(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548481
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】洗浄装置、洗浄方法、洗浄液製造装置および洗浄液製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
H01L21/304 643A
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-130062(P2015-130062)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-17099(P2017-17099A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 祐士
(72)【発明者】
【氏名】大保 忠司
(72)【発明者】
【氏名】高東 智佳子
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 聡美
(72)【発明者】
【氏名】嶋 昇平
【審査官】
安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−315331(JP,A)
【文献】
特開平11−201605(JP,A)
【文献】
特開2012−077919(JP,A)
【文献】
特開2012−040084(JP,A)
【文献】
特開2007−054813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304−308
H01L 21/768
B08B 3/00−14
C23F 11/00−18
C23F 15/00
C11D 3/02
C11D 7/02−20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層が形成された基板を洗浄する洗浄装置であって、
前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを洗浄液に供給する金属イオン供給部と、
前記金属イオンが供給された洗浄液を用いて前記基板を洗浄する洗浄ユニットと、を備え、
前記金属イオン供給部は、飽和濃度以上の前記金属イオンを前記洗浄液に供給して、該洗浄液が水酸化物イオン以外の陰イオンを含まずかつ前記金属イオンを含んでなるように構成された、洗浄装置。
【請求項2】
金属層が形成された基板を洗浄する洗浄装置であって、
前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを洗浄液に供給する金属イオン供給部と、
前記金属イオンが供給された洗浄液を用いて前記基板を洗浄する洗浄ユニットと、
バルブを介して前記金属イオン供給部と接続されたタンクと、前記タンクに不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、を有し、前記金属イオン供給部に前記洗浄液を複数回通す循環システムと、を備え、
前記洗浄液は、水酸化物イオン以外の陰イオンを含まない、洗浄装置。
【請求項3】
前記金属イオン供給部は、前記洗浄液が通る前記金属製の配管である、請求項1または2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記配管は、曲管、並走する複数の管または複数の板で区切られた流路である、請求項3に記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記金属イオン供給部は、前記洗浄液が通るカラムであり、前記カラムの中には前記金属および/またはその酸化物が充填されている、請求項1乃至4のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記金属イオンが供給された洗浄液における前記金属イオンの濃度を測定する金属イオン濃度測定部を備える、請求項1乃至5のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項7】
前記金属は銅である、請求項1乃至6のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項8】
それぞれ異なる金属イオンを供給する複数の金属イオン供給部を備える、請求項1乃至7のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項9】
銅層が形成された基板を洗浄する洗浄装置であって、
