(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜8の何れか一項に記載の中空糸脱気モジュールを用いて、前記中空糸膜束の中空部から前記中空糸膜間の隙間に液体を供給するとともに前記中空糸膜の内側を減圧することで、前記液体を脱気する、液体の脱気方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、実施形態の中空糸脱気モジュール及びインクジェットプリンタについて詳細に説明する。本実施形態の中空糸脱気モジュールは、本発明の一側面の中空糸脱気モジュールを、インクを脱気する中空糸脱気モジュールに適用したものである。なお、全図中、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
図1に示すように、実施形態に係るインクジェットプリンタ11は、主に、インクを貯留するインクタンク等のインク貯留部12と、微滴化したインクを被印字媒体に対して直接吹き付けるインクジェットヘッド13と、インク貯留部12からインクが供給される第一インク供給管14と、インクジェットヘッド13にインクを供給する第二インク供給管15と、第一インク供給管14及び第二インク供給管15に取り付けられてインクを脱気する実施形態に係る中空糸脱気モジュール1と、真空吸引する吸引ポンプ16と、吸引ポンプ16及び中空糸脱気モジュール1を接続する吸気管17と、を備える。なお、第一インク供給管14及び第二インク供給管15は、インク貯留部12からインクジェットヘッド13に至るインク流路である。インクジェットプリンタ11で用いられるインクとしては、特に限定されるものではなく、例えば、水性インク、UVインク、溶媒インク及びセラミックインクが挙げられる。
【0019】
図2は、実施形態に係る中空糸脱気モジュールの概略断面図である。
図3は、
図2に示す中空糸膜束の一部拡大図である。
図4は、
図2に示すIV−IV線における断面図である。
図1〜
図4に示すように、中空糸脱気モジュール1は、複数本の中空糸膜2が円筒状に束ねられた中空糸膜束3と、中空糸膜束3を収容するハウジング4と、を備えている。中空糸脱気モジュール1は、中空糸膜2の外側にインクを供給するとともに中空糸膜2の内側を減圧することで、インクを脱気する。なお、
図4において、各中空糸膜2は、概略的に記載しており、実際の形状と異なる。
【0020】
中空糸膜2は、気体は透過するが液体は透過しない中空糸状の膜である。中空糸膜2は、インクにより膨潤する性質を有する。中空糸膜2の素材、膜形状、膜形態等は、特に制限されない。中空糸膜2の素材としては、例えば、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)などのポリオレフィン系樹脂、ポリジメチルシロキサンその共重合体などのシリコン系樹脂、PTFE、フッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、が挙げられる。中空糸膜2の膜形状(側壁の形状)としては、例えば、多孔質膜、微多孔膜、多孔質を有さない均質膜(非多孔膜)、が挙げられる。中空糸膜2の膜形態としては、例えば、膜全体の化学的あるいは物理的構造が均質な対称膜(均質膜)、膜の化学的あるいは物理的構造が膜の部分によって異なる非対称膜(不均質膜)、が挙げられる。非対称膜(不均質膜)は、非多孔質の緻密層と多孔質とを有する膜である。この場合、緻密層は、膜の表層部分又は多孔質膜内部等、膜中のどこに形成されていてもよい。不均質膜には、化学構造の異なる複合膜、3層構造のような多層構造膜も含まれる。特にポリ(4−メチルペンテン−1)樹脂を用いた不均質膜は、液体を遮断する緻密層を有するため、水以外の液体、例えばインクの脱気に特に好ましい。また、外部灌流型に用いる中空糸の場合は、緻密層が中空糸外表面に形成されていることが好ましい。
【0021】
中空糸膜束3は、例えば、複数の中空糸膜2が簾状に織られた中空糸膜シート(不図示)により形成することができる。この場合、例えば、中空糸膜シートを筒状の仮芯に巻き付けて円筒状に束ね、円筒状に束ねられた中空糸膜シートの両端部を固定し、両端部が固定された中空糸膜シートから仮芯を抜く。これにより、中空糸膜束3の半径方向中心側に位置する膜束中空部3cに、中心パイプの無い中空糸脱気モジュール1を作成することができる。この場合、例えば、1インチ当たり30本〜90本の中空糸膜2で構成される中空糸膜シートにより中空糸膜束3を形成する。これにより、中空糸膜束3の半径方向中心側に位置する膜束中空部3cに中心パイプが無くても、インクを偏流させずに流すことが可能となる。
