(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多結晶SiC基板上に単結晶SiC層を有するSiC複合基板の製造方法であって、保持基板の主面に単結晶SiC薄膜を設けた後、該単結晶SiC薄膜についてその表面を機械的加工により粗面化し、更にこの機械的加工に起因する欠陥を除去して、この面が保持基板側の表面よりも凹凸があり、かつ該凹凸を構成する傾斜面が保持基板側表面の法線方向を基準としてランダムな方向に向いている凹凸面となった単結晶SiC層とし、次いで該単結晶SiC層の凹凸面に化学気相成長法により多結晶SiCを堆積して該多結晶SiCの結晶の最密面が単結晶SiC層の保持基板側表面の法線方向を基準としてランダムに配向している多結晶SiC基板を形成し、その後に上記保持基板を物理的及び/又は化学的に除去することを特徴とするSiC複合基板の製造方法。
上記保持基板の両面に上記単結晶SiC層を設けた単結晶SiC層担持体を作製し、次いでそれぞれの単結晶SiC層の凹凸面に上記多結晶SiC基板を形成し、その後に上記保持基板を物理的及び/又は化学的に除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のSiC複合基板の製造方法。
上記保持基板のおもて面のみに上記単結晶SiC層を設けた単結晶SiC層担持体を作製し、該単結晶SiC層の凹凸面及び上記保持基板のうら面それぞれに上記多結晶SiC基板を形成し、その後に上記保持基板を物理的及び/又は化学的に除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のSiC複合基板の製造方法。
上記保持基板のおもて面のみに上記単結晶SiC層を設けた単結晶SiC層担持体を2枚作製し、これらの単結晶SiC層担持体の保持基板のうら面同士を接合した後、この接合した基板の表裏面の単結晶SiC層の凹凸面それぞれに上記多結晶SiC基板を形成し、次いで、上記保持基板のうら面同士の接合部分で分離し、それと同時に又はその後にそれぞれの保持基板を物理的及び/又は化学的に除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のSiC複合基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用基板として単結晶シリコン基板が広く使われている。しかし、その物理的な限界により、動作温度の高温化、耐圧の向上、そして高周波化などの要求を満たさなくなりつつあり、単結晶SiC基板や単結晶GaN基板などの高価な新素材基板が使われ始めている。例えば、シリコン(Si)よりも禁制帯幅の広い半導体材料である炭化珪素(SiC)を用いた半導体素子を使用してインバータやAC/DCコンバータなどの電力変換装置を構成することによりシリコンを用いた半導体素子では到達し得ない電力損失の低減が実現されている。SiCによる半導体素子を用いることにより、従来よりも電力変換に付随する損失が低減するほか、装置の軽量化、小型化、高信頼性が促進される。
【0003】
このような単結晶SiC基板の製造には、高純度SiC粉を2000℃以上の高温で昇華させながら、離れて設置された種結晶上に再成長させる方法(改良レイリー法)が用いられることが通常である。しかし、その製造工程は極めて厳しい条件下で複雑なため、どうしても基板の品質や歩留まりが低く、非常に高コストの基板となり、実用化や広範囲の利用を妨げている。
【0004】
ところで、これらの基板上において、実際にデバイス機能を発現する層(活性層)の厚みは上記用途のいずれの場合においても0.5〜100μmであり、残りの厚み部分は主としてハンドリングのための機械的な保持機能の役割を担っているだけの部分、所謂、欠陥密度などの制限のないハンドル部材(基板)である。
【0005】
そこで、近年はハンドリングができる最低限の厚みを有する比較的薄い単結晶SiC層を多結晶SiC基板にSiO
2、Al
2O
3、Zr
2O
3、Si
3N
4、AlN等のセラミックス又はSi、Ti、Ni、Cu、Au、Ag、Co、Zr、Mo、W等の金属を介して接合した基板が検討されている。しかしながら、単結晶SiC層と多結晶SiC基板とを接合するために介在するものが前者(セラミックス)の場合は絶縁体であることからデバイス作成時の裏面の導通が取れず、後者(金属)の場合はデバイスに金属不純物が混入してデバイスの特性や信頼性の劣化を引き起こすため、実用的ではない。
【0006】
そこで、これらの欠点を改善すべく、これまでに種々の提案がなされており、例えば特許第5051962号公報(特許文献1)では、酸化珪素薄膜を有する単結晶SiC基板に水素などのイオン注入を施したソース基板と表面に酸化珪素を積層した多結晶窒化アルミニウム(中間サポート)とを酸化珪素面で貼り合わせ、単結晶SiC薄膜を多結晶窒化アルミニウム(中間サポート)に転写し、その後、多結晶SiCを堆積した後にHF浴に入れて酸化珪素面を溶かして分離する方法が開示されている。しかしながら、この発明を用いて大口径のSiC複合基板を製造する際には、多結晶SiC堆積層と窒化アルミニウム(中間サポート)との熱膨張係数差により大きな反りが発生し問題となる。これに加え、異種材料界面の界面エネルギーの高さにより構造欠陥が発生し、これが単結晶SiC層中へ伝搬し、欠陥密度を増加させるという問題も起こり得る。
【0007】
また、特開2015−15401号公報(特許文献2)では、酸化膜の形成なしに多結晶SiCの支持基板表面を高速原子ビームで非晶質に改質すると共に単結晶SiC表面も非晶質に改質した後、両者を接触させて熱接合を行うことにより、表面の平坦化が難しい多結晶SiC支持基板に対して接合界面における酸化膜の形成を伴うことなく単結晶SiC層を積層する方法が開示されている。しかしながら、この方法では高速原子ビームで単結晶SiCの剥離界面のみならず結晶内部も一部変質するため、折角の単結晶SiCがその後の熱処理によってもなかなか良質の単結晶SiCに回復しづらく、デバイス基板やテンプレートなどに使用する場合、高特性のデバイスや良質なSiCエピ膜を得にくいという欠点がある。
【0008】
これらの欠点に加えて上記技術では単結晶SiCと支持基板の多結晶SiCとを貼り合わせるためには、貼り合わせ界面が表面粗さ(算術平均表面粗さRa(JIS B0601−2013))1nm以下の平滑性が不可欠であるが、ダイヤモンドに次ぐ難削材と言われるSiCは単結晶SiC表面を非晶質に改質してもその後の研削、研磨或いは化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing,CMP)などの平滑化プロセスに極めて多くの時間を要し、高コスト化は避けられず実用化の大きな障害となっている。
【0009】
更に、単結晶SiC層の結晶性回復時点で体積変化が起こり、これが内部応力や多結晶/単結晶界面から発生する欠陥(転位)の拡張を招き、更には基板サイズを大口径するにつれて反り量が増大するなどの問題を発生させる。また、単結晶SiC層の変質層が非晶質層である場合には、その層の再結晶化が均一核生成を伴うため、双晶発生は避けられない。これに加え、イオン照射から貼り合わせまでは真空中での連続プロセスであるため、装置のコストが大となる問題、基板の粗さに依存して深い飛程(高エネルギー)でのイオン注入が必要となり装置コストを高めてしまう問題が挙げられる。
【0010】
また、特開2014−216555号公報(特許文献3)では、支持基板上に点欠陥を含む単結晶SiCの第1層を貼りあわせて、支持基板と共に加熱することにより、原子配列を再配列させて面欠陥や線欠陥を消滅させると共に、支持基板の結晶面が上層に与える影響を遮断する発明が開示されている。しかしながら、第1層中の点欠陥が熱処理時に複合欠陥に変換し、これが双晶や積層欠陥の発生を招く問題があり、また点欠陥を単結晶SiC層(第1層)内に分布させるためには多段階イオン注入が必要であることから基板製造プロセスが複雑化する問題があり、更に支持基板と貼り合わせ層界面のエネルギー高さにより転位が発生するという問題がある。
【0011】
