特許第6548336号(P6548336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6548336光学活性のプロトンポンプ阻害化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548336
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】光学活性のプロトンポンプ阻害化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/12 20060101AFI20190711BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20190711BHJP
   C07C 251/08 20060101ALN20190711BHJP
   B01J 31/22 20060101ALN20190711BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20190711BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20190711BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20190711BHJP
   A61P 7/04 20060101ALN20190711BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALN20190711BHJP
   A61K 31/444 20060101ALN20190711BHJP
   C07B 53/00 20060101ALN20190711BHJP
   C07F 15/02 20060101ALN20190711BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190711BHJP
【FI】
   C07D401/12CSP
   C07D471/04 107E
   !C07C251/08
   !B01J31/22 Z
   !A61P43/00 111
   !A61P1/04
   !A61P35/00
   !A61P7/04
   !A61K31/4439
   !A61K31/444
   !C07B53/00 B
   !C07F15/02
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-566484(P2016-566484)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086163
(87)【国際公開番号】WO2016104668
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-264317(P2014-264317)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「若者と共存共栄する持続可能な健康長寿社会を目指す〜Sustainable Life Care, Ageless Society COI拠点〜」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄一
(72)【発明者】
【氏名】イリエシュ ラウレアン
(72)【発明者】
【氏名】大平落 洋二
(72)【発明者】
【氏名】泉 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】西口 茂信
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2001/083473(WO,A1)
【文献】 特表平10−504290(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/112442(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/047681(WO,A1)
【文献】 特表2006−523201(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/089408(WO,A1)
【文献】 特表2006−516261(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/043601(WO,A1)
【文献】 TORU Takeshi, BOLM Carsten,Asymmetric Synthesis of Chiral Sulfoxides,Organosulfur Chemistry in Asymmetric Synthesis.,WILEY-VCH Verlag GmbH & Co.,2008年,p.1-29
【文献】 O'MAHONY Graham E., et al.,Copper-Catalyzed Asymmetric Oxidation of Sulfides,Journal of Organic Chemistry,2012年,Vol.77(7),p.3288-3296
【文献】 O'MAHONY Graham E., et al.,Investigation of steric and electronic effects in the copper-catalysed asymmetric oxidation of sulfi,Tetrahedron,2013年,Vol.69(47),p.10168-10184
【文献】 BOLM Carsten, et al.,Iron-Catalyzed Asymmetric Sulfide Oxidation with Aqueous Hydrogen Peroxide,Angewandte Chemie, International Edition,2003年,Vol.42(44),p.5487-5489
【文献】 BOLM Carsten, et al.,Highly Enantioselective Iron-Catalyzed Sulfide Oxidation with Aqueous Hydrogen Peroxide under Simple,Angewandte Chemie, International Edition,2004年,Vol.43(32),p.4225-4228
【文献】 BOLM Carsten, et al.,Investigations on the Iron-Catalyzed Asymmetric Sulfide Oxidation,Chemistry - A European Journal,2005年,Vol.11(4),p.1086-1092
【文献】 KELLY Padraig, et al.,Asymmetric Synthesis of Aryl Benzyl Sulfoxides by Vanadium-Catalysed Oxidation: A Combination of Ena,European Journal of Organic Chemistry,2006年,Vol.19,p.4500-4509
