(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0037】
〔エポキシ樹脂〕
本発明のエポキシ樹脂は、下記式(1)で表され、重量平均分子量(Mw)が1,000〜200,000であるものである。
【0039】
(上記式(1)中、Aは上記式(2)で表される化学構造を含み、R及びR’は互いに異なっていてもよく、水素原子又は上記式(3)で表される基であり、nは繰り返し数の平均値であり1以上500以下である。上記式(2)中、R
1〜R
8は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素であり、また、R
1〜R
8のうちのベンゼン環上で隣接した任意の2つの置換基は互いに結合して炭素数4〜20の環状構造を形成してもよい。上記式(2)中、X
1及びX
2は互いに異なっていてもよく、活性水素を有さず、少なくともヘテロ元素を有する二価の連結基であり、−X
1−X
2−構造に少なくとも2種以上のヘテロ元素を有する。)
【0040】
本発明のエポキシ樹脂は、耐熱性に優れ、高耐熱性、低吸湿性、低線膨張性、難燃性、フィルム製膜性(塗膜性)等に優れるという効果を奏する。これは、前記式(2)におけるカルド構造の剛直性によって優れた耐熱性、低線膨張性が発現すると共に、単位ユニット当たりの分子量が通常のエポキシ樹脂よりも大きいことで、吸湿性の原因となる二級水酸基が分子構造全体に占める割合が相対的に低くなり、また、2種以上のヘテロ元素を含むことで、より優れた耐熱性、難燃性が得られるものと推定される。また、重量平均分子量(Mw)が1,000以上であることにより、フィルム製膜性(塗膜性)が得られるものと考えられる。
【0041】
<化学構造>
前記式(1)中、Aは前記式(2)で表される化学構造を必ず含む。前記式(2)中、R
1〜R
8は、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素であり、互いに同一であっても異なっていてもよく、また、R
1〜R
8のうちのベンゼン環上で隣接した任意の2つの置換基は互いに結合して炭素数4〜20の環状構造を形成してもよい。R
1〜R
8は、好ましくは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、臭素原子、フッ素原子であり、より好ましくは水素原子、メチル基、ターシャリーブチル基である。また、R
1〜R
8のうちのベンゼン環上で隣接した任意の2つの置換基が互いに結合して炭素数4〜20の環状構造を形成する場合、その環状構造としては、芳香環を含んでいてもよく、例えば、ベンゼン環(炭素数4)、ナフタレン環(炭素数8)、シクロヘキセン環(炭素数4)等が挙げられる。
【0042】
前記式(2)におけるX
1及びX
2は互いに同一であっても異なっていてもよく、活性水素を有さず、少なくともヘテロ元素を有する二価の連結基であり、−X
1−X
2−構造に少なくとも2種以上のヘテロ元素を有する。
【0043】
本発明において、「活性水素」とは酸素原子、硫黄原子及び窒素原子のいずれかに直接結合している水素原子を意味する。これらの活性水素は反応性が高く、各種の試薬と反応する。活性水素を有する置換基としては、例えば、−OH、−SH、−NH、−COOH等が挙げられる。活性水素が式(2)のX
1及びX
2の少なくともいずれかに存在すると、製造時のゲル化、あるいは保管時の貯蔵安定性悪化を引き起こす可能性がある。このため、本発明のエポキシ樹脂は式(2)のX
1及びX
2においては活性水素を有さないものである。
【0044】
「ヘテロ元素」とは、広義には炭素、水素以外の元素のうち、遷移元素を除いたものを言うが、本発明においては窒素、リン、ヒ素、アンチモン、又は酸素、硫黄、セレン、テルルを意味する。X
1及びX
2の好ましいものとしては、−O−、−NR’’−(R’’:炭素数1〜10の炭化水素基)、−CO−、−SO
2−、−S−、−PO
2−等が挙げられ、これらの中でもX
1としては、−O−、−NPh−(Ph:フェニル基)が好ましく、−NPh−が最も好ましく、X
2としては、−CO−、−SO
2−が好ましく、−CO−が最も好ましい。
【0045】
前記式(2)で表される化学構造としては、下記式(7)で表される化学構造を含むことが最も好ましい。
【0047】
上記式(7)におけるR
17〜R
24の定義と好ましいものは、前記式(2)におけるR
1〜R
8と同様のものである。
【0048】
前記式(1)中、R及びR’は水素原子又は前記式(3)で表される基(エポキシ基)である。即ち、式(1)において、R及びR’は末端構造を示すものであり、両末端が水素原子又は式(3)のエポキシ基であってもよく、片末端のみが水素原子又は式(3)のエポキシ基であってもよい。ただし、前記式(1)は、エポキシ樹脂であることから、式(1)中のRとして少なくともエポキシ基を含むものである。本発明のエポキシ樹脂は、通常、これらの末端を有する分子や、次に説明する繰り返し数nの異なる分子等の混合物である。
【0049】
前記式(1)中、nは繰り返し数であり、平均値である。その値の範囲はフィルム製膜性の観点から1以上であり、また、エポキシ樹脂の取り扱い性の観点から500以下である。フィルム製膜性を更に良好なものとする観点から好ましくは5以上であり、より好ま
しくは10以上であり、一方、エポキシ樹脂の取り扱い性を更に良好なものとする観点から好ましくは200以下であり、より好ましくは100以下である。n数はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により得られた数平均分子量(Mn)より算出することができる。数平均分子量を求めるGPC法については具体例を後掲の実施例において説明する。
【0050】
前記式(1)中、Aは前記式(2)で表される化学構造を少なくとも含み、耐熱性、低吸湿性、低線膨張性、難燃性等のバランスを良好なものとする観点からは、Aにおける前記式(2)で表される化学構造の割合が、A全体のモル数に対して1〜99モル%であることが好ましい。これらの効果をより良好なものとする観点から、Aにおける式(2)で表される化学構造の割合は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、一方、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは70モル%以下である。
【0051】
また、本発明のエポキシ樹脂には、前記式(1)中のAにおいて、更に他の化学構造が含まれていてもよく、特に下記式(4)で表される化学構造が含まれていることが好ましい。より具体的には、溶剤溶解性やコストの観点からは、より好ましくは前記式(4)で表される化学構造がA全体のモル数に対し、1モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることが更に好ましく、20モル%以上であることが特に好ましく、30モル%以上であることが最も好ましい。一方、耐熱性を十分に発現させる観点からは、式(4)で表される化学構造が99モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更に好ましく、70モル%以下であることが特に好ましい。
【0053】
(上記式(4)中、X
3は直接結合、炭素数1〜13の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−SO
2−、−C(CF
3)
2−及び−CO−から選ばれる基であり、R
9〜R
16は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基である。)
【0054】
前記式(4)において、X
3は直接結合、炭素数1〜13の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−SO
2−、−C(CF
3)
2−及び−CO−から選ばれる基である。
【0055】
ここで、前記式(4)のX
3における炭素数1〜13の2価の炭化水素基としては次のようなものが挙げられる。例えば、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−CHPh−、−C(CH
3)Ph−、−CPh
