【実施例】
【0047】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明に係る柑橘類種子抽出物含有組成物、食品および医薬品について説明する。
【0048】
詳細には、まず、実験1〜3に基づき、ユズ種子抽出物およびリモノイドアグリコンが、血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減の機能を発揮する点について説明する。
次に、実験4に基づき、リモノイドアグリコンを構成する化合物を特定する。
その次に、実験5に基づき、リモノイドアグリコンの中でも特にオバクノンが、血糖降下の機能を十分に発揮する点について説明する。
さらに、実験6に基づき、ユズ種子に施す乾熱乾燥の温度および時間がオバクノンの相対量および含有割合に与える影響について説明する。
最後に、実験7に基づき、ユズ種子以外の柑橘類種子を用いた場合において、乾熱乾燥がオバクノンの発現に与える影響について説明する。
【0049】
[実験1:KKAyマウスを用いた動物実験(血糖値およびHbA1c)]
(実験飼育の条件)
糖尿病発症モデルマウスとして3週齢のKKAyマウスを日本クレアより購入し、7日間の予備飼育後に実験飼育を行った。なお、マウスの飼育条件は、温度23±1℃、湿度55±10%、午前7時〜午後7時の間点灯(その他は消灯)、水と飼料は自由摂取させた。
【0050】
(実験飼料の組成)
実験飼料は、AIN−93Gを用い、これにユズ種子抽出物を1質量%または3質量%となるように、あるいはピオグリタゾンを0.03質量%となるように混餌して投与した。
なお、実験1において使用したユズ種子抽出物は、ユズ種子を100℃、720minで乾熱乾燥した後、粒径(直径)がほぼ1mm以下となるように粉砕し、粉砕したユズ種子に対して10倍量の100%エタノールを用いて常温で10分間抽出を行って得たものである。
【0051】
(実験結果の測定方法)
コントロール群(何も混餌していないAIN−93Gを投与した群)、ユズ種子抽出物1質量%添加群、ユズ種子抽出物3質量%添加群、ピオグリタゾン0.03質量%添加群は、各群10匹で7日間の予備飼育後、28日間実験飼料で飼育した。
実験飼育開始後、所定日数経過した日の午前9〜11時の間に尾静脈より採血し、血糖値検査装置(HORIBA社製、アントセンスIIIおよびバイエル社製、DCA2000)を用いて血糖値およびHbA1cを計測した。そして、計測した血糖値およびHbA1cについて、各群の平均値を算出した。
なお、実験において計測および算出したHbA1cは、全てJDS値である。
【0052】
図1は、実験飼料を与えたKKAyマウスの血糖値の推移を示し、
図2は、実験飼料を与えたKKAyマウスのHbA1cの推移を示す。なお、
図1の縦軸は血糖値(mg/dl)であり、
図2の縦軸はHbA1c(%)であり、横軸はいずれも実験飼育開始後の経過日数(日)である。
なお、図中の「p<数値vs control」とは、control群に対してp値が表記した数値より小さいという意味である。
【0053】
(実験結果の検討)
図1の結果が示すように、コントロール群は、日数が経過するにしたがい血糖値が上昇しているのに対し、ユズ種子抽出物添加群は、血糖値の上昇を抑制し、血糖値を低下させていることがわかる。そして、ユズ種子抽出物1質量%添加群の結果から、血糖値低下の効果を十分に確認することができ、特に、ユズ種子抽出物3質量%添加群の結果は、0日目よりも14、27日目の血糖値の方が低くなるとともに、ピオグリタゾンを投与した群と比較しても、同等以上の血糖値低下の効果を確認することができた。
【0054】
図2の結果が示すように、ユズ種子抽出物添加群は、HbA1cを低下させていることがわかった。そして、ユズ種子抽出物1および3質量%添加群の結果から、HbA1c低下の効果を十分に確認することができた。
【0055】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物は、通常時の血糖値を低下させるという効果だけでなく、慢性の高血糖状態における血糖値をも低下させる効果があることを確認できた。
【0056】
[実験2:KKAyマウスを用いた動物実験(血糖値およびHbA1c)]
実験飼育の条件、実験結果の測定方法については、前記実験1と同様の条件(ただし各群8匹または9匹)および方法を用いた。
【0057】
(実験飼料の組成)
実験飼料についても、前記実験1と基本同様のものを用いているが、実験飼料にユズ種子抽出物(飼料中3質量%)を含有させた飼料以外にも、リモノイドアグリコン、リモノイドグリコシド(ともにユズ種子抽出物群の摂取量と等量になるように調製)を含有させた飼料を使用した。
なお、リモノイドアグリコンおよびリモノイドグリコシドは、実験1と同様の方法で準備したユズ種子抽出物から分画して得られたものを使用した。
【0058】
