特許第6544688号(P6544688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許6544688-半導体ウエハの加工装置 図000002
  • 特許6544688-半導体ウエハの加工装置 図000003
  • 特許6544688-半導体ウエハの加工装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544688
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】半導体ウエハの加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20190705BHJP
   B23H 5/00 20060101ALI20190705BHJP
   B23H 9/00 20060101ALI20190705BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20190705BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   H01L21/304 611W
   B23H5/00 D
   B23H5/00 F
   B23H9/00 Z
   B24B27/06 D
   B24B49/10
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-215620(P2015-215620)
(22)【出願日】2015年11月2日
(65)【公開番号】特開2017-92064(P2017-92064A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 恒雄
【審査官】 中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−061711(JP,A)
【文献】 特開2014−113677(JP,A)
【文献】 特開2009−099609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23H 5/00
B23H 9/00
B24B 27/06
B24B 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒を用いてSiC母材を加工する加工装置であって、
加工部に、前記砥粒を含む電解液を供給するとともに、前記SiC母材と加工部の間に電解電圧を印加することにより、前記SiC母材表面に、該SiC母材より硬度の低いSiC変性被膜を形成し、前記砥粒の硬度を、該SiC変性被膜より硬度が高く、かつ、前記SiC母材より硬度の低いものとし、
前記電解電圧の印加により流れる加工電流の電流値を計測する加工電流計測装置と、
前記加工部の移動速度を計測する加工部移動速度計測装置とを具備し、
前記加工電流を前記移動速度で除することにより、前記加工部が前記SiC母材に対向する対向面積に関連する対向面積関連値を算出し、この対向面積関連値に基づいて、前記加工部おける単位面積あたりの機械加工強度が一定となるよう制御するようにしたことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記加工電流計測装置の計測値に基づいて、前記加工部と前記SiC母材との間で放電現象が発生しているか否かを判定し、放電現象が発生している場合には、前記機械加工強度あるいは、前記加工電流を低減させることを特徴とする請求項1に記載された加工装置。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハの加工装置に関し、特にSiCのように硬度が高く、難加工材料を研磨、切断する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する工程には、インゴットをウエハに切断し、研磨する加工工程が含まれている。
従来、ウエハを研磨する装置として、次のような化学的機械研磨加工装置が知られている。
下記特許文献1には、固定砥粒式ワイヤを往復動させ、インゴットを下方に送り、切断することが示されており、ドレッシング装置を構成する筒状の電極には、ノズルを介して導電性液を供給し、電解電源を印加することにより、ワイヤの表面から砥粒結合材の一部を溶出させ、ドレッシングを行っている。
【0003】
下記特許文献2には、研磨パッドに、上方のノズルから研磨砥粒を含む電解液を供給し、デバイスウエハの表面に対し、化学的機械研磨加工を行うことが記載されている。
