特許第6547372号(P6547372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6547372非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6547372
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20190711BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20190711BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190711BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20190711BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0567
   H01M4/58
   H01M4/136
   H01M4/66 A
【請求項の数】13
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2015-71313(P2015-71313)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-192298(P2016-192298A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博明
【審査官】 松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−175369(JP,A)
【文献】 特開2012−182114(JP,A)
【文献】 特開2011−096643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 4/58
H01M 4/136
H01M 4/66
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、LiFePOを基本組成とするオリビン構造の鉄リン酸リチウムを正極活物質として含有する正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する負極と、非水系電解液とを備えた非水系電解液二次電池であって、
前記非水系電解液が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のうち少なくとも一方を含有することを特徴とする、
【化1】


(式中、Qは炭素数2〜10の2価の有機基であり、該有機基は3級又は4級炭素を有する。);
【化2】


(式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい珪素数1〜10の珪化水素基であり、R〜Rの少なくとも二つは互いに結合して、環を形成してもよい。)
非水系電解液二次電池。
【請求項2】
前記式(1)中、Qが環状骨格を有することを特徴とする、
請求項1に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項3】
前記一般式(1)中、Qがシクロヘキサン環を有することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物が下記式で表される化合物であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【化3】

【請求項5】
前記一般式(2)中、R〜Rが水素原子又は炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基であることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項6】
前記一般式(2)中、R〜Rがメチル基又はエチル基であることを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項7】
前記一般式(2)で表される化合物が、下記式で表される化合物であることを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。

【化4】
【請求項8】
前記一般式(1)で表される化合物が、前記非水系電解液全体に対して0.01〜10質量%含有されることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項9】
前記一般式(2)で表される化合物が、前記非水系電解液全体に対して0.01〜10質量%含有されることを特徴とする、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項10】
前記非水系電解液が、さらに電池の初回充電時に負極上で還元される化合物を含むことを特徴とする、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項11】
前記負極上で還元される化合物が、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、無水コハク酸、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート及びリチウムトリス(オキサラト)ホスフェートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、
請求項10に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項12】
前記負極活物質が、炭素質材料を含むことを特徴とする、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項13】
前記集電体表面に、集電体とは異なる化合物組成の導電層を有する、
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池に関するものであり、更に詳しくは、特定の正極を備え且つ特定の成分を含有する非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池及びこれに用いるための非水系電解液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近代の急速な産業の発展による電子機器の小型化に伴い、二次電池の更なる高容量化が切望されるようになった。そこで、ニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池に比べてエネルギー密度の高いリチウム二次電池等が開発され、また現在に至るまでこれの性能向上への取り組みも繰り返し行われてきた。
【0003】
二次電池を構成する成分は、正極、負極、セパレータ、及び電解液に大別される。これらのうち、電解液には一般に、LiPF、LiBF、LiClO、LiCFSO、LiAsF、LiN(CFSO、LiCF(CFSO等の電解質を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類等の非水系溶媒に溶解させた非水系電解液が用いられている。
【0004】
近年では環境問題やエネルギー問題などの地球規模の課題を背景に、二次電池、特にリチウム二次電池の車載用電源や定置型電源などの大型電源への応用にも大きな期待が集まっている。しかし、このような電池は一般に、外気にさらされる環境下での使用が見込まれているため、広い温度範囲において機能することが求められる。とりわけ車載用途においては、使用環境が苛酷であるため、特に高い安全性が求められている。これに加えて、その用途から、さらなる高出力化と従来の二次電池以上の寿命性能が求められている。
【0005】
リチウム二次電池をはじめとした二次電池の各種特性を更に向上させるための取り組みの一つとして、上記電解液に各種の化合物を添加する取り組みがなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、Si−Si結合を有する所定の化合物、及びNCO構造を有する鎖状化合物を非水系電解液に加えることで、好適な低温放電抵抗とサイクル特性が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−178340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、これまでにも二次電池の安全性、出力特性、耐久性関連の特性を向上させるための取り組みは行われているが、十分な電池特性を達成するためには未だ十分とはいえず、更なる改善が求められている。
【0009】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、安全性がより高められており、出力特性と高温保存時の容量維持率が高められた、非水系電解液二次電池、並びにこれに用いるための非水系電解液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の正極を備える非水系電解液二次電池において、特定の成分を含有する非水系電解液を用いることで、二次電池の安全性、出力特性及び高温保存時の容量維持率を高レベルでバランスさせることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下(a)〜(p)に示す具体的態様等を提供する。
【0012】
(a)集電体と、LixMPO(Mは周期表第2族〜第12族の金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、xは0<x≦1.2)で表されるリチウム含有リン酸化合物を正極活物質として含有する正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する負極と、非水系電解液とを備えた非水系電解液二次電池であって、前記非水系電解液が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のうち少なくとも一方を含有することを特徴とする、非水系電解液二次電池。
【化1】
(式中、Qは炭素数2〜10の2価の有機基であり、該有機基は3級又は4級炭素を有する。)
【化2】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい珪素数1〜10の珪化水素基であり、R〜Rの少なくとも二つは互いに結合して、環を形成してもよい。)
【0013】
(b)前記一般式(1)中、Qが環状骨格を有することを特徴とする、(a)に記載の非水系電解液二次電池。
【0014】
(c)前記一般式(1)中、Qがシクロヘキサン環を有することを特徴とする、(a)又は(b)に記載の非水系電解液二次電池。
【0015】
(d)前記一般式(1)で表される化合物が下記式で表される化合物であることを特徴とする、(a)〜(c)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【化3】
【0016】
(e)前記一般式(2)中、R〜Rが水素原子又は炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基であることを特徴とする、(a)〜(d)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0017】
(f)前記一般式(2)中、R〜Rがメチル基又はエチル基であることを特徴とする、(a)〜(e)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0018】
(g)前記一般式(2)で表される化合物が、下記式で表される化合物であることを特徴とする、(a)〜(f)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【化4】
【0019】
(h)前記一般式(1)で表される化合物が、前記非水系電解液全体に対して0.01〜10質量%含有されることを特徴とする、(a)〜(g)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0020】
(i)前記一般式(2)で表される化合物が、前記非水系電解液全体に対して0.01〜10質量%含有されることを特徴とする、(a)〜(h)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0021】
(j)前記非水系電解液が、さらに電池の初回充電時に負極上で還元される化合物を含むことを特徴とする、(a)〜(i)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0022】
(k)前記負極上で還元される化合物が、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、無水コハク酸、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート及びリチウムトリス(オキサラト)ホスフェートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(j)に記載の非水系電解液二次電池。
【0023】
(l)前記リチウム含有リン酸化合物が、LixMPO(Mは周期表第4周期の第4族〜第11族の遷移金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、xは0<x≦1.2)で表されることを特徴とする、(a)〜(k)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0024】
(m)前記リチウム含有リン酸化合物が、LiFePOであることを特徴とする、(a)〜(l)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0025】
(n)前記負極活物質が、炭素質材料を含むことを特徴とする、(a)〜(m)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0026】
(o)前記集電体表面に、集電体とは異なる化合物組成の導電層を有する、(a)〜(n)のいずれか一項に記載の非水系電解液二次電池。
【0027】
(p)集電体と、LixMPO(Mは周期表第2族〜第12族の金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、xは0<x≦1.2)で表されるリチウム含有リン酸化合物を正極活物質として含有する正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する負極と、非水系電解液とを備えた非水系電解液二次電池に用いるための、非水系電解液であって、上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物のうち少なくとも一方を含有することを特徴とする、非水系電解液。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、安全性、出力特性及び高温保存時の容量維持率に優れる非水系電解液二次電池、並びにこれに用いるための非水系電解液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0030】
本発明の非水系電解液二次電池は、集電体と、LixMPO(Mは周期表第2族〜第12族の金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、xは0<x≦1.2)で表されるリチウム含有リン酸化合物を正極活物質として含有する正極(以下、「特定正極」と称する場合がある。)と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する負極と、非水系電解液とを備えた非水系電解液二次電池であって、前記非水系電解液が、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「特定NCO化合物」と称する場合がある。)及び下記一般式(2)で表される化合物(以下、「特定Si化合物」と称する場合がある。)のうち少なくとも一方を含有することを特徴とする。
【0031】
【化5】
【化6】
【0032】
まず、本発明の効果の推定機構について述べる。従来、正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を用いた正極(以下、「NMC正極」と称する場合がある。)が汎用されている。しかしながら、NMC正極は、その正極活物質が層状岩塩型の結晶構造を有するため、熱的安定性に劣る。そのため、過充電時や加熱時において、結晶構造が不安定化し、これにともない酸素放出に至ることがある。この酸素放出は、セルの熱暴走を引き起こす要因となる。これに対し、本発明の前記特定正極は、上述したLixMPOで表されるリチウム含有リン酸化合物を正極活物質として用いている。このリチウム含有リン酸化合物は、熱的安定性に優れており、とりわけオリビン型の結晶構造を有するものは熱的安定性に特に優れている。そのため、本発明の前記特定正極は、過充電時や加熱時においても、上記リチウム含有リン酸化合物の結晶構造が比較的に安定に保たれることで酸素放出によるセルの熱暴走が抑制されており、その結果、安全性が高められていると推定される。
【0033】
また、上記特定NCO化合物は分子内にNCO基を有する。NCO基は反応活性が高い官能基として知られており、例えばそれは、OH基と反応し、ウレタン結合を形成することが知られている。
【0034】
非水系電解液二次電池の負極材料には、一般に炭素質材料が用いられる。炭素質材料の表面には多数の表面官能基(OH基,COOH基など)があることが知られている。また、負極上に種々の要因で形成される皮膜中には、OM基(MはLi、Na,K,H,Caなどである)が多数存在していることが知られている。
【0035】
特定NCO化合物のNCO基は、負極上の官能基や皮膜中のOM基と反応し、ウレタン結合を形成すると推定される。これにより、負極表面には特定NCO化合物由来の成分が形成・堆積される。これが負極皮膜として機能し、非水系電解液の非水溶媒の副反応(これにより、後述のとおり負極上に皮膜が形成される)を抑制すると考えられる。ただし、負極上に特定NCO化合物由来の皮膜が堆積することで、負極抵抗が一定程度増大するというデメリットも生じる。
【0036】
前記特定NCO化合物は分子内に2つのNCO基を有する。これら2つのNCO基がそれぞれ独立に負極の表面官能基や皮膜と反応することで、より強固に負極上に皮膜を形成することができ、非水溶媒の副反応が有効に抑制される。ただし、一方では、負極抵抗の増大もより大きくなる。NCO基が反応する際、2つのNCO基が近くで反応すると、それだけ負極上の皮膜の密度が高くなり、抵抗が上がりやすくなると考えられる。本発明に使用される特定NCO化合物には、分子構造に以下の工夫を加えることで、負極抵抗の改善に成功した。
【0037】
特定NCO化合物は、上記式(1)で表され、その構造中のQに3級又は4級炭素を有することを特徴としている。この3級又は4級炭素によって特定NCO化合物の主鎖が分岐することで、側鎖の立体障害により、2つのNCO基の距離を適度に離す効果が期待される。これにより、上述のような皮膜密度の高まりを抑え、抵抗の増大を抑制することができると考えられる。
【0038】
続いて、上記特定Si化合物は、Si−Si結合を有する。Si−Si結合は、求核攻撃を受けることで開裂することが知られている。負極の表面には、上述の通り、様々な官能基が存在する。それら官能基は、二次電池の充電時に求核性が増大する。このとき、求核性の高い表面官能基が特定Si化合物と反応すると考えられる。この反応により、開裂した特定Si化合物の皮膜が負極上に形成されるが、これは、下記に説明する非水溶媒由来の皮膜よりも抵抗が低いので、抵抗の増大を抑制することができると考えられる。
【0039】
負極の表面には皮膜が堆積しているが、これら皮膜の中には、表面官能基が非水溶媒分子を求核攻撃したことで形成されたものも含まれている。つまり、表面官能基は負極皮膜の抵抗と密接に関わっている。
【0040】
負極の表面官能基が特定Si化合物と反応すると、表面官能基は活性を失う。活性を失った表面官能基の非水溶媒に対する求核攻撃性は著しく低下するので(特定NCO化合物との反応性も低下する)、非水溶媒由来の皮膜の形成が抑えられる。このように、特定Si化合物を加えることで、負極表面の抵抗増大を抑えることができる。
【0041】
本発明では、特定正極と特定NCO化合物及び特定Si化合物を含有する非水系電解液とを組み合わせて用いることで、安全性、出力特性及び高温保存時の容量維持率を両立させている。すなわち、特定正極の熱的安定性が高く、また、特定NCO化合物由来の負極皮膜の密度が低いことで、負極の抵抗が小さく、さらに、皮膜密度が低いことで、特定Si化合物の表面官能基との反応が進行しやすい(その結果表面官能基と非水溶媒との副反応が抑制される)ことが、本発明の効果の要因と推定される。
【0042】
以下、本発明の各構成について説明する。
[1.非水系電解液]
非水系電解液は、特定NCO化合物及び特定Si化合物を含むことを特徴としている。
【0043】
〔1−1.特定NCO化合物及び特定Si化合物〕
<1−1−1.特定NCO化合物>
上記のとおり、本発明に使用される特定NCO化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0044】
【化7】