【0022】
ハウジング4は、筒体5と、第一蓋部6と、第二蓋部7と、を備えている。
【0023】
筒体5は、中空糸膜束3が収容される部位である。筒体5は、軸線方向Lに延びる円筒状に形成されており、筒体5の両端部は、開口している。筒体5の一方側の開口端部である一方側開口端部5aに、第一蓋部6が取り付けられており、筒体5の他方側の開口端部である他方側開口端部5bに、第二蓋部7が取り付けられている。筒体5に対する第一蓋部6及び第二蓋部7の取り付けは、例えば、螺合、嵌合、接着等により行うことができる。
【0024】
第一蓋部6は、筒体5から離れるに従い小径化するテーパ状に形成されている。第一蓋部6の先端部には、インクを第一蓋部6内に供給するための供給口6aが形成されている。供給口6aは、円形の開口であって、筒体5の中心軸線上に形成されている。供給口6aからは、第一インク供給管14を脱着可能に接続するための接続部6bが、軸線方向Lに沿って延びている。接続部6bは、円筒状に形成されており、接続部6bの内周面には、第一インク供給管14がねじ込まれる雌ネジ6cが形成されている。なお、接続部6bと第一インク供給管14との接続は、螺合に限定されるものではなく、例えば、嵌合により行ってもよい。
【0025】
第二蓋部7は、筒体5から離れるに従い小径化するテーパ状に形成されている。第二蓋部7の先端部には、ハウジング4内から気体を吸引するための吸気口7aが形成されている。吸気口7aは、円形の開口であって、筒体5の中心軸線上に形成されている。吸気口7aからは、吸気管17を脱着可能に接続するための接続部7bが、軸線方向Lに沿って延びている。接続部7bは、円筒状に形成されており、接続部7bの内周面には、吸気管17がねじ込まれる雌ネジ7cが形成されている。なお、接続部7bと吸気管17との接続は、螺合に限定されるものではなく、例えば、嵌合により行ってもよい。
【0026】
筒体5の側壁5cには、ハウジング4内からインクを排出する排出口5dが形成されている。排出口5dは、円形の開口である。排出口5dは、筒体5の軸線方向Lにおける中央よりも他方側開口端部5b側に形成されている。排出口5dからは、第二インク供給管15を脱着可能に接続するための接続部5eが、軸線方向Lと直交する方向に沿って延びている。接続部5eは、円筒状に形成されており、接続部5eの内周面には、第二インク供給管15がねじ込まれる雌ネジ5fが形成されている。なお、排出口5dと第二インク供給管15との連結は、螺合に限定されるものではなく、例えば、嵌合により行ってもよい。
【0027】
筒体5、第一蓋部6及び第二蓋部7は、製造容易性の観点から、樹脂製であることが好ましい。この場合、筒体5、第一蓋部6及び第二蓋部7を、射出成型により製造することができる。また、筒体5、第一蓋部6及び第二蓋部7は、インクとしてUVインクを使用する場合を考慮して、紫外線を透過しない色、例えば黒色であることが好ましい。
【0028】
そして、中空糸膜束3の一方側膜束端部3aが、封止部8により筒体5の一方側開口端部5aに固定されており、中空糸膜束3の他方側膜束端部3bが、封止部9により筒体5の他方側開口端部5bに固定されている。
【0029】
封止部8は、樹脂により形成されている。封止部8に用いる樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、紫外線硬化型樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。封止部8は、筒体5の軸線方向Lと垂直な断面において、膜束中空部3c以外の全域に充填されている。つまり、封止部8は、中空糸膜2間と、中空糸膜2の内側と、中空糸膜束3と筒体5の内壁との間と、にのみ封止部8が充填されている(
図3(a)参照)。そして、封止部8には、膜束中空部3cと筒体5外部とを連通する連通口8aが形成されている。このため、供給口6aから第一蓋部6内に供給されたインクは、連通口8aからのみ筒体5内に供給され、筒体5内において、中空糸膜2の外側に供給される。
【0030】
封止部9は、封止部8と同様の樹脂により形成されている。封止部9は、筒体5の軸線方向Lと垂直な断面において、中空糸膜2の内側以外の全域に充填されている。つまり、封止部9は、中空糸膜2の内側には充填されておらず、中空糸膜2間、中空糸膜束3と筒体5の内壁との間、膜束中空部3c、にのみ充填されている(
