特許第6543926号(P6543926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6543926透光性ジルコニア焼結体及びジルコニア粉末、並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543926
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】透光性ジルコニア焼結体及びジルコニア粉末、並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20190705BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20190705BHJP
   A61C 7/12 20060101ALI20190705BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   C04B35/486
   C01G25/02
   A61C7/12
   A61C13/083
【請求項の数】19
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-258804(P2014-258804)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2015-143178(P2015-143178A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2017年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-265322(P2013-265322)
(32)【優先日】2013年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
(72)【発明者】
【氏名】河村 清隆
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−073907(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/125793(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/013099(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/018728(WO,A1)
【文献】 特開2008−081325(JP,A)
【文献】 特開2008−214168(JP,A)
【文献】 特開2008−222450(JP,A)
【文献】 米国特許第5326518(US,A)
【文献】 増田 長次郎,ジルコニアを理解し,包括的に幅広く歯科臨床へ応用する −材料をいかに生かして補綴装置を作り上げるか−,日本補綴歯科学会誌,日本,2012年 4月,第4巻,第2号,148−154
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4.0mol%を超え6.5mol%以下のイットリアと、0.1wt%未満のアルミナ(但し、0wt%のアルミナを除く)を含有し、相対密度が99.82%以上であり、厚さ1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率が37%以上40%未満であり、かつ曲げ強度が500MPa以上であることを特徴とする透光性ジルコニア焼結体。
【請求項2】
結晶粒径が0.3〜1.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の透光性ジルコニア焼結体。
【請求項3】
試料厚さ1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率に対する、試料厚さ1.0mmにおけるD65光線に対する全光線透過率の割合が、1.16以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透光性ジルコニア焼結体。
【請求項4】
アルミナ化合物が分散混合したジルコニア粉末が焼結した請求項1乃至3のいずれか一項に記載の透光性ジルコニア焼結体。
【請求項5】
前記アルミナ化合物が、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、及び硫酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の透光性ジルコニア焼結体。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の透光性ジルコニア焼結体の製造方法であり、
4.0mol%を超え6.5mol%のイットリアと、0.1wt%未満のアルミナ(但し、0wt%のアルミナを除く)を含有するジルコニア粉末を成形して成形体を得る成形工程、及び該成形体を、大気中、常圧下、焼結温度1350℃以上1500℃以下で焼結する焼結工程、を有することを特徴とする製造方法。
【請求項7】
前記成形体の密度が3.2g/cm超であることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
4.0mol%を超え6.5mol%以下のイットリアと、0.1wt%未満のアルミナ(但し、0wt%のアルミナを除く)を含有し、BET比表面積が8〜15m/gであることを特徴とするジルコニア粉末。
【請求項9】
添加物としてアルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、及び硫酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項8に記載のジルコニア粉末。
【請求項10】
アルミナ含有量が0.05wt%以下である請求項8又は9に記載のジルコニア粉末。
【請求項11】
結晶子径が320〜380Åであることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項12】
平均粒径が0.40〜0.50μmであることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項13】
結晶中に含まれる正方晶及び立方晶の合計割合が80%以上であることを特徴とする請求項8乃至12のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項14】
有機バインダーを含むことを特徴とする請求項8乃至13のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項15】
噴霧成形粉末顆粒であることを特徴とする請求項8乃至14のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項16】
請求項8乃至15のいずれか一項に記載のジルコニア粉末を使用することを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項17】
請求項8乃至15のいずれか一項に記載のジルコニア粉末が焼結した状態の焼結体。
【請求項18】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の透光性ジルコニア焼結体を含むことを特徴とする歯科材料。
【請求項19】
義歯、義歯ミルブランク、前歯用義歯、前歯用義歯ミルブランク、又は歯列矯正ブラケットである請求項18に記載の歯科材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結体密度及び強度が高く、自然歯に極めて近い透光性を有したジルコニア焼結体に関する。この高透光性ジルコニア焼結体は、歯科用途、特には前歯用に使用され、さらには義歯材料等のミルブランク、歯列矯正ブラケットとして用いるのに適する。
【背景技術】
【0002】
安定化剤として、Yを少量固溶させたジルコニア焼結体(以下、「部分安定化ジルコニア焼結体」という。)は、高強度、高靭性を有する。そのため、部分安定化ジルコニア焼結体は、切断工具、ダイス、ノズル、又はベアリングなどの機械構造用材料に利用されている。さらに、機械構造用材料以外にも、歯科材料等の生体材料として利用されている。歯科材料として部分安定化ジルコニア焼結体を使用する場合、高強度及び高靱性という機械的特性の観点からのみならず、審美的観点からは、透光性、色調等の光学的特性も要求される。
【0003】
