(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面とともに以下の詳細な説明を参照することで、本開示の上記形態及びそれに伴う多数の利点がより深く理解されるとともに、より容易に理解される。
【0011】
図1は、本開示に係る原理を適用可能な基本的なマイクロメータを示す図である。
図1に示すマイクロメータは、同一出願人による特許文献6の各構成要素と、他の公知のマイクロメータの機構とを有してもよい。さらに、
図1に示すマイクロメータは、
図2〜8に記載の各構成要素を有し、
図2〜8に記載の各動作を行うように構成されてもよい。
【0012】
図1に示すように、デジタル表示マイクロメータゲージ1は、密閉され防水/防塵構造を持つ本体2を有する。スピンドル3は、本体2から突出し、かつ、本体2に格納されるように構成される。
図1のカバー部材8は、U型メインフレーム4の表面に設けられる。デジタル表示装置9及び複数の操作スイッチ10は、カバー部材8の表面に設けられる。
【0013】
U型メインフレーム4は、外向きに広がる2つの端部を有する。この端部と、一方の端部に位置するアンビル11(
図1参照)とにより、開度が規定される。メインフレーム4の他方の端部には、スピンドル3が支持される。シンブル17を回転させると、スピンドル3が軸方向に移動可能である。スピンドル3の一端は、アンビル11に当接するように構成される。エンドキャップ27は、シンブル17の端部及び/又はシンブル17の中身を覆ってもよい。
【0014】
図1は、設置可能な3つの測定有効性インジケータIND1、IND2、IND3をさらに示す。測定有効性インジケータIND1、IND2、IND3は、検知原理及び信号処理原理(以下にさらに説明する)に従って、寸法を空間的に測定するために測定対象物がスピンドル3とアンビル11との間に適切に設置された、と示す。測定有効性インジケータIND1は、ライト(例えばLED)であってもよい。測定対象物が適切に接触及び設置しているとき、測定有効性インジケータIND1が作動したり、測定有効性インジケータIND1の色が変化してもよい。測定有効性インジケータIND2、IND3は、デジタル表示装置9の一部(例えば、LCDの一部)であってもよい。測定対象物が適切に接触及び設置しているとき、測定有効性インジケータIND2、IND3が作動してもよい。
【0015】
なお、インジケータIND1、IND2、IND3は、選択的であり、各実施形態において1以上のインジケータが省略されてもよい。また、これら各インジケータは単に例示であり、これらに限定されるものではない。他のインジケータとしては、表示装置(例えば、測定値表示装置)を非表示(ブランク)状態から表示状態にしたり、点滅状態から点灯状態にしたり、音声信号を発生したり、及び/又は外部機器に測定信号を自動的に出力してもよい。インジケータの位置及び/又は種類は、本開示に係る原理に基づき、当業者には明らかな種々のアレンジにより、他の多種多様なものであってもよい。
【0016】
図2は、
図1のマイクロメータゲージ1を示す断面図である。
図2は、以下に開示する原理に従って使用可能な振動センサ構成体の一実施形態をより詳細に示す。
図2に示すように、本体2は、U型メインフレーム4と、スピンドル駆動機構5と、寸法測定センサとを有する。スピンドル駆動機構5は、スピンドル3を前進及び後退させる。寸法測定センサは、スピンドル3の移動量及び/又は位置を検出する位置変換器6を有する。位置変換器6は、リニアエンコーダであり、隙間制御機構7(図示せず)及びメインスケール31を介してU型メインフレーム4内に設置される。メインスケール31は、スケール取付部材30を介してスピンドル本体3Aに設置される。
【0017】
位置変換器6は、信号処理部を介してデジタル表示装置9(
図1参照)に接続する。信号処理部は、計数器及びCPU(図示せず)等公知の電子デバイスを有する。
図2に模式的に示すように、位置変換器6は、光電式エンコーダ6Aを用いる。例えば、特許文献10に開示の光電式エンコーダを用いることができる。他の実施形態において、位置変換器6は、静電容量式又は電磁誘導式エンコーダであってもよい。
【0018】
図2の実施形態では、スピンドル駆動機構5は、ストッパ12と、ピン型係合部材13と、係合部材駆動機構14とを有する。ストッパ12は、スピンドル3のスライド部材3Bの一端に取り付けられる。ピン型係合部材13は、ストッパ12に取り付けられる。係合部材駆動機構14は、スピンドル3の軸方向に沿って、係合部材13を前進及び後退させる。係合部材駆動機構14は、内側スリーブ15と、外側スリーブ16とを有する。内側スリーブ15の一端は、U型フレーム4に設置される。内側スリーブ15は、スリット15Aを有する。スリット15Aは、スピンドル3の軸方向に延在し、係合部材13が挿入される。外側スリーブ16は、内側スリーブ15の外周面に嵌合し、円周方向に回転可能である。外側スリーブ16は、内周面に螺旋溝16Aを有する。係合部材13は、螺旋溝16Aに係合する。螺旋溝16Aは、スピンドル駆動機構のねじ山の一実施形態である(以下に詳細に説明する)。
【0019】
シンブル17は、外側スリーブ16の外周面に回転可能に嵌合される。2つのたわみ部材(2つのリーフスプリング又は板ばね18)が、シンブル17と外側スリーブ16との間に設けられる。シンブル17を一方向に回転すると、この回転のねじりモーメント(トルク)は、板ばね18と、外側スリーブ16の螺旋溝16Aと、係合部材13とを介して、スピンドル3に伝達する。これにより、スピンドル3がアンビル11に向かって前進する。シンブル17を反対方向に回転すると、スピンドル3が後退する。
【0020】
スピンドル3のスライド部材3Bは、内側スリーブ15内にスライド可能に支持され、スピンドル3の周面の周りで内側スリーブ15に接触する。スピンドル3がアンビル11から遠ざかると、
図2の仮想線で示すように、メインスケール31を有するスピンドル本体3Aは、内側スリーブ15内に挿入される。
【0021】
図2に示すように、環状シール部材26が、スピンドル3とU型フレーム4との間に設けられる。別の環状シール部材26が、内側スリーブ15と外側スリーブ16との間に設けられる。エンドキャップ27は、ねじ山を有し、内側スリーブ15の開放端に係合する。エンドキャップ27は、開口27Aを有する。ゲージ本体2の内部は、開口27Aを介して外気と連通する。
【0022】
開口27Aは、エンドキャップ27の内側に設けられた多孔質部材28で閉塞される。これにより、スピンドル3がU型フレーム4内の密閉空間に挿抜されるとき、U型フレーム4内の密閉空間の空気圧の変化を防ぐことができる。
