特許第6541582号(P6541582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6541582ユズ種子抽出物含有組成物、骨格筋増量用食品、およびユズ種子抽出物含有組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541582
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】ユズ種子抽出物含有組成物、骨格筋増量用食品、およびユズ種子抽出物含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/752 20060101AFI20190628BHJP
   A61K 31/366 20060101ALI20190628BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20190628BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20190628BHJP
【FI】
   A61K36/752
   A61K31/366
   A61P21/00
   A23L33/105
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-562694(P2015-562694)
(86)(22)【出願日】2014年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2014080256
(87)【国際公開番号】WO2015122067
(87)【国際公開日】20150820
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-26763(P2014-26763)
(32)【優先日】2014年2月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀場 太郎
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−297343(JP,A)
【文献】 特開2008−156294(JP,A)
【文献】 Biochem Biophys Res Commun., 2011, Vol.410 No.3, p.677-81.
【文献】 Phytochemistry, 1991, Vol.30 No.8, p.2659-61
【文献】 日本農芸化学大会講演要旨集, 2009, p.12(2P0090B)
【文献】 日本食品工業学会誌, 1985, Vol.32 No.8, p.590-591
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A23L 33/00
A61K 31/366
A61P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、
加熱後の前記ユズ種子を粒径が1mm以下となるように粉砕し、5〜20倍量のエタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、
を含む工程によって製造されるユズ種子抽出物含有組成物。
【請求項2】
ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、
加熱後の前記ユズ種子を粒径が1mm以下となるように粉砕し、5〜20倍量のエタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、
を含む工程によって製造されるユズ種子抽出物含有組成物を有効成分とする骨格筋増量用食品。
【請求項3】
ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、
加熱後の前記ユズ種子を粉砕し、エタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、を含む工程によって製造される
ノミリンの含有量に対するオバクノンの含有量(=前記オバクノンの含有量/前記ノミリンの含有量)が0.300以上であるユズ種子抽出物含有組成物。
【請求項4】
ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、
加熱後の前記ユズ種子を粉砕し、エタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、を含む工程によって製造される
ノミリンの含有量に対するオバクノンの含有量(=前記オバクノンの含有量/前記ノミリンの含有量)が0.300以上であるユズ種子抽出物含有組成物を有効成分とする骨格筋増量用食品。
【請求項5】
ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、
加熱後の前記ユズ種子を粒径が1mm以下となるように粉砕し、5〜20倍量のエタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、
を含むことを特徴とするユズ種子抽出物含有組成物の製造方法。
【請求項6】
ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、
加熱後の前記ユズ種子を粉砕し、エタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、
を含むことを特徴とする
ノミリンの含有量に対するオバクノンの含有量(=前記オバクノンの含有量/前記ノミリンの含有量)が0.300以上であるユズ種子抽出物含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユズ種子抽出物含有組成物骨格筋増量用食品、およびユズ種子抽出物含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類(ムクロジ目ミカン科のミカン属、カラタチ属、キンカン属)の果実は、生食、ジュース、製菓材料、料理の風味付け等として世界各地で広く利用されている。また、柑橘類にはビタミンCや食物繊維等が豊富に含まれていることから、柑橘類の果実は、健康の増進に寄与する食物であると認識されている。
