(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記波長λより短波長側および長波長側の副透過帯域のいずれか又は両方を、特定の帯域で透過する特性を付与したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の帯域透過フィルタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、赤外線等の長い波長用の反射層は個々の膜を厚く形成する必要があり、特に光学的膜厚λ/2のスペーサ層が厚くなってしまうため、各膜および全体の厚さに起因して各膜の中での応力バランスや、隣接する膜との応力バランスが乱れやすくなり、膜剥離や膜自体の損傷が生じるおそれがあった。
これは、多層化するほど顕著となっていた。
また、スペーサ層の膜厚を変えることにより、帯域透過フィルタの透過阻止帯域の中心にある透過帯域を中心以外の位置に設定することが可能であり、その際、スペーサ層の光学的膜厚を変化させることとなるが、透過帯域の透過率が劣化してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は前述した課題を解決するものであり、膜を薄くすることで、膜剥離や膜自体の損傷を防止するとともに、透過阻止帯域(反射帯域)内における一部の透過帯域を、透過阻止帯域(反射帯域)の任意の位置に設定しても透過帯域の透過率の低下を抑制できる帯域透過フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る帯域透過フィルタは、複数の膜からなり、所定の波長λを中心とした反射帯域を有し、前記反射帯域内の一部に透過帯域を有する帯域透過フィルタであって、前記複数の膜からなる反射層と、複数の反射層の境界に挿入されるスペーサ層とを有し、少なくとも1つのスペーサ層は、光学的膜厚がλ/4.5以下の高屈折率膜と光学的膜厚がλ/4.5以下の低屈折率膜の連続した2層からなる追加層を含む
むとともに、追加層を構成する高屈折率膜及び低屈折率膜よりも光学的膜厚が大きい膜を2つの追加層で挟み込む構造を有し、あるいは、波長λで反射する境界の少なくとも1つの境界が2つの金属膜に挟まれた境界であり追加層が2つの金属膜に挟まれた境界に挿入されたことにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る帯域透過フィルタによれば、少なくとも1つのスペーサ層は、反射帯域の中心に相当する所定の波長λに対して光学的膜厚がλ/4.5以下の高屈折率膜と光学的膜厚がλ/4.5以下の低屈折率膜の連続した2層からなる追加層を含む
とともに、前記追加層を構成する高屈折率膜及び低屈折率膜よりも光学的膜厚が大きい膜を前記2つの追加層で挟み込む構造を有することにより、帯域透過フィルタ全体で厚い膜に代えて追加層を挿入することで、全体の厚さを薄くできる。
また、透過帯域を反射帯域内における中心以外の位置に設定する場合、スペーサ層
に含まれて挿入された追加層を厚くすることで、従来よりも厚い膜を減らすことができるとともに、全体の厚さの増加を抑制できる。
このことで、膜剥離や膜自体の損傷を抑制できる。
さらに、透過帯域を反射帯域内における中心以外の位置に設定する場合の特性として、スペーサ層
に含まれて挿入された追加層の膜厚を変更することで、透過帯域の透過率の低下を抑制できる。
【0008】
本請求項2に記載の構成によれば、追加層が、境界のうち任意の複数の境界に挿入されたことにより、さらに、全体の厚さを薄くすることが可能となる。
また、複数の境界に挿入された追加層をそれぞれ個別に特性を変更することも可能となり、より多様で特性の良い帯域透過フィルタとすることが可能となる。
本請求項3に記載の構成によれば、追加層が、任意の境界に2組以上連続して挿入されたことにより、2組以上連続して挿入された追加層をそれぞれ個別に特性を変更することも可能となり、より多様で特性の良い帯域透過フィルタとすることが可能となる。
【0009】