【文献】 BUHLER Stefanie, et al.,Chiral Sulfoxides as Metabolites of 2-Thioimidazole-Based p38r Mitogen-Activated Protein Kinase Inhi,Journal of Medicinal Chemistry,2011年,Vol.54(9),p.3283-3297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 401/12
C07D 471/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1のスルフィドまたはその塩を酸化して式2の光学活性のスルホキシドまたはその塩を製造する方法であって、
【化1】
[式中、AはCHまたはNを表す。
は、水素原子、ハロゲンで置換されていてもよいアルキル、またはハロゲンで置換されていてもよいアルコキシを表す。
は、1〜3個あってよく、それぞれ独立して、アルキル、ジアルキルアミノ、またはハロゲンもしくはアルコキシで置換されていてもよいアルコキシを表す。
*はR配置またはS配置を表す。]
式3の不斉配位子の存在下、
【化2】
[式中、Rは、それぞれ独立して、ハロゲンを表す。
は、3級アルキルを表す。
**はR配置またはS配置を表す。]
置換されていてもよい安息香酸またはその塩を添加して、鉄塩を用いて、過酸化水素で酸化することを特徴とし、
置換されていてもよい安息香酸における置換基が、アリール、アルコキシ、ニトロ、ハロゲン、アルキル及びジアルキルアミノから選択される置換基である製造方法。
【請求項2】
他のスルフィドまたは他のスルフィドに対応するスルホキシドもしくはスルホンを反応系に添加した後に、式1のスルフィドまたはその塩の酸化反応を行う、請求項1に記載の製造方法であって、
他のスルフィドが、式:R−S−R
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル、又は置換されていてもよいアリールを表す。]
で表されるスルフィドである製造方法。
【請求項3】
が共に塩素原子であり、Rがt−ブチルである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
式2の光学活性のスルホキシドが、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、パントプラゾールまたはレミノプラゾールの光学活性体である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性のプロトンポンプ阻害化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、不斉配位子の存在下、鉄塩を用いて不斉酸化することによる光学活性のプロトンポンプ阻害化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトンポンプ阻害薬は、胃の壁細胞のプロトンポンプに作用して胃酸の分泌を抑制する薬であり、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症またはZollinger-Ellison症候群の治療、および胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃またはヘリコバクター・ピロリ感染胃炎におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助の治療等に用いられている。プロトンポンプ阻害化合物として、例えば、以下に示すオメプラゾール、エソメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、パントプラゾール、レミノプラゾール、デクスランソプラゾールに代表される、ベンズイミダゾール型又はイミダゾピリジン型の化合物等が知られている。本明細書において、プロトンポンプ阻害化合物、ベンズイミダゾール型又はイミダゾピリジン型の化合物との用語には、中性の形態又は塩の形態のいずれか、もしくは両方の形態が含まれる。
【化1】
【0003】
プロトンポンプ阻害化合物は、その共通する特徴的な構造に含まれるスルホキシドの硫黄原子の立体に基づいて、S体、R体およびラセミ体が存在しうる。オメプラゾールについて言えば、ラセミ体がオメプラゾールと呼ばれ、その一方のS体がエソメプラゾールと呼ばれて、市販されている。エソメプラゾールは、オメプラゾールと比べて薬物動態および薬力学作用の個体間変動が小さく、オメプラゾール以上の臨床効果を発揮する薬剤を目指して開発された。このように、プロトンポンプ阻害化合物は、ラセミ体と比較して光学活性体はより優れた臨床効果が期待できることから、その光学活性体を効率的に製造する方法が望まれていた。
特許文献1には、ラセミ体のオメプラゾールを光学活性の酸とのエステルに誘導してジアステレオマーを分割することでエソメプラゾールを製造する方法が記載されている。しかし、多段階の工程が必要であり、他方の光学異性体を廃棄するため、好ましい方法ではない。
【0004】
非特許文献1および特許文献2には、光学活性体のエソメプラゾールを不斉酸化によって製造する方法が記載されている。同方法では、チタンを触媒として、不斉配位子に(S,S)−酒石酸ジエチル、酸化剤としてクメンハイドロパーオキサイドを用いており、94%ee以上のエナンチオ選択性が得られたと報告されている。しかし、このチタン触媒を用いた不斉酸化反応には再現性がないことが記載され、特に小スケールでは4モル%の触媒量で91%eeの不斉酸化ができたものの、大スケールではその触媒量では高い不斉酸化が再現されず、例えば30モル%の触媒量が必要であったと記載されている。このように、工業的なスケールでは、触媒および不斉配位子が大量に必要であり、さらにはこれらの触媒、不斉配位子および酸化剤が高価であり、取扱いが容易ではない点で問題があった。
特許文献3および4には、非特許文献1の方法をランソプラゾール等の他のプロトンポンプ阻害化合物に適用した実施例が記載されている。特許文献5には、非特許文献1の方法で、酒石酸誘導体に代えて光学活性のマンデル酸メチルを用いてエソメプラゾールを製造する方法が記載されている。以上の特許文献3〜5の方法では、非特許文献1の方法と同様に大量のチタン触媒が用いられている。
【0005】
特許文献6には、非特許文献1の方法で、チタン触媒に代えてジルコニウムまたはハフニウムを用いてパントプラゾール等の光学活性体を製造する方法が記載されている。しかし、触媒、不斉配位子および酸化剤が高価であり、取扱いが容易ではない点で問題があった。
特許文献7には、タングステンまたはバナジウムを触媒として不斉配位子としてアルカロイド誘導体またはイミン誘導体を用いて過酸化水素を酸化剤としてテナトプラゾールの光学活性体を製造する方法が記載されている。例えば、実施例1には、反応後、抽出して減圧濃縮することで、所望の光学異性体が収率70%で90%eeで得られたと書かれている。しかし、単に抽出しただけでは共存するはずであるスルホン体および未反応のスルフィド体の含有量が記載されておらず、さらに再結晶後の収量も全く記載されていない。ついては、上記の収率は不純物を含む数値と思われ、信頼性が無く、収率は高くはないと考えられる。さらに特許文献6と同様に、触媒および不斉配位子が高価であり、取扱いが容易でない問題があった。
【0006】
非特許文献2には、タングステン触媒と不斉配位子のアルカロイド誘導体を用いて過酸化水素を酸化剤としてランソプラゾールの光学活性体を製造したことが記載されている。しかし、触媒および不斉配位子が高価であり、取扱いが容易ではない点で問題があった。