また、特開2014−22711号公報(特許文献4)では、高不純物濃度で高密度欠陥の支持基板上に低不純物密度で低密度欠陥のSiC層を貼り合わせ、その上層に半導体素子として必要となる不純物濃度の層をエピタキシャル成長することにより、低濃度層と同等の低欠陥密度層を得る方法が開示されている。しかしながら、貼り合わせ界面に金属汚染が発生する問題や結晶格子が基板から表面まで連続しているために高密度基板から表層側に転位が伝搬する問題が残されている。
【0012】
また、特開2014−11301号公報(特許文献5)では、SiCの支持基板を加熱して、その表面を炭素を主体とする層に変換し、その面に単結晶の半導体層を貼り合わせた後に、その全面又は一部をへき開する方法が開示されている。しかしながら、SiCと炭素を含む層は脆弱な結合手で貼り合わされているため、貼り合わせ界面は機械的にも弱く、かつ酸化雰囲気でも炭素層はダメージをうけるため、安定な基板を得る手段とは成り得ない。
【0013】
また、特開平10−335617号公報(特許文献6)では、単結晶半導体基板にイオン注入を用いずに水素吸蔵層と非晶質層を設け、非晶質層を支持基板に貼り合わせて固相再成長させた後に単結晶半導体基板を剥離させることにより絶縁膜上に半導体薄膜を得る方法が開示されている。しかしながら、非晶質層の固相成長の際に双晶発生の可能性が有るほか、絶縁膜を介しているため、縦方向に電流を流すようなディスクリート素子用の基板が製造できないという問題がある。
【0014】
本発明に関連するこの他の先行技術文献として次のものが挙げられる。
・”Reduction of Bowing in GaN−on−Sapphire and GaN−on−Silicon Substrates by Stress Implantation by Internally Focused Laser Processing” Japan Journal of Applied Physics Vol.51(2012)016504(非特許文献1)
【発明を実施するための形態】
【0021】
[SiC複合基板]
以下に、本発明に係るSiC複合基板について説明する。
本発明に係るSiC複合基板は、多結晶SiC基板上に単結晶SiC層を有するSiC複合基板において、上記多結晶SiC基板と単結晶SiC層とが当接する界面の全面又は一部が格子整合していない不整合界面であり、上記単結晶SiC層は平滑な表面を有すると共に多結晶SiC基板との界面側にこの表面よりも凹凸がある面を有しており、上記多結晶SiC基板における多結晶SiCの結晶の最密面が単結晶SiC層の表面の法線方向を基準としてランダムに配向していることを特徴とするものである。
【0022】
図1、
図2に、本発明に係るSiC複合基板の構成を示す。
図1は、SiC複合基板の全体構成(巨視的構造)を示す断面図であり、
図2は単結晶SiC層と多結晶SiC基板との界面における微視的構造を示す概念図である。
図1に示すように、本発明に係るSiC複合基板10は、多結晶SiC基板11と、多結晶SiC基板11上に設けられた単結晶SiC層12とを有する。
【0023】
ここで、多結晶SiC基板11における多結晶SiCの結晶の最密面は単結晶SiC層12の表面の法線方向を基準としてランダムに配向している。
【0024】
なお、ランダムに配向しているとは、多結晶SiCの結晶の最密面が単結晶SiC層12の表面の法線方向を基準として多結晶SiC基板11全体として見た場合に特定の方位に偏って向いているのではなく、全方位に均等に向いていることをいう。
【0025】
多結晶SiC基板11の厚さは、ハンドル基板としての強度を考慮すると100〜650μmであることが好ましく、縦型デバイスとして使用した場合の直列抵抗も加味すると200〜350μmであることがより好ましい。厚さを100μm以上とすることによりハンドル基板としての機能を確保しやすくなり、650μm以下とすることによりコストと電気抵抗の抑制を図ることができる。
【0026】
多結晶SiC基板11は、化学気相成長法(Chemicla Vapor Deposition、CVD法)により多結晶SiCを堆積した膜、即ち化学気相成長膜であることが好ましい。即ち、多結晶SiC基板11は、各々の結晶粒の最密面がランダムな方位に配向するよう、単結晶SiC層12表面の起伏斜面に対して平行となるように堆積すること(詳細は後述する)が好ましい。
【0027】
また、多結晶SiC基板11を構成する結晶の粒径は、0.1μm以上30μm以下が望ましく、0.5μm以上10μm以下がより望ましい。結晶粒径を30μm以下とすることにより特定のSiC結晶粒と単結晶SiC層12との界面の面積を抑制し、界面における応力の局在化を抑えて、引いては結晶格子の塑性変形を抑えたり、転位の運動を抑制しやすくなることから、単結晶SiC層12の品質を高く保ちやすくなる。また、結晶粒径を0.1μm以上とすることにより、多結晶SiC基板11をハンドル基板としての機械的強度を増加させ、抵抗率を低くして半導体用基板としての機能を果たすことができるようにしやすくなる。
【0028】
また、多結晶SiC基板11の多結晶SiCは立方晶であることが好ましく、その最密面が{111}面であることがより好ましい。立方晶SiCが等方的な結晶であり、かつ等価な4つの最密面を有しているために特定の最密面が特定方位に配向してしまうことが避けられ、多結晶SiC基板11と単結晶SiC層12との界面における応力の低減効果やSiC複合基板10の反りの低減効果が更に確実なものとなる。また、立方晶SiCは多結晶SiCの中では最も低温の相であり、Siの融点以下でも形成可能であることから、後述する保持基板の材質選定の自由度が増すという利点もある。
なお、多結晶SiC基板11に不純物を導入して抵抗率を調整してもよい。これにより縦型パワー半導体デバイスの基板として好適に使用することが可能となる。
【0029】
更に、多結晶SiC基板11は、上層の単結晶SiC層12と同じSiCからなり、単結晶SiC層12と多結晶SiC基板11の熱膨張係数が等しくなることからいかなる温度においてもSiC複合基板10の反りが低減される。
【0030】
単結晶SiC層12は、単結晶SiCからなるものであれば、その結晶構造が4H−SiC、6H−SiC、3C−SiCのいずれのものでもよい。
【0031】
また、単結晶SiC層12は、後述するように、バルク状の単結晶SiC、例えば結晶構造が4H−SiC、6H−SiC、3C−SiCの単結晶SiC基板から薄膜状あるいは層状に剥離させて形成したものであることが好ましい。あるいは、単結晶SiC層12は、後述するように、気相成長法によりヘテロエピタキシャル成長させた膜であってもよい。
【0032】
また、単結晶SiC層12は、厚さが1μm以下、好ましくは100nm以上1μm以下、より好ましくは200nm以上800nm以下、更に好ましくは300nm以上500nm以下の単結晶SiCからなる薄膜である。
【0033】
単結晶SiC層12がイオン注入剥離法により形成される場合、その膜厚は注入イオンの飛程(イオン注入深さ)により決定され、1μm程度が上限となる。なお、単結晶SiC層12をパワーデバイスの活性層として用いようとすると10μm以上の厚さが要求されることがあるが、この場合には単結晶SiC層12上にSiCエピタキシャル層12’をホモエピタキシャル成長させて所望の膜厚の単結晶SiC層を形成するとよい。
【0034】
また、単結晶SiC層12が多結晶SiC基板11との界面側に有する凹凸面はその凹凸を構成する傾斜面が該単結晶SiC層12の表面の法線方向を基準としてランダムな方向に向いているものであることが好ましい。この表面凹凸の状態については、SiC複合基板の製造方法の実施形態において後述する。
【0035】
図2は、本発明に係るSiC複合基板10の単結晶SiC層12と多結晶SiC基板11との界面における微視的構造を示す概念図であり、11pは多結晶SiC基板11を構成する結晶の格子面、11bはその結晶粒界、12pは単結晶SiC層12を構成する単結晶の格子面である。SiC複合基板10は、多結晶SiC基板11上に単結晶SiC層12が当接した構造を有しており、多結晶SiC基板11と単結晶SiC層12の界面の全面又は一部は結晶格子が整合していない不整合界面I
12/11となっている。
【0036】
図2において、多結晶SiC基板11を構成する結晶は単結晶SiC層12における多結晶SiC基板11との界面側表面(即ち不整合界面I
