(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、半導体電力変換装置における半導体素子などの異常・故障の診断や検出のために電圧や電流の異常(変化)の有無を検査するという従来の手法では、半導体素子などに異常・故障が発生した結果として半導体電力変換装置が停止した後でなければ異常を発見できないケースが多く、このため、半導体電力変換装置の故障停止の未然防止には対応することができないという問題がある。したがって、従来の手法は、半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法として有用性及び信頼性が高いとは言い難い。
【0006】
さらに、従来の手法では、所定のインターバルで定期的に実施される保守点検によって診断や検出が行われるため、点検と点検との間に異常が発生しても故障を未然に発見して対処することができないという問題がある。したがって、従来の手法は、この点においても、半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法として有用性及び信頼性が高いとは言い難い。
【0007】
そこで、本発明は、半導体電力変換装置の電圧や電流といった外部への出力に拠ることなく半導体電力変換装置の異常・故障の診断や検出を行うと共に定期的な保守点検に拠ることなく半導体電力変換装置の異常・故障の診断や検出を行って半導体電力変換装置の故障停止を未然に防止することができる半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラム、並びに、異常診断機能を備える半導体電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、半導体電力変換装置の半導体スイッチング素子を故意に故障させながら音を採取する試験を行う中で、半導体素子に不具合が発生して半導体電力変換装置が故障停止する前に、通常の動作音(言い換えると、正常な状態での動作時の音)とは異なる音が発生することを知見した。なお、半導体素子の不具合の種類や程度などによって異常音の発生から半導体電力変換装置が故障停止するまでの時間は特定の時間に限定されるものではないが、本発明者らの試験では例えば半導体電力変換装置が故障停止するおよそ9秒前から6秒前の間に複数回の異音が発生した事例があった。
【0009】
本発明は上記知見に基づくものであり、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法は、監視対象の半導体電力変換装置から発生する音が採取されて取得された音データについて周波数成分毎のスペクトル値が計算され、当該周波数成分毎のスペクトル値が用いられて監視対象の半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無が判定されるようにしている。
【0011】
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法は、監視対象の半導体電力変換装置を少なくとも含む複数台の半導体電力変換装置から発生する音が採取されて取得された音データのそれぞれについて周波数成分毎のスペクトル値が計算され、これら半導体電力変換装置別の周波数成分毎のスペクトル値が用いられて監視対象の半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無が判定されるようにしている。
【0012】
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断装置は、監視対象の半導体電力変換装置から発生する音を採取して音データを出力する手段と、音データについて周波数成分毎のスペクトル値を計算する手段と、周波数成分毎のスペクトル値を用いて監視対象の半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無を判定する手段とを有するようにしている。
【0013】
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断プログラムは、監視対象の半導体電力変換装置から発生する音を採取して取得された音データについて周波数成分毎のスペクトル値を計算する処理と、当該周波数成分毎のスペクトル値を用いて監視対象の半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無を判定する処理とをコンピュータに行わせるようにしている。
【0014】
したがって、これらの半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムによると、半導体電力変換装置から発生する音に基づいて半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無の判定が行われるようにしているので、半導体電力変換装置の電圧や電流といった外部への出力に変化が顕れる前に半導体電力変換装置における異常が捕捉され、更に言えば半導体電力変換装置における異常の徴候が捕捉される。
【0015】
これらの半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムによると、さらに、電圧や電流といった出力を直接計測する場合のように半導体電力変換装置に介入することなく、半導体電力変換装置から発生する音を採取することによって半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無の判定が行われるようにしているので、半導体電力変換装置が通常の動作を行いながら常時監視が行われる。
【0016】
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムは、音の採取が、監視対象の半導体電力変換装置が起動する際,停止する際,出力電圧や出力電流を変更する際,またはスイッチング周波数を変更する際のうちの少なくともいずれか一つで行われるようにして
いる。したがって、通常の連続的・継続的で定常的な動作をしている時には顕在化しない異常音が特別の動作によって顕在化して採取される。
【0017】
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムは、周波数成分毎のスペクトル値が、監視対象の半導体電力変換装置のスイッチング周波数の整数倍の周波数のスペクトル
値であるようにしても良い。この場合には、スイッチング周波数の整数倍の周波数
帯の音として顕在化する異常音が採取される。
