特許第6543910号(P6543910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6543910光ファイバケーブル、及びプラグ付き光ファイバケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543910
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】光ファイバケーブル、及びプラグ付き光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/44 20060101AFI20190705BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20190705BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20190705BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   G02B6/44 301A
   G02B6/44 381
   G02B6/44 321
   G02B6/44 331
   C08L27/06
   C08L27/12
   C08L33/00
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-220211(P2014-220211)
(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公開番号】特開2016-85434(P2016-85434A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 剛
(72)【発明者】
【氏名】塚本 好宏
【審査官】 山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0116749(US,A1)
【文献】 特開2004−285275(JP,A)
【文献】 特開平02−023307(JP,A)
【文献】 特開平03−135505(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/148610(WO,A1)
【文献】 特開2014−133856(JP,A)
【文献】 特開平03−160043(JP,A)
【文献】 特開平07−294785(JP,A)
【文献】 特開昭60−172005(JP,A)
【文献】 特開2003−096201(JP,A)
【文献】 特開2005−255921(JP,A)
【文献】 特開平02−251572(JP,A)
【文献】 特開2007−031700(JP,A)
【文献】 特開2007−186536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02
G02B 6/024−6/036
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、光ファイバの外周に光ファイバ被覆用樹脂組成物からなる被覆層とを有
する、光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバ被覆用樹脂組成物が、塩化ビニル系樹脂(A)、溶融張力向上剤(B)
受酸剤(C)、及び可塑剤(D)を含む、光ファイバ被覆用樹脂組成物であって、
前記溶融張力向上剤(B)が、アクリル樹脂系溶融張力向上剤、及びフッ素樹脂系溶融
張力向上剤の少なくとも1種であり、
前記受酸剤(C)が、炭酸塩化合物、ハイドロタルサイト、酸化金属化合物及び水酸化
金属化合物の少なくとも1種であり、
前記可塑剤(D)の分子量が400〜2000であるトリメリット酸エステル化合物で
あり、
IEC 60794−1に準拠して測定した繰り返し屈曲回数が、30000回以上で
ある、
光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記溶融張力向上剤(B)の含有量が、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して
、0.1質量部〜5質量部である、請求項に記載の光ファイバケーブル
【請求項3】
前記可塑剤(D)の含有量が、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、40質
量部〜70質量部である、請求項1又は2に記載の光ファイバケーブル
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光ファイバケーブルを含む、プラグ付き光ファイ
バケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ被覆用樹脂組成物、光ファイバケーブル及びプラグ付き光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、通信、センサ、照明、装飾、ディスプレイ等の幅広い用途で用いられている。ガラス系の光ファイバは、広い波長に亘って光伝送性に優れる一方で、加工性や機械特性に劣る等の課題を有する。一方、プラスチック光ファイバは、例えば、ポリメチルメタクリレート等の透明性の高い樹脂からなる芯に、芯よりも低屈折な透明性の高い樹脂で芯の外周を被覆した構造を有するものが挙げられ、ガラス系光ファイバに比べて、加工性や柔軟性に優れる等の特徴を有する。また、プラスチック光ファイバは、近年、製造技術の向上に伴って、伝送可能距離が長くなっていて、その用途が広がっている。
【0003】
通常、光ファイバを用いる際は、光ファイバ単体で用いられることは少なく、機械特性、難燃性、耐熱性等を付与するために、光ファイバに熱可塑性樹脂等を被覆した光ファイバケーブルとして用いられることが多い。特に、近年、プラスチック製品の難燃化規制が厳しくなってきていて、光ファイバケーブルに対しても優れた難燃性を有することが要望されている。
【0004】
光ファイバに難燃性を付与する方法として、例えば、特許文献1には、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂でプラスチック光ファイバを被覆した光ファイバケーブルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−172005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されている光ファイバケーブルは、難燃性の効果を有するものの、その効果は十分とは言えない。
【0007】
ところで、塩化ビニル樹脂そのものは、難燃性に優れる樹脂である一方、硬くて脆く、塩化ビニル樹脂のみで用いることは困難である。そのため、塩化ビニル樹脂を用いる際、可塑剤、熱安定剤等の添加剤を併用することが多い。また、工業用途で用いられる光ファイバケーブルの被覆層には、コストダウンを目的として、充填剤等の添加剤を配合することが多い。
