(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電解質組成物が、少なくとも1種のさらなる添加剤(iv)を含み、該少なくとも1種の添加剤(iv)は、ビニレンカーボネート及びその誘導体、ビニルエチレンカーボネート及びその誘導体、メチルエチレンカーボネート及びその誘導体、リチウム(ビスオキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、リチウムオキサレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、環状エキソ−メチレンカーボネート、スルトン、環状及び非環状スルホネート、環状及び非環状スルフィット、環状及び非環状スルフィネート、無機酸の有機エステル、1バールで少なくとも36℃の沸点を有する非環状及び環状のアルカン、芳香族化合物、任意にハロゲン化された環状及び非環状のスルホニルイミド、任意にハロゲン化された環状及び非環状のホスフェートエステル、任意にハロゲン化された環状及び非環状のホスフィン、任意にハロゲン化された環状及び非環状のホスフィット、任意にハロゲン化された環状及び非環状のホスファゼン、任意にハロゲン化された環状及び非環状のシリルアミン、任意にハロゲン化された環状及び非環状のハロゲン化エステル、任意にハロゲン化された環状及び非環状のアミド、任意にハロゲン化された環状及び非環状の無水物、任意にハロゲン化されたヘテロ環から選択される請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで使用される用語「C
1−C
10アルキル」は、1個の自由原子価を有する1〜10個の炭素原子を備えた直鎖又は分岐の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル,n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、イソヘキシル、2−エチルヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、n−ノニル、n−デシル等を挙げることができる。C
1−C
6アルキル基が好ましく、C
1−C
4アルキル基がより好ましく、2−プロピル、メチル及びエチルが最も好ましい。
【0012】
ここで使用される用語「C
3−C
10シクロアルキル」は、1個の自由原子価を有する3〜10個の炭素原子を備えた環状飽和炭化水素基を意味し、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルが挙げられる。C
3−C
6シクロアルキルが好ましい。
【0013】
ここで使用される用語「C
2−C
10アルケニル」は、1個の自由原子価を有する2〜10個の炭素原子を備えた直鎖又は分岐の不飽和炭化水素基を意味し、即ち、この炭化水素基は少なくとも1個のC−C二重結合を含む。例えば、C
2−C
10アルケニルとしては、例えば、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−n−ブテニル、2−n−ブテニル、イソブテニル、1−ペンテニル、1−ヘキセニル等を挙げることができる。C
2−C
6アルケニル基が好ましく、さらにC
2−C
4アルケニル基がより好ましく、特に、エテニル及び1−プロペン−3−イル(アリル)が好ましい。
【0014】
ここで使用される用語「C
2−C
10アルキニル」は、1個の自由原子価を有する2〜10個の炭素原子を備えた直鎖又は分岐の不飽和炭化水素基を意味し、且つこの炭化水素基は少なくとも1個のC−C三重結合を含むものである。例えば、C
2−C
10アルキニルとしては、例えば、エチニル、1−プロペピニル、2−プロピニル、1−n−ブチニル、2−n−ブチニル、イソブチニル、1−ペンチニル、1−ヘキシニル等を挙げることができる。C
2−C
6アルキニルが好ましく、さらにC
2−C
4アルキニルがより好ましく、特に、1−プロピン−3−イル(プロパルキル)が好ましい。
【0015】
ここで使用される用語「C
6−C
14アリール」は、1個の自由原子価を有する5〜14員の芳香族炭化水素環を意味する。C
6アリールが好ましい。C
6−C
14アリールの例として、フェニル、ナフチル及びアントラシルを挙げることができ、フェニルが好ましい。
【0016】
ここで使用される用語「C
5−C
14ヘテロアリール」は、1個の自由原子価を有する5〜14員の芳香族炭化水素環で、少なくとも1個のC原子はN、O又はSで置換されたものを意味する。C
5−C
7ヘテロアリールが好ましい。C
5−C
14ヘテロアリールの例として、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピラニル、チオピラニル等を挙げることができる。
【0017】
ここで使用される用語「オリゴC
1−C
4アルキレンオキシド」は、各アルキレン基が1〜4個のC原子を含む、オリゴマーアルキレンオキシド基を意味する。アルキレン基は、それぞれのアルキル基から誘導され、アルカンジイルとも呼ばれる。オリゴアルキレンオキシド基は2〜10個のアルキレンオキシド単位を含む。アルキレンオキシド単位の例としては、メチレンオキシド(CH
2O)、1,2−エチレンオキシド(CH
2CH
2O)、1,3−プロピレンオキシド(CH
2CH
2CH
2O)、1,2−プロピレンオキシド(CH
2CH(CH
3)O)及びウ1,4−ブチレンオキシド(CH
2CH
2CH
2CH
2O)を挙げることができる。2〜10個のアルキレンオキシド単位は、同一又は異なるC
1−C
4アルキレンオキシドでもよく、例えば、エチレンオキシドの単独オリゴマー、及びエチレンオキシド及びプロピレンオキシドのオリゴマー共重合体が挙げられる。オリゴマーアルキレンオキシドの末端基は、OH又はOC
1−C
4アルキルでもよく、好ましくはオリゴマーアルキレンオキシドの末端基は、OC
1−C
4アルキルである。2〜10個のアルキレンオキシド単位を有するオリゴC
1−C
4アルキレンオキシドの例としては、ポリテトラヒドロフラン((C
4H
8O)
2〜10H)、ジエチレングリコール((CH
2CH
2O)
2H)、トリエチレングリコール ((CH
2CH
2O)
3H)及びジエチレングリコールメチルエーテル((CH
2CH
2O)
2OCH
3)を挙げることができる。オリゴC
2−C
3アルキレンオキシドが好ましく、オリゴエチレンオキシドがより好ましい。
【0018】
ここで使用される用語「ベンジル」は基CH
2C
6H
5を意味する。
【0019】
本発明によれば、置換基R
1、R
2、R
3及びR
4は、相互に独立して、C
1−C
10アルキル、C
2−C
10アルケニル、C
2−C
10アルキニル、C
3−C
10シクロアルキル、C
6−C
14アリール及び C
5−C
