(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有するフィルムをいい、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。
【0014】
また、以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx−ny)×dで表される値である。また、フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth={(nx+ny)/2−nz}×dで表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、フィルムの前記面内方向であってnxの方向に垂直な方向の屈折率を表す。nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0015】
さらに、以下の説明において、要素の方向が「平行」及び「垂直」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0016】
また、以下の説明において、長尺のフィルムの斜め方向とは、別に断らない限り、そのフィルムの面内方向であって、そのフィルムの長手方向に平行でなく垂直でもない方向を示す。
【0017】
また、以下の説明において、「偏光板」及び「波長板」とは、別に断らない限り、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0018】
[1.斜め延伸フィルムの配向角の周期]
図1は、本発明の第一実施形態に係る斜め延伸フィルム10を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係る斜め延伸フィルム10は、長尺のフィルムである。この斜め延伸フィルム10は、斜め方向に延伸する斜め延伸処理を施される工程を経て製造されたものであるので、当該斜め延伸フィルム10の斜め方向に遅相軸10Aを有する。よって、この遅相軸10Aは、斜め延伸フィルム10の長手方向MDに対して平行でなく垂直でもなく、また、斜め延伸フィルム10の幅方向TDに対しても平行でなく垂直でもない。
【0019】
この斜め延伸フィルム10の配向角θについて説明する。斜め延伸フィルム10の配向角θとは、前記の通り、ある基準方向に対して斜め延伸フィルム10の遅相軸10Aがなす角度を表す。本実施形態においては、基準方向として、斜め延伸フィルム10の長手方向MDを採用した例を示して説明する。別に断らない限り、斜め延伸フィルム10の配向角θは、当該斜め延伸フィルム10の幅方向の中央部において測定される。
【0020】
図2は、本発明の第一実施形態に係る斜め延伸フィルム10の長手方向における配向角θの分布の例を模式的に示すグラフである。
図2のグラフにおいて、横軸は斜め延伸フィルム10の長手方向の位置を表し、縦軸は斜め延伸フィルム10の配向角θを表す。
図2に示すように、斜め延伸フィルム10の配向角θは、斜め延伸フィルム10の長手方向において周期性を持って不均一になっている。具体的には、斜め延伸フィルム10の配向角θは、通常、斜め延伸フィルム10の長手方向において連続且つ周期的に増大及び低減を繰り返している。そのため、斜め延伸フィルム10の長手方向においては、配向角θは、所定範囲の周期λ(θ)を有する。ここで、配向角θの周期λ(θ)は、長手方向において、配向角θの極大点から次の極大点までの距離を表す。このとき、前記の周期λ(θ)での配向角θの振幅A(θ)は、1周期内での配向角θの最大値と最小値との差の絶対値で表される。
【0021】
本実施形態に係る斜め延伸フィルム10の配向角θの周期λ(θ)は、通常2000mm未満、好ましくは1000mm以下、より好ましくは500mm以下である。また、周期λ(θ)の下限に特に制限は無いが、好ましくは10mm以上、より好ましくは50mm以上、特に好ましくは100mm以上である。周期λ(θ)は、斜め延伸フィルム10の長手方向において、一定であってもよく、一定でなくてもよい。本実施形態においては、各周期λ(θ)がいずれも、前記範囲に収まることが好ましい。
【0022】
さらに、前記の周期λ(θ)での配向角θの振幅A(θ)は、通常0.100°未満であり、好ましくは0.08°以下であり、より好ましくは0.05°以下である。また、振幅A(θ)の下限に特に制限は無いが、好ましくは0.01°以上である。振幅A(θ)は、斜め延伸フィルム10の長手方向において、一定であってもよく、一定でなくてもよい。本実施形態においては、各周期λ(θ)における振幅A(θ)がいずれも、前記範囲に収まることが好ましい。従来は、配向角θの振幅A(θ)をこのように小さくすることは困難であったが、後述する製造方法によって斜め延伸フィルム10を製造することにより、前記のように振幅A(θ)を小さくすることが可能である。
【0023】
本実施形態に係る斜め延伸フィルム10は、配向角θの周期λ(θ)及び振幅A(θ)が前記のような範囲に収まっていることにより、斜め延伸フィルム10の長手方向における配向角θの精度を高くできる。具体的には、斜め延伸フィルム10の長手方向における配向角θのバラツキΔθを小さくできる。ここで、前記の「配向角θのバラツキΔθ」とは、斜め延伸フィルム10の長手方向における配向角θの最大値と最小値との差の絶対値をいう。
【0024】
本実施形態に係る斜め延伸フィルム10の長手方向における配向角θのバラツキΔθは、好ましくは0.3°以下、より好ましくは0.2°以下である。長手方向における配向角θのバラツキΔθが小さい斜め延伸フィルム10は、液晶表示装置等の画像表示装置に適用することにより、その画像表示装置の画像の色ムラを抑制したりコントラストを良好にしたりできる。
【0025】
前記の配向角θの具体的な値は、斜め延伸フィルム10の用途に応じて任意に設定しうる。例えば、斜め延伸フィルム10の長手方向MDに対する配向角θは、5°<θ<85°の範囲で任意に設定しうる。中でも、斜め延伸フィルム10の長手方向MDに対する配向角θの平均は、好ましくは40°以上、より好ましくは42°以上、特に好ましくは44°以上であり、好ましくは50°以下、より好ましくは48°以下、特に好ましくは46°以下である。配向角θの平均を前記範囲に収めることにより、画像表示装置に適用しうる矩形の位相差フィルムを斜め延伸フィルム10から容易に製造できる。
【0026】
例えば、画像表示装置に反射防止フィルムとして設けられうる円偏光板は、一般に、位相差フィルム及び偏光子を備える。このような円偏光板は、例えば、長尺の偏光子と長尺の位相差フィルムとを、長手方向を平行にして貼り合わせて製造される。また、偏光子の偏光透過軸は、通常、偏光子の長手方向に平行又は垂直である。したがって、長尺の斜め延伸フィルム10の長手方向に対する配向角θの平均を前記の範囲に収めることにより、偏光子の偏光透過軸と斜め延伸フィルム10の遅相軸10Aとが45°±5°の角度をなすように、容易に貼り合わせられる。したがって、本実施形態に係る斜め延伸フィルム10を位相差フィルムとして用いて、円偏光板を容易に製造することが可能である。
