(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
(リチウムイオン二次電池)
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、それゆえ、現在、パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末等の機器、自動車、航空機等の移動体に用いる電池として、また、電力の安定供給に資する定置用電池として広く使用されている。
【0013】
図1は、リチウムイオン二次電池1(電池)の断面構成を示す模式図である。
【0014】
図1に示されるように、リチウムイオン二次電池1は、カソード11と、セパレータ12(電池用セパレータ)と、アノード13とを備える。リチウムイオン二次電池1の外部において、カソード11とアノード13との間に、外部機器2が接続される。そして、リチウムイオン二次電池1の充電時には方向Aへ、放電時には方向Bへ、電子が移動する。
【0015】
(セパレータ)
セパレータ12は、リチウムイオン二次電池1の正極であるカソード11と、その負極であるアノード13との間に、これらに挟持されるように配置される。セパレータ12は、カソード11とアノード13との間を分離しつつ、これらの間におけるリチウムイオンの移動を可能にする多孔質フィルムである。セパレータ12は、その材料として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを含む。
【0016】
図2は、
図1に示されるリチウムイオン二次電池1の詳細構成を示す模式図であって、(a)は通常の構成を示し、(b)はリチウムイオン二次電池1が昇温したときの様子を示し、(c)はリチウムイオン二次電池1が急激に昇温したときの様子を示す。
【0017】
図2の(a)に示されるように、セパレータ12には、多数の孔Pが設けられている。通常、リチウムイオン二次電池1のリチウムイオン3は、孔Pを介し往来できる。
【0018】
ここで、例えば、リチウムイオン二次電池1の過充電、又は、外部機器の短絡に起因する大電流等により、リチウムイオン二次電池1は、昇温することがある。この場合、
図2の(b)に示されるように、セパレータ12が融解又は柔軟化し、孔Pが閉塞する。そして、セパレータ12は収縮する。これにより、リチウムイオン3の移動が停止するため、上述の昇温も停止する。
【0019】
しかし、リチウムイオン二次電池1が急激に昇温する場合、セパレータ12は、急激に収縮する。この場合、
図2の(c)に示されるように、セパレータ12は、破壊されることがある。そして、リチウムイオン3が、破壊されたセパレータ12から漏れ出すため、リチウムイオン3の移動は停止しない。ゆえに、昇温は継続する。
【0020】
(耐熱セパレータ)
図3は、
図1に示されるリチウムイオン二次電池1の他の構成を示す模式図であって、(a)は通常の構成を示し、(b)はリチウムイオン二次電池1が急激に昇温したときの様子を示す。
【0021】
図3の(a)に示されるように、セパレータ12は、多孔質フィルム5と、耐熱層4とを備える耐熱セパレータであってもよい。耐熱層4は、多孔質フィルム5のカソード11側の片面に積層されている。なお、耐熱層4は、多孔質フィルム5のアノード13側の片面に積層されてもよいし、多孔質フィルム5の両面に積層されてもよい。そして、耐熱層4にも、孔Pと同様の孔が設けられている。通常、リチウムイオン3は、孔Pと耐熱層4の孔とを介し往来する。耐熱層4は、その材料として、例えば全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)を含む。
【0022】
図3の(b)に示されるように、リチウムイオン二次電池1が急激に昇温し、多孔質フィルム5が融解又は柔軟化しても、耐熱層4が多孔質フィルム5を補助しているため、多孔質フィルム5の形状は維持される。ゆえに、多孔質フィルム5が融解又は柔軟化し、孔Pが閉塞するにとどまる。これにより、リチウムイオン3の移動が停止するため、上述の過放電又は過充電も停止する。このように、セパレータ12の破壊が抑制される。
【0023】
(耐熱セパレータの製造工程)
リチウムイオン二次電池1の耐熱セパレータの製造は特に限定されるものではなく、公知の方法を利用して行うことができる。以下では、多孔質フィルム5がその材料として主にポリエチレンを含む場合を仮定して説明する。しかし、多孔質フィルム5が他の材料を含む場合でも、同様の製造工程により、セパレータ12を製造できる。