14ヘテロアリールから選択され、且つこれらのアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、F、CN、OR
5、
【化3】
及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル及びベンジルから選択される任意にフッ素化された基、から選択される1個以上の置換基で置換されていても良く、R
5は、H、2〜10個のアルキレンオキシド単位を有するオリゴC
1−C
4アルキレンオキシド、及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル、ベンジル及びC(O)OC
1−C
10アルキルから選択される任意にフッ素化された基から選択され、R
6はH、F及び任意にフッ素化されたC
1−C
4アルキルから選択され、且つR
4は、R
1、R
2、R
3のそれぞれと異なる。
【0020】
好ましくは、置換基R
1、R
2、R
3及びR
4は、C
1−C
6アルキル、C
2−C
6アルケニル、C
2−C
6アルキニル、C
3−C
6シクロアルキル、C
6−C
14アリール及び C
5−C
14ヘテロアリールから選択され、且つこれらのアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、F、CN、OR
5、
【化4】
及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル及びベンジルから選択される任意にフッ素化された基、から選択される1個以上の置換基で置換されていても良く、R
5は、H、2〜10個のアルキレンオキシド単位を有するオリゴC
2−C
3アルキレンオキシド、及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル、ベンジル及びC(O)OC
1−C
4アルキルから選択される任意にフッ素化された基から選択され、R
6はH、F及び任意にフッ素化されたC
1−C
4アルキルから選択され、且つR
4は、R
1、R
2、R
3のそれぞれと異なる。
【0021】
より好ましくは、置換基R
1、R
2及びR
3は、任意にフッ素化されたC
1−C
6アルキルであり、R
4はC
1−C
10アルキル(R
1、R
2及びR
3と同じではない)、C
2−C
10アルケニル、C
2−C
10アルキニル、C
3−C
10シクロアルキル、C
6−C
14アリール及び C
5−C
14ヘテロアリールから選択され、且つこれらのアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、F、CN、OR
5、
【化5】
及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル及びベンジルから選択される任意にフッ素化された基、から選択される1個以上の置換基で置換されていても良く、R
5は、H、2〜10個のアルキレンオキシド単位を有するオリゴC
1−C
4アルキレンオキシド、及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル、ベンジル及びC(O)OC
1−C
10アルキルから選択される任意にフッ素化された基から選択され、R
6はH、F及び任意にフッ素化されたC
1−C
4アルキルから選択される。
【0022】
この態様の範囲内において、R
4はC
1−C
6アルキル、C
2−C
6アルケニル、C
2−C
6アルキニル、C
3−C
6シクロアルキル、C
6−C
14アリール及び C
5−C
14ヘテロアリールから選択され、且つこれらのアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、F、CN、OR
5、
【化6】
及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル及びベンジルから選択される任意にフッ素化された基から選択される1個以上の置換基、で置換されていても良く、R
5は、H、2〜10個のアルキレンオキシド単位を有するオリゴC
1−C
4アルキレンオキシド、及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル、ベンジル及びC(O)OC
1−C
10アルキルから選択される任意にフッ素化された基から選択され、R
6はH、F及び任意にフッ素化されたC
1−C
4アルキルから選択される。
【0023】
より好ましくは、置換基R
1、R
2及びR
3はCH
3であり、そしてR
4はC
2−C
10アルキル、C
2−C
10アルケニル、C
2−C
10アルキニル、C
3−C
10シクロアルキル、C
6−C
14アリール及び C
5−C
14ヘテロアリールから選択され、且つこれらのアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、F、CN、OR
5、
【化7】
及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル及びベンジルから選択される任意にフッ素化された基、から選択される1個以上の置換基で置換されていても良く、R
5は、H、2〜10個のアルキレンオキシド単位を有するオリゴC
1−C
4アルキレンオキシド、及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル、ベンジル及びC(O)OC
1−C
10アルキルから選択される任意にフッ素化された基から選択され、R
6はH、F及び任意にフッ素化されたC
1−C
4アルキルから選択される。
【0024】
この態様内において、R
4はC
2−C
6アルキル、C
2−C
6アルケニル、C
2−C
6アルキニル、C
3−C
6シクロアルキル、C
6−C
14アリール及びC
5−C
14ヘテロアリールから選択され、且つこれらのアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、F、CN、OR
5、
【化8】
及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル及びベンジルから選択される任意にフッ素化された基から選択される1個以上の置換基、で置換されていても良く、R
5は、H、2〜10個のアルキレンオキシド単位を有するオリゴC
1−C
4アルキレンオキシド、及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル、ベンジル及びC(O)OC
1−C
4アルキルから選択される任意にフッ素化された基から選択され、R
6はH、F及び任意にフッ素化されたC
1−C
4アルキルから選択される。
【0025】
さらに好ましくは、R
4はC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、C