12/11)の凹凸を構成する傾斜面ごとにその最密面(格子面11p)が該傾斜面に対して平行となるように堆積した構造を呈している。
【0037】
従来の多結晶SiC基板上に単結晶SiC層が当接した構造の不整合界面においては、格子間隔や格子面配向方位の違いから結晶格子の不連続性が発生している(
図3)。この不連続部(不整合界面)に位置する原子(Si又はC)には未結合手が発生するため、電気的中性条件が局部的に乱れて斥力や引力が働き、これらが界面に平行な応力(図中、矢印)を発生させる。
【0038】
応力が作用する方位は、それぞれの結晶面の配向方位などにより決定される。このため、特定の方位に傾斜した不整合界面においては特定の方位に応力が働くため、内部応力が残留し、付着力が低下する。
【0039】
本発明では、この内部応力を残留させない、又は低減させるため、不整合界面I
12/11における応力の働く方向を分散させて、相反する応力を発生させて相殺するようにしている。即ち本発明では、多結晶SiC基板11の結晶粒のそれぞれの結晶格子の最密面(格子面11p)が単結晶SiC層12の表面(
図2において上面)の法線方向を基準としてランダムに配向し(単結晶SiC層12の最密面の配向方位を中心軸として分散配向し)、あらゆる方位において引張応力と圧縮応力が均等に発生して相殺しあい、単結晶SiC層12と多結晶SiC基板11の界面(不整合界面I
12/11)全体としては無応力化又は低応力化(0.1GPa以下の内部応力)を実現している。
【0040】
このとき、多結晶SiC基板11の結晶粒のそれぞれの結晶格子の最密面が単結晶SiC層12の表面(基準面)を基準として偏向角θで傾いて配向しているとした場合(
図2)、θ≦−2度又は2度≦θとなる結晶粒の割合が多結晶SiC基板11を構成する全結晶粒の32%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。この割合が32%未満となると、−2度<θ<2度となる結晶粒の割合が68%以上となり、界面面積に対する整合界面の割合が増える(即ち、最密面が特定方位(例えば、単結晶SiC層12の表面(
図2において上面)の法線方向)に配向したSiC結晶の割合が増える)ことから応力の相殺効果が損なわれ、単結晶SiC層12と多結晶SiC基板11との界面近傍の内部応力が高くなり、剥離や変形がおこるおそれがある。なお、θ=0度が配向分布の平均(中心)である(即ち、単結晶SiC層12の表面(基準面)の法線方向に対して配向する場合(基準面に対して最密面が平行となる場合)である)。
【0041】
多結晶SiC基板11との付着力を高めるためには、単結晶SiC層12の結晶の最密面が多結晶SiC基板11との界面に対して平行であることが好ましいが、単結晶SiC層12表面においてステップフローエピタキシャル成長を発現させるためには結晶面が微傾斜している必要がある。このことを勘案すると、単結晶SiC層12の結晶格子の最密面が多結晶SiC基板11との界面において0度超10度以内の偏向角を有することが望ましい。単結晶SiC層12の結晶格子の最密面の偏向角が10度を超えてしまうと、不整合界面のエネルギーが高くなってしまい、単結晶SiC層12と多結晶SiC基板11との付着力が損なわれたり、界面での転位の発生頻度が高まったり、界面で発生した転位が単結晶SiC層12内に伝搬してしまう場合がある。
【0042】
なお、単結晶SiC層12と多結晶SiC基板11との界面は不整合界面I
12/11であるため、多結晶SiC基板11内に転位が発生したとしても該不整合界面I
12/11で単結晶SiC層12内への伝搬が阻止される。また、局在化した応力により界面近傍の単結晶SiC層12内で転位が発生したとしても、それらは等方的に伝搬するため、伝搬する転位や積層欠陥が相互に終端しあい、低欠陥密度の単結晶SiC層12表面を得ることが可能となる。
【0043】
以上より、本発明のSiC複合基板10によれば、(1)単結晶SiC層12と多結晶SiC基板11との間に熱膨張差がないことからハンドル基板との熱膨張差に依る反りが解消され、(2)単結晶SiC層12にダメージや複合欠陥、双晶、積層欠陥を導入することがなく、(3)単結晶SiC層12/多結晶SiC基板11界面の機械的強度を損なうことがなく、単結晶SiC層12と多結晶SiC基板11とは強く付着(接合)しており、(4)多結晶SiC基板11と単結晶SiC層12との間に金属介在層がないことから金属汚染がなく、(5)多結晶SiC基板11と単結晶SiC層12との間に絶縁層を含まないので縦方向に電流を流すようなディスクリート素子用の基板材料や電気抵抗率が可変なパワー半導体の基板材料としても好ましく用いることができる。
【0044】
[SiC複合基板の製造方法]
上述した本発明に係るSiC複合基板10を製造する上で、単結晶SiCを多結晶基板上にエピタキシャル成長することは不可能であることから、特許文献1(特許第5051962号公報)に示されているように、単結晶SiC層上に多結晶SiCをハンドル基板として堆積する方法を採用することが好ましい。ただし、単結晶SiC層の多結晶SiC基板との界面となる表面に多結晶SiCを堆積させ、その格子面の配向方位を単結晶SiC層の多結晶SiCを堆積する面とは反対面であるおもて面の法線方向を基準としてランダムにするには(即ち、界面の法線軸を回転中心とした方位に均等に分散させるには)、単結晶SiC層の多結晶SiC堆積側表面においてランダムな方位に配向した核形成をもたらす必要があり、そのためには多結晶SiC基板の形成条件が限定されてしまう。実際のところ、単結晶SiC層の多結晶SiC堆積側表面において多結晶SiCが特定方位に配向しない結晶成長条件を探索し、その条件の最適化(配向方位の分散と均一化)を図ったり、準安定な非晶質化条件を探索したりする必要が有るため、本発明のSiC複合基板10の構造を実現するのは容易なことではない。なぜならば、結晶成長にあたってはエネルギーの最も低い面が優先的に表面に露出する特性があるためであり、特定の面方位が表面の法線軸方位に配向(優先配向)してしまう傾向があるためである。
【0045】
本発明者らは、単結晶SiC層におけるハンドル基板となる多結晶SiC基板との界面となる表面の平滑性を意図的に損なわせる(粗面化する)ことにより堆積する多結晶SiCの結晶の最密面(格子面)の配向方位を上記のようにランダムにすることが可能であるという着想を得、鋭意検討を行い本発明を成すに至った。
【0046】
即ち、本発明に係るSiC複合基板の製造方法は、上述した多結晶SiC基板11上に単結晶SiC層12を有する本発明のSiC複合基板10の製造方法であって、保持基板の主面に単結晶SiC薄膜を設けた後、該単結晶SiC薄膜についてその表面を機械的加工により粗面化し、更にこの機械的加工に起因する欠陥を除去して、この面が保持基板側の表面よりも凹凸があり、かつ該凹凸を構成する傾斜面が保持基板側表面の法線方向を基準としてランダムな方向に向いている凹凸面となった単結晶SiC層とし、次いで該単結晶SiC層の凹凸面に化学気相成長法により多結晶SiCを堆積して該多結晶SiCの結晶の最密面が単結晶SiC層の保持基板側表面の法線方向を基準としてランダムに配向している多結晶SiC基板を形成し、その後に上記保持基板を物理的及び/又は化学的に除去することを特徴とするものである。
【0047】
ここで、単結晶SiC層12における多結晶SiC基板11との界面となる表面(多結晶SiC堆積側表面)についてする所定の機械的加工による粗面化処理としては、上記凹凸を構成する傾斜面が保持基板側表面の法線方向を基準としてランダムな方向に向いている凹凸面とする機械的加工であれば特に限定されないが、例えばダイヤモンド砥粒を用いて上記単結晶SiC薄膜表面をランダムな方向に研磨することにより該単結晶SiC薄膜表面を粗面化する処理であることが好ましい。このとき、粗面化の程度(凹凸の大きさや傾斜面の向いている向きのランダムさ加減)は、ダイヤモンド砥粒の粒径、粗面化加工面への加圧力、処理時間などにより調整することができる。
【0048】
ここで、単結晶SiC層12の表面凹凸の状態は、表面粗度と該表面凹凸を構成する傾斜面の配向状態で特定することができる。なお、ここでいう表面粗度としては、例えば算術平均粗さRa、最大高さ粗さRz、二乗平均平方根粗さRq(表面粗さRMS(Root−mean−quare:二乗平均粗さ)(JIS B0501−2013)などが挙げられる。
