【実施例】
【0023】
[実施例1]
図2は、本実施例における機械加工強度制御のフローチャートを示す。なお、本実施例は、本発明を電極ワイヤによるインゴットスライシングに適用したもので、電極ワイヤに負荷する荷重を所定値に制御し、インゴットの切除分だけ電極ワイヤを下降させる定圧加工を前提としている。なお、電極ワイヤを保持する保持部には、下降方向(Z方向)の位置を検出するセンサが取り付けられており、この検出値を時間で微分することによりZ方向の移動速度を計測することができる。
S1:機材を配置する。
S2;加工部(電極ワイヤ)に対するSiC母材のX方向、Y方向に位置決めする。
S3;加工条件(電極ワイヤに与える荷重、線速、加工電圧、加工電流)を前回のスライシングで得られたデータベースを用いて初期値(初期加工条件)に設定する。
S4;S3で決定した初期加工条件により加工を開始する。
S5;一定時間加工を行う。(加工条件により10秒〜10分に設定)
S6;Z方向の変化量が一定(加工初期条件により、SiC酸化皮膜の生成と加工部による除去がバランスし、加工部移動速度が一定に収束した状態)となるまで、初期加工条件による加工S5を継続し、Z方向の変化量が一定となればS7に進む。
S7;Z方向の変化量が一定となったとき、Z方向速度(n)(初期値は、初期加工条件で設定したZ方向速度)、加工電流計測装置により加工電流(n)を測定し、対向面積関連値(加工電流値(n)/加工部移動速度(n))を算出する。
S8;一定時間加工を行う。
S9;加工が完了(スライシングが終了)したか否かを確認し、完了していれば、S10で加工プロセスを終了する。
S11;加工が完了していなければ、Z方向速度(n+1)、加工電流(n+1)を新たに測定し、対向面積関連値(加工電流値/加工部移動速度)を算出する。
S12;今回求めた対向面積関連値(n+1)を前回求めた対向面積関連値(n)で除した値を積算することにより、機械加工強度を制御し、理想的な加工状態を維持する。
【0024】
[実施例2]
本実施例は、上述した機械加工強度の制御に加え、放電現象の発生状態を監視して、加工電流を放電現象が発生する直前の臨界値まで高める加工電流制御を付加し、電解加工強度を最大限高め、加工速度を最大限に高めるようにしたものである。
図3に、機械加工強度、加工電流を制御するためのフローチャートを示す。
【0025】
S21:機材を配置する。
S22;加工部(電極ワイヤ)に対するSiC母材のX方向、Y方向に位置決めする。
S23;加工条件(電極ワイヤに与える荷重、線速、加工電圧、加工電流)を前回のスライシングで得られたデータベースを用いて初期値(初期加工条件)に設定する。
S24;S23で決定した初期加工条件により加工を開始する。
S25;加工が完了(スライシングが終了)したか否かを確認し、完了していれば、S26で表面検査の上、加工を終了し、完了していなければ、S27に進む。
S27;放電現象が発生しているか、電解加工強度が最大値(加工電流の上限値)に達しているか否かをチェックし、いずれかの条件を満たす場合は、S43で電解加工強度を減少(加工電流を減少)させる。
S28;放電現象が発生しておらず、かつ、電解加工強度が最大値に達していないときは、Z方向の変化量が一定となるまで、S25に戻り、同一加工条件による加工を継続し、Z方向の変化量が一定となればS29に進む。
S29;今回の加工電流値(n)を計測する。
S30;今回の加工電流値(n)が前回の加工電流値(n−1)以下であるか否かを判定し、以下の場合はS31に、上回っている場合はS43で電解加工強度を減少(加工電流を減少)させる。
【0026】
S31;
電解増加フラグ(S40で後述)がオンか否か確認し、オンの場合、S43で
電解加工強度を減少(加工電流を減少)させ、オフの場合S32に進む。
S32;S30で加工電流値(n)が前回の加工電流値(n−1)を上回っており、かつ、S31で
電解増加フラグがオフの場合、機械加工強度を増加させ、S33に進む。