本請求項4に係る帯域透過フィルタによれば、追加層が、2つの金属膜に挟まれた境界に挿入されたことにより、連続した2層が金属膜と物性の大きく異なる材質であっても、連続した2層の厚さが薄いため剥離を抑制できる。
また、透過帯域を中心以外の位置に設定する場合の特性として、スペーサ層として挿入された追加層の膜厚を変更することで、透過帯域の透過率の劣化を抑制できる。
本請求項5に記載の構成によれば、追加層が、複数の2つの金属膜に挟まれた境界に、それぞれ1組以上挿入されたことにより、さらに、追加層をそれぞれ個別に特性を変更することも可能となり、より特性の良い帯域透過フィルタとすることが可能となる。
本請求項6に記載の構成によれば、波長λより短波側および長波側の副透過帯域のいずれか又は両方を、特定の帯域で透過する特性を付与したことにより、1つの帯域透過フィルタで、複数の帯域透過フィルタを重ねて使用した場合と同等の特性を得ることが可能となる。
本請求項7乃至本請求項13に記載の構成によれば、可視光帯域とその短波側および長波側の副透過帯域のいずれか又は両方を透過する特性の光学フィルタを、複数の帯域透過フィルタを重ねることなく得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の帯域透過フィルタは、複数の膜からなり、所定の波長λを中心とした反射帯域を有し、反射帯域内の一部に透過帯域を有する帯域透過フィルタであって、複数の膜からなる反射層と、複数の反射層の境界に挿入されるスペーサ層とを有し、少なくとも1つのスペーサ層は、光学的膜厚がλ/4.5以下の高屈折率膜と光学的膜厚がλ/4.5以下の低屈折率膜の連続した2層からなる追加層を含
むとともに、追加層を構成する高屈折率膜及び低屈折率膜よりも光学的膜厚が大きい膜を2つの追加層で挟み込む構造を有し、あるいは、波長λで反射する境界の少なくとも1つの境界が2つの金属膜に挟まれた境界であり追加層が2つの金属膜に挟まれた境界に挿入され、長い波長用でも厚さを薄くでき、膜剥離や膜自体の損傷を抑制するとともに、透過帯域を、反射帯域の中心以外の位置に設定しても透過帯域の透過率の低下を抑制できるものであれば、その具体的な実施態様はいかなるものであってもよい。
帯域透過フィルタが複数のスペーサ層を有する場合、任意のスペーサ層に追加層を設けてもよく、全てのスペーサ層に追加層を設けてもよい。
また、追加層の高屈折率膜と低屈折率膜の順序は、挿入される境界の両側の膜の屈折率の関係に応じて適宜入れ替えればよい。
【0012】
所定の波長λは、上述のとおり反射帯域を想定したときにおいて、該反射帯域の中心波長に相当する。
そして、帯域透過フィルタの設計において、波長λは特定の値の波長として決定し、該波長λに基づき、具体的に各膜の光学的膜厚を設計する。
また、追加層の各膜の光学的膜厚は、λ/4.5以下としているが、反射帯域内における一部の透過帯域の透過率、および/または、透過帯域の帯域幅を確保する理由で、λ/30〜λ/5の範囲がより好ましい。
また、追加層としては、λ/8として設計してもよい。
なお、追加層の光学的膜厚は、λ/4.5に近い値であると、反射帯域内の透過帯域は反射帯域内の中心波長よりも長波長側に位置し、λ/8よりも小さい値であると、反射帯域内の透過帯域は反射帯域内の中心波長よりも短波長側に位置する。
この特性を利用して、反射帯域内における一部の透過帯域の位置を自由に設計できるとともに、透過帯域の高透過率特性、特定の帯域幅の維持を確保できる。
【0013】
また、本発明の帯域透過フィルタは、基板上の一方の面に上記した反射層、追加層を含むスペーサ層を有してもよい。
ここで「基板上」とは、基板の一方の主面に上記した反射層および追加層を含むスペーサ層を有する多層膜が隣接してなる態様に限らず、基板の一方の主面と、上記した反射層および追加層を含むスペーサ層を有する多層膜と、の間に別の光学的な機能層を有する場合も含まれる。即ち、上記した反射層および追加層を有する多層膜が一群になっていれば、基板と該多層膜との配置は制限がない。
【0014】