しかしながら、これらの添加剤は、多く配合するほど塩化ビニル樹脂本来の特性を悪化させる原因となる。特に、これらの添加剤を含む塩化ビニル樹脂組成物を光ファイバに被覆して光ファイバケーブルとして用いる際、燃焼時のドリップが促進され、難燃性を悪化させる原因となる。したがって、単純に塩化ビニル樹脂にこれらの添加剤を配合するだけでは十分とは言えない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、光ファイバケーブルの難燃性、長期耐熱性、機械特性に優れる光ファイバ被覆用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、塩化ビニル系樹脂(A)及び溶融張力向上剤(B)を含む光ファイバ被覆用樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、光ファイバと、光ファイバの外周に前記光ファイバ被覆用樹脂組成物からなる被覆層とを有する光ファイバケーブルに関する。
更に、本発明は、前記光ファイバケーブルを含むプラグ付き光ファイバケーブルに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物により、難燃性、長期耐熱性、機械特性に優れる光ファイバケーブルを得ることができる。
また、本発明の光ファイバケーブルは、難燃性、長期耐熱性、機械特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の光ファイバケーブルの一例を示す模式的断面図である。
図2】本発明の光ファイバケーブル中の光ファイバの一例であるステップ・インデックス型光ファイバの一例を示す模式的断面図である。
図3】本発明の光ファイバケーブルの一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いながら説明するが、本発明はこれらの図面に限定されるものではない。
【0014】
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂(A)及び溶融張力向上剤(B)を含む。
【0015】
(塩化ビニル系樹脂(A))
塩化ビニル系樹脂(A)は、本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物のマトリックス樹脂であり、安価で、難燃性に優れ、汎用樹脂として広く用いられている。
【0016】
塩化ビニル系樹脂(A)としては、例えば、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル単位を50質量%以上含む共重合体等が挙げられる。これらの塩化ビニル系樹脂(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの塩化ビニル系樹脂(A)の中でも、難燃性に優れることから、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル単位を50質量%以上含む共重合体が好ましく、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル単位を60質量%以上含む共重合体がより好ましく、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル単位を70質量%以上含む共重合体が更に好ましく、塩化ビニル単独重合体が特に好ましい。
【0017】
塩化ビニル単位を50質量%以上含む共重合体は、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能な他の単量体とを、共重合して得られる。
他の単量体としては、例えば、塩化ビニリデン;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル類;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル類等が挙げられる。これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの他の単量体の中でも、塩化ビニルとの共重合性に優れることから、カルボン酸ビニル類が好ましく、酢酸ビニルがより好ましい。
(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレート又はその両者をいう。
【0018】
塩化ビニル系樹脂(A)は、他の単量体を重合した重合体に塩化ビニルをグラフト重合させたグラフト共重合体でもよい。
グラフト共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体に塩化ビニルをグラフト重合させたグラフト共重合体等が挙げられる。
【0019】
塩化ビニル系樹脂(A)は、塩化ビニル単独重合体や塩化ビニル単位を50質量%以上含む共重合体等と相溶する他の樹脂を含んでもよい。
相溶とは、塩化ビニル単独重合体や塩化ビニル単位を50質量%以上含む共重合体等と相溶する他の樹脂とを溶融混練した際に、両者が均一に分散し、混ざり合うことをいう。
【0020】
相溶する他の樹脂としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)、塩素化ポリエチレン樹脂(CPE樹脂)、塩素化塩化ビニル樹脂(CPVC樹脂)等が挙げられる。これらの相溶する他の樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの相溶する他の樹脂の中でも、塩化ビニル単独重合体や塩化ビニル単位を50質量%以上含む共重合体等との相溶性に優れ、塩化ビニル単独重合体や塩化ビニル単位を50質量%以上含む共重合体等が不足する機能を補うことができることから、ABS樹脂、EVA樹脂、MBS樹脂、CPE樹脂、CPVC樹脂が好ましく、ABS樹脂、CPE樹脂、CPVC樹脂がより好ましい。
【0021】
相溶する他の樹脂の含有率は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量%中、5質量%〜50質量%が好ましく、10質量%〜45質量%がより好ましい。相溶する他の樹脂の含有率が5質量%以上であると、相溶する他の樹脂が有する機能が発現する。また、相溶する他の樹脂の含有率が50質量%以下であると、塩化ビニル系樹脂(A)の本来の性能を損なわない。
【0022】
(溶融張力向上剤(B))
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、溶融張力向上剤(B)を含む。
溶融張力向上剤(B)は、添加することで樹脂や樹脂組成物の溶融張力を向上させるものをいい、本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物に添加する溶融張力向上剤(B)は、塩化ビニル系樹脂(A)の溶融張力を向上させるものとする。溶融張力は、キャピラリーレオメーターを用いて測定した値とする。
溶融張力向上剤(B)は、塩化ビニル系樹脂(A)の溶融時の張力を向上させる機能を有するため、光ファイバ被覆用樹脂組成物に溶融張力向上剤(B)を配合することで、難燃性(特に、燃焼時のドリップの抑制)を更に向上させる効果を有する。
【0023】
