【文献】
J. Org. Chem.,2012年,77,4184-4188
【文献】
Research on Chemical Intermediates,2017年 4月 7日,43(8),4959-4966
【文献】
J. Am. Chem. Soc.,2005年,127,11934-11935
【文献】
J. Am. Chem. Soc.,2004年,126,5966-5967
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明する。
前記一般式(1)で表される本発明の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体において、R
1は炭素数3以上の分岐状のアルキル基、アダマンチル基、置換されていてもよいシクロアルキル基及び置換されていてもよいアリール基から選ばれる基を示す。炭素数3以上の分岐状のアルキル基としては、例えば、iso−プロピル基、tert−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基(一般に「tert−オクチル基」と呼ばれることもある)等の炭素数3〜8のものが挙げられ、炭素数4〜8のものが好ましく、特にtert−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基が好ましい。
また、R
1で表される置換されていてもよいシクロアルキル基としては、一般式(6)の式中のRで表されるシクロアルキル基及び置換シクロアルキル基の例として、後述する基を挙げることができる。
また、R
1で表されるアリール基及び置換されていてもよいアリール基としては、一般式(6)の式中のRで表されるアリール基及び置換されていてもよいアリール基の例として、後述する基を挙げることができる。
【0015】
前記一般式(1)において、R
2は炭素数3以上の分岐状のアルキル基、アダマンチル基、及び置換されていてもよいシクロアルキル基から選ばれる基を示す。触媒活性の高さや入手容易性等の点からR
2で表される分岐状のアルキル基は炭素数が3〜8であるものが好ましく、特に炭素数4〜8であるものが好ましい。またR
2で表される分岐状のアルキル基は三級アルキル基であることが好ましい。
なお、R
1がtert−ブチル基である場合に、R
1とR
2とが同一となることはない。詳細には、R
1がtert−ブチル基のときは、R
2で表される炭素数3以上の分岐状のアルキル基としては、tert−ブチル基以外のものであり、特に炭素数5〜8の分岐状の三級アルキル基が好ましい。R
1がtert−ブチル基であるときには、R
2で表される炭素数3以上の分岐状のアルキル基の特に好ましいものとしては、例えばアミル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等が挙げられる。
R
1がtert−ブチル基以外である炭素数3以上の分岐状のアルキル基、アダマンチル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいアリール基のときには、R
2で表される炭素数3以上の分岐状のアルキル基の特に好ましいものとしては、例えばtert−ブチル基、アミル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等が挙げられる。
【0016】
R
2で表される置換されていてもよいシクロアルキル基としては、一般式(6)の式中のRで表されるシクロアルキル基及び置換シクロアルキル基の例として、後述する基を挙げることができる。
【0017】
本発明において、R
1がtert−ブチル基、アダマンチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基及び置換されていてもよいアリール基から選ばれる基であることが好ましく、特に好ましいR
2との組み合わせを以下に示す。
【0018】
前記一般式(1)において、R
1がtert−ブチル基のときは、効果的に反応場の空間を遮蔽できる観点から、特にR
2は1,1,3,3−テトラメチルブチル基又はアダマンチル基が好ましい。
【0019】
前記一般式(1)において、R
1がアダマンチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基又は置換されていてもよいアリール基のとき、同様に効果的に反応場の空間を遮蔽できる。この観点から、R
1がアダマンチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基又は置換されていてもよいアリール基のときに、特にR
2はtert−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基又はアダマンチル基が好ましい。R
1がtert−ブチル基以外の基である場合、とりわけ、R
1がアダマンチル基又は1,1,3,3−テトラメチルブチル基である場合、R
2はtert−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基又はアダマンチル基であることが好ましい。特にR
1がアダマンチル基である場合、R
2はtert−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基又はアダマンチル基であることが特に好ましい。
【0020】
前記一般式(1)において、R
3は一価の置換基を示す。R
3としては、一価の置換基であれば、特に制限はないが、例えば、直鎖状又は分岐状であり且つ炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0021】
また、前記一般式(1)のnは、0〜4の整数を示し、*はリン原子上の不斉中心を示す。
【0022】
また、前記一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体は、ピラジン骨格に起因する電子求引性によってホスフィン部位のP原子の電子密度が低められている。その結果、ホスフィン部位は空気による酸化に対して不活性になり、保存安定性が高い。一方で、ホスフィン部位の電子密度の低下性は触媒活性を損なうものではない。
【0023】
前記一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の具体的な化合物を例示すると、
2−[(1S)−(1−アダマンチル)(メチル)ホスファニル]−3−(ジ−tert−ブチルホスファニル)キノキサリン、(S)−2−(ジ−tert−ブチルホスファニル)−3−[メチル(2,4,4−トリメチルペンタン−2−イル)ホスファニル]キノキサリン、2−[(ジアダマンタン−1−イル)ホスファニル]−3−[(R)−tert−ブチル(メチル)ホスファニル]キノキサリン、(S)−2−(アダマンタン−1−イル(メチル)ホスファニル)−3−[(ジアダマンタン−1−イル)ホスファニル]キノキサリン、2−[(ジアダマンタン−1−イル)ホスファニル]−3−[(S)−メチル(2,4,4−トリメチルペンタン−2−イル)ホスファニル]キノキサリン)等が挙げられる。
【0024】
次に、本発明に係る光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の好適な製造方法を説明する。
【0025】
本発明の一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の第1の好適な製造方法は、前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランを脱プロトン化させ、それによって生じた脱プロトン化物を、前記一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体に作用させて求核置換反応(1)を行い、次いで脱ボラン化反応(1)を行い前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体を得、次いで、該一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体に、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランの脱プロトン化物を作用させて求核置換反応(2)を行い、次いで脱ボラン化反応(2)を行うものである。
即ち、本発明の一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法は、下記の4つの工程を有するものである。
(1)求核置換反応(1)を行う第1工程
(2)脱ボラン化反応(1)を行う第2工程
(3)求核置換反応(2)を行う第3工程
(4)脱ボラン化反応(2)を行う第4工程
【0026】
第1工程は、前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランを脱プロトン化させて、得られた脱プロトン化物を前記一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体に作用させ、求核置換反応(1)を行って下記一般式(9)で表されるホスフィノピラジン−ボラン誘導体を得る工程である。
【0027】
【化15】
(式中、R
1、R
3、X及びnは前記一般式(1)と同義。)
【0028】
第1工程での反応は、前記一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体を含む液(以下、「A液」と言う)を調製し、A液とは別に前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランを脱プロトン化した液(以下、「B液」と言う)を調製する。
【0029】
前記A液に係る2,3−ジハロゲノピラジン誘導体は下記一般式(2)で表される。
【化16】
(式中、R
3及びnは前記一般式(1)と同義。Xはハロゲン原子を示す。)
【0030】
前記一般式(2)の式中のXはハロゲン原子であり、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらのうち、Xとしては、塩素原子が好ましい。また、前記一般式(2)の式中のR
3及びnは前記一般式(1)の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の式中のR
3及びnに相当し、R
3は一価の置換基を示し、nは、0〜4の整数を示す。
【0031】
前記一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体は、市販品であってもよい。例えば、2,3−ジハロゲノピラジン等は、東京化成工業株式会社から入手可能である。
【0032】
A液は溶液であってもスラリーであってもよい。A液で用いることができる溶媒としては、例えば、前記一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体を溶解することができ、また、前記一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジンに対して不活性な溶媒が好ましく用いられる。該溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。また、必ずしも完全に一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジンを溶解する必要はなく、スラリー状態からでも反応を開始することができる。
【0033】
A液中の前記一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体の濃度は、0.1〜80質量%、特に1〜30質量%とすることが反応性及び生産性の観点から好ましい。
【0034】
前記B液は、ホスフィン−ボランを脱プロトン化させたホスフィンボラン化合物を含む溶液である。
【0035】
前記B液に係るホスフィン−ボランは下記一般式(3)で表される。
【化17】
(式中、R
1は前記一般式(1)と同義。)
【0036】
前記一般式(3)の式中のR