【0024】
例えば、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法が挙げられる。例えば、多孔質フィルム5が、超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン樹脂から形成されてなる場合には、以下に示すような方法により製造することができる。
【0025】
この方法は、(1)超高分子量ポリエチレンと、炭酸カルシウム等の無機充填剤とを混練してポリエチレン樹脂組成物を得る混練工程、(2)ポリエチレン樹脂組成物を用いてフィルムを成形する圧延工程、(3)工程(2)で得られたフィルム中から無機充填剤を除去する除去工程、及び、(4)工程(3)で得られたフィルムを延伸して多孔質フィルム5を得る延伸工程を含む。
【0026】
除去工程によって、フィルム中に多数の微細孔が設けられる。延伸工程によって延伸されたフィルムの微細孔は、上述の孔Pとなる。これにより、所定の厚さと透気度とを有するポリエチレン微多孔膜である多孔質フィルム5が形成される。
【0027】
なお、混練工程において、超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、無機充填剤100〜400重量部とを混練してもよい。
【0028】
その後、塗工工程において、多孔質フィルム5の表面に耐熱層4を形成する。例えば、多孔質フィルム5に、アラミド/NMP(N−メチル−ピロリドン)溶液(塗工液)を塗布し、アラミド耐熱層である耐熱層4を形成する。耐熱層4は、多孔質フィルム5の片面だけに設けられても、両面に設けられてもよい。また、耐熱層4として、アルミナ/カルボキシメチルセルロース等のフィラーを含む混合液を塗工してもよい。
【0029】
塗工液を多孔質フィルム5に塗工する方法は、均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、キャピラリーコート法、スピンコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコーター法、グラビアコーター法、ダイコーター法等を採用することができる。耐熱層4の厚さは塗工ウェット膜の厚み、塗工液中の固形分濃度によって制御することができる。
【0030】
なお、塗工する際に多孔質フィルム5を固定あるいは搬送する支持体としては、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、ドラム等を用いることができる。
【0031】
以上のように、多孔質フィルム5に耐熱層4が積層されたセパレータ12(耐熱セパレータ)を製造できる。製造されたセパレータは、円筒形状のコアに巻き取られる。なお、以上の製造方法で製造される対象は、耐熱セパレータに限定されない。この製造方法は、塗工工程を含まなくてもよい。この場合、製造される対象は、耐熱層を有しないセパレータである。また、耐熱層に替えて他の機能層(例えば、後述の接着層)を有する接着セパレータを、耐熱セパレータと同様の製造方法により製造してもよい。
【0032】
(スリット装置)
耐熱セパレータ又は耐熱層を有しないセパレータ(以下「セパレータ」)は、リチウムイオン二次電池1等の応用製品に適した幅(以下「製品幅」)であることが好ましい。しかし、生産性を上げるために、セパレータは、その幅が製品幅以上となるように製造される。そして、一旦製造された後に、セパレータは、製品幅に切断(スリット)される。
【0033】
なお、「セパレータの幅」とは、セパレータの長手方向と厚み方向とに対し略垂直である方向の、セパレータの長さを意味する。以下では、スリットされる前の幅広のセパレータを「原反」と称し、スリットされたセパレータを特に「スリットセパレータ」と称する。また、スリットとは、セパレータを長手方向(製造におけるフィルムの流れ方向、MD:Machine direction)に沿って切断することを意味し、カットとは、セパレータを横断方向(TD:transverse direction)に沿って切断することを意味する。横断方向(TD)とは、セパレータの長手方向(MD)と厚み方向とに対し略垂直である方向を意味する。
【0034】
図4は、セパレータをスリットするスリット装置6の構成を示す模式図であって、(a)は全体の構成を示し、(b)は原反をスリットする前後の構成を示す。
【0035】