そして、研磨パッドとデバイスウエハの導体層との間に、電源からの電圧を印加することにより、導電体層の表面に電気化学的な保護膜を形成するとともに、保護膜を機械的に除去することにより、導電体層を電気化学的に溶解除去を行っている。
【0004】
下記特許文献3には、SiC母材表面に、該SiCウエハの母材より硬度の低いSiC酸化皮膜を形成し、砥粒の硬度を、SiC酸化皮膜より硬度が高く、かつ、SiCの母材より硬度の低いものとすることで、硬度がきわめて高いSiCを効率的に研磨することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−95993号公報
【特許文献2】国際公開第2008149937号
【特許文献3】特開2014−113677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、高耐圧、低損失の半導体デバイスとして、SiCが注目されている。
しかし、SiCは、シリコンと比較して、硬度が非常に高く、研磨加工には、これより硬度の高い、ダイヤモンドやCBNを砥粒として使用する必要があるが、これらはいずれも高価で、製造コスト高騰の要因となっている。しかも、このようにSiCより硬度の高い砥粒を使用すると、母材自体も損傷する可能性があり、特に高集積化する際の歩留まりの悪化などを招く。
【0007】
特許文献2には、研磨パッドとデバイスウエハの導体層との間に、電源からの電圧を印加して、導電体層を電気化学的に溶解することが示されているが、これはあくまでも、導電体層の除去を目的とするもので、SiCそのものの研磨には利用できない。このことは、先行技術文献1のワイヤーソーについても同様である。
【0008】
そこで、発明者らは、研磨砥粒として、SiCより硬度が低いものの、きわめて安価なアルミナ、炭化珪素、窒化ケイ素、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化ジルコニウム、酸化セリウム等により、SiC半導体ウエハの効率的な研磨、切断を可能とするとともに、基材へのダメージを低減した精度の高い加工を実現するため、特許文献3に示されるようなSiC加工装置を提案した。
このSiC加工装置は、砥粒を用いてSiC母材を加工する加工装置であって、加工部に砥粒を含む電解液を供給するとともに、SiC母材と加工部の間に電解電流を印加することにより、SiC母材表面に、該SiCウエハの母材より硬度の低いSiC酸化皮膜を形成し、砥粒の硬度を、SiC酸化皮膜より硬度が高く、かつ、SiCの母材より硬度の低いものとした。
【0009】
SiC母材と加工部の間に電解電流を供給することにより、SiC母材表面に、この母材より硬度の低いSiC酸化皮膜を形成し、砥粒の硬度を、SiC酸化皮膜より硬度が高く、かつSiCの母材より硬度の低いものにできる。
このため、ダイヤモンド、CBN等の高価な砥粒を使用することなく、きわめて安価なアルミナ、炭化珪素、窒化ケイ素、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化ジルコニウム、酸化セリウム等により、SiC半導体ウエハの効率的な研磨、切断を行うことが可能となる。またSiC母材よりも硬度の小さい砥粒を用いることで、母材への損傷を抑制することが可能となる。
【0010】
しかし、SiC母材と加工部の間を過剰な加工電流が流れると、放電現象が発生し、居所的に深い溝が形成されて加工精度が劣化してしまうことがあった。
一方、これを避けるためSiC母材と加工部の間を流れる電流を過度に制限すると、SiC母材の表面に、硬度の低いSiC酸化皮膜が十分に形成されず、加工時間の長期化を招いてしまう。
【0011】
さらに、円柱状のSiCインゴットを軸方向に直行する面に沿ってスライスする際、切断の進行につれて母材に対する加工部(ワイヤ電極)の対向面積が変化し、切断開始から中心に達するまで増大し、中心に達したときに最大値となり、以後、切断終了まで減少する。
これに伴いSiC酸化皮膜の形成速度も変化する。
【0012】
SiC母材と加工部の間を流れる電流により形成されるSiC酸化皮膜は、SiC母材よりも電気的抵抗値が大きくなる。
定圧加工型のインゴットスライサを例にすると、ワイヤが加工電流の流れる電極となり、電極ワイヤに負荷する荷重を所定値に制御することで、インゴットの切除分だけ、電極ワイヤを保持するワイヤ保持部が下降する。
