特許第6543001号(P6543001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6543001表面処理銅箔、並びにこれを用いた銅張積層板およびプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543001
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】表面処理銅箔、並びにこれを用いた銅張積層板およびプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20190628BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20190628BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20190628BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20190628BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20190628BHJP
   C25D 1/04 20060101ALN20190628BHJP
【FI】
   C25D7/06 A
   C25D5/16
   B32B15/08 J
   H05K1/03 610H
   H05K1/03 670A
   H05K1/09 A
   !C25D1/04 311
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-540888(P2018-540888)
(86)(22)【出願日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2018013279
(87)【国際公開番号】WO2018181726
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2018年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2017-68293(P2017-68293)
(32)【優先日】2017年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】宇野 岳夫
(72)【発明者】
【氏名】奥野 裕子
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】西 芳正
(72)【発明者】
【氏名】福武 素直
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−147978(JP,A)
【文献】 特開2018−141228(JP,A)
【文献】 特開2018−141229(JP,A)
【文献】 特開2018−145519(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/196576(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/035876(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/117587(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/026490(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
C25D 1/04
C25D 5/16
C25D 7/06
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基体の少なくとも一方の面に、粗化粒子が形成された粗化処理表面を少なくとも含む表面処理皮膜を有する表面処理銅箔であって、
前記表面処理銅箔の断面を、走査型電子顕微鏡により観察するとき、
前記表面処理皮膜の表面において、前記粗化粒子の粒子高さの標準偏差が0.16μm以上0.30μm以下であり、かつ、前記粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値が2.30以上4.00以下であることを特徴とする、表面処理銅箔。
【請求項2】
前記表面処理皮膜の表面において、前記粗化粒子の粒子高さの平均値が0.50μm以上1.20μm以下である、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記表面処理皮膜の表面において、前記粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の標準偏差が1.20以上2.00以下である、請求項1または2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記表面処理皮膜の表面において、輝度が10.0以上14.0以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
高周波帯域用プリント配線板に使用するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面処理銅箔を用いて形成された銅張積層板。
【請求項7】
前記銅張積層板の樹脂基材に使用される樹脂が液晶ポリマーである、請求項6に記載の銅張積層板。
【請求項8】
請求項6または7に記載の銅張積層板を用いて形成されたプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔、特に高周波帯域で使用されるプリント配線板に好適な表面処理銅箔に関する。さらに本発明は、上記表面処理銅箔を用いた銅張積層板およびプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の情報処理速度の向上及び高速無線通信等に対応するため、電子回路基板では電気信号の高速伝送が求められており、高周波回路基板の適用が増えている。
【0003】
高周波回路基板では、電気信号の高速伝送のために、伝送損失を低減する必要がある。伝送損失を低減する方法としては、樹脂基材を低誘電率化および低誘電正接化する方法と、導体である回路配線(特に銅箔)において伝送損失を低減する方法が挙げられる。特に、樹脂基材の低誘電率化および低誘電正接化を図る方法としては、誘電率および誘電正接が低い樹脂(例えば、液晶ポリマー等)を選択する方法が挙げられる。しかし、この場合、樹脂の種類によってはカップリング剤等を用いても化学的密着性が得られ難いという問題がある。また、銅箔における伝送損失の低減を図る方法としては、粗化粒子等の表面凹凸を小さくする方法が挙げられるが、この場合、物理的密着性(アンカー効果)が得られ難くなるという問題がある。
【0004】
そのため、従来は、樹脂基材の低誘電率化および低誘電正接化を図り、銅箔表面の凹凸で密着性を得る方法が一般的である。例えば、特許文献1には、液晶ポリマーフィルムとの密着性を向上するために、銅箔の表面粗さおよび明度値(輝度)を調整する方法が開示されている。特許文献2には、液晶ポリマーフィルムとの密着性を向上するために、粗化粒子の高さおよびアスペクト比を調整する方法が開示されている。しかし、特許文献1および2の場合、銅箔表面の凹凸を大きくすることで液晶ポリマーフィルムとの密着性の向上は図れているものの、近年求められているより低い伝送損失の要求レベルまでは十分ではない。
【0005】
ところで、高周波回路基板では、これまで伝送損失の低減と密着性の向上が重視されてきたが、電子機器の小型化、薄型化に伴い、特に携帯電話に代表される携帯機器に用いられる各種電子部品では、高度に集積化され、小型で高密度のプリント配線板を開発することが求められている。
【0006】
このような小型で高密度の配線では、層間接続にブラインドビアホールを用いることがあり、レーザー照射によりビアホールを形成する製造プロセスが増えてきている。図5に、レーザー照射によるブラインドビアホールの形成プロセスの一例を示す。
【0007】
図5に示されるように、レーザー照射によるブラインドビアホール形成においては、レーザー30を照射した加工後のブラインドビアホールの底部40に、銅箔11に起因する金属、樹脂基材13に起因する樹脂が残留することがある(図5(b))。レーザー加工後に行うデスミア処理(図5(c))でも、これらの残留物20が除去しきれない場合には、めっき15(図5(d))を施しても十分な導通が得られず、層間接続時の接続信頼性が低下することがある。