本発明の帯域透過フィルタとして基板を含む場合、基板は透明な基板であってもよく、その場合、例えば、ガラス、石英ガラス、色ガラス、水晶、透明樹脂などが使用できる。また、基板として、基板そのものに特定の波長の光を吸収する特性をもたらすもの、例えば、透明樹脂に所定の波長の光を吸収する色素を添加したものであってもよい。
【0015】
また、上記の、高屈折率膜の材料および低屈折率の材料としては、上記の波長λに対して、それぞれ、高い屈折率を示す材料、低い屈折率を示す材料であれば、任意に材料を選択できる。
なお、波長λに対する高屈折率膜の材料の屈折率をnH、波長λに対する低屈折率膜の材料の屈折率をnL、としたとき、屈折率差Δn(=|nH−nL|)は、光学的膜厚が厚くならないという理由から、0.2以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
また、高屈折率膜の材料としては、例えば、TiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、HfO
2、Al
2O
3、ZrO
2、ZnS、Ge、Siから選ばれる材料が好ましく、低屈折率膜の材料としては、例えば、SiO
2、MgF
2、チオライト、ZnSから選ばれる材料が好ましい。この中でも、屈折率差を大きくできるという理由から、高屈折率膜の材料としてTiO
2、低屈折率膜の材料としてSiO
2の組み合わせが好ましい。
【0016】
本発明の
原理を説明する参考例に係る帯域透過フィルタ100は、
図1に示すように、2つの反射層110の間に、スペーサ層120が挿入されている。
2つの反射層110は、それぞれ、2つの光学的膜厚λ/4の高屈折率膜111の間に、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜112を挟んで形成されている。
スペーサ層120は、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜122と追加層130とで形成され、追加層130は、光学的膜厚がλ/4.5以下の膜として、光学的膜厚λ/8の高屈折率膜131と光学的膜厚λ/8の低屈折率膜132とが連続するように形成されている。
光学的膜厚λ/4の高屈折率膜をH、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜をL、光学的膜厚λ/8の高屈折率膜をh、光学的膜厚λ/8の低屈折率膜をlと表すと、
HLHL+hl+HLH
の構造となる。
【0017】
図2は、従来例の構成に示した帯域透過フィルタ500の構成図である。
参考例に係る帯域透過フィルタ100と同等に構成した従来の帯域透過フィルタ500は、
図2に示すように、2つの反射層510の間に、スペーサ層520が挿入され、2つの反射層510は、2つの光学的膜厚λ/4の高屈折率膜511の間に、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜512を挟んで形成されている。
スペーサ層520は、光学的膜厚λ/2の低屈折率膜522のみで形成されている。
光学的膜厚λ/4の高屈折率膜をH、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜をL、光学的膜厚λ/2の低屈折率膜を2Lと表すと、
HLH+2L+HLH
の構造となる。
【0018】
従来の帯域透過フィルタ500では、
図3の下段に示すように、波長λの波が入射すると、後方の反射層510とスペーサ層520の境界で反射された波は、スペーサ層520と前方の反射層510の境界による反射波(b波)となって、再び後方の反射層510とスペーサ層520の境界に向かう。
この時、b波は、経路長が波長λ分増え、また、低屈折率膜から高屈折率膜に向かって反射する時の位相の反転が2回生じるため、直進する波(a波)と同位相となる。
このa波、b波の干渉によって、波長λの波が透過する。
【0019】
これに対し、
参考例に係る帯域透過フィルタ100に波長λの波が入射すると、