図3(b)参照)。このため、筒体5に供給されたインクは、封止部9を超えて第二蓋部7側に流れ込むのが阻止される。また、中空糸膜2の内側と第二蓋部7の内側とが連通されているため、吸引ポンプ16により吸気口7aから吸気することで、中空糸膜2の内側が減圧される。
【0031】
封止部8は、例えば、中空糸膜束3の一方側膜束端部3aの中心軸線と筒体5の中心軸線とが同じ位置となるように、中空糸膜束3の一方側膜束端部3aを筒体5に固定している。また、封止部9は、例えば、中空糸膜束3の他方側膜束端部3bの中心軸線と筒体5の中心軸線とが同じ位置となるように、中空糸膜束3の他方側膜束端部3bを筒体5に固定している。なお、封止部9は、例えば、中空糸膜束3の他方側膜束端部3bの中心軸線が筒体5の中心軸線に対して排出口5dの反対側に偏芯した位置となるように、中空糸膜束3の他方側膜束端部3bを筒体5に固定してもよい。
【0032】
なお、筒体5の内径Dと、中空糸膜束3の軸線方向Lにおける長さとの比は、1:1〜1:6であることが好ましい。
【0033】
ここで、中空糸膜束3の見かけ断面積A1に対する中空糸膜2の見かけ断面積A2の総和A3の割合を、中空糸膜充填率Rとする。以下、中空糸膜充填率Rについて詳しく説明する。
図5は、中空糸膜束の断面図であり、
図4と同じ断面を示している。
図6は、
図5に示す中空糸膜束の一部拡大図である。なお、
図5において、各中空糸膜2は、概略的に記載しており、実際の形状と異なる。
【0034】
図5の(a)に示すように、中空糸膜束3の外周面を外周面C1とし、外周面C1により画成される断面領域を断面領域a1とする。断面領域a1は、
図5の(a)において斜線により網掛けした領域である。なお、外周面C1は、中空糸膜束3の外形を成す円周面であるが、中空糸膜束3は、複数の中空糸膜2の集合体であるため、外周面C1は、中空糸膜束3の半径方向において最外層に配置される複数の中空糸膜2の外側に当接される仮想円周面となる。この場合、円筒状の中空糸膜束3から解れた1又は複数本の中空糸膜2は、この最外層に配置される複数の中空糸膜2から除外される。
【0035】
図5の(b)に示すように、中空糸膜束3の内周面を内周面C2とし、内周面C2により画成される断面領域を断面領域a2とする。断面領域a2は、
図5の(b)において斜線により網掛けした領域である。なお、内周面C2は、膜束中空部3cを画成する円周面であるが、中空糸膜束3は、複数の中空糸膜2の集合体である。このため、内周面C2は、中空糸膜束3の半径方向において最内層に配置される複数の中空糸膜2の外側に当接される仮想円周面となる。この場合、円筒状の中空糸膜束3から解れた1又は複数本の中空糸膜2は、この最内層に配置される複数の中空糸膜2から除外される。
【0036】
図5の(a)、(b)及び(c)に示すように、断面領域a1から断面領域a2を除した領域を断面領域a3とする。断面領域a3は、
図5の(c)において斜線により網掛けした領域である。そして、この断面領域a3の面積が、中空糸膜束3の見かけ断面積A1となる。
【0037】
図6に示すように、一本の中空糸膜2の外周面を外周面C3とし、外周面C3により画成される断面領域を断面領域a4とする。断面領域a4は、
図6において斜線により網掛けした領域である。つまり、断面領域a4は、円筒状に形成された中空糸膜2の膜自体2aの断面領域と、中空糸膜2の中空部2bの断面領域と、を加算した領域である。そして、断面領域a4の面積が、見かけ断面積A2となる。そして、中空糸膜束3を構成する中空糸膜2の本数をNとすると、見かけ断面積A2にNを乗算した値が、中空糸膜2の見かけ断面積A2の総和A3となる。つまり、中空糸膜2の見かけ断面積A2の総和A3は、A2×Nの式により算出される。また、中空糸膜束3における中空糸膜2間の隙間Gは、中空糸膜2の見かけ断面積A2の総和A3から除かれる。
【0038】
このため、中空糸膜充填率Rは、(A2×N)/A1の式により算出される。そして、中空糸脱気モジュール1では、このように算出される中空糸膜充填率Rが、43%以下の範囲となっている。この場合、中空糸膜充填率Rは、40%以下の範囲であることがより好ましく、38%以下の範囲であることが更に好ましい。中空糸膜充填率Rを43%以下の範囲とすることで、脱気するインクにより中空糸膜2が膨潤しても、中空糸膜2間に当該インクが通る隙間を確保することができる。これにより、中空糸脱気モジュール1の圧力損失が急激に上昇するのを抑制することができる。
【0039】
