【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
以下、反応溶液に含まれる各成分をそれぞれ下記の略称を用いて表す。
[スルフィド体A] 5−メトキシ−2−〔〔(4−メトキシ−3,5−ジメチル−2−ピリジニル)メチル〕チオ〕−1H−ベンズイミダゾール(原料)
[S−スルホキシド体A] スルフィド体AのS−スルホキシド(エソメプラゾール)
[R−スルホキシド体A] スルフィド体AのR−スルホキシド
[スルホン体A] スルフィド体Aのスルホン
[S−ジクロロ不斉配位子] 2,4−ジクロロ−6−〔(E)−〔〔(1S)−1−(ヒドロキシメチル)−2,2−ジメチルプロピル〕イミノ〕メチル〕−フェノール(S配置を有する式4の不斉配位子)
【0032】
反応液に含まれる各成分の量を以下のHPLC分析条件1〜3を用いて測定した。
<HPLC分析条件1>
下記のパラメーターを用いて高速液体クロマトグラフィーを行った。
[カラム]ダイセルChiralpak IA(4.6mm×250mm,粒径5μm)
[カラム温度]25℃
[移動相]t−ブチルメチルエーテル:酢酸エチル:エタノール:ジエチルアミン:トリフルオロ酢酸=60:40:5:0.1:0.1
[流速]1.0mL/分
[検出波長]299nm
[測定時間]30分
[おおよその保持時間]
4−ジメチルアミノ安息香酸: 3.6分
S−ジクロロ不斉配位子 : 4.0分
スルホン体A : 5.5分
スルフィド体A : 6.6分
R−スルホキシド体A :10.3分
S−スルホキシド体A :14.6分
【0033】
<HPLC分析条件2>
下記のパラメーターを用いて高速液体クロマトグラフィーを行った。
[カラム]ZORBAX SB−C8(4.6mm×150mm,粒径3.5μm)
[カラム温度]25℃
[移動相]
移動相A:pH7.6リン酸ナトリウム水溶液;移動相B:アセトニトリル
(pH7.6リン酸ナトリウム水溶液は、リン酸水素二ナトリウム12水和物2.83gおよびリン酸二水素ナトリウム2水和物0.21gを水1000mLに溶かし、1体積%リン酸水溶液でpH7.6に調整した。)
移動相Aおよび移動相Bの混合比を以下のように変えて濃度勾配制御した。
【表1】
[流速]1.0mL/分
[検出波長]280nm
[測定時間]45分
[おおよその保持時間]
(1)ランソプラゾール
スルホン体 :20.4分
スルホキシド体 :22.9分
スルフィド体 :30.5分
(2)ラベプラゾール
スルホン体 :13.7分
スルホキシド体 :18.3分
スルフィド体 :27.9分
(3)パントプラゾール
スルホン体 : 8.6分
スルホキシド体 :17.5分
スルフィド体 :28.2分
【0034】
<HPLC分析条件3>
下記のパラメーターを用いて高速液体クロマトグラフィーを行った。
[カラム]ダイセルChiralpak IC(4.6mm×250mm,粒径5μm)
[カラム温度]40℃
[移動相]pH6.5の5Mリン酸二水素カリウム水溶液:メタノール:テトラヒドロフラン=37:60:3
(pH6.5の5Mリン酸二水素カリウム水溶液は、リン酸二水素カリウム0.7gを水1000mLに溶かし、トリエチルアミンでpH6.5に調整した。)
[流速]1.0mL/分
[検出波長]300nm
[測定時間]30分
[おおよその保持時間]
(1)オメプラゾール
S−スルホキシド体A :12.5分
R−スルホキシド体A :15.7分
(2)ランソプラゾール
S−スルホキシド体 : 8.8分
R−スルホキシド体 :10.6分
(3)ラベプラゾール
S−スルホキシド体 :16.2分
R−スルホキシド体 :20.9分
(4)パントプラゾール
S−スルホキシド体 : 7.8分
R−スルホキシド体 : 8.8分
【0035】
実施例1
S−スルホキシド体A(エソメプラゾール)の製造
79.3mg(273μmol)のS−ジクロロ不斉配位子および32.2mg(91.1μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートを0.6mLの酢酸エチルに25℃で溶解し、30分以上撹拌した。混合溶液に7.8mg(45.5μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩および0.3mLの酢酸エチルを加え、懸濁液を30分以上撹拌した。0.3g(911μmol)のスルフィド体Aおよび0.9mLの酢酸エチルを加え、懸濁液を30分以上撹拌した。混合物を−5℃まで冷却した後、186μL(1.82mmol)の30%過酸化水素水溶液を2分以上かけて滴下した。4.5時間後、反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 88%;スルホン体A 11%;スルフィド体A 0%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 98%ee
【0036】
実施例2〜8
反応溶媒の検討
実施例1において、酢酸エチルを表
2に記載の反応溶媒に代えて不斉酸化反応を行った。表
2に記載の反応時点における反応混合物をHPLC分析条件1で分析した結果を表