図3の上段に示すように、後方の反射層110とスペーサ層120の境界で反射された波は、スペーサ層120と前方の反射層110の境界による反射波(b波)、低屈折率膜122と追加層130の境界による反射波(c波)、追加層130内の低屈折率膜132と高屈折率膜131の境界による反射波(d波)となって、それぞれ、再び後方の反射層110とスペーサ層120の境界に向かう。
この時、b波は、経路長が波長λ分増え、また、低屈折率膜から高屈折率膜に向かって反射する時の位相の反転が2回生じるため、直進する波(a波)と同位相となる。
また、c波は、経路長が波長λ/2分増え、また、低屈折率膜から高屈折率膜に向かって反射する時の位相の反転が1回生じるため、同様に、直進する波(a波)と同位相となる。
これらのa波、b波、c波の干渉によって、波長λの波が透過する。
なお、d波は、経路長が波長λ/4分増え、また、低屈折率膜から高屈折率膜に向かって反射する時の位相の反転が2回生じるため、a波、b波、c波とは位相がλ/4ずれるが、干渉透過には影響を及ぼさないことが実験で確認されている。
【0020】
また、従来の帯域透過フィルタ500では、スペーサ層520の光学的膜厚を調整することで、透過帯域をシフトすることが行われるが、その際には透過率が低下してしまう。
これに対し、
参考例に係る帯域透過フィルタ100では、追加層130の低屈折率膜132と高屈折率膜131の光学的膜厚を調整することで透過帯域をシフトすることが可能であり、また、シフトした際の透過率の低下も少ない。
このための追加層130の低屈折率膜132と高屈折率膜131の光学的膜厚は、λ/4.5の厚さまで調整可能である。
【0021】
他の参考例に係る帯域透過フィルタ100aは、
図4に示すように、2つの反射層110の間に、スペーサ層120aが挿入されている。
2つの反射層110は、それぞれ、2つの光学的膜厚λ/4の高屈折率膜111の間に、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜112を挟んで形成されている。
スペーサ層120aは、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜122と2つの追加層130とで形成され、追加層130は光学的膜厚λ/8の高屈折率膜131と光学的膜厚λ/8の低屈折率膜132とが連続するように形成されている。
光学的膜厚λ/4の高屈折率膜をH、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜をL、光学的膜厚λ/8の高屈折率膜をh、光学的膜厚λ/8の低屈折率膜をlと表すと、
HLHL+hlhl+HLH
の構造となる。
【0022】
他の参考例に係る帯域透過フィルタ100aでは、例として、波長λを550nmとし、高屈折率膜として、波長λにおける屈折率が2.3となるTiO
2を用い、低屈折率膜として、波長λにおける屈折率が1.46となるSiO
2を用いる。そして、高屈折率膜および低屈折率膜それぞれにおいて、
図4(即ち、HLHL+hlhl+HLH)に示すように光学的膜厚を設定すると、
図9に示す分光特性が得られる。本実施形態に係る帯域透過フィルタ100aの場合、反射帯域の中心波長λ(=550nm)は、透過帯域内に位置する。
【実施例1】
【0023】
本発明の
第1実施形態に係る帯域透過フィルタ100bは、
図5に示すように、2つの反射層110の間に、スペーサ層120bが挿入されている。
2つの反射層110は、それぞれ、2つの光学的膜厚λ/4の高屈折率膜111の間に、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜112を挟んで形成されている。
スペーサ層120bは、2つの追加層130の間に光学的膜厚λ/4の低屈折率膜122を挟んで形成され、追加層130は光学的膜厚λ/8の高屈折率膜131と光学的膜厚λ/8の低屈折率膜132とが連続するように形成されている。
光学的膜厚λ/4の高屈折率膜をH、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜をL、光学的膜厚λ/8の高屈折率膜をh、光学的膜厚λ/8の低屈折率膜をlと表すと、
HLH+lh+L+hl+HLH