銅溶出源が設けられ、銅および/または酸化銅に由来する銅イオンを洗浄液に供給する銅イオン供給部と、
前記銅イオンが供給された洗浄液を用いて前記基板を洗浄する洗浄ユニットと、
前記銅イオン供給部に酸を供給して、前記銅溶出源に形成された酸化銅を還元するためのリフレッシュ部と、
前記銅イオン供給部と前記洗浄ユニットとを結ぶ配管に設けられたバルブと、を備え、
前記洗浄液は、水酸化物イオン以外の陰イオンを含まない、洗浄装置。
【請求項10】
前記洗浄液の温度を上昇させる温度調整部を備える、請求項1乃至7のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項11】
金属層が形成された基板を洗浄する洗浄方法であって、
前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンであって飽和濃度以上の金属イオンを洗浄液に供給して、該洗浄液が水酸化物イオン以外の陰イオンを含まずかつ前記金属イオンを含んでなるようにする工程と、
前記金属イオンが供給された洗浄液を用いて前記基板を洗浄する工程と、を備える洗浄方法。
【請求項12】
金属層が形成された基板を洗浄する洗浄ユニットで用いられる洗浄液に、前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンであって飽和濃度以上の金属イオンを供給して、該洗浄液が水酸化物イオン以外の陰イオンを含まずかつ前記金属イオンを含んでなるようにする金属イオン供給部を備える洗浄液製造装置。
【請求項13】
金属層が形成された基板を洗浄する洗浄ユニットで用いられる洗浄液に、前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンであって飽和濃度以上の金属イオンを供給して、該洗浄液が水酸化物イオン以外の陰イオンを含まずかつ前記金属イオンを含んでなるようにする工程を備える洗浄液製造方法。
【請求項14】
金属層が形成された基板を洗浄する洗浄ユニットで用いられる洗浄液に、前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを供給して、該洗浄液が水酸化物イオン以外の陰イオンを含まずかつ前記金属イオンを含んでなるようにする金属イオン供給部と、
バルブを介して前記金属イオン供給部と接続されたタンクと、前記タンクに不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、を有し、前記金属イオン供給部に前記洗浄液を複数回通す循環システムと、を備える洗浄液製造装置。
【請求項15】
金属層が形成された基板を洗浄する洗浄ユニットで用いられる洗浄液を製造する方法であって、
金属イオン供給部から、前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを洗浄液に供給して、該洗浄液が水酸化物イオン以外の陰イオンを含まずかつ前記金属イオンを含んでなるようにする工程と、
バルブを介して前記金属イオン供給部と接続されたタンクに不活性ガスを供給する工程と、
前記金属イオン供給部に前記洗浄液を複数回通す工程と、を備える洗浄液製造方法。
【請求項16】
銅層が形成された基板を洗浄する洗浄ユニットで用いられる洗浄液を製造する装置であって、
銅溶出源が設けられ、銅および/または酸化銅に由来する銅イオンを洗浄液に供給して、該洗浄液が水酸化物イオン以外の陰イオンを含まずかつ前記銅イオンを含んでなるようにする銅イオン供給部と、
前記銅イオン供給部に酸を供給して、前記銅溶出源に形成された酸化銅を還元するためのリフレッシュ部と、
前記銅イオン供給部と前記洗浄ユニットとを結ぶ配管に設けられたバルブと、を備える、洗浄液製造装置。
【請求項17】
銅層が形成された基板を洗浄する洗浄ユニットで用いられる洗浄液を製造する方法であって
バルブが設けられた配管によって前記洗浄ユニットと結ばれ、銅溶出源が設けられた銅イオン供給部から、銅および/または酸化銅に由来する金属イオンを洗浄液に供給することと、
前記銅イオン供給部に酸を供給して、前記銅溶出源に形成された酸化銅を還元することと、を備え、
前記洗浄液は、水酸化物イオン以外の陰イオンを含まない、洗浄液製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を洗浄する洗浄装置および洗浄方法、ならびに、基板を洗浄するための洗浄液を製造する洗浄液製造装置および洗浄液製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体装置は、高性能化および小型化のために集積度が高くなってきており、配線サイズはナノメートルサイズに達するまで微細化されている。この配線パターンを形成するために、予め、アルミナやシリカなどの微粒子を含む研磨スラリを用いて半導体ウエハの表面を研磨するCMP(Chemical Mechanical Polishing)工程がある。