2に記載する。
【表2】
反応溶媒によって反応速度が異なっていたため、反応混合物の分析時間を変更した。上記結果から分かる通り、いずれの反応溶媒でも概ね良好なエナンチオ選択性を与えた。なかでも酢酸エチルおよびトルエン/メタノールが極めて高いエナンチオ選択性を示した。
【0037】
実施例9〜12
反応温度の検討
実施例2において、4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩の代わりに4−ジメチルアミノ安息香酸を用いて、反応温度を表
3に記載の温度にして不斉酸化反応を行った。表
3に記載の反応時点における反応混合物をHPLC分析条件1で分析した結果を表
3に記載する。
【表3】
反応温度によって反応速度が異なっていたため、それに合わせて反応混合物の分析時間を変更した。上記結果から分かる通り、良好なエナンチオ選択性を示し、中でも5℃以下では90%以上の選択性であった。
【0038】
実施例13
酸化剤として尿素-過酸化水素を用いたS−スルホキシド体A
(エソメプラゾール)の製造
実施例1において、反応溶媒として酢酸エチルの代わりに酢酸エチルと水の混合溶媒(10:1(v/v))を用い、酸化剤として30%過酸化水素水溶液の代わりに固体の尿素・過酸化水素(171mg)を用いて不斉酸化反応を行った。6時間後、反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 77%;スルホン体A 6%;スルフィド体A 17%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 87%ee
【0039】
実施例14
S−スルホキシド体A(エソメプラゾール)の製造
52.9mg(182μmol)のS−ジクロロ不斉配位子および32.2mg(91.1μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートを0.6mLの酢酸エチルに25℃で溶解し、30分以上撹拌した。混合溶液に7.8mg(45.5μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩および0.3mLの酢酸エチルを加え、懸濁液を30分以上撹拌した。0.3g(911μmol)のスルフィド体Aおよび0.9mLの酢酸エチルを加え、懸濁液を30分以上撹拌した。混合物を−5℃まで冷却した後、186μL(1.82mmol)の30%過酸化水素水溶液を2分以上かけて滴下した。4.5時間後、反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 83%;スルホン体A 15%;スルフィド体A 2%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 97%ee
混合液に2.8mLの8%炭酸水素ナトリウム水溶液,1.4gのチオ硫酸ナトリウム5水和物および1.4mLの水を加えた後、25℃まで加熱し撹拌した。水相を除去した後、有機相を1mLの8%炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄した。有機相をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 86%;スルホン体A 14%;スルフィド体A 0%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 98%ee
その後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルムとメタノールの混合溶媒)による後処理を行って、0.3gの表題化合物(純度87%;98%ee)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 8.21 (1H, s), 7.58 (1H, br s), 6.96 (2H, br m), 4.75 (2H, q, -SOCH
2-), 3.84 (3H, s), 3.69 (3H, s), 2.23 (3H, s), 2.21 (3H, s)
【0040】
実施例15
ジブチルスルフィドの添加
実施例1において、スルフィド体Aを加える前に、16μLのジブチルスルフィド(91.1μmol)を加え、混合物を−5℃まで冷却した後、186μL(1.82mmol)の30%過酸化水素水溶液を滴下し、混合物を30分撹拌した後、0.3g(911μmol)のスルフィド体Aおよび0.9mLの酢酸エチルを加えた。16.5時間後、少量の反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 88%;スルホン体A 8%;スルフィド体A 4%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 96%ee
【0041】
実施例16
ジフェニルスルフィドの添加