の構造となる。
【実施例2】
【0024】
本発明の
第2実施形態に係る帯域透過フィルタ100cは、
図6に示すように、2つの反射層110の間に、スペーサ層120cが挿入されている。
2つの反射層110は、それぞれ、2つの光学的膜厚λ/4の高屈折率膜111の間に、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜112を挟んで形成されている。
スペーサ層120cは、2つの追加層130の間に光学的膜厚λ/4の低屈折率膜122を挟み、さらに追加層130を連続させて形成され、追加層130は光学的膜厚λ/8の高屈折率膜131と光学的膜厚λ/8の低屈折率膜132とが連続するように形成されている。
光学的膜厚λ/4の高屈折率膜をH、光学的膜厚λ/4の低屈折率膜をL、光学的膜厚λ/8の高屈折率膜をh、光学的膜厚λ/8の低屈折率膜をlと表すと、
HLH+lh+L+hlhl+HLH
の構造となる。
【0025】
第2の実施形態に係る帯域透過フィルタ100cでは、例として、波長λを550nmとし、高屈折率膜として、波長λにおける屈折率が2.3となるTiO
2を用い、低屈折率膜として、波長λにおける屈折率が1.46となるSiO
2を用いる。そして、高屈折率膜および低屈折率膜それぞれにおいて、
図6(即ち、HLH+lh+L+hlhl+HLH)に示すように光学的膜厚を設定すると、
図10に示す分光特性が得られる。
【実施例3】
【0026】
本発明の
第3実施形態に係る帯域透過フィルタ100dは、
図7に示すように、2つの単一の金属膜からなる反射層110dの間に、スペーサ層120dが挿入されている。
また、本実施形態に係る帯域透過フィルタ100dでは、例として、波長λを550nmとして、波長λにおける屈折率が2.3となるTiO
2を用い、低屈折率膜として、波長λにおける屈折率が1.46となるSiO
2を用いる。
スペーサ層120dは、追加層130で形成され、追加層130は光学的膜厚λ/8の高屈折率膜131と光学的膜厚λ/8の低屈折率膜132とが連続するように形成されている。なお、ここでいう金属膜は、少なくとも透過帯域において、一定の透過率を有する材料からなり、帯域透過フィルタ100eの構成において、透過帯域と透過阻止帯域との間で十分なコントラストが確認できる特性であればよい。また、金属膜に用いる材料は、種々選択できるが、例えば、AlやAgを、一定量の光が透過できる程度に薄膜化して用いるとよい。
金属膜をM、光学的膜厚λ/8の高屈折率膜をh、光学的膜厚λ/8の低屈折率膜をlと表すと、
M+hl+M
の構造となる。
【実施例4】
【0027】
本発明の
第4実施形態に係る帯域透過フィルタ100eは、
図8に示すように、複数の単一の金属膜からなる反射層110eの間に、それぞれ、スペーサ層120eが挿入されている。
スペーサ層120eは、追加層130で形成され、追加層130は光学的膜厚λ/8の高屈折率膜131と光学的膜厚λ/8の低屈折率膜132とが連続するように形成されている。
金属膜をM、光学的膜厚λ/8の高屈折率膜をh、光学的膜厚λ/8の低屈折率膜をlと表すと、
・・・M+hl+M+hl+M・・・
の構造となる。
【0028】
前述した
他の参考例に係る帯域透過フィルタ100aは、
図9に示すように、透過阻止帯域(反射帯域)を含む第1の波長帯域の中に、透過率の高い透過帯域(第2の波長帯域)を得ることができる。
ここで言う第1の波長帯域は、所定の波長λを中心とした反射帯域において、短波長側から長波長側へ分光特性をなぞったとき、透過率が30%以下の波長から長波長側の帯域を意味し、透過帯域(第2の波長帯域)は、透過率が60%以上の波長帯域を意味する。
上記のように「第1の波長帯域の中に透過帯域を得る」という意味は、
図9の分光特性に基づくと、約448nmにて透過率が約30%となるが、約448nm以上の帯域(即ち、
図9でいう第1の波長帯域)において、特定の帯域幅を有する透過帯域(第2の波長帯域:約541nm〜約558nm)を有する、という意味である。
【0029】
第2実施形態に係る帯域透過フィルタ100cは、