この柑橘類の中でも、特に、ユズ(学名:Citrus junos)については、最近の研究において、様々な優れた機能を有するとの報告がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ユズ抽出物が、ヒアルロン酸産生能を促進させる機能を有することが開示されている。さらに、特許文献2には、ユズの単細胞化処理物が、角質を剥離させる機能を有することが開示されている。
つまり、特許文献1および特許文献2には、ユズ抽出物の用途(ヒアルロン酸産生能促進用、角質剥離用)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−158728号公報
【特許文献2】特開2004−10480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ユズ等の柑橘類の抽出物には、特許文献1および特許文献2に開示されているような機能だけではなく、これらの機能の他に、今までに見出されていない新たな機能が存在する可能性がある。
【0006】
さらに、柑橘類の新たな機能を見出すだけでなく、新たな機能を強く発揮する有効成分を柑橘類(詳細には、柑橘類種子)内部から特定し、当該有効成分を増加させる方法を見出すことで、新たな機能を十分に発揮できる有用性の高い組成物を提供することが望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、柑橘類(詳細には、柑橘類種子抽出物)の新たな機能を十分に発揮することができるユズ種子抽出物含有組成物、骨格筋増量用食品、およびユズ種子抽出物含有組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、加熱後の前記ユズ種子を粒径が1mm以下となるように粉砕し、5〜20倍量のエタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、を含む工程によって製造されるユズ種子抽出物含有組成物。
(2)ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、加熱後の前記ユズ種子を粒径が1mm以下となるように粉砕し、5〜20倍量のエタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、を含む工程によって製造されるユズ種子抽出物含有組成物を有効成分とする骨格筋増量用食品。
(3)ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、加熱後の前記ユズ種子を粉砕し、エタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、を含む工程によって製造されるノミリンの含有量に対するオバクノンの含有量(=前記オバクノンの含有量/前記ノミリンの含有量)が0.300以上であるユズ種子抽出物含有組成物。
(4)ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、加熱後の前記ユズ種子を粉砕し、エタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、を含む工程によって製造されるノミリンの含有量に対するオバクノンの含有量(=前記オバクノンの含有量/前記ノミリンの含有量)が0.300以上であるユズ種子抽出物含有組成物を有効成分とする骨格筋増量用食品。
(5)ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、加熱後の前記ユズ種子を粒径が1mm以下となるように粉砕し、5〜20倍量のエタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、を含むことを特徴とするユズ種子抽出物含有組成物の製造方法。
(6)ユズ種子を100℃以上であり720分以上の条件で加熱する加熱工程と、加熱後の前記ユズ種子を粉砕し、エタノール溶媒を加えてユズ種子抽出物を抽出する抽出工程と、を含むことを特徴とするノミリンの含有量に対するオバクノンの含有量(=前記オバクノンの含有量/前記ノミリンの含有量)が0.300以上であるユズ種子抽出物含有組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るユズ種子抽出物含有組成物の製造方法は、柑橘類種子を所定温度以上で加熱する加熱工程を含むことから、オバクノンを多く含むことで、新たな機能(血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減)を十分に発揮することができるユズ種子抽出物含有組成物を製造することができる。
本発明に係る柑橘類種子抽出物含有組成物の製造方法によって製造されたユズ種子抽出物含有組成物および骨格筋増量用食品は、新たな機能(血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減)を十分に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】KKAyマウスの血糖値の推移を示す測定データである。
図2】KKAyマウスのHbA1cの推移を示す測定データである。
図3】KKAyマウスの血糖値の推移を示す測定データである。
図4】KKAyマウスのHbA1cの推移を示す測定データである。
図5】実験飼育開始後28日目におけるKKAyマウスの腓腹筋の重量割合を示す測定データである。