【0003】
このCMP工程の後、使用された研磨スラリや、研磨により発生したウエハからの研磨カスなどの不純物がウエハ上に残留する。これらの不純物がウエハ上に残留したままでは、配線間の短絡などの不良を引き起こし製造歩留り低下の原因となるため、不純物を除去する必要がある。配線の微細化に伴って、除去されるべき不純物のサイズもより小さくなる。これらの不純物を洗い流すために、種々の洗浄液が用いられている。
【0004】
一方で、不純物を除去できたとしても、洗浄液によって、平坦化されたウエハ表面に露出された銅などの金属配線が腐食することは避けなければならない。すなわち、洗浄液には、洗浄性能のみならず、配線に対する防食性能も要求される。
【0005】
洗浄液として、例えばシュウ酸などの有機酸に界面活性剤を添加したもの(特許文献1)、トリアルカノールアミンすなわちTEA水溶液(特許文献2)が使用されている。しかしながら、これらの洗浄液は洗浄性能と防食性能について一長一短であり、洗浄と防食の両方の要件を満たしているとは言い難い。
【0006】
そこで、銅イオンを含有する水溶液でウエハの洗浄を行うことも提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−7071号公報
【特許文献2】特開平11−74243号公報
【特許文献3】特開平5−315331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3には、どのようにして銅イオンを含有する水溶液を生成するのかの開示はない。一般的には、銅イオンを含む塩を溶解した溶液を純水に添加することが考えられる。
【0009】
しかしながら、塩を添加する場合、対応する陰イオン成分が不純物となり、陰イオン成分がウエハに悪影響を及ぼすことが考えられる。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、金属配線などの金属層が形成された基板を、金属層の腐食を抑えて好適に洗浄できる洗浄装置および洗浄方法、ならびに、そのような基板を洗浄するための洗浄液を製造する洗浄液製造装置および洗浄液製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、金属層が形成された基板を洗浄する洗浄装置であって、前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを洗浄液に供給する金属イオン供給部と、前記金属イオンが供給された洗浄液を用いて前記基板を洗浄する洗浄ユニットと、を備える洗浄装置が提供される。
なお、ここでの「層」とは配線やバリア層などを含むものとする。
【0012】
この構成によれば、金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを洗浄液に供給するため、金属層の腐食を抑えつつ金属層が形成された基板を好適に洗浄できる。
【0013】
望ましくは、前記洗浄液は、水酸化物イオン以外の陰イオンを含まない。
この構成によれば、水酸化物イオン以外の陰イオンからの悪影響を受けることなく、基板を洗浄できる。
【0014】
望ましくは、洗浄装置は、前記洗浄液の温度を上昇させる温度調整部を備える。
この構成によれば、洗浄液の温度を上昇させることで金属イオンの飽和濃度が上がり、金属イオンの濃度を高くすることができる。
【0015】
前記金属イオン供給部は、飽和濃度以上の前記金属イオンを前記洗浄液に供給するのが望ましい。
この構成によれば、金属イオン濃度が高いため、金属層の防食性能が向上する。
【0016】
前記金属イオン供給部は、前記洗浄液が通る前記金属製の配管であってもよい。
この構成によれば、洗浄液が配管を通る際に、配管から洗浄液に金属イオンを供給できる。
【0017】
より望ましくは、前記配管は、曲管、並走する複数の管または複数の板で区切られた流路である。
この構成によれば、配管の表面積を大きくでき、効率よく金属イオンが供給される。
【0018】
前記金属イオン供給部は、前記洗浄液が通るカラムであり、前記カラムの中には前記金属および/またはその酸化物が充填されていてもよい。
この構成によれば、洗浄液がカラムを通る際に、カラムから洗浄液に金属イオンを供給できる。
【0019】
望ましくは、洗浄装置は、前記金属イオン供給部に前記洗浄液を複数回通す循環システムを備える。
この構成によれば、金属イオン供給部に洗浄液を複数回通すことで、金属イオンの濃度を高くすることができる。