特許文献8には、マンガンを触媒としてサレン誘導体を不斉配位子として過酸化水素を酸化剤としてエソメプラゾールを製造する方法が記載されている。しかし、収率が6〜62%であって、エナンチオ選択性が3〜62%eeであり、光学活性体の製造方法としては十分ではない。さらに、マンガンを鉄に代えた例として、実施例37が記載されており、収率が17%でエナンチオ選択性が18%eeであった。特許文献8を読んだ当業者は、エソメプラゾールを含むベンズイミダゾール型およびイミダゾピリジン型の類似構造を有するプロトンポンプ阻害剤の製造において、鉄はマンガンよりも触媒として劣っており、好ましい触媒ではないと理解する。
【0007】
スルフィドの不斉酸化に関して、鉄触媒を用いる方法が非特許文献3および4に記載されている。同方法では、特定のイミン化合物を不斉配位子とし、鉄塩に鉄(III)アセチルアセトナートを、酸化剤として過酸化水素水を用いている。非特許文献4の表3によれば、添加物を加えた実験では、収率が36〜78%であって、エナンチオ選択性が23〜96%eeである。このように、収率およびエナンチオ選択性が大きく変化するのは、原料のスルフィドの構造に大きく依存しているためと思われる。また用いられたスルフィドは主として芳香族炭化水素基とアルキル基を有するものに限られている。従って、複素環を有する化合物に適用した場合に、いかなる収率およびエナンチオ選択性で不斉酸化できるかは当業者には全く予測できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平7−509499
【特許文献2】特表平10−504290
【特許文献3】WO01/83473
【特許文献4】WO2008/047681
【特許文献5】WO03/089408
【特許文献6】特表2006−516261
【特許文献7】特表2006−523201
【特許文献8】WO2010/043601
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tetrahedron: Asymmetry, 2000, 11, 3819-3825
【非特許文献2】Tetrahedron: Asymmetry, 2003, 14, 407-410
【非特許文献3】Angew. Chem. Int. Ed., 2004, 43, 4225-4228
【非特許文献4】Chem. Eur. J., 2005, 11, 1086-1092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、高純度の光学活性のプロトンポンプ阻害化合物を高い収率およびエナンチオ選択性で、安全で安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、プロトンポンプ阻害化合物の原料スルフィドに鉄触媒を用いた不斉酸化を施したところ、今まで達成されなかった高い収率および高いエナンチオ選択性で光学活性のプロトンポンプ阻害化合物を製造できることを見出して、本発明を完成した。即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 式1のスルフィドまたはその塩を酸化して式2の光学活性のスルホキシドまたはその塩を製造する方法であって、
【化2】
[式中、AはCHまたはNを表す。
は、水素原子、ハロゲンで置換されていてもよいアルキル、またはハロゲンで置換されていてもよいアルコキシを表す。
は、1〜3個あってよく、それぞれ独立して、アルキル、ジアルキルアミノ、またはハロゲンもしくはアルコキシで置換されていてもよいアルコキシを表す。
*はR配置またはS配置を表す。]
【0012】
式3の不斉配位子の存在下、
【化3】
[式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、シアノ、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、ニトロ、ハロゲンで置換されていてもよいアルキル、またはハロゲンで置換されていてもよいアルコキシを表す。
は、3級アルキルを表す。
**はR配置またはS配置を表す。]
鉄塩を用いて、過酸化水素で酸化することを特徴とする製造方法。
【0013】
[2] 置換されていてもよい安息香酸またはその塩を添加して酸化反応を行う、[1]に記載の製造方法。
[3] 他のスルフィドまたは他のスルフィドに対応するスルホキシドもしくはスルホンを反応系に添加した後に、式1のスルフィドまたはその塩の酸化反応を行う、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] Rが共に塩素原子であり、Rがt−ブチルである、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 式2の光学活性のスルホキシドが、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、パントプラゾールまたはレミノプラゾールの光学活性体である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
[6] 式4の不斉配位子で配位された鉄錯体。
【化4】
[式中、**はR配置またはS配置を表す。]
【発明の効果】
【0015】
鉄錯体を用いる本発明の製造方法によって、高純度の光学活性のプロトンポンプ阻害化合物を高い収率およびエナンチオ選択性で、安全に安価に製造することができる。また、多くの従来技術で用いられているクメンハイドロパーオキサイド等と異なって、酸化剤として安価で安全な過酸化水素を用いているため、反応後は水が生成するだけであり、副生成物の処理が不要である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、式1のスルフィドまたはその塩を酸化して式2の光学活性のスルホキシドまたはその塩を製造する方法であって、式3の不斉配位子の存在下、鉄塩を用いて、過酸化水素で酸化することを特徴とする製造方法である。
【0017】
1.式1のスルフィドおよび式2の光学活性のスルホキシド
における「ハロゲンで置換されていてもよいアルキル」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子および臭素原子から選択される1または複数のハロゲンで置換されていてもよい直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル等が挙げられる。
における「ハロゲンで置換されていてもよいアルコキシ」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子および臭素原子から選択される1または複数のハロゲンで置換されていてもよい直鎖または分岐鎖のC〜Cアルコキシ等が挙げられ、好ましくは1または2個のフッ素原子で置換されていてもよいメトキシ等が挙げられる。
における「アルキル」としては、例えば、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル等が挙げられ、好ましくはメチル等が挙げられる。
における「ジアルキルアミノ」としては、例えば、2個の直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキルで置換されたアミノ等が挙げられ、好ましくはメチルイソブチルアミノ等が挙げられる。