3−C
6シクロアルキル、C
6アリール及びC
5−C
7ヘテロアリールから選択され、且つこれらのアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、F、CN、OR
5、
【化9】
及びC
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル、C
2−C
4アルキニル、フェニル及びベンジルから選択される任意にフッ素化された基、から選択される1個以上の置換基で置換されていても良く、R
5は、H、2〜10個のアルキレンオキシド単位を有するオリゴC
2−C
3アルキレンオキシド、及びC
2−C
3アルキル、フェニル、ベンジル及びC(O)OC
1−C
4アルキルから選択される任意にフッ素化された基から選択され、そしてR
6はH、F及び任意にフッ素化されたC
1−C
4アルキルから選択される。
【0026】
式(I)の特に好ましい化合物は、リチウム3−アリルトリメチルボレート、リチウム3−プロパルギルトリメチルボレート、リチウムフェニルトリメチルボレート、リチウム4−ピリジルトリメチルボレート、リチウム3−ピリジルトリメチルボレート、リチウム2−ピリジルトリメチルボレート、リチウム2,2,2−トリフルオロエチルトリメチルボレート、リチウムグリセロールカーボネートトリメチルボレート、リチウムエチレングリコールメチルエーテルトリメチルボレート、リチウムジエチレングリコールメチルエーテルトリメチルボレート、リチウム4−フルオロフェニルトリメチルボレート、リチウム2−ブチニルトリメチルボレート、リチウム3−プロピオニトリルトリメチルボレート、及びリチウムトリフルオロエチルトリメチルボレートである。
【0027】
式(I)の化合物の製造は、当業者に公知である。これらの化合物は、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールのようなフッ素化2−プロパノール誘導体及びホスゲン、オキサリルクロリド、カルボン酸無水物、アルキルクロロホーメイト、及び他の出発材料から製造することができる。式(I)の化合物の製造に関する記述は、H. J. Kotzsch,Chem.Ber.1966,1143〜1148頁; US 3,359,296;及び J.J.Parlow等,J.Org.Chem.1997,62,5908〜5919頁に見られる。
【0028】
電解質組成物(A)における少なくとも1種の式(I)の化合物の濃度は、電解質組成物(A)の総重量に対して、通常0.001〜25質量%、好ましくは0.01〜2.0質量%、より好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.2〜0.4質量%である。
【0029】
電解質組成物(A)は、さらに、少なくとも1種の非プロトン性有機溶剤(i)、好ましくは少なくとも2種の非プロトン性有機溶剤(i)、より好ましくは少なくとも3種の非プロトン性有機溶剤(i)を含む。一態様によれば、電解質組成物(A)は10種以下の非プロトン性有機溶剤(i)を含むことができる。
【0030】
少なくとも1種の非プロトン性有機溶剤(i)は、
(a)部分的にハロゲン化されていても良い、環状又は非環状の有機カーボネート、
(b)部分的にハロゲン化されていても良い、ジ−C
1−C
10アルキルエーテル、
(c)部分的にハロゲン化されていても良い、ジ−C
1−C
4アルキル−C
2−C
6アルキレンエーテル及びポリエーテル、
(d)部分的にハロゲン化されていても良い、環状エーテル、
(e)部分的にハロゲン化されていても良い、環状又は非環状のアセタール及びケタール、
(f)部分的にハロゲン化されていても良い、オルトカルボン酸エステル、
(g)部分的にハロゲン化されていても良い、環状又は非環状のカルボン酸エステル、
(h)部分的にハロゲン化されていても良い、環状又は非環状のスルホン、
(i)部分的にハロゲン化されていても良い、環状又は非環状のニトリル及びジニトリル、及び
(j)部分的にハロゲン化されていても良い、イオン液体
から選択されることが好ましい。
【0031】
非プロトン性有機溶剤(a)〜(j)は、部分的にハロゲン化されていても良く、例えば、これらは部分的にフッ素化、部分的に塩素化、又は部分的に臭素化されていても良く、部分的にフッ素化されていることが好ましい。「部分的にハロゲン化」とは、各分子の1個以上のHをハロゲン原子、例えばF、Cl又はBrで置換されていることを意味する。Fで置換されているのが好ましい。前記少なくとも1種の溶剤(i)は、部分的にハロゲン化された及びハロゲン化されていない非プロトン性有機溶剤(a)〜(j)から選択することができ、即ち、電解質組成物は部分的にハロゲン化された及びハロゲン化されていない非プロトン性有機溶剤の混合物を含むことができる。
【0032】
より好ましくは、前記少なくとも1種の非プロトン性有機溶剤(i)は、環状又は非環状の有機カーボネート(a)、ジ−C
1−C
10アルキルエーテル(b)、ジ−C
1−C
4アルキル−C
2−C
6アルキレンエーテル及びポリエーテル(c)、及び環状又は非環状のアセタール及びケタール(e)から選択されることであり、一層好ましくは電解質組成物(A)が環状又は非環状の有機カーボネート(a)から選択される少なくとも1種の非プロトン性有機溶剤(i)を含むことであり、また最も好ましくは電解質組成物(A)が環状又は非環状の有機カーボネート(a)から選択される少なくとも2種の非プロトン性有機溶剤(i)を含むことであり、中でもは電解質組成物(A)が少なくとも1種の環状の有機カーボネート(a)及び少なくとも1種の非環状の有機カーボネート(a)(例、エチレンカーボネート及びジエチレンカーボネート)から選択される少なくとも1種の非プロトン性有機溶剤(i)を含むことである。後述の好ましい非プロトン性有機溶剤も部分的にハロゲン化されても良く、部分的にフッ素化されていても良いことが好ましい。
好適な有機カーボネート(a)の例としては、一般式(a1)、(a2)又は(a3)に従う環状有機カーボネートを挙げることができる:
【化10】
【0033】
上式において、R
a、R
b及びR
cは、同一でも異なっていても良く、相互に独立して、水素;C
1−C
4−アルキル(好ましくはメチル);F;及び1個以上のFで置換されたC
1−C
4−アルキル(例えばCF
3)である。
【0034】
「C
1−C
4−アルキル」は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、及びtert−ブチルを含むことを意図されている。
【0035】
好ましい環状有機カーボネート(a)は、R
a、R
b及びR