式中、Qは炭素数2〜10の2価の有機基であり、該有機基は3級又は4級炭素を有する。
【0045】
前記有機基は、主に炭素及び水素から構成される炭化水素骨格を基本骨格として有し、ヘテロ原子を有してもよく、前記のとおり3級又は4級炭素を有し、その部分で分岐構造を形成している。なお、本発明において「分岐構造」には、環構造の環構成炭素原子に何らかの基が結合して形成される構造も含まれる。また前記有機基は、3級又は4級炭素を少なくとも1つ有すればよく、2つ以上有してもよい。
【0046】
前記有機基としては、炭素数2〜10の、鎖末端以外の部分にNCO基との結合手を少なくとも1つ有するハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖状アルキレン基(炭素数2の直鎖状アルキレン基(メチルメチレン基)については、二つのNCO基が同一の炭素原子に結合している)、炭素数3〜10のハロゲン原子で置換されていてもよい分岐状アルキレン基、炭素数3〜10のハロゲン原子で置換されていてもよいシクロアルキレン基、炭素数6〜10のハロゲン原子で置換されていてもよいアリーレン基等が挙げられる。
【0047】
以上の各基において置換可能なハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられ、これらの中でも、負極表面での反応性を高める観点からフッ素原子が好ましい。
【0048】
上記に挙げた有機基の中で、負極抵抗の増大を抑制する観点から、Qとして好ましくは、直鎖部分が炭素数4以上の2価の有機基である。この直鎖部分が炭素数4以上の2価の有機基は、さらに置換基を有していてもよい。また、同様の観点から、有機基としては環状骨格を有するものが好ましく、例えばシクロペンタン骨格やシクロヘキサン骨格を有するものがより好ましく、さらに好ましくはシクロヘキサン環である。
【0049】
直鎖部分が炭素数4以上の2価の有機基の具体例としては、以下の構造が挙げられる。
【0050】
【化8】
なお、各構造における二つの波線は、NCO基への結合手である。
【0051】
特定NCO化合物の好ましい具体例としては、上記Qの具体例に対応した化合物がそれぞれ挙げられる。また、特定NCO化合物の中でも特に好ましい化合物は、Qとしてシクロヘキサン骨格を有するものである。具体的には、下記一般式(1a)及び(1b)で表される化合物が挙げられる。
【0052】
【化9】
(式中、L及びLは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、好ましくは単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基であり、Raは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基であり、好ましくはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜5のアルキル基、より好ましくはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基であり、mは、0〜5の整数であり、好ましくは0〜4の整数であり、より好ましくは0〜3の整数である。)
【0053】
【化10】
(式中、Zは、単結合又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、好ましくは単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基であり、L及びLは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、Raは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基であり、好ましくはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜5のアルキル基、より好ましくはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基であり、nは、0〜5の整数であり、好ましくは0〜3の整数であり、より好ましくは0〜2の整数である。)
【0054】
上記一般式(1a)又は(1b)で表される化合物の具体例を、以下に示す。
【化11】
【化12】
【化13】
【0055】
特定NCO化合物の中で、上記一般式(1a)又は(1b)で表される化合物が特に好ましい理由を以下に述べる。まず、2つのNCO基同士が適度に離れているため、特定NCO化合物が負極上で皮膜を形成した際に皮膜が密になりにくく、抵抗が上がりにくくなる。また、2つのNCO基の間にシクロヘキサン環が配置されていることで、その立体障害の影響により、NCO同士の接近をさらに抑制できる。これらにより、より効果的に負極抵抗の増大が抑制されることが期待される。
【0056】
以上説明した特定NCO化合物は、本発明の非水系電解液全体(100質量%)中に0.01〜10質量%含有されていることが好ましく、0.1〜2質量%含有されていることがより好ましい。この理由は、特定NCO化合物の含有量を非水系電解液中で前記範囲に制御することで、電解液中にこれらの化合物が過剰に存在することを抑制できるためである。これらの化合物は正極/電解液界面、負極/電解液界面などの界面を修飾する目的で用いるものであるため、極力この目的を達しうる最小量に抑えることが好ましい。電解液中に未反応の化合物が過剰に存在すると、かえって電池特性が低下する可能性がある。
【0057】
また、本発明において前記特定NCO化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を組
み合わせて使用してもよい。
【0058】
<1−1−2.特定Si化合物>
本発明に使用される特定Si化合物は、下記一般式(2)で表される。
【0059】
【化14】
【0060】
式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよい珪素数1〜10の珪化水素基であり、R〜Rの少なくとも二つは互いに結合して、環を形成してもよい。
【0061】
前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及び珪化水素基に置換していてもよいハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられ、これらの中でも、負極上での反応性を高める観点からフッ素原子が好ましい。
【0062】
また、前記アルキル基は、特定Si化合物が負極の表面官能基と反応する際の立体障害を抑える観点から炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基であることが好ましく、そのようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−プチル基、s−ブチル基及びt−ブチル基が挙げられる。
【0063】
前記アルケニル基の炭素数は2〜10であり、特定Si化合物が負極の表面官能基と反応する際の立体障害を抑える観点から炭素数2〜3のハロゲン原子で置換されていてもよいアルケニル基が好ましい。そのようなアルケニル基としては、ビニル基、アリル基が挙げられる。
【0064】
前記アルキニル基の炭素数は2〜10であり、特定Si化合物が負極の表面官能基と反応する際の立体障害を抑える観点から炭素数2〜3のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキニル基が好ましい。そのようなアルキニル基としては、エチニル基、プロパルギル基が挙げられる。
【0065】
前記アリール基の炭素数は6〜10であり、特定Si化合物が負極の表面官能基と反応する際の立体障害を抑える観点から炭素数6〜7のハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基が好ましい。そのようなアリール基としては、フェニル基、ベンジル基及びp−トリル基が挙げられる。
【0066】
前記珪化水素基は、特定Si化合物が負極の表面官能基と反応する際の立体障害を抑える観点から珪素数1〜2の珪化水素基であることが好ましく、そのような珪化水素基としては、シリル基、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、(トリメチルシリル)シリル基が挙げられる。
【0067】
また、上記のとおりR〜Rの少なくとも二つは互いに結合して(、Si−Siとともに)環を形成してもよく、そのようにして形成される環としては、例えばシクロヘキサシランが挙げられる。
【0068】
以上説明した各種の基の中でも、特定Si化合物が負極の表面官能基と反応する際の立体障害を抑える観点から、R〜Rは好ましくは、水素原子または炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基である。また、R〜Rの好ましい具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−プチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ビニル基、エチニル基、フェニル基、ベンジル基及びp−トリル基が挙げられる。これらの中でも、特に、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0069】
以上から、特定Si化合物の具体例は、上記R〜Rの具体例の組み合わせの数だけ挙げられるが、特定Si化合物の好ましい具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0070】
【化15】
【0071】
さらに、これらの中でも特に好ましい化合物は、以下の二つの化合物である。
【0072】
【化16】
【0073】
特定Si化合物のうち、上記化合物が特に好ましい理由を以下に述べる。一般に、メチル基やエチル基は立体障害が比較的小さく、分子間反応の阻害になりにくい。その為、R〜Rがメチル基又はエチル基である場合、特定Si化合物の負極上での反応が進行しやすくなり、より効果的に抵抗抑制効果を奏することができるという利点がある。
【0074】
立体障害という観点では、メチル基やエチル基よりも水素原子の方がより好ましいが、R〜Rが水素原子の場合は、Si−H結合の活性が高いために、副反応が起こる可能性がある。副反応は電池特性の低下に寄与する懸念があるため、副反応は少ない方が好ましい。これらの理由より、特定Si化合物のうち、上記2種の化合物が特に好ましく、左側の化合物(ヘキサメチルジシラン)が最も好ましい。
【0075】
以上説明した特定Si化合物は、本発明の非水系電解液全体(100質量%)中において、0.01〜10質量%含有されていることが好ましく、0.1〜2質量%含有されていることがより好ましい。この理由は、特定Si化合物の含有量を非水系電解液中で前記範囲に制御することで、電解液中にこれらの化合物が過剰に存在することを抑制できるためである。これらの化合物は正極/電解液界面、負極/電解液界面などの界面を修飾する目的で用いるものであるため、極力この目的を達しうる最小量に抑えることが好ましい。電解液中に未反応の化合物が過剰に存在すると、かえって電池特性が低下する可能性がある。
【0076】
また、本発明において以上説明した特定Si化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
〔1−2.電解質〕
<リチウム塩>
非水系電解液は電解質を含むが、本発明においては前記電解質として、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0078】
例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlF、LiSbF、LiTaF、LiWF等の無機リチウム塩;
LiWOF等のタングステン酸リチウム類;
HCOLi、CHCOLi、CHFCOLi、CHFCOLi、CFCOLi、CFCHCOLi、CFCFCOLi、CFCFCFCOLi、CFCFCFCFCOLi等のカルボン酸リチウム塩類;
FSOLi、CHSOLi、CHFSOLi、CHFSOLi、CFSOLi、CFCFSOLi、CFCFCFSOLi、CFCFCFCFSOLi等のスルホン酸リチウム塩類;
LiN(FCO)、LiN(FCO)(FSO)、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CFSO)(CSO)等のリチウムイミド塩類;
LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO等のリチウムメチド塩類;
リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート等のリチウムオキサラトボレート塩類;
リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート等のリチウムオキサラトホスフェート塩類;
その他、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBFCF、LiBF、LiBF、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO等の含フッ素有機リチウム塩類;
等が挙げられる。
【0079】
これらの中でも、LiPF、LiBF、LiSbF、LiTaF、FSOLi、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサラトホスフェート、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C等が出力特性やハイレート充放電特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点から特に好ましい。
【0080】
これらのリチウム塩は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の好ましい一例は、LiPFとLiBFや、LiPFとFSOLi等の併用であり、二次電池の負荷特性やサイクル特性を向上させる効果がある。
【0081】
この場合、非水系電解液全体100質量%に対するLiBF或いはFSOLiの濃度は配合量に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の非水系電解液全体に対して、通常、0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上であり、また、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0082】
また、他の一例は、無機リチウム塩と有機リチウム塩との併用であり、この両者の併用は、二次電池の高温保存による劣化を抑制する効果がある。有機リチウム塩としては、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサラトホスフェート、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C等が好ましい。
【0083】
この場合には、非水系電解液全体100質量%に対する有機リチウム塩の割合は、好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。
【0084】
非水系電解液中の、以上説明したリチウム塩の濃度は、本発明の効果を損なわない限り、その含有量は特に制限されないが、非水系電解液の電気伝導率を良好な範囲とし、良好な電池性能を確保する点から、非水系電解液中のリチウムの総モル濃度は、好ましくは0.3mol/L以上、より好ましくは0.4mol/L以上、さらに好ましくは0.5mol/L以上であり、また、好ましくは3mol/L以下、より好ましくは2.5mol/L以下、さらに好ましくは2.0mol/L以下である。
【0085】
リチウムの総モル濃度が低すぎると、非水系電解液の電気伝導率が不十分な場合があり、一方、濃度が高すぎると、粘度上昇のため電気伝導度が低下する場合があり、電池性能が低下する場合がある。
【0086】
〔1−3.非水溶媒〕
本発明の非水系電解液における非水溶媒について特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることが可能である。これらを例示すると、フッ素原子を有していない環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状及び鎖状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、スルホン系化合物等が挙げられる。
【0087】
<フッ素原子を有していない環状カーボネート>
前記フッ素原子を有していない環状カーボネートとしては、炭素数2〜4のアルキレン基を有する環状カーボネートが挙げられる。
【0088】
炭素数2〜4のアルキレン基を有する、フッ素原子を有していない環状カーボネートの具体的な例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートが挙げられる。中でも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0089】
フッ素原子を有していない環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0090】
フッ素原子を有していない環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、1種を単独で用いる場合の配合量は、非水溶媒100体積%中、通常5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また、前記配合量は通常95体積%以下、より好ましくは90体積%以下、さらに好ましくは85体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の負荷特性を良好な範囲としやすくなる。
【0091】
<鎖状カーボネート>
上記鎖状カーボネートとしては、炭素数3〜7の鎖状カーボネートが好ましく、炭素数3〜7のジアルキルカーボネートがより好ましい。
【0092】
鎖状カーボネートの具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、t−ブチルメチルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、t−ブチルエチルカーボネート等が挙げられる。
【0093】
中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネートが好ましく、特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0094】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と記載する場合がある)も好適に用いることができる。
【0095】
フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。
【0096】
フッ素化鎖状カーボネートとしては、フッ素化ジメチルカーボネート及びその誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート及びその誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート及びその誘導体等が挙げられる。
【0097】
フッ素化ジメチルカーボネート及びその誘導体としては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート等が挙げられる。
【0098】
フッ素化エチルメチルカーボネート及びその誘導体としては、2−フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート等が挙げられる。
【0099】
フッ素化ジエチルカーボネート及びその誘導体としては、エチル−(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
【0100】
以上説明した鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0101】
また、前記鎖状カーボネートの配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上である。このように下限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。また、鎖状カーボネートは、非水溶媒100体積%中、90体積%以下、より好ましくは85体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0102】
<環状カルボン酸エステル>
上記環状カルボン酸エステルとしては、炭素原子数が3〜12のものが好ましい。
具体的には、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イプシロンカプロラクトン等が挙げられる。中でも、ガンマブチロラクトンがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0103】
環状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0104】