【0027】
[2.斜め延伸フィルムの材料]
斜め延伸フィルムは、通常、樹脂からなる樹脂フィルムである。樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ノルボルネン系樹脂等の脂環式構造含有重合体樹脂;ジアセチルセルロース樹脂及びトリアセチルセルロース樹脂等のセルロース系樹脂;ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリケトンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリプロピレン樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−ビニル芳香族化合物共重合体樹脂、イソブテン/N−メチルマレイミド共重合体樹脂、スチレン/アクリルニトリル共重合体樹脂などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせてもよい。
【0028】
前記の熱可塑性樹脂の中でも、脂環式構造含有重合体樹脂が好ましい。脂環式構造含有重合体樹脂は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂であり、透明性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性などの特性に優れる。
【0029】
脂環式構造含有重合体は、重合体の構造単位中に脂環式構造を有する重合体であり、主鎖に脂環式構造を有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を有する重合体のいずれを用いてもよい。また、脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0030】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0031】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲である。これにより、斜め延伸フィルムの機械強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされ、好適である。
【0032】
脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、斜め延伸フィルムの透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0033】
脂環式構造含有重合体としては、例えば、ノルボルネン重合体、単環の環状オレフィン重合体、環状共役ジエン重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及び、これらの水素添加物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適である。
【0034】
ノルボルネン重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素添加物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素添加物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。
【0035】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって、複数個が環に結合していてもよい。また、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0036】
極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン酸基などが挙げられる。
【0037】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合が可能な任意の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状共役ジエン及びその誘導体;などが挙げられる。ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合が可能な任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0038】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造しうる。
【0039】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合が可能な任意の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素原子数2〜20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合が可能な任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造しうる。
【0041】
上述した開環重合体及び付加重合体の水素添加物は、例えば、これらの開環重合体及び付加重合体の溶液において、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む水素添加触媒の存在下で、炭素−炭素不飽和結合を、好ましくは90%以上水素添加することによって製造しうる。
【0042】
ノルボルネン重合体の中でも、構造単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの構造単位の量が、ノルボルネン重合体の構造単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの割合とYの割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような重合体を用いることにより、斜め延伸フィルムを、長期的に寸法変化がなく、特性の安定性に優れるものにできる。
【0043】