審美性の観点からは、透光性を有するジルコニアとして、従来からイットリアを約10mol%含有する、ジルコニア単結晶(キュービックジルコニア)が宝飾品等に利用されている。しかしながら、ジルコニア単結晶は強度が極めて低いという問題があった。
【0004】
一方、ジルコニアの多結晶体であるジルコニア焼結体は透光性がない。この原因として、結晶粒間及び結晶粒内に存在する気孔が光散乱を起こすことが知られている。そのため、気孔を減少させること、つまり焼結体密度を増加させることによって、多結晶のジルコニア焼結体に透光性を付与しようとする検討がこれまでなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、2〜4mol%のイットリアを含み、アルミナ含有量が0.2wt%以下で、1mm厚さの全光線透過率が35%以上であるジルコニア焼結体が開示されている。しかし、実施例に開示されている焼結体は全光線透過率41%であり、これは厚さ1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率としては36%であった。当該焼結体は、奥歯用義歯として使用する際には十分な透光性と強度を持つ焼結体であった。その一方で、当該焼結体は前歯用義歯として使用するには透光性が不足しているという問題があった。
【0006】
特許文献2には、イットリアを1.5〜5mol%含み、気孔率が0.6%以下のジルコニア焼結体が開示されている。しかし、当該焼結体は熱間静水圧プレス(以下、「HIP」とする。)を用いた加圧焼結により得られたジルコニア焼結体であり、常圧焼結により得られたジルコニア焼結体では、十分な透光性が得られていなかった。
【0007】
また、特許文献3には、4mol%を超え7mol%以下のイットリアを含有するジルコニア焼結体で、1mm厚さにおける波長600nmの全光線透過率が40%以上であるジルコニア焼結体が開示されている。当該焼結体もHIPを用いた加圧焼結により得られたジルコニア焼結体であり、常圧焼結により得られたジルコニア焼結体では、十分な透光性が得られていなかった。
【0008】
非特許文献1には、3mol%のイットリアと8mol%のイットリアとを含有するジルコニア粉末を、Spark Plasma Sintering(以下、「SPS」とする。)することにより得られた、透明性のあるジルコニア焼結体が開示されている。
【0009】
しかし、特許文献3や非特許文献1に開示されたジルコニア焼結体を前歯用義歯として使用するには、透明感が高すぎるため不自然であった。
【0010】
また、透光性のあるジルコニア焼結体から義歯を作製するには、仮焼結した成形体を義歯形状に切削した後に、これを焼結する方法が知られている。このような方法では、例えば、ジルコニア粉末を通常のプレス成形することにより成形体を作製し、その後、700〜1000℃の温度で成形体を仮焼結して、ミルブランクを作製する。次いで、CAD/CAMにより、作製したミルブランクを義歯の形状に削り出し、その後、これを焼結する。例えば、昇温速度を600℃/hrとして焼結温度まで昇温し、焼結温度での保持時間を2時間とした工程プログラムを用いて、削り出した義歯の形状を有するミルブランクを焼結させることにより、7時間程度の短時間でジルコニアを焼結させることが行われている。
【0011】
他方、HIPによる焼結では、このような焼結を一次焼結として行い、その後で、さらにもう一度加圧下での焼結(二次焼結)としてHIPを行う必要があること、また、SPSでは短時間かつ低い温度での焼結が行える。その一方で、SPSは、黒鉛製の型の使用するため、型の材質により着色した焼結体を焼き戻して無色にするための熱処理が必要とする。さらには、硬いジルコニア焼結体を義歯の形状に削る必要があることなどから、これらの方法は行われていない。そのため、短時間の常圧焼結で密度の高いジルコニア焼結体が作製可能なジルコニア粉末の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2009/125793号
【特許文献2】特開昭62−153163号公報
【特許文献3】特開2008−222450号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“Trabsparent Nanometric Cubic and Tetragonal Zirconia Obtained by High−Pressure Electric Current Sintering”Adv. Funct. Mater. 2007,17,3267−3273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明では、従来方法の上記のような欠点を解消した上で、焼結体密度が高く、優れた透光性を有するジルコニア焼結体、特に前歯用義歯として適した透光性及び強度を兼備したジルコニア焼結体を提供すること、及び該ジルコニア焼結体を、常圧焼結による簡易なプロエスで製造できるジルコニア粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前歯用義歯として適したジルコニア焼結体について検討した。その結果、組成及び物性が制御されたジルコニア焼結体が、天然の前歯と同程度の審美性を有することを見出した。
【0016】
さらに、本発明者らは、ジルコニア粉末中のイットリア濃度及びアルミナ濃度と、焼結体密度及び焼結体の全光線透過率との関係について詳細に検討した。その結果、常圧焼結で前歯用義歯として適した高透光性ジルコニア焼結体を得るためには、全光線透過率だけを改善することだけではなく、ジルコニア粉末の組成や物性、さらにはこれらの関係性を制御することが必要であることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0017】
すなわち、本発明は4.0mol%を超え6.5mol%以下のイットリアと、0.1wt%未満のアルミナを含有し、相対密度が99.82%以上であり、厚さ1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率が37%以上40%未満であり、曲げ強度が500MPa以上であることを特徴とする透光性ジルコニア焼結体、である。
【0018】
以下、本発明の透光性ジルコニア焼結体について説明する。
【0019】
本発明におけるジルコニア粉末の「安定化剤濃度」とは、安定化剤/(ZrO+安定化剤)の比率をmol%として表した値をいう。
【0020】
「添加物含有量」とは、添加物/(ZrO+安定化剤+添加物)の比率を重量%として表した値をいう。
【0021】
「相対密度」とは、理論密度(ρ;g/cm)に対する実測密度(ρ;g/cm)の割合(%)であり、以下の式により求まる値である。
【0022】
相対密度(%)=(ρ/ρ)×100
ここで、実測密度(ρ)はアルキメデス法により測定される値である。また、理論密度(ρ)は以下の(1)式によって求まる値である。
【0023】
ρ=100/[(A/3.987)+(100−A)/ρ] (1)
【0024】
(1)式において、ρは理論密度(g/cm)であり、3.987はアルミナの理論密度(g/cm)であり、ρはXmol%イットリアを含有するジルコニア焼結体の理論密度(g/cm)である。また、Aはアルミナ含有量(重量%)であり、Xmol%イットリアを含有するジルコニア焼結体に対するアルミナの重量割合である。
【0025】
さらに、ジルコニア焼結体中のイットリア含有量、あるいはアルミナ含有量が異なることにより、(1)式におけるρは異なる値を示す。本発明において、イットリアの含有量が下記のmol%であるジルコニア焼結体の理論密度(ρ)は以下の値とした。
【0026】
イットリア含有量 3.0mol% :ρ=6.095g/cm
イットリア含有量 3.5mol% :ρ=6.086g/cm
イットリア含有量 4.0mol% :ρ=6.080g/cm
イットリア含有量 4.1mol% :ρ=6.080g/cm
イットリア含有量 4.5mol% :ρ=6.072g/cm
イットリア含有量 5.0mol% :ρ=6.062g/cm
イットリア含有量 5.5mol% :ρ=6.052g/cm
イットリア含有量 6.0mol% :ρ=6.043g/cm
イットリア含有量 6.5mol% :ρ=6.033g/cm
イットリア含有量 7.4mol% :ρ=6.019g/cm
【0027】
また、上記以外のイットリア含有量のジルコニア焼結体におけるρは、“Lattice Parameters and Density for Y−Stabilized ZrO” J. Am. Ceram. Soc.,69[4]325−32(1986)から、計算で求めた値を用いることができる。