図3は、実験飼料を与えたKKAyマウスの血糖値の推移を示し、
図4は、実験飼料を与えたKKAyマウスのHbA1cの推移を示す。なお、
図3の縦軸は血糖値(mg/dl)であり、
図4の縦軸はHbA1c(%)であり、横軸はいずれも実験飼育開始後の経過日数(日)である。
【0059】
(実験結果の検討)
図3の結果が示すように、リモノイドグリコシド添加群は、7日目ではコントロール群と比較し血糖値の上昇をある程度抑制できているが、日数が経過するにしたがいコントロール群が示す血糖値と略同じ値を示す結果となった。
一方、リモノイドアグリコン添加群は、7日目以降、コントロール群と比較し、大幅に血糖値を低下させるという結果となった。また、リモノイドアグリコン添加群は、ユズ種子抽出物添加群(
図3中のtotal)が示す血糖値と略同じ値を示す結果となった。
【0060】
図4の結果が示すように、リモノイドアグリコン添加群は、28日目において、コントロール群およびリモノイドグリコシド添加群と比較し、大幅にHbA1cの上昇を抑制し、HbA1cを低下させていることがわかった。また、リモノイドアグリコン添加群は、ユズ種子抽出物添加群(図中のtotal)が示すHbA1cと略同じ値を示す結果となった。
【0061】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物の中でも、主にリモノイドアグリコンが、血中の血糖値を低下させるという効果、および、慢性の高血糖状態における血糖値を低下させる効果を発揮することが確認できた。
【0062】
[実験3:KKAyマウスを用いた動物実験(骨格筋増量および体脂肪低減)]
実験飼育の条件については、前記実験1と同様の条件(ただし各群8匹または9匹)で行い、実験飼料については、前記実験2と同様の飼料を用いた。
【0063】
(実験結果の測定方法)
コントロール群、リモノイドグリコシド添加群、リモノイドアグリコン添加群、ユズ種子抽出物添加群は、各群8匹または9匹で7日間の予備飼育後、28日間実験飼料で飼育した。
【0064】
骨格筋の筋肉量の変動を確認するため、実験飼育開始後28日目のマウスについて、マウス体重に対する「腓腹筋」の重量割合(=腓腹筋重量(g)/マウス体重(g))を計測した。
また、脂肪の量の変動を測定するため、実験飼育開始後28日目のマウスについて、マウス体重に対する「腎臓周囲脂肪」、「腸間膜脂肪」、「精巣上体周囲脂肪」、「皮下脂肪」の重量割合(=各脂肪重量(g)/マウス体重(g))を計測した。
そして、計測した筋肉および脂肪の重量割合について、各群の平均値を算出した。
なお、前記筋肉および脂肪の重量の測定は、各組織を摘出し、生理食塩水で洗浄後、脱脂綿で水分を除去して行った。
【0065】
図5は、実験飼育開始後28日目のKKAyマウスの腓腹筋の重量割合を示す。また、
図6の(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、実験飼育開始後28日目のKKAyマウスの腎臓周囲脂肪、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪、皮下脂肪の重量割合を示す。
【0066】
(実験結果の検討)
図5の結果が示すように、リモノイドアグリコン添加群は腓腹筋の重量割合を上昇させるという結果となった。
【0067】
図6の(a)、(b)、(c)、(d)の結果が示すように、リモノイドアグリコン添加群は、腎臓周囲脂肪、腸間膜脂肪、精巣上体周囲脂肪、皮下脂肪の重量割合のいずれの重量割合も低下するという結果となった。
【0068】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物の中でも、主にリモノイドアグリコンが、骨格筋を増量させるという効果、および、体脂肪を低減させるという効果を発揮することが確認できた。
【0069】
[実験4:柑橘類種子抽出物に含まれるリモノイドアグリコン]
実験3で得られたリモノイドアグリコンをシリカゲルカラム(daisogel 1002A IR60−40/63A)を用いて分画し、4種のリモノイドアグリコンを得た。これらのサンプルを定法に基づきLC−MS解析に供した結果を
図7〜10に示す。
【0070】
(実験結果の検討)
図7から、このサンプルのm/zは473.2162であり、このリモノイドアグリコンがデアセチルノミリン([M+H]
+は473.2175)であることがわかる。また、
図8から、このサンプルのm/zは471.2006であり、このリモノイドアグリコンがリモニン([M+H]
+は471.2019)であることがわかる。また、
図9より、このサンプルのm/zは515.2283であり、このリモノイドアグリコンがノミリン([M+H]
+は515.2281)であることがわかる。また、
図10より、このサンプルのm/zは455.2055であり、このリモノイドアグリコンがオバクノン([M+H]