1は、前記一般式(1)の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の式中のR
1に相当する。つまり、式(3)のR
1は炭素数3以上の分岐状のアルキル基、アダマンチル基、置換されていてもよいシクロアルキル基及び置換されていてもよいアリール基から選ばれる基を示し、その具体例や好ましい基は式中のR
1について上述した通りである。
【0037】
前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランは、公知の方法によって製造することができる。一般式(3)で表されるホスフィン−ボランの製造方法としては、例えば特開2001−253889号公報、特開2003−300988号公報、特開2007−70310号公報、特開2010−138136号公報及びJ.Org.Chem,2000,vol.65,P4185−4188等が挙げられる。
【0038】
前記B液の調製では、例えば、前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランを溶媒に溶解し、次いで塩基を添加する。これにより、前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランの脱プロトン化を行うことができる。
【0039】
前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランを溶解する溶媒は、前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボラン及び該ホスフィン−ボランから脱プロトン化により生成されるホスフィン化合物に対して不活性な溶媒であれば、特に制限なく用いることができる。該溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。
【0040】
B液の調製において、溶媒中の前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランの濃度は1〜80質量%、特に5〜30質量%とすることが反応性及び生産性の観点から好ましい。
【0041】
B液の脱プロトン化で用いる塩基としては、例えば、n−ブチルリチウム(n−BuLi)、sec−ブチルリチウムリチウム、ジイソプロピルアミド、メチルマグネシウムブロミド、t−ブトキシカリウム、ヒューニッヒ塩基、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられ、好ましくはn−ブチルリチウムである。
【0042】
塩基の添加量は、前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランに対する塩基のモル比で1.0〜1.5、特に1.0〜1.2とすることが経済性と反応性の観点から好ましい。
【0043】
前記塩基の添加温度は−20〜20℃、特に−20〜0℃とすることが反応性と副反応の防止の観点から好ましい。
【0044】
前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランを含む液に、塩基を添加することにより、前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランの脱プロトン化が速やかに行われるが、必要に応じて脱プロトン化の反応を完結させるため塩基の添加終了後に引き続き熟成反応を行うことができる。
【0045】
第1工程での反応において、A液をB液へ、又はB液をA液へ添加することで求核置換反応(1)を行って、前記一般式(9)で表されるホスフィノピラジン−ボラン誘導体を得ることができる。
【0046】
A液又はB液の添加は、A液中の前記一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体に対する、前記一般式(3)で表されるホスフィン−ボランから脱プロトン化されたホスフィン化合物のモル比で1.0〜2.0、特に1.0〜1.5となるように添加することが反応性と経済性の観点から好ましい。
【0047】
また、A液又はB液の添加速度は、安定した品質のものを得る観点から一定速度であることが好ましい。
【0048】
A液又はB液の添加温度は、−20〜50℃、特に−20〜5℃とすることが反応性と副反応の防止の観点から好ましい。
【0049】
A液又はB液の添加後、必要により引続き求核置換反応(1)を完結させるため熟成反応を行うことができる。この熟成反応を行う場合の反応温度は−20〜80℃、特に0〜50℃とすることが反応速度と得られる目的物の純度の観点から好ましい。
【0050】
求核置換反応(1)終了後、必要により分液洗浄、抽出、蒸留、脱溶媒等の常法の精製を行って、前記一般式(9)で表されるホスフィノピラジン−ボラン誘導体を得る。
【0051】
第2工程は、第1工程で得られた前記一般式(9)で表されるホスフィノピラジン−ボラン誘導体を脱ボラン化剤により溶媒中で脱ボラン化反応(1)させて下記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体を得る工程である。
【0052】
【化18】
(式中、R
1、R
3及びnは前記一般式(1)と同義。Xは前記一般式(2)と同義)
【0053】
第2工程で用いることができるボラン化剤としては、例えばN,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、トリエチレンジアミン(DABCO)、トリエチルアミン、HBF
4、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられるが、好ましくはTMEDAである。前記脱ボラン化剤の添加量としては、前記一般式(9)で表されるホスフィノピラジン−ボラン誘導体に対し、通常2〜20当量であり、好ましくは3〜10当量である。
【0054】
第2工程で用いることができる溶媒としては、前記一般式(9)で表されるホスフィノピラジン−ボラン誘導体を溶解することができ、該ホスフィノピラジン−ボラン誘導体及び生成する一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体に対して不活性な溶媒であれば特に制限なく用いることができる。例えば、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられ、これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。
【0055】
前記脱ボラン化反応(1)の反応温度は、好ましくは−20〜80℃、より好ましくは−20〜50℃とすることが反応速度と得られる目的物の純度の観点から好ましい。また、脱ボラン化反応(1)の反応時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは1〜5時間である。
【0056】
脱ボラン化反応(1)の終了後、必要により、分液洗浄、抽出、カラムクロマトグラフィー、蒸留、脱溶媒等の常法の精製を行って前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体を得る。
【0057】
第3工程は、第2工程で得られた前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体に、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランを脱プロトン化させて作用させ、求核置換反応(2)を行って下記一般式(10)で表される光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体を得る工程である。
【0058】
【化19】
(式中、R
1、R
2、R
3、n及び*は前記一般式(1)と同義)
【0059】
第3工程での反応は、前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体を含む液(以下、「C液」と言う)を調製し、C液とは別に前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランを脱プロトン化した液(以下、「D液」と言う)を調製する。
【0060】
C液は溶液であってもスラリーであってもよい。C液で用いることができる溶媒としては、例えば、前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体を溶解することができ、また、前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体に対して不活性な溶媒が好ましく用いられる。該溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。また、必ずしも完全に一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体を溶解する必要はなく、スラリー状態からでも反応を開始することができる。
【0061】
C液中の前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体の濃度は、0.1〜80質量%、特に1〜50質量%とすることが生産性と副反応の制御の観点から好ましい。
【0062】
前記D液は、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランを脱プロトン化させた光学活性なホスフィンボラン化合物を含む溶液である。
【0063】
前記D液に係る光学活性なホスフィン−ボランは下記一般式(5)で表される。
【化20】
(式中、R
2及び*は前記と同義。)
【0064】
前記一般式(5)の式中のR
2は、前記一般式(1)の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の式中のR
2に相当する。つまり、式(4)のR
1がtert−ブチル基のときには式(5)のR
2はtert−ブチル基以外であることを条件として、式(5)のR
2は炭素数3以上の分岐状のアルキル基、アダマンチル基及び置換されていてもよいシクロアルキル基から選ばれる基を示す。式(5)のR
2の例及び好ましいものとしては、式(1)のR
2について上述したものが挙げられる。例えば式(5)のR
2で表される炭素数3以上の分岐状のアルキル基としては、炭素数4〜8の分岐状の三級アルキル基が好ましい。式(4)のR
1がtert−ブチル基以外の基のときには、式(5)のR
2で表される炭素数3以上の分岐状のアルキル基としては、例えばtert−ブチル基、アミル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等が挙げられる。式(4)のR
1がtert−ブチル基である場合には、式(5)のR
2で表される炭素数3以上の分岐状のアルキル基としては、例えばアミル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等が挙げられる。
【0065】
前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランは、公知の方法によって製造することができる。一般式(5)で表されるホスフィン−ボランの製造方法としては、例えば特開2001−253889号公報、特開2003−300988号公報、特開2007−70310号公報、特開2010−138136号公報及びJ.Org.Chem,2000,vol.65,P4185−4188等が挙げられる。
【0066】
前記D液の調製では、例えば、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランを溶媒に溶解し、次いで塩基を添加する。これにより、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランの脱プロトン化を行うことができる。
【0067】