【0028】
「結晶子径」とは、粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)測定における正方晶(111)面及び立方晶(111)面のXRDピーク(以下、「メインXRDピーク」ともいう。)から、以下の(2)式により求められる値である。
【0029】
結晶子径=κλ/βcosθ (2)
【0030】
(2)式において、κはシェーラー定数(κ=1)、λは測定X線の波長(CuKα線を線源とした場合のλ=1.541862Å)、βはメインXRDピークの半値幅、及びθはメインXRDピークのブラッグ角である。
【0031】
なお、メインXRDピークは、CuKα線を線源として、2θ=30.1〜30.2°付近に現れるXRDピークである。当該ピークは正方晶の(111)面と立方晶の(111)面の重なり合ったXRDピークである。結晶子径を算出するには、正方晶及び立方晶のピーク分離を行わずに、メインXRDピークを波形処理し、波形処理後のメインXRDピークのブラッグ角(θ)と、機械的広がり幅を補正したメインXRDピークの半価幅(β)を求めればよい。
【0032】
ジルコニア粉末の「平均粒径」とは、体積基準で表される粒径分布の累積カーブの中央値(メディアン径;累積カーブの50%に対応する粒径)となる粒子と同じ体積の球の直径である。当該平均粒径は、レーザー回折法による粒径分布測定装置によって測定した値である。
【0033】
本発明のジルコニア焼結体は、イットリア及びアルミナを含有し、イットリアの含有量が4.0mol%を超え6.5mol%以下であり、アルミナの含有量が0.1wt%未満であり、ジルコニア焼結体の相対密度は99.82%以上であり、曲げ強度は500MPa以上であり、試料厚さを1.0mmとした場合の波長600nmの光に対する全光線透過率は37%以上40%未満である。
【0034】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、安定化剤として機能する、4.0mol%を超え6.5mol%以下、好ましくは4.1mol%以上6.0mol%以下、より好ましくは4.5mol%以上6.0mol%以下のイットリアを含むものである。イットリアの含有量が4.0mol%以下では、ジルコニア焼結体の透光性が低下する。また、6.5mol%を超えた場合、透光性が高くなりすぎる。そのため、前歯用義歯として使用する場合、焼結体に透明感が現れ、不自然な審美性を有する前歯用義歯となる。さらに、強度が低下しすぎるため、前歯用義歯としての使用に耐えられなくなる。なお、本発明におけるイットリアの含有量は、安定化剤濃度として求めることができる。
【0035】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、アルミナの含有量が0.1wt%未満、更には0.08wt%以下、また更には0.06wt%以下である。アルミナは添加剤として本発明の透光性ジルコニア焼結体に含まれる。本発明の透光性ジルコニア焼結体は、アルミナを含有することにより、強度が高くなる。その一方で、アルミナ含有量が0.1wt%以上では透光性が低下するため、前歯用義歯として不自然な審美性となる。前歯用義歯として適した審美性を有するためには、アルミナの含有量は0.05wt%以下であることが好ましい。なお、本発明におけるアルミナの含有量は、添加物含有量として求めることができる。アルミナの含有量は0wt%以上0.1wt%未満、更には0wt%以上0.05wt%以下であればよい。
【0036】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、相対密度が99.82%以上、更には99.85%以上である。相対密度が99.82%未満では、ジルコニア焼結体の透光性が低下する。本発明の透光性ジルコニア焼結体は、相対密度が99.90%以上であることが好ましく、99.95%以上であることがより好ましい。
【0037】
なお、上記の様に、本発明において、相対密度を求める場合に使用する理論密度は、イットリア含有量、あるいはアルミナ含有量の違いにより異なる値を有する。本発明の透光性ジルコニア焼結体の理論密度として、以下の値が例示できる。
【0038】
【表1】
【0039】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、HIP等の加圧焼結を用いず、常圧焼結で得られる。さらには、上記の組成を満足し、なおかつ、相対密度が99.82%以上であることによって、試料厚さ1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率(以下、単に「全光線透過率」ともいう。)が37%以上40%未満を満足する。
【0040】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、全光線透過率が37%以上40%未満、更には37%以上39.9%以下、また更には37.1%以上39.5%以下である。全光線透過率が40%以上の場合、透光性(Translucency)に加え、透明性(Transparency)を有する焼結体となる。このような焼結体は、光を透過し過ぎるため、前歯用義歯として使用することができなくなる。
【0041】
一方、全光線透過率が37%未満の場合、焼結体の呈色が強くなりすぎる。このような焼結体を前歯用義歯として使用すると、不自然な色調を呈する前歯となる。全光線透過率が上記の範囲であることで、本発明の透光性ジルコニア焼結体は、ガラスコーティングなどのコーティングを必須とすることなく、単体で前歯用義歯として使用することができる。コーティングを必要としない前歯用義歯としての、より好ましい全光線透過率は37.3%以上39.2%以下、更には37.3%以上39.0%以下、また更には37.5%以上38.6%以下である。
【0042】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、全光線透過率に対する、試料厚さ1.0mmにおけるD65光線に対する全光線透過率(以下、「D65透過率」とする。)の割合(以下、「透過率比」とする。)が1.16以上、更には1.18以上であることが好ましい。透過率比が高くなることで、本発明の透光性ジルコニア焼結体の審美性は、太陽光、蛍光灯、白熱灯、LED電球などの複数の波長を含む異なる照明の光に照らされた場合であっても、自然な前歯により近いものとなる。通常、本発明の透光性ジルコニア焼結体の透過率比は1.4以下、更には1.35以下であることが挙げられる。より天然の前歯に近い審美性を有する焼結体とするためには、透過率比は1.16以上1.4以下、更には1.16以上1.35以下、また更には1.18以上1.35以下、また更には1.2以上1.35以下、また更には1.25以上1.35以下であることが好ましい。
【0043】
上記の全光線透過率及び透過率比を兼備することで、本発明の透光性ジルコニア焼結体は、自然の前歯により近い審美性を有する。
【0044】
本発明の透光性ジルコニア焼結体のD65透過率は、上記の透過率比を有する値であればよい。本発明の透光性ジルコニア焼結体のD65透過率としては、例えば、42%以上56%以下、更には42以上54%以下、また更には44%以上52%以下が好ましい。
【0045】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、曲げ強度が500MPa以上であり、さらには550MPa以上が好ましい。本発明の透光性ジルコニア焼結体は、適度な透光性及び高い相対密度を有しているにもかかわらず、曲げ強度が高すぎることがない。曲げ強度が500MPa以上であれば、前歯用義歯としての用途に十分な強度となる。前歯用義歯として適した強度とするため、曲げ強度は600MPa以上、更には650MPa以上、また更には670MPa以上、また更には700MPa以上が好ましい。
【0046】
本発明の透光性ジルコニア焼結体の曲げ強度は、通常、1070MPa以下、更には1020MPa以下、また更には1000MPa未満、また更には950MPa以下、また更には900MPa以下が好ましい。
【0047】
前歯用義歯としては、例えば、曲げ強度が500MPa以上1070MPa以下、更には500MPa以上1000MPa未満、また更には550MPa以上1000MPa未満、また更には550MPa以上950MPa以下であることが好ましい。なお、上記曲げ強度は、三点曲げ強度を意味するものである。
【0048】