斜め延伸フィルムを構成する樹脂に含まれる重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。ここで、前記の重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサンを用いて(但し、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合にはトルエンを用いてもよい)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、斜め延伸フィルムの機械的強度および成型加工性が高度にバランスされ、好適である。
【0044】
斜め延伸フィルムを構成する樹脂に含まれる重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.7以下である。分子量分布を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合体の生産性を高め、コストを抑制することができる。また、上限値以下にすることにより、低分子量成分を減らすことができるので、緩和時間を長くできる。そのため、高温曝露時の緩和を抑制でき、斜め延伸フィルムの安定性を高めることができる。
【0045】
斜め延伸フィルムを構成する樹脂における重合体の割合は、好ましくは50重量%〜100重量%であり、より好ましくは70重量%〜100重量%である。特に、斜め延伸フィルムを構成する樹脂として脂環式構造含有重合体樹脂を用いる場合、脂環式構造含有重合体樹脂に含まれる脂環式構造含有重合体の割合は、好ましくは80重量%〜100重量%、より好ましくは90重量%〜100重量%である。
【0046】
斜め延伸フィルムを構成する樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、重合体以外に任意の成分を含んでいてもよい。その任意の成分の例を挙げると、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;耐電防止剤;酸化防止剤;滑剤;界面活性剤などの添加剤が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
斜め延伸フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度Tgは、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、特に好ましくは180℃以下である。樹脂のガラス転移温度を前記範囲の下限値以上にすることにより、高温環境下における斜め延伸フィルムの耐久性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、延伸処理を容易に行える。
【0048】
斜め延伸フィルムを構成する樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、10×10
−12Pa
−1以下であることが好ましく、7×10
−12Pa
−1以下であることがより好ましく、4×10
−12Pa
−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、「C=Δn/σ」で表される値である。樹脂の光弾性係数を前記範囲に納めることにより、斜め延伸フィルムでのレターデーションのバラツキを小さくできる。
【0049】
斜め延伸フィルムを構成する樹脂の飽和吸水率は、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が前記範囲であると、斜め延伸フィルムのレターデーション等の特性の経時変化を小さくすることができる。
【0050】
飽和吸水率は、試験片を一定温度の水中に一定時間浸漬して増加した質量を、浸漬前の試験片の質量に対する百分率で表した値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。樹脂の飽和吸水率は、例えば、当該樹脂に含まれる重合体中の極性基の量を減少させることにより、前記の範囲に調節することができる。したがって、飽和吸水率をより低くする観点から、斜め延伸フィルムを構成する樹脂に含まれる重合体は、極性基を有さないことが好ましい。
【0051】
[3.斜め延伸フィルムの物性及び寸法]
斜め延伸フィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定しうる。
【0052】
また、斜め延伸フィルムのヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下であり、理想的には0%である。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値を採用しうる。
【0053】
斜め延伸フィルムの長手方向における当該斜め延伸フィルムの面内レターデーションReの平均は、好ましくは100nm以上、より好ましくは120nm以上、特に好ましくは140nm以上であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、特に好ましくは150nm以下である。このような面内レターデーションReを有することにより、斜め延伸フィルムから切り出したフィルムを画像表示装置の光学補償フィルムとして好適に用いうる。ただし、適用すべき表示装置の構成に応じて、斜め延伸フィルムの面内レターデーションReは、適切な値に任意に設定しうる。ここで、斜め延伸フィルムの面内レターデーションReとしては、斜め延伸フィルムの幅方向の中央部で測定した値を採用しうる。
【0054】
斜め延伸フィルムの長手方向における当該斜め延伸フィルムの面内レターデーションのバラツキは、好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下、特に好ましくは2nm以下であり、理想的には0nmである。ここで、面内レターデーションのバラツキは、斜め延伸フィルムの幅方向の中央部における面内レターデーションのうち最大値と最小値との差をいう。斜め延伸フィルムの面内レターデーションのバラツキを前記のように小さくすることにより、この斜め延伸フィルムから切り出したフィルムを表示装置に適用した場合に、その表示装置の画質を良好なものにすることが可能になる。
【0055】
斜め延伸フィルムの長手方向における当該斜め延伸フィルムの厚み方向のレターデーションRthのバラツキは、好ましくは10nm以下、より好ましくは8nm以下、特に好ましくは5nm以下であり、理想的には0nmである。ここで、厚み方向のレターデーションRthのバラツキは、斜め延伸フィルムの幅方向の中央部における厚み方向のレターデーションRthのうち最大値と最小値との差をいう。
【0056】
斜め延伸フィルムが含む揮発性成分の量は、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下であり、理想的にはゼロである。揮発性成分の量を少なくすることにより、斜め延伸フィルムの寸法安定性が向上し、面内レターデーション等の光学特性の経時変化を小さくすることができる。