前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランを溶解する溶媒は、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボラン及び該光学活性なホスフィン−ボランから脱プロトン化により生成される光学活性なホスフィン化合物に対して不活性な溶媒であれば、特に制限なく用いることができる。該溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。
【0068】
D液の調製において、溶媒中の前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランの濃度は1〜80質量%、特に5〜30質量%とすることが反応性及び生産性の観点から好ましい。
【0069】
D液の脱プロトン化で用いる塩基としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、メチルマグネシウムブロミド、t−ブトキシカリウム、ヒューニッヒ塩基、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられ、好ましくはn−ブチルリチウムである。
【0070】
塩基の添加量は、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランに対する塩基のモル比で1.0〜2.0、特に1.0〜1.5とすることが経済性と反応性の観点から好ましい。
【0071】
前記塩基の添加温度は−20〜20℃、特に−20〜0℃とすることが前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランの光学純度を保ったまま脱プロトン化することができる観点から好ましい。
【0072】
前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランを含む液に、塩基を添加することにより、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィンーボランの脱プロトン化が速やかに行われるが、必要に応じて脱プロトン化の反応を完結させるため塩基の添加終了後に引き続き熟成反応を行うことができる。
【0073】
第3工程での反応において、C液をD液へ、又はD液をC液へ添加することで求核置換反応(2)を行って、前記一般式(10)で表される光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体を得ることができる。
【0074】
C液又はD液の添加は、C液中の前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体に対する、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランから脱プロトン化された光学活性なホスフィン化合物のモル比で1.0〜2.0、特に1.0〜1.5となるように添加することが反応性と経済性の観点から好ましい。
【0075】
また、C液又はD液の添加速度は、安定した品質のものを得る観点から一定速度で添加することが好ましい。
【0076】
C液又はD液の添加温度は、−20〜50℃、特に−20〜0℃とすることが光学純度が高いものを高収率で得る観点から好ましい。
【0077】
C液又はD液の添加後、必要により引続き求核置換反応(2)を完結させるため熟成反応を行うことができる。この熟成反応を行う場合の反応温度は−20〜50℃、特に−20〜30℃とすることが光学純度が高いものを高収率で得る観点から好ましい。
【0078】
求核置換反応(2)終了後、必要により分液洗浄、抽出、蒸留、脱溶媒等の常法の精製を行って前記一般式(10)で表される光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体を得る。
【0079】
第4工程は、第3工程で得られた前記一般式(10)で表される光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体を脱ボラン化剤により脱ボラン化反応(2)を溶媒中で行って目的とする下記一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る工程である。
【0080】
【化21】
(式中、R
1、R
2、R
3、n及び*は前記と同義。)
【0081】
第4工程で用いることができるボラン化剤としては、例えばN,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、トリエチレンジアミン(DABCO)、トリエチルアミン、HBF
4、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられるが、好ましくはTMEDAである。前記脱ボラン化剤の添加量としては、前記一般式(10)で表される光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体に対し、通常2〜20当量であり、好ましくは3〜10当量である。
【0082】
第4工程で用いることができる溶媒としては、前記一般式(10)で表されるホスフィノピラジン−ボラン誘導体を溶解することができ、該ホスフィノピラジン−ボラン誘導体及び生成する一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体に対して不活性な溶媒であれば特に制限なく用いることができる。例えば、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられ、これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。
【0083】
前記脱ボラン化反応(2)の反応温度は、好ましくは−20〜80℃、より好ましくは−20〜50℃とすることが光学純度の高い前記一般式(1)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る観点から好ましい。また、脱ボラン化反応(2)の反応時間は、30分以上、特に1〜10時間であることが好ましい。
【0084】
脱ボラン化反応(2)の終了後、必要により、分液洗浄、抽出、晶析、蒸留、昇華、カラムクロマトグラフィーの常法の精製を行って目的とする前記一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る。
【0085】
また、本発明の一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法は、前述した第1工程及び第2工程を行った後に、下記の第A工程を行う方法(以下、「第2の製造方法」ともいう)でも製造することができる。
第A工程は、第2工程で得られた前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体と、前記一般式(5)で表される光学活性なホスフィン-ボラン及び脱ボラン化剤を含む液(以下、「Y液」と言う)に、塩基を添加して一気に一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る工程である。
【0086】
なお、第2の製造方法は、R
1及びR
2がいずれもt−ブチルであることを許容する。以下では、R
1及びR
2がいずれもt−ブチルであることを許容する場合の一般式(1)を一般式(1’)と記載し、一般式(5)を一般式(5’)と記載する。一般式(1)と一般式(1’)とはR
1及びR
2がいずれもt−ブチルである場合を前者が含まず、後者が含む点以外は同じである。一般式(5)と一般式(5’)との関係も同様である。
【0087】
Y液中の一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体の含有量は、Y液全量に対して、1〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。
前記一般式(5’)で表される光学活性なホスフィン−ボランは、上述した通り、前述した通りR
1及びR
2がいずれもt−ブチルである場合を許容する以外は第3工程で用いた一般式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランと同じものを用いることができる。前記一般式(5’)で表される光学活性なホスフィン-ボランの添加量は、前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体に対するモル比で1.0〜2.0、特に1.0〜1.5となるように添加することが反応性と経済性の観点から好ましい。
【0088】
第A工程で用いる脱ボラン化剤は、前述した第3工程と同じものを用いることができる。脱ボラン化剤の添加量は、一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体に対して、通常2〜20当量であることが好ましく、3〜10当量であることがより好ましい。
【0089】
Y液は、前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体と、前記一般式(5’)で表される光学活性なホスフィン-ボラン及び脱ボラン化剤が溶媒に溶解又は分散されている液である。
Y液に用いられる溶媒としては、前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体を溶解又は分散することができ、前記一般式(4)で表されるホスフィノピラジン誘導体に対して不活性な溶媒であれば、特に制限はない。Y液の調製に用いることができる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。
【0090】
第A工程に係る塩基としては、例えば、n−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、メチルマグネシウムブロミド、カリウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、ヒューニッヒ塩基、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、第A工程に係る塩基としては、カリウム−tert−ブトキシドが、反応収率が優れ、品質が優れたものが得られる点で好ましい。
【0091】
第A工程では、Y液と塩基とを混合して反応を行い、一般式(1’)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る。Y液と塩基とを混合する方法としては、Y液に塩基を添加することが好ましい。Y液に塩基を添加する場合、第A工程では、塩基が溶媒に溶解されている溶液(以下、「Z液」と言う)をY液に添加してもよいし、塩基を固体としてY液に添加してもよい。第A工程では、Y液にZ液を添加することが、反応を制御し易く、また、安定した品質のものが得られやすい点で好ましい。
【0092】
Z液中の塩基の含有量は、特に制限されないが、Z液全量に対し、1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%であることが、反応性及び生産性が高い点で好ましい。
Z液に用いられる溶媒は、塩基を溶解することができ、不活性な溶媒であれば、特に制限されない。Z液に係る溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いられる。
【0093】
第A工程において、Y液への塩基の添加量は、Y液中の一般式(5’)で表される光学活性なホスフィン−ボラン1モルに対して、1.0〜1.5モル、好ましくは1.0〜1.2モルであることが、経済性が高く、反応性が高い点で好ましい。
【0094】
第A工程において、固体又は液体の塩基をZ液としてY液に添加する場合又は液体の塩基をY液に添加する場合、Y液への塩基の添加速度は、副反応が起らない範囲で反応熱が制御できれば、特に制限されないが、Y液への塩基の添加速度は、安定した品質のものが得られる点で、一定速度であることが好ましい。固体の塩基を直接Y液に添加する場合、反応熱の様子をみながら固体の塩基を分割添加することが望ましい。
【0095】
第A工程において、Y液に塩基を添加するときのY液の温度(反応液の温度)は、工業的に有利な点で−25〜50℃が好ましく、特に光学純度が高いものが高収率で得られる点で−25〜20℃が好ましい。