【0008】
従来、樹脂基材との密着性と、ブラインドビアホール内のソフトエッチング性とを両立させるため、表面粗さ、粗化粒子の幅、高さ、アスペクト比を規定することで、銅箔に起因する金属の残留を抑制する銅箔を用いる方法(特許文献3)、樹脂基材に起因する樹脂の残留を抑制する銅箔を用いる方法(特許文献4、特許文献5)が提案されている。しかし、特許文献3の方法では、粗化粒子の形状により樹脂基材との良好な密着性を確保することは可能であるが、レーザー照射時のブラインドビアホール底部に残留する樹脂については考慮されていない。そのため、近年のより小型で高密度の回路基板では、層間接続の接続信頼性が十分ではない。また、特許文献4の方法では、粗化粒子の表面にレーザー吸収層を設けることにより、特許文献5の方法では、銅箔表面にレーザー吸収性の高い黒化処理層を設けることにより、それぞれ、レーザー照射時のブラインドビアホールの底部に残留する樹脂を抑制することは可能である。しかし、ブラインドビアホール以外の樹脂基材と銅箔との界面に伝送損失の高いレーザー吸収層または黒化処理層が残留する。そのため、伝送損失が増加し、近年求められているより低い伝送損失の要求レベルまでは十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−219379号公報
【特許文献2】国際公開第2012/020818号
【特許文献3】特開2011−168887号公報
【特許文献4】特開平11−284309号公報
【特許文献5】特開2000−049464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑み、特にプリント配線板の導体回路に用いる場合に、樹脂基材との良好な密着性と、高周波帯域での良好な高周波特性とを両立でき、さらにレーザー加工性にも良好な表面処理銅箔、並びにこれを用いた銅張積層板およびプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、表面処理銅箔が、銅箔基体の少なくとも一方の面に、粗化粒子が形成された粗化処理表面を少なくとも含む表面処理皮膜を有し、前記表面処理銅箔の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察するとき、前記表面処理皮膜の表面において、前記粗化粒子の粒子高さの標準偏差が0.16μm以上0.30μm以下であり、かつ、前記粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値が2.30以上4.00以下であることによって、特にプリント配線板の導体回路に用いる場合に、樹脂基材との良好な密着性と、高周波帯域での良好な高周波特性とを両立でき、さらにレーザー加工性にも良好な表面処理銅箔が得られることを見出た。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]銅箔基体の少なくとも一方の面に、粗化粒子が形成された粗化処理表面を少なくとも含む表面処理皮膜を有する表面処理銅箔であって、
前記表面処理銅箔の断面を、走査型電子顕微鏡により観察するとき、
前記表面処理皮膜の表面において、前記粗化粒子の粒子高さの標準偏差が0.16μm以上0.30μm以下であり、かつ、前記粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値が2.30以上4.00以下であることを特徴とする、表面処理銅箔。
[2]前記表面処理皮膜の表面において、前記粗化粒子の粒子高さの平均値が0.50μm以上1.20μm以下である、上記[1]に記載の表面処理銅箔。
[3]前記表面処理皮膜の表面において、前記粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の標準偏差が1.20以上2.00以下である上記[1]または[2]に記載の表面処理銅箔。
[4]前記表面処理皮膜の表面において、輝度が10.0以上14.0以下である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の表面処理銅箔。
[5]高周波帯域用プリント配線板に使用するための、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の表面処理銅箔。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の表面処理銅箔を用いて形成された銅張積層板。
[7]前記銅張積層板に使用される樹脂が液晶ポリマーである、上記[6]に記載の銅張積層板。
[8]上記[6]または[7]に記載の銅張積層板を用いて形成されたプリント配線板。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面処理銅箔が、銅箔基体の少なくとも一方の面に、粗化粒子が形成された粗化処理面を少なくとも含む表面処理皮膜を有し、前記表面処理銅箔の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察するとき、前記表面処理皮膜の表面において、前記粗化粒子の粒子高さの標準偏差が0.16μm以上0.30μm以下であり、かつ、前記粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値が2.30以上4.00以下であることによって、特にプリント配線板の導体回路に用いる場合に、樹脂基材との良好な密着性と、高周波帯域での良好な高周波特性とを両立でき、さらにレーザー加工性にも良好な表面処理銅箔、並びにこれを用いた銅張積層板およびプリント配線板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の表面処理銅箔を、断面で見たときの、表面処理皮膜の表面形状を、輪郭線で表したときの概略図である。
図2図2は、本発明の表面処理銅箔を用いた銅張積層板に、レーザー照射する際の、表面処理銅箔の表面の様子を説明するための図である。
図3図3は、実施例5で作製した表面処理銅箔の断面を観察した際の、SEM画像(図3(a))と、それを所定の条件で画像処理した図(図3(b)〜(d))である。
図4図4は、比較例7で作製した表面処理銅箔の断面を観察した際の、SEM画像(図4(a))と、それを所定の条件で画像処理した図(図4(b)〜(d))である。
図5図5は、レーザー照射によって銅張積層板にブラインドビアホールを形成する際に従来生じていた問題点を説明するための図である。
図6図6は、従来の表面処理銅箔を用いた銅張積層板に、レーザー照射する際の、表面処理銅箔の表面の様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の表面処理銅箔の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
本発明に従う表面処理銅箔は、銅箔基体の少なくとも一方の面に、粗化粒子が形成された粗化処理面を少なくとも含む表面処理皮膜を有し、前記表面処理銅箔の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察するとき、前記表面処理皮膜の表面は、前記粗化粒子の粒子高さの標準偏差が0.16μm以上0.30μm以下であり、かつ、前記粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値が2.30以上4.00以下である。
【0017】
本発明の表面処理銅箔は、銅箔基体と、該銅箔基体の少なくとも一方の面に、粗化粒子が形成された粗化処理表面を少なくとも含む表面処理皮膜と、を有する。このような表面処理皮膜の表面は、表面処理銅箔の最表面(表裏面)のうち少なくとも一方の面であり、また、銅箔基体の少なくとも一方の面に形成された粗化粒子の形成状態および粒子形状等が反映された、微細凹凸表面形状をもつ粗化面である。このような表面処理皮膜の表面(以下、「粗化面」という。)は、例えば、銅箔基体上に粗化粒子が形成された粗化処理表面であってもよいし、あるいは、この粗化処理表面上に、直接、または、ニッケル(Ni)を含有する下地層、亜鉛(Zn)を含有する耐熱処理層およびクロム(Cr)を含有する防錆処理層等の中間層を介して間接的に形成された、シランカップリング剤層の表面であってもよい。なお、本発明の表面処理銅箔が、例えば、プリント配線板の導体回路に用いられる場合には、上記粗化面が、樹脂基材を貼着積層するための表面(貼着面)となる。
【0018】