【0020】
前記循環システムは、バルブを介して前記金属イオン供給部と接続されたタンクを有してもよい。
この構成によれば、バルブの開閉によって、洗浄液の循環と洗浄ユニットへの供給とを適切に切り換えることができる。
【0021】
より望ましくは、前記循環システムは、前記タンクに窒素やアルゴンといった不活性ガスを供給する不活性ガス供給部を有する。
この構成によれば、洗浄液タンクへの酸素の混入を減らすことができ、防食性能がさらに向上する。
【0022】
望ましくは、洗浄装置は、前記金属イオンが供給された洗浄液における前記金属イオンの濃度を測定する金属イオン濃度測定部を備える。
この構成によれば、洗浄液における金属イオン濃度を把握できる。
【0023】
望ましくは、前記金属イオン供給部が前記金属イオンを供給しやすくなるようリフレッシュするリフレッシュ部を備える。
この構成によれば、金属イオン供給部が安定的に金属イオンを供給できる。
【0024】
前記金属は銅であってもよい。また、洗浄装置は、それぞれ異なる金属イオンを供給する複数の金属イオン供給部を備えていてもよい。
【0025】
また、本発明の一態様によれば、金属層が形成された基板を洗浄する洗浄方法であって、前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを洗浄液に供給する工程と、前記金属イオンが供給された洗浄液を用いて前記基板を洗浄する工程と、を備える洗浄方法が提供される。
【0026】
また、本発明の一態様によれば、金属層が形成された基板を洗浄する洗浄ユニットで用いられる洗浄液に、前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを供給する金属イオン供給部を備える洗浄液製造装置が提供される。
【0027】
また、本発明の一態様によれば、金属層が形成された基板を洗浄する洗浄ユニットで用いられる洗浄液に、前記金属層に用いられる金属および/またはその酸化物に由来する金属イオンを供給する工程を備える洗浄液製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、金属層が形成された基板を洗浄にするにあたり、金属層が腐食することを効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】一実施形態に係る洗浄装置100の概略構成を示す図
【
図3】金属イオン供給部2の具体的な構成の第1例を示す図
【
図4】金属イオン供給部2の具体的な構成の第2例を示す図
【
図5】金属イオン供給部2の具体的な構成の第3例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0031】
本実施形態では、銅イオンを含む洗浄液で銅配線が形成されたウエハを洗浄する。これにより、銅の腐食が抑えられることを初めに説明する。
銅の腐食は、下記(1)の酸化および下記(2)の溶解の2段階で進行する。
【化1】
【0032】
よって、洗浄液から銅イオンが多く供給されれば、上記(2)の平衡状態が左辺側に偏り、したがって上記(1)の平衡状態も左辺側に偏ることで、銅の腐食が抑えられる。このことを確かめるために、本願発明者らは次の実験を行った。
【0033】
まず、銅微粒子(0.50−1.5μm)を2Lのデュラン瓶に20mg添加した。そして、酸素濃度が8mg/Lであり、溶存二酸化炭素濃度が0.01mg/L未満である純水を、気泡が入らないよう、このデュラン瓶に充填、密閉して銅イオンを溶出させた。室温で浸漬し1時間、3時間および24時間後の溶液を取り出して銅微粒子をろ別した後、溶出した銅イオンの濃度をプラズマ質量分析装置ICP−MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)で測定した。その結果、銅イオン濃度は73ppb,144ppb,90ppbと推移した。これは、銅イオン濃度が過飽和状態を経て90ppb程度で飽和状態となって安定したものと考えられる。
【0034】
作製した銅イオン飽和溶液は、銅の溶解により酸素が消費されて、酸素濃度が4mg/Lに低下していたため、酸素をバブリングし8mg/Lに再調整した。
そして、銅薄膜を用意し、その一部には作製した銅イオン飽和溶液を、他の一部には銅イオンを含まない純水を、線速度50cm/secで2時間通液した。
【0035】
図1は、銅薄膜の腐食状態を示すSEM(Scanning Electron Microscope)像である。通液前の状態、純水を通液した部分、および、銅イオン飽和溶液を通液した部分を並べている。なお、SEM像中央の穴は、銅膜厚を計測するためにFIB(Focused Ion Beam)加工で切削した穴である。