+は455.2070)であることがわかる。
【0071】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物のリモノイドアグリコンには、デアセチルノミリン、リモニン、ノミリン、オバクノンが含まれていることが確認できた。
【0072】
[実験5:KKAyマウスを用いた動物実験(血糖値およびHbA1c)]
実験飼育の条件および実験結果の測定方法については、前記実験1と同様の条件(ただし各群8匹とし、水と飼料は自由摂取ではなくペアフィード)および測定方法で行った。
【0073】
(実験飼料の組成)
実験飼料は、AIN−93Gを用い、これにオバクノンを0.035質量%となるように含有させたものを使用した。
なお、実験5において使用したオバクノンは、ユズ種子を100℃、720minで乾熱乾燥した後、粒径(直径)がほぼ1mm以下となるように粉砕し、粉砕したユズ種子に対して10倍量の100%エタノールを用いて常温で10分間抽出を行い、得られた抽出物からシリカゲルカラム(daisogel 1002A IR60−40/63A)を用いて分画したものである。
【0074】
図11は、実験飼料を与えたKKAyマウスの血糖値(実験開始から28日目)を示し、
図12は、実験飼料を与えたKKAyマウスのHbA1cの推移を示す。なお、
図11の縦軸は血糖値(mg/dl)であり、
図12の縦軸はHbA1c(%)であり、
図12の横軸は実験飼育開始後の経過日数(日)である。
【0075】
(実験結果の検討)
図11の結果が示すように、オバクノン添加群は、コントロール群と比較して、血糖値が50mg/dl程度低くなっていることがわかった。また、
図12の結果が示すように、オバクノン添加群は、HbA1cが低下していることがわかった。
そして、オバクノン添加群の実験飼料は、オバクノンを0.035質量%という極微量しか混餌していないにもかかわらず、
図11、12に示すような効果を得られたことから、オバクノンは極微量であっても、血糖値およびHbA1cの低下に大きく寄与することが確認できた。
【0076】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物は、オバクノンを含有することにより、血糖値およびHbA1cの低下という効果を確実に発揮できるということが確認できた。
【0077】
[実験6:乾熱乾燥によるオバクノンの発現と、その温度、時間による発現量の変動]
(実験サンプルの調整)
柑橘類種子として、「ユズ種子」を用意した。そして、ユズ種子に対して、乾熱乾燥を施した。その後、ユズ種子を粒径(直径)がほぼ1mm以下となるように粉砕し、粉砕したユズ種子に対して10倍量の100%エタノールを用いて常温で10分間抽出を行い、各サンプルを得た。
なお、実験6での「乾熱乾燥」は、所定温度にした乾燥炉内にユズ種子を所定時間静置するというものであった。
【0078】
(実験サンプルの測定方法)
前記した調整方法により得られたサンプル、ノミリン標準品、およびオバクノン標準品(ChromaDex社製)を、定法に基づきHPLC分析に供し、ノミリン、オバクノン量を定量した。その測定値に基づき「オバクノンの相対量」および「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」を算出した。HPLC分析は、Waters社Detector2996−controller600−auto sampler717plusシステムおよび資生堂社カラムCAPCELL PAK C18 UG120(150mm×4.6mmI.D.)を用い、水−アセトニトリルのグラジエント(0min 85:15→5min 77:23→25min 74:26→30min 60:40→45min 54:46、以降65minまで)にて溶出を行った。流速は1ml/minで、検出波長は210nmとした。
なお、「オバクノンの相対量」とは、
図13および表1に示したサンプル(乾熱乾燥の時間を24時間に固定)については、乾熱乾燥の温度が100℃の場合の値を1.0000と規定した場合の相対量であり、
図14および表2に示したサンプル(乾燥時間の温度を150℃に固定)については、乾熱乾燥の時間が30minの場合の値を1.0000と規定した場合の相対量である。
そして、「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」とは、ノミリン標準品とサンプルが示すノミリンの値を比較して算出したサンプル内の「ノミリンの含有量」と、オバクノン標準品とサンプルが示すオバクノンの値を比較して算出したサンプル内の「オバクノンの含有量」とを用いて求めた値である。
【0079】
なお、
図13および表1は、乾熱乾燥の時間を24時間に固定して、乾熱乾燥の温度を変化させた場合の「オバクノンの相対量」および「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」を示す。また、