さらに、本発明では、表面処理銅箔の表面に、例えばイオンミリング装置等を用いて断面加工を施し、その加工断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察することにより、粗化面における粗化粒子の形成状態を解析する。具体的には、SEMの加速電圧5kVにて、倍率5千倍の2次電子像を観察する。なお、SEMによる断面の観察の際には、表面処理銅箔を平滑な支持台の上に、表面処理銅箔の反りやたるみが出ないように水平に固定して、断面を観察した画像内で表面処理銅箔が水平な状態となるよう表面処理銅箔を調整する。
【0019】
さらに、粗化面における粗化粒子の解析は、上記断面の観察で得られたSEM画像を画像解析することにより行う。具体的には、所定の倍率のSEM画像を画像処理して、図1に示すように、粗化面の表面形状の輪郭線を抽出する。次に観察視野(SEM画像に対応)内で、最も高い粗化粒子の先端(最高点T)と、粗化粒子のすき間の最も低い谷間(最低点B)とを選定する。さらに最高点Tと最低点Bを通過するように、観察視野の左右端に対して垂直に2本の平行線(最高線Lおよび最低線L)を引き、観察視野の左右端のそれぞれにおいてこれら2本の平行線とが交わる4つの交点で囲まれる四角形を測定エリアとする。
【0020】
また、表面処理銅箔と樹脂基材との密着性に関して、樹脂基材の材料として、特に液晶ポリマー等の難密着性樹脂を用いる場合には、粗化粒子の高さが低い表面処理銅箔は密着性への寄与度が小さくなる。そのため、上記画像解析では、測定エリアにおいて、最低線Lからの高さが測定エリア高さ全体の約25%となる位置を、密着性への寄与度が確保できる有効高さとして、「基準高さL」を設ける。
【0021】
その上で、本発明では、「基準高さL」よりも上方に突起する粒子を、「粗化粒子」と定める。このような粗化粒子において、粗化粒子の粒子高さは、測定エリアの最低線Lから粗化粒子の先端までの高さ方向の寸法hとする。また、粗化粒子の粒子幅は、基準高さLより高い位置において、幅方向で最大となる位置で幅方向に線を引き、粗化粒子の輪郭線と交わった2点間の幅方向の寸法Wとする。
【0022】
ところで、従来から、液晶ポリマーのような難密着性樹脂に対しては、物理的密着性(アンカー効果)を高めるために、粗化面の粒子高さを高くする方法、粒子幅に対する粒子高さの比(粒子高さ/粒子幅)を大きくする方法が有効であることが知られている。
【0023】
しかし、近年の高周波特性の更なる向上に伴い、粗化面において粒子高さを低くすることが検討されてきている。この場合には、レーザー加工の工程において、ブラインドビアホール底部40の粗化粒子の表面および粗化粒子間のすき間に樹脂が残留しやすくなる(図5(b)参照)。
【0024】
例えば、FR−4(Flame Retardant Type 4)のようなエポキシ系樹脂を含む樹脂基材を用いる場合には、レーザー加工後の樹脂残渣は、デスミア処理によって除去することが可能である(図5(c)参照)。しかし、液晶ポリマーのような難密着性樹脂を用いた場合には、その化学的安定性に起因して、デスミア処理の効果が十分に得られず、樹脂残渣を十分に除去できない。その結果、層間接続時の接続信頼性が低下する問題がある。
【0025】
この樹脂残渣の発生は、銅箔に起因する伝送損失を低減させる際、すなわち粗化粒子を微細化した際に、特に顕著となる。本発明では、粗化面における粗化粒子の形成状態を制御することにより、微細粗化処理が施されていても、レーザー照射後の樹脂残渣を低減し得る(レーザー加工性が良好となる)表面処理銅箔を得ることができる。
【0026】
具体的には、粗化面において、粗化粒子の粒子高さの標準偏差を0.16μm以上0.30μm以下、かつ、粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値を2.30以上4.00以下に制御する。粗化粒子の粒子高さの標準偏差、および粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値を、上記範囲に制御するということは、粗化面において、粗化粒子の粒子高さの均一性をある程度低下させるとともに、粗化粒子を細長形状にすることを意味する。
【0027】
上記のように制御された粗化面において、良好なレーザー加工性が得られるメカニズムは、必ずしも明らかではないが、上記粗化面では、レーザー照射時に粗化面でレーザー光が正反射することを効果的に抑制して粗化粒子のすき間へとレーザー光を導入することができる。さらに、レーザー光が粗化粒子の粒子間のすき間に導入された後には、粗化粒子の側面で乱反射されながら、すき間の下部へと導入されやすくなると考えられる。その結果、粗化面に照射したレーザー光が効果的に樹脂の除去に活用されることにより、レーザー照射後に銅箔表面に残留する樹脂残渣を効果的に低減できると推察される。具体的には、以下のように推察する。
【0028】
図2に、本発明の表面処理銅箔を用いた銅張積層板の樹脂基材表面に、レーザー照射する際の、表面処理銅箔の表面の様子を概略的に示す。また、本発明との比較のため、図6に、従来の表面処理銅箔を用いた銅張積層板の樹脂基材表面に、レーザー照射する際の、表面処理銅箔の表面の様子を概略的に示す。レーザー光30を照射し始めた時点では、樹脂基材13の表面が平滑なため、樹脂基材表面でのレーザー光30の正反射が起こりやすい(図示せず)。しかし、レーザー照射部で、樹脂基材13の除去が進むに伴い、表面処理銅箔11の粗化面が露出し始めると、粗化粒子111の先端及び側面においてはレーザー光30の乱反射32(波線矢印)が起こるようになり、レーザー光30による樹脂基材13の除去性が高まる(図2(a)および(b)、図6(a)および(b))。このようなレーザー光の乱反射32による樹脂の除去作用は、図2(b)に示されるように、粗化粒子111の高さが不均一である場合により顕著となり、レーザー加工性が良好となるものと推察される。なお、図2および図6において、破線矢印31はレーザー光の正反射を示し、波線矢印32はレーザー光の乱反射を示している。
【0029】
粗化面において、粗化粒子の粒子高さの標準偏差は0.16μm以上0.30μm以下であり、0.22μm以上0.30μm以下であることが好ましい。粒子高さの標準偏差を上記範囲に制御することにより、レーザー照射時に粗化粒子表面におけるレーザー光の正反射を効果的に抑制し、また粗化粒子のすき間に侵入したレーザー光が粗化粒子の先端及び側面で乱反射されながらすき間の下部へと導入されやすくなる。その結果、レーザー照射後に銅箔表面に残留する樹脂残渣を低減する効果が得られる。粒子高さの標準偏差が0.16μm未満であると、上述したレーザー光の正反射の抑制効果が低減して、レーザー加工性が劣るとともに銅箔と樹脂基材との密着性も劣ってしまう。一方、粒子高さの標準偏差が0.30μmを超えると、伝送損失が増加して高周波特性が劣るものと推察される。
【0030】
粗化面において、粗化粒子の粒子高さの平均値は0.50μm以上1.20μm以下であることが好ましく、0.60μm以上0.90μm以下であることがより好ましい。粒子高さの平均値を上記範囲に制御することにより、伝送損失を低減しつつも樹脂基材との密着性をより良好にすることができる。粒子高さの平均値が0.50μm未満であると、上述したレーザー光の正反射の抑制効果が低減して、レーザー加工性が劣るとともに銅箔と樹脂基材との密着性も劣ってしまう。一方、粒子高さの平均値が1.20μmを超えると伝送損失が増加して高周波特性が劣るものと推察される。
【0031】
粗化面において、粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値は2.30以上4.00以下であり、2.60以上3.80以下であることが好ましい。この比の平均値を上記範囲に制御することにより、レーザー照射時に粗化粒子表面におけるレーザー光の正反射を効果的に抑制し、また粗化粒子のすき間に侵入したレーザー光が粗化粒子の側面で乱反射されながらすき間の下部へと導入されやすくなる。その結果、レーザー照射後に銅箔表面に残留する樹脂残渣を低減する効果が得られる。上記比(粒子高さ/粒子幅)の平均値が2.30未満であると、上述したレーザー光の正反射の抑制効果が低減して、レーザー加工性が劣るとともに銅箔と樹脂基材との密着性も劣ってしまう。一方、上記比(粒子高さ/粒子幅)の平均値が4.00を超えると、粗化粒子のすき間に樹脂基材が充填されにくくなり、銅箔と樹脂基材との密着性が劣るものと推察される。
【0032】