ここで、揮発性成分とは、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体及び溶媒などが挙げられる。揮発性成分の量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをクロロホルムに溶解させてガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量しうる。
【0057】
斜め延伸フィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下である。これにより、斜め延伸フィルムの機械的強度を高めることができる。
【0058】
斜め延伸フィルムの幅は、好ましくは1000mm以上、より好ましくは1300mm以上、特に好ましくは1330mm以上であり、好ましくは1500mm以下、より好ましくは1490mm以下である。斜め延伸フィルムの幅をこのように広くすることにより、大型の表示装置(有機EL表示装置等)に斜め延伸フィルムを適用することが可能となる。
【0059】
[4.斜め延伸フィルムの製造方法]
上述した長尺の斜め延伸フィルムは、長尺の樹脂フィルムを搬送しながら斜め方向に延伸する工程を含む製造方法により、製造される。また、前記のような延伸は、通常、長尺の樹脂フィルムの一方の端部を把持しうる複数の内側クリップを備えた内側クリップチェーン、及び、前記樹脂フィルムの他方の端部を把持しうる複数の外側クリップを備えた外側クリップチェーンを備えた延伸装置を用いて、行われる。この際、上述した所望の周期λ(θ)及び振幅A(θ)を持った配向角θを有する斜め延伸フィルムを得るためには、前記の内側クリップチェーン及び外側クリップチェーンの張力の比率を調整することが望ましい。以下、このような斜め延伸フィルムの製造方法の実施形態を説明する。以下の実施形態の説明において、「上流」及び「下流」とは、別に断らない限り、フィルム搬送方向の上流及び下流を表す。
【0060】
図3は、本発明の第二実施形態に係る斜め延伸フィルム10の製造方法に用いる製造装置100を模式的に示す平面図である。この
図3においては、内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rの図示は省略している。また、
図4は、本発明の第二実施形態に係る斜め延伸フィルム10の製造方法に用いる延伸装置としてのテンター延伸装置200を模式的に示す平面図である。
【0061】
図3に示すように、本発明の第二実施形態において用いる製造装置100は、延伸装置としてのテンター延伸装置200及びオーブン300を備える。この製造装置100は、繰出しロール20から未延伸フィルムとしての樹脂フィルム30を繰り出し、繰り出された樹脂フィルム30をテンター延伸装置200で延伸して斜め延伸フィルム10を製造しうるように設けられている。
【0062】
図4に示すように、テンター延伸装置200は、内側クリップチェーン210L、外側クリップチェーン210R、内側クリップチェーン210Lに対応した内側ガイドレール220L、外側クリップチェーン210Rに対応した外側ガイドレール220R、並びに、内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rを周回駆動するためのスプロケット(図示せず)を備える。
【0063】
内側クリップチェーン210Lは、周回可能に設けられた無端状のチェーンであり、複数の内側クリップ230Lを備える。これらの内側クリップ230Lは、樹脂フィルム30の一方の端部30Lを把持しうるように設けられている。
他方、外側クリップチェーン210Rは、周回可能に設けられた無端状のチェーンであり、複数の外側クリップ230Rを備える。これらの外側クリップ230Rは、樹脂フィルム30の他方の端部30Rを把持しうるように設けられている。
本実施形態では、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rがそれぞれ樹脂フィルム30の左方の端部30L及び右方の端部30Rを、均等な把持量で把持しうるように設けられた例を示す。ここで、「右」及び「左」とは、別に断らない限り、フィルム搬送方向の上流から下流を観察した場合における向きを示す。また、把持量とは、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rそれぞれが把持する樹脂フィルム30の部分の量を表す。
【0064】
内側クリップ230Lは、内側ガイドレール220Lに沿って走行しうるように設けられている。また、内側クリップ230Lは、テンター延伸装置200の入口部240に設定された内側把持開始位置240Lにおいて樹脂フィルム30の端部30Lを把持し、テンター延伸装置200の出口部250に設定された内側開放位置250Lにおいて樹脂フィルム30の端部30Lを開放しうるように設けられている。したがって、内側クリップ230Lは、内側把持開始位置240Lで樹脂フィルム30の端部30Lを把持し、この把持した状態を維持しながら内側ガイドレール220Lに沿って走行し、内側開放位置250Lで樹脂フィルム30の端部30Lを開放しうる。さらに、内側クリップ230Lは、前後の内側クリップ230Lと一定間隔を保って、一定速度で走行しうるように設けられている。
【0065】
外側クリップ230Rは、外側ガイドレール220Rに沿って走行しうるように設けられている。また、外側クリップ230Rは、テンター延伸装置200の入口部240に設定された外側把持開始位置240Rにおいて樹脂フィルム30の端部30Rを把持し、テンター延伸装置200の出口部250に設定された外側開放位置250Rにおいて樹脂フィルム30の端部30Rを開放しうるように設けられている。したがって、外側クリップ230Rは、外側把持開始位置240Rで樹脂フィルム30の端部30Rを把持し、この把持した状態を維持しながら外側ガイドレール220Rに沿って走行し、外側開放位置250Rで樹脂フィルム30の端部30Rを開放しうる。さらに、外側クリップ230Rは、前後の外側クリップ230Rと一定間隔を保って、一定速度で走行しうるように設けられている。
【0066】
内側ガイドレール220Lは、内側クリップ230Lを案内しうるように、フィルム搬送路の一側に設けられている。また、内側ガイドレール220Lは、内側クリップ230Lが所定の軌道を周回しうるように、無端状の連続軌道を有している。このため、内側クリップ230Lは、内側開放位置250Lで樹脂フィルム30の端部30Lを開放した後、順次、内側把持開始位置240Lに戻されうる。
【0067】