ここで、加工電流を、放電現象が発生しない程度の所定値に制限することを前提に、ワイヤ保持部の下降速度(加工部移動速度)、SiC母材に接触しているワイヤ部全体で除去する単位時間当たりの皮膜除去量(皮膜除去速度)、ワイヤがSiC母材に接触している面積を対向面積、SiC母材がワイヤ電極保持部にワイヤに作用する荷重(切断抵抗力)、そして、ワイヤに負荷する荷重(機械加工強度)の関係について考える。
【0013】
同一の機械加工強度では、スライシング初期、終了時など、対向面積が小さいときは切断抵抗力も小さくなり、加工部移動速度、皮膜除去速度が上昇する。一方、インゴットの中心部をスライシングしている場合は、対向面積、切断抵抗力が大きくなり、加工部移動速度、皮膜除去速度が減少する。なお、被膜生成速度は加工電流に比例する。
【0014】
図1のAは、機械加工強度がSiC酸化皮膜の形成速度に対して過度に大きいため、砥粒が、硬度が高く電気的抵抗値の低いSiC母材に直接接触し、加工電流を対向面積で除した電流密度が高くなっている状態を示している。
電流密度が高くなると、同一電解加工強度においても、SiC酸化皮膜の形成速度が相対的に早くなるが、それよりも機械加工強度が大きすぎるため、SiC酸化皮膜の除去速度がこれを上回り、SiC母材に直接接触して被膜除去速度が急激に低下し、使用した加工装置の機械加工強度を十分に活かすことができていない。
また、SiCと電極が加工液のみを介して対向するため、短絡(放電)のリスクも高まる。
【0015】
一方、図1のCは、機械加工強度がSiC酸化皮膜の形成速度に対して過度に小さいため、SiC酸化皮膜の厚さが過度に増大し、電流密度が低くなっている状態を示している。電流密度が低くなると、同一電解加工強度においても、SiC酸化皮膜の形成速度が相対的に遅くなり、SiC酸化皮膜の形成が非効率なものとなり、スライシングに要する時間も長期化してしまう。
加工部の対向面によるSiC酸化皮膜除去速度を単位面積あたりでみると、SiC酸化皮膜が存在する場合、機械加工強度が高いほど、除去されるSiC酸化皮膜が増える。
インゴットスライシングのように、加工の進行に伴い対向面積が変化する場合、一旦最適な機械加工強度を得ることができたとしても、対向面積の変化に応じて機械加工強度を変化させなければ、AあるいはCの状態に陥る可能性がある。
したがって、単位面積あたりの機械加工強度が一定となるよう、すなわち、機械加工強度を対向面積に比例させることで、図1のBのように、SiC酸化皮膜の生成と加工部による除去がそれぞれ効率の良い状態でバランスし、理想的な加工効率を得ることができる。
【0016】
しかし、電極、加工物の対向面が平坦、且つ加工間隙が一定であれば、対向面積の把握は容易であるが、電極、加工物表面が持つ粗さ、うねり、両者の平行度などにより、加工間隙が常時変化している。インゴットスライシングの場合、電極はワイヤなどが用いられるが、剛性が低いため、加工荷重による変形、振動の発生による加工間隙の時間的、空間的変動が発生し、加工電流が生成されている被膜厚さなどによっても変化するため、実際の対向面積の把握は難しい。
【0017】
そこで、対向面積、加工部移動速度、皮膜除去速度の関係に注目すると、
被膜除去速度=加工部移動速度×対向面積
であるから、被膜除去速度/加工部移動速度により、対向面積に関連する値を求めることができる。すなわち、
被膜除去速度/加工部移動速度=対向面積関連値
被膜除去速度=被膜生成速度とするには、被膜生成速度が加工電流に比例することから、対向面積関連値を、加工電流を加工部動速度で除した値に基づいて制御することにより、理想的な加工状態を維持することができる。
さらに、加工電流を放電現象が発生する直前の臨界値まで高める加工電流制御を付加することにより、放電現象による加工品位の低下を回避しながら、加工効率を最大限に高めることができる。
【0018】
そこで、本発明の目的は、SiC母材と加工部の間に電解電圧を印加することにより、SiC母材表面に、該SiCウエハの母材より硬度の低いSiC変性被膜を形成して加工を行う際、加工開始から終了まで、機械加工強度を最適値に維持することにより、加工効率と加工品位を両立させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、本発明の加工装置においては、砥粒を用いてSiC母材を加工する際、加工部に前記砥粒を含む電解液を供給するとともに、前記SiC母材と加工部の間に電解電圧を印加することにより、前記SiC母材表面に、該SiC母材より硬度の低いSiC変性被膜を形成し、前記砥粒の硬度を、該SiC変性被膜より硬度が高く、かつ、前記SiC母材より硬度の低いものとし、前記電解電圧の印加により流れる加工電流の電流値を計測する加工電流計測装置と、前記加工部の移動速度を計測する加工部移動速度計測装置とを具備し、前記加工電流を前記移動速度で除することにより、前記加工部が前記SiC母材に対向する対向面積に関連する対向面積関連値を算出し、この値に基づいて、前記加工部における単位面積あたりの機械加工強度が一定となるよう制御するようにした。