における「ハロゲンもしくはアルコキシで置換されていてもよいアルコキシ」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子および臭素原子から選択される1または複数のハロゲン、または直鎖もしくは分岐鎖のC〜Cアルコキシで、置換されていてもよい直鎖もしくは分岐鎖のC〜Cアルコキシ等が挙げられ、好ましくはメトキシ、3−メトキシプロポキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシ等が挙げられる。
【0018】
式2の光学活性のスルホキシドにおける*は、R配置またはS配置を表す。光学活性のスルホキシドの望ましい立体配置はその生物活性に応じて決定されるが、好ましくはS配置が挙げられる。
式2の光学活性のスルホキシドの好ましい例としては、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、パントプラゾールまたはレミノプラゾールの光学活性体が挙げられ、特に好ましくはオメプラゾールのS配置の光学活性体であるエソメプラゾールが挙げられる。
「式1のスルフィドの塩」および「式2の光学活性のスルホキシドの塩」としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類塩、アンモニウム塩等が挙げられる。具体的には、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。式2の光学活性のスルホキシドの塩としては、薬学上許容される塩が好ましい。
【0019】
2.式3の不斉配位子
における「ハロゲン」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、より好ましくは塩素原子、臭素原子が挙げられ、特に好ましくは塩素原子が挙げられる。
における「アルキルスルホニル」としては、例えば、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキルスルホニル等が挙げられ、好ましくは、メチルスルホニル、エチルスルホニル等が挙げられる。
における「アリールスルホニル」としては、例えば、C〜C10アリールスルホニル等が挙げられ、好ましくは、フェニルスルホニル等が挙げられる。
における「アルカノイル」としては、例えば、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルカノイル等が挙げられ、好ましくは、アセチル等が挙げられる。
における「アルコキシカルボニル」としては、例えば、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルコキシカルボニル等が挙げられ、好ましくは、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等が挙げられる。
【0020】
における「ハロゲンで置換されていてもよいアルキル」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子および臭素原子から選択される1または複数のハロゲンで置換されていてもよい直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル等が挙げられ、好ましくはパーフルオロアルキル等が挙げられ、より好ましくはトリフルオロメチル等が挙げられる。
における「ハロゲンで置換されていてもよいアルコキシ」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子および臭素原子から選択される1または複数のハロゲンで置換されていてもよい直鎖または分岐鎖のC〜Cアルコキシ等が挙げられ、好ましくは、トリフルオロメトキシ、ペンタフルオロエトキシ等が挙げられる。
の好ましい例としては、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ、メチルスルホニル、フェニルスルホニル、アセチル、メトキシカルボニル、ニトロ、トリフルオロメチル等が挙げられ、より好ましくは、水素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチルスルホニル、ニトロ、トリフルオロメチル等が挙げられ、さらに好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、特に好ましくは塩素原子が挙げられる。2つのRは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよく、好ましくは同一であるものが挙げられる。
【0021】
における「3級アルキル」としては、例えば、t−ブチル、t−ペンチル、t−ヘキシル等が挙げられ、好ましくは、t−ブチルが挙げられる。
式3の不斉配位子における**は、R配置またはS配置を表し、目的の光学活性のスルホキシドの立体に合わせて、不斉配位子のR配置またはS配置を使い分けることが出来る。好ましくはS配置のものが挙げられる。S配置の式3の不斉配位子を用いて不斉酸化を行うことで、S配置の式2の光学活性のスルホキシドを製造することができる。
特に好ましい不斉配位子としては、式4の不斉配位子が挙げられる。
【0022】
3.製造方法
本発明の製造方法は、例えば、式3の不斉配位子を鉄塩と反応させて式3の不斉配位子が配位した鉄錯体を形成させ、その後、式1のスルフィドまたはその塩を加え、過酸化水素を添加して反応させることで実施できる。
本発明の製造方法で用いられる「鉄塩」としては、反応系中で式3の不斉配位子で配位されるものであればいかなるものも使用することができる。鉄塩の鉄は、2価であっても3価であってもよい。具体的な鉄塩としては、例えば、鉄(III)アセチルアセトナート、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、酢酸鉄(II)、トリフルオロメタンスルホン酸鉄(II)、テトラフルオロホウ酸鉄(II)、過塩素酸鉄(II)、過塩素酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、鉄(II)ジ[ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド]等が挙げられる。好ましい鉄塩として、鉄(III)アセチルアセトナート等が挙げられる。
本発明の製造方法において、鉄塩の量としては、式1のスルフィドに対して、例えば約0.1〜約20モル%が挙げられ、好ましくは約2〜約15モル%が挙げられ、より好ましくは約5〜約12モル%が挙げられる。非引用文献1等に記載されているチタン触媒とは異なって、製造スケールが大きくなっても鉄塩の当量を増やす必要がない。
式3の不斉配位子の量としては、鉄塩に対して、約1〜約5当量が挙げられ、好ましくは約1.05〜約3当量が挙げられ、より好ましくは約1.1〜約2当量が挙げられ、さらに好ましくは約1.1〜約1.5当量が挙げられる。
式3の不斉配位子は、鉄塩と反応溶媒中で、例えば、約0〜約40℃等、好ましくは、約10〜約30℃で、例えば約10分〜約24時間、好ましくは約20分〜約5時間、さらに好ましくは約30分〜約1時間、混合することで、式3の不斉配位子が配位した鉄錯体を形成させることができる。
【0023】