図4の(a)に示されるように、スリット装置6は、回転可能に支持された円柱形状の、巻出ローラー61と、ローラー62〜69と、複数の巻取ローラー70U・70Lとを備える。スリット装置6には、後述する切断装置7がさらに設けられている。
【0036】
(スリット前)
スリット装置6では、原反を巻きつけた円筒形状のコアcが、巻出ローラー61に嵌められている。
図4の(a)に示されるように、原反は、コアcから経路U又はLへ巻き出される。巻き出された原反は、ローラー63〜67を経由し、ローラー68へ搬送される。搬送される工程において原反は、複数のセパレータにスリットされる。
【0037】
(スリット後)
図4の(b)に示されるように、複数のスリットセパレータの一部は、それぞれ、巻取ローラー70Uに嵌められた円筒形状の各コアu(ボビン)へ巻き取られる。また、複数のスリットセパレータの他の一部は、それぞれ、巻取ローラー70Lに嵌められた円筒形状の各コアl(ボビン)へ巻き取られる。なお、ロール状に巻き取られたセパレータを「セパレータ捲回体」と称する。
【0038】
(切断装置)
図5は、
図4の(a)に示されるスリット装置6の切断装置7の構成を示す図であって、(a)は切断装置7の側面図であり、(b)は切断装置7の正面図である。
【0039】
図5の(a)(b)に示されるように、切断装置7は、ホルダー71と、刃72とを備える。ホルダー71は、スリット装置6に備えられている筐体等に固定されている。そして、ホルダー71は、刃72と搬送されるセパレータ原反との位置関係が固定されるように、刃72を保持している。刃72は、鋭く研がれたエッジによってセパレータの原反をスリットする。
【0040】
(セパレータ捲回体の構成)
図6は、本発明の実施形態1に係るセパレータ捲回体10の構成を示す模式図であって、(a)はコア8からセパレータ12が巻き出される前の状態を示し、(b)はコア8からセパレータ12が巻き出された状態を示し、(c)はセパレータ12が巻き出され、取り除かれた後のコア8の状態を示し、(d)は(b)の状態を別角度から示す。
【0041】
図6の(a)に示されるように、セパレータ捲回体10は、セパレータ12を巻いたコア8を備える。このセパレータ12は、上述のようにスリットされている。
【0042】
コア8は、外側円筒部81と、内側円筒部82と、複数のリブ83とを備え、上述のコアu・lと同じ機能を有する。
【0043】
外側円筒部81は、その外周面にセパレータ12を巻くための円筒部材である。内側円筒部82は、その内周面に巻取ローラーを嵌めるための円筒部材である。リブ83は、外側円筒部81の内周面と、内側円筒部82の外周面との間に延び、外側円筒部81を内周面から支持する支持部材である。
【0044】
コア8の材料は、ABS樹脂を含む。ただし、本発明の実施形態1に係るコア8の材料はこれに限定されない。コア8の材料として、ABS樹脂の他に、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、及び塩化ビニール樹脂等の樹脂を含んでもよい。コア8の材料は、金属、紙、フッ素樹脂でないことが好ましい。
【0045】
図6の(c)(d)に示すように、コア8の外周面S(すなわち、外側円筒部81の外周面)には、コア8の幅方向(TD)に延在する一又は複数の溝9が設けられている。この溝9の詳細については後述する。
【0046】
図6の(b)(d)に示すように、セパレータ12の一端は、接着テープ130によってコア8と貼り付けられている。具体的には、セパレータ12の一端は、接着剤を備えた接着テープ130によって、コア8の外周面Sに固定されている。セパレータの一端を外周面Sに固定する手段は、接着テープ130の他、接着剤をセパレータ12の一端に直接塗布して固定する、又はクリップで固定する、等であってもよい。セパレータ12には、コア8の外周面Sにおける微細な構造を除き、凹凸が転写される。
【0047】
図7は、本発明の実施形態1に係るコア8の斜視図である。
【0048】
図7に示すように、コア8の外周面Sには、コア8のTDに略平行、すなわち、コア8のMDに略垂直に延在する一又は複数の溝9が設けられている。これにより、コア8の外周面Sにセパレータ12を捲回するとき、コア8の外周面Sとセパレータ12との間の空気を、溝9に沿って逃がすことができる。
【0049】
溝9は、セパレータ12を捲回する前のコア8の外周面Sに、例えば、カッターを用いて、形成することができる。溝9が設けられたコア8の外周面Sにセパレータ12を捲回することでセパレータ捲回体10を得ることができる。
【0050】
