(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ビニルエステル系モノマーとエチレンを共重合させるエチレン−ビニルエステル系共重合体の製造方法であって、該ビニルエステル系モノマーを、酸素濃度2〜8ppmの状態で貯蔵及び/又は輸送し、次いで酸素濃度2ppm未満にして共重合に用いるエチレン−ビニルエステル系共重合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0017】
<エチレン−ビニルエステル系共重合体>
通常、エチレン−ビニルエステル系共重合体を製造するにあたっては、エチレンとビニルエステル系モノマー、重合溶媒及び重合触媒(重合開始剤)等を重合(反応)缶内に仕込んで重合を行う。本発明においては、ビニルエステル系モノマーとして、貯蔵・輸送時に適度な酸素濃度を有し、重合時に可能な限り酸素を除去したものを用いることを最大の特徴とするもので、この酸素濃度を満足すれば、他の条件については、公知の方法を採用することができ、例えば、連続式、回分式のいずれであってもよく、各重合方式に応じて適宜、他の重合条件を設定すればよい。
【0018】
まず、本発明において用いられるビニルエステル系モノマーについて説明する。
[ビニルエステル系モノマー]
本発明で用いるビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率が良い点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0019】
貯蔵時におけるビニルエステル系モノマーの酸素濃度は、ビニルエステル系モノマーに対して、2〜8ppmであり、好ましくは2〜6ppmであり、特に好ましくは3〜5ppmである。かかる酸素濃度が低すぎる場合は、ビニルエステル系モノマーの安定性が低下し、単独で重合、すなわちビニルエステル系モノマーのホモポリマーを生成する傾向がある。一方で、酸素濃度が高すぎる場合は、かかる酸素濃度で貯蔵されたビニルエステル系モノマーを用いてエチレン−ビニルエステル系共重合体およびEVOH樹脂フィルムを作製すると、フィッシュアイが発生する傾向がある。
なお、ビニルエステル系モノマーの酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
本発明は、かかる貯蔵時における酸素濃度を、所定範囲にすることが最大の特徴である。
【0020】
本発明におけるフィッシュアイとは、ビニルエステル系モノマーを原料としたEVOH樹脂フィルム中に生じる樹脂の微小粒をいう。かかるフィッシュアイが存在すると、フィルムやシートの外観不良をはじめ、延伸性低下等の機械的性能低下の悪影響がある。10cm×10cmの範囲でフィルムやシートを目視観察した際、直径0.1mm以上0.2mm未満のフィッシュアイの個数が30個以下、及び直径0.2mm以上のフィッシュアイの個数が2個以下であれば、フィルムやシートの外観不良や機械的性能低下を抑制できる。
フィッシュアイの発生原因としては、貯蔵時の酸素によるビニルエステル系モノマーの酸化劣化反応に起因すると考えられる。すなわち、該酸化劣化物が、高分子量化したり、メイン樹脂に取り込まれることによって、EVOH樹脂と相溶性がないものができ、その結果、フィッシュアイになるものと考えられる。よって、貯蔵時におけるビニルエステル系モノマーの酸素濃度は、ビニルエステル系モノマーに対して、2〜8ppmとすることで、ビニルエステル系モノマーの安定性を保ちつつ、得られたEVOH樹脂のフィッシュアイの発生を抑えることができる。
【0021】
貯蔵時におけるビニルエステル系モノマーの温度は、通常は38℃以下が好ましく、特には35℃以下が好ましい。かかる貯蔵温度が高すぎると、ビニルエステル系モノマーが単独で重合開始する可能性がある。
【0022】
貯蔵時におけるビニルエステル系モノマーの圧力は、一概に言えないが、系内を不活性気体で充填して、1〜10kPaで管理することが好ましい。
不活性気体としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられるが、一般には窒素が好ましく用いられる。
【0023】
なお、長期保管する際には、かかる酸素濃度、モノマーの温度、及びモノマーの圧力を、上記範囲になる様に適宜調整することが好ましい。
【0024】
貯蔵時におけるビニルエステル系モノマーの酸素濃度を調整する方法としては、例えば、酸素濃度を低くする場合には、蒸留する方法、不活性気体でバブリングする方法、系内を不活性気体雰囲気とし、気液界面を更新する方法が挙げられ、かかる界面の更新方法としては、攪拌や流動などが挙げられる。逆に、酸素濃度を高くする場合には、系内を酸素又は空気雰囲気とし、気液界面を更新する方法が挙げられ、かかる界面の更新方法としては、攪拌や流動などが挙げられる。
不活性気体としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられるが、一般には窒素が好ましく用いられる。
【0025】
ビニルエステル系モノマーの酸素濃度を調整する工程は、ビニルエステル系モノマーの重合を抑制する為に不可欠であり、製造および精製したビニルエステル系モノマーを貯蔵・保管する貯蔵工程だけでなく、例えば、貯蔵・保管したビニルエステル系モノマーを移送・輸送する輸送工程を包含する。さらに、各工程のビニルエステル系モノマーを含有する工程液に接する周辺設備・機器などの循環系や回収系においても、重合抑制の対象となり得る。
例えば、貯蔵工程における保管タンクや貯蔵タンク、輸送工程における移送タンクや輸送タンク、移送ラインなどが挙げられる。
【0026】
かくして貯蔵されたビニルエステル系モノマーは、次いで、重合に供されるのであるが、重合時におけるビニルエステル系モノマーの酸素濃度は、理論的には可能な限り酸素を除去したものが好ましく、ビニルエステル系モノマーに対して、2ppm未満であり、好ましくは1ppm以下である。実質的には、1ppm以下であれば、酸素による重合抑制はないと考えられる。かかる酸素濃度が高すぎる場合は、ビニルエステル系モノマーの反応性が低下し、重合液中の酸素が重合抑制剤として働き、重合が進みにくい傾向がある。
酸素濃度の下限値は特に制限されないが、工業的に酸素濃度を継続的に1ppm未満に維持することは通常困難である場合があることから、1ppm程度の酸素濃度下でビニルエステル系モノマーの重合を行うのがよい。
なお、ビニルエステル系モノマーの酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0027】