【0096】
第A工程では、Y液に塩基を添加した後、必要により、反応を完結させるために熟成を行うことができる。熟成を行う場合の熟成温度は、工業的に有利な点で−25〜80℃が好ましく、特に光学純度が高いものが高収率で得られる点で−25〜30℃が好ましい。
終了後、必要により、分液洗浄、抽出、晶析、蒸留、昇華、カラムクロマトグラフィーの常法の精製を行って目的とする前記一般式(1’)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る。
【0097】
本発明に係る前記一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体は、配位子として、遷移金属と共に錯体を形成することができる。この遷移金属錯体は不斉合成触媒として有用なものである。不斉合成としては、例えば、オレフィンのヒドロホウ素化反応、Enantioselective Substitution of Allylic Carbonates with Diboron、Dearomatization/Borylation of Pyridinesによる光学活性ピぺリジン及びテトラヒドロキノリン誘導体化合物の合成、アリルアセタール誘導体及びアリルケタール誘導体へのエナンチオ選択的ホウ素化反応、デヒドロアミノ酸の不斉水素化反応、C−C結合やC−N結合を伴う不斉カップリング反応、不斉ヒドロシリル化反応、不斉マイケル反応等が挙げられる。
【0098】
錯体を形成することができる遷移金属としては、例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ニッケル、鉄、銅等が挙げられ、好ましくはロジウム金属、パラジウム金属又は銅金属である。
【0099】
一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法としては、上記の通りであるが、前述した第1工程〜第4工程を有する製造方法において、一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体に、脱プロトン化された式(3)で表されるホスフィン−ボランを先に作用させる代わりに、脱プロトン化された式(5)で表される光学活性なホスフィン−ボランを先に作用させて芳香族求核置換反応及び脱ボラン化反応を行ってもよい。その場合は、得られたホスフィノピラジン誘導体に対し、脱プロトン化された式(3)で表されるホスフィン−ボランを作用させて芳香族求核置換反応及び脱ボラン化反応を行うことにより、式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る。
しかしながら、上記の通り、先に脱プロトン化された式(3)で表されるホスフィン−ボランを作用されることで、式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を光学純度の高めて得ることができるため、好ましい。
なお、前述した第1工程、第2工程及び第A工程を有する場合も同様に、一般式(2)で表される2,3−ジハロゲノピラジン誘導体に、脱プロトン化された式(3)で表されるホスフィン−ボランを先に作用させる代わりに、脱プロトン化された式(5’)で表される光学活性なホスフィン−ボランを先に作用させる方法も考えられるが、脱プロトン化された式(3)で表されるホスフィン−ボランを先に作用させ、その後で式(5’)で表される光学活性なホスフィン−ボランを作用させることで、式(1’)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を光学純度の高めて得ることができるため、好ましい。
【0100】
一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を配位子としてロジウム金属と共に錯体を形成させる方法としては、例えば、実験化学講座第4版(日本化学会編、丸善株式会社発行第18巻 327〜353頁)に記載されている方法に従えばよく、例えば、一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と、ビス(シクロオクタン−1,5−ジエン)ロジウムヘキサフルオロアンチモン酸塩、ビス(シクロオクタン−1,5−ジエン)ロジウムテトラフルオロホウ酸塩等と反応させることにより、ロジウム錯体を製造することができる。
【0101】
一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を配位子としてパラジウム金属と共に錯体を形成させる方法としては、例えば“Y.Uozumi and T.Hayashi,J.Am.Chem.Soc.,1991,113,9887.”に記載の方法に従い、例えば、一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と、π−アリルパラジウムクロリドを反応させることにより、パラジウム錯体を製造することができる。
【0102】
一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を配位子として銅金属と共に錯体を形成させる方法としては、例えば、一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体とCu(OtBu)を溶媒中で混合する事で容易に製造することができる。また、2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体共存下、銅(I)塩とKOtBuを溶媒中で混合することにより、製造することもできる。銅(I)塩としては、例えば、CuF、CuCl、CuBr、CuI、CuPF
6、CuBPh
4、CuBF
4、CuOAc、CuBF
4(MeCN)
4等が挙げられる。1価のCuイオンと一般式(1)で表される誘導体は、通常モル比1:1で錯体を形成する。
【0103】
一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を配位子として銅金属と共に錯体を形成させた銅金属錯体(以下、単に「銅金属錯体」ということがある)は、特にヒドロホウ素化反応等の種々のホウ素化反応の不斉触媒として有用である。
【0104】
本発明に係る有機ホウ素化合物の製造方法は、本発明の銅金属錯体を不斉触媒として用いて末端アルケンのMarkovnikov選択的ヒドロホウ素化反応により、有機ホウ素化合物を製造するものである。
即ち、本発明に係る有機ホウ素化合物の製造方法は、本発明の銅金属錯体を不斉触媒(以下、単に「不斉触媒」ということがある。)として用いて、前記一般式(6)で表されるアルケン化合物を、該不斉触媒の存在下に前記一般式(7)で表されるジボロン化合物とをカップリング反応に付して前記一般式(8)で表される有機ホウ素化合物を製造するものである。
【0105】
本発明の有機ホウ素化合物の製造方法における出発原料であるアルケン化合物は、下記一般式(6)で表される。
【化22】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アラルキル基、置換アラルキル基、アリール基、置換アリール基、脂肪族複素環基、置換脂肪族複素環基、芳香族複素環基、置換芳香族複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アラルキルオキシ基、置換アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、置換アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、置換シリル基又は置換シリルオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、アルキルアミノカルボキシ基、置換アルキルアミノカルボキシ基、アリールアミノカルボキシ基、アルキルオキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基又はハロゲン原子を示す。tは0〜10の整数を示す。)
【0106】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。例えば炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、tert−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、5−メチルペンチル基等が挙げられる。
【0107】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるシクロアルキル基は、例えば炭素数3〜7のシクロアルキル基が挙げられる。具体的にはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、2−メチルシクロペンチル基、3−メチルシクロペンチル基、シクロヘプチル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0108】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアラルキル基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキル基が挙げられる。具体的にはベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、1−フェニルブチル基、2−フェニルブチル基、3−フェニルブチル基、4−フェニルブチル基、1−フェニルペンチル基、2−フェニルペンチル基、3−フェニルペンチル基、4−フェニルペンチル基、5−フェニルペンチル基、1−フェニルヘキシル基、2−フェニルヘキシル基、3−フェニルヘキシル基、4−フェニルヘキシル基、5−フェニルヘキシル基、6−フェニルヘキシル基等が挙げられる。
【0109】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアリール基としては、例えば炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。具体的にはフェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基等が挙げられる。
【0110】
前記一般式(6)の式中、Rで表される脂肪族複素環基としては、例えば5員又は6員の脂肪族複素環基が好ましく、異種原子として1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる脂肪族複素環基が挙げられる。具体的にはピロリジル−2−オン基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0111】
前記一般式(6)の式中、Rで表される芳香族複素環基としては、例えば5員又は6員の単環の芳香族複素環基や多環の芳香族複素環基が好ましく、異種原子として1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる芳香族複素環基が挙げられる。具体的にはピリジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、フルフリル基、ピラニル基、フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基等が挙げられる。