また、粗化面において、粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の標準偏差は1.20以上2.00以下であることが好ましい。この比の標準偏差を上記範囲に制御することにより、粗化面が微細粗化されつつ樹脂基材との密着性をより良好にすることができる。上記比(粒子高さ/粒子幅)の標準偏差が1.20未満であると、上述したレーザー光の正反射の抑制効果が低減してレーザー加工性が劣るとともに銅箔と樹脂基材との密着性も劣ってしまう。一方、上記比(粒子高さ/粒子幅)の標準偏差が2.00を超えると、粗化粒子のすき間に充填された樹脂基材が引き抜かれやすくなり、銅箔と樹脂基材との密着性が劣るものと推察される。
【0033】
粗化面において、輝度(明度値)は10.0以上14.0以下であることが好ましい。一般に、粗化面の輝度が低いほど、粗化面におけるレーザー光の正反射をより効果的に抑制できるため、レーザー加工性はより向上する傾向にある。一方で、粗化面の輝度を低くし過ぎると、粗化面におけるレーザー光の反射性能自体が低減してしまう。良好なレーザー加工性を安定的にもたらすため、輝度を上記範囲内に制御することが好ましい。なお、本明細書において、輝度は、CIE(国際照明委員会)が規定するXYZ表色系において反射率を表す「Y値」を意味する。
【0034】
本発明の表面処理銅箔は、例えば回路基板の導体回路に用いることにより、GHz帯の高周波信号を伝送した際の伝送損失を高度に抑制でき、かつ、表面処理銅箔と樹脂基材(樹脂層)との密着性を良好に維持することができる。さらに、ブラインドビアホールを形成する際のレーザー照射時に樹脂残渣を低減できるため、層間接続信頼性が高い回路基板を得ることができる。
【0035】
次に、本発明の表面処理銅箔の好ましい製造方法について、その一例を説明する。表面処理銅箔の製造方法として、銅箔基体の表面に、粗化粒子を形成する粗化処理を行うことが好ましい。
【0036】
銅箔基体は、公知のものを用いることができ、例えば電解銅箔又は圧延銅箔を用いることができる。後述する粗化粒子の均一性を所定の範囲に制御するためには、粗化処理を施す前の銅箔基体の表面が粗すぎないことが好ましく、例えば、銅箔基体表面の表面粗さとして、JIS B0601−2001に準拠した十点平均粗さRzjisが1.5μm以下であることが好ましい。なお、銅箔基体の表面が平滑であっても、例えば、オイルピットのような凹部が存在する圧延銅箔の場合には、粗化粒子の均一性を所定の範囲に制御しにくい。そのため、銅箔基体は、特に電解銅箔が好ましい。
【0037】
粗化処理は、例えば下記に示すような粗化めっき処理(1)と粗化めっき処理(2)とを組み合せて行うことが好ましい。
【0038】
粗化めっき処理(1)は、銅箔基体の少なくとも一方の面上に粗化粒子を形成する方法であって、具体的には、硫酸銅浴で以下の条件のめっき処理を行う。
【0039】
粗化めっき処理(2)は、上記粗化処理めっき(1)で表面処理をした銅箔基体に平滑なかぶせめっきを行い、粗化粒子の脱落を防止(固定化)するために行う。具体的には、硫酸銅浴で以下のような条件でめっき処理を行う。
【0040】
以下、粗化めっき処理(1)および(2)用のめっき液の組成および電解条件の一例をそれぞれ示す。なお、下記に示す条件は好ましい一例であり、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて添加剤の種類、量、電解条件を適宜変更、調整することができる。
【0041】
<粗化めっき処理(1)の条件>
硫酸銅五水和物・・・銅(原子)換算で、50〜100g/L
硫酸・・・100〜200g/L
モリブデン酸アンモニウム・・・モリブデン(原子)換算で、0.01〜0.04g/L
硫酸鉄(II)七水和物・・・鉄(原子)換算で、1〜10g/L
電流密度・・・10〜25A/dm
液温(浴温)・・・20〜25℃
【0042】
<粗化めっき処理(2)の条件>
硫酸銅五水和物・・・銅(原子)換算で、40〜60g/L
硫酸・・・80〜120g/L
電流密度・・・0.5〜10A/dm
液温(浴温)・・・45〜60℃
【0043】
ところで、良好な高周波特性を発揮する表面処理銅箔の従来の製造では、伝送損失の低減を図るために、粗化粒子を微細化するのが一般的である。しかし、このような粗化粒子の微細化は、樹脂基材との密着性、レーザー加工性の低下を招く傾向がある。
【0044】
伝送損失の低減、樹脂基材との密着性およびレーザー加工性の向上を実現し得るために粗化面において、粗化粒子の粒子高さを適度に不均一にするとともに、粒子形状を細長形状に制御する。これにより、高周波特性、密着性およびレーザー加工性の全ての要求特性が良好な本発明の表面処理銅箔を得ることができる。
【0045】
通常、粗化粒子を微細化していくと、粒子高さの均一性は増す傾向にある。これは、粗化処理の電気めっき時に、核生成が起こりやすいことが要因であると考えられる。このような状況においては、電気めっきによる粗化粒子の核成長が停止しやすく、特定の粗化粒子が優先的に成長することが起こり難くなり、これにより、個々の粗化粒子の高さに差異が生じ難くなると考えられる。
【0046】
そのため、粗化処理の電気めっき時においては、核生成を抑制し、核成長が優先的に起こるようなめっき条件を採用することが望ましい。粗化処理の電気めっき時に核生成を抑制する効果があるのは、例えばめっきの電流密度を低めに設定する、銅箔基体の表面粗さを粗くする、めっき液の吹き出し方向を増やす、めっき液の液温度を低めにする、銅箔基体の搬送速度を遅くする等が挙げられる。
【0047】
めっき液の吹き出し条件、銅箔基体の搬送速度は、銅箔基体表面へのめっき液の流れに作用し、銅箔基体表面におけるめっき液の流れ方に影響を及ぼす。めっき液の流れ方が揃った状態では層流になりやすく、めっき液の流れに乱れが生じた状態では乱流になりやすい。層流の状況下ではめっきが均一に成長しやすいため、粗化粒子の形状は均一となり、乱流の状況下ではめっきの成長が不均一になり、その結果、粗化粒子の形状が不均一になるものと推察される。めっき液を複数方向から吹き出すようにする、又は、銅箔基体の搬送速度を遅くすることによって、めっき液の流れ方が乱流となりやすい。このようなめっき条件を調整することにより、めっき時の核生成を抑制する効果を得ることができる。
【0048】
また、銅箔基体の表面に、マクロな平滑性を損ねない程度の微細な表面凹凸が存在する場合には、粗化処理の電気めっき時の電流に分布が生じる。凸部には電流が集中しやすくなるため、粗化粒子は高く成長し、一方、凹部には電流が流れにくくなるため、粗化粒子は低く成長する。これにより、粗化高さの高い粗化粒子と粗化高さの低い粗化粒子とが混在した形態となる。そのため、前述した粗化処理の電気めっき時に核生成を抑制するめっき条件を、マクロな平滑性を損ねない程度の表面凹凸が存在する銅箔基体に適用することにより、めっき条件を大きく調整することなく、粗化粒子の高さの均一性を低下させることができる。
【0049】
銅箔基体のマクロな平滑性を損ねない程度の微細な表面凹凸を形成する方法としては、銅箔基体を製箔する際のドラム表面の粗さを調整する(例えば、ドラム表面を粗めのバフにより研磨する等)、製箔時のめっき液に添加するブライトナーとレベラーの濃度、比率を調整する(例えば、レベラーの濃度を低くする等)、製箔後の銅箔の表面を化学的に溶解(エッチング)する(例えば、エッチング時間を長くする等)等の方法が挙げられる。
【0050】
なお、銅箔基体の粗化処理を施す前の表面粗さについては、粗い方が粗化粒子の粗化高さに高低差をつけやすくなる。一方、表面粗さが粗くなり過ぎると、粗化粒子の粗化高さが全体的に高くなってしまい、粗化粒子の高さの均一性を所定の範囲に制御することが困難となる。その結果、高周波特性に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、銅箔基体の粗化処理を施す前の表面粗さとしては、JIS B0601−2001に準拠した十点平均粗さRzjisが1.5μm以下であることが好ましい。
【0051】
この他にも、粗化処理方法を適宜組み合わせることにより、銅箔基体の表面粗さを粗くし過ぎることなく、粗化粒子の高さの均一性を適度に低下させることができる。一例としては、粗化粒子の電気めっきを複数回に分けて行う際に、前の電気めっきよりも後の電気めっきの電流密度を大きくすることにより、前の電気めっきにより形成された粗化粒子の高低差を更に拡大することができる。また、他の一例としては、複数回の電気めっきにおいて、粗化めっき用のめっき液中で、添加元素を適宜選択することにより、粗化粒子の高低差を拡大することも可能である。
【0052】