本発明の透光性ジルコニア焼結体の結晶粒径は、相対密度及び曲げ強度に優れることから、0.3〜1.0μm、更には0.3〜0.9μm、また更には0.4μm〜0.86m、また更には0.4μm〜0.81μm、また更には0.4μm〜0.8μmであることが好ましい。
【0049】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、イットリア含有量、アルミナ含有量、相対密度、全光線透過率、D65透過率、透過率比、曲げ強度、及び結晶粒径の値や範囲が、上記に示した各値のいかなる組合せであってもよい。
【0050】
次に、本発明の透光性ジルコニア焼結体の製造方法について説明する。
【0051】
本発明の透光性ジルコニア焼結体の製造方法としては、4.0mol%を超え6.5mol%のイットリア、及び0.1wt%未満のアルミナを含有するジルコニア粉末を成形して成形体を得る成形工程、及び該成形体を、常圧下、焼結温度1350℃以上1500℃以下で焼結する焼結工程、を有する方法が挙げられる。
【0052】
成形工程では、4.0mol%を超え6.5mol%のイットリア、及び0.1wt%未満のアルミナを含有するジルコニア粉末を成形して成形体を得る。所望の形状の成形体が得られれば、その成形方法は任意である。成形方法としては、一軸加圧によるプレス成形又はCIPの少なくともいずれかを挙げることができる。
【0053】
成形体の密度は、3.2g/cm超であること、更には3.2g/cm超3.3g/cm以下であることが好ましい。
【0054】
成形工程に供するジルコニア粉末は、4.0mol%を超え6.5mol%のイットリア、及び0.1wt%未満のアルミナを含有するジルコニア粉末である。成形工程に供する好ましいジルコニア粉末(以下、「本発明の透光性ジルコニア焼結体用のジルコニア粉末」又は「本発明のジルコニア粉末」ともいう。)としては、以下のジルコニア粉末を挙げることができる。
【0055】
本発明のジルコニア粉末を使用することで、焼結工程における焼結が、常圧焼結のみであっても、本発明のジルコニア焼結体を得ることができる。これにより、焼結工程において、HIPなどの加圧焼結やSPSなどの特殊な焼結方法を使用せずに、前歯用義歯として適した透光性及び強度を兼備した透光性ジルコニア焼結体を得ることができる。
【0056】
本発明のジルコニア粉末は、安定化剤として4.0mol%を超え6.5mol%以下のイットリアを含み、アルミナの含有量が0.1wt%未満であるジルコニア粉末である。
【0057】
本発明のジルコニア粉末は、4.0mol%を超え6.5mol%以下、好ましくは4.1mol%以上6.0mol%以下、より好ましくは4.5mol%以上6.0mol%以下のイットリアを含む。イットリアは安定化剤として機能する。安定化剤が4.0mol%以下では、得られるジルコニア焼結体の透光性が低くなりすぎる。
【0058】
一方、安定化剤が6.5mol%を超えると、前歯用義歯として必要とされる透光性以上の高透光性のジルコニア焼結体が得られる。そのため、前歯用義歯として使用する場合、透明感が現れ、不自然な義歯となる。これに加え、強度が低下しすぎるため、前歯用義歯として使用できない。
【0059】
本発明のジルコニア粉末は、アルミナの含有量が0.1wt%未満、更には0.08wt%以下、また更には0.06wt%以下が好ましい。本発明のジルコニア粉末がアルミナを含有することにより、前歯用義歯としての使用に適した強度の透光性ジルコニア焼結体が得られる。
【0060】
一方で、アルミナ含有量が0.1wt%以上では、得られるジルコニア焼結体の透光性が低下するため、前歯用義歯として不自然な審美性を有するジルコニア焼結体となる。前歯用義歯として適した審美性を有する透光性ジルコニア焼結体を得るためには、アルミナの含有量は0.05wt%以下であることが好ましい。本発明のジルコニア粉末のアルミナ含有量としては、0wt%以上0.01wt%未満であり、更には0wt%以上0.05wt%以下が好ましい。
【0061】
本発明のジルコニア粉末の結晶子径は、得られるジルコニア焼結体の密度が高くなることから、320〜380Å、さらには330〜370Å、また更には340〜360Å、また更には350〜360Åであることが好ましい。
【0062】
本発明のジルコニア粉末は、BET比表面積が8〜15m/gであること、さらには10〜15m/gであることが好ましい。BET比表面積が8m/g以上であることで、ジルコニア粉末がより低温で焼結しやすい粉末となる。一方、BET比表面積が15m/g以下、更には14m/g以下であれば、得られる焼結体の密度が低くなりにくく、透光性を有するジルコニア焼結体が得られやすくなる。前歯用義歯として適した透光性及び密度を有する透光性ジルコニア焼結体が得られやすくするため、BET比表面積は9m/g以上15m/g以下、更には10m/g以上14m/g以下であることが好ましい。
【0063】
本発明のジルコニア粉末は、上記の結晶子径、及びBET比表面積を兼備することで、常圧焼結のみの焼結によって、前歯用義歯としてより適したジルコニア焼結体を提供することができる。すなわち、上記のような結晶子径、及びBET比表面積を兼備するジルコニア粉末を、HIPやSPS等の焼結方法を利用することなく、常圧焼結するだけで、特にコーティング処理等を施すこともなく、単体で前歯用義歯として適した透光性ジルコニア焼結体が得られやすくなる。
【0064】
本発明のジルコニア粉末は、その結晶中に含まれる正方晶(Tetragonal)及び立方晶(Cubic)の合計割合(以下、「T+C相率」ともいう。)が80%以上、更には85%以上であることが好ましい。T+C相率がこの様な値を有することで、常圧焼結のみの焼結であっても、前歯用義歯として適した透光性及び曲げ強度を兼備した焼結体が得られる。好ましいT+C相率としては、90%以上、更には90%を超えること、また更には95%以上を挙げることができる。
【0065】
本発明において、T+C相率は、ジルコニアの単斜晶、正方晶及び立方晶の合計に対する、正方晶及び立方晶の合計割合であり、以下の式より求めることができる。
【0066】
T+C相率(%) = 100 − fm
【0067】
上記式において、fmは単斜晶率(%)である。fmは、単斜晶相(111)面に相当するXRDピーク強度(以下、「Im(111)」とする。)、単斜晶相(11−1)面に相当するXRDピーク強度(以下、「Im(11−1)」とする。)、並びに、正方晶(111)面に相当するXRDピークと立方晶の(111)面に相当するXRDピークの強度(以下、「It+c(111)」とする。)から、以下の式により求めることができる。
【0068】
fm(%)=[Im(111)+Im(11−1)]
÷[Im(111)+Im(11−1)It+c(111)]×100
【0069】
なお、正方晶(111)面に相当するXRDピークと立方晶の(111)面に相当するXRDピークとは重複したピークである。It+c(111)は、これらを分離せずにひとつのピークとみなして求めた強度である。
【0070】
粉砕時間、成形性及び焼結性の観点から、本発明のジルコニア粉末の平均粒径は、0.40〜0.50μmであること、さらには0.40〜0.45μm、また更には0.40〜0.43μmであることが好ましい。
【0071】
さらに、本発明のジルコニア粉末は、噴霧成形粉末顆粒(以下、単に「顆粒」ともいう。)であることが好ましい。
【0072】
本発明のジルコニア粉末は、特に安定化剤としてイットリア、及び添加剤としてアルミナの他に、有機バインダーを含む噴霧造粒顆粒であることが好ましい。該顆粒は、成形体を形成する際の流動性が高くなり、プレス成形後の保形性に優れた成形体の形成が可能である。顆粒の平均粒径は30〜80μm、軽装嵩密度は1.10〜1.40g/cmであることが好ましい。なお、軽装嵩密度とは、JIS R1628に準じた方法により測定される密度(Bulk Density)である。
【0073】
有機バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス、及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる1種以上を挙げることができる。これらの有機バインダーの中でも、分子中にカルボキシル基又はその誘導体(例えば、塩、特にアンモニウム塩など)を有するアクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂として、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体、及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0074】