環状カルボン酸エステルの配合量は、通常、非水溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの配合量は、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0105】
<鎖状カルボン酸エステル>
鎖状カルボン酸エステルとしては、炭素数が3〜7のものが好ましい。具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−t−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−t−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸−n−プロピル、イソ酪酸イソプロピル等が挙げられる。
【0106】
これらの中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル等が、粘度低下によるイオン伝導度の向上の点から好ましい。
【0107】
以上説明した鎖状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0108】
鎖状カルボン酸エステルの配合量は、通常、非水溶媒100体積%中、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。このように下限を設定することで、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。このように上限を設定することで、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。
【0109】
<エーテル系化合物>
上記エーテル系化合物としては、一部の水素がフッ素にて置換されていてもよい炭素数3〜10の鎖状エーテル、及び炭素数3〜6の環状エーテルが好ましい。
【0110】
前記炭素数3〜10の鎖状エーテルとしては、
ジエチルエーテル、ジ(2−フルオロエチル)エーテル、ジ(2,2−ジフルオロエチル)エーテル、ジ(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、エチル(2−フルオロエチル)エーテル、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、エチル(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、(2−フルオロエチル)(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、エチル−n−プロピルエーテル、エチル(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、2−フルオロエチル−n−プロピルエーテル、(2−フルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、2,2,2−トリフルオロエチル−n−プロピルエーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−n−プロピルエーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ−n−プロピルエーテル、(n−プロピル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジメトキシメタン、メトキシエトキシメタン、メトキシ(2−フルオロエトキシ)メタン、メトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタンメトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジエトキシメタン、エトキシ(2−フルオロエトキシ)メタン、エトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、エトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジ(2−フルオロエトキシ)メタン、(2−フルオロエトキシ)(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、(2−フルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタンジ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジメトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メトキシ(2−フルオロエトキシ)エタン、メトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、メトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジエトキシエタン、エトキシ(2−フルオロエトキシ)エタン、エトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、エトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(2−フルオロエトキシ)エタン、(2−フルオロエトキシ)(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、(2−フルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0111】
前記炭素数3〜6の環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、2−メチル−1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等、及びこれらのフッ素化化合物が挙げられる。
【0112】
以上説明したエーテル系化合物の中でも、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルが、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させる点で好ましく、特に好ましくは、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンである。
【0113】
このようなエーテル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0114】
エーテル系化合物の配合量は、通常、非水溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上、また、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下、さらに好ましくは50体積%以下である。
【0115】
この範囲であれば、鎖状エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすく、後述する負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入されて電池容量が低下するといった事態を回避しやすい。
【0116】
<スルホン系化合物>
上記スルホン系化合物としては、炭素数3〜6の環状スルホン、及び炭素数2〜6の鎖状スルホンが好ましい。1分子中のスルホニル基の数は、1又は2であることが好ましい。
【0117】
前記炭素数3〜6の環状スルホンとしては、
モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類;
ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。
【0118】
これらの中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0119】
前記スルホラン類としては、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体(以下、スルホランも含めて「スルホラン類」と記載する場合がある)が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子やアルキル基で置換されたものが好ましい。
【0120】
中でも、2−メチルスルホラン、3−メチルスルホラン、2−フルオロスルホラン、3−フルオロスルホラン、2,2−ジフルオロスルホラン、2,3−ジフルオロスルホラン、2,4−ジフルオロスルホラン、2,5−ジフルオロスルホラン、3,4−ジフルオロスルホラン、2−フルオロ−3−メチルスルホラン、2−フルオロ−2−メチルスルホラン、3−フルオロ−3−メチルスルホラン、3−フルオロ−2−メチルスルホラン、4−フルオロ−3−メチルスルホラン、4−フルオロ−2−メチルスルホラン、5−フルオロ−3−メチルスルホラン、5−フルオロ−2−メチルスルホラン、2−フルオロメチルスルホラン、3−フルオロメチルスルホラン、2−ジフルオロメチルスルホラン、3−ジフルオロメチルスルホラン、2−トリフルオロメチルスルホラン、3−トリフルオロメチルスルホラン、2−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)スルホラン、3−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)スルホラン、4−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)スルホラン、5−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)スルホラン等が、イオン伝導度が高く、入出力特性が高い点で好ましい。
【0121】
また、前記炭素数2〜6の鎖状スルホンとしては、
ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、n−プロピルメチルスルホン、n−プロピルエチルスルホン、ジ−n−プロピルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、イソプロピルエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、n−ブチルメチルスルホン、n−ブチルエチルスルホン、t−ブチルメチルスルホン、t−ブチルエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、モノフルオロエチルメチルスルホン、ジフルオロエチルメチルスルホン、トリフルオロエチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン、エチルモノフルオロメチルスルホン、エチルジフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロメチルスルホン、パーフルオロエチルメチルスルホン、エチルトリフルオロエチルスルホン、エチルペンタフルオロエチルスルホン、ジ(トリフルオロエチル)スルホン、パーフルオロジエチルスルホン、フルオロメチル−n−プロピルスルホン、ジフルオロメチル−n−プロピルスルホン、トリフルオロメチル−n−プロピルスルホン、フルオロメチルイソプロピルスルホン、ジフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル−n−プロピルスルホン、トリフルオロエチルイソプロピルスルホン、ペンタフルオロエチル−n−プロピルスルホン、ペンタフルオロエチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル−n−ブチルスルホン、トリフルオロエチル−t−ブチルスルホン、ペンタフルオロエチル−n−ブチルスルホン、ペンタフルオロエチル−t−ブチルスルホン等が挙げられる。
【0122】
これらの中でも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、n−プロピルメチルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、n−ブチルメチルスルホン、t−ブチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、モノフルオロエチルメチルスルホン、ジフルオロエチルメチルスルホン、トリフルオロエチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン、エチルモノフルオロメチルスルホン、エチルジフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロエチルスルホン、エチルペンタフルオロエチルスルホン、トリフルオロメチル−n−プロピルスルホン、トリフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル−n−ブチルスルホン、トリフルオロエチル−t−ブチルスルホン、トリフルオロメチル−n−ブチルスルホン、トリフルオロメチル−t−ブチルスルホン等が、イオン伝導度が高く、入出力特性が高い点で好ましい。
【0123】
以上説明したスルホン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0124】
また、スルホン系化合物の配合量は、通常、非水溶媒100体積%中、好ましくは0.3体積%以上、より好ましくは1体積%以上、さらに好ましくは5体積%以上であり、また、好ましくは40体積%以下、より好ましくは35体積%以下、さらに好ましくは30体積%以下である。
【0125】
この範囲であれば、二次電池のサイクル特性や保存特性等の耐久性の向上効果が得られやすく、また、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避することができ、非水系電解液二次電池の充放電を高電流密度で行う場合に、充放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0126】
<フッ素原子を有する環状カーボネートを非水溶媒として用いる場合>
本発明においては、上述のとおりフッ素原子を有していない環状カーボネートを非水溶媒として用いることができるが、フッ素原子を有する環状カーボネートを非水溶媒として用いることもできる。この場合は、フッ素原子を有する環状カーボネート以外の非水溶媒として、上記例示した非水溶媒の1種をフッ素原子を有する環状カーボネートと組み合わせて用いてもよく、2種以上をフッ素原子を有する環状カーボネートと組み合わせて併用してもよい。
【0127】
例えば、非水溶媒の好ましい組合せの一つとして、フッ素原子を有する環状カーボネートと鎖状カーボネートを主体とする組合せが挙げられる。中でも、非水溶媒に占めるフッ素原子を有する環状カーボネートと鎖状カーボネートとの合計が、好ましくは60体積%以上、より好ましくは80体積%以上、更に好ましくは90体積%以上であり、かつフッ素原子を有する環状カーボネートと鎖状カーボネートとの合計に対するフッ素原子を有する環状カーボネートの割合が3体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上であり、また好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下、さらに好ましくは40体積%以下、特に好ましくは35体積%以下である。
【0128】
これらの非水溶媒の組み合わせを用いると、これを用いて作製された二次電池のサイクル特性と高温保存特性(特に、高温保存後の残存容量及び高負荷放電容量)のバランスが良くなることがある。
【0129】
例えば、フッ素原子を有する環状カーボネートと鎖状カーボネートの好ましい組み合わせの具体例としては、
モノフルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとジエチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0130】
フッ素原子を有する環状カーボネートと鎖状カーボネートとの組み合わせの中で、鎖状カーボネートとして対称鎖状アルキルカーボネート類を含有するものが更に好ましく、特に、モノフルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネートといった、モノフルオロエチレンカーボネートと対称鎖状カーボネート類と非対称鎖状カーボネート類を含有するものが、サイクル特性と大電流放電特性のバランスが良いので好ましい。中でも、対称鎖状カーボネート類がジメチルカーボネートであることが好ましく、又、鎖状カーボネートのアルキル基としては炭素数1〜2のものが好ましい。
【0131】
これらのフッ素原子を有する環状カーボネートと鎖状カーボネート類との組み合わせに、更にフッ素原子を有していない環状カーボネートを加えた組み合わせも、好ましい組み合わせとして挙げられる。中でも、非水溶媒に占めるフッ素原子を有する環状カーボネートとフッ素原子を有していない環状カーボネートとの合計が、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上、さらに好ましくは20体積%以上であり、かつフッ素原子を有する環状カーボネートとフッ素原子を有していない環状カーボネートとの合計に対するフッ素原子を有する環状カーボネートの割合が5体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上、さらに好ましくは25体積%以上であり、また、好ましくは95体積%以下、より好ましくは85体積%以下、さらに好ましくは75体積%以下、特に好ましくは60体積%以下のものである。
【0132】
この濃度範囲でフッ素原子を有していない環状カーボネートを含有すると、負極に安定な保護皮膜を形成しつつ、電解液の電気伝導度を維持できる。
【0133】
フッ素原子を有する環状カーボネートとフッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートの好ましい組み合わせの具体例としては、
モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジエチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0134】
フッ素原子を有する環状カーボネートとフッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートとの組み合わせの中で、鎖状カーボネートとして対称鎖状アルキルカーボネート類を含有するものがさらに好ましく、特に、
モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート
といったモノフルオロエチレンカーボネートと対称鎖状カーボネート類と非対称鎖状カーボネート類を含有するものが、サイクル特性と大電流放電特性のバランスが良いので好ましい。中でも、対称鎖状カーボネート類がジメチルカーボネートであるのが好ましく、又、鎖状カーボネートのアルキル基としては炭素数1〜2のものが好ましい。
【0135】
非水溶媒中にジメチルカーボネートを含有する場合は、全非水溶媒中に占めるジメチルカーボネートの割合が、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは25体積%以上、特に好ましくは30体積%以上であり、また、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下、さらに好ましくは75体積%以下、特に好ましくは70体積%以下となる範囲で含有させると、二次電池の負荷特性が向上することがある。
【0136】
上記フッ素原子を有する環状カーボネートと鎖状カーボネートを主体とする組合せにおいては、上記フッ素原子を有していない環状カーボネート以外にも、環状カルボン酸エステル類、鎖状カルボン酸エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、含硫黄有機溶媒、含燐有機溶媒、含フッ素芳香族溶媒等、他の溶媒を混合してもよい。
【0137】
<フッ素原子を有する環状カーボネートを助剤として用いる場合>
後述するとおり本発明の非水系電解液には助剤を添加することができるが、フッ素原子を有する環状カーボネートを助剤として用いる場合は、フッ素原子を有する環状カーボネート以外の非水溶媒として、上記例示した非水溶媒1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0138】
例えば、非水溶媒の好ましい組合せの一つとして、フッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートを主体とする組合せが挙げられる。
【0139】
中でも、非水溶媒に占めるフッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートとの合計が、好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、かつ環状カーボネートと鎖状カーボネートとの合計に対するフッ素原子を有していない環状カーボネートの割合が好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上であり、また、好ましくは50体積%以下、より好ましくは35体積%以下、さらに好ましくは30体積%以下、特に好ましくは25体積%以下である。