図6】実験飼育開始後28日目におけるKKAyマウスの各脂肪の重量割合を示す測定データであって、(a)は、腎臓周囲脂肪の測定データであり、(b)は、腸間膜脂肪の測定データであり、(c)は、精巣上体周囲脂肪の測定データであり、(d)は、皮下脂肪の測定データである。
図7】リモノイドアグリコン(デアセチルノミリン)のLC−MS解析データである。
図8】リモノイドアグリコン(リモニン)のLC−MS解析データである。
図9】リモノイドアグリコン(ノミリン)のLC−MS解析データである。
図10】リモノイドアグリコン(オバクノン)のLC−MS解析データである。
図11】実験飼育開始後28日目におけるKKAyマウスの血糖値を示す測定データである。
図12】KKAyマウスのHbA1cの推移を示す測定データである。
図13】加熱の温度がオバクノンの相対量およびオバクノンの含有量/ノミリンの含有量に与える影響を示すデータである。
図14】加熱の時間がオバクノンの相対量およびオバクノンの含有量/ノミリンの含有量に与える影響を示すデータである。
図15】レモン種子のHPLC分析データである。
図16】グレープフルーツ種子のHPLC分析データである。
図17】本実施形態に係る柑橘類種子抽出物含有組成物の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る柑橘類種子抽出物含有組成物、食品、医薬品、および柑橘類種子抽出物含有組成物の製造方法を実施するための形態(実施形態)について説明する。
【0014】
≪柑橘類種子抽出物含有組成物≫
本実施形態に係る柑橘類種子抽出物含有組成物(以下、適宜「組成物」という)は、柑橘類種子抽出物由来のオバクノンとノミリンとを含有し、ノミリンの含有量に対するオバクノンの含有量が所定値以上であることを特徴とする。
以下、本実施形態に係る組成物について、まず、柑橘類種子抽出物および用途について説明し、その後、組成物の構成を説明する。
【0015】
[柑橘類種子抽出物]
柑橘類種子とは、ムクロジ目ミカン科のミカン属、カラタチ属、キンカン属に属する植物の種子であり、柑橘類種子抽出物とは、これらの種子から抽出して得られる抽出物である。
そして、柑橘類には、具体的には、ミカン科ミカン属のユズ(学名:Citrus junos)、ミカン科ミカン属のレモン(学名:Citrus limon)、ミカン科ミカン属のグレープフルーツ(学名:Citrus X paradisi)等が該当する。
なお、発明者は、柑橘類に属する複数の果実の様々な部位の組成等を確認したところ、柑橘類の中でも特に種子部分の抽出物に、血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減という機能を向上させるリモノイドアグリコンが多く含まれていることを確認した。
よって、柑橘類種子抽出物のリモノイドアグリコンを用いることにより、少量の原料(ユズ種子、レモン種子、グレープフルーツ種子等)から多量のリモノイドアグリコンを得ることができるため、原料の使用量や原料コストを抑えることができるとともに、製造工程における抽出作業の負担の軽減や抽出時間の短縮にもつながる。
【0016】
[用途]
本実施形態に係る柑橘類種子抽出物含有組成物の新規な用途としては、次に示す用途が存在する。
【0017】
(血糖降下用)
血糖降下用とは、血糖値やHbA1cを降下させるという用途であり、詳細な用途としては、例えば、血糖降下剤、血糖降下用食品(健康食品)、血糖降下用医薬品である。
なお、HbA1cとは、ヘモグロビンのβ鎖のN末端のバリンにグルコースが安定的に結合したものを測定し、全体のヘモグロビン量に占める割合を算出して求められる値である。
【0018】
(骨格筋増量用)
骨格筋増量用とは、骨格筋の量を増やすという用途であり、詳細な用途としては、例えば、骨格筋増量剤、骨格筋増量用食品(健康食品)、骨格筋増量用医薬品である。
ここで、骨格筋とは、筋肉の一分類であり、骨格を動かす筋肉を示す。そして、骨格筋としては、例えば、腓腹筋等がある。
【0019】
(体脂肪低減用)
体脂肪低減用とは、体脂肪の量を減らすという用途であり、詳細な用途としては、例えば、体脂肪低減剤、体脂肪低減用食品(健康食品)、体脂肪低減用医薬品である。
そして、体脂肪(脂肪組織)としては、例えば、腎臓周囲脂肪、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪、皮下脂肪等がある。
【0020】
[組成物の構成]
本実施形態に係る組成物は、柑橘類種子抽出物由来のリモノイドアグリコン、リモノイドグリコシドを含んで構成される。
[リモノイドアグリコン]
リモノイドアグリコンは、柑橘類種子抽出物由来のもの(柑橘類種子抽出物に含まれているもの)であり、血糖を低下させたり、骨格筋を増量させたり、体脂肪を低減させたりするという効果を発揮する化合物群である。
【0021】
そして、リモノイドアグリコンのリモノイドとは、柑橘類の植物に多く含まれる天然の化学物質(フィトケミカル)のことであり、化学構造的にはフラノラクトン骨格を有する化学物質である。また、リモノイドアグリコンのアグリコンとは、グリコシド(配糖体)から糖部分が外れた非糖状態を示すものである。
【0022】
そして、リモノイドアグリコンは、以下に示すリモニン、ノミリン、デアセチルノミリン、およびオバクノンを含んで構成される。
【0023】
(リモニン)
リモニン(C2630)とは、以下の構造式により表される。
【化1】
【0024】
(ノミリン)
ノミリン(C2834)とは、以下の構造式により表される。
【化2】
【0025】
(デアセチルノミリン)
デアセチルノミリン(C2632)とは、以下の構造式により表される。
【化3】
【0026】
(オバクノン)
オバクノン(C2630)とは、以下の構造式により表される。
【化4】
【0027】
[オバクノンの含有割合]
本実施形態に係る組成物は、ノミリンの含有量に対するオバクノンの含有量(=オバクノンの含有量/ノミリンの含有量:以下、適宜「オバクノンの含有割合」という)が0.020以上である。