2−、9,9−フルオレニレン基、1,1−シクロプロピレン基、1,1−シクロブチレン基、1,1−シクロペンチレン基、1,1−シクロヘキシレン基、3,3,5−トリメチル−1,1−シクロヘキシレン基、1,1−シクロドデシレン基、1,2−エチレン基、1,2−シクロプロピレン基、1,2−シクロブチレン基、1,2−シクロペンチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,2−フェニレン基、1,3−プロピレン基、1,3−シクロブチレン基、1,3−シクロペンチレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1,3−フェニレン基、1,4−ブチレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基等で
ある。
【0056】
これらの中でも、耐熱性に優れる傾向にあることから、X
3は直接結合、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−CHPh−、−C(CH
3)Ph−、−CPh
2−、9,9−フルオレニレン基、1,1−シクロヘキシレン基、3,3,5−トリメチル−1,1−シクロヘキシレン基、1,1−シクロドデシレン基、−O−、−S−、−SO
2−、−CO−等のように、二つの芳香環の連結に関与する原子数が0又は1のものが好ましい。これらの中でも直接結合、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、9,9−フルオレニレン基が特に好ましい。
【0057】
また、X
3が直接結合である場合、そのビフェニル骨格は、2,2’−ビフェニル骨格、2,3’−ビフェニル骨格、2,4’−ビフェニル骨格、3,3’−ビフェニル骨格、3,4’−ビフェニル骨格、4,4’−ビフェニル骨格のいずれでもよいが、好ましくは4,4’−ビフェニル骨格である。一方、X
3が−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−CHPh−、−C(CH
3)Ph−、−CPh
2−、9,9−フルオレニレン基、1,1−シクロヘキシレン基、3,3,5−トリメチル−1,1−シクロヘキシレン基、1,1−シクロドデシレン基、−O−、−S−、−SO
2−、−CO−等である場合、これらの芳香環における結合位置は、2,2’位、2,3’位、2,4’位、3,3’位、3,4’位、4,4’位のいずれでもよいが、好ましくは4,4’位である。
【0058】
また、前記式(4)において、R
9〜R
16は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基である。
【0059】
前記式(4)において、R
9〜R
16が炭素数1〜12の炭化水素基である場合、例えば、炭素数1〜12のアルキル基(ただし、ここでいうアルキル基にはシクロアルキル基を含む。)、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基等が挙げられる。
【0060】
前記式(4)のR
9〜R
16の炭素数1〜12のアルキル基としては次のようなものが挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、n−オクチル基、シクロオクチル基、n−ノニル基、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル基、n−デシル基、シクロデシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、シクロドデシル基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基、2−フェニルイソプロピル基等である。
【0061】
前記式(4)のR
9〜R
16の炭素数1〜12のアルコキシ基としては次のようなものが挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、tert−ペントキシ基、シクロペントキシ基、n−ヘキシロキシ基、イソヘキシロキシ基、シクロヘキシロキシ基、n−ヘプトキシ基、シクロヘプトキシ基、メチルシクロヘキシロキシ基、n−オクチロキシ基、シクロオクチロキシ基、n−ノニロキシ基、3,3,5−トリメチルシクロヘキシロキシ基、n−デシロキシ基、シクロデシロキシ基、n−ウンデシロキシ基、n−ドデシロキシ基、シクロドデシロキシ基、ベンジロキシ基、メチルベンジロキシ基、ジメチルベンジロキシ基、トリメチルベンジロキシ基、ナフチルメトキシ基、フェネチロキシ基、2−フェニルイソプロポキシ基等である。
【0062】
前記式(4)のR
9〜R
16の炭素数6〜12のアリール基としては次のようなものが挙げられる。例えば、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、エチルフェニル基、スチリル基、キシリル基、n−プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、エチニルフェニル基、ナフチル基、ビニルナフチル基等である。
【0063】
前記式(4)のR
9〜R
16の炭素数2〜12のアルケニル基としては次のようなものが挙げられる。例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−メチルビニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シンナミル基、ナフチルビニル基等である。
【0064】
前記式(4)のR
9〜R
16の炭素数2〜12のアルキニル基としては次のようなものが挙げられる。例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1,3−ブタンジエニル基、フェニルエチニル基、ナフチルエチニル基等である。
【0065】
前記式(4)のR
9〜R
16のハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。これらの中でもフッ素が好ましい。
【0066】
以上で挙げた中でも、前記式(4)のR
9〜R
16としては、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましい。これは置換基が立体的に大きすぎると、分子間の凝集が妨げられ、耐熱性が低下する可能性があるためである。
【0067】
なお、R
9〜R
16が炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素である場合、R
9〜R
16の置換数は2または4であることが好ましく、更に、R
9〜R
16の置換数が2である場合、該アルキル基は2位及び2’位にあることが好ましく、R
9〜R
16の置換数が4である場合、該アルキル基は2位、2’位、6位及び6’位にあることが好ましい。
【0068】
また、前記式(2)及び前記式(4)で表される化学構造の割合は、後述のエポキシ樹脂の製造方法の項目において説明する、原料の比率によって制御することができる。このため、本発明のエポキシ樹脂においては、原料として用いた2官能エポキシ樹脂とビスフェノール系化合物とのそれぞれに含まれる前記式(2)及び前記式(4)で表される化学構造の割合が、そのまま本発明のエポキシ樹脂に含まれる前記式(2)及び前記式(4)で表される化学構造の割合とみなすこととする。
【0069】
<重量平均分子量(Mw)>
本発明のエポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜200,000である。重量平均分子量が1,000より低いものではフィルム製膜性が低くなり、200,000より高いと樹脂の取り扱いが困難となる。本発明のエポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、フィルム製膜性を向上させる観点から、2,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、一方、取り扱い性を良好なものとする観点から、160,000以下が好ましく、120,000以下がより好ましく、80,000以下が更に好ましい。なお、エポキシ樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定することができる。より詳細な方法の例について後述の実施例において説明する。
【0070】
<エポキシ当量>