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、SiC母材と加工部の間に、放電現象を回避しながら、SiC酸化皮膜の生成速度と除去速度をバランスさせた理想的な加工状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、機械加工強度、電解加工強度と電流密度との関係を示す図である。
図2図2は、実施例1による機械加工強度制御のフローチャートを示す。
図3図3は、実施例2による機械加工強度制御と電解加工強度制御のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
図2は、本実施例における機械加工強度制御のフローチャートを示す。なお、本実施例は、本発明を電極ワイヤによるインゴットスライシングに適用したもので、電極ワイヤに負荷する荷重を所定値に制御し、インゴットの切除分だけ電極ワイヤを下降させる定圧加工を前提としている。なお、電極ワイヤを保持する保持部には、下降方向(Z方向)の位置を検出するセンサが取り付けられており、この検出値を時間で微分することによりZ方向の移動速度を計測することができる。
S1:機材を配置する。
S2;加工部(電極ワイヤ)に対するSiC母材のX方向、Y方向に位置決めする。
S3;加工条件(電極ワイヤに与える荷重、線速、加工電圧、加工電流)を前回のスライシングで得られたデータベースを用いて初期値(初期加工条件)に設定する。
S4;S3で決定した初期加工条件により加工を開始する。
S5;一定時間加工を行う。(加工条件により10秒〜10分に設定)
S6;Z方向の変化量が一定(加工初期条件により、SiC酸化皮膜の生成と加工部による除去がバランスし、加工部移動速度が一定に収束した状態)となるまで、初期加工条件による加工S5を継続し、Z方向の変化量が一定となればS7に進む。
S7;Z方向の変化量が一定となったとき、Z方向速度(n)(初期値は、初期加工条件で設定したZ方向速度)、加工電流計測装置により加工電流(n)を測定し、対向面積関連値(加工電流値(n)/加工部移動速度(n))を算出する。
S8;一定時間加工を行う。
S9;加工が完了(スライシングが終了)したか否かを確認し、完了していれば、S10で加工プロセスを終了する。
S11;加工が完了していなければ、Z方向速度(n+1)、加工電流(n+1)を新たに測定し、対向面積関連値(加工電流値/加工部移動速度)を算出する。
S12;今回求めた対向面積関連値(n+1)を前回求めた対向面積関連値(n)で除した値を積算することにより、機械加工強度を制御し、理想的な加工状態を維持する。
【0024】
[実施例2]
本実施例は、上述した機械加工強度の制御に加え、放電現象の発生状態を監視して、加工電流を放電現象が発生する直前の臨界値まで高める加工電流制御を付加し、電解加工強度を最大限高め、加工速度を最大限に高めるようにしたものである。
図3に、機械加工強度、加工電流を制御するためのフローチャートを示す。
【0025】
S21:機材を配置する。
S22;加工部(電極ワイヤ)に対するSiC母材のX方向、Y方向に位置決めする。
S23;加工条件(電極ワイヤに与える荷重、線速、加工電圧、加工電流)を前回のスライシングで得られたデータベースを用いて初期値(初期加工条件)に設定する。
S24;S23で決定した初期加工条件により加工を開始する。
S25;加工が完了(スライシングが終了)したか否かを確認し、完了していれば、S26で表面検査の上、加工を終了し、完了していなければ、S27に進む。
S27;放電現象が発生しているか、電解加工強度が最大値(加工電流の上限値)に達しているか否かをチェックし、いずれかの条件を満たす場合は、S43で電解加工強度を減少(加工電流を減少)させる。
S28;放電現象が発生しておらず、かつ、電解加工強度が最大値に達していないときは、Z方向の変化量が一定となるまで、S25に戻り、同一加工条件による加工を継続し、Z方向の変化量が一定となればS29に進む。
S29;今回の加工電流値(n)を計測する。
S30;今回の加工電流値(n)が前回の加工電流値(n−1)以下であるか否かを判定し、以下の場合はS31に、上回っている場合はS43で電解加工強度を減少(加工電流を減少)させる。