【0140】
これらの非水溶媒の組み合わせを用いると、これを用いて作製された電池のサイクル特性と高温保存特性(特に、高温保存後の残存容量及び高負荷放電容量)のバランスが良くなることがある。
【0141】
例えば、フッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートの好ましい組み合わせの具体例としては、
エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0142】
フッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートとの組み合わせの中で、鎖状カーボネートとして非対称鎖状アルキルカーボネート類を含有するものがさらに好ましく、特に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネートといった、エチレンカーボネートと対称鎖状カーボネート類と非対称鎖状カーボネート類を含有するものが、サイクル特性と大電流放電特性のバランスが良いので好ましい。
【0143】
これらの中でも、非対称鎖状カーボネート類がエチルメチルカーボネートであるものが好ましく、又、鎖状カーボネートのアルキル基としては炭素数1〜2のものが好ましい。
【0144】
これらのエチレンカーボネートと鎖状カーボネート類との組み合わせに、更にプロピレンカーボネートを加えた組み合わせも、好ましい組み合わせとして挙げられる。
【0145】
プロピレンカーボネートを含有する場合には、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの体積比は、99:1〜40:60が好ましく、特に好ましくは95:5〜50:50である。更に、非水溶媒全体に占めるプロピレンカーボネートの割合は、好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは1体積%以上、さらに好ましくは2体積%以上、また、好ましくは20体積%以下、より好ましくは8体積%以下、さらに好ましくは5体積%以下である。
【0146】
この濃度範囲でプロピレンカーボネートを含有すると、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートとの組み合わせの特性を維持したまま、更に低温特性が優れることがあるので好ましい。
【0147】
非水溶媒中にジメチルカーボネートを含有する場合は、全非水溶媒中に占めるジメチルカーボネートの割合が、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは25体積%以上、特に好ましくは30体積%以上であり、また、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下、さらに好ましくは75体積%以下、特に好ましくは、70体積%以下となる範囲で含有させると、二次電池の負荷特性が向上することがある。
【0148】
上記フッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートを主体とする組合せにおいては、環状カルボン酸エステル類、鎖状カルボン酸エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、含硫黄有機溶媒、含燐有機溶媒、芳香族含フッ素溶媒等、他の溶媒を混合してもよい。
【0149】
<非水溶媒の体積について>
なお、本明細書において、非水溶媒の体積は25℃での測定値であるが、エチレンカーボネートのように25℃で固体のものは融点での測定値を用いる。
【0150】
〔1−4.助剤〕
本発明の非水系電解液においては、目的に応じて適宜助剤を用いてもよい。助剤としては、以下に示される、電池の初回充電時に負極上で還元される化合物、過充電防止剤、その他の助剤、等が挙げられる。
【0151】
前記負極上で還元される化合物は、還元されることで負極上に皮膜を形成するが、これは負極−電解液界面を安定に保護する点で好ましい。前記化合物としては、炭素−炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素原子を有する環状カーボネート、フッ素原子を有する不飽和環状カーボネート(以下、「フッ素化不飽和環状カーボネート」と記載する場合がある)、無水カルボン酸、アート型錯体化合物が挙げられる。
【0152】
<炭素−炭素不飽和結合を有する環状カーボネート>
前記炭素−炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」と記載する場合がある)としては、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はなく、任意の不飽和カーボネートを用いることができる。なお、芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。
【0153】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類、芳香環または炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。
ビニレンカーボネート類としては、
ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5−ジビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5−ジアリルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0154】
芳香環または炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類の具体例としては、
ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−ビニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5−ジエチニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−エチニルエチレンカーボネート、4−ビニル−5−エチニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−エチニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフェニルエチレンカーボネート、4−フェニル−5−ビニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−メチル−5−アリルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0155】
中でも、好ましい不飽和環状カーボネートとしては、
ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5−ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5−ジアリルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−ビニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−メチル−5−アリルエチレンカーボネート、4−アリル−5−ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5−ジエチニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−エチニルエチレンカーボネート、4−ビニル−5−エチニルエチレンカーボネートが挙げられる。
【0156】
また、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネートはさらに安定な界面保護被膜を形成するので、特に好ましい。
不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは、80以上、250以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する不飽和環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が十分に発現されやすい。不飽和環状カーボネートの分子量は、より好ましくは85以上であり、また、より好ましくは150以下である。不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0157】
不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、不飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液100質量%中、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。この範囲内であれば、非水系電解液二次電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0158】
<フッ素原子を有する環状カーボネート>
上記フッ素原子を有する環状カーボネートとしては、炭素原子数2〜6のアルキレン基を有する環状カーボネートのフッ素化物、及びその誘導体が挙げられ、例えばエチレンカーボネートのフッ素化物、及びその誘導体が挙げられる。エチレンカーボネートのフッ素化物の誘導体としては、例えば、アルキル基(例えば、炭素原子数1〜4個のアルキル基)で置換されたエチレンカーボネートのフッ素化物が挙げられる。中でもフッ素原子を1〜8個有するエチレンカーボネート、及びその誘導体が好ましい。
【0159】
具体的には、
フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5,5−ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0160】
中でも、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート及び4,5−ジフルオロエチレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも1種が、高イオン伝導性を与え、かつ好適に界面保護被膜を形成する点でより好ましい。
【0161】
フッ素原子を有する環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0162】
フッ素原子を有する環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。本発明の非水系電解液全体に対するフッ素化環状カーボネートの配合量に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液100質量%中、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0163】
<フッ素化不飽和環状カーボネート>
上記フッ素化不飽和環状カーボネートが有するフッ素原子の数は1以上であれば、特に制限されない。中でもフッ素原子が通常6以下、好ましくは4以下であり、1又は2のものが最も好ましい。
【0164】
フッ素化不飽和環状カーボネートとしては、フッ素化ビニレンカーボネート誘導体、芳香環又は炭素−炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0165】
フッ素化ビニレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0166】
芳香環又は炭素−炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体としては、
4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0167】
以上の中でも、特に好ましいフッ素化不飽和環状カーボネートとしては、
4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネートが挙げられる。これらは、安定な界面保護皮膜を形成するので、より好適に用いられる。
【0168】
フッ素化不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは、50以上であり、また、250以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対するフッ素化不飽和環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現されやすい。
【0169】
フッ素化不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。分子量は、より好ましくは100以上であり、また、より好ましくは200以下である。
【0170】
フッ素化不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、フッ素化不飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0171】
フッ素化不飽和環状カーボネートの配合量は、通常、非水系電解液100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0172】
この範囲内であれば、非水系電解液二次電池は十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0173】
<無水カルボン酸>
上記無水カルボン酸の配合量は、通常、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは、0.1質量%以上、さらに好ましくは、0.2質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは、4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0174】
この範囲であれば、非水系電解液二次電池は十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0175】
このような無水カルボン酸としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸が挙げられる。
【0176】
<アート型錯体化合物>
上記アート型錯体化合物の配合量は、通常、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは、0.1質量%以上、さらに好ましくは、0.2質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは、4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0177】
この範囲であれば、非水系電解液二次電池は十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0178】
このようなアート型錯体化合物としては、例えば、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート及びリチウムトリス(オキサラト)ホスフェートが挙げられる。
【0179】
以上、本発明の非水系電解液において助剤として使用できる、電池の初回充電時に負極上で還元される化合物を説明したが、それらの中でも負極−電解液界面を安定に保護し、副反応を抑制する観点からは、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、無水コハク酸、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート及びリチウムトリス(オキサラト)ホスフェートが好ましい。
【0180】
<過充電防止剤>
本発明の非水系電解液において、非水系電解液二次電池が過充電等の状態になった際に電池の破裂・発火を効果的に抑制するために、過充電防止剤を用いることができる。
【0181】
過充電防止剤としては、
ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;
2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分フッ素化物;
2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等が挙げられる。
【0182】
これらの中でも、
ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物が好ましい。
【0183】
これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合は、特に、シクロヘキシルベンゼンとt−ブチルベンゼン又はt−アミルベンゼンとの組み合わせ、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン等の酸素を含有しない芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種と、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の含酸素芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種とを併用するのが過充電防止特性と高温保存特性のバランスの点から好ましい。
【0184】
過充電防止剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。過充電防止剤は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.1質量%以上で、また、5質量%以下の割合で配合される。この範囲であれば、過充電防止剤の効果を十分に発現させやすく、また、高温保存特性等の電池の特性が低下するといった事態も回避しやすい。
【0185】
過充電防止剤は、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上の割合で、また、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下の割合で配合される。
【0186】
<その他の助剤>
本発明の非水系電解液には、公知のその他の助剤を用いることができる。その他の助剤としては、
エリスリタンカーボネート、スピロ−ビス−ジメチレンカーボネート、メトキシエチル−メチルカーボネート等のカーボネート化合物;無水グルタル酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びフェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;
2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ジビニル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のスピロ化合物;
エチレンサルファイト、フルオロスルホン酸メチル、フルオロスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ブスルファン、スルホレン、ジフェニルスルホン、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド等の含硫黄化合物;
1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン及びN−メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;
ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物;
フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物;
等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの助剤を添加することにより、二次電池の高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる。
【0187】
その他の助剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。その他の助剤の配合量は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上であり、また、5質量%以下である。この範囲であれば、その他助剤の効果が十分に発現させやすく、高負荷放電特性等の電池の特性が低下するといった事態も回避しやすい。
【0188】
その他の助剤の配合量は、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0189】
以上、上述の非水系電解液は、本発明の非水系電解液二次電池の内部に存在するものも含まれる。
【0190】