本発明のエポキシ樹脂は、フィルム製膜性を向上させる観点から、エポキシ当量が500g/当量以上であることが好ましく、700g/当量以上であることがより好ましく、1,000g/当量以上であることが更に好ましく、1,500g/当量以上であることが特に好ましく、2,000g/当量以上であることが最も好ましい。一方、取り扱い性を良好なものとする観点から、100,000g/当量以下であることが好ましく、50,000g/当量以下であることがより好ましく、40,000g/当量以下であることが更に好ましく、30,000g/当量以下であることが最も好ましい。なお、本発明において「エポキシ当量」とは、「1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量」と定義され、JIS K7236に準じて測定することができる。
【0071】
<ガラス転移温度(Tg)>
本発明のエポキシ樹脂は、耐熱性に優れるものであり、耐熱性はガラス転移温度(Tg)により評価することができる。本発明のエポキシ樹脂においては、ガラス転移温度(Tg)が好ましくは110℃以上、より好ましくは130℃以上であり、上限については特に制限はないが、通常210℃以下である。ガラス転移温度(Tg)は、DSC法により測定することができる。
【0072】
<エポキシ樹脂の製造方法>
本発明のエポキシ樹脂は、例えば、下記式(5)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(6)で表されるビスフェノール系化合物とを反応させる、二段法によって得ることができる。また、下記式(6)で表されるビスフェノール系化合物をエピハロヒドリンと反応させる、一段法によっても得ることができる。ただし、二段法では高分子量のエポキシ樹脂を一段法よりも容易に得ることができるため、二段法を用いることが好ましい。
【0074】
(上記式(5)又は(6)中、A’は上記式(2)’で表される化学構造を含み、mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。上記式(2)’中、R’
1〜R’
8は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素であり、また、R’
1〜R’
8のうちのベンゼン環上で隣接した任意の2つの置換基は互いに結合して炭素数4〜20の環状構造を形成してもよい。上記式(2)’中、X’
1及びX’
2は互いに異なっていてもよく、活性水素を有さず、少なくともヘテロ元素を有する二価の連結基であり、−X’
1−X’
2−構造に少なくとも2種以上のヘテロ元素を有する。)
【0075】
[二段法による製造]
本発明の他の態様にかかるエポキシ樹脂は、前記式(5)で表される2官能エポキシ樹脂と、前記式(6)で表されるビスフェノール系化合物を反応させて得られ、重量平均分子量(Mw)が1,000〜200,000であることを特徴とする。
【0076】
本発明のエポキシ樹脂の製造に用いられる2官能エポキシ樹脂は、前記式(5)で表されるエポキシ樹脂であり、例えば、前記式(6)で表されるビスフェノール系化合物を、後述の一段法によってエピハロヒドリンと縮合させて得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0077】
前記式(5)中、A’は前記式(2)’で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよいが、前記式(6)中のA’が式(2)’を含まない場合は、前記式(5)は前記式(2)’で表される化学構造を必ず含むものである。一方、前記式(6)中、A’は前記式(2)’で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよいが、前記式(5)中のA’が式(2)’を含まない場合は、前記式(6)は前記式(2)’で表される化学構造を必ず含むものである。つまり、二段法により製造されるエポキシ樹脂には、前記式(2)’で表される化学構造が必ず含まれるものであり、これを満たす限り、前記式(2)’の化学構造が、2官能エポキシ樹脂及びビスフェノール系化合物のいずれに含まれるものであってもよく、またその化学構造の割合も制限されるものではない。
【0078】
前記式(2)’におけるR’
1〜R’
8の定義と好ましいものは、それぞれ前記式(2)におけるR
1〜R
8と同様のものである。また、前記式(2)’におけるX’
1及びX’
2の定義と好ましいものは、それぞれ前記式(2)におけるX
1及びX
2と同様のものである。
【0079】
また、前記式(5)又は式(6)におけるA’として前記式(2)’の化学構造を含まない場合には、該A’には公知の任意の化学構造を導入することができる。
【0080】
前記式(5)におけるmは繰り返し数の平均値であり、0以上6以下である。
【0081】
本発明のエポキシ樹脂の製造に用いられるビスフェノール系化合物は、前記式(6)で表されるビスフェノール系化合物である。
【0082】
本発明のエポキシ樹脂の製造に用いる2官能エポキシ樹脂又はビスフェノール系化合物には、前記式(2)’で表される化学構造が、前記式(5)及び式(6)中のA’全体のモル数に対して1〜99モル%含まれていることが好ましい。前記式(2)’で表される化学構造に起因する耐熱性を十分に発現させるという観点からは、より好ましくは前記式(2)’で表される化学構造が10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30モル%以上である。また、溶剤溶解性やコストの観点からは、より好ましくは上記式(2)’で表される化学構造が90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下である。
【0083】
また、本発明のエポキシ樹脂の製造に用いる2官能エポキシ樹脂又はビスフェノール系化合物には、下記式(4)’で表される化学構造が含まれていることが好ましい。溶剤溶解性やコストの観点からは、前記式(5)又は式(6)中のA’全体のモル数に対して前記式(4)’で表される化学構造が好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以
上、更に好ましくは10モル%以上、特に好ましくは20モル%以上、最も好ましくは30モル%以上である。また、A’に起因する耐熱性を十分に発現させる観点からは、前記式(4)’で表される化学構造が、好ましくは99モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下である。
【0085】
(上記式(4)’中、X’
3は直接結合、炭素数1〜13の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−SO
2−、−C(CF
3)
2及び−CO−から選ばれる基であり、R’
9〜R’
16は互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基である。)
【0086】
前記式(4)’中におけるX’
3及びR’
9〜R’
16の定義と好ましいものは、それぞれ前記式(4)におけるX
3及びR
9〜R
16と同様のものである。
【0087】
本発明のエポキシ樹脂の製造において、上記の2官能エポキシ樹脂とビスフェノール系化合物の使用量は、その配合当量比で、(エポキシ基):(フェノール性水酸基)=1:0.90〜1.10となるようにするのが好ましい。この当量比が上記範囲であると高分子量化を進行させやすくなるために好ましい。
【0088】
本発明のエポキシ樹脂の合成には触媒を用いてもよく、その触媒としては、エポキシ基とフェノール性水酸基、アルコール性水酸基やカルボキシル基との反応を進めるような触媒能を持つ化合物であればどのようなものでもよい。例えば、アルカリ金属化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、環状アミン類、イミダゾール類等が挙げられる。
【0089】
アルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;アルカリ金属フェノキシド、水素化ナトリウム、水素化リチウム等のアルカリ金属の水素化物;酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0090】