【0026】
S31;電解増加フラグ(S40で後述)がオンか否か確認し、オンの場合、S43で
電解加工強度を減少(加工電流を減少)させ、オフの場合S32に進む。
S32;S30で加工電流値(n)が前回の加工電流値(n−1)を上回っており、かつ、S31で電解増加フラグがオフの場合、機械加工強度を増加させ、S33に進む。
すなわち、S30で、今回の加工電流値(n)が前回値(n−1)以下と判定された場合、Z方向の変化量が一定になった時点において、機械加工強度がSiC酸化皮膜の生成速度以下で、抵抗値の高いSiC酸化皮膜が増大していることから、S31で電解増加フラグがオフであれば、S32で機械加工強度を増加させ、機械加工強度をSiC酸化皮膜の生成速度とバランスさせる。
【0027】
S33;加工が完了(スライシングが終了)したか否かを判断し、完了していれば、S34で加工を終了し、完了していなければ、S35に進む。
S35;加工電流を監視し、スパイク状の変動が発生した場合、放電現象が発生したとしてS43に進み、放電現象が発生していなければ、S36に進む。
S36;Z方向の変化量が一定か否か確認し、一定でない場合は、S33に戻り同一加工条件での加工を継続し、一定となった場合がS37に進む。
S37;この時点での加工電流値(n+1)を計測する。
S38:加工電流値(n+1)が加工電流値(n)を上回っているか否か、機械加工強度が最大値(電極ワイヤに与える荷重の上限)以上となっているか否か判定し、上回っていない場合S39に進み、上回っている場合は、機械加工強度が上限を超えたとして、S40で機械加工強度を減少させた後、S45に進む。
S39;現時点の加工電流値(n+1)、前回の加工電流値(n)、前々回の加工電流値(n−1)を比較し、これらに大きな変動があるか否か判定し、大きな変動がない場合、電解加工強度が不足しているとして、S41で電解加工強度を単位ステップ増加させ、電解増加フラグをオンとする。大きな変動がある場合、機械加工強度が不足しているとして、S42で電解増加フラグをオフとしてS25に戻る。
【0028】
S43;S27で放電現象の発生したこと、あるいは、最大電解加工強度以上となったと判定された場合、S30で加工電流値(n)が前回の加工電流値(n−1)以下と判定された場合、S31で電解増加フラグがオンになっていることが判定された場合、S32で機械加工強度を増加させた場合、S35で放電現象の発生が判定された場合、電解加工強度が上限になっているとして、電解加工強度(加工電流値)を減少させる。
S44;放電現象が発生しているか否か判定し、放電現象が発生している場合は、S43に戻り、電解加工強度を減少させ、放電現象の発生が止まった場合、S45に進む。
S45;放電現象が発生していないときは、Z方向の変化量が一定となるまで、S44に戻り、加工を継続し、Z方向の変化量が一定となればS46に進む。
S46;今回の加工電流値(n)を計測し、対向面積関連値(n)(加工電流値/加工部移動速度)を算出する。
S47;同一条件で一定時間加工を継続する。
S48;再度、加工電流値(n)を計測し、対向面積関連値(n)(加工電流値/加工部移動速度)を算出する。
S49;今回求めた対向面積関連値(n+1)を前回求めた対向面積関連値(n)で除した値を積算することにより、機械加工強度を制御し、理想的な加工状態を維持する。
S50;加工が完了したか否かを判定し、完了していない場合は、S46に戻り加工を継続し、完了した場合、今回の加工を終了する。
【0029】
以上の実施例では、SiCインゴットのスライシングについて説明したが、SiCウエハの研磨(ラッピング、ポリッシング)にも適用できる。SiCウエハ研磨の場合、SiCスライシングと比較して、加工部である研磨パッドと、SiCウエハ表面との対向面が平坦、且つ加工間隙が一定であれば、接触面積が長時間にわたり大きく変化することはない。
しかし、SiCウエハ、研磨パッドの持つ粗さ、うねり、両者の平行度などの変動により、接触面積、すなわち、対向面積が短時間に微細に変動し、さらに、加工電流が生成されている被膜厚さなどによっても変動する。
こうした変動を直接計測することは困難であるが、本発明によれば、こうした変動を実施例1、2と同様に、加工電流と加工部の移動速度で算出できるので、同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば放電現象を回避しながら、SiC酸化皮膜の生成速度と除去速度をバランスさせた理想的な加工状態を維持することができるので、高品位SiC半導体製造デバイスとして広く採用されること期待できる。

図1
図2
図3