溶融張力向上剤(B)としては、例えば、アクリル樹脂系溶融張力向上剤、フッ素樹脂系溶融張力向上剤等が挙げられる。これらの溶融張力向上剤(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶融張力向上剤(B)の中でも、光ファイバケーブルの燃焼時のドリップを抑制できることから、アクリル樹脂系溶融張力向上剤、フッ素樹脂系溶融張力向上剤が好ましく、フッ素樹脂系溶融張力向上剤がより好ましい。
【0024】
フッ素樹脂系溶融張力向上剤は、塩化ビニル系樹脂(A)と混ざり合い、光ファイバ被覆用樹脂組成物の溶融張力を高めることができるものであれば特に限定されないが、例えば、三菱レイヨン(株)製の「メタブレンA」シリーズ等が挙げられる。これらのフッ素樹脂系溶融張力向上剤の中でも、光ファイバ被覆用樹脂組成物中の分散性に優れることから、アクリル樹脂で変性したテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
【0025】
フッ素樹脂系溶融張力向上剤の数平均分子量は、1000000〜30000000が好ましく、5000000〜20000000がより好ましい。フッ素樹脂系溶融張力向上剤の数平均分子量が1000000以上であると、塩化ビニル系樹脂(A)の分子主鎖とフッ素樹脂系溶融張力向上剤のフィブリル化したフッ素樹脂とで絡み合いが生じ、光ファイバケーブルの燃焼時のドリップを抑制できる。また、フッ素樹脂系溶融張力向上剤の数平均分子量が30000000以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
フッ素樹脂系溶融張力向上剤の数平均分子量は、380℃で溶融させた際の動的粘弾性を測定し、測定した動的粘弾性から算出した値とする。
【0026】
アクリル樹脂系溶融張力向上剤は、塩化ビニル系樹脂(A)と混ざり合い、光ファイバ被覆用樹脂組成物の溶融張力を高めることができるものであれば特に限定されないが、例えば、三菱レイヨン(株)製の「メタブレンP」シリーズ等が挙げられる。
【0027】
アクリル樹脂系溶融張力向上剤の数平均分子量は、1000000〜8000000が好ましく、3000000〜6000000がより好ましい。アクリル樹脂系溶融張力向上剤の数平均分子量が1000000以上であると、塩化ビニル系樹脂(A)の分子主鎖とアクリル樹脂系溶融張力向上剤の分子主鎖とで絡み合いが生じ、光ファイバケーブルの燃焼時のドリップを抑制できる。また、アクリル樹脂系溶融張力向上剤の数平均分子量が8000000以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
アクリル樹脂系溶融張力向上剤の数平均分子量は、標準試料として標準ポリスチレンを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した値とする。
【0028】
溶融張力向上剤(B)の含有量は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部〜15質量部が好ましく、0.1質量部〜5質量部がより好ましい。溶融張力向上剤(B)の含有量が0.05質量部以上であると、光ファイバケーブルの燃焼時のドリップを抑制できる。また、溶融張力向上剤(B)の含有量が15質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0029】
(受酸剤(C))
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、必要に応じて、更に受酸剤(C)を含んでもよい。
塩化ビニル系樹脂(A)は、燃焼時に熱分解により、塩化水素ガスが発生する。受酸剤(C)は、塩化ビニル系樹脂(A)の熱分解により生じた塩化水素ガスを捕捉・吸収する機能を有するため、光ファイバ被覆用樹脂組成物に受酸剤(C)を配合することで、低発煙性を更に向上させる効果を有する。
【0030】
受酸剤(C)としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩化合物;マグネシウムとアルミニウムの炭酸塩複合物、マグネシウムと亜鉛とアルミニウムの炭酸塩複合物等のハイドロタルサイト;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化亜鉛等の酸化金属化合物;オキシ水酸化鉄等のオキシ水酸化金属化合物;フェロセン等が挙げられる。これらの受酸剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの受酸剤(C)の中でも、塩化水素ガスの捕捉・吸収能力に優れることから、炭酸塩化合物、ハイドロタルサイト、酸化金属化合物、オキシ水酸化金属化合物が好ましく、ハイドロタルサイト、オキシ水酸化金属化合物がより好ましい。
【0031】
ハイドロタルサイトの市販品としては、例えば、「DHT−4A」(協和化学工業(株)製)、「STABIACE HT−7」(堺化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0032】
受酸剤(C)の数平均粒子径は、10nm〜1000nmが好ましく、20nm〜800nmがより好ましい。受酸剤(C)の数平均粒子径が10nm以上であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物中の分散性に優れる。また、受酸剤(C)の数平均粒子径が1000nmであると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
受酸剤(C)の数平均粒子径は、顕微鏡で観察した任意の100個の粒子の粒子径を平均した値とする。
【0033】
受酸剤(C)の含有量は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、1質量部〜60質量部が好ましく、5質量部〜50質量部がより好ましい。受酸剤(C)の含有量が1質量部以上であると、光ファイバケーブルの低発煙性に優れる。また、受酸剤(C)の含有量が60質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0034】
(可塑剤(D))
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、必要に応じて、更に可塑剤(D)を含んでもよい。
可塑剤(D)は、塩化ビニル系樹脂(A)の柔軟性を改善させる機能を有するため、光ファイバ被覆用樹脂組成物に可塑剤(D)を配合することで、柔軟性を更に向上させる効果を有する。
【0035】
可塑剤(D)としては、塩化ビニル系樹脂(A)に適用できる可塑剤であれば特に限定されないが、例えば、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリイソデシル等のトリメリット酸エステル化合物;エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、エポキシ化脂肪酸−2−エチルヘキシル等のエポキシ系化合物等が挙げられる。これらの可塑剤(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの可塑剤(D)の中でも、光ファイバケーブルの柔軟性に優れることから、トリメリット酸エステル化合物が好ましく、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−n−オクチルがより好ましい。