外側ガイドレール220Rは、外側クリップ230Rを案内しうるように、フィルム搬送路の他側に設けられている。また、外側ガイドレール220Rは、外側クリップ230Rが所定の軌道を周回しうるように、無端状の連続軌道を有している。このため、外側クリップ230Rは、外側開放位置250Rで樹脂フィルム30の端部30Rを開放した後、順次、外側把持開始位置240Rに戻されうる。
【0068】
さらに、内側ガイドレール220L及び外側ガイドレール220Rは、製造すべき斜め延伸フィルム10の遅相軸の方向及び延伸倍率等の条件に応じた、非対称な形状を有している。具体的には、内側ガイドレール220L及び外側ガイドレール220Rの形状は、延伸される樹脂フィルム30の進行方向を内側クリップ230Lの方を内側にして曲げられる形状に設定される。本実施形態では、内側ガイドレール220L及び外側ガイドレール220Rの形状が、延伸される樹脂フィルム30の進行方向を左方に曲げられる形状に設定された例を示して説明する。ここで、樹脂フィルム30の進行方向とは、樹脂フィルム30の幅方向の中点の移動方向のことをいう。
【0069】
内側ガイドレール220L及び外側ガイドレール220Rの形状を前記のように設定しているので、テンター延伸装置200の入口部240において樹脂フィルム30の進行方向に対して垂直な方向に相対していた内側クリップ230L及び外側クリップ230Rは、テンター延伸装置200の出口部250において、内側クリップ230Lが外側クリップ230Rよりも先行しうる。これにより、テンター延伸装置200は、樹脂フィルム30を、その長手方向に平行でなく垂直でもない斜め方向へ延伸しうる(
図4の破線L
D1〜L
D3参照)。
【0070】
また、テンター延伸装置200は、内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rを周回駆動するための図示しないスプロケットを備える。通常、これらのスプロケットは、内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rそれぞれの上流端部及び下流端部に設けられる。テンター延伸装置200では、これらのスプロケットが内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rを周回駆動することにより、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rが内側ガイドレール220L及び外側ガイドレール220Rに沿って走行しうる。
【0071】
図3に示すように、製造装置100には、テンター延伸装置200を覆うようにオーブン300が設けられている。このオーブン300は、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rによって両端部30L及び30Rを把持された状態で当該オーブン300を通過する樹脂フィルム30を、所望の温度に加熱しうるように設けられている。
【0072】
オーブン300は、予熱ゾーン310、延伸ゾーン320及び熱固定ゾーン330を、上流からこの順に有する。オーブン300には、予熱ゾーン310、延伸ゾーン320及び熱固定ゾーン330内の温度を独立に調整しうるように、これらの予熱ゾーン310、延伸ゾーン320及び熱固定ゾーン330を隔離しうる隔壁340が設けられている。
【0073】
予熱ゾーン310は、延伸ゾーン320より上流に設けられた区間である。通常、予熱ゾーン310は、樹脂フィルム30の両端部30L及び30Rを把持した内側クリップ230L及び外側クリップ230Rが一定の間隔D(
図4参照。)を保ったまま走行しうるように設けられている。この予熱ゾーン310の温度は、樹脂フィルム30を所望の予熱温度に加熱しうるように設定される。
【0074】
ここで、搬送中の樹脂フィルム30の温度を測定する際、樹脂フィルム30に温度センサが接触すると、樹脂フィルム30を傷つける可能性がある。そこで、本実施形態では、樹脂フィルム30の測定対象領域からの距離5mm以内の空間の温度を測定し、これを樹脂フィルム30の測定対象領域の温度として採用しうる。
【0075】
延伸ゾーン320は、
図3に示すように、樹脂フィルム30の両端部30L及び30Rを把持した内側クリップ230Lと外側クリップ230Rとの間の間隔が開き始め、再び一定となるまでの区間である。延伸ゾーン320において、内側ガイドレール220L及び外側ガイドレール220Rの形状は、下流ほど内側クリップ230Lと外側クリップ230Rとの間隔が広くなるように設定されている。また、前記のように、本実施形態では、内側ガイドレール220L及び外側ガイドレール220Rの形状が、樹脂フィルム30の進行方向を内側クリップ230Lの方を内側にして曲げられる形状に設定されている。そのため、この延伸ゾーン320においては、外側クリップ230Rの移動距離は内側クリップ230Lの移動距離よりも長く設定されている。この延伸ゾーン320の温度は、通常、樹脂フィルム30を所望の延伸温度に加熱しうるように設定される。
【0076】
熱固定ゾーン330は、延伸ゾーン320より下流において、外側把持子110Rと内側把持子110Lとの間の間隔を再び一定に保ったまま走行しうる区間である。この熱固定ゾーン330の温度は、通常、樹脂フィルム30を延伸温度よりも低い温度に調整しうるように設定される。
【0077】
さらに、本実施形態においては、
図4に示すように、内側把持開始位置240Lにおける内側クリップチェーン210Lの張力T
inと、外側把持開始位置240Rにおける外側クリップチェーン210Rの張力T
outとの比率T
in/T
out×100が、所定の範囲に収められている。具体的には、前記の張力の比率T
in/T
out×100は、通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、通常120%以下、好ましくは110%以下、より好ましくは105%以下である。このような張力の比率T
in/T
out×100は、スプロケットの位置を調整することによって、前記の範囲に収めうる。張力の比率T
in/T
out×100を前記の範囲に収めることにより、製造される斜め延伸フィルム10の配向角θの周期λ(θ)及び振幅A(θ)を、上述した所望の範囲に収めることができる。さらに、張力の比率T
in/T
out×100を前記の範囲に収めることにより、通常は、樹脂フィルム30の搬送性が良好になるので、斜め延伸フィルム10における擦り傷及びシワの発生を抑制できる。
【0078】
上述した製造装置100を用いて、樹脂フィルム30の両方の端部30L及び30Rを内側クリップ230L及び外側クリップ230Rで把持する第一工程と、把持された樹脂フィルムを内側クリップ230L及び外側クリップ230Rで引っ張って延伸する第二工程と、延伸された樹脂フィルム30を内側クリップ230L及び外側クリップ230Rから開放して斜め延伸フィルム10を得る第三工程とを、この順で含む製造方法を行うことにより、所望の周期λ(θ)及び振幅A(θ)を持った配向角θを有する斜め延伸フィルム10を製造する。具体的には、下記の通りである。