前記したリモノイドアグリコンの中でも、特に、オバクノンは、極少量で血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減の機能を発揮することができる。よって、本実施形態に係る組成物は、オバクノンの含有割合が0.020以上であれば、前記した各機能を十分に発揮することができる。そして、前記した各機能をより確実に発揮させるためには、オバクノンの含有割合は0.100以上であるのが好ましく、0.300以上であるのが特に好ましい。
なお、オバクノンの含有割合の上限については、特に限定されないが、後記する本実施形態の組成物の製造方法によると、5.000以下となる。
また、柑橘類種子抽出物含有組成物の固形分中にオバクノンが好ましくは0.001〜10質量%、さらに好ましくは0.005〜5質量%含有することが望ましい。
【0028】
そして、本実施形態に係る組成物のオバクノンの含有割合や含有量については、後記する加熱工程の処理により制御することができる。
【0029】
[リモノイドグリコシド]
リモノイドグリコシドは、柑橘類種子抽出物由来のもの(柑橘類種子抽出物に含まれているもの)であり、前記したリモノイドアグリコンに糖が結合(グリコシド結合)した化合物群である。
【0030】
[その他の含有物]
本実施形態に係る組成物は、前記したリモノイドアグリコンおよびリモノイドグリコシド以外にも、抽出残渣である糖類などを含んでいてもよい。
また、本実施形態に係る組成物は、食品や医薬品等の素材(材料、剤)として好適に用いる形態とするため、例えば、粉末状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、カプセル型、または、液体状とすることができる。
そして、本実施形態に係る組成物は、柑橘類抽出物を含有する組成物であればよいので、当然、柑橘類抽出物のみで構成されていてもよい。
【0031】
本実施形態に係る組成物の投与量は、対象の用途、対象者の年齢、体重等に応じて適宜設定することができるが、通常成人一日当たりオバクノンを乾燥物換算で0.1〜2,000mg/kg体重、好ましくは2〜300mg/kg体重程度投与することができる。なお、投与は単回投与でも数回に分けた投与でもよい。
【0032】
次に、前記した本実施形態に係る柑橘類種子抽出物含有組成物を含有する食品について説明する。
≪食品≫
本実施形態に係る食品とは、前記した組成物を含有する食品であり、血糖降下用、骨格筋増量用、体脂肪低減用の健康食品として利用することができる。
そして、本実施形態に係る食品とは、例えば、菓子、パン、牛乳、各種飲料、うどん、そば、パスタ、米飯、調味料、香辛料、惣菜、油脂含有食品、酒類、清涼飲料が挙げられる。なお、本実施形態に係る食品は、前記した食品の種類に応じて、当業者に公知の各種成分を配合して構成すればよい。
【0033】
次に、前記した本実施形態に係る柑橘類種子抽出物含有組成物を有効成分として含有する医薬品について説明する。
≪医薬品≫
本実施形態に係る医薬品とは、前記した組成物を有効成分として含有する医薬品であり、血糖降下用、骨格筋増量用、体脂肪低減用の医薬品として利用することができる。
そして、本実施形態に係る医薬品とは、薬剤としての操作性、あるいは生体に投与された際の吸収性等を向上させるため、前記した組成物を、常法に従い適当な賦形剤等の医薬品用担体と組合せて製剤化することが好ましい。
また、本実施形態に係る医薬品は、種々の剤型での投与が可能であり、例えば、経口投与剤としては、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、ドライシロップ剤が挙げられる。また、非経口投与剤としては、軟膏、経皮吸収性テープ等の経皮吸収剤、注射剤、坐薬、膣坐薬、噴霧剤等の経鼻投与剤が挙げられる。
【0034】
次に、前記した本実施形態に係る柑橘類種子抽出物含有組成物、食品および医薬品の製造方法について説明する。
≪柑橘類種子抽出物含有組成物等の製造方法≫
本実施形態に係る組成物の製造方法は、図17に示すように、加熱工程S1と、抽出工程S2と、を含むことを特徴とする。そして、本実施形態に係る組成物の製造方法は、後記する粉砕工程を含んでもよい。
【0035】
(加熱工程)
加熱工程S1とは、柑橘類種子を加熱する工程である。
そして、加熱工程S1における加熱の温度は、60℃以上であり、100℃以上が好ましい。このように柑橘類種子に対して所定温度以上の加熱を行うことにより、柑橘類種子内にオバクノンを発現させ、オバクノンの含有量を増加させることができる。その結果、この柑橘類種子から抽出した抽出物含有組成物は、血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減の機能を十分に発揮することができる。
加熱工程S1における加熱の温度の上限については、特に限定されないが、150℃を超えると、オバクノンを含めたリモノイドアグリコンが減少する虞があるという観点から、150℃以下が好ましく、140℃以下が特に好ましい。
【0036】
ここで、加熱工程S1とは、前記のとおり、柑橘類種子を加熱する工程であれば特に限定されないが、加熱することにより柑橘類種子を乾燥する役割をも果たす工程、つまり、乾燥工程であってもよく、加湿することなく柑橘類種子を乾燥する乾熱乾燥工程であってもよい。
そして、加熱工程S1において、前記した所定温度で柑橘類種子を加熱することにより、柑橘類種子が乾燥する場合は、加熱後の柑橘類種子のコンディション(状態)を略一定に保つことができる。その結果、後記の抽出工程S2における抽出条件の設定が容易となるとともに、最終的に得られる組成物の品質を安定させることができる。
【0037】
なお、前記した加熱の温度とは、詳細には、加熱工程S1における加熱環境内(雰囲気内)を測定した温度である。ただし、加熱工程S1では、加熱対象である柑橘類種子の温度も、加熱環境の温度と略同じ温度となっている。
【0038】