特に、粗化処理の電気めっき時に核生成を抑制するように、複数のめっき条件を制御する。これにより、一部の粗化粒子を細長形状に成長させ、粗化粒子の高さを不揃いにして、全体として粗化粒子の高さの均一性を適度に低下させる。その結果、高周波特性と密着性およびレーザー加工性の全ての要求特性が良好な表面処理銅箔を得ることができる。また、上記のような粗化処理条件は、生産性などを考慮して、適宜最適な組み合わせを選定することが好ましい。
【0053】
さらに、本発明の表面処理銅箔は、銅箔基体の少なくとも一方の面に、粗化粒子の電析により形成される、所定の微細凹凸表面形状をもつ粗化処理表面を有し、さらに、該粗化処理表面上に、直接、または、Niを含有する下地層、Znを含有する耐熱処理層およびCrを含有する防錆処理層等の中間層を介して間接的にシランカップリング剤層がさらに形成されていてもよい。なお、上記下地層、中間層およびシランカップリング剤層は、その処理厚みが非常に薄いため、表面処理銅箔の粗化面における粗化粒子の粒子形状に影響を与えるものではない。表面処理銅箔の粗化面における粗化粒子の粒子形状は、該粗化面に対応する粗化処理表面における粗化粒子の粒子形状で実質的に決定される。
【0054】
また、シランカップリング剤層の形成方法としては、例えば、表面処理銅箔の前記粗化処理表面の凹凸表面上に、直接、または下地層、中間層等を介して間接的にシランカップリング剤溶液を塗布した後、風乾(自然乾燥)又は加熱乾燥により形成する方法が挙げられる。塗布されたシランカップリング剤溶液の乾燥は、水が蒸発すればよいが、50〜180℃で加熱乾燥すると、シランカップリング剤と銅箔との反応が促進される点で好適である。
【0055】
上記シランカップリング剤溶液を下地層、中間層等の表面に塗布する際に用いる溶液中のシランカップリング剤の濃度は、十分な量のシランカップリング剤を塗布して高い密着性を実現するために、0.01〜15体積%であることが好ましく、0.1〜10体積%であることがより好ましい。当該溶液の溶媒としては水を用いるのが好ましい。
【0056】
シランカップリング剤層は、エポキシ系シラン、アミノ系シラン、ビニル系シラン、メタクリル系シラン、アクリル系シラン、スチリル系シラン、ウレイド系シラン、メルカプト系シラン、スルフィド系シランおよびイソシアネート系シランのいずれか1種類以上のシランカップリング剤を含有することが好ましい。これらのシランカップリング剤は、樹脂基材の樹脂中に含有される反応性を有する官能基との作用により効果が異なるため、樹脂との相性を考慮して適切なものを選定することが必要である。
【0057】
上記シランカップリング剤の具体例としては、一例として3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド等を挙げることができるが、これ以外のシランカップリング剤であっても、適宜選択して使用することができる。また、これらのシランカップリング剤は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0058】
その他の実施形態として、表面処理銅箔とシランカップリング剤層との間に、Niを含有する下地層、Znを含有する耐熱処理層およびCrを含有する防錆処理層の中から選択される少なくとも一層の中間層を有することがさらに好ましい。
【0059】
例えば、銅箔基体または粗化処理表面中の銅(Cu)が、樹脂基材中に拡散して、銅害の発生により密着性が低下するおそれがある場合、Niを含有する下地層は、粗化処理表面とシランカップリング剤層との間に形成することが好ましい。下地層は、例えば、Ni、または、Niを含有する合金、例えば、Ni−リン(P)、Ni−Zなどのうちから選択される少なくとも1種類以上のNi以外の元素を含有する合金で形成することが好ましい。
【0060】
Znを含有する耐熱処理層は、耐熱性をさらに向上させる必要がある場合に形成することが好ましい。耐熱処理層は、例えば、Zn、または、Znを含有する合金、即ち、Zn−錫(Sn)、Zn−Ni、Zn−コバルト(Co)、Zn−Cu、Zn−CrおよびZn−バナジウム(V)などのうちから選択される少なくとも1種類以上のZn以外の元素を含有する合金で形成することが好ましい。
【0061】
Crを含有する防錆処理層は、耐食性をさらに向上させる必要がある場合に形成することが好ましい。防錆処理層は、例えば、Cr、または、Crを含有する合金、即ち、Cr−Zn、クロメート処理により形成するクロメート層などのうちから選択される少なくとも1種類以上のCr以外の元素を含有する合金で形成することが好ましい。
【0062】
上記の下地層、耐熱処理層および防錆処理層は、これらの三層の全てを形成する場合には、粗化処理層上に、この順序で形成するのが好ましく、また、用途や目的とする特性に応じて、いずれか一層または二層のみを形成してもよい。
【0063】
〔表面処理銅箔の作製〕
以下に、本発明の表面処理銅箔の好ましい製造方法の一例をまとめる。 好ましくは以下の形成工程(S1)〜(S5)に従い、表面処理銅箔を作製する。
(S1)粗化処理層の形成工程
銅箔基体上に、粗化粒子の電気めっきにより、微細な凹凸をもつ粗化処理表面を形成する。
(S2)下地層の形成工程
粗化処理表面上に、必要に応じてNiを含有する下地層を形成する。
(S3)耐熱処理層の形成工程
粗化処理表面上または下地層上に、必要に応じてZnを含有する耐熱処理層を形成する。
(S4)防錆処理層の形成工程
粗化処理表面上、または、粗化処理表面上に任意に形成した下地層および/または耐熱処理層上に、必要に応じてCrを含有する防錆処理層を形成する。
(S5)シランカップリング剤層の形成工程
粗化処理表面上に、直接、または、下地層、耐熱処理層および防錆処理層の少なくとも一層を形成した中間層を介して間接的にシランカップリング剤層を形成する。
【0064】
本発明の表面処理銅箔は、銅張積層板の製造に好適に用いられる。このような銅張積層板は、高密着性および高周波特性に良好なプリント配線板の製造に好適に用いられる。すなわち、本発明の表面処理銅箔は、高周波帯域用プリント配線板に好適に用いることができる。
【0065】
本発明の銅張積層板は、上述した本発明の表面処理銅箔を用いて形成されることが好ましい。このような本発明の銅張積層板は、公知の方法により形成することができる。例えば、銅張積層板は、本発明の表面処理銅箔と樹脂基材とを、表面処理銅箔の粗化面(貼着面)で樹脂基材に向かい合うように、積層貼着することにより製造できる。
【0066】
また、銅張積層板を製造する場合には、シランカップリング剤層を有する表面処理銅箔と、樹脂基材とを加熱プレスして密着させることによって製造すればよい。なお、樹脂基材上にシランカップリング剤を塗布し、この樹脂基材と、最表面に防錆処理層を有する表面処理銅箔とを加熱プレスによって密着させることにより作製された銅張積層板も、本発明の銅張積層板と同等の効果を有する。
【0067】
ここで、樹脂基材に使用される樹脂としては、種々の成分の高分子樹脂を用いることができる。リジッド配線板または半導体パッケージ(PKG)用のプリント配線板には主にフェノール樹脂またはエポキシ樹脂を用いることができる。フレキシブル基板には、ポリイミドまたはポリアミドイミドを主に用いることができる。ファインパターン(高密度)配線板または高周波基板においては、寸法安定性のよい材料、反りねじれの少ない材料、熱収縮の少ない材料等として、ガラス転移点(Tg)の高い耐熱樹脂を用いることができる。耐熱樹脂としては、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタラート、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂またはそれらからなるポリマーアロイ、さらには、ポリイミド、耐熱性エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン等のシアネート系樹脂、熱硬化変性ポリフェニレンエーテル等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。特に、本発明の銅張積層板の樹脂基材に使用される樹脂は、液晶ポリマーであることが好ましい。
【0068】
以下、樹脂基材として液晶ポリマーフィルムを用いる場合を例に、銅張積層板の製造方法の具体例を説明する。
【0069】
液晶ポリマーには、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと、溶液状態で液晶性を示すレオトロピック液晶ポリマーとがある。本実施形態では、何れの液晶ポリマーも用い得るが、熱可塑性であること、誘電特性がより優れる観点から、サーモトロピック液晶ポリマーが好適に用いられる。
