特許第6544888号(P6544888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6544888液晶ポリエステルの製造方法、熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法、及び硬化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544888
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】液晶ポリエステルの製造方法、熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法、及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/87 20060101AFI20190705BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   C08G63/87
   C08G63/91
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-76470(P2014-76470)
(22)【出願日】2014年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-196796(P2015-196796A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月23日
【審判番号】不服2018-5397(P2018-5397/J1)
【審判請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝利
(72)【発明者】
【氏名】田口 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】中谷 晃司
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 陽子
【合議体】
【審判長】 近野 光知
【審判官】 大熊 幸治
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−183373(JP,A)
【文献】 特開2011−208140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00-63/91
C08L67/00-67/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を、脂肪酸無水物でアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、
前記アシル化工程で得られたアシル化物と、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸とをエステル交換するエステル交換工程とを含む液晶ポリエステルの製造方法であって、
前記アシル化工程及び/又はエステル交換工程は、触媒の存在下で行われ、
前記触媒は、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)又は1−メチルイミダゾールであり、
前記液晶ポリエステル中に含まれる、エステル結合以外の異種結合量が0〜200mmol/kgであり、
前記液晶ポリエステルの平均重合度は、5以上15以下である液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
晶ポリエステルと、水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物とを溶融混合する溶融混合工程を含む熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法であって、
前記液晶ポリエステルは、
芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を、脂肪酸無水物でアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、
前記アシル化工程で得られたアシル化物と、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸とをエステル交換するエステル交換工程とを含む液晶ポリエステルの製造方法であって、
前記アシル化工程及び/又はエステル交換工程は、触媒の存在下で行われ、
前記触媒は、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)であり、
前記液晶ポリエステル中に含まれる、エステル結合以外の異種結合量が0〜200mmol/kgであり、
前記液晶ポリエステルの平均重合度は、5以上15以下である液晶ポリエステルの製造方法により製造したものである、
熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法
【請求項3】
晶ポリエステルと、水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物とを、溶媒の存在下で混合する混合工程を含む熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法であって、
前記液晶ポリエステルは、
芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を、脂肪酸無水物でアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、
前記アシル化工程で得られたアシル化物と、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸とをエステル交換するエステル交換工程とを含む液晶ポリエステルの製造方法であって、
前記アシル化工程及び/又はエステル交換工程は、触媒の存在下で行われ、
前記触媒は、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)であり、
前記液晶ポリエステル中に含まれる、エステル結合以外の異種結合量が0〜200mmol/kgであり、
前記液晶ポリエステルの平均重合度は、5以上15以下である液晶ポリエステルの製造方法により製造したものである、
熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法
【請求項4】