【0036】
トリメリット酸エステル化合物の可塑剤(D)の市販品としては、例えば、花王(株)製の「トリメックス」シリーズ;DIC(株)製の「モノサイザー」シリーズ等が挙げられる。
エポキシ系化合物の可塑剤(D)の市販品としては、例えば、(株)ADEKA製の「アデカサイザーO」シリーズ、「アデカサイザーD」シリーズ;新日本理化(株)製の「サンソサイザーE」シリーズ等が挙げられる。
【0037】
可塑剤(D)の分子量は、400〜2000が好ましく、500〜1000がより好ましい。可塑剤(D)の分子量が400以上であると、可塑剤(D)の光ファイバへの移行が少なく、可塑剤(D)の光ファイバケーブルからのブリードアウトが少ない。また、可塑剤(D)の分子量が2000以下であると、光ファイバケーブルの柔軟性に優れる。
【0038】
可塑剤(D)の含有量は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、10質量部〜100質量部が好ましく、40質量部〜70質量部がより好ましい。可塑剤(D)の含有量が10質量部以上であると、光ファイバケーブルの柔軟性に優れる。また、可塑剤(D)の含有量が100質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0039】
(難燃剤(E))
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、必要に応じて、更に難燃剤(E)を含んでもよい。
難燃剤(E)は、塩化ビニル系樹脂(A)の難燃性を改善させる機能を有するため、光ファイバ被覆用樹脂組成物に難燃剤(E)を配合することで、光ファイバケーブルの難燃性を更に向上させる効果を有する。
【0040】
難燃剤(E)としては、例えば、臭素化合物、塩素化合物等のハロゲン系難燃剤;リン、リン酸塩化合物、リン酸エステル化合物等のリン系難燃剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化金属系難燃剤;等が挙げられる。これらの難燃剤(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの難燃剤(E)の中でも、光ファイバ被覆用樹脂組成物中の分散性に優れ、少量の添加で光ファイバケーブルの難燃性を向上させることから、ハロゲン系難燃剤が好ましく、臭素化合物がより好ましい。
【0041】
臭素化合物としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、トリアリルイソシアヌレート臭化物、臭素化エポキシ樹脂、末端封止臭素化エポキシ樹脂、臭素化スチレン樹脂等が挙げられる。これらの臭素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの臭素化合物の中でも、臭素化合物の光ファイバへの移行が少なく、臭素化合物の光ファイバケーブルからのブリードアウトが少ないことから、臭素化エポキシ樹脂、末端封止臭素化エポキシ樹脂、臭素化スチレン樹脂が好ましく、光ファイバ被覆用樹脂組成物中の分散性に優れることから、末端封止臭素化エポキシ樹脂がより好ましい。
臭素化エポキシ樹脂、末端封止臭素化エポキシ樹脂は、オリゴマーを含む。
【0042】
難燃剤(E)の含有量は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、5質量部〜70質量部が好ましく、10質量部〜60質量部がより好ましい。難燃剤(E)の含有量が5質量部以上であると、光ファイバケーブルの難燃性に優れる。また、難燃剤(E)の含有量が70質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0043】
(難燃助剤(F))
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、必要に応じて、更に難燃助剤(F)を含んでもよい。
難燃助剤(F)は、難燃剤(E)との相互作用により難燃性を改善させる機能を有するため、光ファイバ被覆用樹脂組成物に難燃助剤(F)を配合することで、光ファイバケーブルの難燃性を更に向上させる効果を有する。
【0044】
難燃助剤(F)としては、例えば、三酸化アンチモン;ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム等のホウ酸塩化合物;ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンのメチル基の一部が水素、フェニル基、ハロゲン化フェニル基、ハロゲン化アルキル基、フルオロエステル基等の1種以上の官能基で置換された樹脂等のケイ素化合物等が挙げられる。これらの難燃助剤(F)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの難燃助剤(F)の中でも、ハロゲン系難燃剤との相互作用を示し、少量の添加で光ファイバケーブルの難燃性を向上させることから、三酸化アンチモン、ホウ酸塩化合物、ケイ素化合物が好ましく、三酸化アンチモン、ホウ酸塩化合物がより好ましい。
【0045】
難燃助剤(F)の含有量は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、1質量部〜30質量部が好ましく、3質量部〜25質量部がより好ましい。難燃助剤(F)の含有量が1質量部以上であると、光ファイバケーブルの難燃性に優れる。また、難燃助剤(F)の含有量が30質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0046】
難燃助剤(F)の含有量は、難燃剤(E)100質量部に対して、1質量部〜300質量部が好ましく、3質量部〜150質量部がより好ましい。難燃助剤(F)の含有量が1質量部以上であると、光ファイバケーブルの難燃性に優れる。また、難燃助剤(F)の含有量が300質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0047】
(熱安定剤(G))
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、必要に応じて、更に熱安定剤(G)を含んでもよい。
塩化ビニル系樹脂(A)は、溶融加工温度と熱分解温度とが近く、加工時に熱分解により塩素原子と水素原子が脱離し、塩化水素ガスを発生しやすい。
熱安定剤(G)は、塩化ビニル系樹脂(A)の熱分解を抑制する機能を有するため、光ファイバ被覆用樹脂組成物に熱安定剤(G)を配合することで、低発煙性、耐熱性を更に向上させる効果を有する。
【0048】
熱安定剤(G)としては、例えば、カルシウム・亜鉛系熱安定剤、バリウム・亜鉛系熱安定剤、マグネシウム・亜鉛系熱安定剤、スズ系熱安定剤、カルシウム・マグネシウム・亜鉛系熱安定剤等の金属系熱安定剤等が挙げられる。これらの熱安定剤(G)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの熱安定剤(G)の中でも、光ファイバ被覆用樹脂組成物の耐熱性に優れることから、金属系熱安定剤が好ましく、カルシウム・マグネシウム・亜鉛系熱安定剤がより好ましい。
【0049】