有機バインダーの添加量は、ジルコニア粉末スラリー中のジルコニア粉末に対し、0.5〜10重量%が好ましく、特に1〜5重量%が好ましい。
【0075】
このように、本発明のジルコニア粉末からは、常圧焼結のみによる焼結によって、前歯用義歯として適した透光性を有するジルコニア焼結体が得られる。すなわち、本発明のジルコニア粉末は、HIP処理等の加圧焼結を用いなくても、前歯用義歯として適した高い透光性を有するジルコニア焼結体が得られる。
【0076】
本発明のジルコニア粉末を成形して得られる成形体の密度は、3.2g/cm超であればよく、3.2g/ccm超3.3g/cm以下、更には3.2g/cm超3.27g/cm以下であることが好ましい。成形体の密度が3.2g/cm超であれば、得られる焼結体の透光性が前歯用義歯により適したものとなりやすい。また、成形体の密度が3.3g/cm以下であれば、焼結体がその強度低下の原因となる欠陥等を有さなくなりやすい。さらに、上記のT+C相率を有する本発明のジルコニア粉末の成形体としては、該成形体を焼結することで適度な焼結収縮が進行する。これにより、前歯用義歯として適したジルコニア焼結体が得られやすくなる。成形体は、T+C相率が90%以上であり、かつ、成形体密度が3.2g/cm超3.25g/cm以下であることが好ましい。
【0077】
本発明のジルコニア粉末は、例えば、ジルコニウム塩水溶液の加水分解で水和ジルコニアゾルを得る原料工程、該水和ジルコニアゾルを乾燥及び仮焼して仮焼粉末を得る仮焼工程、及び、該仮焼粉末を粉砕して粉砕粉を得る粉砕工程、を有する製造方法により製造することが好ましい。
【0078】
原料工程においては、ジルコニウム塩水溶液を加水分解することで水和ジルコニアゾルを得る。水和ジルコニアゾルの製造に用いるジルコニウム塩水溶液としては、水酸化ジルコニウムと酸との混合物、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム及び硫酸ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液が挙げられる。
【0079】
水和ジルコニアゾルを得るにあたり、加水分解前又は加水分解中にイットリア源をジルコニウム塩水溶液に添加することが好ましい。イットリア源の添加量は、ジルコニア粉末におけるイットリア含有量と同程度の量であればよい。イットリア源としては、水和ジルコニウム塩水溶液中で溶解するものであればよく、塩化イットリウム、酸化イットリウム、硝酸イットリウム及び水酸化イットリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種か、塩化イットリウム又は酸化イットリウムの少なくともいずれかであることが挙げられる。
【0080】
仮焼工程では、得られた水和ジルコニアゾルを乾燥して乾燥粉末を得た後、該乾燥粉末を仮焼することによって仮焼粉末を得る。
【0081】
仮焼工程における乾燥は、水和ジルコニアゾル中の水分、及び、水和ジルコニアゾル中に付着した残留水分を除去できれば任意の方法で乾燥することができる。乾燥温度は、160〜200℃であることが例示できる。
【0082】
仮焼工程では、上記で得られた水和ジルコニアゾルの乾燥粉末を仮焼することで、仮焼粉末を得る。仮焼温度は1050〜1250℃が好ましく、1100〜1200℃であることがより好ましい。仮焼温度がこの範囲であることで、ジルコニアの凝集が抑制されるだけでなく、得られる仮焼粉の粒径が均一になりやすい。
【0083】
粉砕工程では、得られた仮焼粉末を粉砕する。これにより、本発明のジルコニア粉末が得られる。粉砕工程は、上記で得られた仮焼粉末の平均粒径が0.40〜0.50μmになるまで粉砕する。仮焼粉末が上記の平均粒径となる方法であれば、粉砕方法は任意である。粉砕方法としては、湿式粉砕又は乾式粉砕の少なくともいずれか、更には湿式粉砕を挙げることができる。特に好ましい粉砕方法としては、ジルコニアボールを使用した湿式粉砕を挙げることができ、ジルコニアボールは直径3mm以下であることが好ましい。
【0084】
また、粉砕はアルミナ源を仮焼粉末に添加した後に行うことが好ましい。これにより、ジルコニア及びアルミナがより均一に混合される。
【0085】
添加物として用いるアルミナ源は、アルミニウムの化合物であればよく、例えば、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、及び硫酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種、好ましくはアルミナ、水和アルミナ及びアルミナゾルからなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。ジルコニア粉末の粉砕時に必要量のアルミナ源を添加し、粉砕して、分散混合することができる。
【0086】
本発明のジルコニア粉末の製造方法は、さらに顆粒化工程を含むことが好ましい。これにより、本発明のジルコニア粉末を顆粒とすることができる。顆粒化工程は、ジルコニア粉末をスラリーにして噴霧乾燥すればよい。噴霧乾燥として、160〜200℃の熱風に当該スラリーを滴下することが挙げられる。焼結工程では、成形工程で得られた成形体を、常圧下にて、焼結温度1350〜1500℃で焼結する。これにより、本発明の透光性ジルコニア焼結体が得られる。焼結工程における焼結温度は1400℃以上1490℃以下、更には1400℃以上1450℃以下であることが好ましい。
【0087】
焼結工程における昇温速度は、800℃/時間以下、さらには600℃/時間以下である。焼結温度における保持時間(以下、単に「保持時間」ともいう。)は、焼結温度により異なる。焼結工程における保持時間として5時間以下、更には3時間以下、また更には2時間以下を例示することができる。
【0088】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は常圧焼結で得られる。ここで、常圧焼結とは成形体に対して外的な力を加えずに単に加熱することにより焼結する方法である。具体的な常圧焼結として、大気圧下での焼結を挙げることができる。
【0089】
焼結雰囲気は還元性雰囲気でなければよく、すなわち、還元性雰囲気以外の雰囲気であればよい。焼結雰囲気は酸素雰囲気であればよく、大気中での焼結が好ましい。特に好ましい焼結工程として、大気圧下、昇温速度600℃/時間以下、焼結温度1400℃以上1490℃以下で焼結することが挙げられる。
【0090】
焼結工程は、常圧焼結のみで焼結することが好ましい。一般に、透光性を向上させる手段として、常圧焼結後に、HIPその他の加圧焼結やSPSなどの特殊な焼結方法を使用することが挙げられる。しかしながら、加圧焼結や特殊な焼結方法は製造プロセスを煩雑にするだけではなく、製造コストの上昇をもたらす。本発明の製造方法、特に本発明のジルコニア粉末を用いた場合においては、常圧焼結のみであっても、前歯用義歯として十分な透光性及び強度を兼備した透光性ジルコニア焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0091】
本発明によれば、前歯用義歯として適した透光性及び強度を兼備したジルコニア焼結体が提供される。本発明の透光性ジルコニア焼結体は、透光性に優れており、歯科用途として、特に前歯用義歯で使用されるジルコニア焼結体として使用できる。また、義歯材料等のミルブランク、歯列矯正ブラケットとして用いるジルコニア焼結体としても使用することもできる。
【0092】
また、本発明のジルコニア粉末によれば、HIP等の大掛かりな加圧焼結装置を用いないで、常圧焼結で透光性を有するジルコニア焼結体を製造できる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
(粉末の平均粒径)
ジルコニア粉末の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布計(Honeywell社製,型式:9320−HRA)を用いて測定した。試料の前処理条件としては、粉砕スラリーを蒸留水に懸濁させ、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所社製,型式:US−150T)を用いて3分間分散させた。
【0095】
(顆粒の平均粒径)
ジルコニア顆粒の平均粒径は、JIS Z 8801に準じた、ふるい分け試験方法によって求めた。
(BET比表面積)
粉末試料のBET比表面積は、BET1点法の窒素吸着により測定した。測定装置には一般的なガス吸着式比表面積測定装置(装置名:トライスター3000、マイクロメリティックス社製)を用いた。測定に先立ち、250℃で60分間加熱の脱気処理を行うことにより、粉末試料を前処理した。