請求項又はに記載の製造方法により製造した熱硬化性液晶ポリエステル組成物を硬化する硬化工程を含む硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルの製造方法、熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法、及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステルは、機械的特性等に優れ、様々な分野において応用されている。液晶性ポリエステルは、一般的に、芳香族ヒドロキシ酸の水酸基を脂肪酸無水物によってアシル化してアシル化物を得、該アシル化物を芳香族カルボン酸とエステル交換反応させることによって得られる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−246653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らによる検討の結果、液晶性ポリエステルの製造において、アシル化及び/又はエステル交換の際に、エステル結合以外の結合が形成され、該結合によって生じた生成物によって反応系の粘度が高まり、反応効率が低下する可能性が見出された。
【0005】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、液晶性ポリエステルの製造において、エステル結合以外の結合の形成を抑制できる液晶ポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定の触媒の存在下で、アシル化及び/又はエステル交換を行うことによって上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) 芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を、脂肪酸無水物でアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、
前記アシル化工程で得られたアシル化物と、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸とをエステル交換するエステル交換工程とを含む液晶ポリエステルの製造方法であって、
前記アシル化工程及び/又はエステル交換工程は、触媒の存在下で行われ、
前記触媒は、酢酸ランタン(III)、ジアザビシクロウンデセン、ビス(2,4−ペンタンジオナト)モリブデンジオキシド、ビス(2,4−ペンタンジオナト)亜鉛(II)、酢酸セリウム(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)、1−メチルイミダゾール、及びN,N−ジメチル−4−アミノピリジンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記液晶ポリエステル中に含まれる、エステル結合以外の異種結合量が0〜200mmol/kgである液晶ポリエステルの製造方法。
【0008】
(2) 前記触媒は、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)、及び1−メチルイミダゾールからなる群から選択される少なくとも1種である(1)に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【0009】
(3) 前記液晶ポリエステルの平均重合度は、5以上15以下である(1)又は(2)に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【0010】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の製造方法により製造した液晶ポリエステルと、水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物とを溶融混合する溶融混合工程を含む熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【0011】
(5) (1)から(3)のいずれかに記載の製造方法により製造した液晶ポリエステルと、水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物とを、溶媒の存在下で混合する混合工程を含む熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【0012】
(6) (4)又は(5)に記載の製造方法により製造した熱硬化性液晶ポリエステル組成物を硬化する硬化工程を含む硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液晶性ポリエステルの製造において、エステル結合以外の結合の形成を抑制できる液晶ポリエステルの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
<液晶性ポリエステル>
本発明における液晶性ポリエステルとは、溶融加工性ポリエステルであり、溶融時に光学的異方性を示す。溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。より具体的には溶融異方性の確認は、オリンパス社製偏光顕微鏡を使用しリンカム社製ホットステージにのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより実施できる。液晶性ポリマーは光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光は透過する。
【0016】
本発明における液晶性ポリエステルは、芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を、脂肪酸無水物でアシル化してアシル化物を得て、該アシル化物と、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸とをエステル交換することで得られる。
【0017】
芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び脂肪酸無水物のそれぞれは、通常、液晶性ポリエステルの製造において使用される公知の成分(例えば、特開2009−108180等を参照)を使用できる。
【0018】
芳香族ジオールとしては、下記(I)の一般式(式中、Arは、芳香族基、脂環基及び脂肪族基から選ばれる2価の基を表わす)で表わされるものを使用できる。芳香族ジオールの具体例としては、1,4−ベンゼンジオール、1,3−ベンゼンジオール、ナフタレン−2,6−ジオール、4,4’−ビフェニレンジオール、3,3’−ビフェニレンジオール、4,4’−ジヒロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンを挙げることができる。
【化1】