【0112】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、或いは環状でもよい。例えば炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基、n−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、5−メチルペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0113】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアラルキルオキシ基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキルオキシ基が挙げられる。具体的にはベンジルオキシ基、2−フェニルエトキシ基、1−フェニルプロポキシ基、2−フェニルプロポキシ基、3−フェニルプロポキシ基、1−フェニルブトキシ基、2−フェニルブトキシ基、3−フェニルブトキシ基、4−フェニルブトキシ基、1−フェニルペンチルオキシ基、2−フェニルペンチルオキシ基、3−フェニルペンチルオキシ基、4−フェニルペンチルオキシ基、5−フェニルペンチルオキシ基、1−フェニルヘキシルオキシ基、2−フェニルヘキシルオキシ基、3−フェニルヘキシルオキシ基、4−フェニルヘキシルオキシ基、5−フェニルヘキシルオキシ基、6−フェニルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0114】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアリールオキシ基としては、例えば炭素数6〜14のアリールオキシ基が挙げられる。具体的にはフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基等が挙げられる。
【0115】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアルキルオキシカルボニル基は、直鎖状でも分枝状でもよい。例えば炭素数2〜7のアルキルオキシカルボニル基が挙げられる。具体的にはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0116】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアラルキルオキシカルボニル基としては、例えば炭素数8〜12のアラルキルオキシカルボニル基が挙げられる。具体的にはベンジルオキシカルボニル基、フェニルエトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0117】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換アルキル基としては、上記アルキル基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基又は保護基を有するアミノ基等の置換基で置換されたアルキル基が挙げられる。
【0118】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換シクロアルキル基としては、上記シクロアルキル基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基又は保護基を有するアミノ基等の置換基で置換されたシクロアルキル基が挙げられる。
【0119】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換アラルキル基としては、上記アラルキル基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基置換アミノ基等の置換基で置換されたアラルキル基が挙げられる。
【0120】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換アリール基としては、上記アリール基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基置換アミノ基等の置換基で置換されたアリール基、又は上記アリール基の隣接した2個の水素原子がアルキレンジオキシ基等の置換基で置換されたアリール基が挙げられる。
【0121】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換脂肪族複素環基としては、上記脂肪族複素環基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基で置換された脂肪族複素環基が挙げられる。
【0122】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換芳香族複素環基としては、上記芳香族複素環基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基で置換された芳香族複素環基が挙げられる。
【0123】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換アルコキシ基としては、上記アルコキシ基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基又は保護基を有するアミノ基等の置換基で置換されたアルコキシ基が挙げられる。
【0124】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換アラルキルオキシ基としては、上記アラルキルオキシ基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基置換アミノ基等の置換基で置換されたアラルキルオキシ基が挙げられる。
【0125】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換アリールオキシ基としては、上記アリールオキシ基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基置換アミノ基等の置換基で置換されたアリールオキシ基、又は上記アリールオキシ基の隣接した2個の水素原子がアルキレンジオキシ基等で置換されたアリールオキシ基が挙げられる。
【0126】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換シリル基としては、シリル基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基置換アミノ基、アリール基等の置換基で置換されたシリル基が挙げられる。
【0127】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換シリルオキシ基としては、シリルオキシ基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基置換アミノ基、アリール基等の置換基で置換されたシリルオキシ基が挙げられる。
【0128】
上記置換基、即ち、置換アルキル基、置換シクロアルキル基、置換アラルキル基、置換アリール基、置換脂肪族複素環基、置換芳香族複素環基、置換アルコキシ基、置換アラルキルオキシ基、置換アリールオキシ基及び置換アミノ基における各置換基を以下に説明する。
【0129】
置換基としてのアルキル基、シクロアルキル基及びアルコキシ基の例としては、上記Rで表されるアルキル基、シクロアルキル基及びアルコキシ基の例がそれぞれ挙げられる。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0130】
アルキレンジオキシ基としては、例えば炭素数1〜3のアルキレンジオキシ基が挙げられ、具体的にはメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基、トリメチレンジオキシ基等が挙げられる。
【0131】
ハロゲン化アルキル基としては、例えば上記アルキル基がハロゲン化(例えばフッ素化、塩素化、臭素化、沃素化等。)された炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基が挙げられる。具体的にはクロロメチル基、ブロモメチル基、トリフルオロメチル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0132】
アルキル基置換アミノ基としては、アミノ基の水素原子の1個又は2個が上記アルキル基及び/又は上記シクロアルキル基で置換されたアミノ基が挙げられる。アルキル基置換アミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基等のモノ置換アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基等のジ置換アミノ基等が挙げられる。
【0133】
保護基としては、アミノ保護基として用いられるものであれば何れも使用可能であり、例えば「PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS Second Edition(JOHN WILEY & SONS, INC.)」にアミノ保護基として記載されているものが挙げられる。アミノ保護基の具体例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0134】
ここでいうアルキル基、シクロアルキル基及びアラルキル基の例としては、上記Rで表されるアルキル基、シクロアルキル基及びアルコキシ基の例がそれぞれ挙げられる。アシル基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でも良い。カルボン酸由来の例えば炭素数2〜7のアシル基が挙げられる。具体的にはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。アルキルオキシカルボニル基としては、tert−ブチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0135】
保護基を有するアミノ基は、上記保護基で保護されたアミノ基が挙げられる。保護基を有するアミノ基の具体例としては、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、tert−ブチルオキシカルボニルアミノ基、ベンジルオキシカルボニルアミノ基、環状アミノ基等が挙げられる。
【0136】
環状アミノ基としては、ブチレン基、ペンチレン基等のアルキレン鎖、−CH
2CH
2OCH
2CH
2−、−CH
2CH
2NHCH
2CH
2−、−CH
2CH
2OCO−基等が窒素原子に結合した環状アミンが挙げられ、その具体例としては、モルホリノ基、ピペリジノ基、1,3−オキサゾリン−2−オン−1−イル基等が挙げられる。
【0137】
前記一般式(6)の式中、Rで表される置換アミノ基としては、アミノ基及び保護基を有するアミノ基として上記で例示したものが挙げられる。
【0138】
前記一般式(6)の式中、Rで表されるアルキルアミノカルボキシ基、置換アルキルアミノカルボキシ基及びアリールアミノカルボキシ基としては、−CON(R
m)
2(R
mは炭素数1〜8の置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、又は水素原子であり、R
mの少なくとも1つは炭素数1〜8の置換若しくは無置換のアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基である)で表されるものが挙げられる。ここでいう置換アルキル基及び置換アリール基における置換基の例としては、Rで表される置換アルキル基及び置換アリール基における置換基の例として上記で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0139】
また前記一般式(6)の式中、Rで表される、アルキルオキシカルボニルオキシ基としては、メトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、n−プロポキシカルボニルオキシ、イソプロポキシカルボニルオキシ、n−ブトキシカルボニルオキシ、イソブトキシカルボニルオキシ、tert−ブトキシカルボニルオキシ、sec−ブトキシカルボニルオキシ、n−ペンチルオキシカルボニルオキシ、ネオペンチルオキシカルボニルオキシ、n−ヘキシルオキシカルボニルオキシ、イソヘキシルオキシカルボニルオキシ、3−メチルペンチルオキシカルボニルオキシ基、シクロプロピルオキシカルボニルオキシ、シクロブチルオキシカルボニルオキシ、シクロペンチルオキシカルボニルオキシ、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ、シクロヘプチルオキシカルボニルオキシ、シクロオクチルオキシカルボニルオキシ等を挙げることができる。