セパレータ12をコアに巻回する初期の段階では、タッチロールによってセパレータ12に圧力を加えながらコアに巻回していくが、このとき、外周面に溝9が設けられていないコアにセパレータ12を捲回すると、コアとセパレータ12との間に空気を巻き込むことでわずかにセパレータ12の巻きズレが生じる場合がある。
【0051】
特に、初めの数周は巻き込んだ空気の影響を顕著に受けて走行が不安定となるためにセパレータ12の巻ズレが生じていると考えられる。
【0052】
一方、コア8によると、外周面Sに溝9が設けられている。そして、溝9は、深さが30μm以上であり、かつ、溝9の本数をN(本)、コア8の外周の長さ(コア周長と称する場合がある)をD(mm)とすると、下記(式1)を満たすように、コア8の外周面Sに設けられている。
【0053】
N/D>0.0025 ・・・ (式1)
この条件を満たすことで、外周面Sと、セパレータ12との間の空気を、溝9に沿って十分に、外に逃がすことができる。特に、巻回の初期段階において、1層目となるセパレータ12とコア8との間の空気を十分に抜くことが可能な溝9をコア8の外周面Sに設けることによって、初期の巻ズレの発生を予防し、巻ズレによる不良品の発生を低減することができる。
【0054】
このように、本願の発明者は、後述する実験結果より、セパレータ12を捲回する方向(MD)とは交差する方向(TD)に所定の溝9を設けたコア8を用いた場合、セパレータ12の巻回時に、巻ズレが少ないことを見出した。
【0055】
このように、コア8の外周面Sに、深さが30μm以上の溝9を設け、かつ、N/D>0.0025(本/mm)とすることで、コア8に捲回されたセパレータ12のうち、第1層目部分の端部と、コア8から10mm厚までの部分の端部との差が1.5mm以下であるセパレータ捲回体10を作成することができる。すなわち、本発明の実施形態1に係るコア8を用いることで、巻ズレの少ないセパレータ捲回体10を得ることができ、生産効率を向上させることができる。
【0056】
なお、溝の深さが30μm未満であったり、N/D≦0.0025である場合は、十分に、巻ズレ抑制効果を得ることができない。詳細は、実験結果を用いて後述する。
【0057】
溝9がコア8に延在する長さは、コア8の幅CW(コア8のTDの長さ)に対して、CW/2以上であることが好ましい。また、溝9は、コア8の幅CWに対して、CW/2以上の領域に延在していることが好ましい。これにより、コア8の外周面Sとセパレータ12との間の空気を効率よく、逃がすことができる。
【0058】
溝9がコア8に延在する形状は、直線状でもよく、曲線状でもよく、蛇行形状でもよいが、好ましくは直線形状である。
【0059】
溝9が直線形状の場合は、コア8のTDに平行な直線と成す鋭角が25度以下であることが好ましく、15度以下であることがより好ましい。また、溝9が曲線状又は蛇行形状の場合は、曲線状又は蛇行形状の溝の始点と終点とを結ぶ線分と、コア8のTDに平行な直線と成す鋭角が15度以下であることが好ましい。これにより、コア8の外周面Sにセパレータ12を捲回したとき、コア8の外周面Sとセパレータ12との間の空気を効率よく逃がすことができる。
【0060】
溝9は、効率よく空気を逃がすため、両端のうち少なくとも一端がコア8の縁に設けられていることが好ましい。また、溝9の両端がコア8の両縁に設けられていることがより好ましい。これによると、より効率よく、コア8の外周面Sとセパレータ12との間の空気を逃がすことができる。なお、溝9は、両端のうち他端が、コア8の縁に至らない程度の長さであってもよい。
【0061】
コア8の外周面Sに設ける溝9の本数について、特に上限はないが、多数の溝9を設けた場合にはコア8の強度が低下し、張力をかけてセパレータ12をコア8に巻回した際に、コア8が変形したり破損したりする恐れがある。このため、N/Dは0.1未満であることが好ましい。これによると、コア8の強度を保つことができるため、セパレータ12を捲回した際のコア8の破損を防止することができる。
【0062】
図8は、コア8の溝9の断面図である。
図8では、溝9を、
図7に示すMDに切った断面を表している。
【0063】
溝9の断面の形状は、三角形(V字型)であることが好ましい。これは、加工が容易であり、またコア8のリサイクルを考えた時に、溝9にゴミがたまり難く、清掃が容易であるためである。なお、溝9の断面の形状は、三角形に限定されるものではなく、例えば、四角形(凹型)、半円型など三角形以外の形状であってもよい。
【0064】