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムは、周波数成分毎のスペクトル値が、スイッチング周波数の整数倍以外の周波数のスペクトル値であるようにしても良い。この場合には、スイッチング周波数の整数倍以外の周波数帯の音として顕在化する異常音が採取される。
【0018】
また、本発明の異常診断機能を備える半導体電力変換装置は、上述の半導体電力変換装置の異常診断装置を備えるようにしている。したがって、この半導体電力変換装置によると、上述の半導体電力変換装置の異常診断装置によって奏される作用を発揮し得る半導体電力変換装置が実現される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムや異常診断機能を備える半導体電力変換装置によれば、半導体電力変換装置の電圧や電流といった外部への出力に変化が顕れる前に半導体電力変換装置における異常を捕捉し、更に言えば半導体電力変換装置における異常の徴候を捕捉することができるので、半導体電力変換装置の故障による停止を未然に防ぐことが可能になり、延いては半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法としての有用性及び信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0020】
本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムや異常診断機能を備える半導体電力変換装置によれば、さらに、半導体電力変換装置が通常の動作を行いながら常時監視を行うことができるので、定期的な保守点検に拠ることなく半導体電力変換装置における異常・故障の検出を常時行うことが可能になり、延いては半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法としての有用性及び信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0021】
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムや異常診断機能を備える半導体電力変換装置は、装置が起動,停止,出力電圧や出力電流を変更,またはスイッチング周波数を変更する際に音の採取が行われるようにし
ており、通常の連続的・継続的で定常的な動作をしている時には顕在化しない異常音を特別の動作によって顕在化させて採取することができるので、半導体電力変換装置における異常の捕捉、更に言えば異常の徴候の捕捉を一層確実に行うことができ、半導体電力変換装置の故障停止の未然防止を一層確実に行うことが可能になり、延いては半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法としての有用性及び信頼性の更なる向上を図ることが可能になる。
【0022】
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムや異常診断機能を備える半導体電力変換装置は、装置のスイッチング周波数の整数倍の周波数のスペクトル
値が用いられるようにした場合には、スイッチング周波数の整数倍の周波数
帯の音として顕在化する異常音を採取することができるので、半導体電力変換装置における異常の捕捉、更に言えば異常の徴候の捕捉を一層確実に行うことができ、半導体電力変換装置の故障停止の未然防止を一層確実に行うことが可能になり、延いては半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法としての有用性及び信頼性の更なる向上を図ることが可能になる。
また、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムや異常診断機能を備える半導体電力変換装置は、整数倍以外の周波数のスペクトル値が用いられるようにした場合には、スイッチング周波数の整数倍以外の周波数帯の音として顕在化する異常音を採取することができるので、半導体電力変換装置における異常の捕捉、更に言えば異常の徴候の捕捉を一層確実に行うことができ、半導体電力変換装置の故障停止の未然防止を一層確実に行うことが可能になり、延いては半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法としての有用性及び信頼性の更なる向上を図ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0025】
なお、以下の説明において、単位であることを明確にするために単位としての記号や文字を〔 〕で括って表記する場合がある。
【0026】
図1乃至
図3に、本発明の半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムの実施形態の一例を示す。
【0027】
本実施形態の半導体電力変換装置の異常診断方法は、監視対象の半導体電力変換装置から発生する音が採取されて取得された音データに対してフーリエ変換処理若しくはウェーブレット変換処理が施されて周波数成分毎のスペクトル値が計算され(S1,S2)、当該周波数成分毎のスペクトル値が用いられて監視対象の半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無が判定される(S3)と共に異常・故障が発生していると判定された場合には異常通知信号が出力される(S4)ようにしている(
図1参照)。
【0028】
本実施形態の半導体電力変換装置の異常診断装置10は、監視対象の半導体電力変換装置から発生する音を採取して音データを出力する手段としての音検知部1と、音データに対してフーリエ変換処理若しくはウェーブレット変換処理を施して周波数成分毎のスペクトル値を計算する手段としての変換部2と、周波数成分毎のスペクトル値を用いて監視対象の半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無を判定すると共に異常・故障が発生していると判定した場合には異常通知信号を出力する手段としての判定部3と、異常通知信号に従って警報を発令する手段としての警報出力部4とを有する(
図2参照)。
【0029】
そして、半導体電力変換装置の異常診断方法の実施として、まず、半導体電力変換装置から発生する音の採取が行われて音データの取得が行われる(S1)。
【0030】
具体的には、音採取機能を備える音検知部1が監視対象の半導体電力変換装置に対して設置され、動作中の前記半導体電力変換装置から発生する音が音検知部1の音採取機能によって採取される(言い換えると、音の音圧信号が採取される、或いは、音の音圧レベルが測定される)。