【0079】
この製造方法では、繰出しロール20から長尺の樹脂フィルム30を繰り出し、繰り出された樹脂フィルム30をテンター延伸装置200に連続的に供給する工程を行なう。この樹脂フィルム30としては、斜め延伸フィルム10と同様の樹脂からなるフィルムを用いうる。このような樹脂フィルム30は、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法によって製造でき、中でも押出成形法は、残留揮発性成分量が少なく、寸法安定性にも優れるので好ましい。
【0080】
テンター延伸装置200に樹脂フィルム30が供給されると、テンター延伸装置200は、テンター延伸装置200の入口部240において、樹脂フィルム30の両方の端部30L及び30Rを、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rで順次把持する工程を行なう(第一工程)。そして、テンター延伸装置200は、樹脂フィルム30の両方の端部30L及び30Rを内側クリップ230L及び外側クリップ230Rで把持した状態でオーブン300を通過するように、樹脂フィルム30を搬送する。
【0081】
具体的には、内側把持開始位置240Lにおいて、樹脂フィルム30の一方の端部30Lを内側クリップ230Lが把持する。また、外側把持開始位置240Rにおいて、樹脂フィルム30の他方の端部30Rを外側クリップ230Rが把持する。そして、端部30L及び30Rを把持された樹脂フィルム30は、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rの走行に伴って搬送され、オーブン300に入る。ここで、内側クリップ230Lの走行速度と外側クリップ230Rの走行速度とは、異なっていてもよいが、斜め延伸フィルム10の配向角θの振幅A(θ)を小さくする観点では、同じであることが好ましい。
【0082】
オーブン300に樹脂フィルム30が入ると、
図3に示すように、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rの走行に伴って、その樹脂フィルム30はオーブン300の予熱ゾーン310を通過する。予熱ゾーン310では、樹脂フィルム30を、所定の予熱温度に加熱する工程が行われる。樹脂フィルム30の予熱温度は、通常、常温よりも高い温度であり、具体的には、好ましくは40℃以上、より好ましくはTg+5℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上であり、好ましくはTg+50℃以下、より好ましくはTg+30℃以下、特に好ましくはTg+20℃以下である。このような温度で予熱を行なうことにより、樹脂フィルム30に含まれる分子を延伸によって安定して配向させることができる。
【0083】
予熱ゾーン310を通過した後、樹脂フィルム30は、オーブン300の延伸ゾーン320を通過する。延伸ゾーン320では、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rの間隔は、下流ほど広くなる。そのため、この延伸ゾーン320においては、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rによって樹脂フィルム30を延伸する工程が行われる(第二工程)。
【0084】
延伸ゾーン320において、内側クリップ230L及び外側クリップ230Rは、内側クリップ230Lの方を内側にして樹脂フィルム30の進行方向が曲がるように、走行する。そのため、テンター延伸装置200の入口部240において樹脂フィルム30の進行方向に対して垂直な方向に相対していた内側クリップ230L及び外側クリップ230Rは、延伸ゾーン320よりも下流の区間において、内側クリップ230Lが外側クリップ230Rよりも先行する(
図4の破線L
D1、L
D2及びL
D3参照。)。そのため、延伸ゾーン320において、得られる斜め延伸フィルム10の長手方向に対して斜め方向への延伸が行われる。
【0085】
このとき、延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、特に好ましくは1.3倍以上であり、好ましくは4.0倍以下、より好ましくは3.0倍以下、特に好ましくは2.0倍以下である。延伸倍率を前記範囲の下限値以上にすることにより、斜め延伸フィルム10における配向角θの振幅A(θ)を、より正確に制御することができる。また、延伸倍率を前記範囲の上限値以下にすることにより、フィルム破断を抑制し、斜め延伸フィルムを安定して製造できる。
【0086】
延伸温度は、好ましくはTg+3℃以上、より好ましくはTg+5℃以上、特に好ましくはTg+8℃以上であり、好ましくはTg+15℃以下、より好ましくはTg+12℃以下、より好ましくはTg+10℃以下である。このような温度で延伸を行なうことにより、樹脂フィルム30に含まれる分子を延伸によって安定して配向させられるので、所望のレターデーションを有する斜め延伸フィルム10を得ることができる。
【0087】
延伸ゾーン320を通過した後、樹脂フィルム30はオーブン300の熱固定ゾーン330を通過する。熱固定ゾーン330では、樹脂フィルム30は延伸ゾーン320での樹脂フィルム30の温度よりも低い温度範囲にする工程が行われる。この工程により、樹脂フィルム30内の分子状態が安定になり、樹脂フィルム30内の分子の配向が固定化される。
【0088】
熱固定ゾーン330における樹脂フィルム30の具体的な温度は、好ましくはTg−5℃以上、より好ましくはTg−2℃以上、特に好ましくはTg℃以上であり、好ましくはTg+10℃以下、より好ましくはTg+5℃以下、特に好ましくはTg+2℃以下である。樹脂フィルム30をこのような温度に維持することにより、斜め延伸フィルム10における配向角θの振幅A(θ)を、効果的に小さくできる。
【0089】
熱固定ゾーン330を通過した後、樹脂フィルム30はオーブン300の外に出る。そして、樹脂フィルム30がテンター延伸装置200の出口部250まで搬送されると、樹脂フィルム30を内側クリップ230L及び外側クリップ230Rから開放して斜め延伸フィルム10を得る工程が行われる(第三工程)。こうして得られた斜め延伸フィルム10は、必要に応じてトリミング工程等の任意の工程を施された後、テンター延伸装置200の下流へと送出される。そして、送出された斜め延伸フィルム10は、通常、巻き取られてフィルムロール40として回収される。
【0090】