実施例15において、添加剤としてジブチルスルフィドの代わりにジフェニルスルフィドを用いて実験を行った。16.5時間後、少量の反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 88%;スルホン体A 11%;スルフィド体A 1%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 99.5%ee
反応混合液に3.7mLの8%炭酸水素ナトリウム水溶液、1.4gのチオ硫酸ナトリウム5水和物および1.4mLの水を加えた後、25℃まで加熱し撹拌した。水相を除去した後、有機相を1mLの8%炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄し、生成物を有機相から1mLの1M水酸化ナトリウム水溶液および1mLの0.75M水酸化ナトリウム水溶液で2回抽出した。合した水相を酢酸で中和し、2mLの4−メチル−2−ペンタノンで2回抽出した。合した有機相をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 89%;スルホン体A 11%;スルフィド体A 0%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 99.7%ee
【0042】
実施例17
S−ランソプラゾールの製造
234mg(808μmol)のS−ジクロロ不斉配位子、94.9mg(269μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートおよび23.2mg(136μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩を7.5mLの酢酸エチルに25℃で懸濁させ、30分以上撹拌した。1.00g(2.69mmol)のランソプラゾールのスルフィド体の一水和物および7.5mLの酢酸エチルを加えた。混合物を−5℃まで毎分1℃の速度で冷却した後、550μL(5.39μmol)の30%過酸化水素水溶液を2分以上かけて滴下した。20.5時間後、反応混合物をHPLC分析条件2およびHPLC分析条件3で分析した。
<含有率>スルホキシド体 87%;スルホン体 12%;スルフィド体 1%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 98%ee
混合溶液に5mLの飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液の混合溶媒を加えた後、5℃まで加熱し撹拌した。水層を除去した後、有機層を減圧濃縮した。
<含有率>スルホキシド体 86%;スルホン体 13%;スルフィド体 1%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 98%ee
シリカカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチルとメタノールの混合溶媒)による後処理を行って、0.86gの標題化合物(純度98%;97%ee)を得た。
1H-NMR (400 MHz, DMSO):δ 13.6 (1H, s), 8.29 (1H, d), 7.65(1H, br s), 7.31(2H, m), 7.10 (1H, d), 4.92 (2H, q), 4.80 (2H, q, -SOCH
2-) , 2.18 (3H, s)
LRMS : [M + Na]
+ 計算値 392.07,実測値 392.40
なお、得られた光学活性のランソプラゾールのスルホキシドの立体は、オメプラゾールとパントプラゾールの挙動およびHPLCの保持時間からS配置と推定した。
【0043】
実施例18
S−ラベプラゾールの製造
253mg(874μmol)のS−ジクロロ不斉配位子、103mg(291μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートおよび25.2mg(147μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩を5mLの酢酸エチルに25℃で懸濁させ、30分以上撹拌した。1.00g(2.91mmol)のラベプラゾールのスルフィド体および5mLの酢酸エチルを加えた。混合物を−5℃まで毎分1℃の速度で冷却した後、595μL(5.82mmol)の30%過酸化水素水溶液を2分以上かけて滴下した。21.5時間後、反応混合物をHPLC分析条件2およびHPLC分析条件3で分析した。
<含有率>スルホキシド体 82%;スルホン体 17%;スルフィド体 1%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 97%ee
混合溶液に5mLの飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液の混合溶媒を加えた後、5℃まで加熱し撹拌した。水層を除去した後、有機層を減圧濃縮した。
<含有率>スルホキシド体 82%;スルホン体 18%;スルフィド体 0%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 97%ee
シリカカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチルとメタノールの混合溶媒)による後処理を行って、0.73gの標題化合物(純度97%;96%ee)を得た。
1H-NMR (400 MHz, DMSO):δ 13.5 (1H, s), 8.21 (1H, d), 7.65(1H, br s), 7.31(2H, m), 6.96 (1H, d), 4.75 (2H, q, -SOCH
2-), 4,10 (2H, d), 3.48 (2H, t), 3.25 (3H, s), 2.14 (3H, s), 1.99 (2H, m)
LRMS:[M+Na]
+ 計算値 382.12,実測値 382.44
なお、得られた光学活性のラベプラゾールのスルホキシドの立体は、オメプラゾールとパントプラゾールの挙動およびHPLCの保持時間から、S配置と推定した。
【0044】
実施例19
S−パントプラゾールの製造
237mg(815μmol)のS−ジクロロ不斉配位子、95.8mg(271μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートおよび23.4mg(137μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩を5mLの酢酸エチルに25℃で懸濁させ、30分以上撹拌した。1.00g(2.72mmol)のパントプラゾールのスルフィド体および5mLの酢酸エチルを加えた。混合物を−8 ℃まで毎分1℃の速度で冷却した後、556μL(5.44mmol)の30%過酸化水素水溶液を1分以上かけて滴下した。44時間後、反応混合物をHPLC分析条件2およびHPLC分析条件3で分析した。
<含有率>スルホキシド体 75%;スルホン体 13%;スルフィド体 12%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 83%ee
混合溶液に5mLの飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液の混合溶媒を加えた後、10℃まで加熱し撹拌した。水層を除去した後、有機層を減圧濃縮した。
<含有率>スルホキシド体 75%;スルホン体 13%;スルフィド体 12%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 83%ee
シリカカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチルとメタノールの混合溶媒)による後処理を行って、0.74gの標題化合物(純度95.13%;82%ee)を得た。
1H-NMR (400 MHz, DMSO):δ 13.8 (1H, s), 8.15 (1H, d), 7.72 (1H, d), 7.44 (1H, s), 7.26 (1H, t), 7.16 (1H, dd), 7.11 (1H, d), 4.69 (2H, q, -SOCH
2-) , 3.90 (3H, s), 3.77 (3H, s)
LRMS:[M+Na]
+ 計算値 406.06,実測値 406.36
旋光度[α]
D25:−79.4(c 0.3,MeOH)
S体のパントプラゾール(96%ee)の旋光度[α]
D25は、−95.5(c 0.3,MeOH)であることが、Tetrahedron : Asymmetry, 2012, 23, 457-460に記載されている。
【0045】
実施例17〜19および実施例1の反応の分析結果を表4にまとめる。
【表4】
以上のように、本発明の製造方法によって、種々の光学活性のプロトンポンプ阻害化合物を高い収率およびエナンチオ選択性で、製造することができることが分かる。
【0046】
実施例20
S−スルホキシド体A(エソメプラゾール)の製造スケールの変更
非特許文献1等に記載の通り、チタンを触媒とする場合、大スケールでは触媒量を増やす必要があるとの問題があった。そこで、本願発明の製造方法で、原料のスルフィド体Aを1g、20gおよび100g用いる実験を行った。以下に100g用いた場合の反応条件を記載するが、1gおよび20g用いた場合はそれに対応する量の試薬を用いて同様に反応を行った。
7.93g(27.3mmol)のS−ジクロロ不斉配位子、8.04g(22.77mmol)の鉄(III)アセチルアセトナートおよび3.9g(22.77mmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩を300mLの酢酸エチルに室温で懸濁させ、30分以上撹拌した。この混合物に100g(303.56mmol)のスルフィド体Aおよび500mLの酢酸エチルを加えた。混合物を−5℃まで冷却した後、68.82g(607.12mmol)の30%過酸化水素水溶液を滴下した。8時間後、反応混合物をHPLC分析条件3で分析した。
以下に、これらのスケールの異なる反応の分析結果を表5に記す。
【表5】
以上の通り、本発明の製造方法では良い再現性が見られ、スケールを上げても、高い収率およびエナンチオ選択性を維持することができ、触媒量を増やす必要がないことが分かる。