特許第6548351号(P6548351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6548351食品類を添加したカビによる表面熟成軟質チーズ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548351
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】食品類を添加したカビによる表面熟成軟質チーズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/068 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   A23C19/068
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-167673(P2013-167673)
(22)【出願日】2013年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-35962(P2015-35962A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年7月4日
【審判番号】不服2018-1800(P2018-1800/J1)
【審判請求日】2018年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 友美
(72)【発明者】
【氏名】冠木 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】水谷 真也
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 山崎 勝司
【審判官】 宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−267694(JP,A)
【文献】 特公昭48−3387(JP,B1)
【文献】 特開平2−222645(JP,A)
【文献】 特開2008−99675(JP,A)
【文献】 特開2005−176725(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/047801(WO,A1)
【文献】 月刊フードケミカル、2008年、第24巻9号、p.25−28
【文献】 食品と科学、2000年、第42巻9号、p.85−98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品類を挟んだカビによる表面熟成軟質チーズであって、前記食品類が、当該チーズ の製造に用いる微生物に資化されない甘味料を含有することを特徴とするカビによる表 面熟成軟質チーズ。
【請求項2】
前記食品類が、蜂蜜、ジャム類、果実、フルーツプレパレーション、メープルシュガ ー、及びこれらの調製品から選択されるいずれか1以上に、カビによる表面熟成軟質チ ーズの製造に用いる微生物に資化されない甘味料を添加したものであることを特徴とす る請求項1記載の食品類を挟んだカビによる表面熟成軟質チーズ。
【請求項3】
一次熟成途中のチーズカードに食品類を添加する添加工程を含む白カビ系チーズの製 造方法であって、前記食品類として、カビによる表面熟成軟質チーズの製造に用いる微 生物に資化されない甘味料を含有する食品類を用いることを特徴とする食品類を挟んだ カビによる表面熟成軟質チーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品類を添加したカビによる表面熟成軟質チーズ及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、甘味系の食品類を添加した、カビによる表面熟成軟質チーズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カマンベールチーズやブリーチーズ等の白カビ系チーズに代表されるカビによる表面熟成軟質チーズは、食べやすい大きさにカットしてそのまま食されるほか、トリュフを間に挟んだり、胡椒と併せたりと様々な食べ方が提案されている。しかしながら、これらは各家庭で調理するためのレシピであり、商品として流通させることを目的としたものはほとんどなく、市販品としては、風味に特徴を持たせることを目的として香辛料を挟んだ製品が販売されている程度である。
これは、風味物質を添加した白カビ系チーズを流通させるには、加熱殺菌処理を行う必要があるところ、単に食品類を間に挟んだだけでは、チーズの中身部分が加熱殺菌によって流出してしまうといった問題があるためである。
この点を解決する方法として、特許文献1には、香辛料等の食品類を熟成途中でカードを水平にカット等してカード間に挟み込み、その後の熟成によって上下のカードが結着して食品類がチーズ内に内包されることで、加熱殺菌時に食品類の漏洩やチーズの型くずれのないホールタイプの白カビ系チーズを製造する方法が報告されている。また、特許文献2には、熟成過程のチーズカード内部にノズルで風味物質を注入し、その後熟成を行う白カビ系チーズが開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1や2に記載の方法では、熟成途中の白カビ系チーズに食品類を挟んだり、注入したりするため、食品類の種類によっては、白カビ系チーズの熟成に伴って添加した食品類の風味が失われてしまうことが問題となっていた。例えば、蜂蜜、ジャム、果物などの食品類を添加した場合、熟成期間中に、チーズ中に含まれる白カビや乳酸菌が添加した食品類に含まれる糖質を資化するため、熟成後の白カビ系チーズにおいては、添加した食品類の風味が失われ、商品としての価値を失うことが問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−31372号公報