上述した製造方法によれば、その長手方向に平行でなく垂直でもない斜め方向に遅相軸を有する斜め延伸フィルム10が得られる。この斜め延伸フィルム10は、樹脂フィルム30と同様の樹脂で形成されたフィルムであって、その長手方向に対して斜めの一方向に延伸されたフィルムである。一般に、このような斜め延伸フィルム10の配向角θは、その長手方向において周期性を持って不均一となっている。ここで、上述した製造方法では、第一工程で樹脂フィルム30の一方の端部30Lを把持する内側把持開始位置240Lにおける内側クリップチェーン210Lの張力T
inと、第一工程で樹脂フィルム30の他方の端部30Rを把持する外側把持開始位置240Rにおける外側クリップチェーン210Rの張力T
outとの比率T
in/T
out×100が、上述した所定の範囲に調整されている。そのため、製造される斜め延伸フィルム10の長手方向において、配向角θの周期λ(θ)及び振幅A(θ)を上述した所望の範囲に収めることが可能である。このような周期λ(θ)及び振幅A(θ)を持った配向角θを有する斜め延伸フィルム10は、上述したように、当該斜め延伸フィルム10の長手方向において配向角θの精度が良好であるので、当該配向角θのバラツキを抑制することが可能である。そのため、このような斜め延伸フィルム10を位相差フィルムとして画像表示装置に適用した場合には、当該画像表示装置の画像の色ムラを抑制したりコントラストを良好にしたりできる。
さらに、上述した製造方法では、通常、擦り傷及びシワの発生を抑制できるので、製造される斜め延伸フィルム10の平面性を良好にすることができる。
【0091】
上述した実施形態に係る製造方法は、更に変更して実施してもよい。例えば、樹脂フィルム30として、延伸処理を施されていない未延伸フィルムの代わりに、延伸処理を施されたフィルムを用いてもよい。このように、上述した実施形態に係る製造方法に供する前に樹脂フィルム30を延伸する方法としては、例えば、ロール方式、フロート方式の縦延伸法、テンター延伸装置を用いた横延伸法などを用いうる。中でも、厚み及び光学特性の均一性を保つためには、フロート方式の縦延伸法が好適である。
【0092】
[5.斜め延伸フィルムの用途]
上述した斜め延伸フィルムの用途に制限は無い。斜め延伸フィルムは、それ単独又は他の部材と組み合わせて、例えば光学フィルムとして用いうる。中でも、前記の斜め延伸フィルムは、位相差フィルムとして用いることが好ましい。このような位相差フィルムの用途としては、例えば、偏光板保護フィルム、液晶表示装置用の視野角補償フィルム、円偏光板に設けられる1/4波長板等が挙げられる。中でも、偏光子との貼り合わせの際の光学軸の調整が容易であるという斜め延伸フィルムの利点を有効に活用できることから、前記の斜め延伸フィルムは、偏光子と組み合わせて偏光板を製造するために用いることが好ましい。
【0093】
前記の偏光板は、偏光子及び斜め延伸フィルムを備え、更に必要に応じて任意の部材を備えうる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の適切なビニルアルコール系重合体のフィルムに、ヨウ素及び二色性染料等の二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適切な処理を適切な順序及び方式で施したものが挙げられる。このような偏光子は、自然光を入射させると直線偏光を透過させうるものであり、特に、光透過率及び偏光度に優れるものが好ましい。偏光子の厚さは、5μm〜80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0094】
斜め延伸フィルムは、偏光子の両面に設けてもよく、片面に設けてもよい。従来、偏光子の表面には保護フィルムが設けられていたが、斜め延伸フィルムを偏光子と組み合わせることにより、斜め延伸フィルムが偏光子の保護フィルムの役目を果たしうる。そのため、偏光フィルムと偏光子とを組み合わせて備える偏光板は、従来使用していた保護フィルムを省くことができ、薄型化に寄与できる。
【0095】
前記の偏光板は、長尺の偏光子と長尺の斜め延伸フィルムとを、その長手方向を平行にしてロールトゥロールにて貼り合わせて製造しうる。貼り合わせの際には、必要に応じて、接着剤を用いてもよい。長尺のフィルムを用いて製造することにより、長尺の偏光板を効率的に製造することが可能である。
【0096】
偏光板には、偏光子及び斜め延伸フィルムに加えて、任意の部材を設けてもよい。任意の部材としては、例えば、偏光子を保護するための保護フィルムが挙げられる。保護フィルムとしては、任意の透明フィルムを用いうる。中でも、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性等に優れる樹脂のフィルムが好ましい。そのような樹脂としては、トリアセチルセルロース等のアセテート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、脂環式構造含有重合体樹脂、(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。
【0097】
前述した長尺の斜め延伸フィルム又は長尺の偏光板から所定の大きさに切り出したフィルムは、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の画像表示装置の構成要素として用いうる。中でも、上述したように配向角θの振幅A(θ)が小さいことにより、液晶セルの光学補償による視角特性の改善に優れた効果を発揮できることから、前記フィルムは、液晶表示装置に適用することが好ましい。
【0098】
液晶表示装置の例としては、各種の駆動方式の液晶セルを有するものを挙げることができる。液晶セルの駆動方式としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどが挙げられる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の実施例及び比較例において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中において行った。
【0100】
[評価方法]
(配向角θの測定方法)
製造された長尺の斜め延伸フィルムの幅方向の中央部において、当該斜め延伸フィルムの長手方向に対する配向角θを、平行ニコル回転法位相差計(王子計測機器社製「KOBRA−WIST−IE」)を用いて、オンラインで測定した。この測定は、周波数解析のために、長手方向に500m以上の長さで行った。こうして測定された配向角θの定点測定データから、表計算ソフトを用いて周波数解析を実施し、斜め延伸フィルムの長手方向における配向角θの周期λ(θ)及び振幅A(θ)を計算した。また、前記の配向角θの定点測定データから、長手方向における配向角θの平均及びバラツキΔθを計算した。