【0049】
単結晶SiC層12の多結晶SiC堆積側表面に形成される凹凸は、算術平均粗さRaが1nm以上100nm以下であり、該凹凸を構成する傾斜面の最大斜度がいずれの方位においても単結晶SiC層12の保持基板側表面を基準として2度以上10度以下であることが好ましい。なお、凹凸を構成する傾斜面は多結晶SiCが堆積する基底面であり、多結晶SiCの最密面が基底面に平行となる。その所以は、最密面の表面エネルギーが極小であり、結晶表面を支配的に覆う傾向があるためである。このため、単結晶SiC表面の凹凸がランダムであれば、単結晶SiC層12上において多結晶SiC基板11の結晶が成長する方位を意図的にランダムに変えることができる。即ち、この構造によれば、たとえ多結晶SiC基板の結晶粒が単結晶SiC層12表面に対して優先配向したとしても、
図2に示すように多結晶SiC基板11の多結晶SiCの結晶の格子面11pの配向方位は単結晶SiC層12の界面側表面凹凸を構成する傾斜面ごとの向きに対応して分散配向する(単結晶SiC層12の保持基板側表面の法線方向を基準としてランダムに配向する)。このとき、単結晶SiC層12の多結晶SiC堆積側表面凹凸を構成する傾斜面の最大斜度がいずれの方位においても2度以上10度以下である場合、堆積する多結晶SiC基板11の多結晶SiCの結晶の格子面11pの配向方位は2度以上10度以下で分散配向するようになる。
【0050】
特に、
図2において、単結晶SiC層12における多結晶SiC基板11に当接する凹凸面を構成する偏向角θの傾斜面の配向方位が、多結晶SiC基板11と単結晶SiC層12との界面(あるいは単結晶SiC層12の保持基板側表面)の法線軸を中心とした回転対称な方位に均等に分布している場合には、いずれの方位に対しても不整合界面の微細構造がランダムに変化するため、応力の相殺効果が十分に発現される。なお、単結晶SiC層12における多結晶SiC基板11に当接する凹凸面を構成する偏向角θの傾斜面の配向方位が、特定方位に偏っている場合には応力が特定方位に集中する結果となり、SiC複合基板に反りが発生するために好ましくない。
【0051】
また、単結晶SiC層12の多結晶SiC堆積側表面の算術平均粗さRaが1nmを下回ると、表面凹凸を構成する傾斜面ごとに十分な面積を確保することができなくなり、その傾斜面に堆積される多結晶SiCの結晶粒径が小さくなることから多結晶SiC基板11をハンドル基板としての機械的強度や半導体用基板としての低抵抗率を確保できなくなるおそれがある。また、算術平均粗さRaが100nmを超える場合には、応力の相殺効果を発現させるための単結晶SiC層の厚さも100nm以上が必要となり、複合基板によるコスト低減効果が望めなくなる場合がある。更に、高さ100nmを超える起伏(凹凸)を単結晶SiC層上に形成しなければならないため、単結晶SiC層に導入されるダメージが多大なものとなり、パワー半導体デバイスの基板としての結晶品質が保たれなくなってしまう。単結晶SiC層表面への起伏加工の実現性を考えると多結晶SiC堆積側表面の算術平均粗さRaは、1nm以上10nm以下がより好ましく、1nm以上5nm以下が更に好ましい。
【0052】
本発明のSiC複合基板の製造方法では、イオン注入剥離法により単結晶SiC基板から剥離させた単結晶SiC薄膜を上記保持基板上に転写して設けることが好ましい。あるいは、上記保持基板上にSiCをヘテロエピタキシャル成長させて上記単結晶SiC薄膜を設けてもよい。これにより、一度のイオン注入剥離処理又はヘテロエピタキシャル成長により、必要最低限の膜厚を有し、SiC複合基板の特性を左右する単結晶SiC層12が得られるので、経済的に高特性のSiC複合基板を製造することができる。
【0053】
また、多結晶SiC基板11を形成するための化学気相成長法としては熱CVD法を用いることが好ましい。単結晶SiC層12上に多結晶SiCを堆積して形成するため、従来技術の如き、難研削材のSiCの研削、研磨、CMPなどに依る高平坦化の工程を不要とすることができる。
【0054】
また、上記保持基板は、イオン注入剥離法による加工が行いやすく、物理的及び/又は化学的な除去(即ち、研削加工やエッチング)が行いやすく、SiCとの熱膨張率係数の差があまり大きくない材料からなるものが好ましく、多結晶又は単結晶シリコンからなることが特に好ましい。保持基板として単結晶Siウエハを採用する場合、高品質な大口径基板を低価格で入手可能であることから、SiC複合基板の製造コストも低減できる。また、単結晶Siウエハ上には単結晶の立方晶SiCをヘテロエピタキシャル成長することも可能であり、単結晶SiC基板の接合や剥離工程が必要とされないことから、市販のバルクSiCウエハよりも大口径のSiC複合基板を安価に製造することが可能となる。
【0055】
ところで、バルク状の単結晶SiCは高価であるため、単結晶SiC基板をそのまま用いたり、単結晶SiC基板を主体的に用いてSiC複合基板を製造したりすることは経済的に好ましくない。そこで本発明では、特許文献1(特許第5051962号公報)のように単結晶SiCウエハから単結晶SiC薄膜を剥離して、該薄膜を保持基板に転写して見かけ上の機械的強度を確保した後、単結晶SiC薄膜表面に所定の表面凹凸(等方的な傾斜部(起伏))を設けた上で多結晶SiCを堆積して多結晶SiC基板を形成し、SiC複合基板を得るようにする。
【0056】
このとき、保持基板が単結晶SiC層や多結晶SiC基板と熱膨張係数が大きく異なる場合には、複合基板製造中の温度変化により保持基板を含む積層体に反りが発生する。製造過程でこのような反りが発生すると、単結晶SiC層と多結晶SiC基板の界面では低応力化又は無応力化が図られているにも関わらず、SiC複合基板の形状は保持基板の反りを反映してしまうので、平坦な基板が得られないおそれがある。SiC複合基板が平坦性を欠いてしまうと、デバイス製造工程などのフォトリソグラフィー工程を適用することが難しくなり、SiC複合基板の実用化が妨げられる。
【0057】
そこで、保持基板と単結晶SiC層12や多結晶SiC基板12との間で熱膨張係数に差があったとしても保持基板を含む積層体に反りが発生することがないように、該積層体における保持基板の両面それぞれの側にハンドル基板となる多結晶SiC基板を堆積することが好ましい。この場合、たとえ保持基板と多結晶SiC基板との間に熱膨張係数の差に起因する応力が発生したとしても、保持基板の表裏面に作用する応力の向きは互いに反対方向となり、その大きさは等しくなるため、いかなる処理温度においても積層体に反りが発生することがないようにすることができ、その結果、反りのないSiC複合基板を得ることができる。これに加え、保持基板の見かけ上の剛性が増すため、多結晶SiC基板内における転位の運動が促進されて、残留応力が解消されるため、熱的にも機械的にも安定なSiC複合基板を製造することが可能となる。
【0058】
例えば、上記保持基板のおもて面のみに上記単結晶SiC層を設けた単結晶SiC層担持体を作製し、該単結晶SiC層の凹凸面及び上記保持基板のうら面それぞれに上記多結晶SiC基板を形成し、その後に上記保持基板を物理的及び/又は化学的に除去するとよい。
【0059】
あるいは、上記保持基板の両面に上記単結晶SiC層を設けた単結晶SiC層担持体を作製し、次いでそれぞれの単結晶SiC層の凹凸面に上記多結晶SiC基板を形成し、その後に上記保持基板を物理的及び/又は化学的に除去することが好ましい。これにより、一度の多結晶SiC基板の形成処理により2枚のSiC複合基板を形成することができるため、製造コストの低減効果が増す。
【0060】
あるいは、保持基板の両面への単結晶SiC層を設けることが難しい場合には、上記保持基板のおもて面のみに上記単結晶SiC層を設けた単結晶SiC層担持体を2枚作製し、これらの単結晶SiC層担持体の保持基板のうら面同士を接合又は接着した後、この接合又は接着した基板の表裏面の単結晶SiC層の凹凸面それぞれに上記多結晶SiC基板を形成し、次いで、上記保持基板のうら面同士の接合又は接着部分で分離し、その後にそれぞれの保持基板を物理的及び/又は化学的に除去するようにしてもよい。これによれば実質的に両面に単結晶SiC層が形成された1組の保持基板が形成できるため、一度の多結晶SiC基板の形成処理により2枚のSiC複合基板を形成することができ、コスト低減や平坦化、安定化を実現することが可能となる。