【0140】
また前記一般式(6)の式中、Rで表される、アリールオキシカルボニルオキシ基としては、フェノキシカルボニルオキシ、1−ナフチロキシカルボニルオキシ、2−ナフチロキシカルボニルオキシ等を挙げることができる。
また前記一般式(6)の式中、Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0141】
本発明の有機ホウ素化合物の製造方法における出発原料であるジボロン化合物は、下記一般式(7)で表される。
【化23】
(式中、Zは同一の又は異なる孤立電子対を有する原子を表し、隣り合うZどうしをつなぐ点線は、Zに他の原子が結合していることを示す。隣り合うZどうしは、他の原子を介して環を形成していてもよい。)
【0142】
前記一般式(7)の式中のジボロン化合物におけるZは、酸素原子や窒素原子等の孤立電子対を有する原子であればその種類に特に制限はない。孤立電子対を有していることで、該孤立電子対が、隣接するホウ素の空軌道と作用し、ジボロン化合物の反応性が適切なものとなる。前記一般式(7)において、4つのZは同一でもよく、或いは異なっていていもよい。隣り合う2つのZは他の原子を介して環を形成していてもよく、或いは環を形成していなくてもよい。
【0143】
前記一般式(7)で表されるジボロン化合物において、環を形成している原子団としては、例えば以下の(7a)ないし(7c)に示すものが挙げられる。環を形成していない原子団としては、例えば以下の(7d)ないし(7f)に示すものが挙げられる。
【0144】
【化24】
(式中、Ra及びRbは同一の又は異なる置換されていてもよいアルキル基又はアリール基を示す。*は結合手を示す。)
Ra及びRbで表される置換されていてもよいアルキル基又はアリール基としては、Rで表されるアルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基の例として上記で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0145】
前記一般式(7)で表されるジボロン化合物の添加量は、前記一般式(6)で表されるアルケン化合物に対するモル比で、100〜200モル%、特に100〜150モル%であることが好ましい。
【0146】
本発明の有機ホウ素化合物の製造方法において、使用する不斉触媒は、前記一般式(1)で表される光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を配位子とする銅金属錯体である。該銅金属錯体としては銅(I)塩との銅金属錯体が好ましく、特にカチオン性の銅(I)塩であるCuOtBuとの銅金属錯体が好ましい。
【0147】
不斉触媒の使用量は、用いるアルケン化合物の種類、使用する反応容器、反応の形式、経済性などによって異なるが、アルケン化合物に対して0.1〜20モル%、特に0.5〜10モル%であることが好ましい。
【0148】
本発明の有機ホウ素化合物の製造方法において、触媒の一成分としてt−ブトキシカリウムが好適に使用される。この添加物により銅金属錯体CuOtBuが生じ、触媒反応が収率よく進行する。t−ブトキシリチウム、t−ブトキシナトリウムでも良いが、t−ブトキシカリウムが好ましい。
【0149】
t−ブトキシカリウムの使用量は、銅に対するモル比で好ましくは1.0〜5.0、より好ましくは1.0〜2.5である。
【0150】
また、本発明の有機ホウ素化合物の製造方法において、必要に応じて溶媒中で行うことができる。溶媒は、出発原料であるアルケン化合物や、生成物である有機ホウ素化合物を溶解し、かつ各反応試薬と反応しないものであることが好ましい。
【0151】
溶媒の具体例としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類;アセトニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、或いは2種以上適宜組み合わせて用いても良い。
【0152】
本反応はヒドロホウ素化であるが、末端アルケンにエナンチオ選択的にホウ素が挿入された後、他の化合物由来の水素によって目的物が生成する。この目的において、アルコール類が好適に用いられ、メタノール、エタノール、プロパノール等が特に好適に使用できるが、メタノールが最も好ましい。
【0153】
反応温度は、通常−78〜20℃であるが、経済性やキラル純度を考慮すると好ましくは−50〜0℃である。
反応時間は、用いる触媒の種類や使用量、用いる出発原料の種類や濃度、反応温度等の反応条件等により異なるが、通常は1時間以上、好ましくは5〜24時間である。
【0154】
反応終了後、必要により、晶析、蒸留、カラムクロマトグラフィー、分取HPLC、分液洗浄、抽出、脱溶媒等の常法の精製を行って、目的とする前記一般式(8)で表される有機ホウ素化合物を得ることができる。
【0155】
本製造方法により得られた光学活性有機ホウ素化合物は、医農薬や生理活性物質のキラル中間原料として用いられ、例えば抗生物質の合成中間体として有用である。
【実施例】
【0156】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、化合物の同定は、日本電子社製JNM−ECX400P及びJNM−ECS400を用いた。分析条件は、
1H NMR:400MHz,
13C NMR:100MHz,
31P NMR:160MHzとした。
{実施例1}
【化25】
(式中、R
1はアダマンチル基、R
2はtert−ブチル基を示し、*はリン原子上の不斉中心を示す。)
【0157】
<第1工程>
ホスフィン−ボラン(3a)(1.68mmol、531.4mg)を脱水THF(3.6ml)へ溶解した。この溶液にn−BuLi(1.64mol/L、1.68mmol、1.02ml)のヘキサン溶液を−5℃で窒素雰囲気下に滴下し、これをB液とした。
2,3−ジクロロキノキサリン(2a)(1.2mmol、238.8mg)をTHF(4.8ml)に溶解し、これをA液とした。
B液をA液に0℃で滴下した。滴下終了後に室温で30分間撹拌した。反応液に水を添加しクエンチし、次いでヘキサンで3回抽出を行った。次いで有機層を、硫酸ナトリウムで脱水処理した後、ろ過し、ろ液をエバポレーターで減圧下に溶媒を除去し、オイル状の残留物(ホスフィノピラジン−ボラン誘導体(9a))を得た。
<第2工程>
次いでオイル状の残留物にTMEDA(1.2ml)と酢酸エチル(2.4ml)を加え、室温で3時間撹拌した。反応終了後に、反応液に更に酢酸エチルと1.5Mの塩酸水溶液、更に水、塩水を加え、反応液をよく洗浄した。次いで、有機層を硫酸ナトリウムで脱水処理した後、ろ過し、ろ液をエバポレーターで減圧下に溶媒を除去し、残渣を得た。
得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(SiO
2、Et
2O/Hexane、容量比0:100−2:98)により精製した。これにより黄色の固体のホスフィノピラジン誘導体(4a)(0.93mmol、433.8mg、収率78%)を得た。
<第3工程>
(S)体の光学活性なホスフィン−ボラン(5a)(0.825mmol、97.3mg、>99% ee)を脱水THFに1.18mol/L濃度となるように溶解した。この溶液にn−BuLi(1.55mol/L、式(2a)のホスフィン−ボランに対して1.65当量)のヘキサン溶液を−0℃で窒素雰囲気下に滴下し、これをD液とした。
上記で調製したホスフィノピラジン誘導体(4a)(0.5mmol、232.5mg)にDMFを加えて0.185mol/L濃度に調整し、これをC液とした。
C液をD液へ−5℃で滴下し、室温で5時間撹拌した。反応液に水を添加しクエンチし、次いで酢酸エチルで2回抽出を行った。次いで有機層を、塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水処理し後、ろ過し、ろ液をエバポレーターで減圧下に溶媒を除去し光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体(10a)を得た。
<第4工程>
次いで光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体(10a)にTMEDA/酢酸エチル(容量比1:2)を加えて0.07mol/L濃度に調整し、室温で2時間撹拌した。反応終了後に、反応液に更に酢酸エチルを加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を、水、6mol/L塩酸水溶液及び塩水でよく洗浄した。次いで、有機層を硫酸ナトリウムで脱水処理した後、ろ過し、ろ液をエバポレーターで減圧下に溶媒を除去し、残渣を得た。
得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(SiO
2、Et
2O/Hexane、容量比0:100−2:98)により精製した。これによりR体の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体(1a)(以下、「(R)−Quinox−CFDAd」と言う)(0.39mmol、209mg、収率78%)を得た。
((R)−Quinox−CFDAdの同定データ)
(
1H NMR(392MHz,CDCl
3,δ): 1.16(d,J=12.1Hz,9H),1.42(d,J=5.4Hz,3H),1.62−1.74(m,12H),1.85−1.94(m,9H),2.03−2.06(m,6H),2.30−2.33(m,3H),7.72(dd,J=2.9,6.5Hz,1H),7.74(dd,J=3.1,6.7Hz,1H),8.05−8.14(m,2H).
13C NMR(99MHz,CDCl
3,δ): 6.8(dd,J=7.5,18.8Hz,CH
3),27.7(d,J=14.1Hz,CH
3),28.9(d,J=7.5Hz,CH),29.0(d,J=7.5Hz,CH),31.2(dd,J=3.3,14.6Hz,C),36.9(CH
2),37.1(CH
2),39.4(dd,J=4.7,24.4Hz,C),40.1(dd,J=2.8,24.4Hz,C),41.5(d,J=11.3Hz,CH
2),41.6(d,J=11.3Hz,CH
2),129.4(CH),129.6(CH),129.7(CH),140.7(C),141.0(C),164.8(t,J=30.5Hz,C),167.9(t,J=31.0Hz,C).
31P NMR(160MHz,CDCl
3,δ): −14.9(d,J=107.5Hz),21.4(d,J=103.2Hz).HRMS−ESI(m/z):[M+H]+ calcd for C
33H
47N
2P
2, 533.32090; found, 533.32086. [α]D
23.9 −74.0 (c 0.52 in EtOAc). mp=203℃.)
【0158】
{実施例2}
【化26】
(式中、R
1及びR
2はアダマンチル基を示す。)
第3工程及び第4工程において、光学活性なホスフィン−ボラン(5a)に代えて(R)体の光学活性なホスフィン−ボラン(5b)(0.825mmol、97.3mg、>99% ee)を用い、光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体(10b)(0.5mmol、232.5mg)とした以外は実施例1と同様にして反応及び精製を行い、これによりS体の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体(1b)(以下、「(S)−Quinox−TAd」と言う)(0.39mmol、209mg、収率78%)を得た。
((S)−Quinox−TAdの同定データ)
(
1H NMR(392MHz,CDCl
3,δ):1.37(d,J=5.4Hz,3H),1.60−2.07(m,42H),2.33−2.36(m,3H),7.73(dd,J=3.1,6.7Hz,1H),7.74(dd,J=3.4,6.5Hz,1H),8.07−8.15(m,2H).