【0101】
(レターデーションの測定方法)
製造された長尺の斜め延伸フィルムの幅方向の中央部において、当該斜め延伸フィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthを、平行ニコル回転法位相差計(王子計測機器社製「KOBRA−WIST−IE」)を用いて、オンラインで測定した。こうして測定された面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthの定点測定データから、面内レターデーションReの平均値及び厚み方向のレターデーションRthの平均値を計算した。
【0102】
(厚みの測定方法)
スナップゲージ(ミツトヨ社製「ID−C112BS」)を用いて、フィルムの幅方向に5cm間隔で厚みを測定し、その平均値を当該フィルムの厚みとした。
【0103】
(液晶表示装置の色ムラの評価方法)
透過軸が幅方向にある長尺の偏光板(サンリッツ社製「HLC2−5618S」、厚さ180μm、幅1340mm)を用意した。この長尺の偏光板と、製造された長尺の斜め延伸フィルムを、互いの長手方向を平行にしてロール・トゥ・ロールで貼り合わせて、幅1340mmの円偏光板の巻回体を得た。
【0104】
この巻回体から円偏光板を引き出し、矩形に切り出して、円偏光板サンプルを得た。この円偏光板サンプルを、IPS(インプレーンスイッチング)モードの反射型液晶表示装置の視認側とは反対側の偏光板と置き換えた。この際、円偏光板サンプルは、斜め延伸フィルム側の面が液晶セルに向き合うように設けた。
【0105】
こうして作製した液晶表示装置に画像を表示させ、表示された画像を目視によって画面の正面方向及び傾斜方向から観察した。ここで画面の正面方向とは画面の法線方向を表し、画面の傾斜方向とは画面に対する極角φが0°<φ<90°の方向を表す。観察された結果から、その液晶表示装置の色ムラを下記の基準で評価した。
「良」:全幅にわたり、色ムラが観察されず、良好な表示である。また、画面を傾斜方向から観察して視認される色合いと、画面を正面方向から観察して視認される色合いとが同じ色合いであり、観察方向によって画面の変色は見られない。
「不良」:画面に色ムラが観察された。また、画面を傾斜方向から観察すると、画面内に若干の色ムラが観察される。
【0106】
[実施例1]
(1.1.樹脂フィルムの製造)
脂環式構造含有重合体の一種であるノルボルネン重合体を含む熱可塑性樹脂のペレット(日本ゼオン社製「ZEONOR1420」、ガラス転移点137℃)を、100℃で5時間乾燥した。前記ペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にフィルム状に押出した。押し出された樹脂はキャスティングドラムで冷却されて、厚み55μm、幅1500mmの長尺の未延伸フィルムを得た。こうして得た未延伸フィルムを、長手方向に、延伸温度145℃、延伸倍率1.5倍で延伸して、厚み45μm、幅1000mmの長尺の縦延伸フィルムを得た。
【0107】
(1.2.斜め延伸フィルムの製造)
図3及び
図4に示すように、内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rを備えたテンター延伸装置200と、このテンター延伸装置200を覆うオーブン300とを備えた製造装置100を用意した。テンター延伸装置200に樹脂フィルム30として前記の縦延伸フィルムを連続的に供給して、第二実施形態で説明したように斜め延伸を行った。延伸条件は、延伸倍率2.0倍、延伸温度142℃、内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rの張力比率T
in/T
out×100は105%であった。これにより、幅1330mmの長尺の斜め延伸フィルム10を得た。
得られた斜め延伸フィルム10を、前述の方法によって評価した。
【0108】
[実施例2]
(2.1.樹脂フィルムの製造)
脂環式構造含有重合体の一種であるノルボルネン重合体を含む熱可塑性樹脂のペレット(日本ゼオン社製「ZEONOR1420」、ガラス転移点137℃)を、100℃で5時間乾燥した。前記ペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にフィルム状に押出した。押し出された樹脂はキャスティングドラムで冷却されて、厚み70μm、幅1350mmの未延伸フィルムを得た。
【0109】
(2.2.斜め延伸フィルムの製造)
図3及び
図4に示すように、内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rを備えたテンター延伸装置200と、このテンター延伸装置200を覆うオーブン300とを備えた製造装置100を用意した。テンター延伸装置200に樹脂フィルム30として前記の未延伸フィルムを連続的に供給して、第二実施形態で説明したように斜め延伸を行った。延伸条件は、延伸倍率1.5倍、延伸温度153℃、内側クリップチェーン210L及び外側クリップチェーン210Rの張力比率T
in/T
out×100は99%であった。これにより、幅1490mmの長尺の斜め延伸フィルム10を得た。
得られた斜め延伸フィルム10を、前述の方法によって評価した。
【0110】
[比較例1]
内側クリップチェーン及び外側クリップチェーンの張力比率T
in/T
out×100を125%に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長尺の斜め延伸フィルムの製造及び評価を行った。
【0111】
[比較例2]
内側クリップチェーン及び外側クリップチェーンの張力比率T
in/T
out×100を75%に変更したこと以外は実施例2と同様にして、長尺の斜め延伸フィルムの製造及び評価を行った。
【0112】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を下記の表1に示す。表1において、略称の意味は、下記の通りである。
縦延伸:縦延伸フィルム
未延伸:未延伸フィルム
Re:斜め延伸フィルムの面内レターデーションの平均値
Rth:斜め延伸フィルムの厚み方向のレターデーションの平均値
【0113】
【表1】
【0114】
[検討]
実施例及び比較例を対比すれば分かるように、テンター延伸装置の内側クリップチェーン及び外側クリップチェーンの張力比率T
in/T
out×100を所定の範囲に収めることにより、斜め延伸フィルムの長手方向における配向角θの振幅A(θ)を、0.100未満にできる。これにより、斜め延伸フィルムの配向角θの配向角精度が高められるので、当該斜め延伸フィルムの配向角θのバラツキΔθを小さくできる。したがって、その斜め延伸フィルムを用いて作製した液晶表示装置の色ムラを改善することが可能である。