有機リン化合物の具体例としては、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラメチルホスホニウムアイオダイド、トリス(p−トリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ(tert−ブチル)ホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド、テトラブチルホスホニウムハイドロオキサイド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムクロライド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムブロマイド、トリメチルベンジルホスホニウムクロライド、トリメチルベンジルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルエチルホスホニウムクロライド、トリフェニルエチルホスホニウムブロマ
イド、トリフェニルエチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。これらの中でもトリス(p−トリル)ホスフィン、テトラブチルホスホニウムハイドロオキサイドが好ましい。
【0091】
第3級アミンの具体例としては、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等が挙げられる。
【0092】
第4級アンモニウム塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムアイオダイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。これらの中でもテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドが好ましい。
【0093】
環状アミン類の具体例としては、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5等が挙げられる。
【0094】
イミダゾール類の具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0095】
以上に挙げた触媒の中でも第4級アンモニウム塩が好ましい。また、触媒は1種のみを使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0096】
触媒の使用量は反応固形分中、通常0.001〜1重量%であるが、アルカリ金属化合物を使用すると得られるエポキシ樹脂中にアルカリ金属分が残留し、それを使用した電子・電気部品の絶縁特性を悪化させるおそれがあるため、エポキシ樹脂中のリチウム、ナトリウム及びカリウムの原子含有量の合計が通常、60ppm以下、好ましくは50ppm以下である。
【0097】
また、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、環状アミン類、イミダゾール類等を触媒として使用した場合も、得られるエポキシ樹脂中にこれらが触媒残渣として残留し、アルカリ金属分の残留と同様にプリント配線板の絶縁特性を悪化させるおそれがあるので、エポキシ樹脂中の窒素の含有量が好ましくは300ppm以下であり、また、エポキシ樹脂中のリンの含有量が好ましくは300ppm以下である。更に好ましくは、エポキシ樹脂中の窒素の含有量が200ppm以下であり、エポキシ樹脂中のリンの含有量が200ppm以下である。
【0098】
本発明のエポキシ樹脂は、その製造時の合成反応の工程において、反応用の溶媒を用いてもよく、その溶媒としては、エポキシ樹脂を溶解するものであればどのようなものでもよい。例えば、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、グリコールエーテル系溶媒等が挙げられる。溶媒は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0099】
芳香族系溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。ケトン系溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、ジオキサン等が挙げられる。
【0100】
アミド系溶媒の具体例としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0101】
グリコールエーテル系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0102】
エポキシ樹脂の製造時の合成反応における固形分濃度は35〜95重量%が好ましい。また、反応途中で高粘性生成物が生じたときは溶媒を追加添加して反応を続けることもできる。反応終了後、溶媒は必要に応じて、除去することもできるし、更に追加することもできる。
【0103】
エポキシ樹脂の製造において、2官能エポキシ樹脂とビスフェノール系化合物との重合反応は使用する触媒が分解しない程度の反応温度で実施される。反応温度が高すぎると生成するエポキシ樹脂が劣化するおそれがある。逆に温度が低すぎると十分に反応が進まないことがある。これらの理由から反応温度は、好ましくは50〜230℃、より好ましくは120〜200℃である。また、反応時間は通常1〜12時間、好ましくは3〜10時間である。アセトンやメチルエチルケトンのような低沸点溶媒を使用する場合には、オートクレーブを使用して高圧下で反応を行うことで反応温度を確保することができる。
【0104】
[一段法による製造]
本発明のエポキシ樹脂は、一段法によっても製造することができる。具体的には、前記式(6)で表されるビスフェノール系化合物を、エピハロヒドリンと直接反応させればよい。ただし、前述のように、一段法で製造した本発明のエポキシ樹脂のうち低分子のものについては、二段法における2官能エポキシ樹脂として用いることができる。
【0105】
一段法により本発明のエポキシ樹脂を製造する場合、原料として用いられる前記式(6)のビスフェノール系化合物中、A’は式(2)’で表される化学構造を必ず含む。二段法において説明したものと同様の理由により、A’全体に対する式(2)’の割合は、1モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上が更に好ましく、30モル%以上が特に好ましい。また、99モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、80モル%以下が更に好ましく、70モル%以下が特に好ましい。なお、一段法によって製造されたエポキシ樹脂を、二段法の原料である2官能エポキシ樹脂として用いる場合においては、二段法において説明したように、前記式(6)のビスフェノール系化合物中のA’に占める式(2)’で表される化学構造の割合は特に制限されず、0〜100%である。
【0106】
原料として用いる全ビスフェノール系化合物はそのフェノール性水酸基1当量当たり、通常、0.8〜5.5モル当量、より好ましくは0.9〜5モル当量、更に好ましくは1
.0〜4.5モル当量に相当する量のエピハロヒドリンに溶解させて均一な溶液とする。エピハロヒドリンの量が上記下限以上であると必要以上に高分子量化せず、反応を制御しやすく、また、適切な溶融粘度とすることができるために好ましい。一方、エピハロヒドリンの量が上記上限以下であると得られるエポキシ樹脂の高分子量化の観点から好ましい。
【0107】
次いで、その溶液を撹拌しながら、これにフェノール性水酸基1当量当たり通常、0.5〜2.0モル当量、より好ましくは0.7〜1.8モル当量、更に好ましくは0.9〜1.6モル当量に相当する量のアルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液で加えて反応させる。アルカリ金属水酸化物の量が上記下限以上であると、未反応の水酸基と生成したエポキシ樹脂が反応しにくく、高分子量化反応を制御しやすいために好ましい。また、アルカリ金属水酸化物が上記上限以下であると、副反応による不純物が生成しにくいために好ましい。
【0108】