【0070】
サーモトロピック液晶ポリマーのうちサーモトロピック液晶ポリエステル(以下、単に「液晶ポリエステル」という)とは、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸を必須のモノマーとし、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールなどのモノマーと反応させることにより得られる芳香族ポリエステルであって、溶融時に液晶性を示すものである。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)と、フタル酸と、4,4’−ビフェノールから合成されるI型[下式(1)]、PHBと2,6−ヒドロキシナフトエ酸から合成されるII型[下式(2)]、PHBと、テレフタル酸と、エチレングリコールから合成されるIII型[下式(3)]が挙げられる。
【0071】
【化1】
【0072】
本実施形態においては、耐熱性、耐加水分解性により優れることから、上記のうちI型液晶ポリエステルとII型液晶ポリエステルが好ましい。また、上記式(1)において、フタル酸としてはイソフタル酸が好ましい。
【0073】
本実施形態で使用する液晶ポリマーフィルムは、誘電特性などのため、実質的に液晶ポリマーのみから構成することが好ましい。一方、液晶ポリマーは、剪断応力をかけると強い異方性を示すため、必要に応じて、液晶ポリマーを溶融加工する際に生じる分子配向の異方性を緩和するためのフィラーを配合してもよい。かかる配向緩和用のフィラーを導入することにより、例えば、押し出された後の液晶ポリマー表面が平滑になり、また均配向性・等方性が得られやすくなる。その他、液晶ポリマーフィルムの色調を制御するために、着色のフィラーを配合してもよい。
【0074】
液晶ポリマーフィルムに配合してもよい配向緩和用のフィラーまたは着色用のフィラーは、特に制限されるものではないが、例えば、タルク、マイカ、酸化アルミ、酸化チタン、酸化珪素、窒化珪素、カーボンブラックなどからなるフィラーを挙げることができる。当該フィラーの形状は特に制限されず、例えば、球状、板状、棒状、針状、不定形状などを挙げることができ、また、当該フィラーの大きさとしては、50nm以上、10μm以下が好ましい。なお、当該フィラーの大きさは、その拡大写真における各フィラーの最長部を測定してもよいし、また、粒度分布測定から求めた体積平均粒子径または個数平均粒子径として算出してもよい。
【0075】
液晶ポリマーフィルムの配向緩和用または着色用のフィラーは、基材フィルムの誘電特性を損なうおそれがある。そのため、液晶ポリマーフィルム全体(液晶ポリマーとフィラーとの合計)に対するフィラーの割合は、20質量%以下とすることが好ましい。上記割合を20質量%以下にすることにより、液晶ポリマーフィルムとして優れた誘電特性を付与することができる。
【0076】
このような液晶ポリマーフィルムの平面方向の熱線膨張係数としては、3ppm/℃以上、30ppm/℃以下が好ましい。液晶ポリマーフィルムの熱線膨張係数と、表面処理銅箔の熱線膨張係数との差が大きいと、銅張積層板に反りが発生する傾向がある。そのため、液晶ポリマーフィルムと表面処理銅箔の熱線膨張係数が概ね一致させることで反りの発生を抑制することできる。
【0077】
一般に、液晶ポリマーの分子は、剛直で、長い化学構造を有するために、極めて配向しやすいことが知られている。液晶ポリマー分子が特定方向に配向している異方性フィルムは、配向方向に裂けやすく取り扱いが困難であり、また、寸法精度が悪く、熱応力、機械的強度、比誘電率などのばらつきも大きい。さらに、異方性フィルムに表面処理銅箔を積層して銅張積層板を製造する場合、フィルムの異方性に起因した反りが銅張積層板に生じるため、電子回路基板の絶縁基材として用いることができない。
【0078】
しがたって、電気回路基板用の絶縁基材として用いる液晶ポリマーフィルムとしては、等方性を持つように、分子配向が制御されていることが好ましい。具体的には、平面方向の熱線膨張係数の最小値に対する最大値の比が、1.0以上2.5以下であることが好ましい。当該比としては、2.0以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましく、1.5以下が特に好ましい。なお熱線膨張係数の最小値と最大値のそれぞれは、液晶ポリマーフィルムの平面で円周方向に30°間隔で熱線膨張係数を6点測定し、測定値の中の最小値と最大値とする。
【0079】
熱線膨張係数、平面方向の熱線膨張係数の最小値に対する最大値の比を上記範囲内に調整することにより、平面方向で熱応力、機械的強度、比誘電率の異方性をより確実に低減することができる。また、銅張積層板の反りの発生をより確実に抑制でき、さらに寸法安定性にも優れるなど、電子回路基板の材料として優れた特性を付与することができる。例えば、液晶ポリマーフィルムの片面に表面処理銅箔を積層した銅張積層板の反り率を10%以下に抑制することが可能である。なお、かかる「反り率」は、JIS C6481−1996に準拠して求めることができる。具体的には、フィルムを水平台上、フィルムの中心が台に接しかつ四隅が台から浮いた状態になるように置き、四隅と台との隔りを測定して最大値を求め、この値をフィルムの辺の長さで除した百分率値を「反り率」という。
【0080】
液晶ポリマーフィルムの誘電特性は、一般的に優れている。具体的には、3GHzの周波数で測定した場合、誘電正接が0.0035以下であることが好ましく、0.003以下であることがより好ましく、比誘電率が3.5以下であることがさらに好ましい。なお、誘電体である絶縁基材上に形成した回路に交流電気信号が伝播する際には、その信号の電力の一部が誘電体に吸収されてしまい、信号が減衰・損失する傾向にある。この時に吸収された電力と通過(伝播)した電力との比が誘電正接であり、誘電正接の小さい誘電体を用いた回路では、伝送損失を小さくすることができる。
【0081】
液晶ポリマーフィルムの厚さは、適宜調整すればよいが、10μm以上、75μm以下が好ましい。当該厚さが10μm以上であれば、電子回路基板の絶縁フィルムとして十分な強度や絶縁性を確保することができる。一方、当該厚さが75μm以下であれば、嵩張らず電子機器などの小型化にも対応することができる。当該厚さの下限値としては13μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、また、当該厚さの上限値としては50μm以下がより好ましく、25μm以下がさらに好ましい。フィルムの厚さを薄くすることで、フレキシブル性が増し、さらには多層電子回路基板を小型化することができるため、高周波回路基板を小型の電子機器内でも使用することが可能になる。
【0082】
液晶ポリマーが熱可塑性であることから、本実施形態にかかる銅張積層板は、液晶ポリマーフィルムの片面または両面に表面処理銅箔を積層し、次いで熱プレスすることで、容易に作製することができる。熱プレスは、真空プレス装置、ロールプレス装置、ダブルベルトプレス装置などを用い、従来公知の方法で行うことができる。熱プレスの条件は適宜調整すればよく、例えば、真空プレスの場合、温度を200℃以上、350℃以下程度、圧力1MPa以上、10MPa以下程度で1分間以上、2時間以下程度とすることができる。
【0083】
本実施形態にかかる表面処理銅箔の厚さは、適宜調整すればよいが、例えば、2μm以上、70μm以下程度とすることができ、5μm以上、35μm以下程度がより好ましい。
【0084】
本実施形態にかかる銅張積層板では、特に表面処理銅箔と液晶ポリマーフィルムとの密着性が高いことが好ましい。密着性の高い銅張積層板は、配線パターンの形成工程およびブラインドビアホールの穿設工程においてエッチング、穴空け、デスミア、ソフトエッチング、銅めっき等の加工を行った後でも、表面処理銅箔と樹脂基材との剥がれ等に問題なく使用することが可能である。密着性の基準として、具体的には、JIS C6471−1995に準拠して、表面処理銅箔をエッチングして5mm×150mmの銅箔パターンを形成し、引張試験機を用いて銅箔パターンを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がした際の強度(単位:N/mm)として表されるピール強度が、0.40N/mm以上であることが好ましく、0.60N/mm以上であることがより好ましく、0.70N/mm以上であることがよりさらに好ましい。
【0085】
本発明のプリント配線板は、上記銅張積層板を用いて形成されていることが好ましい。このような本発明のプリント配線板は、公知の方法により形成することができる。