【0096】
結晶子径(Å)=κλ/(βcosθ)
【0097】
上記式において、κはシェーラー定数(=1)、λはCuKα線を線源とした場合のλであり、1.541862Åである。また、θはメインXRDピークのθ値であり、30.1〜30.2°である。
(結晶相の同定)
一般的なX線回折装置(商品名:MXP−3、マックサイエンス社製)を使用し、試料の粉末X線回折測定による結晶相を測定した。測定条件は以下のとおりとした。
【0098】
線源 : CuKα線(λ=1.541862Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件: 毎秒0.04°
発散スリット: 1.00deg
散乱スリット: 1.00deg
受光スリット: 0.30mm
計測時間 : 3.0秒
測定範囲 : 2θ=26°〜33°
【0099】
上記XRD測定により得られたXRDパターンから、以下の式よりT+C相率を求めた。
【0100】
T+C相率(%) = 100 − fm
上記式において、fmは単斜晶率(%)であり、以下の式により求めた。
【0101】
fm(%)=[Im(111)+Im(11−1)]
÷[Im(111)+Im(11−1)It+c(111)]×100
【0102】
(結晶子径)
粉末試料について、結晶相の同定と同様な方法でXRD測定し、XRDパターンを得た。得られたXRDパターンから正方晶の(111)面及び立方晶の(111)面に相当するピーク(メインXRDピーク)の半値幅を算出した。当該半値幅を用い以下の式より結晶子径を算出した。X線回折装置を用い、半価幅は測定結果をバックグランド除去した後、ピークフィッティング処理を行った結果から求めた。
(結晶粒径)
ジルコニア焼結体の結晶粒径は、電解放出形走査型電子顕微鏡(FESEM)(日本電子社製、型式:JSM−T220)を用いて得られた、SEM観察図から、プラニメトリック法により算出した平均粒径である。測定試料には、鏡面研磨したジルコニア焼結体を熱エッチング処理したものを使用した。
(焼結体密度)
焼結体密度は、アルキメデス法で測定した。
(全光線透過率)
ジルコニア焼結体の全光線透過率は、分光光度計(日本分光(株)製、型式:V−650)を用いて測定した。試料はジルコニア焼結体を両面研磨した厚み1mmの円盤形状のものを用いて、波長220〜850nmの光を透過させて、積分球で集光した光を測定した。
(D65透過率)
濁度計(日本電色(株)製、型式:NDH2000)を用いて、JIS K 7361に準拠してD65光源での全光線透過率を測定した。測定には全光線透過率の測定で使用した試料同一の試料を使用した。
(三点曲げ強度)
ジルコニア焼結体の強度は、JIS R 1601に記載されている方法に基づいて、3点曲げ測定法で評価した。
【0103】
実施例1
(ジルコニア粉末の調製)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が4.1mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゾルを1120℃で2時間焼成した。これにより、4.1mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。
【0104】
得られた仮焼粉末を蒸留水で水洗し、110℃で乾燥してジルコニア水洗粉末とした。アルミナ含有量が0.05重量%となるように、当該ジルコニア水洗粉末にα−アルミナを添加して混合粉末を得た。
【0105】
この混合粉末の固形分濃度が45重量%となるように蒸留水を加えてスラリーを得た。当該スラリーを直径2mmのボールミルで平均粒子径が0.40〜0.50μmとなるようにボールミルで14時間粉砕して粉砕スラリーとした。得られた粉砕スラリーの平均粒径を測定し、ジルコニア粉末の平均粒径とした。また、粉砕スラリーの一部を110℃で乾燥して得られたジルコニア粉末の評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0106】
上記粉砕スラリーにポリアクリル酸系有機バインダーを3重量%添加して、これを180℃の熱風に滴下することで噴霧乾燥を実施し、本実施例のジルコニア顆粒を得た。得られたジルコニア顆粒は平均粒径が50μm、軽装嵩密度が1.25g/cmであった。
(焼結体の作製)
得られたジルコニア顆粒5gを直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を、196MPaの成形圧力でCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。
【0107】
得られた成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。得られたジルコニア焼結体は、全光線透過率は37.3%であった。全光線透過率が37%以上40%未満であることから、前歯用義歯に好適である。
【0108】
実施例2
(ジルコニア粉末の調製)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が5.0mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゲルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゲルを1120℃で2時間焼成した。これにより、5.0mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。
【0109】
得られた仮焼粉末を蒸留水で水洗し、110℃で乾燥してジルコニア水洗粉末とした。アルミナ含有量が0.05重量%となるように、当該ジルコニア水洗粉末にα−アルミナを添加して混合粉末を得た。
【0110】
これらの混合粉末の固形分濃度が45重量%となるように蒸留水を加えてスラリーを得た。当該スラリーを直径2mmのボールミルで平均粒子径が0.40〜0.50μmとなるようにボールミルで17時間粉砕して粉砕スラリーとした。得られた粉砕スラリーの平均粒径を測定し、ジルコニア粉末の平均粒径とした。また、粉砕スラリーの一部を110℃で乾燥して得られたジルコニア粉末の評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0111】
上記粉砕スラリーにポリアクリル酸系有機バインダーを3重量%添加して、これを180℃の熱風に滴下することで噴霧乾燥を実施し、本実施例のジルコニア顆粒を得た。得られたジルコニア顆粒は平均粒径が48μm、軽装嵩密度が1.27g/cmであった。
(焼結体の作製)
得られたジルコニア顆粒5gを直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を、196MPaの成形圧力でCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。
【0112】
得られた成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。得られたジルコニア焼結体は、全光線透過率は37.6%であった。全光線透過率が37%以上40%未満であることから、前歯用義歯に好適である。
【0113】
実施例3
(ジルコニア粉末の調製)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が6.0mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゾルを1120℃で2時間焼成した。これにより、6.0mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。
【0114】
得られた仮焼粉末を蒸留水で水洗し、110℃で乾燥してジルコニア水洗粉末とした。アルミナ含有量が0.05重量%となるように、当該ジルコニア水洗粉末にα−アルミナを添加して混合粉末を得た。
【0115】
これらの混合粉末の固形分濃度が45重量%となるように蒸留水を加えてスラリーを得た。当該スラリーを直径2mmのボールミルで平均粒子径が0.40〜0.50μmとなるようにボールミルで17時間粉砕して粉砕スラリーとした。得られた粉砕スラリーの平均粒径を測定し、ジルコニア粉末の平均粒径とした。また、粉砕スラリーの一部を110℃で乾燥して得られたジルコニア粉末の評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0116】