【0031】
音検知部1の音採取機能を構成する具体的な仕組みは、特定の機器や装置に限定されるものではなく、半導体電力変換装置から発生する動作音(ただし、動作音の発生に起因したり関連したりする種々の物理量を含む)を採取(言い換えると、集音,収音)することに適切な機器や装置が適宜選択される。音検知部1の音採取機能を構成する具体的な仕組みとして、例えば音センサ(マイクロホン)や振動センサ(振動の変位検出型センサ,速度検出型センサ,若しくは加速度検出型センサ)が用いられ得る。
【0032】
音検知部1の設置の態様は、特定の態様に限定されるものではなく、監視対象の半導体電力変換装置から発生する動作音を採取(集音,収音)し得るように適切な場所や設置・固定の仕方などが適宜選択される。なお、音検知部1は、半導体電力変換装置の外側に離間して若しくは筐体に接触して設置されるようにしても良く、或いは、半導体電力変換装置の内部に設置されるようにしても良い。
【0033】
音検知部1は、音採取機能に加え、増幅機能を必要に応じて備え、また、A/D変換機能を備えるものとして構成される。
【0034】
そして、音検知部1により、監視対象の半導体電力変換装置から発生する音が音響(言い換えると、音圧、或いは、音圧レベル)として採取され、必要に応じて増幅され、また、デジタル信号に変換された上で出力される。ここで、音検知部1から出力されるデジタル信号のことを音データと呼ぶ。
【0035】
なお、音検知部1が音採取機能,必要に応じての増幅機能,A/D変換機能,及び信号出力機能を一体の機器・装置として備えるようにすることは必須の要件ではなく、これらの機能を有する別々の機器・装置の集まり・組み合わせとして音検知部1が構成されるようにしても良い。
【0036】
また、一つの半導体電力変換装置の異常診断装置10が複数の音検知部1を備えるようにしても良い。この場合には、複数の音検知部1から出力される音データのそれぞれに対して以下のS2以降の処理が行われる。
【0037】
次に、S1の処理によって取得された音データに対してフーリエ変換処理若しくはウェーブレット変換処理が施されて周波数強度の計算が行われる(S2)。
【0038】
具体的には、S1の処理において音検知部1から出力された音データが変換部2に入力され、当該変換部2によって音データに対してフーリエ変換処理若しくはウェーブレット変換処理が施されて周波数成分毎のスペクトル値として周波数f〔Hz〕における周波数強度P(f)が計算される。なお、フーリエ変換処理若しくはウェーブレット変換処理が施された場合には周波数強度は時間の情報(T)を含むので「P(f,T)」と表され得るものの、本発明の説明においては、フーリエ変換処理やウェーブレット変換処理が施されたものとしてどちらも「P(f)」と表す。
【0039】
ここで、音データの周波数成分毎のスペクトル値の計算の仕方は、フーリエ変換処理やウェーブレット変換処理に限定されるものではなく、周波数成分毎のスペクトル値として周波数f〔Hz〕における周波数強度P(f)が計算され得る適当な方法が適宜選択される。
【0040】
そして、変換部2により、計算された周波数強度P(f)が周波数f〔Hz〕と対応づけられて(言い換えると、周波数f〔Hz〕と周波数強度P(f)との組み合わせデータとして)出力される。
【0041】
ここで、半導体電力変換装置から発生する音を採取して取得された音データについて得られた、周波数f〔Hz〕における周波数強度P(f)(言い換えると、周波数f〔Hz〕と周波数強度P(f)との組み合わせデータ)のことを判定データと呼ぶ。
【0042】
次に、S2の処理によって計算された周波数強度の値が用いられて半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無の判定が行われる(S3)。
【0043】
具体的には、S2の処理において変換部2から出力された周波数強度P(f)が判定部3に入力され、当該判定部3によって監視対象の半導体電力変換装置において異常や故障が発生しているか否かが判定される。
【0044】
判定部3による、半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無の判定の仕方は、大きく分けると、以下の四つに区分される。以降に、下記(1)乃至(4)のそれぞれについて説明する。
(1)監視対象の半導体電力変換装置に関する所定の周波数の周波数強度に着目する。
(2)監視対象の半導体電力変換装置に関する二時点の周波数強度に着目する。
(3)監視対象の半導体電力変換装置に関する時系列の周波数強度に着目する。
(4)複数台の半導体電力変換装置に関する周波数強度に着目する。
【0045】
(1)監視対象の半導体電力変換装置に関する所定の周波数の周波数強度に着目する方法
この方法では、監視対象の半導体電力変換装置に関する判定データのうちの所定の周波数の周波数強度が予め定められた閾値を超えた場合(言い換えると、所定の周波数の音が採取された場合)に、半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0046】
ここで、判定データとしての周波数f別の周波数強度P(f)のうち(1)の方法において着目する所定の周波数は、特定の周波数に限定されるものではなく、監視対象の半導体電力変換装置において異常・故障が生じた際に発生する音の周波数に対応する適当な周波数に、事前の分析・検討結果などを踏まえて適宜設定される。なお、(1)の方法において着目する所定の周波数は、或る特定の周波数f〔Hz〕でも良く、或いは、或る特定の周波数f〔Hz〕を中心とする周波数帯域でも良い。
【0047】
また、(1)の方法において用いられる周波数強度に関する閾値も、特定の値に限定されるものではなく、監視対象の半導体電力変換装置において異常・故障が生じた際に発生する音の大きさ(言い換えると、音圧,スペクトル値)に対応する適当な値に、事前の分析・検討結果などを踏まえて適宜設定される。
【0048】
具体的には、監視対象の半導体電力変換装置において用いられているものと同種・同型の半導体スイッチング素子などが故意に故障させられて当該半導体スイッチング素子などが故障する際の音が採取されて音データが取得され、当該音データについて得られた周波数成分毎のスペクトル値が分析され、これにより、故障時に発生する音の周波数若しくは周波数帯域と周波数強度とが特定される。そして、故障時の音に関して特定された周波数/周波数帯域と周波数強度とに基づいて、着目する所定の周波数及び周波数強度に関する閾値が設定される。
【0049】
また、判定データが取得される時点における半導体電力変換装置の状態は、通常の動作(言い換えると、連続的・継続的で定常的な動作)をしている状態でも良く、或いは、特定の動作をしている状態でも良い。