熱安定剤(G)の含有量は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部〜15質量部が好ましく、1質量部〜10質量部がより好ましい。熱安定剤(G)の含有量が0.5質量部以上であると、光ファイバケーブルの低発煙性、耐熱性に優れる。また、熱安定剤(G)の含有量が15質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0050】
(顔料(H))
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、必要に応じて、更に顔料(H)を含んでもよい。
顔料(H)は、光ファイバ被覆用樹脂組成物を着色させる機能を有するため、光ファイバ被覆用樹脂組成物に顔料(H)を配合することで、光ファイバケーブルの識別性、意匠性を更に向上させる効果を有する。
【0051】
顔料(H)としては、例えば、無機系顔料、有機系顔料等が挙げられる。具体的には、黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック等;白色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等;黄色顔料としては、例えば、アゾ系有機系顔料、黄鉛、クロム黄、亜鉛黄等;青色顔料としては、例えば、群青(ウルトラマリンブルー)、コバルトブルー等;緑色顔料としては、例えば、酸化クロム等が挙げられる。これらの顔料(H)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
顔料(H)の含有量は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部〜10質量部が好ましく、1質量部〜5質量部がより好ましい。顔料(H)の含有量が0.5質量部以上であると、光ファイバケーブルの識別性、意匠性に優れる。また、顔料(H)の含有量が10質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0053】
(他の添加剤(I))
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、必要に応じて、他の添加剤(I)を含んでもよい。
【0054】
他の添加剤(I)としては、例えば、光ファイバケーブルを長期間使用する際、塩化ビニル系樹脂(A)の酸素による塩素原子の脱離を防止する目的で添加する酸化防止剤;光ファイバ被覆用樹脂組成物を溶融成形する際、光ファイバ被覆用樹脂組成物の流動性を向上させる目的で添加する滑剤;光ファイバケーブルを長期間保管する際、光ファイバケーブル同士の密着を防止する目的で添加するアンチブロッキング剤等が挙げられる。これらの他の添加剤(I)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
他の添加剤(I)の含有量は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、1質量部〜10質量部が好ましく、2質量部〜8質量部がより好ましい。他の添加剤(I)の含有量が1質量部以上であると、他の添加剤(I)が有する性能を発現させることができる。また、他の添加剤(I)の含有量が10質量部以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0056】
(光ファイバ被覆用樹脂組成物の製造方法)
本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂(A)、溶融張力向上剤(B)、必要に応じて、受酸剤(C)、可塑剤(D)、難燃剤(E)、難燃助剤(F)、熱安定剤(G)、顔料(H)、他の添加剤(I)を混合することで得られる。
【0057】
混合方法としては、例えば、二軸押出機等の装置を用いて溶融混練する方法等が挙げられる。
溶融混練するための装置としては、例えば、添加材料供給フィーダーが主材料ホッパーと押出機との間に取り付けられ、添加材料を直接押出機へ混入するサイドフィード式二軸押出機;押出時の水分や残存モノマー等を脱揮するための装置が付帯されたベント式二軸押出機等が挙げられる。
【0058】
溶融混練の温度は、150℃〜190℃が好ましく、160℃〜180℃がより好ましい。混練温度が150℃以上であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物を十分に混練することができる。また、混練温度が190℃以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0059】
(光ファイバケーブル)
本発明の光ファイバケーブルは、光ファイバと、光ファイバの外周に本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物からなる被覆層とを有する。
本発明の光ファイバケーブルとしては、例えば、図1(a)に示すような光ファイバ10の外周に1層の被覆層20を有する光ファイバケーブル、図1(b)に示すような光ファイバ10の外周に2層以上の被覆層20a(最内層)・20b(最外層)を有する光ファイバケーブル等が挙げられる。
【0060】
(光ファイバ)
光ファイバは、光ファイバとしての機能を有するものであれば特に限定されず、公知の光ファイバを用いることができる。
光ファイバの種類としては、例えば、ステップ・インデックス型光ファイバ、マルチステップ・インデックス型光ファイバ、グレーテッド・インデックス型光ファイバ、多芯光ファイバ等が挙げられる。これらの光ファイバの種類の中でも、耐熱性に優れることから、ステップ・インデックス型光ファイバ、多芯光ファイバが好ましく、より長距離の通信を可能とすることから、ステップ・インデックス型光ファイバがより好ましい。
【0061】
ステップ・インデックス型光ファイバは、芯と鞘との界面で光を全反射させ、芯内で光を伝播させる。
ステップ・インデックス型光ファイバとしては、例えば、図2(a)に示すような芯11の外周に1層の鞘12を有する光ファイバ、図2(b)に示すような芯11の外周に2層以上の鞘12a(最内層)・12b(最外層)を有する光ファイバ等が挙げられる。
【0062】
(芯)
芯を構成する材料(芯材)は、透明性の高い材料であれば特に限定されず、使用目的等に応じて適宜選択することができる。
芯材としては、例えば、ガラス;アクリル樹脂、スチレン樹脂、カーボネート樹脂等の樹脂が挙げられる。これらの芯材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの芯材の中でも、難燃性に劣り、本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物により被覆する必要性が高いことから、樹脂が好ましく、より長距離の通信を可能とすることから、アクリル樹脂が好ましい。
【0063】