具体的には、リチウム塩や溶媒、助剤等の非水系電解液の構成成分を別途合成し、実質的に単離されたものから非水系電解液を調製し、下記に記載する方法にて別途組み立てた電池内に注液して得た非水系電解液二次電池内の非水系電解液である場合や、本発明の非水系電解液の構成成分を個別に電池内に入れておき、電池内にて混合させることにより本発明の非水系電解液と同じ組成を得る場合、更には、本発明の非水系電解液を構成する化合物を該非水系電解液二次電池内で発生させて、本発明の非水系電解液と同じ組成を得る場合も含まれるものとする。
【0191】
[2.非水系電解液二次電池]
次に、本発明の非水系電解液二次電池について説明する。当該二次電池は、特定正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する負極と、非水系電解液とを備えている。以下、これらの各構成について説明する。
【0192】
〔2−1.非水系電解液〕
前記非水系電解液としては、上述の本発明の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を配合して用いることも可能である。
【0193】
〔2−2.正極〕
以下に本発明のリチウム二次電池に使用される正極について説明する。
【0194】
<組成>
本発明の非水系電解液電池は、LixMPO(Mは周期表第2族〜第12族の金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、xは0<x≦1.2)で表されるリチウム含有リン酸化合物を基本組成とする正極活物質を備えている。
【0195】
上記のリチウム含有リン酸化合物としては、LixMPO(Mは周期表第4周期の第4族〜第11族の遷移金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、xは0<x≦1.2)で表されるものが好ましい。
【0196】
また、上記LixMPOのMとしては、Mg,Zn,Ca,Cd,Sr,Ba,Co,Ni,Fe,Mn及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であることが好ましく、Co,Ni,Fe,及びMnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であることがより好ましい。これらの中でも、特にLiFePOを基本組成とするオリビン構造の鉄リン酸リチウムが、高温・充電状態での金属溶出が起こりにくく、また安価であるために好適に用いられる。
【0197】
なお、上述の「LixMPOを基本組成とする」とは、その組成式で表される組成のものだけでなく、結晶構造におけるFe等のサイトの一部を他の元素で置換したものも含むことを意味する。さらに、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損等した非化学量論組成のものも含むことを意味する。置換する他の元素はAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の元素であることが好ましい。上記他元素置換を行う場合は、0.1mol%以上5mol%以下が好ましく、さらに好ましくは0.2mol%以上2.5mol%以下である。
【0198】
また、上記正極活物質は、上記LixMPOを主成分とするが、その他にも、例えばリチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物を併用することができる。リチウム遷移金属系化合物とは、リチウムイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物などが挙げられる。前記硫化物としては、TiSやMoSなどの二次元層状構造をもつ化合物や、一般式MxMo(MはPb,Ag,Cuをはじめとする各種遷移金属)で表される強固な三次元骨格構造を有するシュブレル化合物などが挙げられる。前記ケイ酸化合物としてはLiMSiOが、前記ホウ酸化合物としてはLiMBOなどが挙げられる。好ましくは、上記正極活物質は、上記LixMPOを20wt%以上含有することがよい。この場合には、上記非水系電解液電池の充放電サイクル特性をより向上させることができる。より好ましくは、上記LixMPOの含有量は40wt%以上がよい。
【0199】
また、LixMPOを二種類以上併用することもできる。併用する際の好ましい組み合わせとしては、LixFePOとLixMnPO、LixFePOとLixCoPO、LixFePOとLixNiPOを挙げることができ、これにより安全性を保持しながら電池動作電圧を向上させることができる。これらの中でも特に好ましい組み合わせはLixFePOとLixMnPOであり、上記安全性や電池動作電圧の向上に加えて、高温保存特性やサイクル特性等の耐久性に優れるために好ましい。
【0200】
<表面被覆>
また、正極活物質としては、LixMPOの表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0201】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることもできる。
【0202】
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができ、その付着量が適度な場合にはその効果がより一層発揮される。
【0203】
本発明においては、LixMPOの正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものをも「正極活物質」という。
【0204】
<形状>
本発明における前記正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が用いられるが、中でも一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状ないし楕円球状であるものが好ましい。通常、電気化学素子はその充放電に伴い、電極中の活物質が膨張収縮をするため、そのストレスによる活物質の破壊や導電パス切れ等の劣化がおきやすい。そのため一次粒子のみの単一粒子活物質であるよりも、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成したものである方が膨張収縮のストレスを緩和して、劣化を防ぐため好ましい。また、板状等軸配向性の粒子であるよりも球状ないし楕円球状の粒子の方が、電極の成形時の配向が少ないため、充放電時の電極の膨張収縮も少なく、また電極を作成する際の導電材との混合においても、均一に混合されやすいため好ましい。
【0205】
<タップ密度>
前記正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.1g/cm以上、より好ましくは0.2g/cm以上、更に好ましくは0.3g/cm以上、最も好ましくは0.4g/cm以上である。該正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、上限は、好ましくは2.0g/cm以下、より好ましくは1.8g/cm以下である。
【0206】
なお、本発明では、タップ密度は、正極活物質粉体5〜10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/ccとして求める。
【0207】
<メジアン径d50
前記正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上、最も好ましくは2μm以上であり、上限は、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、更に好ましくは16μm以下、最も好ましくは15μm以下である。上記下限を下回ると、高タップ密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成、すなわち活物質と導電材やバインダー等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引く等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ該正極活物質を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性を更に向上させることができる。
【0208】
本発明におけるメジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA−920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0209】
<平均一次粒子径>
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、該正極活物質の平均一次粒子径としては、好ましくは0.02μm以上、より好ましくは0.03μm以上、更に好ましくは0.05μm以上であり、上限は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1.6μm以下、更に好ましくは1.3μm以下、最も好ましくは1μm以下である。上記範囲内であると、球状の二次粒子を形成し易く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下するために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなるといった事態を回避しやすい。さらに、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題も生じ難くなる。
【0210】
一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0211】
<BET比表面積>
本発明の二次電池に供する該正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.4m/g以上、より好ましくは0.5m/g以上、更に好ましくは0.6m/g以上であり、上限は50m/g以下、好ましくは40m/g以下、更に好ましくは30m/g以下である。BET比表面積が上記範囲内であると、電池性能の低下を抑制でき、さらに正極活物質層形成時の塗布性も良好である。
【0212】
BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0213】
<製造法>
該正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、リン酸等のリン原料物質と、LixMPOにおけるMの原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0214】
本発明における正極の製造のためには、LixMPOの正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆されたLixMPOの正極活物質を単独で用いても良く、異なる組成の1種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用しても良い。ここで、LixMPOの正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆されたLixMPOの正極活物質は、正極活物質全体の30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。LixMPOの正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆されたLixMPOの正極活物質の使用割合上記範囲内であると、好適な電池容量を提供することができる。
【0215】
なお、「LixMPOの正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆されたLixMPOの正極活物質」と「LixMPOの正極活物質及び/又は前記表面付着物質で被覆されたLixMPOの正極活物質以外の正極活物質」を総称して「正極活物質」という。
【0216】
[正極の構成]
以下に、本発明に使用される正極の構成について述べる。
【0217】
<電極構造と作製法>
本発明のリチウム二次電池用の正極は、正極活物質と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製される。すなわち、本発明のリチウム二次電池用の正極は、前記正極活物質と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製される。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成されることにより正極を得ることができる。
【0218】
本発明のリチウム二次電池の正極に用いられる正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。正極活物質層中の正極活物質の含有量が上記範囲内であると電気容量と正極の強度のバランスに優れる。
【0219】
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。正極活物質層の充填密度は、下限として好ましくは1.3g/cm以上、より好ましくは1.4g/cm以上、更に好ましくは1.5g/cm以上であり、上限としては、好ましくは3.0g/cm以下、より好ましくは2.5g/cm以下、更に好ましくは2.3g/cm以下の範囲である。
【0220】
上記範囲内であると、集電体/活物質界面付近への電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られないといった事態や、活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られないといった事態を回避しやすい。
【0221】
<導電材>
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また上限は、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。含有量が上記範囲内であると、導電性を十分に確保することができ、好適な電池容量を提供することができる。
【0222】
<結着剤>
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散される材料であれば良いが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0223】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、上限は、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。結着剤の割合が上記範囲内であると、正極活物質を十分保持できるため、好適な正極の機械的強度を提供することができ、電池容量や導電性の低下を招くことなく、サイクル特性等に優れた電池性能を提供することが可能となる。
【0224】
<液体媒体>
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良い。水系媒体としては、例えば、水、アルコールと水との混合媒等が挙げられる。有機系媒体としては、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。
【0225】
特に水系媒体を用いる場合、増粘剤と、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等のラテックスを用いてスラリー化するのが好ましい。増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限はないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。更に増粘剤を添加する場合には、活物質に対する増粘剤の割合は、0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上であり、また、上限としては5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下の範囲である。上記範囲内であると、塗布性が良好となり、正極活物質層に占める活物質の割合が低くなり過ぎることなく、電池の容量が低下する問題や正極活物質間の抵抗が増大する問題が生じるといった事態を回避し易い。
【0226】
<集電体>
正極集電体の材質としては特に制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0227】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。薄膜の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また上限は、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。薄膜が上記範囲内であると、集電体として必要な強度を備えることができ、取り扱いも容易となる。
【0228】
また、集電体の表面に、集電体とは異なる化合物組成により導電層が形成されているものを用いることも、集電体と正極活物質層の電子接触抵抗を低下させる観点で好ましい。集電体とは異なる化合物組成により形成される導電層としては、炭素質材料や、導電性高分子、金、白金、銀等の貴金属類により形成される導電層が挙げられる。
【0229】
集電体と正極活物質層の厚さの比は特には限定されないが、(電解液注液直前の片面の正極活物質層の厚さ)/(集電体の厚さ)の値が20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、最も好ましくは10以下であり、下限は、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、最も好ましくは1以上の範囲である。上記範囲内であると、高電流密度充放電時に集電体がジュール熱による発熱を生じたり、正極活物質に対する集電体の体積比が増加し、電池の容量が減少するといった事態を回避し易くなる。
【0230】
<電極面積>
本発明の非水系電解液を用いる場合、高出力かつ高温時の安定性を高める観点から、正極活物質層の面積は、電池外装ケースの外表面積に対して大きくすることが好ましい。具体的には、二次電池の外装の表面積に対する前記正極の電極面積の総和が面積比で15倍以上とすることが好ましく、更に40倍以上とすることがより好ましい。外装ケースの外表面積とは、有底角型形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分の縦と横と厚さの寸法から計算で求める総面積をいう。有底円筒形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分を円筒として近似する幾何表面積である。正極の電極面積の総和とは、負極活物質を含む合材層に対向する正極合材層の幾何表面積であり、集電体箔を介して両面に正極合材層を形成してなる構造では、それぞれの面を別々に算出する面積の総和をいう。
【0231】
<正極板の厚さ>
正極板の厚さは特に限定されるものではないが、高容量かつ高出力の観点から、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、上限としては、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下である。
【0232】
<正極板の表面被覆>
また、上記正極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0233】
〔2−3.負極〕
本発明の非水系電解液二次電池の負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。その具体例としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素質材料を使用するのが最も好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0234】
<炭素質材料>
炭素質材料としては、(1)天然黒鉛、(2)人造黒鉛、(3)非晶質炭素、(4)炭素被覆黒鉛、(5)黒鉛被覆黒鉛、(6)樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。
【0235】
(1)天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛及び/又はこれらの黒鉛を原料に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性や充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛が特に好ましい。
【0236】
球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に粒子の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いることができる。具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された炭素材に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、球形化処理を行なう装置が好ましい。また、炭素材を循環させることによって機械的作用を繰り返して与える機構を有するものであるのが好ましい。