【0050】
判定データが取得される時点における半導体電力変換装置の特定の動作としては、具体的には例えば、以下のものが挙げられる。
【0051】
ア)起動時
この場合には、異常・故障の発生有無の判定時点において、監視対象の半導体電力変換装置が起動する際の動作音が採取される。
【0052】
イ)停止時
この場合には、異常・故障の発生有無の判定時点において、監視対象の半導体電力変換装置が停止する際の動作音が採取される。
【0053】
ウ)出力変更時
この場合には、異常・故障の発生有無の判定時点において、監視対象の半導体電力変換装置が出力電圧や出力電流を変更する際の動作音が採取される。
【0054】
エ)スイッチング周波数変更時
この場合には、異常・故障の発生有無の判定時点において、監視対象の半導体電力変換装置がスイッチング周波数を変更する際の動作音が採取される。
【0055】
そして、半導体電力変換装置の通常の動作時或いは上述のア)乃至エ)のうちの少なくともいずれか一つの時機において取得された判定データの、着目する所定の周波数の周波数強度が、予め定められた周波数強度に関する閾値と比較される。
【0056】
その結果、着目する所定の周波数の周波数強度が予め定められた周波数強度に関する閾値を超えた場合に、半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0057】
なお、着目する所定の周波数は、一つでも良く、或いは、複数でも良い。複数の周波数(前述した通り、周波数帯域を含む)に着目する場合には、例えば、第一の周波数faについては閾値以下であり且つ第二の周波数fbについては閾値を超えた場合には半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定され、一方で、第一の周波数faについても第二の周波数fbについても閾値以下若しくは閾値を超えた場合には半導体電力変換装置に異常・故障は発生していないと判定される、のように、複数の周波数についての閾値との比較結果の組み合わせによって半導体電力変換装置の異常・故障の発生の有無が判定されるようにしても良い。念のために付け加えると、上記では第一及び第二の二つの周波数に着目する例を挙げているが、三つ以上の周波数に着目することも考えられる。
【0058】
(2)監視対象の半導体電力変換装置に関する二時点の周波数強度に着目する方法
この方法では、監視対象の半導体電力変換装置に関する基準データと判定データとが比較され、これら基準データの周波数強度と判定データの周波数強度との間に差違がある場合に、半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0059】
基準データとは、異常・故障の発生有無の判定処理を開始する前に、半導体電力変換装置から発生する音が採取されると共に当該音について得られた(即ち、上述のS1及びS2の処理と同様の処理によって得られた)、周波数f〔Hz〕における周波数強度Po(f)(言い換えると、周波数f〔Hz〕と周波数強度Po(f)との組み合わせデータ)である。
【0060】
基準データの取得は、例えば、監視対象の半導体電力変換装置の試験動作の際や実機としての本格動作の初期段階に行われる。この場合には、半導体電力変換装置が健全で安定した状態であることが期待され、即ち、半導体電力変換装置において異常や故障が未だ発生していない正常状態であることが期待されるので、このような基準データと比較することによって正常状態と比較しての装置状態が診断されることになる。
【0061】
基準データの取得は、或いは、当該半導体電力変換装置が監視対象に選定されてから行われるようにしても良い。この場合には、半導体電力変換装置が初期状態とは言えないものの動作しているので、即ち、半導体電力変換装置が実機本格動作としては問題なく動作している状態であるので、このような基準データと比較することによって正常動作状態と比較しての装置状態が診断されることになる。
【0062】
基準データは、監視対象の半導体電力変換装置の各々に対して個別に設定されるようにしても良く、或いは、半導体電力変換装置の種別・機種毎に設定されるようにしても良い。
【0063】
なお、基準データである周波数f〔Hz〕と周波数強度Po(f)との組み合わせデータは、判定部3によって参照され得るように、言い換えると、判定部3が読み込むことができるように、例えば判定部3内に適当な記憶回路が設けられて当該記憶回路に記憶される。
【0064】
ここで、(2)の方法における二時点、すなわち、基準データが取得される時点と判定データが取得される時点とにおける半導体電力変換装置の状態は、通常の動作(言い換えると、連続的・継続的で定常的な動作)をしている状態でも良く、或いは、特定の動作をしている状態でも良い。
【0065】
基準データや判定データが取得される時点における半導体電力変換装置の特定の動作としては、具体的には例えば、以下のものが挙げられる。
【0066】
ア)起動時
この場合には、試験動作の際や本格動作の初期段階或いは監視対象としての選定以降の時点、並びに、異常・故障の発生有無の判定時点において、半導体電力変換装置が起動する際の動作音が採取される。
【0067】
イ)停止時
この場合には、試験動作の際や本格動作の初期段階或いは監視対象としての選定以降の時点、並びに、異常・故障の発生有無の判定時点において、半導体電力変換装置が停止する際の動作音が採取される。
【0068】
ウ)出力変更時
この場合には、試験動作の際や本格動作の初期段階或いは監視対象としての選定以降の時点、並びに、異常・故障の発生有無の判定時点において、半導体電力変換装置が出力電圧や出力電流を変更する際の動作音が採取される。
【0069】
エ)スイッチング周波数変更時
この場合には、試験動作の際や本格動作の初期段階或いは監視対象としての選定以降の時点、並びに、異常・故障の発生有無の判定時点において、半導体電力変換装置がスイッチング周波数を変更する際の動作音が採取される。
【0070】
また、基準データや判定データとしての周波数f別の周波数強度P(f)のうちの着目する周波数は、任意の周波数でも良く、或いは、特定の周波数でも良い。
【0071】
基準データや判定データの周波数強度P(f)のうちの着目する周波数としての任意の周波数は、具体的には例えば、上述の(1)の方法において着目する所定の周波数の設定の仕方として説明した方法によって設定されることが考えられる。
【0072】
また、特定の周波数としては、具体的には例えば、以下のものが挙げられる。
【0073】
i)スイッチング周波数の整数倍の周波数