加熱工程S1における加熱の時間は、5分以上、好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上であれば、柑橘類種子内のオバクノンの含有量の増加という効果を十分に得ることができる。なお、加熱の時間が1440分を超えてもオバクノンの含有量はほとんど増加しないとともに、オバクノン以外のリモノイドアグリコンが減少する虞があるという観点から、1440分以内が好ましく、720分以内がさらに好ましく、360分以内が特に好ましい。
【0039】
なお、加熱工程S1における処理の方法は、前記した所定温度以上の温度環境(乾燥炉等)に柑橘類種子を静置するという方法、柑橘類種子に温風を吹き付けるという方法等、公知の方法で行えばよい。
【0040】
(粉砕工程)
粉砕工程とは、柑橘類種子を粉砕する工程である。この粉砕工程での粉砕方法は特に限定されず、粉砕処理機等を用いて公知の方法で行えばよい。
そして、この粉砕工程は、前記した加熱工程S1の後であって、後記の抽出工程S2の前に行うが、加熱工程S1の前に行ってもよい。
【0041】
(抽出工程)
抽出工程S2とは、柑橘類種子より抽出物を抽出する工程である。
そして、抽出工程S2での抽出処理は、前記した加熱工程S1後(または、粉砕工程後)の柑橘類種子を、極性溶媒を用いて抽出する処理である。
【0042】
抽出工程S2での極性溶媒を用いた抽出の温度は、0℃〜極性溶媒の沸点程度であり、通常は常温で行う。例えば、極性溶媒としてエタノールを使用する場合、抽出効率の観点から、0℃以上70℃未満が好ましく、5℃以上60℃以下がより好ましい。例えば、極性溶媒として水を使用する場合、抽出効率の観点から、0℃以上100℃以下が好ましく、25℃以上100℃以下がより好ましい。
【0043】
抽出工程S2での抽出時間は、1分〜24時間が好ましいが、これより長時間抽出を行ってもよい。そして、抽出は、静置、攪拌のいずれの手法を用いてもよい。
抽出工程S2での抽出処理としては、例えば、前記した加熱工程S1後(または、粉砕工程後)の柑橘類種子に1〜50倍量、好ましくは5〜20倍量程度の極性溶媒を加え抽出することにより柑橘類抽出物を得ることができる。そして、適宜、定法に従い希釈、濃縮、乾燥、精製等を行うことで柑橘類種子抽出物含有組成物を得ることができる。
【0044】
抽出工程S2で用いる極性溶媒としては、食品添加物の抽出溶剤となり得る極性溶媒であれば特に限定されず、例えば、アセトン、エタノール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテン、1−ブタノール、2−ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、プロピレングリコール、ヘキサン、水、メタノール等から選択される1または複数の有機溶媒を用いることができる。
これらのうち好ましくは、エタノール(10体積%以上100体積%以下)、メタノール(10体積%以上99.5体積%未満)、1−ブタノール(30体積%以上99.5体積%未満)、ヘキサン(5体積%70体積%未満)および水から選択される有機溶媒を用いることができ、より好ましくは、エタノールまたは水を用いることができ、最も好ましくはエタノールを用いることができる。
例えば、極性溶媒として、10体積%以上100体積%以下のエタノール溶媒を用いることができ、好ましくは50体積%以上100体積%以下のエタノール溶媒を用いることができ、より好ましくは70体積%程度のエタノール溶媒用いることができる。なお、70体積%のエタノール溶媒とは、水とエタノールの体積比3:7の混合物を指す。
【0045】
そして、本実施形態に係る柑橘類種子抽出物含有組成物は、前記のとおり、柑橘類種子の有機溶媒抽出物であることが好ましく、柑橘類種子のアルコール抽出物であることがより好ましく、柑橘類種子のエタノール抽出物であることが特に好ましい。
【0046】
なお、本実施形態に係る食品および医薬品の製造方法については、前記の方法によって製造した柑橘類種子抽出物含有組成物を、食品や医薬品の材料に混合させ、その後は、当業者に公知の食品や医薬品の製造方法によって製造すればよい。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明に係る柑橘類種子抽出物含有組成物、食品および医薬品について説明する。
【0048】
詳細には、まず、実験1〜3に基づき、ユズ種子抽出物およびリモノイドアグリコンが、血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減の機能を発揮する点について説明する。
次に、実験4に基づき、リモノイドアグリコンを構成する化合物を特定する。
その次に、実験5に基づき、リモノイドアグリコンの中でも特にオバクノンが、血糖降下の機能を十分に発揮する点について説明する。
さらに、実験6に基づき、ユズ種子に施す乾熱乾燥の温度および時間がオバクノンの相対量および含有割合に与える影響について説明する。
最後に、実験7に基づき、ユズ種子以外の柑橘類種子を用いた場合において、乾熱乾燥がオバクノンの発現に与える影響について説明する。
【0049】
[実験1:KKAyマウスを用いた動物実験(血糖値およびHbA1c)]
(実験飼育の条件)
糖尿病発症モデルマウスとして3週齢のKKAyマウスを日本クレアより購入し、7日間の予備飼育後に実験飼育を行った。なお、マウスの飼育条件は、温度23±1℃、湿度55±10%、午前7時〜午後7時の間点灯(その他は消灯)、水と飼料は自由摂取させた。
【0050】
(実験飼料の組成)
実験飼料は、AIN−93Gを用い、これにユズ種子抽出物を1質量%または3質量%となるように、あるいはピオグリタゾンを0.03質量%となるように混餌して投与した。
なお、実験1において使用したユズ種子抽出物は、ユズ種子を100℃、720minで乾熱乾燥した後、粒径(直径)がほぼ1mm以下となるように粉砕し、粉砕したユズ種子に対して10倍量の100%エタノールを用いて常温で10分間抽出を行って得たものである。
【0051】
(実験結果の測定方法)
