0008】
各ステップ間ではリアクタ(処理室)内のガスを置換する必要がある。これは前ステップで使用したガスの残留がエッチング性能に影響を与えるのを避けるためであり,ステップ間で真空処理室をほぼ完全に排気したのち,次のステップで用いるガスを導入する動作を行う。しかしながら,このステップ間の排気とそれに続くガス導入の所要時間が総処理時間に占める割合は必ずしも小さなものではなく,スループット低下の原因となるという問題があった。
【0009】
これを解決するために,ステップ間でプラズマを維持し,連続プラズマとする技術がある。しかしながら,この場合,マスフローコントローラによるガス流量制御応答速度が1秒程度であり,またマスフローコントローラと真空処理室間のガス配管の体積・コンダクタンスによってガス供給が遅延するため,ガスの置換には数秒の時間を要し,またその間,前ステップで使用したガスと次ステップで使用するガスが混合した状態のプラズマが生成されることになり,この過渡状態のプラズマが加工形状に与える影響は,多くの場合無視できないものであり,結果として加工形状のばらつきや加工性能の低下をもたらすという問題があった。
【0010】
本発明の目的は,様々な材料からなる積層膜をプラズマ処理するような場合であっても,スループットの低下や加工形状のばらつき,加工性能の低下を抑制可能なプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では,上記目的を達成するための一実施形態として,被処理物を処理する処理室と,
前記処理室内に配置され前記被処理物を載置するための試料台と,
前記処理室に第1ガスと第2ガスを含む複数の処理ガスを供給するガス供給装置と,
前記処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と,
前記ガス供給装置を制御するガス供給制御装置と,を有し,
前記ガス供給装置は,
第1マスフローコントローラと前記処理室側に配置された第1ストップバルブとを備えた第1ガス用の第1配管と,
第2マスフローコントローラと前記処理室側に配置された第2ストップバルブとを備えた第2ガス用の第2配管とを含み,
前記ガス供給制御装置は,
時刻T1において前記処理室に供給する第1ガスを第2ガスに切り替える際に,
時刻T1よりもTc秒前に前記第2ストップバルブを閉としたまま前記第2マスフローコントローラを所定の流量値に設定し,
時刻T1において前記第2ストップバルブを開とするように制御するものであることを特徴とするプラズマ処理装置とする。
【0012】
また,被処理物を処理する処理室と,
前記処理室内に配置され前記被処理物を載置するための試料台と,
前記処理室に第1ガスと第2ガスを含む複数の処理ガスを供給するガス供給装置と,
前記処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と,
前記ガス供給装置を制御するガス供給制御装置と,を有し,
前記ガス供給装置は,
第1マスフローコントローラと前記処理室側に配置された第1ストップバルブとを備えた第1ガス用の第1配管と,
第2マスフローコントローラと前記処理室側に配置された第2ストップバルブと圧力計を備えた第2ガス用の第2配管とを含み,
前記ガス供給制御装置は,
時刻T1において前記処理室に供給する第1ガスを第2ガスに切り替える際に,
時刻T1よりもTc秒前に前記圧力計により前記第2配管内の圧力を計測し,その計測値に基づいて求めたガス充填開始の遅れ時間T2秒だけTc秒から遅れて前記第2ストップバルブを閉としたまま前記第2マスフローコントローラを所定の流量値に設定し,
時刻T1において前記第2ストップバルブを開とするように制御するものであることを特徴とするプラズマ処理装置とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,様々な材料からなる積層膜をプラズマ処理するような場合であっても,スループットの低下や加工形状のばらつき,加工性能の低下を抑制可能なプラズマ処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明の各実施例に係るプラズマ処理装置について,
図1を用いて説明する。
図1は各実施例に係るプラズマ処理装置の概略全体構成図であり,特に,真空処理室周りの構成については縦断面図で示す。
【0016】
本プラズマ処理装置において,プラズマソース用電源,例えばマイクロ波源101から発振されたマイクロ波は方形導波管102を用いて伝送され,方形円形導波管変換器103により,円形導波管104に接続される。自動整合器105により反射波を自動的に抑制することができる。マイクロ波源としては例えば,発振周波数2.45GHzのマグネトロンを用いた。