【0019】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、下記(II)の一般式(式中、Arは、2価の芳香族基を表わす)で表わされるものを使用できる。芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸等を挙げることができる。
【化2】
【0020】
脂肪酸無水物としては、アシル化剤として公知のものを使用でき、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の酸無水物や酢酸クロライド等の酸塩化物等が挙げられる。
【0021】
本発明における液晶性ポリエステルの態様は特に限定されず、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミド等が挙げられる
【0022】
本発明における液晶性ポリエステルは、より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル
(2)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、並びに、芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール及び/又はその誘導体の少なくとも1種又は2種以上とからなるポリエステル
(3)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、並びに、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及び/又はその誘導体の1種又は2種以上とからなるポリエステルアミド
(4)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、並びに、芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール及び/又はその誘導体の少なくとも1種又は2種以上とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。
【0023】
液晶性ポリエステルの構成成分として、必要に応じて、安息香酸等の単官能モノマー、芳香族ヒドロキシジカルボン酸や芳香族トリカルボン酸等の3官能モノマー等の分子量調整剤を併用してもよい。
【0024】
<液晶性ポリエステルの製造方法>
本発明の製造方法においては、アシル化工程及び/又はエステル交換工程で所定の触媒を使用する。具体的には、酢酸ランタン(III)、ジアザビシクロウンデセン、ビス(2,4−ペンタンジオナト)モリブデンジオキシド、ビス(2,4−ペンタンジオナト)亜鉛(II)、酢酸セリウム(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)、1−メチルイミダゾール、及びN,N−ジメチル−4−アミノピリジンからなる群から選択される少なくとも1種が使用される。本発明の効果を奏しやすいという点で、触媒は、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)、及び1−メチルイミダゾールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
通常、アシル化工程及び/又はエステル交換工程における触媒は、重合速度を増加させる作用を有するが、本発明者らによる検討の結果、上記の触媒によれば、重合速度を増加させるだけではなく、液晶性ポリエステルの製造において、エステル結合以外の異種結合が形成しにくくなることが見出された。エステル結合以外の異種結合としては、公知の文献(例えば、“Polymer Degradation and Stability 76 (2002) 85−94”)に例示されるケトン結合、エーテル結合等が挙げられる。液晶性ポリエステルの製造において、エステル結合以外の異種結合の形成が低減されると、反応系の粘度(溶融粘度等)が過度に高まるのを抑制でき、反応効率を改善し得る。
【0026】
アシル化工程及び/又はエステル交換工程における触媒の使用量は特に限定されないが、0.01〜1molであってもよい。従来行われてきた液晶ポリエステルの製造方法におけるアシル化工程及び/又はエステル交換工程において、触媒を上記のものに変更することで、本発明の効果が奏される。
【0027】
アシル化工程における反応条件としては、液晶性ポリエステルの構成成分のアシル化において通常適用されるものであってもよく、例えば、温度100〜220℃、常圧、反応時間1〜240分であってもよい。反応条件は、使用する出発原料、目的とする反応生成物の種類等により適宜設定することができる。
【0028】
エステル交換工程における反応条件としては、液晶性ポリエステルの構成成分のエステル交換工程において通常適用されるものであってもよく、例えば、温度160〜400℃、圧力1torr〜常圧、反応時間5〜60分であってもよい。反応条件は、使用する出発原料、目的とする反応生成物の種類等により適宜設定することができる。
【0029】
本発明による液晶性ポリエステルの製造方法においては、本発明の効果を阻害又は低下させない範囲で、安定剤、着色剤、充填剤等を添加して重合することも可能である。
【0030】
本発明の製造方法から得られた液晶性ポリエステルは、公知の重合反応(溶融重合法、溶液重合法等)に供してもよい。本発明における液晶性ポリエステルの平均重合度は、5以上15以下に調整してもよい。液晶性ポリエステルの平均重合度をかかる範囲に調整することで、低融点化でき、熱重合性官能基を添加した際に生じる硬化を抑制できる。液晶性ポリエステルの平均重合度は、液晶ポリエステルの末端数の算出(特開平5−271394号公報に記載のアミン分解HPLC法による)、及びGPC測定に基づき特定する。
【0031】
本発明の製造方法によれば、エステル結合以外の異種結合量が0〜200mmol/kgに低減された液晶ポリエステルが得られる。異種結合量は、公知の文献(例えば、Polymer Degradation and Stability 76 (2002) 85−94)に記載される、ガスクロマトグラフィーによって特定される。
【0032】
<熱硬化性液晶ポリエステル組成物>
本発明の製造方法から得られた液晶性ポリエステルを使用して、熱硬化性液晶ポリエステル組成物を調製してもよい。熱硬化性液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステルと、水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物とを混合することで得られる。
【0033】
水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物は、分子内(一分子中)に、液晶ポリエステルが分子鎖末端に有する付加反応性基(水酸基、アシルオキシ基、芳香族環、及び共役ジエン構造からなる群より選択された少なくとも1種)と反応する官能基と、熱重合性官能基(熱硬化性官能基)とを少なくとも有する化合物である。