本発明の製造方法で用いられる「過酸化水素」としては、例えば、市販されている30〜50%の過酸化水素水等を好適に用いることができる。また、例えば、過酸化水素が尿素に包接された尿素・過酸化水素(尿素-過酸化水素付加体,略称UHP)を用いることもできる。過酸化水素の量としては、式1のスルフィドに対して、例えば、約1.1〜約5当量が挙げられ、好ましくは約1.2〜約3当量が挙げられ、より好ましくは約1.5〜約2.5当量が挙げられ、さらに好ましくは約1.8〜約2.3当量が挙げられる。
「反応溶媒」としては、例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール、アセトニトリル等のニトリル、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド、およびこれらの溶媒とトルエン、アニソール等の芳香族炭化水素との混合溶媒、ならびにこれらの溶媒の混合物等が挙げられる。さらにこれらの溶媒は水との混合溶媒とすることもできる。好ましい反応溶媒としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル、メタノール、エタノール等のアルコールとトルエン等の芳香族炭化水素との混合溶媒等が挙げられ、より高いエナンチオ選択性を与える。
反応溶媒の量としては、式1のスルフィドに対して、例えば、約4〜約15重量倍の量が挙げられ、好ましくは約5〜約10重量倍の量が挙げられる。
【0024】
「反応温度」としては、例えば、約−80〜約30℃等が挙げられ、好ましくは約−30〜約15℃が挙げられ、より好ましくは約−15〜約5℃が挙げられる。15℃を超える温度では、エナンチオ選択性が低下する傾向にあるため、15℃よりも低い温度で反応することが好ましい。
「反応時間」としては、例えば、約1〜約50時間等が挙げられ、好ましくは、操作面から約2〜約24時間等が挙げられる。反応の進行を、HPLC等で追跡して最適の時点で反応を止めることが好ましい。スルフィドは酸化されて目的とするスルホキシドになるが、副反応としてそのスルホキシドがさらに酸化されてスルホンが生成する。S配置の式3の不斉配位子を用いた場合、S−スルホキシドがR−スルホキシドよりも優先して生成する。また、副反応であるスルホンへの酸化は、逆にR−スルホキシドがS−スルホキシド体よりも優先して進行する。従って、この2段階目の酸化によって、エナンチオ選択性が向上することにもなる。
【0025】
本発明の製造方法において、置換されていてもよい安息香酸またはその塩を添加して酸化反応を行うことで、エナンチオ選択性をより向上させることができる。また置換されていてもよい安息香酸またはその塩は、式3の不斉配位子が配位した鉄錯体を形成させた後に加えることが出来る。
「置換されていてもよい安息香酸」における置換基としては、例えば、フェニル等のアリール、メトキシ等のアルコキシ、ニトロ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン、メチル、エチル等のアルキル、ジメチルアミノ等のジアルキルアミノ等が挙げられる。好ましい置換基としては、ジメチルアミノ、メトキシ等が挙げられる。置換基は1または複数あってもよく、好ましい置換位置としては、4位が挙げられる。「置換されていてもよい安息香酸」の好ましい例としては、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−メトキシ安息香酸等が挙げられる。
「置換されていてもよい安息香酸」における塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等が挙げられる。エナンチオ選択性および反応系中の撹拌性の点で、リチウム塩が好ましい。
置換されていてもよい安息香酸またはその塩の量としては、鉄塩に対して、例えば約30〜約200モル%が挙げられ、好ましくは約50〜約150モル%が挙げられ、より好ましくは約80〜約120モル%が挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法において、酸化反応の開始直後は生成するスルホキシド体のエナンチオ選択性が若干低く、酸化反応の進行と共にエナンチオ選択性が向上する。本発明者らは、生成したスルホキシド体がその後の酸化反応に何等かの寄与をしているためにこの事象が起こっていると考えた。そこで、式1のスルフィドの酸化反応の前に、他のスルフィドまたは他のスルフィドに対応するスルホキシドもしくはスルホンを反応系に前もって添加して、その後に式1のスルフィドの酸化反応を行ったところ、エナンチオ選択性がより向上することを見出した。
【0027】
添加する「他のスルフィド」としては、例えば、式:R−S−R
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールを表す。]
で表されるスルフィド等が挙げられる。RおよびRにおいて、アルキルとしては、例えば、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル等が挙げられ、具体的にはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル等が挙げられる。置換アルキルにおける置換基としては、例えば、C〜C10アリール、5または6員ヘテロアリール等が挙げられ、具体的には、フェニル、ナフチル、ピリジル、ピリミジニル、イミダゾリル、フリル、オキサゾリル等が挙げられる。RおよびRにおいて、アリールとしては、例えば、C〜C10アリール等が挙げられ、具体的には、フェニル、ナフチル等が挙げられる。置換アリールにおける置換基としては、例えば、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ニトロ、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アリール、ヘテロアリール等が挙げられる。RおよびRにおいて、ヘテロアリールとしては、例えば、5または6員の単環性ヘテロアリール、二環性ヘテロアリール等が挙げられ、具体的にはピリジル、ピリミジニル、イミダゾリル、フリル、オキサゾリル、ベンズイミダゾリル、キノキサリル等が挙げられる。置換ヘテロアリールにおける置換基としては、例えば、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ニトロ、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アリール、ヘテロアリール等が挙げられる。
【0028】
他のスルフィドの具体例としては、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、チオアニソール、エチルフェニルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ベンジルフェニルスルフィド、ベンズイミダゾリルピリジルメチルスルフィド等が挙げられ、より好ましくはチオアニソール、エチルフェニルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ベンジルフェニルスルフィド、ベンズイミダゾリルピリジルメチルスルフィド等が挙げられ、特に好ましくは、ジフェニルスルフィド、ベンジルフェニルスルフィド、ベンズイミダゾリルピリジルメチルスルフィド等が挙げられる。嵩高いスルフィドを用いることでよりエナンチオ選択性がより向上する。他のスルフィドの量としては、式1のスルフィドに対して、例えば、約2〜約30モル%が挙げられ、好ましくは約5〜約15モル%が挙げられる。