cがHの場合の一般式(a1)、(a2)又は(a3)に従うものである。例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、及びプロピレンカーボネートを挙げることができる。好ましい環状有機カーボネート(a)はエチレンカーボネートである。さらに好ましい環状有機カーボネート(a)は、ジフルオロエチレンカーボネート(a4)及びモノフルオロエチレンカーボネート(a5)である。
【0037】
好適な非環状有機カーボネート(a)の例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0038】
本発明の一態様では、電解質組成物(A)は、非環状有機カーボネート(a)及び環状有機カーボネート(a)を、1:10〜10:1、好ましくは3:1〜1:1の比で有する混合物を含んでいる。
【0039】
好適な非環状のジ−C
1−C
10アルキルエーテル(b)の例としては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、及びジ−n−ブチルエーテルを挙げることができる。
【0040】
ジ−C
1−C
4アルキル−C
2−C
6アルキレンエーテル(c)の例としては、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグリム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグリム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、及びジエチレングリコールジエチルエーテルを挙げることができる。
【0041】
好適なポリエーテル(c)の例としては、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ−C
1−C
4−アルキレングリコール、特にポリエチレングリコールを挙げることができる。ポリエチレングリコールは、共重合された状態で、20モル%以下の1種以上のC
1−C
4−アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、ジメチル−又はジエチル−末端キャップのポリアルキレングリコールが好ましい。好適なポリアルキレングリコール及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量M
wは、少なくとも400g/モルとすることができる。好適なポリアルキレングリコール及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量M
wは、5000000g/モル以下、2000000g/モル以下とすることができる。
【0042】
好適な環状エーテル(d)の例としては、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサンが挙げられる。
【0043】
好適な非環状アセタール(e)の例としては、1,1−ジメトキシメタン及び1,1−ジエトキシメタンが挙げられる。好適な環状アセタール(e)の例としては、1,3−ジオキサン及び1,3−ジオキソランが挙げられる。
【0044】
好適なオルトカルボン酸エステル(f)の例としては、トリ−C
1−C
4アルコキシメタン、特にトリメトキシメタン及びトリエトキシメタンが挙げられる。
【0045】
好適な非環状のカルボン酸エステル(g)の例としては、酢酸エチル、ブタン酸メチル、プロパン二酸1,3−ジメチル(マロン酸1,3−ジメチル)のようなジカルボン酸エステルが挙げられる。適当なカルボン酸の環状エステル(ラクトン)の例としては、γ−ブチロラクトンが挙げられる。
【0046】
適当な非環状スルホン(h)の例としてはエチルメチルスルホン及びジメチルスルホンが挙げられる。
【0047】
適当な環状及び非環状ニトリル及びジニトリル(i)の例としてはアジポニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリルイ及びブチロニトリルが挙げられる。
【0048】
本発明の電解質組成物(A)はさらに、式(I)の化合物とは異なる少なくとも1種の導電性塩(ii)を含んでいる。電解質組成物(A)は、電気化学セルにおいて起こる電気化学反応に参加するイオンを移動させる媒体として機能する。電解質に存在する導電性塩(ii)は、通常、非プロトン性有機溶剤(i)中で溶媒和される。導電性塩(ii)はリチウム塩であることが好ましい。導電性塩は、
Li[F
6−xP(C
yF
2y+1)
x](但し、xは0〜6の範囲の整数であり、yは1〜20の範囲の整数である。);
Li[B(R
10)
4]、Li[B(R
10)
2(OR
11O)]及びLi[B(OR
11O)
2]
[但し、それぞれのR
10は、相互に独立して、F、Cl、Br、I、C
1−C
4アルキル、C
2−C
4アルケニル及びC
2−C
4アルキニルから選択され、且つこれらのアルキル、アルケニル及びアルキニルは、1個以上のOR
12(但しR
12はC
1−C
6アルキル、C
2−C
6アルケニル及びC
2−C
6アルキニルから選択される)で置換されていても良く、そして
(OR
11O)は、1,2−又は1,3−ジオール、1,2−又は1,3−ジカルボン酸、1,2−又は1,3−ヒドロキシカルボン酸から誘導される2価の基であり、且つこの2価の基は、中心B原子と共に両方の酸素を介して5−又は6−員環を形成する];
一般式Li[X(C
nF
2n+1SO
2)
m]の塩
[但し、Xが酸素及びイオウから選択される場合m=1、
Xが窒素及びリンから選択される場合m=2、
Xが炭素及びケイ素から選択される場合m=3であり、
nが1〜20の範囲の整数である。];
LiClO
4;LiAsF
6;LiCF
3SO
3;Li
2SiF
6;LiSbF
6;LiAlCl
4;Li[N(SO
2F)
2];リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート;及びリチウムオキサレート
から選択されることが好ましい。
【0049】
2価の基(OR
11O)を誘導するのに適した1,2−及び1,3−ジオールは、脂肪族或いは芳香族でもよく、例えば、1,2−ヒドロキシベンゼンプロパン−1,2−ジオール、ブタン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,3−ジオール、シクロヘキシル−トランス−1,2−ジオール又はナフタレン−2,3−ジオール(これらは任意に1個以上のFで、及び/又は少なくとも1個の直鎖又は分岐の、フッ素化されていない、部分的部フッ素化、又は完全にフッ素化されたC
1−C
4アルキル基で置換されていても良い)から選択され得る。このような1,2−及び1,3−ジオールの例としては、1,1,2,2−テトラ(トリフルオロメチル)−1,2−エタンジオールを挙げることができる。
【0050】
2価の基(OR