【0023】
振動センサ構成体は、少なくとも1つの振動センサを含み得、
図2では、振動センサの独立的又は協働的な配置の可能な例を示す。典型的な各実施形態において、振動センサは、加速度計又は歪みゲージであってもよい。振動センサが設置された構造物に歪みが発生すると、振動センサは振動信号を発生する。
図2に示す各実施形態において、加速度計201は、アンビル11の近傍に位置する。加速度計202は、スケール取付部材30に接する。加速度計203は、本体2に接する。加速度計204は、本体2に接する。歪みゲージ205は、本体2の第1の屈曲部に接する。歪みゲージ206は、本体2の第2の屈曲部に接する。加速度計210は、スライド部材3Bの弱柔軟部210'に接する。各実施形態に設けられる振動センサは、全部又は一部であればよい。振動センサは、振動特性を供給するのに用いられる(以下に詳細に説明する)。
【0024】
図2はまた、振動励起素子を設置可能な位置を示す。振動励起素子207は、本体2に接してシンブル17の近傍に位置する。振動励起素子208は、ストッパ12に接する。振動励起素子209は、アンビル11の近傍に位置する。
【0025】
各実施形態において、本開示に係る原理に基づき構成されるマイクロメータゲージ等の接触型寸法計測手工具は、寸法測定センサと、振動励起素子と、振動センサ構成体と、信号処理部とを有してもよい。接触型寸法計測手工具における測定対象物測定値の確定方法は、前記振動励起素子を用いて前記計測手工具の一部を振動させることと、前記振動センサ構成体を用いて振動特性を検知することと、前記振動特性に適用される振動特性条件に基づいて、前記計測手工具と前記測定対象物との有効接触状態を特定することと、前記計測手工具が取得する一連の寸法測定値に適用される測定安定性条件に基づいて、有効設置状態を特定することと(以下に詳細に説明する)、前記有効接触状態及び前記有効設置状態が同時に発生したときに取得した寸法測定値について、測定寸法値が有効(正当)であると示すことと、を含む。
図2に示す実施形態において、典型的な振動励起素子207、208及び/又は209のうちの1つが、マイクロメータゲージ1を振動させてもよい。振動励起素子の動作における適当な時間(例えば、励振中、励振直後)に、振動特性(以下に詳細に説明する)を取得してもよい。振動特性は、1以上の典型的な加速度計202、203、204及び/又は1以上の典型的な歪みゲージ205、206からの信号に基づく。取得した振動特性を公知の振動特性条件(例えば、実験による)との関係で分析することで、有効接触状態の発生又は存在を判断し、測定対象物と計測手工具の測定判断面とが接触していると示してもよい。一実施形態において、計測手工具の信号処理部の回路及び/又は手順に従って、振動特性を取得して分析してもよい。各実施形態において、計測手工具とホストシステムとの間で、制御信号及び/又はデータ信号を交換してもよい。ホストシステムは、振動特性の取得及び分析に関する動作の少なくとも一部を行ってもよい。
【0026】
各実施形態において、接触により発生した振動特性に含まれる優位周波数が変化することを、有効接触振動特性条件として規定してもよい。第1の例において、振動励起素子は、主に第1の接触面の近傍を振動させ、振動センサは、第2の接触面の振動を感知してもよい。この場合、測定対象物が存在しないときは、励起された振動の周波数において、振動センサの励振は弱いか全く無い。第1の接触面及び第2の接触面に測定対象物が接触しているときは、励起された振動の周波数は、測定対象物を伝って、第2の接触面や振動センサの近傍に伝達され得る(例えば、振動励起素子208はスピンドル3の振動を励起し、この振動は測定対象物を伝達し、振動センサ201で感知され得る)。従って、振動センサは、有効接触中のみ有意となる優位周波数として、この伝達された振動の周波数を出力してもよい。
【0027】
第2の例において、手工具に元々備えられている構造物又は特別に組み付けられた構造物が、接触力によって伸縮してもよい。これにより、構造物の固有周波数が変化する。従って、その構造物に配置された振動センサから出力される優位固有周波数は、有効接触中のみ高く(又は低く)なる。
図2に示す一実施形態において、測定対象物のスピンドル3に対する接触力が伝達して、スライド部材3Bの弱柔軟部210'を圧縮し得る。振動センサ210は、弱柔軟部210'(圧縮されたときに低周波数を発生するように設計すればよい)の振動を感知する。第3の例において、手工具と測定対象物とが接触し、手工具及び測定対象物からなる「複合構造体」が手工具単体より堅牢であるとき、周波数増加効果が付加的に及び/又は代替的に生じることがある。これにより、手工具単体が発生する周波数より高い周波数が発生する。
【0028】
各実施形態において、接触により発生した振動特性に含まれる周波数の振幅が変化することを、有効接触振動特性条件として規定してもよい。第1の例において、振動励起素子は、第1の接触面の近傍及び/又は対応する第1の部材の近傍を振動させ、振動センサは、第2の接触面の近傍の振動及び/又は対応する第2の部材の振動を感知してもよい。感知する振動は、優位周波数、すなわち、手工具に元々備えられている構造物又は特別に組み付けられた構造物の共振周波数を含み得る。測定対象物が存在しない場合、この共振周波数での振動センサの励振は、弱い。しかしながら、測定対象物が第1の接触面及び第2の接触面に接触する場合、振動励起(例えば、広帯域振動、「タップ」又はパルス)が測定対象物を伝って第2の接触面に伝達し、第2の接触面が共振周波数で振動し得る。振動センサは、この共振周波数の振動を感知する。「有効接触」状態の振幅は、非接触状態の振幅より大きい。
【0029】
各実施形態において、接触型寸法計測手工具は、2つの接触面を有してもよい。振動特性条件は、有効接触中に少なくとも1つの接触面の振動の減衰率を増大させる測定対象物に対応するものであってもよい。このような現象は、以下の状況として観察される。例えば、有効接触中(例えば、振動が十分に持続しているとき)、振動振幅が減少したり、駆動周波数に対する応答が減衰する。加えて/あるいは、振動励起素子が発生するインパルスに対して応答することにより、振動振幅がさらに急激に減衰する、等である。
図2に示すように、マイクロメータゲージは、寸法測定のための2つの接触面(すなわち、スピンドル本体3A及びアンビル11)を有する。