【0086】
また、上記銅張積層板の表面処理銅箔の一部を、常法により化学的にエッチングすることにより所望の回路パターンを形成し、電子回路基板を作製することができる。また、回路パターン上には、勿論、電子回路部品を実装することができる。電子回路部品は、電子回路基板に実装されるものであれば特に制限されず、半導体素子単体以外にも、例えば、チップ抵抗、チップコンデンサー、半導体パッケージ(PKG)などを挙げることができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の一例に過ぎない。本発明は、本発明の概念および請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0088】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、以下は本発明の一例である。
【0089】
(実施例1〜10、比較例1〜7)
実施例1では、以下の工程[1]〜[4]を行い、表面処理銅箔を得た。以下詳しく説明する。なお、実施例2〜10および比較例1〜7は、粗化処理表面の形成工程[2]において、粗化めっき処理(1)の各条件を、上記表1に記載の通りとした以外は、実施例1と同様の方法にて、表面処理銅箔を得た。
【0090】
[1]銅箔基体の準備
粗化処理を施すための基材となる銅箔基体として、電解銅箔を準備した。電解銅箔は下記条件により製造した。また、下記条件により製造された電解銅箔の厚さと表面粗さは下記の通りである。
【0091】
<電解銅箔の製造条件>
Cu :80g/L
SO:70g/L
塩素濃度 :25mg/L
浴温 :55℃
電流密度 :45A/dm
(添加剤)
・3−メルカプト1−プロパンスルホン酸ナトリウム :2mg/L
・ヒドロキシエチルセルロース :10mg/L
・低分子量膠(分子量3000) :50mg/L
【0092】
<電解銅箔>
厚さ:12μm
表面粗さ:1.3μm(JIS B0601−2001に準拠した十点平均粗さRzjis)
なお、表面粗さの測定は、電解銅箔の表面において、接触式表面粗さ測定機(株式会社小坂研究所製「サーフコーダーSE1700」)を用いて行った。
【0093】
[2]粗化処理表面の形成
次に、上記[1]にて準備した銅箔基体の片面に、粗化めっき処理を施した。この粗化めっき処理は、2段階の電気めっき処理により行った。粗化めっき処理(1)は、下記の粗化めっき液基本浴組成を用い、電流密度、液温、液流の調節、液の吹き出し方向および銅箔基体の搬送速度を下記表1記載の通りとした。また、続けて行う粗化めっき処理(2)は、下記固定めっき液組成を用い、下記めっき条件にて行った。
【0094】
<粗化めっき液基本浴組成>
Cu :60g/L
SO:150g/L
Mo :0.03g/L
Fe :2g/L
【0095】
【表1】
【0096】
表1の液流の調節において、「層流」とは流体が規則正しく運動している状態の流れを指し、「乱流」とは渦が生じて流体が不規則に運動している状態の流れを指す。層流と乱流のおおよその区別は、一般的にはレイノルズ数によって判断されることが多いが、ここでは粗化めっき液が銅箔基体の搬送方向に対して並行な方向に強い場合を「層流」と定義し、並行な方向以外の流れが強い場合を「乱流」と定義し、程度の弱い「乱流」の状態を「弱乱流」と定義する。
【0097】
層流は、規則的な流れが特徴であり、流れが一時的に乱れても乱れは次第に減衰し、やがて層流状態に戻りやすく、銅箔基体表面の同じ箇所における流れの方向や強さは変動しにくい。一方、乱流は、複雑で不規則な流れが特徴であり、流れのパターンは常に変化して異なる道筋を通ることから、銅箔基体表面の同じ箇所における流れの方向や強さが変動しやすい。
【0098】
<固定めっき液組成>
Cu :40g/L
SO:100g/L
電流密度 :8A/dm
浴温 :45℃
【0099】
[3]下地層および中間層の形成
続いて、上記[2]で形成した粗化処理表面上に、下記の条件で、Ni、Zn、Crの順に金属めっきを施して下地層および中間層を形成した。
【0100】
<Niめっき>
Ni :40g/L
BO:5g/L
浴温 :20℃
pH :3.6
電流密度:0.2A/dm
処理時間:10秒
【0101】
<Znめっき>
Zn :2.5g/L
NaOH :40g/L
浴温 :20℃
電流密度:0.3A/dm
処理時間:5秒
【0102】
<Crめっき>
Cr :5g/L
浴温 :30℃
pH :2.2
電流密度:5A/dm
処理時間:5秒
【0103】
[4]シランカップリング剤層の形成
最後に、上記[3]にて形成した中間層(特に、最表面のCrめっき層)の上に、濃度5質量%の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシラン水溶液を塗布し、100℃で乾燥させ、シランカップリング剤層(シランの付着量はSi原子換算で、0.005mg/dm)を形成した。
【0104】
[測定および評価]
上記実施例および比較例にかかる表面処理銅箔について、下記に示す測定および各特性の評価を行った。各特性の評価条件は下記の通りである。結果を表2に示す。
【0105】
[粗化粒子の粒子高さ、粒子幅、粒子幅に対する粒子高さの比(粒子高さ/粒子幅)]
粗化粒子の粒子高さおよび粒子幅は、以下のステップ(i)〜(iv)にて、画像解析を行い、計測した。
【0106】
まず、(i)表面処理銅箔を5mm角で切出し、常温硬化型エポキシ樹脂(Struers社製「スペシフィックス20」)に埋め込み、23℃で24時間硬化させて、表面処理銅箔を含む直径10mm、厚さ0.5mmの円板状のエポキシ樹脂ブロックを作製した。次に、表面処理銅箔の粗化面側から、粗化面に対して垂直に、円板状の該ブロックの中心線に沿って切断し、切断面をイオンミリング装置(株式会社日立ハイテクノロジー製「IM4000PLUS」)を用いて、ステージモードC5(スイング角度:±40°、スイング速度:2.3往復/min)、加速電圧6KVの条件で、1時間精密研磨した。作製した測定用試料の表面に露出した表面処理銅箔の切断面を、電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジー製「S−3000N」)を用いて5000倍の倍率で観察し、粗化面付近の断面写真(SEM画像)を準備した。
【0107】
次に、(ii)上記断面写真について、画像解析ソフトウェア(オープンソースのフリーソフト「imageJ」)を用いて、粗化粒子の輪郭を強調する画像処理を行い、さらに粗化粒子を色分けするために「二値化」処理した。その後、(iii)「二値化」処理に伴い生じたノイズを除去する画像処理を行い、さらに、「二値化」処理により黒色で表示されている粗化粒子の部分を白抜きする画像処理を行った。その後、(iv)粗化粒子の輪郭線を抽出し、一般的な計測ソフト(Photo Ruler等)を用いて、輪郭線における粗化粒子の粒子高さおよび粒子幅をそれぞれ計測した。
【0108】
上記計測結果に基づき、粗化粒子の粒子高さおよび粒子幅のそれぞれについて、平均値と標準偏差を算出するとともに、粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さの比(粒子高さ/粒子幅)の平均値と、標準偏差をそれぞれ算出した。
【0109】
なお、図3および4は、本発明の実施例5と比較例7のそれぞれの表面処理銅箔について、ステップ(i)において断面を観察した際のSEM画像(図3(a)、図4(a))と、それを上記ステップ(ii)〜(iv)により画像処理した各ステップに対応する図(図3(b)〜(d)、図4(b)〜(d))の、一例である。
【0110】
[輝度(明度値)]
表面処理銅箔の粗化面について、明度計(スガ試験機株式会社製、機種名:SMカラーコンピューター、型番:SM−T45)を使用して、CIEで規定するXYZ表色系のY値を測定した。
【0111】
[高周波特性(伝送損失)]
厚さ50μmの液晶ポリマーフィルム(株式会社伊勢村田製作所製、厚さ精度:0.7μm、比誘電率:3.4、誘電正接:0.0020、熱線膨張係数の最小値に対する最大値の比が1.4)の両面に、上記実施例および比較例の表面処理銅箔を熱融着法で貼り合せた両面銅張板を作製した。次に、上記両面銅張板の片面の表面処理銅箔をエッチング法で所定の幅(110μm)と長さ(20mm)に直線状にパターンを形成してシグナル層とし、もう一方の銅箔をグラウンド層として、マイクロストリップライン構造の回路基板を作製した。さらに、この回路基板を50℃の循環式オーブン中で24時間乾燥した後、JIS C6481−1996記載の標準環境下で室温まで冷却して、高周波特性評価用回路基板を作製した。