アクリル樹脂としては、例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレート単位を50質量%以上含む共重合体等が挙げられる。これらのアクリル樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのアクリル樹脂の中でも、光学特性、機械特性、耐熱性、透明性に優れることから、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレート単位を50質量%以上含む共重合体が好ましく、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレート単位を60質量%以上含む共重合体がより好ましく、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレート単位を70質量%以上含む共重合体が更に好ましく、メチルメタクリレート単独重合体が特に好ましい。
【0064】
芯材の製造方法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等が挙げられる。これらの芯材の製造方法の中でも、異物の混入を抑制できることから、塊状重合法、溶液重合法が好ましい。
【0065】
(鞘)
鞘は、芯の外周に形成される。鞘は、図2(a)に示すように1層でもよく、図2(b)に示すように2層以上でもよい。
鞘を構成する材料(鞘材)は、芯材より屈折率の低い材料であれば特に限定されず、芯材の組成や使用目的等に応じて適宜選択することができる。
芯材としてアクリル樹脂を用いる場合、より長距離の通信を可能とすることから、鞘材としてフッ素樹脂を用いることが好ましい。特に、芯材としてメチルメタクリレート単独重合体を用いる場合、より長距離の通信を可能とすることから、鞘材としてフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0066】
フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン(VDF)単独重合体、VDF−トリフルオロエチレン共重合体、VDF−テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、VDF−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、VDF−TFE−HFP共重合体、VDF−TFE−HFP−(パーフルオロ)アルキルビニルエーテル共重合体、VDF−ヘキサフルオロアセトン共重合体、VDF−HFP共重合体、VDF−TFE−ヘキサフルオロアセトン共重合体、エチレン−VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−TFE−HFP共重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレート重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレート−アルキル(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられる。これらのフッ素樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
これらのフッ素樹脂の中でも、柔軟性、耐衝撃性、透明性、耐薬品性に優れ、低価格であることから、VDF−TFE共重合体、VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−TFE−HFP共重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレート重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレート−アルキル(メタ)アクリレート共重合体が好ましい。
特に、鞘が1層の場合、耐薬品性に優れることから、VDF−TFE共重合体、VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−TFE−HFP共重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレート重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレート−アルキル(メタ)アクリレート共重合体が好ましく、機械特性に優れることから、VDF−TFE共重合体、VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−TFE−HFP共重合体がより好ましい。
また、鞘が2層の場合、光ファイバを曲げた際に漏光を抑制できることから、最内層(図2(b)でいう12a)はフルオロアルキル(メタ)アクリレート重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレート−アルキル(メタ)アクリレート共重合体が好ましく、最外層(図2(b)でいう12b)はVDF−TFE共重合体、VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−VDF−TFE−HFP共重合体、エチレン−TFE−HFP共重合体が好ましい。
【0068】
フルオロアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(17FM)等の下記式(1)に示す長鎖フルオロアルキル(メタ)アクリレート;2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(3FM)等の下記式(2)に示す短鎖フルオロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0069】
【化1】

(式中、mは1又は2、nは5〜13のいずれかの整数、Rは水素原子又はメチル基、Xは水素原子又はフッ素原子を示す。)
【0070】
【化2】

(式中、mは1又は2、nは1〜4のいずれかの整数、Rは水素原子又はメチル基、Xは水素原子又はフッ素原子を示す。)
【0071】
フルオロアルキル(メタ)アクリレート重合体やフルオロアルキル(メタ)アクリレート−アルキル(メタ)アクリレート共重合体は、伝送損失を低減させることができることから、上記式(1)に示す長鎖フルオロアルキル(メタ)アクリレートの単位10〜50質量%、上記式(2)に示す短鎖フルオロアルキル(メタ)アクリレートの単位20〜90質量%及び他の共重合可能な単量体単位0〜50質量%からなる共重合体が好ましい。具体的には、前記含有率の17FM−3FM−メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、13FM−3FM−メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体が好ましい。
【0072】
光ファイバの成形方法としては、例えば、溶融紡糸法等が挙げられる。
溶融紡糸法によるステップ・インデックス型光ファイバや多芯光ファイバの成形方法は、例えば、芯材及び鞘材をそれぞれ溶融し、複合紡糸を行う方法が挙げられる。
光ファイバケーブルを温度差の大きい環境で用いる場合、ピストニングを抑制するため、光ファイバをアニール処理することが好ましい。アニール処理は、光ファイバの材料によって処理条件を適宜設定すればよく、連続でもよく、バッチでもよい。
【0073】