上記粉砕スラリーにポリアクリル酸系有機バインダーを3重量%添加して、これを180℃の熱風に滴下することで噴霧乾燥を実施し、本実施例のジルコニア顆粒を得た。得られたジルコニア顆粒は平均粒径が48μm、軽装嵩密度が1.26g/cmであった。
(焼結体の作製)
得られたジルコニア顆粒5gを直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を、196MPaの成形圧力でCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。
【0117】
得られた成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。得られたジルコニア焼結体は、全光線透過率は38.5%であった。全光線透過率が37%以上40%未満であることから、前歯用義歯に好適である。
【0118】
参考
(ジルコニア粉末の調製)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が5.0mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゲルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゲルを1160℃で2時間焼成した。これにより、5.0mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を蒸留水で水洗し、110℃で乾燥してジルコニア水洗粉末とした。
【0119】
この水洗粉末の固形分濃度が45重量%となるように蒸留水を加えてスラリーを得た。当該スラリーを直径2mmのボールミルで平均粒子径が0.40〜0.50μmとなるようにボールミルで25時間粉砕して粉砕スラリーとした。得られた粉砕スラリーの平均粒径を測定し、ジルコニア粉末の平均粒径とした。また、粉砕スラリーの一部を110℃で乾燥して得られたジルコニア粉末の評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0120】
上記粉砕スラリーにポリアクリル酸系有機バインダーを3重量%添加して、これを180℃の熱風に滴下することで噴霧乾燥を実施し、本参考例のジルコニア顆粒を得た。得られたジルコニア顆粒は平均粒径が50μm、軽装嵩密度が1.28g/cmであった。
(焼結体の作製)
得られたジルコニア顆粒5gを直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を、196MPaの成形圧力でCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。
【0121】
得られた成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結し、本参考例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。得られたジルコニア焼結体は、全光線透過率は37.5%であった。全光線透過率が37%以上40%未満であることから、前歯用義歯に好適である。
【0122】
参考
(ジルコニア粉末の調製)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が5.5mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゲルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゲルを1160℃で2時間焼成した。これにより、5.5mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を蒸留水で水洗し、110℃で乾燥してジルコニア水洗粉末とした。
【0123】
この水洗粉末の固形分濃度が45重量%となるように蒸留水を加えてスラリーを得た。当該スラリーを直径2mmのボールミルで平均粒子径が0.40〜0.50μmとなるようにボールミルで22時間粉砕して粉砕スラリーとした。得られた粉砕スラリーの平均粒径を測定し、ジルコニア粉末の平均粒子径とした。また、粉砕スラリーの一部を110℃で乾燥して得られたジルコニア粉末を評価した。評価結果を表2に示した。
【0124】
上記粉砕スラリーにポリアクリル酸系有機バインダーを3重量%添加して、これを180℃の熱風に滴下することで噴霧乾燥を実施し、本参考例のジルコニア顆粒を得た。得られたジルコニア顆粒は平均粒径が48μm、軽装嵩密度が1.24g/cmであった。
(焼結体の作製)
得られたジルコニア顆粒5gを直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を、196MPaの成形圧力でCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。
【0125】
得られた成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結し、本参考例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。得られたジルコニア焼結体は、全光線透過率は39.2%であった。全光線透過率が37%以上40%未満であることから、前歯用義歯に好適である。
【0126】
実施例
(ジルコニア粉末の調製)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が5.5mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゲルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゲルを1160℃で2時間焼成した。これにより、5.5mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。アルミナ含有量が0.05重量%となるように、当該ジルコニア水洗粉末にα−アルミナを添加して混合粉末を得た。
【0127】
この水洗粉末の固形分濃度が45重量%となるように蒸留水を加えてスラリーを得た。当該スラリーを直径2mmのボールミルで平均粒子径が0.40〜0.50μmとなるようにボールミルで22時間粉砕して粉砕スラリーとした。得られた粉砕スラリーの平均粒径を測定し、ジルコニア粉末の平均粒子径とした。また、粉砕スラリーの一部を110℃で乾燥して得られたジルコニア粉末を評価した。評価結果を表2に示した。
【0128】
上記粉砕スラリーにポリアクリル酸系有機バインダーを3重量%添加して、これを180℃の熱風に滴下することで噴霧乾燥を実施し、本実施例のジルコニア顆粒を得た。得られたジルコニア顆粒は平均粒径が43μm、軽装嵩密度が1.26g/cmであった。
(焼結体の作製)
得られたジルコニア顆粒5gを直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を、196MPaの成形圧力でCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。得られた成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。得られたジルコニア焼結体は、全光線透過率は37.5%であった。全光線透過率が37%以上40%未満であることから、前歯用義歯に好適である。
実施例
(ジルコニア粉末の調製)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が5.5mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゲルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゲルを1120℃で2時間焼成した。これにより、5.5mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。アルミナ含有量が0.05重量%となるように、当該ジルコニア水洗粉末にα−アルミナを添加して混合粉末を得た。
【0129】
この水洗粉末の固形分濃度が45重量%となるように蒸留水を加えてスラリーを得た。当該スラリーを直径2mmのボールミルで平均粒子径が0.40〜0.50μmとなるようにボールミルで12時間粉砕して粉砕スラリーとした。得られた粉砕スラリーの平均粒径を測定し、ジルコニア粉末の平均粒子径とした。また、粉砕スラリーの一部を110℃で乾燥して得られたジルコニア粉末を評価した。評価結果を表2に示した。
【0130】