11O)を誘導するのに適した1,2−及び1,3−ジカルボン酸は、脂肪族或いは芳香族でもよく、例えば、シュウ酸、マロン酸(プロパン−1,3−ジカルボン酸)、フタル酸又はイソフタル酸でもよく、シュウ酸が好ましい。1,2−及び1,3−ジカルボン酸は、任意に1個以上のFで、及び/又は少なくとも1個の直鎖又は分岐の、フッ素化されていない、部分的部フッ素化、又は完全にフッ素化されたC
1−C
4アルキル基で置換されていても良い。
【0051】
2価の基(OR
11O)を誘導するのに適した1,2−及び1,3−ヒドロキシカルボン酸は、脂肪族或いは芳香族でもよく、例えば、サリチル酸、テトラヒドロサリチル酸、リンゴ酸、2−ヒドロキシ酢酸でも良く、これらは任意に1個以上のFで、及び/又は少なくとも1個の直鎖又は分岐の、フッ素化されていない、部分的部フッ素化、又は完全にフッ素化されたC
1−C
4アルキル基で置換されていても良い。このような1,2−及び1,3−ヒドロキシカルボン酸の例としては、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−2−ヒドロキシ−酢酸を挙げることができる。
【0052】
Li[B(R
10)
4]、Li[B(R
10)
2(OR
11O)]及びLi[B(OR
11O)
2]の例としては、LiBF
4、 リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジオキサラトボレートを挙げることができる。
【0053】
少なくとも1種の導電性塩(ii)としては、LiPF
6、LiBF
4及びLiPF
3(CF
2CF
3)
3が好ましく、より好ましい導電性塩(ii)はLiPF
6及びLiBF
4から選択され、最も好ましい導電性塩(ii)はLiPF
6である。
【0054】
少なくとも1種の導電性塩(ii)は、電解質組成物の総質量に対して、通常、少なくとも0.01質量%、好ましくは少なくとも0.5質量%、より好ましくは少なくとも1質量%、最も好ましくは少なくとも5質量%の最低濃度で存在している。通常、少なくとも1種の導電性塩(ii)の最高濃度は、電解質組成物の総質量に対して25質量%である。
【0055】
さらに、本発明の電解質組成物(A)は、少なくとも1種のさらなる添加剤(iv)を含むことができる。少なくとも1種のさらなる添加剤(iv)は、ビニレンカーボネート及びその誘導体、ビニルエチレンカーボネート及びその誘導体、メチルエチレンカーボネート及びその誘導体、リチウム(ビスオキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、リチウムオキサレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、環状エキソメチレンカーボネート、スルトン、環状及び非環状スルホネート、環状及び非環状スルフィット、環状及び非環状スルフィネート、無機酸の有機エステル、1バールで少なくとも36℃の沸点を有する非環状及び環状のアルカン、及び芳香族化合物、任意にハロゲン化された環状及び非環状のスルホニルイミド、任意にハロゲン化された環状及び非環状のホスフェートエステル、任意にハロゲン化された環状及び非環状のホスフィン、任意にハロゲン化された環状及び非環状のホスフィット、任意にハロゲン化された環状及び非環状のホスファゼン、任意にハロゲン化された環状及び非環状のシリルアミン、任意にハロゲン化された環状及び非環状のハロゲン化エステル、任意にハロゲン化された環状及び非環状のアミド、任意にハロゲン化された環状及び非環状の無水物、任意にハロゲン化されたヘテロ環から選択され得る。
【0056】
好適な芳香族化合物の例としては、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン及び1,4−ジメトキシベンゼンが挙げられる。
【0057】
スルトンは置換されていても置換されていても良い。好適なスルトンの例としては、以下に示されるような、プロパンスルトン(iv a)、ブタンスルトン(iv b)、及びプロペンスルトン(iv c)が挙げられる。
【0059】
好適な環状エキソ−メチレンカーボネートの例としては式(iv d)の化合物が挙げられる。
【0061】
上式において、R
d及びR
eは同一でも異なっても良く、相互に独立してC
1−C
10アルキル及び水素から選択される。R
d及びR
eの両方がメチルであることが好ましい。また、R
d及びR
eの両方が水素であることも好ましい。好ましい環状エキソ−メチレンカーボネートはメチルエチレンカーボネートである。
【0062】
さらに、添加剤(iv)は非環状又は環状アルカンから選択することができ、好ましくは1バールで少なくとも36℃の沸点を有する非環状及び環状のアルカンである。このようなアルカンの例としては、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロドデカンを挙げることができる。
【0063】
添加剤(iv)として適当なさらなる化合物としては、リン酸又は硫酸のエチルエステル又はメチルエステルのような無機酸の有機エステルが挙げられる。
【0064】
通常、添加剤(iv)は、導電性塩(ii)として選択される化合物、有機溶剤(i)として選択される化合物及び各電解質組成物(A)に存在する式(I)の化合物、とは異なるように選択される。
【0065】
本発明の一態様によれば、電解質組成物は少なくとも1種の添加剤(iv)を含んでいる。少なくとも1種の添加剤(iv)が電解質組成物(A)に存在する場合、さらなる添加剤(iv)の総濃度は、電解質組成物(A)に対して、少なくとも0.001質量%、好ましくは0.005〜10質量%、最も好ましくは0.01〜5質量%である。
【0066】
本発明の電解質組成物は実質的に水を含まないことが好ましい、即ち本発明の電解質組成物の水含有量は100ppm未満が好ましく、50ppm未満がさらに好ましく、30ppm未満が最も好ましい。用語「ppm」は、電解質組成物の総質量に対して、100万分の1部を意味する。電解質組成物中に存在する水の量を決定するために、様々な方法が当業者に公知である。好適な方法は、Karl Fischer(例えば、DIN 51777 又はISO760:1978に記載)に従う滴定である。
【0067】
本発明のリチウムイオン電池の電解質組成物(A)は、作動状態で液体であることが好ましく;1バール、25℃で液体であることがより好ましく;1バール、−15℃で液体であることがさらに好ましく;1バール、−30℃で液体であることが最も好ましく;特に、電解質組成物は1バール、−50℃で液体であることが好ましい。
【0068】
本発明の好ましい態様では、電解質組成物は、環状及び非環状有機カーボネート(a)から選択される少なくとも2種の非プロトン性溶剤(i)、少なくとも1種の式(I)の化合物、LiBF
4及びLiPF
6から選択される少なくとも1種の導電性塩(ii)、及び最大で100ppmまでの水、を含んでいる。
【0069】
電解質組成物(A)は、
(i)60〜99.98質量%の少なくとも1種の非プロトン性有機溶剤、