監視対象の半導体電力変換装置のスイッチング周波数の整数倍の周波数の、基準データの周波数強度Po(f)と判定データの周波数強度P(f)とが用いられる。この場合、スイッチング周波数の整数倍の周波数のうち、或る一つの整数倍の周波数でも良く、或いは、複数の整数倍の周波数でも良い。
【0074】
ii)スイッチング周波数の整数倍以外の周波数
監視対象の半導体電力変換装置のスイッチング周波数の整数倍以外の周波数の、基準データの周波数強度Po(f)と判定データの周波数強度P(f)とが用いられる。この場合、スイッチング周波数の整数倍以外の周波数のうち、或る一つの周波数のみでも良く、或いは、複数の周波数でも良い。
【0075】
上記i)及びii)における周波数強度は、或る特定の周波数f〔Hz〕における周波数強度の値(即ち、Po(f),P(f))であるようにしても良く、或いは、或る特定の周波数f〔Hz〕を中心とする所定の周波数帯域における周波数強度の平均値や分散値などの特徴量であるようにしても良い。なお、この場合の所定の周波数帯域としての周波数帯域の幅(即ち、周波数f1〔Hz〕からf2〔Hz〕までとして表される範囲)は、特定の大きさに限定されるものではなく、例えば事前の分析・検討結果などが考慮されて、適当な大きさに適宜設定される。以下では、Po(f)やP(f)は、或る特定の周波数fにおける周波数強度の値と、周波数fを中心とする所定の周波数帯域における周波数強度の特徴量とのどちらをも含む(言い換えると、どちらかを表す)ものとする。
【0076】
そして、半導体電力変換装置の通常の動作時或いは上述のア)乃至エ)のうちの少なくともいずれか一つの時機において取得された基準データ及び判定データの、任意の周波数或いは上述のi)及びii)のうちの少なくともどちらか一方の周波数の、周波数強度Po(f)とP(f)とが比較される。
【0077】
その結果、これら二つの周波数強度Po(f)とP(f)との間に差違がある場合に、半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0078】
二つの周波数強度Po(f)とP(f)との間に差違があるか否かを判断するための指標としては、例えば、絶対誤差(即ち、|P(f)−Po(f)|),相対誤差(即ち、|P(f)−Po(f)|/Po(f)),または比率(即ち、P(f)/Po(f))などが用いられ得る。
【0079】
そして、上記に一例として挙げたような指標の値が、各指標に対応して予め定められた閾値以下のときには二つの周波数強度Po(f)とP(f)との間に差違はないと判断され、一方、前記閾値よりも大きいときには二つの周波数強度Po(f)とP(f)との間に差違があると判断される。
【0080】
なお、指標毎の閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば事前の分析・検討結果などが考慮されて、適当な値に適宜設定される。
【0081】
また、一種類の指標値のみが用いられて当該一種類の指標値に関する閾値との比較によって二つの周波数強度Po(f)とP(f)との間に差違があるか否かが判断されるようにしても良く、或いは、複数種類の指標値が用いられてこれら複数種類の指標値のそれぞれに関する閾値との比較によって二つの周波数強度Po(f)とP(f)との間に差違があるか否かが判断されるようにしても良い。
【0082】
また、基準データと判定データとの比較による半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無の判定において、機械学習(パターン学習とも呼ばれる)が利用されるようにしても良い。
【0083】
この場合には、基準データの周波数強度Po(f)と判定データの周波数強度P(f)とが用いられ、或いは、前記周波数強度Po(f)から求められる特徴量と前記周波数強度P(f)から求められる特徴量とが用いられ、前記周波数強度P(f)若しくはこれの特徴量が前記周波数強度Po(f)若しくはこれの特徴量(機械学習における教師データに該当する)と異なるパターンであるときに半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0084】
また、基準データの代わりに、半導体電力変換装置において異常・故障が発生した時の音が採取されると共に当該音について得られた周波数f〔Hz〕における周波数強度Pw(f)(「故障データ」と呼ぶ)が用いられるようにしても良い。
【0085】
この場合には、故障データの周波数強度Pw(f)と判定データの周波数強度P(f)とが用いられ、或いは、前記周波数強度Pw(f)から求められる特徴量と前記周波数強度P(f)から求められる特徴量とが用いられ、前記周波数強度P(f)若しくはこれの特徴量が前記周波数強度Pw(f)若しくはこれの特徴量(機械学習における教師データに該当する)と同一若しくは似ているパターンであるときに半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0086】
(3)監視対象の半導体電力変換装置に関する時系列の周波数強度に着目する方法
この方法では、監視対象の半導体電力変換装置が通常の動作(言い換えると、連続的・継続的で定常的な動作)をしている状態の判定データが時系列で監視され、時系列並びの周波数強度に特異な変化が生じた場合に、半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0087】
判定データとしての周波数f別の周波数強度P(f)のうちの着目する周波数は、任意の周波数でも良く、或いは、特定の周波数でも良い。
【0088】
判定データの周波数強度P(f)のうちの着目する周波数としての特定の周波数としては、具体的には例えば、上述の(2)のi)やii)が挙げられる。
【0089】
そして、半導体電力変換装置の通常の動作時において取得された判定データの、任意の周波数或いは上述の(2)のi)及びii)のうちの少なくともどちらか一方の周波数の、周波数強度P(f)が時系列並びで比較される。
【0090】
その結果、時系列並びの周波数強度P(f)(言い換えると、周波数強度の時系列の推移)において特異な変化が生じた場合に、半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0091】
時系列並びの周波数強度P(f,t)(ただし、tは当該周波数強度に関する音データが取得された時刻に付与された識別子を表す)に特異な変化が生じているか否かの判断の仕方としては、例えば、或る時刻t2における周波数強度P(f,t2)と当該時刻t2の前の時刻t1における周波数強度P(f,t1)との、絶対誤差(即ち、|P(f,t2)−P(f,t1)|),相対誤差(即ち、|P(f,t2)−P(f,t1)|/P(f,t1)),または比率(即ち、P(f,t2)/P(f,t1))などが用いられ得る。