【0237】
例えば前述の装置を用いて球形化処理する場合は、回転するローターの周速度を30〜100m/秒にするのが好ましく、40〜100m/秒にするのがより好ましく、50〜100m/秒にするのが更に好ましい。また、処理は、単に炭素材を通過させるだけでも可能であるが、30秒以上装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、1分以上装置内を循環又は滞留させて処理するのがより好ましい。
【0238】
(2)人造黒鉛としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機化合物を、通常2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で黒鉛化し、必要に応じて粉砕及び/又は分級して製造されたものが挙げられる。
【0239】
この際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。また、ピッチの熱処理過程で分離したメソカーボンマイクロビーズを黒鉛化して得た人造黒鉛が挙げられる。更に一次粒子からなる造粒粒子の人造黒鉛も挙げられる。例えば、メソカーボンマイクロビーズや、コークス等の黒鉛化可能な炭素質材料粉体とタール、ピッチ等の黒鉛化可能なバインダーと黒鉛化触媒を混合し、黒鉛化し、必要に応じて粉砕することで得られる、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合した黒鉛粒子が挙げられる。
【0240】
(3)非晶質炭素としては、タール、ピッチ等の易黒鉛化性炭素前駆体を原料に用い、黒鉛化しない温度領域(400〜2200℃の範囲)で1回以上熱処理した非晶質炭素粒子や、樹脂などの難黒鉛化性炭素前駆体を原料に用いて熱処理した非晶質炭素粒子が挙げられる。
【0241】
(4)炭素被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の有機化合物である炭素前駆体を混合し、400〜2300℃の範囲で1回以上熱処理し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、非晶質炭素が核黒鉛を被覆している炭素黒鉛複合体が挙げられる。複合の形態は、表面全体または一部を被覆しても、複数の一次粒子を前記炭素前駆体起源の炭素をバインダーとして複合させたものであってもよい。また、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛にベンゼン、トルエン、メタン、プロパン、芳香族系の揮発分等の炭化水素系ガス等を高温で反応させ、黒鉛表面に炭素を堆積(CVD)させることでも炭素黒鉛複合体を得ることもできる。
【0242】
(5)黒鉛被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の易黒鉛化性の有機化合物の炭素前駆体を混合し、2400〜3200℃程度の範囲で1回以上熱処理し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、黒鉛化物が核黒鉛の表面全体または一部を被覆している黒鉛被覆黒鉛が挙げられる。
【0243】
(6)樹脂被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、樹脂等を混合、400℃未満の温度で乾燥し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、樹脂等が核黒鉛を被覆している樹脂被覆黒鉛が挙げられる。
【0244】
また、(1)〜(6)の炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0245】
上記(2)〜(5)の炭素質材料の製造に用いられるタール、ピッチや樹脂等の有機化合物としては、石炭系重質油、直流系重質油、分解系石油重質油、芳香族炭化水素、N環化合物、S環化合物、ポリフェニレン、有機合成高分子、天然高分子、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群より選ばれた炭化可能な有機化合物などが挙げられる。また、原料有機化合物は混合時の粘度を調整するため、低分子有機溶媒に溶解させて用いてもよい。
【0246】
また、核黒鉛の原料となる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛としては、球形化処理を施した天然黒鉛が好ましい。
【0247】
<炭素質材料の物性>
本発明における負極活物質としての炭素質材料は、上記した要件に加えて、更に、下記の(1)〜(9)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1項目を満たしていることが好ましく、複数の項目を同時に満たすことが特に好ましい。
【0248】
(1)X線パラメータ
炭素質材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)が、0.335nm以上であることが好ましく、また、通常0.360nm以下であり、0.350nm以下が好ましく、0.345nm以下がさらに好ましい。また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上であることが好ましく、中でも1.5nm以上であることがより好ましく、中でも2nm以上であることがさらに好ましい。
【0249】
(2)体積基準平均粒径
本発明において炭素質材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径d50)であり、これは通常1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上がさらに好ましく、7μm以上が特に好ましく、また、通常100μm以下であり、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、25μm以下が特に好ましい。
【0250】
体積基準平均粒径が上記範囲であれば、不可逆容量の増大による、初期の電池容量の損失を抑制できるとともに、塗布による電極作製の工程を含む場合に、均一な電極塗布が可能となる。
【0251】
体積基準平均粒径の測定は、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約10mL)に炭素質材料の粉末を分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布計(堀場製作所社製LA−700)を用いて行なうことができる。該測定で求められるメジアン径を、炭素質材料の体積基準平均粒径と定義する。
【0252】
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素質材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上であり、0.03以上が好ましく、0.1以上がさらに好ましく、また、通常1.5以下であり、1.2以下が好ましく、1以下がさらに好ましく、0.5以下が特に好ましい。
【0253】
また、炭素質材料の1580cm−1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm−1以上であり、15cm−1以上が好ましく、また、通常100cm−1以下であり、80cm−1以下が好ましく、60cm−1以下がさらに好ましく、40cm−1以下が特に好ましい。
【0254】
ラマンR値及びラマン半値幅は、炭素質材料表面の結晶性を示す指標であるが、炭素質材料は、化学的安定性の観点から適度な結晶性が有する一方、充放電によってリチウムが入り込む層間のサイトを消失しない程度の結晶性であることが好ましい。なお、集電体に塗布した後のプレスによって負極を高密度化する場合には、電極板と平行方向に結晶が配向しやすくなるため、それを考慮することが好ましい。
【0255】
ラマンR値又はラマン半値幅が上記範囲であると、炭素質材料と非水系電解液との反応を抑制することができるとともに、サイトの消失による負荷特性の低下を抑制することができる。
【0256】
ラマンスペクトルの測定は、ラマン分光器(日本分光社製ラマン分光器)を用いて、試料を測定セル内へ自然落下させて充填し、セル内のサンプル表面にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させることにより行なう。得られるラマンスペクトルについて、1580cm−1付近のピークPAの強度IAと、1360cm−1付近のピークPBの強度IBとを測定し、その強度比R(R=IB/IA)を算出する。該測定で算出されるラマンR値を、炭素質材料のラマンR値と定義する。また、得られるラマンスペクトルの1580cm−1付近のピークPAの半値幅を測定し、これを炭素質材料のラマン半値幅と定義する。
【0257】
また、上記のラマン測定条件は、次の通りである。
・アルゴンイオンレーザー波長 :514.5nm
・試料上のレーザーパワー :15〜25mW
・分解能 :10〜20cm−1
・測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
・ラマンR値、ラマン半値幅解析:バックグラウンド処理
・スムージング処理 :単純平均、コンボリューション5ポイント
【0258】
(4)BET比表面積
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m・g−1以上であり、0.7m・g−1以上が好ましく、1.0m・g−1以上がさらに好ましく、1.5m・g−1以上が特に好ましく、また、通常100m・g−1以下であり、25m・g−1以下が好ましく、15m・g−1以下がさらに好ましく、10m・g−1以下が特に好ましい。
【0259】
BET比表面積の値が上記範囲であると、電極表面へのリチウムの析出を抑制することができる一方、非水系電解液との反応によるガス発生を抑制することができる。
【0260】
BET法による比表面積の測定は、表面積計(大倉理研製全自動表面積測定装置)を用いて、試料に対して窒素流通下350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって行う。該測定で求められる比表面積を、炭素質材料のBET比表面積と定義する。
【0261】
(5)円形度
炭素質材料の球形の程度として円形度を測定した場合、以下の範囲に収まることが好ましい。なお、円形度は、「円形度=(粒子投影形状と同じ面積を持つ相当円の周囲長)/(粒子投影形状の実際の周囲長)」で定義され、円形度が1のときに理論的真球となる。
炭素質材料の粒径が3〜40μmの範囲にある粒子の円形度は1に近いほど望ましく、また、0.1以上が好ましく、中でも0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、0.85以上がさらに好ましく、0.9以上が特に好ましい。
【0262】
炭素質材料の円形度が大きいほど、充填性が向上し、粒子間の抵抗を抑えることができるため、高電流密度充放電特性は向上する。従って、円形度が上記範囲のように高いほど好ましい。
【0263】
円形度の測定は、フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製FPIA)を用いて行う。試料約0.2gを、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約50mL)に分散させ、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、検出範囲を0.6〜400μmに指定し、粒径が3〜40μmの範囲の粒子について測定する。該測定で求められる円形度を、炭素質材料の円形度と定義する。
【0264】
円形度を向上させる方法は、特に制限されないが、球形化処理を施して球形にしたものが、電極体にしたときの粒子間空隙の形状が整うので好ましい。球形化処理の例としては、せん断力、圧縮力を与えることによって機械的に球形に近づける方法、複数の微粒子をバインダーもしくは、粒子自身の有する付着力によって造粒する機械的・物理的処理方法等が挙げられる。
【0265】
(6)タップ密度
炭素質材料のタップ密度は、通常0.1g・cm−3以上であり、0.5g・cm−3以上が好ましく、0.7g・cm−3以上がさらに好ましく、1g・cm−3以上が特に好ましく、また、2g・cm−3以下が好ましく、1.8g・cm−3以下がさらに好ましく、1.6g・cm−3以下が特に好ましい。タップ密度が上記範囲であると、電池容量を確保することができるとともに、粒子間の抵抗の増大を抑制することができる。
【0266】
タップ密度の測定は、目開き300μmの篩を通過させて、20cmのタッピングセルに試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の質量からタップ密度を算出する。該測定で算出されるタップ密度を、炭素質材料のタップ密度として定義する。
【0267】
(7)配向比
炭素質材料の配向比は、通常0.005以上であり、0.01以上が好ましく、0.015以上がさらに好ましく、また、通常0.67以下である。配向比が、上記範囲であると、優れた高密度充放電特性を確保することができる。なお、上記範囲の上限は、炭素質材料の配向比の理論上限値である。
【0268】
配向比は、試料を加圧成型してからX線回折により測定する。試料0.47gを直径17mmの成型機に充填し58.8MN・m−2で圧縮して得た成型体を、粘土を用いて測定用試料ホルダーの面と同一面になるようにセットしてX線回折を測定する。得られた炭素の(110)回折と(004)回折のピーク強度から、(110)回折ピーク強度/(004)回折ピーク強度で表わされる比を算出する。該測定で算出される配向比を、炭素質材料の配向比と定義する。
【0269】
X線回折測定条件は次の通りである。なお、「2θ」は回折角を示す。
・ターゲット:Cu(Kα線)グラファイトモノクロメーター
・スリット :
発散スリット=0.5度
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5度
【0270】
・測定範囲及びステップ角度/計測時間:
(110)面:75度≦2θ≦80度 1度/60秒
(004)面:52度≦2θ≦57度 1度/60秒
【0271】
(8)アスペクト比
炭素質材料のアスペクト比は、通常1以上、また、通常10以下であり、8以下が好ましく、5以下がさらに好ましい。アスペクト比が、上記範囲であると、極板化時のスジ引きを抑制し、さらに均一な塗布が可能となるため、優れた高電流密度充放電特性を確保することができる。なお、上記範囲の下限は、炭素質材料のアスペクト比の理論下限値である。
【0272】
アスペクト比の測定は、炭素質材料の粒子を走査型電子顕微鏡で拡大観察して行う。厚さ50μm以下の金属の端面に固定した任意の50個の黒鉛粒子を選択し、それぞれについて試料が固定されているステージを回転、傾斜させて、3次元的に観察した時の炭素質材料粒子の最長となる径Aと、それと直交する最短となる径Bを測定し、A/Bの平均値を求める。該測定で求められるアスペクト比(A/B)を、炭素質材料のアスペクト比と定義する。
【0273】
(9)副材混合
副材混合とは、負極電極中及び/又は負極活物質中に「性質」の異なる炭素質材料が2種以上含有されていることである。ここでいう「性質」とは、X線回折パラメータ、メジアン径、アスペクト比、BET比表面積、配向比、ラマンR値、タップ密度、真密度、細孔分布、円形度、灰分量の群から選ばれる1つ以上の特性を示す。
【0274】
これらの副材混合の、特に好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素質材料を2種以上含有していること、及びX線パラメータが異なること等が挙げられる。
【0275】
副材混合の効果の1例として、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素質材料を導電材として含有されることにより、電気抵抗を低減させることが挙げられる。
【0276】
副材混合として導電材を混合する場合には、1種を単独で混合してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合してもよい。また、導電材の炭素質材料に対する混合比率は、通常0.1質量%以上、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上が更に好ましく、また、通常45質量%以下であり、40質量%以下が好ましい。混合比が上記範囲であると、電気抵抗低減効果を確保することができるとともに、初期不可逆容量の増大を抑制することができる。
【0277】
<合金系材料>
負極活物質として用いられる合金系材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素(即ち炭素を除く)を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズ(以下、「特定金属元素」と略記する場合がある)の単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0278】
特定金属元素から選ばれる少なくとも1種の原子を有する負極活物質としては、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素からなる合金、1種又は2種以上の特定金属元素とその他の1種又は2種以上の金属元素とからなる合金、並びに、1種又は2種以上の特定金属元素を含有する化合物、及びその化合物の酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の複合化合物が挙げられる。負極活物質としてこれらの金属単体、合金又は金属化合物を用いることで、二次電池の高容量化が可能である。
【0279】
また、これらの複合化合物が、金属単体、合金又は非金属元素等の数種の元素と複雑に結合した化合物も挙げられる。具体的には、例えばケイ素やスズでは、これらの元素と負極として動作しない金属との合金を用いることができる。例えば、スズの場合、スズとケイ素以外で負極として作用する金属と、さらに負極として動作しない金属と、非金属元素との組み合わせで5〜6種の元素を含むような複雑な化合物も用いることができる。
【0280】
これらの負極活物質の中でも、二次電池にしたときに単位質量当りの容量が大きいことから、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素の合金、特定金属元素の酸化物、炭化物、窒化物等が好ましく、特に、ケイ素及び/又はスズの金属単体、合金、酸化物や炭化物、窒化物等が、単位質量当りの容量及び環境負荷の観点から好ましい。
【0281】
<リチウム含有金属複合酸化物材料>
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタン及びリチウムを含有する材料が好ましく、より好ましくはチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が、さらに好ましくはリチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)が挙げられる。即ちスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物を、非水系電解液二次電池用負極活物質に含有させて用いると、出力抵抗が大きく低減するので特に好ましい。
【0282】
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウムやチタンが、他の金属元素、例えば、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されているものも好ましい。上記金属酸化物が、下記一般式(C)で表されるリチウムチタン複合酸化物であり、一般式(C)中、0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6であることが、リチウムイオンのドープ・脱ドープの際の構造が安定であることから好ましい。
【0283】
LixTiyMzO (C)
[一般式(C)中、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わす。]
【0284】
上記の一般式(C)で表される組成の中でも、
(a)1.2≦x≦1.4、1.5≦y≦1.7、z=0
(b)0.9≦x≦1.1、1.9≦y≦2.1、z=0
(c)0.7≦x≦0.9、2.1≦y≦2.3、z=0
の構造が、電池性能のバランスが良好なため特に好ましい。
【0285】
上記化合物の特に好ましい代表的な組成は、(a)ではLi4/3Ti5/3、(b)ではLiTi、(c)ではLi4/5Ti11/5である。また、z≠0の構造については、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3が好ましいものとして挙げられる。
【0286】
リチウムチタン複合酸化物の製造法としては、本発明の要旨を超えない範囲で特には制限されないが、いくつかの方法が挙げられ、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。
【0287】