重合時におけるビニルエステル系モノマーの酸素濃度を低くする方法としては、例えば、蒸留する方法、不活性気体でバブリングする方法、系内を不活性気体雰囲気とし、気液界面を更新する方法が挙げられ、かかる界面の更新方法としては、攪拌や流動などが挙げられる。
不活性気体としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられるが、一般には窒素が好ましく用いられる。
【0028】
[エチレン−ビニルエステル系共重合体]
共重合体中にエチレンを導入する方法としては通常のエチレン加圧重合を行えばよく、その導入量はエチレンの圧力によって制御することが可能であり、目的とするエチレン含有量により一概にはいえないが、通常は2.5〜8.0MPaの範囲から選択される。
【0029】
かかる共重合に用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜7(重量比)程度の範囲から選択される。
【0030】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やt−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−iso−プロピルパーオキシジカーボネート]、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類などの低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられる。
重合触媒の使用量は、触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマー100重量部に対して0.001〜0.2重量部が好ましく、特には0.005〜0.1重量部が好ましい。
【0031】
本発明では、上記触媒とともにヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸を共存させることが得られる樹脂組成物の色調を良好(無色に近づける)にする点で好ましい。該ヒドロキシラクトン系化合物としては、分子内にラクトン環と水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルコノデルタラクトン等を挙げることができ、好適にはL−アスコルビン酸、エリソルビン酸が用いられる。また、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸等を挙げることができ、好適にはクエン酸が用いられる。
【0032】
かかるヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸の使用量は、回分式及び連続式いずれの場合でも、ビニルエステル系モノマー100重量部に対して0.0001〜0.1重量部、さらには0.0005〜0.05重量部、特には0.001〜0.03重量部が好ましい。かかる使用量が少なすぎると共存の効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎるとビニルエステル系モノマーの重合を阻害する結果となって好ましくない。かかる化合物を重合系に仕込むにあたっては、特に限定はされないが、通常は低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等)やビニルエステル系モノマーを含む脂肪族エステル(酢酸メチル、酢酸エチル等)や水等の溶媒又はこれらの混合溶媒で希釈されて重合反応系に仕込まれる。
【0033】
共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により一概にはいえないが、通常は溶媒の沸点以下で行われ、通常は40〜80℃が好ましく、特には55〜80℃が好ましい。かかる温度が低すぎると重合に長時間を要し、重合時間を短縮しようとすると触媒量が多量に必要となり、逆に高すぎると重合制御が困難となり好ましくない。
【0034】
また、重合時間は、回分式の場合、4〜10時間、更には6〜9時間が好ましい。該重合時間が短すぎると重合温度を高くしたり、触媒量を多く設定しなければならず、逆に重合時間が長すぎると生産性の面で問題があり好ましくない。連続式の場合、重合缶内での平均滞留時間は2〜8時間、更には2〜6時間が好ましい。該滞留時間が短すぎると重合温度を高くしたり、触媒量を多く設定しなければならず、逆に重合時間が長すぎると生産性の面で問題があり好ましくない。
【0035】
ビニルエステル系モノマーの重合率は生産性の面から重合制御が可能な範囲でできるだけ高く設定され、好ましくは20〜90%である。該重合率が低すぎると、生産性の面や未重合のビニルエステル系モノマーが多量に存在する等の問題があり、逆に高すぎると、重合制御が困難となり好ましくない。
【0036】
かくして本発明の製造方法で、フィッシュアイの少ないEVOH樹脂フィルムを得るのに有用なエチレン−ビニルエステル系共重合体が得られる。かかるエチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化するに当たっては、公知の方法を採用することができる。
【0037】
本発明で用いるEVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
すなわち、EVOH樹脂は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0038】
かかるケン化にあたっては、上記で得られた共重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解された状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0039】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー等のモノマーの合計量に対して0.001〜0.1当量、好ましくは0.005〜0.05当量が適当である。かかるケン化方法に関しては目標とするケン化度等に応じて、バッチケン化、ベルト上の連続ケン化、塔式の連続ケン化の何れも可能で、ケン化時のアルカリ触媒量の低減できることやケン化反応が高効率で進み易い等の理由により、好ましくは、一定加圧下での塔式ケン化が用いられる。
【0040】
また、ケン化時の圧力は目的とするエチレン含有量により一概に言えないが、0.1〜0.8MPaの範囲から選択され、ケン化温度は80〜150℃、好ましくは100〜130℃であり、ケン化時間は0.5〜3時間から選択される。