図3に示す実施形態等の各実施形態において、振動特性条件は、両接触面の振動を減衰させる測定対象物に対応してもよい。この種の各実施形態において、測定対象物が存在しない場合でも振動センサが励振するように、振動励起素子が振動センサの近傍に位置してもよい。最初、振動励起素子は、高振幅の信号を供給する。これにより、減衰及び/又は減衰率の変動が、より容易に判断される。各実施形態において、2つの接触面それぞれに対応するように、このような配置をしてもよい。しかしながら、別の各実施形態においては、上に概説したように、測定対象物を介して一方の振動センサを励振してもよい。
【0030】
各実施形態において、振動励起素子は、自動的に又は手動で作動する圧電素子、振動モータ、ラチェット/クラッチ素子、他の適切な素子でよい。例えば、典型的には、振動励起素子207、208は、圧電素子又は振動モータでもよい。他の典型的な実施形態において、標準的又は特殊なラチェット/クラッチ素子(ラチェット/クラッチ素子を元々有するマイクロメータもある)は、ねじりモーメントが制御され、スピンドル本体をアンビルに向けて動かす。このラチェット/クラッチ素子は、インパルス振動を発生することでマイクロメータを振動させ、これにより、マイクロメータは、測定対象物の測定値を確定する。各実施形態において、振動励起素子は電池式でもよいし、手動の操作(計測手工具の操作に元々含まれる)から電力を得る機構により駆動されてもよい。
【0031】
上に概説したとともに以下にさらに詳細に説明するように、各実施形態において、接触型計測手工具の2つの測定面と測定対象物との間の有効接触状態を保証するために、有効接触条件を用いることができる。しかしながら、一般に、これは、有効な測定に対する必要条件ではあるが、十分条件ではない。
図3〜4を参照して以下に説明する理由から、さらに測定安定性条件も満たすことを必要としてもよい。測定安定性条件は、
図7A〜7Bを参照して以下に詳細に説明する。
【0032】
図3は、
図1〜2のマイクロメータゲージ1及び測定対象物301を示す図である。
図3に示すように、測定対象物301は、スピンドル3及びアンビル11に接触する。なお
図3の構造のように測定対象物301とスピンドル3及びアンビル11とが接触するとき、何らかの接触効果により、有効接触条件(例えば、周波数及び/又は振幅及び/又は減衰変化)(
図2を参照して概説した)を満たす振動特性が発生することがある。
図3の接触状態は、ユーザが測定対象物301とマイクロメータゲージ1との間に有意なねじりモーメントを付与する場合に(とりわけ、比較的熟達していないユーザに頻繁に起こる)、特に当てはまる。しかしながら、測定対象物301に対する接触が有効接触条件を満たすとしても、正確に寸法を測定するに当たり、測定対象物301が適切に設置されていないことは外見上明らかである。
【0033】
図4は、
図1〜3のマイクロメータゲージ1と、測定対象物301とを示す図である。
図4に示すように、測定対象物301は有効接触状態であるだけでなく、正確に寸法を測定するために適切に設置されている(有効設置状態と称する)。この状態では、スピンドル3と測定対象物301の一面とはぴったり接触し、アンビル11と測定対象物301の他の一面とはぴったり接触する。一般に、
図3〜4に示す測定対象物301及びマイクロメータ1の構成において、測定対象物301が適切に設置されているとき(
図4参照)、有効接触状態(即ち、振動特性が有効接触条件を満たす状態)での測定値が、略最小値となる。各実施形態において、計測手工具が取得する一連の寸法測定値に適用される測定安定性条件に基づいて、有効設置状態を特定すればよい(
図7A及び7Bを参照して以下に詳細に説明する)。有効接触状態と有効設置状態とが同時に発生することは、寸法測定が有効かつ正確であるための必要十分条件である。
図4に示すように、有効接触状態と有効設置状態とが同時に発生するとき、可視的な測定有効性インジケータ(例えば、測定有効性インジケータIND1、IND2、IND3の何れか1つ)が作動し、有効な測定が成立していることを、ユーザ及び/又はホストシステムに示してもよい。
【0034】
図5A〜5Dは、測定対象物と接触型計測手工具(例えば、
図1〜4を参照し概説した)との、異なる接触状態に対応する振動特性を模式的に示すグラフである。一実施形態において、広帯域幅加速度計タイプの振動センサは、このような各振動特性に対応した信号を供給してもよい。他の実施形態において、フィルタ回路を用いて、周波数抽出された振動特性を供給してもよい。この周波数抽出された振動特性は、1以上の離散周波数又は狭い周波数帯域(例えば、接触状態と非接触状態とを十分区別できる振動モードに相当する)で抽出された信号を含む。他の実施形態において、振動センサは、接触状態と非接触状態とを区別するのに用いられる周波数で動作する、機械的な周波数フィルタや共鳴構造に設けられてもよい。なお、この種の各実施形態において、特定の振動センサと、当該センサが抽出又は応答する特定の振動周波数とは、一対一対応であってもよい。従って、各実施形態において、振動特性は、周波数応答又は振幅応答等の観点よりむしろ、「センサ応答」の観点から特徴づけられてもよい。例えば、固有の信号閾値を有する回路及び/又は手順により、同調振動センサを監視してもよい。この場合、信号レベルに応じて、非接触又は有効接触状態に対応するバイナリ信号を、単に出力する。本開示の原理に従って、この種の出力は、振動特性の一種であるとみなされる。
【0035】
各実施形態において、トリガに基づく時間に、振動センサ信号を抽出し、保持してもよい。このトリガは、振動励起素子パルスが開始したときや、振動センサ信号が初めてトリガ閾値を超えたとき等である。一実施形態において、この信号は、公知の方法に従って整流及び/又はローパスフィルタ処理等した信号である。当業者には明らかなように、本開示に係る原理に基づき、各種の適切な公知の信号測定回路を使用可能である。
【0036】
図5Aは、典型的なマイクロメータの特定の振動モードの周波数を含む振動特性を模式的に示すグラフ500Aである。実線は、非接触振動特性を示す(測定対象物がマイクロメータの測定接触面に接触していないとき)。破線は、接触振動特性により変化する箇所を示す(測定対象物がマイクロメータの一方又は両方の測定面に接触しているとき)。非接触振動特性によれば、周波数f
1に第1の周波数ピーク510Aがあり、周波数f
2に第2の周波数ピーク520Aがあり、周波数f
3に第3の周波数ピーク530Aがある。なお、振動特性全体にはさらに多くの周波数ピークが発生してもよいが、分かりやすくするため、