この反応は、常圧下又は減圧下で行わせることができ、反応温度は通常、常圧下の反応の場合は好ましくは20〜150℃、より好ましくは30〜120℃、更に好ましくは35〜100℃であり、減圧下の反応の場合は好ましくは20〜100℃、より好ましくは30〜90℃、更に好ましくは35〜80℃である。反応温度が上記下限以上であると反応を進行させやすいために好ましい。また、反応温度が上記上限以下であると副反応が進行しにくく、特に塩素不純物が低減しやすいために好ましい。
【0109】
反応は必要に応じて所定の温度を保持しながら反応液を共沸させ、揮発する蒸気を冷却して得られた凝縮液を油/水分離し、水分を除いた油分を反応系へ戻す方法により脱水する。アルカリ金属水酸化物の添加は、急激な反応を抑えるために、好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜7時間、更に好ましくは1〜6時間かけて少量ずつを断続的又は連続的に添加する。添加時間が上記下限以上であると急激に反応が進行するのを防ぐことができ、反応温度の制御がしやすくなるために好ましい。添加時間が上記上限以下であると塩素不純物が生成しにくくなるために好ましく、また、経済性の観点からも好ましい。全反応時間は通常、1〜15時間である。
【0110】
反応終了後、不溶性の副生塩を濾別して除くか、水洗により除去した後、未反応のエピハロヒドリンを減圧留去して除くと、目的のエポキシ樹脂が得られる。この反応におけるエピハロヒドリンとしては、通常、エピクロルヒドリン又はエピブロモヒドリンが用いられる。アルカリ金属水酸化物としては通常、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが用いられる。
【0111】
また、この反応においては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩;ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第三級アミン;2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;エチルトリフェニルホスホニウムアイオダイド等のホスホニウム塩;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類等の触媒を用いてもよい。
【0112】
更に、この反応においては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類; アセ
トン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;メトキシプロパノール等のグリコールエーテル類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等の不活性な有機溶媒を使用してもよい。
【0113】
更に、上記のようにして得られたエポキシ樹脂の可鹸化ハロゲン量が多すぎる場合は、
再処理して十分に可鹸化ハロゲン量が低下した精製エポキシ樹脂を得ることができる。つまり、その粗製エポキシ樹脂を、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジオキサン、メトキシプロパノール、ジメチルスルホキシド等の不活性な有機溶媒に再溶解しアルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液で加えて好ましくは30〜120℃、より好ましくは40〜110℃、更に好ましくは50〜100℃の温度で好ましくは0.1〜15時間、より好ましくは0.3〜12時間、更に好ましくは0.5〜10時間再閉環反応を行った後、水洗等の方法で過剰のアルカリ金属水酸化物や副生塩を除去し、更に有機溶媒を減圧留去及び/又は水蒸気蒸留を行うと、加水分解性ハロゲン量が低減されたエポキシ樹脂を得ることができる。反応温度が上記下限以上であり、また、反応時間が上記下限以上であると再閉環反応が進行しやすいために好ましい。また、反応温度が上記上限以下であり、また、反応時間が上記上限以下であると高分子量化反応を制御しやすいために好ましい。
【0114】
〔エポキシ樹脂組成物〕
本発明のエポキシ樹脂組成物は、少なくとも前述した本発明のエポキシ樹脂と硬化剤とを含む。また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、他のエポキシ樹脂、無機フィラー、カップリング剤等を適宜配合することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は耐熱性、低線膨張性、低吸湿性、難燃性等に優れ、各種用途に要求される諸物性を十分に満たす硬化物を与えるものである。
【0115】
<硬化剤>
本発明において硬化剤とは、エポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質を示す。なお、本発明においては通常、「硬化促進剤」と呼ばれるものであってもエポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなすこととする。
【0116】
本発明のエポキシ樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、本発明のエポキシ樹脂100重量部に対して好ましくは0.1〜100重量部である。また、より好ましくは80重量部以下であり、更に好ましくは60重量部以下である。
【0117】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、後述する他のエポキシ樹脂が含まれる場合には、固形分としての全エポキシ樹脂成分100重量部に対して好ましくは0.1〜100重量部である。また、より好ましくは80重量部以下であり、更に好ましくは60重量部以下である。本発明において、「固形分」とは溶媒を除いた成分を意味し、固体のエポキシ樹脂のみならず、半固形や粘稠な液状物のものをも含むものとする。また、「全エポキシ樹脂成分」とは、本発明のエポキシ樹脂と後述する他のエポキシ樹脂との合計を意味する。
【0118】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤としては、特に制限はなく一般的にエポキシ樹脂硬化剤として知られているものはすべて使用できる。耐熱性を高める観点から好ましいものとしてフェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、イミダゾール類及び活性エステル系硬化剤等が挙げられる。以下、フェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、イミダゾール類、活性エステル系硬化剤及びその他の使用可能な硬化剤の例を挙げる。
【0119】
[フェノール系硬化剤]
硬化剤としてフェノール系硬化剤を用いることが、得られるエポキシ樹脂組成物の取り扱い性と、硬化後の耐熱性を向上させる観点から好ましい。フェノール系硬化剤の具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジ
ヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o−クレゾールノボラック、m−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ−p−ヒドロキシスチレン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、フルオログリシノール、ピロガロール、t−ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシナフタレン、2,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,8−ジヒドロキシナフタレン、上記ジヒドロキシナフタレンのアリル化物又はポリアリル化物、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック、アリル化ピロガロール等が例示される。
【0120】
以上で挙げたフェノール系硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、硬化剤がフェノール系硬化剤の場合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する硬化剤中の官能基の当量比で0.8〜1.5の範囲となるように用いることが好ましい。この範囲内であると未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるために好ましい。