光ファイバの直径は、光ファイバの取り扱い性に優れ、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、0.1mm〜5mmが好ましく、0.2mm〜4.5mmがより好ましく、0.3mm〜4mmが更に好ましい。
【0074】
ステップ・インデックス型光ファイバにおける芯の直径は、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、ステップ・インデックス型光ファイバの直径に対して85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。
【0075】
ステップ・インデックス型光ファイバにおける鞘の厚さは、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、ステップ・インデックス型光ファイバの直径に対して7.5%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2.5%以下が更に好ましい。
【0076】
鞘を2層とする場合、最内層(図2(b)でいう12a)と最外層(図2(b)でいう12b)との厚さの範囲を自由に設定することができる。
鞘を2層とする場合、最内層と最外層の厚さの比は、光ファイバの柔軟性、耐衝撃性、耐薬品性に優れ、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、1:0.1〜1:5が好ましく、1:0.5〜1:4がより好ましく、1:1〜1:3が更に好ましい。
【0077】
芯材と鞘材の屈折率は、芯材の屈折率より鞘材の屈折率が低ければ特に限定されないが、光が伝播できる最大角度に対する開口数を大きくできることから、芯材の屈折率が1.45〜1.55、鞘材の屈折率が1.35〜1.51が好ましく、芯材の屈折率が1.46〜1.53、鞘材の屈折率が1.37〜1.49がより好ましく、芯材の屈折率が1.47〜1.51、鞘材の屈折率が1.39〜1.47が更に好ましい。
屈折率は、ISO 13468に準拠し、23℃でナトリウムD線を用い、アッベ屈折計により測定した値とする。
【0078】
(被覆層)
被覆層は、光ファイバの外周を被覆し、本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物からなる。
被覆層は、図1(a)に示すように1層でもよく、図1(b)に示すように2層以上でもよい。
被覆層を2層以上とする場合、本発明の光ファイバ被覆用樹脂組成物からなる被覆層は、光ファイバケーブルの難燃性に優れることから、光ファイバケーブルの最外層とすることが好ましい。
【0079】
被覆層の厚さは、0.1mm〜2.5mmが好ましく、0.2mm〜2mmがより好ましい。被覆層の厚さが0.1mm以上であると、光ファイバケーブルの難燃性に優れる。被覆層の厚さが2.5mm以下であると、光ファイバケーブルの柔軟性、取り扱い性に優れる。
【0080】
光ファイバの外周に被覆層を被覆する方法としては、例えば、クロスヘッドダイを備えた押出被覆装置を用いて被覆する方法が挙げられる。特に、プラスチック光ファイバに被覆層を被覆する場合、均一な直径の光ファイバケーブルを得ることができることから、クロスヘッドダイを備えた押出被覆装置を用いて被覆する方法が好ましい。
被覆層を2層以上とする場合、1層ずつ順に被覆層を被覆してもよく、同時に複数の被覆層を被覆してもよい。
【0081】
光ファイバの外周に被覆層を被覆する際の押出の温度は、150℃〜190℃が好ましく、160℃〜180℃がより好ましい。光ファイバの外周に被覆層を被覆する際の押出の温度が150℃以上であると、光ファイバケーブルの外観に優れる。光ファイバの外周に被覆層を被覆する際の押出の温度が190℃以下であると、光ファイバ被覆用樹脂組成物の本来の性能を損なわない。
【0082】
光ファイバケーブルの直径は、0.3mm〜10mmが好ましく、0.5mm〜8mmがより好ましい。光ファイバケーブルの直径が0.3mm以上であると、光ファイバケーブルの難燃性に優れる。また、光ファイバケーブルの直径が10mm以下であると、光ファイバケーブルの柔軟性、取り扱い性に優れる。
【0083】
光ファイバケーブルの繰り返し屈曲回数は、光ファイバケーブルの柔軟性に優れることから、10000回以上が好ましく、20000回以上がより好ましく、30000回以上が更に好ましい。
光ファイバケーブルの繰り返し屈曲回数は、IEC 60794−1に準拠して測定した値とする。
【0084】
光ファイバケーブルの他の実施形態としては、例えば、図3に示すような2本の光ファイバを1つの被覆層により被覆した光ファイバケーブルが挙げられる。
図3に示すような光ファイバケーブルの製造方法は、例えば、2芯用のダイス・ニップルを備えたクロスヘッドに光ファイバを通して被覆層を被覆する方法が挙げられる。
通常、光ファイバケーブルを通信用途で用いる場合、光ファイバケーブルの一端を光源システムに接続し、光ファイバケーブルの他端を受光システムに接続する必要がある。その際、双方向で通信を行う場合、図3に示すような2本の光ファイバを有する光ファイバケーブルを用いるとよい。
【0085】
本発明の光ファイバケーブルは、難燃性、長期耐熱性、柔軟性に優れるため、センサ、移動媒体内等の通信、機器内外の配線等の用途に好適に用いることができる。
【0086】
本発明のプラグ付き光ファイバケーブルは、本発明の光ファイバケーブルを含む。
本発明のプラグ付き光ファイバケーブルの製造方法は、例えば、本発明の光ファイバケーブルの少なくとも一端に、プラグを接続・固定する方法等が挙げられる。
【0087】
プラグの材料は、光ファイバケーブルとの密着性に優れることから、塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂が好ましく、塩化ビニル系樹脂がより好ましい。
プラグの形態は、光ファイバケーブルとプラグとの接続・固定が容易であることから、光ファイバケーブルを挿入する挿入口と光ファイバケーブルをプラグに固定するためのストッパとを備えることが好ましい。
【0088】
本発明のプラグ付き光ファイバケーブルは、信号源である光源、検知器に組込まれたユニット、別のプラスチック光ファイバケーブル等との接続が行え、難燃性、長期耐熱性、柔軟性に優れるプラスチック光ファイバケーブルを含むことから、センサ、移動媒体内等の通信、機器内外の配線等の用途に用いることができ、特に工業用センサに好適に用いることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
(難燃性試験)
実施例及び比較例で得られた光ファイバケーブルを、UL1581 VW−1(一条ケーブル垂直燃焼試験)に準拠して、以下のように燃焼試験を行った。
光ファイバケーブルの接炎試験として、15秒着火を5回繰り返し、下に敷いた10cm角の外科用脱脂綿が燃焼物のドリップによる延焼がなく、また、光ファイバケーブルが着火した場合、60秒以内に消火すれば合格とした。
上記燃焼試験を10回行い、合格回数を確認した。
【0091】
(長期耐熱性試験)
実施例及び比較例で得られた光ファイバケーブルについて、以下の条件A〜Cの前後での伝送損失(dB/km)を、波長650nm、入射光のNA(開口数)0.1の光を用い、25m−1mのカットバック法により測定した。