13C NMR(99 MHz,CDCl
3,δ): 4.6(dd,J=8.5,17.9Hz,CH
3),28,6(d,J=8.5Hz,CH),28.9(d,J=8.5Hz,CH),29.0(d,J=8.5Hz,CH
3),35.0(dd,J=2.3,15.5Hz,C),36.9(CH
2),37.07(CH
2),37.14(CH
2)39.0(d,J=10.3Hz,CH
2),39.3(dd,J=5.2,24.9Hz,C),40.4(dd,J=1.9,24.4Hz,C),41.49(d,J=11.3Hz,C),41.58(d.J=6.6Hz,CH
2),41.59(d,J=8.5Hz,CH
2),129.4(CH),129.50(CH),129.52(CH),129.7(CH),140.6(C),140.9(C).
31P NMR(160MHz,CDCl
3,δ):−16.8(d,J=103.2Hz),21.5(d,J=103.2Hz).HRMS−ESI(m/z):[M+H]+ calcd for C
39H
53N
2P
2, 611.36785; found, 611.36810.[α]D
23.8 +125.0(c 0.52 in CHCl3).mp=268℃.)
【0159】
{実施例3}
【化27】
(式中、R
1はアダマンチル基、R
2は1,1,3,3−テトラメチルブチル基を示す。)
第3工程及び第4工程において、光学活性なホスフィン−ボラン(5a)に代えて(R)体の光学活性なホスフィン−ボラン(5c)(0.825mmol、161.8mg、>99% ee)を用い、光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体(10c)(0.5mmol、232.5mg)とした以外は実施例1と同様にして反応及び精製を行い、これによりS体の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体(1c)(以下、「(S)−Quniox−tODAd」と言う)(0.45mmol、273.4mg、収率90%)を得た。
((S)−Quniox−tODAdの同定データ)
(
1H NMR(392MHz,CDCl
3,δ):0.99(s,9H),1.29(d,J=2.7Hz,3H),1.33(s,3H),1.40(d,J=5.8Hz,3H),1.48(dd,J=7.4,14.2Hz,1H),1.62−1.73(m,12H),1.83−1.93(m,10H),2.03−2.07(m,6H),2.30−2.33(m,3H),7.72(dd,J=3.4,6.5Hz,1H),7.74(dd,J=3.4,6.5Hz,1H),8.06−8.09(m,1H),8.11−8.14(m,1H).
13C NMR(99MHz,CDCl
3,δ):6.7(dd,J=7.5,20.7Hz,CH
3),25.1(d,J=14.1Hz,CH
3),25.4(d,J=9.4Hz,CH
3),28.9(d,J=4.7Hz,CH),29.0(d,J=5.6Hz,CH),32.3(CH
3),33.7(d,J=11.3Hz,C),36.5(dd,J=2.8,16.9Hz,C),36.9(CH
2),37.1(CH
2),39.4(dd,J=4.7,24.4Hz,C),40.1(dd,J=2.4,24.9Hz,CH
2), 41.6(d,J=11.3Hz,CH
2),41.6(d,J=9.4Hz,CH
2),51.2(d,J=17.9Hz,CH
2),129.4(CH),129.6(CH),129.7(CH),140.6(C),140.9(C),165.0(t,J=30.1Hz,C),168.1(t,J=32.4Hz,C).
31P NMR(160 MHz,CDCl
3,δ):−9.5(d,J=103.2Hz),21.6(d,J=103.2Hz).HRMS−ESI(m/z):[M+H]+ calcd for C
37H
55N
2P
2,589.38350; found, 589.38371.[α]D
23.2 +126.4 (c 0.51 in EtOAc).mp=214℃.)
【0160】
{実施例4}
【化28】
(式中、R
1はtert−ブチル基、R
2はアダマンチル基を示す。)
第1工程においてホスフィン−ボラン(3a)に代えて、ホスフィン−ボラン(3d)を用いて、第2工程でホスフィノピラジン誘導体(4d)を得た。
次いで、第3工程及び第4工程において、光学活性なホスフィン−ボラン(5a)に代えて(R)体の光学活性なホスフィン−ボラン(5b)(0.495mmol、97.1mg、>99% ee)を用い、光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体(10d)(0.3mmol、92.6mg)とした以外は実施例1と同様にして反応及び精製を行い、これによりS体の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体(1d)(以下、「(S)−Quniox−AdCF」と言う)(0.26mmol、119mg、収率87%)を得た。
((S)−Quniox−AdCFの同定データ)
(
1H NMR(392 MHz,CDCl
3,δ):1.17(d,J=11.2Hz,9H),1.37(d,J=11.7Hz,9H),1.38(d,J=7.2Hz,3H),1.61−1.69(m,6H),1.77−1.80(m,3H),1.90−1.94(m,6H),7.70−7.75(m,2H),8.07−8.10(m,2H).
13C NMR(99 MHz,CDCl
3,δ):4.3(dd,J=8.5,17.9Hz,CH3),28.6(d,J=8.5Hz,CH),30.4(dd,J=2.4,12.7Hz,CH
3),30.7(d,J=14.1Hz,CH
3),34.3(dd,J=5.4,23.7Hz,C),35.0(dd,J=1.9,15.5Hz,C),35.5(dd,J=1.9,24.0Hz,C),37.0(CH
2),38.9(d,J=10.8Hz,CH
2),129.48(CH),129.50(CH),129.56(CH),129.64(CH),140.9(C),141.0(C),166.3(t,J=32.2Hz,C),166.7(t,J=31.0Hz,C).
31P NMR(160 MHz,CDCl
3,δ):−16.8(d,J=105.3Hz),21.4(d,J=107.5Hz).HRMS−ESI(m/z):[M+H]+ calcd for C
27H
41N
2P
2, 455.27395; found, 455.27371. [α]D
22.8 +150.9 (c 1.0 in EtOAc).mp=116℃.)
【0161】
{実施例5}
【化29】
(式中、R
1はtert−ブチル基、R
2は1,1,3,3−テトラメチルブチル基を示す。)
第1工程においてホスフィン−ボラン(3a)に代えて、ホスフィン−ボラン(3d)を用いて、ホスフィノピラジン誘導体(4d)を得た。
次いで、第3工程及び第4工程において、光学活性なホスフィン−ボラン(5a)に代えて(R)体の光学活性なホスフィン−ボラン(5c)(0.84mmol、146.2mg、>99% ee)を用い、光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体(10e)(0.6mmol、185.3mg)とした以外は実施例1と同様にして反応及び精製を行い、これによりS体の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体(1e)(以下、「(S)−Quinox−tODCF」と言う)(0.49mmol、211mg、収率81%)を得た。
((S)−Quinox−tODCFの同定データ)
(
1H NMR(392MHz,CDCl
3,δ):1.00(s,9H),1.20(d,J=11.8Hz,9H),1.30(d,J=5.4Hz,3H),1.33(d,J=3.1Hz,3H),1.35(d,J=11.7Hz,9H),1.41(d,J=5.8Hz,3H),1.52(dd,J=7.2,14.4Hz,1H),1.82(dd,J=9.0,14.3Hz,1H),7.69−7.75(m,2H),8.05−8.10(m,2H).
13C NMR(99MHz,CDCl
3,δ):6.5(dd,J=8.2,20.4Hz,CH
3),25.0(d,J=12.2Hz,CH
3),25.6(d,J=10.8Hz,CH
3),30.5(d,J=10.8Hz,CH
3),30.6(d,J=13.6Hz,CH
3),33.6(d,J=11.3Hz,C),34.4(dd,J=4.7,23.5Hz,C),35.2(dd,J=2.3,23.5Hz,C),36.3(dd,J=3.5,16.7Hz,C),51.1(d,J=17.4Hz,CH
2),129.35(CH),129.44(CH),129.5(CH),129.7(CH),140.84(C),140.92(C),166.5(t,J=30.8Hz,C),167.6(dd,J=31.0,33.4Hz,C).
31P NMR(160MHz,CDCl
3,δ):−9.4(d,J=105.3Hz),21.3(d,J=103.2Hz).HRMS−ESI(m/z):[M+H]+ calcd for C
25H
43N
2P
2, 433.28960; found, 433.28928. [α]D
24.0 +83.6 (c 0.52 in EtOAc).mp=121℃.