図1において、上下に配置された写真は、基板表面のそれぞれ異なる測定箇所の写真であり、「端辺」とはSiO
2層と銅層の境界近くを示し、「250μm」、「500μm」とは端辺からの距離である。
【0036】
同図に示す通り、純水を通液した部分の表面には腐食による表面荒れが発生したが、銅イオン飽和溶液を通液した部分の表面は、通液前とほとんど変わらない。すなわち、銅イオンを含む洗浄液は、防食性能が優れることが確認された。
【0037】
続いて、銅イオンを含む洗浄液でウエハを洗浄する洗浄装置について説明する。
図2は、一実施形態に係る洗浄装置100の概略構成を示す図である。洗浄装置100は半導体基板などのウエハWを洗浄するものであり、洗浄液供給源1と、金属イオン供給部2と、洗浄ユニット3とを備えている。
【0038】
洗浄液供給源1には(銅イオンを未含有の)洗浄液が蓄えられており、ここから金属イオン供給部2を通って洗浄ユニット3に洗浄液が供給される。なお、以下では洗浄液供給源1にある洗浄液が純水(DIW)であるとして説明を行うが、薬液であってもよい。
【0039】
金属イオン供給部2は、洗浄液供給源1と洗浄ユニット3との間に設けられ、洗浄液供給源1からの洗浄液に金属イオンを供給する。具体的には、洗浄対象のウエハWに銅配線が形成されていることを考慮して、金属イオン供給部2は銅イオンを供給する。金属イオン供給部2は、できるだけ洗浄液における銅イオン濃度を高くするのが望ましく、飽和濃度またはそれ以上(過飽和状態)とするのがより望ましい。
【0040】
なお、飽和濃度は、予め実験などによって把握しておけばよく、例えば銅材料を洗浄液に一定時間以上浸漬し、溶出した銅イオン濃度をICP−MSで測定することによって得られる。
【0041】
ここで、本実施形態の特徴の1つとして、金属イオン供給部2は、銅イオンを含む塩ではなく、銅、酸化銅またはこれらの混合物に由来する銅イオンを供給する。そのため、洗浄液が純水である場合、陰イオンとしては水酸化物イオンしか含まない。金属イオン供給部2の具体的な構成例は後述する。
【0042】
洗浄ユニット3には、銅イオンを含む洗浄液がノズル31から供給され、同洗浄液を用いて、ウエハWを洗浄する。洗浄ユニット3は洗浄液を用いてウエハWを洗浄するものであれば特に他の制限はなく、例えばロールスポンジで洗浄するものでもよいし、ペンスポンジで洗浄するものでもよい。
【0043】
洗浄装置100は温度調整部4を備えていてもよい。温度調整部4は、洗浄液の温度を上昇させることで、銅イオンの飽和濃度を高くし、洗浄ユニット3で用いられる洗浄液の銅イオン濃度を高くする。温度調整部4は、例えばリボンヒーター、オイルヒータ、加温水であり、金属イオン供給部2を覆うように設けられる。あるいは、温度調整部4を洗浄液供給源1に設けて洗浄液供給源1内にある洗浄液の温度を上昇させてもよいし、洗浄液供給源1から金属イオン供給部2までの配管に設けてこの配管を通る洗浄液の温度を上昇させてもよい。
【0044】
洗浄装置100は洗浄液における銅イオン濃度を測定する金属イオン濃度測定部5を備えていてもよい。金属イオン濃度測定部5は、例えば電導度測定器であり、銅イオン濃度が高いほど洗浄水の電導度が高くなることを利用して銅イオン濃度を測定できる。
【0045】
図3は、金属イオン供給部2の具体的な構成の第1例を示す図である。本例においては、金属イオン供給部2は表面の少なくとも一部が銅製の配管である。この配管を通る洗浄液に対して、配管の表面から銅イオンが供給される。配管は直管でもよいが、表面積を大きくすることで効率よく銅イオンを供給できる。具体的には、
図3(a)に示すように、配管を1または複数のカーブを有する曲管としてもよい。あるいは、
図3(b)に示すように、並走する複数の管としてもよい。また、
図3(c)に示すように、複数の板2aで区切られた流路であってもよい。
【0046】
図4は、金属イオン供給部2の具体的な構成の第2例を示す図である。本例においては、金属イオン供給部2は、洗浄液が通る配管に設けられた、銅、酸化銅またはこれらの混合物が充填材として充填されたカラムである。充填材の形状は、線状でもよいし、粒状でもよいし、球状でもよい。このカラムを洗浄液が通ることで、銅イオンが供給される。
【0047】
図5は、金属イオン供給部2の具体的な構成の第3例を示す図である。本例において、洗浄装置100は、金属イオン供給部2に洗浄液を複数回通す循環システム10を備える。循環システム10は、タンク11と、バルブ12〜15と、ポンプ16と、窒素供給部17とを有する。なお、本例における金属イオン供給部2は、例えば
図3や
図4に示すものである。