(ii)0.01〜25質量%の、少なくとも1種の式(I)の化合物とは異なる少なくとも1種の導電性塩、
(iii)0.01〜25質量%の式(I)の少なくとも1種の化合物、及び
(iv)0〜10質量%の少なくとも1種のさらなる添加剤、
を含み、これらの質量%は電解質組成物の総質量に基づくものである、電解質組成物であることがさらに好ましい。
【0070】
上述の電解質組成物(A)を含むLiイオン電池は、式(I)の化合物を含まない以外は同じ電解質を含むリチウムイオン電池に比べて、向上した容量保持力を示す。
【0071】
本発明のさらなる目的は、リチウムイオン電池用電解質における添加剤として、本発明の電解質組成物(A)の成分(iii)として上記で詳述された式(I)の1種以上の化合物を使用することである。少なくとも1種の式(I)の化合物は、通常、式(I)の化合物を電解質に添加することにより使用される。通常、式(I)の化合物は、上述の濃度の式(I)の化合物を含む電解質組成物が得られるような量で添加される。
【0072】
本発明の別の目的は、
(A)上記で詳述された電解質組成物、
(B)カソード活性材料を含む、少なくとも1種のカソード、及び
(C)アノード活性材料を含む、少なくとも1種のアノード
を含むリチウムイオン電池である。
【0073】
本発明において、用語「リチウムイオン電池」とは、放電中に、リチウムは陰極(アノード)から陽極(カソード)に移動し、充電中に、リチウムは陽極から陰極に移動する再充電可能な電気化学セルを意味する。即ち、電荷移動がリチウムイオンにより行われる。通常リチウムイオン電池は、カソード活性材料として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる遷移金属化合物;例えば、LiCoO
2、LiNiO
2及びLiMnO
2のような層状構造を有する遷移金属酸化物;LiFePO
4及びiMnPO
4のようなオリビン構造を有する遷移金属ホスフェート;或いはイオン電池技術における当業者に公知のリチウム−マンガンスピネル;を含んでいる。
【0074】
用語「カソード活性材料」とは、カソードにおいて電気化学的に活性な材料を意味し、リチウムイオン電池の場合、カソード活性材料は、電池の充電/放電中にリチウムイオンを挿入/脱離する(intercalating/deintercalating)遷移金属酸化物であればよい。電池の状態、即ち充電又は放電された状態、に依存して、カソード活性材料は、多かれ少なかれリチウムイオンを含んでいる。用語「アノード活性材料」とは、アノードにおいて電気化学的に活性な材料を意味し、リチウムイオン電池の場合、アノード活性材料は、電池の充電/放電中にリチウムイオンを吸蔵及び放出する遷移金属酸化物であればよい。
【0075】
本発明の電気化学セル内に含まれるカソード(B)は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるカソード活性材料である。使用可能なカソード活性材料としては、LiFePO
4、LiCoPO
4及びiMnPO
4のようなオリビン構造を有するリチウム化遷移金属ホスフェート;LiMnO
2、LiCoO
2及びLiNiO
2のような層状構造を有するリチウムイオン挿入遷移金属酸化物;そして特に、一般式Li
(1+z)[Ni
aCo
bMn
c]
(1−z)O
2+e(但し、zは0〜0.3であり、a、b及びcは同一でも異なっていても良く独立して0〜0.8であり、且つa + b + c = 1であり、そして−0.1≦e≦0.1である)を有する化合物;及びスピネル構造を有するリチウム化遷移金属酸化物、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
本発明の好ましい一態様において、カソード活性材料はLiFePO
4又はLiCoPO
4である。カソード活性材料として、LiCoPO
4を含むカソードは、LiCoPO
4カソードとも呼ぶことができる。LiCoPO
4は、Fe、Mn、Ni、V、Mg、Al、Zr、Nb、Tl、Ti、K、Na、Ca、Si、Sn、Ge、Ga、B、As、Cr、Sr又は希土類元素(即ち、ランタニド、スカンジウム及びイットリウム)でドープされていても良い。オリビン構造を有するLiCoPO
4は、高い動作電圧(Li/Li
+に対して4.8Vのレドックス電位)、平坦な電圧プロファイル及び約170mAh/gの高い理論容量のために、特に本発明に適している。カソードは、LiCoPO
4/C又はLiFePO
4/Cの複合材料を含むことができる。LiCoPO
4/C又はLiFePO
4/Cの複合材料を含む好適なカソードの製造は、Markevich、Electrochem.Comm.15、2012、22〜25に記載されている。
【0077】
本発明の別の好ましい態様において、カソード活性材料は、一般式Li
(1+z)[Ni
aCo
bMn
c]
(1−z)O
2+e(但し、zは0〜0.3であり、a、b及びcは同一でも異なっていても良く独立して0〜0.8であり、且つa + b + c = 1であり、そして−0.1≦e≦0.1である)を有する層状構造を備えた遷移金属酸化物から選択される。このような層状構造を有する遷移金属酸化物の例としては、[Ni
aCo
bMn
c]であって、 Ni
0.33Co
0.33Mn
0.33、Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3、Ni
0.33Co
0Mn
0.66、Ni
0.25Co
0Mn
0.75、Ni
0.35Co
0.15Mn
0.5、Ni
0.21Co
0.08Mn
0.71 及びNi
0.22Co
0.12Mn
0.66から選択されるものが挙げられる。一般式Li
(1+z)[Ni
aCo
bMn
c]
(1−z)O
2+e(但し、zは0.05〜0.3であり、a=0.2〜0.5、b=0〜0.3及びc=0.4〜0.8であり、且つa + b + c = 1であり、そして−0.1≦e≦0.1である)を有する層状構造を備えた遷移金属酸化物が好ましい。層状構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物は、[Ni
aCo
bMn
c]であって、Ni
0.33Co
0Mn
0.66、Ni
0.25Co
0Mn
0.75、Ni
0.35Co
0.15Mn
0.5、Ni
0.21Co
0.08Mn
0.71 及びNi
0.22Co
0.12Mn
0.66から、中でもNi
0.21Co
0.08Mn
0.71 及びNi
0.22Co
0.12Mn
0.66から、選択されるものであることが特に好ましい。
【0078】
本発明のさらなる好ましい態様によれば、カソード活性材料は、スピネル構造のリチウム化遷移金属混合酸化物から選択される。これらは、Li
1+tM
2-tO