【0112】
上記のようにして作製した評価用回路基板のパターンの両端を、プローブコネクタに挟み込み、パターンに高周波信号(13GHz)を流し、通過する信号(S21)の強度を測定した。測定は、ネットワーク・アナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製「ENA E5071C」)とプローブコネクタ(株式会社ヨコオDS事業部製「PCSMA」)を用いて行った。また、上記測定は、同じパターンで5回行い、平均値を各回路基板の損失量とした。さらに、各回路基板の損失量に対して、実施例5の損失量を基準(100)とする指数化を行い、伝送損失の指数を算出した。
【0113】
本実施例では、高周波特性の指標として、上記伝送損失の指数が106以下である場合を良好とし、102以下である場合を優れていると評価した。
【0114】
[液晶ポリマーフィルムの厚さとその精度]
まず、上記液晶ポリマーフィルムを10cm×10cmに切断し、試験片を作製した。次に、この試験片の、比誘電率と誘電正接の測定箇所となる中央部の厚さを、デジタルシクネスゲージ(株式会社ミツトヨ製「SMD−565」、測定子先端直径2mm)を用いて測定した。具体的には、試験片の中心および試験片の中心を中心とする辺4cmの正四角形の頂点となる4点の計5点の厚さを測定し、その算術平均を試験片の厚さとした(以下、液晶ポリマーフィルムの厚さにおいて同じ。)。また、同一の上記液晶ポリマーフィルムから20枚の試験片を切出し、計100点の厚さを測定し、その標準偏差を厚さ精度とした。
【0115】
[液晶ポリマーフィルムの比誘電率と誘電正接]
まず、上記液晶ポリマーフィルムを10cm×10cmに切断し、これを50℃の循環式オーブン中で24時間乾燥し、JIS C6481−1996記載の標準環境下で室温まで冷却して、測定用試験片を作製した。
【0116】
ネットワーク・アナライザ(同上)と、測定周波数3.18GHzのスプリットポスト誘電体共振器(QWED社製)とを用い、最初に試験片を挿入していない状態での共振器単体の共振周波数とそのピークのQ値を測定した。次に、総厚さが100μm以上になるように複数枚の試験片を重ね合わせて、共振器内に挿入した後、試験片が挿入された状態での共振周波数とQ値を測定した。
【0117】
比誘電率は、共振器単体と試験片を挿入した際の共振周波数の差から算出し、誘電正接は、共振器単体と試験片を挿入した際のQ値の差と共振周波数の差から算出した。
【0118】
[液晶ポリマーフィルムの熱線膨張係数]
上記液晶ポリマーフィルムの熱線膨張係数は、JIS C6481−1996に準拠し、以下の条件で求めた。
【0119】
まず、上記液晶ポリマーフィルムを4cm×20cmに切断し、試験片を作製した。次に、この試験片を、チャック間距離が15mmとなるように熱機械測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製「Q400」)に取り付け、引張モードで、0.1Nの荷重を付与しつつ、常温から170℃まで昇温速度40℃/分で昇温し、170℃で1分間保持した。その後、降温速度10℃/分で、170℃から常温まで降温した際の、100℃から50℃までの間のチャック間距離の変化△Lを測定した。熱線膨張係数は、下記式により算出した。
【0120】
熱線膨張係数(ppm/℃)=△L/(L×△T)
[式中、△Lはチャック間距離の変化(mm)であり、Lはチャック間距離(15mm)であり、△Tは温度差(50℃)である。]
【0121】
上記測定は、上記液晶ポリマーフィルムの平面で円周方向に30°間隔で6箇所について行い、それぞれの値から熱線膨張係数を算出し、そのうち最大値と最小値の比(最大値/最小値)を求めた。
【0122】
[密着性(180°ピール強度)]
厚さ50μmの液晶ポリマーフィルム(同上)の片面に、上記実施例および比較例の表面処理銅箔の粗化面が液晶ポリマーフィルムに接するように積層し、他方の面に離形材としてポリイミドフィルム(宇部興業株式会社製「ユーピレックス20S」)を積層した。この積層体を厚さ2mmの2枚のステンレス板に挟み込み、クッション材として厚さ1mmのステンレス繊維織布をステンレス板の上下に使用して、真空プレス機を用いて、300℃、圧力3MPaで5分間保持することで、片面銅張積層板を得た。
【0123】
引張試験機(株式会社島津製作所製「AGS−H」)を用いて、JIS C6471−1995に準拠して、表面処理銅箔を50mm/分の速度で180°方向に引き剥がした際の強度(単位:N/mm)を測定した。
【0124】
具体的には、銅張積層板の銅箔側に5mm幅のマスキングテープを張り付けて、塩化第二鉄溶液に浸漬して銅箔の不要部分をエッチング除去した。その後、銅張積層板を水洗してマスキングテープを剥離し、80℃の循環式オーブンで1時間乾燥して5mm幅の直線状の回路パターンを形成した。銅張積層板から銅箔を引き剥がす際に、試験片が屈曲して剥離角度が変化してしまわないように、試験片を厚さ1mm以上の補強板に張り付けた。形成した回路パターンの一端を引き剥がし、上記引張試験機に挟んだ後、銅箔を試験片に対して180°方向に50mm/分の速度で10mm以上引き剥がし、その間の強度の全平均値を算出して、得られた値をピール強度(N/mm)とした。
【0125】
本実施例では、密着性の指標として、上記180°ピール強度の測定を行い、180°ピール強度が0.40N/mm以上である場合を良好とし、0.60N/mm以上である場合を優れていると評価した。
【0126】
[レーザー加工性]
厚さ50μmの液晶ポリマーフィルム(同上)の片面に、厚さ12μmの表面処理銅箔を熱融着法で貼り合せた片面銅張積層板を準備した。
【0127】
次に、上記銅張積層板の液晶ポリマーフィルム側から、炭酸ガスレーザーを照射して、ビアホールを形成した。なお、レーザー照射は、粗化粒子の構造に応じて、パルス幅:1〜5μs、先端エネルギー:1〜3mJ、マスク径:1〜3mm、照射数:5〜10shotの条件で行った。また、ビアホール径は100μmとし、任意に150箇所形成した。
【0128】
上記ビアホール形成後に、ビア底の表面処理銅箔の粗化面を観察し、樹脂残渣の有無を確認した。なお、樹脂残渣の確認は、レーザー加工後に表面処理銅箔をエッチアウトし、ビアホール底部に樹脂が膜として残っていたかどうかを、光学顕微鏡を用い、倍率10倍にて観察した。銅張積層板毎に、150穴を確認して、樹脂残渣が存在しなかった数を計数した。
【0129】
本実施例では、レーザー加工性の指標として、上記樹脂残渣の確認を行い、樹脂残渣が確認されなかった数が40個以上である場合を良好とし、80個以上である場合を優れていると評価した。
【0130】
[総合評価]
上記の高周波特性、密着性およびレーザー加工性の全てを総合し、下記評価基準に基づき総合評価した。
【0131】
<総合評価の評価基準>
A(優):全ての評価が優れている。
B(合格):全ての評価が良好である。
C(不合格):少なくとも1つの評価が良好の基準に満たない。
【0132】
【表2】
【0133】
上記表2に示されるように、実施例1〜10の表面処理銅箔は、その断面をSEMにより観察したときに、粗化面は、粗化粒子の粒子高さの標準偏差が0.16μm以上0.30μm以下の範囲内で、かつ、粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)が2.30以上4.00以下の範囲内に制御されているため、良好な高周波特性と良好な密着性を両立でき、さらにはレーザー加工性にも良好であることが確認された。特に、実施例4〜7では、高周波特性、密着性、レーザー加工性の全ての特性が優れた表面処理銅箔を得ることができた。
【0134】
これに対し、比較例1〜7の表面処理銅箔は、粗化面が、粗化粒子の粒子高さの標準偏差が0.16μm以上0.30以下の範囲内で、かつ、粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)が2.30以上4.00以下の範囲内に制御されていないため、実施例1〜10の表面処理銅箔に比べて、高周波特性、密着性およびレーザー加工性の少なくとも一つの特性が劣っていることが確認された。
【符号の説明】
【0135】
1 銅張積層板
11 表面処理銅箔
111 粗化粒子
13 樹脂基材
15 めっき(めっき層)
20 残留物
30 レーザー光
31 レーザー光の正反射
32 レーザー光の乱反射
40 ブラインドビアホールの底部
図1
図2
図3
図4
図5
図6