【0048】
タンク11は金属イオン供給部2より高い位置に設けられており、バルブ12,13を介して、金属イオン供給部2に接続される。洗浄液供給源1と金属イオン供給部2との間に、バルブ14およびポンプ16が設けられる。金属イオン供給部2と洗浄ユニット3との間に、バルブ15が設けられる。
【0049】
不活性ガス供給部17はタンク11に不活性ガスを供給し、これによりタンク11内の酸素の混入を防ぐ。不活性ガスは、例えば窒素やアルゴンである。上記(1)の平衡状態から分かるように、洗浄液に酸素が含まれていると、銅配線が腐食する方向に反応が進む。そのため、洗浄液における溶存酸素量をできるだけ減らすべく、タンク11を不活性ガスでパージして酸素が混入するのを減らすのが望ましい。
【0050】
循環システム10は次のように動作する。まず、バルブ13,14のみを開いた状態で洗浄液供給源1から洗浄液を供給し、ポンプ16の駆動によってタンク11に洗浄液を必要量蓄える。そして、バルブ14を閉じ、バルブ12,13のみが開いた状態とする。タンク11内の洗浄液は重力によってバルブ12を通って落下するが、ポンプ16の駆動によって洗浄液は金属イオン供給部2およびバルブ13を通って再びタンク11内に戻る。これを何度か繰り返すことにより、洗浄液には十分な量の銅イオンが供給される。
【0051】
図2における金属イオン濃度測定部5(
図5には不図示)を、循環している洗浄液の銅イオン濃度を測定できるように設け、洗浄液の銅イオン濃度が所定濃度になるまで、望ましくは飽和濃度以上になるまで洗浄液を循環させる。金属イオン濃度測定部5はタンク11内に設けてもよいし、あるいはタンク11と金属イオン供給部2をつなぐ配管の一部に設けてもよい。
【0052】
銅イオン濃度が十分高くなると、バルブ13を閉じてバルブ15を開く。これにより、タンク11に蓄えられた銅イオンを含む洗浄液は、バルブ12,15を通って洗浄ユニット3に供給される。
【0053】
このように、本実施形態では、銅、酸化銅またはこれらの混合物から銅イオンを洗浄液に供給する。そのため、銅イオンを含む塩から銅イオンを供給するのと比べ、洗浄液に余分な陰イオンが含まれず、そのような陰イオンの悪影響を受けることなく、銅配線が形成されたウエハWを洗浄できる。
【0054】
また、別の観点からの効果も期待できる。純水は静電気を帯びやすいため、二酸化炭素を溶かして導電性を持たせることで帯電しにくくした洗浄液でウエハWを洗浄することも多い。しかしながら、上記(2)から分かるように水素イオンが存在すると銅配線が腐食する方向に反応が進む。これに対し、本実施形態では、洗浄水が銅イオンを含んでおり、これによって導電性があるため、さらに二酸化炭素を溶かす必要はなく、この点からも銅の腐食を抑制できる。
【0055】
なお、本実施形態では、ウエハWに形成される金属配線として銅配線を主に想定していたが、金属はアルミニウムやタングステンであってもよい。ウエハWにアルミニウム(タングステン)配線が形成される場合には、アルミニウム(タングステン)、酸化アルミニウム(酸化タングステン)またはこれらの混合物から、アルミニウムイオン(タングステンイオン)を供給すればよい。
【0056】
また、
図2の全体が洗浄装置であってもよいし、既存の洗浄ユニット3に対して、金属イオン供給部2などを洗浄液製造装置として外付けにしてもよい。
【0057】
また、洗浄対象としての基板上に、2種類以上の金属が露出している場合には、それぞれの金属イオンが洗浄液の中に含まれるように、それぞれ異なる金属を供給する複数の金属イオン供給部2を設けても良い。例えば、銅配線およびバリア層としてコバルト層が基板に形成されている場合、銅および/または酸化銅に由来する銅イオンを供給する銅イオン供給部と、コバルトおよび/または酸化コバルトに由来するコバルトイオン供給部とを洗浄装置が備えていてもよい。
【0058】
さらに、時間の経過とともに金属イオン供給部2が供給できる銅イオンが減る場合、金属イオン供給部2が銅イオンを供給しやすくなるようリフレッシュ部(不図示)を設け、定期的に金属イオン供給部2をリフレッシュしてもよい。例えば、金属イオン供給部2が主に銅から銅イオンを供給し、酸化銅より銅の方が効率よく銅イオンを供給できる場合、リフレッシュ部から硫酸などの酸を通して酸化銅を還元することで、金属イオン供給部2をリフレッシュできる。
【0059】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0060】
1 洗浄液供給源
2 金属イオン供給部
3 洗浄ユニット
4 温度調整部
5 金属イオン濃度測定部
10 循環システム
11 タンク
12〜15 バルブ
16 ポンプ
17 窒素供給部