4-d(但し、dが0〜0.4であり、tが0〜0.4であり、60モル%を超えるMがマンガンである)で表されるものである。さらに30モル%以下のMが周期表の第3〜12族から選択される1種以上の金属であり、例えばTi、V、Cr、Fe、Co、Ni、Zn、Moであり、Co及びNiが好ましく、特にNiが好ましい。一般式の好適なマンガン含有スピネルはLiNi
0.5Mn
1.5O
4−dである。
【0079】
多くの元素はどこにでも存在する。例えば、ナトリウム、カリウム及び塩素は、実質的に全ての無機材料に極めて小さい割合ではあるが検出される。本発明では、0.5質量%未満の割合のカチオン又はアニオンは無視される。従って、0.5質量%未満のナトリウムを含むリチウムイオン含有混合遷移金属酸化物は、本発明においてはナトリウム非含有と見なす。同様に、0.5質量%未満のスルフェート(sulfate)イオンを含むリチウムイオン含有混合遷移金属酸化物は、本発明においてはスルフェート非含有と見なす。
【0080】
カソードは、1種以上のさらなる構成成分を含むことができる。例えば、カソードは、導電性多形体中にカーボン、例えば、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、膨張グラファイト、グラフェン又はこれらの物質の少なくとも2種の混合物から選択されるカーボンを含むことができる。加えて、カソードは、1種以上のバインダ、例えば、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリイソプレン、及びエチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3−ブタジエンから選択される少なくとも2種のコモノマーの共重合体、特にスチレン−ブタジエン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンとビニリデンフルオライドと(ポリ)アクリロニトリルとの共重合体、のような1種以上の有機ポリマー、を含むことができる。
【0081】
さらに、カソードは、金属ワイヤ、金属グリッド、金属ウェブ、金属シート、金属ホイル、又は金属板であっても良い電流コレクタを含むことができる。
【0082】
本発明の一態様によれば、カソードは、電流コレクタの厚さを除いたカソードの総厚に基づいて、25〜200μm、好ましくは30〜100μmの厚さを有する。
【0083】
本発明の電気化学セル内に含まれるアノード(C)は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるアノード活性材料を含む。使用することができるアノード活性材料としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるカーボンが挙げられるが、これに限定されるものではない。適当なカーボン材料は、グラファイト材料等の結晶性カーボン、特に好ましくは、天然グラファイト、グラファイト化コークス、グラファイト化MCMB及びグラファイト化MPCF;コークス、1500℃未満で焼成されたメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)及びメソフェーズピッチを基礎とする炭素繊維(MPCF)のような非晶質カーボン;カーボン複合体、燃焼有機ポリマー及び炭素繊維のような硬質カーボン及び炭素アノード活性材料(熱分解カーボン、コークス、グラファイト);である。
【0084】
さらなるアノード活性材料はリチウム金属、又はリチウムと合金を形成することができる元素を含む材料である。リチウムと合金を形成することができる元素を含む材料における限定されない例として、金属、半金属又はその合金が挙げられる。ここで使用される用語「合金」とは、2種以上の金属の合金、及び1種以上の金属と1種以上の半金属との合金を示すものと理解される。合金が全体として金属的性質を有する場合、合金は非金属元素を含むことができる。合金の構造(texture)において、固溶体、共晶(共晶混合物)、金属間化合物又はこれら2種以上が共存する。このような金属又は半金属の元素の例としては、チタン(Ti)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(si)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。元素の長期周期表における第4族又は第14族の金属及び半金属が好ましい、特に、チタン、ケイ素及びスズ、特にケイ素及びスズが好ましい。スズ合金の例としては、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、マグネシウム(Mg)、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン(Ti)、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロム(Cr)から選択される1種以上の元素を有するものが挙げられる。ケイ素合金の例としては、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、マグネシウム、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロムから選択される1種以上の元素を有するものが挙げられる。
【0085】
さらにあり得るアノード活性材料は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができるケイ素である。ケイ素は異なった形態、例えば、ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノ粒子、フィルム、ナノ細孔ケイ素、結晶性ケイ素の粉末又はケイ素ナノチューブの粉末、の形で使用することができる。電流コレクタは、金属ワイヤ、金属グリッド、金属ウェブ、金属シート、金属ホイル又は金属板であり得る。好ましい電流コレクタは、金属ホイル、例えば銅ホイルである。ケイ素の薄層は、当業者の公知の方法、例えばスパッタリング法により、金属板上に蒸着することができる。Si薄層電極の製造するための一つの可能性は、R. Elazari等、 Electrochem.Comm.2012,14、21−24に記載されている。本発明のアノード活性材料としてケイ素/カーボン複合体を用いることも可能である。カーボンは、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、膨張グラファイト、グラフェン又はこれらの混合物のような導電性カーボン材料から選択されることが好ましい。
【0086】
他の可能性のあるアノード活性材料はTiのリチウムイオン挿入酸化物である。
【0087】