【特許文献2】特開2007−267694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の状況を鑑み、本発明は、添加した食品類の風味が十分に発現した白カビ系チーズ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の構成からなる。
(1)食品類を添加したカビによる表面熟成軟質チーズであって、前記食品類が、当該チーズの製造に用いる微生物に資化されない甘味料を含有することを特徴とするカビによる表面熟成軟質チーズ。
(2)前記食品類が、蜂蜜、ジャム類、果実、フルーツプレパレーション、メープルシュガー、及びこれらの調製品から選択されるいずれか1以上に、カビによる表面熟成軟質チーズの製造に用いる微生物に資化されない甘味料を添加したものであることを特徴とする(1)記載のカビによる表面熟成軟質チーズ。
(3)前記添加が、上下のチーズの間に食品類を挟むことによるものであることを特徴とする(1)または(2)記載のカビによる表面熟成軟質チーズ。
(4)一次熟成途中のチーズカードに食品類を添加する添加工程を含む白カビ系チーズの製造方法であって、前記食品類として、カビによる表面熟成軟質チーズの製造に用いる微生物に資化されない甘味料を含有する食品類を用いることを特徴とするカビによる表面熟成軟質チーズの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来風味劣化が生じるためにカビによる表面熟成軟質チーズに添加することが難しかった食品類についても、添加することができ、かつ、熟成後のカビによる表面熟成軟質チーズにおいても、添加した食品類の風味が良好に維持されたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、食品類を添加したカビによる表面熟成軟質チーズに関するものである。本発明のカビによる表面熟成軟質チーズとしては、主に白カビ系チーズを意味する。その種類は、一般的に白カビ系チーズに分類されるものを全て包含し、特に限定されるものではないが、代表的な例としては、カマンベールやブリー、ブルソー、カプリス・デ・デュー、シュプレムなどが挙げられる。以下、本発明についてはカマンベールの製造方法の一例に沿って説明するが、白カビ系チーズの種類によって適宜応用すればよい。
【0009】
本発明の白カビ系チーズの原料とする原料乳としては、生乳(原乳)のほか、濃縮乳や、脱脂乳にバターやクリーム等乳脂肪を多く含む製品を混合したもの、乳タンパク質濃縮物などの乳素材を適宜配合・溶解したものなど、チーズ製造に用いられるものであればいずれも使用可能であり、これらを適宜混合して用いてもよい。
【0010】
原料乳は、脂肪の比率が一定となるように調製し、殺菌した後、乳酸菌スターター、カビスターターを添加する。乳酸菌スターターとしては、ラクトコッカス・ラクチス、ラクトコッカス・クレモリスなどの混合スターターなどが用いられ、カビスターターとしてはペニシリウム・キャンディダムなどが用いられる。なお、カビスターターは原料乳に添加しても良いし、加塩後にチーズ表面に噴霧しても良い。
【0011】
乳酸菌スターターを添加した原料乳のpHが適当な範囲まで低下した段階で、レンネットを添加して乳を凝固させ、乳が凝固したら凝固した乳(以下「チーズカード」という)を切断し、ホエイを排出させる。チーズカードを円筒形の型(モールド)に入れてモールドの反転を繰り返し、さらにホエイを排除する。
次に、チーズカードをモールドから取り出し、加塩を行う。加塩は乾塩をチーズカード表面に直接振りかけても良いし、塩水にチーズカードを浸漬させても良い。カビスターターを原料乳に添加しない場合は、加塩後にカビスターターの噴霧を行う。
これらの工程を経た後、温度を12℃程度、湿度を95%程度に調整してチーズカードを5〜12日程度一次熟成させる。
【0012】
一次熟成を開始し、チーズカードが適当な硬さを有した段階で、円筒形のチーズカードを円筒の中心線に略垂直な平面に沿って半分に切断し、切断面に食品類を添加する。チーズカードが適当な硬さを有する段階とは、チーズカードを切断しても形が崩れない程度の硬さを有していればよく、表面に白カビが生育し始めている段階であれば通常は問題ない。なお、あらかじめ適当な大きさのチーズカードを複数用意し、チーズカードを切断することなく、複数のチーズカードの間に食品類を添加しても良いが、この場合は食品類を挟んだ面にも白カビが生育する可能性があるため、適宜考慮する必要がある。
【0013】
ここで、本発明の白カビ系チーズに添加する食品類としては、白カビ系チーズの製造に用いる微生物に資化されない甘味料をそのまま用いても良いし、あるいは、レーズン・あんず・バナナ・パイナップル・マンゴー・イチゴ・ブルーベリーなどの果物類や、餡、はちみつ、ジャム、チョコレート、クリーム、氷砂糖、ザラメ、メープルシュガー等の甘味系食品などに白カビ系チーズの製造に用いる微生物に資化されない甘味料を適宜含有させて用いても良い。