【0041】
かくして、EVOH樹脂が得られるのであるが、本発明においては、得られたEVOH樹脂のエチレン含有量、ケン化度、およびメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は特に限定されない。
【0042】
EVOH樹脂のエチレン含有量としては、通常20〜60モル%、好ましくは21〜55モル%、特に好ましくは25〜50モル%、殊には29〜48モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、得られる成形物、特に延伸フィルムの高湿時のガスバリア性や外観性が低下する傾向にあり、逆に高すぎると延伸フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
かかるエチレン含有量は、例えば、ISO14663−1(1999)に準じて計測することができる。
【0043】
EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、通常90モル%以上、好ましくは93〜99.99モル%、特に好ましくは98〜99.99モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合には延伸フィルムのガスバリア性や耐湿性等が低下する傾向にあり好ましくない。
かかるビニルエステル成分のケン化度は、例えば、JIS K6726(1994)(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に準じて計測することができる。
【0044】
EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常1〜100g/10分であり、好ましくは2〜50g/10分、特に好ましくは3〜30g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、成形物の機械強度が悪化する傾向があり、小さすぎる場合には成形時の押出加工性が悪化する傾向がある。
【0045】
また、本発明に用いられるEVOH樹脂には、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。前記コモノマーは、プロピレン、イソブテン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のα−オレフィン、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、3−ブテン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などのヒドロキシ基含有α−オレフィン誘導体、不飽和カルボン酸又はその塩・部分アルキルエステル・完全アルキルエステル・ニトリル・アミド・無水物、不飽和スルホン酸又はその塩、ビニルシラン化合物、塩化ビニル、スチレン等のコモノマーである。
【0046】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を用いることもできる。
【0047】
以上のような変性物の中でも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたEVOH樹脂は、延伸処理や真空・圧空成形などの二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
【0048】
かかる方法で得られたEVOH樹脂はそのままで用いることもできるが、さらに、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などが含有されていてもよい。
【0049】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩等の添加剤を添加してもよい。
これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加することが好ましい。
【0050】
酢酸を添加する場合、その添加量は、EVOH樹脂100重量部に対して通常0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.2重量部、特に好ましくは0.010〜0.1重量部である。酢酸の添加量が少なすぎると、酢酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
【0051】
また、ホウ素化合物を添加する場合、その添加量は、EVOH樹脂100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001〜1重量部であり、好ましくは0.002〜0.2重量部であり、特に好ましくは0.005〜0.1重量部である。ホウ素化合物の添加量が少なすぎると、ホウ素化合物の添加効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
【0052】
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の添加量としては、EVOH樹脂100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部である。かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。尚、EVOH樹脂に2種以上の塩を添加する場合は、その総量が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0053】
EVOH樹脂に酢酸、ホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加する方法については、特に限定されず、i)含水率20〜80重量%のEVOH樹脂の多孔性析出物を、添加物の水溶液と接触させて、前記多孔性EVOH樹脂に添加物を含有させてから乾燥する方法;ii)EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に添加物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法;iii)EVOH樹脂と添加物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法;iv)EVOH樹脂の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の有機酸類で中和して、残存する酢酸等の有機酸類や副生成する塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。