また、中空糸膜充填率Rは、20%以上の範囲であることが好ましく、25%以上の範囲であることがより好ましく、30%以上の範囲であることが更に好ましい。中空糸膜充填率Rを20%以上の範囲とすることで、インクを脱気するために必要な膜面積を確保することができる。これにより、中空糸脱気モジュール1の脱気性能が低下するのを抑制することができる。
【0040】
次に、中空糸脱気モジュール1によるインクの脱気方法について説明する。
【0041】
インク貯留部12から第一インク供給管14に供給されたインクは、供給口6aから第一蓋部6内に供給される。第一蓋部6内に供給されたインクは、連通口8aを通って膜束中空部3cに供給される。膜束中空部3cに供給されたインクは、中空糸膜束3を構成する各中空糸膜2の間を通って筒体5の半径方向外側に流れていく。つまり、膜束中空部3cに供給されたインクは、筒体5内において、中空糸膜2の外側に供給される。このとき、吸引ポンプ16を作動させて吸気口7aからハウジング4内を吸気することで、中空糸膜2の内側が減圧される。すると、インクが中空糸膜2間を通過する際に、インクから溶存気体及び気泡が中空糸膜2の内側に引き込まれる。これにより、インクの脱気が行われる。そして、脱気されたインクは、排出口5dから第二インク供給管15に流れ込み、第二インク供給管15からインクジェットヘッド13に供給される。
【0042】
このとき、中空糸膜2は、経時的にインクにより膨潤していく。また、中空糸膜2が膨潤して行くに従い、中空糸膜2間の間隔が狭くなって行くとともに、インクの流れに伴って中空糸膜2が撓んで中空糸膜2間にインクの通る隙間が塞がれて行く。すると、インクは、狭まった中空糸膜2間の隙間を通るため、中空糸脱気モジュール1におけるインクの圧力損失が上昇して行く。一方、中空糸膜2の膨潤には限界があり、2日間ほど中空糸脱気モジュール1にインクを流すと、中空糸膜2の膨潤が飽和状態となる。なお、中空糸膜2が膨潤する速度及び程度は、中空糸膜2の素材、膜形状、膜形態等によって変わり、また、インクの種類によっても変わる。例えば、中空糸膜2の素材として、ポリオレフィン系樹脂を用い、インクとして、セラミック粉末が、溶媒に分散されたセラミックインクを用いた場合は、特に中空糸膜2の膨潤速度及び膨潤程度が大きくなる。
【0043】
ここで、セラミックインクに用いられる溶媒としては、本発明の効果を損ねるものでなければ特に限定されることなく、公知のものであってよいが、具体的に例示するならば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール等のグリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールモノアセテート類、グリコールジアセテート類、エタノール、 n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、ジエチルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチル−n−ブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル、酢酸−2−メチルプロピル、酢酸−3−メチルブチル等の酢酸エステル類、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸エステル類、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ノナン、イソノナン、ドデカン、イソドデカン等の飽和炭化水素類、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等の不飽和炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、デカリン等の環状飽和炭化水素類、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,1,3,5,7−シクロオクタテトラエン、シクロドデセン等の環状不飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、テルペン類、環状イミド、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−エチル−2−オキサゾリジノン等の3−アルキル−2−オキサゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン、β−アルコキシプロピオンアミド等の含窒素溶剤が挙げられる。
【0044】