【0121】
[アミド系硬化剤]
硬化剤としてアミド系硬化剤を用いることが、耐熱性等の向上の観点から好ましい。硬化剤としてアミド系硬化剤を用いることにより、得られるエポキシ樹脂組成物の耐熱性の向上の観点から好ましい。アミド系硬化剤としてはジシアンジアミド及びその誘導体、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0122】
以上に挙げたフェノール系硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、アミド系硬化剤は、エポキシ樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ樹脂成分とアミド系硬化剤との合計に対して0.1〜20重量%の範囲で用いることが好ましい。
【0123】
[イミダゾール類]
硬化剤としてイミダゾール類を用いることが、硬化反応を十分に進行させ、耐熱性を向上させる観点から好ましい。イミダゾール類としては、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノ−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加体、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加体、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、及びエポキシ樹脂と上記イミダゾール類との付加体等が例示される。なお、イミダゾール類は触媒能を有するため、一般的には後述する硬化促進剤にも分類されうるが
、本発明においては硬化剤として分類するものとする。
【0124】
以上に挙げたイミダゾール類は1種のみでも、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、イミダゾール類は、エポキシ樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ樹脂成分とイミダゾール類との合計に対して0.1〜20重量%の範囲で用いることが好ましい。
【0125】
[活性エステル系硬化剤]
硬化剤として活性エステル系硬化剤を用いることは、得られる硬化物の吸水性を低下させる観点から好ましい。活性エステル系硬化剤としては、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましく、中でも、カルボン酸化合物とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物とを反応させたフェノールエステル類がより好ましい。カルボン酸化合物としては、具体的には、安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。フェノール性水酸基を有する芳香族化合物としては、カテコール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエニルジフェノール、フェノールノボラック等が挙げられる。
以上に挙げた活性エステル系硬化剤は1種のみでも、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、活性エステル系硬化剤は、エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する硬化剤中の活性エステル基の当量比で0.2〜2.0の範囲となるように用いることが好ましい。
【0126】
[その他の硬化剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いることのできる硬化剤として、フェノール系硬化剤、アミド系硬化剤及びイミダゾール類以外のものとしては、例えば、アミン系硬化剤(ただし、第3級アミンを除く。)、酸無水物系硬化剤、第3級アミン、有機ホスフィン類、ホスホニウム塩、テトラフェニルボロン塩、有機酸ジヒドラジド、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、ポリメルカプタン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。以上で挙げたその他の硬化剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0127】
<他のエポキシ樹脂>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明のエポキシ樹脂に加え、他のエポキシ樹脂を含むことができる。他のエポキシ樹脂を用いることで、不足する物性を補ったり、種々の物性を向上させたりすることができる。
【0128】
他のエポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有するものであることが好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の、各種エポキシ樹脂を使用することができる。これらは1種のみでも2種以上の混合体としても使用することができる。
【0129】
特に、本発明のエポキシ樹脂として、重量平均分子量(Mw)が1,000〜8,000の比較的低分子量領域のものを用いる場合には、組み合わせて用いる他のエポキシ樹脂
が、重量平均分子量(Mw)10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましい。他のエポキシ樹脂の重量平均分子量が上記下限値以上であると、エポキシ樹脂組成物のフィルム製膜性が向上する傾向にある。他のエポキシ樹脂の重量平均分子量の上限については特に制限はないが、通常、20,000以下であり、120,000以下であることが好ましく、80,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることが更に好ましい。
【0130】
また、本発明のエポキシ樹脂として、重量平均分子量(Mw)が8,000〜100,000の比較的高分子量領域のものを用いる場合には、組み合わせて用いる他のエポキシ樹脂が、分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂であることが好ましい。他のエポキシ樹脂が多官能エポキシ樹脂であると、エポキシ樹脂組成物を硬化させる場合にその架橋密度を向上させることができ、耐熱性や難燃性がより良好となる傾向にある。
【0131】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、本発明のエポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂とを用いる場合、固形分としての全エポキシ樹脂成分中の他のエポキシ樹脂の配合量は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上であり、更に好ましくは10重量%以上であり、一方、好ましくは99重量%以下であり、より好ましくは95重量%以下であり、更に好ましくは90重量%以下である。他のエポキシ樹脂の割合が上記下限値以上であることにより、他のエポキシ樹脂を配合することによる物性向上効果を十分に得ることができる。一方、他のエポキシ樹脂の割合が前記上限値以下であることにより、本発明のエポキシ樹脂の効果が十分に発揮され、低吸湿性を得る観点から好ましい。
【0132】
<溶剤>
本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物には、塗膜形成時の取り扱い時に、エポキシ樹脂組成物の粘度を適度に調整するために溶剤を配合し、希釈してもよい。本発明のエポキシ樹脂組成物において、溶剤は、エポキシ樹脂組成物の成形における取り扱い性、作業性を確保するために用いられ、その使用量には特に制限がない。なお、本発明においては「溶剤」という語と前述の「溶媒」という語をその使用形態により区別して用いるが、それぞれ独立して同種のものを用いても異なるものを用いてもよい。
【0133】