図5A〜5Cにはピークを3つだけ示す。第1の周波数ピーク510Aは、低周波数振動の一例である。低周波数振動は、典型的には、寸法計測手工具を動かしたり運んだりするときのユーザの動きにより発生する。一般に、そのような振動は10Hz未満である。第2の周波数ピーク520Aは、高周波数状態(例えば、50〜1000Hz)の一例である。例えば、第2の周波数ピーク520Aは、スピンドル3の横振動モードである(例えば、スピンドルが曲がった状態)。第3の周波数ピーク530Aは、さらに高周波数状態(例えば、1000Hzより高い)を示す。例えば、第3の周波数ピーク530Aは、非接触状態におけるスライド部材3Bの柔軟部210'(
図2を参照し上記に概説した。以下に詳細に説明する)の振動モードを示す。
【0037】
上に概説したように、実施形態によっては、接触により発生した振動特性に含まれる周波数又は優位周波数が変化することを、有効接触振動特性条件として規定してもよい。
図5Aの例において、測定対象物とスピンドルとの間の接触力により柔軟部210'(
図2参照)がわずかに圧縮される。これにより、共振周波数がf
3からf
3'に低下する。振動センサ(例えば、振動センサ210)は、柔軟部210'の振動に応じた振動特性信号を出力すればよい。非接触状態と有効接触状態とを判別するため、周波数ピーク530Aと周波数ピーク530A'との間に閾値周波数THAを(例えば、実験及び/又は分析により)規定してもよい。従って、各実施形態において、振動特性中から検出される周波数であって非接触特性には存在せず(例えば、周波数f
1及びf
2以外)、かつ、閾値周波数THAより低い周波数の存在を、有効接触振動特性条件としてもよい。
【0038】
寸法計測手工具において、第1の接触面は第1の部材(例えば、アセンブリ)に設けられ、第2の接触面は第2の部材に設けられ、第1の部材は第2の部材に対して移動する。従って、測定中、測定対象物は、第1の部材との接点と第2の部材との接点との間に位置し、第1の部材と第2の部材との間で振動を伝達する一次経路となりうる。実施形態によっては、有効接触状態になることによって発生又は変化した周波数の存在を検出することが、有効接触振動特性条件である。この種の実施形態においては、振動励起素子を、振動特性を感知する振動センサと同一の部材に設置すればよい。例えば、
図2に示すように、振動センサ210を、振動励起素子208と組み合わせて使用してもよい。他の実施形態においては、有効接触状態中に発生又は変化した周波数の存在を検出することが、有効接触振動特性条件である。この種の実施形態においては、振動励起素子を第1の部材に設置し、振動特性を感知する振動センサを第2の部材に設置すればよい(例えば、
図2に示すように、振動センサ210を振動励起素子209と組み合わせて使用してもよい。あるいは、振動センサ201を振動励起素子208と組み合わせて使用してもよい。あるいは、他の例でもよい)。後者の実施形態は前者の実施形態に比べて以下の利点がある。すなわち、後者の実施形態においては、有意な振動エネルギーがまず測定対象物を伝って伝達される。このため、両接触面が測定対象物に接触していることを保証する有効接触振動特性条件を、より容易に及び/又はより確実に規定することができる。一実施形態においては、適切な振動センサが出力した振動を、周波数f
3〜f
3'を通過させるバンドパスフィルタにかける。感知されフィルタ処理された振動の周期又は周波数を、クロック回路を用いて公知の方法に基づき測定する。周期又は周波数と、周波数(又は周期)閾値THAとを比較する。これにより、閾値周波数THAより低い周波数の存在を検出してもよい。一実施形態においては、適切な振動センサが出力した振動を、より狭帯域のバンドパスフィルタ(例えば、高域側のカットオフ周波数を周波数f
3'より大きく且つ周波数(又は周期)閾値THA未満とし、周波数f
3'は通過させるが、閾値THA以上の周波数は遮断する)にかける。バンドパスフィルタからの信号の振幅が有意な振動信号を示すかどうかを検出する。これにより、閾値周波数THAより低い周波数の存在を検出してもよい。しかしながら、この種の各実施形態は例示にすぎず、限定的なものではない。本開示の原理に従って、他の公知の検出回路及び/又は手順を使用してもよい。
【0039】
なお、上記例に係る各実施形態によれば、有効接触状態が成立すると、振動特性中に、低い周波数が発生したり、及び/又は、低い周波数に偏移する。しかしながら、当業者には明らかなように、類似の各原理を、有効接触状態が成立すると、振動特性中に、高い周波数が発生したり、及び/又は、高い周波数に偏移する実施形態に適用してもよい。
【0040】
図5Bは、典型的なマイクロメータの特定の振動モードの周波数を含む振動特性を模式的に示すグラフ500Bである。
図5Aと同様に、実線は非接触振動特性を示し、破線は接触振動特性により変化する箇所を示す。非接触振動特性の第1及び第2の周波数ピーク510B、520Bは、
図5Aのピーク510A、520Aに類似することがある。第3の周波数ピーク530B(530B')は、高周波数状態(例えば、1000Hzより高い)の一例である。例えば、第3の周波数ピーク530B(530B')は、スピンドル3の長手方向(軸方向)の振動モードであってもよい(
図2を参照し上に概説した)。
【0041】
上に概説したように、各実施形態において、振動励起素子は、第1の接触面の近傍で及び/又は第1の部材において、励振及び/又は振動してもよい。振動センサは、第2の接触面近傍で及び/又は第2の部材において、振動を感知してもよい。測定対象物が存在しないとき、第2の部材に設けられた振動センサの励振と、第1の部材の駆動励振及び/又は振動とが、有意に結合しない。このため、第2の部材に設けられた振動センサの励振は弱い。しかしながら、第1の接触面と第2の接触面との間を渡す測定対象物が存在するときは、振動励起(例えば、広帯域振動、「タップ」又はパルス)が測定対象物を伝って第2の接触面に伝達されるので、振動センサは、「有効接触」中、非接触状態に比べて大きい振幅の振動を感知する。
【0042】
図5Bの例によれば、非接触状態での第3の周波数ピーク振幅530Bは、相対的に低い。これは、測定対象物が非接触のときは、振動センサ(例えば、振動センサ201)と、振動励起素子(例えば、振動励起素子208又は207)の出力とが、有意に結合しないためである。有効接触状態での第3の周波数ピーク振幅530B'(破線参照)は、相対的に高い。これは、有効な測定対象物の接触が存在するときは、振動センサ(例えば、振動センサ201)と、振動励起素子(例えば、振動励起素子208又は207)の出力とが、有意に結合するためである。非接触状態と有効接触状態とを判別するため、周波数ピーク530Bと周波数ピーク530B'との間に閾値周波数THBを(例えば、実験及び/又は分析により)規定してもよい。従って、各実施形態において、非接触特性に存在する信号振幅より高い及び/又は振幅閾値THBより高い信号振幅が、振動特性中に検出されることを、有効接触振動特性条件としてもよい。