【0061】
以下、本発明に係るSiC複合基板の製造方法の実施形態1〜4を説明する。
【0062】
(実施形態1)
本発明の実施形態1について
図4を参照しながら説明する。
(工程1−1)
始めに、保持基板21に貼り合わせをする単結晶SiC基板12sを用意する。ここで、単結晶SiC基板12sは、結晶構造が4H−SiC、6H−SiC、3C−SiCのものから選択をすることが好ましい。単結晶SiC基板12s及び後述する保持基板21の大きさは、半導体素子の製造や窒化ガリウム、ダイヤモンド、ナノカーボン膜の成長に必要な大きさやコスト等から設定をする。また、単結晶SiC基板12sの厚さは、SEMI規格又はJEIDA規格の基板厚さ近傍のものがハンドリングの面から好ましい。なお、単結晶SiC基板12sとして、市販のもの、例えばパワーデバイス向けに市販されている単結晶SiCウエハを用いればよく、その表面がCMP(Chemical Mechanical Polishing(or Planarization))処理で仕上げ研磨された、表面が平坦かつ平滑なものを用いることが好ましい。ここでは、単結晶SiC基板12sとして、例えば4H−SiC(000−1)C面において[11−20]方位に2度偏向した単結晶SiCウエハを用いる。
【0063】
また、単結晶SiC基板12sの少なくとも保持基板21と貼り合わせをする表面に所定の薄膜22aを形成することが好ましい(
図4(a))。ここで、薄膜22aは、厚さ50nm〜600nm程度の酸化シリコン膜、窒化シリコン膜又は酸窒化シリコン膜の誘電体膜であるとよい。これにより、保持基板21との貼り合わせが容易になるだけではなく、この後に行われるイオン注入処理の注入イオンのチャネリングを抑制する効果も得られる。
【0064】
薄膜22aの形成方法としては、単結晶SiC基板12sに密着性よく形成できる成膜方法であればいずれの方法でもよく、例えば酸化シリコン膜はPECVD法又は熱酸化法により形成し、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜はスパッタリング法により形成するとよい。
【0065】
(工程1−2)
次に、保持基板21を用意する。本発明で用いる保持基板21として、耐熱温度1100℃以上の耐熱材料(ただし、単結晶SiCを除く)からなるものが好ましく、多結晶又は単結晶シリコンからなる基板がより好ましい。ここでは、例えば保持基板21として、面方位(111)面の単結晶Si基板を用いる。
【0066】
また、保持基板21の少なくとも単結晶SiC基板12sと貼り合わせをする表面に、上記工程1−1と同様の薄膜22aを形成することが好ましい(
図4(b))。
【0067】
(工程1−3)
次に、単結晶SiC基板12sの薄膜22a形成面に水素イオン等を注入してイオン注入領域12iを形成する(
図4(c))。
【0068】
ここで、単結晶SiC基板12sへのイオン注入の際、その表面から所望の深さにイオン注入領域12iを形成できるような注入エネルギーで、所定の線量の少なくとも水素イオン(H
+)又は水素分子イオン(H
2+)を注入する。このときの条件として、所望の薄膜の厚さになるようにイオン注入エネルギーを設定すればよい。HeイオンやBイオン等を同時に注入しても構わないし、同じ効果が得られるモノであればどのようなイオンを採用しても構わない。ただし、単結晶SiC結晶格子へのダメージを低減する観点からは、できるだけ軽元素のイオンであるほうが望ましい。
【0069】
単結晶SiC基板12sに注入する水素イオン(H
+)のドーズ量は、1.0×10
16atom/cm
2〜9.0×10
17atom/cm
2であることが好ましい。1.0×10
16atom/cm
2未満であると、界面の脆化が起こらない場合があり、9.0×10
17atom/cm
2を超えると、貼り合わせ後の熱処理中に気泡となり転写不良となる場合がある。
【0070】
注入イオンとして水素分子イオン(H
2+)を用いる場合、そのドーズ量は5.0×10
15atoms/cm
2〜4.5×10
17atoms/cm
2であることが好ましい。5.0×10
15atoms/cm
2未満であると、界面の脆化が起こらない場合があり、4.5×10
17atoms/cm
2を超えると、貼り合わせ後の熱処理中に気泡となり転写不良となる場合がある。
【0071】
イオン注入された基板表面からイオン注入領域12iまでの深さ(即ち、イオン打ち込み深さ)は、保持基板21上に設ける単結晶SiC薄膜の所望の厚さに対応するものであり、通常100〜2,000nm、好ましくは300〜500nm、更に好ましくは400nm程度である。また、イオン注入領域12iの厚さ(即ち、イオン分布厚さ)は、機械衝撃等によって容易に剥離できる厚さが良く、好ましくは200〜400nm、更に好ましくは300nm程度である。
【0072】
(工程1−4)
続いて、単結晶SiC基板12sの薄膜22a形成面と保持基板21の薄膜22a形成面とを表面活性化処理を施して貼り合わせる。表面活性化処理としてはプラズマ活性化処理、真空イオンビーム処理又はオゾン水への浸漬処理を行うとよい。
【0073】
このうち、プラズマ活性化処理をする場合、真空チャンバ中に上記工程1−3までの処理が終了した単結晶SiC基板12s及び/又は保持基板21を載置し、プラズマ用ガスを減圧下で導入した後、100W程度の高周波プラズマに5〜10秒程度さらし、表面をプラズマ活性化処理する。プラズマ用ガスとしては、酸素ガス、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガスを用いることができる。
【0074】
真空イオンビーム処理は、高真空のチャンバ内に単結晶SiC基板12s及び/又は保持基板21を載置し、Ar等のイオンビームを貼り合わせをする表面に照射して活性化処理を行う。
【0075】
オゾン水への浸漬処理は、オゾンガスを溶解させたオゾン水に単結晶SiC基板12s及び/又は保持基板21を浸漬し、その表面を活性化処理をする。
【0076】
上記した表面活性化処理は、単結晶SiC基板12sのみ又は保持基板21のみに行ってもよいが、単結晶SiC基板12s及び保持基板21の両方について行うのがより好ましい。
【0077】
また、表面活性化処理は上記方法のいずれか一つでもよいし、組み合わせた処理を行っても構わない。更に、単結晶SiC基板12s、保持基板21の表面活性化処理を行う面は、貼り合わせを行う面、即ち薄膜22a表面であることが好ましい。
【0078】
次に、この単結晶SiC基板12s及び保持基板21の表面活性化処理をした表面(薄膜22a、22a表面)を接合面として貼り合わせる。
【0079】
次いで、単結晶SiC基板12sと保持基板21と貼り合わせた後に、好ましくは150〜350℃、より好ましくは150〜250℃の熱処理を行い、薄膜22a、22aの貼り合わせ面の結合強度を向上させる。このとき、単結晶SiC基板12sと保持基板21との間の熱膨張率差により基板の反りが発生するが、それぞれの材質に適した温度を採用して反りを抑制するとよい。熱処理時間としては、温度にもある程度依存するが、2時間〜24時間が好ましい。
【0080】
これにより、薄膜22a、22aは密着して一つの層、介在層22となると共に、単結晶SiC基板12sと保持基板21とが介在層22を介して強固に密着した貼り合わせ基板13となる(
図4(d))。
【0081】
(工程1−5)
貼り合わせ基板13について、イオン注入した部分に熱的エネルギー又は機械的エネルギーを付与して、イオン注入領域12iで単結晶SiC基板12sを剥離させ、保持基板21上に単結晶SiC薄膜12aを転写して単結晶SiC薄膜担持体14を得る(
図4(e))。
【0082】