溝9がコア8に延在する方向に垂直な方向の長さを幅DWとすると、溝9の幅DWは、10μm以上であることが好ましく、さらには、50μm以上であることがより好ましい。これによると、より効率よく、溝9に沿って空気を逃がすことができる。
【0065】
一方、溝9の幅DWが広いと、溝9がセパレータ12に転写されてしまうため、溝9の幅DWは500μm以下であることが好ましい。これにより、コア8に捲回されたセパレータ12に溝9が転写されることによる不良の発生を防止することができる。
【0066】
溝9の両端に接する平面から溝9の底までの距離を溝9の深さDPとすると、溝9の深さDPは、溝9を通して一定であってもよいし、一定でなくともよい。
【0067】
ただし、溝9の深さDPは、上述したように、30μm以上である必要がある。さらには、溝9の深さDPは、50μm以上であることがより好ましい。これにより、より効率よく空気を溝9に沿って逃がすことができる。
【0068】
一方で、コア8をリサイクル時の清掃の観点からは、溝9の深さDPは、溝9のうち最も深い箇所でも1000μm程度であることが好ましい。これにより、溝9に異物が混入しても除去しやすいため、容易にコア8をリサイクルすることができる。
【0069】
2本以上の溝を設ける場合は、2本の溝は交差していても良い。これにより、コア8の外周面Sにセパレータ12を捲回したとき、コア8の外周面Sとセパレータ12との間の空気を、より効率よく逃がすことができる。
【0070】
〔実施例〕
図9〜
図12を用いて、本発明の実施例について説明する。
【0071】
図9は、本発明の実施例に係る溝の測定位置を表す図である。
図10は、本発明の実施例に係るセパレータ捲回体の巻ズレの様子を表す図である。
図11は、本発明の実施例に係る各実験例の測定結果を表す図である。
図12は、
図11に示す各実験例を表にした図である。
【0072】
ポリエチレン多孔膜にアラミド樹脂からなる耐熱層をコーティングしたセパレータを、幅60mmにスリットし、種々の溝を設けた9種類のコア(幅65mm)に巻回し、9種類のセパレータ捲回体を作製した。そして、各セパレータ捲回体の巻ズレを測定した。なお各溝は、溝の始点と終点とを結ぶ線分と、コアのTDに平行な直線と成す鋭角が15度以下になるように設けた。
【0073】
図9に示すように、1つの溝あたり、中心点(測定点M2)と、両端から1cmの点(測定点M1・M3)の3点において、溝の深さを測定し、その平均値を溝の深さとした。
【0074】
溝の深さDPの測定は、オリンパス製共焦点レーザー顕微鏡LEXT OLS4100を用いた。測定条件は以下の通りである。
・対物レンズ:20倍
・レーザー波長:405nm
・測定モード:共焦点(反射)
・画像視野:644μm×646μm(1024×1024pixel)
・水平補正:なし
図10に示すように、セパレータ12を厚み10mm以上になるまでコアに巻回したときの、セパレータのうち第1層目を除く部分12bの端部と、コアに巻回したセパレータ12のうち第1層目部分12aの端部とのズレの最大値PRを巻ズレとした。
【0075】
図11に、第1〜第9実験例EX1〜EX9に係るセパレータ捲回体10の測定結果を示す。なお、
図11に示す「コア周長」は、コアの外周の長さD(mm)(
図7参照)のことである。第5実験例EX5に係るセパレータ捲回体は、コアに溝が設けられていない、従来品である。
【0076】
また、
図11において「第1の溝」「第2の溝」「第3の溝」は、それぞれ、各実験例に係るコアに設けた溝のことである。「‐」となっている場合は該当の溝は設けられていないことを表している。例えば、第2実験例EX2に係るコアには、「第3の溝」の欄は「‐」となっているので、「第1の溝」及び「第2の溝」の2本の溝が設けられていることを表している。
【0077】
図12は、横軸が溝の本数/コア周長(本/mm)を表し、縦軸が巻ズレ(mm)を表している。
【0078】
図11、
図12に示すように、第5実験例EX5に係るセパレータ捲回体は巻ズレが1.7mmと、他の実験例に係るセパレータ捲回体と比べて、巻ズレが大きいことが分かる。
【0079】
また、第9実験例EX9に係るセパレータ捲回体も巻ズレが1.8と大きいことが分かった。これは、第9実験例EX9に係るセパレータ捲回体に用いたコアに設けた溝の深さは26μmと、他の実験例に係るセパレータ捲回体に用いたコアに設けた溝の深さと比べて、浅すぎたためであると考えられる。
【0080】
このように、第1〜第4実験例EX1〜EX4、第6〜第8実験例EX6〜EX8に示すように、溝9の深さを30μm以上とすることで、何れも巻ズレが1.5μm以下であり、巻ズレが改善していることが分かった。