本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物が含み得る溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン等のアルカン類、トルエン、キシレン等の芳香族類等が挙げられる。以上に挙げた溶剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0134】
<その他の成分>
本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物には、その機能性の更なる向上を目的として、以上で挙げたもの以外の成分(本発明において「その他の成分」と称することがある。)を含んでいてもよい。このようなその他の成分としては、硬化促進剤(ただし、「硬化剤」に含まれるものを除く。)、紫外線防止剤、酸化防止剤、カップリング剤、可塑剤、フラックス、難燃剤、着色剤、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
【0135】
〔硬化物〕
本発明のエポキシ樹脂を硬化剤により硬化してなる硬化物は、高耐熱性、低線膨張性、低吸湿性、難燃性等のバランスに優れ、良好な硬化物性を示すものである。ここでいう「
硬化」とは熱及び/又は光等によりエポキシ樹脂組成物を意図的に硬化させることを意味するものであり、その硬化の程度は所望の物性、用途により制御すればよい。進行の程度は完全硬化であっても、半硬化の状態であってもよく、特に制限されないが、エポキシ基と硬化剤の硬化反応の反応率として通常5〜95%である。
【0136】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化又は半硬化させて硬化物又は半硬化物とする際のエポキシ樹脂組成物の硬化方法は、エポキシ樹脂組成物中の配合成分や配合量によっても異なるが、通常、80〜280℃で60〜360分の加熱条件が挙げられる。この加熱は80〜160℃で10〜90分の一次加熱と、120〜200℃で60〜150分の二次加熱との二段処理を行うことが好ましく、また、ガラス転移温度(Tg)が二次加熱の温度を超える配合系においては更に150〜280℃で60〜120分の三次加熱を行うことが好ましい。このように二次加熱、三次加熱を行うことは硬化不良を低減する観点から好ましい。
【0137】
樹脂半硬化物を作製する際には、加熱等により形状が保てる程度にエポキシ樹脂組成物の硬化反応を進行させることが好ましい。エポキシ樹脂組成物が溶剤を含んでいる場合には、通常、加熱、減圧、風乾等の手法で大部分の溶剤を除去するが、樹脂半硬化物中に5質量%以下の溶剤を残留させてもよい。
【0138】
〔用途〕
本発明のエポキシ樹脂及びそれを含むエポキシ樹脂組成物は、高耐熱性、低吸湿性、低線膨張性、難燃性、フィルム製膜性(塗膜性)等に優れるという効果を奏する。このため、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に、電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。本発明のエポキシ樹脂及びそれを含むエポキシ樹脂組成物の用途の一例としては、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D−LSI用インターチップフィル、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板等が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0139】
<電気・電子回路用積層板>
本発明のエポキシ樹脂組成物は前述したように電気・電子回路用積層板の用途に好適に用いることができる。本発明において「電気・電子回路用積層板」とは、本発明のエポキシ樹脂組成物を含む層と導電性金属層とを積層したものであり、本発明のエポキシ樹脂組成物を含む層と導電性金属層とを積層したものであれば、電気・電子回路ではなくとも、例えばキャパシタも含む概念として用いられる。なお、電気・電子回路用積層板中には2種以上のエポキシ樹脂組成物からなる層が形成されていてもよく、少なくとも1つの層において本発明のエポキシ樹脂組成物が用いられていればよい。また、2種以上の導電性金属層が形成されていてもよい。
【0140】
電気・電子回路用積層板におけるエポキシ樹脂組成物からなる層の厚みは通常10〜200μm程度である。また、導電性金属層の厚みは通常0.2〜70μm程度である。
【0141】
[導電性金属]
電気・電子回路用積層板における導電性金属としては、銅、アルミニウム等の金属や、これらの金属を含む合金が挙げられる。本発明において電気・電子回路用積層板の導電性金属層においては、これらの金属の金属箔、あるいはメッキやスパッタリングで形成された金属層を用いることができる。
【0142】
[電気・電子回路用積層板の製造方法]
本発明における電気・電子回路用積層板の製造方法としては、例えば次のような方法が挙げられる。
(1) ガラス繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、セルロース、ナノファイバーセルロース等の無機及び/又は有機の繊維材料を用いた不織布やクロス等に、本発明のエポキシ樹脂組成物を含浸させてプリプレグとし、導電性金属箔及び/又はメッキにより導電性金属層を設けた後、フォトレジスト等を用いて回路を形成し、こうした層を必要数重ねて積層板とする。
(2) 上記(1)のプリプレグを心材とし、その上(片面又は両面)に、エポキシ樹脂組成物からなる層と導電性金属層を積層する(ビルドアップ法)。このエポキシ樹脂組成物からなる層は有機及び/又は無機のフィラーを含んでいてもよい。
(3) 心材を用いず、エポキシ樹脂組成物からなる層と導電性金属層のみを交互に積層して電気・電子回路用積層板とする。
【実施例】
【0143】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0144】
〔物性の評価方法〕
以下の実施例及び比較例において、物性の評価は以下の1)〜5)に記載の方法で行った。
【0145】
1)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)
東ソー(株)製「HLC−8320GPC装置」を使用し、以下の測定条件で、標準ポリスチレンとして、TSK Standard Polystyrene:F−128(Mw:1,090,000、Mn:1,030,000)、F−10(Mw:106,000、Mn:103,000)、F−4(Mw:43,000、Mn:42,700)、F−2(Mw:17,200、Mn:16,900)、A−5000(Mw:6,400、Mn:6,100)、A−2500(Mw:2,800、Mn:2,700)、A−300(Mw:453、Mn:387)を使用した検量線を作成して、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)をポリスチレン換算値として測定した。
カラム:東ソー(株)製「TSKGEL SuperHM−H+H5000+H4000+H3000+H2000」
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.5ml/min
検出:UV(波長254nm)
温度:40℃
試料濃度:0.1重量%
インジェクション量:10μl
【0146】
2)n数
前記式(1)におけるnの値は上記で求められた数平均分子量より算出した。
【0147】
3)エポキシ当量
JIS K 7236に準じて測定し、固形分換算値として表記した。
【0148】
4)ガラス転移温度(Tg)
溶剤を乾燥除去したエポキシ樹脂、又はエポキシ樹脂硬化物のフィルムについて、SI
Iナノテクノロジー(株)製「DSC7020」を使用し、30〜250℃まで10℃/minで昇温してガラス転移温度を測定した。なお、ここでいうガラス転移温度は、JIS K7121「プラスチックの転移温度測定法」に記載されているうち「中点ガラス転移温度:Tmg」に基づいて測定した。ガラス転移温度が高いものほど耐熱性に優れたものと評価される。
【0149】
6)フィルム製膜性(塗膜性)
エポキシ樹脂のシクロヘキサノン溶液(30重量%)をセパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、厚み:100μm)にアプリケーターで塗布し、160℃で1.5時間、その後200℃で1.5時間乾燥させ、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを得た。このエポキシ樹脂フィルムの塗膜性について以下の基準で評価した。