本発明のリチウムイオン二次電池に存在するアノード活性材料は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるカーボンから選択され、特に好ましいリチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるカーボンは、結晶性カーボン、硬質カーボン、及び非結晶性カーボンから選択され、中でもグラファイトが好ましい。他の好ましい態様において、本発明のリチウムイオン二次電池に存在するアノード活性材料は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるスズ及びケイ素から選択され、中でも薄層の形態のケイ素又はケイ素/カーボン複合体から選択される。さらに好ましい態様において、本発明のリチウムイオン二次電池に存在するアノード活性材料は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができるTiの酸化物から選択される。さらに、リチウム、リチウム合金及びリチウム合金を形成することができる材料(好ましくはスズ)が好ましい。本発明の一態様によれば、アノード活性材料はスズ又はケイ素を含む。
【0088】
アノード及びカソードは、電極活性材料、バインダ、任意に導電性材料及び増粘剤を、所望により溶剤中で、分散させ、得られたスラリー組成物を電流コレクタに塗布することにより作製することができる。電流コレクタは、金属ワイヤ、金属グリッド、金属ウェブ、金属シート、金属ホイル又は金属板であり得る。好ましい電流コレクタは、金属ホイル、例えば銅ホイル又はアルミニウムホイルである。
【0089】
本発明の電気化学セルはそれ自体慣用のさらなる構成成分、例えば出力コンダクタ、セパレータ、ハウジング、ケーブル接続、等を含むことができる。出力コンダクタは、金属ワイヤ、金属グリッド、金属メッシュ、エキスパンドメタル、金属シート、金属ホイルの形状に設計され得る。好適な金属ホイルは、特にアルミニウムホイルである。適当なセパレータとしては、例えばガラス繊維セパレータ、及びポリオレフィンセパレータのようなポリマーを基礎とするセパレータを挙げることができる。ハウジングは、どのような形でも良いが、例えば立法体、又は円筒形を挙げることができる。別の態様では、本発明の電気化学セルはプリズムの形状を有する。一つの変形では、使用されるハウジングは、袋に加工された金属−プラスチック複合フィルムである。
【0090】
このため、本発明は、本発明の電気化学セルの、装置、例えばモバイル機器における使用を提供するものである。モバイル機器の例としては、車両、例えば自動車、自転車、航空機、或いはボート又は船のような船舶を挙げることができる。モバイル機器の他の例としては、ポータブルなもの、例えばコンピュータ(特にラップトップ)、電話、又は電動工具(例えば建設事業分野のもの、特にドリル、電池駆動スクリュードライバー又は電池駆動ホッチキス)が挙げられる。本発明の電気化学セルは、電力貯蔵にも使用することができる。
【0091】
本発明は、下記の実施例により説明するが、これは発明を限定するものではない。
【実施例】
【0092】
I.リチウム−アルコキシボレートの製造
その製造と後処理はグローブボックスにおいてN
2下で行った。
【0093】
0.02モルのアルコール(ROH)(95%、Aldrich)を100mlのTHFに溶解させた。12.5ml(2.0モル)のn−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液、Aldrich)をこの溶液に添加した。反応混合物を1時間撹拌し、それぞれのLiORを沈殿させた。沈殿物をろ過し、次いで少量のジエチルエーテルで洗浄し、真空下に一晩乾燥させた。こうして得られたLiORを、
1H及び
13C NMR分光法でその特性を得た。
【0094】
0.005モルの各リチウム塩LiORを20mlのTHFを含むフラスコに添加し、3.4mL(0.03モル)のトリメチルボレートを添加し、混合物を得た。混合物を1週間撹拌後、形成した白色固体をろ過により得た。得られた白色固体をグローブボックスの副室で真空下に12時間乾燥した。
【0095】
生成物は、
1H、
13C及び
11B核磁気共鳴( NMR)分光法でその特性を得た。
【0096】
製造された全ての化合物を表1にまとめる。
【0097】
【表1】
【0098】
II.セルの製造及び電気化学測定
コインセルを、Pred Materials (USA)製の2032タイプコインセルの部品を用いて組み立てた。2032タイプコインセルの部品は、SUS304Al−被覆ケース、SUS316Lキャップ、PPガスケット、15.5mmの直径及び1.0mmの厚さのディスクスペーサ、及び15mmの直径及び1.4mmの厚さの波型バネを含む。セルを、Arを満たしたグローブボックス内の各セルにおいて、カソード活性材料LiNi
0.5Mn
1.5O
4 (d = 14.7 mm)及びグラファイトアノード(d = 15.0 mm)、1片のSetela E20MMポリオレフィンセパレータ(d = 19 mm)及び40μL(20μL×2)の電解質を用いて構築した。水含有量は0.1ppm未満である。電池グレードのカーボネート溶剤及びリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF
6)をNovolyteから入手した。比較の電解質組成物は、1.0 M のLiPF
6のEC/EMC (3:7体積比)溶液であった。本発明の電解質組成物は、電解質組成物の総質量に対して1質量%の式(I)の化合物の濃度となるように、式(I)の化合物を比較の電解質組成物に加えることにより作製した。
【0099】
全てのセルを、アービンサイクラー(Arbin cycler)において、4.25〜4.8Vの間において、室温(25℃)で20サイクル、及び高温(55℃)で30サイクルのサイクル試験をした(cycled)。温度は、フィッシャー・サイエンティフィック・イソテンプ・インキュベーター(Fisher Scientific Isotemp Incubator)で制御された。全てのセルはサイクル試験前にエポキシで封止した。プロトコルの詳細は下記のとおり;室温(25℃)でのフォーメーション(合計で5サイクル、1 C/20、2 C/10、2 C/5)及びサイクル試験(15サイクル、C/5)を行い、次いで高温でサイクル試験(30サイクル、C/5)を行った。各サンプルについて、1〜3の実験を行った。
【0100】
表2は、添加剤を含む及び含まないセルのサイクル性能を示す。室温での容量保持レート(rate)は、20回目のサイクルの放電容量に対する6回目のサイクル(5フォーメーションサイクル後の最初のサイクル)の放電容量を比較することにより計算した。高温での容量保持レートは、50回目のサイクルの放電容量を6回目のサイクル(5フォーメーションサイクル後の最初のサイクル)の放電容量で割ることにより計算した。最初のサイクルの効率は最初の充電容量に対する放電容量の比である。
【0101】
【表2】