【0081】
このように、コアの外周面に、深さが30μm以上の溝を設け、かつ、溝の本数/コア周長を0.0025(本/mm)より大きくすることで、コアに捲回されたセパレータ12のうち、第1層目部分12aの端部と、コアから10mm厚までの部分の端部との差が1.5mm以下であるセパレータ捲回体を作成することが可能であることが分かった。
【0082】
また、第6実験例EX6よりも、コア周長あたりの溝の本数が多い第4、第7実験例EX4・EX7の方が、巻ズレが少ない。また、第4、第7実験例EX4・EX7よりも、コア周長あたりの溝の本数が多い第2、第3実験例EX2・EX3の方が巻ズレが少ない。また、第2、第3実験例EX2・EX3よりも、コア周長あたりの溝の本数が多い第1、第8実験例EX1・EX8の方が、巻ズレが少ない。
【0083】
このように、多少の誤差はあるものの、コア周長あたりの溝の本数を多くすると、巻ズレ抑制効果が高くなっていく傾向にあることが分かった。
【0084】
特に、第1〜第4実験例EX1〜4、第7実験例EX7、第8実験例EX8のように、溝の深さを30μm以上、好ましくは50μm以上とし、かつ、溝の本数/コア周長を0.0025(本/mm)より大きくすることで、巻ズレ抑制効果が高くなることが分かった。
【0085】
さらには、第1〜第4実験例EX1〜4、第7実験例EX7、第8実験例EX8のように、溝の深さを118μm以上とし、かつ、溝の本数/コア周長を0.0031(本/mm)以上とすることで、巻ズレ抑制効果が、極めて高くなることが分かった。
【0086】
このように、今回の実験によって、単に、コアの外周面に溝を設けるだけでは必ずしも巻ズレ抑止効果には繋がらない場合があることが分かった。つまり、巻ズレ抑制効果を得るには、コアの外周面に、深さが30μm以上であり、かつ、溝の本数/コア周長が0.0025(本/mm)より大きくなるように、溝を設ける必要があることが分かった。
【0087】
〔まとめ〕
以上のように、本発明の一態様に係る巻芯は、外周面に電池用セパレータを捲回するための巻芯であって、前記外周面には、前記電池用セパレータを捲回する方向と交差する方向に延在する1本以上の溝が設けられており、前記溝は深さが30μm以上であり、前記巻芯の外周の長さをDmmとし、前記外周面に設けられている溝の本数をN本としたとき、
N/D>0.0025 ・・・ (式1)
上記(式1)を満たすことを特徴とする。
【0088】
上記構成によると、電池用セパレータを巻芯に捲回する際、1層目となる電池用セパレータと、コアとの間の空気を十分に、溝に沿って逃がすことができる。これにより、電池用セパレータの巻ズレを抑制することができる。
【0089】
また、前記溝は深さが1000μm以下であることが好ましい。これにより、溝に異物が混入しても除去しやすいため、容易に巻芯をリサイクルすることができる。
【0090】
また、前記溝は深さが50μm以上であることが好ましい。これによると、電池用セパレータと、コアとの間の空気を、より効果的に溝に沿って逃がすことができる。
【0091】
また、N/D<0.1であることが好ましい。これにより、巻芯の強度を保ち、電池用セパレータを捲回した際の巻芯の破損を防止することができる。
【0092】
また、前記溝は、両端のうち少なくとも一端が前記巻芯の縁に設けられていることが好ましい。これによると、電池用セパレータと、コアとの間の空気を、より効果的に溝に沿って逃がすことができる。
【0093】
また、前記外周面における前記電池用セパレータを捲回する方向に垂直に交わる方向の長さを外周面の幅とすると、前記溝の長さは、前記外周面の幅の半分の長さより長いことが好ましい。また、前記溝と、前記電池用セパレータを捲回する方向と垂直な直線と、が成す角度は15度以下であることが好ましい。これにより、巻芯の外周面と電池用セパレータとの間の空気を効率よく逃がすことができる。
【0094】
また、本発明のセパレータ捲回体は、前記巻芯と、当該巻芯に捲回された電池用セパレータとを備えていることが好ましい。これにより、巻ズレが抑制されたセパレータ捲回体を得ることができる。
【0095】
また、捲回された前記電池用セパレータのうち、第1層目部分の端部と、コアから10mm厚までの部分の端部との差が1.5mm以下であることが好ましい。これにより、巻き直しが不要なセパレータ捲回体を得ることができる。
【0096】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。