他のスルフィドは、式3の不斉配位子が配位した鉄錯体を形成させた後に加えて、過酸化水素を加えた後に、式1のスルフィドを加えて反応を行うことが好ましい。
また、他のスルフィドを添加する代わりに、他のスルフィドに対応するスルホキシドもしくはスルホンを、式3の不斉配位子が配位した鉄錯体を形成させた後に加えることもできる。
【0029】
4.光学活性のプロトンポンプ阻害化合物の調製
酸化反応の終了後、還元剤の水溶液を添加することで過酸化水素を分解して酸化反応を止めることができる。還元剤としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩等が挙げられる。還元剤の水溶液を添加した際、用いていた鉄が水溶液に溶解する。上記の操作に続いて、生成物を有機層に抽出して、その後、常法に従って精製することができる。式2の光学活性のスルホキシドは、塩基性の水に溶解するため、pH8以上の塩基性水溶媒に溶解させた後、疎水性有機溶媒で洗浄し、その後、水層に酸を加えて、有機層に抽出を行うことができる。この操作で、副生物であるスルホン体および未反応のスルフィド体を簡便に除去することができる。その後、再結晶等によって精製することができる。また、式2の光学活性のスルホキシドは、必要に応じて、常法に従って塩にすることができる。
【0030】
5.光学活性のプロトンポンプ阻害化合物の使用
本発明の製造方法で製造される光学活性のプロトンポンプ阻害化合物は、公知のラセミ体と同様に、有効成分としてその適量を含有する医薬組成物を調製することができる。調製された医薬組成物は、胃の壁細胞のプロトンポンプに作用して胃酸の分泌を抑制する薬であり、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症またはZollinger-Ellison症候群の治療、および胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃またはヘリコバクター・ピロリ感染胃炎におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助の治療等に用いられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
以下、反応溶液に含まれる各成分をそれぞれ下記の略称を用いて表す。
[スルフィド体A] 5−メトキシ−2−〔〔(4−メトキシ−3,5−ジメチル−2−ピリジニル)メチル〕チオ〕−1H−ベンズイミダゾール(原料)
[S−スルホキシド体A] スルフィド体AのS−スルホキシド(エソメプラゾール)
[R−スルホキシド体A] スルフィド体AのR−スルホキシド
[スルホン体A] スルフィド体Aのスルホン
[S−ジクロロ不斉配位子] 2,4−ジクロロ−6−〔(E)−〔〔(1S)−1−(ヒドロキシメチル)−2,2−ジメチルプロピル〕イミノ〕メチル〕−フェノール(S配置を有する式4の不斉配位子)
【0032】
反応液に含まれる各成分の量を以下のHPLC分析条件1〜3を用いて測定した。
<HPLC分析条件1>
下記のパラメーターを用いて高速液体クロマトグラフィーを行った。
[カラム]ダイセルChiralpak IA(4.6mm×250mm,粒径5μm)
[カラム温度]25℃
[移動相]t−ブチルメチルエーテル:酢酸エチル:エタノール:ジエチルアミン:トリフルオロ酢酸=60:40:5:0.1:0.1
[流速]1.0mL/分
[検出波長]299nm
[測定時間]30分
[おおよその保持時間]
4−ジメチルアミノ安息香酸: 3.6分
S−ジクロロ不斉配位子 : 4.0分
スルホン体A : 5.5分
スルフィド体A : 6.6分
R−スルホキシド体A :10.3分
S−スルホキシド体A :14.6分
【0033】
<HPLC分析条件2>
下記のパラメーターを用いて高速液体クロマトグラフィーを行った。
[カラム]ZORBAX SB−C8(4.6mm×150mm,粒径3.5μm)
[カラム温度]25℃
[移動相]
移動相A:pH7.6リン酸ナトリウム水溶液;移動相B:アセトニトリル
(pH7.6リン酸ナトリウム水溶液は、リン酸水素二ナトリウム12水和物2.83gおよびリン酸二水素ナトリウム2水和物0.21gを水1000mLに溶かし、1体積%リン酸水溶液でpH7.6に調整した。)
移動相Aおよび移動相Bの混合比を以下のように変えて濃度勾配制御した。
【表1】
[流速]1.0mL/分
[検出波長]280nm
[測定時間]45分
[おおよその保持時間]
(1)ランソプラゾール
スルホン体 :20.4分
スルホキシド体 :22.9分
スルフィド体 :30.5分
(2)ラベプラゾール
スルホン体 :13.7分
スルホキシド体 :18.3分
スルフィド体 :27.9分
(3)パントプラゾール
スルホン体 : 8.6分
スルホキシド体 :17.5分
スルフィド体 :28.2分
【0034】
<HPLC分析条件3>
下記のパラメーターを用いて高速液体クロマトグラフィーを行った。
[カラム]ダイセルChiralpak IC(4.6mm×250mm,粒径5μm)
[カラム温度]40℃
[移動相]pH6.5の5Mリン酸二水素カリウム水溶液:メタノール:テトラヒドロフラン=37:60:3
(pH6.5の5Mリン酸二水素カリウム水溶液は、リン酸二水素カリウム0.7gを水1000mLに溶かし、トリエチルアミンでpH6.5に調整した。)
[流速]1.0mL/分
[検出波長]300nm
[測定時間]30分
[おおよその保持時間]
(1)オメプラゾール
S−スルホキシド体A :12.5分
R−スルホキシド体A :15.7分
(2)ランソプラゾール
S−スルホキシド体 : 8.8分
R−スルホキシド体 :10.6分
(3)ラベプラゾール
S−スルホキシド体 :16.2分
R−スルホキシド体 :20.9分
(4)パントプラゾール
S−スルホキシド体 : 7.8分
R−スルホキシド体 : 8.8分
【0035】
実施例1
S−スルホキシド体A(エソメプラゾール)の製造
79.3mg(273μmol)のS−ジクロロ不斉配位子および32.2mg(91.1μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートを0.6mLの酢酸エチルに25℃で溶解し、30分以上撹拌した。混合溶液に7.8mg(45.5μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩および0.3mLの酢酸エチルを加え、懸濁液を30分以上撹拌した。0.3g(911μmol)のスルフィド体Aおよび0.9mLの酢酸エチルを加え、懸濁液を30分以上撹拌した。混合物を−5℃まで冷却した後、186μL(1.82mmol)の30%過酸化水素水溶液を2分以上かけて滴下した。4.5時間後、反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 88%;スルホン体A 11%;スルフィド体A 0%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 98%ee
【0036】
実施例2〜8
反応溶媒の検討
実施例1において、酢酸エチルを表に記載の反応溶媒に代えて不斉酸化反応を行った。表に記載の反応時点における反応混合物をHPLC分析条件1で分析した結果を表に記載する。
【表2】
反応溶媒によって反応速度が異なっていたため、反応混合物の分析時間を変更した。上記結果から分かる通り、いずれの反応溶媒でも概ね良好なエナンチオ選択性を与えた。なかでも酢酸エチルおよびトルエン/メタノールが極めて高いエナンチオ選択性を示した。