例えば、酸化チタン等のチタン原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質とLiOH、LiCO、LiNO等のLi源を均一に混合し、高温で焼成して活物質を得る方法が挙げられる。
【0288】
特に球状又は楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられる。一例として、酸化チタン等のチタン原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して負極活物質を得る方法が挙げられる。
【0289】
また、別の例として、酸化チタン等のチタン原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これにLiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して負極活物質を得る方法が挙げられる。
【0290】
更に別の方法として、酸化チタン等のチタン原料物質と、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源と、必要に応じ他の元素の原料物質とを水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これを高温で焼成して活物質を得る方法が挙げられる。
【0291】
また、これらの工程中に、Ti以外の元素、例えば、Al、Mn、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、C、Si、Sn、Agが、チタンを含有する金属酸化物構造中及び/又はチタンを含有する酸化物に接する形で存在していることも可能である。これらの元素を含有することで、電池の作動電圧、容量を制御することが可能となる。
【0292】
<リチウムチタン複合酸化物の物性>
本発明における負極活物質としてのリチウムチタン複合酸化物は、上記した要件に加えて、更に、下記の(1)〜(7)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1項目を満たしていることが好ましく、複数の項目を同時に満たすことが特に好ましい。
【0293】
(1)BET比表面積
負極活物質として用いられるリチウムチタン複合酸化物のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値が、0.5m・g−1以上が好ましく、0.7m・g−1以上がより好ましく、1.0m・g−1以上が更に好ましく、1.5m・g−1以上が特に好ましく、また、200m・g−1以下が好ましく、100m・g−1以下がより好ましく、50m・g−1以下が更に好ましく、25m・g−1以下が特に好ましい。
【0294】
BET比表面積が、上記範囲を下回ると、負極材料として用いた場合の非水系電解液と接する反応面積が減少し、出力抵抗が増加する場合がある。一方、上記範囲を上回ると、チタンを含有する金属酸化物の結晶の表面や端面の部分が増加し、また、これに起因して、結晶の歪も生じるため、不可逆容量が無視できなくなり、好ましい二次電池が得られにくい場合がある。
【0295】
リチウムチタン複合酸化物のBET法による比表面積の測定は、表面積計(大倉理研製全自動表面積測定装置)を用いて、試料に対して窒素流通下、350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって行なう。該測定で求められる比表面積を、本発明におけるリチウムチタン複合酸化物のBET比表面積と定義する。
【0296】
(2)体積基準平均粒径
リチウムチタン複合酸化物の体積基準平均粒径(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)で定義される。
【0297】
リチウムチタン複合酸化物の体積基準平均粒径は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.7μm以上が更に好ましく、また、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましく、25μm以下が特に好ましい。
【0298】
リチウムチタン複合酸化物の体積基準平均粒径の測定は具体的には、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(10mL)にリチウムチタン複合酸化物粉末を分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布計(堀場製作所社製LA−700)を用いて行なう。該測定で求められるメジアン径を、リチウムチタン複合酸化物の体積基準平均粒径と定義する。
【0299】
リチウムチタン複合酸化物の体積平均粒径が、上記範囲を下回ると、負極作製時に多量のバインダーが必要となり、結果的に電池容量が低下する場合がある。また、上記範囲を上回ると、負極極板化時に、不均一な塗面になりやすく、電池製作工程上望ましくない場合がある。
【0300】
(3)平均一次粒子径
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合においては、リチウムチタン複合酸化物の平均一次粒子径は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上が更に好ましく、0.2μm以上が特に好ましく、また、2μm以下が好ましく、1.6μm以下がより好ましく、1.3μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。体積基準平均一次粒子径が、上記範囲を上回ると、球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下したりするために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。また、上記範囲を下回ると、通常、結晶が未発達になるために充放電の可逆性が劣る等、二次電池の性能を低下させる場合がある。
【0301】
なお、リチウムチタン複合酸化物の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、粒子が確認できる倍率、例えば10,000〜100,000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0302】
(4)形状
リチウムチタン複合酸化物の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等のいずれでもよいが、中でも一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状ないし楕円球状であるものが好ましい。
【0303】
通常、電気化学素子はその充放電に伴い、電極中の活物質が膨張収縮をするため、そのストレスによる活物質の破壊や導電パス切れ等の劣化がおきやすい。そのため一次粒子のみの単一粒子の活物質であるよりも、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成したものである方が膨張収縮のストレスを緩和して、劣化を防ぐことができる。
【0304】
また、板状等軸配向性の粒子であるよりも、球状又は楕円球状の粒子の方が、電極の成形時の配向が少ないため、充放電時の電極の膨張収縮も少なく、また電極を作製する際の導電材との混合においても、均一に混合されやすいため好ましい。
【0305】
(5)タップ密度
リチウムチタン複合酸化物のタップ密度は、0.05g・cm−3以上が好ましく、0.1g・cm−3以上がより好ましく、0.2g・cm−3以上が更に好ましく、0.4g・cm−3以上が特に好ましく、また、2.8g・cm−3以下が好ましく、2.4g・cm−3以下が更に好ましく、2g・cm−3以下が特に好ましい。リチウムチタン複合酸化物のタップ密度が、上記範囲を下回ると、負極として用いた場合に充填密度が上がり難く、また粒子間の接触面積が減少するため、粒子間の抵抗が増加し、出力抵抗が増加する場合がある。また、上記範囲を上回ると、電極中の粒子間の空隙が少なくなり過ぎ、非水系電解液の流路が減少することで、出力抵抗が増加する場合がある。
【0306】
リチウムチタン複合酸化物のタップ密度の測定には、目開き300μmの篩を通過させて、20cmのタッピングセルに試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の質量から密度を算出する。該測定で算出されるタップ密度を、本発明におけるリチウムチタン複合酸化物のタップ密度として定義する。
【0307】
(6)円形度
リチウムチタン複合酸化物の球形の程度として、円形度を測定した場合、以下の範囲に収まることが好ましい。なお、円形度は、「円形度=(粒子投影形状と同じ面積を持つ相当円の周囲長)/(粒子投影形状の実際の周囲長)」で定義され、円形度が1のときに理論的真球となる。
【0308】
リチウムチタン複合酸化物の円形度は、1に近いほど望ましい。好ましくは、0.10以上であり、0.80以上がより好ましく、0.85以上が更に好ましく、0.90以上が特に好ましい。高電流密度充放電特性は、一般に円形度が大きいほどが向上する。従って、円形度が上記範囲を下回ると、負極活物質の充填性が低下し、粒子間の抵抗が増大して、短時間高電流密度充放電特性が低下する場合がある。
【0309】
リチウムチタン複合酸化物の円形度の測定は、フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製FPIA)を用いて行なう。具体的には試料約0.2gを、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約50mL)に分散させ、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、検出範囲を0.6〜400μmに指定し、粒径が3〜40μmの範囲の粒子について測定する。該測定で求められる円形度を、本発明におけるリチウムチタン複合酸化物の円形度と定義する。
【0310】
(7)アスペクト比
リチウムチタン複合酸化物のアスペクト比は、1以上が好ましく、また、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましく、2以下が特に好ましい。アスペクト比が、上記範囲を上回ると、極板化時にスジ引きや、均一な塗布面が得られず、短時間高電流密度充放電特性が低下する場合がある。なお、上記範囲の下限は、リチウムチタン複合酸化物のアスペクト比の理論下限値である。
【0311】
リチウムチタン複合酸化物のアスペクト比の測定は、リチウムチタン複合酸化物の粒子を走査型電子顕微鏡で拡大観察して行なう。厚さ50μm以下の金属の端面に固定した任意の50個のリチウムチタン複合酸化物粒子を選択し、それぞれについて試料が固定されているステージを回転、傾斜させて、3次元的に観察した時の粒子の最長となる径Aと、それと直交する最短となる径Bを測定し、A/Bの平均値を求める。該測定で求められるアスペクト比(A/B)を、本発明におけるリチウムチタン複合酸化物のアスペクト比と定義する。
【0312】
<負極の構成と作製法>
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層とすることによって形成することができる。
【0313】
また、合金系材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法も用いられる。
【0314】
<集電体>
負極活物質層を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
【0315】
また、負極の集電体は、予め粗面化処理してもよい。
さらに、集電体の形状は、集電体が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。中でも、好ましくは金属箔、より好ましくは銅箔であり、さらに好ましくは圧延法による圧延銅箔と、電解法による電解銅箔があり、どちらも集電体として用いることができる。
【0316】
集電体の厚さは、電池容量の確保、取扱い性の観点から、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下である。
【0317】
(集電体と負極活物質層との厚さの比)
集電体と負極活物質層の厚さの比は特に制限されないが、「(非水系電解液注液直前の片面の負極活物質層の厚さ)/(集電体の厚さ)」の値が、150以下が好ましく、20以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましく、また、0.1以上が好ましく、0.4以上がさらに好ましく、1以上が特に好ましい。集電体と負極活物質層の厚さの比が、上記範囲であると、電池容量を確保することができるとともに、高電流密度充放電時における集電体の発熱を抑制することができる。
【0318】
<結着剤>
負極活物質を結着するバインダー(結着剤)としては、非水系電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
【0319】
具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物;EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0320】
負極活物質及びバインダー、さらに必要に応じて下記の溶媒、増粘剤等を混合して得られるスラリーにおけるバインダーの割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.6質量%以上が特に好ましく、また、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下が特に好ましい。前記スラリーに対するバインダーの割合が、上記範囲を上回ると、バインダー量が電池容量に寄与しないバインダー割合が増加して、電池容量の低下を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極電極の強度低下を招く場合がある。
【0321】
特に、SBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、スラリーに対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。また、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には、スラリーに対するバインダーの割合は、通常1質量%以上であり、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、また、通常15質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。
【0322】
<スラリー形成溶媒>
スラリーを形成するための溶媒としては、負極活物質、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤及び導電材を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0323】
水系溶媒としては、水、アルコール等が挙げられ、有機系溶媒としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0324】
特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤等を含有させ、SBR等のラテックスを用いてスラリー化することが好ましい。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0325】
<増粘剤>
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0326】
さらに増粘剤を用いる場合には、スラリーに対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。スラリーに対する増粘剤の割合が、上記範囲であると、電池容量の低下や抵抗の増大を抑制できるとともに、適度な塗布性を確保することができる。
【0327】
<電極密度>
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、1g・cm−3以上が好ましく、1.2g・cm−3以上がさらに好ましく、1.3g・cm−3以上が特に好ましく、また、2.2g・cm−3以下が好ましく、2.1g・cm−3以下がより好ましく、2.0g・cm−3以下がさらに好ましく、1.9g・cm−3以下が特に好ましい。集電体上に存在している負極活物質層の密度が、上記範囲であると、負極活物質粒子の破壊を防止して、初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への非水系電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化を抑制することができる一方、電池容量の低下や抵抗の増大を抑制することができる。
【0328】
<負極板の厚さ>
以上説明した、集電体上に負極活物質層が形成されてなる負極板の厚さは用いられる正極板に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは通常15μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、また、通常300μm以下、好ましくは280μm以下、より好ましくは250μm以下である。
【0329】
<負極板の表面被覆>
また、上記負極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0330】
<負極板の面積>
負極板の面積は、特に限定されないが、充放電を繰り返したサイクルの寿命や高温保存による劣化を抑制する観点から、できる限り正極に等しい面積に近づけることが、より均一かつ有効に働く電極割合を高めて特性が向上するので好ましい。特に、大電流で使用される場合には、この負極板の面積の設計が重要である。
【0331】
〔2−4.セパレータ〕
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0332】
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、本発明の非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0333】
<材料>
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエステル、ポリオキシアルキレン、ガラスフィルター等を用いることができる。中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンであり、特に好ましくはポリエチレン及びポリプロピレンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また上記材料を積層させて用いてもよい。
【0334】
<厚み>
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、非水系電解液二次電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0335】
<空孔率>
セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がさらに好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0336】
<平均孔径>
セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0337】
<無機系セパレータ>
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナやチタニアや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状もしくは繊維形状のものが用いられる。
【0338】
<形態>
セパレータの形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状が挙げられる。薄膜形状では、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着材を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、PVdFなどのフッ素樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0339】
<透気度>