剥離方法としては、例えば貼り合わせ基板13を高温に加熱して、この熱によってイオン注入領域12iにおいてイオン注入した成分の微小なバブル体を発生させることにより剥離を生じさせて単結晶SiC基板12sを分離する熱剥離法を適用することができる。あるいは、熱剥離が生じない程度の低温熱処理(例えば、500〜900℃、好ましくは500〜700℃)を施しつつ、イオン注入領域12iの一端に物理的な衝撃を加えて機械的に剥離を発生させて単結晶SiC基板12sを分離する機械剥離法を適用することができる。機械剥離法は単結晶SiC薄膜転写後の転写表面の粗さが熱剥離法よりも比較的小さいため、より好ましい。
【0083】
なお、剥離処理後に、単結晶SiC薄膜担持体14を加熱温度700〜1,000℃であって剥離処理時よりも高い温度、加熱時間1〜24時間の条件で加熱して、単結晶SiC薄膜12aと保持基板21との密着性を改善する熱処理を行ってもよい。
【0084】
このとき、薄膜22a、22aは強固に密着し、更に薄膜22a、22aはそれぞれ単結晶SiC基板12s、保持基板21と強固に密着しているため、イオン注入領域12iにおける剥離部分以外の部分での剥離は発生しない。
【0085】
なお、剥離した後の単結晶SiC基板12sは、表面を再度研磨や洗浄等を施すことにより再度当該単結晶SiC薄膜担持体14の製造方法における貼り合わせ用の基板として再利用することが可能となる。
【0086】
(工程1−6)
次に、単結晶SiC薄膜担持体14の単結晶SiC薄膜12aについてその表面を機械的加工により粗面化し、更にこの機械的加工に起因する欠陥を除去して単結晶SiC層12とする(
図4(f))。
【0087】
ここで、機械的加工による粗面化処理として、ダイヤモンド砥粒を用いて単結晶SiC薄膜12a表面をランダムな方向に研磨することにより該単結晶SiC薄膜12a表面を粗面化することが好ましい。具体的には、ダイヤモンドスラリーをしみこませた回転している研磨布に単結晶SiC薄膜担持体14の単結晶SiC薄膜12aの面を押し付けて研磨方向がランダムになるように単結晶SiC薄膜担持体14の向きを変えながらバフ研磨加工を行うとよい。単結晶SiC基板12sの表面は元々平滑であり、単結晶SiC薄膜12aの保持基板21側の表面には単結晶SiC基板12sの平滑な表面が反映されているが、単結晶SiC薄膜12aの上記バフ研磨加工面は保持基板21側の平滑な表面よりも粗面化され微細な表面凹凸を有するようになる。また、単結晶SiC薄膜12aの表面はイオン注入剥離面であるが、上記のように研磨方向をランダムにしたバフ研磨加工によればイオン注入によるダメージ層の除去すると共に凹凸を構成する傾斜面が保持基板21側表面の法線方向を基準としてランダムな方向に向いた微細な凹凸に整えた表面状態を形成することが可能となる。
【0088】
なお、単結晶SiC層12の粗面化の程度(凹凸の大きさや傾斜面の向いている向きのランダムさ加減)は、ダイヤモンド砥粒の粒径、単結晶SiC薄膜担持体14を押し付ける圧力や研磨時間で調整することが可能である。
【0089】
次に、単結晶SiC薄膜12aの表面には機械的加工(バフ研磨加工)に起因する欠陥が生じていることからこの欠陥を除去する処理を行う。具体的には、熱酸化処理を施して加工後の単結晶SiC薄膜12aに薄い熱酸化膜を形成する。これにより、単結晶SiC薄膜12a表面の機械的加工で導入された欠陥領域が熱酸化膜となる。このとき、上記イオン注入によるダメージ領域も熱酸化膜に含まれるようになる。次いで、この単結晶SiC薄膜12aの表面をフッ化水素酸(フッ酸)浴に浸漬して熱酸化膜を除去し清浄な単結晶SiC表面を露出させる(犠牲酸化法)。単結晶SiC薄膜担持体14の単結晶SiC薄膜12aについて以上の処理を施すことによって、この処理面が保持基板21側の表面よりも凹凸があり、かつ該凹凸を構成する傾斜面が保持基板21側表面の法線方向を基準としてランダムな方向に向いている凹凸面となった単結晶SiC層12とすることができる。
【0090】
ここで、単結晶SiC層12の表面凹凸の状態を、算術平均粗さRaが1nm以上100nm以下の表面凹凸とし、該凹凸を構成する傾斜面の最大斜度をいずれの方位においても2度以上10度以下とすることが好ましい。即ち、単結晶SiC層12の表面の表面粗度としては、例えば単結晶SiC層12の表面においてある方向(X方向)の表面粗度とその方向に直交する方向(Y方向)の表面粗度が共に算術平均粗さRaで好ましくは1〜100nm、より好ましくは5〜30nmである。
【0091】
また、単結晶SiC層12の表面凹凸を構成する傾斜面が保持基板21側表面の法線方向を基準としてランダムな方向に向くとは、例えば単結晶SiC層12の表面においてある方向(X方向)の表面粗度とその方向に直交する方向(Y方向)の表面粗度がほぼ同じであることを意味する。両者の表面粗度がほぼ同じとは、例えば両者の算術平均粗さRaの差が好ましくは最大Raの10%以下であり、より好ましくは最大Raの5%以下である。あるいは、単結晶SiC層12の表面におけるX方向の表面粗さプロファイルとY方向の表面粗さプロファイルがほぼ同じパターンを示すことを意味する。両者の表面粗さプロファイルがほぼ同じとは表面の斜面の配向方位が等方的であり、高低差も同様であることを意味する。
【0092】
本工程により保持基板21上に介在層22を介して上記表面凹凸を有する単結晶SiC層12を担持する単結晶SiC層担持体15を作製することができる(
図4(f))。
【0093】
(工程1−7)
次に、得られた単結晶SiC層担持体15を用いて、化学気相成長法により単結晶SiC層12上に多結晶SiCを堆積して多結晶SiC基板11を形成する(
図4(g))。
このとき、多結晶SiCの結晶の最密面が単結晶SiC層の保持基板21側表面の法線方向を基準としてランダムに配向するように形成される。
【0094】
ここで、化学気相成長法としては熱CVD法を用いることが好ましい。この熱CVD条件としては、多結晶SiCを堆積して成膜する一般的な条件でよい。
【0095】
このとき、多結晶SiCが単結晶SiC層12の表面に堆積するが、該単結晶SiC層12表面は上述のごとき表面凹凸を有するため、該表面凹凸を構成する傾斜面ごとに多結晶SiCの結晶の最密面(格子面)がその傾斜面に平行となるように配向して成長するようになり、単結晶SiC層12上において多結晶SiC基板11の結晶粒ごとにその成長する方位がランダムに変わるようになる。その結果、
図2に示すように多結晶SiC基板11の多結晶SiCの結晶の格子面11pの配向方位は単結晶SiC層12の界面側表面凹凸を構成する傾斜面ごとの向きに対応して分散配向する(単結晶SiC層12の保持基板21側表面の法線方向を基準としてランダムに配向する)。
【0096】
なお、単結晶SiC層担持体15において上記のように保持基板21の単結晶SiC層12を設けた面(おもて面)だけに多結晶SiC基板11を形成するのではなく、それとは反対面(うら面)にも多結晶SiC基板11’を形成することが好ましい(
図4(g))。これにより、保持基板21と多結晶SiC基板11、11’との間に熱膨張係数の差に起因する応力が発生したとしても、多結晶SiC基板11、11’によって保持基板21の表裏面に作用する応力の向きは互いに反対方向となり、その大きさは等しくなるため、この積層体に反りが発生することがないようにすることができ、その結果、反りのないSiC複合基板を得ることができる。
【0097】
(工程1−8)
次に、工程1−7で得られた積層体における保持基板21を物理的及び/又は化学的に除去して、SiC複合基板10を得る(
図4(h))。このとき、保持基板21がシリコンからなる場合には、例えばフッ硝酸溶液により容易に選択的にエッチング除去することが可能である。
【0098】
(工程1−9)
必要に応じて、SiC複合基板10の単結晶SiC層12上にSiCエピタキシャル層12’を形成するとよい(
図4(i))。これにより、単結晶SiC層12の厚さが0.1μmと薄く、パワー半導体デバイスの活性層として用いるには薄すぎるところ、SiH
2Cl
2(流量200sccm)とC
2H
2(流量50sccm)を原料とする1550℃の1時間の気相成長(ホモエピタキシャル成長)により厚さ8μmのSiCエピタキシャル層12’を形成してパワー半導体の製造に適応したSiC複合基板を得ることが可能となる。
【0099】
(実施形態2)
本発明の実施形態2について
図5を参照しながら説明する。
(工程2−1)
始めに、実施形態1と同様にして工程1−6までを行い、単結晶SiC層担持体15を2組用意する(