【0043】
各実施形態において、適切な振動センサが出力した振動を、周波数f
4を通過させるバンドパスフィルタにかける。そして、ピーク信号振幅又は平均整流信号等を求め、公知の回路及び/又は手順を用いて、適切な振幅閾値THBと比較する。これにより、振幅閾値THBより高い信号振幅の存在を検出してもよい。しかしながら、この種の実施形態は例示にすぎず、限定的なものではない。本開示の原理に従って、他の公知の検出回路及び/又は手順を使用してもよい。
【0044】
図5C及び5Dは、有効接触振動特性条件を用いた、異なる態様及び/又は方法に関するグラフである。有効接触振動特性条件は、測定対象物の接触により生じる振動減衰効果に基づく。上に概説したように、少なくとも1つの接触面で振動の減衰率が増大したことを検出することにより、有効接触状態を判断してもよい。
【0045】
図5Cは、有効接触中(例えば、振動励起素子がもたらす振動が十分に持続する場合等)、振動振幅の低下又は駆動周波数に対する減衰応答として、減衰率が増大する実施形態に関するものである。具体的には、
図5Cは、典型的なマイクロメータの特定の振動モードの周波数を含む振動特性を模式的に示すグラフ500Cである。
図5Bと同様に、実線は非接触振動特性を示し、破線は接触振動特性により変化する箇所を示す。非接触振動特性は、第1、第2及び第3の周波数ピーク510C、520C、530Cを示す。第1、第2及び第3の周波数ピーク510C、520C、530Cは、
図5Bのピーク510B、520B、530Bに類似する。
【0046】
各実施形態において、接触面と測定対象物との間の摩擦エネルギーの消散を最大化する振動モードが発生すると、減衰率が増大し、これにより、振動特性が明らかに変化する。例えば、上に概説したように、第3の振動ピーク530Cは、接触による振動減衰を検出するための、最良の選択肢ではないことがある。なぜなら、上に概説したように、第3の振動ピーク530Cは、スピンドルの長手方向の振動モードに応じて発生することがあるからである。スピンドルの長手方向の振動モード(例えば、振動方向は、接触力に対して平行及び/又は接触面に対して垂直とも言える)に起因して、スピンドルと測定対象物との間で、有意な「擦れ」は必ずしも発生せず、あるいは、摩擦エネルギーは必ずしも消散しない。これに対して、第2の振動ピーク520Cは、スピンドルの横振動モード(振動方向は、接触力に対して垂直及び/又は接触面に対して平行とも言える)に応じて変化し得る。これにより、スピンドル接触面と測定対象物との間で、有意な「擦れ」が発生したり、あるいは、摩擦エネルギーが消散し得る。従って、
図5Cに示す例において、非接触状態で、第2の周波数ピーク振幅520Cは、相対的に高い。なぜなら、測定対象物に非接触のときは、測定対象物の接触に応じて変化する振動モードは、有意に減衰しない。そして、振動センサ(例えば、振動センサ201及び/又は202及び/又は210)は、振動励起素子(例えば、振動励起素子209及び/又は208及び/又は207)が発生する強い振動(例えば、共鳴状態)を感知するためである。
【0047】
有効接触状態で、第2の周波数ピーク振幅520C'(破線参照)は、相対的に低い。これは、測定対象物が有効に接触する場合、測定対象物の接触に応じて変化する振動モードが、有意に減衰するためである。非接触状態と有効接触状態とを判別するため、周波数ピーク520Aと周波数ピーク520A'との間に、閾値周波数THCを(例えば、実験及び/又は分析により)規定してもよい。従って、各実施形態において、非接触特性に存在する信号振幅より低い及び/又は振幅閾値THCより低い信号振幅が、振動特性中に検出されることを、有効接触振動特性条件としてもよい。
【0048】
実施形態によっては、振動励起素子を、測定対象物が存在しないときでも振動励起素子が励振するのに十分な程度まで、振動センサの近くに配置してもよい。これにより、高振幅を有する信号が供給され、減衰変動をより容易に判断できる。各実施形態において、このような配置は、2つの接触面それぞれ又は2つの接触面に関する各部材(例えば、振動センサ201に最も近い振動励起素子209や、振動センサ210に最も近い振動励起素子208)に対応するものであってもよい。
【0049】
各実施形態において、適切な振動センサが出力した振動を、周波数f
2を通過させるバンドパスフィルタにかける。そして、ピーク信号振幅又は平均整流信号等を求め、公知の回路及び/又は手順を用いて、適切な振幅閾値THCと比較する。これにより、振幅閾値THCより低い信号振幅の存在を検出してもよい。しかしながら、この種の各実施形態は例示にすぎず、限定的なものではない。本開示の原理に従って、他の公知の検出回路及び/又は手順を使用してもよい。
【0050】
図5Dは、振動励起素子等が発生するインパルスに対する応答から生じる、振動振幅のさらに急激な減衰として、減衰率の増大が検出される実施形態に関するものである。具体的には、
図5Dは、典型的なマイクロメータの特定の振動モードの周波数の振動減衰の性質を含む振動特性を模式的に示すグラフ500Dである。
図5Cと同様に、実線は非接触振動特性を示し、破線は接触振動特性により変化する箇所を示す。
図5Cを参照して上に概説した理由により、
図5Dに示す例において、感知される振動信号520D(520D')は、スピンドルの横振動モード(及び/又はアンビルの横振動モード)(振動方向は、接触力に対して垂直及び/又は接触面に対して平行とも言える)に対応するのが望ましい。これにより、スピンドル接触面と測定対象物との間で、有意な「擦れ」が発生したり、あるいは、摩擦エネルギーが消散し得る。
【0051】
上に概説したように、各実施形態において、振動センサ信号を、トリガに基づく時間(例えば、
図5Dに示す時間t
1)に、抽出し、保持してもよい。このトリガは、振動励起素子パルスが開始したときや(例えば、
図5Dに示す時間t
0頃)、振動センサ信号が初めてトリガ閾値とクロスしたとき(例えば、
図5Dに示す時間t
0'頃)等である。t
0又はt
0'と、信号抽出時間t
1(又は整流信号積分時間終了)との間の適切な遅延時間等は、実験及び/又は分析により選択すればよく、公知のタイミング回路又は手順により制御すればよい。本開示の原理に従って、他種の公知の信号減衰検出回路や振幅検出回路及び/又は手順を用いることができる。