セパレータの非水系電解液二次電池における特性を、ガーレ値で把握することができる。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mlの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表されるため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方がフィルムの厚さ方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方がフィルムの厚さ方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは、フィルム厚さ方向の孔のつながり度合いである。セパレータのガーレ値が低ければ、様々な用途に使用することが出来る。例えば非水系リチウム二次電池のセパレータとして使用した場合、ガーレ値が低いということは、リチウムイオンの移動が容易であることを意味し、電池性能に優れるため好ましい。セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、好ましくは10〜1000秒/100mlであり、より好ましくは15〜800秒/100mlであり、更に好ましくは20〜500秒/100mlである。ガーレ値が1000秒/100ml以下であれば、実質的には電気抵抗が低く、セパレータとしては好ましい。
【0340】
<製法>
セパレータ本体や多孔質フィルムを得る方法の例としては、具体的には、次のような方
法が挙げられる。
【0341】
(1)ポリオレフィン樹脂に、ポリオレフィン樹脂に対して相溶性があり後工程で抽出可能な低分子量物を加えて溶融混練、シート化を行い、延伸後又は延伸前に該低分子量物の抽出を行って多孔化する抽出法
(2)結晶性樹脂を高ドラフト比でシート化して作成した高弾性シートに低温延伸と高温延伸を加えて多孔化する延伸法
(3)熱可塑性樹脂に無機又は有機の充填剤を加えて溶融混練、シート化を行い、延伸により樹脂と充填剤の界面を剥離させて多孔化する界面剥離法
(4)ポリプロピレン樹脂にβ晶核剤を添加して溶融混練、シート化を行い、β晶を生成させたシートを延伸して結晶転移を利用して多孔化するβ晶核剤法
なお、製法は湿式、乾式は問わないものとする。
【0342】
〔2−5.電池設計〕
<電極群>
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
【0343】
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0344】
<集電構造>
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。1枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0345】
<保護素子>
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスター、温度ヒューズ、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0346】
<外装体>
本発明の非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
【0347】
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金、ニッケル、チタン等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0348】
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0349】
<形状>
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例】
【0350】
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0351】
[二次電池の作製]
<正極1の作製>
正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO、Tatung社製)83.5質量%と、導電材としてのアセチレンブラック10質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)6.5質量%とを、N−メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、予め炭素質材料を塗布した厚さ15μmのアルミ箔の片面に均一に塗布、乾燥し、乾燥後の正極活物質層の塗布量が13.8mg・cm−2となるようにした。その後、正極活物質層の密度が1.85g・cm−3となるようにプレスし、幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して正極1とした。
【0352】
<正極2の作製>
正極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)90質量部を用い、カーボンブラック7質量部とポリフッ化ビニリデン3質量部を混合し、N−メチル−2−ピロリドンを加えスラリー化した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に均一に塗布、乾燥し、乾燥後の正極活物質層の塗布量が11.85mg・cm−2となるようにした。その後、正極活物質層の密度が2.6g・cm−3になるようにプレスし、幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して正極2とした。
【0353】
<負極の作製>
黒鉛に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)と、バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン−ブタジエンゴムの濃度50質量%)を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ12μmの銅箔の片面に均一に塗布、乾燥し、乾燥後の負極活物質層の塗布量が6.0mg・cm−2となるようにした。その後、負極活物質層の密度が1.36g・cm−3になるようにプレスし、幅32mm、長さ42mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して負極とした。
【0354】
用いた黒鉛は、d50値が10.9μmであり、BET比表面積が3.41m/gであり、タップ密度が0.985g/cmのものである。また、スラリーは乾燥後の負極において、黒鉛:カルボキシメチルセルロースナトリウム:スチレン−ブタジエンゴム=97.5:1.5:1の質量比となるように作成した。
【0355】
<非水系電解液二次電池11の製造>
上記の正極1及び負極、並びにセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層した。セパレータにはポリプロピレン製、厚み20μm、空孔率54%のものを用いた。こうして得られた電池要素を筒状のアルミニウムラミネートフィルムで包み込み、後述する非水系電解液を注入した後で真空封止し、シート状の非水系電解液二次電池11を作製した。更に、電極間の密着性を高めるために、ガラス板でシート状電池を挟んで加圧した。
【0356】
<非水系電解液二次電池21の製造>
正極1に代えて正極2を用いること以外は、上記と同様に操作して、非水系電解液二次電池21を作製した。更に、電極間の密着性を高めるために、ガラス板でシート状電池を挟んで加圧した。
【0357】
[電池の評価]
<非水系電解液二次電池11の初期充放電試験>
25℃の恒温槽中、シート状の非水系電解液二次電池11を0.05Cで10時間充電後、3時間休止させ、その後3.8Vまで0.2Cで定電流充電した。さらに3時間の休止の後に、3.8Vまで0.2Cで定電流−定電圧充電し、次いで1/3Cで2.5Vまで定電流放電した。この一連の充電における充電容量の総和に対する放電容量の割合を初期効率(%)とした。
【0358】
その後、3.8Vまでの1/3C定電流−定電圧充電と、これに続く2.5Vまでの1/3C定電流放電を1サイクルとする充放電サイクルを2サイクル行った。
【0359】
さらに、3.8Vまで1/3Cで定電流−定電圧充電した後に、電池を60℃で12時間保管することで電池を安定させた。その後、25℃にて3.8Vまでの1/3C定電流−定電圧充電と、これに続く2.5Vまでの1/3C定電流放電の充放電サイクルを2サイクル行った。このときの最後の放電容量を初期容量とした。なお、1Cとは電池の全容量を1時間で放電させる場合の電流値のことである。
【0360】
<非水系電解液二次電池11の高温保存時の容量維持率試験>
上記初期充放電試験後の非水系電解液二次電池11を3.8Vに調整し、60℃にて1週間保存した。保存後の電池に対して、25℃にて3.8Vまでの1/3C定電流−定電圧充電と、これに続く2.5Vまでの1/3C定電流放電の充放電サイクルを3サイクル行った。このときの最後の放電容量を高温保存後容量とし、上記初期充放電試験で求めた初期容量に対する高温保存後容量の割合を、高温保存時の容量維持率(%)とした。
【0361】
<非水系電解液二次電池11の低温特性評価試験>
初期充放電試験後及び高温保存時の容量維持率試験後の非水系電解液二次電池11を25℃にて3.8Vに調整し、その状態から25℃と−20℃それぞれにおいて2.5Vまで1C定電流放電を行った。25℃における1C放電容量に対する−20℃における1C放電容量の割合(%)を非水系電解液二次電池21の低温特性と定義した。また、初期低温特性に対する保存後低温特性の割合を低温特性維持率(%)と定義した。
【0362】
<非水系電解液二次電池21の初期充放電試験>
25℃の恒温槽中、シート状の非水系電解液二次電池21を0.05Cで10時間充電後、3時間休止させ、その後4.1Vまで0.2Cで定電流充電した。さらに3時間の休止の後に、4.1Vまで0.2Cで定電流−定電圧充電し、次いで1/3Cで3.0Vまで定電流放電した。この一連の充電における充電容量の総和に対する放電容量の割合を初期効率(%)とした。
【0363】
その後、4.1Vまでの1/3C定電流−定電圧充電と、これに続く3.0Vまでの1/3C定電流放電を1サイクルとする充放電サイクルを2サイクル行った。
【0364】
さらに、4.2Vまで1/3Cで定電流−定電圧充電した後に、電池を60℃で12時間保管することで電池を安定させた。その後、25℃にて4.2Vまでの1/3C定電流−定電圧充電と、これに続く3.0Vまでの1/3C定電流放電の充放電サイクルを2サイクル行った。このときの最後の放電容量を初期容量とした。なお、1Cとは電池の全容量を1時間で放電させる場合の電流値のことである。
【0365】
<非水系電解液二次電池21の高温保存時の容量維持率試験>
上記初期充放電試験後の非水系電解液二次電池21を4.2Vに調整し、60℃にて1週間保存した。保存後の電池に対して、25℃にて4.2Vまでの1/3C定電流−定電圧充電と、これに続く3.0Vまでの1/3C定電流放電の充放電サイクルを3サイクル行った。このときの最後の放電容量を高温保存後容量とし、上記初期充放電試験で求めた初期容量に対する高温保存後容量の割合を、高温保存時の容量維持率(%)とした。
【0366】
<非水系電解液二次電池21の低温特性評価試験>
初期充放電試験後及び高温保存時の容量維持率試験後の非水系電解液二次電池21を3.72Vに調整し、その状態から−30℃において種々の電流値で10秒間定電流放電した。これら種々の電流値に対して10秒後の電圧をプロットし、10秒後の電圧が3Vとなるような電流値を求めた。このようにして求められた点と、初期値(開回路状態)の点、及び3V(電流値=0mA)の3点によって囲まれる三角形の面積を非水系電解液二次電池11の低温特性と定義した。また、初期低温特性に対する保存後低温特性の割合を低温特性維持率(%)と定義した。
【0367】
[実施例1]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物(容量比3:3:4)に、十分に乾燥したLiPFを非水系電解液全量中で1モル/Lとなるように溶解させた(以下、この電解液を「基準電解液」と称する場合がある)。
【0368】
基準電解液に下記式(i)で表される化合物を非水系電解液中の含有量が0.5質量%となるように加えて非水系電解液を調製した。
【0369】
この電解液を用いて上述の方法で非水系電解液二次電池11を作製し、高温保存時の容量維持率を測定した。後述する比較例1の容量維持率を基準値(100%)とした際の容量維持率の比率(以下、この比率を「容量維持率向上率」と称する場合がある。)を算出した。また、後述する比較例1の初期効率を基準値(100%)とした際の初期効率の比率(以下、この比率を「初期効率向上率」と称する場合がある。)を算出した。以下の実施例2〜10においても同様に容量維持率向上率と初期効率向上率を算出した。結果を表1に示す。
【0370】
【化17】
【0371】
[実施例2]
基準電解液に下記式(ii)で表される化合物を非水系電解液中の含有量が0.5質量%となるように加えて非水系電解液を調製した。この非水系電解液を用いること以外は、実施例1と同様にして、非水系電解液二次電池11を作製した。また、容量維持率向上率及び初期効率向上率を算出した。結果を表1に示す。
【0372】
【化18】
【0373】
[実施例3]
基準電解液に下記式(iii)で表される化合物を非水系電解液中の含有量が0.5質量%となるように加えて非水系電解液を調製した。この非水系電解液を用いること以外は、実施例1と同様にして、非水系電解液二次電池11を作製した。また、容量維持率向上率及び初期効率向上率を算出した。結果を表1に示す。
【0374】
【化19】
【0375】
[実施例4]
基準電解液に下記式(iv)で表される化合物を非水系電解液中の含有量が0.5質量%となるように加えて非水系電解液を調製した。この非水系電解液を用いること以外は、実施例1と同様にして、非水系電解液二次電池11を作製した。また、容量維持率向上率及び初期効率向上率を算出した。結果を表1に示す。
【0376】
【化20】
【0377】
[実施例5]
上記式(i)で表される化合物の含有量を1.0質量%に変更すること以外は、実施例1と同様にして、非水系電解液二次電池11を作製した。また、容量維持率向上率及び初期効率向上率を算出した。結果を表1に示す。
【0378】
[実施例6]
上記式(ii)で表される化合物の含有量を1.0質量%に変更すること以外は、実施例2と同様にして、非水系電解液二次電池11を作製した。また、容量維持率向上率及び初期効率向上率を算出した。結果を表1に示す。
【0379】
[実施例7]
基準電解液に上記式(i)で表される化合物を0.5質量%及び上記式(ii)で表される化合物を0.5質量%配合すること以外は、実施例1と同様にして、非水系電解液二次電池11を作製した。また、容量維持率向上率及び初期効率向上率を算出した。結果を表1に示す。
【0380】
[比較例1]
非水系電解液として基準電解液を用いること以外は、実施例1と同様にして、非水系電解液二次電池11を作製した。高温保存時の容量維持率及び初期効率を測定し、これらの値を基準値(100%)として用いた。
【0381】
[比較例2〜6]
実施例1〜4及び比較例1の非水系電解液を用いて、上述の方法で非水系電解液二次電池21を作製した。また、高温保存時の容量維持率及び初期効率を測定し、比較例6の容量維持率と初期効率をそれぞれ基準値(100%)とした際の容量維持率と初期効率の比率(それぞれ「容量維持率向上率」及び「初期効率向上率」と称する場合がある。)を算出した。結果を表1に示す。
【0382】
【表1】
【0383】
表1に示すとおり、LiNi1/3Mn1/3Co1/3を正極活物質として用いた比較例2,4及び5の非水系電解液二次電池21において、特定NCO化合物の配合による容量維持率の向上効果は−1.9%〜0.9%であった。これに対し、LixMPOを正極活物質として用いた実施例1,3,4,5及び7の非水系電解液二次電池11において、特定NCO化合物の配合による容量維持率の向上効果は3.6〜12.1%であった。このことから、特定NCO化合物の配合による容量維持率の向上効果は、LixMPOを正極活物質として用いた場合に顕著に表れることが理解される。
【0384】
また、表1に示すとおり、LiNi1/3Mn1/3Co1/3を正極活物質として用いた比較例3の非水系電解液二次電池21において、特定Si化合物の配合による容量維持率の向上効果は0.3%であった。これに対し、LixMPOを正極活物質として用いた実施例2,6及び7の非水系電解液二次電池11においては、特定Si化合物の配合による容量維持率の向上効果は4.4%〜12.1%であった。このことから、特定Si化合物の配合による容量維持率の向上効果は、LixMPOを正極活物質として用いた場合に顕著に表れることが理解される。
【0385】
また、表1に示すとおり、LixMPOを正極活物質として用いた実施例1〜7の非水系電解液二次電池11においては、優れた初期効率を維持している。とりわけ、特定NCO化合物及び特定Si化合物を配合した実施例7の非水系電解液二次電池11は、初期効率を損なうことなく、容量維持率の向上効果が12.1%と顕著に現れている。
【0386】
[実施例8〜10]
ビニレンカーボネート(以下、「VC」とも表す。)を非水系電解液中の含有量が0.5質量%となるようにさらに加えること以外は、実施例1,2及び7と同様にして非水系電解液を調製した。これらの非水系電解液を用いること以外は、実施例1と同様にして、非水系電解液二次電池11を作製した。また、容量維持率向上率及び初期効率向上率を算出した。結果を表2に示す。
【0387】
[比較例7〜9]
実施例8〜10の非水系電解液を用いて、上述の方法で非水系電解液二次電池21を作製した。また、比較例2〜6と同様の方法で、容量維持率向上率及び初期効率向上率を算出した。結果を表2に示す。
【0388】
[比較例10]
実施例7の非水系電解液を用いて、上述の方法で非水系電解液二次電池21を作製した。
【0389】
【表2】
【0390】
表2に示すとおり、LiNi1/3Mn1/3Co1/3を正極活物質として用いた比較例7〜9の非水系電解液二次電池21において、容量維持率の向上効果は0.5%〜1.5%であった。これに対し、LixMPOを正極活物質として用いた実施例8〜10の非水系電解液二次電池11において、容量維持率の向上効果は12.8〜14.5%であった。このことから、LixMPOを正極活物質として用いた場合、特定NCO化合物及び/又は特定Si化合物にビニレンカーボネートをさらに配合することにより、初期効率を損なうことなく、容量維持率の向上効果が格別顕著に表れることが示された。
【0391】
実施例1,4及び6並びに比較例1,2,5及び6の非水系電解液二次電池について、初期低温特性をそれぞれ求めた。非水系電解液二次電池11については、比較例1の初期低温特性を基準値(100%)とした際の初期低温特性の比率(以下、この比率を「低温特性向上率」と称する場合がある。)を算出した。また、非水系電解液二次電池21については、比較例6の初期低温特性を基準値(100%)とした際の初期低温特性の比率(以下、この比率を「低温特性向上率」と称する場合がある。)を算出した。表3に、初期低温特性向上率を示す。
【0392】
【表3】
【0393】
表3に示すとおり、LixMPOを正極活物質として用いた実施例1,4及び6の非水系電解液二次電池11は初期低温特性向上率が−4.8%〜6.0%であった。LiNi1/3Mn1/3Co1/3を正極活物質として用いた比較例2及び5の非水系電解液二次電池21の初期低温特性向上率が−15.5%〜−5.2%であることとの対比から、本発明の非水系電解液二次電池は、初期低温特性においても優れていることが示される。
【0394】
実施例1,4,5及び6並びに比較例1,2,4,5,6,7及び10の非水系電解液二次電池について、保存後低温特性と低温特性維持率をそれぞれ求めた。非水系電解液二次電池11については、比較例1の保存後低温特性と低温特性維持率をそれぞれ基準値(100%)とした際の保存後低温特性と低温特性維持率の比率(以下、これらの比率をそれぞれ「保存後低温特性向上率」と「低温特性維持率向上率」と称する場合がある。)を算出した。また、非水系電解液二次電池21については、比較例6の保存後低温特性と低温特性維持率をそれぞれ基準値(100%)とした際の保存後低温特性と低温特性維持率の比率(以下、これらの比率をそれぞれ「保存後低温特性向上率」と「低温特性維持率向上率」と称する場合がある。)を算出した。表4に、保存後低温特性向上率及び低温特性維持率向上率を示す。
【0395】
【表4】
【0396】
表4に示すとおり、LixMPOを正極活物質として用いた実施例1,4,5及び6の非水系電解液二次電池11は、保存後低温特性向上率が−0.8%〜11.1%であり、低温特性維持率が−2.9%〜44.8%であった。LiNi1/3Mn1/3Co1/3を正極活物質として用いた比較例2,4,5,7及び10の非水系電解液二次電池21は、保存後低温特性向上率が−54.3%〜−7.8%であり、低温特性維持率が−27.2%〜−9.3%であることとの対比から、本発明の非水系電解液二次電池は、保存後低温特性向上率及び低温特性維持率においても優れていることが示される。
【0397】
以上の結果より、本発明の非水系電解液二次電池は、特定正極と、特定NCO化合物及び/又は特定Si化合物を含有する非水系電解液とを用いることで、安全性、出力特性及び高温保存時の容量維持率を高い水準で両立させることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0398】
本発明の非水系電解液二次電池及び非水系電解液は、安全性、出力特性及び高温保存時の容量維持率に優れるので、公知の各種の用途に好適に用いることが可能である。また、非水系電解液を用いるリチウムイオンキャパシタ等の電界コンデンサにおいても好適に利用できる。
【0399】
これらの用途の具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源、リチウムイオンコンデンサー等が挙げられる。