図10に示すように、透過阻止帯域(反射帯域)を含む第1の波長帯域の中に、ある程度の幅を有し、立ち上がりが急峻で比較的高い透過率を有する透過帯域を得ることができる。
この場合、
図10の分光特性に基づくと、約454nmにて透過率が約30%となるが、約454nm以上の長波長の帯域(即ち、
図10でいう第1の波長帯域)において、特定の帯域幅を有する透過帯域(第2の波長帯域:約548nm〜約583nm)を有する、という意味である。
帯域透過フィルタ100aに比べると、帯域透過フィルタ100cは、透過帯域の立ち上がり/立ち下がりが急峻であり、また透過率が高い点で、特定の波長帯域を透過させるための帯域透過フィルタとしては、より好ましい場合がある。
また、このような(第1の波長帯域に)透過帯域を有する場合、透過帯域の透過率としては、60%以上であればよく、70%以上であればより好ましく、80%以上であればさらに好ましい。さらに、透過帯域の短波長側にある第1の透過阻止帯域、透過帯域の長波長側にある第2の透過阻止帯域の透過率は、30%以下であればよく、20%以下であればより好ましく、10%以下であればさらに好ましい。
【0030】
第3実施形態に係る帯域透過フィルタ100dは、
図11に示すように、広い透過阻止帯域(反射帯域)を含む第1の波長帯域の中に、ノイズ分の少ない透過帯域(第2の波長帯域)を得ることができる。
この場合、
図11の分光特性に基づくと、
図11に示す広範囲な特定の波長帯域(第1の波長帯域:380nm以上)において、特定の帯域幅を有する透過帯域(第2の波長帯域)を有する。なお、この場合、透過率は最大でも約45%であるが、例えば、透過率の最大値を100%と規格化したときにおいて、60%以上となる波長帯域を透過帯域(第2の波長帯域)としてもよい。
【0031】
また、本発明の帯域透過フィルタによれば、透過阻止帯域(反射帯域)を含む第1の波長帯域より短波側の副透過帯域に特定の帯域で透過する特性を付与することで、全体として
図12に示すような特性を得ることができる。
これは、透過帯域フィルタにおいて、透過帯域フィルタの透過帯域を含む反射帯域を有するショートパスフィルタとする、例えば、最外層にλ/8の光学的膜厚の膜を有する多層膜構造を付与することで得られる。
例えば、反射層および追加層を含む多層膜が一群となった帯域透過フィルタで、可視光領域と特定の赤外線領域の2つの領域を透過することが可能となる。
【0032】
第5実施形態に係る帯域透過フィルタは、上記のようなショートパスフィルタの多層膜構造を付与することで、波長λを約940nmとして設計した複数の帯域透過フィルタの例である。
本実施形態に係る帯域透過フィルタは、可視光領域で高透過率が得られるとともに、可視光領域より長波長側に反射帯域を有し、かつ、約850nmの波長を中心とした透過帯域が高透過率で得られるように設計する。
このような分光特性が得られるように、光学的膜厚がλ/4.5以下の高屈折率膜と、光学的膜厚がλ/4.5以下の低屈折率膜の連続した2層を含む制約のもと自動設計をすると、λ/16の高屈折率膜とλ/22の低屈折率膜の2層からなる追加層と、λ/15の高屈折率膜とλ/26の低屈折率膜の2層からなる追加層と、を有する多層膜の構造として与えられる。
【0033】
本実施形態に係る帯域透過フィルタは、透過領域(第2の波長帯域)の中心波長が約850nm付近に存在し、かつ、透過率が60%以上となる帯域幅が約100nmである。
また、
図12において、透過率が10%以下となる約711nm以上の長波長帯域が第1の波長帯域を示す。
一方、
図12において約390nmから約697nmまでの帯域、いわゆる副透過帯域において、透過率が60%以上となる。
このように、反射層および追加層を含む多層膜が一群となった帯域透過フィルタにおいて、副透過帯域となる可視光領域で高い透過率を示すとともに、第1の波長帯域のうち、特定の波長帯域での透過帯域(第2の波長帯域)を有する、複数の帯域透過フィルタ(デュアルバンドパスフィルタ)が実現できる。
【0034】
図12に示す分光特性に基づき、特に、