本発明の効果をより顕著に得るためには、添加物の分散性に優れるi)、ii)の方法、有機酸およびその塩を含有させる場合はiv)の方法が好ましい。
【0054】
<EVOH樹脂の用途>
かくして得られた本発明のEVOH樹脂は、溶融成形により例えばフィルム、シート、カップやボトルなどに成形することができる。かかる溶融成形方法としては、押出成形法(T−ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法が主として採用される。溶融成形温度は、通常150〜300℃の範囲から選ぶことが多い。
【0055】
成形物はそのまま各種用途に用いてもよいが、通常はさらに強度を上げたり他の機能を付与したりするために他の基材と積層して積層体とする。
かかる他の基材としては熱可塑性樹脂が有用である。熱可塑性樹脂としては例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン類、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン類、これらポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したグラフト化ポリオレフィン類、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン、更にこれらを還元して得られるポリアルコール類等が挙げられるが、積層体の物性(特に強度)等の実用性の点から、ポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂が好ましく、特にはポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく用いられる。
【0056】
これら基材樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲において、従来知られているような酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。
【0057】
本発明のEVOH樹脂を他の基材と積層するときの積層方法は公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明のEVOH樹脂のフィルム、シート等に他の基材を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材に該樹脂を溶融押出ラミネートする方法、該樹脂と他の基材とを共押出する方法、該樹脂(層)と他の基材(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の基材上に該樹脂の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。
これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。
【0058】
積層体の層構成は、本発明のEVOH樹脂含有層をa(a1、a2、・・・)、熱可塑性樹脂含有層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/bの二層構造のみならず、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。また、該積層体を製造する過程で発生する端部や不良品当等を再溶融成形して得られる、該EVOH樹脂と熱可塑性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。
【0059】
なお、上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を設けることができ、かかる接着性樹脂としては、公知ものを使用すればよい。かかる接着性樹脂はb層の樹脂の種類によって異なるため、適宜選択すればよいが、代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物が好ましい。またこれらの接着性樹脂には、EVOH組成物や他のEVOH樹脂、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、さらにはb層の樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、接着性樹脂の母体のポリオレフィン系樹脂と異なるポリオレフィン系樹脂をブレンドすることにより、接着性が向上することがあり有用である。
【0060】
上記の如き積層体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施されるわけであるが、かかる(加熱)延伸処理とは熱的に均一に加熱されたフィルム、シート状の積層体をチャック、プラグ、真空力、圧空力、ブローなどにより、チューブ、フィルム状に均一に成形する操作を意味する。前記延伸は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。
【0061】
延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。二軸延伸の場合は同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる。延伸温度は通常40〜170℃、好ましくは60〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0062】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを、緊張状態を保ちながら通常80〜180℃、好ましくは100〜165℃で通常2〜600秒間程度熱処理を行う。
また、本発明のEVOH樹脂から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定するなどの処理を行う。
【0063】
積層体の熱可塑性樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、熱可塑性樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、熱可塑性樹脂層は通常10〜1000μm、好ましくは50〜500μm、接着性樹脂層は5〜500μm、好ましくは10〜250μm程度の範囲から選択される。