図14および表2は、乾熱乾燥の温度を150℃に固定して、乾熱乾燥の時間を変化させた場合の「オバクノンの相対量」および「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」を示す。
なお、図または表中の「オバクノン」は「オバクノンの相対量」を示し、「オバクノン/ノミリン」は「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
(実験結果の検討)
図13および表1の結果が示すように、乾熱乾燥(加熱)の温度が60℃以上の場合に、オバクノンが発現することがわかった。また、乾熱乾燥(加熱)の温度が60℃以上の場合に、「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」の値が0.020以上となった。
図14および表2の結果が示すように、乾熱乾燥(加熱)の時間が5分以上の場合に、オバクノンが発現することがわかった。また、乾熱乾燥(加熱)の時間が10分以上の場合に、「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」の値が0.020以上となった。なお、乾熱乾燥(加熱)が1440分の場合に、抽出サンプル中のノミリン含有量、オバクノン含有量はそれぞれ133.7μg/ml、207.1μg/mlであり、乾熱乾燥(加熱)が4320分の場合には、抽出サンプル中のノミリン含有量、オバクノン含有量はそれぞれ67.5μg/ml、194.8μg/mlであった。
【0083】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(ユズ種子)抽出物含有組成物の製造方法は、柑橘類種子を60℃以上で加熱する加熱工程を含むことにより、「オバクノンの含有量/ノミリンの含有量」の値が0.020以上となる組成物、つまり、血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減という効果を確実に発揮できる組成物を製造できるということが確認できた。
【0084】
[実験7:ユズ種子以外の柑橘種子における乾熱乾燥によるオバクノンの発現]
(実験サンプルの調整)
柑橘類種子として、「レモン種子」、「グレープフルーツ種子」を用意した。そして、各種子に対して、凍結乾燥または乾熱乾燥(100℃、24時間)を施した。その後、各種子を粒径(直径)がほぼ1mm以下となるように粉砕し、粉砕したユズ種子に対して10倍量の100%エタノールを用いて常温で10分間抽出を行い、各サンプルを得た。
なお、実験7での「凍結乾燥」の方法は、共和真空技術製の凍結乾燥器RLE−103を用い、−30℃で凍結したサンプルを96時間乾燥させるというものであった。また、実験7での「乾熱乾燥」は、雰囲気温度を100℃にした乾燥炉内に各種子を24時間静置するというものであった。
【0085】
(実験サンプルの測定方法)
前記した調整方法により得られたサンプルおよびオバクノン標準品(ChromaDex社製)を、実験6と同様の条件にてHPLC分析に供した結果を
図15、16に示す。
【0086】
なお、
図15の(a)、(b)、(c)は、それぞれ、凍結乾燥したレモン種子サンプルの測定結果、乾熱乾燥したレモン種子サンプルの測定結果、オバクノン標準品の測定結果を示す。また、
図16の(a)、(b)、(c)は、それぞれ、凍結乾燥したグレープフルーツ種子サンプルの測定結果、乾熱乾燥したグレープフルーツ種子サンプルの測定結果、オバクノン標準品の測定結果を示す。
【0087】
(実験結果の検討)
図15の(a)、
図16の(a)のいずれの測定結果にも、オバクノン標準品が示す時間においてピークが確認できなかった、つまり、オバクノンはほとんど含有していないという結果が得られた。一方、
図15の(b)、
図16の(b)のいずれの測定結果にも、オバクノン標準品が示す時間において大きなピークが確認できた、つまり、オバクノンが含まれているという結果が得られた。
言い換えると、柑橘類種子を凍結乾燥した場合にほとんど含まれていなかったオバクノンが、柑橘類種子を乾熱乾燥(加熱)することによって発現することがわかった。
【0088】
以上より、本発明に係る柑橘類種子(レモン種子、グレープフルーツ種子)抽出物含有組成物の製造方法は、柑橘類種子を加熱する加熱工程を含むことにより、オバクノンを含有し、血糖降下、骨格筋増量、体脂肪低減という効果を確実に発揮できる組成物を製造できるということが確認できた。
【0089】
本発明に係る柑橘類種子抽出物含有組成物、食品、医薬品、および柑橘類種子抽出物含有組成物の製造方法について、実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、特許請求の範囲の記載に基づいて改変・変更等することができることはいうまでもない。