コントロール群(何も混餌していないAIN−93Gを投与した群)、ユズ種子抽出物1質量%添加群、ユズ種子抽出物3質量%添加群、ピオグリタゾン0.03質量%添加群は、各群10匹で7日間の予備飼育後、28日間実験飼料で飼育した。
実験飼育開始後、所定日数経過した日の午前9〜11時の間に尾静脈より採血し、血糖値検査装置(HORIBA社製、アントセンスIIIおよびバイエル社製、DCA2000)を用いて血糖値およびHbA1cを計測した。そして、計測した血糖値およびHbA1cについて、各群の平均値を算出した。
なお、実験において計測および算出したHbA1cは、全てJDS値である。
【0052】
図1は、実験飼料を与えたKKAyマウスの血糖値の推移を示し、図2は、実験飼料を与えたKKAyマウスのHbA1cの推移を示す。なお、図1の縦軸は血糖値(mg/dl)であり、図2の縦軸はHbA1c(%)であり、横軸はいずれも実験飼育開始後の経過日数(日)である。
なお、図中の「p<数値vs control」とは、control群に対してp値が表記した数値より小さいという意味である。
【0053】
(実験結果の検討)
図1の結果が示すように、コントロール群は、日数が経過するにしたがい血糖値が上昇しているのに対し、ユズ種子抽出物添加群は、血糖値の上昇を抑制し、血糖値を低下させていることがわかる。そして、ユズ種子抽出物1質量%添加群の結果から、血糖値低下の効果を十分に確認することができ、特に、ユズ種子抽出物3質量%添加群の結果は、0日目よりも14、27日目の血糖値の方が低くなるとともに、ピオグリタゾンを投与した群と比較しても、同等以上の血糖値低下の効果を確認することができた。
【0054】
図2の結果が示すように、ユズ種子抽出物添加群は、HbA1cを低下させていることがわかった。そして、ユズ種子抽出物1および3質量%添加群の結果から、HbA1c低下の効果を十分に確認することができた。
【0055】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物は、通常時の血糖値を低下させるという効果だけでなく、慢性の高血糖状態における血糖値をも低下させる効果があることを確認できた。
【0056】
[実験2:KKAyマウスを用いた動物実験(血糖値およびHbA1c)]
実験飼育の条件、実験結果の測定方法については、前記実験1と同様の条件(ただし各群8匹または9匹)および方法を用いた。
【0057】
(実験飼料の組成)
実験飼料についても、前記実験1と基本同様のものを用いているが、実験飼料にユズ種子抽出物(飼料中3質量%)を含有させた飼料以外にも、リモノイドアグリコン、リモノイドグリコシド(ともにユズ種子抽出物群の摂取量と等量になるように調製)を含有させた飼料を使用した。
なお、リモノイドアグリコンおよびリモノイドグリコシドは、実験1と同様の方法で準備したユズ種子抽出物から分画して得られたものを使用した。
【0058】
図3は、実験飼料を与えたKKAyマウスの血糖値の推移を示し、図4は、実験飼料を与えたKKAyマウスのHbA1cの推移を示す。なお、図3の縦軸は血糖値(mg/dl)であり、図4の縦軸はHbA1c(%)であり、横軸はいずれも実験飼育開始後の経過日数(日)である。
【0059】
(実験結果の検討)
図3の結果が示すように、リモノイドグリコシド添加群は、7日目ではコントロール群と比較し血糖値の上昇をある程度抑制できているが、日数が経過するにしたがいコントロール群が示す血糖値と略同じ値を示す結果となった。
一方、リモノイドアグリコン添加群は、7日目以降、コントロール群と比較し、大幅に血糖値を低下させるという結果となった。また、リモノイドアグリコン添加群は、ユズ種子抽出物添加群(図3中のtotal)が示す血糖値と略同じ値を示す結果となった。
【0060】
図4の結果が示すように、リモノイドアグリコン添加群は、28日目において、コントロール群およびリモノイドグリコシド添加群と比較し、大幅にHbA1cの上昇を抑制し、HbA1cを低下させていることがわかった。また、リモノイドアグリコン添加群は、ユズ種子抽出物添加群(図中のtotal)が示すHbA1cと略同じ値を示す結果となった。
【0061】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物の中でも、主にリモノイドアグリコンが、血中の血糖値を低下させるという効果、および、慢性の高血糖状態における血糖値を低下させる効果を発揮することが確認できた。
【0062】
[実験3:KKAyマウスを用いた動物実験(骨格筋増量および体脂肪低減)]
実験飼育の条件については、前記実験1と同様の条件(ただし各群8匹または9匹)で行い、実験飼料については、前記実験2と同様の飼料を用いた。
【0063】
(実験結果の測定方法)
コントロール群、リモノイドグリコシド添加群、リモノイドアグリコン添加群、ユズ種子抽出物添加群は、各群8匹または9匹で7日間の予備飼育後、28日間実験飼料で飼育した。
【0064】
骨格筋の筋肉量の変動を確認するため、実験飼育開始後28日目のマウスについて、マウス体重に対する「腓腹筋」の重量割合(=腓腹筋重量(g)/マウス体重(g))を計測した。
また、脂肪の量の変動を測定するため、実験飼育開始後28日目のマウスについて、マウス体重に対する「腎臓周囲脂肪」、「腸間膜脂肪」、「精巣上体周囲脂肪」、「皮下脂肪」の重量割合(=各脂肪重量(g)/マウス体重(g))を計測した。
そして、計測した筋肉および脂肪の重量割合について、各群の平均値を算出した。
なお、前記筋肉および脂肪の重量の測定は、各組織を摘出し、生理食塩水で洗浄後、脱脂綿で水分を除去して行った。
【0065】
図5は、実験飼育開始後28日目のKKAyマウスの腓腹筋の重量割合を示す。また、図6の(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、実験飼育開始後28日目のKKAyマウスの腎臓周囲脂肪、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪、皮下脂肪の重量割合を示す。
【0066】
(実験結果の検討)