【0092】
または、時刻t2における周波数強度P(f,t2)と時刻t1における周波数強度P(f,t1)とが用いられ、或いは、前記周波数強度P(f,t2)から求められる特徴量と前記周波数強度P(f,t1)から求められる特徴量とが用いられ、機械学習(パターン学習)が利用されるようにしても良い。この場合には、前記周波数強度P(f,t2)若しくはこれの特徴量が前記周波数強度P(f,t1)若しくはこれの特徴量と異なるパターンであるときに半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0093】
上記の場合には、上記説明における時刻t2が次の処理においては時刻t1になると共に上記説明における時刻t2の次の時刻が次の処理における新たな時刻t2になり、更に以降の処理でも時刻t1及びt2の更新が同様に行われる。
【0094】
時系列並びの周波数強度P(f,t)に特異な変化が生じているか否かの判断の仕方としては、或いは、或る時刻t2における周波数強度P(f,t2)と当該時刻t2の前の時刻t1以前の所定の期間(即ち、時刻t2よりも前の過去の期間)における周波数強度の平均値Pav(f,tb)(ただし、tbは当該周波数強度に関する音データが取得された期間に付与された識別子を表す)との、絶対誤差(即ち、|P(f,t2)−Pav(f,tb)|),相対誤差(即ち、|P(f,t2)−Pav(f,tb)|/Pav(f,tb)),または比率(即ちP(f,t2)/Pav(f,tb))などが用いられ得る。なお、この場合の所定の期間としての時間長は、特定の長さに限定されるものではなく、例えば事前の分析・検討結果などが考慮されて、適当な長さに適宜設定される。
【0095】
上記の場合に、時刻t2における周波数強度P(f,t2)と所定の期間における周波数強度の平均値Pav(f,tb)とに対して機械学習(パターン学習)が適用されて、両者が異なるパターンであるときに半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定されるようにしても良い。
【0096】
上記の場合には、上記説明における時刻t2が次の処理においては時刻t1になると共に上記説明における時刻t2の次の時刻が次の処理における新たな時刻t2になり且つ周波数強度の平均値Pav(f,tb)が更新され、更に以降の処理でも時刻t1及びt2並びに周波数強度の平均値Pav(f,tb)の更新が同様に行われる。
【0097】
そして、上記に一例として挙げたような指標の値が、各指標に対応して予め定められた閾値以下のときには時系列並びの周波数強度P(f,t)(言い換えると、周波数強度の時系列の推移)に特異な変化はないと判断され、一方、前記閾値よりも大きいときには時系列並びの周波数強度P(f,t)に特異な変化があると判断される。
【0098】
なお、指標毎の閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば事前の分析・検討結果などが考慮されて、適当な値に適宜設定される。
【0099】
また、一種類の指標値のみが用いられて当該一種類の指標値に関する閾値との比較によって時系列並びの周波数強度P(f,t)に特異な変化があるか否かが判断されるようにしても良く、或いは、複数種類の指標値が用いられてこれら複数種類の指標値のそれぞれに関する閾値との比較によって時系列並びの周波数強度P(f,t)に特異な変化があるか否かが判断されるようにしても良い。
【0100】
(4)複数台の半導体電力変換装置に関する周波数強度に着目する方法
この方法では、監視対象の半導体電力変換装置を少なくとも含む複数台の半導体電力変換装置(即ち、全てが監視対象である複数台の半導体電力変換装置であっても良い)毎の判定データが比較され、これら複数の判定データの周波数強度を横並びで比較したときに或る一つの判定データの周波数強度と他の判定データの周波数強度との間に差違がある場合に、前記或る一つの判定データが取得された半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0101】
この方法における半導体電力変換装置に関する複数台とは具体的には3台以上のことである。
【0102】
この方法の場合には、S1の処理が複数台の半導体電力変換装置のそれぞれにおいて行われると共にS2の処理が半導体電力変換装置別の音データのそれぞれに関して行われ、各半導体電力変換装置に対応してS2の処理において変換部2から出力される複数の周波数強度P(N,f)(ただし、Nは複数台の半導体電力変換装置を区別するために半導体電力変換装置各々に付与される識別子であって当該周波数強度に関する音データが取得された半導体電力変換装置に付与された識別子を表す)が判定部3に入力される。なお、各半導体電力変換装置に対応する複数の周波数強度P(N,f)が判定部3に入力されるタイミングは同期されることが好ましい。
【0103】
ここで、判定データが取得される時点における半導体電力変換装置の状態は、通常の動作(言い換えると、連続的・継続的で定常的な動作)をしている状態でも良く、或いは、特定の動作をしている状態でも良い。
【0104】
判定データが取得される時点における半導体電力変換装置の特定の動作としては、具体的には例えば、上述の(1)のア)乃至エ)が挙げられる。
【0105】
また、判定データとしての周波数f別の周波数強度P(f)のうちの着目する周波数は、任意の周波数でも良く、或いは、特定の周波数でも良い。
【0106】
判定データの周波数強度P(f)のうちの着目する周波数としての特定の周波数としては、具体的には例えば、上述の(2)のi)やii)が挙げられる。
【0107】
そして、半導体電力変換装置の通常の動作時或いは上述の(1)のア)乃至エ)のうちの少なくともいずれか一つの時機において取得された複数台の半導体電力変換装置の判定データの、任意の周波数或いは上述の(2)のi)及びii)のうちの少なくともどちらか一方の周波数の、周波数強度P(N,f)同士が横並びで比較される。
【0108】
その結果、或る一つの判定データの周波数強度と他の判定データの周波数強度との間に差違がある場合に、前記或る一つの判定データが取得された半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定される。
【0109】
また、複数の判定データに対して機械学習(パターン学習)が適用されて、他のパターンと異なるパターンの判定データが取得された半導体電力変換装置に異常・故障が発生していると判定されるようにしても良い。
【0110】