図5(a))。
【0100】
(工程2−2)
次に、2組の単結晶SiC層担持体15の保持基板21同士を接着層23を介して貼り合わせて(接合して)接着貼り合わせ体16を得る(
図5(b))。接着貼り合わせ体16は、その表裏面に単結晶SiC層12が露出した両面基板となる。このとき、この後で行う化学気相成長に対して耐熱性を有する接着剤を用いるとよい。
【0101】
(工程2−3)
次に、接着貼り合わせ体16の表裏面の単結晶SiC層12の凹凸面それぞれに実施形態1と同様の化学気相成長法により多結晶SiCを堆積して多結晶SiC基板11を形成する(
図5(c))。ここで、保持基板21と多結晶SiC基板11との間に熱膨張係数の差に起因する応力が発生したとしても、2枚の保持基板21が貼り合わされたものの表裏面に作用する応力の向きは互いに反対方向となり、その大きさは等しくなるため、積層体に反りが発生することがないようにすることができ、その結果、反りのないSiC複合基板を2組得ることができる。
【0102】
(工程2−4)
次いで、工程2−3で得られた積層体について、保持基板21のうら面同士の接合部分(接着層23)で分離し、同時に(又はその後に)それぞれの保持基板21を物理的及び/又は化学的に除去して、2組のSiC複合基板10を得る(
図5(d))。このとき、保持基板21がシリコンからなる場合には、例えばフッ硝酸溶液により容易に接着層23及び保持基板21を選択的にエッチング除去することが可能である。
【0103】
(工程2−5)
その後、必要に応じて実施形態1と同様に、SiC複合基板10の単結晶SiC層12上にSiCエピタキシャル層12’を形成するとよい(
図5(e))。
【0104】
(実施形態3)
本発明の実施形態3について
図6を参照しながら説明する。
(工程3−1)
始めに、保持基板21上にSiCをヘテロエピタキシャル成長させて単結晶SiC薄膜12eを設けて単結晶SiC薄膜担持体14’を2枚用意する(
図6(a))。例えば、2枚の(001)表面を有する単結晶Siウエハを保持基板21とし、その上層に(001)面を主面方位とする3C−SiC層をヘテロエピタキシャル成長するとよい。詳しくは、このヘテロエピタキシャル成長に先んじ、保持基板(単結晶Siウエハ)21を20PaのC
2H
2雰囲気に暴露しつつ、500℃から1,340℃まで昇温し、その表層に単結晶の3C−SiC膜を厚さ15nm成長させた後、基板温度を保ちつつ、流量200sccmのSiH
2Cl
2と流量50sccmのC
2H
2を導入し、圧力を15Paとすることにより厚さ20μmの(001)面を主面方位とする単結晶3C−SiC層12をエピタキシャル成長するとよい。
【0105】
(工程3−2)
次に、単結晶SiC薄膜担持体14’の単結晶SiC薄膜12eについて、実施形態1の工程1−6と同様にしてその表面を機械的加工により粗面化し、更にこの機械的加工に起因する欠陥を除去して単結晶SiC層12とする(
図6(b))。
【0106】
ここで、上記機械的加工条件や欠陥を除去する条件は実施形態1の工程1−6と同じでよい。その結果として、単結晶SiC層12の表面凹凸の状態も実施形態1と同じようになる。
【0107】
本工程により保持基板21上に上記表面凹凸を有する単結晶SiC層12を担持する単結晶SiC層担持体15’を作製することができる(
図6(b))。
【0108】
(工程3−3)
次に、2枚の単結晶SiC層担持体15’の保持基板21同士を接着層23を介して貼り合わせて(接合して)一組の接着貼り合わせ体16’を得る(
図6(c))。接着貼り合わせ体16’は、その表裏面に単結晶SiC層12が露出した両面基板となる。このとき、この後で行う化学気相成長に対して耐熱性を有する接着剤を用いるとよい。
【0109】
(工程3−4)
次に、接着貼り合わせ体16’の表裏面の単結晶SiC層12の凹凸面それぞれに実施形態1と同様の化学気相成長法により多結晶SiCを堆積して多結晶SiC基板11を形成する(
図6(d))。ここで、保持基板21と多結晶SiC基板11との間に熱膨張係数の差に起因する応力が発生したとしても、2枚の保持基板21が貼り合わされたものの表裏面に作用する応力の向きは互いに反対方向となり、その大きさは等しくなるため、積層体に反りが発生することがないようにすることができ、その結果、反りのないSiC複合基板を2枚得ることができる。
【0110】
(工程3−5)
次いで、工程3−4で得られた積層体について、保持基板21のうら面同士の接合部分(接着層23)で分離し、同時に(又はその後に)それぞれの保持基板21を物理的及び/又は化学的に除去して、2組のSiC複合基板10を得る(
図6(e))。このとき、保持基板21がシリコンからなる場合には、例えばフッ硝酸溶液により容易に接着層23及び保持基板21を選択的にエッチング除去することが可能である。
【0111】
(実施形態4)
本発明の実施形態4について
図7を参照しながら説明する。
(工程4−1)
始めに、保持基板21の両面にSiCをヘテロエピタキシャル成長させて単結晶SiC薄膜12eを設けて単結晶SiC薄膜担持体14''を用意する(
図7(a))。例えば、両面を鏡面研磨した(111)表面を有する単結晶Siウエハを保持基板21とし、その両面に3C−SiC層をヘテロエピタキシャル成長するとよい。詳しくは、このヘテロエピタキシャル成長に先んじ、保持基板(単結晶Siウエハ)21を20PaのC
2H
2雰囲気に暴露しつつ、500℃から1,340℃まで昇温し、その表層に単結晶の3C−SiC膜を厚さ15nm成長させた後、基板温度を保ちつつ、流量200sccmのSiH
2Cl
2と流量50sccmのC
2H
2を導入し、圧力を3.2Paとすることにより(111)面を主面方位とする単結晶3C−SiC層12をエピタキシャル成長するとよい。
【0112】
このとき、実施形態3とは異なり、厚膜の3C−SiCエピタキシャル成長は避けた方がよい。なぜならば、(111)面を主面方位とする3C−SiC層面内では、積層欠陥が発生したとしてもSi(111)表面を有する単結晶Siウエハとの界面における応力緩和効果が発現しないため、3C−SiC層を厚膜化すると、内部応力が蓄積し、3C−SiC層/保持基板(単結晶Siウエハ)界面の剥離や3C−SiCエピタキシャル成長層内へのクラック発生がもたらされるおそれがある。そこで、エピタキシャル成長時間を調整し、膜厚2μmを上限とする3C−SiCエピタキシャル成長に留めるとよい。3C−SiC層面内には10GPaを超える引張応力が発生するが、保持基板21である単結晶Siウエハの表裏面に形成されることから内部応力がバランスし、保持基板21が変形することなく平坦性を保つことが可能となる。
【0113】
(工程4−2)
次に、単結晶SiC薄膜担持体14''の単結晶SiC薄膜12eについて、実施形態1の工程1−6と同様にしてその表面を機械的加工により粗面化し、更にこの機械的加工に起因する欠陥を除去して単結晶SiC層12とする(
図7(b))。
【0114】
ここで、上記機械的加工条件や欠陥を除去する条件は実施形態1の工程1−6と同じでよい。その結果として、単結晶SiC層12の表面凹凸の状態も実施形態1と同じようになる。
【0115】
本工程により保持基板21上に上記表面凹凸を有する単結晶SiC層12を担持する単結晶SiC層担持体15''を作製することができる(
図7(b))。
【0116】
(工程4−3)
次に、単結晶SiC層担持体15''の表裏面の単結晶SiC層12の凹凸面それぞれに実施形態1と同様の化学気相成長法により多結晶SiCを堆積して多結晶SiC基板11を形成する(
図7(c))。ここで、保持基板21と多結晶SiC基板11との間に熱膨張係数の差に起因する応力が発生したとしても、保持基板21の表裏面に作用する応力の向きは互いに反対方向となり、その大きさは等しくなるため、積層体に反りが発生することがないようにすることができ、その結果、反りのないSiC複合基板を2組得ることができる。
【0117】
(工程4−4)
次いで、工程4−3で得られた積層体について、保持基板21を物理的及び/又は化学的に除去して、2組のSiC複合基板10を得る(
図7(d))。このとき、保持基板21がシリコンからなる場合には、例えばフッ硝酸溶液により容易に保持基板21を選択的にエッチング除去することが可能である。