【0162】
{比較例1}
【化30】
(式中、R
1及びR
2はtert−ブチル基を示す。)
第1工程においてホスフィン−ボラン(3a)に代えて、ホスフィン−ボラン(3d)を用いて、ホスフィノピラジン誘導体(4d)を得た。
次いで、第3工程において、光学活性なホスフィノピラジン−ボラン誘導体(10f)を得た以外は実施例1と同様にして反応及び精製を行い、これによりR体の光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体(1f)((R)−Quinox−TCF)と言う)(収率95%)を得た。
((R)−Quinox−TCFの同定データ)
1HNMR(500MHz,CDCl
3)δ1.15(d,J=12.0Hz,9H),1.19(d,J=11.5Hz,9H),1.34(d,J=11.8Hz,9H),1.41(d,J=5.5Hz,3H),7.67−7.76(m,2H),8.03−8.12(m,2H);
13C NMR(125MHz,CDCl3)δ6.7(d,J=8.4Hz),27.7(d,J=13.2Hz),30.5(d,J=13.2Hz),30.7(d,J=13.2Hz),31.3(dd,J=14.4,2.4Hz),34.5(dd,J=24.0,4.8Hz),35.3(dd,J=22.8,2.4Hz),129.5,129.6,129.7,129.8,141.1,141.2,166.4(t,J=31.2Hz),167.5(dd,J=33.7,28.8Hz);
31P NMR(202MHz,CDCl3,)δ−14.4(dm,J=107Hz),21.6(dm,J=107Hz);[α]D
25 −46.0(c0.5,EtOAc);HRMS−ESI(m/z)[M+H]
+ calcd for C
21H
35N
2P
2+,377.2275;found,377.2299.mp;165−167℃
【0163】
{実施例6}
エナンチオ選択的Markovnikovヒドロホウ素化反応
【化31】
乾燥した反応容器にCuBF
4(MeCN)
4(4.7mg,0.015mmol)、(S)−Quinox−tODAd(8.8mg,0.015mmol)とビスピナコラートジボロン(2)(152.4mg,0.6mmol)を入れ、テフロン(登録商標)コーティングされたセプタムで容器を密閉し、減圧、窒素封入を三回行い、反応容器内を窒素雰囲気下とした。次に、THF(0.4mL)、K(O−t−Bu)(t−ブトキシカリウム)/THF溶液(1.0mol/L,0.6mL,0.6mmol)をシリンジで注入し、−40℃で30分間撹拌した。続いて、シリンジを用いてアルケン化合物1a(66.1mg,0.5mmol)とメタノール(40.4μL,1.0mmol)をそれぞれ反応溶液へと滴下した。−40℃で24時間撹拌した後、反応溶液を少量のシリカゲルを充填したカラム(直径:10mm,高さ:30mm)に通し、ジエチルエーテルで洗浄した。溶媒をエバポレーターにて除去して得られたものをフラッシュカラムクロマトグラフィー(SiO
2,Et
2O/hexane,容量比0:100−4:96)を用いて精製することで、目的のヒドロホウ素化体 (S)−3aが94%収率、3a/4a=92:8,98%eeで無色透明の液体として得られた(122.0mg,0.47mmol)。なお、上記反応式におけるPhはフェニル基を意味する。
なお、反応液において、(S)−Quinox−tODAdとCu(O−t−Bu)とがモル比1:1で錯体を形成していることを
1H NMR及び
31P NMRにより確認した。
【0164】
{実施例7〜10及び比較例1}
配位子を変更し、実施例6と同様な手順により有機ホウ素化合物を得た。結果はまとめて表1に示した。
なお、反応液において、表1に記載の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体とCu(O−t−Bu)と2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体がモル比1:1で錯体を形成していることを
1H NMR及び
31P NMRにより確認した。なお下記表で「3a:4a」比率における「3a」はS体の量を示す。また下記表1で、「3aの光学純度」はS体の光学純度であり、S体よりもR体が多い場合はマイナスとなる。
【0165】
【表1】
【0166】
{実施例11〜15}
CuBF
4(MeCN)
4及び(S)−Quniox−tODAdの量をそれぞれアルケン化合物に対して5mol%とし、アルケン化合物として表2に示す化合物を用いた以外は実施例6と同様にして目的のヒドロホウ素化体を得た。結果はまとめて表2に示した。なお、表2において、Phはフェニル基を意味し、Meはメチル基を意味し、Bnはベンジル基を意味する。なお下記表2で「3b:4b」比率における「3b」はS体の量を示す。また下記表2で、「3bの光学純度」はS体の光学純度である。
【0167】
【化32】
【0168】
【表2】
【0169】
{実施例16}
【化33】
(式中、R
1はフェニル基、R
2はtert−ブチル基を示す。)
<第1工程・第2工程>
ホスフィン−ボラン(3b)に代えてホスフィン−ボラン(3e)を用いた以外は、実施例1と同様にしてホスフィノピラジン誘導体(4e)を得た。
<第A工程>
三方コック、等圧滴下ロート及びセプタムを装着した30mLの3口フラスコにホスフィノピラジン誘導体(4e)(1.05g、3mmol)と(S)−t−ブチルメチルホスフィンボラン(5a)(390mg,3.3mmol)を入れ、系内をアルゴン置換した。脱水THF(7.5mL)とN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(1.3mL、9.0mmol)をシリンジでセプタムを通して加えた(Y液)。フラスコを−20℃の低温浴に浸し、マグネチックスターラーで撹拌しながらカリウムtert−ブトキシドの1.0M THF溶液(Z液)(3.6mL、3.6mmol)を20分間かけてY液に滴下した。滴下後、同温度で30分間保った後、約1時間かけて温度を室温まで上げ、さらに4時間撹拌を続けた。フラスコを氷水浴に浸し、酢酸エチル(10mL)、水(7mL)及び2M塩酸(6.5mL)を順次加えてよく撹拌した。分液ロートに移して上層を分け取った。下層を酢酸エチルで抽出し、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。エバポレーターで溶媒を留去し、真空乾燥することによりアモルファス固体を得た(1.22g、98%)。この生成物にメタノール(7mL)を加え、スパチュラでよくかき混ぜることにより結晶化させた。得られた固体をガラスフィルターを用いてろ取、メタノールで洗浄した。洗浄後の固体について真空乾燥をおこない、黄色粉末を得た(990mg、78%)。次いで、この黄色粉末950mgを室温で1.9mLのTHFに溶解し、メタノール3.8mLを加え、氷水で冷却した。2時間後、結晶をろ別、氷冷THF/MeOH(容積比1:2)混合溶媒で洗浄、真空乾燥することにより(R)−2−tert−ブチルメチルホスフィノ−3−ジフェニルホスフィノキノキサリン(1g)720mgの純品をオレンジ色の結晶として得た(再結晶回収率:76%)。
((R)−2−tert−ブチルメチルホスフィノ−3−ジフェニルホスフィノキノキサリン(1g)の同定データ)
mp 136−137℃ (Recrystallization from THF/MeOH)
[α]D
28=−52.7(c 1.00、AcOEt)
R
f=0.68(AcOEt/hexane=1:5)
1H NMR(500MHz,CDCl
3)) δ1.11(d,J
HP=12.0Hz,9H),1.29(d,J
HP=5.2Hz,3H),7.25−7.36(m,8H),7.43−7.48(m,2H),7.61−7.71(m,2H),7.87(dd,J=8.1,1.5Hz,1H),8.08(dd,J=8.6,1.2Hz,1H).
13C NMR(125MHz,CDCl
3) δ5.7,27.8(d,J
CP=14.3Hz),31.6(d,J
CP=14.3Hz),128.07,128.12,128.41,128.47,129.5,129.83,129.87,134.4,134.5,135.0,135.2,136.4−136.8(m).
31P NMR (200MHz,CDCl
3)δ−17.1(d,J
PP=108Hz),−6.5(d,J
PP=108Hz).
HRMS:calcd for C
25H
26N
2P
2:416.1571;found:416.1593.