これらの食品類は、1種類で用いることもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。食品類の形態としては粉末状、個片状、顆粒状、フレーク状、カット品など形態は特に限定されず、目的に合わせて適宜選択することができる。
【0014】
本発明で用いられる甘味料としては、白カビ系チーズの製造に用いる微生物に資化されないものであれば特に制限はないが、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテームといった人工甘味料や、ソルビトール、エルスリトール、キシリトールといった糖アルコール等を例示することができる。なお、「白カビ系チーズの製造に用いる微生物に資化されない」とは、少なくとも白カビチーズの熟成期間中に完全に分解されないものであることを意味する。
【0015】
これらの食品類をチーズカードへ添加する量については、例えばチーズカード100g当たり0.05〜10%程度用いることができるが、それぞれの風味や食感に応じて適宜決定することができる。
【0016】
白カビ系チーズは、上記の食品類を添加した後、切断した一方のチーズカードを元に戻し、一次熟成を継続する。一次熟成以降については、通常の白カビ系チーズの製造方法に従えばよく、例えば一次熟成終了後に、包装工程、二次熟成工程を経て白カビ系チーズを完成させればよい。
なお、二次熟成工程終了後にレトルト殺菌工程を経てもよく、また、一次熟成の開始以降のタイミングで、適宜ポーションカット等の工程を実施しても良い。
【0017】
以下に実施例を記載し、本発明を詳細に説明するが、実施例は本発明の態様の1つであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
表面に白カビが生育するまで熟成させた成型されたチーズカード100gを、ピアノ線を用いて上下に切断した後、下側カードの切断面に、あらかじめアスパルテームを用いて製造したイチゴジャムを5g塗布した。その後、上側カードを元に戻し、熟成を継続した。一次熟成終了後、チーズカード全体を包装し、二次熟成を行った。二次熟成を完了させた白カビチーズは、レトルト殺菌機において加熱殺菌し、アスパルテーム含有イチゴジャムを挟んだカマンベールチーズ製品(実施例品1)を得た。なお、ショ糖を用いて製造したイチゴジャムを挟んだカマンベールチーズを、実施例品1と同様の方法により製造した(比較品1)。
【実施例2】
【0019】
表面に白カビが生育するまで熟成させた成型されたチーズカード100gを、ピアノ線を用いて上下に切断した後、下側カードの切断面にあらかじめ0.02%のスクラロースを混合したメープルシロップを5g塗布した。その後、上側カードを元に戻し、熟成を継続した。一次熟成終了後、チーズカード全体を包装し、二次熟成を行った。二次熟成を完了させた白カビチーズは、レトルト殺菌機において加熱殺菌し、スクラロースを含有するメープルシロップを挟んだカマンベールチーズ製品(実施例品2)を得た。なお、通常のメープルシロップを直接塗布したカマンベールチーズを、実施例品2と同様の方法により製造した(比較品2)。
【実施例3】
【0020】
表面に白カビが生育するまで熟成させた成型されたチーズカード100gを、ピアノ線を用いて上下に切断した後、下側カードの切断面に、サッカリンを混合した粉末リンゴ香料を1g塗布した。その後、上側カードを元に戻し、熟成を継続した。一次熟成終了後、チーズカード全体を包装し、二次熟成を行った。二次熟成を完了させた白カビチーズは、レトルト殺菌機において加熱殺菌し、リンゴ風味のカマンベールチーズ製品(実施例品3)を得た。なお、甘味料を含まないリンゴ香料を挟んだカマンベールチーズを、実施例品3と同様の方法により製造した(比較品3)。
【実施例4】
【0021】
表面に白カビが生育するまで熟成させた成型されたチーズカード100gを、ピアノ線を用いて上下に切断した後、下側カードの切断面に、キシリトールを0.5g散布した。その後、上側カードを元に戻し、熟成を継続した。一次熟成終了後、チーズカード全体を包装し、二次熟成を行った。二次熟成を完了させた白カビチーズは、レトルト殺菌機において加熱殺菌し、キシリトールを含有するカマンベールチーズ製品(実施例品4)を得た。なお、キシリトールの代わりにショ糖を挟んだカマンベールチーズを、実施例品4と同様の方法により製造した(比較品4)。
【0022】
[試験例1]
(風味の官能評価)
訓練をうけた専門パネラー5人で実施例品1〜4及び比較品1〜4を試食し、5段階(5点:良い、1点:悪い)で評価を実施した。得られたパネラー5人の評価の平均値を官能評価点として算出した。得られた結果を表2に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
試験例2の結果、微生物に資化されない甘味料を含有する食品類を用いた実施例品1、2、3、4はいずれも甘味が維持され、カマンベールチーズの風味と合わさって非常に風味の良いものが得られた。これに対し、微生物に資化されない甘味料を含有しない比較品1、2、3、4は、いずれも甘みが失われており、風味がよくなかった。