○:PETフィルム上の塗膜外観にはじきが観察されなかった。
△:PETフィルム上の塗膜外観にはじきが少数観察された。
×:PETフィルム上ではじいて製膜できなかった。
【0150】
7)吸水率(薄膜)
上記6)で得たエポキシ樹脂フィルム又はエポキシ樹脂硬化物のフィルムについて4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出した。吸水率が低いものほど低吸湿性に優れたものと評価される。
(吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量)
−(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)]×100
【0151】
8)残炭率(難燃性)
溶剤を乾燥除去したエポキシ樹脂、又はエポキシ樹脂硬化物のフィルムについて、SIIナノテクノロジー(株)製「TG/DTA」を使用し、窒素雰囲気下、30〜600℃まで10℃/minで昇温した後の残炭率(ここでいう「残炭率」には炭素のみならず、加熱後に残った残渣全体が含まれる。)を測定した。残炭率が高いものほど難燃性に優れたものと評価される。
【0152】
9)硬化物の耐熱性及び低線膨張性:平均線膨張係数(CTE)
エポキシ樹脂組成物の溶液をセパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み:100μm)にアプリケーターで塗布し、160℃で1.5時間、
その後200℃で1.5時間乾燥、硬化させ、厚さ約50μmのエポキシ樹脂硬化フィル
ムを得た。これを7mm×20mmに切り出して作成した試験片を用い、SIIナノテクノロジー(株)製「TMA/SS6100」を使用し、30〜250℃まで5℃/minで昇温し、ガラス転移温度及び平均線膨張係数を測定した。平均線膨張係数は30℃からガラス転移点までの間の直線部分をとり、評価した。ガラス転移温度が高いものほど耐熱性に優れたものと評価される。また、平均線膨張係数が低いものほど低線膨張性に優れたものと評価される。
【0153】
〔原料等〕
以下の実施例・比較例において用いた原料、触媒、溶媒及び溶剤は以下の通りである。
【0154】
[2官能エポキシ樹脂]
(A−1):三菱化学(株)製 商品名「YX4000」(3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテル、エポキシ当量186g/当量)(A−2):三菱化学(株)製 商品名「828US」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量186g/当量)
(A−3):三菱化学(株)製 商品名「806H」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量169g/当量)
(A−4):Phenol, 4,4‘−cyclododecylidenebis−,polymer with 2−(chloromethyl)oxirane(エポキシ当量:242g/当量)(A−5):ビスフェノールAF型エポキシ樹脂(エポキシ当量:236g/当量)
【0155】
[ビスフェノール系化合物]
(B−1):フェノールフタレインアニリド(METROPOLITAN EXIMCH
EM社製 製品名:PPPBP(
下式[化11]で表される化学構造を有する)、水酸基
当量
:197g/当量)
【化11】
(B−2):フェノールフタレイン(水酸基当量:159g/当量)
【化12】
【0156】
[触媒]
(C−1):27重量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液
(C−2):40重量%テトラブチルホスホニウムハイドロオキサイド水溶液
(C−3):4−(ジメチルアミノ)ピリジン
【0157】
[溶媒・溶剤]
(S−1):シクロヘキサノン
【0158】
〔エポキシ樹脂の製造と評価〕
<実施例1−1〜1−7、比較例1−2>
表−1に示した配合で2官能エポキシ樹脂、ビスフェノール系化合物、触媒および反応用の溶媒を撹拌機付き反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で、表−1に記載した反応時間で反応を行った。その後、希釈用の溶剤を加えて固形分濃度を調整した。反応生成物から定法により溶剤を除去した後、得られた樹脂について分析を行った。結果を表−2、表―3に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
<比較例1−1>
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコにビスフェノール化合物(B−1)100g、エピクロルヒドリン305.2g、イソプロピルアルコール119.0gを仕込み、40℃に昇温して均一に溶解させた後、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液48.6gを90分かけて滴下した。その間に徐々に昇温し、滴下終了後には系内が65℃となるようにした。その後、65℃で30分保持し反応を完了させ、水洗に
より副生塩及び過剰の水酸化ナトリウムを除去した。次いで、生成物から減圧下で過剰のエピクロルヒドリンとイソプロパノールを留去して、粗製エポキシ樹脂を得た。この粗製エポキシ樹脂をメチルイソブチルケトン192.8gに溶解させ、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液14.9gを加え、65℃の温度で1時間再び反応させた。その後反応液に第一リン酸ナトリウム水溶液を加えて、過剰の水酸化ナトリウムを中和し、水洗して副生塩を除去した。次いで、減圧下でメチルイソブチルケトンを完全に除去した。その後、シクロヘキサノンを加えて固形分濃度を調整し、得られたエポキシ樹脂について分析を行った。その結果を表−2に示す。
【0161】
【表2】
【0162】
<比較例1−3>
「1256」:三菱化学(株)製 ビスフェノールA型高分子量エポキシ樹脂
【0163】
表―2より、実施例1−1〜1−3、1−5〜1−7は、高耐熱性、低吸湿性及び難燃性に優れたものであり、特に比較例1−1と比べてフィルム製膜性(塗膜性)に優れたものであることがわかる。
【0164】
【表3】
【0165】
表―3において、ガラス転移温度が140℃以上且つ吸水率が1%以下且つ残炭率が7%以上であるものを合格とした。
【0166】
〔エポキシ樹脂組成物の製造と評価〕
<実施例2−1〜2−5,比較例2−1>
実施例1−1、1−3、1−5〜1−7で得られたエポキシ樹脂または比較例1−3のエポキシ樹脂と、ビスフェノールAノボラック型多官能エポキシ樹脂80重量%MEK溶液(三菱化学(株)製 商品名「157S65B80)」)と、硬化剤として2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール(三菱化学(株)製 商品名「EMI24」)の20重量%MEK溶液を、固形分の質量比で95:5:0.5となるようにはかり取り、よく撹
拌してエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物をセパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み:100μm)にアプリケーターで塗布し、160℃で1.5時間、その後200℃で1.5時間乾燥、硬化させ、厚さ約50μmのエポキシ樹脂硬化物のフィルムを得た。これらについて、前述の方法を用いてガラス転移点、線膨張係数を測定した。結果を表−4に示す。なお、表−3の「その他のエポキシ樹脂」、「硬化剤」における略号の意味は下記の通りである。
【0167】
[その他のエポキシ樹脂]
(D−1):三菱化学(株)製 ビスフェノールAノボラック型多官能エポキシ樹脂80重量%MEK溶液
【0168】
[硬化剤]
「EMI24」:三菱化学(株)製 2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール
【0169】
【表4】
【0170】
表―4の結果より、実施例2−1〜2−5は、比較例2−1と比べて、耐熱性、低線膨張性に優れたものであることがわかる。