【0064】
また、本発明のEVOH樹脂含有層の厚みは要求されるガスバリア性などによって異なるが、通常は5〜500μmであり、好ましくは10〜250μm、特に好ましくは20〜100μmである。かかる厚みが薄すぎると十分なガスバリア性が得られない傾向があり、逆に厚すぎるとフィルムの柔軟性が不足する傾向にある。
【0065】
得られた積層体に、さらに他の基材を押出コートしたり、他の基材のフィルム、シート等を接着剤を用いてラミネートする場合、かかる基材としては前記の熱可塑性樹脂以外にも任意の基材(紙、金属箔、一軸又は二軸延伸プラスチックフィルム又はシートおよびその無機化合物蒸着物、織布、不織布、金属綿状、木質等)が使用可能である。
【0066】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0068】
<実施例1>
[貯蔵時のビニルエステル系モノマーにおける酸素濃度の調整]
予め酢酸ビニルを蒸留精製し、酸素濃度を0〜1ppmに調整した。さらに、この酢酸ビニルを貯蔵タンクに入れる際に、空気:窒素=1:10の混合気体を同時に注入することによって、酢酸ビニルの酸素濃度を3ppmに調整した。また、系内は、6kPaに調整し、この酢酸ビニルを30℃で保管した。
なお、酢酸ビニルの酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0069】
[重合時のビニルエステル系モノマーにおける酸素濃度の調整]
酸素濃度を3ppmに調整した酢酸ビニルに対して、窒素バブリングすることによって、酢酸ビニルの酸素濃度を1ppmに調整した。
なお、酢酸ビニルの酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0070】
[エチレン−ビニルエステル系共重合体の製造]
撹拌機付き重合缶を用いて以下の条件でエチレン−酢酸ビニル共重合体を連続重合した。
(重合条件)
・酸素濃度を1ppmに調整した酢酸ビニル供給量 2600部/hr
・メタノール供給量 450部/hr
・パーオキシエステル供給量(重合触媒) 0.29部/hr
・重合温度 67℃
・エチレン圧 4MPa
・平均滞留時間 3.5hr
この時得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体のエチレン含有量は32モル%で、酢酸ビニルの重合率は38%であった。
【0071】
[エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の製造]
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体を50%含むメタノール溶液100部に、該共重合体中の酢酸ビニル基に対して0.015当量の水酸化ナトリウムを含有するメタノール溶液150部を供給し、100〜110℃、圧力0.30MPaで、80分間ケン化反応を行った。得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(ケン化度99.8モル%)のメタノール溶液の樹脂分濃度は30%であった。次に含水率62.5%のメタノール水溶液60部を、該エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物のメタノール溶液に共沸下で供給し、100〜110℃、圧力0.20MPaで、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物のメタノール/水溶液中の樹脂分濃度が40%になるまでメタノールを留出させ、完全透明なメタノール/水均一溶液を得た。
続いて得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物のメタノール/水溶液を、水/メタノール溶液(重量比95/5)よりなる凝固液槽に、ストランド状に押し出した。該ストランドをカッターで切断し、多孔性のペレットを得た。得られたペレットは形状が均一であり、変形物は全くなかった。該ペレットを35℃の温水に投入して、約4時間攪拌を行って含水率50%の多孔性ペレットを得た後、乾燥して、含水率0.3%のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(平均直径3.2mm、平均長さ3.5mmの円筒形状の半透明ペレット)を得た。
【0072】
[フィッシュアイの評価]
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物のペレットを、下記条件で製膜し、厚み30μmの単層フィルムを得た。
(製膜条件)
・押出機:直径(D)40mm、L/D=28
・スクリュ:フルフライトタイプ圧縮比=2.7
・スクリーンパック:100/100メッシュ
・ダイ:幅400mm、コートハンガータイプ
・設定温度:C1/C2/C3/C4/A/D=180/190/200/210/210/210℃
・スクリュ回転数:30rpm
・ロール温度:70℃
得られた厚み30μmの単層フィルムについて、10cm×10cmの範囲で、直径0.1mm以上0.2mm未満のフィッシュアイの個数、及び直径0.2mm以上のフィッシュアイの個数を目視で数えた。
これらの評価結果を表1に示す。
【0073】
<実施例2>
実施例1において、貯蔵時の酢酸ビニルにおける酸素濃度を5ppmにした以外は、実施例1と同様にEVOH樹脂フィルムを作製し、同様に評価した。
【0074】
<比較例1>
実施例1において、貯蔵時の酢酸ビニルにおける酸素濃度を9ppmにした以外は、実施例1と同様にEVOH樹脂フィルムを作製し、同様に評価した。
【0075】
<比較例2>
実施例1において、貯蔵時の酢酸ビニルにおける酸素濃度を1ppmにしたところ、酢酸ビニルが貯蔵タンク内で単独重合することによって、輸送管のストレーナーが閉塞してしまい、酢酸ビニルを重合缶へ供給することができなかった。その結果、エチレン−酢酸ビニル共重合体を製造することができなかった。
【0076】
【表1】
【0077】
比較例1より、貯蔵時のビニルエステル系モノマーにおける酸素濃度が、本願特定の範
囲を超える場合、かかるビニルエステル系モノマーを原料としてEVOH樹脂フィルムを
製膜すると、フィッシュアイが多発していることがわかる。
【0078】
すなわち、実施例1,2と比較例1を比較することにより、貯蔵時のビニルエステル系
モノマーとして、酸素濃度が本願特定の範囲内であるものを用いてEVOH樹脂フィルム
を製膜した場合、該フィルム中のフィッシュアイが少ないことがわかる。