以上が、判定部3による、半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無の判定の仕方に関する(1)乃至(4)の説明である。
【0111】
そして、監視対象の半導体電力変換装置に異常・故障が発生しているとの判定が為されなかった場合には(S3:No)、S1の処理に戻ってS1乃至S3の処理が繰り返し行われる。
【0112】
なお、S1乃至S3の処理は、例えば、音検知部1からの音データの出力ピッチに合わせて(言い換えると、音検知部1からの音データの出力をトリガーとして)繰り返されたり、或いは、予め定められた処理ピッチ若しくは処理トリガーによって繰り返されたりする。
【0113】
一方、監視対象の半導体電力変換装置に異常・故障が発生しているとの判定が為された場合には(S3:Yes)、判定部3により、監視対象の半導体電力変換装置に異常・故障が発生していることを通知する所定の信号(「異常通知信号」と呼ぶ)が出力される。
【0114】
そして、S3の処理によって異常通知信号が出力された場合には、半導体電力変換装置が作動を停止したり、警報が発令されたりする(S4)。
【0115】
具体的には例えば、半導体電力変換装置の異常診断装置10の判定部3から監視対象の半導体電力変換装置の作動を制御する制御装置・制御部に対して異常通知信号が出力され、これによって監視対象の半導体電力変換装置が作動を停止する。
【0116】
また、半導体電力変換装置の異常診断装置10の判定部3から警報出力部4に対して異常通知信号が出力され、これによって警報出力部4から外部(具体的には例えば、半導体電力変換装置に関わる作業員や管理者など)に向けて警報が発令される。
【0117】
警報出力部4は、判定部3からの異常通知信号に従い、具体的には例えば、スピーカやブザー等によって音を発したり、警光灯や回転灯等によって光を灯したり、ディスプレイ等に警告メッセージを表示したり、バイブレーション機能を備えて振動したりすることによって警報を発令する。
【0118】
なお、監視対象の半導体電力変換装置の作動の停止と警報の発令とは、どちらか一方のみが行われるようにしても良く、或いは、両方が行われるようにしても良い。
【0119】
ここで、上述の半導体電力変換装置の異常診断装置10は、各部が全て一体のものとして構成されて監視対象の半導体電力変換装置の内部や近傍に設置されるようにしても良く、或いは、各部が複数の箇所に分散されて設置されるようにしても良い。
【0120】
具体的には例えば、音検知部1は監視対象の半導体電力変換装置の内部や近傍に設置されると共に変換部2,判定部3,及び警報出力部4は前記半導体電力変換装置から離れた場所に設置されるようにしたり、音検知部1,変換部2,及び判定部3は監視対象の半導体電力変換装置の内部や近傍に設置されると共に警報出力部4は前記半導体電力変換装置から離れた場所に設置されるようにしたり、或いは、音検知部1は監視対象の半導体電力変換装置の内部や直近に設置されると共に変換部2及び判定部3は前記半導体電力変換装置が設置されている区画内(例えば、室内)に設置された上で警報出力部4は前記半導体電力変換装置から離れた場所(例えば、管理制御室や監視センタなど)に設置されるようにしたりすることが考えられる。
【0121】
また、半導体電力変換装置の異常診断装置10を構成する各部のうち接続していることが必要とされる各部が、データや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が可能であるように電気的に接続される。
【0122】
具体的には、半導体電力変換装置の異常診断装置10を構成する各部が一体のものとして構成される場合は、接続が必要な各部が適宜に、例えばバス等の信号回線によって接続される。
【0123】
また、半導体電力変換装置の異常診断装置10を構成する各部が別体のものとして構成される場合(さらに、各部が複数の場所に分散し離れて設置される場合)は、接続が必要な各部が適宜に、例えば、各々に接続されて敷設されたケーブル等が用いられる有線による信号送受の仕組みによって接続されたり、各々に接続された無線信号送受信機が用いられる無線による信号送受の仕組みによって接続されたり、或いは、これら信号送受の仕組みが組み合わされて接続されたりする。
【0124】
<半導体電力変換装置の異常診断プログラムがコンピュータ上で実行される場合>
上述の変換部2,判定部3,及び警報出力部4は、半導体電力変換装置の異常診断プログラムがコンピュータ上で実行されることによって当該コンピュータによって実現されるようにしても良い。
【0125】
半導体電力変換装置の異常診断プログラム17を実行するためのコンピュータ20の全体構成を
図3に示す。
【0126】
このコンピュータ20は制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14,及びメモリ15を備え、これらが相互にバス等の信号回線によって接続されている。
【0127】
制御部11は、記憶部12に記憶されている半導体電力変換装置の異常診断プログラム17によってコンピュータ20全体の制御並びに半導体電力変換装置の異常・故障の診断や検出に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0128】
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0129】
入力部13は、少なくとも作業者の命令や種々の情報を制御部11に与えるためのインターフェイス(即ち、情報入力の仕組み)であり、例えばキーボードやマウス或いはタッチパネルである。なお、例えばキーボードとマウスとの両方のように複数種類のインターフェイスを入力部13として有するようにしても良い。
【0130】
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形或いは画像等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0131】
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0132】
また、コンピュータ20には、音検知部1が、データや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が可能であるように、具体的には例えば上述のような有線による信号送受の仕組みや無線による信号送受の仕組み或いはこれら信号送受の仕組みが組み合わされることにより、電気的に接続される。
【0133】