このようなことから、インクの圧力損失の急激な上昇を抑制するためには、中空糸膜2の膨潤が飽和状態になった際に、中空糸膜2間の間隔を適切な範囲にすることが有効である。そして、本発明者らの鋭意研究の結果、中空糸膜充填率Rを43%以下とすることで、中空糸膜2の膨潤が飽和状態になった際に、中空糸膜2間の間隔が適切な範囲となって、インクの圧力損失の急激な上昇を抑制することができることが分かった。
【0045】
このように、本実施形態に係る中空糸脱気モジュール1は、中空糸膜2の外側にインクを供給するとともに中空糸膜2の内側を減圧することでインクを脱気する外部灌流型である。このため、インクの圧力損失を低く抑えることができる。これにより、例えば、インクの自重によりインク貯留部12からインクジェットヘッド13にインクを供給するインクジェットプリンタ11に中空糸脱気モジュール1を搭載しても、適切にインクジェットヘッド13にインクを供給することができる。
【0046】
そして、この中空糸脱気モジュール1では、中空糸脱気モジュール1における中空糸膜充填率Rが43%以下であるため、脱気するインクにより中空糸膜2が膨潤しても、中空糸膜2間に当該インクが通る隙間を確保することができる。これにより、中空糸脱気モジュール1の圧力損失が急激に上昇するのを抑制することができる。つまり、中空糸膜2がインクにより膨潤する素材を含有しても、中空糸脱気モジュール1の脱気性能が低下するのを抑制することができる。
【0047】
また、中空糸膜充填率Rが20%以上である場合は、インクを脱気するために必要な膜面積を確保することができる。これにより、中空糸脱気モジュール1の脱気性能が低下するのを抑制することができる。
【0048】
また、中空糸膜2がインクにより膨潤する素材を含有しても、中空糸脱気モジュール1の脱気性能が低下するのを抑制することができる。
【0049】
また、中空糸膜2がポリオレフィン系樹脂を含有するため、インクを効果的に脱気することができる。
【0050】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンタ11では、第一インク供給管14及び第二インク供給管15を備えるインク流路に中空糸脱気モジュール1が取り付けられているため、インク流路におけるインクの圧力損失を低く抑えることができるとともに、長期にわたってインクを脱気することができる。これにより、例えば、インクの自重によりインク貯留部12からインクジェットヘッド13にインクを供給するインクジェットプリンタ11であっても、適切にインクジェットヘッド13にインクを供給することができる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、膜束中空部3cに中心パイプを備えないものとして説明したが、膜束中空部3cに中心パイプを備えるものであってもよい。また、上記実施形態では、脱気する液体としてインクを例示して説明したが、脱気する液体はインク以外の液体であってもよい。また、上記実施形態では、供給口6aからハウジング4内にインクを供給し、排出口5dからハウジング4内のインクを排出するものとして説明したが、インクの入口と出口とを反転させてもよい。つまり、排出口5dからハウジング4内にインクを供給し、供給口6aからハウジング4内のインクを排出するものとしてもよい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1〜3の中空糸脱気モジュールと、参考例1及び2の中空糸脱気モジュールと、を作製し、
図7に示す試験回路において、インクを循環させることによる圧力損失の上昇について計測した。
【0054】
(試験回路)
図7に示すように、試験回路は、インクが貯留されているインクタンク21に挿入された第一インク供給管22を、中空糸脱気モジュールの供給口に接続し、第一インク供給管22に、第一インク供給管22内のインクを中空糸脱気モジュール側に送液するポンプ23と、第一インク供給管22内のインクの圧力を計測する入口圧力計24と、を取り付けた。また、試験回路は、インクタンク21に挿入された第二インク供給管25を、中空糸脱気モジュールの排出口に接続し、第二インク供給管25に、第二インク供給管25内のインクの圧力を計測する出口圧力計26を取り付けた。
【0055】
(実施例1)
実施例1の中空糸脱気モジュールは、次の通り作製した。
【0056】