上記粉砕スラリーにポリアクリル酸系有機バインダーを3重量%添加して、これを180℃の熱風に滴下することで噴霧乾燥を実施し、本実施例のジルコニア顆粒を得た。得られたジルコニア顆粒は平均粒径が48μm、軽装嵩密度が1.24g/cmであった。
(焼結体の作製)
得られたジルコニア顆粒5gを直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を、196MPaの成形圧力でCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。得られた成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び、保持時間2時間の条件で焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。得られたジルコニア焼結体は、全光線透過率は37.5%であった。全光線透過率が37%以上40%未満であることから、前歯用義歯に好適である。
【0131】
比較例1
(ジルコニア粉末)
3.0mol%のイットリアで安定化され、Alを0.05wt%含むジルコニア粉末(商品名:Zpex(登録商標)、東ソー社製)を使用して、ジルコニア焼結体を作製した。当該ジルコニア粉末の評価結果を表2に示した。
(焼結体の作製)
当該ジルコニア粉末を、直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体は、圧力196MPaでCIP成形し、成形体を得た。
【0132】
次にその成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結して、本比較例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。
【0133】
本比較例のジルコニア焼結体は、全光線透過率は35.8%及び強度が1200MPaであった。このように、本比較例のジルコニア焼結体は奥歯用義歯として適した強度を有している一方、前歯用義歯としての透光性に劣るものであった。
【0134】
比較例2
(ジルコニア粉末の調製)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が7.4mol%になるように塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後の水和ジルコニアゾルを1120℃で2時間焼成した。これにより、7.4mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を蒸留水で水洗し、110℃で乾燥したてジルコニア水洗粉末を得た。
【0135】
この水洗粉末の固形分濃度が45重量%となるように蒸留水を加えてスラリーを得た。当該スラリーを直径2mmのボールミルで平均粒子径が0.40〜0.50μmとなるようにボールミルで18時間粉砕して粉砕スラリーとした。得られた粉砕スラリーの平均粒径を測定し、ジルコニア粉末の平均粒径とした。また、粉砕スラリーの一部を110℃で乾燥して得られたジルコニア粉末の評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0136】
上記粉砕スラリーにポリアクリル酸系有機バインダーを3重量%添加して、これを180℃の熱風に滴下することで噴霧乾燥を実施し、本実施例のジルコニア顆粒を得た。得られたジルコニア顆粒は平均粒径が45μm、軽装嵩密度が1.24g/cmであった。
(焼結体の作製)
得られたジルコニア顆粒5gを直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を圧力196MPaでCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。
【0137】
得られた成形体を1450℃、昇温速度600℃/hr、及び、保持時間2時間の条件で焼結して、本比較例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。本比較例のジルコニア焼結体は、全光線透過率は36.7%であった。このように、本比較例のジルコニア焼結体は全光線透過率が低く、前歯用義歯としての透光性に劣るものであった。
【0138】
比較例3
(ジルコニア粉末)
4.0mol%のイットリアで安定化されたジルコニア粉末(商品名:TZ−4YS、東ソー社製)を使用してジルコニア焼結体を作製した。
【0139】
当該ジルコニア粉末の評価結果を表2に示した。
(焼結体の作製)
当該ジルコニア粉末を直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を圧力196MPaでCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。
【0140】
得られた成形体を1550℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結して本比較例の焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。
【0141】
本比較例のジルコニア焼結体は、全光線透過率は36.0%であった。このように、本比較例のジルコニア焼結体は全光線透過率が低く、前歯用義歯としての透光性に劣るものであった。
【0142】
比較例4
(ジルコニア粉末)
5.0mol%のイットリアで安定化されたジルコニア粉末(商品名:TZ−5YS、東ソー社製)を使用してジルコニア焼結体を作製した。
【0143】
当該ジルコニア粉末の評価結果を表2に示した。
(焼結体の作製)
当該ジルコニア粉末を直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を圧力196MPaでCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。
【0144】
得られた成形体を1550℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結して本比較例の焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。
【0145】
本比較例のジルコニア焼結体は、全光線透過率は36.0%であった。このように、本比較例のジルコニア焼結体は全光線透過率が低く、前歯用義歯としての透光性に劣るものであった。
【0146】
比較例5
(ジルコニア粉末)
6.0mol%のイットリアで安定化されたジルコニア粉末(商品名:TZ−6YS、東ソー社製)を使用してジルコニア焼結体を作製した。
【0147】
当該ジルコニア粉末の評価結果を表2に示した。
(焼結体の作製)
当該ジルコニア粉末を直径25mmの金型に入れ、19.6MPaの成形圧力でプレス成形して一次成形体を得た。得られた一次成形体を圧力196MPaでCIPして成形体を得た。得られた成形体密度を表2に示した。得られた成形体を1500℃、昇温速度600℃/hr、及び、保持時間2時間の条件で焼結して本比較例の焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。
【0148】
本比較例のジルコニア焼結体は、全光線透過率は25.3%であった。このように、本比較例のジルコニア焼結体は全光線透過率が低く、前歯用義歯としての透光性に劣るものであり、前歯用義歯に好適ではない。
【0149】
本比較例で使用したジルコニア粉末は、常圧焼結のみでは透光性の高いジルコニア焼結体が得られなかった。
【0150】
比較例6
比較例5と同じジルコニア粉末を比較例5と同じ方法で成形を行うことにより、成形体を得た。得られた成形体を、1550℃、昇温速度600℃/hr、及び保持時間2時間の条件で焼結して本比較例の焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体の評価結果を表3に示した。
【0151】
本比較例のジルコニア焼結体は、全光線透過率は24.5%であった。このように、本比較例のジルコニア焼結体は全光線透過率が低く、前歯用義歯としての透光性に劣るものであった。
【0152】
本比較例で使用したジルコニア粉末は、常圧焼結のみでは透光性の高いジルコニア焼結体が得られなかった。
【0153】
【表2】
【0154】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、前歯用義歯をはじめとする義歯として使用することができる。更には、義歯ミルブランクや、歯列矯正ブラケットなどの歯科材料として使用することができる。