【0052】
非接触状態では、時間t
1の信号振幅Mcは、相対的に高い。なぜなら、測定対象物に非接触の場合、測定対象物の接触に応じて変化する振動モードは、有意に減衰しない。そして、振動センサ(例えば、振動センサ201及び/又は202及び/又は210)は、振動励起素子(例えば、振動励起素子209及び/又は208及び/又は207)が発生する強い振動を感知することがあるためである。有効接触状態(破線参照)では、時間t
1の信号振幅Mncは、相対的に低い。これは、測定対象物が有効に接触する場合、測定対象物の接触に応じて変化する振動モードが、有意に減衰するためである。非接触状態と有効接触状態とを判別するため、振幅Mncと振幅Mcとの間に、信号振幅閾値又は減衰閾値THDを(例えば、実験及び/又は分析により)規定してもよい。従って、実施形態によっては、非接触振動特性中の減衰率より大きい減衰率が減衰振動特性中に検出されること、及び/又は、減衰閾値THDより大きい減衰率が減衰振動特性中に検出されることを、有効接触振動特性条件としてもよい。加えて/あるいは、非接触振動特性中の信号振幅より小さい信号振幅が減衰振動特性中に検出されること、及び/又は、信号振幅閾値THDより小さい信号振幅が減衰振動特性中に検出されることを、有効接触振動特性条件としてもよい。
【0053】
図5Cを参照して上に示したように、実施形態によっては、振動励起素子を、測定対象物が存在しないときでも振動励起素子が励振するのに十分な程度まで振動センサの近くに配置してもよい。これにより、初めに高振幅を有する信号が供給され、減衰及び/又は減衰率をより容易に判断できる。実施形態によっては、このような配置は、2つの接触面それぞれ又は2つの接触面に関する各部材(例えば、振動センサ201に最も近い振動励起素子209や、振動センサ210に最も近い振動励起素子208)に対応するものであってもよい。
【0054】
図6は、一実施形態に係る接触型寸法計測手工具を示す分解図である。接触型寸法計測手工具は、ノギス600である。ノギス600は、本開示に係る原理に適応可能であり、測定対象物測定値を確定する。本例では、ノギス600は、磁気式又は電磁誘導式のセンサアセンブリ658と、スケール基板625とを有する。スケール基板625は、スケールトラック626(一部断面図として図示)を有し、長尺状のスケール部材602に沿う溝627内に配置されている。スライダアセンブリ670は、スライダ630に設置された電子アセンブリ660を有する。この電子アセンブリ660に、磁気又は誘導センサアセンブリ658は設けられている。ノギス600の一般的な機械構造及び物理的操作は、同一出願人による特許文献11等、特定の先行技術に係る電子ノギスの機械構造及び物理的操作と同様である。スケール部材602は、剛体又は半剛体の棒であり、一般に矩形断面に含まれる各種の溝及び/又は他の特徴を有してもよい。スケール基板625は、溝627に強固に接着されてもよい。スケールトラック626は、電子アセンブリ660に含まれるセンサアセンブリ658の対応する構成要素と協働する、スケール構成要素を有してもよい(図示せず)。その方法は、公知の電子ノギスで用いられる方法と同様であり、特許文献7及び特許文献11や、同一出願人による特許文献12に記述されるとおりである。
【0055】
1組のジョー608、610は、スケール部材602の第1の端部の近傍に一体的に形成される。対応して、1組のジョー616、618は、スライダ630に形成される。ジョー608、616の1組の係合面614の間に測定対象物を配置して、測定対象物の外寸を測定する。同様に、ジョー610、618の1組の係合面622を、測定対象物の相反する各内壁面に対して配置して、測定対象物の内寸を測定する。ある位置(ゼロ位置と称することもある)においては、各係合面614が互いに当接し、係合面622が一直線になる。このとき、ノギス600により測定される外寸及び内寸は、ゼロを指してもよい。
【0056】
測定寸法は、デジタル表示装置644に表示されてもよい。このデジタル表示装置644は、ノギス600の電子アセンブリ660のカバー640内に実装されている。電子アセンブリ660はまた、一式の押しボタンスイッチ643、641、642(例えば、オン/オフスイッチ、モードスイッチ、ゼロセットスイッチ)と、信号処理/表示回路基板650とを有してもよい。信号処理/表示回路基板650は、読取ヘッド信号処理/制御回路659を有する。
図6の一実施形態において、信号処理/表示回路基板650の底面は、スケール部材602の片側に位置するスライダ630の上面に当接するように取り付けられる。
【0057】
なお、上記では磁気式又は電磁誘導ノギスと記載したが、任意のタイプのセンサを用いた電子ノギスを、
図1を参照して説明した原理に適合してもよい。例えば、静電容量検知技術を利用するノギスが、
図1に記載の特徴を利用してもよい。
【0058】
図6に示すように、ノギス600は、1以上の振動センサ681及び/又は682等と、1以上の振動励起素子683又は683'及び/又は684又は684'等とを、さらに有してもよい。一般に、ノギスに対する振動センサ及び振動励起素子の実際上の位置及び接続は、マイクロメータに対する振動センサ及び振動励起素子の実際上の位置及び接続に比べて、制約がある。特に、各振動センサ及び各振動励起素子を各接触面614、622の近傍に配置することは可能であるが、一般には、関連する部材が駆動中の電子回路又は信号処理回路に直接接続しないので、問題が生じたり費用が掛かる。従って、有効接触振動特性条件と、測定対象物を伝って振動を伝達する技術(上に概説した)とを使用することは、不可能ではないが、非常に困難である。
【0059】
図5C〜5Dを参照して上に概説した技術及び有効接触振動特性条件は、振動減衰効果に基づくものであり、ノギスの適用に関してより実際的な実施形態である。このような目的で、これら各実施形態において、各振動励起素子が横振動モード(すなわち、ジョー616及び/又は618のYZ平面方向に沿った移動を生み出す状態)を励振し及び/又は各振動センサが横振動モードを検出するように設計するのが望ましい場合がある。その理由は、マイクロメータスピンドルの横振動モードに関して
図5Cを参照して上に概説したとおりである。有効接触振動特性条件をノギスで実行するのは困難及び/又は信頼性が低い場合がある。このため、ノギスの適用に関しては、下に概説する測定安定性条件と、本開示及び特許請求の範囲に係る有効接触振動特性条件とを組み合わせて使用することが特に有利であろう。