図5の結果が示すように、リモノイドアグリコン添加群は腓腹筋の重量割合を上昇させるという結果となった。
【0067】
図6の(a)、(b)、(c)、(d)の結果が示すように、リモノイドアグリコン添加群は、腎臓周囲脂肪、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪、皮下脂肪の重量割合のいずれの重量割合も低下するという結果となった。
【0068】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物の中でも、主にリモノイドアグリコンが、骨格筋を増量させるという効果、および、体脂肪を低減させるという効果を発揮することが確認できた。
【0069】
[実験4:柑橘類種子抽出物に含まれるリモノイドアグリコン]
実験3で得られたリモノイドアグリコンをシリカゲルカラム(daisogel 1002A IR60−40/63A)を用いて分画し、4種のリモノイドアグリコンを得た。これらのサンプルを定法に基づきLC−MS解析に供した結果を図7〜10に示す。
【0070】
(実験結果の検討)
図7から、このサンプルのm/zは473.2162であり、このリモノイドアグリコンがデアセチルノミリン([M+H]は473.2175)であることがわかる。また、図8から、このサンプルのm/zは471.2006であり、このリモノイドアグリコンがリモニン([M+H]は471.2019)であることがわかる。また、図9より、このサンプルのm/zは515.2283であり、このリモノイドアグリコンがノミリン([M+H]は515.2281)であることがわかる。また、図10より、このサンプルのm/zは455.2055であり、このリモノイドアグリコンがオバクノン([M+H]は455.2070)であることがわかる。
【0071】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物のリモノイドアグリコンには、デアセチルノミリン、リモニン、ノミリン、オバクノンが含まれていることが確認できた。
【0072】
[実験5:KKAyマウスを用いた動物実験(血糖値およびHbA1c)]
実験飼育の条件および実験結果の測定方法については、前記実験1と同様の条件(ただし各群8匹とし、水と飼料は自由摂取ではなくペアフィード)および測定方法で行った。
【0073】
(実験飼料の組成)
実験飼料は、AIN−93Gを用い、これにオバクノンを0.035質量%となるように含有させたものを使用した。
なお、実験5において使用したオバクノンは、ユズ種子を100℃、720minで乾熱乾燥した後、粒径(直径)がほぼ1mm以下となるように粉砕し、粉砕したユズ種子に対して10倍量の100%エタノールを用いて常温で10分間抽出を行い、得られた抽出物からシリカゲルカラム(daisogel 1002A IR60−40/63A)を用いて分画したものである。
【0074】
図11は、実験飼料を与えたKKAyマウスの血糖値(実験開始から28日目)を示し、図12は、実験飼料を与えたKKAyマウスのHbA1cの推移を示す。なお、図11の縦軸は血糖値(mg/dl)であり、図12の縦軸はHbA1c(%)であり、図12の横軸は実験飼育開始後の経過日数(日)である。
【0075】
(実験結果の検討)
図11の結果が示すように、オバクノン添加群は、コントロール群と比較して、血糖値が50mg/dl程度低くなっていることがわかった。また、図12の結果が示すように、オバクノン添加群は、HbA1cが低下していることがわかった。
そして、オバクノン添加群の実験飼料は、オバクノンを0.035質量%という極微量しか混餌していないにもかかわらず、図11、12に示すような効果を得られたことから、オバクノンは極微量であっても、血糖値およびHbA1cの低下に大きく寄与することが確認できた。
【0076】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物は、オバクノンを含有することにより、血糖値およびHbA1cの低下という効果を確実に発揮できるということが確認できた。
【0077】
[実験6:乾熱乾燥によるオバクノンの発現と、その温度、時間による発現量の変動]
(実験サンプルの調整)
柑橘類種子として、「ユズ種子」を用意した。そして、ユズ種子に対して、乾熱乾燥を施した。その後、ユズ種子を粒径(直径)がほぼ1mm以下となるように粉砕し、粉砕したユズ種子に対して10倍量の100%エタノールを用いて常温で10分間抽出を行い、各サンプルを得た。
なお、実験6での「乾熱乾燥」は、所定温度にした乾燥炉内にユズ種子を所定時間静置するというものであった。
【0078】
(実験サンプルの測定方法)
前記した調整方法により得られたサンプル、ノミリン標準品、およびオバクノン標準品(ChromaDex社製)を、定法に基づきHPLC分析に供し、ノミリン、オバクノン量を定量した。その測定値に基づき「オバクノンの相対量」および「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」を算出した。HPLC分析は、Waters社Detector2996−controller600−auto sampler717plusシステムおよび資生堂社カラムCAPCELL PAK C18 UG120(150mm×4.6mmI.D.)を用い、水−アセトニトリルのグラジエント(0min 85:15→5min 77:23→25min 74:26→30min 60:40→45min 54:46、以降65minまで)にて溶出を行った。流速は1ml/minで、検出波長は210nmとした。
なお、「オバクノンの相対量」とは、図13および表1に示したサンプル(乾熱乾燥の時間を24時間に固定)については、乾熱乾燥の温度が100℃の場合の値を1.0000と規定した場合の相対量であり、図14および表2に示したサンプル(乾燥時間の温度を150℃に固定)については、乾熱乾燥の時間が30minの場合の値を1.0000と規定した場合の相対量である。