【0034】
熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造における混合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は、その沸点(Tv)と、液晶ポリエステルの融点(Tm)との差(Tv−Tm)が、−30℃以上30℃以下である溶媒であってもよい。
【0035】
溶媒の具体例としては、特に限定されないが、ペンタフルオロフェノール(PFP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、o−ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0036】
溶媒の使用量は、水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物の使用量との関係で調整してもよい。具体的には、該化合物の量が、溶媒100質量部に対して10質量部以上200質量部以下となるように調整してもよい。
【0037】
<硬化物>
本発明における熱硬化性液晶ポリエステル組成物を加熱等によって硬化させる(硬化反応を進行させる)ことにより、硬化物が得られる。加熱によって主に、水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物に起因する熱重合性官能基同士の反応(重合反応)が進行し、硬化物が形成される。加熱の手段としては、公知乃至慣用の手段を利用することができ、特に限定されない。
【0038】
本発明における熱硬化性液晶ポリエステル組成物を硬化させる際の加熱温度(硬化温度)は、特に限定されないが、170〜250℃が好ましく、より好ましくは210〜250℃、さらに好ましくは220〜250℃である。硬化温度が170℃以上であると、硬化反応の進行が十分となりやすく、硬化物の物性が低下しにくい。一方、硬化温度が250℃以下であると、硬化物を生成させる工程が煩雑となりにくく、生産性が低下しにくい。なお、硬化温度は、硬化させる間一定となるように制御することもできるし、段階的又は連続的に変動するように制御することもできる。
【0039】
本発明における熱硬化性液晶ポリエステル組成物を硬化させる際の加熱時間(硬化時間)は、特に限定されないが、3〜600分が好ましく、より好ましくは5〜480分、さらに好ましくは5〜360分である。硬化時間が3分以上であると、硬化反応の進行が十分となりやすく、硬化物の物性が低下しにくい。一方、硬化時間が600分以下であると、硬化物の生産性が低下しにくい。
【0040】
本発明における熱硬化性液晶ポリエステル組成物の硬化は、常圧下で行うこともできるし、減圧下又は加圧下で行うこともできる。また、上記硬化は、一段階で行うこともできるし、二段階以上の多段階に分けて行うこともできる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[製造例:液晶ポリエステルの製造]
コンデンサーと撹拌機を取り付けた500mLのフラスコに、4−ヒドロキシ安息香酸94.3g(0.682mol)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸102.7g(0.546mol)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル25.4g(0.136mol)、無水酢酸156.3g(1.53mol)、及び、表1中の「触媒の種類」の項に示す触媒10.0mg(0.10mol)を入れ、窒素雰囲気下で140℃まで徐々に温度を上げた後、温度を維持しながら3時間反応させてアシル化反応を完結させた。次いで、0.8℃/分の速度で340℃まで昇温しながら酢酸及び未反応の無水酢酸を留去した。その後、340℃の温度で30分撹拌することでエステル交換反応を完結させ、液晶ポリエステルを得た。
【0043】
[Tmの測定]
上記で得られた液晶ポリエステルの融点(Tm)を、示差走査熱量分析装置(「DSC6200」、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)にて、20℃/分の昇温条件(窒素気流下)で測定した。その結果は、表1の「Tm」の項に示すとおりであった。
【0044】
[重合度の算出]
上記で得られた液晶ポリエステルの重合度を、該液晶ポリエステルの末端数の算出(特開平5−271394号公報に記載のアミン分解HPLC法による)、及びGPC測定に基づき、算出した。その結果は、表1の「重合度」の項に示すとおりであった。
【0045】
[異種結合量の算出]
各液晶ポリエステルの異種結合量(エステル結合以外の結合の量)は、Polymer Degradation and Stability 76 (2002) 85−94に記載される、ガスクロマトグラフィーによって算出した。
【0046】
[熱硬化性液晶ポリエステル組成物の製造]
上記で得られた液晶ポリエステル200gと、溶媒(o−ジクロロベンゼン)130g中に分散させたメチレンビスマレイミド(「MBPM」とも称され、「水酸基及び/又はアシルオキシ基と反応する官能基並びに熱重合性官能基を分子内に有する化合物」に相当する)65gとを、170℃で30分混合し、混合物を得た。MBPMの使用量は、溶媒100質量部に対して50質量部である。その後、溶媒を10torrの真空下で除去することで、熱硬化性液晶ポリエステル組成物を得た。
【0047】
[熱硬化性液晶ポリエステル組成物の評価]
得られた熱硬化性液晶ポリエステル組成物の溶融粘度及び熱硬化性を下記のように評価した。
【0048】
(溶融粘度)
各熱硬化性液晶ポリエステル組成物の溶融粘度は、回転型粘度計(アントンパール社製MCR301)を用い、温度170℃、せん断速度5sec−1で測定した。その結果は、表1の「溶融粘度」の項に示すとおりであった。
【0049】
(熱硬化性)
各熱硬化性液晶ポリエステル組成物の熱硬化性は、回転型粘度計(アントンパール社製MCR301)を用い、温度250℃、30分間、せん断速度5sec−1で測定したときの複素粘性率を測定し、以下の基準に基づき判定した。その結果は、表1の「熱硬化性」の項に示すとおりであった。
○:>5×10Pa・s
×:≦5×10Pa・s
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示されるとおり、本発明の製造方法によって得られる液晶ポリエステルにおいてはエステル結合以外の異種結合量が低減されており、かつ、得られる液晶ポリエステル組成物の溶融粘度が低いことがわかる。また、本発明の製造方法によって得られる液晶ポリエステルによれば、熱硬化性に優れた熱硬化性液晶ポリエステル組成物が得られる。