条件A:温度85℃、相対湿度10%以下で3000時間曝露
条件B:温度105℃、相対湿度10%以下で1000時間曝露
条件C:温度85℃、相対湿度95%で1000時間曝露
【0092】
25m−1mのカットバック法の測定は、IEC 60793−1−40:2001に準拠して行った。具体的には、25mの光ファイバを測定装置にセットし、出力パワーPを測定した後、光ファイバをカットバック長(入射端から1m)に切断し、出力パワーPを測定し、以下の式を用いて光の伝送損失を算出した。
【0093】
【数1】
【0094】
(機械特性試験)
[繰り返し屈曲回数]
実施例及び比較例で得られた光ファイバケーブルを、IEC 60794−1に準拠して、以下のように屈曲試験を行った。
光ファイバケーブルを繰り返し屈曲装置(機種名「恒温槽付き光ファイバ屈曲試験機」、(株)安田精機製作所製)に取り付け、500gの荷重を加えながら、垂直方向に対して両側に90°の角度で曲げた。初期値より1dB損失増加が生じた時点で試験終了とし、終了時点の繰り返し屈曲回数を確認した。
【0095】
[曲げ弾性力]
実施例及び比較例で得られた光ファイバケーブルを、ISO 178に準拠して、以下のように光ファイバケーブルの3点曲げ(両端自由支持の光ファイバケーブルの中央に力を加える)試験を実施した。
100mmに切断した光ファイバケーブルの両端を支持台に固定し、支持台で支持した光ファイバケーブルの中央に力を加え、5mm/分の速度でたわませ、その間のPOFケーブルに負荷される力を測定した。光ファイバケーブルが1mm変位した際の力を曲げ弾性力(N)とした。
【0096】
(材料)
塩化ビニル系樹脂(A−1):「カネビニール S1003」(商品名、(株)カネカ製)
塩化ビニル系樹脂(A−2):「セキスイPVC−TG TG−40」(商品名、積水化学工業(株)製、EVA樹脂に塩化ビニルをグラフト重合させたグラフト共重合体)
相溶する他の樹脂(A−3):「カネカCPVC H527」(商品名、(株)カネカ製、塩素化塩化ビニル樹脂)
溶融張力向上剤(B−1):「メタブレンA3750」(商品名、三菱レイヨン(株)製、アクリル樹脂で変性したテトラフルオロエチレン樹脂)
溶融張力向上剤(B−2):「メタブレンA3800」(商品名、三菱レイヨン(株)製、アクリル樹脂で変性したテトラフルオロエチレン樹脂)
溶融張力向上剤(B−3):「メタブレンP1050」(商品名、三菱レイヨン(株)製、アクリル樹脂系溶融張力向上剤)
受酸剤(C−1):「白艶華CCR」(商品名、白石カルシウム(株)製、炭酸カルシウム)
受酸剤(C−2):「STABIACE HT−7」(商品名、堺化学工業(株)製、ハイドロタルサイト)
受酸剤(C−3):オキシ水酸化鉄(和光純薬工業(株)製)
可塑剤(D−1):「トリメックス T−08」(商品名、花王(株)製、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル)
難燃剤(E−1):「ハイジライト」(商品名、昭和電工(株)製、水酸化アルミニウム)
難燃剤(E−2):「ファイアカット P−660CN」(商品名、(株)鈴裕化学製、イソシアヌル酸トリス(2,3−ジブロモプロピル))
難燃助剤(F−1):「AT−3CN」(商品名、(株)鈴裕化学製、三酸化アンチモン)
難燃助剤(F−2):「アデカスタブ2335」(商品名、(株)ADEKA製、ホウ酸亜鉛)
熱安定剤(G−1):「アデカスタブRUP−103」(商品名、(株)ADEKA製、カルシウム・マグネシウム・亜鉛系熱安定剤)
顔料(H−1):「三菱カーボンブラック 汎用カラー #45」(商品名、三菱化学(株)製、カーボンブラック)
他の添加剤(I−1):「アデカスタブAO−80」(商品名、(株)ADEKA製、フェノール系酸化防止剤)
他の添加剤(I−2):ステアリン酸カルシウム(堺化学工業(株)製、滑剤)
【0097】
(光ファイバ)
芯材をポリメチルメタクリレート(屈折率1.492)、最内層の鞘材を2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート−メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体(2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート単位:2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート単位:メチルメタクリレート単位:メタクリル酸単位=31:51:17:1(質量%)、屈折率1.402)、最外層の鞘材をフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体(フッ化ビニリデン単位:テトラフルオロエチレン単位=80:20(質量%)、屈折率1.374)とし、3層構造の同心円状複合紡糸ノズルを用いて紡糸し、140℃の熱風加熱炉中で繊維軸方向に2倍に延伸し、最内層の鞘の厚さが5μm、最外層の鞘の厚さが10μmの直径1.0mmの光ファイバを得た。
得られた光ファイバを、実施例及び比較例の光ファイバケーブルの光ファイバとして用いた。
【0098】
[実施例1]
塩化ビニル系樹脂(A−1)100質量部、溶融張力向上剤(B−1)2質量部、受酸剤(C−1)45質量部、可塑剤(D−1)55質量部、難燃剤(E−1)20質量部、難燃助剤(F−1)6質量部、熱安定剤(G−1)1質量部、顔料(H−1)2.5質量部、他の添加剤(I−1)1質量部、他の添加剤(I−2)0.5質量部を、二軸押出機(機種名「BT−40」、(株)プラスチック工学研究所製)を用いて170℃で溶融混練して、光ファイバ被覆用樹脂組成物を得た。
得られた光ファイバ被覆用樹脂組成物を、樹脂被覆用クロスヘッド型40mmケーブル被覆装置((株)聖製作所製)に供給し、光ファイバの外周に厚さ0.6mmの被覆層を被覆し、直径2.2mmの光ファイバケーブルを得た。得られた光ファイバケーブルの評価結果を、表2に示す。
【0099】
[実施例2〜10、比較例1〜2、11〜13
塩化ビニル系樹脂(A)、溶融張力向上剤(B)、受酸剤(C)、可塑剤(D)、難燃
剤(E)、難燃助剤(F)を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に操作を
行い、光ファイバ被覆用樹脂組成物及び光ファイバケーブルを得た。得られた光ファイバ
ケーブルの評価結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
実施例1〜10で得られた光ファイバケーブルは、難燃性、長期耐熱性、機械特性に優
れた。
一方、溶融張力向上剤(B)を含まない比較例1〜2で得られた光ファイバケーブルは
、機械特性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の光ファイバケーブルは、難燃性、長期耐熱性、柔軟性に優れるため、センサ、移動媒体内等の通信、機器内外の配線等の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
10 光ファイバ
11 芯
12 鞘
12a 鞘(最内層)
12b 鞘(最外層)
20 被覆層
20a 被覆層(最内層)
20b 被覆層(最外層)
図1
図2
図3