第5実施形態に係る帯域透過フィルタは、副透過帯域として可視光領域で選択的に高い透過率を示し、また、可視光領域と隣り合う第1の領域のうち、短波長側から第1の透過阻止帯域、透過帯域(第2の波長帯域)、第2の透過阻止帯域を有する。即ち、反射帯域(透過阻止帯域)は、第1の透過阻止帯域、透過帯域(第2の波長帯域)、第2の透過阻止帯域を含む。
ここで、透過帯域(第2の波長帯域)は、追加層の光学的膜厚をλ/8よりも薄くしたことにより、約850nmの波長を中心に約100nmの帯域を有するので、下記に説明するように、例えば、監視カメラ用途などの光学系に好適に使用できる。
【0035】
監視カメラのように、例えば、昼間の時間帯に周辺が明るい対象を画像として捉える場合は、可視光領域の波長の光に対する感度を高めるために、可視光領域の透過率が高いことが好ましい。
一方、例えば、夜中の時間帯に周辺が暗い対象を画像として捉える場合は、赤外線領域の感度を高める、いわゆる赤外線カメラとしての機能を発揮する。
このとき、赤外線領域としては、780nm〜950nmの帯域内に、上記のような透過帯域(第2の波長帯域)の中心を有するとともに、一定の帯域幅を有することが好ましい。
また、赤外線領域としては、800nm〜900nmの帯域内に透過帯域(第2の波長帯域)の中心を有するとより好ましく、820nm〜880nmの帯域内に透過帯域(第2の波長帯域)の中心を有するとさらに好ましい。
【0036】
このように、
第5実施形態に係る帯域透過フィルタを、例えば、監視カメラに適用する場合、副透過帯域となる可視光領域よりも長波長側にある第1の透過阻止帯域が、650nm〜690nmの範囲にある波長から長波長側に存在するように設計すればよい。
例えば、撮像素子に700nm〜750nmの光が入射する場合、黒色の画像が、赤みがかってしまうことで色再現性が悪くなる場合がある。
実用上、可視光領域を透過し、近赤外線領域の透過を阻止する光学フィルタは、その分光特性が急峻な変化とならず一定の勾配をもって透過から透過阻止へと変化するため、700nmの光の撮像素子へ入射を抑制するため、第1の透過阻止帯域の下限(第1の波長帯域の下限)は650nmとしている。
【0037】
なお、分光特性として急峻な変化が得られる光学フィルタであれば、第1の透過阻止帯域の下限は、例えば、680nmや690nmとして設定できる。
図13に示す分光特性は、
図12の分光特性に対して、第1の透過阻止帯域を650nm付近まで短波長側にシフトさせた設計例であり、波長λを約900nmとした複数の帯域透過フィルタの例である。
このような分光特性が得られるように、光学的膜厚がλ/4.5以下の高屈折率膜と、光学的膜厚がλ/4.5以下の低屈折率膜の連続した2層を含む制約のもと自動設計をすると、λ/9の高屈折率膜とλ/12の低屈折率膜の2層からなる追加層と、λ/11の高屈折率膜とλ/6の低屈折率膜の2層からなる追加層と、を有する多層膜の構造として与えられる。
【0038】
また、撮像素子によっては、1100nm以上の波長帯域から1200nm近傍までも光感度を有するものがある。そのため、透過帯域(第2の波長帯域)よりも長波長側にある第2の透過阻止帯域は1100nmまで与えられればよく、1200nmまで与えられればより好ましい。
図14に示す分光特性は、
図12の分光特性に対して、第2の透過阻止帯域を1200nm付近まで長波長側にシフトさせた設計例であり、
図12の設計例に1200nmまで遮断するショートパスフィルタを付与したものである。
【0039】
また、透過帯域の波長λより長波側の副透過帯域に特定の帯域で透過する特性を付与することで、全体として
図15に示すような特性を得ることもできる。
このような分光特性が得られるように、光学的膜厚がλ/4.5以下の高屈折率膜と、光学的膜厚がλ/4.5以下の低屈折率膜の連続した2層を含む制約のもと自動設計をすると、λ/10の高屈折率膜とλ/7の低屈折率膜の2層からなる追加層と、λ/7の高屈折率膜とλ/9の低屈折率膜の2層からなる追加層と、を有する多層膜の構造として与えられる。
なお、この場合の波長λは約840nmとして設計した複数の帯域透過フィルタの例である。