【0017】
円形導波管104は空洞共振部106に接続される。空洞共振部106はマイクロ波電磁界分布をプラズマ処理に適した分布に調整する働きを持つ。
【0018】
空洞共振部106の下部にはマイクロ波導入窓107,シャワープレート108を介して真空処理室109がある。真空処理室109に導入されたマイクロ波と,ソレノイドコイル110によって形成される磁界のECR共鳴によって,処理室内に反応性ガスのプラズマが形成される。
【0019】
ECR共鳴とは,前記ソレノイドコイルが生成する磁界(静磁界)の磁力線に沿って電子が回転しながら移動するところに,その回転の周期に対応した周波数のマイクロ波がプラズマに入射することで電子を選択的に加熱することを言い,プラズマの効果的な加熱法である。また,静磁界を用いる他の利点として,静磁界の分布を変化させることでECR共鳴が発生する位置を制御することが出来,プラズマ発生領域を制御することができる。さらにプラズマは磁力線に対して垂直な方向に拡散が抑制されることが知られており,プラズマの拡散を制御し,プラズマの損失を低減することができる。これらの効果により,プラズマの分布を制御することができ,従ってプラズマ処理の均一性を高めることができる。電磁石に通電する電流を変えることで,静磁界の分布を制御することができる。
【0020】
ガス源111から供給される反応性ガスは,ガス供給装置112内でその流量を制御され,試料台たる下部電極114に対向する面に設置されたシャワープレート構造108を介して,真空処理室109に導入される。
図1に示しているガス供給装置112には,各実施例における流量制御の高精度化のためのガス供給制御装置113が接続されている。処理室内ガスはターボ分子ポンプ(以下TMP)115から排気されTMP上流部に設けられた排気コンダクタンス調整弁116は圧力計122の測定値を用いてフィードバック制御され,処理室内圧力を制御する。
【0021】
被処理材,例えばシリコンウェハ(以下,単にウェハと記す)は静電吸着により下部電極114に吸着保持可能である。さらに,下部電極114にRF電源117よりプラズマソース用電源(マイクロ波源101)の周波数より低い,例えば周波数400kHzのRF波が整合器118を介して印加されることにより処理性能の制御,処理速度の向上が可能である。
【0022】
分光器120は光ファイバ121によって真空処理室109に接続され,真空処理室109内に生成されたプラズマの発光を分光し,波長毎の強度を記録可能であり,また分光器は制御コンピュータ119に接続され,制御コンピュータ119は分光器が検出したプラズマ発光の変化の特徴を抽出してエッチングの終点を判定し処理を終了させる機能を持つ。
【0023】
真空処理室109,下部電極114,TMP115はそれぞれ略円筒形であり,その円筒の軸を同一とする。下部電極は処理室に梁によって支持されている。
【0024】
以上の構成は全て制御コンピュータ119に接続され(配線は図示せず),適切なシーケンスで動作するようそのタイミング,動作量をコントロールされる。動作シーケンスの詳細パラメータはレシピと呼ばれ,予め設定されたレシピに基づいた動作がなされる。
【0025】
プラズマエッチングは複数の積層膜を,その形状を制御しながらエッチングするため,レシピは,エッチング対象となる膜の化学組成やエッチング深さに応じて最適化された,複数のステップによって構成されている。
【実施例1】
【0026】
本実施例では,真空処理室内109内のガスを高速に置換可能な機能を有したプラズマエッチング装置の例について
図2〜
図4を用いて説明する。
図2は本実施例に係るプラズマエッチング装置におけるガス供給装置112内部の代表的構成図の例である。ガス供給装置112はバルブ201,マスフローコントローラ202,ストップバルブ204を有し,マスフローコントローラ202とストップバルブ204はガス配管205によって接続されている。これら一連のガス制御部品による一系統の構成が一種のガス流量を制御し,ガス供給装置112内には所望の系統数のガス制御部品構成を備えられている。マスフローコントローラの前後に配置されたバルブ201およびストップバルブ204はガス供給を開始または停止を制御する目的で用いられる。マスフローコントローラ202で流量を制御されたガスはガス供給装置112内で一本のガス集合配管206に集合し,ガス集合配管206は真空処理室109に接続されている。
【0027】
本実施例におけるガス供給シーケンスについて
図3を用いて説明する。この例はガスAが供給されるステップに続きガスBを供給するステップが実行されるものである。図中のT
1がステップ切り替え時刻である。ガスAはステップ終了時刻であるT
1まで供給され続け,時刻T