そして、「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」とは、ノミリン標準品とサンプルが示すノミリンの値を比較して算出したサンプル内の「ノミリンの含有量」と、オバクノン標準品とサンプルが示すオバクノンの値を比較して算出したサンプル内の「オバクノンの含有量」とを用いて求めた値である。
【0079】
なお、図13および表1は、乾熱乾燥の時間を24時間に固定して、乾熱乾燥の温度を変化させた場合の「オバクノンの相対量」および「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」を示す。また、図14および表2は、乾熱乾燥の温度を150℃に固定して、乾熱乾燥の時間を変化させた場合の「オバクノンの相対量」および「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」を示す。
なお、図または表中の「オバクノン」は「オバクノンの相対量」を示し、「オバクノン/ノミリン」は「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
(実験結果の検討)
図13および表1の結果が示すように、乾熱乾燥(加熱)の温度が60℃以上の場合に、オバクノンが発現することがわかった。また、乾熱乾燥(加熱)の温度が60℃以上の場合に、「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」の値が0.020以上となった。
図14および表2の結果が示すように、乾熱乾燥(加熱)の時間が5分以上の場合に、オバクノンが発現することがわかった。また、乾熱乾燥(加熱)の時間が10分以上の場合に、「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」の値が0.020以上となった。なお、乾熱乾燥(加熱)が1440分の場合に、抽出サンプル中のノミリン含有量、オバクノン含有量はそれぞれ133.7μg/ml、207.1μg/mlであり、乾熱乾燥(加熱)が4320分の場合には、抽出サンプル中のノミリン含有量、オバクノン含有量はそれぞれ67.5μg/ml、194.8μg/mlであった。
【0083】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物の製造方法は、柑橘類種子を60℃以上で加熱する加熱工程を含むことにより、「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」の値が0.020以上となる組成物、つまり、血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減という効果を確実に発揮できる組成物を製造できるということが確認できた。
【0084】
[実験7:ユズ種子以外の柑橘種子における乾熱乾燥によるオバクノンの発現]
(実験サンプルの調整)
柑橘類種子として、「レモン種子」、「グレープフルーツ種子」を用意した。そして、各種子に対して、凍結乾燥または乾熱乾燥(100℃、24時間)を施した。その後、各種子を粒径(直径)がほぼ1mm以下となるように粉砕し、粉砕したユズ種子に対して10倍量の100%エタノールを用いて常温で10分間抽出を行い、各サンプルを得た。
なお、実験7での「凍結乾燥」の方法は、共和真空技術製の凍結乾燥器RLE−103を用い、−30℃で凍結したサンプルを96時間乾燥させるというものであった。また、実験7での「乾熱乾燥」は、雰囲気温度を100℃にした乾燥炉内に各種子を24時間静置するというものであった。
【0085】
(実験サンプルの測定方法)
前記した調整方法により得られたサンプルおよびオバクノン標準品(ChromaDex社製)を、実験6と同様の条件にてHPLC分析に供した結果を図15、16に示す。
【0086】
なお、図15の(a)、(b)、(c)は、それぞれ、凍結乾燥したレモン種子サンプルの測定結果、乾熱乾燥したレモン種子サンプルの測定結果、オバクノン標準品の測定結果を示す。また、図16の(a)、(b)、(c)は、それぞれ、凍結乾燥したグレープフルーツ種子サンプルの測定結果、乾熱乾燥したグレープフルーツ種子サンプルの測定結果、オバクノン標準品の測定結果を示す。
【0087】
(実験結果の検討)
図15の(a)、図16の(a)のいずれの測定結果にも、オバクノン標準品が示す時間においてピークが確認できなかった、つまり、オバクノンはほとんど含有していないという結果が得られた。一方、図15の(b)、図16の(b)のいずれの測定結果にも、オバクノン標準品が示す時間において大きなピークが確認できた、つまり、オバクノンが含まれているという結果が得られた。
言い換えると、柑橘類種子を凍結乾燥した場合にほとんど含まれていなかったオバクノンが、柑橘類種子を乾熱乾燥(加熱)することによって発現することがわかった。
【0088】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(レモン種子、グレープフルーツ種子)抽出物含有組成物の製造方法は、柑橘類種子を加熱する加熱工程を含むことにより、オバクノンを含有し、血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減という効果を確実に発揮できる組成物を製造できるということが確認できた。
【0089】
本発明に係る柑橘類種子抽出物含有組成物、食品、医薬品、および柑橘類種子抽出物含有組成物の製造方法について、実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、特許請求の範囲の記載に基づいて改変・変更等することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0090】
S1 加熱工程
S2 抽出工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17