【0118】
以上、本発明の実施形態1〜4において、単結晶SiCのエピタキシャル成長にSiH
2Cl
2とC
2H
2の混合気体を用いた気相成長を用いた例を示したが、単結晶SiCの形成方法はこれに限られることはなく、いかなるシラン系、塩化シラン系、炭化水素の組み合わせによる減圧又は常圧気相成長、あるいは分子線エピタキシー、更には液相成長でも同様な効果が得られる。
【0119】
また、単結晶SiC層12の表面凹凸形成には必ずしもダイヤモンドスラリーによる機械的加工を用いる必要はなく、その凹凸を構成する傾斜面が該単結晶SiC層の表面の法線方向を基準としてランダムな方向に配向できれば、フォトリソグラフィーやナノインプリントなどの手段を用いることも可能である。
【0120】
また、保持基板21としてシリコン基板を用いる例を示したが、実施形態3、4のようにSiCをヘテロエピタキシャル成長させる必要がなければ、単結晶Si基板である必要がなく、安価な多結晶Si基板を用いてもよい。
【0121】
実施形態2、3において、単結晶SiC薄膜12aの機械的加工による粗面化及び該機械的加工に起因する欠陥の除去の処理は、必ずしも保持基板21同士の接着以前での実施に限定されるものではなく、多結晶SiC基板11の形成(堆積)前であれば保持基板21同士を接着して貼り合わせ体とした状態で実施してもよい。
【0122】
また、実施形態2、3において、保持基板21同士を接着層23を介して接着しているが、十分な付着強度を実現できるのであれば、接着層23を介さずに直接接合してもよい。
【実施例】
【0123】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0124】
[実施例1]
本発明のSiC複合基板の製造方法における実施形態1に基づき以下の手順で本発明のSiC複合基板10を作製した。
【0125】
(工程1)
始めに、単結晶SiC基板12sとして(000−1)C面を[11−20]方位に2度傾斜させた単結晶4H−SiCウエハを用意し、これを大気圧の乾燥酸素雰囲気中で90分間、1,100℃の熱酸化処理を施すことにより表面に薄膜22aとして厚さ0.2μmの熱酸化膜を形成した(
図4(a))。
(工程2)
次に、保持基板21として(001)表面を有する単結晶Siウエハを用意し、これを大気圧の乾燥酸素雰囲気中で90分間、1,100℃の熱酸化処理を施すことにより表面に薄膜22aとして厚さ0.6μmの熱酸化膜を形成した(
図4(b))。
(工程3)
次に、工程1の単結晶4H−SiCウエハの熱酸化膜形成面に、水素イオンを150keVのエネルギーで1×10
17atoms/cm
2照射し、イオン注入領域12iを形成した(
図4(c))。
(工程4)
続いて、単結晶4H−SiCウエハの薄膜22a形成面と単結晶Siウエハの薄膜22a形成面とをプラズマ活性化処理を施して貼り合わせて貼り合わせ基板13を得た(
図4(d))。
(工程5)
次に、貼り合わせ基板13について、イオン注入した部分に機械的エネルギーを付与して、イオン注入領域12iで単結晶4H−SiC基板ウエハを剥離させ、単結晶Siウエハ上に厚さ0.2μmの単結晶SiC薄膜12aを転写して表面に4H−SiC(0001)Si面が露出する単結晶SiC薄膜担持体14を得た(
図4(e))。
【0126】
(工程6)
次に、単結晶SiC薄膜担持体14の表面に露出した4H−SiC(0001)Si面を10μmの粒度のダイヤモンドスラリーを塗布した研磨布に100g/cm
2の圧力で押し付け、ランダムな方向に反復運動させた。これを10分間反復運動した後、単結晶SiC薄膜12a表面のダイヤモンドスラリーを純水で洗い流し、過酸化水素水と硫酸の混合溶液で洗浄した。次に、大気圧の乾燥酸素雰囲気中で60分間、1,100℃の熱酸化処理を施すことにより単結晶SiC薄膜12aの研磨面に厚さ0.1μmの熱酸化膜を形成する。この熱酸化処理によりダイヤモンドスラリーを用いた研磨により欠陥が導入された単結晶SiC薄膜12a表面がシリコン酸化膜に変換される。その後、その表面を5vol%のHF溶液に5分間浸漬して、清浄な単結晶4H−SiC表面を露出させて単結晶SiC層12とした(
図4(f))。この処理後の単結晶SiC層12の表面凹凸の算術平均粗さRaは3nmであり、その表面凹凸を構成する傾斜面の最大斜度が3度であって該傾斜面が単結晶Siウエハ(保持基板21)側表面の法線方向を基準としてランダムな方向に向いている凹凸面となった。
【0127】
(工程7)
次に、単結晶SiC層12の凹凸面に、熱CVD法によりSiCl
4(流量200sccm)とC
3H
8(流量50sccm)を原料として、加熱温度1,320℃で多結晶の3C−SiCを堆積した。このときの圧力を15Paとし、8時間の堆積処理により単結晶SiCウエハ(保持基板21)の表裏面、即ち単結晶SiC層12表面と単結晶Siウエハ裏面にそれぞれ厚さ840μmの多結晶SiC基板11,11’を形成した(
図4(g))。
【0128】
(工程8)
次に、工程7で得られた積層体をHFとHNO
3の混合溶液に120時間浸漬したところ、保持基板21である単結晶Siウエハが選択的にエッチング除去され、これと同時に裏面側の多結晶SiC基板11’が剥離し、単結晶SiC層12(4H−SiC(0001)Si面)/多結晶SiC基板11(立方晶SiC(840μm厚))の積層構造の本発明のSiC複合基板10が得られた(
図4(h))。
【0129】
得られたSiC複合基板10の多結晶SiC基板11、即ち堆積された多結晶膜(多結晶SiC基板)の表面を実体顕微鏡で観察したところ、
図8に示すように粒状となり、粒径は0.1μmから1μmの不定形の結晶粒の組み合わせで形成されていた。
【0130】
また、X線回折装置(株式会社リガク製、SuperLab、Cu管球)を用いてX線回折法(θ−2θスキャン)により、多結晶SiC基板11の結晶性を調査したところ、
図9に示すように、3C−SiCの(111)面が膜を構成する結晶の支配的な格子間隔であることが分かった。
【0131】
更に、上記X線回折装置を用いてX線ロッキングカーブ法(ωスキャン)により、単結晶SiC層の表面の法線軸を基準とする多結晶SiC基板11を構成する3C−SiC結晶の(111)面のロッキングカーブを取ると
図10に示すようになる。
図10では、単結晶SiC層12の表面の法線軸を基準(ω=0度)とした場合、ω≦−2度又は2度≦ωとなる結晶粒の割合が多結晶SiC基板11を構成する全結晶粒の65%以上となっていた。即ち、多結晶SiC基板11を構成する3C−SiC結晶の(111)面が単結晶SiC層12の表面の法線軸を基準にしてランダムに配向していると言える。
【0132】
このように多結晶SiC基板11の結晶粒の配向方位が単結晶SiC層12の表面の法線軸に対してランダムに分散しているため、多結晶SiC基板11と単結晶SiC層12との不整合界面において特定方位への応力集中が阻まれ、その面内応力は0.1GPa以下となって多結晶SiC基板11と単結晶SiC層12とは強固に付着した。この単結晶SiC層12の4H−SiC(0001)面内の応力はラマン散乱スペクトルのピークシフトにより見積もることが可能である。
【0133】
更に、得られたSiC複合基板10のBow量(反り)を測定したところ、20μm以下であった。上記のように結晶SiC基板11と単結晶SiC層12との不整合界面において低内部応力化が図られたことによると推察される。
【0134】
なお、上記SiC複合基板10の反りは、垂直入射方式のフィゾー干渉計(Corning Tropel社製、FlatMaster)によりBow量を測定した。ここで、SiC複合基板10は
図11に示すように、Bow量b1、b2はSiC複合基板10の中央部と端部との高低差として測定し、基板の中央部が
図11(a)に示すように下方向に凸の場合をマイナスの値、
図11(b)に示すように上方向に凸の場合をプラスの値とした。また、SiC複合基板10の単結晶SiC層12が上側(表面側)となる向きに配置して反りを測定した。上記SiC複合基板10は、基板の中央部が上方向に凸となっていた。
【0135】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。