【0037】
実施例9〜12
反応温度の検討
実施例2において、4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩の代わりに4−ジメチルアミノ安息香酸を用いて、反応温度を表に記載の温度にして不斉酸化反応を行った。表に記載の反応時点における反応混合物をHPLC分析条件1で分析した結果を表に記載する。
【表3】
反応温度によって反応速度が異なっていたため、それに合わせて反応混合物の分析時間を変更した。上記結果から分かる通り、良好なエナンチオ選択性を示し、中でも5℃以下では90%以上の選択性であった。

【0038】
実施例13
酸化剤として尿素-過酸化水素を用いたS−スルホキシド体(エソメプラゾール)の製造
実施例1において、反応溶媒として酢酸エチルの代わりに酢酸エチルと水の混合溶媒(10:1(v/v))を用い、酸化剤として30%過酸化水素水溶液の代わりに固体の尿素・過酸化水素(171mg)を用いて不斉酸化反応を行った。6時間後、反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 77%;スルホン体A 6%;スルフィド体A 17%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 87%ee
【0039】
実施例14
S−スルホキシド体A(エソメプラゾール)の製造
52.9mg(182μmol)のS−ジクロロ不斉配位子および32.2mg(91.1μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートを0.6mLの酢酸エチルに25℃で溶解し、30分以上撹拌した。混合溶液に7.8mg(45.5μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩および0.3mLの酢酸エチルを加え、懸濁液を30分以上撹拌した。0.3g(911μmol)のスルフィド体Aおよび0.9mLの酢酸エチルを加え、懸濁液を30分以上撹拌した。混合物を−5℃まで冷却した後、186μL(1.82mmol)の30%過酸化水素水溶液を2分以上かけて滴下した。4.5時間後、反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 83%;スルホン体A 15%;スルフィド体A 2%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 97%ee
混合液に2.8mLの8%炭酸水素ナトリウム水溶液,1.4gのチオ硫酸ナトリウム5水和物および1.4mLの水を加えた後、25℃まで加熱し撹拌した。水相を除去した後、有機相を1mLの8%炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄した。有機相をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 86%;スルホン体A 14%;スルフィド体A 0%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 98%ee
その後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルムとメタノールの混合溶媒)による後処理を行って、0.3gの表題化合物(純度87%;98%ee)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.21 (1H, s), 7.58 (1H, br s), 6.96 (2H, br m), 4.75 (2H, q, -SOCH2-), 3.84 (3H, s), 3.69 (3H, s), 2.23 (3H, s), 2.21 (3H, s)
【0040】
実施例15
ジブチルスルフィドの添加
実施例1において、スルフィド体Aを加える前に、16μLのジブチルスルフィド(91.1μmol)を加え、混合物を−5℃まで冷却した後、186μL(1.82mmol)の30%過酸化水素水溶液を滴下し、混合物を30分撹拌した後、0.3g(911μmol)のスルフィド体Aおよび0.9mLの酢酸エチルを加えた。16.5時間後、少量の反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 88%;スルホン体A 8%;スルフィド体A 4%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 96%ee
【0041】
実施例16
ジフェニルスルフィドの添加
実施例15において、添加剤としてジブチルスルフィドの代わりにジフェニルスルフィドを用いて実験を行った。16.5時間後、少量の反応混合物をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 88%;スルホン体A 11%;スルフィド体A 1%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 99.5%ee
反応混合液に3.7mLの8%炭酸水素ナトリウム水溶液、1.4gのチオ硫酸ナトリウム5水和物および1.4mLの水を加えた後、25℃まで加熱し撹拌した。水相を除去した後、有機相を1mLの8%炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄し、生成物を有機相から1mLの1M水酸化ナトリウム水溶液および1mLの0.75M水酸化ナトリウム水溶液で2回抽出した。合した水相を酢酸で中和し、2mLの4−メチル−2−ペンタノンで2回抽出した。合した有機相をHPLC分析条件1で分析した。
<含有率> スルホキシド体A 89%;スルホン体A 11%;スルフィド体A 0%
<スルホキシド体Aのエナンチオマー過剰率> 99.7%ee
【0042】
実施例17
S−ランソプラゾールの製造
234mg(808μmol)のS−ジクロロ不斉配位子、94.9mg(269μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートおよび23.2mg(136μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩を7.5mLの酢酸エチルに25℃で懸濁させ、30分以上撹拌した。1.00g(2.69mmol)のランソプラゾールのスルフィド体の一水和物および7.5mLの酢酸エチルを加えた。混合物を−5℃まで毎分1℃の速度で冷却した後、550μL(5.39μmol)の30%過酸化水素水溶液を2分以上かけて滴下した。20.5時間後、反応混合物をHPLC分析条件2およびHPLC分析条件3で分析した。
<含有率>スルホキシド体 87%;スルホン体 12%;スルフィド体 1%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 98%ee
混合溶液に5mLの飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液の混合溶媒を加えた後、5℃まで加熱し撹拌した。水層を除去した後、有機層を減圧濃縮した。
<含有率>スルホキシド体 86%;スルホン体 13%;スルフィド体 1%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 98%ee
シリカカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチルとメタノールの混合溶媒)による後処理を行って、0.86gの標題化合物(純度98%;97%ee)を得た。
1H-NMR (400 MHz, DMSO):δ 13.6 (1H, s), 8.29 (1H, d), 7.65(1H, br s), 7.31(2H, m), 7.10 (1H, d), 4.92 (2H, q), 4.80 (2H, q, -SOCH2-) , 2.18 (3H, s)
LRMS : [M + Na] + 計算値 392.07,実測値 392.40
なお、得られた光学活性のランソプラゾールのスルホキシドの立体は、オメプラゾールとパントプラゾールの挙動およびHPLCの保持時間からS配置と推定した。
【0043】
実施例18
S−ラベプラゾールの製造
253mg(874μmol)のS−ジクロロ不斉配位子、103mg(291μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートおよび25.2mg(147μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩を5mLの酢酸エチルに25℃で懸濁させ、30分以上撹拌した。1.00g(2.91mmol)のラベプラゾールのスルフィド体および5mLの酢酸エチルを加えた。混合物を−5℃まで毎分1℃の速度で冷却した後、595μL(5.82mmol)の30%過酸化水素水溶液を2分以上かけて滴下した。21.5時間後、反応混合物をHPLC分析条件2およびHPLC分析条件3で分析した。
<含有率>スルホキシド体 82%;スルホン体 17%;スルフィド体 1%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 97%ee
混合溶液に5mLの飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液の混合溶媒を加えた後、5℃まで加熱し撹拌した。水層を除去した後、有機層を減圧濃縮した。
<含有率>スルホキシド体 82%;スルホン体 18%;スルフィド体 0%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 97%ee
シリカカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチルとメタノールの混合溶媒)による後処理を行って、0.73gの標題化合物(純度97%;96%ee)を得た。
1H-NMR (400 MHz, DMSO):δ 13.5 (1H, s), 8.21 (1H, d), 7.65(1H, br s), 7.31(2H, m), 6.96 (1H, d), 4.75 (2H, q, -SOCH2-), 4,10 (2H, d), 3.48 (2H, t), 3.25 (3H, s), 2.14 (3H, s), 1.99 (2H, m)
LRMS:[M+Na] 計算値 382.12,実測値 382.44
なお、得られた光学活性のラベプラゾールのスルホキシドの立体は、オメプラゾールとパントプラゾールの挙動およびHPLCの保持時間から、S配置と推定した。
【0044】
実施例19
S−パントプラゾールの製造
237mg(815μmol)のS−ジクロロ不斉配位子、95.8mg(271μmol)の鉄(III)アセチルアセトナートおよび23.4mg(137μmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩を5mLの酢酸エチルに25℃で懸濁させ、30分以上撹拌した。1.00g(2.72mmol)のパントプラゾールのスルフィド体および5mLの酢酸エチルを加えた。混合物を−8 ℃まで毎分1℃の速度で冷却した後、556μL(5.44mmol)の30%過酸化水素水溶液を1分以上かけて滴下した。44時間後、反応混合物をHPLC分析条件2およびHPLC分析条件3で分析した。
<含有率>スルホキシド体 75%;スルホン体 13%;スルフィド体 12%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 83%ee
混合溶液に5mLの飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液の混合溶媒を加えた後、10℃まで加熱し撹拌した。水層を除去した後、有機層を減圧濃縮した。
<含有率>スルホキシド体 75%;スルホン体 13%;スルフィド体 12%
<スルホキシド体のエナンチオマー過剰率> 83%ee
シリカカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチルとメタノールの混合溶媒)による後処理を行って、0.74gの標題化合物(純度95.13%;82%ee)を得た。
1H-NMR (400 MHz, DMSO):δ 13.8 (1H, s), 8.15 (1H, d), 7.72 (1H, d), 7.44 (1H, s), 7.26 (1H, t), 7.16 (1H, dd), 7.11 (1H, d), 4.69 (2H, q, -SOCH2-) , 3.90 (3H, s), 3.77 (3H, s)
LRMS:[M+Na] 計算値 406.06,実測値 406.36
旋光度[α]25:−79.4(c 0.3,MeOH)
S体のパントプラゾール(96%ee)の旋光度[α]25は、−95.5(c 0.3,MeOH)であることが、Tetrahedron : Asymmetry, 2012, 23, 457-460に記載されている。
【0045】
実施例17〜19および実施例1の反応の分析結果を表4にまとめる。
【表4】
以上のように、本発明の製造方法によって、種々の光学活性のプロトンポンプ阻害化合物を高い収率およびエナンチオ選択性で、製造することができることが分かる。
【0046】
実施例20
S−スルホキシド体A(エソメプラゾール)の製造スケールの変更
非特許文献1等に記載の通り、チタンを触媒とする場合、大スケールでは触媒量を増やす必要があるとの問題があった。そこで、本願発明の製造方法で、原料のスルフィド体Aを1g、20gおよび100g用いる実験を行った。以下に100g用いた場合の反応条件を記載するが、1gおよび20g用いた場合はそれに対応する量の試薬を用いて同様に反応を行った。
7.93g(27.3mmol)のS−ジクロロ不斉配位子、8.04g(22.77mmol)の鉄(III)アセチルアセトナートおよび3.9g(22.77mmol)の4−ジメチルアミノ安息香酸リチウム塩を300mLの酢酸エチルに室温で懸濁させ、30分以上撹拌した。この混合物に100g(303.56mmol)のスルフィド体Aおよび500mLの酢酸エチルを加えた。混合物を−5℃まで冷却した後、68.82g(607.12mmol)の30%過酸化水素水溶液を滴下した。8時間後、反応混合物をHPLC分析条件3で分析した。
以下に、これらのスケールの異なる反応の分析結果を表5に記す。
【表5】
以上の通り、本発明の製造方法では良い再現性が見られ、スケールを上げても、高い収率およびエナンチオ選択性を維持することができ、触媒量を増やす必要がないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法によって、高純度の光学活性のプロトンポンプ阻害化合物を高い収率およびエナンチオ選択性で、安全に安価に製造することができる。