1に至るとガスAに対応するマスフローコントローラ202の流量設定値が0に設定され(
図3の「ガスA流量設定値」参照),同時にガスAに対応するストップバルブ204が閉とされる(「ガスAストップバルブ」参照)。
【0028】
後続ステップで用いるガスBに対応するマスフローコントローラ202には,ステップ切り替え時刻T
1に先立って時刻T
0でその流量設定値が設定され(「ガスB流量設定値」参照),ガスBに対応するストップバルブ204を閉としたまま(「ガスBストップバルブ」参照),設定流量を供給し(「ガスB流量」参照),ガス配管205の内部にガスを充填する。前記のガスBの流量設定値は後続ステップで用いるガスBの流量と等しい。時刻T
0から時刻T
1の間のガス配管205へのガス供給によって,ガスBのガス配管205内圧力が上昇する(「配管内ガスB圧力」参照)。
【0029】
時刻T
1においてガスBに対応するストップバルブ204が開とされ,前記のガス配管205内の充填圧力がストップバルブ204の下流側の圧力よりも大きければ,ガスBに対応するストップバルブ204を開とすることによって,ガスBは真空処理室に接続されるガス配管206内に放出され,そのガス流量波形はストップバルブ204を開とした直後に最も大流量となり,速やかに定常流量に落ち着くようなパルス状波形となる(「実際の出力流量」参照)。瞬間的に大流量のガスBが放出されることによって,ガス配管206内および真空処理室内に残留するガスAをTMPに向けて押し込むことになり,ガスAの排気を促進し,同時に迅速なガスBへの置換がなされる。
【0030】
図4は
図3に示したガス供給シーケンスを適用した場合のガス置換の様子を,分光器を用いてプラズマ発光により計測した結果である。ガスAからガスBへのガス置換において,ガスBをプラズマ化した際の発光に特徴的な波長を選択し図示した。
図4に示した時刻T
1は
図3と同様ステップ切り替えの時刻を表している。図中の符号401は通常のガス置換の場合の発光強度の時間変化を示し,それに対し,符号402および符号403は本実施例のガス供給シーケンスを適用した場合のものであって,符号403は符号402に対してガス配管205へのガス充填時間を2倍にしたものである。この結果から,本実施例のガス供給シーケンス適用によりガス置換の高速化が実現可能であり,この効果の程度はガス充填時間によって調整可能であることがわかる。
【0031】
図4の結果から,充填時間を長くするほどガス置換は速くなるが,発光の変化にオーバーシュートが見られる。これはステップ切り替え後に真空処理室109に過剰な流量のガスBが流入したことを示唆しており,処理性能最適化のために調整する必要がある場合がある。本実施例におけるガス導入手法を用いた場合のガス流量波形は,ガス配管205の容積と,ガス充填時間によって制御される時刻T
1におけるガス配管205内圧力によって最適化可能である。前記の時刻T
1におけるガス配管205内圧力は,ガス配管205の容積と充填時間(T
1−T
0)によって決まり,時刻T
1におけるガス配管205内圧力とガス配管205の容積によって,ストップバルブ204を開とした後の最大流量とその後のガス流量の減少する時定数が決まる。
【0032】
また,マスフローコントローラ202はその上流側と下流側の差圧が十分でないと動作することができず,ガス配管205内圧力は,マスフローコントローラ202が許容する範囲内でなくてはならない。これらを満たすガス配管205容積は,30〜3000mm
3の範囲であって,使用するガス流量と必要なガス充填時間に応じて最適な容積を選べばよい。
【0033】
ガスの充填時間は,使用する条件のガス種とガス流量を連続して真空処理室109に供給したときの真空処理室109内圧力を所望の値としたときに,ガス供給装置112と真空処理室とを接続するガス配管206と真空処理室109を満たすのに必要なガスの量から決めればよく,真空処理室容積と真空処理室内のガス圧力,およびガス供給装置112とガス配管206の容積とそのガス配管内圧力から算出することが可能である。ガス配管206内の圧力は,ガス流量とガス配管のコンダクタンスから推定可能である。
【0034】
または,ガスの充填時間は,従来の手法におけるガス置換の所要時間としてもよい。このガス置換の所要時間は,前述の所定ガス流量でガス配管206と真空処理室109を満たすのに要した時間であって,その時刻までのガス流量の積算値は前述のガス配管206と真空処理室109を満たすのに必要なガス量に等しいとみなせる。このガス置換の所要時間を得るには,
図4に示したプラズマの発光や,プラズマの電気的インピーダンス等の変化を測定すればよい。
【0035】
ガス配管205の容積は,前記のガスの充填時間中に,ガス配管205内の圧力がマスフローコントローラ202の動作範囲を超えて上昇しない十分な容積とすればよい。