そして、コンピュータ20の制御部11には、半導体電力変換装置の異常診断プログラム17が実行されることにより、監視対象の半導体電力変換装置から発生する音を採取する音検知部1から出力される音データの入力を受ける処理を行うデータ受部11aと、音データについて周波数成分毎のスペクトル値を計算する処理を行う変換部11bと、周波数成分毎のスペクトル値を用いて監視対象の半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無を判定すると共に異常・故障が発生していると判定した場合には異常通知信号を出力する処理を行う判定部11cと、異常通知信号に従って警報を発令する処理を行う警報出力部11dとが構成される。
【0134】
そして、音検知部1によって上述したS1の処理が行われて音データが出力され、当該音データがコンピュータ20のデータ受部11aによって受信されてメモリ15に記憶され、当該メモリ15に記憶された音データが用いられて変換部11bによってS2の処理として上述した変換部2と同様の処理が行われると共に判定部11cによってS3の処理として上述した判定部3と同様の処理が行われ、監視対象の半導体電力変換装置において異常・故障が発生していると判定された場合には異常通知信号が出力されて警報出力部11dによってS4の処理として上述した警報出力部4と同様の処理が行われる。
【0135】
なお、コンピュータ20は警報出力部11dを備えないようにしても良い。この場合には、コンピュータ20は、コンピュータ20とは別体として設けられた警報出力部に対して異常通知信号を出力するようにしたり、或いは、監視対象の半導体電力変換装置の作動を制御する制御装置・制御部に対して異常通知信号を出力するようにしたりしても良い。
【0136】
<半導体電力変換装置自体が半導体電力変換装置の異常診断装置を備える場合>
上述の半導体電力変換装置の異常診断装置10は、監視対象の半導体電力変換装置自体に備えられるようにしても良い。この場合の全体構成を
図4に示す。
【0137】
この場合には、半導体電力変換装置の異常診断装置10の判定部3から、当該半導体電力変換装置の異常診断装置10が備えられている半導体電力変換装置の作動を制御する制御装置・制御部に対し、異常通知信号が出力され、これによって監視対象の半導体電力変換装置が作動を停止するように構成されることが考えられる。
【0138】
また、半導体電力変換装置の異常診断装置10の判定部3から警報出力部4に対して異常通知信号が出力され、これによって警報出力部4から外部(具体的には例えば、半導体電力変換装置に関わる作業員や管理者など)に向けて例えば音や光或いはメッセージの表示などによって警報が発令されるようにしても良い。
【0139】
以上の構成を有する半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムやこの異常診断装置を備える半導体電力変換装置によれば、半導体電力変換装置から発生する音に基づいて半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無の判定が行われるようにしているので、半導体電力変換装置の電圧や電流といった外部への出力に変化が顕れる前に半導体電力変換装置における異常を捕捉し、更に言えば半導体電力変換装置における異常の徴候を捕捉することができる。このため、半導体電力変換装置の故障による停止を未然に防ぐことが可能になり、延いては半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法としての有用性及び信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0140】
以上の構成を有する半導体電力変換装置の異常診断方法、異常診断装置、及び異常診断プログラムやこの異常診断装置を備える半導体電力変換装置によれば、さらに、電圧や電流といった出力を直接計測する場合のように半導体電力変換装置に介入することなく、半導体電力変換装置から発生する音を採取することによって半導体電力変換装置における異常・故障の発生の有無の判定が行われるようにしているので、半導体電力変換装置が通常の動作を行いながら常時監視を行うことができる。このため、定期的な保守点検に拠ることなく半導体電力変換装置における異常・故障の検出を常時行うことが可能になり、延いては半導体電力変換装置の異常・故障の検出手法としての有用性及び信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0141】
なお、上述の形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
【0142】
例えば、上述の実施形態では半導体電力変換装置の異常診断方法として異常通知信号に従って半導体電力変換装置が作動を停止したり警報が発令されたりする(S4)ようにして半導体電力変換装置の異常診断装置10として警報出力部4を備えるようにしたり半導体電力変換装置の異常診断プログラム17が実行されることによってコンピュータ20の制御部11に警報出力部11dが構成されるようにしたりしているが、半導体電力変換装置の作動停止や警報の発令或いは警報出力部4,11dを備えることは本発明において必須の構成ではなく、監視対象の半導体電力変換装置に異常・故障が発生しているとの判定結果の利用の仕方は様々なものが検討されてそれによって種々の機器や装置が組み合わされて用いられるようにしても良い。
【0143】
また、上述の実施形態では監視対象の半導体電力変換装置において検出された異常・故障の種類が識別されるようにはしていないものの、異常・故障の発生の有無の判定処理に加えて当該異常・故障の種類の識別処理が行われるようにしても良い。異常・故障の種類が識別される場合には、具体的には例えば、異常・故障の種類毎にどのような周波数成分でスペクトル値が大きくなるのかという属性データとして周波数f〔Hz〕における周波数強度(「異常音データ」と呼ぶ)が予め整備され、S2の処理において得られる周波数強度P(f)と異常音データとが比較されて周波数強度P(f)が所定の値以上になっている周波数f〔Hz〕に基づいて(言い換えると、周波数強度P(f)と異常音データとの類似の程度に基づいて)異常・故障の種類が識別される。なお、異常・故障の種類としては、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、半導体スイッチング素子の異常・故障,回路基板の異常・故障,或いはコンデンサ素子の異常・故障が挙げられる。また、周波数強度P(f)と異常音データとの類似の程度を評価する手法は、特定の方法に限定されるものではなく、複数のデータ群の特徴の相似・相関の度合いを判定したり計量したりし得る適当な手法が適宜選択される。