ポリ−4メチルペンテン−1を素材とした不均質構造の側壁(膜)を有する内径100μm、外径180μmの中空糸膜を作製した。次に、1インチ当たりに中空糸膜が61本となるように、同列に並ぶ多数の中空糸膜を経糸により簾状に織り、所定長さの中空糸膜シートを作製した。次に、円筒状の仮芯(樹脂パイプ)に中空糸膜シートを巻き付けて、円筒状の中空糸膜束を作製し、この作製した中空糸膜束を円筒状の簾束径調整用パイプに挿入して、中空糸膜束の中空糸膜充填率を調整した。つまり、中空糸膜束の外径よりも大きな内径を有する簾束径調整用パイプに中空糸膜束を挿入すると、円筒状に巻かれた中空糸膜シートが弛み、中空糸膜間の隙間が広がる。このため、仮芯の外径、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さ、及び簾束径調整用パイプの内径を調整することで、中空糸膜充填率を調整することができる。
【0057】
そして、実施例1の中空糸膜束では、仮芯の外径を15.0mmとし、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さを5200mmとし、簾束径調整用パイプの内径を39.0mmとすることで、中空糸膜充填率を30.0%とした。
【0058】
次に、中空糸膜束をハウジングの筒体に挿入し、中空糸膜束の一方側膜束端部を、封止部により筒体の一方側開口端部に固定するとともに、中空糸膜束の他方側膜束端部を、封止部により筒体の他方側開口端部に固定した。また、中空糸膜束から仮芯を抜去した。そして、筒体の一方側開口端部に第一蓋部を取り付けるとともに、筒体の他方側開口端部に第二蓋部を取り付けることで、実施例1の中空糸脱気モジュールを得た。
【0059】
(実施例2)
中空糸膜充填率を33.8%とした他は、実施例1の中空糸脱気モジュールの中空糸膜充填率と同様にして、実施例2の中空糸脱気モジュールを作製した。具体的には、実施例2の中空糸膜束では、仮芯の外径を15.0mmとし、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さを5200mmとし、簾束径調整用パイプの内径を37.0mmとすることで、中空糸膜充填率を33.8%とした。
【0060】
(実施例3)
中空糸膜充填率を36.0%とした他は、実施例1の中空糸脱気モジュールの中空糸膜充填率と同様にして、実施例3の中空糸脱気モジュールを作製した。具体的には、実施例3の中空糸膜束では、仮芯の外径を15.0mmとし、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さを5200mmとし、簾束径調整用パイプの内径を36.0mmとすることで、中空糸膜充填率を36.0%とした。
【0061】
(参考例1)
中空糸膜充填率を44.3%とした他は、実施例1の中空糸脱気モジュールの中空糸膜充填率と同様にして、参考例1の中空糸脱気モジュールを作製した。具体的には、参考例1の中空糸膜束では、仮芯の外径を15.0mmとし、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さを5200mmとし、簾束径調整用パイプの内径を33.0mmとすることで、中空糸膜充填率を44.3%とした。
【0062】
(参考例2)
中空糸膜充填率を51.6%とした他は、実施例1の中空糸脱気モジュールの中空糸膜充填率と同様にして、参考例2の中空糸脱気モジュールを作製した。具体的には、参考例2の中空糸膜束では、仮芯の外径を15.0mmとし、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さを5200mmとし、簾束径調整用パイプの内径を31.5mmとすることで、中空糸膜充填率を51.6%とした。
【0063】
(実験1)
実験1では、炭化水素溶媒(エクソンモービル株式会社製「Exxsol(登録商標) D130」(Hydrocarbones, C14−C18, n−alkanes, iso−alkanes, cyclics, aromatics等))を含有するセラミックインクを使用し、インクの設定温度を45°とした。
【0064】
そして、(1)インクの設定流量を200g/minにしてインクを循環させ、入口圧力計24で計測した入口圧力と出口圧力計26で計測した出口圧力との差を圧力損失として算出するとともに、図示しない流量計によりインクの流量を計測した。次に、(2)インクの設定流量を1000g/minにしてインクを循環させ、入口圧力計24で計測した入口圧力と出口圧力計26で計測した出口圧力との差を圧力損失として算出するとともに、図示しない流量計によりインクの流量を計測した。なお、(1)及び(2)で算出した圧力損失を初期値とした。
【0065】