【0036】
上記のガス充填時間およびガス配管205容積の最適化方法は,ガスBが1種のガスからなる場合を例としたが,複数のガスからなる場合のガスの充填時間を決定するにはガスの総流量を用いれば同じ方法で最適化が可能である。またそれぞれのガス種に対応したそれぞれのガス配管205容積の決定には,それぞれのガス種の流量を用いて,ガス配管205内圧力がマスフローコントローラ202の動作範囲を超えることのない容積とすればよい。
【0037】
ガス供給装置として
図2に示す構成を有し,
図1に示すプラズマエッチング装置を用い,
図3に示す手順に従って材料の異なる積層膜を有する基板を処理した結果,ステップ間でプラズマを維持しながらガスを置換するような場合において,プラズマが前後のステップで用いるガスの混合ガスからなるような過渡状態である時間が最小となるため,連続プラズマを適用することによる加工形状への影響が最小となり,連続プラズマとした際であってもエッチング性能を維持することができた。また,ステップ間で真空処理室をほぼ完全に排気したのち,次のステップで用いるガスを導入する場合,ガス置換のための待ち時間が最小となるため,高スループットを実現することができた。
【0038】
以上本実施例によれば,様々な材料からなる積層膜をプラズマ処理するような場合であっても,スループットの低下や加工形状のばらつき,加工性能の低下を抑制可能なプラズマ処理装置を提供することができる。
【実施例2】
【0039】
第2の実施例に係るプラズマ処理装置について
図5〜
図7を用いて説明する。なお,実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情が無い限り本実施例にも適用することができる。
【0040】
実際のマスフローコントローラ202は,その構造上流量設定値をゼロとしても流量制御弁は完全にガスを遮断することができず,極めて微小ではあるもののガスが流れ続ける場合がある。このようなマスフローコントローラを用いると,ガス供給開始前の待機中にガス配管205内には時間とともにガスが少しずつ充填され,実施例1に記載のガス供給手法を用いる場合の,動作開始時点でのガス配管205内圧力がばらつく虞があり,それに伴い時刻T
1での充填圧やその後の流量波形のばらつきの要因となる場合がある。
【0041】
図5は本実施例に係るプラズマエッチング装置におけるガス供給装置の一例を示す構成図である。本ガス供給装置112は,前記の充填圧ばらつきを抑制するための機構,具体的には,
図2に示したガス供給装置に対し,ガス配管205部の圧力を測定する圧力計203を備えたものである。すでに説明した
図2に示された同一の符号を付された構成と,同一の機能を有する部分については,説明を省略する。
【0042】
図5に示すガス供給装置を用いて充填圧力のばらつきを抑制する手法について
図6を用いて説明する。図中の符号601はマスフローコントローラ202を用いてガス配管205へのガス充填を行った場合の,典型的な充填圧力の時間変化の例を示しており,ガス配管205の初期圧力は,最終的な充填圧力に比較して無視できるほど十分小さい場合である。ガス充填を予め決められた時刻T
1まで行ったときの充填圧力の到達目標値をP
1とする。
【0043】
次にガス供給動作前の待機時間中にマスフローコントローラ202から漏れ出たガスによるガス配管205内圧力がP
0であった場合の充填圧力の時間変化は図中の符号602に示したようになる。マスフローコントローラ202の上流側と下流側との差圧が十分であればガス流量の時間変化は再現するので,縦軸に示された圧力に関して符号602で示した曲線は符号601で示した曲線を上方向に平行移動した曲線と同じ形状を有する。
【0044】
ガス供給の高い再現性を得るためには初期圧力に関わらず,ガス充填後の時刻T
1において充填圧がP
1に到達するように制御する必要があるが,ガス流量は固定とし,ガス充填開始を適切な時間だけ遅らせることによって,それを実現することが可能である。一方でガス充填時間中だけガス流量設定値を変化させるような手法では,応答遅れによってステップ切り替え後の供給ガス流量が安定せず,それがプロセス性能に影響する虞がある。
【0045】
そこで本実施例ではガス充填開始を適切な時間だけ遅らせることとした。前述したようにマスフローコントローラ202で制御されて吐出されるガス流量波形はガス配管205内初期圧力の影響を受けないので,符号602が示す曲線において初期圧力P
0から目標圧力P
1まで,すなわちP
1−P
0だけ昇圧するのに必要な充填時間は,符号601が示す曲線においておよそ0の初期圧力からP
1−P
0まで昇圧するのに必要な充填時間と等しい。よって,充填開始時点の圧力計203の値P
0を用いて,予め取得された601の曲線からP