すなわち、S30で、今回の加工電流値(n)が前回値(n−1)以下と判定された場合、Z方向の変化量が一定になった時点において、機械加工強度がSiC酸化皮膜の生成速度以下で、抵抗値の高いSiC酸化皮膜が増大していることから、S31で
電解増加フラグがオフであれば、S32で機械加工強度を増加させ、機械加工強度をSiC酸化皮膜の生成速度とバランスさせる。
【0027】
S33;加工が完了(スライシングが終了)したか否かを判断し、完了していれば、S34で加工を終了し、完了していなければ、S35に進む。
S35;加工電流を監視し、スパイク状の変動が発生した場合、放電現象が発生したとしてS43に進み、放電現象が発生していなければ、S36に進む。
S36;Z方向の変化量が一定か否か確認し、一定でない場合は、S33に戻り同一加工条件での加工を継続し、一定となった場合がS37に進む。
S37;この時点での加工電流値(n+1)を計測する。
S38:加工電流値(n+1)が加工電流値(n)を上回っているか否か、機械加工強度が最大値(電極ワイヤに与える荷重の上限)以上となっているか否か判定し、上回っていない場合S39に進み、上回っている場合は、機械加工強度が上限を超えたとして、S40で機械加工強度を減少させた後、S45に進む。
S39;現時点の加工電流値(n+1)、前回の加工電流値(n)、前々回の加工電流値(n−1)を比較し、これらに大きな変動があるか否か判定し、大きな変動がない場合、電解加工強度が不足しているとして、S41で電解加工強度を単位ステップ増加させ、
電解増加フラグをオンとする。大きな変動がある場合、機械加工強度が不足しているとして、S42で
電解増加フラグをオフとしてS25に戻る。
【0028】
S43;S27で放電現象の発生したこと、あるいは、最大電解加工強度以上となったと判定された場合、S30で加工電流値(n)が前回の加工電流値(n−1)以下と判定された場合、S31で
電解増加フラグがオンになっていることが判定された場合、S32で機械加工強度を増加させた場合、S35で放電現象の発生が判定された場合、電解加工強度が上限になっているとして、電解加工強度(加工電流値)を減少させる。
S44;放電現象が発生しているか否か判定し、放電現象が発生している場合は、S43に戻り、電解加工強度を減少させ、放電現象の発生が止まった場合、S45に進む。
S45;放電現象が発生していないときは、Z方向の変化量が一定となるまで、S44に戻り、加工を継続し、Z方向の変化量が一定となればS46に進む。
S46;今回の加工電流値(n)を計測し、対向面積関連値(n)(加工電流値/加工部移動速度)を算出する。
S47;同一条件で一定時間加工を継続する。
S48;再度、加工電流値(n)を計測し、対向面積関連値(n)(加工電流値/加工部移動速度)を算出する。
S49;今回求めた対向面積関連値(n+1)を前回求めた対向面積関連値(n)で除した値を積算することにより、機械加工強度を制御し、理想的な加工状態を維持する。
S50;加工が完了したか否かを判定し、完了していない場合は、S46に戻り加工を継続し、完了した場合、今回の加工を終了する。
【0029】
以上の実施例では、SiCインゴットのスライシングについて説明したが、SiCウエハの研磨(ラッピング、ポリッシング)にも適用できる。SiCウエハ研磨の場合、SiCスライシングと比較して、加工部である研磨パッドと、SiCウエハ表面との対向面が平坦、且つ加工間隙が一定であれば、接触面積が長時間にわたり大きく変化することはない。
しかし、SiCウエハ、研磨パッドの持つ粗さ、うねり、両者の平行度などの変動により、接触面積、すなわち、対向面積が短時間に微細に変動し、さらに、加工電流が生成されている被膜厚さなどによっても変動する。
こうした変動を直接計測することは困難であるが、本発明によれば、こうした変動を実施例1、2と同様に、加工電流と加工部の移動速度で算出できるので、同様の効果を得ることができる。