次に、(3)インクの設定流量を1000g/minにして22時間放置した。その後、(4)インクの設定流量を200g/minにしてインクを循環させ、入口圧力計24で計測した入口圧力と出口圧力計26で計測した出口圧力との差を圧力損失として算出するとともに、図示しない流量計によりインクの流量を計測した。次に、(5)インクの設定流量を1000g/minにしてインクを循環させ、入口圧力計24で計測した入口圧力と出口圧力計26で計測した出口圧力との差を圧力損失として算出するとともに、図示しない流量計によりインクの流量を計測した。
【0066】
そして、(4)及び(5)で算出した圧力損失に対する(1)及び(2)で算出した圧力損失の割合を、圧力損失の上昇率として算出した。実施例1〜3及び参考例1及び2の実験結果を表1に示す。また、インクを循環させた直後の実験結果をグラフ化したものを
図8に示し、22時間インクを循環させた後の実験結果をグラフ化したものを
図9に示す。
【表1】
表1、
図8及び
図9に示すように、中空糸膜充填率が43%以下の実施例1〜3では、中空糸膜充填率が43%を超える参考例1及び2に比べて、インクを22時間循環させた後の中空糸脱気モジュールの圧力損失の上昇が小さく抑えられていた。また、中空膜充填率が30%付近の中空糸脱気モジュールでは、圧力損失の上昇が殆ど見られなかった。この結果から、中空糸膜充填率が43%以下であることにより、圧力損失の急激な上昇を抑制できることが分かった。
【0067】
(実施例4)
中空糸膜充填率を30.9%とした他は、実施例1の中空糸脱気モジュールの中空糸膜充填率と同様にして、実施例4の中空糸脱気モジュールを作製した。具体的には、実施例4の中空糸膜束では、仮芯の外径を15.0mmとし、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さを5200mmとし、簾束径調整用パイプの内径を38.5mmとすることで、中空糸膜充填率を30.9%とした。
【0068】
(実施例5)
中空糸膜充填率を35.3%とした他は、実施例1の中空糸脱気モジュールの中空糸膜充填率と同様にして、実施例5の中空糸脱気モジュールを作製した。具体的には、実施例5の中空糸膜束では、仮芯の外径を15.0mmとし、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さを5200mmとし、簾束径調整用パイプの内径を36.2mmとすることで、中空糸膜充填率を35.3%とした。
【0069】
(実施例6)
中空糸膜充填率を36.3%とした他は、実施例1の中空糸脱気モジュールの中空糸膜充填率と同様にして、実施例6の中空糸脱気モジュールを作製した。具体的には、実施例6の中空糸膜束では、仮芯の外径を15.0mmとし、仮芯に巻かれた中空糸膜シートの長さを5200mmとし、簾束径調整用パイプの内径を35.8mmとすることで、中空糸膜充填率を36.3%とした。
【0070】
(実験2)
実験2では、インクの設定温度を45℃、インクの設定流量を1000g/min、インクの循環時間を22時間と、実験1と同じセラミックインクを使用した。実験条件を表2に示す。
【表2】
そして、実施例1〜6及び参考例1及び2の中空糸脱気モジュールについて、インクを循環させた直後に、入口圧力計24で計測した入口圧力と出口圧力計26で計測した出口圧力との差を圧力損失として算出した。また、22時間インクを循環させた後に、入口圧力計24で計測した入口圧力と出口圧力計26で計測した出口圧力との差を圧力損失として算出した。そして、インクを循環させた直後の圧力損失に対する22時間インクを循環させた後の圧力損失の割合を、圧力損失上昇率として算出した。実験結果を
図10に示す。
【0071】
表2及び
図10に示すように、中空膜充填率が増えることで圧力損失の上昇率が大きくなることが分かる。特に、中空糸膜充填率が38%を超えたあたりから、圧力損失の上昇率が急激に大きくなり、さらに、43%を超えるあたりから圧力損失が5倍を超えるほど大きくなっている。この結果より、中空糸膜充填率を調整することで、圧力損失の上昇を調整することができる可能性が示唆された。つまり、中空糸膜充填率を低くすることで、中空糸膜間に十分な隙間が形成される。これにより、中空糸膜が膨潤して、インクの流れにより中空糸膜束が撓んでも、インク流路の閉塞が生じにくくなると考えられる。一方、中空膜充填率を高くすると、中空糸膜間の隙間が少なくなる。これにより、中空糸膜の微小な膨潤やインクの流れにより、インク流路の閉塞が生じやすくなると考えられる。