1−P
0を交差する時刻T
1−T
2を算出し,このT
2をガス充填開始の遅れ時間としてマスフローコントローラを動作させればよい。
【0046】
各ガスに対応したマスフローコントローラによる充填圧力の時間変化のデータは
図1に示したプラズマ処理装置におけるガス供給制御装置113に格納することができる。また,ガス供給制御装置113は,ガス種それぞれの充填動作開始時刻オフセット値T
2の計算機能と,マスフローコントローラ202およびストップバルブ204の制御機能とガス充填時間タイマーとを有し,制御コンピュータ119からの制御信号を元にガス種毎の動作タイミング調整を行う。
【0047】
図7は
図5に示すガス供給装置へ
図6を用いて説明したガス充填時間調整法を適用した場合のガス供給フローチャートであって,ガスAからガスBへの置換を行う場合のものである。
図3に記載のガス充填開始時刻T
0およびステップ切り替え時刻T
1を用い,ガス充填時間T
C=T
1−T
0とする。
【0048】
ガスA用のマスフローコントローラは所定のガス流量値が設定され,ガスA用のストップバルブは開,ガスB用のマスフローコントローラの流量はゼロに設定され,ガスB用のストップバルブは閉の状態でガスAでの処理が実行される(S1)。
【0049】
ガスAでの処理が終了する時刻のT
C秒前になったことを判定すると(S2),ガス供給制御装置113内の充填時間制御タイマーがゼロにセットされ,その後の経過時間をカウントする(S3)。同時にBガス用のガス配管205内圧力を圧力計203から取得し(S4),前述の手法によって充填動作開始時刻のオフセット値T
2を得る(S5)。
【0050】
充填時間制御タイマーの値がT
2となったことが判定されると(S6),ガスB用のマスフローコントローラ202には所定の流量値が設定され,ガスB用のマスフローコントローラ202はガスBの配管205内にガス供給を開始する(S7)。このとき,ガスA用のマスフローコントローラは所定のガス流量値が設定され,ガスA用のストップバルブは開,ガスB用のストップバルブは閉の状態のままである。
【0051】
その後,充填時間制御タイマー値がT
Cとなると(S8),ガスB用のマスフローコントローラ202には所定の流量値が設定されたままの状態で,ガスA用のマスフローコントローラ202の流量値をゼロに設定すると共にガスA用のストップバルブを閉,ガスB用のストップバルブ204を開とし(S9),ガスBでの処理を開始・実行する(S10)。なお,S9において,ガスB用のマスフローコントローラ202の流量値は,S7で設定した値とは異なる値とすることもできる。
【0052】
ガス供給装置として
図5に示す構成を有し,
図1に示すプラズマエッチング装置を用い,
図7に示す手順に従って材料の異なる積層膜を有する基板を処理した結果,ステップ間でプラズマを維持しながらガスを置換するような場合において,プラズマが前後のステップで用いるガスの混合ガスからなるような過渡状態である時間が最小となるため,連続プラズマを適用することによる加工形状への影響が最小となり,連続プラズマとした際であってもエッチング性能を維持することができた。また,ステップ間で真空処理室をほぼ完全に排気したのち,次のステップで用いるガスを導入する場合,ガス置換のための待ち時間が最小となるため,高スループットを実現することができた。
【0053】
以上本実施例によれば,流量値をゼロに設定してもガスが完全には遮断されずリークするようなマスフローコントローラを用いて様々な材料からなる積層膜をプラズマ処理するような場合であっても,スループットの低下や加工形状のばらつき,加工性能の低下を抑制可能なプラズマ処理装置を提供することができる。
【0054】
なお,本発明は上記した実施例に限定されるものではなく,様々な変形例が含まれる。例えば,上記した実施例において,マイクロ波ECR放電を利用したエッチング装置を例に説明したが,他の放電(有磁界UHF放電,容量結合型放電,誘導結合型放電,マグネトロン放電,表面波励起放電,トランスファー・カップルド放電)を利用したドライエッチング装置においても同様の作用効果がある。また上記各実施例では,エッチング装置について述べたが,プラズマ処理を行うその他のプラズマ処理装置,例えばプラズマCVD装置またはプラズマPVD装置についても同様の作用効果がある。また,ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり,また,ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また,各実施例の構成の一部について,他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。