【0060】
図7Aは、マイクロメータ(例えば、
図2のマイクロメータゲージ1)の経時的な一連の寸法測定値M1〜M3を模式的に示すグラフ700Aである。下により詳細に説明するように、一連の寸法測定値に適用される測定安定性条件に基づき、有効設置状態が特定されてもよい。従来技術に係る各種マイクロメータや他の各種接触型寸法計測手工具は、測定値サンプルを、一定間隔(0.1秒毎など)で抽出する。一連の寸法測定値M1〜M3は、このような連続的な測定値サンプルであってもよい。このような連続的な測定値サンプルは、発生する都度、マイクロメータのメモリに記録される。分かりやすくするため、一連の測定値は3つとしている。勿論、同様の原理に従って、より多くの測定値を記録して処理してもよい。測定値M1〜M3が連続的に減少していることから、マイクロメータのスピンドルをアンビルに向けて閉じつつある、と理解される。マイクロメータで正常に測定するためには、このように、マイクロメータのスピンドルをアンビルに向けて閉じる必要がある。
【0061】
典型的な一実施形態において、最新の移動測定値に対する持続的な移動測定値を、測定安定性条件とする。最新の移動測定値と、前回測定値との差分値は、安定性閾値量より小さい。これは、次のような状況を示す。すなわち、マイクロメータが測定対象物に対して閉じることで、測定対象物が最終的に適切に設置され、さらなる閉塞が制限される。例えば、測定値M2(時間t
2)と、前回測定値M1(時間t
1)との差分値は、安定性閾値THより大きい。次の測定値M3(時間t
3)と、測定値M2との差分値は、安定性閾値THより小さい。従って、実施形態によっては、測定値M3は、有効な寸法測定値に相当する。
【0062】
各実施形態において、安定性閾値は、マイクロメータ測定値のノイズ及び分解能が許す限り、小さくしてもよい。実施形態によっては、最小測定値及び/又は任意の最新測定値は、一連の測定値に含まれる最小測定値に対する安定性閾値量の範囲内であるとき、測定安定性条件を満たすものとしてもよい。勿論、有効接触条件が満たされない場合(さらに、ユーザが測定対象物の接触を観察すること(従来技術)だけに頼らないとすれば)、上に概説した一連の測定中に測定対象物がそもそも存在するのかどうか、本質的に不明である。従って、正確な寸法測定の条件として、測定安定性条件を満たすことが必要となるが、必須ではない。
【0063】
測定安定性条件と振動特性の有効接触条件とが同時に満たされるとき、寸法測定を正確に行うための十分条件が、高確率で成立する。従って、実施形態によっては、有効接触条件を満たすことを振動特性が示すまで、一連の寸法測定値を記録及び/又は分析する必要はない。各実施形態において、一連の寸法測定値を記録及び/又は分析するには、信号処理時間及び/又は電力が掛かることがある。各実施形態において、表示又は出力された寸法測定値が、測定安定性条件及び有効接触条件を満たすものであるとき、それを自動表示してもよい。自動表示することで、測定が有効かつ正確であるというユーザの判断を、裏付けることができる。あるいは、自動表示すれば、ユーザは、測定の有効性及び正確性を判断しないでもよい。
【0064】
図7Bは、ノギス(例えば、
図6のノギス)の経時的な一連の寸法測定値を模式的に示すグラフ700Bである。この一連の寸法測定値に適用される測定安定性条件に基づき、有効設置状態が特定されてもよい。マイクロメータとは異なり、ノギスの測定接触面はねじ一式により堅く拘束されていない。また、マイクロメータとは異なり、ノギスは外寸又は内寸を測定可能である。これらの理由から、以下にさらに説明するように、ノギスが実行する、一連の寸法測定値に基づいて有効設置状態を特定するための信号処理及び/又は手順は、若干複雑な測定安定性条件を含むものであってもよい。
【0065】
グラフ700Bに示す一連の寸法測定値は、連続的な複数の測定値サンプルであってもよい。連続的な複数の測定値サンプルは、発生する都度ノギスのメモリに記録される。分かりやすくするため、一連の測定値は11個としている。勿論、同様の原理に従って、より多くの測定値を記録して処理してもよい。一実施形態において、先入先出(FIFO)スキームを用いて、分析に用いる最新の測定値の数を所望の値としてもよい。これにより、メモリを節約できる。
図7Bに示す例において、有効接触状態となる前に、連続的に減少する値Mnc1〜Mnc3が記録されることがある。次に、進行中の信号処理動作により、上に概説した原理に従って、時間t
C1に有効接触条件が満たされたと判断される。これは、測定対象物が存在し、所望の測定値が間もなく得られることを意味する。このため、ノギスの信号処理により、有効接触状態になる前に、最新の測定値が増加傾向又は減少傾向の何れであるかに基づき、内寸又は外寸の何れを測定するかを判断してもよい。本例では、最新の測定値(測定値Mnc1〜Mnc3)は減少している。これは、外寸を測定するために、ノギスのジョー同士が近づいていることを意味する。マイクロメータの測定に関して上に説明したように、最新の測定値が減少している場合、最小測定値が有効設置状態に相当することを示唆する。これに従って、次に、有効設置状態を示す測定安定性条件が選択される。この測定安定性条件は、時間t
C1に有効接触状態が示された後に取得される、一連の測定値M1−Xを監視及び/又は分析するのに用いられる。本例では、有効接触状態中、一連の測定値M1−1〜M1−2は有意に減少し続ける。このため、測定対象物が適切に設置されていない(例えば、
図3に図示の例のように、測定対象物がノギスのジョーに「ねじれて」接触している)と推定される。この推定を続けると、進行中の信号処理動作により、上に概説した原理に従って、時間t
NC1には有効接触条件がもはや満たされていないと判断される。次の測定値Mnc4は、前回の「有効接触」状態の測定値M1−2から、実質的に変化していない。測定対象物が回転し(例えば、ユーザが、測定対象物に掛かる力を、有効接触状態中に比べて緩和させた)、測定対象物がノギスのジョーに接触せずにノギスのジョーの間に収まっていることが推定される。
【0066】
次に、ユーザは、測定対象物の調節を続けて、ジョーを閉じることがある。そうすると、接触状態が成立し、進行中の信号処理動作により、時間t
C2に有効接触条件が再び満たされたと判断される。これは測定対象物が存在し、所望の測定値が間もなく得られることを、再度意味する。このため、ノギスの信号処理により、最新の有効接触状態になる前に、最新の測定値が増加傾向又は減少傾向の何れにあるかに基づき、内寸又は外寸の何れを測定するかを判断してもよい。再度述べるが、測定値Mnc1〜Mnc3及び/又はM1−1〜M1−2及び/又はMnc4が減少している。これは、外寸測定が行われており、最小測定値が有効設置状態に相当することを示唆する。これに従って、測定安定性条件が再度選択される。本例では、測定安定性条件は、時間t
C2に有効接触状態が示された後に取得された、一連の測定値M2−Xを監視及び/又は分析するのに用いられる。本例に示すように、測定値M2−2、M2−1の差は、有効接触状態中、測定安定性条件(例えば、測定値M2−2、M2−1の差は安定性閾値未満であり、M2−1は最新の最小測定値である)を満たす。これは、測定対象物が外見上適切に設置されている状態である。加えて、測定値M2−2は、有効測定値として示される。測定値M2−3もまた、有効接触状態中、測定安定性条件を満たす。従って、測定値M2−3もまた、有効測定値として示される。
【0067】
本例では、前回の最小測定値M2−3と測定値M2−4との正方向の差が大きすぎる(例えば、この差は測定安定性閾値より大きく、最小値でない)ため、最新の測定安定性条件が満たされない。このことから、測定値M2−4は、ノギスのジョー同士の離間距離が大きくなっていることを示す。結果的に、測定値M2−4が有効接触状態中に得られたものであったとしても、測定値M2−4は有効な測定値としては示されない。この状況は、ユーザが測定対象物に掛けるねじりモーメントを増加させたために起こったと推定される。あるいは、ユーザがノギスのジョーに掛かる力を緩め、測定対象物が再度不適切に設置され(例えば、再度、
図3に図示の例と同様に、測定対象物がノギスのジョーに「ねじれて」接触している)、その測定対象物にノギスのジョーが接触しつつ、ノギスのジョーがわずかに開いたために起こったと推定される。
【0068】
本例では、次いで、ノギスのジョー同士の離間距離が増加し続ける。そして、進行中の信号処理動作により、時間t
NC2には有効接触条件がもはや満たされていないと判断される。次の測定値Mnc5は、有効な測定値とは示されない。上に概説した原理及び/又は以下にさらに説明する原理に従って、有効測定値が続けて監視される。なお、有効接触状態が特定され、且つ、有効接触状態の前に、最新の測定値が、ノギスのジョー同士の離間距離が増加していることを示す場合は、内寸測定が行われており、最大測定値が有効設置状態に相当することが示唆される。これに従って、測定安定性条件が選択され、有効設置状態を検出するために次の一連の測定値を監視及び/又は分析するのに用いられる。
【0069】
実施形態によっては、有効測定値を判断した後、継続的に取得される有効測定値を監視するとき、取得した振動特性に振動特性条件を適用して有効接触状態が継続されていることを特定しつつ、所望のサンプル抽出レートに従って、振動励起動作及び振動特性検知動作を繰り返し行ってもよい。有効な測定が成立した後に継続的に取得される測定値は、有効接触状態又は有効設置状態が終わる又は特定されなくなるまで、有効であるとみなしてもよい及び/又は示唆してもよい(例えば、
図7A、7Bを参照して上に概説したように)。振動励起素子が電動の素子であり、十分な電力及び/又は電池寿命が得られる場合、この種の実施形態は、より実用的である。
【0070】
他の各実施形態において、有効測定値を判断した後、継続的に取得される有効測定値を監視するとき、有効接触状態の検証を一時的に停止し、有効設置状態が終わった又はなくなったかどうかを判断するのみとしてもよい。言い換えると、有効測定値を判断した後、継続的に取得される測定値は、有効設置状態が終わる又は特定されなくなるまで有効であるとみなされてもよい及び/又は示唆されてもよい(例えば、
図7A、7Bを参照して上に概説したように)。ユーザが手動で寸法計測工具を操作して振動励起素子を直接的又は間接的に駆動する場合、この種の実施形態は、より実用的である。この種の各実施形態では、測定対象物が適切に設置され安定位置にあるとき、振動励起動作を中断するのが自然なこともある。このような場合、測定値の安定性を単に監視し(例えば、成立した有効測定値と比較して)、有効設置状態が終わる又は特定されなくなるまで、継続的に取得される測定値を有効なものであると考慮及び/又は示唆すれば、十分としてもよい。これは、測定対象物が有効かつ安定的に設置されたとき、一般に、有効測定値として判断される値は、最新の一連の測定値のうちの最小(又は最大)測定値であるためである。有効測定値として判断される値に対して測定値が有意に増加(又は減少)した場合、「有効接触状態が中断した」と推定してもよいし、及び/又は、無効な設置としてもよい。有効設置状態の終了を特定するのに用いられる測定安定性閾値が比較的小さい場合(例えば、特定の工具精度の範囲内、寸法計測工具の測定値表示装置の最下位の桁の増加単位(インクリメント)の3倍、2倍又は1倍未満、等)、有効測定値の判断及び/又は示唆を終了するこの方法は、特に信頼性が高いこともある。
【0071】
図8は、接触型寸法計測手工具の、測定対象物測定値の確定方法を示すフローチャート800である。ブロック810で、寸法測定センサ、振動励起素子、振動センサ構成体及び信号処理部を有する接触型寸法計測手工具を準備する。ブロック820で、振動励起素子を用いて、計測手工具の一部を振動させる。ブロック830で、振動センサ構成体を用いて、振動特性を感知する。ブロック840で、振動特性条件に基づき、計測手工具と測定対象物との間の有効接触状態を特定する。ブロック850で、計測手工具が取得する一連の寸法測定値に適用される測定安定性条件に基づいて、有効設置状態を特定する。
【0072】
ブロック860で、有効接触状態及び有効設置状態が同時に発生したときに取得した寸法測定値について、寸法測定値が有効であると示す。例えば、
図1に示す測定有効性インジケータIND1、IND2、IND3の何れか1つを作動してもよい。各実施形態において、インジケータライトを点灯したり、インジケータライトの光色を変化したり(例えば、赤から緑)、LCD表示装置のアイコンを作動したり、非表示状態の表示装置を起動したり、点滅表示を点灯状態としたり、音声信号を発生したり、又は、SPC信号を自動的に出力することにより、寸法測定値が有効であると示せばよい。
【0073】
当業者には明らかなように、本開示に基づき、図面及び明細書に記載の特徴点の配置及び動作手順を多種多様に変更可能である。従って、特許請求の範囲に記載の主題の範囲内において、多種多様に変形することが可能である。
【0074】
独占的な権利を主張する本発明の各実施形態は、特許請求の範囲により規定される。